第 4 章。決定か外国軍との戦争は。 第 97 話。正か夢にも思わなかった事が。
「司令長官殿、参謀長殿がお待ち致しておられます。」
源三郎が名乗る前に歩哨の兵士が言った。
「左様ですか、ではこのままで参ります。」
小隊を先頭に執務室前に着いた。
「中隊長、済まないですが馬にたっぷりと水と、其れから牧草もたっぷりと与えて欲しいんだ、多分、今夜は此処に泊まる。」
「はい、承知致しました。 中隊は馬を川に。」
その後、兵士達は馬を川へ連れて行く。
「上野様。」
「司令長官殿、誠に申し訳御座いません。」
と、突然 平八郎が土下座し軍服から短刀を出し前に置いた。
「本藤少佐、如何されたのですか、さぁ~お立ち下さい。」
と、源三郎は平八郎の手を取り立ち上がらせた。
「司令長官殿には大変申し訳無く思っております。
ですが、私は何としてもお願いしたく存じまして、お願いをお聞き届けて頂けなければ自害覚悟で参ったので御座います。」
源三郎よりも工藤と吉田は以前の平八郎を知って要るが、やはり軍令部に配属され飛んでも無い情報を得たのだろう、其れで無ければ自害覚悟で来たとは考えられない。
「本藤さん、私もお話しは伺いますが、私には何の決定権も有りませんので、其れだけは承知して頂きたいのです。」
「勿論、承知致しております、お話しする内容に付きましては軍令部の誰も知りませんが、此処に来る前、私は海軍大臣のご自宅に向かい、その時も自害覚悟で直訴致し、全てをお話ししております。」
「其れでは我々の事は全て海軍大臣がご承知されておられるのですか。」
「はい、ですが、何れの国とは申しておりませんので。」
「少佐殿、では自分達の事もお話しされたのですか。」
「いいえ、其れは申しておりませんが話の内容で大臣も承知されたのでは無いかと思います。」
平八郎は軍令部には何も伝えていない、だが今回の一件に付いては海軍大臣が承諾する事が大前提で、平八郎は大臣に今回の件に関し、承諾出来ないので有れば、ロシアとの戦争は負け、日本国は滅びると脅迫した様に聞こえる内容で有る。
「ではお伺いしたいのですが、我々は一体何を致せば宜しいのですが、内容次第ではお断りするやも知れませんよ。」
源三郎は話の内容によっては断ると、だが源三郎は断るとなれば日本国はロシアの植民地となり、其れは日本国民の全てが奴隷として扱われ、永久に抜け出せず日本国は滅びる事になると考えて要る。
「ではお断りになるやも知れないので御座いますか。」
「本藤さん、私はねぇ~、我が領民に対し出来ないものを無理にやれと申せないのです。
我々の民は何故に其れが必要なのかを納得しなければ、どの様な簡単なお仕事、いや任務でも拒否されるのです。
ですが、反対にどの様な困難な任務だとしても領民が納得されたならば、皆が参加を希望されるのですよ、例え私が反対しても領民が納得する事が大前提なのです。」
連合国の領民はどんなに困難な仕事でも納得さえすれば可能だ、だが反対に納得出来なければ例え源三郎が反対しても連合国の民は一致団結すると言うので有る。
「上野様がお呼びとか、えっ、源三郎様がお越しだとは。」
「後藤さんも大変ですがその後は如何で御座いますか。」
「左様ですねぇ~、今のところは順調に進んでおりますが、これからが一番大変な工事に入りますので。」
「後藤さん、えっ、何で源三郎様が。」
「吉三さんもお久し振りで、ですが決して無理だけはされない様にして下さいね。」
「源三郎様こそ、何で来られたんですか。」
「其れがねぇ~、私もさっぱりわかりませんのでねぇ~、今から本藤さんのお話しを伺うのですが、吉三さんも聞いて頂ければ何かのお役に立つやも知れませんよ。」
「オラにもわかる様なお話しなんですか。」
「さぁ~ねぇ~。」
と、言って吉三の顔を見てにやりとするが。
「さぁ~ねぇ~って、源三郎様がわからないお話しをオラがわかるはずが。」
源三郎と吉三の話に平八郎は源三郎が言った意味を理解したのだろうか、吉三は後藤の横に坐り、だが何か落ち着かない様子で、源三郎は目を閉じ、やはり心を鎮めようとでもして要るのだろう。
執務室には緊張した空気がぴ~んと張り詰めて要る様にも見え、そして、本藤の話が始まり、やはり源三郎の思っていた通りで、イギリスやロシアを始めとする欧州の国々の最新情報で、最初の半時以上はその話で、だが後半は源三郎達を震撼させる驚愕の話になったが、源三郎達は最後まで話を聞いた。
「本藤さんのお話しでは我々に潜水船を建造する様にも聞こえるのですが、本藤さんを始め、軍令部や新政府は我々の存在をご存知なんですか。」
「いいえ、私以外は誰も知らないと言うよりも、例え私が説明しても全く信用しないと思います。」
やはりだ、新政府も軍令部の誰もが連合国の存在は知らないと言う、だが其れよりも何故に平八郎は潜水艦を、いや潜水船を建造した事を知って要ると、源三郎にすればそちらの方が余程大問題で有る。
「其れと先程のご質問ですが、私だけが潜水船の存在を知って要るのです。」
「何ですと、本藤さんだけが潜水船の存在を知って要ると申されましたが。」
何故に本藤だけが知って要るんだと源三郎は考えるが、本藤の答えは源三郎もだが工藤と吉田、いや其れ以上に父親で有る上野は恐ろしい程の衝撃を受けた様子で有る。
「平八郎、今の話は本当なのか。」
「はい、全て本当で御座います。」
「本藤少佐は何故に知っておられるのですか、我々の。」
「ではご説明致しますが、その前に我が海軍では兵士になりたい者には絶対条件が有り、その中でも遠泳が必須となっております。」
「今、遠泳と申されましたが、どれ程泳がれるので御座いますか。」
「兵士ならば半時以上で上級将校になりますと、最低でも一時以上泳がなければ軍艦には乗れないのです。」
「工藤さんはご存知だったのですか。」
「いいえ、飛んでも御座いません。
私も今初めて知りましたので。」
「司令長官殿、工藤大佐殿は全くご存知無いと思います。
と申しますのは、大佐殿が我が官軍にご在籍されておられる時代は幕府との戦の最中でして、まだその様な組織が正式には無かったので御座います。
ですが、今は大日本帝国と申しまして、陸軍は大日本帝国陸軍と、そして、私の居ります海軍は大日本帝国海軍と正式な名称になったので御座います。」
「其れでは今申されました遠泳ですが海軍として正式に設立されてから導入されたのですか。」
「左様で御座いまして、確かに軍艦も大切ですが、私は軍艦は新たに建造出来ますが、人の命は二度と戻らないと考えまして、其れで私が導入をお願いしたのです。」
本藤もわかっていたのだろうか、人命に代わるものは無いと、だが何故遠泳が必要なのだ。
「ですが軍艦が沈没すれば兵士も助からないのでは御座いませんか。」
源三郎もだが他の上野も工藤も同じ様に思って要る。
「軍艦と言う船もですが、大型の船と言うのは敵軍が撃った大砲の弾が命中しても直ぐには沈没致しませんし、沈没する前に海に飛び込み、他の艦船に救助されるまで泳ぐ事が出来れば、兵士は助かるのです。
勿論、全ての軍艦が撃沈されたならば全員が戦死するのは間違い御座いませんが、全ての艦船を撃沈するとなれば、敵軍も大損害を受け、お互いが何処かで終わる事になるのです。」
だが陸上での戦で連合国は今まで敵軍で有る官軍を始め、幕府の残党や野盗の全員を殺し、いや現実は狼の大群に襲われ全員が死亡して要る。
「本藤少佐にお伺いしたいのですが、今の官軍、いや陸軍では敵軍の全員を殺す事は無いのですか。」
工藤も吉田も幕府軍との戦よりも連合国軍としての時間が長く、更に連合国軍では狼と言う最強の援軍を得て今までの敵軍は全て殺して要る。
「私は海軍ですので陸軍の事は余り詳しくは知りませんが、陸軍と海軍、そして、新政府のお方との話の中では今は敵軍と申しますのは殆どおらず、清国とロシアとの決戦に付いての会議だけでして現場の声は上がっては来ないのです。」
本藤の言う事が本当かも知れず、重要な会議では幕府の残党との戦の話を必要する事も無く、最重要課題は清国及びロシアとの決戦をどの様にして勝利するか、ただそれだけで有る。
「其れで先程のご質問で御座いますが、正直申しましてあの時、正か工藤大佐殿、あの時は少佐殿とお呼びしたと思ったのですが、やっぱり生きておられたと、ですが大佐殿は司令長官殿を総司令とお呼びされておられたのです。
私も最初は鹿賀の国に参られたのだと考えたのですが、その後も色々と考え、やはり鹿賀の国では無いと思い、其れならば一体何処の国に居られるのか考えたのですが、直ぐには答えが出ず、其れで暫くして地図を見て何故だが分かりませんが、高い山の向こう側だけが詳しく書かれておらず、他の者にも聞きましたが全く答えにならないのです。」
其れならば上野や中隊長も不思議に思っていたが、別に改めて調査する必要も無かった。
「上野様も不思議だと思っておられたのですか。」
「左様でして、ですが私もですが中隊長も其処までは調査の必要も無いと思っておりましたで、今もですが全く知らなかったと言うのが本当なのです。」
「左様ですか、本藤さんは陸からでは無く、海から調べられたのですか。」
本藤が駐屯地に来た頃には近くの農民から山の麓に近付くことは大変危険で、其れと言うのも山には狼の大群が生息して要る話は聞いており、其れならば海上から行くのが当然で有る。
「私は此処から西の方に有ります宿場に入り、何度と無く大きな入り江の入り口まで来ておりましたよ。」
「えっ、だが門の当番兵からは何も聞いていないぞ。」
上野は当番兵が見逃すはずは無いと思って要る。
「私は一度も陸上から入り江には向かっておりません。
私は近くの漁村で小舟を借り、入り江の近くまで行きまして小舟は岩に括り付け見えない所に隠し、私は丸太に縄を巻き、そして、入り江に向かったのです。
その時、小舟に乗った漁師が入り江に入って行くのですが、その後ろから何故か不自然な筒が二本海上に出て要る様にも見え、その後ろからも同じ様な筒が海上に出た状態で私の方へと、そして、突然動きが止まったのです。」
「えっ、海上に不自然な動きをする筒を発見されたのですか。」
源三郎も工藤も正かと思ったが、天元作戦を決行した時、本藤に発見されていた。
「ですが、私の手前にと申しましても直ぐ近くでは有りませんが、其れと向こう側にも同じ様な動きをする筒を出した状態で、更にもう一組と申しましょうか、二本の筒を出した状態で入り江の中に入って行ったのです。」
「本藤さんは筒を出した状態を見ておられたのですか。」
「左様でして、私は岩陰に隠れ、暫くの間見ておりましたが、海中から筒を出した状態で入り江の外に向け出て行ったのですが、小舟はそのまま出て来る事も無かったのですが、最初に入った筒から何か光が見えた様にも思ったのです。
やがて入り江の外に、その後、手前と向こう側の筒も同じ方向へと向かいましたので、私は海に入り泳いで行ったのです。」
其れならば潜水船は発見され行き先まで知られたのは間違い無いと源三郎は思った。
「では行き先までも知られたのですか。」
「司令長官殿には誠に申し訳御座いませんが近くの入り江に直ぐ入られるのを見まして、私は岩場に隠れて居りましたところ、兵士と思われる人達を乗せた小舟が出て来たのです。」
「では全てを見られたのですね。」
「左様で御座いまして、私は暫く丸太の影に隠れ小舟が出た付近まで参りますと、やはり洞窟が有りましたので、私は中に入ったところ、今まで見た事も無い特別な造りをした船を発見したので御座います。」
だが一番驚いたのは源三郎や工藤では無く、上野や中隊長と、其れに吉三で、吉三にすれば正か連合国にそんな船が有るとは全く考えていなかった。
「若しや上野様もご存知だったのでは御座いませんか。」
「いいえ、私も今初めて聞きまして、正か平八郎がそんな行動を取っていたとは夢にも思っておりませんでした。」
上野は手を振り疑いを払うので有る。
「本藤さんは全ての入り江を調べられたのですか。」
「はい、誠に申し訳御座いませんが全ての入り江を調べさせて頂きましたが、私は何と表現して良いものかもわからず、あの時はただ驚きだけでしたが、これでようやく司令長官殿と大佐殿が居られる所は此処に間違い無いと確信致しました。」
「では浜に上がられたのですか。」
「正か、私も命が惜しいですから、其処までの危険を冒す事は出来ませんでした。」
やはり、平八郎も命が惜しいと、其れが普通の人間で有り、其れ以上の調べは無かったと言う。
「其れで我々に潜水船の建造を願われたのでしょうが、ですが我々の存在はどなたもご存知無いと申されましたが、若しも我が国で潜水船を建造するにしましても、資材や道具は御座いませんが。」
「其れに付きまして資材や道具類の全てを此処に届けたいと考えております。」
「そんな事が出来るので御座いますか。」
「司令長官殿、私も馬鹿では有りませんので、父上が発注された資材や道具類の全てがこの地で使われていない事も知っております。
ですが、その事実を知って要るのは一部の者だけでして、ましてや今の軍令部の連中は全く知りませんので、どうかご安心を。」
上野は中隊長も全て知られて要ると思った。
「少佐殿は郷田課長から聞かれたのですか。」
「正か郷田課長もですが、資材部の人達は何も言われておりませんよ、ですが有る時まで全く資材や道具類の発注が来なかったのが、あの時を境にして今では大量の資材が此処に届けられて要るのは知っておりますよ。」
だが本藤も知らない地下、いや断崖絶壁の内側の巨大な空間で潜水船基地を建造中だとは。
「本藤さんが其処までご存知ならば私は何も隠す必要も有りませんので正直に申しますが、我が連合国では海岸に有る洞窟を利用し潜水船を建造し、今も十隻程が活動しております。」
「やはりで御座いましたか、私は郷田課長には上野参謀長から送られて来る目録の全てを発送する様にお願いしており、其れとは別の資材ですが、この目録は私が直接郷田課長に送りますので目録に記載されていない品が届けば全て連合国に送って頂きたいのです。」
「本藤さんも少し待って頂きたいのですが、我が連合国には造船所の様な設備も無く、潜水船も全てが木造船なので洞窟内で造る事が出来たのです。」
源三郎は潜水艦基地だけは秘密にして置きたいのだと工藤も思い何も言わずに要る。
「少佐殿、今申されました潜水船で御座いますが、軍令部の方々はご存知なのですか。」
「いいえ、全く知りませんよ、例え私が説明したところで全く相手にしないと思います。
新政府の軍令部と申しましても、頭の中は以前として古い考え方をしているのが殆どでして、船が海中に潜るなどとは全く考えておりません。
ですが、私は何としても潜水船を建造し、ロシアの大艦隊を撃滅したのです。」
平八郎は簡単に言うが、一番の問題はどんな武器を潜水船に、いや潜水艦に大砲を備えるとなれば、其れこそ大変で、若しも大砲を備えたとしても、一度浮上しなければ大砲を撃つ事も出来ず、大砲を撃つ前に発見され一斉攻撃を受け、潜水艦は全て撃沈される。
「私も本藤さんの申されますのは理解出来ますが、では武器は如何されるのですか、潜水船に大砲でも備えるのですか、例え大砲を備えたとしても撃つ前には必ず海上に浮上しなければなりませんがねぇ~。」
「う~ん、其れは困りましたねぇ~、私は本当に大馬鹿者ですねぇ~、武器の事までは全く考えておりませんでしたよ。」
と、平八郎は何故か含み笑いを、やはり何かを感じて要るのだろうか、其れとも何かを知って要るのかも知れないが、今は何も語らずに要る。
連合国にはげんたと言う大天才が居り、げんたの指示で、今着々と潜水船基地の建造中で、げんたも潜水船に搭載する武器を考案中で、げんたの事だ必ず完成させるに違い無い。
「潜水船を建造する造船所は我々が考えますので、海軍さんは潜水船に搭載する武器を考えて頂きたいのです。」
「私も何とか秘密で働き懸けて見ますので、司令長官殿には大変なご無理をお願い申し上げますが、何卒宜しくお願い申し上げます。」
源三郎もだが工藤も吉田もこれで一安心だと思った。
平八郎は幾ら泳ぎの達人だと言っても山賀で潜水艦基地を建設中だとは知らず、だが問題はこれで終わるはずが無く、一体この先はどの様な展開になるのか、源三郎も全く想像出来ずに要る。