第 107 話。浜に奴らが攻めて来たぞ。
「参謀長殿、大変な事態になっておりまして、今日到着した兵隊さんが。」
「一体どうしたんだ、えっ、正か。」
上野は今日到着したばかりの兵士達にも奇跡が起きたとは思いもせず、反乱でも起こしたとでも思ったが、其れがまさかの展開になるとは思いもしなかった。
「反乱でも起こそうと話し合ってるのか。」
「いいえ、其れでは有りませんで、今日到着したばかりの官軍兵の中の数人が吉三さんと同じ村の人達だと分かったのです。」
「何だと、吉三さんと同じ村の人が居たって話なのか。」
「その通りでして、其れで吉三組の仲間が同じ村では無く、同じ国から来られておられないかを調べ様ってなりまして国の名を書いた紙を持ち、兵士達もですが職人さん達にも協力して頂くと言う形で今されてるんです。」
上野は驚き、兵士と一緒に官軍兵が集まって居る所へ向かった。
現場では予想された混乱も無く、其れは吉三組が中心となり、兵士達と職人達にも説明し、全員が協力し整然として要る為で有る。
「吉三さん、今聞きましたが、同じ村の人が居られたと。」
「そうなんで、じゃ~オラが説明しますんで。」
その後、吉三が上野に詳しく説明すると。
「正か、そんな事が起きるとは、正直言って初めて聞きましたよ、其れで今同じ国の人が居られないかを調べておられるんですか。」
「そうなんですよ、隣同士の村でも違う国も有りますんで、其れで調べてるんですが、中には正か同じ国だって知らなかった人も多いんですよ。」
「其れで目的と言うのは。」
「別に目的なんか有りませんよ、ただ同じ国だったら今まで以上に絆も強くなるかなぁ~って、まぁ~其れだけの事なんですよ。」
吉三は目的はと聞かれても同じ国から来たならば絆が強くなるかも知れないと思っただけの事だと言うが。
「そうだったんですか、そうだ丁度良いところなので、皆さんにお伺いしたいのですが、先程お伺いした話で、皆さんは官軍には戻りたくは無いと聞いたのですが。」
「参謀長殿、其れは本当なんですか。」
兵士の中には上野と滝川との会話で正かその様な話が出ていたとは思いもしなかった。
「本当なんで、でもオラは母ちゃんと子供の仇を探してるんだ。」
「其れだったらオラが成敗したよ。」
「えっ、本当か、でも奴らは官軍の。」
「知ってるよ、でもオラ達には物凄いお方が居られるんだ、オラ達にはそのお方が命の恩人なんだ。」
「だったら奴らは死んだのか。」
吉三の話が本当だとは信じる事が出来ないと顔をして要るが。
「ああ、本当だ、でも本当は狼に食い殺されたんだ。」
「狼に食い殺されたって、じゃ~オラ達と一緒に居た特攻隊と同じなのか。」
「えっ、何だ、その特攻隊って。」
吉三は特攻隊と聞いてもさっぱりわからない。
「ところで吉三さんは何処の国に居るんだ。」
「何でだ、オラ達は此処とは別の国に居るんだ、でもさっきも官軍には戻らないって言ってたけど、だったら何処に行くんだ、みんなも決めてるのか。」
「う~ん、其れがわからないんだ。」
官軍兵は何処に行けば良いのか、今は全くわからないと言う。
「なぁ~みんなに相談なんだけど、此処で暫く働くってのはどうなんだ。」
吉三は駐屯地で働けと言うが。
「此処は官軍の駐屯地だ、オラ達はもうどんな事が有っても官軍が居る所だけは絶対に嫌なんだ。」
吉三は何も言えない。
「此処は官軍の駐屯地だからきっと本部から誰かが来ると思うんだ、その時に若しもオラ達が居ると、又何処かの戦地に連れて行かれると思うんだ。」
「だったらどうしたいんだ。」
「此処に連れて来られたお人がオラ達が野営して要ると、別の部隊に発見されるので、大きな入り江の所に駐屯地が有るって、其処に一度行って下さいって、其れでオラ達は来たんだ。」
「吉三さん、多分ですが司令長官殿が居られるお国だと思いますが。」
「司令長官様って、じゃ~源三郎様が。」
吉三もやっと分かったようだ。
「参謀長様、じゃ~此処に来たのは。」
「私からご説明させて頂きます。」
その後、昌吾郎が詳しく説明すると。
「なぁ~んだ、そうだったのか、其れだったらみんな大丈夫だ、あのお方はオラ達を一番大切にして下さるんだ、だけどなぁ~、どんな説明したらわかって貰えるのか、オラにも全然わからないんだ。」
「オレ達が源三郎様の事を説明しても、今は全然わからないと思うんだ。」
仲間も説明のしようが無いと言う。
「参謀長殿が申されます司令長官殿とは一体何処の、いやどの様なお方なので御座いますか、是非ともお聞かせ願いたいのです。」
「では皆さんもお聞きください。」
昌吾郎は連合国に着てまだ日数も経っては居ないが、やはり源三郎の見る目が正解なのか、素晴らしい分析力とでも言うのか、源三郎の事をよく分析したもので有る。
「えっ、だったら吉三さんもそのお国に居るのか。」
「ああそうだよ、オラ達の源三郎様はなぁ~。」
と、今度は吉三が一番の自慢だと言う顔で話し始めた。
「吉三さんは源三郎様ってお方の命令で此処の仕事に来たのか。」
「作造、よ~く聞けよ、源三郎様はなぁ~誰にも命令なんてされないんだ、オラ達が此処に来たのはオラ達自身が決めたんだ。」
「吉三殿は命令されては居られないと申されますが、其れは何故なのですか。」
「隊長様は官軍の兵隊さんだから全部命令すると思ってられるんでしょうけど、オラ達の源三郎様ってお方は、オラ達の様な農民にも平気が頭を下げられ、お願いしますって頼まれるんですよ、まぁ~こんな話をしても隊長様もだけど、作造や他のみんなも絶対に信用しないと思うんだ。」
「吉三さん、良かったらわしらにも言わせて貰えますか。」
大工の親方も説明させて欲しいと。
「じゃ~親方さんにお任せしますんで。」
「官軍の兵隊さんに聞いて貰いたいんですが、わしらは此処で軍港を造る為に故郷を離れて来たんだ、だけど源三郎様や吉三さん達が来るまでは何も出来なかったんだ。」
親方は源三郎が命令では無く、何故この地に軍港が必要なのか理解出来る様に説明し、そして、頭を下げお願いします、と言われたと話した。
「まぁ~今はどんなに説明してもわからないと思うんだ、オラ達は此処に軍港を造ってロシアの軍艦をやっつけるんだ、だけどオラ達は有る程度出来るまでは此処で仕事を続けるんだ、作造は官軍に戻りたく無いって言うだったら、オラ達の国に来るか。」
やはり、吉三組は連合国に帰るのか、其れも仕方が無い、だが一千名の官軍兵は何処に行くのか。
「吉三さんは此処での長居は出来ないと考えておられるのですか。」
「其れってやっぱり他の部隊が来るからなんですか。」
「其れは間違いは無いと思っております。
ただ菊池から入るにしましてもまだ狼は相当数要ると思って間違いは有りませんので、出来るならば此処に数日間お世話になりたいと思いまして参ったので御座います。」
一千名の特攻隊を襲った狼はまだ直ぐには山に帰らないだろと昌吾郎も思って要る。
「後、数日もすれば馬車部隊が大量の資材を運んで来ると思いますが。」
「数日で御座いますか、う~ん何か策は無いものか。」
昌吾郎は数日も経てば資材を積んだ馬車部隊が到着すると聞き、だが数日とは一体何日後の事なのか知りたいのだ。
「なぁ~中隊長、馬車部隊はどの方角から来るのかわかってるのか。」
「其れならば山の麓の南側からですが。」
「中隊長様、馬車部隊ですが一体何台くらいなので御座いますか。」
「私も詳しく分かりませんが、多分ですが三十数台は有ると思います。」
「三十台以上ですか、では進み方はゆっくりだと思いますねぇ~。」
「山の麓から回りまして、此処に来るまでは半日以上は掛かりますが。」
「其れならば向こう側の山を越えたところで野営すると考えて、その場所がわかれば良いのですが。」
「中隊長殿、我々が野営しておりました所ですが、以前にも野営したと思われ、更に馬車の轍も相当数有り、私は官軍が野営した跡だと思っております。」
「では其処を出発した事がわかれば宜しいのですが。」
「中隊長、明日にでもその場所へ偵察に向かわせてくれ、其れで馬車部隊が来たならば伝令を出してくれ。」
「其れならば伝令が来られてからでも十分に間に合いますねぇ~。」
昌吾郎は例え馬車部隊だからと言って油断は禁物で、馬車部隊の到着時刻さえわかれば、知られる事も無く一千名の兵士を移動させる事が出来ると考えた。
「よ~し、これで終わりだ、作造もみんなも今日と明日は大丈夫だ、もう直ぐ陽も落ちるから話の続きは晩御飯の後だ。」
「中隊長、夕食の準備を。」
「中隊長様、オラ達もお手伝いさせて貰いますんで。」
今日は何時に無く賑やかな夕食になるだろうと上野は思った。
「滝川殿は如何なされますか。」
上野は滝川が工藤の居る連合国に行くものだと思って要る。
「私は。」
「滝川殿は何を心配されておられるのですか、若しや私達が馬車部隊にでも告げ口でもすると思われてるのでは御座いませんか。」
滝川はずばり言われ何も言えない。
「滝川殿は何も心配される事は御座いませんよ、我々は何も話す事は有りませんのでね、其れに兵士達も勿論何も言いませんよ。」
「ですが、其れでは参謀長殿にご迷惑をお掛けするのでは。」
滝川は此処に吉三達が何故に来たのかをまだ理解出来ていない。
「滝川殿は吉三組さん達が何故此処に来られたのかをわかっておられませんねぇ~、では今からお話ししますからね。」
上野は滝川と、更に同行した元偵察兵達にも詳しく説明すると。
「左様で御座いましたか、私は余りにも衝撃的なお話しにどの様にお答えして良いものかもわからないので御座います。」
「まぁ~全ては向こうに参られ、司令長官殿にお話しをされては如何でしょうか、ご貴殿が心配される程では無いと思いますよ。」
「承知致しました、では私も同行させて頂きます。」
その後は賑やかな夕食も終わり、吉三達が考えた方法で今までは他国の人が同国の人だと分かり、今夜は遅くまで話が続きそうで有る。
そして、陽が昇ると一個分隊が中隊長の指示を受け南側の山の麓へと向かった。
官軍の特攻隊は連合国に誰一人として入る事も出来ず、全員が狼の餌食となり、数日が過ぎ菊池では中隊の兵士が外に出、白骨だけとなった兵士の後片付けと連発銃と弾倉帯の回収作業を行っており、何時もながら狼の恐ろしさに改めて恐怖感を感じて要る。
同じ頃、山賀の草地でも同じ作業が行われて要るが、山に入った三個中隊の後片付けはまだ先の様で有る。
げんたと大工達も今日から作業開始で有る。
「なぁ~げんた、洞窟の先端部まで送るのか。」
「オレはそう思ってるんだけど、でもなぁ~、中は何本も掘られてるんで、だけど海まで行ったのは一本だけなんだ。」
山賀の洞窟は内部は数本に分かれ、海に到達した以外は石炭と鉄になる土を採掘しており、石炭は蒸気を作る為には無くてはならない物で、正太達は山賀の山中にまだ何処かにも有るだろうと思われる所を探して要る。
「だったら巨釜をもう一台増すってのは駄目なのか。」
親方は巨釜を三台にせよと言うが。
「オレも将来は三台にすべきかなぁ~って思ってるんだ。」
「だったら今三台にしてだ、何時でも使える様にする方が、わしらも楽なんだ。」
「そうか、だったら親方に任せるよ、オレはちょっと考える事が有るんだ。」
げんたは考え事が有ると言うが。
「げんたはオレ達に任せてだ考え事をしてくれ。」
親方もげんたが考え事が有ると言うのは、巨釜に関係する事なのか、其れとも連合国にげんたが考案した陸蒸気を走らせるつもりなのか、だが親方は何も聞かない。
「じゃ~頼んだぜ。」
げんたは何処へ行くつもりだ、やはり潜水船を建造する方向へと考え方を変えたのだろうか。
「正太は石炭がたくさん要るって言うけど、どれくらい要るんだ。」
「正直言ってオレも全然わからないんだ、だけど技師長はこれからは石炭が大量に要るって、だって今の採掘量じゃ~全然足りないって、オレは今掘ってる所が取れなく前に新しい所を見付けたいんだ。」
「まぁ~オレ達も正太の気持ちはわかってるんだ、だけどなぁ~、問題はだ何処を掘ればいいのか、其れが全然わからないんだ。」
正太も仲間も何処を掘れば石炭の鉱脈が有るのかもさっぱりわからず、粘土の時の様に何か目印になる物が欲しいと思って要る。
「正か山に火を点ける事なんか出来ないしなぁ~。」
「そんなのって当たり前だ、若しも大きな火事にでもなって見ろ、其れこそ張り付けだ、いや生きたままで狼の餌食にされるぞ。」
正太は何も冗談で言ってるのでは無く、それ程にも問題は大きいので有る。
「なぁ~一度農民さん達に聞いてはどうだろうかなぁ~。」
「だけど何を聞くんだ。」
「この付近に黒く輝く石が落ちて無いですかって。」
「あっ、その方法が有ったのか。」
正太は正かと言う顔をして要るが。
「石炭を持って農民さんに聞くんだ、こんな石を見た事は有りませんかって。」
「あっ、そうか、あの人達だったら毎日の様に土を掘ってるから、石炭を見せればわかるのか、成程なぁ~。」
同じ農家に行くので有れば石炭を持って行き、同じ様な石を見た事が無いのかを聞く方が余程手っ取り早い。
「だったらみんなで手分けして行こうや、なっ正太。」
連合国では何処でも同じだ、決まるまでは長いが、いざ決まると行動に移るのが早く、今回も正太達は相当前から石炭の鉱脈を探しており、だがその時は何も考えず、粘土を探していた時と同じ様な方法を使い、だが粘土と石炭は全く違い、今の話が決まるまでは一体どの様な方法を取れば見付ける事が出来るのかもわからなかった。
「同じやるんだったら、手の空いた者で手分けする方が早いぜ。」
もうこの様な状態になると皆が突き進み、暫くすると百人以上が集まり、皆が石炭を一個づつ持ち農村へと走って行く。
げんたはと言うと、久し振りに我が家に戻って来た。
「なぁ~信太郎さんに教えて欲しいん事が有るんだけど。」
「技師長様がオレ達に何を聞きたいんですか。」
げんたの傍には山賀で作った、長さ一尺程の筒が数本置いて有る。
「実はねっ。」
げんたは信太郎達に詳しく説明すると。
「だったらオレ達に任せて下さいよオレ達三人で、やっぱり泉州の細工物師は最高の腕前を持ってるところをお見せしますんで。」
げんたは一体何を作ろうとして要るんだ、信太郎達はげんたの説明を受け、自分達泉州の細工物師の腕前を発揮する事となり、その後、十日、二十日が経ち、三十日が過ぎた頃。
「技師長様から言われました物ですが、オレ達は絶対の自信を持って作りましたんで大丈夫です。」
「信太郎さんに吾郎八さんに井助さん、本当にありがとう、これで次は試して成功したら、あんちゃんの言ってた物が出来るんだ。」
その数日後、野洲の入り江に数本の大木が浮かんで要る。
「元太あんちゃん、手伝って欲しいんだけど。」
浜にはお昼の食事が終わった漁師達が網の手入れを行っていた。
「ああいいよ、だけどその黒い筒は何だ。」
「まぁ~其れは後の楽しみして、オレを舟に乗せて欲しいんだ、其れとオレと元太あんちゃんが沖に浮かんでる大木の近くまで行って、試みをするんで、みんなは何処かに隠れて欲しいんだ。」
「げんたが今言った物凄く恐ろしい試みをするって、一体何をするんだ。」
「まぁ~其れは後の楽しみして、じゃ~元太あんちゃん行こうか。」
元太の小舟には一本の黒い筒が積み込まれ、浜から二町、いや三町程の沖に浮かんで要る大木の傍まで来ると、両手を広げ、漁師達に隠れろと合図し。
「あんちゃん、もう少し下がって欲しいんだ。」
元太はどの様な試みが行われるのかもわからず、ただげんたの言う通り、大木から半町程離れた。
「此処でいいよ、オレが逃げろって言ったら、思いっきり漕いで逃げて欲しいんだ。」
元太は頷き、そして、げんたは黒い筒を海面に降ろすと、大木の方へと押した、すると黒い筒はゆっくりと進み。
「あんちゃん、逃げろ、思いきっり漕いでくれ。」
げんたが大声を張り上げ、元太はもう必死で小舟を操り。
「あんちゃん、伏せて。」
二人は小舟の中に身を伏せると。
「ドッカ~ン。」
と、其れはまるで天と地がひっくり返した程の激しい爆発音で今まで誰もが聞いた事の無い程にも凄まじく、浜の漁師達は一体何が起きたのかもさっぱりわからず、その後、海面には無数の木片が落ちて来る。
凄まじい爆発音はお城まで届き、その後は大騒ぎとなり、これは一体何だ、若しや官軍が攻めて来たのでは。
「源三郎、源三郎は何処じゃ、源三郎は何処に居るのじゃ、官軍が攻めて来たぞ、官軍が攻めて来たのじゃ。」
お殿様はもう気が狂った様に大声を上げ、源三郎を探し、城内は蜂の巣を突いた程の大騒ぎで有る。