第 110 話。 本人も知らないとは全く呆れたもので有る。
源三郎が領民に説明して要る頃、げんたはと言うと銀次達と筏造りの真っ最中で有る。
「なぁ~げんた、今度の筏だけど何でこんなにもでっかく造るんだ。」
「銀次さんとあんちゃんがやった時の爆裂弾と今度の海中爆裂弾は大きさが全然違うんだ、まぁ~そうだなぁ~あの時よりも三倍から五倍は違うと思うんだ。」
げんたと銀次に言うあの時の爆裂弾とはげんたが考案した一升弾の事で、今回考案した海中爆裂弾は三倍、いや五倍以上の破壊力が有り、其れで無ければロシアの軍艦を沈没させる事は不可能で有ると言う。
「銀次さんとあんちゃんが試した時の爆裂弾は官軍の軍艦の舵を壊すのが目的だったんだ。」
だが今度の相手と言うのが今まで聞いた事も見た事も無いロシアと言う欧州の強大な国家が、日本と言う小国を植民地にする為に数十隻もの軍艦で襲って来ると言う、だが日本国もただ拱いて要るのでは無く、大艦隊を編成しこれを撃滅せんと考えて要る。
だが今の連合国には強大な軍艦を建造する為の造船所も無ければ資材も無い。
其れでも源三郎達はロシアの軍艦を迎え撃つ為の方策を考えており、最新の武器と言うのがげんたが考案した海中爆裂弾で、今日は試みを行うので有る。
「オレはあんちゃんと一緒に今は官軍じゃなくて、日本海軍の軍港で最新の軍艦を見せて貰ったんだけど、其れが全部が鉄で造られ、あの時の爆裂弾だったら全然役に立たないって思ったんだ。
其れで前から考えてた方法でロシアの軍艦を沈める事が出来るかなぁ~って思って、其れで作ったんだ。」
「じゃ~げんたはどんな破壊力が有るのかも知らないのか。」
「うん、まぁ~ね、だけど海中爆裂弾が有ればロシアの軍艦は絶対に沈められると思ってるんだ。」
「其れで試しってのはどんな方法でするんだ。」
「まぁ~簡単に言うとね、超小型の潜水船の前に爆裂弾を付けたと思ってよ。」
「だけどなぁ~海の中じゃ火は点けられないんだぜ。」
銀次も導火線で爆発させるものと思って要る。
「オレの考えた方法はねぇ~、連発銃の弾を利用するんだ。」
「えっ、連発銃の弾を利用するって、だけどなぁ~海の中でどうやって火薬に火を点けるんだ。」
「じゃ~簡単に説明するよ。」
げんたは銀次と仲間に海中爆裂弾の構造を説明した。
「まぁ~話は分かったよ、だけど一体どれだけ深く潜るんだ、筏は船じゃ無いんだぜ。」
「そうか、オレは海中に潜って行くのを考えて無かったよ。」
「なぁ~げんた、だったら長さが五尺か六尺程の原木を付けたらどうだ。」
銀次は原木を付け海中に沈める方法を提案した。
「わかったよ、じゃ~銀次さんに任せるよ。」
銀次は仲間に説明し、仲間は潜水船を係留させて要る洞窟へ向かい、数十本もの原木を運び出し、筏に取り付けて行き、げんたは銀次達の作業を見て要るが何も言わず、その後、一時半程で巨大な筏は完成し、げんたは浜に戻って来た。
「技師長、大筏は完成した様ですが。」
「ああ、全部銀次さんのお陰で出来たよ。」
「そうですか、さすがに銀次さん達ですねぇ~。」
「うん、そうなんだ、其れで今から始めるのか。」
「その前に、お殿様方と兵隊さん、其れと上田の領民さんに説明して頂きたいのです。」
げんたは海中爆裂弾とは一体どの様な兵器なのか説明する事になった。
「じゃ~今から説明するけど、あんちゃんはロシアの軍艦が攻めて来る事も話したのか。」
「勿論ですよ、技師長が大筏を作って要る間に説明しましたので、皆さんも理解して頂いたと思いますが。」
「そうか、だったら今から説明するから。」
その後、げんたは何故海中爆裂弾が必要なのかを説明した。
「オレは技師長さんの話は分かったけど、でもロシアの軍艦って物凄くでかいんだろう、そんなにでかい軍艦を海中爆裂弾の一発で沈むんですか。」
「そんな事が何でわかるんだ、だけど軍艦を含めて、全ての船のどてっぱらに大きな穴が出来海水が雪崩れ込んで来るから、軍艦でも沈没するのは間違い無いんだ。」
領民からの質問は至極当然でも有り、幾ら海中爆裂弾の破壊力が一升弾の数倍だと言っても、果たして本当に一発で沈没させる事は可能なのかと言う事だ。
「技師長さんの話じゃ、爆裂弾を軍艦にぶっつけるって言うけど、でもなぁ~、火も点けないで本当に爆発するんですか。」
げんたは説明の中で何度も連発銃の弾丸を利用すると言ったが、領民の中には連発銃を撃ったところを見た者は殆ど居らず、領民は連発銃の威力を知る者も殆どいなく、げんたは暫く考え。
「だったら今から連発銃の威力を見て貰うけど、その前に連発銃の弾丸の大きさだけど、みんなの小指くらいなんだ。」
「えっ、そんな小さい物で一体どんなに役に立つんだ。」
「そうか、やっぱりなぁ~、あんちゃん、海中爆裂弾の試しをする前に連発銃の威力を見て貰う必要が有ると思うんだ。」
げんたや源三郎が幾ら説明したところで領民は連発銃の威力さえも知らず、げんたは海中爆裂弾の試しよりも連発銃の威力を知らせる事の方が大事だと考え。
「兵隊さんの中で誰か連発銃を持って来た人は居ませんか。」
げんたは小隊長や中隊長達に呼び掛けるが、誰も持って来て居らず、だが警戒任務に就いて要る兵士は全員が持っていた。
「技師長、警戒任務中の兵士が持っておりますよ。」
「どの兵隊さんでもいいんで、大筏の上に置いて有るお酒の徳利を撃って欲しいんだ。」
「えっ、あんなに遠くに有るんだから絶対無理に決まってるよ。」
領民は一町も先に有る大筏の上に徳利が有るとは知らないが、げんたはこの様な事も有るだろうと事前に用意していた。
「誰でもいいから筏の徳利を撃ってよ。」
「技師長、とてもでは有りませんが、無理では有りませんか。」
「総司令長官殿は私達の腕前をご存知無いから、その様に申されますが、彼らは部隊の中でも射撃に関しては誰にも引けは取らないと思っております。」
小隊長が自慢する部下だ。
「誰でも良い大筏の上に有る徳利を撃つんだ。」
すると、一人の兵士が名乗り上げ。
「小隊長殿、あれだったら、我が小隊ならば誰でも命中させますよ。」
兵士の言葉は本当なのか、其れにしても源三郎の発言、いや何時もの大芝居に小隊長と部下が騙されたのだろうか。
「小隊長殿、自分に任せて下さい。」
一人の兵士は射撃に関しては部隊の誰にも負けないと思って要る。
「よし、任せたぞ、これは我が小隊の面子が掛かって要る事を忘れるな。」
小隊長の言葉に兵士は頷き、浜の中央に進むと、幾ら凪に近いと言っても小波に大筏は微かに揺れて要る。
「兵隊さん、何時でもいいからね。」
げんたは言うと少し下がり、兵士は改めて一町先の大筏に置かれて要る徳利に狙いを定めた。
浜に居る領民達と小隊長以上兵士、そして、お殿様方も少し緊張した様子で、誰も話す事も無く一人の兵士に注目し、そして、次の瞬間。
「パン。」
と、連発銃から発射音が聞こえ、大筏の上に有る徳利が見事に割れ、粉々になった。
「わぁ~何で当たるんだ。」
「其れにしても見事な腕前だなぁ~。」
と、領民達は驚いて要る。
「みんな聞いて欲しいんだ、今兵隊さんが撃った弾丸はさっきも言った様に指くらいで、其れの半分に火薬が入ってるんだ。」
「えっ、そんなに少ないのにあんなに遠くまで届くのか、火薬って物凄い力が有るんだなぁ~。」
領民達は誰もが驚きの表情をして要る。
「そうなんだ、半分しか入ってない火薬で今見た通りの威力が有るんだ、で、海中爆裂弾はと言うと、数千倍もの火薬が入ってるから、ロシアの軍艦のどてっぱらに当てれば、絶対に沈むんだ。」
げんたは一発の海中爆裂弾がロシアの軍艦に命中すれば確実に沈める事が出来ると言った。
「なぁ~技師長さん、連発銃の弾であんなにも威力を持ってるんだぜ、だったら数千倍の火薬が入った海中爆裂弾が爆発したら、浜に建ってる漁師さん達の家も吹き飛ぶんじゃ無いのか。」
領民は漁師達の家まで大きな被害が出ると心配して要る。
「まぁ~其れだったら心配は要らないよ、だって大筏はもっと沖に出すんだから絶対に壊れる事は無いよ。」
げんたは漁師達の家は大丈夫だと言う。
「話は分かったけど、海中爆裂弾って何処に有るんですか。」
「あっ、そうか、信太郎さん、此処に運んでくれますか。」
信太郎達は一番大きな海中爆裂弾を戸板に乗せ持って来た。
「わぁ~なんて大きさなんだ。」
「本当だ、でもこんな物で本当に軍艦が沈むのか、其れにどうやって海の中を進むんだ。」
「そうだよ、でも良くもまぁ~こんな物を考え付いたもんだなぁ~。」
「技師長って、本当に物凄い物を考えるだなぁ~。」
「本当だ、オレも考えて見ようかなぁ~。」
「まぁ~オレ達の頭じゃ絶対に無理だぜ。」
「うん、其れは言えるよ。」
上田の領民達は誰もが好き勝手な事ばかり言って、更に大笑いして要る。
「みんなも分かったと思うんだけど、今から準備に入るから少しだけ待って欲しいんだ、じゃ~銀次さんお願いします。」
「お~い、みんな始めるぞ。」
「お~。」
と、銀次の仲間が小舟を漕ぎ、大筏を沖へと引き出して行く。
「の~源三郎、技師長が考えたと言う海中爆裂弾じゃが、誠成功するのか。」
「左様ですよ、私も今まであの様な奇怪な爆弾と申しましょうか、技師長は海中爆裂弾と申されましたが、今思えば以前ですが技師長が来られまして、その時、連発銃の仕組みを聞かれ教えたのですが、その時は正かこの様な海中爆裂弾を考えておられていたとは思いませんでしたよ、やはりお殿様が申されます様に技師長は大天才に間違いは有りませんねぇ~。」
工藤はげんたが突然駐屯地に着て連発銃の仕組みと、更に連発銃と弾丸を渡した時の事を思い出し、だがその時は正か海中爆裂弾を考えて要るとは思っていなかった。
「私も以前ですが、げんたから今の私では全く想像の付かない物を作ると申しておりましたが、其れが正か海中爆裂弾だとは、その時には全く想像出来るものでは御座いませんでした。」
やはりか、げんたは今の源三郎でさえ全くも理解出来ない、いや想像すら出来ないものを造ると言っていたが、其れが正か海中で発射されロシアの軍艦を沈没させる事が出来ると言う、新型の爆弾とは想像出来る以前のもので有る。
「私は野洲殿が大天才だと申され、更に源三郎殿が技師長だと名付けられた人物が、若しも、若しもですが、我が連合国でも無く、新政府軍側でも無く、旧幕府軍に居られたとすれば官軍との戦は全く別の展開になっていたと思うのですが。」
「まぁ~その様になる可能性も有ったと思うのは、何も上田殿だけでは御座らぬ、余も今考えておりますが、上田殿を含め、我が連合国の生活も全く違ったのでは有るまいかと、の~源三郎。」
野洲のお殿様も上田のお殿様もげんたの様な人物が若しも、旧幕府に居たとすれば連合国を含め、日本国全体の領民がどの様な生活を送る事になっていたのか全く想像出来ないと言う。
「上田様の申されます様になっていたとすれば、我々は以前とは全く違い、幕府の恐怖に毎日の生活は以前よりもっと厳しくなっていたと考えられます。」
源三郎は旧幕府の圧政に領民の生活は今では考えられない程にも厳しくなると考えて要る。
「確かに源三郎の申す通りかも知れぬ、源三郎やげんたの様な人物が我が連合国に居た事に我々は幸いと思わねばなるまいの~。」
野洲のお殿様は源三郎やげんたが旧幕府でも無く、新政府でも無く、連合国に存在して要る事が幸いだと思って要る。
「ですが、皆様方もご理解頂きたいのですが、げんた、いや技師長は何も人を殺す為の武器を作った、いや考えたのでは御座いませぬ、技師長は鉄で建造された新政府軍の軍艦を見ておりまして、新政府は何としてもロシアが日本国を植民地にするのを阻止したいと、その為にロシアの軍艦を沈めなくてはならぬと考え、その結果が新型の海中爆裂弾を考案したのは間違い御座いませぬ。」
源三郎は何もげんたを擁護したのでは無く、げんたは日頃、源三郎との会話の中で、時の帝政ロシアが日本国を植民地にしようと推し進めて要る政策には絶対に屈しないと言う固い決意の下で開発したのが新型の海中爆裂弾なのだと強調したので有る。
その頃、銀次と仲間は数十艘もの小舟で大筏を沖へと引っ張り、げんたはじっ~っと見て要る。
「其処でいいよ。」
と、合図を送った、銀次達は大筏と定位置に置くと戻って来た。
「元太あんちゃん、そろそろ行こうか。」
「オラは何時でもいいよ。」
「じゃ~信太郎さん、爆裂弾をこっちに持って来て欲しいんだ。」
信太郎達は戸板に乗せた爆裂弾をげんたが乗る小舟まで運んだ。
「じゃ~今から行くけど、元太あんちゃん、此処から半町くらいまで行って戻るけど、オレも本当の事を言うと、今度の爆裂弾の威力は全然知らないんだ。」
「え~、其れって本当なのか、まぁ~確かに前の時とは大きさも倍以上も有るからなぁ~、若しかしたらオラ達は此処で死ぬのかも知れないのか。」
げんたと漁師の元太の会話を聞いて要るお殿様方や源三郎に工藤達は一体どの様に考えて要るのだろうか、げんたも海中爆裂弾の威力は知らないと言うが。
「あれを作った本人もどれ程の威力が有るのか知らないと申しておるぞ、う~ん、其れにしても全く呆れた技師長じゃの~。」
だが、源三郎は違った。
「其れは少し違う様に思うのです、技師長の事ですから、今度の爆裂弾の威力がどれ程にも凄まじいのか全て知っております。
今の会話は我々もですが、此処に集まった全員にロシアの軍艦を沈めなければ、我が国もですが日本国の将来は無いのだと、改めて申して要ると考えるので御座います。」
「左様か、成程なぁ~、其れにしてもじゃ、げんたはこの頃、源三郎の考える先がわかって要る様にも思えるのじゃが。」
「技師長は私の考える先の事を考えておりまして、私も今では技師長の考えて要る事が全くわからないのです。」
「そうか、では技師長には源三郎でも勝てぬと申すのか、う~ん、何とも恐ろしい技師長じゃ。」
連合国では何時も源三郎が国と民の行く末を考えて要るが、げんたと知り合い、今まで多くの事柄を話していたが、今では源三郎が思い付くよりも早く、考え実行し、今回の海中爆裂弾も同様で、源三郎も工藤もロシアの軍艦に対抗出来る方法を考えていたが、正か海中爆裂弾でロシアの軍艦を攻撃するとは考えてもいなかった。
「さぁ~元太あんちゃん、行こうか。」
げんたは海中爆裂弾を小舟に乗せ沖へと向かった。
源三郎に工藤、そして、お殿様方や連合国軍の小隊長以上の将校が集まり、技師長が考案した海中爆裂弾の威力がどれ程のものか、其れを今日上田の浜で試すので有る。
果たして、げんたが考案した海中爆裂弾の試しは成功するのか、上田の浜に集まった大勢が注目して要る。