第 94 話。 予定通りには行かぬ。
数日過ぎた頃、上野に一通の書状が届いた。
差出人は養子に出た平八郎で有る。
「父上様、長らくご無沙汰いたしております。」
と、書き出し、衝撃的な内容が書かれており、父で有る上野は息子の思いを強く感じた。
「私も其れにしても平八郎は何と思い切った作戦を考えたんだ、若しもその男が書状を官軍の駐屯地にでも持って行ったら飛んでも無い事になるぞ。」
上野は書状を受け取った男が駐屯地に持ち込まない事だけを祈った。
「参謀長殿、宜しいでしょうか。」
中隊長が入って来た。
「現場で何か有ったのか。」
「いいえ、そうでは有りませんが、吉三組さんが大工さん達に岸壁造りの方法を教えられ、其処にはやはり職人さん達の飲み込みが早いのかも知れませんが、其れはもう驚く様な速さでして、セメントの在庫が少なくなってきておりまして、その為に残りが数日分だけとなっております。」
「えっ、そんなにも早いのか。」
中隊長も連日岸壁工事の現場で見ており、職人達は今まで遅れた分を取り戻すかの様な勢いで作業を行って要るのを見て要る。
「分かった、次からは今までの倍以上を頼む様にするから、職人さん、いや吉三組さんにはセメントの在庫が無くなり次第休みを取る様に伝えてくれるか。」
中隊長が部屋を出ようとしたが、上野の顔が何か浮かない様にも見え、又も司令部から文句でも言って来たのかと思い。
「参謀長殿、又司令部から文句でも言って来たのですか、何時になったら完成するんだとか、何とか。」
「いやそうでは無いんだ、実はなぁ~平八郎が飛んでも無い事をやりおったんだ。」
「平八郎って申されますと、確か。」
「そうなんだ、本藤のところへ養子にやったのが平八郎だ。」
「では軍規違反でもされたのですか。」
「軍規違反どころの騒ぎでは無いんだ、若しもそんな事が世間に知られたら大変な事になる様な情報を、其れも身元も確かでは無いやくざ者に託したって話なんだ。」
中隊長は上野が話す内容の意味が理解出来ないのか反応が遅い。
「えっ、世間がひっくり返る様な内容と申されても、私はさっぱりわからないのですが。」
「そうだと思うよ、わしだって知らないんだ、軍令部内だけの人物が知っており、まぁ~殆どと言っても良いと思うんだ。」
「では長州でも知らされて無いと言う事なのですか。」
「まぁ~多分伝わっていないと思うんだ。」
「ですが何故そのやくざ者に渡されたんですか、私は全く理解出来ないのですが。」
「まぁ~この文を読んでくれたらわかるよ。」
上野は中隊長に書状を渡し、中隊長は真剣に読み始め。
「えっ、正か、そんな事が。」
「その正かなんだ、その文面からするとやはりあのお方だと思うんだ。」
「ですが正直なところ、我々も何処におられるのかも正確には知らないんですよ。」
「だがなぁ~、平八郎は随分と前から調べてた様に思うんだ、と言うのはその銀龍一家の消息も不明なんだ、其れにだ、平八郎は外に出る様な用事が有る時にはやくざ者の姿をした男に何処から来たのかと必ず聞くと、だが今まで銀龍一家と関係の有る人物とは出会う事が無かったが、どうやら今回は銀龍一家の者だと、其れにその人物は元侍だと分かったらしいんだ。」
「まぁ~確かにその様に書かれておられますが、では銀龍一家の者達もあのお方の所へ戻ると確信されたんでしょうか。」
「其れは多分間違い無いと思うが、所詮やくざ者だ元が侍だと言ってもやくざ者になった様な男にそんなにも大事な書状を託す事が理解出来ないんだ。」
中隊長は上野が話す間でも文を読んで要る。
「参謀長殿、此処に書いて有る内容は本当なんですか。」
「半島の王が助けてくれって言う事か、わしはそんな話は知らん、わしのところには何の通達文も届いていないんだぞ。」
「では半島はロシアの手に落ちるんです。」
「若しもそんな事が起こって見ろ、其れこそ日本国を制圧する為の最高の軍港が造られ、若しもその様になれば、日本はロシアの植民地にされ国民は数十年、いや永久に生きた地獄を味わう事になるんだ、だからどんな事が有っても絶対に半島をロシアの手に渡す事などしてはならんのだ。」
明示新政府はどんな事態が有ってもロシアの手から半島を守らなければならないと、その為に今、長崎を含め、数ヶ所で軍港と軍艦の建造を行っており、ロシアの大艦隊を撃滅しなければならないと必死の作業を行っており、上野が居る軍港建設も例外では無い。
「ですが、そんな重要な物が果たしてあのお方に届くのしょうか、若しも若しもですよ、途中の何処かに有る駐屯地に行きその品が渡れば、其れこそ問答無用で銃殺刑ですよ。」
「だからわしも心配してるんだ、平八郎だけが銃殺刑になるので有れば我慢は出来る、だが本藤は全く知らないはずだ、だがそんな言い訳を聞く様な軍令部では無いんだ、そして、わしも呼び出しを受け取り調べを受ける事になるんだ。」
「じゃ~処刑を受けるのは一人では無いと言う事なんですか。」
この時、中隊長は自身も取り調べを受けるやも知れないと思った。
「まぁ~そうだなぁ~、平八郎が所属していた上官も其れは確実だなぁ~、其れに君もだよ。」
やはりだ、中隊長の思った通りで何としても誰にも知らせるなよ、出来る事ならば何処かで焼いてくれよと、心の中で願って要る。
その頃、源三郎が送った書状により三日後の朝には全員が揃った。
「皆様方、本日は大変お忙しいところ誠に申し訳御座いません。
本日は今までにない重要なお話しをさせて頂きますので、まぁ~その前に私の後ろに最新の世界地図が見えて要ると思いますが、この地図には皆様方も良くご存知で有る官軍の駐屯地の司令官と申しましょうか、上野様と申されます参謀長殿のご子息が私達の仲間で有る昌吾郎様に預けられたのですが、実は昌吾郎様自身も我が連合国に来られまだ数日でして、しかも私達とご一緒に東京に参って頂き、現在の東京を調査して頂き、上野参謀長のお話しはまだ致しておりませんでした。」
源三郎は全員にこの後も詳しく説明した。
「昌吾郎様、私が今申し上げた内容に間違いは御座いませぬか。」
「はい、全てその通りで御座います。」
と、答えたものの昌吾郎が初めて見る連合国の主だった者達に圧倒されたのか冷や汗を搔いたのを感じて要る。
「義兄上、先程のお話しは良く分かりました。
其れで今我々が一番の問題となっておりますロシアと言う国は一体どれなので御座いますか、其れと、我々連合国、いや日本国は。」
やはり、最初の質問は山賀の若様だ、何しろ今は山賀の向こう側には官軍の駐屯地が有り、先日も官軍との戦で山賀の兵士二十五名が戦死し、負傷者も多く、隊長の小川も瀕死の重傷で有り、一番関心が有るのは間違い無い。
「其れでは今から工藤大佐にお答えを頂きますので、宜しくお願いします。」
と、源三郎は横に外れた。
「若様のご質問にお答えする前に我々連合国の位置で御座いますが、皆様方から見られましても殆どお分かりにはならないと存じますので、宜しければ皆様方も此処まで来て頂けますれば、私の答えにもはっきりとご理解して頂けると思いますので、どうぞそのまま前に進んで下さい。」
松川の若殿を始め、若様も全員が地図の目前まで近付いた。
「では先程のご質問にお答えいたしますので、これがロシアと言う国家で御座いまして、我が日本国はこちらに有ります、誠に小さな国で御座います。」
「えっ、これがロシアでこの小さな国が日本国だと申されるのですか。」
「何と言う話だ、こんなにも巨大な国家と日本国は戦を始めると申されるので御座いますか。」
「これでは産まれたての子猫を人間の大人程の差が有るでは御座いませぬか。」
やはり源三郎の思った通りで、各国の主だった人物でも同じ様に見ており、だが其れも仕方がないと言わなければならない。
「皆様方、ロシアと申します巨大な国家なのですが、人間が全ての地に住んで要るのでは御座いません。」
「えっ、今のお話しは誠なので御座いますか、では一体どの辺りに住んで要るのですか。」
「ではご説明致しますので、欧州のこの付近と日本国に近い此処と、此処の他数ヶ所で御座いまして、では何故他に人間は住んでいないのかと申しますと、先程の場所以外は年中、若しくは一年の大半を氷と雪に閉ざされ、気温も人間が我慢出来る様な温度では御座いませんので、この様な地に住めるのは特別な人間と動物だけで御座います。」
「其れでは殆どが人間の住めない土地なので御座いますか。」
「左様で御座います。」
「あ~其れを聞き少し安堵致しました。」
其れは誰でも同じで、巨大な大陸の半分近くを占めるロシアと言う巨大な国家だが、人間の住んで居る所は一部分だけで有ると分かり、皆が少しだが安心した表情に変わった。
その後の質問も先日のお殿様や家臣達と同じで答えも同じだったが、問題は二通目の封書の中身が今日明かされるので有る。
「皆様方、お昼を取りまして、午後からは二通目の封書を開けたく思いますが、如何で御座いましょうか。」
「もうお昼なので御座いますか。」
「左様で御座います。」
「私はまだ一時程かと思っておりましたよ。」
「ではお昼にさせて頂きますので、雪乃殿、宜しくお願いします。」
雪乃は軽く会釈し戸を開けると、加世とすずに続き、腰元達が食事を運んで来たが、その時、銀次とげんたがやって来た。
「あんちゃん、えっ、何か有ったのか。」
「げんた、いや技師長に銀次さん良いところに来られましたねぇ~、一緒に食事でも如何でしょうか。」
「一体何が有ったんですか、若しやまた官軍が集まってるんですか。」
銀次にすれば連合国の主だった人物が居れば官軍が大軍となし集結していると思うのも当然で、だが話は全く違うのだ。
「まぁ~まぁ~、銀次さんも一緒に食事をされ、午後からの説明を聞いて頂きますのでね。」
雪乃はげんたと銀次の食事まで準備していたのだろうか、加世とすずに腰元達は次々と運んで来る。
「わぁ~これはなんだ。」
げんたが世界地図を見るのも初めてで食事どころの騒ぎではない。
「技師長と銀次さんには世界地図に付いては後日詳しく説明しますので食事を取って下さい。」
全員が食事を取りながらも工藤が説明した内容の話に夢中で、だが源三郎は別の事を考えていたが、暫くすると。
「銀次さん、先日 昌吾郎様と一緒に来られました中からお二人、いや三人をお借りしても宜しいでしょうか。」
「はい、別に宜しいですが、何か有るんです。」
「左様でして、では昌吾郎様にもお願いが有るのですが聞いて頂けましょうか。」
「勿論で、私に出来る事ならばどの様な事でもさせて頂きますが一体何を致せば宜しいので御座いますか。」
「実はですねぇ~、先日と申しましょうか、昌吾郎様達が菊池の浜に着かれた当日ですが、官軍との戦が有りまして、山賀に駐屯して頂いております兵隊さんが二十五名が戦死されたのです。」
食事中の若殿や若様もお箸を置き、源三郎が何を話すのかを聞いて要る。
「私は以前から考えていたのですが、先日も猿軍団からお話しを聞いたのですがね、猿軍団は大木の上で監視を行って要ると、そして、移動するのも大木と大木の間にも縄を張り、滑車に付け籠に乗る事で下に降りずに別の大木に行け、監視中も官軍の動きもはっきりとわかると、ですが私は別の事を考えておりましてね、昌吾郎様もまだ全てはご存知ないと思うのですが、菊池から山賀の端まで狼除けの高い柵を作り、内側には兵隊さんが移動出来るようにして有りましてね、私は柵の内側の大木に移動出来る手段が出来れば戦闘中に狼の大群が襲って来たとしても、兵隊さんは大木の上に居られ攻撃を受けるのは官軍や幕府の残党に野盗だけでして、兵隊さんは狼の攻撃を受ける事が無いと考えて要るのです。」
「では源三郎様は私にその方法を、いやどの様に作るのかを調べろと申されるので御座いますか、ですが私は新参者で連合国を全くと申しても良い程に知らないので御座いますが。」
何故に源三郎は昌吾郎にさせるのかわからないと言う。
「確かに昌吾郎様はこの地に来られまだ日も浅いのですが、私は昌吾郎様に戦略の分析をお願いしたいと思いますが。」
「確かにお伺い致しましたが、あっそうか、私も分かりました。」
昌吾郎は源三郎が言わんとすることが理解出来たのだろうか。
「総司令は我が連合国の事を知る為と監視所の様なものを大木の上に作り、そして、移動するにも下に降りる事も無い方法を考えられたのですか。」
さすがの吉永もわかったのだが、まだ理解出来ぬ者も居る。
「連合国内の事を知るだけならば大して日数は掛からないと思います。
ですが野洲の地形と上田の地形も違い、駐屯地に居られる兵隊さんの動きも違うと思うのです。
内情を知って要る者ならば簡単に見られると思うのですが、昌吾郎様は全く知らないと同じでして、別の見方をすれば昌吾郎様は兵隊さんの動きと、地形、更に領民さんの動きから見て頂けると思うのですが。」
「私は総司令の申されます意味が分かるような気がするのです。
隧道の出入口付近で見て要るのと、大木の上から見るのとでは全く違いまして、上から見れば遥かに遠くまで見る事が出来、何時頃着くのかさえも予想出来ると思うのです。」
菊池の隧道では向こう側の出入口前に有る大木の上に監視所を設置したお陰で遠くから来る敵軍もいち早く発見出来、対処するにも早く出来る。
「其れと更に理由が有るのですがね、連合国では誰でも往来は自由でしてね、銀次さんが山賀に向かわれても何の不思議も有りませんが、私が一番危惧して要るのは密偵でしてね、例えば上田の城下に官軍の密偵が潜り込んだとしても一体誰がわかると思われますか、阿波野様が毎日城下の見回りする事などはとてもでは有りませんが、不可能だと思うのです。」
「義兄上は我々連合国に密偵が潜り込んで居る申されるのですか。」
其れは若様だけで無く、全員が思っており、官軍の密偵などは潜り込んではいないと思って要る。
「若様は山賀の領民の全員のお顔はご存知だと思いますが、例えばですが菊池のお方が数人行かれたとしてもお分かりになられましょうか、私は何も皆様方がどうのとは申してはおりませんが、銀次さんならば連合国の誰もが知っておられます。
ですが昌吾郎様を知っておられるのは、此処に居られる方々と野洲と菊池の漁師さんだけで城下のお方は誰も知らないと、私は此処に目を付けたんですよ。」
確かに日頃は皆忙しく、この人物が何処から来たのかまでは気にしておらず、また城下の人達も全く気にしておらず、今の連合国はそれ程まで良く言えばお互いを信頼しているのだろうが、悪く言えば全く無防備で有り、密偵が潜り込んだとしても誰にも見分けが出来無い。
「では私にそのお役目もされよと申されるので御座いますか。」
「私はねぇ~、連合国のお方は大変優しいと思って要るんですよ、官軍が攻めて来たと言って兵隊さんの手伝いをされるんですから、各地で駐屯されて要る兵隊さんも毎日必死で監視されておられるのは十分承知しております。
ですが密偵と申しますのは如何にして潜り込めば誰にも知られる事は無い様に特別な修練しており、城下や普通の兵隊さんでは見破るのは無理だと思います。
ですが昌吾郎様は人を見る目は素晴らしいものを持って居られまして、その良い例が東京での出来事でして、上野平八郎と申されるお方、そのお方から今回二通の封書を私に渡して欲しいと、ですが昌吾郎様は上野と言うお方を全くご存知有りません。
ですが昌吾郎様は全く気付かれて居られませんが特殊な能力がと申しましょうか、何か特別な事が有ると特殊な勘が働くのです。」
「私にで御座いますか、ですが私は全くその様な。」
「私はねぇ~、昌吾郎様に連合国に潜んで要る密偵を探し出して頂きたいのです。
皆様方には全く我が連合国の地を知らぬ者が出来る様なお役目では無いと思われましょうが、昌吾郎様には領民さんや兵隊さんには積極的に話し掛けて頂きましてお役目の作業を行って頂きたいのです。」
源三郎の話が長くお昼の休みは終わっていたが。
「皆様方には大変申し訳御座いません。
お食事の邪魔を致しまして。」
「総司令、私も昌吾郎殿には今回のお役目は大変重要だと思います。
昌吾郎殿はのんびりと仕事に掛かって頂いても宜しいかと。」
吉永も賛成だと言う。
「そうか、我々は高い山には狼の大群が生息しており、誰も入って来ないと勝手に思い込んでいたのかも知れませんねぇ~。」
「私も今まで狼が大群をなしており、誰も登って来ないと、ですが先日の時などは何時もよりも遥かに遅く、私もですが、兵隊さんも何故今日に限って遅いんだと思った程ですから。」
阿波野も先日の戦で何時もならばとっくに来ているはずが、今日に限って何故に遅いのだと思っていた、若しも官軍や野盗が現れない時に一人か数人でひそかに登って来る事も考えられ、だがその様な時には狼が現れず、密偵は誰にも疑われる事も無く城下に入り込めるので有る。
「私がどれ程お役に立つのか分かりませぬが、源三郎様が申されました二つのお役目はしっかりとさせて頂きますので何卒よろしくお願い申し上げます。」
と、昌吾郎は席を立ち頭を下げた。
「皆様方、お食事を続けて下さい。」
源三郎は何も的の外れた話では無いと思っておらず、いやそれどころか連合国の中に数人の密偵が潜んで要ると、その密偵を探し出す事の方が大事で有ると思い、今日全員が集まるの利用しただけの事で、封書を開け説明するのに少しぐらい遅れたところで何の支障も無いと考えて要る。
その時、「源三郎様。」と吾助が飛び込んで来た。
「吾助さん、如何されたのですか、その様に慌てて。」
「はい、えっ、あっ、申し訳御座いません、大変な時に。」
「いいえ、宜しいですよ、でもその前にお昼を雪乃殿、申し訳御座いませんが。」
雪乃は頷き部屋を出た。
だが吾助は何をそんなに急いでやって来たのだろうか、其れにしても予定が次々と狂ったが、其れは何時もの事で集まって要る者達は何とも思っておらず、やはり吾助の話が先になるだろう、集まった者達にはやっと食事に有り付けるのかも知れないが、皆が食事中でも源三郎は吾助の話を聞かなければ思って要る。
「吾助さん、技師長が造った機械に不具合が有ったのですか。」
源三郎は冗談のつもりで言ったが。
「あんちゃんはオレが造った機械が簡単に壊れると思ってるのか、そんな機械をオレが造るとでも思ってるのか、オレはなぁ~そんな機械は絶対に造らないんだ。」
と、げんたの顔はまるで鬼の様になって要る。
「いや、いや、今の冗談ですよ、冗談ですからねわかっておりますよ、技師長が造られたんですからね。」
「冗談でも言っていい事と悪い事が有るんだぜ。」
「申し訳ない、其れで吾助さんは。」
「はい、実は源三郎様の申されました物を作ったのですが、元々が服を作る為の糸で御座いまして、紐を作りましたが、やはり伸びますので使い物にはならないのでは無いかと思ったので御座います。」
「左様ですか、では他に何か使えるのか考えなければなりませんねぇ~。」
源三郎は他の物を考えると言ったが、やはり昌吾郎だ直ぐに答えが出た。
「総司令は何を頼まれたのですか。」
「其れなんですが、吾助さんに長い紐を作って下さいと、其れでその紐を先程昌吾郎様にお願いした仕事に使えるのでは考えたのですが、やはり私は簡単に考えていたのですねぇ~、吾助さん、誠に申し訳御座いません。」
と、源三郎は頭を下げるが。
「着る物を作る様な生地では直ぐに擦り切れ使い物にはなりませぬ、ですが帆掛け船に使う太い縄ならば大丈夫で御座いますが。」
「ですが、連合国には帆掛け船は有りませんが。」
「義兄上、私の城の倉庫には駐屯地から受け取りました中に太く長い縄が有りますが。」
松川のお城に軍艦で使用するロープが保管されて要ると。
「総司令、軍艦で使うロープならば物凄く丈夫ですので大丈夫で御座いますが。」
そうか、軍艦で使うロープならば軍艦を岸壁に係留する為に使い、まず切れる事は無い。
「そうかあれならば太さは一寸以上も有り頑丈に作られておりますから、人間ならば大丈夫ですねぇ~、其れならば数日後に試して見ましょうか。」
「あ~良かったですよ、私はもう心配で一体どうすれば良いのかもわからなかったので本当に助かりました。」
吾助は軍艦のロープを使えるとわかりやっと安心した。
「まぁ~これで少しは安心出来ますので、では只今から続きに入りたいと思いますが皆様方は如何で御座いましょうか。」
やっと始まる、だが本当に今日で終わるのだろうか、誰もが同じ様に思って要る。
「では今から二通目の封書を開けます。」
源三郎は慎重に封書を開け書き物を取り出した。
「うっ、これは。」
「総司令、如何されました。」
「義兄上、一体何が書かれて要るのですか。」
「えっ。」
と、源三郎は何を見たと言うのか一瞬頭の中が空っぽと言うのか、真っ白になった様で。
「総司令、如何されたのですか。」
「義兄上、義兄上、一体どうされたのですか。」
「工藤さんは大陸の事をご存知なのですか。」
「少しですが、其れが何か。」
「ではこれを読んで頂きたいのです。」
工藤は受け取り目を通すと。
「えっ、正か、これは誠でしょうか。」
「大佐殿、一体何が書かれて要るのですか。」
やはり工藤も同じ表情をしており、書面には一体何が書かれて要るのだ、吉永も初めて見た源三郎の表情に何故か恐ろしさを感じたので有る。
「源三郎殿、いや総司令は一体如何されたのですか、其れに工藤殿までも。」
「吉永様、皆様方、誠に申し訳御座いません。
私とした事が、ではご説明致しますのでお座り頂けますか。」
全員が源三郎と工藤の表情を見て何か飛んでも無い事が書かれており、其れが顔に現れたのだと、だが其れは余りにも衝撃的な話になるとは。
「其れでは今から書面を読みますのでよ~くお聞き下さい。」
源三郎はゆっくりと読み始めたが、今の世界情勢が届いていないと言うのか、知らない者達には一体何が書かれているのかさえも全く理解出来ずに、だがその中でも吉永と工藤、吉田だけは違っていた。
「書面の中身が事実ならば大変な事態を招く事になりまするぞ。」
「吉永様は一体何を申されておられるのですか、我々にもわかる様にお話し下さい。」
やはり若様も全てを理解して要るのでは無い。
「では今からご説明致しますね、大陸にはロシアと並び清と言う巨大な国家が有りましてね、その清とその前に明と言う国が半島の国の民を奴隷の如く扱いましてね、其れが五百年間もの長きに渡り、其れを今度はロシアと言う超巨大な国家が植民地にすると言うのです。」
「義兄上、では他国が植民地にされたとしても日本国には全く関係の無い事では御座いませぬか。」
「確かに若様の申されます通りでして、普通ならば何の影響も無いのですが、半島の王と申されるお方が日本国に対し、我が帝国を併合してくれと申し出が有ったのです。」
「何ですと、我が、いや日本国に対し植民地にしてくれと申されたのですか。」
「若、植民地と併合とは意味が全く違いまして、植民地と申しますのは半永久的に奴隷の如く扱われますが、併合と申しますのは同等だと、まぁ~日本国と同じだと言う意味なのですよ。」
「其れでは一体これからどの様になるのですか。」
若様もだが出席した者達にも同じ様に思いたいだろうが、果たして同じ扱いが出来るのだろうか考える者も居るだろう。
「其れはまだ分かりませんが、ただ言える事はロシアと言う国だけが相手では無く、清国も相手になると言う事なのです。」
「源三郎様、こんな小さな日本国が何故そんな巨大な国家と戦を、其れも二か国とするんですか、若しもそんな事になったら、オレ達の国は完全に無くなりますよ。」
やはり銀次も同じ様に思っており、だが日本国の政府と軍はどんな方法を取っても必ず勝利すると言うが、其れにしても果たして勝つ為の秘策でも有ると言うのか、いや他にも別の理由が有るとでも言うのだろうか。
「銀次さんの申されれる通りですがね、ですが併合すれば良い事も有るんですよ。」
源三郎は書面を見ながら説明しており、やはり書面にも同じ内容が記されて要るのだろうか。
「源三郎様は併合すると良い事が有るって言われますが、オレはそんな事は全然思えないんですよ、だって併合する時にも戦でお互いから物凄い戦死者が出るんですよ。」
「其れが普通に考えられる事ですがね、例えばですよ、銀次さんは植民地にされて要る住民だと考えて下さいね、其れで植民地を開放する為に敵軍が攻めて来た。」
「源三郎様が言われる敵軍って一体何処の軍隊なんですか。」
銀次は敵軍と聞き、植民地にして要る軍隊だと勘違いして要る。
「これは私の説明が理解しにくいのでしたね、敵軍と申しますのは植民地にして要る軍隊から見てですからね、其れで先程のお話しですが、若しも銀次さんが敵軍をやっつける為の兵士を募って要ると聞いて敵軍の軍隊に入りますか、其れとも。」
「そんなのって決まってますよ、オレ達から見れば敵軍をやっつける為に来られた軍隊に入りますよ、其れでオレ達の国を開放するんですから、誰だって同じですよ。」
「私もそうだと思いますよ、じゃ~先程併合と申しましたが、併合すると言うのはね、現在の生活を少しでも楽にする為にお金を使い国を整備するんですよ、勿論、その為の多くの仕事も出来ますからね、其れで先程の話に戻りますが、植民地では反乱を起こす可能性が有るので兵士を募る事は出来ませんが、併合された国を今度はロシアと言う国が植民地にする為に襲って来るのです。
確かに今まではならば武器も全く無く、兵隊さんもおりませんが、其処に日本国の兵隊さんが居るのですから、併合されて要る住民も今度は我が国を守る為一緒になってロシア軍と戦うのです、まぁ~簡単に説明しましたが銀次さんならば理解して頂けと思うのです。」
「義兄上、私もわかって来ましたよ、併合ならばロシア軍と戦う兵隊さんは全員日本国から行く必要が無いと言う事なのですね。」
「正しくその通りでしてね、ですが最初の清国との戦には兵隊さんの全員は日本国から投入しなければなりませんが、ロシアとの戦には半島からも大勢が集まりますので全て日本国から送る必要も無いと言う事になります。」
「じゃ~日本国がロシアと言う国に負けたら一体どうなるんですか。」
銀次は日本国が負けると考えて要る様だ、だが其れも仕方の無い事で、世界地図を見れば誰の目でもわかる様に日本国は余りにも小さく、そんな小国が大国に勝つ事は不可能だと思って要る。
「其れならば簡単ですよ、ロシアは半島を制圧すれば多くの港にはロシアの軍艦が入り日本国は目の前ですからね、其れこそ大勢のロシア人が日本国に押し寄せロシア人は略奪と暴行、殺人など好き勝手にするでしょうが、日本国は植民地にされており、勿論、軍隊も警察も無くなりますので、誰からも咎められる事も有りませんからねぇ~、もうそうなりますと、ロシア人は何でも好き放題ですからねぇ~、何も考える必要は無いと思いますよ。」
源三郎が持って要る書き物に果たして何が記されて要るのか今は源三郎以外に誰にもわからないが、半島が制圧される事にでもなれば、其れこそ日本国は植民地にされるのは間違い無い。
其れを阻止する為の秘策が必要で有る。
「義兄上、書状には秘策が書かれて要るので御座いますか。」
「いいえ、何も書かれておりませんが、ただ半島の王からは自国だけでは何も出来ないので日本国に助けて欲しいと、ですがこれは今日本国の領民の、いや政府と軍の一部の人達だけしか知りませんので、今日本国の領民が知れば、其れこそ大騒ぎになる事だけは間違い有りませんねぇ~。」
確かに一度に二つの大国と戦をするなど誰が考えても無謀としか思えないが、少しだが希望が有るのは欧州の国の中でもイギリスが協力すると言うだけでも大助かりだ。
其れよりも今日のげんたは余りにも静かで、やはり何か新しい武器でも考えて要るのだろうか、先程からず~っと腕組みしたままで、そして、吾助は先程までとは違い衝撃的な話にただ必死で何やらを考えて要る。
「書状の中には数年以内に大坂から駐屯地までと、東京から大坂まで陸蒸気が走ると、そして、これが一番重要なのですが大坂から大量の資材を駐屯地へ送る事が可能だと書いて有るのです。」
「では駐屯地から我が連合国に資材が送られて要ると上層部は知って要るのでしょうか。」
高野は官軍の資材が連合国に送られている事を知って要るのだと思って要る。
「では上野参謀長が司令本部に知らされたのでしょうか。」
やはりだ、工藤も同じ様に考えて要る。
「工藤さんにお伺いしたいのですが、官軍では人の流れは他の人達は知っておられるのですか、例えば上野さんもご子息が軍令部に行かれて居ると言う事を上野さんが知って居られたと言う事なのですが。」
「いいえ、其れは多分考えられません、と申しますのは移動は本人だけに通知しますが、其れが例え肉親で有っても知らせる事も無く、本人が知らさなければ配属先の部隊も全く分かりませんが、もし戦死されたならば知らせるだけで御座います。」
軍隊では配属先が変更されたとしても肉親には一切知らせないと言う、だが其れにしても余りにも意味深な内容で、上野平八郎と言う、いや本藤平八郎と言う人物は連合国に資材を送り込まれて要ると、一体誰から知り得たので有ろうか。
「工藤さんのお話しであれば、例え肉親で有っても配属先を知らせる事は無いと、其れならば上野さんのご子息が軍令部に居られると言う事はご存知無いと、ですがこの文面では駐屯地に資材が行って要る事を知っておられますよ、と、その様に書かれて要る様にも私は思うのですが。」
「肉親で有っても知らないと言うのが誠ならば、官軍の部隊が馬車部隊の行き先を調べていたのでしょうか。」
「中隊長様は菊池の隧道から出る前から数人の小隊長様に言われておられまして、小隊は各分隊毎に分かれ三里以内を調べる様にって。」
「三里と申せば相当離れて要ると思いますが、官軍はそれ程にも面倒な作戦を考えるのでしょうか。」
「いいえ、私も聞いた事が御座いませんが。」
三里と申せば人間の肉眼で見る事は可能なのか、ましてや海の様に何も無ければ別だが。
「総司令、やはり先程も申されましたが、連合国の中に密偵が潜んで要るのでしょうか。」
「拙者も他の事は別として、密偵を探し出す事の方が大事では御座いませぬか。」
「義兄上、私も其れが今一番重要だと考えますが。」
吉永も若殿も密偵を探し出す方が重要だと言う。
「オレ達にもさせて欲しいんですよ、オレ達だったら菊池の人達も知ってますんで、其れに昌吾郎様のお仕事をお手伝いすると言う事で行けますんで。」
「私も皆様方のご意見に賛成で御座います。
若しも官軍の密偵が潜んで要るならば大変な事になると思っております。」
工藤も賛成だと、やはり、今は他の事は後にしてでも密偵を探し出す事の方が大事で有ると言う。」
「皆様方、よ~く分かりました、私も皆様方のご意見に大賛成で御座いますので、これは銀次さんにお願い致します。
ですが先程から此処までお話しした内容は一切口外しないで頂きたいのです。
若しも連合国の領民が知り、更に潜んで要るかも知れない密偵も伝わりますと、其れこそどの様になるのか、私も全く想像出来ませんのでね、お仲間には密偵を探し出すんだと言うだけの説明で作戦に付きましては後程お話ししたいと思います。
「其れでは私は申されました事だけを行えば宜しいので御座いますか。」
「いいえ、最初とは話が変わって来ましたので、銀次さんのお仲間全員に集まって頂き、更に工藤さんにも助けて頂け無ければなりませんのでね。」
「承知致しました。」
此処まで話が進むと、最初に考えた方法では無理だと思い、後程、工藤を含め協議する事になった。
「数日後にはご子息が駐屯地に参られると書かれており、やはり何かを知っておられると思うのです。」
「私は総司令とご一緒させて頂きまして、駐屯地に参りたいと思うのですが如何でしょうか。」
工藤も源三郎と駐屯地に向かうと言い、やはり知りたい事が有るのだろうか。
吾助は何度も駐屯地へ向かっており、中隊長は必ず偵察部隊を多く出し、行きも帰りも実行して要ると言う。
「左様ですか、では中隊の兵隊さん達も遠くまで調べに向かわれておられたのですか。」
「では偵察に行かれるのは毎回同じ小隊なのですか。」
「いいえ、其れは今までも有りませんでして、其れに小隊長様達もわかっておられますので、お互いが前の時と違う所に行く様に話しされておられます。」
吾助の話からすれば下手をすると上野の命が危険だ、いや連合国の位置が軍令部に知れているやも知れないのだと源三郎は思うのだが。
一方で駐屯地の上野に送られて来た書状には数日の内に駐屯地に来ると書かれており、だが一体何用で軍令部から来ると言う、其れに一人で来る事は無く、数人は一緒だと考えられ、若しもその様な時に馬車部隊が到着したならば一体どの様に説明すれば良いのだと真剣に考えて要る。
上野宛に来た書状には半島の王から日本国に対し併合して欲しいとの要請が有ったと記載させており、更に数年以内には大坂から駐屯地まで陸蒸気が、そして、東京から大坂までもが開通するとだけが記載されている。
だが平八郎から来た書状に書かれて要る内容としてが余りにも簡単過ぎる、やはり平八郎が来ると言うのは書状には描けない内容が有ると考えたので有る。
「若しや軍令部はこの地から連合国に資材が行って要る事を知ったのだは有るまいか、だが一体どの様な方法で知ったのだ、やはり密偵を送り込んだのでは有るまいか、若しも軍令部が知って要るならば、わしはその場で自決する。
だが問題はだ連合国の位置を知られたとなると、これは簡単に終わる事は無いぞ、う~ん、一体どの様すればいいんだ、平八郎は一体何処まで知って要るんだ。」
と、上野は執務室の窓から外を眺め独り言を呟いて要る。
源三郎も上野も同じ様に考えて要るが、果たして軍令部は何処まで知って要るのか、そして、平八郎はそれを調べに来ると言うが、問題は別の方へと向かって行く。