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闇の帝国    作者: 大和 武
29/288

第 2 話。 源三郎の思いは、果たして、通じるのだろうか。

 明くる日の朝、源三郎が、自宅を出ると、伊勢屋が待っていた。


「伊勢屋さんでは。」


「源三郎様、お早う、御座います。」


 伊勢屋と、番頭は頭を下げ。


「いゃ~、お早う、御座います、ところで、この様に早く、如何されたのですか。」


 源三郎は、正か、伊勢屋が来るとは思っていなかったので、少し驚いた。

 

「はい、昨日、お城を出てから、私達は、話しをしたのですが、お殿様や、ご家老様、そして、


源三郎様には、私達の命だけで無く、家族、親戚もの命の恩人で、御座います。


 更に、私達の店も存続出来ると言うお話しで、皆が、感謝し、安堵しております。」


「伊勢屋さんだけで無く、中川屋さん、大川屋さんは、私達が進めております計画には、大切な人達です


ので。」


「いいえ、その様なお言葉を、其れで、私どもは、今後、どの様な致せばよいのか分かりません


が、今日、訪ねます、げんたも、大変、重要だと思いましたので、私と、番頭の二人で、ご案内


共々、お話しをお聞きしたいと思いましたので、源三郎様には、失礼かと存じましたが、お待ち


申し上げておりました。」


「そうですか、其れは、何よりで、御座いますねぇ~、ですが、私の計画と言うのは、まだ、先


の事なので、今、此処で、詳しく、お話しをする訳には。」


「はい、勿論で御座いますとも、其れに、今日、げんたと、母親も居ると思いますので。」


「そうですか、では、ご案内の程、宜しくお願いします。」


 源三郎の計画とは、一体、どの様な計画なのか、其れは、源三郎の頭の中で、練られている。


 父で有る、家老も全く知る事も無いので有る。


 三人が、城下に入り、伊勢屋の店先を過ぎ、暫く行き、路地を抜けると、小さな店の前に出た。


 その店が、げんた親子が商いする小間物屋で、店先には、やはり、げんたが作った思われる小


間物が、ところ狭しと並べて有り、その店先には、若い女が、其れが、げんたの母親だ。


「伊勢屋さん、一体、どうされたのですか、あっ、お侍様、若しや、げんたが何か。」


「お清さん、何も、有りませんよ。」


「でも、お侍様も。」


「お清さん、このお方は、お役人では、御座いませんよ、お城のお方ですので。」


「これは、失礼しました、私は、源三郎と申します。」


「はい。」


 母親のお清は、驚きの余り、何を言ってよいのか分からない。


「ところで、お清さん、げんたは。」


「はい、今、奥に居りますが。」


「そうですか、お清さんも一緒に、此処は、番頭に任せて下さい。」


「はい。」


 お清は、何事が起きたのか分からないが、奥に行くと。


「げんた、伊勢屋さんと、え~っと。」


「源三郎ですよ。」


「はい、源三郎様とおっしゃられる、お侍様が、来られたよ。」


「えっ、母ちゃん、何で、お侍様が、オレは、何も悪い事なんかしてないよ。」


「げんた。」


「伊勢屋のおじさん、あっ。」


 げんたが、驚くのも無理は無い、げんたは、侍と聞き、役人かと思った。


「まぁ~、汚いところですが、どうぞ。」


 お清の表情は硬く、一体、何事が起きたのかと心配でならない。


「げんた、このお侍様は、お城のお方で、お役人では有りませんからね、今日は、げんたに会い


たいと、お城から来られたんですよ。」


「何でだ、おじさん、オレ、何も悪い事なんかしてないよ。」


 げんたは、まだ、役人だと思っている。


「伊勢屋さん、私が、お話しを。」


「はい。」


「げんたさんと言われましたね、私は、お殿様の言い付けで、げんたさんに、お話しをする為に


来たんですよ。」


 源三郎は、げんたの気持ちを和らげ様と、笑みを浮かべて要る。


「えっ、お城の、お殿様って、何で、オレの事を知ってるんだよ~。」


「げんたさんは、お殿様を知りませんがね、お殿様や、ご家老様は、げんたさんを知っておられ


るのですよ。」


 げんたは、首をひねっているが、げんたに理解が出来るはずは無い。


「げんたさん、其れでね、これからは、私の力になって欲しいと思い、今日、来たんですよ。」


「えっ、オレが、お侍様の力になるって、そんなの嘘に決まってるよ、だって、お侍様、オレは、


子供なんだぜ、子供が、お侍様の力になるなんて、オレは、絶対に信じ無いからなぁ~。」


「其れが有るのですよ、げんたさんは、何でも作れる名人だって聴きましてね、其れで。」


 げんたは、自慢そうな顔になり。


「うん、オレは、お客が言った物なら、何でも作れるよ。」


「其れでね、げんたさんの力を借りたいのですが、宜しいでしょうか。」。」


「オレが、お侍様が言う物を作ればいいのか。」


 げんたの気持ちが、少し変わってきた。


「そうですよ、だけどね、げんたさんは、お母さんと、このお店を切り盛りしているので、げん


たさんが居なくなれば。」


「オレは、嫌だよ、母ちゃんと離れるのは、其れに、オレが、いなくなると、どうやって、母


ちゃんを食べさせるんだ。」


 小間物は、城下では評判で、だが、げんたが居なくなれば、母親は、食べていけなくなると


思ったので有る。


「あの~。」


「はい、どの様な事でしょうか。」


「はい、げんたが作っている小間物で、私達、親子が食べていけるんで、げんたが居なくなると、


私は、困るんですけれど。」


「お清さん、何も心配はいりませんよ、私が、全てお世話をさせて頂きますので。」


「えっ、伊勢屋さんがですか、でも。」


 母親は、勘違いをした、伊勢屋が言った世話をすると言うのは、げんたが居なくなれば、食べ


物を買う事が出来ない言う意味で。


「お清さん、済まないねぇ~、私の言い方が悪かったので、私が、お世話すると言うのは、お清


さんが考えて要る様な話じゃ有りませんよ、若しもその様な事にでもなれば、私は、源三郎様に、


打ち首にされますよ。」


 源三郎も、直ぐに分かり。


「お母さん、この私が、保証しますよ、若しも、伊勢屋さんが、万が一に、その様な考えを持っ


ているのであれば、その時には、どの様な事になるか、其れは、伊勢屋さんが、一番、よ~く、


知っておられますのでね、何も心配される事は有りませんよ。」


 源三郎は、あえて、伊勢屋に対し、釘を差す様に顔を見るので、伊勢屋は、思っている。


 今までの侍と言うのは、何時も命令調で、偉そうな態度を取る。


 だが、この源三郎と言う侍は、全く違う、昨日もだが、今、目の前に居る、げんたと言う子供


までにも、言葉使いは、侍の口調では無く、其れに、相手が、子供だと言うのに、大人と同様の


扱いで、其れに、昨日の三人も、今までとは全く違い、これが、本当の侍なのかと思う程で、げ


んたも、子供ながら、一生懸命に考えて要る。


 源三郎も、必死だ、だが、何故、これ程までにも、げんたを必要とするのだ。


 伊勢屋は、どの様に考えても分からない。


「げんたさんも、お母さんも、私は、何も、今直ぐに返事を頂けるとは思っておりません。


 ただ、げんたさんが納得して頂き、私の右腕となって頂ければと思う次第ですので。」


「あの~、若しも、若しもですよ、げんたが断ったら、一体、私達は、どうなるんですか、正か


と思いますが、打ち首になるんですか。」


「えっ、何故、打ち首に、私は、その様な事は決して考えてはおりませんよ、何故、お母さんや、


げんたさんを打ち首にする必要が有るのですか。」

 

 母親が思うのも当然で、相手は、侍で、その侍が言う事に対し、反対でもすれば、たちどころ


に切られると思ったのだ。


「私は、げんたさんもですが、お母さんが、どうしても嫌だと言われれば、仕方が有りませんが


諦めますがね、かと言って、お母さんや、げんたさんが心配とする様な事は決して有りませんの


でね。」


「お侍様、オレが、嫌だと言っても怒らないんだね。」


「その通りですよ、げんたさんが、嫌だと言うのを、私が、無理にでも言う事は有りません。」


 げんたも、母親も、真剣に考えて要る。


「げんたさん、お母さん、何も、今直ぐにとは申しません。


 其れよりも、一度、お城に来て頂きたいのですが。」


「えっ、お城にですか、何で、私達が行かなければならないんですか。」


 母親は、城に来いと言われ、だが、城に行けば、どんなに恐ろしい事が待っているかも知れな


いと思っている。


「お母さん、お城と言っても、私が、居る場所ですよ、其処に来て頂ければ、私が、何故、げん


たさんを必要として要るのかを、お話しをしますのでね。」


 源三郎は、城の、其れも、あの場所でなければ、本当の話が出来ないと考えて要る、だが、今


の母親の立場からは、簡単に許しを得る事など無理と言うもので有る。


「お侍様、お城に行くのは、オレと、母ちゃんだけなのか。」


「源三郎様、よろしいでしょうか。」


「はい、よろしいですよ。」


「はい、では、お清さん、げんた、私も、良ければ一緒に行きますが、源三郎様、宜しいでしょ


うか。」


「はい、勿論ですよ、私も、助かりますので。」


「お清さん、源三郎様からも、許して頂きましたので、私も、何でしたら、中川屋さんも、大川


屋さんも、一緒にと思いますが。」


「はい、私は、皆さんに助けて頂けるので有れば、何人でも宜しいですよ。」


 何と言う人物だ、源三郎と言う、若い侍は、げんたや、その母親がお城に来るだけで助かると。


「源三郎様、私は、その様な大それた事などは考えてはおりませんので。」


「いいえ、私は、皆さんの協力無しでは出来ないと思っておりますので。」


 何と、言う、謙虚な侍だ。


「あの~、私も、げんたも、お城なんて初めてで、其れに、お城の行くにしても、着て行く着物


が無いので。」


「お母さん、今のままで宜しいですよ、殿様に会いに行くのでは有りません。


 此処では、詳しい話が出来ないと言うだけの事ですからね。」


「でも、こんなにも汚いんですよ。」


「お母さん、一体、何処が汚いと言われるのですか、私は、何も、綺麗な着物を見たいと言って


るのでは有りませんよ、農民さんも、漁師さんも、皆さんが着られておられるのは、私から言わ


せれば、立派な仕事着です。


 仮に、お城で、お母さんや、げんたさんの着物に対し、何かを言う者が居ましたら、私から、


殿様に申し上げ、厳罰を受ける事になりますのでね、本当に、心配される事は有りませんよ。」


「母ちゃん、オレ、一度でいいから、お城って、どんなところか見たいんだ。」


「う~ん、だけどねぇ~。」


「お清さん、私達も一緒ですから、一度、行って、源三郎様の、お話しを聞かれてから返事をし


てはどうですか。」


 げんたは、城の中を見たいと、少しは前に進み掛けてきた、後は、お清と言う、母親だけだ。


「じゃ~、行くだけですよ。」


「有難う、御座います。」


 源三郎は、両手を付き、頭を下げるたので。


「お侍様、どうか、手を上げて下さいよ、そんな、私は、町民ですよ、お侍様が、町民に頭を下


げるなんて。」


「いいえ、私は、別に、お母さんが町民だからと言ってるのでは無いのです。


 其れよりも、私の無理を聴いて頂いた事に対し、頭を下げて要るのですからね、私が、頭を下


げて、話を聴いて頂けるので有れば、何度でも頭は下げますよ。」


 源三郎は、頭を下げる事に対し、武士の恥だとは考えていない、頭を下げ、計画が進むので有


れば、相手が、農民だろうが、町民だろうが、区別する必要は無いと考えて要る。


「じゃ~、明日、お城に行けばいいんですね。」


「はい、大手門で、源三郎に用事が有ると言って頂ければ、其れで、よろしいですから。」


「はい。」 


 母親は、其れでも、まだ、不安そうな表情だ。


 そして、明くる日の朝。


「お清さん。」


「伊勢屋さん、どうも、今日は、お世話になります。」


「いゃ~、こちらこそ、其れで、げんたは。」


「はい、もう、用意も終わりましたので、げんた、伊勢屋が来られたよ。」


「うん、今、行くよ。」


 伊勢屋は、番頭を小間物屋で留守番させ。


「では、行きましょうか。」


「はい。」


 母親も、げんたも、昨日と同じ着物を着ている。


「本当に、こんな着物でもいいんですか。」


「源三郎様が言われたので、何も心配は要りませんよ。」


「伊勢屋さん、聞きたい事が有るんですが。」


「何をですか。」


「あの、源三郎様って、お侍様は、一体、どんな人何ですか。」


「源三郎様は、ご家老様のご子息様ですよ。」


「えっ、ご家老様のご子息様って、じゃ~、偉い人何ですか。」


 母親は、正か、家老の息子とは考えもしなかった。


「お清さん、源三郎様は、私と、中川屋さん、大川屋さんに取っては、命の恩人でしてね。」


「命の恩人って。」


「まぁ~、今はねぇ~、詳しい事は言えませんがね、あのお方は、殿様の信頼も厚く、他の若い


お侍様からも信頼されておられるお方ですよ。」


「でも、一体、何故、げんたが、お城に行くんですか、私は、何を聴いても驚きませんので、聞


かせて下さい。」


「お清さん、実は、私も、知らないのですよ、先日、お城に呼び出されましてね、その時、源三


郎様から、手先の器用な人を探して要ると聴かされ、私が、げんたの名前を、申し上げたのでね


正か、この様な事になるとは考えもしなかったのです。」


「でも、げんたに、一体、何を作らせるんですかねぇ~、もう、私は、心配で、心配で、昨日も


眠れなかったんですからねぇ~。」


「ええ、私も、よ~く、分かりますよ、だって、私が、一番、驚いて要るのですからね。」


 伊勢屋もだが、母親にすれば、昨日、突然来るなり、お城の来いと言われた相手が、家老の息


子と聞けば、余計、恐ろしくなるのも当然の話しで有る。


 伊勢屋と、げんた親子が暫く歩くと、伊勢屋が言った様に、米問屋の中川屋、旅籠の大川屋が


待っていた。


「中川屋さん、大川屋さん、お待たせしました。」


「いいえ、私達も、丁度、今、来たところですので。」


「では、参りましょうか。」


 げんたと、母親は、伊勢屋の後に、中川屋と、大川屋は、げんた親子の後を歩いて行く。


 お城までは、少し距離は有るが、会話は途切れる事も無かったのが幸いしたのか、思っていた


よりも早く、城の大手門に着き、門番に告げると、何も言わず通されたので、母親は、何度も、


頭を下げて要る。

 

 源三郎が居る部屋は、何時も開放され、城の侍達が出入りして要る。


「あの~。」


「これは、これは、伊勢屋さん、ご苦労様ですねぇ~、ご迷惑をお掛けしましたねぇ~。」


「さぁ~、さぁ~、皆さん、お入り下さい。」


 伊勢屋達が、部屋に入ると、大勢の侍が、真剣な顔付で、話し合って要る。


 侍達は、殿様の命令では無く、自らの意思で、源三郎の行って要る、計画に参加している。


「皆さん、少し聴いて下さい。」


 源三郎は、若いが、今は、誰もが一目置く人物で、直ぐ静かになり、一斉に注目し、親子が驚


くよりも、伊勢屋達の驚き様は大変なもので。


「あっ。」


 大川屋が、声を上げたのは、侍達の着物で、一体、どの様にして集めたのか、全員が、農民の


姿で有る。


「ねぇ~、お母さん、げんたさん、私が、言った通りでしょう、此処ではね、着物は全く関係が


無いのですよ。」


 源三郎も、農民の作業着姿なのだ。


「皆様、これからが、忙しい時に、申し訳、御座いませぬ、実は、此処に、今日、着て頂いた、


こちらが、げんたさんです。


 この、げんたさんは、大変、手先の器用なお方で、何れ、私達の仕事に参加して頂けるやも知


れませぬが、今日は、皆様のお姿を見て頂けると思い、無理を言って、着て頂きました。」


 母親は、驚くの余り、震えて要るが、当の、げんたは、平然とした態度で。


「お母さん、げんたさん、分かって頂けましたか、これが、今、我々の着物と申しましょうか、


衣装と言う訳ですよ。」


「あの~、皆様は、お侍様ですよねぇ~。」


「はい、勿論ですよ。」


「でも、何で、農民の着物を着てるんですか。」


「はい、では、今から、詳しく説明しますのでね。」


 この後、源三郎は、げんたにも、母親にも分かる様に優しく話を聴かせるが、まだ、子供のげ


んたに、全てを理解する事は無理としても、今は、話を聴かせる方法が最善の策で有る。


 全ての話を終えると。


「源三郎様、では、私達は、以前と申しますか、父の代から幕府に報告していたと言われるので


しょうか。」


「はい、その通りですよ、殿も、ご家老も、切腹するのは何時でも出来るが、其れよりも、何も


知らない領民までもが咎められる事だけは避けたいと、申されており、今、家臣の全員が、私の


考えた秘策を完成させる為、役目の無い者、役目が終わった者達が、有る、特別な役目と申して


良いのか分かりませんが、仕事に入っております。」


「では、私達が、報告するなれば、一体、どの様な報告をすれば良いのでしょうか。」


「中川屋さんは、米などの問屋ですが、今年も、我々が、思った以上に収穫は無かったと、です


が、余り少ないと、反って不審に思われるますので、其れを、今、飯田様達が、詳しく調べてい


るのです。」


「あの~、お侍様、げんたには、一体、何を作らせるんですか。」


「其れは、簡単にお話しが出来ないと申しましょうか、私自身が、まだ、はっきりと、理解が出


来ておりませんが、そうですねぇ~、弐~参日の内に、出来れば、げんたさんにも、一緒に行っ


て頂き、其処で、お話しをする方が、げんたさんにも、分かって頂けると思っておりますが。」


 源三郎は、げんたを、海岸に有る洞窟に連れて行くつもりだ。


「でも、その前に、皆さんは、此処で見られた事は誰にも話さないで頂きたいのです。」


「源三郎様、私達は、どなたにも口外は致しませんので、お清さんも、げんたも分かったな。」


「はい、勿論で、御座います。」


 母親は、余程、他人には知られたくない秘密だと思ったが、げんたは、先程から、何やらを、


考え込んで要る。


「げんたさん、どうされましたか。」


 源三郎は、げんたの顔を覗き込むと。


「なぁ~、お侍さん、オレが、若しも、作るとしてだけれど、毎日、お城に来るのか。」


「いや、其れは、まだ、分かりませんよ、げんたさんの気持ち次第ですからねぇ~。」


「げんた殿、是非、我らを助けて下され、お願い申す。」


 森田が、頭を下げた。


 何と言う侍だ、町民の、其れも、相手は、子供だ、その子供に頭を下げるとは。


「げんた殿、我らは、殿の為でも無い、ご家老の為でも無いのです。


 全ては、農民や、漁師など、領民の為なのです。」


 その様な事を言って、若しも、殿様の耳にでも入れば、大変な事になるではないか、と、伊勢


屋達は驚き、その時、またも、突然、殿様が現れ。


「源三郎、源三郎は、いずこじゃ。」


「あっ、お殿様。」


 伊勢屋達は、一斉に頭を下げた。


「げんた、お殿様だよ、頭を下げて。」


「殿、何事で、御座いますか。」


「源三郎、如何じゃ、何か、足りぬ物はないか。」


 殿様が、ふと見ると、げんたが目に入った。


「源三郎、その方が申しておった、げんたと申す吾人とは、この者なのか。」


「はい、左様で、御座います。」


 またも、源三郎の大芝居で、げんたの気持ちが少し動いたと見た、源三郎が、殿様に頼んだ。


 今の、源三郎にとっては、最高の理解者は殿様で、その最高の理解者で有る、殿様の期待を


裏切る訳にも行かない。


「そうか、その方が、げんた殿と申すされるのか、源三郎の無理な頼みじゃが、聴いてはくれぬ


か、余はなっ、切腹も覚悟しておる、お主が、どうしても、嫌だと申すならば、其れは仕方の無


い事じゃが、源三郎達は、余の為ではない、領民の為にと、致しておる事なのじゃ、よ~く、考


えて、源三郎に、返事をしてくれよ、源三郎、済まぬ、皆と、話が終わってからで良い、余のと


ころに来てはくれぬか。」


「はい、承知、致しました。」


「皆の者、済まぬの~。」


 殿様は、源三郎の指示通り、げんたに言ったので、げんたもだが、其れ以上に、母親も、伊勢


屋達は、腰が抜ける程の驚きで有る。


「母ちゃん、、お殿様が、オレの事をげんた殿って。」


「げんた、大変だよ、だって、こんなに、偉い、お侍様が要るのに、お前の事を知ってるって、


母ちゃんは、もう、腰が抜けそうで、何て言ったらいいか分からなくなったよ。」


「お清さん、私達もですよ、正か、お殿様が、げんたに来て欲しいって、そんな話、今まで聞い


た事が無いですよ。」


 中川屋も、大川屋も頷き。


「伊勢屋さん、これは、大変な事ですよ、源三郎様、お殿様は、何でもご存知なのですか。」


「はい、勿論ですよ。」


「源三郎様、何故、お殿様は、ご存知なのでしょうか。」


「いゃ~、其れは、私も、知りませぬが、殿様には側近が多いので。」


「左様で、御座いましたか。」


 伊勢屋は、探りを入れてきたのか、だが、今の伊勢屋には、誰が、殿様に報告をして要るなど


とは全く関係が無いはずだ、まだ、何処かに、幕府の密偵だとでも言うのが残って要るのか。


 源三郎は、やはり、伊勢屋達には、余り、内部の事などは知らせるのは控え様と思った。


「げんたさん、別に急ぐ事は有りませんので、ゆっくりと考えてからで宜しいですからね。」


「はい、お侍様。」


「今日は、これで、一応、終わりとしましょうか、私も、他に役目が有りますのでね。」


「はい、源三郎様。」


 母親も、正かの展開に、今は、返事する事は出来ないのだろうと、源三郎は、思った。


「では、私が、大手門まで、一緒に参りますのでね。」


「はい、皆さん、有難う、御座いました。」


 母親は、部屋の家臣達に頭を下げ、げんたも、同じ様に下げ、伊勢屋達と部屋を出、大手門ま


で送って行った、源三郎に、分かれを告げ、帰って行く。


 源三郎は、その足で、殿様の部屋へと向かい。


「殿、誠に有難う、御座いました。」


「源三郎、あれでよかったのか。」


「はい、殿には、大変、失礼を致しました。」


「良いのじゃ、その方達が、一生懸命に行っておるのに、余が、何もせぬ訳には参らぬ。」


「はい、母親も、げんたも、正か、殿様が、来られるとは思っても見なかった様で、驚くと言う


より、大感激を致しておりました。」


「そうか、そうか、其れは、何よりじゃ、して、あのげんたと言う子供じゃ、そちは、何をさせ


るつもりなのじゃ。」


「殿、少し。」


「うん、分かった、では参ろうか。」


 殿様も、次第に分かってきた、この部屋で秘密の話は出来ない、その為に、天守閣の最上階に


行けば、誰にも聴かれる事は無いので有る。


「源三郎、今日は、良い天気じゃ、其れで、先程の話じゃが、げんたに、一体、何を作らせるの


じゃ。」


「はい、実は。」


 この後、源三郎は、殿様に詳しく話すと。


「何じゃと、源三郎、誠、その様な事が出来るのか。」


「殿、私も、まだ、確信は有りませぬ、ですが、あの洞窟を最大限に利用するならば、私が、申


し上げた物を作れるのは、今は、げんただけで、御座います。」


「う~ん、だが、簡単に出来るのか、源三郎の考えて要る物は。」


「いいえ、私も、簡単に作れるとは思っておりませんが、先日、私が、げんたと母親の二人が商


いをしております、店に行ったことろ、其れは、もう、見事な物でして。」


「源三郎が、見ても、感心する程も物なのか。」


「はい、其れは、もう、あのげんたと言う子供が作ったとは思えぬ、作り物で、御座います。」


「じゃが、源三郎、その小物と、今度、作らせる物とは、全く違うと言ってよい程の物が違うの


じゃぞ、其れは、分かっておるのか。」


「はい、勿論で、御座いますが、今は、げんたにだけ作れると、私は、判断致しましたので。」


「そうか、源三郎が、其処まで考えておるのじゃ、余は、何も心配せぬが、其れよりも、今日、


来ておった、あの伊勢屋達じゃがの~。」

 

 やはり、殿様だ、伊勢屋の言動よりも、他を見ておられたのだろう。


「はい、注意致します。」


「だが、余は、あの伊勢屋が気になるのじゃ、あの目の動き、只者では無いと見たが。」


「はい、私も、その様に思いましたが、殿、伊勢屋だけを注意するのでは駄目だと、私は、思っ


ておりますが。」


「源三郎、余も、分かっておるぞ、奴ら、言葉では改心したと申しておるが、まだ、心の奥には


幕府の密偵だと。」


「はい、勿論、其れも考えておりますが、殿は、余り、深入りせずに、げんたの話がどの様にな


るのか、今は、まだ、何も断言出来ませぬが、私は、これからは、伊勢屋、中川屋、大川屋の三


名を、余り、お城には入れぬ方がよいと考えております。」


「じゃがの~、そうは言ってもじゃ、行き成り、明日からの登城は許せぬとは言えぬぞ。」


「はい、私も、少し時を掛けて考えてたく思います。」


「うん、其れが良い、して、森田達の処遇は。」


「はい、あの方々は、今まで、伊勢屋達に知らせておりましたが、先日の一件以来、誠に改心さ


れたと思っておりますが、伊勢屋達の問題が有りますので、あの方々には、大変、申し訳ないと


存じますが、重要な役目を、今の段階では、お頼み申す訳にも行かないと考えております。」


「源三郎、一難去ってまた一難じゃの~。」


 源三郎は、当初、森田達、三名には、重要な役目に就かせる事までを考えていたのだが、殿様


が言う様に、伊勢屋達を、今だ、完全に信用は出来ないので有る。


 三名の者達にも、伊勢屋達と関わりを持たせながらの役目を、其れは、彼らには重要な役目だ


と思わせる必要が有る。


「源三郎、話は変わるのだが、今は、お主一人で行なっておると思うじゃ。」


「はい、毎日の役目とは、別にでは有りますが役目も御座いますので、大変では、御座いますが、


今は、何とか熟せておりますので。」


「余も、よ~く、存知おる、其れでじゃ、源三郎、お主が、全ての役目を行うには、大変な無理


が有ると思うが、どうじゃ。」


「はい、私も、正直に申し上げまして、この手が、四本、いや、八本有っても足りませぬ。」


「そうで有ろう、其れでじゃ、余も、この数日、考えておってのじゃが、源三郎に、何人か配下


の者を付けては如何じゃ。」


「配下と、申されますと。」


「源三郎がじゃ、主な役目を熟し、まぁ~、余の考えたところでは、源三郎の手足となって動い


てくれる者達の事なのじゃ。」


 殿様も、馬鹿では出来ない、源三郎は、今、大変、重要な役目に就いている。


 殿様は、源三郎の役目の中で、少しでも負担を減らす事が出来れば、重要な問題に掛かり切り


になれると考えたので有る。


「殿、有り難き事では、御座いますが、今の、私の立場では、少し無理が御座いますので。」


 源三郎は、自らは、まだ、若輩者で有ると、だが、若輩者の、源三郎が、先輩達を差し置いて


配下を持つと言うのは、反感を持たれると。


「のぉ~、源三郎、お主は、若輩者だと、今でも、その様に思っておるのか。」


「はい、勿論で御座います。」


 源三郎は、殿様が見抜いていると知った。


「のぉ~、源三郎、お主は、役目の都合上、一人では出来ぬ役目も有るのじゃ、今の、源三郎が、


そうなのじゃ、源三郎は、一体、誰の為の役目と心得ておるのじゃ。」


「はい、私は、全て、領民の為だと。」


「そうで、有ろう、ならば、源三郎が、動ける様にと、数名の配下を持ったとしても、何が、悪


いのじゃ。」


「殿、ですが。」


「源三郎、他の者達全てが、お主よりも先輩だと思っておるのは、余も、知っておるぞ、だが、


よ~く、考えて見るのじゃ、何も、先輩達の中から選べとは申しておらぬは、源三郎にも、幼き


頃からの者達がおらぬはずが無いで有ろう。」


 殿様は、一体、何を考えて要るのだ、幾ら、家老の息子とは言え、全てが、源三郎の思い通り


には出来ない。


 だが、殿様は、思い切りの良い考え方の持ち主で有る。


「源三郎、お主、何故に、あのげんたと言う子供が必要になったのじゃ。」


「はい、げんたの手先が並外れていると思ったので、御座います。」


「では、聴くが、げんたと言うのは、武士の子供なのか。」


「いいえ、町民の子供で、御座います。」


「そうで、有ろう、源三郎は、武士や町民と言う垣根を超え、げんたと言う子供を登用したいと、


考えたのでは有るまいか。」


「はい、誠に、その通りで、御座います。」


「其れならばじゃ、源三郎の幼い頃からの者達を登用してはどうだと、申しておるのじゃ。」


「殿、有り難き、お言葉で御座います。


 私の、幼い頃の友は、今も、役目に就いておりますので。」


「何も、今の役目が重要でなければ、登用致せ、良いか。」


「はい。」


「源三郎、その者達は、下級武士で有ろう。」

 

 何故、殿様が知って要るのだ、父は、知って要るだろうが、他の者達が知る程の者達では無い。


「源三郎は、今日から、余の直属と致す、そしてじゃ、その者達は、源三郎、直属の配下に致す


のじゃ、余の厳命じゃ、分かったのか。」


「はい、有り難き、幸せに御座います、では、早速に。」


「源三郎、何も、急ぐ事では無い。」


「はい、仰せの通りに。」


「話しは変わるが、源三郎は、毎日、家に帰っておるのか。」


「はい、何時も、夜遅くでは御座いますが。」


「では、母上は、お主が帰るまで起きておるのじゃな。」


「はい、その通りで、御座います。」


「其れでは、源三郎の、母上は眠る間も無いでは有るまいか。」」


「はい、時々では御座いますが、私が、戻り、食事が終わる頃には、夜が明ける日も御座います


ので、母上は、仕方がないと。」


「源三郎、この城で泊まれば、城と、自宅を往復する事も無いではないのか。」


「はい。」


「だがのぉ~、毎日では無いぞ、源三郎、数日間、役目を行えば、一日は、必ず休むのじゃ。」


「殿、ですが、私が、その様な休みを頂くなどとは滅相も、御座いませぬ。」


「源三郎は、何か、思い違いを致しておるのではないのか、今、源三郎に、若しもの事が有れば、


一体、他の者達は、どうするのじゃ、余では、源三郎の役目を果たす事などは出来ぬぞ、分かっ


ておるのか。」


「はい、勿論、承知、致しております。」


「のぉ~、源三郎、余が困るのでは無いのじゃ、全ての領民が困るのじゃぞ。」


「はい、ですが、私は、皆様の為に。」


「だから、申しておるのじゃ、先程も申したが、源三郎だけの寝所を設ける事にした、じゃが、


源三郎の寝所を、他の者達に知られると困る、そうじゃ、余が、直々に調べて置く、それと、腰


元もじゃ、良し、余は、決めたぞ。」


「殿、その様な。」


「良いのじゃ、腰元も、源三郎の配下とする。」


 もう、源三郎は、驚きと言うよりも、殿様が、次々と決めて行くので、少しと言うよりも呆れ


果て、何も言う事も出来ない。


 殿様は、今までとは全く違う考え方を始めた。


 今までは、殿様に、反発する事などは持っての外で、 源三郎は、全て、殿様の指示に任せる


事に決めたので有る。


 今、進めている、工事と言うか、作業は、全て、内々で行なっており、源三郎を始め、多くの


者達も、大変な神経を使い様で、特に、今の源三郎に取っては、城下の者達に知られる事だけは


避けなければならない。


「源三郎、全て、余に任せるのじゃ、悪い様にはせぬわ。」


 殿様は、この天守閣で、源三郎と、話す時が、一番、気持ちが良いのだろうか、其れと言うの


も、此処での会話は、誰にも聴かれる心配は無い、其れだけの事なのだ。


「源三郎、では、そろそろ、戻るとするか、余り、此処で長居をすると、不審に思う者も居るか


らのぉ~。」


「はい、承知、致しました、其れで、私は、先程、申されました者達に話を致しますので。」


「うん、分かった、後は、余から、権三に、申し付けて置くぞ。」


「はい、数々の、ご配慮、誠に有り難く、存じます。」


 殿様と、源三郎は、何事も無かった様に戻って行く。


 源三郎は、殿様の厳命と言う事を言った、役所で、上役に説明し、三名を呼び出し、大手門近


くに有る、役所に連れて行くが、驚いたのは、上役よりも、呼び出された、三名の者達で。


「さぁ~、お座り下さい。」


 三名は、一体、何事が起きたのかも分からない程緊張して要る。


「ご貴殿達は、本日より、私の配下に入って頂く事になりました。


 其れで、仕事と言うのは、他でもない、貴殿達に、今から話しますので、よ~く、聴いて頂き


たいのです。」


 源三郎は、三名の者達に話し、そして。


「詳しくは、後日、ゆっくりと説明をしますのでね。」


「源三郎様、殿が、我々を指名されたのでしょうか。」


「いいえ、私ですよ、殿は、貴殿達を、源三郎の片腕にせよと、申されましたよ。」


「ですが、私は、今、源三郎様が、どの様なお役目に就かれているのかも知らないですが。」


「そうでしたか、其れは失礼しました。」


 源三郎は、幼い頃、この三名と、良く遊んだと、殿様に言ったところ、すぐさま、三名を配下


にせよと言われたのだと、だが、彼らは、源三郎が、今、どの様な役目に就いて要るのかも知ら


なかった。


「実はね。」


 源三郎は、詳しく説明すると。


「源三郎様、では、私達は、その海岸で役目に就くのでしょうか。」


「いいえ、其れは、貴殿達の役目では有りません。


 ですが、他の者達は、その場所すらも知りませんが、私が、これからも、色々な役目を出して


行きますので、その都度、貴殿達が伝える、これが、今、考えております内容ですが、これから


は様子も変わってきますので、その時々に合わせ伝える内容も変わります。


 今は、私が、一人で行なっております為に、他に重要な仕事が出来ないのです。」


「では、私達は、当分の間、源三郎様が、出されました要件をを伝える役目と、申されるので


しょうか。」


「今は、其れだけですが、何れ、私の仕事も、貴殿達が行って頂く事になるやも知れませんので、


其れで、貴殿達は、私と同じ、殿直属となりますので。」


「えっ、殿直属と、申されますと、大変、重要な役目だと、申されるのでしょうか。」


「はい、その通りですよ、ですが、私達の役目は、権限を振り回すのではないのです。


 全て、相手方が納得されて、初めて、役目を終えると言う事になりますので、失礼ですか、今


までの役目よりも、数段厳しいお役目だと言う事だけは覚悟して置いて下さい。」


「源三郎様の申される事を、私達が理解せねばならないと。」


「はい、その通りですよ、仮にですが、私が、直二郎に納得して頂き、仕事に就いて頂くと言う


ので有れば、私が、直二郎殿から、何も聴かれても返答出来なければならないと言う事です。


 私が、簡単に考えた内容で有ったとしても、相手にすれば、全て納得出来なければ、参加して


頂け無い事も有り得ます。


 其れでは、何も意味がないのですよ、分かって頂けますか。」


「では、相手に、お話しをする前に、我々が、質疑応答する必要が有るのでしょうか。」


「はい、其れは、大変、重要だと思いますよ、殿は、皆様が思われている以上と、言うよりも、


大変、頭の良い方で、私達が、考える以上に物事を考えておられますので、私も、時々と言うよ


りも、先程も返答に困りましたよ。」


「源三郎様、では、私達は、真剣に考え、どの様な内容の質問をされても、その場で返答出来な


ければならないと、申されるのでしょうか。」


「はい、私は、その様に思いますよ、貴殿達は、今までの役目よりも大事だと考えておられると


思いますが、殿も、ご家老も、私もですが、腹を切るのは、何時でも出来ると考えおります。」


「えっ、源三郎様、殿や、ご家老は、腹を召される、ご覚悟の様に聞こえたのですが。」


「はい、これから先、貴殿達の役目と言うのは、我が藩が、生き残れるのか、其れとも、取り潰


しになるのか、それ程にも重要な役目だと言う事なのですよ。」


「では、ご家中の皆様方も、ご存知なのですか。」


「いいえ、全ての人達が、ご存知だとは思いませんが、近い内に、我が、ご家中の方々にも、お


話し申し上げる所存ですので。」


「ご重役は、ご存知なのでしょうか。」


「はい、勿論、ご存知ですよ。」


「源三郎様、私も、覚悟を決めました。


 源三郎様の手足となり、お役目を、全うする所存で、御座います。」


「私もです。」


「源三郎様、私の命、お預け致します。」


「皆さん、有難う、但し、ご家族には、何も、お話し下さるな、何れ、その時が参りますれば、


私が、お宅に参り、直接、お話しを致しますので。」


「はい、私達は、全て、源三郎様に、お任せ、致しますので。」


 三名に、この先、一体、どの様な役目に就くのか詳しく話もしなかったが、家中の者達の中か


ら、特に、選んでくれたと、其れに感激したので有る。


 一方、殿様の部屋では、ご家老様と話し合いをしている。


「殿。」


「権三か、如何致したのじゃ、源三郎の事なのか。」


「はい、左様で、御座います。


 この頃、話をする機会も無く、一体、どの様になって要るのかと思いましたので。」


「その前にじゃ、源三郎の帰宅が遅いと聴いておるが。」


「はい、特に、近頃は、遅くなり、私も、心配しておる次第で、御座います。」


「うん、其れでじゃ、権三、お主に話が有るのじゃよ。」


「えっ、私めに、御座いますか。」


「源三郎の寝所を、この城の中に設ける事にしたぞ。」


「えっ、一体、何が、有ったので、御座いますか、私の奥も、心配だと、申しておりました。」


「その話じゃ、余は、源三郎が、余りにも根を詰め行なっておるので、遅くなるので有れば、城


に泊まれば、朝もゆるりと出来様と考えたのじゃ。」


「殿、何と、申してよいか分かりませぬ、源三郎も、殿の、ご配慮に感謝する事と存じます。」


「余は、源三郎の役目などは、到底出来ぬ、若しもじゃ、源三郎に、何かが起き、今の役目が出


来ぬ様になれば、余が、苦しむよりも、領民が、苦しむ事になるのじゃ。」

 

 殿様は、我が身よりも、領民を気遣うので有る。


「殿、私もで、御座います。


 我が身より、領民が大切だと申されます、殿のお気持ちは、私、以上に、源三郎が知っており


ますので。」


「権三、余は、今、源三郎が中心となって進めておる工事が、幕府に知れずに終わる事を願って


おるのじゃ、その為には、源三郎が、町民も漁師も、更に、農民達も巻き込んで行っておる仕事


に、余が、出来る事ならば、どの様な事でもするつもりなのじゃ。」


 殿様は、幕府との戦をするのではなく、領民が豊かになる事だけを考えて要る。


「殿、私も、今は、この工事が無事完了する事だけを考えております。」


「じゃがのぉ~、権三、お主は、我が藩の筆頭家老なるぞ、源三郎の事は心配すぜとも良い、家


老の勤めを頼むぞ。」


「はい、承知しております。」


 その数日後、田中直二郎、鈴木広一郎、上田弥三郎の三名と、源三郎の四名は、殿様に呼び出


されたので有る。


 三名は、源三郎の下で、新しい役目に就く事になり、その事を、殿様に報告するので有る。


「源三郎、その方が、選んだと言うのは、その者達なのか。」


「はい、左様で、この者達は、私が、幼き頃より、よく、存じており、私の、お役目も補佐する


と言う、重大なお役目を引き受けて頂きました。」


「うん、其れは何よりじゃ、で、その方達は、源三郎より、詳しく聞いておるのか。」


「殿、申し訳、御座いませぬ、まだ、全ての話は致しておりませぬが、私は、先に、殿に、お目


通りをと考えており、この後、詳しく話を致す所存で御座います。」


「そうか、分かった、其れで、その方達に言って置く、源三郎から詳しい話を聴いた、だが、と


ても、その役目は出来ぬとなったとしてもじゃ、他の者達には、一切、話すで無いぞ、分かって


おろうな。」


 三名は、改めて、殿様に頭を下げるが、この先、どれ程の苦難が有ろうと、源三郎の信頼を裏


切る訳には行かぬと思ったので有る。


「源三郎、後は、その方に任せるぞ。」


「はい、有り難き、幸せに御座います。


 其れでは、殿、我々は、これにて、失礼致します。」


 源三郎と、三名は、殿様に礼を言って、源三郎の詰所に向かった。


 この詰所は、源三郎だけの部屋で、其処には、この詰所専属のと言っても良い、腰元達がおり、


腰元達は、殿様の命で、源三郎の身の周りの世話係りの役目に就いて要る。


「さぁ~、この詰所は、私、以外、誰も入る事は有りません。


 其れに、腰元も、この詰所専属ですからね、何も心配要りませんよ。」


「源三郎様、私達は、この先、一体、どの様なお役目を。」


「分かりました、では、今から、詳しく、お話しを致しますが、其れよりも、大事な話が有りま


すので。」


 源三郎は、この後、役目の話よりも、何故、今、進めている工事が大事で有るか、そちらの話


に重点を置いた。


 詰所の腰元達にも、源三郎は、話をして、腰元達は理解したのは間違いは無かった。


 話は長くなるが、三名の者達は、真剣に聴き。


「分かって頂けましたか。」


「はい、私は、源三郎様に、声を掛けて頂いただけでも、有り難いと思っておりました。


 其れにもまして、その様な重要な、お役目、私は、命を懸け、殿様、いいえ、領民の為、必ず、


成し遂げる所存で、御座います。」


 田中直二郎は、この三名の中でも、源三郎を兄だと思っている。


「源三郎様、私も、直二郎殿と、同じで、御座います。」


 「私もで、御座います。」


「そうですか、有難う、お主達が協力して頂けると、百人、いや、千人力で御座います。」


「それ程までに、私達の事を。」


「実はねぇ~。」


 源三郎は、海岸の洞窟の話をすると。


「では、私達も、洞窟で。」


「いいえ、其れは、私が、手配しておりますのが、其れより、漁師さん達に食料を運ぶ役目が、


今、どなたにも、お願い出来ておらず、私が、数日に、一度、運んで要るのです。」


「何故、源三郎様が運ばれるのですか、私は。」


「まぁ~、其れがね、洞窟の仕事は、我が藩の誰も知りませんのでね。」


「では、漁師だけが、今、工事に入っているのですか。」


「はい、その通りですよ、私も、本来ならば、皆様方にお手伝い出来ればよいのですが、この藩


にも、幕府の密偵が入り込んでおりますのでね。」


「えっ、この藩中にで、御座いますか。」


「まぁ~、其れは、全て解決しましたが、私も、正直言って、まだ、全ての方々を信頼している


のでは有りません。」


「ですが、漁師は信頼されておられますが。」


「其れはね、今、説明しても、分かるものでは有りませんので、またの機会にと、其れよりも、


先程、申しました、漁師達に食料を運ぶ話ですが、全てが、食料では有りませんので。」


「では、別の物も運ぶのですか。」


「はい、洞窟の掘削に必要な道具が有り、其れを持ち込むのです。」


「何故ですか。」


 彼ら、三名は、何故、それ程までにして秘密に事を進めなければならないのか、源三郎の話を


聴いたが、全てを理解するには、まだ、相当な時を要するので有る。


「まず、普通で、物事を考えて下さいね、漁師が、鍬やクワを何時も必要とするでしょうか。」


「其れは、考えられませんねぇ~、畑で作物を育てるならば、分かりますが。」


「其れなのですよ、漁村では、殆ど必要の無い物を持ち込むのですよ、其れも、多く必要でね、


幕府の密偵が、何処に要るのかも、我々は、注意しておりますが、全てが分かるはずも有りませ


んので、では、どの様にするか、鍬やクワなどの道具を運び込むとなれば、夜中しか有りません


のでね。」


「では、我々、三名が、その道具を運ぶ役目に。」


「はい、その通りですよ、このお役目は、誰でもよいと言うものでは有りませので、其れで、私


が、殿にお願い申し上げ、貴方方、三名を選んだのです。」


 彼らは、道具を運ぶ為の役目が、今は、それ程大事だとは思っていない。


「源三郎様、それ程までに多くの道具が必要なのでしょうか。」


「其れは、何故かと申しますとね、漁師さん達が進めている洞窟は、全て、岩石で、その岩石を


掘り進めるとなれば、頑丈な鉄物が要るのですよ、相手は、岩石ですので、道具類は数日で壊れ


ますのでね、壊れた道具は修理するのですが、其れでも、簡単では有りません。


 鍛冶屋も、秘密の場所で、修理し新しい道具を作り、有るところに預けて要るのです。」


 相手が岩石ならば、幾ら、鉄物だと言っても破損する、破損すれば掘削の工事は止まり、新し


い道具が届くまでは進めない。


 その為に、今までは、源三郎が、一人が肩に担いで運んでいた。


「私も、他の役目が多くなり、道具を運ぶ回数が減り、その為に、掘り進めております工事が遅


れて要るのです。」


「源三郎様、分かりました。」


「そうですか、其れで、今夜、運び出すのですが、日が暮れてから行きますので。」


「はい、其れで、私達は、どの様にすればよろしいでしょうか。」


 この後、源三郎が、説明し、源三郎と、三名は陽が暮れるのを待ち、源三郎の自宅、其れは、


家老の家に向かった。


 源三郎は、何時もの様に表から入るが、三名は裏側に回った。


 家老の自宅裏側は林になっており、その林を抜ければ、海岸に向かう道に出る。


「荷車に積み込み込んで下さいね、下は、道具で、その上に食料を。」

 

 だが、何故、食料を運ぶのだろうか。


「源三郎様、この鉄の棒は、一体、何に使うのですか。」


 彼らも、初めて見る鉄の棒で。


「其れですか、これが、一番と言っても良い物でね、鏨と言って、これを岩に当て、大きな金槌


で打つのです。」


「では、この金槌と、鏨が重要だと。」


「はい、今までは、私、一人でしたので、多くは運べなかったのですが、今日は、荷車で運ぶので、


大助かりです。」


「源三郎様、私も、少し分かり掛けてきました。


 源三郎様が、申されまする様に、漁師が、この様に大量の鏨や、金槌は必要有りませんから、何も、知


らぬ者達が見れば、不思議と言いますか、不穏な動きと取られると思います。」


「はい、正しく、その通りで、貴方方は、まだ、知りませんが、何故、この様な道具が必要なのか、


其れと、食料が必要なのか、今から行って、現場をご覧になれば、直ぐ分かると思います。」


「はい、分かりました。」


 三名の者達は、一刻も早く、源三郎の言う現場を確かめたいと思うので有る。


「では、参りましょうか。」


「はい。」


 荷車には、大量と言える、道具類を積み込み、更に、1台の荷車にも大量の食料が積み込まれて、


家老宅の裏の木戸から出ると、直ぐに林で、この林は、普段でも人の立ち入りは殆ど無い、だから


と言って油断は禁物で有る。


 林の中を抜けると、やがて、お城の北側に出る、其処からは、一里程で、海岸に着く。


 源三郎達、四人は、言葉少なく、二台の荷車を引く、やがて、海岸近くになると、月明かりで、


海が、キラキラと輝いている。


「はい、此処で、一度、止まって下さい。」


 源三郎が、提灯を振ると、暫くして、多くの漁民が集まってきた。


「源三郎様、有難う、御座います。」


「皆さんも、有難う、では、お願いします。」


 漁民は、手慣れて要るのか、道具類を洞窟に運んで行く、食料も、一度、洞窟に運び入れる。


「あの~、源三郎様、こちらのお侍様は。」


「これからは、この三名の者達が運ぶ事になりましたので、皆さんも宜しくお願いしますね。」


「はい、分かりました。」


「私達、三名の者達が、これから、源三郎様に代わり、運ばせて頂きますので、皆さん、宜しくお


願いします。」


 三名の者達は、漁民達に頭を下げた。


「では、今から、現場に参りましょうか。」


「源三郎様、もう少しで、引き潮も終わりますので、丁度、宜しいですよ。」


「そうですか、今夜は、月明かりで、少しは楽ですねぇ~。」


「はい、其れに、海も静かですので。」


 四人は、漁師達の小舟に乗り、藩中でも殆ど知られていない洞窟へと入って行く。


「お侍様、頭を下げて下さい、危険ですので。」


「はい、分かりました。」


 此処では、漁民達の指示に従うのが当たり前なのだ。


「あっ。」


「えっ、何と言う。」


 彼らは、驚くのも無理は無かった、海岸に洞窟が有ると言うのは聞いてはいたが、最初に入った


洞窟は、何と大きな洞窟だ、中は、松明が数百本も点けられ思った以上に明るく、小舟は、ゆっく


りと奥へと進んで行き、そして、一番、奥に着くと。


「さぁ~、降りて下さい、まだ、先に進みますので、松明の明かりで、以外と明るいですが、足元


には気を付けて下さいね。」


「はい、源三郎様、私は、この様な大きな洞窟のが有るとは知りませんでした。」


「この先まで、今は、岩石の掘削を行なっておりますから。」


 奥からは、金槌で、鏨を打つ音が聞こえる。


「源三郎様、この奥行きですが。」


「最初、見た時は、一町程でしたが、其れから、掘り進み、今では、半町は進んだと思います。」


「えっ、半町もですか、ですが、まだまだ、先は長いのですねぇ~。」


「はい、でも、お城までは、約一里は有りますので。」


「源三郎様、でも、この洞窟に、どの様な方法で保管するのですか。」


「ええ、ですが、今は、城まで貫通させるのが、優先ですので、後、一町か、二町も掘り進めば、


其処からは、備蓄用に広げる予定となっておりますよ。」


 洞窟内は広く、奥行きが、約一町、幅が、約半町も有る、今は、小舟を着けるところも無いが、


人手が増えれば、幅も広げる予定だ。


「この洞窟が、今は、引き潮の時だけ、入る事が出来るのですが、入り口を、余り広げる訳にも行


きませんので、内部を広げ、小舟が係留出来れば、将来は、今の小舟よりも大きな船の出入りが出


来る様になれば備蓄も多く出来ると考えております。」


「源三郎様、ですが、洞窟内に係留させる為には、大きな、え~っと、何と言うのか分かりません


が、係留地が必要になるので。」


「問題は、その係留地を作る事ですがね、漁師さんに言わせると、表面は、出来るだけ平らの方が


よいと、其れに、海水に浸かって要るところも平らな方がよいとね。」


「海水に浸かっていないところは出来ますが、問題は、海中の工事となれば、普通の人達では無理


だと、私は、思うのですが。」


 源三郎は、何故、げんたが必要なのか、其れは、海中の作業の為には、どうしても必要な物が有


るのだと、其れを果たして、げんたが作れるのか、だが、今は、げんただけが頼りで有る。


「私もね、其れが、今、抱えている最大の問題と言う事なのですよ、その為に、今、一人ですがね、


参加出来るのか、出来ないのか、出来なければ、今後の作業も大幅な変更も考えなければなりませ


んのでねぇ~。」


「では、その人物次第と言う訳なので、御座いますか。」


「まぁ~、そう言う事になりますが、貴方方は、当面、数日に一度となるでしょうが、この役目を


お願いしたいのです。


 其れと、この現場に来られますれば、漁師に、何か必要な物は無いのか、其れを聴いて頂きたい


のですが。」


「はい、承知致しました。」


「源三郎様、此処の灯りですが、松明が多い様に思えるのですが、薪木も大量に必要なのでは。」


「はい、その通りで、漁師さん達が手配をされておられますが、薪木も必要なので、何処かで、薪


木を集める方法も考えて頂きたいのですが。」


「はい、承知致しました、私達、三人は、この現場での作業が進む様に考え、手配と言いますか、


探し出すのですね。」


「そう通りで、漁師さん達は、魚も獲らずに、この現場に来て頂いておりますので、先程、持って


着ました食料を少しですが、給金と考えお支払いしているのです。」


 彼らは、源三郎と、父で有る、家老が藩の為、いや、領民の為にと、私財を出して要る事を初め


て知ったので有る。


 其処に、現場で、岩石の掘削を行なって要る、数人の漁師が来た。


「あの~、源三郎様、後暫く掘削を行えば、一町近くになりますが、源三郎様は、何時頃から護岸


工事に入られる予定でしょうか。」


「申し訳有りません、今、全力で有る人物を、この作業の仲間にと思って、話を進めているのです


が、今、少し、お待ち願いたいのです。」


「はい、分かりました、オラ達は、今のまま掘り進んで行けば、よろしいのでしょうか。」


「はい、今、お城からも、掘り進めておりますので。」


「分かりました、源三郎様、其れで、オラ達は、この山の向こうの漁師にも話したんです。


 其れで、その村の人達も協力するって言ってきたんですが。」


「其れは、大変、喜ばしいお話しですが、その村と言うのは。」


「はい、オラ達の網元さんと、その村の網元さんとは、先々代からの知り合いで、オラの妹が、網


元さんの息子さんに嫁いだんです。」


「へぇ~、其れは、素晴らしい、お話しですねぇ~。」


「はい、其れで、オラが、源三郎様の事を話したら、網元さんも、源三郎様のお名前だけは知って


るって聞いたんで、話が進んだんです。」


「では、その村からも来て頂けるのですか。」


「はい、網元さんも、源三郎様のお役に立つんだったらと言われましたので。」


「そうですか、では、後で、その網元さんの家に案内して頂けますか。」


「はい、喜んで、行かせて頂きます。」


 漁師達は大喜びで、作業現場に戻って行く。


「源三郎様、私達も、同輩に話をします、みんな喜んで参加すると思います。」


「はい、其れは、私も、嬉しいのですが、余り、表立った事になると、城下に来ていると思われる、


幕府の密偵に知られ、不味い事になりますので。」


「はい、勿論、承知致しておりますので。」


「その前に、これだけは理解して下さいね、この現場でもですが、現場には、現場のやり方が有り


ますからね、この現場は、漁師さんの指示で動く事が大切ですよ、私は、侍だと言う様な言葉使い


も、態度も駄目ですからね、私達の役目と言いますか、藩の侍より、領民達の声を大事にして下さ


いね、あの人達が、多くの不満を持つと、何時、何処で知られるとも限りませんのでね。」


「はい、私達は常に、源三郎様が、接しておられる様にすればよろしいのですね。」


「私の、接し方が良いのか、悪いのか、其れは、分かりませんが、、漁師さん達とだけは、争わな


い様に、其れだけは、今後とも、忘れない様に、お願い申し上げます。」


「はい、確かに、承知致しました。」


「では、参りましょうか。」


 漁師と、源三郎と、其れと、三名は、半島を周り、隣の漁村に着き、早速、網元と話しをすると、


大いに盛り上がり、網元は、他の網元にも、一度、話だけはすると、この付近に点在する数十の漁


村は、何かにつけ、繋がりが有ると言うので、源三郎は、多くの味方と付ける事になった。


「では、皆さん、戻りましょうか。」


 源三郎と、三名は、荷車を引こうとすると。


「源三郎様、オラ達が、持って行きますので。」


「いや、其れでは、また、戻る事になりますので。」


「源三郎様、まだ、陽は高いですよ、お侍様が、荷車を引くと、余計に目立ちますので、オラ達が、


源三郎様のお宅まで運びますので。」


「そうですか、では、お願いします、私の家は。」


「は~い、よ~く、知ってますよ、林を抜けた、ご家老様の。」


「へぇ~、また、良く知っておられますねぇ~。」


「この浜のみんなは、オラもですが、誰でも知ってますよ、だって、源三郎様に若しもの事が有れ


ば大変ですからねぇ~。」


「そうですか、では、夕刻にでも置いてくだされば、後は、私が。」


「はい、そうさせて頂けます。」


「では、宜しくお願いしますね。」


 源三郎達は、漁師と別れ、城へと戻って行く。


 城に戻った、源三郎は、三名に、詳しく役目を話し、三名は、自宅へと帰った。


 今日は、大変な収穫だったが、あのげんたからは、今だ、連絡も無い。


 その頃、げんたも悩んでいる。


「母ちゃん、オレ、まだ、分からないんだ。」


「げんた、母ちゃんの事だったら、何も心配要らないよ、だって、源三郎様って、お侍様が約束し


てくれたんだからね、だけど、母ちゃんが、一番、驚いたのは、お殿様が、げんたの事を知ってる


って事は、源三郎様のお役目は、其れは、もう大変な事だと思うんだ、母ちゃんはねぇ~、げんた


にしか出来ないって、源三郎様が言ってたのが、嬉しいんだよ。」


「うん、オレも、あの時は、本当に、驚いたよ、だって、何も分からなくなったんだから、其れに、


オレは、あのお侍様が好きになったよ、だけど、母ちゃん、源三郎様は、オレに、一体、何を作っ


て欲しいんだろうか。」、


「げんた、そんな事、母ちゃんが、分かる訳がないよ、母ちゃんはねぇ~、げんたにしか出来な


いって、源三郎様が、おしゃったんだよ、げんたは、何でも作れるんだって、源三郎様が、見込ん


で下さったんだから、行っておいでよ。」


「うん。」


 其れでも、げんたは、決心が付かない、げんたにすれば、源三郎が、何を作って欲しいのか、そ


れすらも分からないのが不安な様で。


「げんた、此処で考えてたって仕方が無いんだ、源三郎様は、ご家老様の。」


「うん、分かった、母ちゃん、オレ、明日、お城に行ってくるよ。」


 げんたは、やっと、決心し、そして、明くる日の朝、げんたは、母親と、一緒に、お城まで行き。


「母ちゃん、もう、此処でいいよ。」


「そうか、じゃ~、行っておいでよ。」


 母親は、城の大手門で、げんたを見送り、げんたは、大手門の門番に告げると、門番も、げんた


の事を覚えていたのだろう、げんたは、城の中へと消えて行った。


 その頃、源三郎は、東門から、みんなが要る、詰所の近くまで来ていた。


「おや、あれは、げんたでは、お~い、げんたさぁ~ん。」


 げんたが、声のする方を見ると、源三郎が、ニコニコとして走ってくる。


「げんたさん、お待ちしておりました。」


「オレ、決めたんだ、源三郎様が、何を作って欲しいか知らないけれど。」


「そうですか、本当に、有難う、私は、本当に、嬉しいですよ。」


「でも、若しも、作れなかったら、オレは、一体、どうなるの。」


「別に、何も有りませんよ、私が、作って頂きたいのは、後で、お話しをしますのでね、まぁ~、


その前に、みんなに紹介しますからね。」


「うん。」


 源三郎は、げんたを詰所に連れて行く。


 げんたが、城に来たと言う話は、門番から、家老を通し、殿様まで伝わって行き、詰所に入ると。


「お~、げんた殿では無いですか、これで、我々は、千人力になりましたねぇ~、源三郎様。」


「弥三郎殿、私は、本当に、嬉しいですよ、皆さん、少し聴いて下さい、この人が、げんたさんで


すよ、これから、今、弥三郎殿が言われた様に、我々に取っては、最高の仲間を得た事になり、後


で、殿にも報告致します。」


「オレ、げんたって言います、源三郎様が、何か知らんが、オレに作ってくれって言うんで来たけ


れど、オレにだって、出来る事と、出来ない事が有るんだ。」


「勿論ですよ、ですがね、げんた殿、我々が、どんなに考えても、出来ない物を、げんた殿なら出


来ると、源三郎様が、申されておられますからね、我々は、何も、心配しておりませんよ。」


「直二郎殿、余り、げんたさんをね。」


「はい、分かりました。」


 その時、突然、殿様が、来た。


「げんた殿が来られたと、誠なのか。」


「殿、誠で、御座います。」


 傍に居た、げんたは、二度も驚かせられた。


「殿、何故、げんたさんが、来た事を、ご存知なのですか。」


「源三郎、余が申し付けて置いたのじゃ、げんた殿が、来られたら直ぐに知らせよと。」


「げんたさん、殿が、待っておられたのですよ、私も、全く知りませんでしたので。」


「源三郎、げんた殿を、よろしく、頼むぞ、余も、今宵は、眠る事が出来るぞ、ではなっ。」


 源三郎達は、殿様に頭を下げるが、げんたは、一体、何が、起きたのかも、全く理解出来ない。


「げんたさん、では、少し、お話しをしたいと思いますので、別の部屋に行きましょうか。」

  

 詰所の者達は、今から、城の北側に有る空掘りに向かい、空井戸から、海岸の洞窟に向かって掘


り進める作業に入るので有る。


 源三郎様が、げんたを連れて行ったのは、今は、源三郎だけが使っている専用の部屋で有る。


「さぁ~、げんたさん、座って下さい。」


「うん。」


 げんたは、辺りを見回しているが、今は、何もない部屋で。


「げんたさん、これからは、この部屋で仕事をして頂きますのでね。」


「ねぇ~、源三郎様、オレは、一体、何を作るんですか。」


 実は、源三郎も、頭の中で描いては要るのだが、絵で、描かなければ、げんたは理解出来ない。


「実は、私も、どの様に説明して良いのか、正直言って分からないのですよ。」


「え~、じゃ~、どんな物を作れって言うんだ、其れじゃ~、オレだって作れ無いよ。」


「勿論ですよ、私も、分かっておりますのでね、暫くしてから、その物を使う予定のところに行っ


て、改めて、お話しを致しますのでね。」


「うん、いいよ、でも、源三郎様、絵を書いても大体の事は、分かるから。」


「そうですか、でも、私は、絵は下手なので。」


「そんなの心配ないって、上手、下手は、オレには関係が無いんだ、其れが、どんな物なのかだけ


でも分かればいいんだ。」


 源三郎は、仕方無く、絵を書くのだが。


「これは。」


「人間で。」


「じゃ~、これは。」


「これが、げんたさんに作って頂きたい物なのですよ。」


「だけど、源三郎様って、本当に、絵が下手なんだねぇ~。」


 げんたは、大笑いをし、其れを見た、源三郎は、安心した、これで、作れると。


「では、少し待ってて下さいね。」

 

 源三郎は、腰元に、何かを頼み、其れから暫くして、腰元が戻ってきた。


「源三郎様、これで、宜しいのでしょうか。」


「はい、余計な物を頼みましたねぇ~。」


 腰元は、ニコッとして。


「お口に会うか、存じませんが。」


「これで、十分ですよ、さぁ~、げんたさん、参りましょうか。」


「うん、だけど、一体、何処に行くんですか。」


「はい、此処から、北に一里程、行った浜ですよ。」


「えっ、源三郎様、その物って、浜に行けば分かるのか。」


「まぁ~、多分、分かると思いますので。」


「うん、分かったよ。」


「では、参りましょうか。」


 源三郎と、げんたは、東門を出て、海岸の洞窟に向かうので有る。


 源三郎は、一体、何を、げんたに作らせるのだろうか、げんたも、その物を作る事が出来るのか、


それだけは、今の、二人には分からない。


 果たして、どの様になるのか、海岸の洞窟に行き、源三郎が、説明してからの話になる。






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