第 109 話。皆が腰を抜かすかも知れない。
「伝令、伝令で~す、総司令より若様へ。」
源三郎が認めた書状を持ち伝令兵が飛び込んで来た。
「若様に大至急書状をお届けする様にと。」
山賀の執務室に一瞬緊張した空気が。
「義兄上からですか。」
若様は受け取った書状を読むと。
「高木さん、大至急、小川さんを呼んで下さい。」
高木はこの頃、小川は洞窟の最先端部に要る事を知っており、大急ぎで向かい、暫くして小川が飛び込んで来た。
「若様、大至急との事ですが、一体何用で御座いますか。」
小川は潜水船基地の進捗状況を見る事が日課となって要る。
「先程、義兄上より書状が届きましたので先に読んで頂きたいのです。」
書状を受け取り読むと。
「何ですか、この海中爆裂弾とは。」
「私も初めてなので、若しや小川さんならば知っておられるのでは無いかと思いまして。」
「私も初めてで御座います。」
「やはりでしたか、其れで義兄上が数日後に上田の浜で試みを行うので、小川さんにもご同行願いたいのです。」
「承知致しました、で出立は。」
「明日にでもと思って要るのですが。」
「私は何時でも宜しいので、其れに総司令にもお話しをする事が有りますので、丁度良い機会で御座います。」
小川は何を報告するのだろうか、基地建設の進捗状況でもするのだろうか。
「其れと山賀の駐屯地より中隊長と小隊長の全員を同行させたいのですが、宜しゅう御座いますか。」
「勿論ですよ、私からお願いするつもりでしたので助かります。」
更に、小川は山賀から一個小隊だけでも参加させたいと考えており、やはり山賀から潜水船の乗組員を募る為でも有ろうか。
「小川さんは若しか潜水船の乗組員を山賀より募られるおつもりなのですか。」
「そうでは御座いませんが、山賀以外では早くから潜水船の乗組員を訓練されておられ、各中隊の兵士達も潜水船は認識されておられますが、山賀では中隊長もですが、兵士の全員が潜水船を知らないので、私としましては今回が良い機会だと考え、小隊長達だけでも潜水船の実物を見学させる事で後々何かの役に立つと考えて要るのです。」
「私も大賛成ですよ、山賀の兵隊さんが潜水船に乗られるとは限りませんが、潜水船の予備知識が有るのと、無いのとでは全く違うと思いますので。」
「誠に申し訳御座いません。」
小川は若様には無理を言って要ると思ったのだが、若様にすれば山賀の洞窟で潜水船基地を建設中でも有り、何れの時が来れば乗組員を募らなければならず、兵士も含め、領民にも伝えなければならないと考えて要る。
「なぁ~あんちゃんは本当にやるのか。」
げんたにすれば破壊力が倍以上も有る爆裂弾を試す意味がわからないと言うが。
「げんたは知って要るでしょうが、私を含め、他の人達は知らないんですよ、ですから私はこの目で確かめたいのです。」
「でもなぁ~、本当の事を言うとオレだってどんな破壊力が有るのかも全然知らないんだぜ。」
げんた自身も知らないと言う、あの時は逃げるだけに必死で、実際にはどれだけの破壊力が有ったのかもわからないのだと。
「其れならば尚更の事、げんたを含め、私や工藤さん達にも知って頂く事の方が大事では有りませんかねぇ~、げんたが大変な苦労し、やっと完成させた海中爆裂弾だと言う事は誰でもしっておりますよ、私はねぇ~、其れにもまして兵隊さんもですが、連合国の領民に何故にげんたがこれ程にも恐ろしい武器を考えなくてはならなかったのか、其れを知らせる必要が有ると考えて要るのです。」
源三郎は今の連合国、いや日本国が危機的な状況で有ると知って要るのはほんの一握りの人物だけで大半の兵士も、更に領民の殆どが知らない事を大変危惧して要る。
「じゃ~あんちゃんはみんなに話すのか。」
「まぁ~そうですねぇ~、今回は少なくとも全部隊から小隊長以上と上田の領民さんには知って頂く必要が有ると考えて要るのです。」
源三郎は手始めに上田の領民と全部隊から小隊長以上を参加させ、海中爆裂弾の威力と何故にこの武器が必要で有るかを説明し、納得させなければならないと考えて要る。
「じゃ~あんちゃんが全部説明するのか。」
「私はロシアの関係だけを話しますので、げんたは爆裂弾の説明をして欲しいのです。」
「だけどみんなにわかるかなぁ~。」
げんたには海中爆裂弾に付いての説明をする様にと言うが、余りにも難解な武器で有る為に領民が理解するのは困難だと思って要る。
「げんたは余り難しく考えないで、何故海中爆裂弾を開発しようとしたのかを話してくれれば宜しいのですよ。」
「まぁ~其れだったらいいんだけどなぁ~。」
げんたは全てを納得して要る訳では無いが、当日は小隊長以上と領民に説明するだけで良いのだ。
そして、二日後、山賀から若様と小川隊長と小隊長以上が、更に一個小隊と正太が加わり上田へと向かい、松川では若殿様と斉藤と小隊長以上の全員が合流し上田へと向かった。
菊池からもお殿様と高野、そして、小隊長以上が野洲へ向かい、源三郎達と合流し上田へと向かった。
「阿波野、手配は全て終わったのか。」
「明日の朝に小隊長以上全員が集まる予定で御座います。」
「左様か、して領民は如何致すのじゃ。」
「其れが総司令からは何も申されておりませぬが、多分、総司令の事ですから領民さんにも説明されると思うので御座います。」
「余も同じじゃ、源三郎殿の事じゃ、必ず領民に話されると思うのじゃ。
阿波野は家臣に命じ、明日の朝、浜で大事な話が有るので全員に対し集まる様に話すのじゃ。」
「承知致しました、直ぐに手配致します。」
阿波野が執務室を出た時。
「源三郎様が御着きで御座います。」
と、門番が飛び込んで来た。
「総司令。」
「阿波野様は何処へ。」
「私は総司令の事ですから、明日、領民さんにもご説明されると思いましたので。」
「いゃ~流石に阿波野様ですねぇ~、若しや私の頭の中を見られたのでは御座いませぬか。」
源三郎は何時もの冗談のつもりで言ったのだが。
「えっ、正か、私はその様な。」
「阿波野様、冗談ですよ、冗談ですからね、ですが確かに阿波野様が申される通りでしてね、私が思いますには、ロシアとの戦は連合国、いや日本国の兵隊さんだけが戦うのでは無く、全ての領民さんも一致団結され戦に挑まなければならないと思うのです。
今回の海中爆裂弾の試みは大変良い機会だと思いますので、私が説明させて頂き、海中爆裂弾の説明は技師長にお願いしようと考えて要るのです。」
阿波野も源三郎の考え方には賛成で有ると。
「総司令、私も大賛成で御座います。
確かにロシアの一件に関しましては一部の者達だけが知っており、ですが若しもロシアの大艦隊が攻めて来る様になった時ですが、我々には何故に早くから知らせてくれなかったのか、若しも早く知らせていたならば、領民さんからは我々が考え付かない良い方法が提案されたと、其れが後々後悔することになるやも知れないと思うのです。」
やはりだ、阿波野も源三郎と同じ考え方で有る。
「いゃ~流石に阿波野様ですねぇ~、私と考え方が全く同じで御座いますよ。」
「阿波野司令、私達は今からご城下に参り、領民さんに説明して参ります。」
家臣達が一斉に城下へと向かった。
上田のお城では源三郎が上田や菊池のお殿様、松川の若殿様、山賀の若様を含め、各部隊から集まった小隊長以上の士官達にロシアに付いての説明がされ、お殿様方や小隊長以上の人達は改めて決意するので有る。
そして、陽が昇る前に食事も終わり、全員で浜へと向かった。
「なぁ~あんちゃん、オレが考えた海中爆裂弾がこんな大騒ぎになるなんて考えてもなかったよ。」
げんたが考案した海中爆裂弾は軍艦にも発見される事も無く、敵艦の直近まで行き、確実に軍艦に命中させ沈没させるだけの威力が有る。
だが其れには海中を行くと言う当時の誰もが考え付く事が無かった潜水船が最も効果が有る。
だが海中では大砲は使えず、げんたは数年間もの長く試行錯誤し、そして、辿り着いた結果、連発銃の弾丸を利用した海中爆裂弾と言う世にも恐ろしい新型爆弾で、今日は上田の入り江で試すのだ。
「げんたは海中爆裂弾の威力を知って要るのですか。」
「あんちゃんも馬鹿だなぁ~、オレが知ってる訳が無いだろう、あの時は元太あんちゃんと必死で逃げる事だけを考えてたんだぜ。」
確かにげんたが言うのが正解かも知れなく、最初に考案した一升弾は源三郎と銀次の二人が命懸けで行い、その時に源三郎や銀次の背中には数十本もの木片が刺さったのを見て要る。
だが今回試す海中爆裂弾は一升弾の数倍もの火薬が詰められ、一体どれ程の破壊力が有るのか、げんた自身も想像できないので有る。
「あんちゃんが試した一升弾は官軍の木造船を壊す為だったんだ、だけど海中爆裂弾はロシアの軍艦を、其れも鉄で造られた頑丈な軍艦を沈めるんだ、その為に一升弾の数倍の火薬を詰めてるんだ。
爆裂弾が軍艦の海中部分に衝突すれば物凄い爆発の威力で大きな穴を開け軍艦を沈めるんだ。」
「では我々は相当離れなくては危険だと言う事ですねぇ~。」
「そうだなぁ~、オレの考えでは一町は離れる必要が有ると考えてるんだ、木片もだけど、爆裂弾の破片が何処まで飛ぶのかもわからないんだからなぁ~。」
源三郎とげんたの話を聞いて要るお殿様や高野達は今回の試しは身の危険を感じて要るが、其れでもまだ想像だけで、本当の威力がどれ程のものなのかもわからない。
そして、話すうちに浜に着き、其処には早くも上田の領民が大勢集まり、何かを話して要る。
「なぁ~昨日、お侍様が来られ、明日の朝、浜で大事な話が有るって言ってたけど、どんな話なのかなぁ~。」
「オレだって、早く知りたいんだ、其れに今日は源三郎様も来られるって聞いたんだ。」
「だったら何か物凄い事でもやるのかなぁ~。」
やはりだ、源三郎が危惧した通り領民は何も知らない、以前ならば官軍と幕府の話で終わるが、これから先はロシアと言う連合国の領民さえも知らない大陸の強国の話をしなければならず、果たして、源三郎はどの様に説明し、領民を納得させるのだろうか。
「やぁ~皆さん、朝早くから大変申し訳有りませんねぇ~。」
「あっ、源三郎様が来られたぞ。」
「おい、大変だ、お殿様も一緒だ。」
領民達は正かお殿様も一緒だとは思っておらず、大変な騒ぎで有る。
「みんな頭を下げるんだ。」
領民達が一斉に土下座し、頭を下げた、すると。
「皆さんに申します、今日は私達も皆と同じですから頭を上げ、総司令長官殿のお話しを伺いたいと思います。」
上田のお殿様も領民の立場と一緒だと言う。
「その通りじゃ、我々は今日皆と同じで、何を聞かされるのかも知らぬ、さぁ~さぁ~頭を上げ、源三郎殿、いや総司令殿の話を聞こうではないか。」
さすがに野洲のお殿様で、上田の領民達も頭を上げ、静かに源三郎の話が始まるのを待つ。
「上田の皆様方、そして、各地に駐屯されておられる軍隊の代表として小隊長以上の方々、今日は皆様方に取りましてはとても大事はお話しが有りますので静かに聞いて頂きたいのです。
では早速お話しをさせて頂きます。」
その後、源三郎は今連合国が、いや明示新政府が日本国と言う新しい国家を設立し、その日本国が置かれて要る立場を詳しく説明するが、最初、領民達は源三郎の話す内容がさっぱりわからずに、其れでも次第に理解出来る様になるが、源三郎の話はまだ核心部分でも有るロシアに付いては話していない。
「では只今より最も大事な事柄をお話ししますので、実はロシアと言う欧州の強大な国家が我が日本国を植民地にする為に数十隻もの巨大な軍艦で攻めて来るのです。」
「ねぇ~源三郎様、何ですか、その植民地って、其れにロシアって言われましたが、一体何処に有るんですか、オレ達は初めて聞くんで全然わからないんですよ。」
源三郎は領民の質問を待っていた。
「植民地と申しますのはねぇ~、領民は生かさず、殺さずと申しましてね、色々な物を作らせ、全て持ち去るんですよ。」
「じゃ~オレ達のおまんまは。」
「そうですねぇ~、一日一杯のお粥程度しか食べる事が出来ないと思いますよ。」
領民達は植民地の意味を全く知らない。
源三郎はロシアと言う国の植民地になれば、占領は十年、いや五十年、百年か其れ以上も続くかも知れず、住民は奴隷として扱われ、悲惨な運命を辿るのだと説明した。
「だけど源三郎様の様にお侍様が居られるんですよ。」
「其れがねぇ~、我々侍ではロシアの兵隊には全然役にも立たないんですよ、その理由ですがね、ロシア軍の全員が連発銃を持っておりましてね、我々の刀では全然歯が立たないのです。」
「じゃ~オレ達の連合国は一体どうなるんですか。」
此処まで話すと領民も少しは理解出来る様になった。
「其れなんですがね、明示新政府は日本全国に巨大な軍港を建設し、巨大な軍艦を建造し、ロシアの大艦隊を迎え撃ちして撃滅しようと考えましてね、我々連合国の西の端に有る山賀の国の直ぐ隣に今軍港を建設中なのです。」
「でもオレ達の連合国は何もして無いんですか。」
「其れがねぇ~、今山賀の断崖絶壁の内側でも秘密で軍港を造ってるんですよ。」
「ねぇ~源三郎様、軍港を造っても連合国には軍艦は有るんですか。」
「其れがねぇ~、連合国には一隻の軍艦も無いんですよ。」
「え~、そんな馬鹿な、軍艦が一隻も無いって、じゃ~何の為に山賀に秘密の軍港を造ってるんですか。」
領民は素直な気持ち聞いて要るが、其れも当然の話で有る。
「まぁ~皆さんが思われるのも当然だと思いますが、実は技師長が最新式の潜水艦を建造すると申して要るんですよ。」
「技師長って、野洲では大天才って言われてる人の事ですか。」
「その通りでしてね、今日は皆さんには浜で技師長が考案し作られた新型の海中爆裂弾の試しを見て頂くのですが、実を申しますと、我々の中では誰一人として新型の海中爆裂弾を知る者も居ないんですよ、まぁ~その様な訳ですので、余り詳しく聞かれますと、私が困りますのでね。」
源三郎は海中爆裂弾の説明は出来ないと言うのだが。
「源三郎様にお伺いしたいんですが、そのロシアの何とか言うのが本当にオレ達の連合国に攻めて来るんですか。」
「まぁ~其れは間違い有りませんよ、私がロシアの将軍ならば日本国を攻撃し、黄金と全ての小判を奪い自国に戻りますよ。」
源三郎はロシアは必ず攻めて来ると言うが。
「だったらオレ達は一体どうなるんですか。」
「そうですねぇ~、私ならば歯向かう者は殺しますが、まぁ~全員を奴隷として死ぬまで働かせますがねぇ~。」
領民は奴隷として働かされると言うのだ。
「じゃ~オレ達は死ぬまで働かさせられるんですか。」
「その通りですよ、隣の松川では焼き物を作っておりますので殆どの人達は粘土の採掘に使われ、出来上がった焼き物は全てロシアに持って行かれるんですよ。」
「でも働くんですから食べ物は十分に有ると思うんですが。」
上田の領民は奴隷と言う意味が理解出来ないのだろうか。
「先程から申しておりますが、奴隷と言う意味ですが、奴隷とは一生、いや死ぬまで働かされ、食べ物は恐ろしい程にも粗末でしてね、皆さんが想像出来ないでしょうがお腹いっぱいに食べる事は出来ないんですよ。
「じゃ~オレ達は生かさず殺さずに働かされるんですか。」
「そうですよ、其れが一生、いや永久的に続くんですよ。」
「畜生、ロシアの野郎なんかに負けてたまるか。」
その後、源三郎が色々な質問に答え、領民達は少しは理解出来たのか、ロシアとの戦には絶対に負ける訳は行かないと、あちこちでロシアに対する不満、いや憎しみが沸いて来た。
「其れでね、今から技師長が考案した海中爆裂弾の試しを行うのですが、私が先程も申しました様にどれ程の威力が有るのかもさっぱりわかりませんので、今から技師長に説明して頂きますので、全員静かに聞いて頂きたいのです。」
源三郎が領民の理解を得るまで一時半以上も要し、やっと試しが行う事が出来る、だがげんたは浜には居らず、沖で銀次達に筏造りに指示をして要る。
「お殿様方に皆様方、今技師長は沖で筏を造っておりますので、今暫くお待ち下さい。」
上田の浜に集まったお殿様方、そして、上田の領民は沖で巨大な筏を造って要る作業を見ており、やはり、今回の試しは源三郎が考えた以上の大規模な試しになる事だけは確実で有る。