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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 90 話。初めての東京。

 げんたは鍛冶屋と何やらを組み立て始めた。


「オレ、親方の所に行って来るよ。」


 大工数十人と親方は松川と山賀の境に有る草地に吾助達から聞いた工場や職人達の家を建てて要る。


「親方。」


「お~げんたか、何か用か。」


「うん、今、機織り機を動かす機械を造ってるんだけど、機械を収める頑丈な台が要るんだ。」


「そうか、やっと出来たのか、よ~し分かった、わしが先に図面を書くけど、げんたはどんな物が要るのか言ってくれよ。」


 と、げんたと親方は機械を組み立てる場所へと向かった。


「なぁ~げんたは一体何を作ったんだ。」


「まぁ~其れは後でのお楽しみって事に。」


「そうかわかったよ、お~あそこか。」


「そうなんだ、あの巨釜は無茶苦茶重いんだ、其れに他にも色々と付けるんで思いっきり頑丈に作って欲しいんだ。」


「まぁ~わしに任せろ。」


 親方は巨釜を乗せ、他にも鉄の筒が数十本も接続し、だが其れだけでは終わらず、げんたが作って要る物とは一体どんな機械なのか、鍛冶屋が鉄の板を数十枚も加工して要るが、鍛冶屋にも何が造られて要るのかも知らない。


「親方、他にも有るんだけど。」


「何を作ればいいんだ。」


「其れが一間四方の水槽を作るんだけど、向こうの山から水を引いて。」


「ええ、じゃ~此処まで引くのか。」


「ああ、そうだよ、其れで水槽を三間以上上げるんだ。」


 げんたは一間四方の水槽を作り、三間以上の高さまで上げると言う、一体何故そんなにも高い所まで上げるのか親方も分からない。


「まぁ~げんたの言う物を作ればいいんだな。」


「そうなんだ、親方も分かってくれてるんだ。」


 親方も最初、源三郎から言われた通りの建物を、だが地盤が柔らかく、このままでは建物を建てる事も出来ず、付近には大量の材木が放置されており、親方は数日の内に組み立て作業を開始し、二箇所の台を完成させた。


「よ~しみんな手伝って欲しいんだ。」


 数十人の男達が一斉に巨釜の隙間に数十本もの縄を入れ、合図を待って要る。


「親方、オレの合図で、大木を入れてよ。」


「よ~しこっちは何時でもいいぞ。」


「あんちゃん達もいいか。」


「ああ、いいぞ。」


「よ~し、さぁ~行くぞ。」


「せ~の。」


 と、男達は一斉に縄を引くと一尺程上がった。


「よし今だ。」


 親方の合図で十本もの大木が巨釜の下に入った。


「よ~し、後は巨釜の固定だ。」


 大工と鍛冶屋が数十本もの大きく太い釘を固定用の材木に打ち込んで行く。


「げんたは水を引くって言ってたが。」


「そうなんだ、オレが山に入って池を作ったんだ、でその池から水を引くんだけど、此処まで鉄の管を伸ばすんで支柱が要るんだ。」


「よ~し、分かった、まぁ~げんたの事だ、色々と考えて作ったんだろうが、まぁ~大変だったなぁ~って思うんだ。」


「まぁ~ねぇ~、オレは吾助さん達に早く軍服を作って貰いたいんだ。」


「確かになぁ~、わしも兵隊さんの軍服を見たけど、誰の軍服を見ても継ぎはぎだらけで、本当に可哀想だと思うんだ。」


 最初に工藤と一緒に来た兵士達の軍服が一番酷く、其れは何もげんただけで無く、城下の人達もわかっており、女性達は出来るだけ目立たない様に縫っては要るが、其れでももう限界で有る。


「げんたの気持ちはみんなも知ってるんだ、よ~し、みんな技師長の気持ちを一日でも早く実現させる為、わしら大工の腕前を見せるんだ、わかったか。」


「親方、オレ達もやりますぜ、なぁ~みんな。」


「お~、よ~しみんなで取り掛かるぞ。」


 大工達は一斉に取り掛かり、親方もげんたは心の優しい男だと知って要る。


「げんた、此処はわしらに任せて、その何とか言う機械か知らないが造り始めてくれ。」


「親方、有難う、じゃ~頼んだよ。」


 巨釜を据え付けると鍛冶屋は鉄の筒を次々と継ぎ合わせて行く数日後には蒸気の噴き出す鉄の筒は全て繋ぎ終わり、げんたは最後の作業に取り掛かり巨釜の左右側方には畳一畳も有る鉄の板を張り合わせた様な物が付けられ、だが鍛冶屋はさっぱりわからない。


「なぁ~げんた、これは一体何に使うんだ。」


「この中にあんちゃん達が造ってくれた鉄の板が入ってるんだ、其れで巨釜で作られた蒸気でこの中の、まぁ~簡単に言うとね、羽を動かして、で外に付けた歯車を回すんだ。」


「う~ん、まぁ~何か知らないけど、げんたが考える物って何時もさっぱりわからんよ。」


「今、親方が作って要る水道管が完成すればもう大丈夫なんだ。」


 その数日後にげんたが考案した蒸気を排出する為巨釜に火を入れる事になり、この機械が完成すれば飯田達が大変な苦労して東京から持ち帰った機織り機を作動させる事が可能となり、いよいよ本格的に生地の生産が開始されるので有る。


 源三郎が山賀から戻り十日、二十日と経ち、あの日から何事も起こらずに要る。


 だが源三郎の頭の中には若様に言われた事が離れず、更に官軍の動向も全くわからずに、だが本当に深刻なのは他に有る。


 雪乃も源三郎が深刻に何かを考えており、十日以上会話が無く、何を一体どうすればいいのかも分からない。


「雪乃、如何致しのじゃ、源三郎と何か有ったのか。」


「叔父上様。」


 お殿様も雪乃が深刻になって要るのは知っており、だが妻で有る雪乃さえも近付けない程の状況で一体源三郎に何が有ったと言う。


「殿、私が一度聞いて見ましょうか。」


 ご家老様も今は打開策が見出せずに、だがそうは言っても何時までも手を拱いて要る訳にも行かずご家老様が源三郎に直接聞くと言う。


「源三郎、良いか」


「父上、何用で御座いましょうか。」


「源三郎は一体何を考えて要るんだ、雪乃も大変心配して要るぞ。」


「私は若様が申されました事で。」


 と、源三郎は若様から言われたと言う、上野をまだ全て信用は出来ないんだと話すと。


「其れを今まで考えていたのか。」


「左様で御座いまして、あれからも馬車部隊が何度も出向き、大量の資材を持ち帰り、ですが若様の申されました官軍と思われる軍の動きが無いのです。」


「そうか、まだ完全には信用出来ないと申されたのか。」


「左様でして、私は一度向こう側に参りたいのですが、若しもです、官軍が待ち伏せして要るやも知れないのです。

 何も命が欲しいので御座いませぬが、下手をすれば我が国にも大軍が押し寄せて来るやも知れず、若しもその様な事態にでもなれば。」


「源三郎はその様な事を考えていたのか、だがよ~く考えて見るんだ、若しもだ官軍が我が連合国の所在を知り、大軍を送り込んだとしてもだ、菊池の入り口は一度に何人が通り抜けられると思っておるんだ。」


 だがご家老様は其れが本当に深刻な問題とは思っていない。


「源三郎は一体何を考えて要るんだ、他にも有るんでは無いのか。」


「実はこの頃、ロシアの情報が入って来ず、やはり若様が申される事が頭から離れないのです。」


「ロシアの情報が入って来ないと、では其れを確かめたいと申すのか。」


「左様で御座います。」


「だがなぁ~、上野と言う人物にだ司令本部から情報が流れていないと言う事も考えられるんだぞ、源三郎自身が本当に知りたいので有れば、どうだ思い切って、東京に行ってはどうだ。」


 ご家老様は源三郎に東京に行けと、其れは自分の目で確かめろと言うので有る。


 この数百年間と言うもの連合国から出たと言えば田中だけで有ろう、田中が見た聞いたと事を源三郎が聞き、其れを基に策を考えていた。


 ご家老様の言われる事が本当では無いのか、だが源三郎は東京に行く事に何故か躊躇して要る。


「源三郎は今まで田中や上野と言う他人からの情報で策を考えていた、わしはなぁ~、何もその方法が悪いとは考えていないんだ、其れはなぁ~、お前の置かれて要る立場上では仕方無いと思うからだ、だから一度は外に出て直接東京と言う所を自分の目で見る事も大事では無いのか、まぁ~雪乃と一緒ならば世間も怪しむ事も無いで有ろう。」


 そうか、その手が有ったのか、雪乃も源三郎と一緒に旅が出来るならば少しは気持ちも晴れるのでは無いのか、と考え、答えは直ぐ出た。


「父上、誠に有難う御座います。

 私も今まで雪乃殿には大変苦労を掛け、ですが一度も労う事の出来なかったので御座います。」


「雪乃も喜ぶぞ、まぁ~直ぐにとは言わぬが。」


「いいえ、直ぐに話して見ます。」


 源三郎は少し気が楽になったのか表情が一変した。


「源三郎も今まで気を張り詰めておった、ここらで少し休む事も必要では無いのか。」


 数日後、源三郎と雪乃、鈴木と上田、更に加世とすず、更に何故か昌吾郎までもが菊池を出て一路都へと向かうが、源三郎と雪乃以外は少しづつ離れ、昌吾郎は一人で有る。


「源三郎様、私は初めて外に出ますので、何か恐ろしく感じて要るのですが。」


「えっ、正かでは御座いませんか、雪乃殿にも恐ろしいものが有るのですか。」


「私はこの世で一番恐ろしいのは狼で御座います。」


「えっ、雪乃殿には恐ろしいものは無いと、私は思っていたのですが、其れにしても何故に狼がそれ程までに恐ろしいのですか。」


「私も時々ですが、遠くから聞こえるあの遠吠えが何とも言えず、身の毛がよだつ程に恐ろしいのです。」


「ですが、雪乃殿が恐ろしいと申されます狼ですが、若様は狼の王と呼ばれる狼と話をされたと申されたのですよ。」


「えっ、其れは誠で御座いますか、松之介が狼の王と話したと、ですが何故松之介がで御座いますか。」


「まぁ~本当の話をしますとね、夢の中での話でしてね、ですが後日狼の王が申した通りとなりましてね、其れまでは若も夢の中の話なので余り気にされて無かったのですが、其れが夢と同じになり、若も本当に驚いておられるのです。」


「私も夢は見ますが、夢と現実が今まで同じで有った事など一度も御座いませぬ。」


 雪乃が言うのが本当かも知れない、だが若様は夢が現実になったと思って要る。


「源三郎様も夢をご覧になられるのでは御座いませぬ。」


「ええ、私も見ますが、まぁ~現実とは全く違いますがねぇ~。」


 と、言うが、時々現実かと思う様な夢を見る事が有る。


「なぁ~お主はどう思う、源三郎様が突然旅に出られると申された事を。」


「実は私は今も夢を見て要るのではないかと思って要るのです。」


 鈴木も上田も突然旅に出ると言われた、だが一体何処に何の為に向かうのかさっぱりわからない。


「う~ん、だけど源三郎様は一体何処に向かわれるおつもりなのでしょうか、其れに目的も全然わからないんです。」


「確かにお主が申す通りだ、其れに我々は一度も国から出た事も無いからなぁ~。」


 鈴木の言う事が本当だ、源三郎からは目的地も目的さえも聞いておらず、不安が募るばかりだ。


「だけど私達は源三郎様とは別の国から来たと言う事になって要るんですよ。」


「そうなんだ、だから聞く事も出来ないし、同じ宿に泊まる事も出来ないんだ。」


 源三郎と雪乃が泊まる宿には鈴木と上田、更に加世もすずも泊まる事は出来ない。


 そして、二時半程で連合国の山とは違う山道を登り始め、一時半程行くと休み処の暖簾が掛かった茶店に着き、源三郎と雪乃、そして、横には鈴木と上田が、更に後ろには昌吾郎が座り、運ばれて来たお茶を飲むと。


「あの~少しお伺いしたいのですが、京の都へはどちらに向かえば宜しいのでしょうか。」


「其れだったらこの峠と越えると大きな湖が見えますんで、湖岸を左手に見てそのまま行けばいいんですよ。」


「左様ですか、誠に有難う。」


「でも今日中に着くのは無理ですよ。」


「まだそんなにも遠いのですか。」


「あんた達は一体何処から来られたんですか。」


「私達は北の方に有ります国でして。」


「そうかね、北の方の国か、だったら仕方無いねぇ~、だけど女の人と一緒だった。」


「私ならば大丈夫で御座います。」


 と、言って加世とすずを見ると二人はこくんと少し頷いた。


「では何処かに宿場は有るのでしょうか。」


「そうだねぇ~、まぁ~今からじゃ今津って宿場が有るけど、まだ遠いよ。」


「そうですか、有難う、代価は如何ほどですか。」


「あんたって本当に田舎者だねぇ~、じゃ~二人で十文でいいよ。」


「じゃ~これで宜しいですか。」


 と、源三郎は代価を置き、雪乃と共に歩き出し、鈴木達も同じ様に茶店を後にした。


「源三郎様、私達は本当に外の世界を知らなかったと、今初めて知らされました。」


「まぁ~其れも仕方有りませんよ、我々の国では一文も必要有りませんからねぇ~。」


 その後も話は続き、峠を越えると左手に大きな湖、いや源三郎達にすれば海だと思う程にも大きな近江の湖が見え、五人の足は自然と早く、夕刻前には茶店の主人が言った今津の宿場に入った。


 源三郎と雪乃、鈴木と上田に加世とすずは別の宿に、そして、昌吾郎も別の宿に入り、久し振りと言う宿のお風呂に入ると、自然と目を瞑り、源三郎は何かを考えて要る。


 雪乃も久し振りだとでも言いたいのか、今までは野洲のお城の湯殿で、何時も誰かが近くに居る、だが今は誰も知る者もおらず、ゆっくりと湯に浸かって「あ~本当に気持ちがいいわねぇ~。」と独り言を言った。


 夕食には土地の名物とでも言うのか小魚の塩焼きが出た。


「この魚は何と言うのですか。」


「其れはねぇ~、鮎って言いましてね、ここでは普通の魚なんですよ。」


「左様ですか、私達の北国では海の魚ですが、この魚は前に有る海で取れるのですか。」


「お客さん、あれはねぇ~、琵琶の湖って言うんですよ、海じゃ~ないんですよ。」


「琵琶の湖と言うのですか、私達は初めてなので、何も知らないんです。」


「そうだったんですか、で明日は。」


「私と妻は京の都に行きたいんですが。」


「だったら七つ半に出ると夕刻前には都に着けますよ。」


「左様ですか、有難う。」


 と言った源三郎は女中に十文を渡した。


 其れは田中から聞いており、宿に泊まり女中に何かを聞いた後には小銭を渡す、其れは聞いた者の気持ちだと言う。


 そして、夜は早く寝床に入ったが、源三郎は何故か疲れが有るものの雪乃を求め、雪乃も源三郎の求めに応じ二人は熱く燃えた。


 そして、夜がまだ明けぬ七つ半になる少し前、源三郎と雪乃、そして、隣の宿からは鈴木達が、更に昌吾郎も何かを打ち合わせしたかの様に宿を出て、一路京の都を目指し、途中の茶店で京までどれ程有るかを聞き、お昼は坂本で取り、後は大津を過ぎると後少しで京の都だ。


「雪乃殿、大丈夫ですか、後少しで京の都に入りますので。」


「はい、私は大丈夫で御座います。」


 と、言って後ろを見ると、加世とすずもこくりと頷いた。


「加世殿もすず殿も大変だとは思いますが、後少し辛抱で御座いますので。」


「私達は大丈夫で御座いますが、雪乃様が。」


 加世とすずは雪乃を心配して要る。


 そして、やがて京の都へは後二里を書いた道標を見付けると。


「後二里ですからね。」


「はい。」


 二人は其れだけだが雪乃は何とも言えない心地良い疲れを感じて要るが、訳などはわからない。


 その後一時半程で京の都に入った。


「まぁ~何と大勢の人達なんでしょうか、私は初めてなのでもう驚きの連続でして、何とも申せないので御座います。」


 雪乃自身一体何を言って要るのかもわからない、京の都とはそれ程にも賑やかなのか、其れとも騒がしいのか、都に到着した五人は夕刻前に宿に入り、明日と明後日の二日間でなにを調べるのか再度考え直し、そして、次の朝早くから四方に分かれ調査を開始した。


 源三郎と雪乃は何もかもが物珍しく、見る物、聞くものに驚きの連続で、その内都の人達から何か怪しい二人連れが要ると警察に連絡が入り、取り調べを受ける事になったが、源三郎の見事な芝居で切り抜け、三日目の早朝、待ち合わせた場所とでも言うのか、彼らが分かれた所に来るとお互い目で合図し、いよいよ本来の目的地で有る東京へと向かい、七日後に東京市内へと入った。


 此処でも宿は全てばらばらで調査方法も京の都と同じ方法で行う事になって要る。


 だが東京は京の都とは全く違い人口に置いても桁違いで、其れでも源三郎達は目的を達したのか予定を一日過ぎ、五日目の早朝には東京を出発し連合国に戻って行く。



      

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