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闇の帝国    作者: 大和 武
27/288

 第 27 話。 やはり、起きたか、陰謀を企む事件が。

やがて、ロシュエも、老いて行き、ロジェンタ帝国は、初代、皇帝のロシュエか


ら、ジュニアに引き継がれて行く。


 「将軍と、司令官を呼んで欲しいんだ。」


 この頃の、ロシュエは、元気が無いと、イレノアは、心配だった。


 「はい、直ぐに、お呼びしますが、他には。」


 「うん、今は、何も無い。」


 「はい。」


 この頃、将軍も、ロシュエに、何時、異変が起きるかも知れないと、各大隊の


隊長の全員を、本体の宿舎に集めていた。


 暫くして、将軍と、司令官が飛んで来た。


 「陛下の、ご様子は。」


 「はい、今のところは大丈夫だとは思っておりますが、この頃、何故か、弱気


になっている様に思えて仕方が無いのです。」


 「はい、承知しました、私は、何時でもよろしいので、お呼び下さい。」


 「将軍、ご迷惑をお掛けしますが。」


 「其の様な事は、御座いませんので、では、陛下にお会いします。」


 「よろしく、お願いします。」


 「陛下。」


 「お~、将軍、司令官も忙しいのによ~、済まんなぁ~。」


 言葉に変りは無いが、やはり、弱弱しく感じると、将軍も、司令官も思った。


 「オレはよ~、もうじき、あの世に行くがよ~。」


 「陛下に限って、其の様な事は御座いませんよ、陛下には、まだまだ、残され


た仕事が、御座いますので。」


 「将軍、気持ちは嬉しいんだがよ~、其れよりも、オレが、死んだらよ~、将


軍と、司令官、大隊の隊長達にだ、ロジェンタ帝国を頼みたいんだ。」


 「陛下、其の様な、お話は、元気になられてからでも十分ですよ。」


 「司令官、オレはよ~、この頃、あの駐屯地に居た頃の夢をよ~く、見るん


だ、オレもだが、司令官も若いぜ。」


 「はい、有難う、御座います。


 ですが、 陛下が、元気になられ、私と、一緒に、帝国内を見回りする約束で


すよ。」


 「うん、だがよ~、オレは、もう駄目なんだ、だって、馬に乗れないんだから


よ~、其れよりも、ジュニアは、如何なんだ。」


 「はい、今は、城で中隊長になられ、連日、激務をこなされており、リッキー


隊長は、大変、頑張っておられると、褒めておられます。」


 「陛下が、お元気になられてから、皇太子に引き継がれては如何でしょう


か。」


 「いいや、オレは、この帝国は、誰が引き継いでも良いと思ってるんだよ、農


民さん達からも、軍からも、望まれる人物が、一番なんだ。」


 「はい、ですが、皇太子は、十分で、御座います。


 私も、各大隊長や、中隊長に聞きましたが、この頃の皇太子は、陛下の若い頃


に、よく似て来られたと。」


 ロシュエは、嬉涙を流し。


 「陛下、ジュニアであれば、各大隊からも推薦されますので。」


 「うん、嘘でも、有り難いよ、だがよ~、本気で考えて欲しいんだ、その人物


が、若ければ、将軍と、司令官が後ろ盾になってくれ、頼むぜ。」


 「はい、陛下、私と、司令官が、必ず、責任を持って。」


 其の頃、ジュニアは、城から、本体へ戻る途中で、リッキー隊長は、任務も大


事だが、早く帰れと、何度も言っていた。


 「陛下、間も無く、皇太子も戻られますので。」


 「いや、オレの事よりも、任務が大切だ、軍の兵士は、農民さんを守る任務だ


からなぁ~。」


 「はい、陛下、よ~く、承知致しておりますので。」


 「済まんがよ~、オレ、少し疲れたんだ、少し、眠らせてくれるか。」


 「はい、陛下、では、私達は、これで、失礼します。」


 将軍と、司令官は、部屋を出ると、イレノアが心配そうな顔付きで。


 「将軍、私は、陛下が、相当、お疲れの様子で、其れが、心配なのです。


 特に、この頃は、この地に着くまでの長い旅を思い出しているのか、オレは、


もう直ぐ、みんなのところに行くぜと、言っておられますので。」


 「イレノア様、私も、今日は、今までの陛下と違う様な気がしましたが。」


 「将軍、私は、陛下が、駐屯地を出られ、今まで、私達以上に無理をされて来


られましたので、其れが、今、一気に出てきたのではないでしょうか。」


 「イレノア様、当番兵を増やして置きますので、何か、御座いましたら、直ぐ


に。」


 「はい、有難う、御座います、私は。」


 「はい、承知しております。」


 将軍と、司令官は、兵舎に戻り、当番兵を増やす様にと、シェノーバー隊長に


指示し、大食堂に向かった。 其の頃、テレシアも、弱気になっていた。


 「私はねぇ~、あの人よりも先には、絶対に死なないからねぇ~。」


 「テレシアさんは、まだまだ、大丈夫ですよ、まだまだ、若いですもの。」


 「何、言ってるのよ、私も、もう、年だからねぇ~、何時、お迎えが来てもい


いんだよ、でもねぇ~、あの人だけは、もっと、長生きして欲しいのよ、だっ


て、私が、知ってる限り、あの人が、一番、苦労したんだからねぇ~。」


 テレシアが言う、あの人とは、ロシュエの事で有り、ロシュエは、テレシアを


姉の様に思う存在なのだ、そのテレシアも、この頃、涙もろくなったのだろう


か、一人、思い出し、涙を流す日も多くなった。


 「中隊長、お帰りなさい。」


 「有難う、御座います、皆さんには、大変、ご迷惑を掛けております。」


 「私達の事よりも、陛下に、お会いして下さい。」


 「有難う、では。」


 ジュニアが、戻って着た。


 「母上。」


 「よく、戻ってきてくれましたね。」


 「遅くなりまして、申し訳有りません、で、父上は。」


 「今は、眠っておられますが。」


 「母上、私が、傍におりますので、休んで下さい。」


 「有難う、でも、眠れないのよ。」


 イレノアは、この数日間、殆んど、眠れないので有る。


 「でも、母上も、お疲れだと思いますので。」


 「じゃ~、少し横になるわね、何か、有れば、直ぐ起こしてね。」


 「はい。」


 イレノアは、横になると言ったのだが、ロシュエの傍で椅子に座り、目だけを


瞑っている。


 ジュニアは、イレノアの事も心配で、だが、イレノアと言う女性は、どの様な


時でも、決して弱音を吐く様な女性では無いと、分かっている。


 ジュニアは、幼い頃を思い出している、何故、みんなが、王子とか、皇太子と


呼ぶのかを、特偵隊に入る前に分かり、其れからの、ジュニアは、行動も、言動


も考える様に成った。


 そして、明くる日の早朝、ロシュエの様子が変だと思い、イレノアを起こし。


 「母上、母上、父上の様子が。」


 「えっ、陛下の様子が。」


 イレノアは、ロシュエの顔を見ると、眠っている様には見えず、呼吸も弱って


いると、イレノアは直感し、やはり、もう、限界なのか。


 「ジュニア、当番さんを。」


 「はい。」


 ジュニアは、小走りで。


 「当番さん、母上が、呼んでおられますので。」


 「はい。」


 数人の当番兵が部屋に入ると。


 「直ぐ、将軍達を呼んで下さい、其れと、テレシアさんもです、お願いしま


すね。」


 「はい、直ぐに。」


 当番兵、数人が手分けし、将軍達の兵舎と、大食堂に向かう。


 その直後。


 「陛下、陛下。」


 イレノアの声がする、ロシュエの、呼吸が更に弱く、今にも、息を引き取る様


子で、将軍と、司令官、各大隊の隊長達も飛んで来た。


 当番兵が、兵舎に向かったので、兵舎の兵士全員が、ロシュエの宿舎に向かっ


て走る。


 「テレシアさ~ん、陛下が。」


 「何で、こんなに早くに。」


 当番兵は、テレシアを馬車に乗せると、宿舎に向かい飛ばして行く、其れで


も、ロシュエは生きている。


 「父上、父上。」


 ジュニアが見る初めて、母、イレノアの涙で。


 「陛下、陛下、あなた、起きて下さい、お願い、目を開けて、お願い、私、一


人を残して逝かないで、ねぇ~、お願いだから。」


 イレノアは、必死に叫び声を上げている。


 「みんな、開けろ、開けてくれ。」


 将軍と、司令官、其れに、隊長達は悲壮な顔付で。


 「陛下、陛下。」


 「目を開けて下さい。」


 将軍も、司令官も必死に呼び掛ける。


 「ロシュエの、大馬鹿野郎。」


 女性の声だ、今の、ロジェンタ帝国で、皇帝を呼び捨てに出来る人は、テレシ


アだけなのか。


 「何で、何で、あんたが、私より、先に逝くのよ、この大馬鹿が、あんたが、


あんた程、一番苦労した兵士はいないんだからね、馬鹿だよ、ロシュエは、本当


に、大馬鹿馬だよ。」


 テレシアの顔は、涙で崩れている。


 「ねぇ~、早く、目を開けてよねぇ~、で、言ってよ、お~、テレシアかっ


て、ねぇ~、お願いだから、私を、残さないで、お願いだから。」


 この言葉が、テレシアの最後となった。


 テレシアは、ロシュエの手を握り、顔を伏せ、其れでも、涙だけは流れていた


のだが。


 「テレシアさん、テレシアさん、あっ。」


 イレノアは、驚いた、テレシアは、ロシュエの手を握ったままで、息を絶えて


いた、何と、言う、壮絶な死に方で有ろうか、テレシアは、人生を満足したかの


様に、穏やかな死に顔だ。


 「将軍、テレシアさんが。」


 「えっ、テレシアさんが、一体、あっ。」


 将軍も、驚いた、其れは、姉と、弟が、同じ時刻に死を迎えたので有る。


 「司令官も、隊長も、聞いて下さい。


 テレシアさんが、陛下と共に、長い旅へと、出発されました。」


 「えっ、正か。」


 司令官も、其れ以上言葉が出なかった。


 「将軍も、皆さんも、聞いて下さい。


 陛下は、この数年間、事有るごとに、駐屯地時代のお話をされておられ、その


中で、何時も必ず、テレシアさんの事が出ており、 陛下は、駐屯地の頃から、


テレシアさんを、実の姉の様に思われていたそうです。


 その姉と、大変な、ご苦労されましたが、今、陛下も、テレシアさんの、お顔


を拝見しておりますのが、穏やかな顔で、お二人とも、今までの人生を満足され


た様子です。」


 イレノアは、涙も見せず、最後まで気丈だ。


 「さぁ~、司令官も。」


 「はい、では。」


 司令官も、何時もの、ロレンツに戻っている様だが。


 「何故だ、これからが、本当に安心して、のんびり出来ると思ったのに、私


は、陛下が、司令官の頃、自分の身体の事より、農民さん達の事ばかり気にし


て、食べる物も食べず、あんな事をさせた、オレが悪いんです。


 今更、謝っても許される事でもないですが、オレも、もう直ぐ逝きますので、


その時に。」


 「司令官、あの人は言ってましたよ、あのロレンツって野郎は、オレがいない


と、何をするか分からん、あいつは、オレの事を、兄貴の様に思ってたし、オレ


は、あいつを、実の弟の様に思ってるんだ、だから、あいつが、無茶をしない様


に、何時も、オレが近くにいるんだって。」


 司令官は、溢れる涙を拭いもせず。


 「兄貴を殺したのは、このオレなんだ、兄貴、済まん、許してくれ。」


 この時、ロレンツは、初めて、本当の気持ちを言った。


 「司令官、何も、其処まで、ご自分を責めないで下さい。


 陛下は、今頃、天国で、テレシアさんと、お仲間のところに着かれ、昔話をさ


れていると、私は、思います。


 其れに、私は、陛下が、本当に羨ましいですよ、これだけの人達に慕われてお


られたのが。」


 「オーレン隊長。」


 「はい。」


 「貴方も、あの頃から、一緒だったのでは。」


 オーレンは、年は若いが、あの駐屯地組で有る。


 「オーレン、オレは、今、なんて言っていいのか分からんよ、だって、あの9


0日間もだが、この地に着いてからの数年間、一番、辛い思いをした、司令官


を、オレは、守る事が出来なかったんだ、オレは、う~ん。」

 

 「ロレンツ司令官、其の様な事を言われますと、陛下に、怒られますよ、オレ


は、何も苦労はしていないんだ、一番、苦しい思いをさせたのは、農民さんと、


オレ達のために、命を捧げた仲間なんだからよ~って。」

 

 オーレンは、全てを知っている、オーレンも、ロシュエの父親の駐屯地に志願


してきた、一人なのだ。


 「オーレン隊長の事も言われてましたよ、オーレンって奴は、若いが、あいつ


は、将来、最高の指揮官になる器だって、陛下はね、何時も、司令官や、オーレ


ン隊長と、一緒に、この地に着て、苦しかったけど、あれ程、楽しかった時は無


かったとも言われてるんですよ、私は、皆さんに、嫉妬しました、本当に羨まし


い人達だと。」


 その時、フランチェスカが来た。


 「イレノア。」


 「あっ。」


 イレノアは、一瞬、姫と叫びそうになった。


 「ねぇ~、イレノア、私達は、此処に来るまでは、この世に生まれた事を恨み


ましたが、でも、最高の人生を送らせていただいていると思います。」


 「其の通りですねぇ~。」


 将軍も、司令官も、知っている、フランチェスカは、元はと言えば、有る国の


姫様だった事を。


 「なぁ~、フランチェスカ、君が、有る国のお姫様だったと言う話は、私も、


司令官も知っているのです。


 ですから、今は、イレノア様に対し、其の様な他人行儀な言葉ではない、本心


で話してもよろしいですよ。」


 「えっ。」


 フランチェスカも、イレノアも驚いた、彼女達の事を知っているのは、ロシュ


エ、ただ、一人だと、今まで思っていたのだから。


 「何故、知っておられたのですか。」


 「私もね、城の司令官で、多くの女性を見ておりますので、他の人達は知らな


かったとしても、私は、最初から、全て知っておりましたからね、陛下も、許し


て下さいますから。」


 将軍は、優しく、フランチェスカに言ったのが良かった。


 「姫様、私、本当に悔しい、今でも、戻れるならば、あの最初の頃の司令官に


戻って欲しいんです。」


 イレノアは、フランチェスカに抱き付いた。


 「いいのよ、イレノア、泣きたいだけ泣きなさい、其れで、少しでも、気持ち


が晴れるならね、私に、何でも言ってもいいのよ。」


 「はい、姫様。」


 イレノアが、この様な姿を見せても、誰も、何も言えなかった、それ程、この


二人は、十数年間、辛い思いをしたが、今は、フランチェスカも、イレノアも、


本当の姿を現している。


 「イレノア、でもね、本当は、これからが大事なのよ、貴女は、陛下を最後ま


で見送る責任が有るの、其れが、女性と言うよりも、イレノアが、陛下のために


出来る、最後の、大仕事なのよ、それだけは、忘れないでね。」


 「はい、分かりました、姫様、有難う、お座います。


 私は、姫様のお陰で、少し気持ちが楽になりました。」


 「其れは、良かったわ、其れで、以前、イレノアが言ったでしょ、陛下と、私


のために、鍛冶屋さんがって。」


 「はい、お守りの短刀ですね。」


 「そうよ、陛下の守り刀は、天国でも必要なのよ。」


 「はい、分かりました。」


 イレノアは、ロシュエの胸に、守り刀をそっと置いた。


 「イレノア、其れで、陛下も、天国で喜ばれると思うのよ、其れと、貴女も持


っているでしょうから、其れは、イレノアの守りですから、大切にするのよ。」


 「はい。」


 傍で、二人の会話を聞いている、隊長達も、何とも言えないほどで、だが、や


はり、フランチェスカは、大国のお姫様だ、言葉にも、態度にも気品が有ると、


将軍も、司令官も思った。


 「イレノア、貴女は、ロジェンタ帝国、皇帝陛下の妻で有る事も忘れては駄目


よ、今は、悲しいけれど、其れは、イレノアだけじゃ無いのよ、他の人達もな


の、でもね、陛下の、お顔を拝見しても、今までに無かった様な穏やかなお顔


よ、私も、イレノアも、父の死に顔を見た時、父の顔は悲痛なほどだったわ、で


も、陛下は、今、本当にお優しい顔で、今にも起きて来られる様に思うの、だか


らと言って、今、直ぐに、何時もの微笑みをとは言わないわよ、でもね、其れ


は、陛下のためにもなのよ、分かってくれるわね。」


 「はい。」


 イレノアが、これ程、素直に聞いている姿を見た事は無く、フランチェスカ


は、イレノアにとっても、特別な女性なのかも知れない。


 「あっ、そうだ、忘れるところでした、イレノア、陛下との結婚式の服は。」


 「はい、今でも、大切にしていますが。」


 「陛下が、亡くなられたのは、大変、悲しい事だけど、其れと、あの時、陛下


が着用された、軍服を、陛下に着せて欲しいのよ。」


 「えっ、でも。」


 「いいえ、良いのよ、だって、ロジェンタ帝国、皇帝陛下の、ご衣裳よ、此処


の農場の人達は知ってはいても、他の大きな農場の人達は、誰も知らないのよ、


最後だから、最高の衣装を着せて上げて欲しいのよ。」


 フランチェスカは、何と言う大胆な発想をするのだと、将軍も、司令官も思う


が、確かに、何時も着用している農民服も、ロシュエ皇帝の衣装に間違いは無


いので有る。


 だが、一体、何人の領民が、ロシュエと、最後の対面をするのか、その時に


は、やはり、最高の衣装を着せて上げたいと、フランチェスカは思ったのだろ


う、その軍服は、テレシアが作った衣装で。


 「でも、テレシアさんには、何も無いと。」


 「私が、数年前から作り始めた服が有るのよ、其れは、テレシアさんのために


と思ってね。」


 「では、テレシアさんにも、衣装は有るのですか。」


 「ええ、私は、この農場に着てから、どれ程、テレシアさんに助けられたの


か、分からないのよ、だから、テレシアさんにも、最後の衣装だけど、許して下


さると思うのよ。」


 「はい、有難う、御座います。」


 「では、陛下の軍服は、私と、司令官、隊長達で、着替えをさせて頂きますの


で、宜しいでしょうか。」


 「はい、有難う、御座います。」


 「司令官、陛下の着替えが終われば、大食堂にと思っておりますが、フランチ


ェスカ、テレシアさんは。」


 「はい、私達が、着替えをさせて頂きますので。」


 「では、私も。」


 「イレノア、其れは、駄目よ、貴女は、陛下の、お傍に居るのよ、其れが、皇


帝陛下のためにもね、其れと、ジュニアは、これから、母上をお守りするのよ、


ジュニアが、次の皇帝陛下になる、成らないは別として、今は、父上の傍に居て


下さいね。」


 「はい、承知、致しました。」


 「では、今までの話は、此処だけで、お願いします。


 当番さんも、お願いしますね、私の事は秘密にして下さいね。」


 「はい。」


 当番兵は、何と、答えてよいのか分からず、下を向いている。


 「将軍、私達もですね。」


 「其れは、皆さんに任せますよ、今の、私は、何も言える立場では有りません


からね。」


 「そうだ、イレノア、暫くは辛いけど、私と、一緒に、陛下の悪口でも言いま


しょうか。」


 「えっ。」


 フランチェスカは、笑っている。


 「そうでした、将軍と、司令官のもね、よろしいでしょう。」


 「えっ、何で、私まで。」


 「全ては、陛下と、イレノアのためですので。」


 「はい。」


 司令官も、苦笑いをした。


 「当番さん、今から、陛下と、テレシアさんを、大食堂に行って頂きますの


で、外で、待機中の兵士、そうですねぇ~、20人ほどで、大食堂に行き、掃除


と、ご葬儀の準備に向かわせて下さい。」


 「はい、直ぐに。」


 当番兵は、外に飛び出したが、ロシュエの宿舎周りは、1番大隊の兵士全員が


整列し、押し寄せる農民達に説明するが、とても、兵士達だけでは止める事は出


来ない。


 「将軍、外は、大変な騒ぎで、私達では、とても、収拾が付きません。」


 「分かりました、司令官も、一緒に、隊長達もで。」


 宿舎の外に出ると、本体は勿論、第2農場からも、農民達を乗せた、馬車や、


荷車が入って来る。


 「中隊長、馬車の列が、延々と連なって来ます。」


 「え~、一体、何処まで続いているんだ。」


 「は~い、もう、最後尾は見えません。」


 城門から兵士が走って着た。


 「将軍、大変です、農民さん達を乗せた馬車が、延々と続き、最後尾が見えな


いと。」


 「分かりました、司令官、此処は、少し時間を取らなければ、収拾が付きませ


んので、私が、説明します。」


 「はい。」


 広場は、農民で埋め尽くされ。


 「皆さん、静かに、静かにして下さい。」


 それでも、直ぐには収まらず。


 「全員、静かにせよ。」


 司令官の。一喝で。


 「皆さんが、静かにされないと、話が出来ませんよ。」


 暫くして静かになったが。


 「みんな、いい加減にするんだ、で、なければ、話が出来ないんだから。」


 またも、司令官が言うと、やっと、静かになり。


 「皆さん、ロジェンタ帝国の皇帝陛下が、つい先程、静かに天国へと旅立たれ


ました。」


 「えっ、そんなの嘘だ。」


 「将軍、本当なのか。」


 「皆さん、本当です、そして、皆さんも、よ~く、ご存じのテレシアさんも、


陛下と、ご一緒に天国へと。」


 「何だって、テレシアさんが、陛下と一緒に天国に行ったって。」


 広場は、将軍の発表で、蜂の巣を突いた大騒ぎになり、暫くは、何も話す事も


出来ない程で有る。


 「おい、聞いたか、テレシアさんも、陛下と、一緒に天国へ行ったって、そん


なの大嘘だよ、絶対に信じないぜ。」


 「うん、オレも、そんな話、嘘に決まってると思うんだ。」


 「将軍、オレ達に、大嘘を言ってるんだ。」


 「司令官、今の話、本当なんですか、オレは、絶対に信じないですぜ。」


 「みんな、聞いてくれ、今、将軍が言われた話は、全部、本当なんだ、今、陛


下と、テレシアさんは、穏やかな、お顔で、眠っている様に見えるんだが、本当


に亡くなられたんだ。」


 「なぁ~、将軍も、司令官も、嘘だって言ってくれよ。」


 「なぁ~、オーレン隊長、大嘘だって言ってくれよ。」


 「いいえ、本当です、最後は、静かに、眠っておられる様に、息を引き取ら


れ、テレシアさんは、陛下の手を握り、其れは、壮絶な戦死をされました。


 ですが、お二人とも、穏やかなお顔です。」


 「其れで、今から、陛下と、テレシアさんを、大食堂に安置するのですが、大


食堂の掃除と、ご葬儀の準備を行いますので、皆さんも、お手伝い願いたいので


すが。」


 「よ~し、将軍、オレ達が、全部やるから任せな、お~い、みんな手伝ってく


れ、其れと、今日から、全てが終了するまでは、仕事も中止だ、夜は、かがり火


をたくから、その準備にも入ってくれないか。」


 やはり、おやっさんだ。


 「おやっさん、有難う、陛下も、喜んでおられますよ。」


 おやっさんの、号令で、農民達は、手分けし、大食堂の掃除は、本体の女性達


が、農夫達は、風呂場に有る薪を持って集まり、かがり火の準備に入った。


 だが、全員が出来るのではない、後ろに居た農民達は、訳が分からず。


 「将軍、オレ達は、何をすればいいんだ。」


 「少し待って下さいね、まだ、陛下をお連れする事も出来ませんので。」


 「将軍、陛下と、テレシアさんは、火葬にされるのであれば、木材が必要にな


るのでは。」


 「う~ん、ですが、余りにも人数が多いので。」


 「将軍、今夜は。」


 「私も、今は、頭が回らないのです、余りにも突然だったので。」


 「将軍、私と、隊長達とで、陛下の着替えを致しますので。」


 「そうでしたねぇ~、では、テレシアさんは。」


 「そうですねぇ~、では、後、少ししましたら、大食堂にお連れ下さい、馬車


も準備しますので。」


 「ジュニア、貴男が、今後、どの様な生き方をされるか、私は、分かりません


が、父上がなされた事を忘れてはなりませんよ。」


 「はい、私も、今、初めて知りました。


 父上が、ロジェンタ帝国の皆さんを、どれだけ、愛されていたのか、父上の業


績が余りにも偉大過ぎますので、まだ、この先、何をすればよいか分からないの


です。」


 「ジュニア、今、陛下が着られています、農民服の話は知っていますね。」


 「はい、1番大隊の皆さんからお聞きしました。」


 「じゃ~、この軍服は。」


 ロシュエが、イレノアとの結婚式で着用した軍服で。


 「何と言う立派な軍服でしょうか。」


 「この軍服はね、テレシアさんが、作って下さったのよ。」


 「でも、母上、この服なんですが、他の軍服とは違う様に思うのですが。」


 「この服はね、私達が着ていた物を、テレシアさんが。」


 「えっ、では、母上が着られた服を。」


 「私だけの服では有りませんよ、先程の話で、フランチェスカと、一緒に来


た、20人の女性達の服を、陛下と、私、将軍と、フランチェスカさんの結婚式


のためにと作られたんですよ。」


 「母上、フランチェスカさんは、お姫様だと聞きましたが。」


 「その話はね、何れ、時期が来れば話しますので。」


 「はい、分かりました、其れで、私は、これから、何をすれば良いのでしょう


か。」


 「今、将軍の指示された通りにする事です。


 将軍の事ですから、何かを考えて頂けると思いますので。」


 「はい、母上、其れで、次の皇帝には、当然、将軍がなられるのですよねぇ


~。」


 「其れは、私にも分かりませんよ、将軍は、誰もが認められる立派な人物です


から。」


 だが、イレノアは、将軍が選ばれる事は無いだろうと考えていた。


 将軍も、司令官も、どれだけ激務か知っている、その二人は、どんな理由を付


けてでも断るだろうと、今のジュニアでは、まだ、早過ぎる、例え、皇帝に選ば


れたとしても、将軍や、司令官が、後ろ盾になる。


 その時、フランチェスカが、テレシアに着せる服を持って来た。


 「この服なの、テレシアさんに着て頂こうと、思って作ったんだけど。」


 「何と、立派な服です事。」


 フランチェスカが、テレシアにと、数十回も草木で染めた布を縫い合わせ、其


れは、派手な色でも無く、落ち着いた色に仕上げたので有る。


 「わぁ~、見事ねぇ~、これだったら、テレシアさんに良く似合うわ。」


 「私も、自慢出来るの。」


 大食堂は、長年使い続けて中は大変な汚れで、其れでも、女性達と、数十人の


農夫達は、懸命に掃除し、思いの外早く終わり。


 「将軍、みんなの協力で綺麗になったぜ。」


 「そうですか、では、陛下を、先に、馬車に乗せますのでね、司令官と、隊


長、ジュニアも。」


 ロシュエの遺体が、宿舎から運び出されると、数万人にも膨れ上がった農民達


が、一斉に馬車へ向かう、だが、全員が見るのは不可能で、本体を含め、多くの


女性達は、涙を流し、農夫達は。


 「陛下、なんでこんなに早く死ぬんだよ~。」


 「陛下、オレ達は、何時までも忘れないぜ。」


 あちら、こちらで、叫ぶ様な声が上がり。


 「陛下、後の事は、オレ達に任せろよ、皇太子も、イレノア様の事もだぜ。」


 殆ど、全員と言ってもよいほどの農民達は泣き叫ぶ。


 「フランチェスカ、イレノアさん、テレシアさんの遺体を馬車に乗せますの


でね。」


 「はい。」


 二人はそれだけを言い、テレシアの遺体が馬車に乗ると。


 「テレシアさん、あんたは最高の姉さんだ、天国に行って、オレ達の仲間に言


ってくれ、みんな、有難うってな。」


 「テレシアさん、何故なのよ、私達を残して、私達は、これから、一体、どう


すればいいのよ。」


 大食堂で、何時も、テレシアと、食事や、兵士達の世話をしてきた女性達も、


何故、テレシアが、亡くなったのかも分からない。


 「ねぇ~、テレシアの顔、凄く、楽しそうな顔をしてるよ。」


 「本当だ、テレシアさんだって、大変、苦労して、本当は、これから、のんび


りと出来ると思ったのに。」


 若い兵士達は。


 「なんで、母さんが。」


 若い兵士達は、テレシアを、母親の様に思っていた。


 「テレシアさ~ん、自分も、何時かは、そちらに行きますので、また、怒って


下さいね。」


 テレシアは、若い兵士には優しくしていた。


 二人を乗せた、二台の馬車は、農民達や、兵士達が、取り囲み、身動きが出来


ない程で、歩くよりも遅く、大食堂へと向かう。


 大食堂では、ロシュエが、何時も座っていた場所に祭壇が設けられ、二人の遺


体が載せられた、農民達は、次々と、二人の遺体に手を合わせて行く。


 「皆さんもですが、まだ、多くの人達が、陛下と、テレシアさんの、ご遺体


に、お会いしたいと待っておられますのでね。」


 列は、途切れる事も無く、深夜まで続くが、其れでも、2番農場の人達が終わ


らない。


 城門の前には、次々と、馬車が着き、農民達は、列を作って、大食堂へと進む


ので有る。


 「将軍、陛下のご葬儀ですが、この調子ですと、何時頃出来るのかも分からな


いですねぇ~。」


 「司令官、其れは、仕方が無いと思いますよ、誰からも好かれた陛下ですから


ねぇ~、其れに、兵士達も、まだ、来れないのですから。」


 「将軍、私は、考えたのですが、1番大隊が終われば、1番農場へ、2番大隊


が終われば、2番農場へと、順送りとしたいのですが。」


 「司令官に、お任せ致しますので、其れで、狼犬部隊ですが、今日から、お二


人の見張り番と言えば、大袈裟になりますが、特に、ホーガン隊長は、相当な落


ち込み様で、注意が必要ですが、司令官は、どの様に。」


 「はい、私も、狼犬部隊は、特別扱いで、よろしいかと思いますので。」


 「で、狼は、何処に。」


 「はい、直ぐに戻って来ると思いますので。」


 「そうですか、では、司令官から、ホーガン隊長に伝えて下さい。」


 「はい。」


 ロシュエと、テレシア、二人の最後を見たいと思う農民達の列は、その後、2


日間も続き、そして、3日目の朝。


 「さぁ~、参りましょうか、これで、父上とも、お別れになりますが、父上の


短刀は、貴男が大切に保管して下さい、形見ですからね。」


 「はい、母上。」


 その後、二振りの短刀は別の意味を持つ事になるとは、この時、誰もが思わず


にいた。


 イレノアは、ロシュエと、結婚式を挙げた服装で、ジュニアは、将軍と、司令


官の計らいで、駐屯地の司令官時代の軍服を着用し、式に参列する。


 式は、将軍の挨拶から始まり、誰もが、ロシュエの功績と称える。


 だが、本体農場の農民達は、早くも、次の皇帝を決め始めている。


 「おい、あの軍服は、司令官の時に着ておられたと思うんだが。」


 「うん、間違いはないよ、だけど、皇太子って、本当に、陛下の若い頃にそっ


くりだなぁ~。」


 「うん、オレも、さっきから見てるんだが、オレは、一瞬、司令官が生き返っ


たと思ったんだ。」


 「なぁ~、聞くところでは、兵隊さん達も、皇太子が、次の皇帝だって。」


 「其れは、当然だよ、だって、あの司令官の息子だぜ、誰が、反対すると思う


んだ。」


 「本当は、皆さん、全員に、一言づつでも、お願いしたいのですが、これだ


け、大勢で有れば、それこそ、何時までも続き、終わりが見えませんので、私


の、独断ですが、最後を、イレノア様にお願いしたいのですが、皆さんは、如何


でしょうか。」


 「将軍、誰も、反対なんかは、しないぜ、オレ達だって、奥様なら文句はない


んだから。」


 「では、イレノア様、最後になりますが、どの様は、お言葉でもよろしいの


で、お願い致します。」


 イレノアは、頷き。


 「皆さん、お忙しいところ、誠に有難う御座います。


 私は、陛下にお会いし、最高の人生を送らせて頂きました。


 私は、今、何も考える事が出来ません、ただ、陛下には、天国で、ごゆっくり


として頂きたいと、願うばかりで御座います。」


 イレノアは、これ以上、何も、言う事は無いと思ったのだろう、ロシュエと、


テレシアの遺体に礼を済ませた。


 そして。


 「皆さん、只今より、ロジェンタ帝国、皇帝陛下と、テレシアさんを火葬に致


しますので、少し、お待ち下さい。」


 将軍と司令官、大隊の隊長と、ジュニアが、ロシュエの棺を担ぎ、イレノア、


フランチェスカと、大食堂の仲間達が、テレシアの遺体と担ぎ、火葬場へと、静


かに進んで行く。


 「陛下。」


 「将軍。」


 「司令官。」


 と、呼び名は違っても、全てが、ロシュエの呼び名で。


 「テレシアさん、姉さん、母さん。」


 と、こちらも、同じで、二人を担ぐ人達は、次々と入れ替わり、誰もが、最後


の担ぎ手になろうと、其れは、大人も、子供達も関係は無かった。


 やがて、前方には、大工さん達が中心となって、木を組み上げた火葬台が見え


てきた。


 そして、最後には、大隊の中隊長と、小隊長全員が、二人の遺体を火葬台の上


に乗せた、その時、最初のお風呂部隊と、今のお風呂部隊全員が整列し、今は、


立派になり、農場で毎日働く、最初のリーダーが、前に出た。


 「一人は、みんなの為に。」


 すると、お風呂部隊の全員が。


 「一人は、みんなの為に。」


 「みんなは、陛下と、テレシアさんの為に。」


 「みんなは、陛下と、テレシアさんの為に。」


 「お風呂部隊、全員、ロジェンタ帝国、皇帝陛下と、我らが仲間として、最高


の女性に対し、敬礼。」


 リーダーの号令に、お風呂部隊全員と、式に参列した、将軍、以下の軍人達


が、一斉に敬礼した。


 「全員、敬礼、直れ、お風呂部隊は、一歩、下がれ。」


 お風呂部隊の全員が下がると。 


 「では、只今より、陛下と、テレシアさんを火葬に致します。


 イレノア様、皇太子は、皇帝陛下に、フランチェスカと、大食堂の奥様方は、


テレシアさんの方に集まって下さい。


 狼犬部隊は、皆さんの松明に点火せよ。」


 イレノア達が持つ松明に点火された。


 「では、皆さん、点火をお願いします。」


 イレノアが、最初に点火し、その後、次々と松明を持った、人達が点火して行


く、組上げられた火葬台は、次第に大きな炎を上げて行く。


 「狼犬部隊は、最後まで見届けよ、他の方々は解散していただいてもよろしい


ですので。」


 だが、今、点火されたばかりで、殆どの人達は去りもせず、暫くは、炎を見つ


めている。


 その頃、葬儀に参列出来なかった兵士達は、各農場から外に出て整列し、其れ


は、城まで続き、農場の城門の上から、兵士が合図を送ると、農場前に整列した


兵士達が、農場に向かって敬礼をする、其れは、誰からも命令されたのではな


く、兵士達が、話し合っての行動で、農場に入り切れなかった農民達も一斉に頭


を垂れている。


 何と、言ってよいのだろうか、兵士達も、農民達も、今、ロシュエと、テレシ


アの二人が火葬されていると分かり、兵士達の敬礼が終わる頃、農民達は、馬車


に乗り、我が、農場へと戻って行く。


 火葬にされている、二人の遺体の炎は増すばかりで、イレノア、ジュニアは動


かず、ただ、じっ~とし、炎を見て、イレノアは、今までの事を思い出している


のだろうか。


 「ホーガン隊長、なんで、こんなに早く陛下が。」


 「うん。」


 ホーガンも、思い出しているのだろう。


 「我々の今があるのは、全て、陛下のお陰だよなぁ~。」


 「うん、其れは、間違いはない、だって、あの時、我々は、本当の野盗だった


んだから、其れに、国も滅ぼされ、やけになってたからなぁ~。」


 「ホーガン隊長。」


 「うん。」


 ホーガンは、一体、何を考えているのだろうか。


 「隊長、我々は、この先、一体、どうすればいいんですか。」


 「えっ、今、何か言ったか。」


 「隊長、我々は、この先、どうせればいいんですか。」


 「私はねぇ~、今、昔の事を思い出しているんだ、今、火葬にされている、陛


下と、最初に出会った頃の事を。」


 「はい、私も、思い出しますが、それよりも、この先の事を。」


 「私はねぇ~、今、イレノア様と、皇太子の事を考えているんです。」


「やはり、そうですか、陛下もでしたが、イレノア様も、大変、素晴らしいお方


ですから、其れに、皇太子ですが、あの軍服を着られた姿、陛下と言うよりも、


あの時の将軍そのものですよ、立派に成長されたんですねぇ~。」


「私は、陛下、亡き後は、皇太子を盛り上げたいと考えているんですよ。」

 

「やはり、隊長もですか、私も、同感です。


 隊長、将軍は、次の事も考えておられると思いますか。」


「うん、多分ですが、でも、今は、誰も、その様な話を口に出す事は無いと思い


ますよ。」


 それは、ホーガンだけではなかった。


「隊長、私は、陛下に命を助けて頂いたと思っているんです。


 でも、今、その陛下がおられませんので、一体、どうすればいいんですか。」


 狼犬部隊の全員が、同じ気持ちだと言っても過言では無い。


「私はねぇ~、これから先。」


 ホーガンは、一瞬だが、躊躇った、今、自分自身の気持ちを、全員に知らせる


べきなのか。


 「私は、イレノア様、いや、これからは、皇后様と、私は、皇后様と、皇太子


を、一生涯、お守りしますよ、ですが、これは、私、個人の考えですので、みん


なには関係は有りませんのでね。」 


「隊長、其れは、駄目ですよ、一人で、私も、是非、仲間に入れて下さいよ。」


「隊長、自分もですよ、仲間外れにしないで下さいよ。」

 

 狼犬部隊の隊員が、次々と言い。


「ですが、将軍や、司令官が。」


「隊長、例え、将軍や、司令官が反対されても、私は、引きませんよ、だって、


あの時、自分の命は無かったと同じなんですよ、将軍や、司令官よりも、自分


は、一人の人間として、皇后様を守りますよ、其れが、命の恩人に対する、自分


の気持ちですからね、絶対に引きませんからね、絶対にですよ。」


 何と言う部下を持ったのだろう、彼らは、命の大切さも知っている、だが、其


れよりも、今は、命の恩人が亡くなり、ではと、イレノアを一生涯守ると言うの


で有る。


「其れに、皇后様は、この数日間は、殆ど、眠られて無かった様に思います。」


「隊長、自分が、今から、馬車を取りに行ってきます。」


「有り難い、頼むよ、其れと、皇后様に若しもの事があっては大変ですから、数


人づつで、お傍に行きますが。」


「じゃ~、隊長、適当な人数で行けば。」


「其れで、よろしいですよ、まず、私と、後、数人で行きましょうか、ですが、


皇后様には、我々からは、声を掛けない様にして下さいね。」


「はい、了解しました。」


「では、隊長、自分は馬車を。」


「はい、頼むますよ。」


 その頃、1台の馬車が火葬場に向かっていた、あの第1小隊で、馬車の後から


は、隊員が、御者は、小隊長で有る。


 一方。


「将軍、私の提案ですが、よろしいでしょうか。」


「はい、お聞きしますよ。」


「私は、今日から、イレノア様では無く、皇后様と、お呼びしたいのですが。」


「司令官もですか、実は、私も、同じ事を考えておりましたよ。」


「将軍、では、よろしいのですね。」


「はい、勿論ですよ、私は、反対などはしませんのでね。」


「其れで、多分、皇后様の事ですから、この宿舎から出られる。」


「司令官、ですが、私は、誰が反対しても、この宿舎に残って頂きたいと願って


おります。


 其れに、皇后様としての、お仕事も考えなければなりませんので。」


 将軍が、イレノアに、皇后としての仕事をお願いすると言うのは、やはりだと


思う、ロレンツだが。


「将軍、やはり。」


「司令官、私の、頭の中を全部読まれた様ですねぇ~。」


「申し訳有りません、私も、同じですが、私は、時期を考えております。」


「そうでしたか、其れとですがね、其れとは別に、狼犬部隊ですが。」


「其れは、将軍のお考えと言うよりも、ホーガン隊長の事だとおもいますが。」


「はい、その通りです、ホーガン隊長は、陛下を命の恩人だと考えておりますか


ら、それで、今後は、皇后様の。」


「はい、私も、大賛成ですので、多分ですが、ホーガン隊長の事ですから、数日


以内に話を持ってくるかと思いますからねぇ~。」


「では、ホーガン隊長の望み通りに。」


「はい、有難う、御座います。」


 ホーガンは、正か、将軍と、司令官が、同じ事を話しているとは、全く知らず


にいる。


「隊長、馬車が、あっ、あれは、第1小隊です。」


「やはり、司令官が。」


 馬車を手配したのは、将軍でも、司令官でも無く、第1小隊全員で決め、馬車


で、イレノアを迎えに来たので有る。


「ホーガン隊長。」


「小隊長、ご苦労様です、では、皇后様を。」


「はい、私の、独断で参りました。」


「えっ、では、将軍も、司令官も知らないのでしょうか。」


「はい、私達は、陛下から特権を頂いております。」


 小隊長は、舌をペロッと出した。


「そうですか、有り難い話ですねぇ~。」


 ホーガン隊長も分かっている、ロシュエは、命令を出す事よりも、兵士達が、


自由に行動出来る、其れは、何事に置いても考え、行動する様にと、その為、大


きな問題以外は、事後報告でも良いと言うのだ。


「隊長、皇后様は。」


「はい、私も、先程から、気にはなって要るのですが。」


「では、私から、一度、お声を掛けますので。」


 小隊長は、イレノアの傍に行くと。


「皇后様。」


 と、声掛けするのだが、イレノアは、呼ばれて要る事に気付かないのか、返事


は無く、小隊長は、再び。


「皇后様。」


「えっ、私の事ですか。」


「はい、皇后様。」


「私は、皇后様と呼ばれる様な。」


「いいえ、私は、皇后様と。これからは呼ばせて頂きます。」


「でも、其れは。」


 イレノアの中に、私は、皇后だと言う認識は無く、寧ろ、困惑している。


「皇后様、一度、戻られては如何でしょうか。」


 イレノアの中に、皇后だと言う認識は全くなく、むしろ、困惑している。


「皇后様、一度、戻られては如何でしょうか。」


「はい、承知、致しました。」

 

 小隊長は、イレノアに敬礼し。


「第1小隊は、その場で待機。」


「了解しました。」


 隊員も敬礼し、待機に入った。


「小隊長、皇后様は、我々が、お送りさせていただいてもよろしいのですが。」


「ホーガン隊長、私達が。」


「そうですか、分かりました、では、よろしく、お願いします。」


 ホーガンが、下がると、別の隊員が、さりげなく、イレノアの傍に立ち、其れ


を見た、小隊長は、ホーガンの傍に行き。


「ホーガン隊長。」


「はい、どうされましたか。」


「いえ、別に、其れよりも、隊長は、皇后様を。」


「小隊長、私達は、狼犬部隊、全員が、陛下に命を助けれました。


 ですが、私達、全員が今まで、陛下のお役に立てて無かったんです。」


「隊長は、今まで、随分と、陛下の為に、努力されたと、私は、思っておりま


すし、其れに、隊長の活躍は、誰でも、知っておりますよ。」


「其れは、本当に有り難いのですが、我々の気持ちの中では、本当の意味では出


来なかったと、今でも、後悔しているんですよ。」


「ですが。」


「小隊長、陛下は、我々の命の恩人なんですよ、陛下が、ご存命中に出来なかっ


た、だからと言ってはなんですが、これからは、皇后様の為に、命を捧げる事に


決めたんです。


 例え、将軍や、司令官が反対されても、私達は、天国で、陛下にお会いした時


に、後悔だけはしたくは無いのです。」


 小隊長も、ホーガン達、狼犬部隊を最初から知っている。


 普通ならば、あの時点で、全員が殺される運命だった、其れが、当時の将軍が


救った。 


「ホーガン隊長、よ~く、分かりました、私も、応援致しますので。」


「小隊長、我々の我がままを許して下さいね。」


「隊長が、後悔だけはしたくない、その気持ちは、私はも分かりますので大賛成


です。」


「あの~、私も、一度、戻りますので。」


「小隊長、皇后様が戻られるとの事です。」


「分かりました。」


「貴男は、直ぐ、現場へ復帰しなさいね、後は、司令官にお任せするのです。」


「はい、母上、では、今から。」


「はい。」


「皇后様、どうぞ。」


「えっ、私の為にですか。」


「はい、皇太子も、お乗り下さい。」


「小隊長殿、私は、現場復帰しますので。」


「はい、ですが、その前に、将軍に会ってお話しをして下さい。


 復帰は、その後でと言う事に。」


「はい、了解しました、では、母上、私も。」


「小隊長さん、本当によろしいのでしょうか。」


「はい、全て、私に、お任せ下さい。」


「はい、申し訳有りませんが、よろしく、お願いします。」


「了解しました。」


 イレノアと、ジュニアを乗せ、馬車は、ゆっくりと走りだした。


 狼犬部隊は、そのまま残り、明くる日の朝までも、火葬場に居た。


 馬車は、農場の中をゆっくりと進むと、農場の人達が、大勢集まりだし。


「皇后様、気持ちを落とさないで下さいよ、オレ達が付いていますからね。」


 イレノアは、言葉に頷き。


「はい、有難う、御座います。」


 と、頭を下げる。


「皇后様、何か、用事が有れば言って下さいよ。」


「皇后様、元気を出して下さいよ。」


 農民達は、もう、イレノアとは呼ばず、皇后様と呼んだ、其れは、自然なのか


も知れない。


 誰もが、心の中で、皇太子が、一日でも早く、皇帝となる事を望んでいる様な


雰囲気なのだ。


 馬車は、住み慣れた宿舎に戻ってきた。


 其処には、将軍と、司令官、其れに大隊の隊長達が待機していた。


「皇后様に敬礼。」

 

 イレノアは、驚き、何と言ってよいか分からず、ただ、頭を下げるだけで。


「皇后様、大変、お疲れになられたでしょう。」


「あの~、将軍、何故、私を、皇后と呼ばれるのでしょうか。」


「そのお話しは中で、さぁ~、どうぞ、皇太子も、お入り下さい。」


 ジュニアも、何と答えてよいのか分からずに居る。


「はい、では、失礼します。」


 頭を下げて執務室に入って行く。


 イレノアは、何時もの様にしていると。


「皇后様は、こちらにお座り下さい。


 皇太子は、隣の席にお願いします。」


「えっ、でも、その場所は。」


「はい、私も、存じ上げております。


 ですが、お座り下さい。」


「はい。」


 イレノアと、ジュニアは、将軍の指定した席に座り。


「司令官も、隊長達も着席して下さい。」

 

 全員が着席した。


「皇后様、この度は、皇帝陛下が急にお亡くなりになり、誠に残念な事です。


 其れで、我々と致しましては、次期、皇帝陛下を選ばなければならないと考え


ております。


 其処で、我々と致しましては、皇后様に、お願いが有るのですが。」


「はい、私に、出来る事が有れば、協力させて頂きますが、その前に、何故、私


が、急に皇后と呼ばれるのでしょうか。」


「はい、では、本当の事を申し上げます。


 私も、司令官も、皇太子が皇帝陛下になって頂きたく考えておりまして。」


「えっ、何故ですか、今ままで、その様なお話は無かった様に思うのです。

 

 其れが、突然に言われましても、心の準備が必要ではないでしょうか。」


「はい、其れは、勿論の事で、私達も、十分承知しております。


 其処で、ご相談ですが、皇后様に、女帝陛下をお願いしたいのです。」


 其れは、イレノアにとってもだが、皇太子にとっても突然も話で、普通なら


ば、即座に皇太子がなると決まるのだが。


「将軍、私は、とてもでは有りませんが、女帝などと言われましても、引き受け


る事などは出来ないのです。


 私が、その様な大それた人間ではない事は、皆さんも、十分に、ご存じだと思


うのですが。」


「勿論、私も、含め、誰もが知っております。


 其れでは、農民達からも、賛成を頂ければ引け受けて頂けるでしょうか。」


 イレノアは、余りにも突然な話の為に、頭の中が混乱している。


「将軍、何故、私なのですか、将軍が、皇帝になられるものと、私は、思ってお


りましたが。」


「いいえ、その様な、私こそ、その様な人間では有りません。


 女帝陛下となって頂くのは、他の訳も有るのです。」


「将軍、お聞かせ下さい、お願いします。」


「実は、何れかの時期が来れば、皇太子に、皇帝陛下になって頂く話が有るので


すが、その前に、皇太子には、皇帝になるための勉強と申しますか、帝王学を学


んで頂く様にと考えているのです。」


 やはりだ、イレノアは、裏に何か有ると考えていたのだが、皇太子に、ロジェ


ンタ帝国を引き継がせるために勉強が必要だと、其れを、将軍や、司令官達は考


えていた。


「では、その為の勉強は、どなたが教えて頂けるのでしょうか。」


「女帝陛下となって頂きますれば、我々も協力させて頂く所存で、御座いま


すので。」


 だが、イレノアは、絶対に拒否すると、将軍も、司令官も思っており、其れ


が、将軍の作戦だ。


「皇后様、どうしても、女帝陛下となって頂く事は出来ませんでしょうか。」


「私は、その様な器の人間では有りませんので、どうか、お許し下さい、お願い


します。」


「う~ん、これは、大変、困りましたねぇ~。」


 将軍の見事な芝居だ。


「将軍、私の提案ですが。」


「司令官、何か、良い考えでも。」


「はい、皇后様は、女帝陛下になるのを拒否されているので有れば、皇太子に、


皇帝陛下になって頂き、皇后様は、皇太后様になって頂く方法も有るのでは有り


ませんか。」


「えっ、皇太子が、皇帝にですか、ですが、余りにも年齢が若過ぎるのでは無い


でしょうか。」


「はい、其れで、皇太后様に、陛下となられた皇太子の相談役になって頂けれ


ば、皇太子の不安も減ると考えたのですが。」


「司令官、私も、大賛成ですよ、其れに、皇太子は、皇太后様が傍に居られ、相


談出来るのならば、安心され、我々としても、大変、有り難いのです。」


 リッキー隊長も、大賛成だと言い。


 「そうですよ、将軍、我々もですが、ロジェンタ帝国の殆どが、皇后様を、知


っていますし、其れに、亡き陛下の傍で、適格な提案をと言いますか、陛下も、


よ~く言っておられましたよ、イレノアって女性は、本当に賢い女性で、オレに


は最高の相談役だって、ですから、司令官の提案に、私も、大賛成です。」

 

 オーレン隊長が、本当の話をすると、他の3人の隊長も。


「私も、大賛成です。」


 と、手を挙げた。


「皇后様、如何でしょうか、何としても、我々全員の総意を受けて頂きたいので


すが。」


「う~ん、でも。」


 まだ、引き受け様とはしないが、リッキー隊長が、最後の作戦に出た。


「では、皇后様、私の提案を聞いて頂きたいと思います。


 今、各農場からも、大工さん達からも、兵士達からも、代表がおります。


 その代表の方々に説明し、代表は、他の皆さんに説明して頂きます。


 其処で、皆さんが賛成して頂ければ、引き受けて頂かなければならないと思い


ますが、如何でしょうか。」


「はい、ですが、私も、少し時間を頂きたいのです、少し、考えたい事が有りま


すので。」


「はい、分かりました、では、後日、お話をお伺いますので、誠に、お疲れのと


ころを、申し訳有りません。


 皇后様は、暫く休んで頂ければよろしいかと、思います。


 では、私達は、これで、失礼致します。」


 将軍達は、全員、宿舎を後にした。


 イレノアは、本当に疲れていた、その様な時に、難問中の難問が起きた。


「母上、少し休んで下さい。」


 イレノアは、寝室に入ると直ぐ眠ってしまった。


「司令官、作戦は、成功したと思いますが、我々としても仕方が無かったので


すねぇ~。」


「はい、私も、十分、理解はしておりますよ、落ち着いてから話をすれば、時間


が掛かり、農民達も不安になると思いますので。」


 イレノアは、その後、2日間も眠っていたので、将軍達は、その2日間を利用


し、各農場を回り、話を進め、勿論、殆どの農民達に異論は無かった。


 特に、本体と、1番から、5番農場までの農民は、大賛成だと言う。


 だが、最後のと言うのか、一番新しい農場では、イレノアの事は全く知られて


おらず、司令官と、隊長、中隊長も、小隊長達も、必死に説明すると、その甲斐


があったのか、農民達は納得した。


「司令官、良かったですねぇ~、私は、一時はどうなるのかと心配でした。」


「其れは、私も、同じですよ、農民達にすれば、悪夢を感じたのでしょうからね


ぇ~。」


「でも、司令官の話術には参りましたよ。」


「えっ、私の、話術って。」


「だって、あの様な表現をされれば、誰だって、納得しますからねぇ~。」


 ロレンツは、農民達に、軍隊が話を進めているのでは無い、其れは、最初の


頃、この地に辿り着いた人達からの希望だと、それだけではない、1号から、5


号農場の人達全員が望んでいるのだと、その話を、言葉巧みにとでも言うのか、


農民達が、納得せざるを得ない様に説明を何度も行ったので有る。


「さぁ~、我々は、戻りますよ、隊長は、各小隊長に説明をして下さいね。」


「はい、承知しました。」


 其れから暫くして、ロレンツをはじめ、隊長、中隊長は、本体へと急いだ。


 その頃、イレノアは、まだ、悩んでいた。


「イレノア、何を、悩んでいるの。」


 フランチェスカが突然来た。


「あっ、姫。」


「私は、姫では有りませんよ。」


「はい。」


「ねぇ~、イレノア、私も、将軍から聞きましたが、何も問題は無いと思うの


よ、だって、貴女が望むのではなく、みんなから望まれていると思うのよ、貴女


の気持ちもわかるけど、何も、考える事は無いと思うの、だって、皇太子が、こ


れで、十分、これから先も、ロジェンタ帝国の為にやって行けると判断した時点


で、引き下がればいいのでしょう、だったら、何も、迷う事は無いと思うわ、私


も、出来るだけ応援するわよ。」


 フランチェスカも、イレノアを応援すると、其れは、将軍も、司令官も同じだ


と言う事で。


「分かりました、では、私は、農民さん達が、賛成して頂けるので有れば、お受


けします。」


「其れで、いいのよ、だって、貴女が望むのではなく、他の人達が、イレノアを


望んでいるんだものね。」


「はい、分かりました。」


 どうやら、フランチェスカの説得が成功した様で、其れから、数日後、ロレン


ツ司令官達が戻り、3日後、本体の大食堂で協議する事となった。


 そして、当日の朝から、各農場からは代表達が集まり始め、午後から協議が開


始された。


「皆さん、大変、お忙しい時期に、お集り頂き、有難う、御座います。」


 その後、将軍は、ロジェンタ帝国の発展のためには、今回、イレノアを、皇太


后陛下に、そして、皇太子には皇帝陛下になって頂く事の説明を行うのだが、説


明と言うよりも、イレノアが、必要だと、其れは、皇太子が、突然、皇帝になっ


たとしても、職務の全てを把握出来るまでは、長い時間が必要だと、その時の相


談役として、イレノアの存在が大きいと言うので有る。


 この話は、ロレンツが、新しい農場の農民達に話したと同じ内容で有る。


 そして、夕刻になる頃。


「皆さん、何も、今日、結論を出す必要は有りません。


 皆さんは、各農場に戻られ、他の人達にも説明を行って下さい。


 その説明には、私達も、同席して欲しいと言われるのではあれば、私達が、出


向き説明を致しますので、本日は、大変、忙しいところ、有難う、御座いまし


た、では。」


 その時、イレノアが、発言を求めた。


「将軍、私からも、一言を。」


「はい、皇后様、どうぞ。」


「皆さん、聞いて頂きたいのです。


 私は、正直言って、まだ、決心が付かないのです。


 其れと、言うのも、陛下が亡くられて、まだ、日も浅く、他の事までも考える


余裕が有りませんでした、かと言って、私は、何も逃げるつもりなどは考えてお


りません。


 皆さん、本当に、私で、よろしいのでしょうか、私は、此処に来る前は。」


「お~い、イレノアさんよ~、オレ達は、何も、此処に来る前の事なんてどうで


もいいんだ。」


 其れは、イレノアが、今も、過去の事を拘っているのだと、この農夫は思った


のだ。


「そうだよ、だって、オレ達だって、みんなと同じなんだよ。」


「そうだ。」


「そうだよ。」


「ですが、この私に、一体、何が出来るのでしょうか。」


「なぁ~、イレノアさん、確かに、今は、大変だと思うんだ、オレ達が、一番大


事だと思ってた、陛下が、突然、あんな事になって、オレ達も、この先、一体、


どうすればいいんだって思ったよ、だけど、今のオレ達には、イレノアさんが、


一番、頼りなんだ、陛下が言ってたよ、オレはよ~、イレノアには、頭が上がら


ないんだ、だって、イレノアは、頭が賢い、だからと言って、オレを差し置い


て、前に出る様な女性じゃないんだ、其れよりも、オレが、間違ったらよ~、イ


レノアが、助言してくれるんだ、オレは、その助言のお陰で、何度も助かったっ


て、だから、イレノアさんは、皇太子が、皇帝になっても、助言が必要だと思う


んだよ、だって、オレ達の事を一番知ってるんだから。」


「そうよ、私達も、イレノアさんだから、応援するのよ、ねぇ~、みんな。」


 彼女も、イレノアが、ロシュエの、影になり、農民の為にと、助言していた事


を知っている。


「なぁ~、将軍、このロジェンタ帝国の人達は、イレノアさんが、皇后、いい


や、皇太后になっても、誰も不満なんか言わないぜ、其れよりも、オレ達、みん


なが、イレノアさんを支えるんだ、ロジェンタ帝国の為に。」


「皆さん、本当に有難う。」


「あの~、私からも言わせて頂いてもよろしいでしょうか。」


 元、城主が発言を求めた、彼が、ロジェンタ帝国と言う名称を発表した人物だ


と知っている。


「はい、よろしいですよ。」


「有難う、御座います。


 皆さん、私も賛成ですが、私の提案を聞いて頂きたいのですが、よろしいでし


ょうか。」


「いいよ、どんな事なんだ。」


「はい、私は、皇太子が、皇帝陛下になられる事に反対は致しません。


 其れよりも、皇后様に、女帝となって頂き、そのお姿を、皇太子が、勉強さ


れ、女帝陛下が、これで、皇太子が、皇帝陛下となっても、大丈夫だと思われて


から、改めて、皇帝陛下になって頂いても、よろしいのではないかと考えたので


すが。」


「其れは、皇太子が、今、皇帝陛下になられても、大変だと言われるのでしょう


か。」


「将軍、私は、皇太子がと言うよりも、我々は、陛下が、まだまだ、長生きされ


るものと思っておりました、其れは、皇后様も同じだと思います。


 私は、皇后様が女帝陛下になられたかと言って、何も、権力を振りかざすお方


だとは思ってはおりません。


 其れよりも、これからのロジェンタ帝国の為に、皇太子に、全てを教えて頂き


たいと存じております。


「お~い、イレノアさん、オレ達の為にも、あんたは必要なんだ、何も、別の人


になるんじゃ無いんだから、皇太子を一人前になるまでの話なんだから、なぁ


~、頼むよ。」


「本当に、私で、よろしいのでしょうか。」


「当たり前だよ、誰か、反対する者がいるのか。」


「誰も、反対なんかしないよ、イレノアさん、私達も、あんたが、女帝陛下にな


って、皇太子を育てなよ。」


「よ~し、みんな、これで、決まりだ、将軍、オレ達は、大賛成だと、よし、今


日からは、皇太后様って呼ぶぜ、なぁ~、みんな。」


「でも、其れは困ります、今まで同じ様に呼んで下さい、お願いしますから。」


 イレノアは、この様な状態になれば、今更、引く事も出来ないと思った。


「分かりました、では、皆さん、各農場に戻られて説明は。」


「将軍、そんな事は必要ないよ、だって、オレ達は、将軍が言う前から決めてた


んだから。」


「では、先程、提案が有りました、女帝陛下で、よろしいのですか。」


「勿論だぜ、なぁ~、みんな。」


「当たり前だよ、よ~し、これで決まりだ。」


「皆さん、有難う、御座います。


 では、本日から、イレノア皇后改め、イレノア陛下となって頂き、皇太子に帝


王学を教えて頂く事に致します。


 我々、ロジェンタ帝国を、今後、数百年、いいえ、千年帝国と続くためにも重


要な基礎を、イレノア陛下に、お願い致します。」


「お~、陛下、オレ達が、いる限り、何も、心配する事は有りませんからね。」


「皆さん、本当に、有難う、御座います。


 私に、出来る限りの事は致しますので、皆さんの応援も、よろしく、お願い致


します。」


 イレノアは、将軍や、司令官に頭を下げ、各農場の代表達にも、頭を下げた。


 本当の意味でこれからが、大変なのだ、皇太子を、皇帝のなるための教育をす


る事が、一番、大事な仕事が有る。


 その為には、自身の姿を見せる事が大切だと、その教育は、大食堂で、協議が


終わった時から始まった。


「母上、私が、本当の意味で、皇帝になれるのでしょうか。」


「其れは、貴男次第ですよ、今からは、何事に置いても、自身の事は、一番最後


ですよ、全て、農民さんを最優先にするのです。


 其れは、私達は、農民さんが、大切に育てられた作物を食べさせて頂いて要る


と考えなければなりませんからね。」


「はい、母上。」


「父上は、何時も言っておられました、オレは、何も知らないし、出来ないん


だ、だから、知らない事は教えて貰う、其れは、大切な自分の宝物になるって、


私も、知らない事の方が多いのですから、何事に置いても、謙虚にならなければ


ならないと言う事ですよ。」


「はい、母上、私も、分からない事は、その場で教えて頂く様にします。」


 イレノア自身は、何時も、ロシュエの傍で、将軍や、司令官、其れに、各農場


の代表達の話を聞いていただけだと思っている。


 だが、ロシュエが、時々、悩み、迷っている時が有り、その様な時、ロシュエ


は、イレノアに意見を求めるのだが、イレノアは、答えを出すのではなく、方向


性を示すだけで、悩み、迷っていた、ロシュエに取っては、大きな助言となって


いた。


 イレノアは、今までと同じ様に、ジュニアを育て様と、ロシュエに対してもだ


が、難しく考える必要は無いと、其れからの数年間と言うものは、イレノアは、


ジュニアに、優しく、厳しく育て、また、数年が過ぎた頃で有る。


「将軍、大切なお話しが有るのですが、よろしいでしょうか。」


「はい、でも、そのお話は、私、一人ではなく、司令官も、入っての方がよろし


いのでは。」


「はい、出来る事なら、お願い致します。」


 将軍は、直ぐに分かった、この数年間、イレノアの教育は、厳しく、時には、


優しく行われ、将軍も、何時、イレノアから話が有るのか、待っていた。


「では、当番さん、大至急、司令官を呼んで下さい。」


「はい、承知しました。」


 当番兵は、ロレンツの宿舎に走って行く。


 イレノアの傍には、ジュニアが、緊張した様子で立っている。


「陛下、司令官も、直ぐ参ると思いますので、お掛け下さい。」


「はい、貴男は、そのままで、待つのですよ。」


「はい。」

 

 今、ジュニアの緊張は、最高に達している、幾ら、イレノアが、大丈夫だと言


っても、将軍や、司令官の結論待ちなのだ、イレノアも、自分が女帝で有るとは


考えず、ただ、ロシュエが築いた帝国の維持だけを考えている。


「将軍。」


 ロレンツが、入ってきた、ロレンツも、話の内容は分かっている。


「司令官も、お座り下さい。」


「はい。」


 この部屋は、ロシュエが、居た頃の執務室では無く、将軍の宿舎の一部だ。


「陛下、お話し下さい。」


「はい、実は。」


 この後、イレノアは、この数年間、ジュニアに対する教育を説明した。


「将軍、司令官、その様な訳で、私が、大丈夫だと判断致しました。


 ですが、最終判断は、皆様に、お任せ致します。」


「陛下、大変、良く分かりました、私も、この数年間、陛下が、時間の許す限


り、教えておられたのは知っておりましたので、何時、お呼びが掛かるかを、お


待ちしておりました。」


「有難う、御座います。


 この数年間は、私の知る限りの事は、全て伝えましたが、後は、皆様の応援が


頂けるのであれば、私の仕事は終わったと考えております。」


「陛下、はっきりと申しますが、陛下が、引退される事は、私もですが、農場の


人達が、果たして、承服するでしょうか。」


「えっ、ですが、私は。」


「はい、勿論存じておりますが、皇太子が、皇帝陛下になられたとしましても、


陛下の存在は大きいと、私は、思っております。」


「将軍、私も同じです、陛下としては、元の一人の女性に戻りたいと思われる、


お気持ちは、私も理解致しております。

 

 ですが、将軍も言われた様に、農場の人達は、決して、望まれないと思いま


すが。」


 イレノアは、考えが甘かったのだろうか、ジュニアが、皇帝になれば、自身


は、この農場に来た時の様に出来るだろうと思っていた。


 この後、将軍は、農民の代表に集合を呼び掛け、数日後に、皇太子が、2代目


のロジェンタ帝国の皇帝になる事が決定した。


 皇帝となってからも、連日、農場の人達、特に、一番、新しい農場に行くと、


数日、いや、10日間以上も滞在し、出来る限り多くの農民と接せるので有る。


 その姿は、真剣で、農民の話を聞く様子は、隊長達も見ている。


 新皇帝には、狼犬部隊が、常時、護衛に当たり、ホーガンは、新皇帝が、積極


的に農民に接する姿を見、目を細めている。


「ねぇ~、隊長、新しい皇帝陛下は、お若いですが、よく頑張りますねぇ~。」


「うん、私も、嬉しいよ、後姿は、前の、陛下と同じだ、其れに服と言っても、


作業服だからねぇ~。」


 新皇帝も、ロシュエと、同じ農民服で、其れが、新しい農場の人達にも理解が


出来る様になり、この様にして、新皇帝は、イレノアから教わった事の全てを出


している。


 やがて、この農場の人達からも、新皇帝に対する見方が変わり、全てのと言っ


ても良いほど、新皇帝を支持する様になり、ロジェンタ帝国は、益々、繁栄する


ので有る。


 ロジェンタ帝国は、2代目、3代目と、後継ぎにも順調に進み、その後、数百


年間は、初代皇帝の農民を大切にする政策は引き継がれて行く。


 だが、やがて、帝国内では権力を欲しがる者達が台頭するが、軍部が押し込ん


でいた。


 だが、有る時、男子ばかり、3人が生まれ、やがて、成長すると、世継ぎの問


題で、長男側と、次男側とで、争いが起きたので有る。


 長男側は、農場本体を、次男側は、城を拠点とし、小競り合いが頻繁に起きる


ので有る。


 三男と言えば、初代、ロシュエの時に作られた農場で、長男と、次男との争い


事とは関係の無い生活を送っていた。


「司令官。」


「はい。」


「少し相談が有るのですが、よろしいでしょうか。」


 司令官とは、三男の事で、この農場は、駐屯地の様な扱いとなっている。


「先日、第1小隊が、お城に行ったのですが、この数日の間に、大きな争いにな


る様な雰囲気だと報告が入ったのです。」


「やはり、そうでしたか、でも、私は、誰が、世継ぎになったとしても、この農


場を去る気持ちは無いのですが。」


「はい、其れは、我々も、十分に承知しております。


 ですが、司令官が、その様に思われても、如何でしょうか、上の、お二人は、


司令官を味方に付け様と、画策されておられると思います。」


「実は、10日程前にも、その様な話が、城から有りましたが、私は、断りを入


れたのです。」


 この農場は、ロレンツ司令官達の子孫が多く残り、今でも、ロレンツの考え方


を継いでいる。


「やはり、来ておりましたか、私は、この数十日間、中隊長や、小隊長達とも、


話し合いをしたのですが、上のお二人が争いを始めると、我々のところまで届く


と言うのです。」


 司令官も、同じ考えで。


「私も、其れは、懸念しております、でも、私が、一人で、決断出来る様な問題


では有りませんので。」


 隊長は、司令官の言った決断の意味を知りたいと思い。


「司令官の言われる決断とは、一体、どの様な意味が有るのでしょうか。」


「え~。」


 司令官は、暫く考え、隊長の思いと、司令官の思いとが、果たして一致するの


だろうか、暫くの間、沈黙が続くので有る。


司令官の早い決断を待つ、隊長だが、今は、この農場まで争いの火種が飛び散る


様な状況では無い、だが、其れも時間の問題だと隊長も、中隊長も思っている。

 

 長い沈黙が終わったのか。


「分かりました、隊長、では、この地を離れましょう。」


 隊長は、一安心した。


「ですが、皆さんの意見を聞かなければ。」


「司令官、実を言いますと、この話は、農民さんから出ておりまして、全員が、


この地を離れる決意で、後は、司令官の決断だけと言う事になっております。」


「えっ、では、早くから、準備を進めておられたのですか。」


「はい、私達も、最初は、迷いました、でも、農民さん達の決意は固く、私も、


農民さん達に押し切られました。」


「そうでしたか、ですが、この地を離れ、新しい地が見えるのか、その保証は、


何処にも無いのですよ。」


「農民さん達は、戦で死ぬのは嫌だ、同じ死ぬ事になっても、自分達が決めた事


に対して後悔は無いと言われております。」


「分かりました、ですが、準備に時間が掛かるのでは。」


「司令官、全て終わっておりますて、何時でも、出発出来ますよ、其れに、農民


さん達は、大喜びしますからねぇ~。」


「分かりました、後は、段取りですが、昼間は止めましょう、では、2日後の夕


刻に、何時もと同じ様にかがり火を点け、辺りが暗くなり始めましたら出発しま


すので、皆さんに伝えて下さいね。」


「了解しました、小隊長、今、聞いての通りです、2日後の夜に出発しますと、


農民さん達に伝えて下さい。」


「はい、隊長、了解です。」


 小隊長は、部下と共に、各部隊に伝え、その後、全ての農民に伝えられた。


 その2日後の昼頃、城の動きを探っていた、別の小隊が戻ってきた。


「隊長、いよいよ、戦争です、昨日の朝、城から、2個大隊が本体へ向かって出


撃しました。」


「分かりました、今の話を中隊長達にも伝えて下さい。


 其れと、かがり火を準備する様に。」


「はい、了解しました。」


 小隊は、手分けし、各中隊に伝えて行き、そして、夕刻近く、この農場のかが


り火が点いた。


 其れは、狼除けの為のかがり火で有ると、城も本体も思っている。


 やがて、付近が暗くなり始めた頃。


「では、出発します、第1中隊は先頭に、他の中隊は、農民さんの馬車の傍に付


いて下さい。」


 この農場からは、数万人の農民と、牛や、馬を、1万頭近くを連れて行く。


 だが、この先、どの様な苦難が待ち受けているのだろうか。


 そして、彼らの望む、新しい土地に着くのは、何時の事になるのだろうか、其


れは、今、誰にも分からない。


 この数十日後、数百年間も繁栄を誇っていた、ロジェンタ帝国は、内部紛争が


元で、崩壊するので有る。 


 ロシュエ達の望みは絶たれたので有ろうか。




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