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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 114 話。 正かそんなにも早く。

 あれから三年半が経過し、日本国内でもロシアとの戦争は何としても避けるべきだと言う論者と、いいや日本国をロシアの植民地にさせない為にも戦争はやむなしと言う論者が国中で論戦を繰り広げており、だが次第に戦争突入は避けられないと言う空気が大勢を得る様になって来た。


 その少し前。


「お~い、みんなオレの話を聞いて欲しいんだ。」


「何だ、何だよ、一体何が有ったって言うんだ。」


 と、言って十人、二十人と、やがて五十人程の民衆が集まって来た。


「なぁ~一体何が有ったのか知らないが、お前の話しってそんなにも大事なのか。」


「そんなの当たり前だよ、って言うよりもだ、オレ達が住んでる日本と言う国だが、ロシアって言う国の赤鬼野郎が襲って来てだよ、オレ達の日本国をロシアの植民地にしようって企んでるんだぜ。」


「おい、おい、ちょっと待てよ、え~今何て言ったんだ、ロシアの赤鬼野郎達がだよ、オレ達の住んでる国を襲って来るって聞こえたんだけど、正かって思うけど、今の話って本当なのか。」


 彼の周りに居た民衆の驚き様は恐ろしい程で、殆どの人達の動揺は恐ろしい程激しく、暫くは収まる事も無く、あちこちで民衆は次第にロシアの赤鬼を退治するんだと気勢を上げて要る。


「諸君、私の話を聞いて欲しいんだ、諸君はロシアの赤鬼を退治するんだと簡単に言うが、その赤鬼って言うのが七尺以上も有る大男ばかりなんだぞ、其れに奴らの全員が鉄砲を持っており、其れにだ軍艦には大きな大砲を備えており、諸君が赤鬼野郎を退治するって簡単に言うが、そんな簡単に済む話しじゃないんだぞ。」


「だったら、オレ達は何も出来ないって言う事なのか。」


 集まった民衆の思いは誰もが同じで、だが彼の言うロシアの赤鬼は鉄砲を持っており、民衆が言う様に簡単にやっつける事は出来ないので有る。


「じゃ~一体どうやれば奴らに勝つ事が出来るんだよ、なぁ~オレ達にも教えてくれないか。」


「その通りだよ、オレ達はこのまま黙って見逃す訳にも行かないんだから。」


「オレには妻や子供も居るんだぜ、だからどんな事をやっても奴らから家族だけは守るんだ。」


 と、民衆は大声で叫び始めた。


「諸君の気持ちは何処でも同じだ、私は赤鬼野郎から家族を守り、いや日本を守る為に軍隊に入るのを進めて要るんですよ。」


「だけどなぁ~、オレが軍隊に行ったら家族はどうして食べて行くんだ。」


「その通りだ、オレだってあんたの話は理解出来るよ、だけどなぁ~。」


 多くの民衆は軍隊に入る事には何も拒否して要るのでは無く、ただ残された家族の事が心配だけだど思って要る。


「そうだよ、オレだって何も赤鬼が襲って来るのを黙って見てる程馬鹿じゃ無いんだぜ、オレは奴らを血祭りに上げてやりたいんだ、だけどなぁ~残された家族の事が心配なんだ。」


「其れに関しては私も同じ気持ちなんです。


 ただ今回は日本政府も全面的に支援すると言っておりますので心配される事は有りませんよ。」


 彼は一体何処から日本政府が全面的に支援すると言う情報を得たので有ろうか、情報の出所がはっきりとしないので有る。


「だけどなぁ~、もうこれは昔の話だけど官軍も同じ様な話をしてたけど、やっぱり官軍の話しは全部とは言えないけど大嘘ばっかりだったんだぜ。」


 その様な話は大小の城下に関わらずで日本国中で有った。


「私もその話は伺っておりますよ、ですが今回の敵と言うのは幕府では無く、ロシアと言う欧州でも一番の大国でしてね、日本政府は必ず約束は守ると言っておりましたよ。」


「なぁ~あんたの話はわかるけど、あんたは政府のお役人なんですか。」


 集まった民衆を納得させる為には何か確約が必要で、だが其れも何の保証も無く、この人物の言葉を信じるしか無いのだろうか。


「私は政府の役人でも無く、かと言って帝国議会の議員でも有りませんよ、ですが私が議会での議論を傍聴して要る時でしたが、今の話が有りましてね、日本政府は必ず約束を守ると回答しております。」


 役人でも帝国議会の議員でも無い人物が兵士を集めるんだと、そして、どんな方法を取ってでもロシアとの戦争に勝利しなければ日本の未来は暗闇の中で生きて行かなければならず、其れこそお先が真っ暗闇だと言う事に成る。


「じゃ~あんたも兵隊に志願するのか。」


「其れならば勿論でしてね、此処でのお話しが終わり次第陸軍省に参りますよ。」


「そうなのか、でもなぁ~、オレは今直ぐに答える事は出来ないんだ。」


「オレもだよ、やっぱり家族との話し合いが要ると思うんだ。」


「そうだよなぁ~、オレも家族を守る為だったら兵隊に行きたいんだ、でもその前に母ちゃんにも話をしないとなぁ~。」


 と、殆どの民衆は今直ぐには答えは出せないと、其れは初めから予想された事であり、其れでも話が終わると民衆は自宅へと戻って行く。


 大都市や地方都市の民衆には今後も説明は続けなければならないが、其れよりもっと深刻なのが農村や漁村で当時は農村でも漁村でも働き手を多く必要としており、五人や六人兄弟は当たり前で、特に農村部へ行くと七人や八人の兄弟も珍しく無かった。


 だが農村や漁村では今でも幕府時代の風習とでも言うのか、家を継げるのは長男だけと決められており、次男や三男の男達には嫁を貰う事も出来ない程に貧困で、だが其れでも運が向いた男も居ると言う、其れでもその様な話は殆ど無く。


 例えば有る農家の三男が隣村で娘だけの農家が有るのをしり、両親と名主が話を持って行くが、娘の両親は娘はまだ子供の頃に同じ村の次男を婿養子にする事が決定しており、今回の話は無かった事にして欲しいと言う。


 その様な話は日本国中の農村や漁村で有り、農家の長男以外は殆ど外に、其れは村を離れると言う事になり、その殆どが軍隊に入るが、農村からは陸軍へ、そして、漁村からは海軍へと、其れは自然的に決定されて行った。


 やがて半年が過ぎた頃。


「あんちゃん、山賀に行くけど一緒にどうだ。


 げんたは源三郎と一緒に山賀へ行くと誘いに来た。


 源三郎は工藤を呼び、そして、明くる日の早朝山賀へと向かうが、勿論、鈴木や上田、更に吉田も加わって要る。


「技師長が考案した海中爆裂弾も数本が完成して要ると思いますが。」


「多分だけど五本は出来上がって要ると思うんだ。」


「そうですか、後は潜水船の完成を待つのみですか。」


 山賀の秘密基地の工事も進んであり、上野の協力により数日の間に数枚づつだか鉄板が運び込まれて要る。


「若様、大変だ。」


 と、正太が飛び込んで来た。


「正太さん、そんなに慌てて一体何が起きたんですか。」


「其れが大変なんですよ、北側で粘土の搬出してたんですが、先端が向こうまで行ったんですよ。」


「えっ、先端が向こう側に突き出たと言う事なのですか。」


 若様も正かそんなにも早く向こう側に出るとは考えていなかった。


 潜水船基地を建造する為には大量の粘土が必要で、しかも大きな連岩が必要とされ、連日休み無く粘土の搬出作業が行われ、その先端が向こう側に出たと言うので有る。


「分かりました、私も直ぐに参りますが、兵隊さんも一緒の方が良いと思いますので、誰か駐屯地に行って事情を話して数人の兵隊さんを連れて来て下さい。」


 若様が話し終わると同時に数人が部屋を飛び出して行った。


「其れで少し聞きたいんですが、向こう側ですが一体どの付近ですか。」


「其れなんですが、巨大な岩が有るって言ってましたが。」


「えっ、巨大な岩って、若しかすれば日光隊と月光隊が知ってるかも知れませんよ。」


「じゃ~何時も待機場所にされてる大岩って所なんですか。」


 日光隊と月光隊は今も大岩を待機場所として使用しており、多分今も居るはずだ。


「大変ですよ、大岩には日光隊と月光隊が待機場所と使用されておりますが、若しかすれば待機中かも知れませんよ。」


 その時、数人の兵士が入って来た。


「若様が大至急だと伺いましたが。」


 若様と正太、そして、数人の兵士と一緒に北側の粘土の搬出現場へと向かった。


「誰か居る様だけど。」


「そうだなぁ~、だけど此処からははっきりとは見えないんだ。」


 先端部分は少しだけ穴が開いており、草や木の葉で覆われており全てを見る事は出来ない。


 現場に到着した若様は大きく開かれた搬出用の洞窟に入って行き、やがて先端部分に着くと。


「此処が最先端なのですか。」


「あっ、若様が来られたぞ。」


「今は少しだけしか開いてはおりませんが、穴の向こう側に巨大な岩が有って、其処に誰かが居る様なんですが。」


「分かりました、私が出て行きますので。」


「えっ、でも若しか官軍が居るかも知れないんですよ。」


 正太は余程官軍が嫌いな様で、だが若様は正太の言う事を無視するかの様に穴から出て行った。


「やぁ~皆さん、偵察任務、大変ご苦労様です。」


「えっ、何で若様が此処に来られたのですか、其れもお一人で。」


 小隊長もだが、日光隊の兵士は突然現れた若様に驚きの表情で有る。


「私は何も皆さんを驚かせる為に来たのでは有りませんのでね、実を申しますと。」


 若様はその後、正太の仲間が潜水船基地建設の為に日夜休む事も無く粘土を搬出し、其れが突然先端部分が突き出たと説明した。


「左様で御座いましたか、其れならば若様が来られたのが納得出来ます。」


 その時、正太達が出て来た。


「なぁ~んだ、此処は日光隊と月光隊が待機してる所だったんですか、仲間は官軍が居るかも知れないって、其れで若様に来て頂いたんですよ。」


 正太と仲間は一安心した表情で有る。


「ですが、これは大変な事ですよ。」


「ねぇ~若様、一体何が大変なんですか、中にはまだ粘土が有るんですよ。」


 若様は大変な事だと、だが正太達はこの洞窟もこれから粘土の搬出作業が有ると言うが、若様は何かを考えて要る様だ。


「高木さん、大急ぎで義兄上に知らせ、お越し下さいと。」


「承知致しました、では早速に。」


 と、高木は大急ぎで戻って行った。


「自分達は今後もこの場所を待機場所にと考えて要るのですが。」


「私も小隊長のお気持ちは理解しておりますが、其れも含めて義兄上のご判断を仰ぎたいと考えております。」


 小隊長もだが若様も粘土の搬出作業現場で先端部分が正か大岩の近くで突然付き出た事に驚きと、何やら他の事にも関係して来るのでは無いかと考えて要る、


 そして、二日後、源三郎と工藤と吉田がやって来た。


「義兄上、私も突然の事で驚いて要るのです。」


「其れならば私も同じで、高木さんも大変興奮されておられましたよ、其れにしても正かその様な事が起きるとは、正太さんも信じておられなかったと思いますねぇ~。」


 その時、正太が飛び込んで来た。


「源三郎様。」


「其れにしても正太さんも大変ですねぇ~。」


「まぁ~そうなんですけど、源三郎様は他に何かに利用されるんですか。」


 源三郎もだが工藤は野洲を出発した頃より何かを考えて要る様だ。


「正太さんにお伺いしたいのですが、洞窟の内部はどの様になって要るのですか。」


「え~っと、確か高さが三間で幅が五間ですが、其れが何か。」


「総司令、十分使用出来ると思います。」


「やはりですか、工藤さんも同じ事を考えておられたのですか。」


 源三郎と工藤は同じ事を考えていたと、だが一体何を考えて要ると言うのだ。。


「義兄上は一体何を考えてられるんですか、若しやとは思いますが。」


 若様も同じ事を考えていたのだろうか。


「ねぇ~、若様も源三郎様も一体何を考えておられるんですか、オレにもわかる様に話して欲しいんですが。」


「そうでしたねぇ~、正太さんも知りたいと思っておられますから説明しましょう。」


 源三郎は正太が理解出来る様に説明すると。


「えっ、そんな事を考えてたんですか、だったら一刻でも早く搬出を終わらせる必要が有るんですよねぇ~。」


「まぁ~ねぇ~、ですが当分は最先端の穴は広げずに粘土の搬出を優先して頂きたいのです。」


 源三郎は穴は広げない様にと言うが、正太にすれば早く終わらせる方が良いと思って要る。


「でも何でですか、オレだったら早く作り、向こうから資材を入れる方がいいと思うんですが。」


「正太さんのお気持ちは大変嬉しいのですが、その前に話をしなければならないお方が居られますのでね、そのお方との話が一致すれば工事に入れると思いますよ。」


 正太にすれば一体何を話す必要が有るのだと思うが、源三郎は日本政府、いや陸軍や海軍に連合国の存在を知られる方が最も恐ろしく、下手をすれば理由を付け攻撃されるやも知れず、其れでも何れの時が来れば存在を知られる事になり、多くの領民が戦争に巻き込まれ、多くの犠牲者を出す事になるだろう、だが今は何としても知られる事だけは防がなければならないので有る。


「では工藤さん早速参りましょうか。」


「はい、勿論で。」


 と、源三郎と工藤は正太の案内で粘土の搬出作業が行われて要る洞窟へと入って行く。


「これは大変素晴らしいですねぇ~、これだけの高さと幅が有れば、もう十分で御座いますよ。」


 工藤は一体何を考え十分だと言う。


「ええ、私も同じ様に思いますねぇ~。」


「源三郎様も工藤さんも一体何が十分なんですか、オレには全然わからないんですが。」


 正太もだが粘土の搬出作業を行って要る仲間達もお互いが顔を見合わせてるだけで一体何を話して要るのかさえもわからないと言う表情をして要る。


「正太さんもお仲間も聞いて頂きたいのです。」


 源三郎は正太と仲間達に詳しく話した。


「そう言う事だったんですか、じゃ~そのお方に話してからだと言う事なんですね。」


「まぁ~そう言う事ですよ、其れで今から私と工藤さんで出向きまして説明するつもりですが、其れでも危険が伴いますので日光隊と月光隊は密かに、まぁ~そうですねぇ~、私達を護衛して頂ければと考えて要るのですが。」


「義兄上、其れで本当に大丈夫でしょうか。」


 若様は心配だと言うが。


「日光隊と月光隊だけの方が良いのです。


 彼らならば誰にも見付かる事も無く任務を遂行して頂けますよ。」


 と、源三郎は若様の言葉には全く耳を貸さず、採掘現場をどんどんと歩いて行き、やがて向こう側に出る所まで来た。


「此処ですか、では参りましょうかねぇ~。」


 源三郎と工藤は出口を出ると、直ぐ前に大岩が有り、其処には日光隊と月光隊が待ち受けていた。


「総司令、お待ちしておりました。」


 日光隊と月光隊も源三郎の事だ必ず来ると考えていた。


「やはりでしたか、其れで今の状態を教えて頂きたいのですが。」


「現在の状況で御座いますが、以前と殆ど変わり無く、吉三さん達は軍港建設に従事されておられます。」


「左様で御座いますか、其れ以外の動きに変化は有りませんか。」


「兵隊さんが話されておられましたが、近々に此処まで陸蒸気が開通するので資材も大量に送り込まれるとか。」


「えっ、其れは何時の話しなのですか。」


 源三郎も驚きを隠せない。


「やはり日本政府は今回の戦には必ず勝利しなければならないと覚悟されて要る様ですねぇ~。」


 工藤もロシアとの戦争には手段を選ばず勝利するんだと強い決意を感じたのだろう。


「工藤さん、急ぎましょう、上野さんに事情を話し、早期に資材を調達しなければなりません。」


「承知致しました、私も艦船の建造方法などを全面的に技師長に応援させて頂きます。」


 そして、源三郎と工藤は上野の駐屯地へと向かった。



      

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