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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 89 話。小川に命令が下りた。

 源三郎が提案した連合国軍再編は無事承認され、各軍の移動が開始された。


 上野の駐屯地に向かった馬車部隊も六日後には無事連合国に戻り、多くの資材はげんたが居る松川の現場で降ろされて行く。


 野洲の鍛冶屋は連日機織り機を稼働させる為に必要な動力源の機械作りに没頭して要る。


 げんたは松川と山賀の境で小屋を建て何かを必死で作って要る。


「なぁ~げんた、この板は以前作った空気の取り入れ口と同じくらいの隙間に。」


「いやいいんだ、今度は空気じゃ無いんだ。」


「じゃ~何を。」


「其れが蒸気なんだ。」


「蒸気って、正か以前聞いた事が有る陸蒸気を造るのか。」


「まぁ~簡単に言うと陸蒸気には違いは無いんだ、だけどこれは機織り機を動かす為には絶対に必要なんだ。」


「まぁ~なんだか知らないけど、オレ達はこの板を加工すればいいんだな。」


「そうだよ、で同じ物をそうだなぁ~三十二枚作って最後にもう一度焼き入れをするんだ。」


「よし分かった、みんな頑張ってくれよ。」


「お~。」


 と、鍛冶屋達は雄たけびを上げ、再び加工に取り掛かった。


 げんたはと言うと大きな鉄板と奮闘中で一体何を作ろうとして要る。


「若、地下軍港ですが何処まで進んで要るのですか。」


「私も暫くの間見ておりませんので、では一緒に参りましょうか。」


 若様と源三郎は城の中を抜け北側に有る洞窟に向かった。


「若、これは。」


「資材を運ぶには此処の岩石を取り除かなければならないと技師長が申されたのです。」


 洞窟に入ると以前よりも一軒ほども高く、其れを入口と同じまで削らなければ馬車を引く馬にも大変な負担が掛かると言う。


「ではその作業をあの人達が。」


「元官軍の小隊長や中隊長達でして、ですがあの人達だけではとてもでは有りませんが作業は進まず苦労しておりましたが、橘さんの部隊から応援を頂きまして予定よりも早く進んでおります。」


「ほ~成程ねぇ~、橘さんから応援が来られたのですか。」


「左様でして、橘さんが中隊長や小隊長に今までの事を話され中隊長達は生き残れているだけでも感謝しており、食事に付いても皆と同じで、今では何も不満は無いと申されております。」


「そうですか、其れは大変良かったですねぇ~。」


 彼らは川田の部隊に属しており、だが何故か生き延びており、今は洞窟内で馬車の通行が少しでも楽になればと岩盤を掘削して要る。


「ですが此処では岩石をもですが、鉄になる土の掘削もしなければなりませんので、やはり人手が不足しております。」


「そうですか、やはり人手がねぇ~。」


 源三郎は暫く考え。


「橘さんの部隊から五百人程追加で都合して頂きましょうか。」


「其れならば我々も大助かりで御座います。」


 正太の仲間一千人も日夜の関係無く洞窟内で作業を続けており、これ以上彼らに無理をさせる訳にも行かず、人的補充を何処に求めるのか、其れが最大の問題で有り、其れには橘の部隊から五百人程を向ける事で人手不足が少しでも解消出来るので有る。


 源三郎と若様は軍港建設の最先端まで行き工事現場の状況を見て、源三郎が予想した以上に早く進んでおり、其処には今までの二倍の大きな連岩が組み上げられ、既に潜水艦が停泊可能な数本の岸壁の建設に入って要る。


「之は岸壁なのですか。」


「左様でして、幅が半町で長さが一町半以上も有り、深さも十五間有ります。」


「其れならば十分ですねぇ~。」


「其れと鉄を作る溶鉱炉も以前の数倍有る物を造り上げ、大量の鉄が生産されております。」


 若様が大量だと言っても僅か数倍でしかなかった。


「資材は足りて要るのですか。」


「今のところは十分だと聞いております。」


「左様ですか、まぁ~これからも届けられると思いますよ。」


 源三郎は其れでも少ないと考え、近い内に上野の駐屯地へ向かう事を考えるが、だが上野にはどの様に説明すれば納得するのだろうかと考えるので有る。


「何れにしても軍港を早急に完成しなければなりません。」


「私も其れだけは十分承知しております。」


 若様は一刻でも早く軍港を完成させ、潜水艦を建造しなければならず、やはり、ロシアの脅威を感じて要るのだ。


「私は早々に上野さんを訪問する事を考えております。」


「義兄上が上野さんに直接会われ、一体何をお話しされるのですか。」


 若様も源三郎が上野に会う理由は知っており、だが源三郎が向かう事は不測の事態を招く事も有り得ると、それ程にも若様はまだ上野を完全には信用していないので有る。


「私は義兄上が思われる程上野さんを信用していないのです。」


「私はロシアの脅威を上野さんに伝えるつもりですよ。」


「ですが、今の我々にロシアの情報が何処から入って来るのですか、上野さんのお話しだけでは御座いませんか。」


 若様の言う事が正しいのか、だがロシアの動きは上野からしか入って来ないのも事実なのだ。


「ですが私は上野さんをまだ完全には信用出来ないのです。」


 やはりだと、源三郎は思った。


「若は何故その様に思われるのですか。」


「私は別の事を考えておりまして、確かに上野さんの駐屯地に行けば大量の資材を調達する事は出来ると思います。

 ですが司令本部は果たして上野さんを完全に信用して要るでしょうか、若しもですが官軍の司令本部が少しづつでも馬車部隊の動きを調べ、やがて資材の殆どが菊池の隧道へ向かって要る事が判明すれば、官軍は大軍を送って来るやも知れないのです。」


 確かに若様の言う事も源三郎は理解しており、そして、改めて日光隊と月光隊、朝霧隊に夕霧隊に対し向こう側を今まで以上に広く偵察する様に指示を出し、小川が居る駐屯地へと向かった。


「軍医殿、小川さんの容態は如何でしょうか。」


 やはり、源三郎は小川の容態が気になっていた。


「数日前ですが、少し身体を起こせる様になりまして、其れに傍には綾乃様が付いておられ、其れはもう必死に看病されておられます。」


「綾乃様が小川さんの看病されておられるのですか。」


「左様でして、あの日からず~っとなので、私は綾乃様の身体が心配なので御座います。」


 綾乃と言う女性は並大抵の気丈な女性では無い。


 大江の国が官軍に滅ぼされ、普通ならば自害も考えられたが、綾乃はどの様な苦難が有ろうとも生き延びるんだと領民達を説得し、そして、領民を連れ多くの苦難を乗り越え無事山賀に辿り着いたので有る。


「私がお話しして置きますので、其れで他の兵隊さんの容態ですが。」


「兵隊さんの傷は軽傷とは申せませんが命には別状有りませんので治りも早く殆どの兵隊さんは後数日も経てば歩くことが出来ます。」


「左様ですか、其れは何よりですねぇ~、で兵隊さんの病室ですが。」


「隊長だけは個室にしており、兵隊さんは隣の大部屋に居られますよ。」


「では私は先に大部屋に参ります。」


 源三郎は小川は後回しにし兵士達の病室に行くと。


「総司令、其れとですが、隊長に命を助けられた兵士ですが。」


 小川は一人の兵士の命を助けたと言う。


「小川さんが兵隊さんの命を助けられたのですか。」


「私も他の兵士から話を聞かされたのですが、あの時、隊長は咄嗟的に兵士に被さり、其れで六本もの矢が刺さったと言うのです。」


「其れが誠ならば、小川さんは何故兵士を庇ったのでしょうか。」


「隊長からは何も聞かされたおりませんので詳しくは存知ませんが。」


 その時、若い兵士は傷は癒えて来たのだろうか、何かを話し合って要る。


「あっ、総司令だ。」


「えっ、あっ、本当だ、総司令が来て下さったぞ。」


 と、兵士達は喜びの顔で源三郎を迎えた。


「皆様方、お怪我の方は如何でしょうか、この度は私の不注意で二十五名の尊い命と、皆様方には大変な苦痛を与え、誠に申し訳御座いません。」


 と、源三郎が頭を下げ、軍医から見れば、官軍に居た頃では考えられず、軍の最高司令長官とも有ろう人物が一兵卒が戦で負傷した。


 その病室に着て頭を下げるなどとは見た事も聞いた事も無い。


「総司令長官様が何でオレ達見たいな一番末端の兵隊に頭を下げられんですか、オレ達なんか鉄砲の弾じゃ無かったんですか。」


「皆様方を鉄砲の弾だと一体誰が申したのですか、宜しければ名を聞かせて頂きたいのです。」


「でも此処にはおりませんよ、だって官軍の奴らなんですから。」


 兵士達は官軍の指揮官からは鉄砲の弾と同じで、幾らでも補充は出来ると言われ、例え戦死したところで上層部には何の支障も無く、負傷した兵士を見舞う事などは考えられなかったと言う。


「皆様方に対し少しでも今の様な言葉を使うとは、私は全く考えておりません。

 私は何時も皆様方には命は大切にして頂きたいと思っておりますよ。」


「総司令長官様はオレ達に命は大切にするんだと言われるんですか、でも戦ですから。」


「私はねぇ~何も戦を好んで要るのでは有りませんよ、ですが降りかかる火の粉は払わなければなりません。

 私は皆様方の命を守る為に何としても別の策を考えますので。」


「でも奴らは人間じゃないんですよ、オレはこれから此処の人達を守る為に命を懸けますんで。」


 兵士達は国を滅ぼされただけ無く、肉親の命さえも奪われ、今はその人達の敵討ちとでも言うのか、敵軍が官軍でも幕府軍でも関係は無いと考えて要る。


「総司令長官様、オラの村は官軍に襲われ、オラと母ちゃんが逃げる時、オラは何かに当たり気を失ったんです。

 其れでオラが気が付くと、オラの身体の上に母ちゃんが裸のままで殺され上に乗ってたんです。」


 やはりか、官軍の特攻隊と名乗る部隊は農村や宿場を襲い、住民を殺し、火を点け全てを焼き払うと言う極悪非道な部隊で、だが一体どれ程の部隊が有り、どれ程残って要るのだ。


「総司令長官様、オラは農民だ、官軍は農民を助けるって最初は聞いた、だけどあれは全部大嘘だったんだんです。


 確かに最初は本当だったんです、でも次に配属された部隊は前の部隊とは全然違うんです。」


「其れは特攻隊と言う部隊で御座いませんか。」


「総司令長官様は何でそんな事までお分かりになるんですか。」


「実はねぇ~、以前にもその様な話を聞きましてね。」


「じゃ~、その特攻隊って今はどうなってるんですか。」


「勿論、全員成敗しましたよ、でも私がやったのでは有りませんよ。」


「えっ、じゃ~一体誰がやったんですか。」


「そんなのって絶対に隊長に決まってるんだ、オレ達の隊長だったら、あっそうかでも隊長一人じゃ~なぁ~とても無理だよなぁ~。」


「その通り小川さんでは有りませんよ、連合国の山には狼の大群が住んでおりましてねぇ~、全員が狼の餌食になったんですよ。」


 源三郎の話では特攻隊は山賀の草地で狼の大群に襲われ全員が餌食になったのだ。


「オレは聞いたことが有るよ、若様とご家老様と、源、えっ、あっそうだった、総司令長官様ってもしかしたら源三郎様って言われるんじゃ無かったんですか。」


「はい、そうですよ、私が源三郎ですよ。」


 兵士達は総司令長官と源三郎が同じ人物だと知り、其れはもう大変な驚き様で有る。


「あ~あ~、オレ達って本当に大馬鹿だなぁ~、総司令長官様と源三郎様の顔をわからなかったんだからなぁ~、本当に情けないよ。」


 兵士達は驚きを通り越して、今は唖然として要る。


「まぁ~まぁ~、余り難しい事は考えず、早く傷を治して下さいね、私は小川さんの容態を見て参りますのでね。」


 源三郎は兵士達に頭を下げ、小川の病室に入った。


「総司令。」


「えっ、源三郎様が。」


「まぁ~まぁ~、小川さんも綾乃様もそのままで宜しいですよ。」


 小川は座り、綾乃に雑炊を食べさて貰っており、源三郎は夫婦に見えた。


「小川さんもまだ相当掛かりますねぇ~。」


「ですが私は皆が今どの様になって要るのかも知らないのです。」


「其れならば心配は有りませんよ、軍医さんが、其れに此処には素晴らしい看護婦さんが居られますからねぇ~、皆さんは其れはもう大変お元気ですからねぇ~。」


「左様で御座いますか、私は其れを伺い少し安心しました。」


「小川さんにも素晴らしいお方が付いておられ、私は安心しましたよ。」


「ですが自分には余りにも勿体ないお方でした。」


「小川さんは綾乃様のご身分を知っておられるのですか。」


「確か以前は何れかの国のご家老様のご息女だと伺いまして、其れに自分は身分の低い下級武士で御座いますので。」


 小川は綾乃を身分違いだと思って要る。


「小川さんはまだその様に下らない事を考えておられるのですか、其れに幕府は完全に崩壊し、今は明示と言う新政府になっており、上下の関係も無いと伺っておりますよ。」


 小川は例え下級武士だと言っても武士で有り、幾ら時代が変わったとしても身分を変える事は出来ないと思って要る。


「小川さんは私の妻をご存知ですか。」


「雪乃様では御座いませんか。」


「その通りですよ、雪乃殿はねぇ~、松川の雪姫なんですよ。」


「でも私は。」


「そうですよ、私もねぇ~、最初は其れだけは出来ないと申しますとね、私の天敵からはもう大変怒られましてね、其れでやっと決心が付いたんですよ、ですから、小川さんは何も気にする事は有りませんよ、そうですよねぇ~綾乃様。」


 傍に居る綾乃は顔を赤く染め。


「私は何も知りませぬ。」


 と、横を向き、更に下を向いた。


「まぁ~其れよりも小川さんは一刻でも早く身体を直して下さいね、次の部隊の任務は大変厳しいですからね。」


「今、次の任務は厳しいと申されましたが、私は山賀では使いものにならないと申されるので御座いますか。」


 小川は思い違いをして要る様だが、先の戦では多くの戦死者を出し、其れは自分の作戦が間違っていたと思っており、その為に責任を感じて要る。


「そうでは有りませんよ、小川さんもご存知だと思いますが、断崖絶壁の内側と申しましょうか、草地の地下とでも申しましょうか、今その中で新しい軍港を建設中だと言う話を。」


「勿論、私も知っておりますが、えっ、正か自分が軍港の。」


「左様ですよ、軍港には新しい潜水船、いや潜水艦を建造しますので、小川さんには其処の新しい司令官に就任して頂きたいのです。」


「自分をですか、ですが今軍港を建設中で何時になれば潜水船が、いえ潜水艦が完成するので御座いますか。」


「私は全く知りませんよ、全部、げんたが、いや技師長が考えておりますからね。」


 確かに小川の言う事も本当だ、今軍港を建設中だと言う事は潜水艦を建造する為には資材を調達しなければならない。


「まぁ~取り合えず、小川さんは早く身体を治す事ですよ、其れと。」


「まだ何か有るのですか。」


「そうですよ、其れと先程からこの部屋に出入りしておられる若い兵士ですが、今後は小川司令官付きの当番兵とします。」


「ですが彼は。」


「まぁ~まぁ~その事は私から伝えて置きますのでね心配される事は有りませんよ、其れで彼の名前ですが。」


「彼は裕一郎と申します。」


「裕一郎さんですね、では本日より小川司令官付きと致します。

 そして、綾乃様は暫く休養を取り、数日後には小川司令官付きとしますが、お二人の反対は認めませんよ、これは私の命令です。」


 と、言うと小川は少し安心した表情で、綾乃は何故か赤面し目が潤んで要る様にも見える。




 


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