第 24 話。 攻撃開始せよ、先制攻撃だ。
「司令官、明日の朝から移動を開始する様です。」
「明日の朝からですか、では、小隊長の考えで行けば、何時頃の予定です
か。」
「はい、自分は、この登りですが、比較的穏やかなので、夕刻近くには、20
ヒロから、30ヒロは進むと。」
「では、そのまま、続けるのですか。」
「いいえ、一度、完全に停止します。」
「えっ、では、投石器は。」
「はい、停めて、明くる日、再度、移動を開始しますので。」
小隊長は、何度も見ているので、夜は、作業中止すると分かっているが、司令
官は、丘を登り切るまでは、続けるものと思っていた。
「では、車止めは。」
「はい、其れが、実に簡単で、ロープの先ですが、地中に槍を数十本を差込、
槍の結び付けるだけでして。」
「其れでは、何かの拍子に、ロープが外れると投石器は逆走するのでは。」
「はい、其れが不思議で、私の知る限り、其の様な事故も有りませんので、自
分も、少々驚いています。」
「でも、万が一、敵から攻撃されるとは思わないのですかねぇ~。」
「はい、でも、奴らは、全くと言ってよいほど、警戒をして無く、奴らが恐れ
ているのは、狼なんです。」
「我々も、狼だけは嫌ですからねぇ~、では、小隊長としては、何時頃に狙い
を付けているのですか。」
「司令官、明後日です、明後日の夕刻近くが、一番だと、私は思います。」
小隊長は、夕方になると、投石器から馬を放す作業と、ロープを固定する作業
に入る。
この時には、歩兵も、騎馬兵も作業が終わりだと言う気分で、誰もが完全に警
戒する事も無く、作業を早く終わりたいと急いでいる。
「では、其の時に、一斉攻撃に入りますので。」
「はい、了解しました。」
「でも、不思議ですねぇ~、敵は、全く警戒していないのが。」
「はい、自分も、其れが、分からないので、我々で有れば、必ず、警戒のため
の人員も配置しますが。」
「其れよりも、何故、此処まで来る必要が有ったのか、其れも、不思議な話だ
と、私も、思ってるんですよ。」
「はい、自分も、今は、思っておりますが、司令官、でも、奴ら、余程、寒い
ところから来た様ですねぇ~。」
「まぁ~、其れは言えますが、我々も寒い時期には毛皮を着ますから。」
「司令官、先程の話に戻りますが、大隊の配置は昼頃で十分だと思います。」
「小隊長に、全て任せますので、では、全員の配置は明後日だと伝えて置きま
すが、警戒だけは怠るなと。」
「はい、有難う、御座います。」
一方、第1中隊も、森の中から監視を行なっている。
「中隊長、何時頃攻撃に入るのですか。」
「一応、司令官からは、我々、第1中隊は独自に攻撃しても良いと命令は受け
ておりますが、私も、考えておりますので、まぁ~、第1小隊の動きで判断しま
しょうか。」
「では、我々も、監視要員だけで、残りは少しの時間でも休ませては如何でし
ょうか。」
「そうですねぇ~、其れに、この付近には、狼は少ない様ですからねぇ~。」
「はい、先程からも、森の中が静かですから。」
「では、奥にいるのでは無いでしょうから、でも、狼には警戒し、休みを取る
様に伝えて下さい。」
「はい、了解しました。」
各小隊長は、森の中で、待機中の兵士達に伝えに行く。
中隊長は、その後、数時間に渡り、テント周辺を監視続けたのだが、全くと言
ってよい程動きが無い。
テントの中からは、時々、侍女で有ろう女性が出入りするだけで、その女性達
ものんびりとした様子に見える。
其れに、テントの周りを警戒する歩兵の動きからは、緊張感も無く、のんびり
としている様に感じるので有る。
やがて、太陽は沈み、周辺は、少しづつ闇に包まれ、森の奥からは、狼の遠吠
えが聞こえてくる。
第1、第2大隊の兵士達には、狼の遠吠えは聞きなれているのだが、テントの
中からは、時々、女性が悲鳴を上げている、お城の中で聞く声と、この様な草原
のテントの中で聞く、狼の遠吠えは全く違う聞こえ方なのだろう。
「中隊長、テントの中の女性が。」
「其の様ですねぇ~、今までは、お城の中で聞いていたのでしょう、でも、此
処は草原で、其れも、テントの中ですから、恐怖は、我々では、考えられない以
上だと思いますねぇ~。」
「私は、今では、狼の遠吠えで、近くにいるのか、遠くにいるのかも分かりま
すから。」
「まぁ~、其れだけ、狼に慣れたのでしょうねぇ~。」
「中隊長、先に休んで下さい、後は、我々に任せて下さい。」
「では、何か有りましたら、直ぐ、起こして下さいね。」
「はい、了解しました。」
中隊長は、その後、何も無かったので、朝まで眠る事が出来た。
そして、明くる日の朝、敵軍から、大歓声が聞こえるので目覚めた小隊長は、
少し移動し、見ると、やはり、昨夜、聞いたとおりで、投石器を丘の上に運ぶ作
業が開始された。
「小隊長は。」
「はい、先程、近くまで行くと言われましたので、多分、あの辺りでは。」
兵士が指差す方向を見るが、時々、草が、風で動くだけで、小隊長の姿は、全
く見えない。
司令官は、投石器の動きを見たいので。
「私も、見たいのですがねぇ~。」
小隊の隊員は見て欲しいのだが。
「司令官、上着を脱いで下さい、私ので良ければ。」
「そうですか、申し訳ないですねぇ~。」
「司令官、この帽子もです、其れで、急ぐと気付かれますので、風の動きと同
じ様に動くんです。」
「え~、其れは、大変ですねぇ~、はい、分かりました、皆さんの努力を、私
が、無駄にしないように進みます。」
「仲間が、一緒に行きますので、誰か、司令官をお連れして下さいね。」
「はい、了解です。」
隊員の後ろを、司令官が進むが、見ると簡単な様だが、隊員の動きは、風の様
に動き、他の場所から見ても、其処に兵士が居るとは、全く、分からない程で、
やがて、丘の上に着くと。
「司令官。」
小さな声が聞こえ。
「はい。」
「此方から見えますので。」
「はい、了解です。」
司令官は、隊員の横に来て、下を見ると、十数ヒロ先に騎馬兵が、その下を見
ると、巨大な投石器を馬が数十頭と、兵士が、数百人が引いている、投石器の動
きは、小隊長の報告通り、実にゆっくりと動いているが、確実に丘の上を目指し
ている。
隊員は、これ以上、居ると発見される可能性が有ると、判断し、手で戻る様に
合図し、司令官は、少しづつ下がって行き、途中まで来ると方向転換し、何事も
無かった様に戻れたので有る。
「司令官、如何でしたか。」
「いゃ~、私が、無理を言ったばかりに、小隊のみんなには、大変な迷惑を掛
けました。
私は、二度と、この様な無理は言いませんので許して下さいね。」
司令官は、第1小隊の隊員に頭を下げた。
「司令官、別に其の様な事は有りませんよ、だって、我々の任務を、一番、良
く知っていただいておりますので、十分ですよ。」
「いゃ~、其れにしても、君達は、単なる、第1小隊では有りませんよ、
我々、第1、第2大隊が誇りを持って言いたいですよ、そうですねぇ~、今度
は、名称を変えましょうか。」
ロレンツは、何か、特別な名称を与えたい気分なのだ。
「司令官、私達は、以前も、これからも、第1小隊でよろしいですよ、私は、
司令官には失礼かと思いますが、第1小隊は、偵察専門の、其れも、特殊部隊だ
と思っておりますので。」
「そうですか、偵察専門の特殊部隊ですか。」
ロレンツ司令官は、偵察専門の特殊部隊と言う響きが気持ちよかった。
「ですが、君達は、本当に素晴らしいですよ、あの様な近くまで行かれるので
すからねぇ~。」
「司令官、小隊長ならば、丘の直ぐ傍の草むらまで行かれますよ。」
「えっ、直ぐ近くですか。」
「はい、先程は、私達の限界ですが、小隊長ならば、そうですねぇ~、2ヒロ
くらいですかねぇ~。」
「えっ、2ヒロって、本当に直ぐ傍ですよ。」
「はい、我々が、どんなに頑張っても、十数ヒロですから、我々が、どんなに
偉そうに言っても、小隊長に勝つ事は出来ないんです。」
「では、一昨日、兵士の話を聞いたと言うのは。」
「はい、小隊長が行かれたのですから間違いは有りません。」
一昨日、小隊長は、敵軍の兵士の話を聞いたと言ったが、小隊長は、兵士の話
が聞こえる近くまで忍び寄る事が出来るので有る。
ロレンツは、1番大隊の隊長を受けた時から、この小隊は、何か、特別なもの
を持っているとは思っていたが、正か、其れが、本当だと、今回、改めて自身が
確かめる事が出来たので有る。
その小隊長は、その後、暫くして戻って着たので、ロレンツは思わず。
「小隊長殿、大変、ご苦労様でした。」
と、敬礼したので、小隊長も、思わず答礼し。
「司令官、只今、戻りました。」
何も、知らない小隊長は、狐に騙された様な顔をしている。
「小隊長、今日からは、特殊部隊隊長と呼ばせて下さいね。」
「はぁ~、司令官、一体、どうされたのですか。」
傍に居る、小隊の仲間も驚きの表情で、全く、訳が分からない。
「いゃ~、隊長は、素晴らしいですよ、其れに、仲間もですよ。」
「あの~、司令官、一体、何の話をされているのか、自分には、全く分かりま
せんが。」
「いゃ~、其れがねぇ~、実は。」
司令官は、先程の話をしたので。
「ですが、何故ですか、その特殊部隊って、誰かが言ったんですか。」
隊員が手を挙げ。
「小隊長、申し訳有りません、私が、勝手に付けたんです。」
「えっ、其れでですか、でも、気持ちは、偵察専門の特殊部隊ですが、呼び名
は、今まで通り、第1小隊でよろしいですよ。」
「今日からは、私が変更しますよ、略して、特偵隊ってね。」
「えっ、何ですか、その特偵隊って。」
ロレンツは笑って。
「実に簡単ですよ、偵察専門の特殊部隊を、私が、勝手に付けたんですよ、特
偵隊ってね。」
「司令官、其れよりも、敵は、今日中に、投石器を頂上まで運ぶ様です。」
「やはりねぇ~、全く動きが無かったので、何か有るとは思っておりました
が。」
「はい、其れで、今日の昼頃には、丘の中ほどで、馬を交代させる予定だと、
話しておりましたので。」
「分かりました、では、私達も準備に入りましょうかねぇ~。」
ロレンツ司令官は、馬に乗り、第1、第2大隊の方に向かって行く。
「小隊長、我々は。」
「別に急ぐ事も有りませんよ、ですが、今の内に打ち合わせをしましょう
か。」
この後、第1小隊は、各自の任務を打ち合わせに入る。
その頃、テント近くの森に潜んでいる、第1中隊でも。
「中隊長、来て下さい、伝令の様です。」
「伝令か、でも、丘の方では大きな動きは見られないですねぇ~、と、言う事
は、まだ、攻撃に入っていないと言う事ですから、一体、何の伝令でしょう
か。」
「あっ、中隊長、あの人物がどうやら国王の様ですよ。」
「うん、だけど、まぁ~、何と派手は衣装ですかねぇ~、あの姿ならば、敵か
ら攻撃を受けると、私が、国王ですよと言ってる様なものですよ。」
「我々の国王だったら、どの様に言われるでしょうか。」
「う~ん、そうですねぇ~、オレがよ~、そんな服を着て喜ぶとでも思うのかよ~ってね。」
中隊長の傍に居た兵士は、大声で笑う事も出来ないが。
「中隊長、上手ですねぇ~。」
「そうですか、でも、何か、動きが有った様ですよ、国王らしき人物がテントに戻りましたからねぇ~。」
「やはり、投石器の移動が始まったのでしょうか。」
「其れは、間違いないでしょうが、まぁ~、暫くは、様子を見る事にしましょ
うか、今のところ、動きが少ないので、各小隊は、順次休みに入って下さい。」
この中隊でも暗黙の了解と言うのが有り、小隊長達が説明する必要も無く、兵
士達が、何時でも、動きの取れる場所で休みを取るので有る。
一方、司令官も急ぐ必要は無いと。
「小隊長以上は集合せよ。」
第1、第2大隊の小隊長以上が、司令官の下に集まり。
「今日に昼頃には、丘の途中で、馬の交代が有ると、特偵隊の隊長から報告が
有りました。」
ロレンツ司令官が、突然言った、特偵隊とは、一体、何処の部隊なのか集合し
た、小隊長以上は、不思議そうな顔付きで有る。
「これは、申し訳無かった、特偵隊とは、第1小隊の事で、今日からは、偵察
専門の特殊部隊、私は、特偵隊と名付けました。」
小隊長以上の将校達は、納得した顔になり。
「先程、特偵隊の隊長が、敵陣から戻って来られ、今日中に丘の頂上に運ぶ様
だと、其れと、攻撃は騎馬だけですので、先日も説明しましたが、連続攻撃を行
ないますので、各中隊長は、縦横との打ち合わせを行なって下さいね、私からは
以上ですが、何か、質問は。」
「司令官、第1中隊への連絡方法ですが。」
「そうでした、此処とは、少し離れていますので、第2小隊が火矢を放って下
さい。
其れで、第1中隊も分かると思いますので。」
「司令官、騎馬兵は、何人くらいなんですか。」
「特偵隊からの報告では、約、5千と聞いておりますので、5千の騎馬部隊を
全滅とは行かずとも、全滅に近ければ残るは歩兵だけですから、では、皆さん、
各隊に戻り説明と、中隊長は、打ち合わせに入って下さい。」
ロレンツは、国王だと思われる人物の事を考えていた。
投石器部隊の進軍を止める事も重要なのだが、国王を捕まえ、敵軍に見せる
と、どの様になるのか、国王が実権を握っているのか、其れとも、軍の総大将が
握っているのか、其の見極めが必要だと、仮に、国王だとすれば、国王だけを生
け捕りにすればよいのだが、飾りの国王なのか、其れは、全て、中隊長の判断に
任せるべきなのか、だが、中隊長に全てを任せるのは荷が重過ぎる。
では、一体、どの様にすればよいのだどろうか、さすがのロレンツ司令官で
も、過去にこの様な戦の経験が無い。
総大将だけならば簡単だ、其れが、今回は国王と思われる人物が居る事は予想
外で、ロレンツは迷った。
「司令官。」
「えっ。」
「司令官、如何されたんですか、何やら深刻な顔ですが。」
「オーレン隊長、私は、今、少し迷っているんですよ。」
「何を、迷われているのですか。」
「今、第1中隊が監視している、テントの中の人物の事で。」
「あ~、国王と思われる人物ですね。」
「うん、それでね、国王と思われる人物が、実権を握っているのか、其れと
も、軍の総大将が握っているのかで、今後の作戦も変わるのではないかと、先程
から考えていましてね。」
「そうですねぇ~、国王が握っているのならば、先にテントの人物を確保し、
軍に降伏する様に言えますが、国王とは、名ばかりで、お飾りならば、総大将を
確保すればよいと思うのですが。」
オーレン隊長も考えている。
「だが、これだけの人数を捕虜にすれば、奴らを常時監視する必要が有ります
からねぇ~。」
ロレンツも、全員を捕虜にする事には乗り気では無いと。
「司令官、全員を捕虜にする事は出来ませんよ。」
オーレンは、直ぐに反対した。
「ええ、私も、捕虜は少ない方が良いのですが。」
「ですが、司令官も、まだ、何も決定していないので有れば、我々は、この戦
と言いますか、あの投石器を壊す事だけを考えた方が良いと思いますが。」
「そうでしたねぇ~、私は、一体、何を考えていたのですかねぇ~。」
司令官となり、以前の、ロレンツ隊長とは違う様に見えたのだろうか、オーレ
ンも考えさせられるので有る。
「司令官、オーレン隊長。」
「特偵隊の。」
「はい、私の予想が外れそうです。」
「と、いいますと。」
「はい、動きが遅すぎるのです。」
「動きが遅すぎるとは。」
「はい、最初の予定では、今日中に頂上に運べると、でも、今の動きだと、夕
刻になっても、中間までは行きませんので。」
「其れは、何かの理由が有っての事ですかねぇ~。」
「はい、敵も思った以上に長い登りで、歩兵も、相当疲れが出ている様子で、
其れで、先程から考えおりましたが、夕刻の時点で攻撃に入ると言うのは如何で
しょうか。」
「分かりました、その方向で行きましょうか。」
「はい、では、私は、一度戻り、今一度、確認してきます。」
「隊長も、無理は駄目ですよ、我々が急ぐ必要は有りませんので、敵の歩兵は
疲れで、動きがより遅くなると思いますので、夕方の判断で、今日の夕方か、明
日の早朝に決行するかを決めましょうか。」
「はい、では。」
今や、特偵隊隊長の判断次第となったのだが、この時、ロレンツ司令官が、突
然、思い付き、ロレンツ司令官は、オーレン隊長と、シェノーバー隊長を呼ん
だ。
「司令官、お呼びでしょうか。」
「オーレン隊長、今、突然、思い付いたんですがね、敵は、今夜、丘の途中ま
で、投石器を運び終えると思うんですよ。」
「はい、其れが、何か。」
「丘の途中で止める時ですがね、敵の兵士は、地中に槍を数十本を打ち込み、
ロープを結ぶだけと聞いたんですよ。」
「でも、実に簡単ですねぇ~。」
だが、オーレン隊長も、シェノーバー隊長も、司令官が、何を考えているの
か、全く知らない。
「其れでね、私は、このロープを切れば、一体、どうなるのかと考えまして
ね。」
「司令官、当然、投石器は、丘を逆走しますよ、えっ、正か。」
「オーレン隊長、その正かって出来ないですかねぇ~。」
ロレンツと言う司令官は、一度、口に出すと、後戻りはしない頑固者で、だ
が、其れは、隊長時代の時で有り、今は、司令官と言う立場となり、以前に比べ
ると、少しは柔らかくなったが、それでも、何としても決行したいと言う表情な
のだ。
「司令官、では、槍に付けたロープって、一体、何本有るんですか。」
「さぁ~ねぇ~、私は、全く知りませんので。」
「でも、何故、ロープを切ると考えられたんですか。」
「うん、其れがね、今回の戦ですが、我々を守るための物が全く無いと気付い
たんですよ、以前の戦では、森の大木や、農場におりましたので、危険は、有る
程度回避する事が出来ましたが、今回は、其の様な物が全く無いので、私は、
我々の仲間が犠牲になるのだけは避けたいと考えておりましてね、其れで思い付
いたんです。」
「ですが、敵も、全く警戒もせず、投石器の見張りも置いていないとは思いま
せんが。」
「う~ん。」
ロレンツは、何か、良い方法は無いか、それだけを考えている、あえて言うの
らば、無理に戦を行なう必要も無い。
一方、敵軍の投石器を運ぶ歩兵達は、後少しだと言われ、必死で、ロープを引
くのだが、今までの丘と違う事が有った、其れは、今、登りに入っている丘と
は、前の丘の間に有る窪地が、何故か大量の水分を含み、投石器の重み加わり、
車輪がめり込む、そのため、歩兵の人数は倍となるが、この窪地を出るだけで、
午前中掛かった。
歩兵の中には、倒れる兵が数百にもなり、其れが、余計進みを遅くする事にな
って要る、其れでも、十台の投石器は、昼前に窪地を出る事が出来、この時に、
馬を歩兵を休ませる事になった。
そして、指揮官は、夕刻までには、丘の途中まででも運ぶ様に命令を出し、歩
兵達は不満を言いながらも、これで、今日は終わりだと、そして、明日には、丘
の頂上に行けると思い、最後の力を振り絞って行く。
登りは緩やかなので予定の時刻よりも早く到着し、数百人の歩兵が、槍を次々
と地中に差し込んで行く、1台、また、1台と、投石器は、丘の途中で、ロープ
に繋がれ、歩兵達は、次々と下り、テントの中に入る者、草原に寝転ぶ者と、
色々であったが、其れでも、今日は、終わったと言う気持ちなのか、中には眠り
込んだ者さえ居る。
「司令官、来て下さい。」
「分かりました、隊長も呼んで下さいね。」
二人の隊長とで、少し離れたところから見ると、丘の上には数百本の槍が地中
に突き刺され、その槍には、投石器から伸びたロープが括り付けられているのを
見て。
「司令官、私は、出来る事ならば、明日の朝に、この槍を薙ぎ倒して、投石器
を逆走させたいと思ったんですが、如何でしょうか。」
「オーレン隊長、素晴らしいですよ、ロープを切るよりも、簡単ですからねぇ
~、でも、薙ぎ倒すって、どの様にするんですか。」
「はい、私の大隊は、何かに使える時が有るだろうと、数十本のロープを持っ
て来ております。」
「分かりましたよ、ロープを馬に引かせるんですね。」
「はい、人間の力では無理でも、馬であれば、出来ますので。」
「分かりました、では、隊長に任せますので。」
「はい、分かりました。」
「ですが、騎馬が、反抗に来ると思いますので、1番大隊は、騎馬兵だけに攻
撃を掛けて下さいね。」
「了解です。」
「配置は、隊長に任せますので、よろしく、お願いします。」
「私は、1番大隊の護衛に入ります。」
「準備も有るでしょうから、お二人に任せます。
私は、今から、第1中隊を見に行きますので、監視だけは、お願いします。」
司令官は、第1中隊が、監視を続けている場所へと向かう。
「隊長、またも、作戦が変わりましたが。」
「司令官、私達が、偵察に行った時でも、同じで、頻繁に変わりますので、慣
れております。
其れよりも、敵の国王と思われる人物ですが、司令官は、何か、策でも考えて
おられるのですか。」
「う~ん、実を言いますとね、私は、何も考えておりません。」
「えっ、ですが、敵の国王ですよ。」
「勿論、承知しておりますよ、ただね、相手の出方次第で、我々も、変えるつ
もりでしてね。」
「私は、この国王ですが、何故か、お飾りの様な気がするんですよ。」
「ほ~、お飾りですか、そのお飾り国王をどの様に処分と言いますか。」
「はい、私は、でも、その前に、この軍勢ですが、私が、何度か歩兵の近くに
行き話しを聞いておりますと、彼らが、正規軍では無い様に思うんですよ。」
「やはり、正規軍は、騎馬兵だと思われるのですね。」
「はい、我々の軍は別として、ウエスの軍でも、正規軍は騎馬兵でした。
其れに、歩兵達の言葉使いが、一般人、其れも、大半が農民の様な言葉で話し
ておりましたので。」
「隊長も、其の様に感じられましたか、私も、歩兵の動きを見ておりました
が、全くと言ってよいほど統制が取れていない、全体がバラバラの動きでした
よ、正規の兵士ならば、統制の取れた動きを行ないますからねぇ~。」
司令官も同じで、歩兵は農民だと分かったので有る。
「司令官、テントの護衛は正規兵ですよ。」
「まぁ~、其れが、普通だと思いますが。」
二人が話をしている途中に着き。
「司令官、如何されたんですか。」
「いゃ~、中隊長、あちらの現場でも色々と有りましてねぇ~。」
「そうだと思いましたよ、自分も、丘の方を見ているのですが、一向に合図も
有りませんので。」
「其れでね、先程も状況が変わりましてね、明日の朝、投石器を逆走させる事
に決まりましたので、その知らせと、あのテントの中の人物ですが。」
「はい、全く、変わる事も無く、時々、表に出て、何かを見ている様子ですが、でも直ぐ中に入ります。」
「で、あの護衛ですが、何人くらいですか。」
「はい、実に少ないので、20人くらいです。」
「でも、警戒を重要にしている様子も無いですねぇ~。」
「はい、其れが、不思議なんですよ、我々の存在を全く知らないのか、其れと
も、よもや、攻撃される事は無いとでも思っているのか、あれは、警戒と言うよ
りも、ただ、その場に居るだけの様に、私は、見えるのですが。」
「う~ん、全く理解に苦しみますねぇ~、其れで、軍の方からは、伝令か、其
れとも、将校らしき人物は来るのでしょうか。」
「司令官、其れも、全く有りませんねぇ~、一度だけですが、伝令が来ました
が、その後は、誰も来ないです。」
「分かりました、中隊長、明日の朝、投石器が逆走を始めた時火矢を数本放ち
ますので、合図と同時にテント内の人物を確保して下さい。」
「はい、其れで、警護兵は。」
「反抗するならば、その場で殺してもよろしいですが、でも、国王と思われる
人物の命は。」
「はい、承知しました、司令官、其れと、女性も居るのですが、。」
「勿論、女性達全員は開放しなければなりませんからねぇ~。」
中隊長は、何を考えているのか、ニヤリとした。
「中隊長、女性には優しくですよ。」
「はい、女性には、特別優しくしますので。」
大きな声では笑えないが、兵士達はクスクスと笑っている。
「司令官、国王らしき人物と、女性達を確保した後ですが。」
「騎馬隊の動きが読めませんので、暫くはテントの中で。」
「はい、了解しました。」
「では、よろしく、頼みましたよ、私は、戻りますので。」
司令官と、特偵隊の隊長は戻って行く。
「中隊長、今回は簡単に終わりますねぇ~。」
「いゃ~、其れは、分かりませんよ、警護兵の動きが分かりませんので、其れ
に、我々からでは、投石器を攻撃している様子が全く分かりませんので、全員、
気を引き締めて掛かる様に伝えて下さい。
各小隊は、警戒要員の配置はそのままで、順次食事と、休みを取ってくださ
い。
明日は、決戦になりますので、休みを利用し、各自、ホーガンの点検を、私か
らは以上です。」
中隊長の指示で、兵士達は、ホーガンを点検し、食事を取るので有る。
其の頃、5番大隊のリッキー隊長も動き出した。
「中隊長は、集合する様に。」
リッキー隊長は、敵が反撃する可能性も有ると考えていた。
「隊長、全員、集合完了です。」
「はい、では、今から、警戒を厳重態勢に入りますが、城の屋上には、キムラ
ッチ中隊長、君に任せます。」
「はい、有難う、御座います。」
「今度の戦は、我々が過去に経験した戦とは全く違います。
敵軍の位置は、此処から、数日のところに有ると思われますが、其処には、司
令官と、第1、第2大隊が先制攻撃を仕掛けるため、既に、配置に就いていると
思います。
ですが、我々は、敵が、何処から攻撃して来るのか、全く分かりません、其処
で、キムラッチ中隊長は、城の最上階で、日夜を問わず監視が任務です。
特に、今日からは、日夜関係無く監視を続けて下さいね、かがり火は多い方が
良いので。」
「はい、承知しました。」
「第1中隊は、同じく、屋上配置とし、第2中隊からは、5番農場にて待機任
務とします。
先程も言いましたが、今日からは、日夜関係なく任務に就きますので、各中隊
は、休みを取る時を利用してホーガンの点検を行なって下さいね、私からは以上
ですが、何も無ければ警戒任務開始。」
監視任務に就く小隊は、5番農場の入り口の門の前で任務に入り、門の前は森
で、森の中から来る事は無いと、従って、城の方向だけを注意するので有る。
4番農場でも、同じ様に警戒態勢に入り、3番も同様で、正し、3番大隊の、
第1、第2中隊は、農場本体に入り、厳重な警戒態勢に入った。
「陛下、司令官からは、何も言って来られませんが。」
「まぁ~、奴の事だ、オレは、何も心配してないんだ、其れにしても、まぁ
~、厳重な警戒態勢に入ったなぁ~。」
「はい、でも、私は、何も指示は出しておりませんが。」
「うん、其れは、分かってるが、何も、其処まで厳重にする必要は無いと思う
んだがなぁ~。」
「ですが、起きてからでは、遅すぎると思ったのでしょう、今度の敵は、投石
器と言う、我々の知らない巨大な武器を備えておりますので。」
「なぁ~、将軍、オレは、その投石器って、一体、どんな物なのか見てみたい
んだ。」
ロシュエは、一度、見たいと言うのは、前戦に行きたいと言うのだと、将軍は
思っている。
「陛下は、駄目ですよ、陛下は、此処から一歩も出られませんので。」
「何だよ~、オレは、まだ、何も言って無いぜ。」
ロシュエは、ばれたかと思い、舌をペロッと出した。
「陛下のお考えは直ぐに分かりますよ、でも、絶対に行かれる事は出来ません
のでね。」
「将軍も、本当は、前戦に行って、その投石器って巨大な物を見たいんだろう
よ~。」
「私が、行けないのですよ、私が、行く事も出来ないのですから、陛下は、絶
対に駄目です。」
「だがなぁ~、問題はだ、これからも、その投石器って、巨大な武器を持っ
た、新たな軍勢が、ロジェンタ帝国を襲うんじゃないのかって考えると、オレ
は、其れの方が心配なんだよ~。」
「はい、確かに、陛下の申される事は、今後の課題となりますねぇ~。」
「オレ達も準備する必要は有ると思うんだ、いや、別に、今、直ぐに出来ない
事は分かってるよ、其れに、ホーガンと言う強力な武器が有るからよ~、当分は
必要無いとは思ってるんだが。」
「はい、私も、必要性から考えますと、今は、無理としましても、何れは、必
要になるかと。」
だが、今は、全く心配は無い、投石器よりも、ホーガンは強力で、其れに、倍
以上は飛ぶホーガンが有利だ。
「まぁ~、一度、技師長に相談するか。」
「はい、私も、大賛成で、御座います。」
其の時。
「伝令で~す、開門願いま~す。」
「伝令か。」
門が開き。
「将軍に、司令官より、伝令です。」
「よし、そのまま、陛下の執務室へ。」
「はい、了解です。」
「将軍、当番兵です、司令官よりの伝令です。」
「分かりました。」
ロシュエも、将軍も予想しなかった伝令で。
「伝令です、この数日の間に、先制攻撃に入るとの事です。」
「えっ、先制攻撃って。」
「はい、敵軍の投石器が、3日前の夕刻、丘の途中で停止しましたので、明く
る朝、逆走させる作戦に入るとの事です。」
伝令も、その状況を見ていたので、その後、詳しく説明すると。
「ふ~ん、じゃ~、最初の計画とは、別の作戦で行くのか。」
「はい、司令官は、騎馬兵は、敵軍の正規軍なので、殺してよいと、だが、歩兵は、どうやら大半が農民に思える
ので、反撃さえ無ければ、殺す必要は無いと言われておられました。」
「え~、じゃ~よ、2万人の歩兵は農民なのか。」
「はい、司令官は、その様に言われました、私も、投石器を運ぶ様子を見てお
りましたが、正規軍の様に統制は取れておらず、全てがバラバラでしたので。」
「じゃ~、司令官は、その農民達を、一体、どうするつもりなんだ。」
「私は、分かりませんが、あっ、そうでした、其れよりも、敵軍の国王と思わ
れる人物と、十数人の女性が居るのですが。」
「えっ、国王だって。」
「はい、まだ、正確な事は分かりませんが、司令官は、殺さず、生け捕りにせ
よと、第1中隊に命令されました。」
「だがよ~、生け捕りにして、どうするつもりなんだろうか。」
「司令官は、どの様にすればよいのか、聞いて来いと言われました。」
「ロレンツの野郎、一体、何を考えてるんだ、国王だったら、話を聞いて、其
の後は、う~ん。」
ロシュエは、一瞬迷った、簡単に殺せとは言えない、だが、国王らしき人物を
生かせて置く必要は無い。
「司令官に、命令だ、国王と判明したならば、この帝国に来た訳を聞け、終わ
り次第草原に放て。」
「えっ、草原に放ってって、一体、どう言う意味なんでしょうか。」
伝令は、直ぐ分かったが、果たして、本当の意味とは。
「馬車も、馬も取り上げるんだよ、そして、何処にでも行けって事だ、後始末
は、草原の主がやってくれるんだ、其れとだ、兵士達もだよ、全ての武器も取り
上げるんだ。」
「はい、承知、致しました。」
伝令兵は、恐ろしくなった、国王と思われる人物から事情を聞き、その後は、
馬車も馬もなしで草原に放り出せ、後は、草原の主、其れは、狼と言う事になる
のだ、兵士達もだと、生き残るのが良いのか、其れとも、戦で戦死が良いのか、
何れにしても、狼の餌になる事に間違いは無い。
「私は、直ぐ戻り、司令官に伝えますので。」
「まぁ~、そんなに急ぐ必要も無いだろうから、大食堂に行って来いよ。」
「はい、有難う、御座います。」
この後、伝令兵は、大食堂に向かった。
「なぁ~、将軍、何故なんだ、何時ものロレンツならば、敵の兵士は殺せ、其
れに、今度は、国王らしき人物だとよ~、一体、何を考えてるんだろうかなぁ
~。」
「陛下、私も、理解が出来ませぬ、若しかしますと、陛下と、私に来いとで
も。」
「うん、そうだ、ロレンツの野郎、憎たらしい事を考えたなぁ~、うん、きっ
と、そうに違い無い、将軍、行こうぜ。」
ロシュエは、まぁ~、何と言う解釈をするんだ。
「お~い、当番さんよ~、大食堂に行って、伝令が食事中だと思うが、オレ
と、将軍が行くからよ~、其の様に伝えてくれ。」
「えっ、はっ、はい、了解しました。」
当番兵も驚いている、だが、今回は、ロレンツ司令官が謎めいた伝言を、ロシ
ュエの勝手な解釈で、将軍と一緒に、最前線に行く事になったので有る。
「なぁ~、将軍、その国王って奴がだよ、一体、何のために来たのか、オレ
は、知りたいんだ。」
「はい、陛下、私もで御座います、小隊長の話では、今の時期には合わぬ毛皮
の服を着ていると、ですが、何故、その様な毛皮の服を着なければ成らない程寒
いところから、この地に来たのでしょうか。」
「おい、将軍、直ぐ出発の準備だ、オレはよ~、早く行きたいんだから。」
ロシュエは、子供が喜んでいる様な顔付きだ。
「当番さん、陛下と、私の馬を準備して下さいね。」
「はっ、はい、分かりました、直ぐ準備致しますので。」
「お~い、早く頼むぜ。」
「はい。」
当番兵は、直ぐ、フォルト隊長に話を伝えたが、フォルト隊長も、大変な驚き
で、直ぐ、二人の居る執務室に駆けつけた。
「陛下、一体、何事ですか。」
「お~、フォルト、オレと、将軍は、今から、敵の国王って奴の顔を見に行く
んだが、お前も付いて来るか。」
「はい、勿論ですが、一体、何があったのですか。」
「いゃ~、別に、大した事じゃ無いんだ、司令官がよ~、何時もと違う伝言を
言って来たんでな、オレが、直接行ってだ、確かめ様と思ったんだ。」
「其れで、将軍も、ご一緒にですか。」
「そうですよ、フォルト隊長、私もね、司令官の伝言が気になりましたので、
陛下と、ご一緒させていただく事になりましたのでね。」
「陛下、ですが、護衛も無しには、行っていただく事は出来ませんので、第2
中隊を同行させますので、よろしく、お願いします。」
「フォルト隊長、済まんなぁ~。」
「では、出発準備をさせますので、暫く、お待ち下さい。」
「お~、いいよ、別に急ぐ事も無いんだが、攻撃はまじかって言ってたぜ。」
「はい、分かりました、では。」
フォルトは、大急ぎで、第2中隊に向かい、暫くして、数台の馬車と、第2中
隊が集合整列した。
「じゃ~よ~、フォルト隊長、後の事は頼むぜ、よろしくなぁ~。」
「はい、お気を付けて、中隊長、陛下と、将軍をお守りして下さいね。」
「は、承知しました、では、出発。」
ロシュエと、将軍、其れに、第2中隊は、ロレンツ司令官の居る、最前線へと
向かった。
最前線に到着するのは、早くて、7日、遅くとも、10日は掛かる道のりだ。
一方、ロレンツ司令官は、1番、2番大隊の近くで、特偵隊隊長と、大隊の中
隊長以上と、最後の作戦会議を行なっている。
「司令官、今夜は、月夜ですので、敵が寝静まった頃に、槍にロープを繋げに
行く事が出来ますが。」
「隊長、如何ですか、明日の早朝に引き倒す予定ですが。」
「はい、私達も、その方が良いと思いますが。」
「では、特偵隊の指示で、ロープを付けますが、で、隊長、方法としては。」
「はい、今は、まだ、騎馬兵も付近におりますので、もう少し遅くなってからですが、ロープは、槍の端だけを結
び、後は、馬に引かせるだけですからね。」
「あの~、よろしいでしょうか、その作戦ですが、今夜、決行しては如何でし
ょうか。」
第1大隊隊長は、早く決めたいと思って居る。
「司令官、今夜、正かと、敵軍も思ってるでしょうから、私も賛成ですよ。
敵軍は、混乱し、一体、何が起きたのかも分からずに投石器に押し潰されて行
く事に成ると思いますので、私は、別に、明日の早朝まで待つ必要も無いと思い
ます。」
「オーレン隊長の意見に、対し、皆さんは、如何なされますか。」
中隊長の全員が賛成し、作戦は、今夜、決行となった。
「では、今から配置に就いて下さいね、中隊長は、この月夜ですから、各隊員
には細かく説明して下さい。
準備完了の合図は、奥から、順番に、大変面倒ですが、今、敵に知られると、
作戦が失敗する可能性が有りますので、お互いに声掛けはせずに、仲間の手を握
り伝えて下さい。
最後まで伝われば、後は、隊長の合図だけですので、其れでは、各中隊に戻
り、説明が終わり次第、ロープ掛けの準備に入って下さい。」
第1、第2の各中隊長は、静かに中隊に戻り、説明をはじめ、説明が終わった
中隊から、月明かりの中、敵の騎馬兵に見付からない様に、次々と、槍にロープ
を結んで行く。
数時間後、月は、西へ少し傾き、其れでも、今夜は満月で、遠くからは、あち
ら、此方で、狼の遠吠えが聞こえる。
ロープ掛けが終わり、隊長の合図で、数十頭の馬に繋がれ、後は、合図を待っ
ている。
敵軍のテントは静かで、全員が疲れ、深い眠りに入っている、其の時。
「馬を引け~。」
特偵隊隊長の合図と共に、数十頭の馬に鞭が入り、馬が一斉に引くと、ロープ
に繋がれた槍が次々と抜けて、投石器がゆっくりと逆走を始め、暫くすると大き
な音がした、投石器が途中で倒れたので有る。
その直後、悲鳴が聞こえた、其れは、投石器がテントを襲い、数十人か、い
や、数百人が投石器に押し潰されたのか、投石器が倒れ、その下敷きになったの
か、其れは、夜が明けるまでは分からない。
「各自、ホーガンを持ち、攻撃態勢に入れ。」
ロレンツ司令官は命令するが、丘の下が、今、どの様になっているのか、騎馬
兵が丘を登って来る気配も無い。
第1、第2大隊は、静かに、だが、全員に緊張の時が流れ、やがて、東の空が
少しづつ明るくなり始めた。
「おい、あれは、一体、えっ、大変だぁ~、敵の攻撃だぁ~、全員、馬に乗
れ。」
敵軍も、要約、気付いたのだ、数百の騎馬兵が馬に乗り、丘を駆け上がり始め
た。
「まだですよ、まだ、まだ。」
騎馬兵が、丘の途中に来た時。
「よし、今だ、ホーガン矢を討て。」
ロレンツの号令で、一斉にホーガン矢が、敵、騎馬兵に向かって飛んで行く。
「うっ。」
呻き声と共に、次々と騎馬兵に命中し、百、二百、いや、まだまだ登って来
る。
「よ~し、今から、連続攻撃開始。」
ロレンツの号令で、第1、第2大隊の兵士達は、次々と入れ替わり、ホーガン
矢は、絶え間なく騎馬兵に向かって行く、その時。
「ぴゅ~。」
と、聞き慣れない音がし、音がした途端、騎馬兵の居なくなった馬が、丘へと
向かって行く、その音は、特偵隊隊長の指笛で、馬の中には、まだ、多くの兵が
乗って居るが、馬は、猛然と同じ方向へと向かって行く。
馬上の騎馬兵は何も出来ず、馬にしがみ付いているだけで、其れは、ホーガン
矢の的となり、丘に上がる頃には、殆んどが落馬し、裸馬となった暴走馬の先頭
は、特偵隊が行く、果たして、何処まで行くのか。
その少し前、第1中隊は、何時、火矢が上がるのかと待っているのかのんびり
としている。
「中隊長、今夜は月明かりで、何時もより明るいですねぇ~。」
「そうですねぇ~、其れに、狼も、今夜は、何時に無く元気そうで、数十頭く
らいかなぁ~、遠吠えもよ~く、聞こえますよ。」
「其れにしても遅いですねぇ~。」
「うん、この調子だと、明日の早朝かなぁ~。」
中隊長も、今夜は、正か、作戦の決行は無いと思っている。
「中隊長、何か、音が聞こえてきますよ。」
「一体、何の音だろうか、聞いた事も無い音だけど。」
「えっ、正か、今夜、決行って事は無いですよねぇ~。」
「いいや、司令官の事だ、あの人なら分からないですよ。」
「あの音、正か、投石器が逆走しているのでは。」
「そうですよ、みんなに伝えてくれ、作戦開始だ。」
「はい。」
その直後か、丘の向こうから、次々と悲鳴が聞こえてきた。
「中隊長、一体、どうしたんでしょうか、悲鳴が聞こえてきますが。」
「う~ん、私にも分かりませんが、其れよりも全員行くぞ。」
中隊長の号令で、静かにテントの有る方向へと向かって行く。
悲鳴が聞こえたのか、テントからも、次々と、女性達が出、警護の歩兵は、国
王と思われる人物のテント周りを固めているが、やはり、悲鳴が気になるのか、
仕切りに丘の方を見て、何やら話をしている。
「よし、今だ。」
中隊長の号令で、歩兵の背後から迫り。
「おい、武器を捨て、手を上げろ。」
驚いた歩兵は、何も言わず武器を捨て、手を上げたが、中には抵抗する兵は居
るが、その兵の反撃もむなしく、ホーガン矢が胸に刺さり、その場に倒れた。
「中隊長、完了です。」
「うん。」
中隊長は、一番大きなテントの中に入り。
「貴方は、この軍隊の総司令官ですか。」
男は、突然の事で少し慌てているが。
「帥は、何者じゃ、余は、国王なるぞ。」
「そうですか、国王ねぇ~、では、失礼、この人物が、国王と名乗ったので、手を後ろで括れ、足もだ。」
「はい。」
「一体、何をするのじゃ、余は。」
「おい、ガタガタ、言うなよ、静かにするんだ。」
兵士は、国王を縛り上げ、口には、猿轡をした。
「よ~し、歩兵達全員縛り上げ、木に括り付けて。」
「は~い、了解で~す。」
中隊の兵士達の手際のよさは素晴らしく、傍に居た、女性達は、一体、何が起
きたのかも理解出来ず、叫ぶ事も無く、静かに見守っている。
「皆さんは、この男に、一体、何をされる女性なのですか。」
中隊長は、優しく聞いた、だが、女性達は、何も言わず、身体が震えている。
「私は、此処から、約、10日ほど行った所に有ります、ロジェンタ帝国、第
5番大隊、第1中隊の中隊長です。
貴女方は、この国王と名乗った人物とは、どの様な関係が有るのでしょうか、
よろしければ、お話下さい。」
中隊長は、女性達が震えているのは、自分達が恐ろしく見えたのだろうと思っ
た、其れでも、女性達は、口を閉ざしている。
「私は、貴女方に危害を加えるなどとは考えておりませんので、何も、心配さ
れる事は有りませんよ。」
すると、要約、一人の女性が。
「あの~、私達は、これから、一体、どうなるのですか。」
「私は、ロジェンタ帝国皇帝の命令により、貴女方を救出に来たと思って下さ
い。」
「はい、わかりました、私達は、国では全員が農民の娘です。」
「やはり、そうでしたか、では、この国王と名乗った男は。」
「はい、でも、私達は、国王の顔は知りませんので。」
「其れは、当然でしょうねぇ~、でも、私達の皇帝は、誰でも知っているんで
すよ。」
「えっ、皇帝様を知っておられるのですか。」
「はい、でも、その話は何れの時に、その前に、少し聞きたいのですが、貴女
は、先程、この女性は全員が農家の娘さんだと言われましたが、では、男性の人
達は。」
「はい、此処の兵隊に引っ張られて行きました。」
「えっ、では、あの歩兵達は。」
「はい、全員が農民や、領民です。」
「これは、大変だ、誰か、司令官に伝令だ、歩兵の全員が農民だと、えっ、其
れでは、馬に乗った兵達は。」
「はい、あの人達は、国の軍隊です。」
「分かりました、今、聞いた事を直ぐに伝えてくれ。」
「はい、中隊長、自分が行きます。」
中隊長からの伝言を聞いた、伝令は馬に飛び乗り、大急ぎで、ロレンツ司令官
に伝えるべき向かった。
「私達は、歩兵が農民だとも知らずに攻撃をしております。
数人か、数十人は、大変、気の毒ですが、犠牲になられた思います、許して下
さい。」
中隊長は、女性達に頭を下げた。
「では、あの悲鳴が。」
「はい、我々の部隊が、投石器を逆走させ、その、いや、今は、其れ以上の話
は言えませんので。」
「では、私達の父や兄達が。」
「申し訳有りません。」
近くの女性達は、大変な衝撃を受け、肩を落とし、涙を流している。
だが、何れの日には、この様な事態を予想していたのだろうか、泣き叫ぶ様な
事も無かった。
中隊長は、暫く、何も言わず、女性達が落ち着くのを待っている。
「司令官、司令官。」
「君は。」
「はい、司令官、攻撃を中止して下さい。」
「えっ、何故ですか。」
「はい、歩兵は、全員農民です。」
「全員、攻撃を中止せよ、攻撃を中止せよ。」
「全員、攻撃中止だ。」
立て続けに指令が飛び、攻撃は中止され。
「歩兵は、農民って、本当ですか。」
「はい、中隊長が女性から聞かれ、歩兵の全員が農民だと。」
「では、騎馬兵は。」
「はい、奴らは、正規軍です。」
「やはり、そうだったのか、もっと、早く知っていれば、無駄な血を流さずに
済んだものを、う~ん。」
だが、其れは、仕方の無かった事で、歩兵と言えど、槍や剣で反撃すれば何も
せずには出来ない。
「其れで、今、中隊長は。」
「はい、国王と思われる人物は確保、女性達は助けました。」
「分かりました。」
ロレンツは、歩兵達に向かい。
「君達が、農民だと、今、分かりました、我々は、貴方方、農民を殺す事はし
ませんから、全員武器を捨てて下さい、全員、武器を捨てなさい。」
すると、歩兵達は、次々と武器を捨て、手を上げた。
「第1大隊は、武器のい回収、第2大隊は、騎馬兵の武器を回収に掛かれ。」
第1、第2大隊は、馬車で、騎馬兵と歩兵の武器の回収を行なうが、まだ、一
部の騎馬兵は武器を捨てず抵抗するのだが、農民では無く正規軍ならばと殺され
て行く。
「騎馬兵に告ぐ、無駄な抵抗せず、降伏しなさい。」
武器は無くても、其処は兵士で、数十ヶ所で騒いでいる。
「各中隊に告げる、奴らは正規軍です、抵抗するのであれば、容赦する必要は
有りませんからね、直ぐ、殺して下さい。」
ロレンツ司令官の命令は恐ろしく聞こえたのだろうか、直ぐ、抵抗は収まり。
「この中に、指揮官は居ると思うが。」
数人の指揮官と思われる士官が前に出て来た。
「貴官は、この部隊の。」
「私は、将軍で有る、全ての責任は、私に有る、部下は助けていただきた
い。」
「分かりました、生き残った騎馬兵に告ぐ、今、君達の将軍が、部下を許して
欲しいと言われたが、その前に全員その場に座って下さい。
君達の処分は、後程致しますのでね、其れと、農民さんは、全員、軍服を脱い
で、我々の方に来て下さい。
1番大隊は誘導して下さいね、此方に来られましたら、全員、座って下さい
ね、お話しを聞きたいのです。
君は、今から戻り、中隊長に、女性達を此方に連れて来る様に、其れと、国王
と思われる人物もです。」
「はい、了解しました。」
伝令は、又も、馬に飛び乗り、中隊長に、伝令として飛んで行く。
「司令官、歩兵は、30人ほどが犠牲になったと思われます。」
「そうでしたか、で、今は。」
「はい、全員を1ヶ所に。」
「分かりました、其れで、投石器は。」
「はい、全て、横倒しになっております、其れと、後方に、多分、軍の料理人
と思われます人達が、数十人、林の中から出て着ましたが。」
「はい、では、全員を農民さんのところへ案内して下さい。」
「はい、了解しました。」
農民の犠牲者は、30人ほどだと聞き、ロレンツは、一安心したので有る。
騎馬兵の殆んどは戦死し、馬も、数十頭が息絶えている。
農民達は、軍服を脱ぎ、全員が、司令官の前に座った。
「皆さんが、農民さんで有る事が先程分かりました。
我々は、農民さんを大切にする、ロジェンタ帝国の軍隊です。
其れで、皆さんにお聞きしたいのですが、よろしいえしょうか。」
すると、最前列に座った農民が。
「本当に、あんた達は、農民を大切にするんですか。」
「はい、其れは、間違い有りませんよ、我々の皇帝は、兵士は、農民を守る事
が任務で、決して、農民を殺したり、いじめては成らないと、常に申されておら
れますますからね。」
「いや、オレ達は、まだ、信用出来ないんだ、あの軍隊だって、最初は同じ様
に優しかったんだ、だけど。」
農民は、黙り込み下を向いた。
「そうでしたか、ですが、我々は、其の様な事は決して有りませんからね。」
その時、丁度、第1中隊が、女性達と、国王を連れ戻って着た、すると。
「父ちゃん。」
と、殆んどの女性達が馬車を飛び降り、父親達に向かって走り出し、其の様子
を見ていた農民達は涙を流した。
「良かった、良かった。」
「父ちゃん、あの兵隊さんが、私達を助けてくれたんだ。」
「本当か。」
「うん、本当だよ、だって、国王が。」
農民達の目の前には、猿轡をされ、両手は後ろで括られ、馬に乗せられている
国王の姿が。
「兵隊さん、あいつが。」
「中隊長、その男を降ろして下さい。」
「はい。」
中隊の兵士数人が、国王を馬から降ろし、司令官の下に連れて来た。
「貴殿が、国王ですか。」
猿轡をされた、国王は何も言えず。
「猿轡も取って下さい。」
猿轡を取ると。
「余は、国王なるぞ、その方達は、一体、何者なのじゃ。」
「我々は、この地に有る、ロジェンタ帝国の軍隊で有る。」
「ロジェンタ帝国とは、一体。」
「其の様な事は如何でもよろしいですよ、其れよりも、貴殿は、何故、これだ
け多くの農民さん達を連れて来られたのですか。」
「余は。」
この後、国王は、保身のための言い訳を始めた。
「兵隊さん、オラ達は、騙されたんですよ。」
「騙されたとは、どの様に。」
「はい、オラ達の村は、作物の出来が悪いんで、オラ達は、食べ物も無いん
だ。」
この農民は、涙を流しながら、今までの経緯を話し始めた。
「では、貴方方は、食べ物が有るから、軍隊に入れと言われたのですね。」
「はい、そうなんですよ、でも、全部嘘だったんですよ。」
やはり、司令官の思ったとおりであった。
「分かりました、では、この男を皆さんは、どの様に。」
「オラ達を苦しめたんだ、今まで、何千人も、この国王の命令で殺されたって
聞いたんだ、だから、今、直ぐにでも殺したいんだ。」
「分かりました、少し待ってて下さいね、我々の皇帝が、今、此方に向かわれ
ていると思いますので。」
「あの軍隊は、どうするんだ。」
「其れも、皆さんが心配される事は有りませんからね、私よりも、皇帝が、皆
さんの納得される処分を下されると思いますからね。」
「オラ達は、今でも、兵隊さんが信用出来ないんだ。」
「はい、そのお気持ちは、私も、よ~く、分かっておりますよ、そのために
も、今、直ぐにとは行きませんが、その前に。」
その時、付近の偵察に行った、中隊長が戻って着た。
中隊は、数百人の農民達を連れて戻って着た。
「司令官、農民さん達です。」
戻って着た、農民は、恐怖で身体は震えている。
「皆さん、もう、何も心配は有りませんからね、どうぞ、お仲間のところへ。」
数百人の農民は、表情も硬く、其れでも、仲間達なのだろうか、他の農民達
は、笑顔で迎えた。
「司令官、其れとですが、テントが有った林の向こう側に、物凄い数の牛
が。」
「えっ、牛ですか、で、一体、何頭くらいですか。」
「其れが、分からない程で。」
其処へ、数十人の農民が来て。
「あの~。」
「はい、如何されましたか。」
「はい、オラ達は、これから、どうなるんですか、また、何処かに行くんです
か。」
「何処かにと言われますと。」
「また、オラ達は、他の国に連れて行かれて戦争するんですか。」
農民達は、別の国で戦争を起こすものだと思っている。
「いいえ、我々は、戦争などには行きませんが。」
少し安心したのか、だが、まだ、表情は硬く。
「でも、あの国王も、はじめは、他の国と戦争はしないって言ってましたが、
そんなの全部嘘でしたので。」
「そうだったのですか、でも、我々は、戦争をするための軍隊では無く、農民
を守るための軍隊で、他の国が攻めて来れば別ですがねぇ~。」
「じゃ~、本当に、オラ達を助けてくれるんですか。」
「勿論、本当ですよ、其れよりも、皆さん、お食事は。」
「オラ達は、何も食べてませんよ、でも、さっきは、一体、何が起きたんです
か、オラ達も、何が、なんだか分かりませんので。」
「そうですか、でも、今は、食べ物が必要だと思いますが。」
「司令官、馬が、数百頭犠牲になっておりますが。」
今の、状況下で、食料の調達は無理だ。
「では、第2大隊は、馬を。」
「はい。」
第2大隊は、馬車、数十台で、死んだ馬の回収に向かい。
「でも、水が有りませんねぇ~。」
「あの~、水だったら、あの林の中に小川が流れてますが。」
「そうですか、では、皆さんも手伝って下さいね、林に入り、水と薪木を、其
れと、野営をしますので、焚き火の準備に入って下さい。」
「はい、分かりました。」
農夫達は、仲間の元に戻り、説明すると、殆んどの農民が林へと入って行く。
軍の料理人達も、食事の準備に入る、其処には、数千ものテントが張られ、野
営の準備も終わった頃、あの女性達が来た。
「あの~、隊長様。」
「はい、如何されましたか。」
「はい、怪我をされた人達ですが。」
「はい、あの人達を先にテントに収容しますが。」
「はい、其れで、あの人達を、私達で看病したいと思っているのですが、駄目
でしょうか。」
「其れは、大変、有りがたい話ですねぇ~、では、お願いしますね。」
「はい。」
「手の空いている兵士は、怪我人をテントの中に。」
数百人の兵士達が、怪我人をテントに収容すると、女性達は、テントの中に入
り、看病を始めた。
「司令官、これで、良かったんですよねぇ~。」
「そうですねぇ~、ですが、問題は、この後、どうなるかですよ、あの人達の
気持ちを聞かなければ成りませんのでね。」
「そうですねぇ~。」
ロレンツは、暫く考えていた、城からも近く、彼らが望むのであれば、この丘
陵地帯を開墾する事も可能で、だが、その前にする事が多く有り、一体、何か
ら、手を付けてよいのか分からない。
今日、開放された農民の数だけでも、ロジェンタ帝国の農民の数を上回る。
農民達は食事も終わり、ようやくと言ってもよい程、安堵するので有る。
其の頃、ロシュエ達も、最後の野営に入り、明日の早朝に出発する準備も終わ
り、ロシュエ達は、早くも眠りに入っている。
そして、明くる日の早朝、ロシュエ達は出発した。
「司令官、陛下は、来られるでしょうか。」
「私は、間違い無く来られると思いますよ、其れも、今日の昼前頃には。
ロレンツは、ロシュエの事だ、今回だけは、どんな事が有っても来ると、ロシ
ュエとは、其の様な人物なのだと。
「はい、では、小隊を向かわせましょうか。」
「そうですねぇ~、では、お願いしましょうか。」
第1大隊の、第2小隊は、ロシュエ達を出迎えに向かった。
ロシュエ達が、出発して数時間後。
「陛下、あれは、第2大隊の。」
「お~、そうだよ、何か有ったのかなぁ~。」
第2小隊の兵士達は、手を振り近付いて来る。
「お~、君達か。」
「はい、陛下、お待ちしておりました。」
「えっ、何で、分かったんだよ~。」
「はい、司令官が、陛下の事だ、今回は、どんな事が有っても、来られる
と。」
「やはりなぁ~、ロレンツの野郎、オレの頭の中を読みやがったな。」
だが、ロシュエは、笑っている。
「じゃ~よ~、案内してくれるか。」
「はい、では、自分達が先頭で行きますので。」
「よ~し、オレ達は、後ろから行くぜ。」
小隊は、小走りで馬を進め、ロシュエ達も同じ様に進み、其れは、ロレンツの
思ったとおり、昼前に到着した。
「陛下、お待ちしておりました。」
「ロレンツ司令官、大変、ご苦労だったなぁ~、だがよ~、もう終わったの
か。」
「はい、実に簡単に終わりました。」
「分かった、で、あの木に縛られている男は。」
「はい、彼は、国王だと名乗っておりますが。」
「そうか、じゃ~、少し話しでもするか。」
「はい、私も。」
「だがよ~、これは大勢だなぁ~、全員が農民なのか。」
「はい、その通りで、私も、驚きましたよ、歩兵の全員ですから。」
「じゃ~、正規軍は。」
「はい、騎馬兵だけです。」
「その騎馬兵は。」
「はい、この丘を越えたところに。」
「そうか、其れは、後にしてだ。」
話の途中に、国王を名乗る人物が縛られているところに着き。
「あんたかよ~、国王ってのは。」
「余が、国王で有る、その方は、一体、何者じゃ、国王に対して、失礼では無
いか。」
「なぁ~、あんた、本当に国王なのかよ~、オレは、ロジェンタ帝国の皇帝な
んだがよ~。」
「何、そちが、皇帝で有ると、其れは、何かの間違いでは無いのか、皇帝たる
者が、其の様な狼の毛皮を着ているとは。」
「おい、おい、オレが、何を着ようと、オレの勝手だ、其れよりもだ、あんた
は、何故、これだけ多くの農民さんを連れて来たんだ、国では、一体、誰が、畑
を耕しているんだ。」
「余が、説明する必要は無い、其れよりも、余を縛っておる、このロープを解
け。」
「あんた、何を言いたいんだよ~、じゃ~、聞くが、オレ達の帝国を攻撃し、
食料を奪う作戦だったのか。」
「其れが、一体、どうしたと言うのじゃ、今まで、数十の国を滅ぼし、食料
を、我が国に持ち帰っておるわ。」
ロシュエと、国王のやり取りは農民達も聞いている。
「ねぇ~、兵隊さん、あの毛皮を着た人は。」
「あ~、あの方が、我々、ロジェンタ帝国の皇帝で、何時もは、あの狼の毛皮
を着ておられませんよ、何時もはねぇ~、農民さんの作業服、其れも、ボロボロ
になった物を着られているんですよ。」
「兵隊さん、そんな大嘘の話、一体、誰が信用すると思いますか、オラ達の服
を着ている、皇帝なんて。」
「まぁ~、其れは、何れ分かりますよ、其れよりも、皇帝陛下は、恐ろしい人
ですよ。」
「えっ、本当に。」
「ええ、まぁ~、見てて下さいよ、その内に分かりますからね。」
「おい、国王とか言ったなぁ~、お前は、農民さんを、どの様に見ているん
だ。」
「何、農民だと、農民などは虫けらで有る、幾らでも居るわ、余は、農民が、
生きようが、死のうが、余の感知する事では無いわ。」
「何だと、この野郎、お前が食べる物は全て、農民さんが、一生懸命に育てた
物ばかりなんだぜ、その農民さんを虫けらだと、お~い、司令官、こんな野郎の
顔などは見たくも無いぜ、早く、部下のところへ送り届けてやれよ、正しだ、歩
いてなぁ~。」
「はい、了解しました、誰か、その男を解放して下さい。」
「何、余を開放するのか。」
「当たり前だ、お前の様な奴は、人間じゃない、人間の皮を被った、狼だ、お
~、これは、狼に失礼だ、お前は、狼以下だ、何処にでも行け。」
国王は、解放されたと思い、喜んで、丘を転がり落ちる様にして下って行った。
「兵隊さん、あれじゃ~。」
「な~に、心配は要りませんよ、だって、馬も有りませんし、まぁ~、その
内、狼の餌食に成りますからねぇ~。」
兵士は、知っている、例え、開放されても、この先、果たして、何日、生きて
いるのだろうかと。
「で、司令官、騎馬兵は。」
「はい、半分以上は、殺しましたが、まだ、生き残りが、相当数おりますの
で。」
「今は、どうなってるんだ。」
「はい、おの丘の向こうに居ると思いますが、昨夜も悲鳴が聞こえておりまし
たので。」
「よ~し、其れで、いいんだ、後は、狼に任せてだ、司令官、これだけの農民
さんだ、一体、どうするんだ。」
「はい、其れを相談しようと思っておりました。」
「そうか、さすがの、ロレンツでも、今回ばかりは考え付かないのか。」
「はい、騎馬兵の処分は問題無かったのですが、農民さんの人数が、思った以
上に多くで。」
その時、数十人の農民が、ロシュエの下に来た。
「あの~。」
「お~、あんた達か。」
農民は、一瞬、驚いた、其れは、余りにも砕けた口調のためで。
「はい、さっき、兵隊さんに聞いたんですが、皇帝陛下様で。」
「おい、おい、その様ってのはよ~、止めてくれよ、オレが、その皇帝陛下様
って顔かよ~。」
傍では、将軍も、司令官も笑い、ロシュエの口調は、誰が聞いたとしても、皇
帝の口調では無い。
「陛下、其の様に申されましても、農民さん達は返事のしようが御座いません
ので、皆さん、間違い無く、我々、ロジェンタ帝国の皇帝陛下で、御座います
よ、正し、言葉使いは、何時も、この様ですのでね、別に驚かれる事は有りませ
んからね。」
将軍は、農民達に優しく話すので有る。
「お~、みんな、済まんよ~、でだ、オレに、何か用事でも有るのか。」
「はい、陛下様、一体、オラ達は、どうなるんですか、此処で、あの国王の様に、狼の。」
「いゃ~、そんな事は無いぜ、司令官、何か話したのか。」
「はい、実は。」
司令官は、昨日から報告と、農民達の話をした。
「そうか、で、あんた達は、どうしたいんだ。」
「はい、オラ達は、故郷に、かあちゃんや、子供達を残して来たんで。」
「そうか、そうだよなぁ~、恋しいかあちゃんと、子供が居るんだ、じゃ~、
みんな、故郷に帰りたいんだなぁ~。」
「いいえ、陛下様、其れが、オラ達は、此処で。」
「え~、其れは、この地で生きて行きたいって事なのか。」
「はい、でも、かあちゃんや、子供達が、今、どうなってるのか、分からない
で、一度、故郷に。」
「そりゃ~、オレは、別に反対はしないが、全員が行ってと成ると、そりゃ
~、大変だぜ。」
「はい、其れは。」
この農夫は、下を向いてしまった。
「陛下、其れで、私は。」
「オレは、ロレンツの考えてる事は分かってるよ~、だがよ~、全員じゃ~、
とても無理だぜ。」
「はい、勿論、承知しておりますので、私は、各村で、二人くらいを選び、そ
の人達の村へ。」
「よ~し、分かったよ~、お前の考えたとおりに任せる、で、一体、何ヶ村有
るんだ。」
「はい、百ヶ村かと。」
「何だって、百ヶ村も有るのか、そりゃ~、大変だぜ、二人としても、二百人
だぜ、あっ、分かったよ~、で、他に必要な物は手配するんだろう。」
「はい。」
「だがよ~、大変な道のりだぜ。」
「はい、ですが。」
「ロレンツ、オレが、同じ立場ならよ~、まぁ~、お前と、一緒の行動を起こ
すからよ~、でだ、残った人達は、将軍に任せるが、どうだ。」
「はい、陛下、私は、喜んで、させて頂きます。」
「陛下、その前に、私の独断で、攻撃したのですが、許され無い事を。」
「うん、だがよ~、其れは、仕方の無い事なんだ、その時は、歩兵が農民さん
だって知らなかったんだろうから。」
傍に居る、農民達は、驚いている、ロレンツ司令官が、全部を話すか、話さな
いうちに、皇帝が理解している。
「あの~、陛下様、何で、分かるんでしょうか。」
「今の話か、そんな事は直ぐに分かるんだ、オレ達はよ~、何も、全てを話さ
なかったとしてもだよ、其れを理解するのが、オレの仕事なんだからよ~。」
「はい。」
「で、司令官、準備の方は。」
「はい、全て、終わっており、後は、火を。」
「よ~し、各隊員に集合命令だ。」
「はい。」
ロレンツは、シェノバー隊長に命令を出した。
兵士達の動きは早く、全員が集合するのに、さほど、時間は掛からなかった。
「農民さんも、揃ったのか。」
「はい。」
「じゃ~、司令官、頼むぜ。」
「農民さん達も、兵士の全員も聞いて下さい。」
ロレンツ司令官は、少しの時間話をし、その後。
「では、皆さんで、点火して上げて下さい。」
農夫、数百人が、点火すると。
「兵士は全員、戦死された農民に対し、敬礼。」
ロレンツ司令官の号令で、ロシュエをはじめ、兵士全員が、火葬にされる戦士
に対し、敬礼をした。
そして、火葬も無事に終わった数日後。
「ロレンツ司令官、君は、1番大隊、狼犬部隊と、農民さんの代表を連れ、彼
らの故郷に向かい、残された家族を無事に救出し、この地に連れ帰る任務を命
ず。」
「将軍、了解しました、準備完了次第出発します。」
「よ~し、ロレンツ、大変、厳しい任務だが、農民さんを頼むぜ。」
「はい、私は、どんな苦労をしても、必ず、農民さんを連れ戻って来ます。」
その日から、ロレンツ司令官、第1番大隊、狼犬部隊に対し、準備開始を指示した。
ロレンツは、片道、百日、往復、二百日以上掛かる、大救出作戦に向け、大量
の物資を馬車、荷馬車、数百台に積み込み、5日後には出発した。
「将軍、ロレンツ司令官って、奴は、オレ以上に頑固者だぜ、だがよ~、この
大救出作戦は、ロレンツ以外には考えられないんだ。」
「陛下、私も、他の隊長達も、今回の救出作戦は、大変だと認識しており、ロ
レンツ司令官ならば、必ず、成功させてくれると信じております。」
「まぁ~、あいつの事だ、オレは、其れよりもだ、此処に残った人達にだよ、
ロレンツが戻って来るまでに、農場と牧場を造りたいんだ。」
「やはりでしたか、私も、大賛成ですし、其れで、これの総指揮官を、私
が。」
「何で、将軍なんだよ~。」
「はい、ロレンツ司令官は、農民さんの救出に、其れに、残った農民さんのた
めには、私が、先頭に立たなければ成りませんので。」
将軍は、ロシュエが言う前に先制攻撃をした。
「其れは、オレに対する、先制攻撃かよ~。」
ロシュエも、笑っている、ウエスの軍を滅ぼし、1番から、5番までの農場も
軌道に乗り出し、そして、今回の戦でも、敵軍は、完全と言ってもよい程に壊滅
させ、将軍は、今回の戦でも、前戦に出して貰えず、不満が残っているだろう、
と、ロシュエは考えた。
「分かったよ~、将軍は、最初から、そのつもりだったんだろうからなぁ
~。」
「はい、誠に、申し訳、御座いません。
ロレンツ司令官の、あっ、そうでした、陛下、申し訳、御座いません、私は、
大変な事を報告するのを忘れておりました。」
「どうしたんだ、突然に。」
「はい、先日の話の中で、あの農民達は、百ヶ所も村が有ると言われておりま
したので、1番大隊だけでは若しやと思いましたので。」
「うん、分かってるよ、フランドにも行かせたんだろうよ。」
「えっ、何故、ご存知なのですか。」
「そんな事ぐらい分からなくて、一体、どうするんだ、残ってる農民の人数か
ら考えたって、シェノバーの大隊で十分じゃ無いとは分かってたんだ、で、オレ
が、先に伝令を飛ばしたんだよ~。」
「申し訳、御座いません、私が。」
「いいんだ、だってよ~、何も、将軍の責任じゃ無いんだ、そうだなぁ~、一
日か、二日後には合流すると思うんだがなぁ~。」
「其れは。」
「うん、ロレンツは、多分知らないと思うんだ、あれだけの人数だ、城の森を
越えれば合流だ、将軍、其れよりもだ、此処に、木こりさんと、大工部隊全員を
送り込むんだろう。」
「はい、私も、先日、伝令をだしましたので、この数日の内には大集合すると
思いますので。」
「なぁ~んだ、もう手配済みってのかよ~。」
「はい、申し訳、御座いません。」
「じゃ~よ~、此処の守備隊は、オーレンに任せるのか。」
「はい、最初から、第2大隊が参加しており、農民さんも知っていると思いま
すから。」
「なぁ~んだ、全て終わりか、じゃ~、オレは、戻るからよ~、後の事は、よ
ろしく頼むぜ。」
「はい、お任せを。」
「其れにしても、将軍、嬉しそうだなぁ~。」
「正か、私がですか、其の様に見えますか。」
「当たり前だよ、顔は嬉しさで溢れてるぜ、じゃ~なぁ~。」
ロシュエは、大笑いしながら戻って行く。
「オーレン隊長、これからは大変ですが、よろしく、頼みますよ。」
「はい、将軍、勿論です、其れで、我々の前戦基地を設営しようと思うので
すが。」
「そうですねぇ~、この場所でも、ですが、其の前にですねぇ~、農民の代表
を選んでいただけますか。」
「そうでした、私も、忘れておりました、では、早速、農民さんに説明してい
ただけますか、私は、あの林を少し調べたいのです。」
「分かりましたよ、水の確保ですね。」
「はい。」
オーレン隊長は、第1中隊を連れ、林の中へと向かい、将軍が、居る付近に
は、数百人の農民が居る。
「皆さん、よろしいですか。」
農民達は、少し驚いている。
「あの~、オラ達は。」
「はい、これからの事に付いて、皆さんにお話しが有りますので。」
その後、将軍は、数百人の農民に説明し、其れは、これから作る、農場の話を
含めてで。
「はい、分かりました、じゃ~、みんなで、手分けして全員に話しますので、
少しだけ時間が欲しいんですが。」
「よろしいですよ、我々にも準備が有りますので、直ぐにとはと申しません
が、出来るだけ早くお願いしますね。」
「はい。」
数百人の農民は、手分けし、説明に向かい、丁度、オーレン隊長が戻って着
た。
「将軍、この小川ですが、あの大きな川が分岐し、此処まで流れて来たと思い
ますねぇ~。」
「私も、其の様に思いますが、其れよりも、この林付近には、農場造りの前戦
基地が出来ないかと考えているのですが。」
「じゃ~、大木を切り出すのですか。」
「この森の大木を切り出し、木造の城壁を造りたいと考えているのですが。」
「隊長、今度の農場造りは、大規模な工事になるのでしょうねぇ~。」
「はい、其れは、間違いは有りません。
あれだけの人数もですが、牛も、数千頭いると聞いておりますので、放牧場も
必要になりますから。」
「じゃ~、木こりさんと、大工部隊の全員で取り掛かり、みんなも、大変です
が、最初の柵が完成すれば、農民さんも、少しは安心して、次の作業に入ると思
いますので、其れまでは、我々が、警戒する事に。」
「はい、私からも、各中隊長と、小隊長に説明します。」
「隊長、よろしく、頼みます。」
林の中を流れる小川があれば、水の確保は出来る、だが、本格的な工事に入る
までは、まだ、数日、いや、数十日は掛かるだろうと、オーレン隊長は思った。
一方、ロシュエは、のんびりと城へと向かいながら考えていた。
城には、元警備隊が居る、警備隊も、この農場の警戒任務に就かせようと考え
ていた。
今回の戦では、ロレンツ司令官は完全勝利を収め、犠牲者も出なかった。
大きな戦も終わり、今、農場には、第4番と、第5番大隊だけとなった。
ロレンツ司令官と、第1、第3番大隊が戻って来るまでは、早くて、二百日、
遅くなれば、30日か、40日は余分に掛かるだろう、其れまでには、農場は完
成するだろうか、問題は、新しい農場が軌道に乗るまでの食料で、一体、どれだ
けの食料が必要なのかも分からないので有る。
城で、管理保管されている小麦がどれだけ有るのかも知る必要が、ロシュエの
悩みは尽きる事が無いと、色々と考えていると、前方から城の警備隊がやって来
た。
「陛下。」
「お~、君か、城で何か有ったのか。」
「いいえ、何も有りませんが、リッキー隊長が、様子を見に行く様にと。」
「そうか、今は、何も無いが、これからが大変なんだ。」
「はい、リッキー隊長も、同じ様に言われておられ、其れで、私達に、そのま
ま、大隊に合流しても良いと。」
「そうか、其れは、大助かりだ、オレも、君達に行って欲しいと、リッキー隊
長に頼むつもりだったんだ。」
「はい、其れで、城から大量にとは無理ですが、荷車に食料を積み、向かうところでした。」
「其れは、嬉しいんだが、大丈夫なのか。」
「はい、マッキーシー管理官が計算されましたので、大丈夫だと思います。」
「そうか、じゃ~、よろしく、頼むぜ、現場には、将軍が居るからよ~、これ
からは、将軍の指示で動いてくれ。」
「はい、了解しました、では、行きますので。」
「済まんが、頼むぜ。」
キムラッチを中隊長とする、元城の警備隊は数台の荷馬車に小麦を思われる大
きな袋を積んでいる。
「オーレン隊長、今、どれ程の食料が残っているのか、早急に点検して下さい。
城からは出す事は出来ないと考えて下さいね。」
「はい、大至急点検します。」
これだけ大勢居ると、どれだけの食料がと言うよりも、穀物が残っているか、
其れが、大問題で、隊長は、1個中隊を、当時、敵軍が野営をしていた場所に向
かわせ、其れから数時間が過ぎた頃、農民達、数百人が、将軍の下に来た。
「あの~、将軍様。」
「貴方方ですか、どうぞ、座って下さい。」
将軍達も、野外に居るため、農民達も草の上に座った。
「其れで、決まった様ですねぇ~。」
「はい、オラ達が、一応、農民の代表と言う事になったんですが、一体、何を
すればよろしいんですか。」
農民が聞くのも無理は無かった、確かに、今までの軍隊と大違いで、開放され
た安堵感とは別に、今度は、農民の中から代表を選べと言われ、何も分からず
に、代表、数百人が選ばれたので有る。
「では、皆さんにお話しをしますが、皆さんは、代表と言っても、何も無理な
お願いをするのでは有りません。
皆さんの仕事は、皆さんの仲間の意見を、私達に伝えていただきたい、其れ
と、私達が、お願いする事を、今度は、仲間の人達に伝えて欲しいと、其れだけ
なんですよ。」
「じゃ~、オラ達がお願いする事もですか。」
「勿論、其の通りですよ、私は、本来ならば、皆さん、全員のお話を聞かせて
いただくのが任務ですが、これだけの人数、全員から、全てを聞く事は、はっき
りと申しますが、不可能です。
其処で、皆さんが、仲間から話された事柄を、私達に伝えていただければ、其
れでよろしいのですよ。」
「将軍様、オラ達だって、全員の話を聞く事は無理ですよ。」
「では、簡単な話をしますが、例えばですよ、此処に農場を造るとしましょ
か、じゃ~、最初、皆さんは、何が、必要だと思いますか。」
「えっ、将軍様、そんな事急に言われても、オラ達は農民ですよ、何が、必要
かって言われても、畑を作る道具が要りますが。」
「その通りなんですよ。」
「えっ、じゃ~、将軍様は、オラ達が使う道具が要るって事なんですか。」
「はい、でもね、其れは、後からの話なんですよ、皆さんは、昨日まで、夜に
なると、何か聞こえてきませんでしたでしょうか。」
「あっ。」
「そうですよ、狼ですよ、皆さんが、最初に必要な物と言えば、狼から、仲間
を守る大きく、頑丈な柵です。
我々の帝国には木造の城壁が有りましてね、狼の攻撃を防いでおりますよ。」
「じゃ~、オラ達が、その木造の城壁を造るんですか、将軍様、そんなの、オ
ラ達には無理ですよ、だって、あんな大きな木を切り出す事なんて。」
彼らの言う事に無理は無い、だが、今の農場を造り上げたのも、農民達で有
る。
「勿論、皆さんの気持ちは分かりますよ、ですがね、この土地でも、他の土地
でも、狼の大群はいるんですよ、私達の農場でも、農民さん達が造られたんです
から、皆さんに出来ない事は有りません。
其れとですが、後、数日のすれば、木こりさんと、大工部隊が此処に集まって
きますかね、大丈夫ですよ。」
「将軍様、木こりさんや、大工さんって、一体、何人くらいなんですか。」
「そうですねぇ~、数千人は居ると思いますよ。」
木こりと、大工だけで、数千人と聞き、農民達は、大変な驚きで。
「将軍様、オラ達は、今の話をみんなに言うんですか。」
「はい、その通りですよ、皆さん、全員が協力すれば直ぐに完成しますよ、最
初に造るのは、皆さんを守るための城壁ですから、其れが完成すれば、狼からの
攻撃も無くなり、安心して夜も眠る事が出来ますが、どうされますか、この土地
でも、他の土地でも狼はおりますからね、ですがね、この土地ならば、我々も居
りますし、木こりや大工も居りますよ、でも、他の土地に行けば、居られないと
思いますので。」
「将軍様、少し待って下さい。」
彼らは、数十人づつが集まり、話し合いをしている。
「なぁ~、オラは、将軍様の言うとおりだと思うんだ。」
「うん、オラも、同じだ、其れに、皇帝陛下様も、オラ達を守って下さるっ
て、言って下さったんだ、オラは、此処に残って、農場を造りたいんだ。」
「うん、そうだ、オラの娘も助けて下さったんだ、他に行っても、大工さん
や、木こりさん達も誰もいないんだ、オラも、此処で農場を造るよ。」
この様な話し合いが数十ヶ所で行なわれ、やがて。
「将軍様、オラ達は、今から、みんなに話をしますよ、だから、少しだけ待っ
て欲しいんですが。」
「はい、よろしいですよ、お待ちしておりますからね。」
数百人の農民達は、仲間の元へと走って行き、その時、助けた女性達が来た。
「あの~、将軍様、お忙しい時によろしいでしょうか。」
「はい、よろしいですよ。」
彼女達は、国王の下で、何をされたのか分からないが、農民達の娘だと言った
が、言葉使いは農民では無い。
「実は、食料の事で、お話しが有るのですが。」
「大変、申し訳ないですねぇ~、我々も、食料をどの様に調達するかを考えて
おりましてね。」
「いいえ、そうでは有りません。」
「えっ、でも、此処には食料の穀物が有りませんので。」
「はい、その穀物ですが、実は、隠して有るのです。」
「えっ、其れは本当ですか。」
何と言う事だ、穀物を隠して有るとは、だが、一体、何処に有るのだ、其れ
に、どれ程有るのか、将軍は、付近を調べさせたが、何処にも隠せる場所も無い
はずだ。
「ですが、どの辺りに隠されていたのですか、我々が、調べても、穀物を隠せ
る様な場所も無いと聞いて居りますが。」
「其れが、私達が居ました、テントの近くに林が有り、その林の中に、荷車に
積んだ状態で。」
「荷車に積んだ状態と、でも、何故ですか。」
「はい、実は、あの数日後には、移動の予定でしたので、道具類も全て、荷車
と馬車に積み込んだんです。」
「分かりましたが、一体、何台くらい有るのですか。」
「私も、何台有るのか知りませんが、数百台は有ると思いますが。」
「数百台って、ですが、どの様にして移動させるのですか。」
「はい、全て、馬を使っています。」
「でも、馬と言っても、騎馬兵と、その他、えっ、あっ、そうか、あの投石器
を引いていた馬を。」
「はい、普段、移動する時には、荷車と、馬車を引いていますが、丘を登る時
には、馬で引きますので。」
「そうですか、其れは、助かりましたよ、ですが、馬の大半は、我々の放牧場
に移動させましたので、では、数日の内に、馬を取りに向かいますからね。」
「はい、有難う、御座います、私が、早く言えばよかったのですが、あの時は
慌てていましたので、すっかり、忘れていました、申し訳有りませんでした。」
「いいえ、貴女に責任は有りませんよ、でも、良かったですよ。」
「其れで、将軍様、私達は、これから、食事を作りたいと思いまして。」
「其れは、助かりますよ、我々の事よりも、農民さんの食事を最優先にして下
さいね。」
「でも、あの国王の時は、国王が、一番で、次に、騎馬隊で、最後に、私達の
父親が居りました兵隊でした。」
「其れはね、過去の話ですよ、我々の皇帝は、農民さんが、最優先で、次に、
現場の兵士、そして、最後の残り物が皇帝なのですよ。」
「えっ、そんな事が許されるのですか。」
彼女は、大変な驚き様で。
「はい、私は、何時も最後でしたからね、其れが、我々、ロジェンタ帝国と言
う国なんですよ、ですからね、何も、心配されずに、農民さんを、一番に、私
と、隊長は、最後に残れば頂ますのでね。」
他の女性達も、大変な驚きで、其れは、今までとは、全く、別の世界の様に感
じたのだろう、何事も、農民が一番だとは、今でも考えられないだろう。
将軍は、問題の一つは解決したと、その数日後から、本格的な農場建設に向け
た工事に入る事になった。