第 3 話。 日本で最初の、いや。
源三郎と、げんたは東門を出、海岸へと向かうので有る。
「げんたさんは、どの様の物でも、作れるのですか。」
「うん、お客さんが、何を、欲しいのか大体分かるんだ、其れでね、お客さんの話を聴いて、頭の
中で、絵を書くんだ。」
「頭の中で、絵を書くとは、素晴らしいですねぇ~。」
「其れをね、紙に書くんだ。」
「へぇ~、じゃ~、お客さんは、何と言われのですか。」
「うん、本当に、欲しい物を言ってくれるんだ、其れからが、本当の仕事なんだ。」
「では、私の言ってる事は分かりますか。」
「うん、大体は分かるよ、だけど、そんな物が何で要るの。」
「分かりましたよ、では、本当の事を話ますね、幕府は、我が藩が作物を隠していると思って要る
のですよ。」
「えっ、作物を隠して要るって、其れは、本当なの。」
「其れは、絶対に有りませんよ。」
「でも、無いのに、何で、隠してるって言ってくるの。」
「幕府はねぇ~、半分出せって言ってきたのですよ。」
「えっ、半分って、何で半分なの。」
「そうですねぇ~、例えばですが、げんたさんの作った物が、一個、売れたと考えて下さいね。」
「うん。」
「でも、幕府は、二個は、売れたはずだから、二個売れた分の、半分をを出せって、言って来てる
のですよ。」
「そんなの無理だって、一個だけでしょう、売れたのは、でも、何で幕府は、二個も売れたって言
うんだ。」
「其れはねぇ~、城下に、幕府の密偵がおりましてね、その密偵が、嘘の報告をするのです。」
「じゃ~、その密偵を捕まえればいいのに。」
「げんたさん、その密偵って、我々にも分からないのですよ、其れでね、殿様も、困っておられる
ましてね。」
「じゃ~、源三郎様は、殿様から言われたの。」
「はい、その通りです、其れで、幕府が、我々の藩を、其処まで、疑うので有れば、本当に隠して
見ようかなって考えましてね。」
「でも、何で、海岸に行くの。」
「この付近の海岸にはねぇ~、地元の漁師さんだけが知って要る洞窟が有りましてね。」
「えっ、本当なの。」
「ええ、本当ですよ、其れでね、同じ隠すのならば、幕府が探しても、絶対見つからない場所を探
しておりましてね、其れがね、今から行く海岸の洞窟なのですよ。」
「ふ~ん、だけど、オレは、知らなかったよ、でも、その洞窟って大きいの。」
「ええ、其れは、もう、大変、大きいですよ、でもね、その洞窟は、今のままでは、何も隠す事が
出来ませんのでね、其れで、苦労して要るのです。」
げんたも知らないと言う洞窟が有ると言う、其れに、本当は、洞窟と言う物を見た事が無いのだ。
「源三郎様、洞窟って、海に有るの。」
「いいえ、海岸の岩が削られて出来たと、私は、思っているのですがね。」
「へぇ~、海岸の岩を、誰が削ったの。」
「いいえ、海に出来る、波で作られたと思いますよ。」
「源三郎様、オレが、子供だからって、嘘を言ってるんだ、水が、岩を削るなんて、そんなの大嘘
だよ。」
げんたが、嘘だと言うのも無理は無く、水が、岩を削るとは、誰も信じる事なで出来ない。
「ですがね、私は、本当だと思いますよ、其れにね、その様な洞窟が、その海岸付近には数十箇所
も有りますのでね、まぁ~、驚きますよ。」
「でも、源三郎様、海からだったら、洞窟は見えるんですか。」
げんたの疑問は当然の事で。
「うん、其れがね、少し離れた、海の上からでは、全く見えませんよ、目の前まで行けば、別です
けどね。」
「オレが、子供だからって、そんな話をするけれど、じゃ~、見えないところにどうして入るんだ
よ~。」
「其れなのですよ、引き潮の時にだけ、小舟で近づきますとね、二尺程の隙間が出来ますのでね、
その時にだけ、入る事が出来るのです。」
「ふ~ん。」
「げんたさん、洞窟ですがね、其れは、とっても大きいのですよ、奥行きがね、一町程も有ります
のでねぇ~。」
「へぇ~、オレ、そんなに大きな洞窟って、見た事も無いよ。」
「そろそろ、海が見える頃ですよ。」
城を出、半時も行けば海が見える。
「わぁ~、凄いや。」
「げんたさん、今日は、海が穏やかですから、引き潮になれば、洞窟に入れると思いますよ。」
海辺に近付くと、数人の漁師が来た。
「源三郎様、一体、今日は。」
「この人は、げんたさんと言いましてね、今回、私が、どうしても参加して頂きたいと願っており
ました人なのですよ。」
漁師達は不思議そうに見ている、こんな子供に洞窟の掘削は無理だ、では、一体、何をするんだ
と、言う様な顔をしている。
「源三郎様、げんたさんって人に、一体、何をさせるんですか、正か、掘削では。」
「いいえ、げんたさんには、私が、考えた物を作って頂くのです。」
「えっ、一体、何を作るんですか。」
「ええ、其れでね、今日、来たのですよ、私の説明不足で、げんたさん自身が、どの様な物なのか
分からないと言われましたのでね。」
「では、その物が出来ると、オラ達の仕事も変わってくるんですか。」
「はい、私は、その様に思っているのですがね、でも、その物が、果たして作れるのか、今は、分
かりませんのでね、一度、現場を見て頂き、其処で、お話しをすれば、分かって頂けると考えてお
りますので。」
「分かりました、では、今からでも行きましょうか、後、少しで、隙間が見える頃だと思いますの
で、オラ達も行く予定だったんです。」
「そうですか、では、一緒に参りましょうか。」
げんたは、海が珍しいのだろう、沖の方を見つめている。
「ねぇ~、源三郎様、オレよりも、海の方が高いけど、何で、此処まで来ないんだろうか。」
げんたの疑問が余りにも素朴なので、源三郎も返答に困っている。
漁師も、毎日、海を見ているが、今まで、その様な事を考えた事も無かった。
漁師達、数十人が、数十漕もの小舟に乗り込み、洞窟へと向かい、暫く進むと。
「わぁ~、こんなところに有るんだ。」
げんたも、一瞬驚くが、げんたも、頭を下げ、やがて、小舟は次々と洞窟へと入って行く。
小舟は、ゆっくりと進み、一番、奥に着いたが、今は、まだ、小舟が着ける場所が無く、奥には、
少しだが、小舟が着けるだけで、其れも、一漕が、限界だ。
「さぁ~、げんたさんも降りて下さいね。」
げんたは、小舟から勢い良く飛び降り、やはり、其処は子供だ、大人ではその様には行かない。
「此処ですよ、現場と言うのは。」
「源三郎様が言ったけど、本当に大きいんだね、あれ~、入ってきた入り口が見えないよ。」
「いゃ~、本当ですねぇ~。」
源三郎も、今まで、気付かなかった、其れは、漁師達も同じで、何時もは、全く気にも留めな
かった事で有る。
「オラも、今まで、そんな事を考えもしなかったですよ、源三郎様、何で見えないんですか。」
源三郎も、何故なのか、げんたの疑問に答えるだけの知識が無かったと言うのが現実で有る。
「げんたさん、私も、何故だか分かりませんねぇ~。」
「へぇ~、源三郎様でも知らない事が有るんだね。」
げんたは、何故か、含み笑いをした。
「源三郎様、其れで、オレに、何を作らせるんですか。」
「あ~、そうでしたね、げんたさん、此処を見て下さい、何が見えますか。」
「えっ、何が見えるかって、そんなの決まってるよ、水だ。」
「そうです、これが、海の水なのですがね、その下は見えますか。」
「そんなの無理だ、何も見えないよ。」
「げんたさん、私達はね、此処に、あの小舟よりも、大きな船を着けたいのですがね。」
「えっ、大きな船って、あの舟よりも大きな船を着けるって事なのか。」
「ええ、そうなのですがね、其れでね、漁師さんが言うには、大きな船を着けるので有れば、この
下の岩をきちんと並べなければ、船の底が岩に当たり、穴が開き、船が沈むと言われましてね。」
「でも、何で、この下に、岩が有るって分かったんだ。」
「あの~、源三郎様、この下は、岩が、ゴロゴロと有りますよ。」
「ええ、其れでね、その岩を取り除くのですよ。」
「でも、あんな大きな岩、潜らないと無理ですよ。」
「はい、勿論、其れも、私も、分かっておりますよ、其れでね、私が、思い付いたのが、何とかし
て、この岩を取り除きたいと思ってね、水の中で、長く潜れないかと思ったのですがね。」
「源三郎様、そんな無理な事出来ませんよ。」
「其れでね、げんたさんの知恵を借り、其れを作って欲しいのですが、げんたさん、どうでしょう
かねぇ~。」
源三郎が、考えた方法とは、潜水具なのだ、だが、誰も、其れは、無理だと言う。
げんたは、海の中で、息が出来る様にと、源三郎が、言った様な気がした。
其れは、今日の朝、源三郎が、書いた下手な絵を思い出した。
「ねぇ~、源三郎様が、朝、書いた絵だけど、あれは、オレに、頭に何かを被せて水の中に入れる
様に言ったの。」
やはり、げんたは、普通の子供では無い、幾ら、下手な絵でも、げんたの頭の中には、何を作る
んだと言うのが残っている。
「源三郎様、どうやって息をするんですか、息が出来ないと、死にますよ。」
「其れなのでしてね、息をする為には、何かが必要なのですがね。」
「う~ん、オレも今まで、こんな注文聞いた事が無いよ、だって、海の中で、息をするって、簡単
に言うけれど、う~ん、困ったなぁ~、なぁ~、源三郎様、この道具って、急ぐのか。」
「いいえ、其れは、げんたさんに任せますので。」
「オレも、今、考えて要るんだけど、今は、全然、分からないよ。」
源三郎も、無理は承知だと分かっている、だが、其れが出来なければ、水中での作業が出来ない。
岩が、どれだけ有るのかも分からないが、今は、げんたに頼る事だけが、問題解決の道なのだ、
源三郎は、自分に言い聞かせるので有る。
げんたは、何かをブツブツと言っている、今、頭の中で、絵を描き、其れを作っている最中で、
多少の時間は掛かるが、他の解決方法が見つかるまでは、何事も我慢なのだ。
だが、一番の問題は、息をする方法だ。
「う~ん。」
「げんたさん、帰りましょうか。」
「うん。」
げんたは、一生懸命、何かを考え始めて要る。
浜から帰る途中、げんたは、殆ど話す事も無く考えて要るのか、何も見えないのだろうか。
「げんたさん、大丈夫ですか。」
「・・・。」
返事が無い。
「げんたさん、もう直ぐ家ですよ。」
「うん。」
げんたは、浜から家に着くまで、この調子で、源三郎は、母親に挨拶を済ませ、自宅に戻った。
げんたの家には、大川屋から、夕食が届けられている。
「げんた、げんた。」
「うん。」
げんたは、一度、作り物を考えだすと、母親の声も聞こえない程にも熱中する。
「げんた、ご飯だよ、聞こえてるのか。」
「えっ、ご飯。」
やっと、正気に戻ったのか。
「母ちゃん、えっ、オレ、何時、帰ったんだ。」
「何を言ってるのよ、源三郎様が、此処まで送って下さったのよ。」
「なぁ~、母ちゃん、このご飯、どうしたんだ。」
「母ちゃんも知らないけど、今日から、毎日、ご飯を作って持って来てくれるんだって。」
「へぇ~、だったら、母ちゃんが、ご飯を作る事も無くなったのか。」
「う~ん、母ちゃんは分からないよ、まぁ~、其れよりも、食べようか。」
「うん。」
げんたは、初めて見る豪華な食事で。
「わぁ~、母ちゃん、これ、とっても美味しいよ。」
げんたは、目を丸くしている。
「あら~、本当だ、やっぱりねぇ~、旅籠で作るご飯は美味しいねぇ~、母ちゃんも、こんなのは
初めてだよ。」
母親も、満足そうに食べている。
「ねぇ~、げんた、今日、源三郎様と会って、何を話したんだ。」
「うん、其れよりも、母ちゃん、オレ、今日は、本当に驚いたよ、だって、お殿様が来たんだ。」
「えっ、本当なの、でも、今日、げんたが行く事、お殿様は知らないんだろう。」
「うん、源三郎様もね、驚いた顔をしてたんだ、でね、お殿様は、大手門の門番さんに、オレが、
来たら知らせろって言ってたんだって。」
「えっ、お殿様が。」
「うん、其れで、源三郎様も驚いてたんだ。」
「そりゃ~、誰だって驚くよ。」
「其れでね、お殿様が、オレの事を、お殿様直属のって言ったんだけど、オレ、子供だから、意味
が分からないんだ、其れで、後から、源三郎様に聞いたんだ、するとね、源三郎様は、げんたは、
誰からも命令は受けないって言われたんだけど。」
「えっ、じゃ~、げんたは、お殿様だけの命令を聴けば良いって事は、えって、わぁ~、これは、
大変な事になったよ。」
幾ら、町民でも知って要る事も有る、殿様直属ともなれば、例え、家老と言えども口出しは出来
ないので有る。
「其れで、源三郎は、何を作れって言ったの。」
「うん、其れなんだけど、オレを、別の場所に連れて行ったんだ。」
「別の場所って、お城の中の。」
「うん、其処はね、源三郎様だけのお部屋なんだって、其れに、綺麗な、お姉さんが居たよ、あっ、
そうだ、お姉さんが、母ちゃんにって、これを。」
げんたが、懐から出したのは、母親も、見た事の無い、美味しいそうなお菓子だ。
「げんた、一体、これは、何よ。」
「お菓子なんだ、もの凄く美味しいよ、母ちゃんも食べてよ。」
「うん、有り難いねぇ~。」
母親は、一口食べると。
「わぁ~、本当だ、母ちゃんも、こんなに美味しいお菓子って、初めだよ。」
母親の顔は、美味しさと、嬉しさで、大満足した顔で有る。
「じゃ~、その場所で聞いたのか。」
「うん、だけど、源三郎様の言ってる事が分からないんだ、其れで、絵を書いて言ったら、源三郎
様が、絵を書いたんだけど、これが、また、下手で、オレ、余計に分からなくなったんだ。」
「じゃ~、げんたは、何を、作っていいのか、余計に分からなくなったんだねぇ~。」
「うん、そうなんだ、だけどね、其れからの方が、もっと、大変だったんだぜ。」
「えっ、一体、何が大変だったんだ、母ちゃんにも教えてよ。」
「うん、オレって、海なんか知らなかったんだ、其れでね、源三郎様と、一緒に海岸に行く事に
なったんだ。」
「何で、海なんかに行くのよ。」
母親も、実は、海を全く知らない、一里も行けば、其処には海が有る、だが、子供の頃から海が、
有る事も知らなかった。
「母ちゃん、海って、本当に大きいんだぜ、だって、何も無いんだから。」
「へぇ~、海ってそんなに大きいのか、ふ~ん。」
「うん、オレも、あんなに大きいの初めて見たよ。」
げんたは、少しだが、自慢だ、母親よりも先に、海を見たからで有る。
「でも、海に行って、何をしたのよ。」
「うん、母ちゃん、今から話す事は、誰にも言ったら駄目なんだぜ。」
「えっ、何でよ、海が有るって知られると、何か不味い事でも有るのかねぇ~。」
「母ちゃん、海じゃないよ、海のね、近くに大きな洞窟が有るんだ、その洞窟の事が知られる事が
不味いんだって、源三郎様が、言ってたんだ。」
「大きな洞窟が他の人に知られると困るのか。」
「うん、そうなんだ、だって、その洞窟って、入り口が見えないんだぜ。」
「げんた、母ちゃんをからかうのか、入り口が無いのに、一体、どうやって中に入るんだよ、げん
たは、母ちゃんを馬鹿にするのか。」
母親が、怒るのも当たり前で、げんたも、初めは入り口が何処に有るのかもさえ分からなったの
だから、当然だと思った。
「母ちゃん、ごめんよ、オレは、別に、母ちゃんを馬鹿になんかしてないんだ、だって、オレも、
初めは入り口が無いのぬ、何処から入るんだって思ったんだから。」
「そりゃ~、そうだよ、だって、何処の家でも入り口は有るんだよ、母ちゃんも、入り口が無い家
なんて聞いた事も無いよ。」
「うん、オレもだよ、だけどね、母ちゃん、漁師さんは凄いよ、だって、入り口が無いと思ってた
んだけど、段々と行くとね、隙間が見えてきたんだ。」
「へぇ~、だけど、げんた、隙間って狭いんだよ、そんなところから入れるのか。」
「うん、オレも、急に言われたんだ、頭を下げろって。」
「そんなに低い処なのか。」
「うん、そうなんだ、だけど、母ちゃん、海って、凄いんだぜ。」
「何が、凄いのよ。」
「だって、オレが、向こうの方を見ると、何も見えないなんだぜ、其れと、海の方が高いのに、水
が来ないんだ。」
「母ちゃんは、げんたの言ってる事がまるっきり分からないよ、だって、海が高いって。」
「うん、其れで、源三郎様に聞いたんだけど、源三郎様も知らないって。」
「そりゃ~、そうだろうよ、源三郎様だって、知らない事も有るんだって事なのよ、其れよりも、
げんた、その洞窟って、入ってどうだったの。」
母親も、洞窟を見た事も無ければ、聴いた事も無いので、少し興味が沸いてきたのだろう。
「うん、洞窟の中って、松明がともして有るし、かがり火も有るから、少し薄暗いんだ、でもね、
凄~く、大きいんだよ、其れでね、一番、奥に行ってから降りたんだ。」
「へぇ~、大きいって、一体、どれくらいの大きさなのよ。」
「うん、源三郎様に聞いたんだけど、一町は有るって。」
「へぇ~、一町もねぇ~、だけど、そんな大きな洞窟で、何を作れって言うのよ、源三郎様は。」
母親は、洞窟の大きさよりも、洞窟の中で、一体、何を作るのか、其れが心配なのだ。
「うん、だけど、オレが、話しても、母ちゃんに分かるかなぁ~。」
「え~、そんなに難しい事なのか。」
「うん、源三郎様はね、水の中で仕事をするから、息が出来る様にして欲しいって。」
「まぁ~、何て、馬鹿な事を言うのかねぇ~、源三郎様は。」
母親も、漁師と同じで、水の中で、息が出来る様にして欲しいと、だが、その様な無茶な話でも、
げんたは真剣に考えて要る。
其れは、日本で、潜水用具を考えろ言う話だ。
「母ちゃん、オレ、今、本気で考えて要るんだ、だって、お殿様が、オレが来るのを待ってたんだ、
其れに、源三郎様だって、げんたにしか作れないって。」
「うん、其れは、母ちゃんも、分かるけど、でも、水の中で息が出来る様にって言ってるけれど、
げんた、そんな物を本当に作れるのかい。」
「母ちゃん、オレだって、そんな事分からないよ、けど、お殿様も、本当に困ってると思うんだ、
お殿様が、オレ、見たいな子供に頼むって、大変な事だと思ったんだ。」
「う~ん、母ちゃんも、げんたの気持ちは分かるけど、う~ん、だけどねぇ~。」
母親は、全く想像出来ない品物で、だが、既にげんたの頭の中は、グルグルと回転を始めた。
果たして、その様な物が作れるのだろうか、出来るとすれば、何時頃完成するのだ。
今のげんたには、全く予想も出来ない程、困難な作業となるのは間違いは無い。
一方、お城では。
「のぉ~、源三郎、げんたに、一体、何を作らせるのじゃ、余にも話を聴かせて欲しいのじゃ。」
殿様も、源三郎が、げんたに作らせ様とした物が、どの様な物なのか、全く知らないので有る。
「はい、殿、私も、頭で考えただけで、げんたに、果たして、本当に作れるのかも分からないので、御座
います。」
「うん、其れは、余も分かる、じゃが、何故に、げんたで無ければならないのじゃ。」
「はい、げんたは子供です、ですが、大人では、全く理解不能な事でも、子供は柔軟な考え方が出
来るのだと、私は、考えました。
確かに、大人でも、柔軟な考え方を持つ人はおりますが、げんたの頭の中は、普通の子供以上に
柔らかく、私の無理な頼みでも、帰る頃には、一生懸命考えておりました。」
「うん、分かった、で、一体、何を作らせるのじゃ。」
「はい、簡単に申せば、海の中で、息が出来る様にと。」
「何じゃと、海の中で、息が出来る様にじゃと、源三郎、その方は、その様な物が、何故に必要な
のじゃ、余は、全く理解が出来ぬぞ。」
「殿、若しもですが、何者かが、東側の空掘りを発見した時には、空井戸の出入り口は落盤させ、
出入りが出来ない様にしなければなりません。」
「うん、其れは、余も分かるぞ、だが、余は、何故、海の中で、息をする物が必要なのか、其れが、
知りたいじゃ。」
「はい、今、作業を行なって要るところは、小舟を着けるのも大変な苦労をするので、御座います。
漁師が、何人か潜ったのですが、一尺程で底に着くと言うのです。
小舟で、一尺と言えば、小舟に乗れるのは、2~3名が限界となります。
其れで、私は、もう少し底の岩を取り除けば、小舟に荷物も積み込む事も出来ると。」
「では、その為に、海の中に入り、岩石を取ると申すのか。」
「今の小舟では人も乗れませんので、荷物を積んだ小舟では、とても、着ける事が出来ないので、
御座います。」
「だが、一尺と言えば、人が立っても岩を取り除く事も出来るのではないのか。」
「はい、其れは、岩を取り除く為で有ればの話で、御座います。
私は、その場所に、今の舟よりも少し大きい船を接岸させたいのです。」
「何じゃと、今の舟より、大きな船を接岸させるとな。」
「はい、今は、洞窟を掘り進んでおりますが、近々、船を接岸させる為の工事に入る事も考えて
ますので。」
「源三郎、船を着ける事も出来ぬのか。」
「はい、左様で御座います、浜の様なところでは有りませんので、岩を海底に並べ、船が接岸出来
る様になれば、他の工事も、より、進むかと、存じております。」
「其れで、げんたに、海中で作業が出来る様にと頼んでおるのか。」
「はい、護岸工事で、岸壁が完成すれば、より、多くの人員と、物資も運び入れ工事が進むので、
御座います。
殿が、申されておられます、一尺と言うのは、数か所だけで、その数か所の岩に、船が当たれば、
船の底に穴が開き、例え、他の工事が終わったとしても、船の接岸は容易では、御座いませぬ。」
「よし、分かったぞ、では、げんたが作る、潜る為の物が完成すれば、他の工事も進むと申すの
じゃな。」
「はい、左様で、御座います。
其れと、先程、申しました様に、空井戸が使え無くなる事も考えねばなりませぬので。」
「若しやの時の事を考えたと、申すのじゃな。」
「はい、左様で、御座います。」
殿様も、やっと、理解が出来たのか、それは、別として、源三郎は、げんたが作る潜る道具が完
成する為に、別の工事を考えていた。
「のぉ~、源三郎、よ~く、考えて見たのじゃ、余は、その方が、げんたに作らせ様としておる、
潜る道具とは、一体、どの様な物なのじゃ。」
「私の説明では、良く分からないとは思いますが、簡単に申し上げますと、頭に、大きな器を被せ、
その中で、息が出来る様には出来ないかと考えたので、御座います。」
「何じゃと、その器と申し物は。」
「はい、漁師でも、海の中では息を止めますので。」
「うん、其れは、余にも分かる、じゃが、その様な物を作るとなればじゃ、簡単には行かぬぞ。」
「はい、殿の、ご見識の高さには、私も、驚くのですが、私は、簡単に出来るとは思っておりませ
ぬ、ですが、今後の為にも必要かと、存じております。」
殿様が、本当に理解したのでは無く、殿様自身が、理解出来たと思い込んで要るだけなのかも知
れない。
「源三郎、かと言ってじゃ、余り、げんたに負担を掛ける様な言動は慎めるのじゃぞ、余も、余り、
口出しはせぬからのぉ~。」
「はい、有り難き、幸せに御座います。」
殿様は、詰所を出、部屋へと戻って行く。
げんたからは、その後、二日経っても、三日、経っても連絡も無く、十日が過ぎた頃、源三郎の
詰所を訪れたいと、大手門で、源三郎の詰所に用事が有ると言えば、門番は、げんたの顔も覚えて
いるので、簡単に通してくれる。
「オレ、げんたと言います、源三郎様の詰所に用事が有って来たんですが。」
「げんた殿か、源三郎様も、先程、詰所に入られましたからね、入ってもよろしいですよ。」
「はい、有難う、御座います。」
げんたは、頭をぺこりと下げ、他の侍様も居る、詰所へと向かい。
「あの~、源三郎様は。」
「げんたさん、久し振りですねぇ~。」
源三郎は、げんたが持って来た物に気付き。
「げんたさん、行きましょうか。」
源三郎は、専用の部屋へと向かうが、げんたが持って来た物が、一体、何か分からないが、関係
した物で有る事に違いは無いと判断したので有る。
今、げんたが作った物を、他の者達に見せる事は出来ないと、源三郎は、あえて、品物を聴く事
もせず、部屋に入った。
「げんたさん、久し振りですが、どうされましたか。」
「うん、オレは、あの日から、毎日、毎日、考えたんだけど、今は、これ以上の物が浮かんで来な
いんだ。」
げんたは、持って来た物を取り出した、すると、其れは、深めの樽の様で、頭がすっぽりと入り、
肩まで入る。
「げんたさん、これは。」
「うん、オレが考えたんだ、深い桶だった、頭が全部入るんだ、其れで、下は、紐を通し、脇の下
を通し、腕のところで結ぶ様に、でも、源三郎様、この桶じゃ、下だけが見えるんだ、だけど、オ
レは、顔のじゃ無く、目の部分だけでも見える様にしたいんだ、だけど、無理なんだ。」
「げんたさん、では、目が見える様にしたいのですか。」
「だって、このままじゃ、前が見えないでしょう。」
「そうですねぇ~、何か、透けて見える物が有れば、う~ん、ですがねぇ~、私も、今、急なもの
で、何か有るのか分かりませんが、考えて見ますのでね。」
何と、げんたは、前から見える様に出来るので有ればと考え、このお城の中に、その様な物が有
るのか、其れだけは分からない。
「其れで、げんたさん、息の出来る方法は分かりましたでしょうか。」
「源三郎様、そんな事、一度に、何でも出来ないよ、だって、此処まで考えて作ったんだぜ、物事
には、順番ってものが有るんだからなぁ~。」
げんたの言う事が本当なのかも知れない、大人では、正かと思う、深い桶を逆さまにするとは考
えも付かない。
「源三郎様、オレは、今までだって、そうしてきたんだ、一つ出来てから、次にってね。」
「分かりました、私は、何も分からないので、申し訳有りません。」
だが、源三郎の考えた方法に一歩近付いたのも間違いは無い。
源三郎は、明くる日から、城中を探したが、げんたが言う透けて見える物、だが、何処を探して
も見付からず、有る時、殿様に会いに行くと、何と、赤い金魚が泳いでいるではないか。
「あっ、有った。」
源三郎は、思わず大声で叫んでしまった。
「源三郎、如何致しのじゃ、突然、大きな声を出して。」
「はい、有りました。」
「えっ、一体、何が有ったと申すのじゃ、余は、全く分からぬではないか。」
「はい、申し訳、御座いませぬ、実は、先日、げんたさんが桶を持って来られたのですが。」
「源三郎、一体、何を申しておるのじゃ、余には、源三郎の申しておる事が、全く、分からないで
はないか。」
源三郎だけが分かっている、その源三郎は、一体、何を見つけたのか分からないが、一人、興奮
している様に、殿様は、見えたので有る。
「源三郎、順序立てて申せ、余の分かる様にな。」
「はい、申し訳、御座いませぬ、実は、先日、げんたさんが参ったので、御座います。」
「其れは、先程も聞いたぞ。」
「はい、其れで、げんたさんの申すには、手に持った桶を被ったので、御座います。」
「源三郎、何事じゃ、桶などを被って。」
「はい、げんたさんが、桶を被ったのですが、前が見えないと申すので、御座います。」
「何を申しておるのじゃ、そちは、余を、馬鹿にしておるのか。」
「殿、げんたは、別に、桶が無くても良いと、ですが、この様な物を被ると、前が見えないと。」
「源三郎、其れは、当然の事じゃ。」
「はい、げんたは、目が見える様に、桶に、隙間を空け、其処に透けて見える物が要ると申したの
で、御座います。」
「何じゃと、目で、外が見える様になのか。」
「はい、その通りで、御座います。
其れで、私は、先日来、お城の中を探し回っていたので、御座いますが、一向に、その物が見当
たらず、殿ならば、ご存知ではと思い参りましたところ、げんたの言う透けて見える物が有ったので、
御座います。」
「源三郎、その透けて見える物とは、一体、どの様な物なのじゃ。」
「はい、殿、そちらの金魚の入った器で、御座います。」
「何、今、何と申したのじゃ、この金魚を入れた器じゃと、これは、ならぬ、ならぬぞ。」
「殿、ですが、その器が有れば、潜る為の道具が出来るので、御座いますよ。」
「何、この器がか、う~ん、これはのぉ~、叔父上から頂いた大切な物なのじゃぞ、う~ん。」
殿様は、唸り、金魚を入れた器が有れば、源三郎の言う、潜る道具が出来る、だが、かと言って、
殿様は、叔父上様から頂いた大切な器を、分かったと言って渡す事も出来ない。
一体、どうすればいいのだ。
「う~ん、源三郎、どうしてもこの器が必要なのか。」
「はい、申し訳、御座いませぬが、頂きとう、御座います。」
「源三郎、少し考えさせてはくれぬか、余は、直ぐには決断が出来ぬのじゃ。」
「はい、承知、致しました、では、失礼します。」
「うん。」
源三郎は、冷や汗が出た、普通ならば、その場にて、切腹を言い渡される程の覚悟をせねばなら
ぬ程の事を言ったので有る。
金魚を入れた器は、殿様が、幼い頃に、叔父上様頂いたと言う品物で、今日まで大切にしていた
物で、其れを、潜る道具に必要だから欲しいと言うので有る。
果たして、殿様は、どの様な返事を聴かせてくれるのか、直ぐには分からないが、数日の猶予が
必要だろうと、その頃、げんたも悩んでいる。
「げんた、げんた。」
「うん。」
何時もと同じ事が始まった、げんたは、考え事を始めると、何度、呼んでも生返事だけだ。
母親は、げんたの傍に行き。
「げんた。」
大きな声で呼んだ。
「えっ、母ちゃん、どうしたんだよ~、大きな声で。」
「何を言ってるのよ、何度も呼んだのに。」
「うん、ごめんよ。」
「いいよ、何時もの事だからね、其れで、もう出来たんだろう、あの何とか言う物が。」
「いや、其れが、まだなんだ。」
「えっ、だって、何日か前、源三郎様に見せて終わったんじゃなかったの。」
「うん、でも、あれは、作ったんじゃ無いんだ、ただ、見せただけなんだ。」
「ただ、見せたって、一体、何を見せたのよ~。」
「うん、母ちゃんが使ってる桶だよ。」
「えっ、桶って、水を入れる、あの桶の事なの。」
「うん、そうだよ。」
「で、源三郎様は、何て言ったの。」
「う~んって、考え込んだよ。」
「えっ、正か、げんた、これは出来ませんって言ったんじゃ。」
「オレが、そんな事を言う訳が無いだろう、母ちゃんも、知ってるはずだぜ。」
げんたは、負けず嫌いと言うよりも、責任感の強い子供なので、一度、引き受けた仕事は簡単に
出来ませんとは言わない。
だが、其れは、今までの話で、今回、源三郎から言われた、海の中に潜り、息の出来る道具、其
れだけは、本当の事を言えば、出来ませんと言いたい。
だが、責任感の強いげんたは、簡単には投げ出さない。
「げんた、一体、何を考えて要るのよ~。」
「母ちゃんに言っても、分かるもんか。」
「何を言ってるのよ、母ちゃんに、何も言わないで、母ちゃんが分かるもんか、其れで、何を。」
「うん、源三郎様が言った、水の中で、息の出来る道具を作れって。」
「げんた、水の中で、息なんか、どうして出来るのよ。」
「うん、だから、考えて要るんだ、何か、無いかなぁ~って。」
「そんなの無理だよ、さぁ~、其れよりも、ご飯にしようか。」
「母ちゃん、今晩も、大川屋さんから届いたのか。」
「うん、そうなのよ、毎日ね。」
「なぁ~、母ちゃん、オレ、母ちゃんの作った物がいいんだ。」
「母ちゃんも、本当はね、げんたに、何か、美味しい物を作ってあげたいと思うんだけど。」
「じゃ~、母ちゃん、明日は、母ちゃんの。」
「其れは、いいんだけど、大川屋さんに何て、言うのよ。」
「オレに、任せなよ。」
「じゃ~、そうしようかねぇ~。」
げんたは、久し振りに、母親の作る、食事が嬉しいのか、急に、元気を取り戻した様子で。
「なぁ~、母ちゃん。」
「うん、何によ。」
今の、げんたは、何でもいいから、きっかけを探す事に必死になって要る。
「母ちゃんは、髪結いに行くのか。」
「う~ん、髪結いか、そう言えば、長い事行ってないねぇ~、其れが、どうしたのよ。」
「うん、母ちゃんは、髪結いで、顔は見れるのか。」
「見れるけど、其れが、どうかしたの。」
「えっ、どうして見れる。」
「髪結いにはね、鏡って物が有ってね、その鏡で、母ちゃんは、顔も髪も見れるんだよ。」
「其れで、その鏡って、一体、何で出来てるの。」
「げんた、そんな事、母ちゃんが知ってる訳が無いよ。」
「じゃ~、一度、聴いてよ。」
「だけど、髪結いは。」
「そうか、分かったよ、ごめんな、母ちゃん。」
「いいのよ、母ちゃんが。」
「なぁ~、母ちゃん、オレ、本当に作れるのかなぁ~。」
「げんた、何を言ってるの、源三郎様も、げんたを、男と見込んで頼まれたんだよ、其れを、今更、
何を言ってるのよ。」
母親も、分かっている、これ程までに、げんたを悩ます物とは、何故、源三郎は、げんたに白羽
の矢を立てたのだと、腹立たしい思いもするので有る。
そして、明くる日の朝、げんたは、大川屋に行き、今日は、久し振りに、母親が夕食を作ってく
れるのだと話し、帰って来たげんたは、またもや、考え込んで要る。
そのげんたは、思い掛けない物を見て、最大の問題は解決へと向かうので有る。
「げんた、お水を汲んできてよ。」
「うん、いいよ。」
げんたも、久し振りに、母親の手伝いをして要る。
「母ちゃん、汲んできたよ。」
「じゃ~、そのお釜を洗ってくれるかい。」
「うん、いいよ。」
此処までは、何も起きなかった、だが、母親が釜戸に火を起こす時に、其れは起きた。
母親は、何時もと同じ仕草で、釜戸に息を吹き掛けている。
「あっ。」
げんたは、大きな声で叫んだ。
「母ちゃん、大変だ。」
「えっ、何が、大変なのよ。」
「うん、息が、出来る方法が分かったんだ。」
「何だって、息が、出来る方法が。」
「母ちゃん、有難う。」
「うん、でも、何を、可笑しな事を言ってるのよ。」
「母ちゃんが持ってる物なんだ。」
「えっ、何を、手に持ってるって、これの事なの、でもこれで、火を起こすんだよ。」
「母ちゃん、其れだ、其れなんだ、オレは、うん。」
母親は、げんたの言っている意味が全く理解が出来ない、それどころか、長い事悩んでいたので、
気が変になったのかと、心配になった。
「げんた、大丈夫なんか、頭が変になったんじゃないだろうねぇ~。」
「えっ、オレの頭が変になったって、もう、とっくに変になってるよ。」
「あ~、良かったよ~、何時ものげんただ。」
「母ちゃん、オレ、明日の朝、竹を取りに行ってくるよ。」
「えっ、竹って、一体、どうしたのよ。」
「うん、いいんだよ~。」
げんたが、思い悩んでいた、息が出来る道具、これで、一気に作れると思ったのだが、難題は、
其れだけでは無かった。
一方、殿様も悩んでいる、源三郎から申し出の有った、金魚鉢だ、源三郎は、この金魚鉢が有れ
ば、水の中に潜って息も出来る物が作れると、だが、金魚鉢は、子供の頃に、叔父上様から頂いた
大切な物で有る。
其れを、簡単に渡す事などは無理だ、では、一体、どの様にすればよいのだ、と、この数日間も
考え込むので有る。
その頃、源三郎と、直二郎ら、三名は、洞窟に居た。
「直二郎殿、入り口から、左右の岩石を取り除く事が必要になりました。」
「源三郎様、ですが、どの辺りまででしょうか。」
「そうですねぇ~、高さは、十尺は必要だと思いますよ、其れと、幅ですがね、二十尺以上は必要
になりますねぇ~。」
「ですが、相当、苦労すると思いますが。」
源三郎は、早く、岸壁を作りたい、岸壁が完成すれば、荷物の置き場としても使え、作業する人
達の休む場所も確保出来るので有る。
「源三郎様、此処を削るのは、満潮時に測るのでしょうか、高さは、何処まででしょうか。」
「まぁ~、其れは、漁師さん達と話し合う必要が有りますよ、低いと、潮が上がり、高いと、荷物
の上げ下げに不便になりますからねぇ~。」
「では、そのお役目を私達が行うのですか。」
「はい、今は、その様に考えておりますが、我々の考えよりも、漁師さん達の意見を尊重して下さ
いね、工事を急ぐ余り、間違った寸法で、行なうと、取り返しの付かない事になりますのでね。」
「はい、承知致しました。」
「源三郎様、人が歩いたり、休むところとして考えると、表面は出来る限り削り取らなければなり
ませんねぇ~。」
「はい、其れは、とても大切な事ですよ、表面は、岩ですからねぇ~、大変ですが。」
「では、滑らかにするのでしょうか。」
「まぁ~、其れは、最初からは大変ですから。」
「源三郎様、この部分ですが、手の届くところは出来ると思いますが。」
「はい、私も、承知しておりますが、海の底の状態が分かりませんので、広一郎殿の判断にお任せ
します。」
源三郎は、今、出来る事から取り掛かる事にしたので有る。
隣村からも、漁師の応援が来ると言うので、今までよりも進め方を早くした。
「貴方方、三名が、漁師との話し合いで行なえる工事から進めて頂ければ助かりますので。」
「はい、承知致しました。」
「これからは、殆ど、毎日と言っても良い程、この現場に来て頂く様になると思いますので、貴方
方が、お互い、良く、連携を取り合って下さいね、私への報告は事後報告でも構わないので、よろ
しくお願いします。」
「はい、私達、三名は、この現場が一刻も早く完成出来る様に、漁師さん達とも、よ~く、連携致
しますので。」
「はい、大変、苦しいとは思いますが。」
「源三郎様、私の提案なので、御座いますが、測る物を作って置きたいと思うのですが、如何で
しょうか。」
「はい、其れも、お互いで話し合って下さい。」
源三郎は、この洞窟の完成を何としても早くさせたいの有る。
その為には、余計な事に対しては、口出しせず、三名に任せると決めたので有る。
「私は、一度、城に戻り、空井戸の状況を見てきますので、此処に残られるも良し、戻られ、この
先の事を話し合う事も良し、全て、お任せ致しますので。」
「はい、では、私達も、一度、戻り、測る物を作ります。
其れとで御座いますが、着る物も変えなければならないと。」
源三郎は、現場第1主義で工事を進める事に決めたので有る。
源三郎が、戻ると言うので、直二郎達も戻り、測る物を作るので有る。
其れから、数日後の朝、源三郎は、殿様から、呼び出しを受けたので有る。
「殿。」
「源三郎か、上に上がるぞ。」
「はい。」
殿様と、源三郎は、秘密のと言うのではないが、天守閣に上がった。
源三郎は、殿様から、金魚鉢を頂けると早合点したので有る。
「のぉ~、源三郎、先日の話だが、余も、よ~く考えて見たのだが、やはり、あの金魚鉢を渡す事
は出来ぬのじゃ。」
やはり、駄目だったか、まぁ~、其れも仕方がない、では、別の物を探す必要が有ると考えた。
「殿、申し訳、御座いませぬ、ご無理をお願い致しまして。」
「源三郎、余は、叔父上様に、一筆、認め様と思っておるのじゃ。」
正かの話になってきた、金魚鉢が駄目ならと、殿様は、叔父上様に一筆認めるとは、一体、何を。
「殿、一体、どの様な事を、叔父上様に。」
「源三郎、仮にじゃ、金魚鉢を使うとしてもじゃ、どの様にして加工するつもりなのじゃ。」
源三郎は、加工の事などは、全く考えて無かった。
「殿、加工と申されますと。」
「源三郎、金魚鉢が透けて見えるのは硝子と申す物で、簡単に割れるのじゃ、その様な事は知って
おるのか。」
源三郎は、初めて知った、あの透けて見えるのは、硝子の為で、簡単に割れると言うのだ。
「殿、誠に、申し訳、御座いませぬ、私は、その様に簡単に割れる物とは、全く知りませんでした
ので。」
「何じゃと、源三郎が、知らぬとは、まぁ~、良い、其れでじゃ、余は、叔父上様に、その硝子と
言う物だけを頂きたいと書くつもりなのじゃ、其れで、同じ頼むので有れば、大きさが分かれば、
尚、良いと考えたのじゃ、どうだ、源三郎、叔父上様が、どの様に判断されるのか、余も分からぬ、
如何じゃ。」
何と、殿様は、硝子と言う物を、叔父上様に、手配すると言うのだが。
「殿、誠に有り難き、お話しでは、御座いますが、その硝子と言う物で御座いますが、一体、何処
で作られているのでしょうか。」
「源三郎、余も知らぬは、叔父上様は、顔の広い方じゃ、何か、方法を考えて頂けるやもしれぬ
と、思うのじゃ。」
「殿、ですが、叔父上様に、一体、何に使うのかと聞かれました時には、どの様に、お答えをされ
るので、御座いますか。」
「何じゃと、源三郎、余も、その様な事までは考えてはおらぬわ。」
殿様は、大笑いしている。
「ですが、殿、やはり、お答えを考えておらねばならぬと思うの、御座いますが。」
「やはり、必要と申すのか。」
「はい、叔父上様が、何も、お聞きにならなければよろしいのですが。」
「源三郎、まぁ~、余り、深刻に考えないで置くぞ、適当に考えて置く、だが、その前に、大きさ
は分からぬのか。」
源三郎も、適当に考えて要る。
「殿、一寸と、二寸で、宜しいかと、存じます。」
「何、一寸と、二寸とな、其れは、片方だけなのか、其れとも。」
「はい、片方で、御座いますが、私は、二枚で、一組と考えておりますので。」
「よし、源三郎、分かった、余が、適当に理由を書いて置く、其れでじゃ、一体、何組が必要なの
じゃ。」
またも、知らぬ話で、何組とは、だが、げんたは、何組必要だとは言わなかった。
「殿、二組、いいえ、五組も有れば、十分で、御座います。」
「五組とな、では、余から、叔父上様に、お願いして置く、だが、叶わぬ時の事も考えて置くの
じゃぞ。」
だが、源三郎に、今、次の事などを考える余裕は無かった。
その頃、げんたはと言うと、城下外れの竹林に来ていた。
「う~ん、どれが、いいのかなぁ~。」
独り言を言いながら、長い時を掛け、竹林の中を歩いている。
げんたは、母の使っている、竹の筒の太さを一寸だと考え、太さ一寸の竹、一本と、げんたの自
身に合わせ、其れよりも細い竹を、一本切り、家に持ち帰った。
「おや、もう、帰って来たのか。」
「うん。」
げんたは、両方の竹を筋を残して切った。
「う~ん。」
またも、考え込み、その後、数日間考え込む事になり、数日後、今日は、一斉登城の朝で有る。
「源三郎、その後、如何じゃ。」
「はい、海岸の洞窟ですが、漁師仲間が増え、今は、城へと掘り進む人達と、岸壁作りに入ってい
る人達の両方で作業を進めております。」
「そうか、海岸の洞窟だが、まだまだ、日数が掛かるのか。」
「父上、洞窟は、岩ですので、土を掘る様な訳には行きませぬ、何故、その様な事をお聞きになら
れるのですか。」
「実は、殿も、申されておるのだが、城の者達も入れてはどうだ。」
「えっ、城の者達と申されますと。」
「殿も、早く完成させたいと、申されておるから。」
「はい、私も、承知しておりますが、こちらの方も工事が進み具合が遅く、私は、今、城の人達を
洞窟の工事に参加して頂くよりも、こちらを中心にして頂く方が、何かと便利なのです。」
「源三郎、其れで、町民はどうじゃ。」
「はい、町民ですが、何処までの人達に参加願うのか、其れが、問題だと思われます。」
「わしの考えなのだが、役人達に素性を調べさせると言うのは。」
「はい、私は、この城下で、親の代か、若しくは、祖父の代から住んで要る者達ならば、一応、信
用しても良いかと、存じております。」
「そうだなぁ~、新しい者達の素性がはっきりとせぬからのぉ~。」
「はい、其れで、父に、お願いが有るのですが。」
「源三郎は、町民を使うつもりなのか。」
「はい、其れで、役人に話をして頂きたいのですが、如何でしょうか。」
「う~ん、これは、大変、難しい問題だのぉ~、わしも、少し考えるので、暫く待て。」
「はい、申し訳、御座いませぬ、其れと。」
「まだ、有るのか。」
「はい、農民にも、お願いしようと思っております。」
「農民か。」
「はい、これは、名主に話をしますので。」
「何、源三郎が、出向くのか。」
「はい、正か、父上に行って頂く事なども出来ませぬので。」
「分かった、お前に任せる、先程の件は。」
「はい、町民の方も、私が、話を致しますので、其れまでの事を、お願いしたいのです。」
「よし、分かった。」
「殿にも、ご報告、申し上げて置く。」
「はい、よろしく、お願い、申し上げます。」
「殿様の、おな~り。」
家臣達が、一斉に頭を下げ。
「よ~し、皆の者、表を上げ~い、余が、今から、申す事をよ~く、聴くのじゃ、今、一部の者が、
北側の空井戸に入り、掘り進めているのは、皆も知っておろうな。」
えっ、殿様が、突然、何を言いだすのだ、あの工事は、一部の者だけが知って要るはずなのに、
何故、突然、話すのだと、源三郎は、驚き、源三郎が、思った通り、殆どの家臣達も驚ている。
「皆の者、静まれ~い。」
「皆が、驚くのも無理は無い、何故、この様な工事を行っておるのか、今から話すので、静かに聴
くのじゃ。」
殿様は、この後、幕府からの理不尽な要求を話し。
「余は、この様に理不尽な要求に対し、対抗する事を決めたのじゃ、余は、何も、戦を起こす気持
ちなどは、一切無い、余は、要求される事に腹を立てておるのじゃ、余はのぉ~、源三郎に、申し
て、何か、良い方策は無いか考えて置けと申し、源三郎が、考え出したのが、我が藩で収穫する物、
其れは、穀物だけではない、其れは、多くの作物を隠す方法を考え付いたのじゃ、そうで、有ろう、
源三郎。」
源三郎は、改めて、殿様に、頭を下げた。
「源三郎の調べによるとじゃ、この城から、一里程のところに、海岸が有る。
その海岸には、大小、合わせると、数十もの洞窟が有る事が判明したのじゃ、源三郎は、この洞
窟に作物を隠す方法を考えたのじゃ、其れに、相違ないか、源三郎。」
「はい、相違、御座いませぬ。」
源三郎も、諦め、殿様が、全てを話すと言う事は、殿様自身が、相当な決意を持っていると言う
事なのだ。
「先程も、申した様に、空井戸からは、海岸に向けて掘り進んでおるが、余が、知って要るだけも、
進み具合が、余りにも遅い、其れと言うのも、この工事に関わっている者が、余りにも少ないと言
う事なのじゃ、その方達は、海岸の洞窟はと、思う者も居るで有ろう、其れはのぉ~、源三郎が、
地元の漁師と信頼関係が有り、そのお陰と申しては何だが、多くの漁師が、洞窟を掘り進めている
と言う訳なのじゃ。」
大広間に集まった家臣達は、驚きの連続で、まだ、若い、源三郎が、漁師達を説得し、多くの貧
しい漁師達が、漁の合間を縫って、洞窟を城へと掘り進んで要ると言う話で有る。
「余はの~、何も出来ぬのが恥ずかしいのじゃ、余の本音を申せば、この藩の行く末を考え、余が
先頭になり、空井戸に入って作業をしたいのじゃ、だが、其れは、源三郎からも許しては貰えぬの
じゃ、皆の者、源三郎の手助けをしてはくれぬか、これはの~、余の為でも、家老の為でも無いの
じゃ、全て領民の為なのじゃ、幕府に知れ、余が、腹を切る事で、全てが収まるのならば、余は、
何時でも腹を切る、だがのぉ~、皆の者、よ~く、考えよ、藩が取り潰しになると言う事はじゃ、
藩士の全員が、浪人になると言う事になるのじゃ、その様な事にでもなれば、その方達は、妻子を、
親を、一体、どの様にして食べさせるつもりじゃ、更に、申すと、領民は、一体、どの様になると
思う、幕府は、我が藩に、今以上の上納金を要求し、上納金を収める事の出来ない者達は、次から、
次へと、他の国に移るか、果ては、自殺する者達が大勢出、この辺りは、誰も住まぬ荒れた地にな
る事は明白なのじゃ、皆の者、余の為でなく、お主達の妻子、親、兄弟、果ては、領民の為なの
じゃ、源三郎が、毎日、毎日、一人で苦しんでおる姿は、余も知っておる。
余が、何も出来ないのが情けないのじゃ、どうか、皆の者頼む。」
突然、殿様が、下段に降り、家臣達に両手を着き、頭を下げた。
その姿を見た、家臣達は、涙が止まらなくなり。
「殿、私は。」
源三郎は、それ以上言わず、殿様の横で、同じ様に頭を下げた。
あの元密偵の三名も、頭を下げ、其れを見ていた、一番、後ろの下級武士が。
「殿、頭をお上げ下さいませ、私は、今まで、何、一つ積極的な仕事もせずにおりましたが、源三
郎様、私で良ければ、どの様な事でも致しますので、是非とも、お使い下さいませ、何卒、お願い
申し上げます。」
この下級武士武士の発言をきっかけに。
「殿、拙者も。」
「私もで、御座います。」
と、次々と、名乗りを上げた。
「皆の者、余は、大変、嬉しく思うぞ、だがのぉ~、余は、何も出来ぬのじゃ、余は、全て、源三
郎に任せておる、後は、源三郎の話を聴いて欲しいのじゃ。」
殿様は、その場を動かず、源三郎を呼んだ。
「皆、皆様、誠に、有り難き、幸せで、御座います。」
「源三郎、後の事は任せたぞ、余が、居っては、邪魔になるであろうから引き下がるぞ。」
殿様は、大広間を出て行き、後に残るは、家老を含め、家臣達だけで有る。
「皆様、今回の工事に付きましては、あくまでも主体となるのは、我々では御座いませぬ、海岸の
洞窟は漁民で、あっ、そうでした、私は、農民には、まだ、話しをしておりませんでしたが、空井
戸の掘削は農民なのです。」
「源三郎殿、今、申されましたが、主体は、漁民や、農民だと、では、我々は、一体。」
「はい、我々は、漁民や、農民さん達の手助けをさせて頂くと言うのが、殿の、お考えで、御座い
ますので、先程も、殿が、申された様に、我々よりも、漁民や、農民が苦しいのです。
殿は、この人達を少しでも、楽にさせたいともうされておられておりますのが、一番、大切な部
分で、其れで、皆様、全員が工事に入るとなれば、お役目に支障が出ますので、私の方で、皆様方
の予定表を作成させて頂きたいのですが、皆様、如何でしょうか。」
「源三郎殿、拙者は、お任せ致しますので。」
「私もで、御座います。」
家臣達は、次々と、名乗りを上げて行く。
「では、皆様、承諾して頂くと言う事で、作成に入らせて頂きます。
其れで、皆様には、大変、申し訳、御座いませぬが、作業現場では、漁民や、農民に対しては、今
までの様な言葉使いでは無く、丁寧に接して頂きたいのですが、その訳と言うのは、漁民や、農民
に反発されますと、この工事もですが、全てが失敗となるので、御座います。」
家臣達は、真剣に、源三郎の話を聴いおり、その後も、話は続き。
「では、皆様、よろしくお願いいたします。」
源三郎は、頭を下げたので有る。
「私は、今から、数か所の農村に参りますので、皆様方は、私の方から事前に予定表をお渡しする
か、他の方法を考えますので、其れまでは、今まで通り、お役目を続けて下さい。
誠に、有難う、御座いました、では、一応、解散とさせて頂きますので。」
家臣達は、それぞれの役目に就く為、各部署に戻って行く。
「森田様、飯田様、上田様は、残って頂きたいのですが。」
三名は、残り、源三郎から、家臣達の予定表の作成を指示され、だが、予定表作成には大変な苦
労が待っている。
其れは、役所名に、仕事の内容など、多くの事柄を吟味しなければならない、予定表が完成する
までには、なおも、数日間も要するので有る。
その日の午後、源三郎は、田中、鈴木、上田の三名を連れ、最初の農村へ向かう途中。
「源三郎様、殿は、何故に、あの様な話をされたのでしょうか。」
「う~ん、私も、合点がいかぬのですが、殿は、内密に進めよとの、お話しでしたので、私が、一
番、驚いております。」
「私もです、私は、この工事が、領民の為だと言う事は承知致しておりましたが、今日、初めて知
らせれた方々は、どの様に思われたのでしょうか。」
「私も、一体、どうしてよいやら、最初、殿から話を頂いた時には、思いましたが、多分、今日、
お聞きになられた方々も同じでは無いでしょうか。」
「源三郎様は、今後、どの様にされるのですか。」
「弥三郎殿、私は、有る意味では、助かったと思っておりますよ、其れと言うのも、今まで内密に
進めておりましたが、今日、殿が、皆様に申されたと言う事になれば、この先は、堂々と工事も行
えますから、其れに、皆様にも話す時でも、どなたの目も気にする事も無く、行えると言う事にな
りますので、私自身は、大変、助かりましたねぇ~。」
「弥三郎、我らも、このお役目に付いては、普通の会話が出来ると言う事ですよ。」
「広一郎も、同じ様に思ったのか、拙者もだ、これからは、大手を振って話が出来ると言うものだ
なぁ~。」
「うん、まぁ~、我ら、三人は、別の意味でも大変だが。」
「源三郎様、処で、我ら、三名ですが、漁師だけでなく、農民とも話す事になるのでしょうか。」
「はい、私は、貴殿ら、三名の方々には、漁師達と、農民達の世話役になって頂く様にと考えてお
りますので。」
「では、農民達も、洞窟での作業に入って頂く事になるのですか。」
「う~ん、其れは、まだ、名主にも話しておりませんので、何とも、申し上げる事は出来ませぬが、
漁民と、農民の、お互いがよく似た人達ですから、現場に入れば、私が思う以上に、力を発揮して
頂けると思っておりますので。」
源三郎は、同じ様な境遇の者達で有れば、現場での話は、それ程にも難しくは無く、簡単に済む
だろうと考えたので有る、その様な話をしている間、最初の農村に着き、早速、名主の元を訪れ、
話に入る事になった。
「名主殿、生野田源三郎と申します。」
名主は、大変な驚きで、生野田とは、野洲藩のご家老の苗字で、正かとは思った。
「あのぉ~、大変、失礼かと思いますが、ご家老様の。」
「はい、私は、家老の息子ですが、今回は、家老の用事で、寄せて頂いたのでは、御座いませんの
でね。」
「では、一体、何用で、私達の村に。」
名主は、恐る恐る聞くので。
「はい、実は。」
その後、源三郎は、名主に詳しく話す、名主は、今年も、豊作とまでは行かず、税をどの様にす
れば払えるのか、この数日間悩んでいた。
「名主殿、私は、貴方が心配されている様な税の話をする為に来たのでは有りませんよ。」
名主は、初めに話が、米や麦などの収穫に関してだったので、税の取り立てなのかと、其れとも、
上乗せの話だと勘違いし、源三郎は、其れからも、詳しく話すと、次第に名主の顔付も変わった。
「生野田様。」
「名主殿、源三郎で、宜しいですよ、私は、家老では有りませんからね。」
「はい、では、源三郎様、今の、お話しでは、この村の農民達をその工事に入れと言われるので
しょうか。」
「名主殿、勘違いをされては困りますよ、私は、何も無理にとは、申してはおりません。
この工事は、皆様方、領民の為に行うので有り、決して、殿様や、我々の為ではないのです。」
「でも、農民には、田畑を耕すと言うのが仕事だと思いますが。」
「はい、勿論、私も、重々、承知しておりますよ、今、海岸の洞窟では、漁師さん達が、毎日、数
十人出て頂き、洞窟内を掘り進んで頂いております。」
「はい、其れは、先程も、お聞きしましたが、源三郎様、その工事ですが、私達の村だけなので
しょうか。」
「いいえ、私は、全ての村に行き、詳しく説明させて頂く所存で、御座います。」
「ですが、農民は、田畑を耕す事で、その日の食にも有り付けるので、御座いますので、でも、そ
の工事に行けば。」
名主は、農民の食べ物の事を言いたいのだと、源三郎は、思い。
「名主殿、食料は、全て、私が、手配致しますので、参加して頂ければ、定期的に食料を運びます
よ、ですが、ご参加願う事が出来なければ、別の村に届ける事になりますのでね。」
源三郎は、あえて、参加すれば、食料は、出すが、参加しなければ、出す事は出来ないと。
「名主殿、今日の朝ですが、殿が、全ての家臣に対し、工事に加わって欲しいと、頭を下げられた
のですよ。」
「名主殿、源三郎様の話は本当です。」
田中が言うと、他の二人もうなずいた。
「えっ、お殿様が、皆様方に頭を下げられたのですか。」
「はい、私は、何も、嘘などは申しておりませんのでね、殿は、何時でも、腹は切る、だが、この
工事は、全て領民の為だと申されておられましたよ。」
「名主殿、今、源三郎様が、申された話は、全て、本当で、私達も、初めて聞き、驚きました。」
鈴木も、本当の話だと言う。
「殿様が、ご家臣に頭を下げられた、言うのはこの工事が、我々、領民の為だと。」
「はい、その通りですよ、其れに、殿は、私に、工事の主体は、領民であって、我々、家臣は、漁
師さん達や、農民さんのお手伝いをさせて頂くのですと、申されておられます。」
「えっ、その様な、お話しをされたのですか。」
「はい、殿は、我が藩が取り潰しになれば、野洲の家臣では無く、浪人となり、その様になれば、
どの様にして、家族を養うのかと、更に、藩が取り潰しにされれば、一番、苦労するのは、農民や、
漁民達、領民で有ると。」
「源三郎様、話は、よ~く、分かりました、少しお待ち頂けるでしょうか。」
「はい、私は、宜しいですよ。」
「みんなを呼びますので。」
「わざわざ、有難う、御座います、名主殿。」
名主は、表に出、村の者達に声を掛け、みんなに集まる様に、大事な話が有ると、暫くすると、
農民達がぞろぞろと集り出した。
「名主様、一体、何が有ったんだ、あのお侍様は、お役人様じゃないのか。」
「いや、違うよ、今から話すからね、皆の衆、よ~く、聴いて欲しいんだ、こちらの、お侍様は、
源三郎様と申されて、お城から来られたんじゃ。」
「ふ~ん、やっぱりだ、オラ達に、もう出す物なんか。」
「最後まで、話を聴くんだ。」
その後、名主は、源三郎から聴かされた話をすると。
「えっ、じゃ~、オラ達は、殿様の命令で、工事に行くのか。」
「名主殿、私が、説明しますので。」
「はい、よろしくお願いします。」
名主は、下がり、源三郎が、説明を始めた。
源三郎の説明は、細部に渡り、説明を終えると。
「あのぉ~、今の話は、オラ達の為にって聞こえたんだが。」
「はい、その通りですよ、先程も名主殿にも、お話しをさせて頂きましたが、殿様は、幕府と戦を
するよりも、領民の為に、何か、良い方法は無いかと、私に申され、少し前からですが、海岸と、
更に、お城でも、工事を始めております。」
「名主様、オラ達の為って、本当なのか。」
「はい、私は、源三郎様の、お話しを信じますよ、其れに、皆の衆、源三郎様は、私に対しても、
皆の衆に対しても、今までの、お役人の様な言葉ではなく、皆の衆も聞いて通り、命令なんて言葉
は一度も、言われておりませんよ、私にもですが、皆の衆にも、お願いしますと、源三郎様は、頭
を下げられたんです。
其れに、源三郎様は、お城の、ご家老様の。」
「名主殿、私は、家老では有りませんよ。」
「ですが。」
「宜しいのですよ、皆さん、私は、別に、今、直ぐ返事を頂きたいとは、申しておりません。
皆さんで、よ~く、話し合いをされ、其れからでも、宜しいですからね。」
あくまでも、源三郎は、低姿勢で。
「お侍様、オラは、やってもいいよ。」
「其れは、有り難いですねぇ~、まぁ~、皆さんも、よ~く考えて下さいね、名主殿、皆さんの意
見が纏まれば、お城に来て下さい、門番には、源三郎に、会いに来たと言えば、直ぐ、わかります
のでね、其れと、着物ですが、今の着物で来て下さいね。」
「はい、ですが、私、一人では。」
「分かりましたよ、では、何人でも宜しいですよ、来て頂けるので有れば、私は、大変、助かりま
すので。」
「皆の衆、私は、源三郎様に、お任せしようと思うんだ、このお方は、皆の衆が思って要る様な、
お方では無いからね。」
「皆さん、何卒よろしくお願い申し上げます。」
源三郎は、農民達に、深々と頭を下げた。
「皆さん、申し訳、有りませんが、私は、次の村に参りますので。」
「えっ、お侍様、他の村にもって、オラ達の村だけじゃないのですか。」
「はい、今日と、明日の間に、全ての村を訪ね、同じ話をさせて頂きますので、其れでは。」
源三郎は、他の三名と、次の村を目指すので有る。
「源三郎様、上手に行くでしょうか。」
「私は、大丈夫だと思いますよ、だって、農民さんも、食べ物が有ると言うだけで、表情が変わり
ましたからねぇ~。」
源三郎自身は、農村を回るのは、まだ、先だと考えていたが、其れは、げんたに頼んだ物が完成
してからでも、十分だと思って要る。
だが、何処で、何が、起きるか分からない、今日の朝、突然、殿様の発言で、源三郎の予定が
狂った、だが、今となっては、仕方の無い事だと考える他無いので有る。
その後、源三郎達は、次々と農村を回り、同じ説明をし、明日は、残る、五か村だけとなり、自
宅へと戻るので有る。
話は、少し戻り、源三郎達が、城を出た後、殿様と、ご家老が話し合っていた。
「殿、如何されたのでしょうか、突然の、ご発言で、私は、一時、どの様になるのかと、心配で、
御座いました。」
だが、殿様は、至って涼しい顔で。
「権三、何を、申しておるのじゃ、あれは、全て、余の芝居なのじゃ。」
「えっ、殿の芝居と、申されますと。」
「いゃ~、実はのぉ~、源三郎が、一人苦しんでおるのを、余は、辛かったのじゃ、其れは、誠
じゃぞ、其れで、余は、考え、あの様な芝居を打ったと言うのじゃ、そちも、余の、芝居に騙され
たのか、う~ん、これは、大変、愉快じゃ、うん、愉快じゃのぉ~。」
殿様は、上機嫌だ。
「殿、私までも、騙されたのですか。」
ご家老は、不愉快と言うよりも、呆れている。
「権三、怒ったのか。」
「いいえ、私は、殿の迷演技に呆れて、ものが言えませぬ。」
家老は、笑い、殿様も、大笑いするので有る。
「其れで、あの後、家臣達は、如何致したのじゃ。」
「はい、其れは、もう、家臣、全員が、真剣になり、お家の為、殿の為、領民の為、其れが、最後
には、我が藩の為になるのだと、源三郎の話を真剣に聞いておりました。」
「うん、うん、そうで有ろう、余の思った通りになったのぉ~、うん、愉快じゃ。」
「後は、源三郎が、考えると申しておりますので。」
「うん、そうか、そうか、これで、源三郎も、役目を行うにしてもじゃ、楽になると言う事じゃ
のぉ~。」
殿様の、迷演技に騙されたとはいえ、家老も、これからは、余計な心配はせずにと、胸を撫で下
すので有る。