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闇の帝国    作者: 大和 武
34/288

 第 7 話。 新たな動きが。

 源三郎が、中心となり、海岸の洞窟の掘削作業は、城の家臣達が入って、三十日が過ぎた頃。


「あの~。」


「如何されましたか。」


 彼は、原木運びの中でも、中心的な存在で、九拾人の男達を纏めて要る。


「源三郎様、1千本の原木は、今日で、一応、全部、運びが終わりになりますので。」


「そうでしたか、其れは、大変、ご苦労様でした、私も、皆様のお陰だと感謝しております。」


 源三郎は、日数的には、少し早かったとは思ったが、其れでも、予定した、1千本の原木は、全


て、城内に集められた。

「其れで、オレ達は、明日から仕事が無くなって。」

 彼は、明日からの仕事が無い、其れは、食べる事が出来ないと言いたいので有る。


「仕事は有りますよ、ただねぇ~。」


「えっ、じゃ~、他にも、仕事が有るんですか。」


「はい、其れで、今日の仕事が終わり次第、皆さんに集まって頂き、其処で、話しをさせて頂きた


いのですが、宜しいでしょうか。」


「はい、じゃ~、みんなに言ってきます。」


 彼らの気持ちの中で、源三郎が、言った、当分の間は仕事が有ると、だが、その仕事とは、一体、


どの様な仕事なのか、其れから、暫くして、先程の男が戻って来た。


「源三郎様、みんな、集まりました。」


「分かりました、では、参りましょうか。」


 表に出ると、男達は不安そうな顔をしている。


「皆さん、原木運び、大変、ご苦労様でした、一応、今日で、この仕事は終わりましたが、皆さん、


如何でしょうか、一日か、二日の休みを取られては。」


「源三郎様、オレ達は、休みなんか、別に要りませんよ。」


「ですがねぇ~、疲れておられるのではないのですか。」


「いゃ~、オレ達は、仕事をしている方が楽ですよ、だって。」


 男達は、下を向いて黙っている。 


「どうされましたか。」


「だって、オレ達、仕事を休んだら、おまんまが。」


 彼らは、仕事が無ければ、食べる事が出来ないと言いたい、だが、彼らの住む長屋がまだ、完成


していない。


「分かりました、では、今から、お話しをしますのでね、宜しいでしょうか、実は、今、大工の親


方に頼んで、皆さんのお住まいを、お願いして要るのですが、其れが、まだ、完成しておりません


ので。」

「えっ、オレ達が住む家をですか。」


「はい、その通りでしてね、其れで、今度の現場と言うのが、このお城から一里程行った海岸でし


てね。」


「えっ、海岸って、でも、一体、海岸で、何を。」


 源三郎は、今、全てを話すべきなのか、其れとも、仕事の内容だけを話すべきなのか迷った。


 今の彼らに全てを話す事は危険では無いのか、だが、今、全てを話す必要な無いと。


「では、簡単に、お話しをしますが、お話しする事は、他のどなたにも話す事は、許しません。


 若しも、他から、貴方方が話されたと、私が、聴きました時には、其れは、申し上げ無くても、


分かって頂けますね。」


 男達は頷くだけだ、彼らは、あの時の光景が蘇った来るのだろうか、顔色は冴えないが。


「分かりました、私は、皆さんを信用して、お話しをしますので。」


 源三郎は、男達に詳しく説明すると。


「えっ、じゃ~、あの原木運びも、全部、オレ達の為だったんですか。」


「はい、その通りですよ、勿論、殿様も、全ては領民の為だと申され、洞窟では、今、この城の


侍達が、掘削工事を行っておりますので。」


「じゃ~、お侍様が、オレ達の為にですか。」


「はい、その前には、農民さんが、その前には、漁師さん達が、農作業や、漁を中止してでも工事


に入られていますよ。」


 男達は、日頃、城下では本気で仕事に就かずにいたのだが、その間でも、漁師や、農民が掘削工


事に入っていたと言うのが、大変な驚きだった。


「なぁ~、みんな、オレ達は、ご城下で、一体、今まで何をしてたんだ。」


「そうだ、これからは、オレ達が、漁師さんや、農民さんと代わり、その、何とか言う工事をやろ


うじゃ無いか、オレは、もう金子の事はどうでもいいよ。」


「オレも、同じだ、あの人達だけが苦しい工事に入ってたんじゃ、オレは、もう恥ずかしいよ。」


「源三郎様、オレは、もう、別に家が無くったていいですよ、毎日、仕事が有って、おまんまさえ頂ければ、何も、文句は無いですから。」


「ですがねぇ~、私としまてはですよ、その様な訳には行きませんのでね、其れに、海岸に家が無


いと言う事は、毎日、往復、二里も歩くのですよ。」


「源三郎様、オレは、その洞窟の中で寝てもいいですよ。」


 源三郎の話が功を奏したのか、男達は、今、直ぐにでも、工事に入ると言うので有る。


「分かりました、ですが、私も、調整する事が有りますので、少し待って頂けますか。」


 その時、大工の親方が来た。


「源三郎様、宜しいでしょうか。」


「はい。」


「明日の朝から家を建てる為に、荷車、十台で材料を運び、二十人程が残り、家を建て替えに入り


ますので。」


「そうですか、でも荷車、十台ですか、其れにしても大変な量ですねぇ~。」


「はい、一応、明け六つには此処を出ますので。」


「分かりました、皆さんには、くれぐれも事故の無い様に伝えて下さい。」


「はい、承知しました。」


「あの~、大工さん、その家って、オレ達のですか。」


「いゃ~、其れが、皆さんには、大変、申し訳無いんですがね、先に、漁師さん達の家を建て替え


るんですよ。」


「其れじゃ~、大工さんの人数が、其れに。」


「勿論、人手は多い方がいいですよ、此処で積み込み、海岸で降ろし、其れを、順番通りに建てて


行くんですから。」


「源三郎様、オレ、手伝いますよ。」


「そうだ、オレも行くよ。」


 源三郎は、思わぬところでは、人手不足が解消出来るのでは無いだろうかと思った。


「ですがねぇ~、皆様の家は後になるのですよ。」


「そんな事、別に関係無いですよ、明日から、みんなで運んで、漁師さん達の家と、洞窟の工事と


に分かれて出来ますから。」


「親方、何人くらいで。」


「はい、運ぶだけでも有り難い事ですから、まぁ~、現地に着いてから考えても十分だと思います


ので、源三郎様、皆さんが手伝って下さるんで有れば、荷車が、そうですねぇ~、もう数台も有れ


ば、洞窟の資材も出来上がっておりますので。」


「源三郎様、オレ達が持って来ますよ。」


「ですが、城下に、何台の荷車が有るのか、私は、知らないのですからねぇ~。」


「其れは、オレ達に任せて下さいよ、でも、別に悪い方法で持って来るんじゃ無いですから。」


「本当ですね、相手の方に承諾を貰って下さいよ。」


「はい。」


「ですが、一体、何処に有るのですか。」


「はい、伊勢屋の旦那さんに言えば、十台や、二十台は借りる事が出来ますよ。」


「そうですか、では、親方、積めるだけ積みましょうか。」


「はい、其れじゃ~、明日の準備に入りますので。」


「源三郎様、オレも、今から、伊勢屋さんに行ってきますので。」


「そうですか、ですがねぇ~。」


「源三郎様、オレは、みんなの為に働けるのが嬉しいんですよ。」


「そうですか、では、お願いしますね。」


「じゃ~、みんな行こうか、明日は、七つ半には、此処に集まるんだから。」


「お~。」


 男達が、一斉に雄叫びを上げ、城を後にするので有る。


 その頃、海の方から、家臣達が帰って来た。


「皆様、大変、ご苦労様でした。」


「源三郎殿、あの掘削工事は、其れは、もう大変ですよ。」


「はい、私も、何度か行きましたので、あっ、そうでした、明日から、皆様は、洞窟の工事が無く


なりましたので。」


「源三郎殿、何か、有ったのですか。」


「はい、一応、今日で、原木運びが終わり、明日からは、九十名が、皆様と交代し、洞窟の掘削工


事と、補強工事に入る事になりましたので、皆さんには、大変、ご無理ばかりを申し上げ、源三郎、


この通り、感謝致しております。」


 源三郎は、両手を付き、深々と頭を下げた。


「源三郎。」


「殿。」


「先程の者達じゃが、明日から、洞窟の掘削工事に入るのか。」


「はい、左様で、御座いますが、何か。」


「うん、あの者達の食べ物は、どの様になっておる。」


「はい、私が、今朝、中川屋達の店を訪れ、大至急、米や、海産物を送って欲しいと、お願いして


おりますので。」


「そうか、では、浜の方にも食料は行くのじゃな。」


「はい、其れと、多分、城にも届くと思います。」


「何故じゃ、現場を優先するのでは無かったのか。」


「はい、殿、ですが、此処にも現場は御座います。


 大工さんだけでも、二十数名も居られ、その人達の食事も必要になりますので。」


「お~、そうじゃった、余も、すっかり忘れておったわ。」


「殿、其れと、この数日の内に、中川屋と、伊勢屋が、お米と、海産物の買い入れに行かれると思


います。」


「何じゃと、中川屋と、伊勢屋が買い入れに向かうとな。」


「はい、これから、お米の取り入れが始まりますので、大量に買い入れるとは申しております。」


「大量に買い入れて、如何するのじゃ。」


「はい、其れの一部は、ご城下で売りますが、殆どは、備蓄に回す所存で、御座います。」


「源三郎様、今、大手門に中川屋と、伊勢屋が十数台の荷車を。」


「えっ、もう来たのですか、では、こちらに通して下さい。」


 暫くすると、中川屋と、伊勢屋が、お米と、海産物、其れに、大川屋からも、大量の食器が届い


たので有る。


「源三郎様、中川屋の。」


「これは、番頭さんが直々にですか、有り難い事で、お殿様で、御座いますよ。」


 中川屋と、伊勢屋の全員が土下座をするので。


「皆の者、もう良いぞ、立たれよ。」


 中川屋と、伊勢屋の番頭達は、正か、殿様が居られるとは思っておらず、大変な驚き様で有る。


「中川屋さん、其れで、何俵、持って来て頂いたのですか。」


「はい、主人からは、十俵、お届けする様にと。」


「そうですか、私も、大助かりです。」


「源三郎様、其れで、海の方には、何俵、お届けすればよろしいでしょうか。」


「はい、其れが、少し変わりましてねぇ~、明日の朝、百名以上が向かう事になったのです。」


「源三郎、全部、届けさせれば良いではないか。」


「はい、ですが。」


「城の者達よりもじゃ、海の方が大事じゃ。」


「はい、では、皆さん、申し訳有りませんが、少し、休まれてから漁村まで届けて頂けますか。」


「はい、承知、致しました。」


「其れと、少し聴きたいのですが、買い入れに向かわれるのは、何時頃の予定でしょうか。」


「はい、一応、明後日には発つ予定で、御座います。


 其れと、今日は、最初の日で、御座いましたので、私が、同行致しましたが、次からは、この丁


稚達が、お届けに参りますので、宜しいでしょうか。」 


「源三郎殿、宜しいでしょうか。」


「はい、何か。」


「はい、丁度、殿も居られますので、その買い付けですが、大量にと申されましたが、幾ら位買い


入れされるのですか、其れに、金子も相当用意されると思うのですがねぇ~。」


「はい、私は、主人からは、昨年の三倍は買い付けする様にと言われております。」


「えっ、三倍と申されますと、一体、何俵程になるのですか。」


「はい、昨年は、五十俵で、御座いましたので、百五十俵は、予定しております。」


「百五十俵と言えば、幾ら、ご用意されるのですか。」


「はい、一応、五百から、七百で御座います。」


「えっ、七百もですか、でも、其れだけの大金を、ご用意されるとなれば。」


「はい、でもまだ、主人からは、はっきりとは聞いてはおりませんので。」


「では、往復の旅籠代も含めてなのですか。」


「はい、其れと、現地で、ご浪人を数十名、護衛として雇い入れますので、その代金も含めてで、


御座います。」


「う~ん、これは、大変じゃのぉ~。」


 殿様も、初めて聞く話しで、源三郎も、簡単に買い付けを依頼したが、果たして、その金子だけ


で足りるのかと心配になって要る。


「殿、源三郎殿、今、申された護衛ですが、我々が就くのは無理でしょうか。」


「えっ、皆様がですか。」


「はい、中川屋さんも、伊勢屋さんも、大金を持たれ行くので有れば、この地を発たれ、買い付け


をされ、また、戻られるまでが大変では無いかと思うので御座います。」


「では、その方達が、往復の護衛を致すと申すのか。」


「はい、其れならば、現地で、浪人を雇う必要も無くなると思うのです。」


「源三郎様、その様にして頂ければ、私達は、大助かりで、御座います。


 現地に着くまでも大変で、何時、追剥に襲われるか、其れが、一番、不安で、旅籠に泊まりまし


ても、其れは、もう、恐ろしゅう御座います。」

「源三郎、この者達の申す通りじゃ。」


「お殿様、源三郎様、誠に、失礼かと、存知ますが、皆様の旅籠代は、私どもで、出させて頂きた


いと思うのですが、如何で、御座いますでしょうか。」


 源三郎は、嬉しかった、家臣が護衛に就くとなれば、中川屋も、伊勢屋も安心するだろうし、家


臣達も久し振りに他国へ行けるので、気分も変わり、元気になるだろうと、思うので有る。


「源三郎、後は、お主の判断に任せるぞ。」


「はい、ですが。」


 源三郎は、直ぐに答えたいのだが。


「源三郎様、是非とも、お願い致します。」


「う~ん。」


 源三郎の芝居なのかと、殿様は思った。


「中川屋さん、伊勢屋さん、其れで、何人が必要なのですか。」


「はい、以前は、野洲に帰る時でも、十人のご浪人さんを雇いましたので。」


「では、中川屋さんに、二十五名、伊勢屋さんにも二十五名で、宜しいでしょうか。」


「はい、其れは、もう、大変、嬉しゅう御座います。


 私達も、これで、安心して買い付けに行く事が出来ます。」


「皆の者、今、聴いての通りじゃ、このお役目は、皆の者にとっては、初めての役目じゃ、だが、


何としても、全員が無事に戻って来るのを、余は、願っておるぞ。」


 家臣達は、別の意味の、緊張感で、身が引き締まる思いをするので有る。


「では、詳しく、お話しを聞きたいのですが。」


「源三郎様、その前に、私達は、この荷車を漁村に。」


「そうでしたねぇ~、では、宜しく、お願いします。」


「源三郎様、私は、戻り、中川屋の主人と、伊勢屋さんの、ご主人に話をしたいと思いますので、


荷車は、伊勢屋さんの番頭さんにお任せしたいと思います。」


「中川屋さん、私が、引き受けますので、私の、主人も、話しは直ぐ分かると思います。」


「伊勢屋さん、申し訳有りませんが、宜しくお願いします。」


「はい、分かりました、源三郎様、では、私達は、漁村に届けますので。」


「伊勢屋さん、申し訳有りませんが、宜しくお願いします。」


 伊勢屋の番頭は、中川屋の荷車と丁稚達は、漁村へと向かい、中川屋の番頭は、源三郎との話し


を店主に報告する為に戻って行く。


「源三郎、良かったでは無いか、皆の者、本来ならばじゃ、夕食に、1本でも思うが、全員が無事


に戻って来るまでは辛抱してくれ。」


「殿、我々も、今回のお役目は大事だと考えており、其れに、僅かの日数で、御座います。」


「そうか、皆の者、宜しく、頼むぞ、源三郎、人選は、どの様に考えておるのじゃ。」


「殿、お役目では御座いますが、今回、限りでは、御座いませぬ。


 其れに、皆様、全員が剣豪で御座いますが、最初と言う事も有りますので、どなたかに選んで頂


いて頂ければと、私は、考えております。」


「吉永、お主は、我が藩では一番じゃ、吉永が選べ、皆の者、其れで良いな。」


「はい、私は、吉永様にお任せ致します。」


「はい。」


 吉永は、返事をしたが、五十人を、この中から選ぶとなれば大変だと、だが、今回は、今までの


お役目とは、全く、違うと思い直すので有る。


「殿、源三郎殿、拙者も同行致したく存じますが、如何でしょうか。」


「私は、吉永様には、是非とも、お願いしたくと、存じております。」


「吉永、お主は、何かを考えておるな。」


「はい、二十五名が、一堂に参りますと、あちらに着くまでに、他の国から、余計な詮索をされる


やも知れませぬので、金子の護衛には、十名が、その前後と申しましょうか、一町程、離れ辺りを


警戒しつつも、護衛に当たる事が寛容かと、存じますが。」


「よし、分かったぞ、吉永、その方に任せるぞ、その方が考えてじゃ、皆の者に徹底するのじゃぞ、


良いか。」


「はい、承知、致しました。」


 源三郎は、次回からの買い付けにも、この方法を採用出来れば、家臣達にも大切な役目だと理解


するだろうし、中川屋も、伊勢屋にしても、得体の知れない浪人を雇い入れるよりも、安心出来る


と言うもので有る。


「源三郎、余は、今から賄い処に参るぞ。」


「殿、何卒、宜しく、お願い申し上げます。」


「よし、分かったぞ。」


 さぁ~、大変な事になった、賄い処は、明日の明け六つには、海岸に向かう、百人以上のおむす


びを作らなければならないのだが、賄い処は、まだ、何も知らない。


 殿様は、どの様な話しをするのだろうか、人選は吉永に任せ、源三郎は、久し振りに一人になり、


其れが良かったのだろうか、つい、うとうととし、どれ程の時が経ったのだろうか。


「あの~、源三郎様。」


 その声で、我に返り、ふと見れば、中川屋と、伊勢屋の店主で有る。


「如何されたのですか。」


「はい、先程、私どもの番頭の話を聴き、飛んで参りました。」


 あの話で、二人が飛んで来たのだろう。


「先程の話しと申しますと、我が家中の者が、中川屋さんと、伊勢屋さんの護衛に当たると、言う


話しでしょうか。」


「はい、源三郎様、私どもと致しましては、願ったり、叶ったりで、御座いまして、其れは、もう、


大助かりで、御座います。」


 やはり、源三郎の思った通りで、家臣達が護衛に就けば、これ程、心強い事は無いはずだと。


「そうですか、私達も、皆さんのお役に立てれば幸いで御座いますよ。」


「源三郎様、其れで、大変、失礼だとは思いますが、ご相談で、御座いますが、お侍様方の旅籠代


など、道中の旅費を、私どもに、お任せ頂きたいので、御座いますが、誠に失礼だとは十分に承知


致しておりますので。」


「ですが、両方で五十人にもなるのですよ。」


 源三郎は、助かったと思った。


「その様な、ご心配は無用で、其れよりも、番頭達が安心して買い付けをし、その荷物が戻るので


有れば、お安い御用で、御座います。」


 では、今まで、浪人達には、いか程の金子を渡していたのだろうか、いや、多分、其れだけでは


無い、旅籠に泊まれば、それなりの食事と、お酒も出さなければならない、だが、家臣達ならば、


旅籠代と、道中の食事代で済むと、其れは、中川屋も、伊勢屋にしてもお互いが得になるのだと。


「中川屋さん、伊勢屋さん、有難う、御座います。


 大変、ご迷惑とは思いますが、宜しく、お願いします。」


「源三郎様、其れは、私達が、申し上げる事で、御座います。


 では、明後日の明け六つには発ちたいと思いますので、皆様には、宜しく、お伝え下さいませ、


では、私達は、これで、失礼します。」


 中川屋と、伊勢屋は、安心した様子で帰って行った。


 一方、海岸に向かった、十数台の荷車と、九十名の男達は。


「なぁ~、一体、どんなところなんだろう。」


「いゃ~、オレだって知らないんだ、だけど、漁師や農民が行ったんだ、オレ達にも出来るよ。」


「だけど、オレは、狭い所が苦手なんだ。」


「そんなの誰だって同じだ、だけど、考えて見ろよ、島送りって、オレも、話しに聴いた事が有る


んだが、其れは、恐ろしい程の所らしいぜ。」


「うん、オレも、聴いた事が有るんだ、その穴の中じゃ~、座るだけの場所も無いらしいんだ、だ


けど、お侍様が大勢入れるって事は、大きな所なんだ、オレは、漁師も農民も出来たんだから、


まぁ~、大丈夫だと思うんだ。」


 話の最中に。


「お~、海が見えて来たぜ。」


「わぁ~、何て大きいんだ、あれが海って言うのか、オレは、初めて見たよ。」


「オレの故郷は、北の寒い漁村だったんだ。」


「へぇ~、お前は、元漁師だったのか。」


「そうなんだ、だけど、冬の寒い時は、海も荒れて、其れは、とてもじゃ無いが、漁に出る事は無


理なんだ。」


「なぁ~んだ、其れで、此処に来たのか。」


「いや、他の国にも行ったんだが、何処に行っても仕事なんか無かったんだ。」


「オレは、農家だったんだけど、満足な作物も出来なかったんだ。」


 誰もが、この地に来るまでは、色々迷っていたのだろう、だが、今は、仕事も有り、食べる物も


有る、其れに、家までも建ててくれると言う、これ程、恵まれた所が他に有るだろうか。


「まぁ~、考え方次第って事だなぁ~。」


「まぁ~、そう言う事だなぁ~。」


「あんた、あれは、大勢の人達と、荷車よ。」


「皆さん、ご苦労様です、私は。」


「なぁ~、一体、どうしたんですか、こんな大勢で、其れに沢山の荷車も。」


「オレは、大工なんで。」


「えっ、大工さんって、じゃ~、洞窟の補強に来たのか、お~い、元太、早く来てくれ。」


「どうしたんだ、直ぐに行くよ。」


 元太は、大慌てで来た。


「あんたが、元太さんって言うんですか。」


「うん、そうだけど、一体、どうしたんだ。」


「オレは、大工で、此処に来た人達は、今日から洞窟の仕事で。」


「えっ、じゃ~、源三郎様は。」


「うん、他の仕事が有るって、其れで、先に話しをするよ、今度、この人達が、此処の洞窟の仕事


をするんだけど、その前に、此処に、家を建てる事になったんだ。」


 話しの最中に他の大工達が、家の材料を降ろして要る。


「えっ、じゃ~、何か、此処で洞窟の仕事を専門にするって言うのか。」


「うん、そうなんだ、其れで、家を建てる事になったんだけれど、親方の指示で、漁師さん達の家


を先に建て替える事になったんだ。」


「えっ、オラ達の家を、だけど、何でなんだ、オラは、何も聞いていないよ。」


「うん、だけど、源三郎様の話しじゃ、洞窟内で、松明や、かがり火に大量の木材が必要なんだけ


ど、今は、漁師さん達が、毎日、拾い集めてるって。」


「其れは、当たり前だって、松明や、かがり火が無いと、中は真っ暗なんだよ、だから、オラ達が、


集めてるんだ。」


「うん、其れは、源三郎様も言ってられたんだ、其れで、オレ達の親方が、じゃ~、漁師さん達の


家を建て替え、古い漁師さん達の家の木が大量に出るから、其れを、松明や、かがり火に使えって


話しになったんだ。」


 その最中に、最初の仮小屋を建て始めている。


「其れは、分かるけど、でも、オラ達の家って言うけれど。」


「元太さん、何も、心配は無いですよ、ほら、今、建て始めた家は、仮の家で、この家は、ただ、


眠るだけですがね、一応、雨風は防げますんで、其れでね、源三郎様も、親方も、元太さんの家か


ら始めろって言ってますので、元太さんの家は。」


「あれですけど、だけど、母ちゃんも、子供も居るし、道具も有りますから。」


「な~に、これだけの人数ですから、元太さんは、母ちゃんと、子供さんを呼んでくれれば、其れ


でいいんですよ。」


「元太、源三郎様が言われたんだ、其れに、お前の家が最初なんだ、だから、早く、母ちゃんと、


子供を呼べって。」


「うん。」


 元太は、何時もの元太では無い、突然、大工が来て、家を建て替えるから、早く出ろと。


「お~い、母ちゃん、大変だ、今から、家を壊すって。」


「えっ、何で、家を壊すのよ。」


「母ちゃん、源三郎様が、オラ達の住んでる家を建て替えるって。」


「だけど、何処に行けばいいのよ~。」


「うん、今、仮の家を建ててるんで、其処に行けってよ~。」


「あんた、一体、何の話しを言ってるのよ、私は、意味が全く分からないわよ。」


「うん、分かった、オラの話が、下手で、実はなぁ~。」


 この後、元太は、妻に説明し。


「なぁ~んだ、そう言う話しだったの、じゃ~、分かったけど、道具も出さないと。」


 もう、その時、元太の家の前で、数十人の男達が待っている。


「他にも、大勢来てるんだ。」


「何だって、其れを、早く言ってよ、じゃ~、あんた、子供を。」


「はいよ。」


 元太の妻は入って来た男達に、持ち出す道具を指示すると、男達は、次々と運び出して行く。


「大工さん、一応、全部出しましたよ。」


「あいよ、じゃ~、始めるとするか。」


「お~。」


 大工達が、元太の家を取り壊し始め、大きな木槌で、あちこち打つと、漁師の家は簡単な作りな


のか、早くも。


「お~い、倒れるぞ~。」


 その瞬間、元太の家は、大きな音を発て、倒れた。


「さぁ~、皆さん、この廃材を一か所に集めて下さい。」


 大勢の男達が一斉に廃材を集め、一か所に集めて行く。


 その様子を見ている、元太も、他の漁師達も唖然としている。


 大工達は、早くも土台となる、太い木材を敷き、各所には、何やら記号の入った木を並べ始め。


「皆さん、別の荷車に、洞窟内の補強に使う木材をを積んでいますので、手分けして降ろして欲し


いんです。


 元太さん、オレ達は、家を建てますので、その木材を洞窟に入れて欲しいんですよ、オレ達の仲


間の一人が一緒に行きますので。」


「分かりました、では、小舟の用意をしますので。」


 元太は、漁師仲間に小舟の用意を頼み、男達は補強材を運び、家の建て替えは、大工達に任せ、


荷車からは材木を小舟に乗せるが。


「これは、重いから多くは運べないなぁ~。」


「なぁ~、元太、何回も往復するしか方法は無いよ。」


「うん、済まんが、じゃ~、オレと、大工さんは、先に洞窟に入るから、他の人達を頼むよ。」


 十数艘の小舟では、一体、何回、往復する事になるのだろうか、男達だけでも、九十人は居る。


「大工さん、頭を下げて下さいね。」


「わぁ~、これは危ないですねぇ~。」


 洞窟の中に入ると。


「わぁ~、これは大きいなぁ~。」


「ええ、これが、一番、大きいんですよ。」


 漁師達の巧みな舵裁きで、一番、奥に着くと。


「此処が、一番、奥、何ですがね、この先で、掘り出してるんですよ。」


 元太と大工が松明を持ち、少し進むと、掘削現場の先端に着いた。


「此処ですね。」


「はい、此処までは、岩だったんですが、この先からは、岩と、土が混ざり、この間々掘り進むの


は危険だと、源三郎様の指示で、今は、この状態なんですよ。」


「う~ん。」


 大工は土の所を触り。


「これは固いので、掘り進む人は、一間、掘り、三尺の補強をすれば、大丈夫だと思いますが。」


「お~い、元太、また、荷車が着いたぞ。」


「え~、今度は、一体、何が来たんだ。」


「オラは、分からないから、元太に戻ってくれって。」


「分かったよ、直ぐ、戻るから。」


「頼むぞ、オラ達は、この人達と材料を運ぶからなぁ~。」


「大工さん、そう言う事なんで、この人達に説明を頼みます。」


「分かった。」


 元太は、小舟に乗り、浜に戻って行く。


「大工さん、オレ達は、何も知らないんで。」


「分かりました、この現場は、そうですねぇ~、掘り進むと、補強材の組み立てる人は、十人も要


れば十分なんで。」


「はい、じゃ~、お~い、みんな聞いてくれ、此処は、十人で足りるって、残りは、漁師さんの指


示で頼むぜ。」


「よ~し、分かった。」


 小舟からは、男達が降り、補強材を次々と降ろし始め、大工は、十人の男達に詳しく説明した。


「大工さん、じゃ~、この補強材で、オレ達の命を守ってくれるんですか。」


「そうなんだ、だから、柱も太いし、上に被せる板も厚いんだ、この補強を手抜きすると、何かの


時に落盤が起きれば、中の人は、岩と土で、生き埋めになるんだ。」


「じゃ~、手抜きは絶対に駄目だって言う事なんですよね。」


「そうですよ、其れで、後からは、補強材も次々と持って来ますのでね。」


「分かりました、でも、無理は駄目だと。」


「勿論ですよ、無理をすると、必ず、後から、何かが起きますので、絶対に無理だけはしないで下


さいね。」


「分かりました、みんな、無理はするなって、じゃ~、始めるぞ。」


「よ~し、分かった。」


 原木運びを終えた男達は、城までの穴掘りと、他の者達は、漁師の指示で、岸壁作りに入った。


 その頃、浜に戻った、元太はと言うと。

「元太さんですか。」


「はい、オラが、元太ですが、何ですか、この荷車は。」


「はい、私は、ご城下で、伊勢屋と申します、海産物問屋の番頭ですが、源三郎様の言い付けで、


お米と、海産物、其れと、食器を運んで参りました。」


「えっ、お米って。」


「はい、多分、先程、此処に着かれた思いますが、九十人の男の人達の食料と、皆さん方の食料も


と、申されましたので。」


 源三郎は、これから、何か月、いや、数年間は続くだろうと、漁師達と、洞窟の中で仕事をする


男達の為にと大量の食料を送り込んだので有る。


「でも、オラは、何も聞いて無いんですが。」


「私は、源三郎様から、その様に言われましたので、其れと、源三郎様は、漁師さん達の奥様方に


は料理の方も頼んで欲しいと。」


 これは、大変な事になった、浜では、今、元太の家を建て替えの最中で、漁師達の家が完成する


と、次は、男達の家を建てるのだ、と、言う事になれば、九十人の男達が、この仕事を最後まで行


うと言う事になる。


「元太さん、お米と、海産物の置き場ですが。」


「はい、では、一応、漁師小屋が有りますので、其処にでも置いて下さい。」


「はい、分かりました。」


 伊勢屋の番頭は、お米を積んだ荷車と、他の荷車を、元太の言う漁師小屋に運ばせて行く。


「元太さん、其れで、お米の一俵と、海産物が、何日くらいで無くなるのか調べて置いて欲しいの


ですが。」


「えっ、何か、有るんですか。」


「はい、これだけの食料が、何日で無くなるか分かれば、次から持って来れる日付も分かりますの


で、其れに、分量も分かりますので。」


 今の元太は、漁に出る事も出来ない、其れに、九十人の男達が行なう、洞窟の掘削工事の状況と、


今、届いた食料の管理をするだけでも、一日が終わるので有る。


 他の漁師達も、時々、漁に出て、浜の全員が食べられるだけの魚を獲る必要が有る。


 だが、今、浜の漁師は無理をしてでも、漁に行く必要は無い、其れは、これから当分の間、源三


郎の手配により、食料が届けられる為で有る。


「元太さん、では、私達は戻りますので。」


「はい、有難う、御座いました。」


 伊勢屋の番頭と、丁稚達は帰って行き、元太は、考えて要る。


 あれだけの人数分の食事を作るとなれば、一体、どれだけの、いや、今は、考えて要る暇は無い。


「母ちゃん。」


「何よ、まだ、何か有るの。」


「うん、オラ達、漁師全員と、大工さん達と、洞窟に入った人達、全員の昼ご飯なんだけど、今か


ら作れるかなぁ~。」


 元太は、こわごわ顔を見ると。


「えっ、何だって、じゃ~、この浜の全員って、一体、何人なのよ。」


 恐ろしい程の顔で、元太を睨み付けている。


「え~と。」


 元太は、人数を数えている。


「う~ん、子供達も全部入れると、二百人くらいかなぁ~。」


「え~、二百人かなぁ~って、あんた、簡単に言うけど、浜の奥さん全員に手伝って貰っても、今


からじゃ、無理よ、でも、もう、決まったんだったら、仕方が無いわねぇ~。」


「うん、其れに、さっき、お米と、海産物が届いたんで、雑炊は無理かなぁ~。」


「あんた、だけど、洞窟の人達は戻って来るの。」


「人数が多いから無理だよ。」


「じゃ~、此処で準備するから、洞窟に持って行ってくれる。」


「あ~、いいよ、じゃ~、何とか頼むよ。」


 元太の奥さんも半ば諦めて要る。


「分かったわよ、じゃ~、今から、奥さん達に声を掛けるけど、まぁ~、源三郎様が言ったんだか


ら諦める事にするわよ。」


 今の、元太は、食事の事までも考えなければならない。


 二十人程の大工が、元太の家を建てているが、早くも屋根の部分に取り掛かっている。


 だが、これから、五十軒近い漁師の家を建てなければならない。


 農村では、稲刈りが最盛期を迎え、今年は、一体、何俵のお米が収穫出来るのだろうか、今年か


らは、全てを、お城の倉庫に保管し、各農村には、お米と、海産物が分配される事が決定して要る。


 農家では、お米も、他の食物も、分配されるので、何も心配する事は無い。


 収穫が終われば、少しの日数だが休みを取り、数日後には、野菜の種まきも有り、それらの全て


が終わり、初めて、のんびりと数日間の休みが取れるので有る。


 そして、今日は、中川屋と、伊勢屋が買い付けに行く日でも有る。


 朝から、五十人の家臣達が、表向きはバラバラの状態で、東門を出て行く。


 中川屋と、伊勢屋を直接護衛に当たる、家臣達は、二軒の店へと向かった。


 中川屋も、伊勢屋も数日前から準備に大わらわで、店主は、何時に無く落ち着きが無い。


 其れと言うのも、今回は、今までに無い程の量を買い付ける為で、果たして、望み通りの買い付


けが出来るのか、相手は、昔からの取引なので心配は無いが、番頭達も、そわそわして要る。


「番頭さん、二百俵は絶対に要りますからね、其れよりも多いのは宜しいですから、若し、金子が


不足しても、数日以内にはお届けしますと、伝えて下さい。


 其れと、この書状を渡して下さい。」


「はい、旦那様。」


「もう来られると思いますので。」


 中川屋の店主は、


 どの様な事が有ろうとも、二百俵は確保せよと言うので有る。


 だが、幾ら、米どころだと言っても、二百俵の米を買い付ける様な問屋は無い。


 其れも、一度に、源三郎は、最初なので、二百俵でも良いと考えて要る、だが、本当のところは


五百、1千俵と多く買い付けは出来ないかと考えて要る。


「中川屋さん。」


「これは、これは、森田様。」


「ご主人、私も参る事になりましたので。」


「左様で、御座いますか、其れは、宜しゅう御座いました。


 私も、今回の買い付けが、今までの数倍になりますので、少しばかり不安で御座いますが、森田


様が直接見て頂ければ、源三郎様も、安堵されるやも知れませんので。」


 中川屋の店主は、大量に買い付ける為に、果たして、先方が納得するのか、其れだけが不安の様


で有る。


「私も、直接見れば、源三郎殿にも説明出来ると思いますので。」


「では、森田様、今回、皆様と、我々の店の者達、其れに、お米が無事に戻れます様に。」


「では、参りましょうか。」


 中川屋の番頭と、十人の奉公人と、森田を含め、十数人の家臣達が店を発った。


 その頃、伊勢屋でも、同じ様に、飯田と、其れに、吉永が加わり、十数人が店を発ち、その先に


は、二人、三人と、バラバラで、前後を歩いて要る。


 中川屋と、伊勢屋は途中まで同じ方向に向かって行く。


「親方。」


「源三郎様、何か御用で。」


「私は、全く、知りませんので、お聞きしたいのですが、宜しいでしょうか。」


「はい、私に、分かる事で有れば。」


 源三郎は、新たな作戦を考えて要る。


「何とも恥ずかしい話しですが、一寸くらいの板に岩を付ける事は出来るでしょうか。」


「えっ、何ですって、一寸の板に岩を付けるって、一体、どう言う意味なんですか。」


 親方も、源三郎の突飛な発想には驚くばかりで有る。

「私は、頭の中で考えたんですがね。」


「源三郎様、大工に、岩の話は分かりませんよ。」


「親方、申し訳有りませんでした。」


「源三郎様、城下の外れに岩を削っている所が有りますよ。」


「えっ、其れは、本当ですか。」


「ええ、城下の外れ何ですがね、その隣が鍛冶屋ですから、直ぐに分かると思いますよ。」


「其れは、有り難い、今からでも行きますよ。」


 源三郎は、一体、何を考えて要る、洞窟の掘削工事と補強が始まったばかりだと言うのに、又も、


新しい工事でも始めるのだろうか、だが、源三郎は、今の工事の進み具合にはまるで関心が無い。


 大急ぎで、城下の外れの石屋に向かって行くが、その途中で。


「あんちゃん。」


「げんたさんでは。」


「あんちゃん、そんなに急いで何処に行くんだ。」


「そうだ、げんたさんも一緒に来て下さい。」


「えっ、オレが、何でだよ~。」


「まぁ~、話しは、石屋に着いてからしますので。」


「まぁ~、仕方無いか、あんちゃんの頼みだからなぁ~。」


 げんたは、何故、一緒に石屋に行くのか、其れは、源三郎の頭の中には、げんたの頭脳が必要に


なるのだ。


「お~、げんた、一体、どうしたんだ、珍しいなぁ~。」


「うん、今日は、オレじゃないんだ、このお侍様が、おじさんに用事だって。」


「えっ、お侍様って、一体、何の用事なんでしょうか。」


「お忙しいところ恐縮ですが、少しお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか。」


「はい、わしの知ってる事だったらいいんですがねぇ~。」


「実はですねぇ~。」


 源三郎は、げんたにも分かる様に説明すると。


「お侍様、石も、木と一緒で、鏨を当て方で半分と言いますか、其れは、見事に割れるんです。」


「其れは、どんな岩でも同じですか。」


「まぁ~、殆どの岩は綺麗に二枚と言う様な割れ方をしますが、其れが、何か。」


「なぁ~、あんちゃん、一体、何を考えて要るんだ。」


「私はねぇ~、一寸板に、薄く割った岩を張り付けが出来ないかと考えましてね。」


「何ですって、厚さ、一寸の板に薄く割った岩を張り付けるんですか。」


 傍で、げんたは、頭の中が激しく思考して要る様だ。


「ええ、その様な事が出来るならば、今、進めております工事が大幅に進みますので。」


「う~ん、まぁ~、出来ない事は無いとは思いますがねぇ~、わしも、正直分からないんです。」


 石屋も、頭の中で考えて要るが、果たして、可能なのか、其れとも。


「なぁ~、あんちゃん、一体、何を作るんだ、其れに、岩を貼り付けるって言ったけど、正か、縄


じゃ~、直ぐに切れるよ。」


「お侍様、隣の鍛冶屋なら、岩と、厚い板を付ける方法を知ってると思いますが、わしも一緒に行


きますので。」


 源三郎が、進めている工事で、げんたの言う蓋をするとは、一体、何処に着けるのか。


「お~い、おやじ。」


「なぁ~んだ、がんちゃんか。」


「こちらのお侍様の話を聴いて欲しいんだ。」


「えっ、お侍様が、で、何を。」


「私は、源三郎と申しますが、今、隣のご主人に、岩を、厚さ、一寸の板に貼り付ける方法は有り


ませんかと、お聞きしたいのですが。」


「えっ、一寸板に岩を貼り付けるって、一体、どんな岩なんですか。」


 鍛冶屋も、源三郎の突飛な発想には、全く、理解が出来ない。


「おやじ、オレが説明するよ。」


 石屋のがんちゃんが、鍛冶屋のおやじに説明すると。


「そりゃ~、お侍様、出来ない事は有りませんがね。」


「では、出来るのですか。」


 源三郎の突飛な発想だが、石屋にも、鍛冶屋にも理解されたのだ。


「ですが、細い金棒じゃ~、駄目ですよ、そうですねぇ~、オレの指の太さは要りますよ、で、其


れって、一か所だけですか。」


 源三郎は、正直な所、一体、何個の岩を張り付けするのか、其処までは考えてはおらず。


「あんちゃん、、其れって、あの狭い入り口の所なんだろう。」


 やはり、げんただ、源三郎は、詳しく話さなかったが、げんたは、理解して要る。


「で、一体、どれくらい広げるんだ。」


「う~ん。」


「あんちゃんは、頭はいいんだ、だけど、こんな話を分かるのは、オレだけだぜ。」


 其れは、本当なのかも知れない、この様な話を他の者達にすれば、全く、理解出来ない。


「あんちゃん、下から、一間でどうだ。」


 二人の会話を聴いた、石屋も、鍛冶屋も、全く、意味が分からない。


「あの~、お侍様、わしが出来る事なら協力させて頂きますよ、だって、げんたが、お侍様を、あ


んちゃんって呼ぶのですから、このげんたは、他の人達には、他人行儀なところが有りましてね、


余程、信用しなければ、今の様な呼び方はしませんので。」


「そうですか、では、お話しを致しますが、この話ですが、私もですが、殿様が、命を掛けておら


れますのでね、其れだけは、理解して下さい。」


「はい、よ~く、分かりました。」


「では、お話しをします。」


 源三郎は、石屋と、鍛冶屋の二人に詳しく話し、石屋が言う様に、げんたは、源三郎を信頼して


要るので、げんたを知る、石屋も鍛冶屋の事も心配は無いと、更に、源三郎は、今、進めて要る工


事の事も、我が藩が窮地だと言う事も話すと。


「お侍様、じゃ~、わしらに任せて下さい、その大工さんも知っておりますので、其れで、入り口


ですが、どんな船が通れる様にするんですか。」


 源三郎は、船の大きさを考えながら。


「そうですねぇ~、幅が、一間くらいに、荷物を積んだ高さは、う~ん、四尺くらいになると思い


ますが。」


「分かりました、我々の為に、お侍様が必死なのに、わしらが、何も出来ないって、なぁ~、おや


じ、恥ずかしいよ。」


「そうですよ、わしと、がんちゃんとで、大工とで、お侍様が、納得して貰える様な物を作って見


せますので。」


「其れは、本当に有り難い事ですが、今、直ぐにとは思っておりませんので。」


「まぁ~、任せて下さいよ。」


「はい、では、宜しく、お願いします。」


 源三郎の考えた物を、石屋と、鍛冶屋、其れに、大工も入れて作ってくれると言う、此処でも、


げんたの影響なのか、話しは簡単に終わった。


「げんたさんのお陰ですよ、有難う。」


「オレは、何もして無いんだから。」


「そうだ、げんたさん、あの潜水具を後、数個作って欲しいんですが、宜しいでしょうか。」


「うん、いいよ、やっぱり、今、頼んだ物と関係が有るんだなぁ~。」


「はい、その通りですよ、入り口を広げると言っても、大量の岩石が海の中に落ちますので。」


「うん、分かった、じゃ~、あんちゃん、出来たら連絡するよ。」


「頼みましたよ。」


「うん、任せなって。」


 その後、げんたと別れた、源三郎は、久し振りに、父で有る、ご家老様の部屋に。


「父上。」


「源三郎か、久し振りだなぁ~、わしも、他の者達の話を聴いたのだが、思った以上に順調に進ん


で要る様だが。」


「はい、私も、最初は、一体、どの様になるのかと不安でしたが。」


「だが、其れよりも、殿が、以前とは全く、別人の様になられ、わしも、驚いて要るんだ。」


「はい、私もです、殿は、他の者達にも積極的に話し掛けられております。


 特に、城下の者達は、其れは、もう、大変な驚き様で。」


「其れは、そうだろう、其れで、今後の事なのだが、今の洞窟が城まで貫通すれば、その後は、ど


の様に考えて要るのだ。」


「はい、今も、その事で、城下の石屋と、鍛冶屋に行った帰りです。」


「石屋と、鍛冶屋が工事に関係するのか。」


「はい、今の入り口は狭く、小舟だけが通れるのですが、その入り口を少し広くげ様と考え、広


くなれば、沖合から入り口が見えますので、入り口に蓋と言いますか、沖からは岩だけが見え、大


型の船が通る時には見えない様にし、入り口を広く出来ればと考え、石屋と、鍛冶屋へ相談に行っ


たんです。」


「ほ~、で。」


「はい、石屋と、鍛冶屋は協力してくれますので、大助かりです。」


 洞窟内に食料を備蓄すると言うのは、今の小舟では、大きく重い米俵は運べない、其れではと、


洞窟の入り口を広げる事を考え、源三郎が、考えた物が完成すれば、工事の為に必要な人員や道具


なども、大量に運び込む事が可能になると。


「では、工事に関する材料も、作業員も大量に運び込みが出来ると言うのだな。」


「はい。」


「では、聴くが、中川屋と、伊勢屋が買い付けに向かったと。」


「はい、其れで、家中の五十人が、表向きは護衛と言う話で、双方に、二十五名づつが付き、出立


しました。」


「だがなぁ~、源三郎、他国には知られぬ様にせねばならぬぞ。」


「はい、其れで、父上は、我が藩の両隣の方々とは。」


「うん、昔から知っておるが、其れが、何か。」


「ええ、実は、この頃ですが、余り見掛けぬ侍が居ると聞きましたので。」


 やはり、幕府は気付いたのだろうか、ご家老様も気掛かりになって来た。


「う~ん、若しやとは思うが、幕府の密偵やも知れぬから用心せねばならぬぞ。」


「はい、先程も、私が、帰る途中で見掛けましたが、その侍が幕府の者なのか、他国の者なのか、


其れが、分かりませぬので、知らぬ顔で通り過ぎましたが。」


「では、その者を見張る必要が有る、お前は、何か手を打って要るのか。」


「ええ、今、考えては要るのですが。」


「よし、源三郎、わしに任せて置け。」


「父上、やはり。」


「うん、その通りだ、こんな事も有るかと思ってなぁ~、わしも、城下には何度か行ったんだよ、


其処で、偶然と言うのか、古い友人に会ったんだ。」


「父上の古い友人と申されますと。」


「お前が、幼い頃、良く遊んでくれた、あの男だが、まぁ~、お前が知らぬとも良い、其れで、そ


の者の風体は分かるのか。」


「はい、城下では見られない編み笠を被っておりますので、直ぐに分かると思います。」


「よし、分かった、直ぐ手配する、其れとだが、中川屋と、伊勢屋が買い付けに行ったが、何人く


らいだ。」


「はい、両方とも、十数人で、番頭と、後は、手代だけですか。」


「その者達と、家中の者は。」


「はい、私も、中川屋と、伊勢屋を全面的に信頼したのでは有りません。


 今回の買い付け中に、番頭が、誰かと接触する可能性も考えらますので、特に、番頭には数人が


付かず、離れずにおり、私が、吉永様にお願いし、吉永様も、今回、同行して頂く家中の者達に詳


しくお話しをして頂いておると思います。」


「だが、手代達は。」


「番頭が、正か、自分は幕府の密偵などとは言えないだろうと思いますので。」


「うん、其れは確かに言える、では、その者達は帰ってくるまで、付き添っているのか。」


「はい、今回は、両方合わせますと、千五百両にもなる大金ですので、中川屋も、伊勢屋も、一応


は、喜んではおりました。」


「では、源三郎は、吉永に全てを任せたのか。」


「はい、吉永様は、家中では、評判の良い方で、全てを任せております。


 父上、其れと、先程の編み笠の侍ですが。」


「其れは、わしに任せろ、今から、書状を認め、城下に届けさせるから。」


「はい、若しも、幕府の密偵だとすれば。」


「う~ん、これは、難しいなぁ~、切り捨ても良いのだが、一体、何を調べて要るのか、其れを、


聴き出す事の方が大事だ。」


「父上、ですが、仮に隣の藩の者で有れば。」


「う~ん、其れが問題だ、切り捨てる事も出来ぬし、かと言って許す訳にも行かぬからなぁ~、源


三郎、お前ならば、どの様にするのだ。」


「はい、私ならば、その者と、一緒に、相手方の藩に参りますが。」


「何、乗り込むと言うのか。」


「はい、私で有れば、ですが、相手方が、一体、何を探っておられるのか、其れが、どうしても、


知りたいのです。」


「だが、聴くところによると、両隣の藩は、我が藩以上に台所が苦しいと。」


「では、尚更です。」


「源三郎、話しは変わるが、あの様な洞窟は、両隣の藩の海岸にも有るのか。」


「私も、詳しくは知りませんが、漁師の元太の話では、一番、多く有るのは、我が藩で、両隣の藩


の海岸にも相当数が有るそうです。」


「海岸の方は、大丈夫なのか。」


「はい、今のところ、別に怪しげな者は見掛けないと聞いております。」


「そうか、分かった、源三郎、全ての工事が完了するまでは、気を抜くで無いぞ。」


「はい、承知、致しております。」


「まぁ~、苦しいだろが、受けた限りは、全うする事だ。」


「はい、父上、では、また。」


 源三郎は、城下で見掛けた編み笠の侍が気になるが、今は、父の言う通りで、工事を無事完了さ


せる事が、お家と、領民の為だと思い直すので有る。


 果たして、あの編み笠の侍は、一体、何者なのか、今は、何も分からないので有る。


 その頃、洞窟内では、大工と、九十人の男達が声を張り上げては要るが、仕事が有るだけでもと


喜びを噛み締めて要る。


「父ちゃん、このお鍋と、そのお鍋を洞窟に運んで、其れと、この籠には、食器とお箸が入って要


るからね。」


「有難うよ、浜のみんなにも、お昼だって言ってくれるか。」


 元太の奥さんと、他の漁師の奥さん達数人で、浜独特の雑炊を作り、洞窟に持って行く、大きな


お鍋は二個も有る。


 洞窟内では、みんなが、まだか、まだかと待っており、元太の小舟が洞窟に入ると。


「お~い、みんな、お昼だぞ~。」


 洞窟内には、百人以上が掘削工事などを行なっている。


「わぁ~、これは、美味しそうな雑炊だ。」


 百人以上の男達は、手を止め、食器とお箸を持って順番に並んでいる。


「う~ん、いい香りだ、元太さん、この雑炊は。」


「これですか、オラ達の浜で作る、漁師の雑炊で、魚も入ってるんですよ。」


「こりゃ~、嬉しいねぇ~。」


 一口入れると。


「う~ん、これは、本当に旨いよ、オレは、こんな旨い雑炊は初めて食べたよ。」


「皆さん、お代わりも出来ますのでね。」


 元太も、一緒に食べて要る。


「元太さん、お侍様達は、この雑炊は食べたんですか。」


「いいえ。」


「だったら、オレ達は、この世で、一番、旨い雑炊を、お侍様よりも、先に食べてるんだ。」


「源三郎様も、食べてないんですよ。」


「えっ、本当なんですか、でも、奥さん達も大変だなぁ~。」


「まぁ~、そんな事は気にしないでもいいですよ。」


 浜の雑炊は、男達にとっては最高の食べ物なのかも知れない。


 元太の家を建て替えて要る大工さん達も、美味しそうに食べて要る。


「お~い、みんな、食べ終わったら、少し休みを取って、また、工事に入るぜ。」


「お~、任せなって、こんなに旨い雑炊が食べられるんだったらなぁ~、オレは、毎日、工事に


入ってもいいぜ。」


 男達は、大声で笑った。


 その頃、朝、城下を出発した、中川屋と、伊勢屋の一行も、途中の川原で、昼食に入っている。


 両店の番頭達の動きには、今のところ、接触した者も居らず、不審な動きも無い。


 その後、洞窟内も暫くは、何事も起こらず、工事の方も順調に進んでいる。


 源三郎は、農村に出向き、今の状況を調べ、時々、農民の話を聴くと、今年のお米は思った以上


に豊作だと言うのだ。


 其れは、周辺の農村でも同じ様な話しで、野菜も、多く収穫出来ると、昨年から農村に頼んで置


いた、漬け物用の野菜は、今年は、大収穫が期待出来ると言うので有る。


 源三郎は、お城の地下に大きな隠し部屋と言うのか、倉庫が有るのを思い出した。


 農家では、漬け物の準備に入る頃のはずだと、急に、城へと戻るので有る。


「源三郎様、そんなに急いで、どちらに行かれるのでしょうか。」


 田中達だ。


「今、貴殿達は、急ぎの役目は有りますか。」


「いいえ、今は、別に何も有りませぬが。」


「では、お願いが有りますので、賄い処に行き、空の樽が、何個有るか、有れば、全部持って来て


下さい。」


「はい、分かりました。」


 田中達は、源三郎が、空の樽を、一体、何に使うのか考えるが、彼らに、源三郎の考えが分かる


はずも無い。


「あっ、そうです、ついでに、お塩もね。」


「はい。」


 と、返事をするだけだ。


「お~、これは広い、樽なら、一体、何個入れる事が出来るのだろうか。」


 源三郎は、お城の地下の隠し部屋が倉庫になって要るが、思った以上に大きい事を知ると、また、


外に出た。


「源三郎様。」


「空樽は、何個有りましたか。」


「はい、数えましたが、大中を合わせ、百個は有りましたが。」


「では、大きな樽から荷車に積んで下さい、大至急にです。」


「はい、承知しました。」


 田中達は、倉庫に行き、数台の荷車を引いて、賄い処に走って行く。


 賄い処では、丁度、家臣達が昼食を取っていた。


「田中殿、一体、どうされたのですか。」


「はい、今、源三郎様の指示で、空樽を全て持って来いと。」


「空樽って、一体、何個有るのですか。」


「はい、百個以上は有ります。」


「えっ、其れを、三人で、其れは、無理だ、我々も、食事が終わり次第、お手伝いをしますので、


暫く、お待ち下さいね。」


「有難う、御座います、我々、三人では百個以上の樽を、だけど、一体、何処に持って行くのだろ


うかなぁ~、広一郎、お主は聞いたのか。」


「いいや、何も。」


「じゃ~、一体、何処に持って行くんだろう。」


「直二郎、そんな事より、早く樽を積み、其れから、源三郎様に聞けばよいのではないのか。」

 

 農家では、家族が食べられる分量だけは、毎年、漬け込み、その樽は有る、だが、今年は違う、


各農村でも、一体、何樽分の野菜が収穫出来るのかさえも分からない。


「源三郎様、丁度、賄い処で、食事中に方々が居られ、食事が終わり次第、お手伝い下さると。」


「そうですか、大変、助かりますねぇ~。」


「はい、其れで、空樽は、何処に運ぶのですか。」


「全部、各農村に運びますので。」


「はい、分かりました。」


 田中達は、一台の荷車に空樽を山積みにして、源三郎の後を付いて行く。


「源三郎様の指示で、この空樽を、一体、何に使われるのですか。」


「お漬物を作る為に、野菜を漬け込むのです。」


「先程、お塩を申されましたが、賄い処には、必要な分量だけが有るのですと、吉田様が、申され


ておられました。」


「そうですか、分かりました、では、鈴木殿、伊勢屋に行って、お塩を頼んで下さい。」


「はい、其れで、どちらに持って行けば、宜しいのでしょうか。」


「そうですねぇ~、一度、お城に届ける様にと。」


「はい、其れと分量は、多い方がよろしいですねぇ~。」


「はい、残れば、農村で使いますのでね。」


「はい、承知しました。」


 鈴木は、大急ぎで、城下の伊勢屋に向かい、その賄い処で、食事を終えた、五十人が、荷車に空


樽を乗せ、源三郎の指示で、全ての農村に空樽を届けた。


 寒くなる頃には、各農村では、大量の野菜の漬け込み作業が始まるだろう。


 一方、浜では、元太と、他の漁師達の家の建て替えが、これも、大急ぎで進められている。


 元太夫婦が、新しい家に入って驚いた。


「ねぇ~、あんた、前の家よりも大きいし、今度は、私達の部屋も、子供の部屋も有るよ、其れに、


台所だって、前よりも大きいよ。」


「うん、オラも、驚いてるんだ、源三郎様は、あの人達の家を建てる前に、オラ達の家を建てて下


さったんだ。」


「じゃ~、何よ、あの人達の家も建てるって事はよ、この浜に住むのかねぇ~。」


「其れは、オラも分からないよ、だけど、あんなに多くのお米や、乾物類を届けたって言う事と、


オラには、1俵のお米が何日で、無くなるのか調べる様にって言われたんだ。」


「でも、此処の工事が終われば、また、他の所に行くんだろうねぇ~。」


「そんな事、オラが、知る訳が無いよ、オラも、今度、源三郎様が来られた時に聴こうと思ってる


んだ。」


「うん、其れが、いいと思うのよ、だって、他の奥さん達も知りたいって言ってたから。」


「うん、分かったよ。」


 其れから、数日が経った日の午後。


「あの~、源三郎様って、言われる、お侍様は。」


「はい、どうぞ、そちらから入って、左の大きな建物に居られますよ。」


 大手門に、石屋と、鍛冶屋が、荷車に何やら積んで、源三郎に会いたいと来たので有る。


 源三郎が、居る部屋は、何時でも、開放されている。


「あの~、源三郎様は、えっ。」


 二人は声を上げた、其処に居る侍達は、全員が農民の着物で仕事をしている。


「やぁ~、これは、石屋さんに、鍛冶屋さん、今日は。」


「源三郎様、皆様は、お侍様ですよねぇ~。」


「ええ、そうですが、何か。」

「いゃ~、驚きましたよ、皆さんのお姿に。」


「あ~、この着物ですか、我々の仕事着ですよ。」


「なんで、そんな着物を着てられるんですか。」


 石屋が、疑問に思うのも無理は無い、城下に来る姿と、余りにも違う為なのだ。


「実はねぇ~、この作業着が以外と、動きやすいので、登城する時は、全員が皆さんの知っておら


れる侍姿ですがね、この部屋に入ると、全員が着替えるのですよ。」


「でも、わしらには、理解が出来ませんが、其れよりも、源三郎様、見て頂きたいんですよ。」


「はい、分かりました。」


「外の荷車に載せて有りますので。」


 源三郎と、石屋、鍛冶屋が外に出ると、中に居た家臣達も出て来た。


「源三郎様、先日、言われました、物なんですが、大工さん達と打ち合わせをして、こんな形に


なったんですが。」


 石屋と、鍛冶屋が被せて有る寧ろを取ると。


「お~。」


 家臣達からは、驚きの声が上がった。


「これですか、私の考えた通りの物ですねぇ~。」


「其れは、良かったです、安心しました。」


「源三郎殿、これは、一体、何に使われるのですか。」


 家臣達が、聴くのも当たり前で、其れだけ見ただけでは、一体、何に使うのかも分からない。


「これはねぇ~。」


 源三郎は、家臣達に説明すると。


「では、あの入り口を広げるのですか。」


「はい、今は、小舟だけですがね、同じ小舟でも、多くの荷物を積んでも通過出来れば、洞窟内の


工事も進むのでは無いかと思ったのです。」


「う~ん、そうか、確かに、あの入り口は、狭いからねぇ~、其れで、厚い板に岩を付けたのです


か、まぁ~、其れにしても見事な物ですねぇ~。」


「源三郎殿は、我々とは違い、次から次へと色々な事を考えられるので、今度も、石屋さんも、鍛


冶屋さんも大変だったでしょう。」


「はい、最初は、一体、何を言っておられるのかも、全く、分かりませんでしたので。」


「そうだと思いますよ、まぁ~、お二人とも大変でしょうが、源三郎殿の頼みは、我が藩の領民の


生活が懸かっておりますのでねぇ~。」


 家臣は、其れと無く、石屋と、鍛冶屋の両名を引き込もうと考えて要る。


「はい、先日も、お話しを伺い、わしらに出来る事なら協力しようと、二人で決めまして。」


「そうですか、源三郎殿、良かったですなぁ~。」


「はい、私も、大変、有り難いお話しで、今回は、大変なご無理をお願いし、誠に、申し訳、御座


いませんでした。」


 源三郎が、頭を下げると。


「源三郎様、わしらの様な者に頭は下げないで下さい。」


「えっ、何故ですか、私は、素直な気持ちで、お二人にお礼を申し上げて要るのですよ、それに、


私は、相手の方が、農民さんや、漁師さんでも、どなたに対しても区別はしておりませんので。」


「お二人さん、源三郎殿は、この様な人物で、げんたさんと言う子供にでも、頭を下げられる人で、


本当は、我々も、見習わなければならないのですが、其れが、中々、難しいのですよ、ですので、


言葉だけでもと心掛けようと思って要るのです。」


「はい、よ~く、分かりました、源三郎様、其れで、何時頃行かれるのですか、わしらも行きます


ので。」


「其れは、有り難いですねぇ~、早速ですが、明日、明け六つには、此処を出ようと。」


「はい、分かりました、わしらの道具も、荷車に載せて有りますので。」


「はい、では、大切に保管して置きます。」


「では、わしらは、これで。」


 石屋と、鍛冶屋は帰った。


「源三郎殿、我々も、一緒に参ります。」


「はい、宜しく、お願いします。」


 そして、明くる日の早朝、明け六つには、石屋と、鍛冶屋、其れに、家臣達も城を発ち、浜へと


向かった。


「源三郎殿、これを取り付けると、工事の進み具合も変わって行きますねぇ~。」


「はい、私も、その様になる事を望んでおります。」


 源三郎が、城を出た頃、浜の漁師達の家の建て替えも進んでおり。


「なぁ~、元太、オラ達、本当にこんな家に住んでもいいのかなぁ~。」


「まぁ~、源三郎様の言い付けだからなぁ~、仕方が無いよ。」


 大工達も、残り数軒だけとなった。


「元太、オラ達、漁に出るよ。」


「えっ、漁って。」


「うん、大工さん達や、洞窟で工事に入ってる人達にも、新しい魚を食べて貰おうと思って。」


「うん、其れはいい考えだ、じゃ~、大漁を祈ってるよ。」


「まぁ~、久し振りの漁だから、大漁は間違いは無いと思うけれどなぁ~。」


「オラも、本当は、漁に出たいんだけど。」


「元太、そんな事心配するなよ、オラ達の為にやってくれてるって、みんなも分かってるんだ。」


「うん、有難う、じゃ~、頼むよ。」


「あいよ、任せろ。」


 漁師達もだが、大工や、洞窟内で工事に入っている者達にも、新鮮な魚を食べさせたいと、久し


振りに沖へ向かうので有る。


 浜の奥さん達も、毎日、雑炊ばかりでは飽きてくるだろうと、色々な献立を考え、男達の胃袋を


満足させたいと、奮闘して要る。


 数十軒有った、漁師達の家は取り壊され、その廃材の殆どが洞窟内のかがり火にや、松明の材料


として使われ、浜にも、そろそろ、寒さが身に応える時期になって来た。

 洞窟の中は、以外にも暖かく、かがり火や松明が多く点けられている事もだが、洞窟の中は風は


通らずで、其れに、入り口が狭い事も理由の一つで有る。


 だが、源三郎は、その入り口を広げ様と考えて要る、荷車、数台に載せられた物と、石屋と、鍛


冶屋の道具で重く、家臣達も少し当てが外れた様子だ。


「源三郎様、わしらは、現場を知りませんのですが、その入り口の上ですが、頑丈な岩が有るんで


しょうか。」


「はい、下から、そうですねぇ~、一番、上までは、六軒、いや、七軒かなぁ~、其れくらいまで


は巨岩ですから。」


「では、別に問題は無いですねぇ~。」


 石屋は、どの様な方法を考えて要るのだろうか。


「石屋さん、どの様な方法を考えておられるのですか。」


「そうですねぇ~、岩に穴を開けようと考えて要るのですが。」


「えっ、岩に穴を開けるって。」


「ええ、その方法が、まぁ~、一番、簡単なんですよ。」


 岩に穴を開けるとは、そんな簡単に開けれるものなのか。


「岩に穴を開けるって、そんな簡単に開くものですか。」


「いゃ~、其れは、簡単にできる事では無いですよ、ただ、他に方法が無いので。」


「私は、何も知りませんので、教えて頂きたいのですが、仮に、上から吊るすのは無理でなので


しょうか。」


「源三郎様、六軒も有る高い所から吊るす方が、もっと、難しいですよ。」


「何故、何ですか。」


「仮に、吊るすとしても、上の岩石に穴を開ける事になるんですよ、同じ穴を開けるんだったら、


入り口に近い方が楽なんですよ。」


 源三郎は、まだ、理解が出来ていない。


「私は、上で穴を開ける方が楽な様にも思えるんですが。」


「まぁ~、これだから素人は恐ろしんですよ、源三郎様、確かに、岩に穴を開けるだけなら、上の


方が楽ですよ、でも、この物を見て下さい、数十個の岩と、厚さが一寸の板と合わせると、まぁ~、


どんなに重いか分かりますか、六軒も、長い鉄の棒で吊るすとなったら、強い風が吹けば、これ全


体が揺れるんですよ、其れが、毎日、数十、数百と、岩に擦れると、鍛冶屋が苦労して作った鉄の


棒でも、まぁ~、簡単に擦り切れるてしまうんです。」


「あっ、そうか、私も、今、やっと分かってきましたよ、海岸ですから、年中、強い風が吹くと考


え、出来るだけ短い棒で吊るすんですね。」


「やっと、分かって頂けましたか、其れに、穴を開けるのは素人じゃ~、無理なんで、わしが、岩


に穴を開け、このおやじが作った、特製の鉄棒で吊るす、まぁ~、わしらに任せて下さいよ。」


 石屋の言う通りかも知れない、何も、知らない者が、余計な口を出す事は止めるべきだと、この


時、源三郎は、思った。


「源三郎様、わしらにも意地が有りますよ、だって、引き受けた以上、今更、出来ませんって、言


える訳が無いですからねぇ~。」


「源三郎様、其れに、オレ達は、ガキの頃からの付き合いなんで、まぁ~、この仕事は、誰にでも


出来る仕事では無いんですよ。」


 やはり、源三郎が、思った通りで、二人は、お互い、全く、違う仕事をしている様だが、実のと


ころ、意外にも関係の深い仕事なのだ。


 鍛冶屋が鍛えたと言う鉄の棒は、鋼になって要る、太さも相当な物で、板も厚みは一寸以上有り、


これ程にも、頑丈で、重みも有る物を、一体、どんな方法で、吊るすのだ、源三郎もだが、家臣達


も興味を持って要る。


「元太、あれは、源三郎様じゃないのか。」


「うん、間違いないよ、其れに、大勢のお侍様も一緒だ。」


 元太が、大きく手を振ると、源三郎も、大きく手を振った。


「なぁ~、何か、重そうな物を載せた荷車も一緒だ、一体、何を持って来たんだろうかなぁ~。」


「オラには、分からないよ。」


「やぁ~、元太さん。」


「源三郎様、其れに、大勢のお侍様までも、一体、何が有ったんですか。」


 元太は、見慣れぬ、二人と、荷車を見ている。


「元太さん、まぁ~、この人達に、これをね、作って頂いたのですよ。」


「源三郎様、これは、一体、何ですか。」


「これはねぇ~、入り口に取り付けるんですよ。」


「えっ、入り口に取り付けるって、一体、何の為にですか。」


「まぁ~、その話は後にしてですねぇ~、元太さん、何時もの小舟では無く、皆さん、使われてい


ます、舟は有りますか。」


「ええ、有りますけど。」


「じゃ~、その舟を出して欲しいんですよ。」


「はい、分かりました。」


 元太は、何時もの小舟では無い、漁師が漁に使う舟を用意し。


「では、石屋さんと、鍛冶屋さんも、一緒に乗って下さい。


 元太は、首を傾げながらも、源三郎達を乗せ、舟を入り口まで漕いで行く。


「元太さん、入り口の手前で、止めて下さいね。」


「はい。」


 元太は、見事な舵裁きで、舟を止めた。


「がんちゃん、いいか。」


「よし、此処だ。」


 源三郎は、印を要れた所で、意味が理解出来た。


「元太さん、一度、戻って頂けますか。」


「はい。」


 元太の漕ぐ舟が浜に着くと。


「おやじ、鏨は。」


「お~、これが、一番、太くて長い鏨だ。」


 鍛冶屋は、数十本もの鏨を新しく作っていた。


「よ~し、行くぜ。」


「元太さん、申し訳無いですが、今から、あの岩に穴を開けたいんで、もう一度、舟を出して欲し


いんですが。」


 「はい、分かりました、じゃ~、この浜でも、腕のいい、漁師がいますので、お~い、正一、来


てくれよ。」


 正一と言う漁師は、若いが、舟の操りは、この浜でも一番と評判の漁師で有る。


「正一、済まないが、このお二人を舟に乗せて、入り口に行ってくれ、其れで、その場に止まって


欲しいんだ、後は、お二人の言う通りにして欲しいんだ。」


「分かった、じゃ~、行きますか。」


「申し訳有りませんが、何か被り物を、上から、石が落ちますので。」


「では、私の、笠を使って下さい。」


 源三郎が、使っている笠を渡すと。


「有難う、御座います、では、行って来ます。」


「皆さん、気を付けて下さいね。」


 正一の操る舟は入り口に向かった。


「源三郎様、一体、何が始まるんですか。」


「元太さん達が、何時も、ご苦労されている小舟をですねぇ~、今、乗って行かれた舟が入れる様


にと、入り口を広くするんですがね、広げた入り口が見えない様にと、蓋を付けるんですよ。」


「えっ、入り口が見えない様にって。」


「ええ、今の入り口は、沖からは見えませんが、広げると、沖から見えると思いますので。」


「其れは、分かりますが、蓋をすれば、どうして、中に入るんですか。」


「其れを、あの人達に作って頂いのです。」


 元太は、入り口に蓋をすれば、入れないと、其れに、荷車に載っている物だが、分厚い板に加工


された、岩が、鉄の棒で、しっかりと固定されている。


「まぁ~、元太さん、あの人達に任せて置きましょうか、皆様、申し訳有りませんが、荷車から降


ろして頂きたいのです。」


 家臣達、十数人掛かりで降ろした。


「う~ん、これは、相当な重さですよ。」


「うん、確かに重いですよ、ですが、これを入り口に取り付ける時には大勢が要るなぁ~。」


 荷車から降ろすだけでも、大変で、其れを舟に載せ、入り口の上に取り付けるには、もっと、大


変だと、家臣達も思って要る。


 十数艘の舟が、浜から、源三郎達を乗せ、洞窟の入り口に向かった。


「お~、何と。」


 石屋が、岩の目印した所に鏨を打ち込んで要る。


「何と、あの人が言った、穴を開けると言う意味が分かったよ、二か所に穴を開け、そこから、あ


の物を吊り下げるんだ。」


 家臣達も驚いて要る、だが、何時までも見て要る訳にはいかない。


 何時、大型の船が沖を通るかも知れない。


「皆様、早めに浜に戻って下さいね、何時、沖に大型船が通るか分かりませんので。」


 其れからは、十数艘の舟が、浜へと次々と戻って行く。


「あんた、皆さんの食事は。」


「奥さん、我々は、現場を見ただけですので、何も要りませんですよ。」


「だって、お腹が。」


「お~い、元太。」


 漁に行った数人が戻って来た。


「どうしたんだ。」


「其れがなぁ~、この沖で、直ぐに網を入れたんだけど、まぁ~、見てくれよ。」


「わぁ~、これは、凄いじゃないかぁ~。」


 数艘の小舟には、何と言う事だ、舟から溢れんばかりの小魚が獲れたでは無いか。


「こんなにも獲れたのか。」


「うん、そうなんだ、あんなに短いのによ~。」


「こんなに大漁も久し振りだなぁ~、なぁ~、元太、これ全部を、浜では食べれないよ。」


「うん、そうだ、源三郎様、持って帰って下さいよ。」


「えっ、ですが。」


「源三郎様、浜の全員と、洞窟の人達でも食べきれませんから。」


「元太、鰯を干して、持って行けばいいんだ。」


「そうか、源三郎様、浜で干して、オラが持って行きますよ。」


「源三郎殿、有り難く、頂く事に。」


「元太、あれは。」


 農民達が、浜に向かって来る。


「あれは、農民さんの様ですねぇ~。」


「何か、有ったんですかねぇ~。」


「源三郎様。」


「これは、皆さん、一体、どうされたんですか。」


「いゃ~、其れが、オラ達の畑で、獲れた野菜をね、皆さんにと思って持って来たんですよ。」


「凄い量ですよ。」


「じゃ~、オラ達が獲って来た小魚を持って帰って下さいよ。」


「えっ、魚ですか。」


「今、浜に着いたばかりで、余りにも大漁すぎてねぇ~。」


「わぁ~、本当だぁ~、これは物凄いですねぇ~、オラ達も長い事、獲れたての魚は食べて無かっ


たんで、嬉しいですよ。」


 漁師と、農民達が、まるで、物々交換の様で、お互い笑顔になって要る。


「かあちゃん、何時もより大量だけど。」


「うん、みんなも喜ぶよ、有難う。


 農民も、大量の魚を貰い、喜んで要る、この場面だけを見ていると、本当に藩が貧しいのかとも


思える光景で有る。


「じゃ~、元太さん、我々は戻りますので、後の事は、よろしく、お願いします。」


「元太、沖に大きな船だぞ~。」


「皆さん、早く、隠れて下さい。」


 家臣達は、一斉に、家の裏手に身を隠し、その後、暫くすると。


「もう、大丈夫ですよ、船は、見えなくなりましたので。」


「皆様、また、何時、大型船が通るやも知れませんので、急ぎ、戻りましょう。」


 源三郎達は、大急ぎで、浜を後にするが、浜に来た時、帰りはのんびりと歩いて行けると思って


いたのだが。


「源三郎様。」


 前から、家臣の一人が走って来る。


「何だ、お城で、何かが起きたのか。」


 家臣達は、一瞬、驚きの表情を見せた。


「はぁ~、はぁ~。」


 と、息を切らさせている。


「一体、何が有ったのですか。」


「はい、ご家老様が、大至急、お城に帰る様にと。」


「えっ、父上が。」


 源三郎は、悪く考えた、あの怪しい侍は、やはり、幕府の者なのか。


「承知、致しました。」


 源三郎は、大急ぎで、城へと走って行く。


 その頃、城では、ご家老様が対応している。


「うん、分かったが、其れに、間違いは無いのか。」

「はい、私の、手の者が後をつけ、入るのを確認しております。」


「だが、一体、何の為に。」


「ご家老様、其れとは別に、一人おりましたので、今、見張らせております。」


「何、まだ、居るのか。」


「はい、でも、この侍は、どうやら、別の。」


「では。」


 暫くして。


「父上。」


「源三郎か、入れ。」


「はい、一体、何が、起きたのでしょうか。」


「うん、実は。」


 ご家老様は、源三郎に話すと。


「では、幕府の密偵では無かったのですか。」


「うん、一人はなぁ~。」


「えっ、では、まだ、居るのですか。」


「うん、そうらしいんだ、今、見張りを付けてはいるが、どうやら。」


「ですが、何故ですか。」


「う~ん、わしも、其れがわからんのだ。」


「でも、浜には、誰かが来たと様子は有りませんが。」


 源三郎は、一人だと思っていたのだが、更に、もう一人が要るらしいと、家老は言う。


「源三郎ならば、どの様に考えるのだ。」


「私も、今、急に聴きましたので、ですが、他から聴いた話しですが、この両方は、我らの藩以上


に苦しいと。」


「ですが、一体、どの様な目的で、我が藩の城下に入り、何を調べているのでしょうか。」


 源三郎は、どの様な目的で調べているのか知りたいのだろうが。

「うん、わしも、其れが知りたいのだ。」


「其れで、今、見張りを付けて要ると聞きましたが。」


「その者が、何処に行くのか、分かれば、う~ん。」


「ご家老様、大手門に。」


「何だ、大手門に、誰か来たのか。」


「ご家老様、私の手の者では。」


「よし、分かった、直ぐに行くと。」


「はい、承知、致しました。」


「源三郎、行って聞いてくれ、わしは、殿に、ご報告に参るから。」


「はい、では。」


 源三郎と、ご家老様が手配した、町の者と、一緒に大手門へと急ぐので有る。


「あっ、親分。」


「で、どうだったんだ。」


「はい、やはり、入りましたよ、親分の言った通りです。」


「源三郎様、今、お聞きの通りで、御座います。


 お二人は、両隣の藩のお侍様で、御座います。」


「分かりました、大変だったでしょうが、今後も、暫く見張りの方を、宜しく、お願いします。」


「はい、分かりました、では、オレ達は、此処で、失礼しますので。」


 この二人は、十手持ちでも無い、ご家老様が、城下に行った時、知り合った者達で有る。


「だが、一体、何を、調べているのだ。」


 源三郎は、考えるが、今は、何も分からない。


 ただ、言える事は、この両藩は、源三郎の野洲藩よりも、台所が苦しい事は間違いは無い。






       

          



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