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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 2 章。 動乱の世界で、生き残りを掛けた戦い。   第 1 話 誰も知らない、新しい地を求めて。

ロシュエ達が築いた、ロジェンタ帝国は、数百年間も繁栄したが、その繁栄も終焉を告げる事


になり、初代、皇帝、ロシュエ達が、駐屯地を離れた訳と同じ事が、ロジェンタ帝国でも起きた。


 ロシュエ達、初期に移住した者達が、この世を去っても、数百年間は、大きな内紛も無く、語


り継がれてきた、其れは、同じ過ちを犯してはならないと、その決意は長く続いたが、やがて、


権力を持ち、保身のために、財力を蓄え、一層の権力を得ようと考える者達が、皇帝を引き込む


策略に出た、そして、遂には、内紛となり、やがて、ロジェンタ帝国は、滅亡したので有る。

 

 其れでも、戦争が勃発する数十日前、一部の者達が新しい土地を求め、ロジェンタ帝国を去り、


その人数は、数万人にも上り、東へ、東へと苦難の旅へと向かった。


 何度も、何度も、この土地が新しい土地だと思い、その土地に着き、畑を作り、生活をはじめ、


50年、百年と続くと、他国や、野盗からは食料の略奪を受け、夜逃げ同然で、また、新しい土


地を目指し、やがて、数百年後には、大陸の果てに来たが、その地でも、同じ事の繰り返しを受


けた。


 その頃になると、最初数万人の人達が、1万人にも減り、最後には、男女、子供を合わせても


数千人ほどまでに減り、大陸から逃れる事を決意した。


 だが、果たして、彼らが望む様な、新しい土地が有るのだろうか、この先、何度も苦難が待ち


受けているのだろうかと、不安ばかりが募る。


 大陸の果てまで、数千キロ、これが、最後の旅をなる様にと、ただ、祈るばかりで有る。


 そして、数十日間もの航海の末、着いたところは、周囲を高い山に囲まれ、住む人達も殆ど


見当たらず、数千隻もの大船団は、湾の奥へと進み、暗闇の中、到着と言うのか、漂着と言え


ばよいのか、辿りついた、これが、後の野洲をはじめとする、五か国の者達の先祖達で有る。


 彼らは、乗ってきた船を解体し、館と言える様な建物を、海岸から、一里ほどの平地に立、他


な者達も、領主の館付近に住まいを建てて行く。


 其れは、雪の降る前に完成し、人々は、久し振りに安堵した。


 其れからの数十年間、全員が協力し、田や、畑も出来、有る者は、山から、木を伐り出し、有


る者は、海に向かい、魚介類を獲り、数年後には、田には、稲穂が実り、畑では、野菜までもが


収穫出来るまでになり、領民達は、初めて安定した生活を迎える事が出来た。


 だが、この地が、一体、何処なのかも知らず、時々と言うのか、この地に以前から住んでいた


と思われる人が、訪れる事は有ったが、その人達は、温厚な人達で、戦を好む様な人達では無


かったのが幸いしたのか、やがて、その様な人達とも交流する様になり、だが、その様な時でも、


全てを信頼しているのでは無い。


 其れと言うのも、この地に辿り着くまでも、幾多の迫害を受けたのが原因かも知れない。


 高い山の向こうでは、他国とも言うべきなのか、やはり、この国でも同様で、豪族や、野盗が


多く、略奪が横行し、大小、幾つもの国が造られ、また、滅んでいく。


 その様な時が、百年、いや、数百年続き、其れが、やがて、武士社会と言うのか、武家社会と


言うのか、その様な社会が出来て行くので有る。


 この地に来て、数百年も経てば、この地に馴染む様になり、今では、この地の民となり、安定


した生活を営んでいる。

 

この地に漂着し、千年以上も住めば、住民もと言うのか、領民も多くなり栄えて行き、最初


5千人程だったのが、今では、数万人にもなり、大きなお城をも築くが、其れでも、戦は、好ま


ずにいた。


 其れからの数百年間と言うものはこの地は安定し、領民は、幸せな時を過ごしていたが、その


数百年後には、この地に住む者達は全く知らない出来事が起きていた。


 其れは、高い山の向こうでは、戦が続き、其れは、戦乱の時と言われた時代で有り、長い戦国


時代も終わりに近い頃、この地にも落ち武者と呼ばれる武士達が大勢逃げてきた。


 初めて見る武士達の姿に、最初は驚き、またも、移住しなければならないのかと、その様な不


安が横切った。

 

 しかし、領主は、既に、この地で永住する決意を領民に伝えていた。


 落ち武者が来る前には、幾つも山を越えて来たのだろうか、その数は、優に、千人以上に上り、


彼らは、農民達に食べ物を与え、農民達が落ち着くまで匿う様に過ごさせていた、やがて、農民


達は、他に移る事も無く、定住し、畑を耕す。


 その農民達も、戦の不安も消えるかと思った頃に、落ち武者が現れたので有る。


 当然、農民達は、恐れ、海岸の方へと逃げた。


 落ち武者が、どの様な者達とも知らなかったのが幸いしたのか、また、彼ら、落ち武者も落ち


着き、定住したいと言い出し、やがて、戦乱の時代も終わる頃、この土地での新たな生活が始


まった。


 落ち武者も、数年も経てば、農民の姿になり、畑を耕す者達が多くなり、次第に生活が安定し


始めた頃になると、大小、数度の戦が有ったのだが、有れ以来、この地に逃れて来る者もおらず、


この付近の村々は、落ち着きを取り戻し静かな生活が続いた。


 其れでも、高い山の向こう側では、この戦が最後になるであろうと、大きな戦が数年間も続き、


高い山の向こう側では連日、殺し合う武士達がいた、だが、その戦も終わり、世の中が有る武将


によって、統一された、だが、この地で生活を送っている者達には、世の中の動きは全く知らず


其れでも、時々、山を越えて来る武士がいた、その武士達も、やはり、戦に負けた武士達で有り、


その武士達を追っ手が探している、だが、この領主は、館の地下に、大きな隠し部屋が作り、そ


の中に入れば、外部の者達に見つかる事は無く、匿われた武士達も、戦は、もう嫌だと、この隠


し部屋がやがて巨大な空間となる。世の中が安定し、この村にも旅人と思われる人達が訪れる様


になり、住民の仕事も多くなり、次第に大きく発展して行く。


 漂着し、千数百年も経つと、世代も変わり、最初、この地に着いた者達と、落ち武者や、農民達


とも交わる様になり、今では、1万人以上の住民となり、あの館は城へと変わった。


 大きく発展すると、時の幕府はからは税金の取り立てが巨額になり、そして、数十代目と言える、


城主は秘策を考えていた。


 城を造る時、あの隠し部屋を大きくする事を考えたので有る。


「のぉ~、権三、幕府と言うのは、我々から、多額の税金を取り立て、一体、何に、使うと言う


のじゃ。」


「殿、私も、其れが疑問ですが、幕府は、我々に強大な力を持たせない様にと。」


「う~ん、だが、これ以上、農民の暮らしを厳しくさせる事は出来ない、何か、良い知恵は無い


のか。」


「殿、我々の先祖が、この地に来られてから千数百年以上は経つと思いますが、我が家の言い伝え


では、殿の、ご先祖も含め、多くの農民が国の圧政から逃れ、数百年後に、この地に着いたと聞


いております。」


「うん、余も、その話は、父上や、爺様から聞いた事が有る。


 我々の先祖、数千人が、この地に漂着し、その後も、多難な時代を経た聞いておる。」


「殿、これは、私や、殿だけが考えたところで、良い策が出るとは思いません。」


「うん、其れは、余も理解しているが、では、権三に、何か、良い考えでも有るのか。」


「はい、殿、その前に。」


「よし、分かった、そち達は、下がってよい。」


 お付きの者、数名は、部屋を出、殿と呼ばれる城主は、家老と共に、子供の頃からの知り合い


と言う事も有り、お互いの中に秘密は無い。


「殿、失礼します。」


 家老は、殆どと言うほどの傍に行き、小声で話すので有る。


「殿、実は、大きな声で申し上げる事が出来ませんので、お許し下さい。」


「うん、分かった、其れで。」


「はい、私も、数年前から考えておりましたが、私は、城内、城外を問わず、意見を聞く事が出


来れば良いのではと考えております。」


「城内、城外を問わずと言う事は。」


「はい、武士、町人、農民も関係は無いと言う事で、御座います。」


「権三、その様に大胆な事を行えば、幕府の密偵が嗅ぎ付けると大変な事になるやも知れぬ。


余が打ち首になったとしても良いが、何も知らぬ、領民が悲惨な目に合う事だけは避けたいの


じゃ、のぉ~、権三。」


「はい、其れは、私目もで、御座います。」


 家老は、一体、何を考えていると言うよりも、どの様な秘策を考えているのだ。


 その後、家老は、城主に説明するるのだが、余りにも大胆な策としか考えられない。


 しかも、一部は、既に、始められていると言うので有る。


「権三、先程の話だが、何時から始めておるのじゃ。」


「はい、既に、早、五年は経っております。」


「えっ、何じゃと、五年だと、だが、其れは、簡単に見つかる様な事は無いのか。」


「はい、一度に大勢の者達が行けば、何処から噂が経ちますので、数人づつ、時には、数十人と


なりますが、昼夜を問わず行っておりますので。」


「だが、その者達は、一体。」


「はい、この者達の先祖は、私達と同じで、今も、縦横の繋がりはしっかりと出来ておりますが、


日頃は、何者にも知られない様にと、気を配っております。」


 家老は、我が子供達に話を先祖までもが分かった数百名に対し、理解させ、今の工事に入った。


「権三、その者達は、全てを理解しておるのか。」


「はい、私は、数人づつ、数か月を掛け話をし、皆が協力する事になったので、御座います。」


「その者達は、この城内にもおるのか。」


「はい、勿論で、御座います。


 私も、彼らも、大昔苦労をし、この地に来られた先祖の話は、言い伝えで知っているとの事で、


私が、危惧する事も無いほどで、御座いました。」


「だが、権三、その者達は、報酬無しで働いておるのか。」


「いいえ、私の、先祖が残しておりました、僅かながらの金子と、私が、借財した金子で、賄っ


ております。」


 城主は、何故、それ程までにして、家老が、工事を進めている事を知らなかった。


「何故、余に、話してくれなかったのじゃ、余は、悲しい、だが、これからは、余が、全面的に


協力するぞ、どの様な事でも言って欲しいのじゃ。」


「殿、有り難き、幸せで御座います。


 では、少し、お話をさせて頂きます。」


 この後、家老は、城主に、長い時を掛け、説明し、其れは、昼の九ッを過ぎても、二人の話し


合いは終わらず、昼餉を取る事も忘れ、夕刻まで続いた。


「よ~し、分かった、では、城内に居る者数名を選び、その者達を専属にしてはどうじゃ。」


「はい、殿、ですが、余り大袈裟に行いますれば、何時、何処で、幕府に知れるやも、私が、進


めております、工事も、城内の者も、城外の者達も、工事に参加しております者達以外は、誰も、


知らぬと思いますので、今、暫くは、このまま進めて行きたいと、存じておりますので。」


「そうか、良く分かった、だが、余も、一度、その現場とやらを見て置きたいのじゃが。」


「う~ん。」


 家老は、考え込んだ、本当は、家老すら現場に入った事も無いので有る。


「殿、実を申しますと、私も、まだ、工事現場を見た事が無いので、御座います。」


「何じゃと、お主が、まだ、一度も、現場を見た事が無いだと、では、一体、誰が、現場の責任


者として、工事を行っておるのじゃ。」


「はい、其れが、実は、私の息子で、源三郎が。」


「何じゃと、あの源三郎がか、だが、源三郎は、歳も若いので、大丈夫なのか。」


「はい、其れが、工事に参加して居る者達の話では、良く、気が付き、若いのに良く出来た息子


だと、私が、危惧しておりましたが、思った以上に評判もよく、内心、ほっとしております。」


「そうか、其れは、何よりも良かった、其れで、先程の話だが、余が、現場に行く事は無理と、


申すのか。」


「はい、申し訳御座いませんが、殿が、参られますとなれば、警護や、お供の者達も大勢になり


ますので、今、暫くは、ご辛抱の程を。」


「よ~し、分かったぞ、其れで、話は変わるが、この城内、城外を問わず、幕府方と思われる者


達は、分かっておるのか。」


「はい、今は、数人程が判明致しておりますが、殿は、何か、お考えでも有るので御座いますの


でしょうか。」


「余よりも、権三は、何か方策を考えておるのか。」


「はい、その数名の者達は、城内に居りまして、今は、何も知らない振りで、その者達の動きを


見ております。」


「其れは、城外の何処の誰かと、会うと言う話なのか。」


「はい、その者達を捕らえても、城外の者が、また、他の者達に伝える様な事にでもなれば、余


計な人手が要ると思い、其れで、今は、何も。」


「そうか、其れで、その者達の名は。」


「殿は、どの様な、策をお考えなのでしょうか。」


「うん、其れがのぉ~、何もかもが、今日、突然の話で、余は、頭の中が混乱し、その方策を考


える余裕すらも無いのじゃ、権三、申し訳無いのぉ~。」


「殿、その様な事は、決して御座いませぬ、其れで、今日のところは、一先ず、終わりにしたい


と思うので御座います。


 殿と、余りにも長きに時を取りますと、他の者達が、また、好からぬ噂を立てますので。」


「よし、分かったぞ、権三、お主の申す通りじゃ、今日は、終わり、数日後に、また、話を聴か


せてくれぬか。」


「はい、では、私は、一度、下がりますので。」


 家老は、殿様に頭を下げ、家老部屋に戻った。


「う~ん、これは、大変な事態になった、これから先、一体、どの様に進めて行けば良いの


じゃ。」


 殿様は、頭を抱えて考え込んだ。


 一方、家老は、夕刻、自宅に戻ると、源三郎が戻っていた。


「源三郎、少し、話が有る、私の部屋へ。」


「はい。」


 源三郎は、父の顔を見て、お城で、何かが有ったと気付いた。


「父上。」


「源三郎か、まぁ~、入って座れ。」


 源三郎は、何時もの父では無いと。


「父上、お城で、何か有ったので、御座いますか。」


「うん、実はなぁ~。」


 家老は、殿様との話の内容を話すと。


「父上、其れで、殿は、何か、申されたのでしょうか。」


「いや、其れが、一度、現場を見たいと申されてな、其れで、私も、まだ、見ておりませんと、


申し上げたのだ。」


「ですが、殿は、何としても見たいと思われておられるのでは。」


「うん、そうなのだ、其れで、その前に、お前に、少し聞いておきたいのだ。」


「はい、其れで、どの様な事で、御座いますか。」


「その現場だが、どの様になっているのだ。」


「はい、では、簡単に申し上げます。


 現場と言うのは、海の方で、父上もよ~く、ご存じかと思いますが、海岸に大きな洞窟が有る


のを。」


「うん、知っておる、あれは、確か、数十ヵ所以上も有ると思っておるのだが。」


「はい、その洞窟の中でも、一番、大きく、奥の深い洞窟が有るのですが、その洞窟を更に、奥


へと堀り進めております。」


「だが、その洞窟は、海の中では無いのか。」


「はい、ですが、私は、何度も調べまして、確かに、海中に有りますが、其れは、潮が満ちる時


で、海水が引くと、洞窟の一部が、と、言うよりも、上の方に、少しだけですが、隙間が出来る


のです。」


「其れは、全ての洞窟でも同じなのか。」


「はい、小舟で入れば、中は大きな、洞窟で、殆どが、一町から、二町は、御座います。」


「だが、その洞窟は、海の上からは見えぬのか。」


「はい、ですが、余程、近くに来なければ、見付ける事は出来ません。」


 家老も、子供の頃、よく行った海岸だったが、数十ヵ所も有る、洞窟には一度も入った事は


無かった。


「実は、この私も、子供の頃、海に行った事は有るが、その洞窟には、一度も入った事が無いの


でなぁ~、一度は、入って見たいと思っていたのだが。」


「はい、私も、父上と、一緒に参りましたが、その様な洞窟が有る事も知りませんでした。」


「だがなぁ~、源三郎、何故、その様な洞窟が有ると知ったのだ。」


「はい、父上から、お話しがあって、この工事に参加する者達の中に、多くの漁師も居られ、あ


の洞窟の話を聴き、調べましたところ、奥も深く、これならばと思い、更に、奥へと、其れと、


潮が満ちても、心配が要らない様にと、少し、上に掘り進んでおります。」


「うん、分かった、其れで、今は、どの様になって要るのだ。」


「はい、潮が満ちたところより、五尺程の高さで進み、今は、一町も掘り進み、高いところは、


道具も置け、休みが取れる様にと平地にしております。」


 家老は、息子の源三郎に任せた事で、今は、良い結果になれば考えて要る。


 だが、大きな問題が有る。


「だが、源三郎、その洞窟だが、潮が満ちれば、工事が出来ないのでは無いのか。」


「はい、ですが、全てが海の中に入っているのでは無く、外からは見えませぬが、二尺程の隙間


が絶えず有りますので、今のところは、心配しておりません。」


「そうか、よ~く、分かった、明日にでも、私から、殿に、ご報告、申し上げて置く。」


「はい、其れで、父上、お聞きしたい事が、有るのですが。」


「どの様な事だ。」


「はい、父上が、以前、申されておりました、幕府の密偵の事で、御座いますが、これから先も、


放置される所存なのでしょうか。」


 家老にとっては、最大の難問で、城内には数名も、その者達は、数代から、この城に入り、


役目を熟して要る。


 だが、親の代も、今の者達も、これと言った大きな問題も起こしていない、其れとは、別に、


城外にも、十数名の密偵が居る事は、家老も全て知って要る。


 その者達も、今まで、罪に問われる様な事は、一切しておらず、捕らえて処罰する事も出来な


いので有る。


「う~ん、源三郎、私としては、其れが、一番の問題だと理解して要る、だがなぁ~、あの者達


は、何も罪になる様な事を起こしておらぬ、その為、私としては、今は、何も出来ないのだ。」


「ですが、父上、何れ、その者達は、何かの方法を使い幕府に報告すると思われるのです。


 其れで、私は、今の内に、何か、良い方法が有ればと、色々、考えては要るのですが、今だ、


何も浮かんで来ないのです。」


「源三郎、その者達については、私が、何とかする、お前は、何も心配せず、工事を進めてく行


くのだ。」


「はい、父上、私が、余計な事を申し上げ、申し訳御座いません。」


 源三郎は、父の苦悩する姿が辛く感じるので有る。


 その日から、家老は、考え込む様になり、二日も三日も、登城する事も無く、自宅で考える


日々が続いた。


 そして、四日が経ち、五日の早朝、城から大太鼓が鳴り響き、其れは、今日の朝、全員登城せ


よとの知らせで有る。


 家老が、思い切った策に出るとは、源三郎も知らなかった。


 そして、全員が、大広間に集まり、殿様が来るのを待つばかりで、その殿様が着くと、全員が


殿様に礼をし、家老が、話を始めた。


「殿、急な事で、申し訳、御座いません。」


「権三、何が、有ったか知らぬが、お主の話を聴かせてくれ。」

 

 殿様は、家老が、どの様な話をするのか、薄々知って要る、だが、今は、何も知らぬ振りをし。


「殿、少し長くなりますが、どうか、お許しを願います。」


「うん、権三、任せたぞ。」


 家老は、殿様も知って要るのだと安心し、話を始めた。


「皆の者、私は、この中に、幕府の密偵が居る事を知っておる。」


「えっ。」


 と、数十人が、大きな声を上げ、大広間の家臣達の殆どが騒ぎ出した。


「皆の者、静まれ、静まるのだ。」


 家老が、大声を発し、その後、暫くして静まり。


「今、申した、密偵とは、数代前からなので、本人は、知らずの内に、密偵になったのだ。


 私は、その密偵が、誰なのかも知っておる。」


「ご家老、その者は、一体、誰なのですか、名を上げて頂きたい。」


大広間に居る者は、正かと周りを見渡すが。


「皆の者、静まれ。」


 今度は、直ぐ静まり、其れは、家老が、名を上げるだろうと思ったのだ。


「いや、私は、名を上げるつもりは無い、その前に、少し、別の話をする、皆、よ~く、聞いて


欲しい、私は、その者達に問いたい、我々の国は小国で有る、その小国が、一体、何の理由が


有って、その者達の先代、いいや、先々代から、その様な密偵になったのかを知りたい。」


 家老は、その後、長い時を掛け話をし、そして。


「私は、今更、その者達を処罰するつもりはない、何故か、皆の者は分かるか。」


 広間の者達は、理解出来ないだろう。


「其れはだ、その者達は、これと言った、大きな罪を犯してはいないと言う事なのだ、私は、罪


の無い者を捕らえ、処罰する事は出来ない。


 更に、申せば、明確な罪を犯したので有れば、その者達の家族も納得するで有ろう、更に、城


外で商いとしている仲間も納得するで有ろう。」


 またも、騒ぎ出した、家老が、城外で商いを行う者達の中にも、仲間が要ると言った為で。


「ご家老、では、町中にも、幕府の密偵が居ると、申されるのですか。」


「その通りだ、私は、その者達の名も、所在も、全て知っておる。」


「ご家老、其れでは、我が藩の事は、全て、幕府が知って要ると、申されるのですか。」


「そう、その通りだ。」


「では、商いをする者を捕らえて。」


「捕らえて、一体、何とするのだ、先程も、申した様に、その者達も、今は、何も、これと言っ


た罪を犯してはいないのだ、その様な者達を捕らえて処罰でも行えば、この最だと、幕府からは


藩の取り潰しに会う事は明白で有る。」


「ご家老、では、その者達は、今後も、野放しにされるのですか。」


「まぁ~、みんな、よ~く聞け、私は、その者達にも、先程、申した事を聞きたいのだ、だが、


城内の者達も、城外の者達も、何も知らないと申すで有ろう。」


 家老は、その後も、話を続け、城内の密偵は、心の動揺で、身体が少し震えている。


 全てを知られたので有れば、厳しい追及を逃れる為に、今、この場で、腹を切ろうかと迷って


要るのだ。


「だから、私は、何も追及はしない、其れよりも、私は、聞いて欲しいのだ、これから先も、そ


の様な惨めな生活を送るつもりなのか、妻子には、勿論、何も伝えていないで有ろう、仮にだ、


その者達が、幕府に、我が小国の事を、其れも、有りもしない事を報告し、我が小国を取り潰さ


れたとしよう、妻や、子供に、どの様な説明をするのだ、子供が、まだ、生まれた者達ならばよ


い、だが、幼心で知った子供は、思うで有ろう、我が父上は、立派な武士だ、悪いのは、殿様や、


家老だ、その為に、藩が取り潰され、我々は、浪人になったのだとでも言うのか、何と言う悲惨


な人生だ、其れよりも、我が藩で、子々孫々、心豊かな生活を送りたいとは思わなぬのか、何れ


にしても、その者達は、自らが決める事で有る。


 私が、腹を切る事で、全てが収まるので有れば、何時でも切る、だが、我が藩の農民や、漁民、


其れに、他の領民達にまで危害を加える事は、私は、どの様な事をしてでも防ぐ覚悟なのだ、私


の話は、以上で有る。

 

 殿、誠に、申し訳、御座いませぬ。」


 家老は、殿様に、深々と頭を下げ、下がった。


「権三、よくぞ、言ってくれた、その方には、大変、辛い思いをさせ、余の方こそ、申し訳無


かった、許してくれ。」


「殿、何も、今更、私は、藩が生き残れるので有れば、どの様なお裁きでもお受け致します。」


「皆の者、よ~く、聞け、今、家老が申した、話は、全て本当だ、余も、その者達の名は知って


おる、だがのぉ~、家老が、申した様に、先月も、幕府からは、上納金の増額を申し渡された。


 だが、皆も知っての通り、我が藩にゆとりなどは無い、我が藩が、幕府に対し、戦などを起こ


す気持ちなどは毛頭無い。


 余は、其れよりも、領民達の行く末を案じておるのじゃ、例え、余が、餓死しても、領民だけ


には苦しい思いをさせたくは無い、其れだけは、皆の者も分かってくれ。」


 大広間の家臣達は、何も言えず、静かに聞くだけで有る。


「権三、もう、良いではないか、お主と、余が、腹を切れば済むので有れば、ご先祖様も許して


くれるで有ろう。」


「殿、私も、満足で、御座います。」


「だがのぉ~、ご先祖様よりも、余は、子供達や、孫達に、何と申そうかと、其れが、何よりも


心配なのじゃ。」


「殿、誠にで、御座います。


 我が息子の、源三郎は、全てを知っておりますので、殿、一層の事、私は、孫が生まれる前に


腹を。」


「うん、其れが良い、余も、その方が気楽じゃ。」


「殿、二人揃って、あの世で、ご先祖様に、申し上げまする時には、一体、どの様に申されるの


で、御座いますか。」


「うん、そうじゃのぉ~、お前達、良くぞやった、其れでこそ、我々の子孫だと、褒めて頂けれ


るやも知れぬぞ。」


「はい、左様で、御座いますなぁ~。」


 殿様と、家老は大笑いするのだが、家臣達はと言えば、水を打った様に静まり、笑うなどとは


出来ない状態だが、殿様も、家老も笑い続けていたが。


「殿、ご家老。」


 一人の家臣が、二人の前に出た。


「う~ん、一体、どうしたと言うのだ、何か有ったのか。」


「はい、実は、・・・。」


 家老は、分かっていたが、何も言わずにいると。


「はい、実は、先程、申されました、幕府の密偵とは、私の事で、御座います。


 誠に、申し訳、御座いませぬ。」


「うん、だが、何故、その方が、名乗り出たのだ、私は、その方の名も上げてはおらぬぞ。」


「はい、私は、ご家老の話を聴き、心苦しくなったので御座います。


 更に、殿までもが、私の、名を知っておられのに、名乗り上げないと申され、もう、駄目だと、


この様な苦しい思いをするので有れば、一層の事、名乗り上げ、打ち首にでも、される方が楽だ


と思い。」


「そうか。」


 その時、またも、二人が、手を上げ前に進み。


「殿、ご家老、私もで、御座います。」


 二人は、両手を着き、頭を下げ、其れで、大広間は騒然となった。


 其れは、この三人は、人柄も良く、城内での評判も良く、何れは、役職に就くだろうと思われ


ており、その三人が、揃って、幕府の密偵だとは、信じがたい話しで有る。


「よし、分かった、其れで、その方達は、どの様にしたいのだ。」


「ご家老、私は、切腹などは望んではおりませぬ、どうか、打ち首にでも。」


「他の二人も同じなのか。」


「はい、私は、どの様な処罰でも、お受け致しますが、妻や、子供は、何も知りませぬ。」


「そうで、有ろう。」


 家老は、頷き、殿様の顔を見ると、首を振り、其れは、殺してはならぬと言う事なのだ。


「皆の者、静まれい。」


 殿様の、一喝で、大広間は静まり。


「そうか、その方達は、切腹よりも、打ち首を望んでおるのか、よ~し、分かった、その方達、


其処へ並べ、私が、殿、申し訳、御座いませぬが、お腰の物を。」


 殿様も分かっている様子で、家老の事だ、何かを考えていると、家老は、殿様の刀を持つと。


「ご家老、此処は。」


「分かっておるわ、皆の者、よ~く、見て置くのだ、これが、私のやり方だ。」


 家老は、あっと、言う間に、三人の髷を切り落とした。


「あっ。」


 家臣達は、驚きの余り、何も言えず、黙り込んでしまった。


「よ~し、三人の首は切り落としたぞ。」


 三人の目からは、大粒の涙が零れ落ち、その場に伏せた。


「よし、これで、お前達の処罰は終わった、今後は、領民の為にだ、分かったな。」


「はっ、はい。」


 三人は、その場に平伏した。


「皆の者、良く聞け、この話は、今後、一切、他言無用で、若しも、他言せし者が発覚した時に


は、余が、許さぬ、その者は、家族共々、打ち首に致す、よ~く、心得て置け。」


 殿様の言葉で、三人は、改めて許されたので有る。


「そち達に聞くが、一体、我が藩の何を調べておったのじゃ。」


「私は、父上から聞いたのですが、我が藩は、本当に貧しいと思うかと。」


「う~ん、我が藩が、本当に貧しいのか、其れは、そなたの父が、幕府から命を受けたのか。」


「いいえ、父は、我が家が、幕府の密偵で有る事を隠しておりまして、その時、初めて知ったの


で、御座います。


 父が言うには、私の祖父の代からだと申しておりました。」


「では、余の生まれる前で有ったと申すのか。」


「はい、ですが、父は、幕府には、喜ぶ様な報告は、一度もしていないと、其れだけは言って


おりました。」


「だが、その話は、何時、聞いたのじゃ。」


「はい、父が、息を引き取る、少し前で御座います。」


「では、まだ、日が浅いでは無いか、そちは、我が藩の内情と調べたのか。」


「殿、その様な事は、一切、御座いませぬ。」


「よし、分かった、他の者達も一緒なのか。」


「はい、私も、父が死ぬ時、初めて聞きました。」


「よし、分かった、だがのぉ~、我が藩は、本当に貧しいのじゃ、そち達も良く知っておるはず


じゃぞ。」


「はい、私も、其れは、重々承知致しておりますので、私も、父、同様、一度も報告はしており


ません。」


「よし、分かった、これで、話は終わりじゃ。」


「殿。」


「皆の者、下がって良い、権三、お前は残れ、そして、源三郎は居るか。」


「はい。」


 源三郎も残り、全員が下がり、家老と、源三郎の三名になった。


「のぉ~、権三、源三郎、その方達は、一体、どの様な企てを考えておるのじゃ。」


 殿様は、家老が、本当は、何を考えて要るのか知りたいと。


「殿、私は、何も、大それた企ては考えておりませぬ。」


 その前に、家老は、城内の屋根裏にも警戒する必要が有ると、確かに、城内の密偵は、幕府に


対し、我が藩は、不穏な動きは無いと報告を入れては要るが、この数十年間と言うもの、一度も、


幕府が喜ぶ様な報告はされておらず、それどころか上納金すらも減っている。


 幕府としては、どの様な理由を付けてでも上納金を増やしたい、その為には手段を選ばず、屋


根裏にも密偵が潜んでいる可能性が有ると。


「殿、我が藩の城下でも、ご覧に参りませぬか。」


 殿様も、家老の言う意味が分かったのだろう。


「そうじゃ、のぉ~、久し振りに参ろうか。」


 源三郎は、意味が分からず、殿様と、家老の後ろを付いて行くだけで、殿様と、家老は、城の


天守閣に上り。


「殿、申し訳、御座いませぬ。」


「いや、良いのじゃ、その方達の話が聞かれると不味いのじゃ、では、聴かせてくれるか。」


「はい、殿が、先程、申された様に、我が藩は、決して豊かだとは申せませぬ、其れではと、私


は、その貧しさを出す様には出来ぬかと考えたので、御座います。」


「何じゃと、我が藩が、貧しいと言うのを逆手に取ると申すのか。」


「はい、左様で御座います。」


「だがのぉ~、どの様に考えてもじゃ、残せる物は無いぞ。」


「はい、殿が、申される通りで、御座いますが、其れで、私が、考えた策で御座いますが。」


「よし、分かったぞ、では、聴かせてくれ。」


「はい。」


 この後、家老が、今まで考えに、考えた策を話すと。


「何と、申した、あの海岸の洞窟を利用すると申すのか。」


 殿様は、家老の考えた策が、余りにも突飛な為に驚くが、家老が考えた策とは、一体、何を、


考えたのだろうか、其れも、この城からは、一里以上も離れた海岸の洞窟を利用するとは。


「権三、この城から、そちの言う海岸の洞窟までは、一里以上も有るのじゃぞ。」


「はい、殿、私も承知致しております。


 今、お城裏側に御座います、古い門ですが、今は、全く利用される事も無く、普段、誰も近づ


く事も御座いません。」


「うん、其れは、余も知っておる、だが、何故、その裏門が必要なのじゃ。」


「はい、あの門は、鬼門と申しまして、誰も使わず、普段は、大手門の東に御座います、東門が


利用されております。」


 家老が言う、鬼門とは、過去、何度かの落雷で、門周辺の城壁が脆くなり、何度も修理し、そ


の度に事故が起き、今では閉鎖され、門に通じる、二つの門も閉鎖され、誰も行く事が出来ない。


「権三、だが、あの門は、父上の時代の門で、門の城壁も修理に入るが、その度に事故で死者が


出た為に、今は、閉鎖しておるぞ。」


「はい、其れは、私も、存じております。


 今は、誰も、門に通じる、二つの門も閉鎖され、行く事が出来ないので、御座います。


 殿、ところで御座いますが、門の近くに空井戸が有るので御座いますが、ご存知で。」


「何じゃと、その様なところが有ったのか。」


「はい、殿は、この城から、あの空井戸に通じる抜け穴が有るのを、ご存知でしょうか。」


「いや、余は、知らぬが、一体、その抜け穴とは、何処に有るのじゃ。」


「はい、其れが、誠に、私も、驚きまして、殿は、城の北側に空掘りが有るのは、ご存じでしょ


うか。」


「うん、其れは、余も知っておるぞ、あそこに見えるところじゃ。」


 家老が、殿様を天守閣に連れて来た、その訳は、その空掘りを見せる為でも有る。


「殿、東に橋が有るのですが、その橋は普段使わております、東門に通じる橋で御座います。」


「うん、其れは分かったが、何故じゃ。」


「はい、あの空掘りと、井戸の底と申しましょうか、その空掘りが空井戸に通じておるので御座


います。」


「だが、その様な入口が有るとは、余も、聴いた事が無いぞ。」


「殿、橋の下に、大きな岩が見えると思いますが。」


「うん、余も、何故、あの様なところに、あの様な巨岩が有るのか、不思議に思っておるの


じゃ。」


「はい、入口と言うのが、あの巨岩の下に有るので、御座います。」


「えっ、何じゃと、では、あの巨岩の下から、空井戸に通じておると申すのか。」


「はい、ですが、殿、私も、良くは、知りませんので、源三郎に説明をさせます。」


「うん、分かった、源三郎、あの巨岩が、何故、入口なのじゃ。」


「殿、あの空掘りに入っても、入口は見えませぬ。」


「入口が見えぬと、何故じゃ、何故、見えぬところに入口が有ると申すのじゃ。」


「はい、巨岩の下に入らなければ、入口は見えませぬ。」


「源三郎、余は、申しておる事が分からぬ、はっきりと申せ。」


「はい、巨岩の内側を刳り貫いて有りますので、下に、入らなければ見えないのです。」


「何と言う事じゃ、あの巨岩を刳り貫いて有ると。」


 殿様が、驚くのも無理は無い、この城を築城した城主が、城から抜け出す為に作らせた抜け穴


だった、だが、この城と言うのか、この藩は、戦乱に巻き込まれる事も無く、空井戸からの抜け


穴を、誰もが使う事が無く、次第に忘れられたので有る。


「源三郎、余は、父上からも聞いてはおらぬぞ、其れが、何故、そちが知っておるのじゃ。」


「殿、私が、まだ、子供の頃、私もで、御座いますが、この空掘りに良く入った事が有るのです その時


に、この抜け穴を見付けたのですが、私達、子供の中では、これは、我々だけが知って


いる場所だから、誰に言わないと言う、暗黙の取り決めが御座いまして、其れで、誰にも言わな


かったのです。」


「よ~し、源三郎、余も分かったぞ、だが、先程、権三が申した、洞窟を利用すると、だが、そ


の抜け穴から、海岸の洞窟までは、一里も有るのだぞ。」


「はい、殿、海岸の洞窟は、数十ヵ所も有り、その中で、一番、大きい洞窟は、奥行きだけでも、


一町も有るので、御座います。」


「何じゃと、一町も有るとな。」


「はい、洞窟内は、広いのですが、ただ、問題が有るので、御座います。」

 

 源三郎は、城の空井戸から、海岸の洞窟まで掘り進めると言うのか、だが、問題が有ると。


「問題とな、其れは、どの様な事なのじゃ。」


「はい、この付近に有る洞窟の全てが、引き潮の時だけ、小舟で通る事が出来るのです。」


「何じゃと、引き潮の時だけ、小舟で通れると、では、普段は、どの様になっておるのじゃ。」


「はい、殆ど、海から見ますと、洞窟を見る事は出来ませぬ。」


「源三郎、何故じゃ、何故、その様なところを選んだのじゃ。」


「殿、今、申しました様に、普段から海中に有ると言う事は、例え、幕府の密偵が探したとしま


しても、発見される事は無いと言う事なので、御座います。」


「あっ、そうか、なるほどのぉ~、我々でも分からぬものが、幕府の密偵でも探しあてる事は出


来ぬと申すのじゃな。」


「はい、左様で御座います。


 この抜け穴が通じれば、先程、父が申しました、貧しいと言うのを逆手に取り、誰にも知られ


ずに隠す事が出来るので、御座います。」


「う~ん、なるほどのぉ~、分かった、だがのぉ~、空掘りから、空井戸までは通じてはおるが、


その先は、一体、どの様になっておるのじゃ。」


「はい、今、洞窟内からも、掘り進めております。」


「何じゃと、洞窟内からも掘り進めて要るのじゃと。」


「はい、ですが、人手が足りませんので。」


「そうか、やはりのぉ~、人手がのぉ~。」


「はい、私も、秘密で進めておりますので、誰でもよいとは参りませぬので、思った以上には進


んではおりません。」


「源三郎、その仕事とは、先程の家臣達でも出来るのか。」


「はい、勿論で、御座います。


 洞窟内の方は、主に、漁師達が行っておりますので。」


「何、漁師達が洞窟内に入っておると、申すのか。」


「はい、殿、彼ら、漁師で、なけれれば、潮の満ち引きは分かりませんので、其れに、海が荒れ


ると、漁も出来ず、かと言って、洞窟に小舟を入れる事も簡単では、御座いませんので。」


「よし、分かったぞ、権三と、余で、人を集めるとするか。」


「殿、その前に、家臣達に説明し、どの様な事が有っても、他の者達には、漏らさぬと言う確約


が必要かと。」


「よし、権三は、その者達を選べ、余が、確約とやらを取っても良いが、如何じゃ。」


「殿が、其処まで申されましては。」


「良いのじゃ、我が藩が生き残れる為じゃ、領民が行っておると言うのに、我が家臣どもが出来


ぬとは言えぬ、権三、して、漁民達には、何か、別の物でも与えておるのか。」


「はい、ですが、今のところは、何も出せぬのですが、漁民達も、我が藩が、生き残れるので有


ればと申しております。」


「だが、その様な事では、長くは続かないで有ろう、食べ物だけでも、何とかならぬのか。」


 家老も、食料は豊富とは言えないが、藩の米蔵から、少しづつだが、漁民達に分け与えている。


「我が藩の米蔵は、如何じゃ。」


「はい、私が、少しづつでは御座いますが、漁民達に分け与えております。」


「だがのぉ~、漁民とて、生きる為には漁も行わなわ無ければならぬぞ。」


「はい、漁で獲れた魚介類は、城下で、少し高いと思われますが、領民達が買い求めております。


 其れと、お城でも、漁師から直接買い求めておりますので。」


「そうか、我が藩も、財政は苦しいが、その者達には、不自由させるで無いぞ。」


「はい、源三郎が、今、城下の者達にも話を致しておりますので、我が藩の皆が、この工事に就


いたとなれば思いの外、早く完成すると存じております。」


「よし、分かったぞ、余は、別に、幕府に対し戦はせぬ、だが、領民が居ればこそ、我が藩が成


り立っていると思っておるのじゃ、権三、源三郎、領民の為じゃ、余も、協力するぞ。」


「殿、誠に有り難き、お言葉、有難う、御座います。


 では、我々は、これにて、失礼致します。」

 

 家老と、源三郎は、長時間の為か、特に、源三郎は、疲れが一度に出てきた様に感じている。


「父上、私は、一度戻り、今後の事を考えますので。」


「そうか、分かった、源三郎、殿も申されたが、お前が、頭となるのだ、だが、何事に置いても


準備を怠るで無いぞ。」


「はい、父上、承知致しました、では。」


 源三郎は、自宅に戻る為に東門に向かうのだが、その前に、あの三人が、待ち受けていた。


「源三郎様。」


 源三郎が振り返ると、髷を切り落とされた、三人が、編み笠を被り待っていた。


「如何されたのですか。」


「源三郎様、私達、三人は、あの後、話し合いを致し、源三郎様の配下に就きたいと。」


「えっ、ですが、お三方は、他に重要な、お役目に就かれているのでは有りませんか。」


「はい、勿論、承知致しておりますが、殿と、ご家老に、私達、三名の命を助けて頂き、私達、


三名は、今後、心を入れ替える所存で、御座います。」


 三人組は、一体、何を考えて要る。


 この三人には、藩の重要な役目を任されていると言うのに。


「其れで、私に、何をせよと申されるでしょうか。」


「はい、我々、三人は、源三郎様に、ご同行願いたく思いました。」


「いずこへ、行かれるのですか。」


 この時、源三郎は分かった、其れは、城下に潜んでいる、幕府の密偵に会うのだろうと。


「はい、私達は、今から、城下に居ります、密偵に会いに行くのですが、源三郎様にも、ご説明


を頂く事になるのではないかと存じましたので、何卒、ご同行の程、お願い申し上げます。」


 源三郎は、この三人組よりも、遥かに若いのだが、昨日までとは違う言葉使いで有る。


「私の説明と申されますと。」


 源三郎は、分かっていたのだが、其処は、何も知らぬ振りをした。


「源三郎様、その密偵は、元は、武士で、今は、大きな商いを致しております。

 

 密偵と言うのは、その店の店主と、番頭なので、御座います。」


 源三郎は、直ぐに分かった、だが、本当のところは、確信が無かったと言うので有る。


「はい、私も、存じておりますが、其れで。」


「はい、私達は、その店の店主と、番頭に、今日、殿と、ご家老から申されました話をせねばな


らぬと思っているので、御座います。


 その者達も、先々代からの引き継ぎと、申しましょうか、家業を継ぎ、今では、大きな店構え


になっており、その者達も、幕府からの命には、必ずと言っても良いほど、良くは思っておりま


せん。」


「分かりました、では、私も、同行させて頂きます。」


 源三郎は、その店から、借金が出来ると考え、その金子が有れば、城下の米問屋から米を買い


入れる事が出来ると考えたので有る。


「源三郎様、有難う、御座います、では、ご一緒に。」


 三人組と、源三郎は、彼らが言うところの密偵の店へと向かうが、その店とは、源三郎が、


思っていた店とは違う。


「源三郎様、こちらの店で、御座います。」


 源三郎は、一瞬、声が出そうになった、その店とは、藩内の米を一手に取り扱う米問屋で、四


人が店に入ると、番頭らしき男が驚いた、其れは、三人の髷が無かった。


「如何されたので、御座いますか、此処では、何ですから、お先に、お上がり下さいませ。」


 番頭は、四人を上げ、奥に連れて行く。


「旦那様、大変で、御座います。」


「一体、どうしたのですか、騒々しい。」


「さぁ~、こちらにお入り下さいませ。」」


 番頭は、無理やりの様な仕草で、店主の部屋に入れた。


「あっ、えっ、如何されたのですか。」

 

 店主も、番頭も、大変な驚きで、其れは、無理も無い。


 三人の髷が切り落とされ、斬バラ髪で、だが、三人は涼しい表情をしている。


「店主、まぁ~、この頭の話をさせて頂きますがね、その前に、こちらの、お方は、ご家老様


の、ご子息で、源三郎様と、申しますので。」


「えっ、ご家老様の。」


「其れでね、今から説明しますが、二人とも驚かないで下さいね。」


 この後、今日、城中で有った事を話すのだが、三人とも、心が吹っ切れたのか、笑顔で要る。


「えっ、正か、その様な事まで。」


「まぁ~、驚かれるのも無理はござらぬが、事実でござる、殿も、ご家老も、全て、ご存じでし


てねぇ~。」


「ですが、何故、お三人とも、髷が。」


「うん、其れがね。」


 またも、説明するのだが、店主も、番頭も、少し震えだし、全ての話が終わり。


「私達は、本当のところ、打ち首になっても仕方が無いので、其ればかりか、妻や、子供達は、


何も知らぬ、だがなぁ~、今、我々、三人は、本当に晴々とした気持ちなのだ、髷は、髪が伸び


れば、まぁ~、少しの辛抱だと、殿が申され、私は、安堵した、其れに、お主達の事も、全て、


露見しているのです。」


「此処に居られる、源三郎様も、知っておられる。」


 源三郎は、頷き。


「ですが、貴方方の事は、この藩では、誰も知りませんよ。」


 店主と、番頭の顔が引きつっている。


「店主、如何されましたか。」


 源三郎は、探りを入れると。


「いいえ、何とも、御座いませんので、ですが、我々は、貼り付け打ち首になるのですか。」


 源三郎は、首を横に振り。


「殿は、その様な事は、申されてはおりませんよ、ですがねぇ~。」


 さぁ~、源三郎は考えた、この場で、一気に話を持ち出すべきか、其れとも、少し間を空け、


店主と、番頭の返答を待つか。


「お殿様は、どの様に、申されておられるのでしょうか。」


 やはり、店主は、探りを入れて来たと、其れで、源三郎は、話を、一気に進める事にした。


「殿も、ご家老も、貴方方の返答次第だと。」


「私どもの返答次第だと申されますと。」


「店主殿も、番頭さんも、お一人なのですか。」


「いいえ、私には、妻と、子供が二人、孫が、二人おりますが。」


「番頭さんは。」


「はい、私も、子供が、一人と、孫が一人。」


「では、貴方方の奥様は、本当の姿を、ご存じなのですか。」


 店主も、番頭も、首を振り。


「これは、私と、番頭だけで、他の者達は、何も知りませんので。」


「そうですか、まぁ~、本来ならば、一族全員が、打ち首か、貼り付け、家財は没収ですよ。」


 源三郎の言葉は、店主も、番頭も聞いているのか、其れとも、耳に入らないのか、二人の震え


は止まらない。


「店主と、番頭さん、お二人にお願いが有るのですが、よろしいですね、今日とは申しませんの


でね、明後日までに帳簿を持って、お城に来て下さい。


 私、源三郎に用事だと言えば、案内して頂けますのでね。」


「えっ、帳簿をで、御座いますか。」


「はい、その通りですよ、ついでに、裏帳簿もね。」

 

 何と、源三郎は、二種類の帳簿を持ち、登城せよと。


「何も、心配は有りませんよ、源三郎様は、全て、ご存じですので。」

 

 源三郎は、頷き。


「本当ですよ、何も心配は有りませんのでね、何も、今、財産を没収するとは、殿も、ご家老も


申してはおられませんのでね、その時には、今よりも、少し詳しい、お話しをさせて頂きますの


でね、お待ちしておりますよ。」


「では、我々は、一度、引き上げますので、店主殿も、番頭殿も、安心して、源三郎様に、お任


せ下さい。」


 店主と、番頭は、何も言わずに頭を下げ、四人は、米問屋を後にすると。


「源三郎様、お疲れのところ、誠に、申し訳、御座いませんが、今、一軒、お付き合い願いたい


のですが、よろしいでしょうか。」


「はい、分かりました、では、参りましょうか。」


「なぁ~、番頭さん、此処まで知られているので有れば、お城に、二人で行きましょうか。」


「はい、旦那様、ですが、あの源三郎様と言われましたが、私は、随分と、お若い様に見えたの


ですが。」


「私もですよ、ですが、あのお方は、恐ろしい人かも知れませんよ、三人の方が、源三郎様と呼


ばれておられましたから、何も、ご家老様のご子息だけでは無い様に思えるのですがねぇ~。」


「旦那様、ですが、お三人様ですが、以前とは、全く違う表情をされておられましたが。」


「その様ですが、でも、何故、知られたのでしょうか、私達は、密書も書いた覚えなどは無いの


ですがねぇ~。」


「旦那様、先々代の時には知られていたのでは無いかと、其れに、何故、お殿様や、ご家老様に


まで知られていたのか、不思議でならないのです。」


 実は、源三郎は、米問屋の事などは、全く知らなかった。


 だが、次に向かったところが、源三郎が知って要る問屋で、其れは、藩内、一番の海産物問屋


で、この海産物問屋が、米問屋と、今、一つ、城下最大の旅籠の纏め役で有る。


「森田様、どちらに向かわれるのでしょうか。」


「はい、源三郎様も、よくご存じと思いますが、海産物問屋の伊勢屋で、御座います。」


「はい、分かりました。」


 だが、伊勢屋と言うのが、相当な悪で、証拠は無いのだが、漁師からは、安く買い叩き、地方


から仕入れた海産物は、大幅な値と言うよりも、数倍も、物によっては、数十倍もの値段を付け


売っていると言う噂が、以前から、藩内で流れていた。


 この伊勢屋の金蔵は、土蔵の地下に有り、土蔵の金子は表向きだと分かっている。


「やぁ~、ご主人はおられますか。」


「あっ、森田様。」


 伊勢屋の番頭が、驚くのも無理は無い、森田達、三人の頭には、髷は無く、斬バラ髪なのだ。


「旦那様、旦那様、大変で御座いますよ、森田様が、森田様が。」


「一体、何事ですか、騒々しい、あっ。」


 伊勢屋の主人も、其れはもう、大変な驚き様で。


「あの~、森田様、一体、如何されたので、御座いますか、その~。」


「いゃ~、大した事は有りませんよ。」


 森田は、笑っている、他の二人も同様で。


「森田様、此処では、何ですので、奥の方に。」


 店主は、四人を奥座敷に通した。


「さぁ~、皆様。」 


 四人が座ると。


「森田様も、飯田様も、其れに、上田様も、一体、どうなされたのでしょうか。」


「まぁ~、其れがなぁ~、庄左エ門殿。」


 この後、森田は、全てを話すと、伊勢屋の顔は蒼白になり、膝に置いた両手は震え。


「伊勢屋殿、番頭さん達も呼んで頂きたいのですが。」


 源三郎は、番頭も呼ぶ様に言うのだが、伊勢屋の身体は硬直している様子で動けない。


「庄左エ門殿、大丈夫ですか。」


「はっ、はい。」


 まだ、震えが止まらず、今が、押し時だと考えた、源三郎は、強気に出た。


「伊勢屋、番頭を呼びなさい。」


 源三郎は、わざと大声で言うと。


「はい。」


 目が覚めたのだろう。


「誰か、番頭さんを呼んでくれ。」


「森田様、番頭、一人では無いと思いますが。」


「はい、分かりました。」


 その時、番頭が飛んできた。


「はい、旦那様。」


「庄左エ門殿、他の者達も呼んで下さい。」


「はい、直ぐに、番頭さん、中番頭と、お滝も呼んで下さい。」


 お滝とは、この店の女中頭で、幕府から来た密偵との仲立ちをする女で有る。


 番頭は、直ぐ、中番頭と、女中頭のお滝を呼び。


「まぁ~、皆さん、座って下さい。」


 森田は、何時に無く、平静で。


「源三郎様、如何致しましょうか。」


 森田は、源三郎が、話すものと思っている。


「分かりました、では、私が、お話し致します。」


 源三郎は、番頭、中番頭、それに、女中頭のお滝にも話すと、番頭達は、伊勢屋同様、身体は


震え、顔は蒼白の状態に、だが、源三郎の話は、これから先の話が、伊勢屋達を、更に、震え上


がらせた。


「今も、申しました様に、殿様も、ご家老様も、伊勢屋さんだと、全て知られております。


 皆さんは、森田様や、飯田様、上田様の、お姿を見られて驚かれておりますがねぇ~、まぁ~、


皆さんの返答によっては、全ての財産は没収されまして、一族の全員が、張り付けとなりますか


らねぇ~。」


「えっ、張り付けとは。」


「伊勢屋さん、当たり前でしょう、これが、他の藩ならば、今頃は、全員が、捕らえられていま


すからねぇ~、其れに、厳しい取り調べが有りますよ。」


 森田達は、何も言わず、頷くだけで。


「ですがね、殿様は、こちらの、三人も本来ならば、打ち首ですが、髷を切られ、後は、この私


に、全てを任せられたのです。」


「はい。」


 伊勢屋は、そう、返事するだけで、番頭達は、下を向いたままだ。


「伊勢屋さん、如何でしょう、私の話を聞かれますか、其れとも、今直ぐに。」


 伊勢屋は、家財は没収され、家族は、張り付けになる覚悟をしていた。


「源三郎様、私の家族は、いいえ、其れよりも、店の者達は、何も知りませんので。」


「はい、其れも、全て知っておりますよ、私の話は、皆さんが、これからも、今までと同じ様に


商いをして頂ける様にしたいのですがねぇ~。」


 源三郎は、時間を掛け様と思い。


「まぁ~、私は、どちらでもよろしいのですからね。」


「はい、何事も、源三郎様の申される通りに致しますので、どうか、他の者達はお許しを。」


「は、分かりました、ではお話しますね。」


 その後、伊勢屋に話し。


「伊勢屋さん、何も、悪い話では無いと思いますが、如何ですかねぇ~。」


 源三郎は、伊勢屋が、土蔵の地下に隠しがね金の事も全て話すと、伊勢屋もだが、番頭達は、


腰が抜けた様な表情になった。


「詳しくは、皆さんに、お城に来て頂いた時に説明しますのでね。」


「えっ、私が、お城にで、御座いますか。」


「はい、その通りですよ、勿論、番頭さん達も、一緒にですよ。」


「えっ、番頭もと、申されますと、この四名がでしょうか。」


「はい、四人で、お越し下さいね、その時には、お店の帳簿も持って来て頂きたいのですよ、勿


論、裏帳簿もですよ。」


 伊勢屋の番頭は、震えていると言うよりも、放心状態に近い。


「では、皆さん、宜しくお願いしますね。」


「はっ、はい。」


 伊勢屋は、返事だけで、それ程にも話の内容が、彼らには恐ろしく聞こえたので有ろう。


 源三郎が、伊勢屋を出ると。


「上田様も有るのですね。」


「はい。」


 上田は、まだ、何も言っていない、だが、源三郎は、全てを知って要ると、この時、三人は、


改めて、源三郎は、恐ろしいと。


「では、参りましょうか。」


「はい、では。」


 上田は、何も言わず、城下の旅籠、大川屋に向かった。


「番頭さん、ご主人を。」


「えっ、あっ、上田様、一体。」


 この大川屋でも、同じで、旅籠の使用人達は驚いてはいるが、当の三人は、何が有ったのかと、


今は、まるで、他人事の様な顔をしている。


「旦那様、大変です、早く来て下さい。」


 太川屋の主人が出て来ると。


「あっ、えっ、上田様、一体、どうされたのですか。」


「いゃ~、その話は、此処では出来ませんので。」


「はい、では、奥に。」


「そうですか。」


 今の、三人は、実に平然とし、彼らは、昨日まで、この旅籠の大川屋に来る時でも、辺りの目


を気にしながら入っていた、だが、今は、堂々とした顔で入る事が出来る。


 其れと言うのも、幕府の密偵だと、殿様にも、ご家老様に知られ、一時は、打ち首を覚悟して


いた、其れが、今は、源三郎の側近の様な事になっている。


「さぁ~、皆様、どうぞ。」


 店主が四人を案内すると。


「大川屋さん、番頭さんと、女中頭の。」


「えっ、上田様、一体、何事で、御座いましょうか。」


「まぁ~、その話をしますからね、お二人を呼んで下さい。」


 大川屋は、何かを悟ったのか。


「はい、直ぐに、誰か、番頭さんと、お峰を呼んで下さい。」


 二人は、直ぐに来た。


「旦那様。」


「番頭さんと、お峰さんも座って下さい。」


「では、今から、お話をしますのでね。」


 この後、上田は、大川屋と、番頭、女中頭のお峰に対し、話をするが、話の途中から、大川屋


も、番頭も、女中頭のお峰も、身体が震え、顔は蒼白になった。


 其れは、米問屋も、海産物問屋も同じで、彼らにすれば、何故、幕府の密偵だと知られたのか、


其れが、全く分からず、上田は、話し終えると。


「源三郎様、では。」


「はい、分かりました、では、これから先は、私が、話を致しますので、皆さん、よ~く、聴い


て下さいね。」


 源三郎は、他の問屋に話した内容と同じ様に話すと、大川屋の店主は、身体がガタガタと震え、


番頭はと言えば、膝に置いた両手を握り、同じ様にガタガタと震えて要る。

 

 女中頭のお峰は、既に、放心状態で。


「まぁ~、皆さん、私は、何も、今更、命を取るとは申しませんが、返答次第では。」


 源三郎は、話が脅かしでは無いと言っている。


 そして、この者達が、お城の登城する当日の朝。


「あっ、伊勢屋さんでは、一体、どうされたのですか。」


「いや、中川屋さんもですか。」


「はい、先日、お城から、森田様が、お越しになられまして。」


「えっ、では、伊勢屋さん、其れに、中川屋さん、若しかしましたら。」


 彼らは、城内に入る少し手前で、其れは、偶然では無く、三人とも、城の源三郎に呼び出さし


を受けたのだ。


「中川屋さん、私は、源三郎様と、申される方が恐ろしいのですよ、お歳は、お若いですがね、


大変、鋭い、お方だと思いました。」


「私もですよ、あのお方は、我々の事を全て、ご存知だと言われました時には、背筋が凍りまし


たから。」


「あのお方は、何を考えておられるのか分かりませんが、私は、全て、お聞きする事に決めまし


たよ。」


 三人と、番頭達、其れに、女中達の一行は、城の大手門に来ると。


 「申し訳、御座いませんが、私達は、本日、源三郎様に、登城せよとおおせつかりました者で、


私は、米問屋の中川屋と申します。


 こちらの方は、海産物問屋の伊勢屋さんで、そちらが、大川屋さんと申しまして、旅籠の方で、


御座います。」


「はい、伺っておりますよ、どうぞ、入られて、直ぐ左の建物に、源三郎様が居られます。」

 

 大手門の門番は、何時に無く、優しい言葉使いで有る。


「はい、有難う、御座います、では、失礼します。」


 中川屋、伊勢屋、大川屋の一行は、大手門を入ると、直ぐ左に有る建物に入り。


「失礼致します。」


「皆さん、お揃いで、ご苦労様ですねぇ~、さぁ~、お座り下さい。」


 その建物は、普段、誰も使用する様な建物では無く、中は広く、大きな協議も出来る程も有る。


 源三郎専用の個室も有り、その場には、森田、飯田、上田の三名も座って要る。


「皆様、本日は、ご多忙のところ、お城に来て頂き、誠に、有り難く存じます。


 先日、皆さんのお店に寄せて頂きましたが、今からするお話は、お店で出来る様な内容では有


りませんので、この場に来て頂いたと言う事です。」


 その時。


「源三郎は居るか。」


 殿様が、源三郎を呼んで要る、だが、彼らは、突然、城の殿様が来た事に、大変な驚きで。


「お殿様ですよ。」


「はっ、はぁ~。」


 一斉に、両手を付き、頭を下げた。


「源三郎、お~、その者達は。」


「この者達は、森田様達の。」


「あ~、そうで、有ったなぁ~。」


 森田ら、三名も知らなかった。


「源三郎、そちに相談が有るのじゃが、どうだ。」


「はい、どの様なお話しで御座いますか。」


「いゃ~、実は、この者達、三名の処遇なのじゃ。」


「はい、私も、今日の話が終われば、元のお役目に戻って頂く所存で、御座います。」


「いゃ~、其れがの~、実は、余も、あれから考えたのじゃ、この者達を、源三郎の配下には出


来ぬかと。」


「えっ、左様な、三名様は、大変、重要なお役目に就いておられますので、まして、私の様な若


輩者の配下などには、もったいのう御座います。」


「では、その方達は、如何じゃ、源三郎の配下では不満か、申して見よ。」


 実は、源三郎が、殿様に頼み込んだ、その前にも、彼ら、三名の切腹には反対したのも、源三


郎で有った。


「はっ。」


 三名は、どの様に答えてよいのか分からなかった。


「その方達を救ったのは、一体、誰か、知っておるのか、この源三郎なるぞ。」


「えっ、殿。」


「そう、その正かじゃ、お前達の様に能力の有る者を切腹させるのは、我が藩にとっては大変な


損失だと申してなぁ~、で、余も考えたのじゃ、腹を切らせるのは何時でも出来るとな、どう


じゃ、源三郎の手足となっては如何じゃ。」


「殿、源三郎様、誠に有り難き、幸せに御座います。


 私は、これから先、源三郎様の手足となり、藩の為、領民の為に命を捧げます。」


 森田は、感激し、残る、二人の、上田も、飯田も。


「殿、私もで、御座います。


 私の、命を持って、源三郎様の。」


「よ~し、分かったぞ、どうじゃ、源三郎、この者達、三名をこれから、我が藩の領民の為に役


立ててはくれぬか。」


「はい、殿、有り難き、幸せで御座います。


 殿、ですが、森田様方のお役目は、一体、どの様にになるのでしょうか。」


「その様な事を、源三郎が、心配する事では無い、余が、権三に申し付けて置くからのぉ~、源


三郎、余計な事を申して、済まぬ、その方達、これからは、源三郎の申す事は、全て、余が申し


たと思え、分かったか、お前達も、この源三郎のお陰で、張り付けも、家財の没収も、止めたの


じゃから、よ~く、考える事じゃ、では、源三郎、大変な役目じゃが、その方が、全ての頼み


じゃからのぉ~。」


 殿様は、源三郎との打ち合わせ以外の話をした為に、伊勢屋も、暫く考え。


「森田様、飯田様、上田様、申し訳、御座いませぬ。」


「いいえ、源三郎様、今、殿から聴き、改めて、この先は手足となり、お役に立つ所存で、御座


いますので、どうか、何も、気にされず、私をお使い下さいませ。」


 森田は、改めて、源三郎に頼み、他の二人も同じで。


「私の様な若輩者に。」


「いいえ、其れは、源三郎様、今、殿が、申されました様に、私は、源三郎様が、若輩者などと


は、決して思ってはおりませぬ。」


 飯田も、心を改める事が出来たと思った。


「森田様、飯田様、上田様、では、これから先も、何卒宜しくお願い申し上げます。」


 源三郎の予期せぬ出来事になったが、伊勢屋達は、殿様と、源三郎の話を聴き、今までの事を、


全て話す必要が有ると思い。


「これは、失礼しました、私も、正か、殿が来られるとは知らぬ事で、まして、皆様の話が出る


とは思いませんでした。


 その話は、何れの時に改めまして、今日、皆様にお集り頂いたのは。」


 この後、源三郎は、伊勢屋達に詳しく話し、話を聴いた、伊勢屋達は、既に観念したのだろう、


先日の様には震えてはおらず、源三郎の顔をじ~っと見ている。


「其れで、皆さん方にお願いが御座いますが。」


「はい、何なりと、お申し付け下さいませ。」


 三人は、新しい役目が、一体、どの様なものなのかも聞く必要も無かった。


「では、まず、お二方には、中川屋には、飯田様、伊勢屋さん、森田様に付いて頂くのですが、


飯田様も、森田様にも、中川屋さんと、伊勢屋さんに、穀物類や海産物を仕入れて頂く手配を


お願いしたいのですが、その話は、後日、詳しくさせて頂きますので、上田様、大川屋さんは、


各地から訪れられます、人達の国と、仕事を詳しく調べて頂きたいのです。」


「源三郎様、私は、まだ、理解が出来ておりませぬのですが。」


「申し訳、有りません、では、詳しくお話しを致しますので。」


 源三郎は、何故、その様に詳しく調べる必要が有るのかを話した。


「源三郎様、よ~く、分かりました、私が、数日の内に大川屋さんに出向き、店主殿とも、よく


話を致しますので。」


「はい、では、宜しくお願いします。


 其れと、お峰さんと、申されましたね。」


「はい、左様で御座います。」


「お峰さんには、申し訳無いのですが、あっ、その前に、お聞きしたいのですが、お客さんを見


て、この客は、どの様な筋の者達か分かるでしょうか。」


 源三郎の鋭い目付きが、お峰は恐ろしかった。


「はい、一応は、分かりますが。」


「ではね、この役目は、お峰さんだけにしか出来ないと思いますので、お願いが有るのですが、


如何でしょうか。」


「はい、私で、お役に立つので有れば。」


「そうですか、では。」


 源三郎は、お峰に対して、重要な役目だと話した。


「では、私は、この人はと思う様な客が居られた時には、上田様に、お知らせすればよろしいの


でしょうか。」


「はい、その通りですが、上田様が、毎日、大川屋さんに出向くと、何かと、良からぬ噂が起き


ますので、失礼ですが、お峰さん、読み書きの方は。」


「はい、出来ます。」


 彼らや、お峰達は、幕府の密偵で有り、密偵が、読み書きが出来ない事は無いと、源三郎は、


分かってはいたのだが、其れを、あえて聞いた。


「失礼な事をお聞きし、申し訳無いですねぇ~、其れで、上田様に書面を書いて頂ければ十分で


御座います。」


「源三郎様、ですが、その書面を、どの様にして、源三郎様の、お手元に届ければ良いのでしょ


うか。」


 源三郎は、既に、町方の役人にも話を付けていた。


「はい、その書面を持って町方の役人に渡して頂ければ、私まで、届く様になっております。」


 上田も、森田も、源三郎と言う若輩者がと、最初は侮っていたのだが、其れが、悉く崩れ去っ


て行くのを感じている。


 その時、家老が来た。


「源三郎、如何じゃ。」


「はい、父上、皆様が、大変、協力的で、私は、当初、危惧しておりましたが、その全てが無く


なりました。」


 伊勢屋達は、家老が恐ろしかった、其れは、源三郎の父親と言うだけでは無かった。


「伊勢屋、中川屋、大川屋、その方達が協力してくれていると聞き、私も満足です。


 ですが、そなた達は、今でも、裏向きは、幕府の密偵ですからね、幕府からの問い合わせや、


繋ぎの者達が現れた時には、この四名の内、誰でもよい、連絡する様に、其れとですがね、そな


た達は、今まで通りの報告をする様に。」


 伊勢屋達は、顔を上げる事も出来ない。


「森田、飯田、上田の三名、先程、殿から、お話しが有った、私は、殿の申し付けを受け、その


方達は、本日より、源三郎に協力する様に、まぁ~、そうは言っても、源三郎は、そなた達より


も若い、で、有るから、時々は、意見をしてやってくれ、源三郎が、暴走せぬ様になっ、では、


よろしく頼むぞ。」


 家老は、部屋を出たが、其れは、三人と、伊勢屋達に、念を押しに来たので有ろう。


「其れと、これで、最後ですが、この藩内に手先の器用な者を知ってはおりませんか。」


 伊勢屋達は、突然、源三郎が、言った、手先の器用な者、だが、一体、何の為に必要なのか分


からない。


「あの~。」


 伊勢屋には、心当たりが有った。


「伊勢屋さん、どなたか、ご存知なのですか。」


「はい、でも、今、申されました手先の器用な者とは。」


「そうですねぇ~、例えば、私が、この様な物を作って頂きたいと、お願いすれば、作る事が出


来ると言う事ですが、心当たりでも、有るのでしょうか。」


「はい、私に、間違いが無ければ、一人、居るのは居るのですが。」


 伊勢屋が言った、一人とは、中川屋も、大川屋も知って要る。


「伊勢屋さん、あの子では。」


「分かりましたよ、小間物屋のげんたでは。」


「はい、げんたと、言う子供が、居るのですが。」


 伊勢屋が言った、げんたと、言う子供は、母親が商う、小間物屋で売る品物を作って要る子供


なのだ。


「伊勢屋さん、今、言われました、小間物屋のげんたとは、どの様な子供さんでしょうか。」


 源三郎は、小間物屋と聞いて、げんたと言う子供に作らせたいと考えた。


「伊勢屋さん、私を、そのげんたと言う方に合わせて頂きたいのですが。」


「はい。」


 伊勢屋は、考えた、げんたが作る小間物は、大変、評判も良く、店は、何時も多くの客が訪れ、


買い求めて行く。


 其れに、げんたは、母親と、二人暮らしなので、果たして、母親が許すだろうか、だが、この


源三郎には、何も隠し事は出来ない。


「源三郎様、私は、果たして申し上げてよいものか、分からないのですが。」


「伊勢屋さん、私に、隠し事は無用ですよ。」


「はい、では、申し上げますが、げんたは、母親と二人きりで、その小間物屋で売る品物は、全


て、げんたが作った物で、御座います。」


「ほ~、其れは、素晴らしいですねぇ~、で、どの様な物でも作れると申されるのですか。」


「はい、店先に無い品物は、お客が、この様な物が欲しいと言えば、数日の内に作り、お客に渡


すのですが、殆どの客は満足し、代金は、げんたの言ったよりも、多く支払われております。」


「そうですか、母親と、二人暮らしですか。」


 源三郎は、考えた、源三郎の考えて要る物は、げんたにしか作れ無いと、かと言って、げんた


を城に閉じ込める事は出来ない。


「げんたが居なければ、生活は苦しくなるのですね。」


「源三郎様、親子の生活よりも、お客が困るので、御座います、今では、多い時には、数十人か


らの注文が有り、幾ら、手先の器用なげんたでも、全てを作る事が出来ないので御座います。」


「では、お客は、げんたが作り上げるまで辛抱しているのですか。」


「はい、実を申しまして、私も、孫娘にと、げんたに頼んだので、御座いますが、今、直ぐには


無理だと断られました。」


「其れは、大変、素晴らしい事ですねぇ~。」


 源三郎は、是非とも、げんたに会いたいと。


「伊勢屋さん、会って、話だけでも、出来ないでしょうか。」


 伊勢屋も、他の者達も、源三郎は、一体、何を頼むつもりなのか知りたいと思う、だが、源三


郎は、言わないだろうと。


「源三郎様、今日、帰り次第、私が、げんたと母親に話を致しますので。」


「そうですか、では、よろしくお願いします。


 皆さん、大変、長い間、有難う、御座いました、今後とも、宜しくお願いします。」


 源三郎と、森田達は、伊勢屋達を見送った。


「源三郎様、誠に有り難き、事で御座いました。」


「えっ、何か有りましたでしょうか。」


 源三郎は、忘れているのでは無い、頭の中は、既に、次へと考えが進んでいる。


 森田、飯田、上田の三名は、その後、部屋に戻り。


「なぁ~、源三郎様は、何故、手先の器用な者が必要なんだろうか。」

 

 森田達は、海岸の洞窟で行われて要る作業の詳細は知らない。


 其れにしても、一体、源三郎は、げんたに、何を作らせるつもりなのだろうか、其れが、全く、


理解出来ないと言うのか、分からないので有る。


 源三郎は、どうしても、げんたを必要としている、だが、果たして、げんたは、源三郎の思い


通り、良い返事を出すのか、源三郎が、今後、進めて行く計画の浮沈を決定する重要な人物で有


る事には間違いは無い。






          



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