第 87 話。正か奴らが生きていたとは。
官軍との戦が終わった数日後、飯田達と吾助達の馬車部隊が久し振りとでも言うのか上野が居る駐屯地へと向かうが、今回の馬車台数は倍の十台で有る。
「社長様はどれだけ受け取られる予定なんですか。」
「私もどれだけの資材が有るのかも分かりませんので一応十台も有れば十分かと考えたんです。」
飯田も駐屯地にどれだけの資材が届いて要るのかもわからず、だが幾ら大型の馬車だと言っても五台ならば大量に持ち帰る事は出来ないが、其れが十台ともなれば単に倍は積めると言う事では無く、五台分の資材だとしても十台に分ければ馬の負担も減るのだと考えた。
「飯田様、連合国に攻めて来た官軍も全滅し、馬車部隊も安心して参る事が出来ます。」
「私も其れならば宜しいのですが、まだ官軍とは別に野盗も幕府の残党も完全に壊滅したとは考えておりませんので。」
中隊長は駐屯地との往復は安全になったと考えては要るが、飯田はまだ完全には安全になったとは考えておらず、だからと言って何時までも待つ事は出来ないので有る。
「中隊長さん、余り焦らずに参りましょうか。」
「はい、私も同様でして、馬の動きに合わせる様に致します。」
一方で野洲に戻った源三郎は工藤と吉田を交えて会談して要る。
「工藤さんに変なと申しましょうか、不思議なと申しましょうか、官軍との戦で何か異常な事は感じられませんでしたでしょうか。」
工藤は源三郎は一体何を聞きたいのだと一瞬思ったが。
「其れなんですが、実は菊池の浜に官軍兵が上陸したと伝令が有り、私は一個小隊を連れ参ったのですが、浜に着くと十名の官軍兵がおりまして事情を聞きますと、其れが何と江戸の銀龍一家だと名乗ったのです。」
「えっ、其れは誠ですか。」
「はい、私も一瞬驚きましたが、銀龍一家の昌吾郎だと、其れに他の者達も全員が一家の者だと言うので、直ぐ銀次さんの部下だと分かりまして、直ぐこちらに伝令を出したのですが、その時には既に銀次さん達は山賀に向かわれた後でした。」
源三郎が初めて知る話で、伝令は銀次に会う事が出来たのだろうか。
「私も今初めて知りましたが、伝令兵は銀次さんに会う事は出来たのでしょうか。」
「其れでは総司令もご存知無かったのですか。」
工藤も源三郎の事だ伝わって要るものだと思ったが。
「私は何も知りませんが、銀次さん達もこちらに向かわれておりますので、今日か明日には着かれると思いますよ。」
「其れでは今からでも誰かを菊池に向かわせまして昌吾郎さん達を野洲に連れて来させます。」
吉田は直ぐ手配する為に執務室の外で待機中の兵士に伝え、兵士は駐屯地へ向かった。
「工藤さんはその昌吾郎さんと言われるお方から詳しく聞かれたのですか。」
「私も平時の時ならばお話しを聞くのですが、其れよりも山賀の朝霧隊の分隊が官軍兵の一個中隊が隧道の五里程の所に近付いて要ると聞いておりまして、昌吾郎さん達は高野司令にお任せし戻ったのです。」
「其れでは朝霧隊から知らせが入ったのですか。」
「左様でして、分隊長は官軍に発見される事が無い様に絶えず離れた所から監視を続け菊池に向かわれておられまして。」
「では朝霧隊も大変だったのですねぇ~。」
「ですが、まぁ~見事な程の擬装でしてあれでは近くに潜んでおりましても官軍は全く気付く事は御座いませんよ。」
山賀の草地で最初の特攻隊を成敗する時、日光隊と月光隊の二個小隊が草地に潜み立ち上がるまで全く気配させ感じなかったと、剣の達人で有る吉永でさえ驚く程で勿論源三郎も工藤もその場に居た、やはり山賀の四個小隊は特別な任務に就くと、その能力を最大限に発揮するで有ろう。
「我々は一刻でも早く決着を付け、隧道に避難する方法を考え一気に官軍兵を全滅させる作戦を考えまして、作戦は見事に成功し隧道に逃げ込んだのです。」
工藤も今までの事を考えれば、数人でも怪我をさせれば直ぐ隧道に逃げ込まなければ狼の大群に襲われると考えたので有ろう。
「ですが狼の大群は直ぐには襲っては来なかったのでは有りませんか。」
「えっ、ですが何故総司令がその様な事を知っておられるのですか。」
工藤にすれば菊池での交戦はまだ話しておらず、其れが何故に源三郎が知って要るのだと思った。
「実はですねぇ~若様が数日前に狼の王とお話しをされたのですと、申しましたら驚かれると思いますが。」
「何で御座いますか、若様が狼の王と話されたと、えっ、正か若様が狼の言葉を使われるなどとは全く理解出来ないのですが。」
工藤も吉田も開いた口が塞がらないと言う表情で、人間が狼と会話するとは聞いた事が無い。
「実はねぇ~、若が夢の中で狼の王と会話されたのです。」
やはりだ、工藤も吉田も若様が夢の中で狼の王と会話したと、其れならば話はわかる、だがその話と狼の大群が直ぐ襲って来なかったと言う話と一体どの様な関係が有ると言うのだ、と工藤は思うのだが。
「ですが夢が現実に起きるとは私も信じる事が出来ないのですが、若様の見られた夢と、狼の大群が直ぐに来なかったと言う話が一体どの様な関係が有るのですか。」
工藤も吉田も夢なら見る、だが夢で見た事が現実に起きるとは誰が考えても無理な話で有ると思って要る。
「自分も其れならば思った事は御座いまして、今回も山に入る前の日ですが、我が軍が官軍兵に有る程度被害を与え、我々が完全に安全な所に避難した後に狼の大群が官軍兵を襲ってくれれば最高だと、ですがそんな夢物語で若しも部下に話でもすれば、まぁ~其れこそ大笑いのネタにされると思いますよ。」
「其れは私も同じでしてね、まぁ~その為にと申しましょうか、若様もわかっておられましてね、ですが若様が夢の中で狼の王と話した内容が現実に起き、工藤さんが申された様に狼の大群が来るのが遅かったと言う話なのです。」
その後、源三郎は若様から聞いた話をすると工藤も吉田も笑うに笑えない話で三人とも世の中には全く説明が付かないと言うのか、理解する事は不可能な出来事が有ると思うので有る。
その時。
「源三郎様。」
と、銀次が山賀から戻って来たのだが、銀次の顔を見ると伝令兵と会う事が出来ず、昌吾郎達の事はまだ知らない様子で有る。
「銀次さん、誠に有難う御座いました。
私は銀次さん達が来られたお陰で官軍を成敗する事が出来ました。」
と、源三郎は改めて銀次に頭を下げた。
「そんな水臭い事を、オレ達は源三郎様は命の恩人なんですよ、だから今度の戦では源三郎様の事だから一番危険な所に行かれると思って、其れでオレ達は少しでもお役に立てる方法を考えまして、其れで鉄砲の弾を補充だったら出来ると思っただけなんですよ、其れにオレは源三郎様の為でしたら何時死んでもいいって覚悟は出来てるんです。」
「其れは駄目ですよ、命は一つしか有りませんのでね大切して下さい。」
と、源三郎は銀次に命は大切にするんだと言うが。
「オレは、あっそうだ、其れよりも何で今度は狼が直ぐに来てくれなかったんでしょうか、何時もだったら遅くても四半時もすれば狼の大群が来るんで兵隊さんも戦死される事も無かったと思うんですが。」
やはり、銀次も同じ様に考えていた、何時もならば数人でも血を流せば四半時も経たぬ内に狼の大群が襲ってくるはずで、だが今回に限ってなのか狼の大群が現れたのが余りにも遅く、その為に連合国軍兵士が多く犠牲になったのだと、銀次は多くの犠牲者を出したのは狼の責任だと言って要る様にも聞こえるので有る。
「まぁ~その話は後程にしますが、銀次さんは銀龍一家の昌吾郎さんと呼ばれるお方はどの様な。」
と、その時。
「総司令、お連れ致しました。」
兵士が伝え昌吾郎達が入って来た。
「あっ。」
「えっ、何で。」
「あっ、親分だ。」
「お前達一体どうしたんだ。」
「親分、オレ達は。」
と、昌吾郎もだが銀次も、更に昌吾郎と一緒に来た仲間が涙を流し大声で泣いて要る、執務室に居る家臣達も貰い泣きし源三郎も工藤も何も言えず、其れでも暫くすると。
「昌吾郎、何でお前達は官軍の軍服を着てるんだ、オレ達は数日前に官軍と殺りやったんだぞ。」
「親分、お話ししますが、その前に何で親分が此処に居られるんですか、オレ達はあれからも必死で探したんですよ。」
「まぁ~その話は後程にしてだ、こちらに居られるお方はオレ達銀龍一家には命の恩人で源三郎様って言われ、オレ達は源三郎様の為だったら何時でも死ねるんだ、其れに官軍はオレ達の連合国には敵なんだ、その敵軍の軍服を何で着てるんだ、話の都合によってはお前達は地獄に行く事になるんだ、分かったら源三郎様にきっちりとお話しするんだ。」
「分かりました、源三郎様、私は銀龍の昌吾郎と申します。
其れで今親分から言われました官軍との関係ですが、あれは十日以上も前になるんですが。」
その後、昌吾郎は源三郎に詳しく説明した。
「昌吾郎さんと申されましたね、その前に少しお話しをお伺いしますが、貴方は以前何処かの藩で務めておられましたね。」
「えっ、何故で御座いますか。」
昌吾郎は今まで誰にも話した事は無かった。
「私は昌吾郎さんは剣術も相当なお方だと思いますが、ご貴殿の所作には時々、其れも僅かですが元侍だと言う動きが私には見えておりますが、そうでは御座いませんか。」
昌吾郎は源三郎の前では嘘を押し通す事は出来ぬと決断したのか。
「源三郎様、誠に申し訳御座いません。
源三郎様のお察しの通り私は元侍で御座います。」
やはりだ、源三郎の思った通りで、だが何故元侍がやくざの、其れも江戸の銀龍一家に入ったのか、どの様な人間にも他人に知られたくない秘密が有り、昌吾郎と言えど秘密が有るのだと、だが一体どの様な秘密が有ると言う。
「私はご貴殿がどの様な理由で銀龍一家に入られたのか、その理由によってはご貴殿の。」
源三郎は言葉を止めた、何故に其れ以上言葉を発しないのだろうか。
「源三郎様は私が何故銀龍一家に入ったのか、其れをお知りになりたいので有ればお話しさせて頂きます。
その前に私はこの地が何処なのかも分かりませんが、私の国は北の方角に有り、冬ともなれば大雪で人々の生活は大変貧しく、ですが時の幕府は我が藩を取り壊したのです。」
「今申されましたが何故にご貴殿の国を取り壊したのですか。」
「我が藩が幕府に対し反旗を翻したと、藩主もですが我々家臣もその様な事実は無いと幕府に申し上げたのですが、幕府は次から次へと難癖を付け、藩主は幕府に対し抗議の意味を込め腹を召され、ご重役方も後を追われたのです。」
やはりか、時の幕府は意に反する小国には武力を持って潰す、其れが幕府の崩壊に繋がったとは今の日本国の誰もが考えていない。
「其れでご貴殿。」
「私は妻と子供と連れ江戸に向かったのです。」
「ご貴殿のお国は幕府に壊滅させられたのでは御座いませんか、其れが何故に江戸に参られようと考えられたのですか。」
「その前に私の名で御座いますが、昌吾郎とは我が息子の名でして、昌吾郎の昌は亡き妻の名が昌代と申し、妻の名を一字頂き、吾郎とは我が祖父が長き間藩の奉行を務めておりまして、妻も承諾してくれまして、祖父の名から吾郎と頂き昌吾郎と名付けたので御座います。」
「ご貴殿の奥方とご子息は。」
「はい、誠に残念では御座いますが、国を出立し数日が経ち峠を越え、他国に入る寸前に二十名程の山賊に襲われまして、その時に妻と子供が殺されたので御座います。」
何と言う話だ、苦労し国を出立し、江戸に向かう途中の峠を越え様と、だがその時山賊の襲われ妻と子供が殺されたので有る。
「私は数日間と言うものは何も手に付かず、やがて江戸に入ったのですが、有る時、十数人の侍が民衆に対し無法とも言える暴挙を行って要る所に通りかかったのです。」
「ですがご貴殿は見逃す事は出来なかったと申されるのですか。」
「あの時の事はオレ達も聞いてますよ、一人のご浪人が十数人の侍を打ち負かしたと、じゃ~あの時のご浪人って、昌吾郎、いや昌吾郎様だったんですか。」
「親分、私は妻と子供を失った時に侍と言う身分を捨てたのです。」
「親分、昌兄~いはそら物凄いお人ですよ。」
「そうですよ、オレ達は親分と別れた後なんですが、あの時は食べる物も無く、其れに無一文だったんですが、昌兄~いはオレ達みんなが親分と会えるまで何とか生きなければならないって、其れで有る時、官軍兵を集める立て札を見たんですが、でも親分の行き先もわからないし、腹も減るし、その時、昌兄~いが官軍に入れば食べる物も有るし、官軍だったら何処にでも行くんで何処か途中で親分と会えるって、其れでオレ達全員が官軍に入ったんです。」
「昌吾郎さんにすれば国を滅ぼし妻子の命を奪ったのは幕府だ、幕府を倒す為に官軍に入る事が最善だと考えられたのですね。」
「はい、左様で御座いまして、国を滅ぼし妻と子供の命を奪ったのは幕府だ、我が国に出来もしない無理難題を押し付け、其れが全ての原因だったと考えておりましたので官軍に入ると言う事は、私が幕府に対し仇討と仲間の食べる物が得られると考えたのです。」
「ではご貴殿は幕府に対する仇討とお仲間の食べ物を得る為に官軍に入られたと、ですが何故官軍から逃げる事になったのですか。」
源三郎は昌吾郎達が官軍兵が民衆に対する略奪や暴行と言った戦とは全く関係の無い人達が殺されて行くのを目撃し、其れが原因となり官軍を脱走したのでは無いかと考えたので有る。
「私が、いや私達が最初に入隊した部隊は敵軍は幕府軍だけで御座いました。」
「最初にと申されますと、後に別の部隊へ配置替えされたのですか。」
「正しくその通りでして、私達は最初の部隊は幕府軍が敵軍でしたので、私は何も考える事も無く敵軍で有る幕府軍の兵士と言うよりも侍に切り付ける事に何の抵抗も御座いませんでした。」
昌吾郎は幕府軍や侍と見るや、何も考える事も無く殺す事が出来たと言うが。
「では相当数の侍を切り殺されたのですか。」
「私は侍がどの様な出で立ちで出陣するかを知っておりましたので侍を切り殺すと言うのは刀も直ぐに使い物にならないので下手をすれば我が身の命さえも危ぶむ事になるので御座います。」
昌吾郎と言う元侍は幕府軍と言う侍達を知り尽くして要るのだろうか。
「昌吾郎さんは幕府軍の武士達の動きもご存知なのですか。」
「私も侍で御座いますので、侍が戦場へ向かう時にはどの様な姿で向かうのかわかっておりますので何も無理して切り殺す必要も無いと、其れで刀の先だけで敵軍の動きを止める方法を考え付き足や腕の筋を切ればもう戦う事などは出来ないのです。」
「源三郎様、親分、昌兄~いはねぇ~、其れはもう恐ろしい顔で幕府の奴らをやっつけるんで、オレ達は戦よりも昌兄~いが恐ろしくなったんです。」
それ程にも昌吾郎は幕府に対し憎しみを増大させていたと言う事で有る。
「其れで先程のお話しに戻りますが、何故昌吾郎さんは官軍を脱走されたのですか。」
昌吾郎の答えはわかった要るが、やはり確信が無いのか昌吾郎の口からはっきりとした話を聞きたいので有る。
「私は最初の部隊が蝦夷地に向かい駐屯する聞き、駐屯するとなれば移動する事も無く、親分の行き先が掴めなくなると考えまして、部隊の隊長に私はこの先も幕府軍を追い詰め撃滅したいと直訴したのです。」
普通ならば駐屯すると言う事は戦に行く事が少なくなり、兵士の戦死も大幅に減る、だが昌吾郎は銀次達の行き先を探る為には駐屯するのでは無く、絶えず移動し幕府軍と戦わなければならず、その様になれば昌吾郎達にも犠牲者は出る、だが其れでも銀次を探すと言うのは余程銀次と言う人物が大切なのだろう。
「昌吾郎さんはご自分の命を懸けてでも銀次さんを探さなければならなかったのですか。」
「あの時の私は死の寸前でして、その時の私を助けて下さったのが銀次親分でして、正直申しまして私は死に場所を求めておりまして、ですが何も銀次親分がどうのと言う事では御座いません。
一家のお仲間は浪人で死にぞこないの私を助けて下さり、私は命の恩人だと思っておりまして、ただ私一人ならば別に何時死を迎えても良かったのですが、お仲間だけはその様な訳にも行けません。」
昌吾郎は我が身よりも一緒に居る仲間の事を考えていたのだと言う。
「其れで銀次さんを探す為に官軍の中でも移動する部隊に参られたのですね。」
「左様でして、そして、移動しながら幕府軍と戦う部隊に入る事が出来たのですが、奴らは戦とは何の関係も無い宿場の住民を殺し、ですが奴らは其れに飽き足らず女を犯し、家に火を点け焼き殺す、私は相手が侍ならば躊躇無く切る事は出来ますが、正か民衆を切り殺す事などとは,少なくとも私も元は侍で、其れだけはとてもでは有りませんが出来なかったのです。
其れは仲間も同じでして、私達は何としても早く逃げなくては我々も同じ仲間だと思われるかも知れないと、ですが簡単に逃げる事が出来無かったのです。」
昌吾郎達が編入された部隊はやはり特攻隊なのか。
「昌吾郎さん達が入られた部隊ですが、若しや特攻隊と名乗ってはおりませんでしたか。」
「源三郎様が申される通りでして、私達が入った部隊は六百人を超える人数でして、私は其れを利用し毎日少しづつですが後方に移動し、十数日後には最後尾に付ける事が出来たのです。」
「其れならば直ぐ逃げる事が出来たのですか。」
「幾ら何でも直ぐにとは参りませぬ、そして、数日後有る峠を越え二又に差し掛かり道標が有り、右は鹿賀の国と書いて有り、ですが部隊は右には行かず左に向かったのです。」
官軍も鹿賀の国の情報は入っていたのだろうか。
「官軍にも鹿賀の国の情報は入っていたのでしょうか。」
「私は官軍がどれ程の情報を得て要るのか知りませぬが、私の居りました国でも鹿賀の国は幕府でも簡単には手出しが出来ない程の強国だと聞いておりまして、ですが部隊は左に、其処で私はこの機会を逃せば何時逃げる事がわからないと思い、一気に右に入り一町程行った所で山中に入ったので御座います。」
昌吾郎は鹿賀の国を目指すのでは無く、部隊から逃れる為に一度は鹿賀の国へと向かったのだと、だが彼らは官軍の軍服を着ており鹿賀の国へ入る前に抹殺されるで有ろう、其れならばと直ぐ山中にに入ったのだ。
「では鹿賀の国には向かわなかったのですね。」
「左様でして、私達は山中を一日中歩き、有る時海が見えましたので直ぐ下りますと漁村が有り、その日の内に漁師に小舟に乗せて欲しいと、その時、全員が持ったおりました金子を出したのですが、小舟に乗せて貰うとなれば私達の行き先が知れ官軍に知らされるのではと考え、漁師には申し訳無かったのですが、その日の夕刻に小舟を別の所に移動させ、明くる日の早朝に全員が乗り海に出たのです。」
「まぁ~其れも仕方無いのかも知れませんが、では直ぐ菊池の入り江に来られたのですか。」
「其れが外海に出た途端潮の流れが変わり、私達の目指す方向とは反対に向かいましたので、皆が必死で手や舟に有る物で潮に逆らい、やがて何とか西の方へと向かい数時後小さな入り江に入り、其処で私達は安心したのと空腹と疲れやら色々な事が重なり浜に上がった途端と申しましょうか、眠ってしまい、後は皆様方に起こされるまで全く覚えておりません。」
昌吾郎達は官軍の追ってから逃れる為海に出たが目的地とは違う方向へと向かい、下手をすれば鹿賀の国に漂着する事を恐れ小舟に有る物を使い必死で潮に逆らい、菊池の浜に着き浜で死んだ様に眠ったと、その後、浜の漁師に発見され今に至るので有る。
「ではこの浜が何処かも知らなかったのですか。」
「私はあの時にはその様な事など考えも及びませんでしたが、浜の漁師さんに官軍だと言われ、その後直ぐに同じ軍服を着た兵士が現れ、私達はもう駄目だと諦めたのです。」
昌吾郎達が見たと言う兵士隊は菊池の洞窟に有る潜水船の乗組員で兵士達は武器などは持っておらず、直ぐ昌吾郎達の銃を取り上げたので有る。
「その兵隊さん達ならば潜水船の乗組員ですよ。」
「えっ、潜水船で御座いますか、私は今初めてお伺いしましたので潜水船と申されましても全く理解出来ないので御座います。」
「まぁ~まぁ~、そのお話しは後程にして、長い間お話しを伺いましたが、銀次さん、昌吾郎さん達を浜にお連れして下さい。」
「では、皆を助けて頂けるんですか。」
「其れは銀次さんに全てをお任せしますのでね、其れと数日後に今一度お二人で来て頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」
「はい、勿論で、オレが責任持って行きますんで。」
「左様ですか、では皆さんは銀次さんと一緒に行って頂いても宜しいですよ。」
「源三郎様に申し上げたいのですが、私は官軍に居ります時に数十、いや百人以上の幕府軍の侍を切り殺しましたので、私はどの様なお裁きを受けましょうとも良いのですが、他の仲間は一人も殺しておりませぬ、どうか皆の命だけはお助け願いたいので御座います。」
と、昌吾郎は手を付き頭を下げた。
やはり、昌吾郎は武士だ、自分は数百人の侍を殺し、だが仲間は一人も殺しておらず、裁きの全ては受けるので仲間だけは助けて欲しいと言うが。
「昌兄~い、そんなのって絶対に駄目ですよ、オレ達も鉄砲で何人も殺してるんですからね。」
「そうですよ、何で昌兄~いだけが処刑されるんですか、オレだって同じなんですからね、絶対に昌兄~いだけが処刑されるなんて嫌ですからね。」
と、昌吾郎と一緒に来た銀次の子分と言う仲間の全員が自分達も同じ罪だと言う。
「まぁ~まぁ~、私はねぇ~、何も皆さんを処刑するとは申しておりませんよ、全てを銀次さんにお任せすると申しましたのは、銀次さんの仕事のお手伝いをして頂きたいからなのでしてね、その様な訳ですからね、銀次さんは皆さんを連れ浜に戻って下さい。」
「みんな、源三郎様のおっしゃる通りだ、まぁ~これから先の事は浜に戻ってから話すから、じゃ~源三郎様、数日後には寄せて貰いますんで宜しくお願い致します。」
「銀次さんもお疲れでしょうから暫くはゆっくり休んで下さいね。」
その後、銀次と昌吾郎達は仲間が居る浜の洞窟へと向かった。
世の中には何時、何処で何が起きるやも知れないと、この時、源三郎は改めて知ったので有る。