第 102 話。 次なる手は。
「若。」
「義兄上、誠にご苦労様で御座います。」
「話の前に高木さん食事の準備は。」
「はい、賄い処にはお願いしております。」
「左様ですか、私も飛んで来ましたので、少しお待ち下さいね、誰かお水を頂けますか。」
何時もならば家臣が手配するのだが、今日は何故か遅く、其れでも暫くすると腰元がお茶を運んで来た。
「若も大変で御座いますが警戒の方は如何で御座いますか。」
「直ぐに手配し、山賀から松川へ上田へと順次伝わって要るとは思いますが、確認は出来ておりません。」
「小隊長、今からでも確認して下さい。
其れと今夜から数日間は厳戒態勢を維持する様に手配を頼みます。」
やはり工藤が来ると手配の方法が違う。
「松之介。」
と、若殿様と斉藤もやって来た。
「兄上、誠にご苦労様で。」
「其れで警戒の方は。」
「先程、終わっております。」
若殿様も斉藤も源三郎が松川で馬を換え、飛ばして行くのを見て、これは山賀で大事件が起きたと考えるのが普通で、二人も急ぎ松川を発ったので有る。
「私は源三郎と申します、ご貴殿方には誠に申し訳御座いませんが、最初からゆっくりとで宜しいのでお話しをして頂きたのです。」
「はい、承知致しました、私がご説明させて頂きます。」
と、若様にも一番多く説明した元下級武士が説明を始め、其れは一時以上も掛かり、やはり若様に話した内容と同じで、だが彼らも思い出しながら話して要る。
「左様ですか、其れでもう忘れて要る事は有りませんか、ゆっくりと思い出して頂いても宜しいですからね。」
その後、暫くして。
「あの~自分が思い出した事が有るのですが。」
「宜しいですよ、ご貴殿も色々と有りましたから、直ぐには無理でしょうからね、其れで何を思い出されたのですか。」
「はい、実は自分達が野営地を出発する少し前ですが、有る中隊長と小隊長が話されたのですが、間も無く偵察隊が帰って来るだろうから彼らは、彼らとは、これは自分達の事ですが、別の所から向かわせてはと。」
「今、申されました間も無くと申されるのは何日後とかはわからないのですか。」
「其れだけは部隊の誰も知りませんが、自分達が何処から登って行くのかと分隊長が言ってましたので。」
「左様ですか、若様、若殿、工藤さん、これは大変な事態になるやも知れませんねぇ~。」
「何処から来るのかわからないと言うのが一番不安で御座いますねぇ~。」
「う~ん、何か良い方法は無いか。」
源三郎は偵察隊が何時、何処に来るのか、其れさえもわからず、策を考えるが、今回だけは直ぐには浮かんで来ない。
「もう少しお聞きしたいのですが、貴方方の着て要るお着物ですが、野営地で着替えられのですか。」
「左様でして、部隊に居りますやくざ者から借用した物でして、偵察隊も同じ様に町民の着物も着替え城下に入り調べておりました。」
「工藤さん、若しもですが、もう既に城下に潜んで要るやも知れませんねぇ~。」
「其れならば別の方法を考えなければなりませんが。」
「義兄上、私は直ぐ戻り家臣に城下へ向かわせ探したいと思うのですが。」
「若殿、少しお待ち下さいよ、そうかその方法が有りましたか、其れならば一番打って付けの人物がおりますよ。」
「其れはどなたで御座いますか。」
若殿が戻り家臣に偵察隊を探し出すと、其れならばもっと打って付けの人物が居ると、だが一体誰だと言う。
「銀次さんですよ、そうですよ、銀次さん達は菊池から山賀の領民さんを知って居られますから、銀次さんに探し出して頂く様にお願いして見ましょう。」
「義兄上、其れならば今山賀におられますが。」
「其れは誠で。」
「はい、技師長と大工さん達に銀次さん達も全員で着ておられます。」
「其れならば、どなたか。」
と、言った時。
「若様、えっ、源三郎様が、其れに若殿様に斉藤様も工藤大佐も、えっ、正か官軍が。」
「ええ、その正かですよ、其れで今銀次さん達を呼びに行こうと思ったばかりでして。」
「オレにですか、何でもやりますよ、オレでお役に立つんでしたら。」
「まぁ~ねぇ~、この任務は銀次さん達で無ければなりませんので、其れで皆さんは。」
「今、北のお堀の食堂で。」
「其れならば皆さんの食事が終わられましたからで宜しいので、此処に来て頂きたいのです。」
「いゃ~其れだったら直ぐに来させますんで、待ってて下さいよ、直ぐに呼んで来ますんで。」
と、銀次は部屋を飛び出して行った。
「あの~自分達は一体どうなるんでしょうか、銃殺刑になるので有れば早くやって欲しいんですが。」
「ええ、銃殺刑って、若様は彼らに銃殺刑だと申されたのですか。」
「いいえ、私は何も申してはおりませんが。」
と、若様は手を振り否定した。
「左様ですか、ではご貴殿は何故銃殺刑になると思われたのですか。」
「普通に考えても自分達は敵軍ですので。」
「では銃殺刑にして欲しいのですか。」
「いいえ、正かそうでは有りませんが。」
「左様ですか、ではご貴殿方にお願いが有るのですが聞いて頂けますか。」
「はい、勿論で、命を助けて頂けるならばどの様な事でもさせて頂きます。」
源三郎は三人の官軍兵に一体何をさせると言うのだ。
「そうですねぇ~、見た通り、いや此処には子供と老人と、まぁ~後は女性ばかりで、更に侍や兵隊は居りませんよ。」
「義兄上、その様に申されますと官軍兵は一気に攻めて参りますが。」
「まぁ~ねぇ~、普通ならば其れこそ何も考えずに来るかと思いますがねぇ~。」
何故に源三郎は子供や老人と女だけだと言ったのだろうか、相手は二千の官軍兵だ。
「総司令の目的は何で御座いますか。」
工藤は源三郎は他の目的が有ると考えた。
「先程の話の中で半分は農民さんや町民さんで、先陣を切るのは何時も浪人者とやくざ者だと、ならば彼らが部隊に戻り今の話をして頂きますと、大隊長よりも浪人者とやくざ者が指揮官の制止を無視して登って来るのは間違い御座いませんよ。」
「では官軍兵は半分になると申されるのですか。」
「其れは分かりませんが、少なくとも全員が来る事は無いと思いますがねぇ~。」
官軍兵二千は一度に攻めては来ないと思って要るが、それ程簡単に官軍兵は引っ掛かるのだろうか、いや源三郎は其れを狙って要る。
「今申されました話を致せば、自分達の命は助けて頂けるので御座いますか。」
「まぁ~ねぇ~、ただ私も簡単に考えただけでしてね、私は今回我々の仲間が何故来て頂けるのか、本当はそれの方が問題でして。」
源三郎は仲間だと言ったが、三人の官軍兵には一体何の話をして要るのかさえもさっぱりわからない。
「今申されましたお仲間と申されますのでは一体何処から来られるので御座いますか。」
「私達にはねぇ~、数万もの仲間がおりましてね、余り遅く来られますと、我々もそれなりの犠牲を払わなければなりませんが、まぁ~適当な時期にやって来ますと、我々の犠牲者は一人も出ませんのでね、まぁ~其れだけの事なんですよ、この山に生息しております狼の大群は若様の仲間なんですよ。」
「えっ、狼って本当の話なのですか。」
「若様からは何も聞いておられなかったのですか。」
「其れではさっき連れて行かれた分隊長は本当に狼の餌食になったのですか。」
「若、分隊長は山に連れて行かれたのですか。」
「はい、分隊長と言うのは侍でして、其れよりも彼らには絶対に言うなと、若しも喋ったならば国に残った妻や子供のと申しまして、このままでは何も話さないと思いまして、分隊長だけは先に餌食になって貰いました。」
「左様ですか、ですがこちらの方々は信用されて居られませんねぇ~。」
「源三郎様。」
と、銀次と仲間の全員が入って来た。
「銀次さん達も来て頂き、これで役者が揃いましたので今から私が考えた方法をお話ししたいと思います。
今回の作戦では一番重要な役目を担って頂きますのが銀次さんのお仲間でして、其れでお聞きしたいのですが、銀次さんを含め皆さんは連合国の領民さんの顔を覚えておられますか。」
「オレは連合国のお人ならば殆ど知っておりますが。」
やはり銀次が最初に発言し、連合国の領民ならばほぼ全員の顔は知って要ると言う。
「源三郎様、オレは菊池の人だったら全員わかってますんで。」
「オレもですよ。」
「オレは野洲だったら誰にも負けませんよ。」
「其れだったらオレは上田ですよ、上田の事だったら、路地には何が置いて有るかも知ってますんで。」
やはりだ、銀次と仲間は素晴らしいと源三郎は思った。
「皆さんは大変素晴らしい方の集まりですねぇ~、私も大変嬉しいです。」
「義兄上は銀次さん達に一番重要なお役目と申されましたが、一体何を考えておられるのですか。」
若様は源三郎が何をするのかはっきりとわかっていない様で。
「では詳しく説明しますからね、銀次さんは上田に参って頂きますが、お仲間を各地に分散して頂きたいのです。
先程も申し出が有りました方々を中心に均等に振り分けて頂きたいのです。
其れと昌吾郎さん達は松川に、銀次さんは上田に参って頂きます。
其れで此処に来て居られない菊池の高野様、上田の阿波野様に、其れと中隊長、小隊長を集めて頂きまして、今からお話しする内容を伝えて頂きまして、一刻でも早く官軍の偵察隊を発見して頂きたいのです。」
源三郎はその後、銀次達に山賀で起きた事件の詳細を話した。
「源三郎様のお話しじゃ、偵察隊の全員を捕らえるって事ですよね。」
「ええ、その通りでして、一人でも逃がす様な事にでなれば官軍に全てを知られ、若しもその様な事にでもなりましたならば、連合国の領民もですが、今進めております秘密の工事の全てが知られる事にもなるのです。」
「じゃ~一人だけを捕まえても駄目なのか。」
銀次は偵察隊の兵士一人を捕まえ、官軍の動きを知れば十分だと思っていた。
「銀次さん達もですが、今連合国、いいえ、日本国が存亡の危機に近付いて要るのです。」
源三郎は銀次達には全てを話さなければ今回の作戦は成功しないと考え話した。
「そうか、じゃ~下手に官軍の奴らに連合国の秘密を知られると、その何とか言うお方と源三郎様がやってる事が全部ばれてロシアとの戦争は負ける、えっ、若しもそんな事になったら、オレ達の国は一体どうなるんですか。」
「日本国はロシアの植民地にされましてね、もう今の様な生活は二度と出来ないと思います。」
「でも戦争に負けても兵隊さんも居られるんじゃ無いんですか。」
「でもねぇ~、兵隊さんは居られても武器は全部取り上げれますから素手でロシアの兵隊とは戦えないんですよ。」
「じゃ~連発銃も無いって事は。」
「その通りですよ、日本国はロシアの植民地にされ、永久に泥沼から抜け出せず、ただ生きて要るだけなんですよ。」
「じゃ~連合国を知ってるのは、その駐屯地の兵隊さんとそのお方なんですか。」
「その通りでしてね、ですから同じ官軍だと申しましてもね、駐屯地以外の兵隊に知られるのは連合国と日本国が滅亡するやも知れないのです。」
「よ~く分かりました、みんなは手分けして兵隊さん達の協力を得て、官軍の偵察隊全員をとっ捕まえてやろうぜ。」
「でも捕まえたらどうしたらいいんですか。」
「そうですねぇ~、では合図の方法ですが一番早いのが鏡を使い知らせて行きましょうか。」
「だったら菊池で捕まえたら、野洲へ一回だけぴかっと知らせるって言うのはどうですか。」
「だったら野洲は二回で、上田は三回と、松川は四回、えっ、でも源三郎様は何処に居られるんですか。」
「そうでしたねぇ~。」
「総司令はやはり野洲でお待ち頂ければ宜しいかと。」
「そうですよ、源三郎様はやっぱり野洲ですよ。」
工藤も銀次も源三郎は野洲に居る事が一番だと思って要る。
「分かりました、では私は野洲に居りますので、其れと、彼らの話で偵察隊が野営地に戻り、山賀以外にも来て要るやも知れないので。」
「義兄上、私は今からでも戻り、中隊長と小隊長を集め、明日の朝、陽が登る前に配置を完了したいと思いますのです。」
「じゃ~オレ達も行きますんで。」
若殿様が戻ると言い、其れではと銀次達も戻ると言う。
「昌吾郎さん達は若殿様と松川にお願いします。
其れと高木さんは馬車と馬の手配をお願いします。」
高木は直ぐ駐屯地へと向かった。
「若しもですよ、若しも官軍の偵察隊を捕まえたらもう終わりにするんですか。」
「いいえ、其れは有りませんよ、やはり当分の間は同じ役目を続けて頂きたいのです。」
「でも捕まえたら次にやって来るのは、でも正か同じ様な兵隊を。」
「其れは考えられますよ、今回もこの人達が来たと言う事は同じ事を行う可能性が有りますのでね、当分の間は城下を見回って頂きたいのです。」
「分かりました、みんなも源三郎様の言われる通りにするんだ、分かったか。」
銀次の仲間は改めて気を引き締め頷くので有る。
「義兄上はこの人達をどの様にされるのですか。」
「う~ん、これは困りましたねぇ~。」
「総司令、我々の国から出て頂く訳には参りませんが。」
工藤は三人の官軍兵を野営地に戻してはならないと、やはり連合国の存在を知ったとなれば、絶対に開放してはならないと思って要る。
「ですが、他の者には話さないと思うのですがねぇ~。」
確かに今は話す事はしないだろう、だが一体何が信用出来ると言う。
「自分達は絶対、誰にも話す事は致しません。」
「自分達はお約束致します。」
「まぁ~ねぇ~、確かに今はその様に申されておられますが、ですが数日も経てば同じ下級武士ならば気を許す事も有りまして、そして、ぽろっと我々の事を話し、其れが何れの日になれば、今日有った事を全て忘れてしまいますからねぇ~。」
確かに今は命を取られるか、其れとも助かるのかの瀬戸際で助かる為には誰でも同じで、だが時間の経過と共に忘れ、何れの日になれば全て忘れる事になり、全て話すとなれば連合国もだが日本国の存亡に関わるので有る。
「ではやはり銃殺刑にですか。」
「銃殺刑にですか、其れは官軍だけですよ、ですが今直ぐ貴方方の命を取る事は致しませんのでね、まぁ~暫くは何もされる事は有りませんのでねのんびりとしてて下さいね。」
「源三郎様、馬車と馬の準備が整いました。」
「左様ですか、皆さんには先程もお願いした通り何としても全員を確保して頂きたいのです。」
若殿や銀次達にも頭を下げ、若殿と昌吾郎達は松川へ、銀次達も決まった国へと馬車と馬に分かれ、陽が暮れた道を急ぐので有る。
「なぁ~自分達は処刑されるのかなぁ~。」
「まぁ~多分間違いは無い、だがお主の内儀は。」
「はい、もうそろそろ産み月でして、ですが今のままならば自分は子供の顔を見る事も無く処刑されるのは間違い御座いませぬ。」
「確かに此処の人達が申されるのは間違いでは無い、我々は官軍なのだからなぁ~、若しも自分が反対の立場ならば絶対に生かしては置きませんからねぇ~。」
彼ら三人の官軍兵の言う事に間違いは無く、捕まえた敵軍の兵士を生かして置く事などは考えられない。
三人の官軍兵は処刑されるのか、其れとも助かるのか、其れは二千と言われる官軍兵の動き行かんで有る。