第 8 話。何故だ、何故に情報が漏れた。
源三郎は、考えながら、殿様の部屋へと向かった。
「どの様に考えて見ても分からない、一体、どの様にして情報が漏れたのか。」
「権三、分かったのか、だがのぉ~、全てが、秘密裏に進めておったのじゃ、其れが、何故じゃ、
何故、両隣の。」
「はい、私も、其れが、合点が行かぬので、御座います。」
「殿。」
「源三郎、如何で有った。」
「はい、やはり、隣の藩で、御座いました。」
「源三郎、今も、権三と話を致しておったが、何故、左右の藩が知り得たのじゃ。」
「はい、其れが、私も、分からぬので、御座います。
今でも、ご城下の者達には、殆ど知られてはおりませぬので。」
「城下の者達が知らぬ事を、う~ん、余も分からなくなってきたわ。」
殿様も、頭を抱え込んでしまった。
「権三、源三郎、まぁ~、今、考えたところでじゃ、今更、誰が話したのかを調べるよりもじゃ、
これからの対策じゃ、余は、今まで通りに進めて行く事の方が大事じゃと思うぞ。」
殿様の言う通りか、だが、源三郎は、両藩が、何の目的か知りたいと思うのも当然で有る。
「殿、明日、私が、城下に入り、若し、同じ侍ならば、聴き出そうと思います。」
「源三郎、聞いて、一体、何をするのじゃ。」
「はい、相手の真意が分からなけば、対策の立て様も御座いませぬ。」
「う~ん。」
「源三郎、仮にだ、仮に、相手が、我々の行なっておる工事を知ったとなれば、どの様な対策を考
えるんだ。」
「私は、相手方の御重役に、お目通りを願います。」
源三郎は、大胆不敵にも、相手方の藩に乗り込むのだと。
「何だと、相手方に乗り込むと言うのか。」
「源三郎、何故じゃ、何故に、相手に会うのじゃ。」
「これは、私の推測ですが、先方は、何処かで、我々の藩が、幕府に対して、隠し事の工事を行
なって要ると、聴いたのではないでしょうか。」
「確かに、隠し事の工事に間違いは無いが。」
「私は、何も、我々から、工事を行なって要ると、伝える必要も無いので、御座います。」
「じゃがのぉ~、其れならば、別に、源三郎が出向く必要は無いと思うのじゃがのぉ~。」
「殿、ですが、相手は、正かと思うでしょう、私の様な若造が来るとは。」
「殿、源三郎にやらせて見ては如何でしょうか、源三郎が、何かを聴き出して、其れが、我が藩の
進めております、工事が、早く進む事にでもなれば、不幸中の幸いにと申しましょうか、若しも、
利益にならなけば、其れ以上の話は中止出来ますので。」
「よ~し、分かったぞ、源三郎に任せる、だがのぉ~、若しもの時はじゃ。」
「殿、私は、何も申しませんので。」
源三郎は、相手が、正か、工事の総責任者が来るとは、夢にも思って無いだろうし、源三郎の様
な若輩者ならば、何も知らないだろうと思い、上司の命令で来たのだと思うはずで、源三郎は、あ
えて、逆手に取ったので有る。
そして、明くる日の朝、源三郎は、城下に入り、まだ、早いのか、その侍の姿は見えず、源三郎
は、大川屋の前に有る茶店に入ると、相手と思しき侍が、直ぐ現れ、源三郎は、暫く様子を見る事
にした。
侍は、城下の大通りを二度ばかり往復するのを見て、思い切った。
「あの~、失礼とは存じますが、貴殿は、何れの、ご家中の。」
源三郎が、突然、声を掛けたので、侍は、一瞬、ひるんだ様子で。
「拙者に、何か、ご用でも有るのか。」
「はい、宜しければ、少し、お話しの聴きたく存じますが。」
編み笠を被っており、侍の表情は、分からないが、少し慌てた様子だ。
「何を、聴きたいと申されるのか。」
「此処では、人目も御座いますので、少し、お付き合い願います。」
侍は、何も言わず、編み笠だけが動いた。
「では、あの旅籠まで、ご同行願います。」
侍は、何も答えず、源三郎の後を行く。
「ご免、店主は。」
「源三郎様では。」
「うん、申し訳ないが、部屋を。」
「はい、承知しました。」
番頭は、丁稚に奥の離れへ案内する様に伝え、丁稚は、返事だけで、源三郎と、侍を、奥の離れ
へと案内した。
「さぁ~、どうぞ。」
侍は、編み笠も取らずに座り。
「一体、何を、聴きたいと申されるのか。」
「はい、実は、貴殿が、我が藩の内情を調べていると、私に、伝わりましたので。」
侍は、以外にも素直になって要るのか、編み笠を取った。
「私は、生野田源三郎と、申します。」
「拙者は、阿波野伸太郎と、申します。」
「阿波野殿、失礼ながら、私も、貴殿を何度か、お見受け致しております。」
「そうですか。」
「其れで、阿波野殿は、一体、我が藩の何を調べてと、申しますか、探されておられるので。」
阿波野の顔色が、一瞬、変わったのを、源三郎は、見逃さなかった。
「拙者は、何も、調べてはおりませぬ。」
「では、何かを、お探しなのですか。」
「・・・。」
侍は、何かを考えて要る様子で、返事は無く。
「何処かで、噂でもお聞きになられたのですか。」
「えっ。」
やはり、噂が出て要るのだ。
「やはり、そうでしたか。」
「やはりと、申されますと。」
「はい、私の、耳にも入っておりまして、我が藩が、幕府に対し、造反を企てて要ると。」
「その様な、噂が有るのですか。」
やはり、阿波野は、何かを聞き出したいのか。
「いいえ、飛んでも、御座らぬ、我が藩、弱小なれど、正か、その様な企てなどは微塵も考えられ
ない事で、御座います。」
源三郎が、わざと慌てた様子を見せると。
「ですが、我が藩中では、その様な噂話が。」
「貴殿も、見られてお分かりかと存じますが、何処に、その様な企てを起こす様な、様子が有ると、
思われるのですか、城下でも、領民は、普段と変わりの無い生活を営んでおりますのに。」
「其れは、拙者も分かりまするが。」
「貴殿が、聴かれたと申されます内容とは、一体、どの様な話しなのでしょうか。」
「・・・。」
侍は、話し出そうかと、迷っている様子だ。
「若しや、貴殿が、聴かれたと申されるのは、我が藩が、密かに、何かを作って要ると聴かれたの
では、御座いませんか。」
「う~ん。」
だが、一体、誰からの情報なのか、藩中で知って要る者以外は、伊勢屋達と、農民に、漁民達だ
けで、だが、伊勢屋達は、幕府の密偵だが、密偵としては幕府への報告もせず、一度、他の藩に、
噂話を流し、其れが、他の密偵が知るところとなる可能性も考えられる。
「私は、貴殿が、聴かれたと申される、噂話の出所を知りたいのです。」
侍も、返事に困っている様子で。
「阿波野殿、私は、噂話を流した者達を処罰するなどとは考えておりませぬ、其れは、我が藩の殿
からの厳命で、良からぬ噂話が出る、我が藩にも落ち度は有る。
その様な落ち度は、改めねばならぬと、申されております。」
侍の表情が少し変わった。
「生野田殿の藩では、むやみに打ち首などは、行われないのですか。」
「はい、我が殿は、家中の者は勿論ですが、領民が、一番、大切だと、申されております。」
「其れは、何事に置いてでも、なのでしょうか。」
「はい、ご家老様も、家臣達も、其れに、領民も知っております。
ですが、まぁ~、極悪人は、別ですがね。」
源三郎は、家中の話しをする事で、阿波野と言う侍の出方を探った。
「生野田殿。」
「阿波野様、私は、藩中では、誰もが、源三郎と呼んでおりますので、阿波野様さえ良ければ、今
後は、源三郎とお呼び下さい。」
源三郎は、別の作戦を考えた、この大川屋に入る時も、源三郎と、呼んだのを思いました。
「そう、言えば、この旅籠に入った時、源三郎様と、では、城下では、どなたでもと言うよりは、
ご家中の方々も、領民達もが、源三郎殿と呼ばれているのですか。」
侍の様子が、少し変わってきた。
「はい、その通りで、私も、生野田と呼ばれましても、返事を返す事も忘れますので。」
「ご家中の皆様は、城下の者達とは、何時も、あの様なやり取りをされておられるのですか。」
侍は、驚いて要る、他の藩では考えられない話で有る。
町民が、氏名で呼ぶのでは無く、名前を呼ぶとは。
「阿波野様、城下の者達に聴いて頂いてもよろしいですよ、まぁ~、何も出てきませんよ。」
源三郎は、普段の口調に変え、その時。
「源三郎様。」
「はい。」
「宜しいでしょうか。」
「はい、どうぞ。」
「源三郎様、お昼が近いのですが、如何致しましょうか。」
「阿波野様、如何ですか、一緒にお昼でも。」
「はい、頂きます。」
「番頭さん、まぁ~、適当に、お願いします。」
「はい、先程、漁師の元太さんが、鰯を大量に持ってくれたのですが。」
「そうですか、元太さんが、では、その鰯を少しだけ、火を通して下さい。」
「はい、承知しました。」
「阿波野様、漁師の元太と言う人が獲った鰯ですから、美味しいですよ。」
「えっ、源三郎殿は、漁師とも、お付き合いをされて要るのですか。」
「はい、其れが、何か、我が藩の家中の者達は、漁師とも、農民とも、誰とでも付き合ったおりま
すのでねぇ~。」
阿波野と言う侍は、其れこそ、大変な驚き様だ、源三郎は、丁度のところで、番頭に来る様にと
伝えており、其れに、漁師の元太が、この大川屋に、源三郎が居るとは知るはずも無い。
魚は、昨日、洞窟に行った時、元太の仲間が獲って来た魚を、源三郎が、番頭に渡して置いた。
「源三郎殿の申される通りですねぇ~、番頭さんも、源三郎様と、呼ばれておりましたから。」
「まぁ~、私の、仕事と申しますか、お役目と申しますか、領民の不満を聴くのが殆どですので
ねぇ~。」
この藩は、一体、何と言う藩だ、侍が、領民の不満を聴くとは。
「では、源三郎殿のお役目は、領民の不満を聴く事なのでしょうか。」
「はい、まぁ~、何でも屋って、事なのでしょうかねぇ~。」
「では、源三郎殿の藩でも、幕府から上納金を増やせと、通達が届いたのでしょうか。」
来たぞ、ほら、来た、来た、やはりだ、阿波野が居る藩でも、幕府から上納金を増やせと、話し
が来たのだ。
「はい、ご家老様からも伺いましたが。」
「では、何か、対策をでも、お考えなのですか。」
本音が出たぞ~、源三郎は、果たして、どの様な話をするのだろうか。
「ええ、でも、私は、見て通り、領民の不満を聴き、ご家老様に報告するだけでしてねぇ~、後は、
ご家老様、ご重役が、考えられると思いますので。」
本当は、源三郎が、先頭になり、進めているとは、今は、言う事は出来ない。
「やはりでしたか、我が藩中でも、ご重役の方々が、連日の話し合いをされておられますが、今だ、
良い対策が浮かんで来ないと、申しされております。」
「阿波野様の藩で、今年の収穫は、如何で御座いましたか。」
「今年は、平年並みと聞いておりますが、農民は、供出を拒んでおります。」
源三郎の藩とは大違いで、平年並みとは、どれだけの収穫が有ったのだろう。
「阿波野様の藩で、城下で売られております、お米や、他の穀物類と、漁で獲れた魚などは、どの
様になって要るのでしょうか。」
「はい、全て、城下の問屋を通じて売られて要ると聞いておりますが。」
「では、その問屋は、大きな蔵が有るのでしょうねぇ~。」
「ええ、穀物問屋では、十の米蔵と、他にも、数戸の蔵が有ります。」
「では、何故、農民さんが、供出を拒んでおられるのですか。」
「はい、問屋が、安値が買うので、暮らしが苦しいと。」
やはり、この藩でも同じで、問屋が、全てを握っている。
「では、海産物問屋は。」
「はい、同じですねぇ~、漁師達も、他で売る事も出来ずに要ると。」
この藩でも、農民と、漁民からは安く買い入れ、農民も、漁民も苦痛を味わっている。
「ですが、直接、お城に収める事は出来ないのですか。」
「ええ、何故だか分かりませんが。」
どうやら、家中の者達の中に、この問屋と密着し、甘い汁を吸っている者が居ると、源三郎は、
考えた。
「では、私の藩とは大違いですねぇ~、確かに、今年は、豊作とは言えませぬが、農家からは、来
年の種籾以外は、米問屋に入っていますがねぇ~。」
「えっ、何故、その様な事が出来るのですか、拙者には、想像が出来ませぬが。」
さぁ~、源三郎は、次に、何を言うのか、其れとも、直ぐ本題に入るのか。
「はい、我が藩では、農村、漁村を問わず、定期的に、穀物類や、海産物を届けに行きますので
ねぇ~。」
阿波野の表情が変わった。
「源三郎殿、我が藩では、一体、どの様な対策を講じれば、幕府の上納金をを減らす事が出来るの
かが、全く、分からないのですが。」
「阿波野様、その前に、我が藩の噂話を、一体、何処から聴かれたのか、宜しければ、教えて頂き
たいのですがねぇ~。」
「はい、分かりました、実は、漁師達からで、源三郎殿の藩の何処かで、大きな工事をされている
と、でも、漁師仲間の話ですので、城下の者達は知りませんので。」
何故だ、何故、他の藩の漁師が知って要るのだ、と、源三郎は、考えるのだが。
「源三郎殿、何か、心当たりでも、御座いませんでしょうか。」
「う~ん。」
源三郎は、考えた、そう言えば、以前、元太が、隣の漁村の網元に話をし、網元の協力で、隣の
漁村からも漁師が応援に来ていると、どうやら、その漁村の漁師から話が出たのだろうと。
「私では、何とも、申し上げられませんので、阿波野様、一度、ご重役と、我が藩の家老と話を
されては如何でしょうか。」
「ですが、突然、我々が、お訪ねしても、話しにはならないのではと、思いますが。」
「其れでは、ご重役から書状を、先に届けられては如何でしょうか、私も、今の、お話しを報告し
て置きますので。」
「源三郎殿、その様にして頂けるので有れば、私も、大変、助かりますので。」
「私も、家老に報告しますが、阿波野様、お願いが、御座います。」
「どの様な事で、御座いますか。」
「はい、書状には、余り詳しく、お書きにならない様にして頂きたいのです。」
「勿論、承知、致しておりますので。」
「私の藩でも、色々な対策を考えておりますが、我が、家老には、包み隠さずに、お話しをして頂
ければ、宜しいかと、存じます。」
「拙者も、戻りますれば、源三郎殿のお話しを伝えますので。」
「では、その様に致しますので。」
だが、阿波野は、まだ、何かを言いたい様子で有る。
「源三郎殿、大変、ぶっしつけで、申し訳有りませんが、幕府の要求に苦慮しているのは、我が藩
だけでは無いのです。」
「えっ、今、何と申されましたか、阿波野様、では、他の藩もなのですか。」
「はい、我が藩主の妹君が、有る藩の藩主に嫁がれたのですが、その藩も、当藩と、同じ状態なの
です。」
では、もう一人の侍が、その藩から様子を探りに来ていたのだろうか。
「正か、その藩と申されるのは。」
「源三郎殿で有れば、もう、お気付きではと思いますが、お察しの通り、源三郎殿の隣の藩で、御
座います。」
何と、言う事なのだ、其れでは、両隣の藩では無いか、さすがの源三郎も驚かずにはいられな
かった。
「では、我が藩の両隣の藩と申されるのですか。」
「はい、左様で、御座います、ですが、お互い、表向きは、何も知らないと言う事になっておりま
すので。」
これは、今までに無い、大変な事態になって要ると、源三郎は、新たな計画を練り直さなければならな
い、その前に両隣の中を、大掃除しなければならない。
だが、今となっては、この両隣も、何かを知って要るはずだ、浜での工事を何時までも隠し通せ
るものでは無い、では、一体、どの様にすれば良いのだ。
「阿波野様、直ぐに答えは出ないと、私は、思いますが、何れにしましても、両隣からの書面が届
き次第と言う事では、如何でしょうか。」
「はい、その方向で。」
その時。
「源三郎様、遅くなりました。」
「ありがとう。」
旅籠の食事だが、何時もより、品数が多く盛られている。
「さぁ~、阿波野様、食べましょうか。」
「はい、では、頂きます。」
二人は、食事中でも話が弾み、阿波野は、何としても、藩の窮地を救いたいと言うので有る。
其れでも、源三郎の頭の中では、まだ、様子を見ようと、食事も終わり。
「源三郎殿、拙者、急ぎ戻り、藩の重役方に伝えたく存じます。」
「そうですか、私も、直ぐ戻りますので。」
だが、源三郎の頭の中は、別の事を考えて要る。
「では、源三郎殿、拙者は。」
「分かりました、私も、お待ち、申し上げておりますので。」
阿波野は、大川屋を出ると、大急ぎで、帰って行った。
「店主殿は。」
「はい、直ぐに呼んで参りますので。」
「私は、先程の部屋に戻りますので。」
「はい。」
番頭は、店主を呼びに行った。
源三郎は、大川屋の店主に、一体、何を聴きたいのだ。
「源三郎様、お呼びで。」
「店主殿、大変、お忙しいところ、誠に申し訳有りませんが、少し、お聞きしたい事が有るのです
が、宜しいでしょうか。」
「はい、私で、分かる事で有れば、どの様な事でも。」
「では、お聞きしますが、我が藩の両隣を、ご存知でしょうか。」
「はい、私も、仕事柄、色々と、お話しは聴きますが。」
「先程の侍は、上田藩の家臣ですが、はっきりと聞きますが、我が藩の両隣にも、大川屋さん達の
様な、人達はおられるのですか。」
店主の顔色が変わった。
「はい、私も、知っております。」
「では、どの様な人達か教えて頂きたいのです。」
大川屋の店主は、源三郎が恐ろしいと見えて。
「はい、先程のお侍様の藩は、上田藩と申します。」
その後、大川屋は、全てを話し。
「そうですか、店主殿、あの日以来、その者達とは。」
「源三郎、飛んでも御座いません、中川屋さんも、伊勢屋さんも、両藩の人達とは、一切、関わっ
てはおりませんので。」
「分かりました、では、上田藩と、その菊池藩の中にも居られるのですか。」
「はい、どちらも、勘定方のお二人で、御座います。」
「では、その者達が、藩の全てを握って要ると言っても過言では無いのですか。」
「はい、其れは、もう、こちらの、森田様方とは大違いで、御座います。」
「では、私腹もと言われるのですか。」
「はい、以前は、その様にもと、お聞きしましたが、先程も申しました様に、私は、あの日以来、
何の連絡も致しておりませんので。」
だが、この話は、両藩の重役方も全く、知らないだろう。
「店主殿、今の話は、中川屋さんと、伊勢屋さんも知っておられるのですか。」
「はい、勿論で御座います、但し、以前の話しなので、今は、どの様になって要るのか、私は、全
く、知りませんので。」
「そうですか、分かりました、ですが、今の話は、他言無用ですからね。」
「はい、勿論で、御座います。」
「では、私は、戻りますので、今日は、何かと、有難う、御座いました。」
「いいえ、源三郎様、私で、分かる事が有れば、又、お知らせしますので。」
「はい、宜しくお願いします。
源三郎は、大川屋を出、城へ戻る途中考えて要る。
我が藩の森田達は、密偵の仕事は、殆ど出来なかったと言うのは正解だろう、だが、両藩の勘定
方は、全く違った、密偵の名を借りた、大悪人だ、だが、その大悪人の内密を藩中の者達は、全く
と言っても良い程知らない。
さぁ~、この問題、如何に解決し、両藩を丸め込んで、工事に入るか、源三郎の頭の中は大回転
を始めた。
「源三郎様、ご家老様がお待ちで、御座います。」
「はい、分かりました、直ぐに。」
ご家老様が門番に伝えていた。
「父上。」
「源三郎か、朝、早くから、一体、何処に行っておったのだ。」
「はい、実は、この話は、殿にも、お知らせする必要が有ると思いますので。」
「よし、分かった、では、参るぞ。」
この頃の殿様は、出番も無く、一人で過ごす日が続いている。
「殿。」
「お~、権三か、源三郎も一緒と言う事は、余の出番なのか。」
「殿、参りましょうか。」
「うん、分かったぞ。」
殿様は、久し振りの出番と思ったのだろうか、嬉しそうな顔で、何時に無く足取りも軽く、最上
階に上がって行くと。
「さぁ~、源三郎、話してくれ。」
「殿、実は。」
源三郎は、先程の侍と、話し合った内容を話し、其れから、両藩が絡んでいるとも報告すると。
「何じゃと、其れは、誠なのか、余は、信じがたいぞ。」
「はい、実は、私も、自分の耳を疑いましたが、何れにしましても、遅かれ、早かれ、洞窟の工事
を知られるのは間違いは無いと考えております。」
「源三郎、では、何か方策は考えておるのか。」
「私は、相手の出方に寄っては、我が藩が行なっている工事の内容を知らせても良いと考えており
ますが、私が、問題と思いますのは、両藩の勘定方の者達で、御座います。」
「余で有れば、捨てては置かぬぞ、即刻、切腹、いや、打ち首じゃ。」
「殿、その問題は、先方の問題だと思いますので。」
「権三、余は、その様には思わぬ、勘定方と言う重責を利用し、私腹を肥やすとは、許しがたい話
しじゃ。」
殿様は、他の藩の出来事とは言え、怒りが収まらないので有る。
「殿、其れよりも、この数日以内に書状が送られて来ると思われますが、その内容は、余り、詳し
くは書くなと申して置きました。」
「何故じゃ。」
「殿、我が藩に問題は、御座いませぬが、先方は、我が藩の時以上に混乱しております。」
「権三、お主は、どの様に対処するつもりなのじゃ。」
「殿、何れにしましても、両藩の勘定方の処罰は厳しく行われると思いますが、城下の問題は、我
が藩の時と同様で良いのではと、但しで、御座いますが、問屋の出方次第で、全ての処罰が終わり
次第、改めて話し合いに入ればよいと考えております。」
問題は深刻だが、やはり、一度経験したのが、今になって良い方向に向かうだろうと、だが、其
れも、全て、先方の出方次第で有り、源三郎は、野洲藩が生き残る為の方策を考え始めた。
「源三郎は、如何なのじゃ。」
「はい、私も、同じで御座います、先方の出方次第によっては、我が藩が生き残る為には、例え、
卑怯だと思われる様な手法を使ってでも、必ずや成功させますので。」
「う~ん、じゃがのぉ~。」
殿様は、以外と温情派なのかも知れないと、源三郎は、思った。
「分かった、その書状が届いてからの話になるのじゃな。」
「はい、私は、其れで良いと、存じております。」
「権三、頼むぞ。」
「殿、承知、致しました、源三郎も、場合によっては、分かっておると思うが。」
源三郎は、考えた、あの時、不満のはけ口の様な役目だと言ったが、果たして、参加しても良い
ものなのかと。
「源三郎、そちも、権三と、一緒に出るのじゃ。」
「はい。」
返事はしたものの。
「源三郎、相手は、処分には驚くで有ろうが、このお役目は、お主が全てなのじゃ、相手が、どの
様に解釈しようが、源三郎が気にする事は無い。」
まだ、日は有る、この問題が解決すれば、良い方向に向かうのだ。
そして、数日後、両方の藩の家老から書状が届いた。
「父上、何と。」
「うん、誰が、読んだとしても、全く、分からないだろう、源三郎の言った様にだ、我が藩とは、
隣同士、親交を温めたいと思いますので、三日後に、お訪ね致しますと。」
源三郎の思った通りで、この内容ならば、例え、密偵が読んだとしても、全く、理解は出来ぬと、
それ程までも簡単な内容の書状で有る。
源三郎は、これからの三日間で、考えを纏める事が出来るのだと。
そして、三日後の昼近くに両藩の家老が到着し、中には、阿波野も居り、上田藩と、菊池藩の家
老と、同行の数人が、ご家老様の部屋に入った。
「あっ。」
阿波野が声を上げた、何故、この席に、源三郎が要るのだ、あの時の話では、上層部の者では無
いと言ってはずだと。
「皆様、本日は、はるばる、我が藩にお越し頂き、誠に、恐悦至極に存じます。
拙者は、この藩の家老で、生野田権三郎と申します。
そして、この者は、生野田源三郎と申し、我が息子で、御座いますが、先日、源三郎の報告に寄
りますと、上田藩の、ご家中に阿波野伸太郎殿と申されるお方よりのお話しで、幕府より上納金の
上乗せを迫られていると、実は、我が藩も同様で、御座います。」
この後、ご家老は、両藩と合わせ、三つの藩が窮地だと説明し、この難題を克服するする必要が
有ると、だが、その前に、藩にとっては、最大の問題が有り、その難問は、何かと話すと、両藩の
家老は、腰を抜かさんばかりの驚き様で、だが、これからが本題で有ると、その説明を源三郎にさ
せるので有る。
「阿波野様、あの時は、大変、失礼を致しました。」
「源三郎殿は、重要なお役目に就いておられたのですか。」
「はい、其れで、私が、今から、両藩のご家老様には、大変、耳の痛い、お話しをさせて頂きます
ので、ご了承下さい下さいませ。」
源三郎は、この後、両藩の勘定方の二人と、城下の、米問屋、海産物問屋が、幕府の密偵で有る
事を暴露したので有る。
「その話は、誠で、御座いますか。」
上田藩と、菊池藩の家老は、今まで、その様な事実が有る事も知らなかったので、勿論、家老の
怒りは収まらず、藩に戻り次第、両名は、切腹、問屋は張り付け獄門に、私財は没収すると息巻く
のだが。
「まぁ~、ご家老様、少し落ち着いて下さいませ。」
「源三郎殿、この様な話しを落ち着いてはおれませぬぞ。」
「はい、私も、お二人のお気持ちは、十分に、承知、致しております。
ですが、勘定方のお二人を切腹させ、城下の問屋を取り壊したところで、問題の解決には至りま
せぬ、実は、我が藩でも、同じ様な事が、御座いまして、ですが、どなたの命も落とす事無く、今
まで通りのお役目に就いて頂いておられるのですが。」
その後、源三郎が取った処置を説明すると。
「では、その者達には、幕府に対しての報告は、以前と同じ様にさせて要るのですか。」
「はい、幕府は密偵の存在が明らかになっていないと、今でも思っております。
其れに、城下の問屋にも、今まで通り商いをさせる事で、繋ぎの者が来ても、怪しむ事も無く、
以前通りだと思っております。」
「だが、拙者は、その勘定方を許す事などとは出来ませぬが。」
「其れは、勿論で御座いますが、仮に、切腹させたとなれば、幕府のやり方が代わる事は御座いま
せん、其れならば、我々が、密偵の立場を反対に利用すれば良いのですよ、まぁ~、密偵が生きて
要ると言うので有れば、藩の者達には、知られていないと思わせればよいのです。」
「源三郎殿、ですが、内密に進める事などは無理では。」
「はい、勿論で御座います、其れで、私達の藩では、家中の者達、全員に知らせました。」
「ですが、その様な事を致せば、城中は、大騒ぎになりましょう。」
「はい、ですが、其れが良いのです、皆に知られたならば、本人は、その日から、針の寧ろに座っ
た様なもので、その様な状態は、何時までも続く有ろうはずが、御座いません。」
「では、全員に知らせると言うのは。」
「はい、では、そのお話しを、今からさせて頂きますので。」
源三郎は、問題の解決策を説明すると。
「では、殿様も、ご家老様を始め、ご重役の全員が、その者は、一体、誰なのかも知っておられる
と、申されるのですか。」
「はい、まぁ~、阿波野様、ご心配をされる必要は、御座いませんので、其れよりも、お訪ねした
いのは、ご家中の中で、これの、一番のお方は。」
上田藩は、阿波野が達人だと、では、菊池藩。
「上田藩は、阿波野様が、居合い抜き達人で、御座いましたか、では、菊池藩は如何で、御座いま
しょうか。」
「其れは、この高野伊之助が一刀流の達人で、御座いますが。」
「左様で、御座いますか。」
此処で、源三郎は、秘策を考えており、其れは、同じ方法を取る事が出来ると。
「両藩の、ご家老様にお願いが、御座いますが。」
「源三郎殿、何なりと申し付けて下され。」
「はい、では、お殿様の腰の物をお借り出来ればと。」
「何ですと、殿の刀をですと。」
「はい、そのお刀を拝借出来れば、問題の解決に進むと思われますが、如何でしょうか。」
両藩の家老と、同行の、阿波野と、高野を交え、協議し、暫くして。
「源三郎殿、殿のお刀で、正か、首を撥ねると申されるのですか。」
源三郎の策には、父の家老も半ば諦めて要る。
其れは、全く、同じ方法をお取るで有ろうと、一滴の血を流す事も無く、問題の解決を測ると言
うので有る。
何れの藩でも、城中では、太刀の持ち歩きは許されておらず、小刀のみで、その小刀では、何の
役にも立たないのだと。
「源三郎殿、殿のお刀で、一体、何をなされるのですか。」
「はい、実に簡単で、御座いますよ、勘定方のお二人の髷を、阿波野様と、高野様の両名に、殿様
から、ご命令をして頂くので、御座いますが、但しです、髷を切り落とすとは、一切、申されぬ様
に、さすれば、他の者達もですが、誰が、考えても打ち首だと思われるで有りましょう。」「では、源三
郎殿は、殿も、家老も含め、重役方に、大芝居をされよと申されるのですか。」
「はい、正に、その通りで、御座いますよ、仮にですが、本当に切腹を、ご命令をされても、本人
を含め、ご家族や、ご家中の皆様、殿様に至るまで、どなた様にも、良い結果は残りませぬ。」
源三郎の話は、簡単なのだ。
「全員を生かせた方が良いので御座いますなぁ~。」
「はい、拙者も、その様に思います。」
「ご家老様、この難問を、源三郎殿は、解決されたので、御座いますか。」
父の、ご家老は、笑みを浮かべ。
「はい、我が藩も、源三郎の申す通りで、殿にも、全てを、お話し申し上げ、私と、殿が、大芝居
を打ち、無事に切り抜けました。」
「源三郎殿、お手数では、御座いますが、何卒、助力の程を、お願い出来ませぬか。」
上田藩の家老は頭を下げ、菊池藩の家老も同様で有る。
「父上。」
「源三郎、お前が協力し、両藩をお助けせよ、で、先程、申した、幕府の上納金の話は、両藩の問
題が解決した後に致せば良いのだ。」
「はい、其れでは、ご家老様に、お願いが御座います。
私は、上田藩の家中の者では、御座いませぬので、その時は、菊池藩の者だと、其れで、今回の
問題の解決の為に、以前より、城下にて、探索をしていたと、申し上げて頂きたいのですが、宜し
いでしょうか。」
「其れは、誠に、大助かりで、御座いますよ、のぉ~、ご家老。」
「はい、私も、その様にして頂ければ、幸いかと、存じます。」
「では、後の事は、全て、お任せ下さいませ、阿波野様も、高野様も、宜しく、お願いします。」
「源三郎、早い方が良いぞ、何時、始めるのだ。」
「はい、先に上田藩に参りますが、私は、城下の旅籠に入り、翌朝、一斉登城のお知らせを下され
ば宜しいかと、存じますが、如何でしょうか。」
「分かりました、其れで、予定日ですが。」
「はい、私も、今日、ご一緒に発ちますが、私は、旅籠に入りますので、如何でしょうか、三日後
と言う事では。」
「はい、其れならば、殿にも、他の重役方にも話は出来ますので。」
「では、三日後と言う事で。」
「其れでは、私どもの藩は。」
「はい、菊池藩は、上田藩が解決しますればと、考えておりますが。」
「承知、致しました、拙者も戻り次第、殿と、重役方に報告を致しますので、何卒、宜しく、お願
いします。」
「いいえ、私も、両藩の問題が解決せねばならない事情が、御座いますので。」
「では、上田藩と、菊池藩の問題が解決次第、次の問題に入りたく、存じますが、皆様は、如何で
しょうか。」
「ご家老様、源三郎殿、私ども、両藩は、お二人のお陰を持ちまして、無事に問題が解決する事を
望んでおります。」
「いや、いや、私は、何も、致しませぬので、実のところ、我が藩でも、この源三郎が、中心にな
り、我が藩でも、源三郎に、全てを任せておりまして、後は、ご重役方と、殿様の協力さえ頂けれ
ば、源三郎が、計画を進めて参りますので。」
「はい、承知、致しました、我々は、これにて、失礼、致しますが、今後とも、宜しく、お願い、
申し上げます。」
両藩の、家老様と、阿波野、高野は、我が藩に戻って行く。
源三郎は、半時遅れて、城を出、上田藩の城下へと向かうので有る。
「権三。」
「殿。」
「如何で有った。」
「はい、やはり、源三郎の報告通りで、御座いました。」
「そうか、で、源三郎は、向かったのか。」
「はい、先程、上田藩に向かいましたので。」
「権三、其れでじゃ、今回の問題が解決したならば、今、進めておる工事の話も致すのか。」
「はい、我々から話を出さなければ、両藩を我が藩の見方には付けぬと考えております。」
「其れは、余も同じじゃ、上田も菊池も、これからが正念場じゃのぉ~。」
「はい、左様で、御座いますが、まぁ~、何れにしましても、先の問題が解決せねばなりませんの
で、後は、源三郎が、どの様な方法を用いるかで、御座います。」
「よ~し、分かったぞ、権三、宜しく、頼むぞ。」
「はい、賢こまりました。」
その頃、源三郎は、上田藩の勘定方の処遇を考えていた、上田藩の家老と殿様が、大芝居を行な
い、その結果、二人の勘定方が、何時、名乗りを上げるのか、其れと、勘定方が受け取った金子の
処理も、だが、此処まで来れば、大ナタを振るわなければならない。
今、この間々、見過ごす事にでもなれば、何れ、我が藩の秘密工事までもが、明らかにされ、其
れは、我が藩を取り壊す絶好の口実となる、上田と、菊池、両藩の問題収めなければならない。
源三郎に取っては、最大の試練なのだ。
源三郎は、夕刻前に上田藩の城下に入り、予定通り、旅籠に泊まり、明くる日の早朝、上田藩の
城へと入り、出迎えたのは、阿波野で有る。
「源三郎殿、本日は、何卒、宜しく、お願い申し上げます。」
「はい、承知、致しました、其れで、阿波野様、殿様は。」
「はい、源三郎殿の申された通りに致しますと。」
「分かりました、では、参りましょうか。」
阿波野の案内で、源三郎は、上田藩の家臣達とは、別のところに座り、大広間に集まった、家臣
達は、源三郎の顔を見て、何だと、ざわついて要る。
「皆の者、静まれ~い。」
家老の一言で静まり。
「では、只今より、大切な話が有る、今から、話す事は、我が上田藩に取っては、今だ、かつて無
い、最大の汚点で有る。
其れは、我が、上田藩の中に、幕府の密偵が、二人おる。」
「えっ、何と、ご家老、誠で、御座いますか。」
「ご家老、幕府の密偵とは、一体。」
大広間は、騒然となり始め、殿様も、家老も含めた重役方は、暫くの間、何も言わずにいた。
其れは、家臣達からの声なのだ。
「皆の者、静まれ~い、静まるのじゃ。」
殿様の一喝で、大広間は静まり、其れからが、家老の大芝居が始まる。
全て、源三郎の指示通りで、話しは進んで行く。
「その者達が、誰なのか、殿も、ご承知なのだ、他の、ご重役方も、私も、以前より知っておった
が、まぁ~。」
又も、大広間は、大騒ぎだ、殿様も、家老も、何故、今の今まで、その者達を処分せずにいたと。
「ご家老、何故、今になって、密偵が要ると申されるのですか。」
「うん、良い事を聴いた、皆の者達も、我が藩の財政が苦しいと知っておるはずだ、其れが、今回、
幕府より、上納金の上乗せを行なうと、通達が有った。
今までは、皆の者達の協力でしのいできたが、次の上乗せは出来ぬ状況になり、殿に、ご相談の
結果、今、密偵の話しを致す事になったのだ。」
「では、一体、誰なのですか、ご家老、教えて下され。」
「静まれ、殿は、処罰はせぬから、名乗り出よと、申されておられ、私も、殿と同じなのだ。」
「ご家老、何故、処罰をされないのですか。」
「よ~し、では、説明するぞ。」
ご家老様は、家臣達に向かって、詳しく説明すると。
「では、どの様な処罰をされるのですか。」
「殿も、私も、本人が名乗りを上げるのを待っておる、今、名乗り出なければ、名を上げ、その者
は、切腹などはさせぬ、更にだ、妻子、親戚と言う事は、一族の者、全員を、張り付けに致す。
今ならば、別の方法も考えると言う話しだ、苦しいだろう、だが、苦しいのを乗り越えねばなら
ぬと、私は、思っておるが、なぁ~、如何なのだ、殿も、暫く待って下さる。
全てを出し、これから、本当の意味で、我が藩と、全ての領民の為に奉公せぬか、私も、待つぞ、
今、暫くの間は。」
ご家老様の話で、その二人は、どの様な反応を示すのか、源三郎は、見ていた、すると。
「殿様、ご家老様、拙者で、御座います。
誠に、申し訳、御座いませぬ。」
一人が名乗り上げると。
「殿様、拙者もで、御座います。」
さぁ~、これからが、殿様の大芝居に入る。
「うん、よくぞ、申した、そち達も、今まで、大変、苦しかったで有ろう、其れも、祖父からなの
だからのぉ~。」
又も、大騒ぎになった、二人の祖父達からだと、正に、誰もが、驚くのは当然だ。
「お主達、全てを話すのじゃ。」
「はい、承知、致しました。」
二人は、祖父の代の頃からだと、だが、藩の為にと、本当の話は言っていないと言うので。
「分かった、源三郎殿、後は、貴殿にお任せ致します。」
「はい、承知、致しました、では、お二人方は、全てをお話し頂いたと、思われますが、私が、調
べた内容では、まだ、他にも有りますが。」
勘定方の二人は、下を向いたままで。
「何も、申されないので有れば、私が、お話ししましょう。
其れはですねぇ~、城下の米問屋と、海産物問屋は、お二人の仲間は密偵です。」
「えっ、源三郎殿と、申されましたが、何故、その様な事まで、ご存知なのですか。」
「私は、全てを知っておりますよ、殿様も、ご家老様も、其れに、まだ、御座いますが、私から、
申し上げましょうか。」
「殿、ご家老、実は。」
二人は、米問屋と、海産物問屋から賂を取っていた、世間で言うところの袖の下と言う事だ。
「では、全部で、いか程ですか。」
「はい。」
一人は、二千両近く、更に、もう一人は、二千五百両だと言う。
「お二人は、明日から登城される時に、数百両づつを持って来て下さいね。」
二人は、正か、裏金までは知られていないと思っていたのだが、其れが、大間違いなのだ。
「殿様、ご家老様、お二人の処分はお任せ致しますが、まぁ~、くれぐれも、宜しく、お願い、申
し上げます。
後は、残りの、米問屋と、海産物問屋、其れと。」
「源三郎殿、まだ、有るのですか。」
「ええ、有りますよ、薬種問屋、これも、幕府の密偵ですが、彼らも、三代目なので、私は、この
三者を少し、まぁ~、其れは、私に任せて下さいね。」
源三郎は、全てを話さずにいた。
「源三郎殿、有り難き事で、阿波野、余の刀を渡す、切り落とすのじゃ。」
「殿、ですが。」
「分かっておるわ、余が決めたのじゃ、皆の者、よ~く、見ておれ、阿波野、切り落とせ。」
阿波野は、殿様から、太刀を受け取ると。
「お二人共、覚悟されよ。」
その瞬間、二人の頭から、ポトリと、髷が落ち。
「皆の者、よ~く聞け、これで、二人の処分は、終わりじゃ、だが、今までの話し、一切、口外す
るで無いぞ、口外せし者は、余が、直々、首を落とすから、分かったのか。」
二人は、下を向いたまま、涙を零している。
「殿、ご家老、皆様方、誠に申し訳、御座いませぬ、私は、生まれ変わって、これからの一生を、
藩と、領民の為に、命を捧げます。」
「うん、よくぞ、申した、其れで、良いのじゃ、源三郎殿、これで、宜しいでしょうか。」
「はい、誠に、良き、ご判断かと、これからは、阿波野様の配下に就いて頂きたく、ですが、表向
きは、今までのお役目と言う事で、殿様、ご家老様、如何でしょうか。」
「う~ん、さすがで御座る、拙者も、感服致しました。」
「皆様方に、お願い申し上げます。
今までの話しは、全て、此処だけの話で、御座います。
お二方も、晴れて、ご家中となられましたが、先程、殿様も、申されました通り、幕府からの繋
ぎに対しては、今まで通りに、お願い致します。
其れと、髷は、御座いませぬが、奥様方には、どの様に。」
「源三郎様、私は、妻には全てを話すつもりで、御座います。」
「其れは、お任せしますが、私は、出来る事ならば、お話しになさらぬ方がよろしいかと、で、無
ければ、奥様は、他の奥様方に対し、後ろめたさだけが残り、子供にも影響が出て参ります。
其れが、後々には、悪い事にもつながりますので。」
「源三郎殿の申される通りじゃぞ、決して、妻子にも話すで無いぞ。」
「はい、承知、致しました。」
二人の表情は先程までとは違い、何か、晴々としている。
「殿様、ご家老様、この一件は、終わりとされては、如何でしょうか。」
「皆の者、良いな、決して他言はせぬ事じゃ、そして、城内でも、この話しはせぬ事じゃ、この二
人は、首を撥ねられるよりも、髷が無いと言うのは、武士としての屈辱を当分の間、味わう事にな
るが、決して、忘れるで無いぞ、其れも、皆、この源三郎殿のお陰じゃ、これから先、我が藩は、
源三郎殿のおられる、野洲藩と共に、運命を共にする、だが、決して、幕府に知れる事無く進めて
行く、源三郎殿、何卒、宜しく、お願いしますぞ。」
「殿様、誠に、有り難き、お言葉、源三郎、この身に換えましても、進めて参ります。」
殿様の、大芝居で、大広間に集まった家臣達に、やっと、安堵の空気が流れたのも、間違いは無
かった。
「では、私は、これに、失礼、致します。」
「えっ、今から、お戻りになられるのですか。」
「阿波野様、私と、ご一緒に来て頂きたいと、思うのですが。」
「はい、承知、致しました。
「皆の者、解散致せ。」
ご家老の解散と言う言葉で、家臣達は、自らの役所へと向かい、源三郎と、阿波野が大手門に向
かうと、髷の無い、二人が待っていた。
「源三郎様、私達と、ご一緒、願いたいところが有るのですが、宜しいでしょうか。」
源三郎の予想した通りで、二人は、米問屋と、海産物問屋に向かうと言うので有る。
「分かりました、では、ご一緒に。」
この辺りになると、阿波野も次第に理解出来る様になって来た。
四人は、城下に入り、最初に向かったのは、米問屋で有る。
「ご免。」
「あっ、加納様。」
加納が被りを取ると。
「えっ、一体、如何なされたのでしょうか。」
「番頭さん、ご主人を、其れと、貴方も来て下さい。」
「はい、その前に、此処では、少し。」
「分かりました。」
番頭は、四人を、奥の座敷に案内すると。
「旦那様、大変で、御座います。」
番頭は、大声で、店主を呼びに行く、その光景は、あの時と同じだ、加納は髷を切られたが、表
情は明るい。
「失礼、致します。」
店主と、番頭が入って来た。
「あっ、えっ、一体、何事で、御座いますか、加納様。」
「店主、番頭殿、こちらのお方は、阿波野様と申され、我が藩のお方で、そちらのお方が、源三郎
様と申されます。」
店主と、番頭は、改めて、頭を下げ。
「店主殿、番頭殿、我々、二人の身分が知られました。」
「えっ、正か。」
「その正かですよ、貴方方は、先先代からの密偵だと言う事もですよ、明日の朝、お二人は、帳簿
を持って、お城に来て下さいね、勿論、裏帳簿もですよ。」
「えっ、では、私達の財産は、全て、没収で、御座いますか。」
「いいえ、其れは、貴方方、次第ですよ、奥様や、其れに、お子さんも、全く、ご存知ないと思い
ますのでね。」
「はい、その通りで、私と、番頭の事は、身内の者も、店の者達も、誰一人として、知る者はおり
ませんので。」
「そうだと、思いますからね、商いは、今まで通りに行なって下さい。」
「では、私と、番頭の命は。」
「其れは、貴方方次第ですよ、貴方方を打ち首にしたところで、問題の解決にはなりません。
其れよりも、今後ですが、幕府からの繋ぎに対しても、今まで通りの報告を、其れと、藩に対し
ては、全てを投げ打って行なって頂けますか。」
「はい、勿論で御座います。」
「今の返答に偽りは有れば、その時は、貴方方の一族全員を打ち首に、財産は、全て、没収します
ので、宜しいですね。」
「はい、承知、致しました。」
「あっ、其れと、私の配下数人が絶えず、貴方方を監視しており、阿波野様に報告するのではなく、
私に、直接入り、その時点で、貴方方の命は無くなりますのでね。」
「はい。」
「阿波野様、今、聴かれました通りで、私の配下は、手練れですので、阿波野様でも危険だと考え
て頂きます。
勿論、加納様もですからね、其れと、その者達を探し出すのは不可能ですので、念の為に。」
源三郎の脅しが聞いたのか、店主も、番頭も顔面蒼白で、身体はガタガタと震えが止まらない。
店主も、番頭も、何故、知られたのかを考える余裕さえ無く、源三郎の話しを聞くだけで。
「では、明日の朝、お待ち致しておりますのでね。」
源三郎は、にやりとして、米問屋を出、次の海産物問屋に向かった。
「加納様、私の話しは、脅しでは有りませんよ。」
「はい、勿論、承知、致しております。」
「番頭さん、店主は。」
井出は、海産物問屋に入ると被りを取り。
「あっ、井出様。」
井出の顔は笑っている。
「番頭さん、店主殿を呼んで下さい。」
「はい、ですが、その前に、奥へ。」
海産物問屋の番頭も、同じ表情で。
「旦那様、大変で、御座います。」
番頭は、大慌てで、奥へと走って行く。
「さぁ~、奥へ。」
中番頭が、四人を奥へと案内し、直ぐ、店主が飛んで来た。
「店主殿、番頭さんと、中番頭さんも呼んで下さい。」
「はい。」
店主は、一体、何が、起きたのかも分からずで。
「誰か、番頭さんと、中番頭さんも呼んで下さい。」
何の事情の知らせれていないが、井出の表情は明るく、大きな問題だとは、考えもしなかった。
店主達は、井出の話を聴くや、顔面は、蒼白で、全身を、ガタガタと震えさせている。
源三郎は、此処でも、米問屋と同じ話をすると、店主達は、何も、言える状態では無く、全て、
源三郎の指示に従うと返事するだけで有る。
「では、明日の朝、皆さんを、お待ちしておりますのでね。」
海産物問屋の丁稚達は、特別なお客と思ったのか、何時もより丁寧な見送りをした。
「源三郎殿、私は、何も、申し上げる事が出来ませぬ。」
「そうでしたか、では、私が、書き留めた物ですが、これを、お使い下さい。」
「これは。」
「はい、今後、阿波野様に行なって頂く内容で、御座います。
其れと、阿波野様の手足となって頂ける人物を数名選んで下さいね、今後は、お一人では出来ま
でぬので。」
阿波野達は、源三郎の手際の速さに唖然としている。
「ご店主、全ては、貴方方の考え次第ですよ、どちらを選んで頂いてもよろしいですからね。」
源三郎は、少し脅かしが強かったのかと思うのだが、此処は、我が藩では無い、どの様な対処も
出来るのではない、他の藩でも有り、其れ以上の事をする必要も無いと考え。
「では、私達は帰りますのでね、明日の朝、お待ちしておりますので、宜しく。」
源三郎達は、海産物問屋を出、次のところに向かうので有る。
次の問屋は、上田藩の者達は知らず、源三郎だけが知って要る。
「いらしゃいませ。」
その店は、城下の薬種問屋で。
「申し訳、御座いませんが、店主殿をお呼び下され、私は、上田藩の者です。」
源三郎は、上田藩の者だと名乗った。
「はい、直ぐに。」
丁稚は、大急ぎで、番頭に伝えると。
「お侍様、店主に、ご用事だと伺いましたが、どの様な、ご用件で、御座いますでしょうか。」
さすがに番頭で有る。
「貴方は。」
「はい、番頭で、御座いますが。」
「そうですか、でも、この話を店先でしますと、大変な事になりますが、其れでも、宜しいので
しょうか。」
「えっ、一体、どの様な。」
番頭は、正かと言う様な顔付で。
「私は、別にどちらでもよろしいですが、此処で、お話しを致しましょうか。」
「少々、お待ち下さいませ。」
番頭は、大慌てで、店主を呼びに行き、暫くすると、にこやかな顔付で、店主が出て来た。
「お侍様、どの様な、ご用件で、御座いますでしょうか。」
「・・・。」
源三郎が、店主に耳打ちすると、店主の顔は蒼白に、身体は震え出した。
「旦那様、一体。」
「番頭さん、直ぐ、奥にお通して下さい。」
店主は、直ぐには動けない様子で。
「どうぞ、こちらで、御座います。」
「有難う。」
源三郎と、阿波野達も一緒に奥座敷に入り。
「此処で、暫く、お待ち下さいませ。」
番頭は、何かを察したのか、顔色が悪く、暫くして、店主が入って来た。
「お待たせ、致しました。」
「店主、番頭も呼んで頂いた方が良いのでは。」
「はい、直ぐに。」
店主は、大番頭と、中番頭も呼び、二人の番頭は、直ぐ部屋に入って来た。
「店主、貴方方が幕府の密偵だと調べは付いていますが、如何でしょうか。」
源三郎は、静かに、優しく言ったが、店主も、二人の番頭も、顔面は蒼白で、身体はガタガタと
震え、其れは、直ぐ打ち首になると思ったのだろう。
「如何ですか、ご返答は。」
「はい、そのぉ~。」
「そのぉ~、では分かりませんよ、幕府の密偵だと認めるのですか、其れとも、違いますと、申さ
れるのですか。」
店主達は、源三郎が恐ろしと思って、直ぐには返事が出来ず、暫くすると。
「はい、私は、確かに申される通りで、幕府の密偵で、御座います。」
番頭達も頷いて要る。
「そうですか、ですが、貴方方は、藩中には仲間がいない、その通りですね。」
「はい。」
阿波野達も驚いて要る、この源三郎と言う、若い侍の本当の姿は、一体。
「あの~、私の、命は、どの様になってもよろしいのですが、家族の者達も、店の者達も、何も知
りませんので、どうか、お許しの程を。」
「私はねぇ~、何も、貴方方の命を取るとは申しておりませんよ。」
「えっ、其れは、誠で、御座いますか。」
「私ねぇ~。」
源三郎は、他の米問屋と、海産物問屋と言った同じ内容を話すと。
「では、今まで通り、商いはせよと、申されるのでしょうか。」
「はい、その通りですよ、但し、これからの商いでも幕府からの繋ぎも有るでしょうから、その報
告も、今までと一緒で、宜しいのですよ。」
「えっ、ですが、私は、今まで、何事も無いと報告しておりますが。」
「はい、そのままで、宜しいですよ。」
店主も、番頭達も、訳が分からない、幕府の密偵だと知られているはずなのに、何も、制裁は無
いと、それどころか、商いも続け、繋ぎの報告も、今まで通りで良いと。
「お侍様、では、一体、何を。」
源三郎の話は、これから確信に入る。
「店主、今までの商いをされた帳簿を、明日の朝、お城まで持って来て欲しいのですよ、その時に
は、裏帳簿も、一緒にですよ。」
「えっ。」
「ねぇ~、店主、私は、全てを知っておりますよ、土蔵を改造され、地下に隠して有る大量の金塊
もですよ。」
「えっ。」
店主は、絶句した、何故、其処までの事が知られたのだと、言う顔をしている。
「詳しい話は、お城で、致しますのでね、そうだ、忘れていましたが、番頭さん、城下の密偵に話
す事をされても宜しいですがね、その時は覚悟をして下さいね、私は、人を殺すのは好きでは有り
ませんが、私の、配下は、全員が、殺す事には躊躇する事は無く行ないますのでね、その時には、
ご家族も親戚の方々、友人、知人に至るまで、全てですがね、配下の者は簡単には殺す事は致しま
せんよ、まぁ~、簡単に申せば、両手両足を切断し、山に捨てる、後は、山の主の狼に任せると言
う方法で、今まで、数百人が、この世を去っておりますのでねぇ~。」
源三郎の話は、本当なのか、其れとも、脅かしなのか、だが、今の店主達に、其れを見極めるだ
けの能力は無い。
「其れと、お願いですが、城下の医者にも伝えて置いて下さいね。」
「源三郎殿、医者と申されましたが、あの医者は、お城にも来ておりますが。」
「ええ、その人も、同じ仲間ですから。」
もう、店主は、何も言えない、医者の事までもが知られているとは。
「では、医者には、私の方から。」
「いいえ、其れは、店主に任せて下さい、分かりましたか、店主殿。」
「はい。」
此処まで、知られているのだ、今更、慌てたところでどうにもなるものでは無い。
「店主、隣の藩に、出店をお願い出来ますか。」
「はい、其れは、勿論で、御座いますが。
「大至急、お願いしますね、其れと。」
源三郎は、色々と注文を出し、店主は、全てを受けなければならない。
「では、お薬の価格も、先程から、色々と注文しましたが、全て、宜しく、お願いします。
阿波野様、この人達が城下から消えた時は、私の配下が、狼の要る、森に連れ出し、狼の餌食に
なったと思って、探す必要も有りませんので。」
「はい、全て、承知、致しましたので、店主、番頭さん達も、今、源三郎殿の申された事を全て、
守る事が、皆さんの命が有ると言う事になりますのでね、宜しく、頼みましたよ。」
阿波野も、源三郎の言葉使いを見習い、優しく言っているが、店主達には恐ろしく聞こえた。
「では、我々は、お城に戻りましょうか、店主殿、では、宜しく。」
源三郎は、何時もと変わらず、薬種問屋を出、阿波野達も続いて行く。
「源三郎様の申されたのは、全て、事実なのですね。」
「ええ、勿論ですよ。」
「でも、何時、その様に調べられたのでしょうか。」
加納は、何故、知られたのか、其れを知りたがっているのだろうが。
「私の配下は、この城下だけでは有りませんよ、菊池藩にも入り込んでおりますのでねぇ~。」
「源三郎殿、今後の事なのですが、我々は、一体、どの様にすれば、宜しいのでしょうか。」
「そうですねぇ~、まぁ~、明日からの楽しみとしましょうか、阿波野様、其れよりも、私の藩で、
何かが行なわれていると聴かれたそうですが、どなたからの情報なのでしょうか。」
「はい、私の知り合いに、漁師の元締めと、申しますか、網元がおり、網元が、漁師達に手伝う様
にと言ったそうなんですが。」
源三郎は、分かった、元太の知り合いの網元の話だと。
「そうですか、で、その話の内容と言うのは。」
「はい、私も、まだ、信じる事が出来ないのですが、洞窟がどうのとか、其れ以上の話が、聴けな
かったので、では、調べて見ようと、ご城下に入ったのですが。」
城下の者達も、殆ど知らない工事なのだ。
「では、城下で、その様な話しが聴けると思われたのですか。」
「はい、ですが、城下の者達の話には、その様な話は出ておりませんので、私は、戻る予定だった
のですが、その時、源三郎殿から、お声が掛かったのです。」
「そうでしたか。」
源三郎は、隣の藩内でも噂話が出ていると、考えたのだが、これは、戻ってからの話でも良いと。
「で、明日なのですが。」
「はい、一応、私も、明日登城致し、あの者達に詳しく話をする必要が有ると思っておりますので
ねぇ~。」
「其れは、大助かりで、御座います。」
「阿波野様も、出席願います。
今日、戻られますれば、先程の話しを、殿様と、ご家老様にも、お話しください。」
源三郎は、殿様と、家老には、芝居をする様にと、細かい話をしたので有る。
「私は、今日は、旅籠に泊まり、明日の朝、早く参りますので。」
「源三郎殿には、他に、まだ、お役目が有るのでしょうか。」
「はい、私も、色々と考える事が有りますので。」
阿波野にすれば、今後の事も聴きたいと思ったのだろうが、今は、今後の事よりも、あの者達に
大事な話をする方が先だと思って要る。
「阿波野様、明日が、最大の山場ですのでね、其れと、加納様、井出様は、阿波野様の手助けをお
願いします。」
「はい、私は、今、気持ちが本当に楽になりました。
でも、私の過去は、拭い去る事は出来ませぬが、今後は、命に代えて、阿波野様の命令を全うす
る所存でございます。」
「源三郎様、私もで、御座います。
私の命を捧げ、全てを投げ打って、お役目を全うさせて頂きます。」
「まぁ~、余り、深刻にならずに、時を掛けて進んで下さね、私は、此処で失礼致しますので。」
源三郎は、城下の旅籠に入って行き、阿波野達は、城へえと戻って行った。
源三郎は、部屋に入ると考えた。
「上田藩が知って要ると言う事は、菊池藩も、多分知って要るだろう、だが、何処まで知って要る
のだろうか。」
源三郎は、この問題が解決したならば、両藩を巻き込む事も考えなければならだろう、だが、両
藩が、一体、何処まで本気になるのか、其れを聞き出さなくてはならない。
明日、彼らに今後に付いての決断した後でも、話さなければならないだろうと、だが、問題は、
領民だ、領民を上手に操らなければ、今回の工事は、全て失敗するのだと、源三郎は、考えて要る
最中に眠ってしまった。
そして、明くる日の早朝に目が覚めた。
「あっ、もう、この様な時刻だ。」
源三郎は、大急ぎで、支度を終え、上田の城へと向かった。
米問屋も、海産物問屋も、其れに、薬種問屋も、まだ、来てはいない、源三郎が、大手門を過ぎ
ると、加納と井出が待っていた。
「源三郎様、おはようございます。」
「加納様と、井出様、如何されましたか。」
「はい、殿より、源三郎様を、お待ちせよと、申し浸かりましたので。」
「其れで、この様な早くに、其れは、有難うございます。」
「殿と、ご家老様が、お待ちで、御座いますので。」
「はい、承知、致しました。」
加納と、井出の両名は、源三郎を案内するのだと、殿様と、ご家老様がお待ちだと言う事だが、
やはり、阿波野の説明では、納得しないのか、其れとも、何か、別の話しでも有るのだろうか。
「殿、源三郎様をお連れ致しました。」
やはり、其処には、阿波野も居た。
「私に、何か、ご用事でも。」
「源三郎殿、昨日、阿波野から聴きましたが、今日、米問屋と、海産物問屋、其れに、薬種問屋が
登城すると。」
「はい、その通りで、御座います。」
源三郎は、殿様、ご家老様にも大芝居を頼んだ。
「阿波野様にも、宜しく、お願い申します。」
「はい、承知、致しました。」
「後は、私に、全てをお任せ下さい。」
その時。
「ご家老様、米問屋と、海産物問屋、其れに、薬種問屋が、お目通りを願っております。」
「分かった、直ぐ、此処に案内してくれ。」
「はい。」
暫くすると、各問屋の店主と番頭達が入って来た。
「はっ、はぁ~。」
彼らは、殿様に頭を下げたが、正か、本当に、殿様と、ご家老様が居るとは思って無かったのだ
ろうか、大変な緊張で有る。
「さぁ~、皆さん、こちらに来て下さい。」
彼らの緊張は極限状態なのだ、其れは、源三郎が、一体、どの様な発言をするのか、誰にも、分
からない。
「本日は、皆さん、大変、お忙しいところ、誠に、有難う御座います。
さて、昨日の私の話ですが、殿様も、ご家老様も、ご存知だと、申し上げて置きます。」
「源三郎殿、宜しいですかな。」
「はい。」
問屋の店主や番頭達は、殿様から、どの様な処分を言い渡されるのか、内心、穏やかでは無く、
緊張も加わり、身体の震えは収まらずに要る。
「その方達の話は、余も知っておる、だが、先日までは証拠も無く、打ち首にも出来なかったの
じゃ。」
「えっ。」
やはり、打ち首なのか、財産は、全て没収、一族全員がと、考えるだけで、今は、生きた心地も
しない。
「だがのぉ~、源三郎殿からは、打ち首は駄目じゃと言われたのじゃ、其れはのぉ~、源三郎殿は、
その様に直ぐ、命を絶つ様な処罰では、他の者達にも見せしめにはならぬと、源三郎と、言う人は、
実に、恐ろしと、余も思ったのじゃ、その方達はじゃ、生きたまま、狼の餌食にするとな。」
彼らの震えは止まらず、下を向いたままなので有る。
「その方達、よ~く、聴くのじゃ、処分は、源三郎殿の申される通りに致すゆえ、覚悟するのじゃ、
後は、全て、源三郎殿に任せるぞ、良いな、源三郎殿。」
「殿、有り難き、お言葉、源三郎、この身に換えてでも、実行致しますので。」
「そうか、後は頼んだぞ。」
殿様は、其れだけを言って、部屋を出た。
「まぁ~、皆さん、少し落ち着きましょうかねぇ~。」
源三郎は、にこやかに笑っている。
「殿様は、どの様な事が有っても許さぬと、一族の者、全員を打ち首にせよと、申された。
だがなぁ~、源三郎殿が、少し待ってくれと言われた。
お前達が、今後、我らの為に必死になるので有れば、時の猶予が有ると言う話だ、その様でした
なぁ~、源三郎殿。」
「はい、左様で、御座います。」
「では、どの様にされるのか、私も、お聞きしたいので、宜しく、頼みます。」
「はい、承知、致しました。
では、皆さんにお話しをしますのでね。」
源三郎は、米問屋と、海産物問屋には、源三郎が、最初に行った方法を詳しく話した。
「源三郎殿、では、漁民や、農民からは、代金を取るなと、ですが、城下にも、貧しき者達がおり
ますが。」
「まぁ~、阿波野様、最後まで、聴いて下さいね。」
「はい、申し訳、御座いませぬ。」
一般の領民からは、代金を取らず、商いで、儲けている者達からは取りなさいと、其れは、海産
物問屋も同じで有ると、其れとは別に、買い付けには、直ぐ行く様にと、だが、薬種問屋と、医者
に対しては、別の方法を言った。
医者には、貧しき者からは診察代は取るなと、薬種問屋にも同じ話しをするが、菊池藩には、薬
屋は有るが、源三郎の野洲藩には無かった。
「薬種問屋は、菊池藩には、定期的に薬種を送れ、そして、隣の藩だが、薬屋が無いので、薬屋を
出して欲しいのだが。」
「はい、私は、大至急、お店を出す様に致します。」
「そうですか、この両藩も、この上田藩と同様にして頂きたいのですが、申し訳、有りません。」
「はい、その様にさせて頂きますので。」
「そうですか、有難う、御座います。
其れで、先程、申しましたが、お米の買い付けですが、どの方向に向かわれるのですか。」
「はい、私達は、この地より、遠くの方にと申しますか、他の米問屋が来ないところが有りまして、
其処で、毎年、買い付けておりますので。」
「では、他の米問屋とは、会われる事は無いのですか。」
「はい、私は、其処で、買い付けを行なっておりますので。」
「では、今回は、どのくらいの予定をされるのですか。」
「はい、今回は、特別と申しましょうか、昨年の倍は、ですが、収穫量が、現地に着かなければ、
何も、分かりませんので。」
「分かりました、其れは、仕方が有りませんねぇ~、其れと、皆さんが仕入れられた、お米や、海
産物、薬種は、城下では安価で売って下さいね。」
問屋の店主達は、何も言えず、頷くだけで有る。
「源三郎殿、その様な安価で売ると、店は。」
「ご家老様、その様な心配は、ご無用で、この者達の金蔵には、数万両もの蓄えが有りますので
ねぇ~。」
「何ですと、数万両の蓄えが有ると、何と言う者達だ、阿波野、全ての帳簿を洗い直せ。」
ご家老様の芝居も上手だ。
「まぁ~、あれだけの蓄えが有れば、今後、数十年、いや、数百年間は大丈夫で、御座いますので、
其れよりも、皆さん、分かりましたね。」
「はい。」
各問屋の店主達は、源三郎が本当に恐ろしいと思って要る。
「阿波野様、後は、宜しく、お任せ致しますので、私は、次に行くところが有りますので、これに
て、失礼致します。」
ご家老様も、阿波野も分かって要る、次は、菊池藩の番だと、源三郎は、早くも帰って行く。