表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の帝国    作者: 大和 武
26/288

第 26 話。  ロジェンタ帝国の隆盛か、其れとも。

 ロレンツ司令官達が、無事戻り、明くる日の早朝、救い出された領民と、新し


い農場建設に入っていた農民達の全員が農場本体へ向かう途中で、其れは、大変


な驚きの表情で、子供達はと言うと、高い岩石の城壁が、一体、何処まで続くの


だろうかと、目を白黒させている。


 「なぁ~、母ちゃん、なんで、こんなに高い壁が有るんだろう、其れに、一


体、何処まで続いているのかなぁ~。」


 「そんな事、母ちゃんも、初めて見たんだから知ら訳が無いよ。」


 馬車の横の兵士達は、護衛と言う名目の凱旋で有る。


 「あれはねぇ~、左の森の中にね、狼の大群がいるんだ、其れでね、狼が入ら


ない様に、あんなに高い城壁を造ったんだ。」


 「ふ~ん、だけど、一体、何処まで続いているの。」


 「其れはねぇ~、この馬車が着く、お昼頃まで掛かるほど続いているんだ。」


 「へぇ~、じゃ~、僕が、歩いたら、何時頃着けるの。」


 「う~、知れは、大変だなぁ~、だって、君が歩いて行くと、今日中には着か


ないよ、う~ん、そうだねぇ~、3日、いや、4日以上は掛かると思うよ。」


 「え~、じゃ~、僕は、馬車に乗って行くよ。」


 「そうだねぇ~、其れが、一番、早いと思うよ。」


 「ねぇ~、兵隊さん、この城壁の中って、一体、何が有るの。」

 

 「はい、中は、全て、農場ですよ。」


 「えっ、そんなに大きいの、私は、そんなに大きいとは思わなかったのよ。」


 「其れに、此処から、2日掛かるところの大きな川が有りまして、その大きな


川までが農場なんです。」


 其の様な会話が、別の馬車でもされていた。


 「司令官、一体、何日振りでしょうかねぇ~。」


 「う~ん、其れは、私も、全く、分かりませんよ、でも、隊長も、よく辛抱し


て下さって、私は、大助かりでしたよ。」


 「いいえ、私は、最初から、司令官と、ご一緒させて頂くつもりでしたので、


其れにしても、本当に長かったですよ、私は、あの高い山を見た時、一体、何処


から行くんだろうと思いましたから。」


 「あれは、やはり、第1小隊のお陰だと、私は、思っておりますよ。」


 「でも、その前に、第1小隊は、何処から、あの丘に行かれたのか、私は、全


く、分からないんですが。」


 「あれはねぇ~、多分ですが、一度、大きな川へ行って、ウエス達が、通った


ところを探し、その道を辿って行くと、あの丘に着いたと思うんですが。」


 「でも、小隊長は、大した人物ですねぇ~。」


 「其の様ですねぇ~、でもねぇ~、私は、到底真似は出来ませんよ。」


 「司令官、私も、同じですよ。」


 司令官と、シェノバー隊長は、笑いながらも、一行は、農場本体へと進んで行


く。


 そして、昼頃。


 「お~い、司令官だ、司令官が戻って来られたぞ~、開門だ、早く。」


 「お~い、司令官が、戻って着たぞ~。」

 

 伝令が、走る前には、ロシュエも知った。


 「お~、よかった、よかったなぁ~、当番さんよ~。」


 「はい、直ぐ、行きます。」


 当番兵も知っているのだろうか、大食堂へと、大急ぎで向かった。


 「司令官、お帰り。」


 城門の上からも、下からも、兵士達は、大声で叫んでいる。


 「テレシアさ~ん。」


 「分かったわよ、ねぇ~、みんな、準備は。」


 「勿論よ、全部、出来てるわよ。」


 「じゃ~、表に。」


 大食堂の女性達と、農場の男達も手伝い、大きな鍋が、大食堂から、次々と運


び出されて行く、一体、どれ程の量を作ったのだろうか、この農場、始まって以


来、最高の分量を作ったのである。


 農場からは、全員と言ってもよい程の人達が広場に集まり、大歓声が渦巻いて


いる。


 「みんな、よ~く、頑張ったなぁ~。」


 兵士達は、あちら、此方でもみくちゃになるが、兵士達も喜びを爆発させ、ロ


シュエは、何も言う事は無かった。


 「さぁ~、みんな、出番だよ。」


 「は~い。」


 大勢の女性達は、ニコニコ顔で待ち受けている。


 「農民さ~ん、さぁ~、食事ですよ、全部、あんた達が食べるんだ、其れと、


この農場にはねぇ~、大きなお風呂が有るからね、男性用と女性用だから、先に


お風呂に入る人、食事をする人と、別れてね。」


 「サマンサ、オラ達も、この農場は初めてなんだ、だけど、あの司令官様が言


った通りだ。」


 「うん。」


 サマンサは、驚いている、これだけ大勢がやって来たのに、どの人達もニコニ


コとしている。


 やはり、司令官の言った話に間違いは無かった。


 「陛下、只今、全員、無事に戻りました。」


 「うん、これで、お前の任務は終了だ、長い間、本当に、ご苦労だった、明日


から数日間、何もせずに、ゆっくりと休めよ。」


 「はい、私も、これで、安心です、任務を終了します。」


 ロレンツ司令官は、安心し、広場では、大騒ぎになっている。


 「なぁ~、母ちゃん、僕、こんな大きな肉が入った食べ物って、初めてなん


だ。」


 母親も、実は、初めてなのだろう。


 「うん、本当だね、母ちゃんも初めてなんだ。」


 「えっ、母ちゃんも初めてなのか、なぁ~んだ、僕だけかと思ったよ。」


 高い山の向こうに有る領地では、まともな作物は出来なかった、だが、其れよ


りも、もっと、大きな騒ぎが、お風呂場で起きている。


 農民達は、お風呂と言うものに初めての人が殆んどで、この風呂場では、数十


人の兵士が、男性用に、女性用には、農場の女性達が説明し、浴場に入ると。


 「父ちゃん、家の中に大きな池が有るよ。」


 子供が思うのも当然で、誰も笑う事など出来ない。


 「兵隊さん、身体を洗って入るんだけど、この中は深いんですか。」


 「いいえ、浅いですよ、皆さんは、初めてだと思いますが、このお風呂のお湯


を作っているのは、全員、農場の子供達ですよ。」


 「えっ、子供も、此処では仕事を。」


 「ええ、そうですよ、このお風呂は、子供達だけの部隊で、その名も、お風呂


部隊と言って、此処では、将軍でも、お風呂部隊の命令通りにされますよ。」


 「へぇ~、じゃ~、将軍様も、此処では勝てないんですか、相手が子供だから


と言っても。」


 「そうでは有りませんよ、陛下も、将軍も、其れに、我々だって、服を脱げば


一人の人間だと言う事なんですよ。」


 説明する兵士も、一人の人間だと、だから、この農場では、お互いが助け合う


事が出来るのだと。


 「わぁ~、父ちゃん、物凄く気持ちがいいよ。」


 「本当だ、父ちゃんも初めてだけど、本当に気持ちがいいなぁ~。」


 子供達は、風呂場でも大騒ぎをしている。


 一方、広場では。


 「ねぇ~、陛下、明日は、一体、どうするのよ、早く決めて欲しいんだか


らさぁ~。」


 「お~、済まんなぁ~、え~っと。」


 「あんたは、陛下なんだからさぁ~、みんなの事を考えてよ、本当に、一体、


何を考えてるのよ、全くもぉ~。」


 「なぁ~、テレシア、もう少し待ってくれよ、頼むからよ~。」


 ロシュエは、何時もの様に、テレシアに手を合わせるが、このやり取りを見て


いた農民達は驚いている。


 正か、農民姿の女性が、皇帝に対して言う様な言葉では無いと。


 「ねぇ~、兵隊さん、あの女性だけど、皇帝陛下様にあんな言葉を使って怒ら


れないんですか。」


 兵士は、笑って。


 「あ~、あの人ですが、あの女性は特別なんですと、言いたいんですがね、此


処の農場の人達は、何時もあの調子ですからね、だって、此処では、其れが普通


なんですからねぇ~。」


 「でも、陛下様は、何で謝るのです、私には、全然、理解が出来ませんが。」


 「あの女性は、テレシアさんと言って、まぁ~、そうですねぇ~、陛下のお姉


さんの様な女性ですからね。」


 「でも、余りにも。」


 「まぁ~、まぁ~、何時もの事ですからね、ほら、他の兵士達も笑っているで


しょう、あれはね、あ~あ~、まただ、陛下が、怒られてるって思っているんで


すよ。」


 「えっ、じゃ~、この農場じゃ~、陛下様よりも、恐ろしい女性なんです。」

 

 「いいえ、もっと、恐ろしい女性が居られますよ、あの人ですよ、美しい人だ


から、直ぐに分かりますよ。」


 「わぁ~、本当だ、なんて、美しい女性なんでしょうか、農民に、あんな女性


は。」


 「あのお方は、陛下の。」


 「やはりねぇ~、陛下様の侍女なんですか。」


 「其れが、違うんですよ、あのお方は、陛下の奥様ですよ。」


 「えっ、じゃ~、陛下様の、奥様って、皇后様ですか。」


 「はい、其の通りですよ、其れに、隣の女性が、将軍の奥様ですよ。」


 「わぁ~、あの人も、美しい女性だわ、でも、何で、そんなお偉い女性が、農


民の服を着られているのです。


 オラ達は、此処の女性に見えるんですが。」


 「そうですねぇ~、陛下も、普段は、農民さんの古着を着ておられるんです


よ。」


 「えっ、そんな話、聞いた事が無いですよ、でも、本当なんですか。」


 「はい、此処で制服と言えば、我々、軍隊の兵士だけと思うでしょうが、陛下


は、これが、オレの征服だって言われますからねぇ~。」


 「ねぇ~、父ちゃん、あの国とは全然違うよ、だって、あの国のお城じゃ~、


女性は、みんな着飾ってたのんだ、でも、此処は、ねぇ~、兵隊さん、皇后様


も、将軍様の奥様も、何故、綺麗な服を着ないんですか。」


 この兵士は、思い出した、今、風呂場で仕事をしている、3人の事を。


 「う~ん、其れはねぇ~、簡単に言いますが、陛下の奥様も、将軍の奥様も、


其れに、20人の若い女性も、この農場では、一番、度胸が有る女性ですよ、で


も、この話を、奥様には出来ませんよ、私の、足か、手が無くなりますからねぇ


~。」


 農民達は、目を白黒させている、この兵士は、一体、何を言っているのか、全


く理解が出来ないと。


 「まぁ~、皆さんも、何れ、分かる時が来ますからね、その時までの楽しみに


して下さいね。」


 兵士は、笑って、誤魔化した。


 「陛下、明日はと言うよりも、皆さんの食事と、お風呂が終われば、城へと移


動させたいのですが。」


 「うん、そうだなぁ~、其れに、みんなも、早く、新しい農場に行きたいだろ


うからなぁ~。」


 「はい、私も、早く見せたいと考えておりますので。」


 「よ~し、其れで行こうか、お~い、みんな、聞いてくれ、食事と、お風呂が終われば、みんなが、これから生活


する、新しい農場に行くぞ~。」


 その時、広場の農民から、大歓声が上がった、やはり、一日でも早く、新しい


農場に行きたいのだ。


 そして、数時間後。


 「皆さん、今までは、苦しい事ばかりが続いておりましたが、新しい農場は皆


さんを待っておりますので、今から行きたいのです。」


 将軍は、優しく、出発を告げると。


 「お~い、みんな、この農場の人達にお礼を言って、直ぐ出発するぞ~。」


 この農夫は、領民を救うために同行したので、全てを分かっている。


 「では、陛下、私は。」


 「お~、済まんが、頼むぞ。」


 フランチェスカは、寂しそうな顔で、将軍を見送り。


 「なぁ~、イレノア、暫くして落ち着いたら、フランチェスカを連れて、新し


い農場に行って見るか。」


 イレノアは、ロシュエの優しい言葉が嬉しかった。


 「はい、有難う、御座います、でも、お仕事に。」


 「いいんだよ、だって、将軍は、何も、仕事が無いんだからよ~。」


 其れは、事実かも知れないが、其れでも、新しい農場を造ると言うのは大変な


仕事だと、イレノアは知っている。


 新しい農場へと数百台、いや、一体、何台なのか分からないほどの馬車が農場


本体から出て行く。


 「お~い、みんな、頑張れよ~。」


 「有難う、お世話になりました、また、寄せて頂ますので。」


 「ねぇ~、父ちゃん、新しい農場って、みんなの家が有るの。」


 「そうだよ、大工さん達が、一生懸命に作って下さったんだから。」


 「じゃ~、台所も有るの。」


 「勿論だ、オラ達の部屋だって、子供達の部屋だって有るんだ。」


 「えっ、父ちゃん、僕の部屋も有るの。」


 「うん、そうだ、どの家も立派な家で、本当にオラ達の家かって、みんなが思


ったほどなんだから。」


 「ねぇ~、父ちゃん、新しい農場って、みんなで作物を作るの。」


 「うん、将軍様が、これからは、みんなの協力で作物を育てて下さいって。」


 「へぇ~、じゃ~、何を作ってもいいの。」


 「うん、其れは、みんなと相談するんだ、将軍様は、新しい農場で育てた作物


は、全員に分けるって言ってよ。」


 「でも、私達が作った作物が、他の人達にも食べて貰えるんだろうかねぇ


~。」


 「オラ達が作って、全部の人達に食べて貰うんだって、将軍様が、母ちゃん、


さっきの食事も、全部、他の人達が共同で作ったんだ、オラ達だけで食べる事は


駄目だって。」


 「じゃ~、兵隊さん達にも。」


 「ああ、そうだ、オラ達が居た、前の国じゃ、全部持って行かれたけれど、此


処じゃ~、そんな事は無いって、将軍様が言ってたんだ、オラ達が作って、大工


さん達や、兵隊さんにも食べて貰うんだ、だから、オラ達は、何も心配する事な


んか無いって。」


 「私はねぇ~、まだ、分からないのよ、だって、陛下様や、将軍様は、私達が


作った作物を。」


 「母ちゃん、陛下様も、将軍様もだけど、此処の兵隊さん達は、オラ達、農民


が一番大切だって言ってられたんだ、そんな事、前の国で聞いた事が有るか、オ


ラ達は、一度も無いんだ、母ちゃん、此処に来る途中で食べたと思うんだけど、


誰が、一番、先に食べたと思う。」


 「そうだった、兵隊さんは作っただけで、残り物が出るまで、何も言わなかっ


たわよ。」


 「そうだろう、オラ達も、初めは信用出来なかったんだ、だけど、毎日が、同


じで、途中から、オラ達みんなで話し合って、兵隊さんにも食べて欲しいって言


ったんだ、だけど、兵隊さんは、ニコニコとするだけで、オラ達全員が食べ終わ


るまで、待ってて下さってるんだよ。」


 「うん、そうだねぇ~、私も、考え方を変える様にするよ、だって、村を出て


からもね、本当は、兵隊さんが恐ろしかったんだから。」


 「うん、オラもだ、だから、もう何も心配する事も無くなったんだからね。」


 「父ちゃん、有難う。」


 この様な会話が、殆んどの夫婦で交わされている。


 それ程までに、ロシュエ達の農民に対する接し方が違ったので有る。


 その日の夕刻には、城に着き、翌朝、新しい農場へと出発した。


 その少し前、ロレンツ司令官のところに、第1小隊の小隊長が来た。


 「司令官、お休みのところ、申し訳有りません。」


 「これは、隊長、何か。」


 「はい、実は、相談が有るのですが。」


 「どの様な事でしょうか。」


 「はい、新しい農場の事に付いてですが。」


 「隊長もですか、私もね、実は、新しい農場の事で考えておりましたが、隊長


の提案を聞きましょうか。」


 「はい、私は、偵察の任務で、新しい農場付近を知っているのですが、其れ


で、放牧場を大きく出来ないかと、考えたんです。」


 「ほ~、放牧場を大きくですか、で、一体、どの辺りまで広げるのですか。」


 ロレンツも、考えてはいたのだが、小隊長の言う、放牧場では無かった。


 だが、小隊長は、あの付近一帯を知っている。


 「城の東には、広大な草地が有ります、その全てを放牧場にと考えたんです


が。」


 「えっ、あの丘陵地帯をですか。」


 「はい、其の通りです。」


 小隊長が言う丘陵地帯は、其れこそ、大変な広さで、今の放牧場の数倍は有る


のだと。


 「その丘陵地帯に牛を放牧するのですか。」


 「はい、牛もですが、私は、今、3番農場の馬が、飲み水に困っていると思い


ます。


 フランド隊長も、馬の飲み水に苦労されていると思うのです。」


 「そうか、3番農場には、まだ、大池も無かったのですか。」


 「はい、その大池も、直ぐに完成する事は無いと、其れよりも、城の東側には


川も流れており、大池を作る必要も有りませんので。」


 「でも、隊長、丘陵地帯にも柵を作る必要が有ると思いますが。」


 「はい、其れは、私も、十分に承知しております。


 これは、私、一人で考えているんですが、農民さん達の中でも、作物を育てる


のでは無く、牛や、馬の飼育を希望される人達もおられるのではないかと考えた


んですが。」


 「う~ん、まぁ~、其れは、農民さんにも聞かなければ成りませんからねぇ


~。」


 「はい、其れは勿論です、其れと、もう一つは、牛や、馬の牧草も大量に必要


ですが、丘陵地帯は殆んどが草ですので、問題は無いと思うのです。」


 「隊長、分かりました、数日の内に、私と、一緒に、将軍のところへ行き、相


談する事にしましょうか。」


 「はい、有難う、御座います。」


 「其れと、今、言われました、3番農場の事も。」


 「はい、私は、フランド隊長には、少しでも楽にしていただきたいと思ってい


るんです。」


 小隊長は、相手が人間だと話せば分かるが、牛や、馬に対しては、どんなに説


明しても分からない、其れよりも、馬や、牛が安心して、水が飲める事、牧草も


多ければ、自然と、安心出来るのだと。


 「隊長、有難う、フランド隊長も喜ぶと思いますよ。」


 「司令官が、お休みされているところ、誠に、申し訳有りませんでした。」


 小隊長は、司令官に敬礼し、部屋を出た。


 農場本体を、馬車に乗った農民達が出発し、数日後、新しい農場に到着した。


 「さぁ~、皆さん、此処が、新しい農場ですよ。」


 将軍の、話が、終わるか、終わらない内に、馬車からは、農民達が次々と降り


て行き、子供達は、もう、大騒ぎを始めている。


 「ねぇ~、父ちゃん、この農場って、一体、何処まで有るの。」


 「うん、其れが、オラ達にも分からないんだ。」


 「えっ、分からないって。」


 あちらでも、此方でも、驚いている、其れは、見渡す限りが農場で有り、狼避


けの柵も、全くと言ってよいほど何処にも見えないので有る。


 「あんた、こんなに大きな農場って、初めて見たけど、一体、誰が耕すの。」


 「そんなの決まってるよ、オラ達、全員で耕すんだ。」


 「だって、道具も無いし、馬や、牛もいないんだよ。」


 「あ~、牛か、それなら、あの林の奥に、何頭、いるか分からないがいる


よ。」


 「えっ、何だって、何頭いるのか知らないの。」


 「そりゃ~、見りゃ~、分かるよ、だって、この農場の傍に放牧場が有るん


だ。」


 「父ちゃん、あんたところに、たくさんの家が有るよ。」


 農場内に建てた家だが、農地を振り分けが終わるまでは、同じところに纏めて


建てて有る。


 「さぁ~、オラ達の家に行くよ。」


 農夫達は、家族を連れ、新しい住まいを案内するので有る。


 「将軍様、本当に有難う、御座いました。


 オラ達は、これから、一生懸命に畑を耕しますので。」


 「そうですか、でも、余り無理をせずに、この地に骨を埋める気持ちで、のん


びりとして下さいね。」


 彼らは、家族を連れ、農場の一部を案内すると。


 「父ちゃん、此処は暖かいね。」


 「うん、オラも、そう思うんだ、あの国じゃ、今頃は雪が降ってるよ、だけ


ど、此処は暖かいから作物のよ~く、育つと思うんだ、さぁ~、家の中に入ろう


か。」


 到着後は、暫く騒ぎは続いたが、其処は、やはり農民で有る、明日の朝から、


畑を耕す事になり、今日だけは、ゆっくりとするので有る。


 家の中には、家財道具は無いが、子供達の賑やかな声が、陽の沈んだ後も聞こ


え、そして、明日の朝は、一番大切な、農作業用の道具を受け取りに行く事にな


っている。


 道具類を作っている、鍛冶屋も大忙しで、鍛冶屋には、農場からの応援も含


め、数百人も居るが、余りにも大量に必要なため、作っても、作っても追い付か


ないので有る。


 「よ~、みんな、済まんなぁ~。」


 「な~んだ、陛下じゃないか、手伝いに来てくれたのか。。」


 「いゃ~、オレが手伝うと、出来る物を壊すからよ~。」

 

 「そうだと思ったよ、で、一体、何の用事なんですか。」


 「みんな、有難うよ、オレが、次々と注文するんで。」


 「いゃ~、陛下、そんな事、なんとも思って無いよ、だって、陛下の頼みじ


ゃ、仕方無いんだからなぁ~。」


 「そうか、で、他に、何か問題でも有るのか。」


 「いいや、今は、何も無いよ、大工さん達も手伝ってくれるんで、オレ達も大


助かりなんだ。」


 「何だって、大工さん達もかよ~。」


 「うん、大工さんの話じゃ、農場で、牛に引かせる道具が要るって言うんで


ね、大工さん達と共同で作ってるんだから。」


 「そうか、そりゃ~、嬉しいねぇ~。」


 「ですがね、オレ達は、あの最初の頃に比べりゃ~、楽なもんですよ、だっ


て、あの頃は、あれを作れ、これを作れで、途中からは、こんな物が要るって言


われても、殆んど初めて作る物ばかりで、そりゃ~、今に比べりゃ~、もう大変


だったんですからねぇ~。」


 「うん、そりゃ~、オレだって、よ~く分かるよ、だってよ~、オレだって、


何が、なんだか分からないんだから。」


 鍛冶屋は、あの当時、農具の修理が専門で、ロシュエよりも、技師長が要求す


る、工具や、道具を試行錯誤しながらも作っていた。


 次は、一体、何を作れと言うのか、其れこそ、毎日が戦争の様だったと、鍛冶


屋が言う様に、今度は、鍬や、クワを大量に必要だ、材料は、敵軍から没収し


た、槍や、鎧などが、大量に有り。


 特に、槍などは、簡単に鍬や、クワに加工出来るので有る。


 「オレはよ~、今度着た農民達で最後だと思うんだ。」


 「陛下、そんな事言って、また、その内、忘れた頃に大量の農民さんが来ます


よ。」


 「いゃ~、もう無いと思うぜ、だってよ~、司令官が、往復、一体、何日掛か


ったと思うんだ、その往復する間に、一度も、他の国や農民達も見なかったんだ


ぜ、と、言う事はだ、この辺り、一帯には、国も無いって事になるだ。」


 「まぁ~、陛下の事だ、その内、きっと言ってくるよ、お~い、大勢の農民が


着たぞ~ってね。」


 鍛冶屋も笑い、応援に来ている農夫達も大笑いしている。

 

 其れから、数日経った、有る日の午後の事。


 「陛下。」


 「お~、ロレンツか、どうだ、ゆっくりと出来たのか。」


 「はい、もう、十分過ぎる程、休ませて頂ました。」


 「うん、其れは、良かったなぁ~、で、何だ。」


 「はい、私も、そろそろと思いましたので。」


 「そうか、また、虫が動きだしたのか。」


 「はい、全く、その通りで、私は、次の任務に就くつもりで。」


 「そうか、じゃ~、ロレンツ、新しい任務として、新しい農場の総司令官を引


き受けて欲しいんだ。」


 其れは、ロレンツが、願っていたので、あの農民達とは、深い関係に有り、其


れは、戦の時から続いている。


 「陛下、実は、私も、望んでおりましたので、気持ち良く、お受け致しま


す。」


 「そうか、済まんなぁ~、其れにだ、将軍も、同じ事を言ってたんだ、ロレン


ツ司令官は、あの戦で、農民さん達を助け、更に、領民を助けるために、往復、


250日もの長い遠征を行ない、此処に、戻って来るまでには、領民も、司令官


を信じる様に成ったんだと。」


 「領民達が、私を、何処まで信頼したかは別として、私は、新しい農場が軌道


に乗るまではと、責任を感じておりますので。」


 「まぁ~、お前の事だから、農場に連れて行く大隊の隊長には話を付けてるん


だろうからよ~。」


 やはり、ロシュエは、知っていたのか、ロレンツ司令官は、戻った明くる日か


ら、一緒に行った大隊の隊長や、中隊長達に話を通し、承諾は得ていた。


 「陛下も、知っておられたのですか。」


 「いいや、オレは、何も知らないぜ、だがよ~、お前が望む以上に、領民達


は、一緒に戻って着た兵士が、一番なんだよ~、オレだって、お前の立場だった


ら、同じ様にするぜ、まぁ~、何年、掛かるのか分からんが、みんなのためでも


有るんだ、辛抱してくれよ。」


 「はい、有難う、御座います、其れで、出発ですが、明後日の早朝と考えてお


ります。」


 「よ~し、分かった、お前に任せる、後の事は考えずに、農民の事を頼む


ぜ。」


 「はい、了解しました。」


 ロレンツ司令官は、ロシュエに対し、敬礼し、宿舎へと戻って行った。


 そして、2日後の早朝、ロレンツ司令官は、第1番大隊と、第2番大隊と共


に、城へと、更に、数日後には、新しい農場へと出発した。


 ロシュエは、大軍を全滅させた、ロレンツ司令官が、往復、250日も掛け、


百ヶ所から大勢の領民を救い出し、その領民達が、新しい農場造りに入り、農場


が、軌道に乗るまでは戻って来ないだろうと思っていた。


 「司令官、私は、新しい農場が軌道に乗るまでは戻る事は出来ないと考えてお


ります。」


 「隊長、私もですよ、今までで、最大、最強の軍隊を全滅させましたが、やは


り、自国の周辺に有った小国の領民を兵士にさせた、あの国の領主だけは許せま


せんよ。」


 「何故でしょうかねぇ~、あの国王の考え方が理解出来ないのです。


 陛下は、何時も申されておられます、農民さんが、一番大事だと、その意味


が、あの国王は、農民を。」


 「私も、理解出来ませんよ、だって、農民さんが、育てられた作物ですが、実


は、私は、農作業をこの地に来るまでは、全く、行なった事が無いのです。」


 「はい、其れは、私もです、毎日、毎日、早朝から、日暮れまで働き、作物が


収穫されるんですから、私も、何度と無く、お手伝いしましたが、あの人達に悪


いですが、とても、私は、続ける事は出来ないと感じましたよ。」


 「あの人達は、本当に辛抱強いですからねぇ~。」


 「はい、其れは、私も、つくづく感じました。」


 「其れでですが、新しい農場造りですが、今までの様に、1番から、5番農場


の様に近くでは有りませんので、今後は、より、一層、農民さん達と、密接な関


係になると思うのです。


 現地では、我々の行動ですが、農民さんの信頼を得る事が先決だと、私は、考


えているのですが。」


 「はい、勿論、私も同じで、特に、戦死されました農民さんの家族にとって


は、我々は、敵軍と同じでしょうから。」


 「最大の問題点だと思っております。


 私も、あの遠征中はず~っと考えておりましたが、今も、どの様に対処すれば


よいのか分からないのです。」


 ロレンツは、あの戦で、戦死した農夫達の家族の扱い方を考えている。


 だが、現実は、家族に、どの様な言い訳をしたとしても、家族の思いは、我


が、主人や、兄弟を殺した敵なのだ、簡単に許す事は出来ないのだと。


 「司令官、私も、考えが纏まらないのですが、私は、陛下の事を考えておりま


した。」


 「えっ、陛下の事ですか。」


 「はい、司令官も、ご存知の様に、陛下は、この地に到着以来、今まで、どの


様な時でも、農民さんの古着を着られておられます。」


 「勿論、私も、知っておりますよ、あの当時、司令官として、農民さんを連れ


て来られましたが、この地に着かれてからは、農民さんの古着を貰い受け、その


姿で、今まで、来られていましたが、其れが何か。」


 「はい、私は、陛下が、あの姿で居られるのは、この地に着くまで、多くの仲


間を失い、その人達の事を忘れないためにも、農民さんの服で過ごすんだと、聞


いた事が有るんです。」


 「では、隊長もですか。」


 「えっ、じゃ~、司令官もですか。」


 「ええ、でも、其れで、私を、許して下さいとは、言えませんが、何時の日に


かは、分かっていただけると思うのですが。」


 「はい、私もですが、あの時は、誰が見ても、敵軍の歩兵ですから、仕方が無


いと言えば、其れまでですが、私が、若しも、反対の立場であれば、許す事など


は考えられないです。」


 「その通りだと思いますよ、私が、その服を着る事で、あの時は、私が、命令


したために、農民さんを殺してしまったんだと、忘れないためにも、服を脱ぐ事


は無いと考えております。」


 二人の会話は、その後も続く。


 一方、新しい農場では、早くも、畑作りに農民達は、動き始めた。


 「なぁ~、オラ達は、此処の土地が気に要ったよ。」


 「うん、オラもだ、あの村じゃ~、今頃は、寒くて、雪も降り出していたん


だ、でも、此処じゃ~、寒いと言っても、平気なんだからなぁ~。」


 「そうだなぁ~、オラも、これからは、一生懸命に働いて、たくさん収穫出来


る様に頑張るんだ。」


 「だけど、耕す道具が欲しいなぁ~。」


 「将軍様が言われてたよ、鍛冶屋さんが、今、道具を作ってるんだって。」


 「えっ、本当か、で、何時頃出来るんだ。」


 「まだ、はっきりとは分からないって。」


 「だけど、この農場には、あれだけの馬や、牛がいるんだから、大きな道具が


あれば、もっと、早く耕す事が出来るんだけどなぁ~。」


 「うん、其れは、オラも分かるけど、でも、オラは、無理は言えないんだ、だ


って、あの農場って言うのか、お城から、何日も掛かるんだよ、全部が農場って


事は、一体、何人の人達が居るんだ、その農場にも大量の道具が要ると思うん


だ、オラ達の道具だけを早く作ってくれって言えないんだ。」


 「そうだなぁ~、オラも、我慢するよ。」


 この農夫達もだが、新しい農場に働く、農民達は、数日後、ロレンツ司令官


が、二個大隊と共に、大量の道具類を持って来るとは知らなかった。


 一方で、大工さん達も、木材の加工だけは進んでいる、だが、一体、誰が、新


しい農場に来るのかも分からず、兵舎の建設地未定のために、少し焦り出してい


る。


 そして、数日後、ロレンツが、到着した。


 「将軍。」


 「これは、やはり、司令官が来られたのですか。」


 「はい、只今、私と、第1、第2大隊が着任しました。」


 「其れは、ご苦労様です。」


 「将軍、私は、この農場が軌道に乗るまでは、他の任地には行けないと考えて


おりますが、それで、よろしいでしょうか。」


 「はい、勿論ですよ、後は、司令官にお任せしますのでね、私は、数日後に戻


る事にします。」


 「はい、承知致しました、其れで、あれから、何か、問題でも有りましたでし


ょうか。」


 「農民さんからは、道具が足りないと。」


 「そうでした、馬車、百台に道具を積み込んで着ましたので、今、降ろしてい


ると思います。」


 「そうですか、これで、農民さんも、仕事が捗ると思いますよ。」


 「其れは、良かったですねぇ~。」


 その時、農民達が来た。


 「あっ、司令官様だ。」


 「はい、皆さん、お元気そうで、何よりです、私達が、これから、皆さんと、


一緒に、この農場を築き上げたいと思い、お手伝いさせて頂きます。」


 「司令官様、じゃ~、兵隊さん達は。」


 「あの時の兵士全員で参加しますので。」


 「其れは、助かりますよ、オラよりも、子供達が喜ぶと思いますからねぇ


~。」

 

 農民の子供達は、村から、この地に着くまで、一緒だった、子供達は、兵士と


仲良くなり、当然、兵士達も残るものと思っていたが、その兵士達全員がいなく


なり、子供達は寂しかったと思うのだ。


 兵士達も、新しい農場に行く事に反対では無く、むしろ、志願する兵士も居


た。


 「じゃ~、あの時、一緒だった兵隊さんも来られたんですか。」


 「はい、今、農作業で使う道具を降ろしていますよ。」


 其の頃、馬車からは、大量の道具を降ろしていた。


 兵士達の周りには、大勢の農民が集まり、道具を降ろすのを手伝っていたが、


早くも子供達が集まり出し。


 「あっ、あの兵隊さんだよ。」


 「うん、本当だ。」


 兵士達の周りには、数百人の子供が集まり、兵士達は、既に、揉みくちゃにさ


れているが、兵士達は笑顔で。


 「みんな、帰って着たよ。」


 「わぁ~い。」


 と、大喜びで。


 「みんなも手伝ってくれるかなぁ~。」


 「うん、僕、手伝うよ。」


 「うん、僕もだよ。」


 兵士が、荷台から、子供に手渡すのだ。


 「ねぇ~、兵隊のお兄さん、遊ぼうよ。」


 「うん、だけど、この道具を全部、降ろしてからなんだ。」


 「うん、分かったよ、じゃ~、早く降ろそうよ。」


 子供達は、馬車の周りを取り囲み、次々と、道具降ろしを手伝い、農民達も、


大変な喜び様だ。


 「凄いよ、これだけの道具があれば、畑を作るのも楽になるよ。」


 「お~、これは。」


 「えっ、あっ、これは、牛や、馬に引いて。」


 鍛冶屋は、素晴らしい道具を作っている、材料と言えば、敵軍から取り上げた


と、言うのか、没収した、槍や、剣、其れに、鎧までも利用し、見事な道具を作


り上げたので有る。


 兵士達は、全ての道具を降ろすと、馬車から馬を放し、放牧場に放つと、軍服


の上着を脱ぎ、子供達の方へと向かうので有る。


 ロレンツも、子供達が、兵士を待っているのだと知っているので、兵士達の行


動には何も言う事は無かった。


 「司令官様、お聞きしたい事が有るんですが。」


 「はい、私が、知っている事であれば。」


 「はい、実は、オラ達の村でも、他の村でも、馬や、牛は、大切な働き手なん


ですが。」


 「はい、勿論、私も、知っておりますので、今日、持って着ました道具の中に


も、牛や、馬に引かせる道具も有りますよ。」


「じゃ~、牛や、馬を使ってもよろしいんですか。」


 農夫達は、司令官の許可が必要だと思っていた。


 「其れは、皆さんで決めて下さいね、私は、皆さんが、少しでも農作業が楽に


なる事であればと思っておりますのでね、私は、別に、反対もしませんのでね、


其れと、私に、許可を得る必要は有りませんからね。」


 「じゃ~、オラ達に任せて下さるんですか。」


 「ええ、勿論ですよ、だって、私はね、農業を知りませんので、全て、皆さん


にお任せしますから。」


 「司令官様、本当に有難う、御座います。」


 何故、許可が必要なのか、ロレンツは知らなかった。


 其れは、彼らの国では、牛や、馬は、領主の所有物で、幾ら、農作業のためだ


とは言え、農民が、自由に使う事は出来なかったので有る。


 「何故、私に、使うための許可を取る必要が有るのですか、此処の、牛や、馬


は、皆さんの。」


 「司令官様、オラ達の国では、農家で産まれた、牛や、馬でも、全て、ご領主


の持ち物だって言われたんです。」


 「えっ、でも、牛や、馬は、皆さん、農家で生まれたのではないのですか。」


 「はい、其れでも、毎回、代官様の許しが無かったら、使えなかったんで


す。」


 「よ~く、分かりましたよ、でも、此処では、皆さんの牛や、馬ですからね、


何も心配は有りませんよ。」


 農夫達の顔色が変わり、やっと、安心したのだろう。


 「此処では、皆さん、全員が自由ですよ、だって、皆さんに、作物を育てて頂


け無ければ、私は、一体、何を食べればいいのでしょうかねぇ~、まぁ~、その


時は。」


 ロレンツは、笑っている。


 「司令官様は、オラ達が育てた物を食べていただけるんですか。」


 「えっ、私は、食べさせて頂けないのですか、じゃ~、牛や、馬と同じ様に牧


草でも食べましょうかねぇ~。」


 ロレンツは、大笑いするが、農民達の顔は真剣で。


 「司令官様、オラは、司令官様に、食べて貰えるんだったら、一生懸命に育て


ますから、司令官様、お願いですから、牧草だけは食べないで下さい、お願いし


ます。」


 「そうですか、じゃ~、私は、皆さんが、一生懸命に育てられた作物を食べさ


せて頂けるのですから、本当に、有り難い話ですよ。」


 農夫達は、以前の軍隊と対応の違いに驚いて要る。


 彼らの国では、農民が育てた作物は兵士が食べ、領主達は、城内で育てられた


作物を食べていた。


 ただ、馬は、騎馬として使い、牛は、食用にしており、城内で、肉が少なくな


ると、農家から、其れは、略奪と言われても仕方が無い方法で、城で、食用にし


ていたので有る。


 「じゃ~、オラは、みんなに言ってきます、牛や、馬は、自由に使ってもいい


と、司令官様から聞いたと。」


 「はい、其れで、よろしいですよ。」


 「司令官様、本当に有難う、御座います。


 オラ達も、これから、一生懸命に作物を育てますので。」


 「よろしく、お願いしますね。」


 「はい、じゃ~、オラ達は、行きますので。」


 農夫達は、誰もが、大喜びで戻り、農夫達と入れ替わりに、大工さん達が来


た。


 「司令官、やはり、来られましたね。」


 「はい、皆さんには、大変、ご無理を言って、申し訳有りません。」


 「いいえ、オレ達は、別に無理だとは思ってはおりませんよ、其れとですが、


司令官、司令官の宿舎と、兵隊さんの宿舎ですが。」 


 「私達の宿舎は、最後でよろしいですから。」


 「はい、其れは、将軍からも、お話しが有りまして、農民さん達の家を優先し


て建てておりますが、我々は、何処に、司令官の宿舎と、兵隊さんの宿舎を建て


ればよいのか、聞いておりませんでしたので。」


 「私達の宿舎ですか、う~ん、一体、何処がよろしいのでしょうかねぇ~。」


 ロレンツは、全く考えて無かった、新しい農場は、広大な敷地が有り、放牧場


も有る、一体、何処を中心にすれば良いのか、見当も付かない。


 「司令官、私は、放牧場と、農場の中間地点が良いと考えていたのですか。」


 「将軍も、やはり、中間地点が。」


 「今は、境もはっきりとしていませんが、中間地点の中心に、司令官の宿舎


を、その周りに兵舎を建てれば、動きも楽な様に思うのですが。」


 「確かに、その方法が最適ですねぇ~、其れと、農場の端に、駐屯地を設けれ


ば、尚、便利になるので。」


 「其れも、良い方法でしょうねぇ~、では、放牧場の端にも、駐屯地を造れ


ば。」


 「そうですねぇ~、我々が分散する事で、農民さんも、一層、安心出来ると思


いますねぇ~。」


 新しい農場は、今までの農場とは違い、草原が、一体、何処まで続いているの


かも調べて無かった。


 だからと言って、余り、広くすれば、端で、農作業に入っている農民達の安全


も脅かされる事も有り得る。


 そのため、余り、広げる事は出来ない。


 「司令官は、この農場造りも有りますが、その後の作物作りで、何か、方法を


考えているのですか。」


 「将軍、私は、陛下が取られた方法を、今度の農場でも取り入れたいと思って


いるんです。」


 「う~ん、其れは、私も、思っておりましたが、司令官が、向かわれた時から


ですが、農民さんの関心事は、農作物だけで、牛の飼育は、全くと言ってよいほ


ど、関心が無く、ただ、柵を作っただけでしたから。」


 「将軍、その訳も、全てが、あの国で行なわれていたのが原因だと思います。


 牛や、馬は、全て領主の物だと、そのため、放牧しても関心が無かったので


す。


 でも、先程、牛や、馬は、全て、農民さんの物だと分かり、これからは、考え


方も変ると思います。」


 「う~ん、ですが、果たして、何処まで関心を持ってくれるかですねぇ~。」


 「私は、数日後、農民さんの代表と話し合いをしますので。」


 「はい、分かりました、全て、司令官の思われる通りに行なって頂いてもよろ


しいですから、私から、陛下に報告をして置きますので。」


 「はい、有難う、御座います。」


 その明くる日の早朝、将軍は、第2小隊と城へと向かった。


 数日後、農民の代表が集まり、ロレンツ司令官は、今後の農場運営に付いて、


説明を行なった。


 説明の中で、農作業は、3日行ない、1日は、完全休養する話しが出ると、農


民達は、大変な驚きで、彼らは、毎日、早朝から、夕暮れまで農作業をする事が


当然だと思っていたが、この農場では、農作業は、個人の仕事では無いと、説明


すると、簡単に納得するだろうと、だが、其れは大間違いで、ロレンツは、暫く


考える事に、彼らは、今まで、個人で畑を耕し、作物を育ててきた、其れは、大


変な重労働で有ったに違い無い、だが、其の様な方法では、収穫も大した事は無


く、休みも全く無かったはずだ、ロシュエも、最初に苦労した、農民達を説得出


来なければ、大規模な農場は維持出来ず、何よりも、収穫が思いの他少ないと言


うので有る。


 そして、ロレンツは、別の作戦を考えた。


 「皆さん、では、別の話をしましょうか、此処に、皆さんの畑が有ると考えて


下さいね、其れで、皆さんが、何時もの様に耕すとすれば、何日、掛かるでしょ


うか。」


 「司令官様、オラ達が、耕している畑はと。」


 と、一人の農夫が棒で、四角と言うのか、自らの畑を地面に描き。


 「これが、オラが、耕していた畑の大きさなんですが。」


 「ほ~、大きな畑ですねぇ~。」


 ロレンツの言葉に農夫は喜んだが。


 「では、この大きさの畑では、何日で耕すのですか。」


 「う~ん、オラは、朝の早くから、陽が暮れるまで、5日から、7日は掛かる


んですよ。」


 他の農夫達も、其れ位の日数は掛かると言う。


 「では、この畑にですよ、横一線に並び耕すとして、何日くらいで耕す事が出


来ると思いますか。」


 「そんな事、司令官様、朝から掛かれば、一日で終わりますよ。」


 「うん、オラも、其れ位で耕せると思うんだ。」


 その時、一人の農夫が。


 「えっ、司令官様の言われる農作業って、この事なんですか。」


 「はい、其の通りなんですよ。」


 「えっ、オラは、まだ、分からんよ~。」


 「では、説明しますからね。」


 ロレンツは、この後、農夫達に説明すると。


 「オラ、やっと、司令官様の言われた意味が分かりましたよ、司令官様、一人


よりも、10人で、10人よりも、百人で、耕せば、其れだけ早く仕事が終わる


んですよね。」


 農夫達は笑顔になった。


 「はい、其の通りですよ、この方法を取り入れたのが、皇帝陛下です。


 皇帝陛下は、農民さん達も、休みが必要だと言われて、3日働いて、一日は、


完全に休むと言われ、最初はね、皆さんと同じ様に、いいえ、あの当時は、今


の、皆さん以上に猛烈な反対を受けましたが、其れでも、諦めずに、何度も、話


し合いを重ねられたんですよ。」


 「司令官様、オラ達、農民は、休めと言われても、一体、休みの日に、何をす


ればいいんですか。」


 ロレンツは、ニコリとして。


 「其れはねぇ~、簡単な話しでしてねぇ~、子供さんと、一緒に遊ぶんです


よ。」


 「えっ、遊ぶって。」

 

 「そうですよ、まぁ~、皆さんも、一度、子供さん達と、一日中は無理として


も、半日でもよろしいですからね、子供さんと、遊ぶのです。


 特に、幼い子供達は、父親と遊ぶとね、一番、喜びますよ。」


 農夫達は、自分の子供時代を思い出し、農家と言うのは、休みは無い、其れが


当然だと、今の今まで思っていたのが、ロレンツと言う司令官は、3日働いて、


一日は、休めと言う、農夫達が迷うのも当然だ。


 その後も、ロレンツは、農夫達に時間を掛けて説明をし、終わると。


 「司令官様、オラは、司令官様の言われる通りだと思うんだ、オラ達も、子供


の頃、寂しかったからなぁ~。」


 その時、第1小隊が、偵察から戻って着た。


 「司令官。」


 「小隊長、ご苦労でした、其れで、如何でしたか。」


 「はい、司令官、林の後方の丘から、右の方に行きますと、緩やかな下りにな


っていまして。」


 小隊長が説明すると。


 「では、大きな放牧地が出来るのですか。」


 「はい、水は、林の中を川が通っていますので、林の向こうに川の向きを変え


る工事が出来れば、牛と、馬の飲み水は確保出来ます。」


 「その川ですが、林の中から通すのですか。」


 「はい、川幅は、2ヒロも有れば、十分ですし、林と、丘の中程で、水溜りと


言うのがですが、まぁ~、小さな池の様にでもなれば、後は、自然と流れて行き


ますので、大きな工事では無いと思います。」


 「あの~、司令官様、その丘って、あちらに見える丘ですか。」


 「そうですが、何か。」


 「あの丘に、牛や、馬を放牧するのでしょうか。」


 「はい、牛や、馬の放牧には牧草と、水が必要で、林の中から流れている水


は、農場で使う水と、皆さんが、使用される生活用水に使いますので。」


 「じゃ~、オラ達の牛や、馬は、その放牧場に。」


 「はい、其れで、この放牧場でも仕事が有りますので、皆さんの中から放牧場


で仕事をして頂ける人達が、数百人ほどですが、その仕事に就いて頂けるのであ


れば、我々も助かるのですが。」


 農夫達は、今まで、飼育すると言う考えは無かったのか迷っている。


 「じゃ~、オラ達の中から、放牧場の仕事が出来る人が要るんですか。」


 「私は、無理にお願いはしませんよ、ただ、牛や、馬の殆んどが、皆さんが日


頃、農作業で一緒に仕事をする仲間ですからね、牛や、馬と言う考えでは無く、


仲間の世話をすると考えて頂ければ、よろしいのですよ。」


 「じゃ~、さっきの話しと、この話をみんなにすればいいんですね。」


 「はい、其の通りですよ、私も行きますので、説明はさせて頂きますので


ね。」


 「じゃ~、司令官様、オラ達が、一度、説明して見ますので。」


 「そうですか、では、よろしく、お願いしますね。」


 農夫達は戻って行くが、農夫達と入れ替わりに、大工さん達が来た。


 「司令官、お忙しい時に。」


 「大工さん達でしたか、私は、別に、忙しくは有りませんので、で、何か。」


 「はい、実は、司令官と、兵隊さん達の宿舎を建てたいのですが、予定が分か


りませんので。」


 「そうでしたか、私も、まだ、はっきりと決めておりませんので、暫く待って


いただけますか。」


 「はい、私達は、別によろしいのですがね、司令官や、兵隊さん達の宿舎を早


く建てたいと思ったんです。」


 「他に、急ぐ建物は無いのですか。」


 「まぁ~、一応、殆んど建てましたので、今のところ、急ぐ建物は有りません


が。」


 「そうですか、では、先に、お願いが有るのですが。」


 「えっ、まだ、残っていましたか。」


 大工さん達が、殆んどと言ったのは、農民達の家で、今は、大食堂と、大浴場


の建設中で、その目途も付いたのだろう。


 「はい、実はね、あの丘に放牧場を造りたいと思いましたね。」


 大工さん達に、司令官が示した先は、丘と、大草原で、其処に、新たに、大き


な放牧場を造ると言うのだ。


 「司令官は、あちらの放牧場を先にと言われるんですね。」


 「はい、今の放牧場も良いのですが、牛や、馬には大量の牧草と、飲み水が必


要なので、あの場所に放牧場が出来れば、その放牧場で、牛や、馬の飼育も出来


ますのでね。」


 「分かりましたよ、では、放牧場の柵造りに入ります。」


 「其れとですが、放牧場の中心には、数百家族が入ると思いますので。」


 「じゃ~、其れも、併せて作ればいいんですね。」


 「はい、急な話で、申し訳有りませんが、よろしく、お願いします。」


 「で、最後に、司令官と、兵隊さん達の宿舎ですね。」


 「はい、その時までには、建設場所も決めておきますので。」


 「はい、分かりました、じゃ~、私達は、行きますので。」


 大工さん達は、放牧場建設に入る事に成った。


 そして、明くる日の朝から、ロレンツ司令官は、農民達の集会に入り、時間を


掛け説明し、全ての農民が納得するまでに、10日以上も掛かったが、農民達


が、思った以上に、農作業が捗り、休みも取れると理解し、次第に、農民達は積


極的に農作業を行なう様になって行く。


 やがて、第1小隊が提案した放牧場も完成し、兵士達と、司令官の宿舎も完成


し当日、大工さん達が着た。


 ロレンツ司令官は、大工さん達が、農場に戻るものと思っていたのだが。


 「司令官、実は。」


 「えっ、まだ、有りましたか。」


 「はい、この農場は、お城からも遠く、皇帝陛下や、将軍が来られた時の宿舎


が有りませんので。」


 「あっ、そうでした、私は、大変な間違いを犯すところでしたよ。」


 「いえ、別に、司令官がと言うのでは有りませんが、陛下と、将軍が、来られ


た時のために、宿舎を建てたいのですが、よろしいでしょうか。」


 「私も、覚えておりましたが、大工さんに、お願いをするのを、すっかり、忘


れておりました。」


 「司令官、其れで、私達が、勝手に考え、建てるのを許可していただければ


と。」


 「いいえ、其れは是非、お願いします。」


 「では、明日から、工事に入りますので。」


 「いゃ~、大変、助かりますよ、よろしく、お願いします。」


 「はい、では。」


 大工さん達は、既に加工も終わり、後は、建てるだけで、その宿舎も、数日後


のは完成した。


 それからと言うものは、農民達も、楽しく、農作業に入り、畑には、次々と、


苗を植え付け、其れも終わり、小麦は農場の半分以上を占め、農場は、豊かな実


りで、農民達の大喜びだ。


 一方、放牧場でも、牛や、馬の出産が始まり、数千頭の牛や、馬が誕生して行


く。


 「司令官、農民達も、大喜びですねぇ~、特に、小麦が大豊作で、次は、もっ


と、多く収穫出来る様にと、直ぐ作業に入っておりましたよ。」


 「其れは、良かったですねぇ~、お城で保管する小麦は。」


 「はい、まだ、正確には、其れに、此処で使う分量もはっきりと分かりません


が、一応、可能な限り運ぶそうです。」


 「そうですか、分かりましたが、余り、無理をする必要は有りませんので、次


の種も保管する様に伝えて下さい。」


 ロレンツ司令官の下で、新しい農場で放牧も成功し、作物は、土地が良いの


か、その後は、豊作続きで、農民達は、以前の生活とは、全く違うほど豊かな生


活を送れる様になった。


 新しい農場も、数年後には、軌道に乗り、ロレンツの仕事も無く、一度、農場


本体へ戻る事も考えていた。


 「あの~、司令官様は。」


 「はい、居られますが、何か、ご用事でしょうか。」


 当番兵は、知らなかったのか、其れとも、成長したので、彼女の事が分からな


かったのか。


 「はい、私は、サマンサと申しますが、司令官様に、お礼を言いたくて。」


 「分かりました、少し、お待ち下さいね、司令官、サマンサと言われる女性で


すが。」


 「えっ、サマンサって、若しや。」


 ロレンツは、思い出した。


 「分かりました、入っていただいて下さい。」


 「どうぞ。」


 「はい、有難う、御座います。


 サマンサが部屋に入ると。


 「えっ、若しや、あの時の。」


 ロレンツが、驚くのも無理は無かった、数年も見て無かったで、美しく成長し


たサマンサに、ロレンツも、分からなかった。


 「はい、あの時の、サマンサです。


 司令官様には、大変、無礼な言葉を吐き、私は、今でも後悔しております。」


 「いいえ、あの時の状況下では、仕方は有りませんよ、私が、命令を下したの


は間違いは有りませんので。」


 「いいえ、私は、あの時、子供だったので、司令官様の言われる話が、全く、理解出来なかったのです。


 其れに、私も、弟の命を助けて頂いた事に、今は、大変、感謝しております。」


 「私達は、軍人です、軍人は、上官からの命令には従う様に訓練を受けており


ますので、反射的に命令を出したのです、申し訳有りませんでした。」


 ロレンツの態度は、あの当時と、全く変らず、正直な人物だと、改めて思うサ


マンサで有る。


 「司令官様、あの当時の兵隊さんが、今でも、毎日来られ、司令官と言う人物


の話をされるのです。」


 「其れは、本当ですか、確か、あの時の兵士は。」


 「はい、兵隊さんが言われました、実は、自分も農民ですと。」


 「はい、思い出しましたよ、あの時は、一番、若い兵士で、あの戦が、最初の


任務だったと。」


 「はい、私も、其の様に聞きました。


 兵隊は、陛下や、将軍の話をされる時は真剣で、何度も聞いておりましたが、


今では、司令官様は、本当に誠実な軍人だと思います。」


 この若い兵士は、農民だと言ったのは、ロシュエの提案で、農場の人達全員に


対し、どの様な仕事に就く事も本人の自由だと発表した。


 軍隊を維持するために、若い兵士が必要だが、内部からは、隊長や、中隊長、


小隊長、其れと、兵士達の家族を含め、数百十人が入隊するだけなので、丘に着


いた頃には、若い兵士も年齢を重ね、其れにもまして、この数年間は、敵と思わ


れる軍隊からの攻撃も無く、兵士達の中には、軍務よりも、農場の仕事が好きだ


と発言する者達も多くいた。


 だが、反対に、農民からは、数百人が、軍隊に入りたいと発言する者まで出て


来る様になった。


 特に、兵士になりたいと言う、若者達が出だしたのは、ウエスの兄の軍と戦が


終わった直後からで、当時は困った、何故なら、彼らは、若過ぎるから、何度


も、軍隊だけは入るなと話をするが、どの様な厳しい訓練でも耐えると言うの


だ、ロシュエは、仕方なく、1番大隊と、2番大隊に仮入隊させ、隊長には最大


限の厳しい訓練を行なえと命令し、二人の隊長も、厳しい訓練が嫌に成れば、入


隊も諦めるだろと考え、其れは、訓練と言うよりもしごきに近く、他の兵士達も


初めて見るほど、厳しく行なわれ、これで、諦めるで有ろうと、思ったのだが、


彼らは、全員がしごきに耐え、ロシュエも、仕方無く、入隊と許した、中の一人


で有る。


 その彼らが、ロレンツ司令官の命令で、最初にホーガン矢を、敵の歩兵に放っ


た。


 その歩兵が、農民だった事が後から判明したが、その時は、既に遅く、最初に


放たれたホーガン矢で戦死した中に、サマンサの父親もいたので、彼らは、今で


も、サマンサの父親を殺したのは自分だと思い込んでいる。


 だが、本当は、誰が放ったのかも分からない、其れが、戦なのだ。


 その若い兵士は、毎日、サマンサの家に出向き、司令官の命令を受け、殺した


のは自分だと、だが、サマンサは、既に過去の事は早く忘れたいと。


 「司令官様、私は、司令官様も、その兵隊さんも責める気持ちは有りません。


 此処に着いてから、他の人達の話でも、父や、他の人達を殺したのは、司令官


様では無く、あの軍隊だと聞かされております。」


 サマンサも、要約、気持ちの整理が出来始めたのだろうと、ロレンツは、思っ


ているが。


 「では、サマンサは、その兵士には、家には来ないで欲しいと思われているの


ですか。」


 「いいえ、私は、その反対で、家に来て頂いても、あの時の話しだけはもう聞


きたくは無いのです。」


 「えっ、では、兵士が行っても、あの時の話はするなと。」


 「はい、私は、何時までも、死んだ父の話をされたくないと言う事です。」


 ロレンツは、ピンと着た、サマンサの中に、若い兵士に対する気持ちが変化し


たと。


 「では、どの様に。」


 「私は、過去の事よりも、これから先の話を聞きたいと思っています。」


 やはり、若い女性だ、彼は、今まで、数十、いや、数百回も家を訪ね、只管、


許しを得ようと話しを続けたのだ。


 彼の、誠実な心に、サマンサの心が動揺し始めたので有る。


 「サマンサ、よく、分かりましたよ、私から、彼に伝えておきますので。」


 「有難う、御座います、では。」


 ロレンツは、サマンサの顔が、何やら変った様に見えた、 この農場でも、こ


れから、多くの恋物語が有るだろう。


 ロレンツは、数日後、第1小隊と共に、農場本体へと、一時、戻って行く。


 「司令官、長い間と言いますか、ご苦労様でした。」


 「いいえ、私は、何もしておりませんよ、皆さんの協力があって、此処まで来


れたと思っておりますが。」


 「でも、この地に着いて、長かった様な、短かった様な、私は、時々、考える


んです。」


 「えっ、一体、何を考えるのですか。」


 「私達は、あの頃、若かったんですからねぇ~、今から考えますと、大変、無


謀だった様な気がしますが。」


 「ええ、確かに、今、同じ様に出来るかと聞かれると、私は、はっきりと、出


来ませんと言いますよ。」


 「私もですよ、でも、この十数年で、よく、此処まで出来たと思いますが。」


 「小隊長、我々の、ロジェンタ帝国は、これからも発展して行くと思います


よ。」


 「はい、私も、同じです、百年、二百年後の、ロジェンタ帝国を見たい様な気


もするのですが。」


 「私はねぇ~、1千年後の、ロジェンタ帝国が、どの様な大きくなっているか


を見たいですねぇ~。」


 「司令官、何処かに、其の様な薬は無いでしょうかねぇ~。」


 小隊長は、本当とも、嘘とも思える様な言葉で。


 「いゃ~、本当ですねぇ~、私も、頂たいですよねぇ~。」


 ロレンツと、小隊長は、話し笑いながらも、心は、既に、農場本体へと向かっ


ている。


 一方、ロシュエは、5才になった息子に話している。


 「なぁ~、ジュニア、お前は、大人になったら、どんな仕事をしたいんだ。」


 ロシュエは、5才になったばかりの子供に将来を聞くとは、一体、何と言う父


親だと、イレノアは驚いている。


 「陛下、ジュニアは、まだ、5才になったばかりですよ。」


 「うん、其れは、オレも、十分、分かって聞いているんだ。」


 「はい。」


 「で、どうだ。」


 「うん、僕はね、父上の様な人になりたいんだ。」


 ロシュエの顔は綻び、内心では大きな喜びで。


 「そうか、父上の様にか、だがなぁ~、ジュニア、父上の仕事は、誰にでも出


来る様な仕事では無いのだ。」


 「でも、父上は、出来てるよ。」


 確かに、イレノアの言う通りで、5才の幼子に、今から、将来の話を聞かせて


も、理解出来る様な話では無い。


 ロシュエ自身も、同じ様な年頃の時から、祖父に、何度も聞かされ、其れが、


今になって大きく開いたので有る。


 成る、成らないは別として、将来は、ロジェンタ帝国の重要な仕事に就く事は


間違いは無い、その時のためには、今からでも早くは無い、時間を掛けて話をす


る事の方が大事だと考えていた。


 「父上もなぁ~、ジュニアと、同じ様な頃に、爺様から、よく話を聞かされた


んだよ。」


 「へぇ~、じゃ~、僕と一緒だね。」


 「うん、その通りだよ、ジュニア、父上はなぁ~、大人になった時、どんな仕


事をしても良いと思ってるんだ、其れはね、この農場の人達でも、兵隊さんで


も、大工さんでも、みんな、一生懸命に仕事をする、父上はね、それが、一番、


大切だと思ってるんだ。」


 「ふ~ん、じゃ~、僕が、大人になってから決めたっていいんだね。」


 「うん、其れで、いいんだよ、だけどね、これだけは、絶対に守って欲しいん


だ、弱い人をいじめては駄目だよ。」


 「うん、僕ねぇ~、小さい子には優しくしてるんだ。」


 「うん、其れで、いいんだよ。」


 「ねぇ~、父上、僕をね、みんなは、王子とか、皇太子って呼ぶんだ、僕は、


ジュニアだって言っても、みんなは、笑っているだけなんだ。」


 「う~ん、其れは、難しいなぁ~。」


 「ねぇ~、何で、僕を、王子とか、皇太子って呼ぶの。」


 「其れはねぇ~、ジュニアが、もう少し大きくなったらね、教えて上げるから


ね。」


 ロシュエは、この後も、時間を見つけては、ジュニアに言い聞かせるので有


る。


 そして、月日が流れ、やがて、ジュニアも、15歳になった頃。


 「ジュニア、少し、話が有るんだ。」


 「はい、父上。」


 この頃になると、ロシュエの顔立ちによく似てきた。


 「やはり、蛙の子は蛙だねぇ~、私は、陛下の子供の頃を思い出すよ。」


 テレシアも、この頃、すっかり老けたのか、あの頃とは違い、今では、余り、


大食堂にいる事も無くなってきた。


 「ジュニアも、15歳になると思うんだが。」


 「はい、私も、15歳になり、父上からも、幼い頃に言われました様に、将来


の事も考え始めているのですが。」


 「うん、其れは、其れでいいんだ、其れとは、別の話なんだ、ジュニアは、当


分の間、軍隊で訓練を受ける様にしてはと、考えているんだが。」


 「はい、私も、軍隊に入り、訓練を受け様と考えておりました。」


 「そうか、分かった、では、この農場でも、最高の指揮官に頼むぞ、其れでよ


いのか。」


 「はい、其れで、私の希望ですが、第1番大隊を。」


 ロシュエの、思った通りで、1番大隊は、今では、農場本体の守りに就いている。


 1番大隊に配属されると言う事は、各大隊の中でも、選び抜かれた、精鋭中の


精鋭の集まりで、その中でも、特偵隊と言うのは、ロジェンタ帝国では、泣く子


も黙る、特偵隊と言われ、特偵隊の訓練とは名ばかりで、全てが実戦なのだ、巨


大な帝国の親達は、子供が言う事を聞かなければ、特偵隊に入れると言えば、幼


い子供達もで、泣き止むと言われている程の部隊で有る。


 「ジュニア、特偵隊で訓練を受けるんだ。」


 「えっ、其れは、幾ら何でも。」


 ジュニアの考えはまだ甘い、特隊隊に入れば、何でも教えてくれるが、其れ以


上に我慢、其れは並大抵の我慢では無いと、今まで、何人が、この特偵隊に入隊


したいと思い、訓練を受けるのだが、その殆んどが、一日、よく持って、3日


で、逃げ出すほどの厳しいさで、その特偵隊の所属が、第1番大隊で有る。


 「当番さん、済まんが、特偵隊の隊長を呼んで欲しいんだ。」


 「はい。」


 返事は、したものの、当番兵は正かと思っている、暫くして。


 「陛下。」


 「お~、隊長、久し振りだなぁ~。」


 「はい、陛下も、お元気そうで、何よりです。」


 「うん、有難うよ、ところで、隊長に、頼みが有るんだが。」


 「はい、どの様な事でしょうか。」


 隊長も、傍に、ジュニアが居るので、正かとは思っている。


 「特偵隊の訓練って、今でも、即、実戦訓練なのか。」


 「はい、今でも、直ぐ、森に入りますが、其れが。」


 「頼みと言うのはだ、ジュニアを入れて、徹底的に鍛えて欲しいんだ。」


 特偵隊、隊長の予感は的中した、ロシュエは、ジュニアを、特偵隊に入れ、鍛


えろと言うので有る。


 「えっ、正か、ですが、特偵隊に入るためには。」


 「分かってるよ、先に、他の大隊で訓練が必要だって事もな、だがよ~、今か


らだぜ、仮に、第1大隊入れてみろ、其れこそ、みんなが甘えさせるんだぜ。」


 「陛下、各大隊長に限って、其の様な事は、無いと思いますが。」


 「分かってるよ、だがなぁ~、現場の人間は、ジュニアと言うだけで甘くなる


んだ、だから、隊長に、頼んでいるんだ、将来のためにもなっ。」


 ロシュエの言う将来とは、ジュニアが、ロジェンタ帝国を引き継ぐと言う話し


では無い。


 ジュニアは、今日の今まで、仲間達にちやほやされ、何事に関しても甘い考え


を持っている、例え、大工になっても、農作業に就いたとしても、今の様な甘い


考えでは危険だと考えたので有る。


 「隊長、何も遠慮する事は無いんだ、何時もと同じ様に訓練を行なって欲しい


んだ、其れが、ジュニアのために成るんだからよ~。」


 特隊隊の隊長は、ロシュエの言う意味を、別の意味で考えていた、やはり、将


来は、ロジェンタ帝国を引き継ぐのだと。


 「陛下、よ~く、分かりました、では、私が、責任を持って訓練を行ないます


ので。」


 「済まんなぁ~、隊長、まぁ~、色々な事を教えてやってくれよ、よろしく、


頼みます。」


 傍で、話を聞いている、ジュニアの顔色が変ってきた。


 特偵隊の訓練とは、城門を出ると、森の奥深く入って行く、その森の中でも、


奥に入れば、狼の大群がいる。


 その狼との戦いだ、其れでも、最初の頃に比べると、相当、奥に入らなければ、狼の出会う事も無い。


 別に、狼が減ったのではなく、狼は、非常に賢い生き物で、逢えて、危険を犯してでも、城壁近くには来ない。


 「では、ジュニア、参りましょうか。」


 「はい。」


 返事も、心なしか、声が震えている、ジュニアも、狼の恐ろしさは、十分に知っている。


 特偵隊の訓練は、長く森に入り、食料は、森で、調達し、城まで続く森で訓練


を行ない、この実戦訓練に合格すれば、正式に、特偵隊に入隊が認められると言


うので有る。


 果たして、ジュニアは、無事、城まで、いや、何日間辛抱出来るのか、実戦訓


練とは言え、本当の戦では無い。


 今まで、途中で逃げた隊員の中からでも、一人の犠牲者は出していない、其れ


が、隊長の任務なので有る。


 「ジュニア、我々の訓練は、何を、目的としているのか、知っておられます


か。」


 「はい、敵方の情報を得るための訓練だと思います。」


 「勿論、其れは、大変、重要ですよ、ですが、その前に、自分自身と、仲間を


危険から守るのが、第1なんですよ、森に入ると言う訓練は、絶えず、狼や、そ


の他の動物が生息しています。


 森の動物達は、生きるために獲物を探しているんですよ、其れは、分かります


ね。」


 「はい。」


 「では、何故、危険だと言われる森の中に入るか分かりますか。」


 「いいえ、私も、今まで、森の中に入るなと言われておりましたので。」


 「その通りです、ですが、戦になれば、何処に配属されても、全てが危険だと


言う事なんですよ、我が身が危険だと言う事は、仲間も危険だと言う事です。


 我々は、最初の戦で、多くの仲間が戦死しました。


 でも、その後からは、我が身も守るために、当時の第1小隊が、偵察任務に就


く様になったんですよ。」


 この後も、特偵隊隊長は、色々な話をした、その内容は、全て、戦に勝つた


め、仲間からは戦死者を出さない、そして、一番大事な農民を守ると言う事ま


で、多くを話すので有る。


 「特偵隊は、只今より、実戦訓練に向かう、各自、装備の点検を行ない、終わ


り次第、出発する。」


 隊長の命令で、今日から、実戦訓練に入る事になった。


 「全員、よく、聞いてくれ、今回の実戦訓練から、ジュニアも参加する。


 ジュニアは、何も知らないので、みんなで教えて欲しい。」


 「はい。」


 特偵隊隊員も、正か、皇帝の皇太子が、実戦訓練に参加するとは思わず、今ま


でとは違う緊張感を持っている。


 そして、ジュニアは、これから、最も、厳しいと言われる、特偵隊の実戦訓練


に入るので有る。


 其の訓練は、森を無事に通りぬけるまで行なわれ、十数日後、無事、城に到着


した。


 それからは、各大隊に特別入隊し、全ての訓練を終えるまで、数年間を要した


が、其れからの、ロジェンタ帝国では、ジュニアに対する、特別な勉強が始ま


り、何年後かには、ジュニアが、皇帝を引き継ぐ事になるが、ロジェンタ帝国


は、その後も安定し、領民をはじめ、誰もが、安心する巨大帝国へと発展して行


くので有る。







         


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ