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闇の帝国    作者: 大和 武
23/288

 第 23 話。  司令官の策略とは。

「小隊長、奴らは、果たして、攻めてくるんでしょうか。」


 「う~ん、其れを、私も、今、考えているんですがね、其れよりも、今回の任


務は非常に重要ですよ。」


 「はい、其れは、みんなも心得ております。


 陛下も、決断されるのが、大変ではないでしょうか。」


 「少し、休憩にしましょうか、全体、止まれ。」


 小隊は、昼、少し前だが、早めの休憩を取り、小隊長は、改めて、今回の任務


の重要性を部下達に話し、小隊の、兵士達も当然の如く知っている。


 その時。


 「小隊長、あの丘から、あれは、多分、敵方の偵察隊では無いでしょうか。」


 「みんな、林の中に入れ。」


 小隊は、急ぎ、林の中に入り様子を見ると。


 「みんな、聞いてくれ、あれは、敵の偵察隊だと思いますので、一応、様子を


見ますが、我々の帝国方向に向かうのであれば、後ろから。奇襲攻撃を掛けます


からね。」


 小隊長の判断が正しいのか、其れは、敵軍の偵察隊が、向かう方向によると。


 「小隊長、10名ですよ。」


 敵軍と思われる偵察隊はゆっくりと丘を下り、森の近くまで来のが、森に入る


気配さえ見せる事も無く、森からは離れたところを進んで行く。


 問題は、その先で、そのまま進むと、城の正面に出るが、右に反れると、林に


入る、さぁ~、一体、どちらの方向に行くのだ。


 「全員、乗馬、我々は、林の中を進む。」


 林を抜けると、森に入る。


 「小隊長、奴らは、一体、何処に向かうのでしょうか。」


 「林の中には入れば見逃しますが、そのまま直進するのであれば、攻撃する、


全員、準備だけは。」


 兵士達は、既に、何時でも、攻撃可能な状態に入っている。


 其処から、城まではまだ遠く、発見される事は無いのだが。


 「あれ~、林の中に入って行きますが。」


 「よ~し、全員、そのままで進む。」


 林を抜けて、再び、森の中に入り、そして、森を抜けると目前に城が見える。


 「あの方向だと、城の方に向かっていますねぇ~、あと少し様子を見ますが、


攻撃は、一斉に行きますからね、其れと、一人でも生かして帰らせる事の無い様


に、全員、殺しますからねぇ~。」


 「小隊長、奴らは、既に、帝国の存在を知ってますかねぇ~。」


 「うん、あの動きで分かりましたよ、全員、そのままで攻撃しますからね。」


 小隊長の決断は早く。


 「よ~い、一斉攻撃開始。」


 小隊の兵士全員が、ホーガン矢を放つと、敵の兵士は、草原に出た、その直


後、森の中からホーガン矢が兵士の背後から飛んで来、兵士は、声を上げる事も


無く、落馬し、そのまま死んだ。


 ホーガン矢は、兵士の後頭部から顔面に突き出、小隊の兵士は死亡を確認する


と、ホーガン矢を抜き、小隊へと戻って行く。


 「小隊長、終わりました、死亡も確認しました。」


 「そうですか、ご苦労様でした。」


 「で、奴らは全員、殺したんですか。」


 「いゃ~、一人は生きていますので、今から、聞き出すところです。」


 敵の兵士は、肩に矢が刺さってはいるが、命に別状は無い。


 「君達は、我々の帝国に対し、攻撃をするのか。」


 兵士は、痛みを堪えてはいるが、何も言わない。


 「そうか、何も言いたくは無いか、話の都合によっては、命を助ける事も出来


るんだが、何も、話す気が無いのであれば、仕方が有りません、此処の狼の餌に


なるんですねぇ~。」


 「え~、狼の餌って。」


 「貴方は、この付近に狼の大群が生息しているのを知っていると思いますがね


ぇ~。」


 「あ~、勿論、知っているから、森を避けてるんだ。」


 「だけど、我々は、狼の大群が何処にいるのかも知っているんでねぇ~。」


 「分かったよ~、何でも言うから、狼の餌にだけは許してくれ。」


 やはり、この兵士も、命だけは惜しいのだろう。


 「じゃ~、聞きますが、君達は、これから何処に行くつもりなんですか。」


 「この付近に巨大な帝国が有ると、噂で聞いたんだ。」


 「へぇ~、噂ですか、じゃ~、その帝国に攻撃を掛けるつもりなんですか。」


 「ああ、我々の国王の命令で。」


 「では、君達は、一体、何処から来たんですか。」


 「我々は、此処から北に50日ほど行ったところに帝国が有る、その帝国から


来たんだ。」


 「では、軍勢は。」


 「5万人だ。」


 「お~、5万人ですか、では、我々の帝国を攻撃する事は止める事ですよ。」


 「えっ、何故なんだ。」


 「だって、君達の軍が、5万でしょう、我々は、10万人以上で、其れも、全


員が精鋭揃いの部隊で、既に、君達の動きは、10日以上前から知っているんで


すよ。」


 「えっ、10日も前からって事は。」


 「そうですよ、林の中で野営をした事も、全て知っていますからねぇ~。」


 「何で、そんな前から知っているんだ。」


 「君は、何か、勘違いをしておりませんか、質問をするのは、私で有り、君


は、答えるだけですよ。」


 「分かったよ~。」


 「では、私も、初めて見たんですがね、あの巨大な物は一体、何ですか。」


 「あれは、投石器で、人間の頭くらいの岩を、百ヒロは飛ばす事が出来るんだ


よ~。」


 「ふ~ん、僅か、百ヒロですか、では、君達は全員死にますねぇ~。」


 「何故、我々が全員死ぬんだ、10基の投石器で岩石が百ヒロも飛べば、城壁


は簡単に壊す事が出来るんだ。」


 「では、試して頂いてもよろしいですが、まぁ~、その前に全員が死ぬ事にな


りますからね。」


 「我々の軍隊は最強なんだ、弓隊が、3万で、精鋭の騎馬軍団が、2万も居る


んだから。」


 「そうですか、分かりましたよ、まぁ~、君は、生きて隊の戻る事は出来ます


が、死んだ兵士は、狼や、猪の餌になりますからねぇ~、其れと、忘れておりま


したが、この両方の森には、数千頭の狼と、我々の5万が、君達が来るのを待っ


ておりますのでね、何時でも来て下さいよ。」


 「ふん、たかが、5万か。」


 「其れと、その投石器は、一体、誰が動かせているのですか。」


 「決まった事だ、馬だ。」


 「じゃ~、先頭の馬を殺せば、投石器は止まると言う事なんですね。」


 小隊長は、上手に聞き出しているが、この兵士を本当に帰すのだろうか。


 「弓隊が、3万ですか。」


 「そうだ、弓隊は、これも精鋭で、百ヒロは飛ばす事が出来るんだ、我々と戦


って勝つ事は不可能だ。」


 「そうですか、では、最初は騎馬軍団で、次が、投石器、最後に歩兵と言う事


ですねぇ~。」


 「そうだよ、其れが、我々の強さなんだ。」


 「誰か、この兵士の矢を抜いて下さい。」


 ホーガン矢を強引に抜くと、兵士は、大きな声で叫び。


 「何で、途中で矢を折らないんだ。」


 「あ~、この矢ですか、次のために残すんですよ、だって、次は、君の頭に突


き刺せるためにね。」


 「えっ、では、本当に帰してくれるのか。」


 「勿論ですよ、それでね、貴方の上官に伝えて下さいね、あの森の先に有る巨


大帝国には近付くなってね。」


 「我々は、今までの戦で負けた事が無いんだ、其れが、何故なんだ。」


 「君は、まだ分かっていませんねぇ~、この森の狼の大群は、我々には襲い掛


かる事は無いからね。」


 「えっ、狼から襲われないって、一体。」


 「簡単な話しですよ、だってねぇ~、此処の狼はとは友達なんですからね、ま


ぁ~、友達と言うよりも、我々が恐ろしいと思いますよ、今も、この周りには、


数十頭の狼が、待っているんですよ、我々が、居なくなるのをね。」


 「えっ、そんな近くに狼の大群がいるなんて。」


 「本当ですよ、何でしたら、君を、このままにして、我々は、引き上げると直


ぐに狼が来ますよ。」


 「いゃ~、そんな話し、誰が信じるものか。」


 「じゃ~、少し離れた君の仲間を見て下さい。」


 「あっ。」


 兵士は驚いた、死んだ兵士の周りには、早くも数頭の狼が死体を食べている。


 「頼む、助けてくれ、何でも言うから、お願いだ。」


 「では、馬に乗りなさい。」


 兵士の顔は青ざめている、仲間の死体を狼が食べているのを見たのだ。


 「頼むから、早く、何処かに行ってくれ。」


 兵士も、必死に叫んでいる。


 「分かりましたか、我々を襲う事も無く、君の仲間の死体を食べているんです


よ、まぁ~、其れでも、来ると言うのであれば、森を通らずに来る事ですよ、狼


が、数万頭、貴方をお待ちしていますからね、其れと、後、何日くらい


で、この付近に来るのですか。」


 「いゃ~、其れは、分からないんだ、この付近は、丘が多いから、簡単には進


む事が出来ないんだ。」


 「では、20日から30日後って言う事ですね。」


 「本当なんだ、オレは、其れ以上、詳しい事は、何も知らないんだ。」


 「では、帰ってもいいですよ、我々の事を話してもいいですからね。」


 「いや、オレは、何も言わないよ、言ったら、直ぐ死刑になるんだ。」


 「じゃ~、何も言わないでも、よろしいですが、君が、生き残った理由はどの


様に説明するのですか。」


 「そんなの簡単だ、オレは、死んだ振りをして、敵が、帰ってから、馬に乗っ


て帰ったと言えば、信用するんだ。」


 「まぁ~、君は、次には死体になりますからね。」


 「え~。」


 兵士は、其れ以上何も言わず。


 「では、帰っていいですよ。」


 兵士は、馬に鞭を入れ、必死な顔で自軍へと飛んで行く。


 「小隊長、帰してもいいんですか、あいつは敵なんですよ。」


 「其れで、いいんですよ、敵も、我々の存在を知ってますから、まぁ~、其れ


よりも、多くの情報を得ましたので、後は、今の位置ですよ、我々が、あの丘を


離れてから、どれ程進んだのか、其れが、分かれば十分ですからね。」


 「分かりました。」


 「では、我々も行きますよ、あの兵士が必死で行きましたからね、その後を行


きましょうかねぇ~、では。」


 第1小隊は、急ぐでも無く、小走りで、敵が進んで来るだろうと思われるとこ


ろへと向かうので有る。


 第1小隊は、重要な情報を得たが、其れと、同じ位に重要なのが、敵軍の位置


で有る。


 其れよりも、敵の兵士は、恐ろしい光景を見た、死んだ仲間を食べている、だ


が、其れよりも、第1小隊の兵士達は、狼が来ているというのに、平然としてい


ると、その事を兵士は、仲間に報告するだろう、話しを聞いた仲間達は、やが


て、森に近付く、だが、仲間の話を聞いた、他の兵士は、森の中の狼に対する恐


怖のためか、戦意は落ちて来るだろう、そして、森の中には、5万もの精鋭部隊


が潜んでいるんだと。


 「小隊長、奴は、隊に戻って、何を話すんでしょうかねぇ~。」


 「まぁ~、其れは、分かりませんがね、仲間の死体を食べている狼を見た時の


顔で、彼は、我々の事よりも、森の中には、数万頭もの狼がいるんだと話します


よ、きっとね。」


 「で、小隊長は、あの時、狼がいる事を知ってたんですか。」


 「いゃ~、実は、私も、全く知りませんでした、でも、何か、音がするので、


離れたところを見ると、狼が死体を食べているのが見えましたが、自分も、本当


は恐ろしかったんですよ。」


 「なぁ~んだ、小隊長は、てっきり、狼と話しが出来るんだと思いました


よ。」


 「えっ、私がですか、そんな事は無理ですよ。」


 「だって、馬とは、話しが出来るんでしょう。」


 「そんな事を一体、誰が言ったんですか、私は、馬とも話は出来ませんが、何


時も、馬には、優しく話し掛けているんですがね。」


 「じゃ~、私もやって見ますよ。」


 隊員達は大笑いするが。


「でも、馬や、狼と話しが出来れば良いと思いますがねぇ~。」


「ですが、あの兵士は、狼って、本当に恐ろしいと思ってますよ、其れに、我々


が、狼がいるところで、平然と。」


 「いや、其れは違うと思いますよ、だって、誰も、狼が来た事さえ知らなかっ


たんですからねぇ~。」


 「其れが、本当でも、奴は、小隊長が言った様に、敵の兵士は、森の狼と友達


なんだって言いますよ。」


 「私達が、狼と友達ですか、これは、大変ですねぇ~、だって、何時、狼が傍


に来るか分かりませんよ、気付いた時には、君の傍いますよ。」


 「そんなぁ~、小隊長、脅かさないで下さいよ、私は、あの目が恐ろしいんで


すから。」


 またも、大笑いし、第1小隊は、敵の前面へと向かって行く。


 一方で、あの敵軍では。


 「将軍、噂で聞きましたが、帝国とは、一体、どの様な国でしょうか。」


 「うん、わしも、良くは知らんのだ、巨大な国だとは話で聞いたが、其れ以上


の事は、何も分からんのだ。」


 「ですが、陛下は、その国を攻めよと言われたんでしょうか。」


 「司令官も知ってのとおり、我々の国では、作物の収穫が少ない、其れで、旅


人の話から、その帝国では、毎年、大量の穀物が収穫されていると、陛下の耳に


入ったんだ、ではと、その国を乗っ取れば、毎年、大量の穀物が、我々の国に入


って来ると言う訳なんだ、わしとしても、国王陛下の命令に背く事は出来ない。


 我々の国のためにも、どの様な作戦を使ってでも、その帝国とやらを奪い取る


んだ。」


 「はい、私も、国のためにで有れば、戦死は覚悟の上で御座います。」


 「だがなぁ~、司令官、この付近には狼の大群がいるそうなんだ。」


 「はい、夜になると、狼の遠吠えが、あちら、此方からと聞こえてきますの


で、兵士達は、其れは、もう大変、恐れております。」


 「うん、わしも、聞いているが、一体、どれだけの数がいるんだ。」


 「将軍、我々の国はで、余り多くはおりませんが、私も、数十頭の群れは、何


度も見ております。」


 「其れは、同じ群れでは無いのか。」


 「遠くにいる、狼の群れですから、はっきりとした事が分からないので。」


 「う~ん、わしは、敵の勢力よりも、この狼の大群と言われるとが、一体、何


頭いるのか、そちらの方が大変な様な気もする時が有るんだ。」


 「ですが、将軍、狼の頭数だけは、我々も知る事は出来ませんので。」


 「う~ん、そうか、では、兵士達には、余り、同様させる様な、発言は止める


事だ、各大隊の隊長と、中隊長達には、話しをして置けよ。」


 「はい、分かりました、将軍、この付近には、多くの丘が有り、投石器の進み


方も、予定よりも遅れている様に思われるのですが。」


 「わしも、分かっておるが、さりとて、無理も出来ないだろう、森に近付く事


も出来ないのだから。」


 「はい、ですが、我々の主力は投石器なので、この巨大な物を見せるだけで


も、敵は、降伏すると考えているのですが。」


 「うん、それだけは確かだ、今まで、数十の国でも、投石器で、数十個の岩石


を撃てば、直ぐに降伏した。


 司令官、投石器を前面にして進むんだぞ、馬でも遅れているのであれば、兵士


達を投入せよ。」


 「はい、承知、致しました。」


 「司令官、其れと、我々は、国王の命令で此処まで来たのだ、決して失敗は許


されない、兵士全員に伝えよ。」


 「はい、承知、致しました。」


 やはり、敵の軍勢は、遠くの国から食料を求め、この地まで来たので有る。


 彼らの国では、作物、特に、主食となる小麦の収穫が、毎年、少ないので他


国、特に、小麦を中心とした作物を作る国を探し、奪い取りに遠征し、その最終


の地が、ロジェンタ帝国の様で、その2日後の事で有る。


 「隊長、誰か、我が軍に向かってきます。」


 「何人だ。」


 「あっ、あれは、偵察に行った兵士で、一人だけです。」


 「お~い、 お~い。」


 兵士は、大声を上げながら、必死の形相で馬を飛ばし、兵士は、仲間の元に着


くと、落馬した。


 「隊長、隊長。」


 大声で叫んでいる。


 「おい、一体、どうしたんだ、他の兵士は。」


 「全員、殺されました。」


 「何だと、他の者は、全員、殺されたと、で、一体、何処の奴らだ。」 


 「はい、噂の帝国の兵士達です。」


 「だが、何故、お前だけが助かったんだ。」


 「はい、私も、撃たれ落馬し、気を失ってましたが、暫くして気が付くと、敵


の兵士は、居りませんでしたので。」


 「分かった、では、敵の事は分からないのか。」


 「はい、ですが、私が、気付いた時、狼の群れが仲間の死体を食べておりまし


たので。」


 「何だと、狼か、では、その周辺には噂通り、狼の大群がいると言うのか。」


 「私は、数十頭見ましたが、草原では無く、森の中にいると思います。」


 生き延びた兵士は、仲間の死体を食べている、数十頭の狼を見た恐怖を話すの


で有る。


 兵士の話は、付近にいた、他の兵士達も聞き、あちら、此方で兵士達が小声で


話している。


 偵察隊の兵士は、事実だけを話したのだが、やがて、他の兵士達の話が、尾び


れが付き、背びれが付き、次第に話しが大きくなり、敵軍は、数十万人、更に、


森に生息している狼は、敵軍が育て、数万頭もの狼が、敵軍の指示を受け、敵軍


の全員を食い殺すとまでの話になったので有る。


 此処まで、話しが大きくなると、幾ら、精鋭部隊の兵士だと言えど、敵は、人


間ではなく、森に住む、数万頭の狼の大軍だと言う話になったので有る。


 一方、ロシュエ達は、敵軍で、混乱が起き始めているなどとは知らず、第1小


隊の帰りを首を長くして待っている。


 その第1小隊は、何度か、丘を越え、敵の軍勢が遠くに見えるで有ろうと言う


地点まで来ていた。


 「全員、下馬し、林の中に馬を隠してくださいね、終わり次第、私は、中央


を、そして、君達は、左右に大きく別れ、丘に登って下さいね、後は、何時もと


同じですから、では。」


 小隊長は、中央をゆっくりと登って行く、左右に分かれた兵士達も、ゆっくり


と登り、やがて、頂上付近に着くと、全員が、草の上に腹ばいとなり、草の間か


ら、丘の下を見ると、小隊が、一度、農場に戻る日の位置を少し移動した程度で


有り、敵の偵察兵が言った巨大な投石器は、50頭近くの馬と、左右に数百人の


兵士がロープを引き、小隊が居る丘へと向かっている。


 だが、余りにも巨大なために、これだけの人数と、馬で引かせても、実にゆっ


くりとした進み方なのだ。


 其れは、人間の歩く半分以下の速さで進み、ロープを引く兵士は、次々と交代


している。


 暫くすると、千人以上の兵士が、左右に分かれ、ロープを引き、すると、投石


器は止まり、馬を交代させ始め、其れは、丘に登り始めたところで有る。


 小隊長は、隊員に合図をし、林へと引き返した。


 「小隊長、あの様子ならば、この丘を登るだけで相当な時間が掛かりそうです


ねぇ~。」


 「はい、私も、同じ様に思いましたねぇ~、其れに、森には入らず、丘を進む


と言うのは、偵察兵は、あの森には、狼の大群がいると報告したと思います。」


 「はい、で、小隊長、これからは。」


 「今から、戻りますので、全員、乗って下さい。」


 第1小隊は、全員が馬に乗り、城へと急ぎ出発した。


 小隊長の判断が正しかったのだろうか、偵察兵が言った狼の大群がいると、そ


の言葉が、兵士達の頭の中で、余計に増幅され、兵士達は、周りをキョロ、キョ


ロと、狼と言う恐怖と戦いながらも進むので有る。


 其れから、数日後の昼過ぎで有る。


 「お~い、第1小隊が戻って着たぞ~、開門、開門だぁ~、早く。」


 城の門が開くと、第1小隊が入って着た。


 「皆さん、大変、ご苦労様です。」


 「リッキー隊長、馬の交代を、お願いします。」


 「了解、直ぐに。」


 と、言うより、城壁の兵が言った時には、既に交代の馬の準備が始まり、小隊


は、馬を乗り換え、今度は、城壁の外側を飛ばし、そして、夕方近く。


 「中隊長、第1小隊が戻ってきま~す。」


 「直ぐ、開門だ。」


 農場本体の門が開くと、第1小隊が飛び込んで来た。


 其処には、ロレンツが出迎え。


 「第1小隊のみんな、大変、だったでしょう。」


 「まぁ~、何時もとは、少し違いますが、大した事は有りませんでした。」


 「そうか、じゃ~、今から、陛下のところへ、でも、食事は。」


 「はい、でも、此処まで戻って来ましたので、先に報告をします。」


 「分かりました、では、行きましょうか。」


 ロレンツ司令官と、第1小隊は、ロシュエの執務室へと向かうので有る。


 「陛下、第1小隊全員が戻って来ました。」


 「お~、そうか、全員無事で良かったなぁ~、まぁ~、みんな座ってくれ、イ


レノア。」


 「は~い。」


 イレノアの優しい声が返ってくる、この執務室に入ると、何時も、イレノア


が、食事を出してくれる、その食事が、兵士達には最高に嬉しいので有る。


 イレノアは、どの様な時でも、優しい顔で迎えてくれ、兵士達も疲れてはいる


が、イレノアの顔を見るだけで、身体の疲れも、気持ちも落ち着くので有る。


 「大変だったでしょう、スープとパンだけですが。」


 何時も、優しく声を掛けてくれる。


 「はい、有難う、御座います、みんな、食事を頂いて下さい。」


 「はい、頂きま~す。」


 イレノアは、小隊に食事を出すと、一礼して戻って行く。


 「小隊長、其れに、みんな、有難うよ、君達の任務は、大変、過酷だったと思


うよ、だがよ~、君達で無ければ、この任務は出来ないと判断したんだ、済まな


かったなぁ~。」


 「陛下、私達は、過酷な任務とは思ってもおりません。


 其れよりも、報告します。」


 「うん、頼むよ。」


 「はい、では。」


 小隊長は、敵の偵察兵と遭遇した事から、偵察兵の一人を生かせ、帰らせた


事、そして、数日前、丘を登り、巨大な投石器の事までを説明したので有る。


 「ふ~ん、投石器か、そんなに巨大な物だから移動が大変なんだなぁ~。」


 「はい、其れに、先程も申しましたが、騎馬兵達も周辺を警戒しており、軍勢


は、広がらずに進んでいます。」


 「小隊長の脅しが効いたんだろうなぁ~。」


 「小隊長、では、軍勢は、思ってた以上に進みが遅いと言う事ですが、小隊


長、その投石器は高いので、一度、倒れると、起こす事は。」


 「はい、私が見たところでは、其れが、最大の弱点だと思います。」


 「陛下、投石器の弱点を利用する方法を考えなければなりませんが。」


 「いや、オレは、別の事を考えてたんだ。」


 「えっ、別の事と申されますと。」


 「うん、小隊長、なぁ~、さっきの話しなんだが、馬を交代させる時って、千


人以上の兵士がロープを引いているんだろう。」


 「はい、私は、千人以上だと思います。」


 「陛下、その交代の時が、攻撃の時だと。」


 「なぁ~、ロレンツよ~、オレの頭の中を見るなってよ~。」


 ロシュエは、笑っている。


 「陛下、では、我々は、外に出るのですか。」


 「将軍、奴らが来るのを待つ必要も無いぜ、オレ達が行ってやろうか。」


 其れは、ロシュエだけの考えではなかった。


 「陛下、私が、行きますので。」


 「またかよ~、オレも、行きたいんだ。」


 「其れは、絶対に駄目ですよ、陛下は、此処に居られていただけなけねばなり


ませんので。」


 「なぁ~、ロレンツ、一度でいいからよ~、頼むよ。」


 「絶対に駄目です。」


 またも、始まった、ロシュエと、ロレンツの笑いながらの、行く、駄目の押し


問答で有る。


 他の者達も笑って聞いているが、その様な問答が暫く続き。


 「なぁ~、司令官、攻撃の時なんだが、司令官の作戦を聞きたいんだ。」


 「はい、小隊長が、言っておられましたが、馬の交代時期が問題で、小隊長、


馬の交代だが、丘に登る途中で行なうのか、其れとも、登る前に行なうのか、そ


の何れですか。」


 「はい、私が、見ている限りでは、丘に登る前と、丘の途中で、行なっており


ますが、小さな丘では、途中、1回だけですが、長く、高い丘では、途中、2回


の交代を行なっておりました。」


 「小隊長、では、その丘ですが、残りは。」


 「はい、まだ、5ヶ所有りますので、其れも、長く高い丘が続きますので。」


 「陛下、将軍、小隊長の偵察では、残りは5ヶ所の丘です。


 其れも、長く高い丘が残っております、私は、残りの丘に入り、途中交代の時


が最高の攻撃時期だと考えたのですが、如何でしょうか。」


 「司令官、私も考えは同じですが、投石器は、どの様な作戦を使ってでも、城


に近付けてはならないと思うのですが。」


 「将軍、私も同じです、其れで、作戦としましては、第1、第2大隊で、10


台の投石器が馬の交代のために途中で止まる時、一斉攻撃に入る様にと。」


 「小隊長、その投石器だがよ~、仮にだよ、横倒しになったと思ってくれよ、


横倒しになった投石器を起こす事は出来るのか。」


 「陛下、其れは、まず、不可能だと思いますよ、あれだけの巨大な投石器です


ので。」


 「陛下、一体、何を考えておられるのですか。」


 「将軍、小隊長が言った様に、巨大な投石器がだよ、横倒しに、なりゃ~、一


体、どうなると思う。」


 「陛下、勿論、投石器は、使用不可能のなりますが。」


 「陛下、正か、兵士達を突撃させるって。」


 「いゃ~、其れが違うんだ、司令官、オレは、単純に考えたんだ、オレが、言


ってるのは、我々が、行ってだ、投石器を横倒しにするって事じゃ無いんだ。


 司令官は、丘の途中で、馬の交代時期にだよ攻撃に入るって言ったんだ、馬、


1頭では、人間の数倍の力を持ってるんだぜ。」


 「陛下の、申されている意味が分からないのですが。」


 「将軍、仮にだよ、司令官が、一斉攻撃に入る、騎馬隊も、正か、攻撃される


とは考えていないので警戒も手薄なんだ、勿論、歩兵もだよ、攻撃を受けたら、


一体、その投石器は、どうなると思う。」


 「其れは、当然、逆走しますよ、えっ、あっ、分かりましたよ、陛下、逆走す


れば、10台の内、数台は横転するだろうと考えておられるのですね。」


 「うん、そうなんだ、だがよ~、オレは、何も、兵士が無理までして、投石器


を倒す必要は無いって思ってるんだ。」


 「陛下、私は、投石器が、丘を逆走し、その時、何らかの原因で倒れるだろう


と期待しては要るのですが。」


 「司令官、オレは、何としてもだ、投石器が全ての丘を登り、城に、近付けな


い方法を考えてたんだ。」


 「はい、其れは、私も、十分、理解をしておりますので、そのためには、先手


必勝だと言う方法が、まず、先頭に立っているだろうと思いますので、騎馬隊に


攻撃を掛ける。」


 「だがよ~、騎馬隊の全員を殺す事は無理じゃ無いのか。」


 「はい、私も、覚悟はしておりますが、何としても、騎馬隊だけは、全滅に近


い状態に持って行きたいのです。

 

 そのためには、1番と2番大隊全員で、騎馬隊だけを攻撃する様にと考えては


いるのですが。」


 「なぁ~、小隊長、騎馬隊の数なんだが。」


 「はい、私達の見たところでは、約、5千と。」


 「う~ん、5千の騎馬隊か。」


 「ですが、最初の攻撃で半数以上は。」


 「半分以上か。」


 「はい、半分も減れば、敵の歩兵が見えますので。」


 「だがよ~、残りの半分が反撃に来るんだぜ。」


 「はい、ですが、第2波の攻撃で、残りの殆んどは殺す事も出来ますので。」


 「オレはよ~、司令官の作戦に文句を付けるつもりは無いんだ、其れよりも


だ、ウエスの兄の軍で取った方法は出来ないだろうかと。」


 「あ~、あの時の連続攻撃ですか。」


 「うん、そうなんだ、反撃させない方法としてだよ、あの時、大木に隠れて連


続攻撃するって言ったと思うんだがなぁ~。」


 「ええ、そうでしたねぇ~、連続攻撃であれば、騎馬隊の反撃も出来ないだろ


うと。」


 「うん、そうなんだ、司令官は、一斉攻撃で、半分は減ると言ったが、オレ


は、最初から連続して、ホーガン矢が飛んでくりゃ~、馬が攻撃されている状態


では、馬の交代は出来ないと考えております。


 するとですよ、投石器は、止まった状態と言うよりも、歩兵も慌てて、数十人


でもロープから離れたとします。

 

 その様な状態になれば、投石器は、巨大で、重いので、少しづつですが、逆走


し、一度、逆走を始めると、人間の力では止める事は不可能ではと。」


 「そうですねぇ~、我々の連続攻撃を受ければ、敵は大混乱する思います。」


 「なぁ~、小隊長、変な事を聞くんだが、小隊長は、馬を呼ぶ事は出来るの


か。」


 「はい、一応は、自分が指笛を吹けば、馬を呼ぶ事は出来ますが。」


  「其れとだが、馬が、数十頭も走り出したとすればだよ、他の馬も追い掛け


て来るのか。」


 「はい、馬は、全体行動を取りますので、騎馬隊の馬も同じ行動に入ると思い



ますが。」


 「じゃ~、馬に乗ってる兵が、止める事は出来るのか。」

 

 「其れは、無理だと思いますよ、馬が、一度、暴走を始めると、馬上の人間は


何も出来ませんので、馬が、有る程度走ったところで止まるまでは、馬から落馬


しない様にするだけで、精一杯だと思います。」


 ロシュエは、一体、何を考えている、正か、馬を暴走させるのでは、だが、そ


の様な事をすれば、我が軍も危険になるのでは。


 「陛下、馬を暴走させるのでしょうか。」


 「いや、オレは、若しも、暴走すれば、一体、どうなるのかを聞きたかっただ


けなんだよ。」


 「陛下、今、考えたんですが、馬を暴走させると言う事は、交代の馬も引き連


れて行けますが。」


 ロシュエの考えは、騎馬隊もだが、投石器を引く馬が無ければ、人間が引いて


丘を上り、ロジェンタ帝国の城まで数十日間を掛けなければ着く事出来ないだろ


うと、その様な事になれば、歩兵は、戦闘に入る事も出来ないくらいに疲れきっ


ているはずだ。


 「まぁ~、オレはよ~、騎馬隊よりも、交代の馬を暴走させる事が出来たら、


一体、どうなるんだろうと考えてたんだが。」


 「陛下は、騎馬隊よりも、他の馬がいなくなればと考えておられたのでしょう


か。」


 「あ~、そうなんだ、騎馬隊は先頭で来るだろう、だがよ~、交代の馬って、


馬具も、騎馬隊用とは別の器具を着けて待機していると思うんだ、交代が終われ


ば、投石器が移動を開始するんだぜ。」


 「陛下、ですが、例え、投石器に馬が繋がれていたとしましても、馬を殺せ


ば、其れこそ、立ち往生しますが。」


 「うん、其れは、オレも分かってるんだ、だがよ~、何で大切な馬を殺す必要


が有るんだ。」


 ロシュエは、馬は簡単には殺したくは無い、だが、繋がれた馬を殺さなけれ


ば、投石器は、進み方は遅いが、城へと近付く、だが、先頭の馬を殺せば、進む


事は無理だ。


 「陛下、何も、全部の馬を殺す必要は無いと思います。


 例えば、先頭か、其れとも、最後の馬、1頭だけが犠牲になる事で、投石器は進む事は出来ないと思います。」


 「だがよ~。」


 「陛下の優しさは、誰でも知っております。


 ですが、これは戦争ですよ、敵を殺さなければ、我々が、殺される事になるの


ですよ、例え、陛下が、駄目だと言われましても、私の判断で、馬、1頭を犠牲


として殺します。」


 ロレンツは、強気に出た、其れは、ロシュエも分かっている。


 「司令官、分かったよ~、オレは、少し感傷的になった様だなぁ~。」


 ロレンツの言う様に、10台の投石器を引く馬の1頭だけを殺す事で、投石器


は完全に停止する。


 その様になれば、例え、一時的とは言え、投石器の恐怖は消え、騎馬隊へ集中


攻撃が出来るのだ。


 「小隊長、少し聞きたい事が有るんだ、投石器を引く馬の交代なんだが、一斉


の行なうのか。」


 「はい、10台が、まぁ~、少し時間差は有りますが、殆んど同じ様な時間に


なれば、交代させます。」


 「そうか、じゃ~、その時だなぁ~。」


 「はい、自分達も見ておりましたが、護衛の騎馬隊も横一列に並んでおります


ので。」


 一斉に交代させる事で、護衛も楽だと考えたのだろう、バラバラで交代させる


事になれば、其の都度、騎馬隊も、歩兵も拡散し無ければならない、何時、攻撃


されるか分からない状態では、馬の交代も大変だ。


 「陛下、其れで、最初の攻撃の合図は、小隊長に任せ様と考えております。」


 「えっ、司令官、自分にですか、でも。」


 「いや、小隊長でなければならないんだ、我々は、小隊長と言うより、小隊全


員の命令で、一斉攻撃に入る方が楽なんだ、其れはねぇ~、単に交代と言ってる


が、どの時が、攻撃に最適なのかは小隊が知っていると、私は、考えたんです


よ、私もですが、将軍も了解されると思いますが、将軍、如何でしょうか。」


 「司令官、小隊長、私は、何も異論は無いですよ、現場の状況を、一番、良く


知っているのが、何と言っても、第1小隊ですからねぇ~。」


 「はい、有難う、御座います、ですが、大任ですねぇ~。」


 「小隊長、何も、其処まで深刻に考える必要は無いぜ、まぁ~、オレは、簡単


だと思うんだ、小隊長は、最初の合図だけで、後は、将軍と、司令官に任せるん


だなぁ~。」


 「はい、其れで、先程、言われましたが、馬を呼び寄せると言う話ですが。」


 「そうだったなぁ~、いや、オレは、全部とは行かないでもだ、投石器を引く


馬だけでもと考えただけなんだ。」


 「では、自分の判断でよろしいのでしょうか。」


 「小隊長に、全てをお任せしますよ。」


 「司令官、仮にですが、馬を、何処まで行かせればよいのでしょうか。」


 「其れも、小隊長の、お任せしますよ。」


 小隊長は、少し迷っている、馬の動き方で、味方の兵士達が危険に晒される可


能性も有ると、其れに、何処まで引く連れて行けばよいのか。


 「司令官、お願いが有るのですが。」


 「小隊長は、何か、秘策でも考えておられるのですか。」


 「別に、秘策ではないのですが、馬の誘導方法ですが、一歩、間違えば、我が


軍にも危険が及ぶのでは。」


 「えっ、我々にも危険が有るのですか。」


 「はい、先程も言ったのですが、暴走させるのは簡単なんですが、自分が、馬


の前を走ろうと思ってるんです。」


 「う~ん、君は、若しや。」


 「はい、前の小隊長は、今、中隊長となられ、今度は、私が、小隊長になった


んです。」


 「そうか、やはり、君がか。」


 「はい。」


 以前の小隊長は、昇進して、今は、第1大隊の中隊長になっている。


 「陛下、やはり、あの時の彼が、今は、小隊長に昇進したのですか。」


 「うん、そうなんだ、ロレンツが司令官になったもんだから、まぁ~、これ


も、運命なんだ、諦めろんだなぁ~。」


 小隊長になったのが少し不満なのか、だが、其れも仕方の無い話で、小隊の全


員が認めている。


 「ですが、其れでは、余りにも小隊長が危険では有りませんか。」


 「其れは、自分も十分承知していますが、私が、暴走させ、誘導するのが、最


適なんです。」


 「では、合図の後で、馬を引き連れて行くと言うのですか。」


 「はい、司令官、我が軍の馬の待機場所までと考えております。」


 「よ~し、小隊長、全てを任せるぜ。」


 今の状況下では、小隊長に全てを任せるのが最適なのだ、第1、第2大隊の馬


の待機場所まで引き連れて行けば、敵は投石器を移動させるのは歩兵だけとな


り、10基もの投石器を引く歩兵は、1万人以上も必要になる。


 その様になれば、攻撃する方も楽になるだろうと、小隊長は、考えた。


 「将軍、司令官、この戦は、全て小隊長に任せて如何だろうか、合図もだが、


小隊長の動きに、司令官が合図を出せばと、オレは、単純に考えてるんだ。」


 「陛下、余り、小隊長に負担が掛かる様な。」


 「いや、負担と言うよりも、オレの本音なんだ、だってよ~、将軍も、司令官


も、話しだけで、現場の状況を想像するだけなんだ、だがよ~、小隊長は、全て


の状況を知った上で、話しをしていると思うんだ、そうなんだろう、小隊長さん


よ~。」


 「はい、私も、危険だと思っておりますが、これは、ロジェンタ帝国の存亡を


掛けた戦争だと、私は考えておりますので、私、一人が犠牲になったとしても、


帝国は残れるのであれば、私は満足です。」


 「だがよ~、小隊長、命だけは大切にするんだ、小隊長が戦死してもだ、誰


も、喜ばないんだからよ~。」


 「はい、有難う、御座います。」


 「司令官、この際です、全て、小隊長の判断に任せましょう、其れが、一番だ


と思いますので。」


 其の時、小隊の兵士全員が手を挙げ。


 「小隊長、その任務、我々にさせて頂きたいのです。」


 「えっ、君達にですか。」


 「はい、小隊長の合図で、馬が動き出しますが、我々、全員が先頭になれば、


暴走馬も、我々の後ろから来ると思いますので。」


 「でもねぇ~。」


 小隊の全員が、気持ちをひとつにしたので有る。


 「小隊長は、全部を見ていただきたいのですよ、我々が、引き連れて行きます


ので、あの丘の端が、少し低くなっているところが有りましたので、あの付近を


通れば、大隊にも危険は無いと思いますが。」


 彼らは、偵察の専門家で、丘の端を行けば、大隊にも危険は少ないだろうと考


えた。


 「おい、司令官よ~、小隊に何か言ったのか。」


 「陛下、私達は、司令官からも、小隊長からもですが、何も、命令は受けてお


りません。


 私達は、何時も、話し合いをしていますので、其れに、今までも、隊長からは


命令らしき言葉を受けた記憶が無いのです。」


 やはりだった、ロシュエの思ったとおりで、ロレンツは、隊長時代でも、殆ん


ど命令は出さなかった。


 命令を出す事よりも、常日頃から、部下を話し合いをする事で、隊長の考え方


が理解され、其の事が、平時よりも、有事の際には効果が現れてくると、其れ


が、第1番大隊の強みでも有り、其れを、引き継いでいるのが、第1小隊だ。


 「小隊長の考えておられる事は、以前から分かっておりましたので。」


 「なぁ~、小隊長よ~、あんたの負けだよ、だってよ~、1番大隊の動きを見


れば分かるんだぜ。」


 「はい、其れは、私も十分承知しておりますが。」


 「小隊長は、他の馬も誘導されると思ってるんですよ。」


 「えっ、何だと、他の馬って、そりゃ~、騎馬隊の馬もなのか。」


 「はい、小隊長の指笛で、騎馬隊も暴走すると思われます。」


 「だがよ~、騎馬隊の兵は。」


 「陛下、馬が暴走を始めると、兵士は、何も出来ませんので、1番大隊は、騎


馬兵だけを狙い討ちが出来ます。」


 「だが、小隊は、暴走馬の前を行くんだろう、其れじゃ~、騎馬隊からも狙い


討ちされるんじゃないのか。」


 「まず、其れは無理だと思いますよ、普段の走りは、兵が馬に指示しますが、


暴走と言うのは、兵の指示では有りませんので、馬自身の判断で走り出していま


すので、其れに、落馬の可能性が非常に多く、兵は、馬にしがみ付いている状態


ですから。」


 「よ~し、分かったよ~、小隊長は、考えたとおりの作戦に入ってくれ、司令


官も、其れでいいんだろうよ。」


 「はい、私も、小隊長に任せますので。」


 「陛下、司令官、有難う、御座います。」


 「じゃ~、よ~、作戦行動の詳細に付いては、君達に任せるから、みんな、よ


ろしく頼むぜ。」


 将軍だけが残り、司令官も小隊長も執務室を出た。


 「なぁ~、将軍、あのロレンツは見事だぜ、一人は、全員の事を考え、全員


は、一人の兵の事を考えるってよ~、言葉では簡単だが、いざ、実行するとなれ


ば、そりゃ~、大変だぜ。」


 「陛下、ですが、その考え方は、陛下が、駐屯地に居られる頃からではないの


ですか。」


 「うん、そうなんだ、オレの爺様が言ってたんだ、爺様が言うには、誰もが、


最初から、小隊長や、中隊長になれるのではない、誰もが、最初は新兵なんだ、


だけど、何時の日か、その新兵が、小隊長や、中隊長と、更に、隊長になった頃


には、新兵の頃を忘れているんだって。」


 「私も、よ~く、分かりますよ、今は、将軍だと言っておりますが、新兵の頃


の気持ちを、これからも、忘れてはならないと思いますねぇ~。」


 「だがよ~、他の駐屯地じゃ~、司令官になった途端に自分は偉くなったんだ


と勘違いをするんだ、だから、司令官の命令だ、聞くんだとね。」


 「はい、私も、一時は、其の様な気持ちになった事が有りまして、自分が、司


令官だと言う立場で物事を判断するのですが、全てが正しいんだと、誰もが錯覚


するのですねぇ~。」


 「うん、そうなんだ、爺様から、親父に伝えられ、オレが、駐屯地の司令官に


なった頃には、全員が、同じ考え方をしてたんだ、だから、オレの考え方が、ロ


レンツに分かるんだ、オレもだよ、ロレンツや、今の小隊長もだよ。」


 「私は、今でも、お風呂部隊のリーダーの言葉を忘れる事が出来ないのです。


 3番、4番、5番大隊の隊長や、中隊長も、小隊長達も、あれから色々な事を


考える様になったと。」


 「オレはよ~、命令ってのが大嫌いなんだ、オレは、将軍だ、だから、オレの


命令に従えってのがよ~。」


 「私も、陛下の部下にさせて頂き、其れが、今になって分かる様になってきま


した。


 其れに、今では、ロジェンタ帝国の兵士達全員が、同じ気持ちと考え方になっ


ております。


 其れに、陛下が、何時も、申されておられます、兵士の全員は、農民のために


と。」


 「うん、其れも、爺様からなんだ、其れとだが、オレは、司令官と、隊長、中


隊長、小隊長達に任せようと考えているんだ。」


 「私も、今回は、任せる事に決め手おります。

 

 陛下の考え方は、私は、勿論で御座いますが、全員が理解しておりますので、


何も心配する事も御座いませんので、安心致しております。」


 「だがよ~、敵の投石器って、一体、どんな物なんだろうか、オレは、知りた


いんだ。」


 「陛下、私もですが、司令官の言われるとおり、陛下は、前戦には参る事は出


来ませんので。」


 「其れは、分かってるんだ、まぁ~、オレが、下手に行くと、みんなの気持ち


が、変に揺らぐ事にもなりかねないからなぁ~。」


 「私は、この戦に勝利し、その投石器と言う物を持ち帰る事が出来れば良いの


ですが、でも、多分無理でしょうからねぇ~。」


 将軍は、早くも、戦後の事を考えているが、今度の戦に勝たなければ、何の意


味も無いのだ、ロシュエも、将軍も、投石器を早く見たいと思うのが当然なのか


も知れない。


 一方、其の頃、敵軍でも動きが有った。


 「先程、将軍の命令が下り、我が軍は、投石器を前面に進めと、其れで、各大


隊は、投石器の移動を開始。


 今度の敵は、当分の間、現れないが、投石器の逆走事故防止のために、投石器


を横一線に並べ進めるんだ、では、全員配置に、騎馬隊は、投石器の周辺を警戒


せよ、特に、狼の大群には注意する事で有る。」


 この様にして、敵軍の巨大な投石器が、横一線となり、移動を開始した。


 この軍勢は、この地に来るまでも、幾多の丘や、山、坂を登っては来たが、目


的となる、ロジェンタ帝国の周辺には、平坦な土地は無く殆んどが丘陵地帯で、


この丘陵地帯を越えなければ、ロジェンタ帝国には辿り着けない。


 巨大な投石器の移動には、更に、多くの困難が待ち受け、兵士達は、連日過酷


と言えるほどの重労働で夕刻になるのが、待ちどうしくなる、だが、夕刻から


は、狼の遠吠えで、夜もろくに眠れないほどに神経が過敏になる。


 ロジェンタ帝国が近付くにつれ、巨大な投石器を引く兵士達は、最初の丘に差


し掛かった、馬、数十頭と、兵士数百人が掛け声と共に、ロープを引くと、投石


器はゆっくりと丘を上り始め、上り始めると、次第に角度が急になり、馬も、兵


士も喘ぎ、数ヒロ進んでは、暫く立ち止まり、そして、馬に鞭が入ると同時に兵


士達も必死でロープを引く、だが、丘陵地帯が草地のためか、兵士の多くは、草


に足を取られ滑り、転ぶので有る。


 丘を上り始め数日経つが、今だ、数十ヒロ進んだだけだ、この調子ならば、目


的のロジェンタ帝国には、何時頃攻撃開始が出切るのだろうか。


 10基の投石器を運ぶだけで、馬と、兵士の大半が疲労困憊で戦に入れる状況


では無い。


 この様な時に攻撃を受ければ、反撃すら出来ないが、其れでも、指揮官だけ


は、大声を張り上げ数ヒロでも前進させようと必死で有る。


 その頃、ロレンツ司令官は、1番大隊と、2番大隊の隊長、中隊長を集め、攻


撃に入る作戦を練っていた。


 「みんな、聞いた欲しいんだ、先日、第1小隊と、狼犬部隊が発見した軍勢だ


が、我々は、敵軍だと判断した。


 其処で、第1小隊の小隊長から説明して貰うので、みんな、よ~く聞いて欲し


い、質問は、説明後とする、では、小隊長、よろしく頼みます。」


 「はい、では。」


 この後、小隊長は、説明を行ない、暫くして説明は終わった。


 「小隊長、有難う、では、質問と行きたいが、その前に、今回の作戦で、最初


の攻撃合図は、小隊長が行なう。」


 集まった、中隊長達は理解している。


 「其れで、次は、小隊長が、敵軍の馬を、我々の方に向かわせる計画ですが、


敵軍の馬の誘導は、全て、第1小隊が行なうので、他の者は、暴走と言うか、疾


走する馬に注意して欲しいんだ。」


 「司令官、よろしいでしょうか。」


 「ああ、いいよ。」


 「疾走する馬ですが、何頭くらいで、どの方向に誘導するのですか。」


 「では、後は、小隊長に任せる。」


 「はい、承知しました、其れで、今の質問ですが、自分達も、一体、何頭の馬


がいるのかも分からないのです。


 騎馬兵が、5千人くらいですから、これで、5千頭、其れに、投石器を引く馬


ですが、私達の見たところでは、1台に付き、50頭はおりましたので、10台


で、5百頭になりますが、交代用の馬が、一体、何頭いるのか、其処までは調べ


る事が出来ませんでした。


 其れと、向かわせる場所は、第1大隊の馬を待機させております場所にと考え


ておりますが、私達は、一体、何頭の馬が来るのかは予想出来ておりません。」


 「では、仮にですが、交代用の馬が5百として、計、1千頭で、其れと、騎馬


が5千頭と、合計で6千頭の馬が、我々の待機場所に来れば、待機場所は大混乱


を起こす可能性も、更に、騎馬兵の、生きが残り待機場所に押し寄せる可能性も


考えねばなりませんねぇ~。」


 「小隊長、1万頭近くの馬を、我々、数十人で監視するのは殆んど不可能に近


いですよ、他に、何か、良い方法を考えねば、我々自身も危険では。」


 ロレンツ司令官は、5百や、1千頭くらいで有れば、何とかなるだろうと、だ


が、第1、第2大隊の馬もいる、それだけの馬を監視し、其れとは別に、騎馬隊


も突入してくる。


 「小隊長、其れだけの馬頭を誘導するとなれば、小隊の人数だけで足りるのか


よ~。」


 「暴走する馬の誘導であれば、少人数でも問題は有りませんが、馬が、途中で


止まりますと、其れからの誘導は、小隊の人数ではとても無理だと思います。」


 「1番大隊か、2番大隊から、1個中隊が応援に入ったら、どの様になる。」


 「はい、1個中隊の応援が頂けると、その後の誘導には問題は有りませんの


で。」


 「では、1番大隊の、第1中隊を応援に入らせよう、だが、その暴走馬の中


に、騎馬兵が何人居るのか、この騎馬兵を殺す必要が有るので、最初の誘導は、


小隊に任せ、我々はと言うよりも、1番大隊は、一度、後方に下がり、騎馬兵に


攻撃を加える。」


 「では、我々、2番大隊は、歩兵を攻撃するのですか。」


 「うん、最初は、小隊長の合図で、一斉攻撃に入り、次に、1番大隊は、後方


に下がり、暴走する騎馬兵だけを狙い討ちに入り、第1小隊は、暴走馬を農場ま


で引き続き誘導するので、騎馬兵の攻撃は、第1中隊を除く、1番大隊が行い、


2番大隊は、投石器周辺の歩兵部隊に対し、攻撃を行なう、以上だが、これまで


の流れの中で、何か、質問は有るか。」


 「小隊長、其れで、合図ですが、立つ場所は。」


 「はい、私は、1番大隊と、2番大隊の間に立つつもりで、私の仲間は、丘よ


り、少し離れた低い場所で待機しますので。」


 「では、攻撃開始後は。」


 「はい、私は仲間の元に行き、その場で、馬に合図するつもりなのですが。」


 「司令官、我々は、攻撃に集中すればよいと言う事ですねぇ~。」


 「そのとおりで、だが、小隊長の合図を確認するのは、各中隊長の役目です。


 他の者達は、中隊長の合図で攻撃に入る事を徹底して置いて下さいね。」


 「司令官、その後は。」


 「其れは、皆さんの判断で行なう様に、今回の作戦で、最大の問題は投石器を


全て横倒しに出来るのか、出来なければ、投石器が、何処まで逆走するのか、私


は、最初の出発地点まで戻れば、敵軍は、戦意が低下すると思っていますが。」


 「司令官、後は、何処で待ち伏せするかですねぇ~。」


 司令官も、その場所が分かればよいと考えてはいるが、第1小隊が戻って、数


日経ち、敵軍が、何時出発したのかも分からない、だが、第1小隊が偵察に向か


う事で、場所の特定が出来ると言うもので有る。


 「みんな、これだけは理解して欲しいんだ、今回の作戦で、第1小隊の隊員


が、各中隊長に指示するために行くだろうが、全て、隊員の指示通りに従ってく


れ、小隊長も、隊員達も、我々が、思っている以上、大変厳しい任務に就くん


だ、例え、結果がどの様な事になったとしても、全ての責任は、この私に有る。


 みんなは、口が裂けても、第1小隊を責める事は、私が許さん、隊の全員に伝


えて置け。」


 中隊長達は、一瞬、空気が引き締まったと感じたので有る。


 「司令官、私達も、全力で任務に就き、どの様な危険な状況下であったして


も、ロジェンタ帝国の農民さんを守りますので。」


 そして、明くる日の早朝、第1小隊は、朝焼けの中、静かに農場を出発した。


 ロシュエや、将軍に、司令官、1番大隊と、2番大隊の隊長と、中隊長達が静


かに見送ったので有る。


 イレノアは、部屋の中から、そっと、手を合わせ、第1小隊の全員の無事を願


うので有る。


 第1小隊は、城壁内の通路を小走りで進むのだが、第1小隊が、偵察任務に向


かうのは周知で有り、2番農場からは、兵士達全員が敬礼するが、第1小隊の隊


員達は、手を振る余裕さえ見せ、昼前には、5番農場に到着する事も、リッキー


隊長も予想していたのか、5番農場で昼食を取り、馬を交代させ、それからは、


城外に出、一路、南へと向かって行く。


 「小隊長、私が、あの丘に行き、見てきますので。」


 隊員が、あの丘を言ったのは、城を出て、3日目の事で有る。


 一つ目、二つ目の丘までは、敵軍は来ておらず、三つ目、この丘を登っている


のであれば、城までは、残る二つの丘だけだ、残りの丘は、問題無いが、丁度、


中間に位置すると思われる、三つ目の丘、この丘が、最大の高さが有り、果たし


て、敵軍は、何番目の丘に達しているのか。


 「分かりました、気を付けて下さいね、其れと、あちらの方向から行って下さ


いね。」


 小隊長の言う、あちらとは、丘の右方向が、少し低くなっている場所が有る。


 その場所は、森の直ぐ近くに有り、敵は、気付かないだろうとの判断で有る。


 「はい、承知しました、では。」


 隊員は、小走りで向かった、その場所までは、2千ヒロは有るだろう、暫くし


て、隊員は、草地に伏せ、這いながら、丘の頂上を目指すので有る。


 小隊長も、他の隊員も偵察に向かった隊員の姿を見ているが、草の中に隠れた


のか、全く見えない。


 其れから、暫くして、隊員が、丘を下る姿を見付ける事が出来、小隊長は、一


安心したので有る。


 暫くして、隊員は、急ぎ戻って着た。


  「小隊長、敵の位置ですが、次の丘の頂上で止まっていました。」


 「えっ、次の丘と言う事は、まだ、二つ目の丘を下っていないと。」


 「はい、其れに、引いていた馬もいませんでした。」


 「分かりました、全員、乗馬、あちらまで移動します。」


 小隊は、馬に乗り、低くなった場所へ向かい、暫く行くと。


 「全員、下馬。」


 小隊長は、数人を連れ、草地に伏せ、丘の上に登って行く。


 「小隊長、あれですよ。」


 隊員が指差す方向を見ると、確かに、10台の投石器が丘の上で停止し、牽引


していた馬がいない、何故に馬がいない。


 「あの様子では、歩兵だけで、丘を下るのでしょうか。」


 丘の反対側は見えないが、小隊長は、丘の反対側に歩兵がロープを引いている


のだろうと考えた。


 だが、投石器の動きが分からない、一体、何があったのか、あの調子ならば、


三つ目の丘を登るだけで数日は掛かるだろうと。


 「小隊長、何故ですかねぇ~、ほんの少し別のところから登れば楽に行けると


思うんですが。」


 「確かにそうですねぇ~、でも、何か、他の理由があるのでは、其れにです


よ、投石器が巨大なために移動させるのが、思った以上に大変だと思いますよ、


でも、馬がいないと言う事は、下る時には、必要が無いと言う事だと思いますが


ねぇ~。」


 「小隊長、何か動きが有る様ですよ。」


 「では、じっくりと見学しましょうか。」


 小隊から見ると分からない事が有った、隊員が言う様に、他の場所から登ると


言うのは簡単だが、偵察から戻って着た兵士の話、其れは、数十頭の狼が、死ん


だ仲間を食べているとの話しが、歩兵達の中で、大きく話しが変わり、敵軍は、


森の狼、数万頭を味方にし、その狼が、敵軍を守っているとまで話しが変わり、


歩兵は、毎夜、狼の遠吠えで怯え、森に近付きたくは無いと言うので有る。


 其れに、敵の指揮官は、投石器が不安定だと知っている、山の傾斜が原因で、


投石器を倒したとなれば、全ての責任は指揮官が取らされ、その責めは打ち首と


言うので有る。


 指揮官達は、傾斜の緩やかな場所を探し登るので有る。


 「小隊長、あれは。」


 小隊長が見たのは、ロープを引く大勢の歩兵が、丘の反対側から引き、投石器


が少しづつ丘を下るので有る。


 「もの凄い人数ですねぇ~。」


 「馬がいない理由が分かりましたねぇ~、登りは馬と兵士で、下りになると、


兵士だけで行くのですねぇ~。」


 「小隊長、やはり、投石器が倒れば使い物になりませんからでしょう。」


 「ですが、私にも分からないのですよ、何故、一番高いところへ登るのですか


ねぇ~。」


 小隊が見ているが、其れにしても、動きが遅い、反対側からはロープを引く兵


士達の姿が増え、一体、何人の兵士がロープを引いているのだろうか、やがて、


1台、2台と下って行くが、次の丘の下まで、一体、何時まで掛かるのだ。


 「小隊長、10台が丘を下り終わるまで、一体、何時間掛かるんでしょうかね


ぇ~。」


 「いゃ~、其れは、本当に大変ですよ、あの調子ならば、夕刻までは掛かると


思いますが。」


 だが、小隊長の思った夕刻には終わらず、やがて、松明が、数千本も焚かれ、


其れでも、まだ、終わらず、其れから、数時間は経っただろう。


 「騎馬兵が、周りを取り囲んでいたのですが、其れで、理由が分かりましたね


ぇ~、騎馬兵は全体を取り囲み、周辺を警戒していたんですよ。」


 「でも、辺り一面がかがり火ですよ。」


 「小隊長、食事の用意が終わりましたよ。」


 「えっ、では、敵は、全く、我々が居る事にも気付いていないと言う事か。」


 「はい、私も、少し考え、最初、火は小さく、次第に大きくしましたが、全


く、気が付かない様子でした。」


 「敵は、投石器の移動に必死で、他の事にまで警戒する様子も無いと言う事に


なりますねぇ~、まぁ~、何れにしても、食事が終わってから、次の事を考えま


しょうか。」


 小隊は、丘を下ったところで食事を取るので有る。


 「小隊長、あの動きじゃ、小さな丘を越えるだけで、何日も掛かりますよ。」


 「其れで、私は、明日の動きを見てから、伝令に行って貰いますので。」


 その夜も、遠くからは、数千もの狼の遠吠えが聞こえ、だが、小隊の隊員は慣


れたもので、のんびりとしているが、敵の兵達はと言うと。


 「狼の遠吠えだ、あれじゃ~、敵は、相当な人数で攻撃して来るぞ~。」


 いや、オレは、敵よりも、狼の方が恐ろしいんだ、敵に殺されてから、狼の餌


食に成っても、本人は、何も分からないが、相手が狼じゃ~、簡単に殺されない


と思うんだ、だから、オレは、狼が恐ろしいんだ。」


 「だけど、この付近には狼って、一体、何頭いるんだ。」


 「オレも、聞いただけなんだが、1万頭はいるらしいんだ、その狼は、敵が育


ててるって。」


 「えっ、じゃ~、我々の敵は、狼なのか、いやだよ~、オレは、何処か他のと


ころに行きたいよ~。」


 「おい、そんな話、隊長達に知られたら、死刑だぞ。」


 「オレは、まだ、死刑の方がいいよ、だって、簡単に死ねるからなぁ~。」


 数万もの兵達は、毎夜、毎夜、狼の遠吠えに怯え、十分な睡眠も取れずに日中


は、巨大な投石器の移動が、この十数日間も続き、歩兵は、戦争と言うよりも、


重労働に就いている様な気持ちになっている。


 「小隊長、そろそろ、夜が明けます。」


 「まぁ~、昨日の様子だと、朝と言うより、昼近くまで移動させる事は無いと


思いますが。」


 「でも、奴らも大変ですよ、夜中中、狼の遠吠えで、十分、眠る事も出来ず


に、日中は、巨大な投石器の移動と、これじゃ~、兵士達は、疲れきって、戦闘


なんて無理ですねぇ~。」


 「そうですねぇ~、ですが、考え方を変えれば、其れだけ、敵の戦闘能力は落


ちてきたと言う事でしょうねぇ~。」


 「小隊長、何か動きがあった様ですよ。」


 「分かりました、みんな、配置に就いて下さい。」


 小隊は、昨日同様、敵の動きを監視始めた。


 「う~ん、ですが、何か、変ですよ、歩兵の動きが、あっ、騎馬が上がって来


ます、全員、森に一時退却。」


 小隊は、森に入り、騎馬兵の動きを見ているが、騎馬兵は、そのまま、次の丘


まで行き、暫くして戻って着た。


 「小隊長、あの様子だと、残りの丘の状態を調べたのではないでしょうか。」


 「その様ですねぇ~、最後の丘を登れば、後は、比較的平坦ですから、其れを


調べ、本隊に報告するのでしょうねぇ~。」


 この時、小隊長は、決断を迫られるので有る。


 最後の丘に行かせると大変な事になる、最大の難関は、4ツ目の丘で有り、こ


の4ツ目の丘を登らせる前に。


 「伝令をお願いします、敵は、今日から、最大の難関と思われる丘を登り始め


ると思います、と。」


 「えっ、其れだけですか。」


 「貴方は、其れ以外、見たとおりを話して下さい、後は、将軍と、司令官が決


断されると思いますので。」


 「小隊長、了解です、では。」


 伝令兵は、馬を飛ばして行く。


 「小隊長、さっきの、騎馬兵の報告で動きが変わりますねぇ~。」


 「私も、其の様に思いますので、みんなは手分けして様子を見て下さい。」


 小隊は、別れ、一人は、森へと向かい、其処から、敵が一番良く見えるところ


まで近付いて行く、其れでも、動きに大きな変化は無く、歩兵達は、草地に寝転


んでいる。 


 「う~ん、其れにしても、何も変化は有りませんねぇ~。」


 「小隊長、では、一体、何のために、騎馬兵は上がって来たんでしょうか。」


 「う~ん、これは、難しいですよ、私は、多分、最後の丘を登った後ですので


ねぇ~、其れから、先を調べたのだと思いますが。」


 「でも、最後の丘に行かれると大変な事になりますよ。」


 「其れは、私も分かっていますので、何とか、4ツ目の丘の途中でと思ってい


るのですが。」


 小隊長は、4ツ目の丘は急な登りでは無いが、その反面、長い登りで有り、敵


は、この4ツ目の丘は簡単に行けると判断するだろう、だが、其れまでの丘を登


り下りで、歩兵達の体力は落ちている。


 だが、最後の丘に入れば、歩兵達は、其れこそ、必死で投石器を引き上げるだ


ろう、で有れば、4ツ目の丘、此処で攻撃するのが、最善の策だと。


 「でも、変ですねぇ~、全く、動かないと言うのは、騎馬兵の報告を聞いて、


今、協議でもしているのでしょうか。」


 「小隊長、騎馬兵の動きは有りませんよ。」


 その後、暫くは、何の動きも無く、時間だけが過ぎて行く、やがて、昼近くな


り、森から隊員が戻って着た。


 「ご苦労さんでした、で、状況は。」


 「はい、騎馬兵ですが、数人の隊長と思われる人物に報告し、その隊長達は、


後方の将軍と思われる人物が乗っている馬車に行き、暫く協議していると思いま


した。」


 「やはり、報告しておりましたか。」


 「はい、でも、その後、何も命令らしき様子も無く、隊長達も、戻ったんです


が、その後の動きも有りませんので、戻って来ました。」


 「そうでしたか、でも、一体、敵は何を考えているのでしょうかねぇ~。」


 「はい、私も、分かりませんが、伝令らしき兵が、其れよりも、まだ、後方に


馬を飛ばして行きました。」


 「えっ、では、後方にまだ、兵が居るのですか。」


 「でも、其処までは行けませんでした。」


 「よろしいですよ、でも、其れは、重要な情報ですので、私が、今から行き、


調べてきますので。」


 「小隊長、私も、行きます。」


 「君は、今、戻ったばかりですよ。」


 「でも、私は、この目で確かめたいのですよ。」


 「分かりました、では、一緒に、他の人達は、此処で監視を続けて下さい。」


 「はい、了解です。」


 小隊長と、隊員、一名が、伝令が向かったと言う方向へ行く。


 森の中を数ヒロ入るだけで、敵からは、全く見えず、だが、小隊長は、敵の動


きを見ながら、馬を小走りに進める。


 この森は、一体、何処まで続くのだろうか、小隊長は、時々、敵の動きを見て


進み、小さな丘を、一つ、二つと越えたところで、其れは、今まで見た事の無い


大草原が現れ、大草原に入ったところに、小さな林が有り、其処には、大小のテ


ント数張りが有るのを発見した。


 「伝令が向かったのは、此処の様ですねぇ~。」


 小隊長と、隊員は馬を降り、草原に入った、草は、胸までも有り、この様子だ


と、近くまで行く事が出来そうだ。


 「君は、此処で待ってて下さいね、若しも、私が、見つけられたら直ぐに戻


り、将軍に伝えて下さい。」


 「はい、でも、小隊長、気を付けて下さいよ。」


 「はい、勿論ですよ、では。」


 第1小隊は、偵察専門としていたので、服も、草色に染めて有り、草原の中を


数ヒロも進むと、小隊長が、一体、何処に居るのかも分からないほどに同化し進


んで行く。


 隊員は、静かに見守るだけで、小隊長が向かって、どれ程の時間が過ぎたのだ


ろうか、草の中から、小隊長が突然の様に現れた。


 「さぁ~、直ぐに戻りましょうか。」


 「はい、で、如何でしたか。」


 「これは、大変ですよ、どうやら、敵の国王らしき、男性と、十数人の女性、


其れと、警護の兵士は、50人ほどでしたがね。」


 「えっ、では、敵は、総員で、我々の農場に。」


 「ええ、どうやら、その様ですねぇ~。」


 小隊長は、隊員と来た森の中に戻って行き、残った隊員が、監視を続けている


が、今だ、動く様子も無く。


 「小隊長は、遅いなぁ~、一体、何処まで行ったんだろうか。」


 「そうだなぁ~、でも、奴ら、何時になれば、動き出すんだろうかなぁ~。」


 「うん、全く、動く気配も無いからなぁ~、やはり、あの時、小隊長が、狼と


は友達ですよって言ったのが、本当だと思ってるんだろうか。」


 「いゃ~、あれには参ったよ、だって、誰も、狼が、傍にいる事も知らなかっ


たんだからなぁ~。」


 「オレなんか、あの後、身体中の震えが止まらなかったんだぜ。」


 「本当だよ、オレだって、一緒なんだから、だけど、小隊長って、本当に度胸


が有るよ、あんな事を平気な顔して言うんだからなぁ~。」


 「うん、あれじゃ~、誰だって本気にするよ。」


 「だけど、狼と友達って聞いた、あの兵士の顔、今でも覚えているよ。」


 「敵の中で、多分だと思うけど、その話しが伝わってるんだぜ、城壁の敵軍の


兵士達は、狼と友達だってね。」


 「いゃ~、オレは、狼とだけは、友達にはなりたくは無いよ、だって、あの鋭


い目付きで睨まれたら、いゃ~、オレは、考えるだけで恐ろしくよ。」


 小隊の兵士達は、話を続けながらも、顔だけは敵を見ている。


 其の様な話が数時間も続いたのだろうか。


 「小隊長が戻って着たよ。」


 「本当だ。」


 「皆さん、今から戻りますよ。」


 「はい。」


 小隊は、馬に乗り、急ぎ農場へと戻って行く。


 一方。


 「隊長、伝令で~す。」


 「分かった、代馬の準備は。」


 「はい、直ぐに。」


 「監視兵は、直ぐ農場へ。」


 「はい、了解しました。」


 城から、4番、3番、2番と鏡で合図を送った、其れは、今から、伝令が行く


と言う合図で有る。


 「将軍と、司令官に伝令が来ると。」


 「はい、中隊長。」


 農場本体では早くも伝令の到着を待っている、伝令は、城で馬を乗り換え、そ


のまま、城壁の外を飛ばして行く。


農場本体の門は、伝令の動きで開くのだ、その数時間後。


 「お~い、開門、伝令が入りま~す。」


 農場に入った伝令は、そのまま、ロシュエ達が待つ執務室の前まで行き。


 「伝令です。」


 「お~、ご苦労だったなぁ~。」


 「はい、報告します。」


 伝令は、小隊長の言葉通りを伝えると。


 「ご苦労さん、で、其れだけかよ~。」


 ロシュエは、知っている、小隊長は、必ず、伝令には、伝える言葉とは別に、


隊員が見た事実を伝える様にと。


 「はい、私が、見たところでは。」


 隊員が、話終わるまで、ロシュエも、将軍も、司令官も、一切、口出しせず。


 「以上です。」


 「そうか、で、暫く休んでから戻るのか。」


 「はい、でも、私は、直ぐにでもと思っているんです。」


 「だがよ~、君の報告だと、小隊長達も戻って来ると思うんだ、急いで行く必


要も無いと思うんだぜ。」


 「はい、でも。」


 「陛下、第1、第2大隊と同行させれば如何でしょうか、まぁ~、道案内と言


う事にでもすれば。」


 「私も、其れが良いと思いますねぇ~、大隊も助かると思いますよ。」


 「そうだなぁ~、将軍と、司令官の言う通りだなぁ~、じゃ~、よ~、道案内


と言う事で、まぁ~、其れまではのんびりとする事だなぁ~。」


 「はい、承知しました、では、私は。」


 隊員は、宿舎に戻る前、大食堂に向かった。


 「陛下、其れにしましても、敵の動きが読めないですねぇ~。」


 「オレはよ~、小隊長の脅かしが効いたと思うんだ、だってよ~、狼が仲間の


死体をだ、食べるってよ~、其れも、目の前でだぜ、オレは、其れより、小隊長


の度胸だと思うんだ、狼が友達だって言われて、あ~、そうですかって、そんな


事言えるか、オレは、あの目が恐ろしいんだ。」


 「私も、小隊長の言葉が、敵の進軍を遅らせていると思いますねぇ~。」


 「司令官、オレは、小隊長の敵にはなりたくは無いよ。」


 ロシュエは、おどけた顔で言うが、将軍も、司令官も笑う気持ちには無い。


 敵もだが、ロシュエにとっても、狼の存在は、最大の難敵だ、その難敵の狼を


友達だと、小隊長が持って帰る情報が、今回の戦を左右するとは、この時、誰が


予想しただろうか。


 そして、第1、第2大隊が出撃する当日の朝。


 「中隊長、偵察の、第1小隊が戻ってきま~す。」


 「了解、開門だ、直ぐに開門せよ。」


 第1小隊が農場の飛び込んで来た。


 「司令官は。」


 「お~、こっちだ。」


 「将軍も居られますから。」


 「勿論だ、陛下もお待ちだ。」


 小隊は、着くと直ぐ執務室に入り。


 「陛下、大変、重要なお知らせが御座います。」


 小隊長は、少し興奮した様子だ。


 「おい、おい、一体、何があったんだよ~、小隊長が興奮するとは。」


 「陛下、其れが、大変な事が分かりました。」


 その後、小隊長が説明を始めると。


 「えっ、何だと、敵の国王らしき人物が居るだと。」


 ロシュエも、興奮した、正か、敵は、軍隊だけが来ると思っていたのが、国王


までもが来るとは、その国に、一体、何が起きているのか、其れが分からない。


 「だがよ~、小隊長、確かに国王なのか。」


 「はい、私も、姿を確認しましたが、あの服装は軍人では有りません。


 其れに、十数人の若い女性も居りましたので、多分、あの女性は、侍女だと思


います。」


 「まぁ~、小隊長が見たんだから間違いは無いと思うんだが、だがよ~、普


通、そんな事は考えられるのか、軍隊と一緒に来るとは。」


 「陛下、私達が予想した事とは全く別の方向に。」


 「うん、そんな事が、だったら、余程、重大な事件でも起きたのか、其れと


も、他の理由が有り、国王、自らが出陣したと考えられるんだがなぁ~。」


 「投石器の動きも止まっておりましたが、私が、現地を離れる時にも、歩兵の


動きは無く、異常なほどでした。」


 「だがよ~、考え方を変えるとだ、投石器ってのが、余程、重いんだとすれ


ば、歩兵を休ませねば、その丘を登れ無いって事になるぜ。」


 「はい、私も、其の様に思います。」


 「陛下、作戦を変更しましょう。」


 「えっ、ロレンツ、また、お前、何か思い付いたなっ。」


 「はい、分かりましたか。」


 「お前の顔に書いて有るよ、で、一体、何を、思い付いたんだ。」


 「はい、小隊長の報告では、国王らしき人物がテントに居るのであれば、生き


たまま捕獲しようと。」


 「ロレンツ、お前の考える事だ分かったよ~、だがよ~、その前に騎馬兵は、


一体、どうするんだ。」


 「勿論、全員を殺しますよ、騎馬兵は正規軍ですから。」


 「陛下、私も、同じ考えで御座います。


 ですが、司令官は、どの様な作戦を考えておられるのですか。」


 「はい、小隊長の報告では、次の丘は、長い登りに成ると、其れで有れば、何


度も、馬を交代させると思います。


 私は、登りの半分くらいになれば、攻撃に入ると。」


 「じゃ~、馬を放した時にか。」


 ロレンツも、分かっていた、長い登りになれば、馬もだが、歩兵も、何度か交


代させるだろうと、だが、10台の投石器を一斉に交代させる事はしないだろう


と、多少の時間差は有ると、では、どの時点で攻撃に入るのか。


 「司令官、ですが、10台もの投石器の馬を、一斉に交代させるでしょうかね


ぇ~。」


 「はい、其れは、承知しております。


 私は、10台も、一斉に交代させるとは思っておりませんので、1台でも、2


台でも交代すればよいのです。」


 「ですが、10台の内、1台や、2台では大きな影響は無いと思いますが。」


 将軍は、せめて、半分の5台でも攻撃出切れば、成功だと考えている。


 「将軍、私が、何故、1台か、2台と言ったと思われますか、私は、馬より


も、歩兵達の心理を考えたのです。


 例え、1台でも攻撃されたとなれば、歩兵達は、進む事よりも逃げる事を考え


ますから。」


 「司令官、私も、同じ作戦を考えておりました。」


 「小隊長もですか、では、同じ方法だと言う事になりますねぇ~。」


 ロレンツは、この時、最初の命令は、小隊長に任せようと思った。


 小隊長ならば、どの付近で攻撃に入れば、効果的なのかを知っていると。


 「小隊長、では、この作戦開始命令をお願いしますね。」


 「えっ、自分にですか、でも、何故、自分なんですか。」


 「小隊長は、偵察任務が専門だとでも言いたいでしょうがね、時として、私


や、将軍が命令を出すよりも、現地の状況を一番良く知っている人物、其れが、


小隊長です。


 的確な判断の下、命令を出せば、最大の効果が上がりますからね。」


 「小隊長、オレも同じだ、オレや、将軍は、此処で、小隊長の報告を聞いて、


頭の中で現地の状況を想像するだけなんだ、だがよ~、小隊長は、全てを知って


いるんだ、その事の方が大事なんだ、わかったか。」


 「はい、承知しました。」


 小隊長は、思わぬ大役を受けたので有る。


 「なぁ~、小隊長、何も考えず、君の判断で行なってくれよ、其れに、余り、


深刻に考えるなよ。」


 「はい。」


 「其れにしても、思わぬ収穫だなぁ~、オレだったらよ~、軍服を着るがなぁ


~。」


 「陛下とは違いますよ、私も、考えたのですが、その敵軍は、一体、何処から


来たのでしょうか。」


 「将軍、彼らの軍服ですが、相当頑丈といいますか、分厚い布で作られており


ました。」


 「分厚い布だとすれば、北の方からですか。」


 「はい、私達、小隊は、敵の偵察隊の服が分厚いと感じましたので。」


 「陛下、この付近も雪が降り寒く感じましたが、今は、暖かいですし、そろそ


ろ、熱くなる頃だと思いますが、今頃の時期に其の様な分厚い布地の軍服を着て


いるとすれば、私が、以前、城で聞きましたが、北の国では年中寒いと。」


 「将軍、何だと、そりゃ~、本当なのか、じゃ~、その国では作物は、あっ、


そうか、奴らは、作物の収穫が少ないか、育ち難い国なんだ、だから、この農場


から作物を奪うつもりなのか。」


 「其れが、誠ならば、我々は、どの様な事が有ったとしても、戦に勝利しなけ


ればなりませんねぇ~。」


 「其の通りだ、司令官、お前が考えた作戦で、その国王って奴を捕獲した後も


任せるぜ。」


 ロレンツ司令官はニヤリとした、一体、どんな方法を使って、国王だと言われ


る人物を捕まえると言うのだ。


 「当番さんは。」


 「はい、ご用事で。」


 「悪いんだが、第1、第2大隊の隊長と、第1中隊の中隊長を呼んで下さ


い。」


 「はい、承知しました。」


 ロレンツ司令官の動きは早く、直ぐ行動に入った、暫くして。


 「陛下、お呼びでしょうか。」


 「オレじゃ無いよ、司令官が呼んだんだ。」


 「えっ、では、作戦の変更ですか。」


 「少しだけど、今から、簡単に説明しますがね、第1中隊だけは、別の行動に


入りますので。」


 其れから、司令官が説明するのだが、驚いたのは、第1中隊の中隊長で。


 「えっ、では、自分達だけで、その国王と言う人物を捕まえるのですか、で


も、抵抗すれば殺しても。」


 「いゃ~、多少の怪我はいいが、殺しては駄目なんですよ。」


 「はい、何か、訳が有りそうですが、自分は聞かない事にします。」


 中隊長は、司令官が、何を考えているのか知らないが、殺す事は簡単だが、司


令官は殺すなと言ったのは、訳が有るはずだ、何れにしても、後の楽しみにでも


と考えたので有る。


 第1、第2大隊の隊長は、ロレンツ司令官の命令と言うよりも、指示を聞き、


その数時間後、第1小隊を先頭に出発した。


 ロシュエは、ロレンツ司令官の作戦が成功する事を願い。


 「ロレンツ、全員、無事に帰らせてくれよ。」


 「はい、陛下。」


 第1、第2大隊は、城壁内を通らず、城外を小走りで向かった。


 「なぁ~、将軍、さっきの話しなんだが、敵は、寒い国から此処まで来るとは


相当な覚悟で国を出たと思うんだ。」


 「はい、私も、先程から考えておりましたが、では、何故、領民と一緒に国を


離れなかったのでしょうか。」


 「うん、オレも考えたんだが、オレが、駐屯地を離れた時と良く似ていると思


ったんだ、だがよ~、国王が、自ら離れると言うのは簡単な話じゃ無いと思うん


だ。」


 「ですが、何故、此処まで来たのでしょうか。」


 「其れは、オレにも分からないが、北の国とは、そんなに寒いのか。」


 「私も、聞いただけですので、其れ以上は分かりませんが。」


 「で、だよ、ロレンツがだ、敵を破り戻って着たらだ、オレも、一度、その大


草原ってのを見たいんだ。」


 やはり、ロシュエは、考えていた、大草原で、大量の作物を作れる事が出来る


のならば、城から、南側を開墾すれば、農民も楽になるだろうと。


 第1小隊を先頭に、第1、第2大隊は、2番、3番、4番農場の前を抜け、や


がて、城を通り過ごし、其処からは、南へと方向転換し、数日後。


 「1番大隊は、左翼へ、2番大隊は右翼へ、第1中隊は、指示とおり、森に入


り、敵の国王と思われる人物を確保せよ。」


 2大隊は、一斉に横一線に並び、小隊長の合図を待っている。


 第1小隊は、馬の誘導を行なう地点まで移動し、小隊長の合図を待っている。


 小隊長は、草地に身を隠し、敵の動きを監視しているが、敵の動きは殆んど無


く、やがて、夕刻を迎え。


 「司令官、予定地点までは数日掛かると思われます。」


 「よ~し、分かった、全員、一度、元の位置に戻す事に。」


 「はい、私は、このまま、もう少し近くまで行きます。」


 「小隊長、無理はするなよ、発見されると大変ですからね。」


 「はい、では。」


 小隊長は、薄暗くなり始めた草地を敵陣近くまで進んで行く。


 やがて、敵陣近くで、数人の兵士達の話し声が聞こえる地点まで来た。


 そして、話の内容からすると、明日の早朝から移動を開始すると言う。



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