第 116 話。報告するも冷や汗の連続。
正太の仲間が掘っていた粘土を搬出していた洞窟が突然向こう側に出た、其処を源三郎と工藤が通り抜け上野の駐屯地へと。
「小隊長、総司令は本当に大丈夫なんですか。」
「其れならば大丈夫ですよ、総司令と言うお方に挑む様な馬鹿はおりませんよ。」
「でもそれって連合国の中での話で、外では誰も知りませんよ。」
日光隊の兵士は源三郎と工藤だけで大丈夫なのかと心配して要るが。
「総司令は参謀長殿に本当の事を申されるのですか。」
「実を申しますと、私も決断出来ておりませんで、上野さんとの話で答えを出そうと考えて要るのです。」
其れは工藤も同じで、上野がどの様な考え方を持って要るのかを確かめてからでも遅くは無いと思って要る。
源三郎と工藤は色々な問題も有るが、日本国の将来の為には今が決断の時だと考えており、駐屯地、いや軍港建設現場へと向かった。
「若しや、司令長官殿では。」
駐屯地の門の当番兵は驚きの表情で聞くと。
「私は源三郎です、上野さんは居られますでしょうか。」
「はい、直ぐに。」
と、言って大慌てで執務室へ飛び込むと、上野は血相を変え飛んで来た。
「司令長官殿が一体如何されたのですか、突然の。」
「大変失礼しました、私は何も上野様を驚かせるつもりは無かったのですが。」
暫くして上野も息が整ったのか。
「此処では何ですので、宜しければ私の部屋へ。」
上野が前を歩き、源三郎と工藤が続き、部屋に入ると三人だけが座り、他の者は出た。
「司令長官殿には一体何が有ったのでしょうか、若しやとは思いますが。」
「先程も申しましたが、私は何も上野様を驚かせるつもりは無かったですが。」
と、源三郎は上野の表情を見ており。
「ですが、突然にも、其れもお二人だけで来られたとなれば、他の部隊が攻撃をと考えるのが普通では御座いませんか。」
上野が疑問を抱くのも無理は無く、以前ならば二人の他に小隊、いや中隊規模の兵が同行していたからだ。
「総司令。」
と、工藤は頷き、話をしても良いだろうと言う合図だ、だがその前に上野が話し始めた。
「司令長官殿、実は数日前の事ですが。」
と、本藤と言う幼馴染が資材部の最高責任者となり、上野が要求する全ての資材を送れと命じ、更に上野の息子が海軍への転属が決まったと話した。
「左様では御座いましたか。」
「其れで私は司令長官殿にご相談もせずに鉄板やその他、軍艦に使用する資材を送れと申して置きましたが。」
上野は自己判断だと言うが、源三郎に取ってはこれ程都合の良い話は無い。
「実を申しますと、我が連合国では今潜水船基地を造成しておりまして、ですが一番の問題でも有る鉄板やその他の資材をどの様に調達すれば良いのかがわからず、其れでご相談をと思っていたので御座います。」
「えっ、今、何と申されましたか、私の聞き違いで無ければ潜水船と聞こえたのですが。」
上野は目を白黒させ驚きの表情で有る。
「確かに潜水船と申しましたよ、実はですねぇ~、我が連合国の技師長が考案したのですが、今は木造の潜水船でして、其れを鉄で建造し、ロシアの大艦隊を撃破出来ないと考えて要るのです。」
「ですが、私に入った情報ですと、軍艦は巨大で、しかも備えて要る大砲も巨大で遠方から砲弾が飛来すると。」
その様な話は上野だけで無く、源三郎も工藤も聞いて要る。
「我々も同じ情報を得ておりまして、ですがロシアの大艦隊を撃破する為には潜水船を建造しなければならないのです。」
「今申されました潜水船ですが、一体どの様な軍艦なので御座いましょうか、私は全く理解出来ないのですが。」
上野が理解出来ないのも当然で、幾ら上野が参謀長だと言っても、げんたが考案した潜水船を理解する方が無理で有る。
「まぁ~簡単に申しますと、船が海の中に潜り進むのです。」
「えっ、何ですと、船が海中に潜るとですか、ですが。」
「実は私も最初に伺った時には全く理解出来なかったのです。
ですが実際私の目前で潜り、そして、暫くして浮上して来たのです。」
工藤もその後説明するが、上野には全く理解出来る様子は無い。
「潜水船のお話しは何れの時期が来れば詳しく説明させて頂きますが、その前に今我々が建設しております潜水船基地に資材を運ぶ手段が出来たのです。」
「司令長官殿は軍艦の資材がどれ程の重量かご存知無いのですか、鉄板一枚が二百貫以上も有るのですよ。」
「ほ~二百貫以上ですか、成保ねぇ~。」
と、源三郎は左程驚きもしないが。
「えっ、司令長官殿は何故驚かれないのですか、軍艦を建造する為には重量の有る機械も設置しなければならないのですよ。」
「上野様には誠に申し訳有りませんが、今申されました機械も手配して頂けますでしょうか。」
何と、源三郎は重量の有る機械までも手配して欲しいと言うが。
「私は手配することには別に反対は致しませんが、ですが一体どの様にして運ばれるので御座いますか、以前の話ですと連合国の入り口に行くまで二日以上も掛かると伺っておりましたが、若しも、若しもですよ、他の部隊に発見されますと、お困りになられるのでは御座いませんか。」
上野は鉄板や機械を運搬する方法が有るのか、だが其れよりも若しも他の部隊、其れは今の日本陸軍もだが、旧幕府の残党か野盗の集団に襲われたならば多くの犠牲者が出ると思って要る。
「実は本日お伺いしましたのは、今申されました運搬方法の事なのです。」
源三郎は考えながら話し始めた。
「では新しい方法が見付かったのですか。」
「はい、我々潜水船基地を建造する為には内部を補強する為に大量の粘土が必要になりましてね。」
その後も詳しく説明すると。
「ではあの高い山を掘り抜かれたのですか。」
上野は余りにも衝撃的な話に驚きよりも唖然として要る。
其れと言うのも上野にすれば潜水船なる初めて聞く軍艦と、其れを建造する為の基地が、今日本海軍が建造中の軍港が直ぐ近くで進められて要ると言う事、更に基地建設に必要な大型の連岩を造る為に粘土の搬出を行っていた洞窟が突然向こう側に出た、その場所が日光隊と月光隊が待機場所近くに出たので有る。
その後、源三郎は運ぶ手段として十二頭立ての超大型の馬車が有り、本道からは五寸厚の角材で道を補強すれば大丈夫だとの説明に一時以上も掛けた。
その後、上野と工藤を含め三者で話し合い、超大型の荷馬車が通り抜ける大きさになるまでは道路に角材を敷き詰め、だが他の部隊に発見されない様に工事を行う事で一致し、工事はその後、数日後に開始されたが粘土の搬出作業を行って要る為にその後も半年後に要約開通した。
「正太さん、基地建設状況ですが、何処まで進んで要るのですか。」
「今は岸壁造りに掛かっております。」
「連岩は足りて要るのですか。」
「其れだったら大丈夫ですよ、あの洞窟の直ぐ近くにもう一本採掘出来る所が見付かったんで、今は其処からも採掘を始めました。」
やはり連岩が足りなかったのだろうか、そして、数日後から駐屯地に集められた資材を山賀の地下で行われて要る潜水船基地建設に使用する為の搬入作業が開始された。
そして、最初に搬入されたのが基地内で最も重要な設備で有る大型資材を天井近くに設置する吊り上げ機で、これが完成すれば重量物も移動が楽になり、潜水船建造に使用する鉄板も楽に運ぶ事が出来る。
「ねぇ~若様、源三郎様って本当に物凄いお方なんですねぇ~。」
正太は源三郎が取った方法に呆れ返って要るが。
「私は別に驚きませんでしたよ、だって日頃の義兄上ならばあれくらいの事は普通ですから。」
若様は何時もの事で、左程驚く事では無いと思って要る。
若様も驚きは隠せず、やはり源三郎と言う人物は一体何を考え、何時どの様な突飛な考えで行動を起こすかわからないと思って要る。
そして、一年半後には連合国で、いや世界で最初とも言える潜水船の建造に漕ぎ付けたので有る。
「技師長、これからは貴男が最高責任者ですよ、どんな事をしてでも完成させるのですよ、其れが連合国の、いや日本国の領民が生き残れる為なのですからね。」
と、源三郎の真剣な表情にげんたは何も語らず、ただ頷くだけで有る。
「銀次さんも明日からは大変ですが、何卒宜しくお願い致します。」
と、源三郎は改めて銀次に頭を下げた。
「オレ達全員が源三郎様は命の恩人だと思ってますんで、そんな水臭い事は止めて下さい。
オレ達全員はこの一年で鋲の打ち方もしっかりと学びましたんで、どんな事が有ってもげんたの、いや技師長の考えた潜水船を完成して見せます。」
銀次と仲間が源三郎とげんたに頭を下げた。
「ねぇ~親分、江戸に居た頃の様に言って下さいよ。」
「いいや、オレはもう銀龍一家の親分でも無いし、みんなも同じなんだ。」
「だけどなぁ~、オレにはやっぱり、あの頃の事が懐かしいんですよ。」
「いいや、駄目だ、其れに銀龍一家は既に無くなってるんだ。」
「まぁ~まぁ~銀次さん、そんな固い事を言わずに宜しいでは有りませんか、私も是非聞いて見たいのですがねぇ~。」
やはりだ、源三郎は銀次が銀龍一家でどの様な指示を出していたのか聞きたいと思った。
「はい、じゃ~今から三つの組を。」
「親分、出来てますよ。」
「じゃ~並んで。」
「其れも終わってますんで。」
「だったらオレの言う事は無いのか。」
「まぁ~そう言う事ですよ。」
銀次は嬉しかったのか、仲間が腹を抱えて大笑いするのを見ていた。
「銀次さんにお任せしますのでね、後は宜しくお願いします。」
「じゃ~明日から始めますんで。」
「何もそんなに急ぐ事は有りませんよ、何事に置いても準備を怠ると失敗しますのでね、其れに親方の協力も必要ですからね。」
源三郎は何時もの様に急ぐなと言うが。
「でも早く造らないとロシアの赤。」
「まだ大丈夫ですよ、物事を慌てるとろくな事は有りませんからね、親方と工藤さんからも協力を得る事の方が大切ですよ。」
銀次にすれば一日でも早く工事に入りたいのだろうが、やはり無理をする必要も無いと言われた。
「じゃ~源三郎様の言われる通りにしますんで。」
建造現場での総指揮は工藤が執り、銀次達の他に連合国軍の中から数百名を集め、数日間の話し合い、いや説明に入った。
一方、ロシアでは超大型の軍艦の建造計画は進んで要る。
だがこの国では何をするにも賄賂が必要で、幾ら政府の役人が国家の非常事態だと説明しても、今は国民の協力が不可欠だと必死で言ったところで、「その原因を作ったのはお前達役人だ、先に代価と食べ物を出さなければ一切動く気は無い。」 と、領民の殆どは動く気配さえも無く、更に資材の殆どが調達出来ずに要る。
海軍大臣は正かその様な事態になって要るとは報告する訳にも行かず。
「皇帝陛下、お喜び下さい、国民はこぞって造船所に駆け付け、日夜の関係無く仕事をしておりまして、皆は皇帝陛下をお助けするんだと申しております。」
「左様か、余も大変嬉しく思うぞ、如何じゃ、余が造船所に参り直接礼を申しては。」
「飛んでも御座いません、陛下はご存知では御座いませんが、一か所の造船所に参られますと、他の造船所に参って頂かなければならず、軍艦の建造しております造船所だけでも十数か所、更に付属の工場も含めますと、百か所以上も有り、現場に参って頂くだけでも片道が数十日も掛かりますので、私の方から全ての工場と造船所に皇帝陛下のお気持ちをお伝え致して置きますので、陛下は此処で吉報をお待ち頂けるだけで十分で御座います。」
海軍大臣は苦し紛れの言い訳で、だが皇帝は説明を受け大変満足した様子で。
「左様か、余も国民がその様に考えて要るとは全く考えていなかったが、やはりその方が申す通りじゃ、余が余り出しゃばると他の者に迷惑が掛かる、余もその方が申す通り此処で静かに吉報を待つ事に致すぞ。」
海軍大臣は冷や汗の連続で、だがこの様な言い訳は何時までも続ける訳にも行かず、何か策を講じなければと考えるが、今は何も浮かばないので有る。
その頃、各国の武官達はロシア各地に潜入し情報集めに入っており、有る武官は工員の姿に、他の者達も同様で町民や農民の姿に変えて要る。
やはり此処でも一番情報が乏しいのはロシア皇帝なのかも知れない。