第 16 話 成功なるか、救出作戦。
まだ、夜の明ける前、次々と領民達も、城主も、そして、兵士達も広場に
集まり。
「兵士は、馬を馬車に、其れと、馬に鞍も、出発の準備に掛かれ。
領民の皆さん、昨日、御願いしました様に、馬車に乗って下さいね。」
子供達は、まだ、眠たいのだろう、しきりに目を擦っている。
領民達も、馬に乗り始め、やがて、出発の準備が整い。
「ホーガン、狼犬部隊は、先頭に、警備隊の全員は、左右に分かれ、警護
に就いて下さい。」
狼犬部隊は、二列に、警備隊の動きは早く、等間隔で警備に入った。
「ホーガン、では、出発しましょうか。」
「はい、では、全体、前へ進め。」
狼犬部隊は出発と同時に回りの警戒を始め、左右に分かれた警備隊も警戒
と強め、大部隊となった集団は、ロシュエの待つ農場へと出発したので有
る。
話は、少し戻り、司令官達が、この城に到着する前で有る。
農場では、城の手前まで来た城壁が最後の段階に入ってきた。
「おやっさん、どうだ。」
「将軍、もう直ぐですよ、え~と、そうですね、今日、いや、明日には全
ての加工が終わりますので。」
「じゃ~、一気に運ぶのか。」
「ええ、そう思ってるんですが。」
「じゃ~、そのまま、組み上げも入るのかよ~。」
「う~ん、其れは、まだ、分かりませんが。」
おやっさんも、本当は、一気に組み上げる予定なので、此処は、まず、全
ての材料を運び込む事を考えた。
「将軍、先に材料の運び込みですねぇ~。」
「うん、そうか、じゃ~、組み上げは、その翌日と言う事になるのか。」
「はい、まぁ~、その予定で行きますので。」
「分かった、ありがとうよ。」
ロシュエは、其れだけを聞きにきて、宿舎に戻り、隊長達に話を聞きたい
と。
「当番兵。」
「はい。」
「済まんが、隊長達を呼んで欲しいんだ、」
「はい、直ぐに。」
ロシュエは、考えていた。
「兵士達の負担を少しでも減らしたい、だが、城壁造りは急ぐ、一体、ど
うすればいいんだ、最後のとも言える城壁さえ完成すれば、予定地内の狼を
追い出すか、其れとも、巨大通路が完成するので必要は無いだが、う~
ん。」
暫くして、4人の隊長が集まり。
「将軍。」
「お~、済まんよ~、忙しい時によ~。」
「いいえ、私達は、先程まで、議論しておりましたので。」
「えっ、議論だって、一体、何の議論なんだ。」
隊長達の中心的な人物は、第1番大隊の、ロレンツ隊長で、ロレンツは、
ロシュエと共に、この地に着き、今の農場を築き上げた一人なのだ。
「はい、実は、最後の城壁と思える、5番目農地の事で。」
「何だって、じゃ~、君達も、オレと、同じ事を考えていたのか。」
「やはり、将軍もでしたか。」
やはりだ、ロレンツは、ロシュエの直属の部下で、駐屯地から一緒だった
ので、直ぐに分かるだろうと。
「うん、実はよ~、オレもさっき、大工のおやっさんに聞いたんだ、する
と、今日は多分無理だろうが、明日には全ての加工が終わるって話なだ。」
「私も、その話は、昨日聞きましたので、終了後には、一気に運び、直ぐ
組み上げまでを考えたのですが、オーレン隊長が、それでは、兵士達の負担
が大き過ぎると。」
「うん、オレも、同じなんだ、だがよ~、一度、戻ってくる事になるんだ
ぜ。」
「将軍、我々は、戻る必要が無いと考えております。」
「だってよ~、食料も必要になるんだぜ。」
「はい、其れも、承知しております。
農場も、3番地までは、柵が完成し、残るは、4番、5番だけですので、
其処には、まだ、大鹿もおり、狼も大群をなしておりますので、其れに、戻
るよりも、城に入った方が良いのでは無いかと考えています。」
「将軍、私達は、城で食事と休みを取る事までは、問題なく解決したので
すが。」
「何だよ~、まだ、何か問題でも有るのか。」
「はい、実は、司令官が戻られると、城に入られると思っているので
す。」
やはりだ、彼らは、助けた城主と、領民達を暫くの間、城での生活にと考
えていた。
「フランド隊長、だがよ~、司令官達は、そんなに早くは戻ってくるとは
思わないんだ、だってよ~、片道が20日だろうよ~、問題はだ、その城主
ってのが、すんなりと、言う事を聞くとは思えないんだ、多分だぜ、今ま
で、外敵からの攻撃を受け無かったとすればだよ、オレだったら、簡単には
城は出ないよ。」
「ですが、反対の事も考えられますよ、だって、司令官の事ですから、話
が決まれば、一気に進めると思いますよ。」
「うん、まぁ~、そうだなぁ~、司令官の事だ、その可能性は有るなぁ
~。」
「将軍、それにですよ、狼犬部隊も一緒だとすればですねぇ~、ホーガン
達は、何かをやらかしますよ、多分ですが。」
隊長達は、司令官の癖も、狼犬部隊の癖も知り尽くしている。
「だがよ~、それでも、一日や二日の準備は必要になるだろう。」
「将軍。」
「何だ、ロレンツ、何が言いたいか、分かってるぞ、お前の事だ、兵士達
を丸め込んだ、え~、そうだろうよ~、違うのか。」
「いいえ、其れが、全く違うんですよ、私は、司令官が、城に残られると
考えているんです、其れに。」
「何だよ~、まだ、何か有るのか。」
「はい、其れに、3番、4番、5番大隊は元々、城の人達ですから、内部
の事情も詳しいと思っておりますので、3番、4番、5番大隊の何れかが、
司令官と共に入れば、敵軍からの防御も比較的に楽だと考えたんです。」
ロレンツ隊長は、敵軍からの防御を優先した。
「うん、其れは、当然だ、で、一体、話し合いはどうなったんだよ~。」
「将軍、私も、ロレンツ隊長の意見が最もだと思ったんですが、城壁の前
には、城まで続く深い森が有り、その森で、待ち伏せし、両方で攻撃に入れ
ば、敵軍も逃げ場が無いと考えております。」
「フランド隊長は、森に入りたいのだろうよ。」
「はい、私と、フォルト隊長が森に入ると言ったんですが、ロレンツ隊長
は、森に入るのは、1番大隊に決定だと言われまして。」
「何だよ~、じゃ~、森に入る部隊を決める事で、話が付かなかったのか
よ~。」
「ですが、森に入ると言うのは、大変なリスクが有りますよ、其れに、以
前、ウエス達の本隊が来た時も、我々が森に入りましたので、その経験を生
かしたいと。」
「うん、確かにだ、森に入り、攻撃に入ると言うのは、大変なリスクだ
よ、狼の大群と、敵軍とも戦うんだからなぁ~、じゃ~、城には、司令官
と、5番大隊としてだ、4番、5番農場からの攻撃は。」
「はい、将軍の言われたのは、城壁からの攻撃だと思いますが、城壁の内
側は広い通路となっていますので、二個大隊が移動しながら、攻撃に入ると
言うのが、私の戦法なんです。」
「じゃ~よ~、5番大隊が城で、2番大隊と、3番大隊が移動攻撃に、4
番大隊は、1番から、3番農場で、固定攻撃と言う事なのか。」
「はい、その様に攻撃側は、どの農場からでも攻撃に入る事が出来ます
し、森からの攻撃では、以前と同じ戦法で、中に誘い込むと言うのが良いと
考えました。」
ロシュエは、今まで、戦法などは考えもしなかったのだが、4人の隊長達
は、早くも作戦を考え始めたので有る。
「まぁ~、まだ、時間も有る事だし、此処は、時間を掛けてだ、作戦を考
えてくれよ、其れとだ、城から、川までの柵は。」
「はい、今、木こりさんと、大工さん達が、伐採と加工に入り、加工が出
来次第順次取り付けに入っておりますので。」
「そうか、じゃ~よ、そろそろ、狼の退治でも始めるか。」
「えっ、将軍、今は、敵から何時攻撃されるか分かりませんよ。」
隊長達も、敵軍からの攻撃だけを考えている、だが、ロシュエは、まだ、
先だと考え、狼退治を優先すると、其れは、ロシュエの考えが、別の方向に
向いていた。
「うん、勿論、オレだって分かってるよ、だがよ~、さっきも言った様
に、まだ、先の話だって、其れよりも、先に狼を退治すれば、農民が入り、
それだけ早く開墾作業に入れると言う事なんだ、今は、みんなで、城壁造り
入ってるが、農民にすればだ、開墾作業に入るのが大事な事なんだよ。」
ロシュエは、何時も、農民の事を最優先に考えている。
「将軍は、何時も、農民の事を最優先に考えておられますので、よ~く、
分かります。
では、早急に私達の誰かが、城に行き、現場の状況を見て、其れから、狼
退治を一斉に行いますが、其れで、よろしいでしょうか。」
「うん、済まんがよ~、作戦会議は、狼退治が終わってからと言う事で、
頼むよ。」
「はい、了解しました。」
ロレンツ隊長は、切り替えも早い、やはり、駐屯地から、ロシュエの部下
で有る事が、その様にさせているので有ろう。
ロシュエも、本当は、作戦を考える必要が有ると思ってはいる、だが、司
令官達の事が気になり、今は、考える事に集中出来ないので有る。
その頃、ウエス達が去った現場では、堤防造りと、大池造りの作業が行な
われている。
現場は、大きな川から、吹き付ける強風で、作業は、思った以上に進めな
い。
それでも、岩石を掘り出し、大池も、5ヒロから10ヒロと、少しづつだ
が深さを増して要る。
「皆さん、大変、ご苦労様です。」
「小隊長、どうされたんですか。」
第1小隊が見回りに来た。
「わぁ~、之は、大変ですねぇ~、この強風ですからねぇ~、何時もです
か。」
「はい、川からの風ですので、冷たいですよ。」
「余り、無理をせずに、作業を行なって下さいね。」
「はい、でも、私達を信用していただきましたので、今は、みんなが、仕
事が出来、夜ものんびりとしておりますので、何も心配する事無く元気です
から。」
「そうですか、其れより、今は、何か、必要な物は有りませんか。」
「はい、実は、大きな岩を移動させたいのですが、何も道具が有りません
ので。」
「分かりました、私から、隊長に伝えますので、其れと、食事は。」
「はい、少し肉が少なくなってきましたので。」
「之は、申し訳有りませんです、其れも、大至急手配しますので。」
「申し訳有りませんが、其れと、先程の大きな岩なんですが、池の途中に
も大量に有りまして、今、下手に土を掘り出すと落盤する様な気がするんで
すが。」
「分かりました、で、其れは、今。」
「はい、見ていただければ分かると思いますので、案内します。」
彼は、小隊長と兵士達を案内すると。
「わぁ~、之は、大変だ、即刻作業は中止して下さいよ、事故が起きます
のでね。」
「でも。」
「貴方方の気持ちはわかりますが、事故が起き、怪我をされると大変なの
で。」
池も、深くなれば、途中の勾配の関係で、数十個もの大きな岩が、何時、
転がり落ちるか分からない状態になっている。
「はい、では、他の所を。」
「いいえ、一度、全ての作業を中止して下さい。
私が、直ぐ戻り、技師長に来て頂ますのでね。」
「では、何も出来ないと。」
「はい、そのとおりですよ、少し、待って下さいね、小隊は、狩りに行け
ますか。」
「小隊長、待ってました、じゃ~、今から、直ぐに。」
「はい、お願いします。」
小隊の兵士達も久し振りの狩りに、喜び、飛ぶ様に馬を走らせて行く。
「皆さん、作業を中止して、一度、宿舎に入って下さい。」
彼らは、遠くの国から来たと言う、ウエス達が全滅し、大木の切り倒しも
終わり、今は、大池造りの作業に来ている。
「今、私の部下が森に入り、大鹿か、猪を仕留めに行きましたので、今日
から、数日間はのんびりとして下さい。」
「隊長さん、ありがとう、御座います。
では、お言葉に甘えまして、技師長さんが来られるまでは、のんびりとさ
せていただきます。」
「はい、其れで、よろしいですよ、其れで、私の部下が戻って着ました
ら、私は、急ぐので、先に農場へ戻ったと、それと、急ぐ事は無いので、部
下達ものんびりする様にと、では、私は、之で、戻りますので。」
小隊長も、この現場で、数日間は残る様にと、隊長から命令を受けたが、
現場はそれどころでは無く、大至急、報告するのが大事だと判断した。
小隊長が農場に戻り、隊長と、技師長に報告すると、数日の内に作業用道
具と共に、技師長が到着し、今後の作業方法の検討に入った。
話は、進み、司令官達は、領民と、城主や城内の全員と、城を出発し、お
昼前には、最初の休憩場所に着いた。
「皆さん、大変だったでしょう、此処で、休みを取りますので、馬に乗っ
ておられる人も、馬車に乗っておられる人も降りて、少し身体を動かせて下
さい。」
馬も休みに入り、付近の草を食べて要る。
この場所は、狼犬部隊が見付け、周りを見渡せると考え、その場所は、四
方を遥か遠くに小高く草原となって要る所で、狼犬部隊は、前後の偵察に向
かった、この集団の数百ヒロ後には、狼犬部隊もだが、誰にも見つからない
様にと、隠れて進む小隊が、この後、作戦を開始するなどとは、城主は勿
論、警備隊も全く知らない。
司令官も、リッキー隊長も、何かを考えては要るだろうが、果たして、一
体、何が、起きるのか、司令官は、さり気無く馬の様子を見て要る。
牧草をたっぷりと食べた馬は、ゆっくりと集団の元へと連れて来られ、休
憩が終わり。
「では、皆さん、馬と、馬車に乗って下さいね。」
「ねぇ~、兵隊さん、今度は、オレが歩きますので、乗って下さいよ。」
「いや~、今は、よろしいですからね、今、出発すれば、我々が見付けた
野営地に着き、今夜は、その場所で眠る事になりますのでね。」
兵士も分かっていた、兵士が言ったところでの野営の予定は無く、まだ、
先で、其処で野営する予定だが、今の調子で行くと、夜も更け夜中になるだ
ろうと。
「では、行きましょうか。」
馬も、元気を取り戻した様子で、のんびりとした歩き方になっている。
そして、要約、馬も歩き慣れた頃、後方で待機していた、狼犬部隊の小隊
が、馬を飛ばして来た。
「司令官、司令官。」
大声で叫びながら、司令官の傍に来た。
「司令官、大変です。」
その声は、周りにいる領民や城主も聞こえた。
「一体、どうしたのですか。」
「はい、私は、司令官達が出発される前の夜、敵軍の位置を知りたく偵察
に向かったんです。」
「うん、それで。」
「はい、城を出て、川沿いに上流へと進んだんですが、半日以上行ったと
ころで敵軍らしき軍隊を発見しました。」
「えっ、では、川を渡っていたのですか。」
「はい、でも、あれは歩兵でしたので。」
「では、その後方は。」
「其れまでは、確認出来ませんでした。」
「えっ。」
傍に居た城主が、思わず大声を発した。
「では、まだ、先頭の歩兵だと言うのであれば。」
「ですが、何か急いでいる様子でしたねぇ~、歩き方が早かったですか
ら。」
「では、ウエス達全員が殺されたと思っておりますねぇ~。」
「司令官、之は、急ぐ必要が有りますねぇ~。」
「分かりました、リッキー隊長、そうですねぇ~、第1中隊をあの野営地
に向かわせ、野営の準備に。」
「はい、分かりました、では、第1中隊の馬に乗っておられる領民の皆さ
んは、馬車に乗り換えていただく様に。」
「領民の皆さん、私達は、今、言われました、第1中隊ですので、申し訳
無いですが、荷馬車の方へ。」
「隊長様、オレ達こそ、ありがとう、御座いました。」
第1中隊の兵士達は、領民に優しく伝えると、領民は礼を言って、馬を降り
て行く。
「各馬車に乗っている人達は、少しづつですが詰め、子供さんを中心に大
人は、外側に分けて乗って下さいね、馬車に乗っている人達も、少し窮屈で
しょうが、お互い少しの我慢ですのでね。」
「ニキータ、城で、司令官が言われた事が、今、やっと理解出来まし
た。」
「姫様、私もです、私達は、城の中で、この様な服装が当然だと思ってい
たのですが、この様な服を着ていると、一人が乗れなくなると言う事ですね
ぇ~。」
「ニキータ、今は、何も出来ませんが、野営地に着けば、中の物を取り外
しますので、他の者達にも伝えて下さい。」
城で、司令官から言われた。
「その様な服装では、馬も馬車にも乗れませんので、中の物は取り外しな
さい。」
姫は、今の今まで理解出来なかった、其れは、今の様な急を要する時には
邪魔になると言うので有る。
「第1中隊は、野営用のテント、食料馬車も同行させ準備に掛かれ。」
「リッキー隊長、了解しました。
馬車は中に、では、第1中隊、急ぎ出発し、野営の準備に向かいます。」
「中隊長、他の馬車に乗れない領民さんですが、我々の馬車には乗れます
が。」
「よ~し、分かった、領民さんを乗せ出発。」
第1中隊は、数十人の領民を乗せ、急ぎ野営地に向かった。
「リッキー隊長、他の全員は、各馬車に分散して乗っていますか。」
「はい、第2中隊から、後方は。」
「はい、全員、乗っておられます。」
「では、出発しますが、幼い子供も乗っていますので、早掛けではなく、
小走りで行きますよ。」
「はい、では、ホーガン隊長、出発だ。」
「はい、了解しました、では、全馬小走りで、野営地に向かい、出発。」
司令官は、ホーガンの傍に行き、先程の話を確かめる事にした。
「ホーガン隊長、先程の偵察隊の話ですが。」
「はい。」
その傍に偵察に行った者が来た。
「司令官、先程の話は本当なんですよ。」
「えっ、では、この数日の間に川を渡ると。」
「話は、少し違いますが、私達は、城から、川の方に向かったのは確かで
す。」
「うん、で。」
「初めは、川の上流に向かう予定だったのですが、対岸で松明の灯かりが
見えましたので、暫く見ておりました。」
「では、夜に移動を開始したのですか。」
「はい、で、私達は、危険だと思い、夜明けまで、その場におりまして、
夜明けの少し前ではなかったでしょうか。」
「では、やはり、敵軍でしたか。」
「私は、その様に思いました、松明の灯かりは、多分、狼避けだと思いま
すが、其れが、後方まで続いていましたので。」
やはり、本当だった、ウエスの兄と言うのが、3万人の兵を連れ、第1農
場の対岸に居たと言う事が。
「では、何時頃、川を渡ると思いますか。」
「私は、その場所は知りませんが、私達も、夜明けと共に、川に沿って敵
からは見えない様にと、少しだけ森に入り、昼近くまで並行しましたが、ど
の付近で渡るのかは確認出来ませんでした。」
「司令官、私も聞いたところでは、まだ、上流に行かなければ、川を渡る
事は出来ないそうです。」
「では、その場所までを三日間として、3万人が渉りきるのは、丸一日は
掛かりますから、その場所から、城までを三日間ですか、之は、大変ですね
ぇ~、ホーガン隊長、城主に聞いて下さい。
川を渡れる場所まで、歩くとすれば何日掛かると。」
「はい、直ぐに。」
ホーガンは、城主が乗った馬車に向かった。
「ありがとう。」
「いいえ、では、私は。」
司令官はリッキー隊長を呼び、ホーガン隊長が戻って来るのを待った。
「陛下、少し、お話を。」
「よろしいですよ。」
「陛下のお城から、大きな川を渡れる場所まで、歩けば、何日掛かるので
しょうか。」
「う~ん、そうですねぇ~、何も無ければ、10日と言うところですが、
其れが何か。」
「陛下、何も無ければと言うのは、どの様な事でしょうか。」
「ホーガン隊長、今の季節は、川の水は大変冷たく、ホーガン隊長でも、
腰までは浸かりますよ。」
「えっ、では、浅い事は無いのですか。」
「いいえ、私の知る限りでは、其処が、一番、浅い所ですよ。」
「では、歩兵では如何でしょうか。」
「其れは、もう大変ですよ、軍服は水を吸い、手には武器を持っているで
しょうから、其れに、川底の石にでも足を滑らせると流されますよ。」
「では、川を渡るだけでも大変だと、正に、命がけの川渡ですか。」
幾ら、川が浅いと言っても、真冬の川を渡ると言うのは命懸けで、馬に乗
っていれば多少の濡れ方は違うが、ほぼ、全員に近い状態の歩兵が上から下
までを濡らし、例え、川を渡り切ったとしても、水の冷たさと寒さで動く事
も出来ず、服を乾かす必要が、其れも直ぐにで有る。
「では、10日を掛けて行き、川を渡り、濡れた軍服を乾かし、其れから
は。」
「ホーガン隊長、その付近には、狼の大群が、それも、一千頭くらいはい
ると聞いているよ。」
「えっ、一千頭の狼の大群ですか。」
「だから、我々は、その付近には行かない様にしているんだ、そのために
詳しい事が分からないって事ですよ。」
「陛下、ありがとう、御座いました。」
「ホーガン隊長、私で、お役に立つのであれば、どの様な事でも致します
と、司令官に伝えて下さい。」
「はい、ありがとう、御座います。」
暫くして、ホーガンが戻り。
「司令官、分かりました。」
「そうですか、其れで、如何でしたか。」
「はい、城から、川を渡れると言う場所まで、10日位だと言われまし
た。」
「そうですか、では、反対に考えてですが、対岸から、10日は掛かると
言う事ですかねぇ~。」
「ただ、陛下は、今の時期は、川の水は大変冷たく、それに、浅いと言っ
ても腰近くまでは浸かると言われておりました。」
「えっ、腰ですか。」
腰まで浸かり、冷たい川の水、着ている物は軍服で普通に考えても厳しい
状況下に有るのは間違い無い。
「司令官、浅いと言っても、腰まで浸かるのですから、軍服を着ています
ので、尚更、重くなり、例え、川を渡ったとしても直ぐ軍服を乾かす必要が
有りますよ。」
「うん、確かに、そのとおりですねぇ~、3万人の内、歩兵が、1万人だ
と聞きましたが。」
「私は、その3万人と言ってますが、どうでしょうか、2万人だと考えて
いるのですが、遠くから見れば、3万人と言われれば、3万人に見えますの
で、其れに、仮に、1万人が歩兵だとすれば、一日で、全員が渡る事は不可
能だと思いますが。」
「ホーガン隊長の言うとおりであれば、最低でも、3~4日はかかります
ねぇ~、服も乾かすとなれば、その後、2日から、3日は必要ですからねぇ
~、之で、7日から8日で、全員が渡り終えるのは、20日間近く掛かると
思われますが。」
「司令官、では、その場所から、今度は、10日も掛けて城に着くのです
から。」
「リッキー隊長、その前にですよ、その付近には、1千頭近くの狼の大群
がいるそうなのですよ。」
「えっ、1千頭の狼ですか。」
「ええ、ですから、仮に全員が無事に渡ったとしても、1千頭の狼の大群
は大変な恐怖だと思いますがねぇ~。」
敵軍には、一難去って、また、一難で、冷たい川の水から逃れても、今度
は、1千頭の狼の大群が、兵士達を待ち受けている。
寒い時期には野生の動物も獲物が少ない、其処にやって来たのは、川を渡
り、体力を使い果たした歩兵達で有る。
果たして、何人の歩兵が、1千頭もの狼の大群の餌食になるのだろうか。
「では、相当数の歩兵が食い殺されると。」
「私は、その様に思いますがねぇ~。」
「でも、本隊の兵隊は生き残れると言う話ですねぇ~。」
「その狼の大群から逃げて、城までが10日間でしょう、仮に城に着いた
としても、城には、食料は何一つとして残しておりませんので。」
「リッキー隊長、食料が何も無いと知れば、狩に行く事になりますねぇ
~。」
「私は、正か、城に着くとは思いませんが。」
「司令官、その城からも、20日間は掛かりますので、仮にですが、最短
で来るとしても、50日前後と言う事になりますが。」
「だけど、この話しを、城主や警備隊長に知らせる事は出来ませんからね
ぇ~。」
司令官も考えている、まだ、少しの時間は有るので、野営地を出発するま
では、この話しは無かった事に。
「リッキー隊長、ホーガン隊長、この話は、野営地を出発するまでは、無
かった事にしましょう。」
二人は戻り、だが、やはり、城主がホーガンに聞きたい事が有ると言う事
で、領民達は、何かが起きたのか、それとも、起きる前なのか、少し不安に
なっている様子だ。
それでも、ホーガンを先頭に馬は小走りで最後の野営地に向かっている。
「司令官、あの小高い丘を越えれば野営地です。」
「分かりました。」
其れは、ホーガン達が、城に向かうまでの最初の野営地で、二日掛かると
ころを、一日で来たと言う事は、これから先は、余裕が持てると言うのか、
だが、まだまだ安心は出来ない。
敵軍も、偵察隊を送り、周辺の状況を探っているに違い無いと、司令官は
考えている。
野営地には、間も無く到着出来る、先発した、第1中隊は野営の準備が終
わり、司令官達が到着するのを待っていた。
「中隊長さん、司令官様は遅いですねぇ~。」
農夫が心配するのも当然で有る。
「何も、心配有りませんよ、もう、近くまで来ていると思いますからねぇ
~、今、あの丘には、数人の兵士が行っておりますので。」
その時、丘の上から合図があった。
「やはり、着かれましたねぇ~、今、多分、あの丘を上がっておられます
よ。」
「そうですか、ありがとう、御座います。」
この農夫の妻と子供が、別の馬車に乗っているので心配になっていたので
有る。
「ほら、見えたでしょう。」
丘の上からは、狼犬部隊を先頭にして、下って来るのが良く見えた。
「本当に良かった、良かった。」
「じゃ~、みんな、司令官達が着きますので。」
野営地は、周囲からは見えないので助かる、暫くすると、狼犬部隊の次に
司令官が、そして、本隊も到着した。
「中隊長、ご苦労さんでした。」
「はい、司令官、準備は終わっておりますので。」
「分かりました、馬は放牧して下さいね、他の人達は、焚き火の傍で、少
し待って下さいね。」
兵士達は、放牧すると、第1中隊は、そのまま警戒のため、バラバラにな
り持ち場に就き、第2中隊は、数ヶ所に別れた。
「さぁ~、皆さん、食事ですよ、最初は、女性と子供です。」
子供達は、城での食事を思い出し走りだす。
「さぁ~、みんな、お腹、一杯に食べるんだよ。」
「兵隊さんは。」
「うん、後でね。」
子供達は、並び、静かに待っている、子供が終われば女性だが、あの姫と
侍女達は、並ばずに、領民達の女性が終わるのを待っている。
その女性達が終わると、男性達になるのだが、誰もが疲れているのか、不
満を言う者もいない。
「ありがとう、兵隊さん。」
「いいんですよ、満腹になるまで食べて下さいよ。」
「はい。」
領民達は、何か、遠慮している様子だ。
「皆さん、たっぷりと有りますので、遠慮する事は有りませんよ。」
殆どの領民が頷き、子供達がお代わりと言って来る。
「兵隊さん、僕、こんな美味しい食べ物、初めてなんだ。」
「そうか、そんなに美味しいか、じゃ~、また、来るんだよ。」
「でも、そんなに食べると、お腹が驚いて破裂するよ。」
大人達は、大笑いし、領民達の食事が終わる頃。
「狼犬部隊から、順次、食事に入って下さい。」
やっと、兵士達の食事の時になり、順番に食事に入る。
「司令官殿、少しよろしいでしょうか。」
司令官が、声が聞こえた方を見ると、城主と警備隊長だ。
「はい、よろしいですが、何かあったのでしょうか。」
「いいえ、別に有りませんが、出発して、暫くだと思いますが、狼犬部隊
の報告で、司令官殿が、急がれたのですが、やはり、敵軍が迫っているので
しょうか。」
「あれですか、あれは、余裕を持っての処置ですので。」
「ですが、ホーガン隊長が来られ、城から川を渡る場所までの日数を聞か
れましたので、別に、私は、不安は持っておりません。
でも、少し、気になりましたので、お聞きしたいと思っただけの事ですか
ら。」
城主は、実際の事を知りたいのだろう、他の領民達は、何も、気付かな
い、だが、其処は、城主だ、ホーガンが聞きに来たので、これから先もこの
様な事も有るだろう。
其れよりも、果たして敵軍が近いのか、其れが、知りたいのだろうと。
「我々は、お城から、あの川を渡れる場所までの日数を知りたかったので
す。
其れに、敵軍が、川を渡り始めているのか、それとも、まだ、渡らず、野
営をしているのか、其れに依っては、我々の進み方も考える必要が有ります
ので。」
「其れで、如何なのでしょうか、私も、本当の事を知りたいと思っており
ます。」
城主の気持ちも分かるのだが。
「司令官殿、私も知りたいのです。
私も、この付近の地理は少しですが、知っておりますので、何かの、お役
に立てるのでは無いかと、考えております。」
「分かりました、では、お話しをしますが、この話しは、領民には聞かせ
ないで下さいね。」
その後、司令官は、説明を始めた、城主も警備隊長も、時々、頷き、真剣
に聴いているが説明が終わると。
「司令官殿、私から、領民と城の者達に少し話しをさせて欲しいのです。
でも、先程、お聞きして事は、決して申しませんので。」
「はい、よろしく、お願いします。」
城主と、警備隊長は、領民の近くまで行き。
「領民の皆さん、私は、先日まで、城主だと、大きな顔をしておりまし
た、マッキーシーと申します。」
「えっ、じゃ~、国王様で。」
領民達は、頭を下げるのだ。
「皆さん、頭を挙げて下さい、私は、今では国王では無く、皆さんと同じ
人間です。
でも、少しだけですが、お話しを聴いていただきたいのです。」
「司令官、城主は、一体、何を話されるのですか。」
「さぁ~、私も、分かりませんが、一体、どの様になるのでしょうかねぇ
~。」
司令官も、リッキー隊長も成り行きを見守るしか無い。
「皆さん、之は、私も含めてですが、今日の早朝、出発する時、兵隊さん
達は笑って、私達に対し、馬車や、兵隊さん達に馬に乗せて頂ました。」
領民も、城の者達も、ただ、静かに聴いている。
「ですが、出発して、間も無く、皆さんの知っている対岸で、敵軍と思わ
れる軍隊を発見され、兵隊さんは、馬に乗り、我々も馬車に乗り、この野営
地に無事到着しました。
でも、兵隊さん達は、私達を守るために、遠い所から来られて大変な疲れ
です。
兵隊さんは、私達を守るために馬に乗って来られました。
でも、私を含め、領民の皆さんを馬に乗せ、兵隊さんは歩かれているので
す。
私は、明日からは歩きます、兵隊さんのためは勿論ですが、兵隊さんが、
疲れて戦になると、死ぬのは、兵隊さんもですが、私達、全員です。
どうか、皆さん、よろしければ、歩ける人は、歩いて頂たいのです。」
「司令官、あの城主ですが、我々が、城に着いた時とは別人の様になって
おられますねぇ~。」
「その様ですねぇ~、まぁ~、リッキー隊長、私達が話しをする事では無
いのでね、暫く、様子を見る事にしましょうか。」
「はい、ですが、一体、どうなるんですかねぇ~。」
城主の話しは続き。
「其れで、私は、警備隊長にお願いをしましたが、警備隊長も協力してく
れます。
皆さん、疲れた時には、警備隊の馬に乗って欲しいのですが、よろしいで
しょうか。」
城主の話しで、一番、驚いたのはホーガンだった。
「司令官、如何致しましょうか、今の話しでは、警備隊の馬に乗ると言う
事になりますが。」
「ホーガン隊長、領民の人数と、城の人数を合わせても十分ですよ、私
は、城主の意見を尊重したいと思います。」
「はい、承知しました。」
ホーガンも、司令官も考えての決断と思ったので有る。
領民の中からも。
「なぁ~、みんな、兵隊さん達だけが無理していると思うんだ、食事だっ
て、最後で、其れに、あの様に警戒するために、兵隊さん達は、休みも取れ
ないと思うんだ、オレも、明日からは歩くよ、だって、今日、一日で、お尻
が痛くなったんだ。」
農夫は、お尻を触り撫でるのだ、更に。
「オレも、歩くよ、だって、オレは、農民だよ、之から先何日も馬に乗る
と、大きな農場に着いた時には、仕事が出来ないと困るんだ。」
其れからも、農夫達が立ち上がり、自分の意見を言っては座り。
「では、皆さん、申し訳ないのですが、歩ける人は、歩いて下さい。」
「父ちゃん、僕も、もう、お尻が痛いよ、だからね、僕も歩くよ。」
「お父さん、僕も歩くよ、だって、兵隊さんが可哀そうだよ。」
「うん、そうだね、お父さんと、一緒に歩こうか。」
子供達も次々と歩くと言い出した。
「リッキー隊長、之で、一安心ですよ、閣下が望んでおられたと思います
から。」
「はい、之で、私達も動きが取れる様になりましたので、明日、二個小隊
を偵察に出したいと思うのですが。」
「リッキー隊長、偵察は、狼犬部隊に任せ、守りを固めて下さい。
方法は、お任せしますので、ホーガン隊長も、其れでよろしいでしょう
か。」
「はい、私に、異論は、御座いませんので。」
「では、よろしく、お願いしますね。」
話しを終わった城主と、警備隊長が来た。
「司令官殿、私の、勝手な判断で、お許しをお願いします。」
「いいえ、その様な事は、御座いませんよ、警備隊長も、之からは、大変
ですが、よろしくお願いしますね。」
「司令官殿、私達は、戦の方法は分かりませんが、私達の出来る限りの事
は致しますので、何か、間違いが有れば、命令を頂たいのです。」
「警備隊長、我々の農場では、殆ど、命令を出す事は有りませんので、分
からない事があればお聞き下さいね。」
「はい、ありがとう、御座います。」
「では、司令官殿、失礼します。」
城主と、警備隊長が戻って行き、その夜は、静かに更け、遠くからは、狼
の遠吠えが夜中聞こえている。
そして、明くる日朝、昨日とは違い、どの人達も穏やかな表情で、出発の
合図を待っている。
「皆さん、よろしいですか。」
領民達も、昨日よりも、何故か、元気な様子で有る。
「ホーガン隊長、出発して下さい。」
「はい、了解で~す、さぁ~、行くぞ~、しゅっぱ~つ。」
ホーガンの合図で、全員が出発し、其れから、間も無く、狼犬部隊が、四
方八方に分かれ偵察に向かって行く。
出発して間も無く、子供達の大きなはしゃぐ声がする、父親は、朝、早く
から農作業に向かうため、父と、子の触れ合いが無かったのだろう、中に
は、父親と、遊んでいる様な子供も、やはり、何時の時代になっても、父親
は、一家の中心的存在なのだ。
「司令官、自分達は、お昼の休憩場所を探しに行きたいのですが。」
「そうですねぇ~、着けば、準備も必要ですから、では、貴方に任せます
よ。」
「はい、了解しました。」
第2中隊長は、後ろに行き、数台の馬車と、共に、昼の休憩場所を探し行
く。
その頃、狼犬部隊の偵察隊は、今夜の野営地に着き、周辺の状況を調べて
いる。
「お~い、どうだ。」
「此処が適当だと思うよ、直ぐ、傍には川も流れているし、林に入れば、
大丈夫だと思うんだ。」
「じゃ~、此処に決定だ、後は、周辺を調べようか。」
「うん、この付近には、狼もいないし。」
「よ~し、じゃ~、他へ行こう。」
この偵察隊は、後に、他の偵察達合流するのだが、見知らぬ数人の男達を
遭遇する。
「司令官、あの領民達は、緊張感が全く有りませんが、大丈夫でしょう
か。」
「その様ですねぇ~、私は、この先、何も起こらなければ、あの人達に無
理を言う必要も無いと思っております。」
「そうですねぇ~、私も、本当は、何も起こらなければ良いと願っている
のです。」
「でも、今は、あの状態で進みましょう、但し、我々は。」
「勿論です、緊張するのは増しますが、此れも仕方有りませんよ。」
其れでも、初日に比べると進むのが早く、休憩地には早く、昼前には到着
した。
第2中隊は、まだ、昼食の準備が終わって無かった。
「司令官、申し訳有りません、正か、こんなに早く到着するとは思っても
おりませんでしたので。」
「まぁ~、其れも、仕方が有りませんよ、子供達の歩く速度が早く、親
達、特に父親は大変だったと思いますよ。」
「でも、何故だか分かりませんが、子供達も、父親達も表情が明るいですねぇ~。」
「中隊長も、やはり、その様に思われますか。」
「はい、私も、気持ちがいいですよ、でも、何時まで、こんな状態が続く
のでしょうかねぇ~。」
「まぁ~、明日には、無理でしょうねぇ~、子供よりも、親達がそろそ
ろ、身体に堪えて来ると思いますよ。」
「中隊長、準備が整いました。」
「はい、では、司令官、私は。」
「そうでしたねぇ~、頼みましたよ。」
「さぁ~、皆さん、出来ましたよ、大変、お待たせしましたねぇ~、順番
は昨日と同じですのでね、子供達と女性から、どうぞ、来て下さい。」
子供達は、中隊長の合図の前には、既に並んでいた、その並び方も、小さ
い子供から順番に並んでいる。
父親も、母親も、子供達の姿を見て、ニコヤカな顔で見ている。
その頃、狼犬部隊の偵察隊も四方を調べたが、何の異常も無く、野営地に
戻る途中、林を出た所で、突然、数十本の矢が飛んできた。
一人の隊員に、その内の1本が命中し、呻き声上げ落馬した。
「一体、何処からだ、全員戦闘配置に。」
林の中か見ると、数十人の兵隊崩れと思われる野盗の集団だ。
「分かったぞ、前方の林からだ。」
その距離は50ヒロと離れてはいない。
「よ~し、誰か、馬を林の中に隠してくれ。」
「あいよ、オレが。」
と、数人で、全員の馬を林の中に隠し。
「どうだ、傷の具合は。」
「大丈夫だ、太股だが急所を外れているから。」
「よし、分かった。」
討たれた隊員は、呻き声を上げてはいるが、傷は大した事は無いと。
「どうだ、相手は、何人位か、分かるか。」
「いや、其れが、はっきりとは。」
「だが、あれは、兵隊崩れだなぁ~。」
「だけど、若しもだよ、敵軍の偵察隊だとは考えられないか。」
「うん、今は、分からんが、おや、動き出したぞ、お~、ざっと、50人
位だなぁ~。」
「じゃ~、偵察隊では無いなぁ~、多分だが、兵隊崩れだ、う、奴ら、こ
っちに向かって来るぞ、みんな、自分の測定で討ってくれ、全員を殺せ、一
人も逃がすなよ。」
狼犬部隊の偵察隊二組が、50人の兵隊崩れの野盗と戦闘が開始された。
野盗は、全員が馬に乗り、突進して来たが、偵察隊は、ぎりぎりまで引き
寄せ、一斉にホーガンを放つと、最初の一撃で、半数に命中し、其れでも、
野盗は突進して来る。
狼犬部隊も、元は兵士で、ホーガンで鍛え上がられた兵士達で、隊員は慌
てる事も無く、第2弾、第3弾と、次々とホーガン矢を発射するので有る。
この戦闘は、簡単に終わった、だが、全員が死んだのでは無かった。
「おい、お前達は、一体、何処の軍隊なんだ。」
「いや、我々は、どの軍隊とも関係は無い。」
「では、お前は、一体、何者なんだ。」
「オレ達は、大きな軍隊に遣られた、元々は、有る国の兵隊だ、それが、
どうかしたのか。」
やはり、彼らも、元は兵隊だ、だが、一体、何処の軍勢なのか知る必要が
有る。
「大軍だと言うのか。」
「そうだ。」
「じゃ~、今、その大軍は、何処にいるんだ。」
「奴らは、軍隊じゃ無い、野盗よりも残酷な奴らだ。」
其れは、ウエスの兄と言うのが引き得る軍勢なのか、其れにしても、何
故、野盗の様な真似をするんだと思うが、今は、其れよりも、大事な事を聴
き出す必要が有る。
「その軍勢は、一体、何処にいるんだ、早く答えろ。」
「う~ん。」
苦しそうな表情をしている、早く聴き出さなければ、この元兵士は死ぬ。
「おい、奴らは、何処にいるんだ。」
「10日位前には、川の向こうにいたが、今は知らない。」
「其れは、本当なのか。」
「本当だ、もう、駄目だ、オレは。」
元兵士は、息を引き取った。
「何か、分かったのか。」
「うん、10日位前は、対岸にいたそうだが、其れを言って死んだよ。」
「そうか、じゃ~、直ぐ司令官に報告だ。」
「で、あいつの傷は。」
「うん、さっき、矢を抜いて、今は、紐で締めているから出血は止まった
よ。」
「じゃ~、行くか、おい、どうだ、馬に乗れるか。」
「うん、大丈夫だ。」
「よし、じゃ~、今から戻るが、辛抱出来るか。」
「うん、大丈夫だ。」
「じゃ~、行くぞ。」
大怪我をした隊員を馬に乗せ、司令官の待つ、野営地へと馬を飛ばして行
く。
一方、他の偵察隊は、何事も無く、全員が無事で野営地へと戻ってきた。
「お~、みんな、ご苦労さんでした、何事も無かった様ですねぇ~。」
「司令官、この付近には、今のところ、何も異常は有りませんでした。」
「そうですか、みんな休んで下さいね、食事も出来ますので。」
その時だ。
「あれは、何か、あった様ですよ、飛ばして来ますから。」
「お~い、一体、どうしたんだ。」
「やられたよ。」
「えっ、どうしたんだ。」
「その前に、まだ、出血していると思うんだ。」
「よし、で、傷はどうだ。」
「うん、矢は、抜いたが、まだ、出血しているんだ。」
「よ~し、ゆっくりと降ろせ、そうだ、此処に寝かせろ。」
その時、侍女数人が来て。
「私達に任せて下さい。」
「えっ、でも。」
「私は、経験が有りますので、新しい布と、巻き布もね。」
「はい。」
彼女は、二キータで、もう一人は、二キータの同僚の女性だ、。
「はい、持って着ました。」
「じゃ~、当て布を傷口にしっかりと当ててね。」
「はい、大丈夫です、」
二キータは、手慣れた様子で、傷口に巻いて行く。
「もう、大丈夫だと思いますが。」
「そうですか、ありがとう。」
二キータは、二ッコリとして。
「私達に出来る事が有れば、何でも言って下さい。」
傍では、もう、一人が、水で濡らした布を額に当て。
「もう、大丈夫ですからね。」
彼女もニコリとした。
「あの~、この兵隊さん、私達が看護しますので、馬車に。」
「いや~、オレは、もう大丈夫だから。」
「いいえ、駄目ですよ、こんな大怪我をされているのですからね。」
「では、お願い出来ますか。」
「あの~、この兵隊さんを馬車までお願いします。」
「おい、いいなぁ~、こんな美人によ~。」
「オレは、別に。」
「じゃ~、行くぞ。」
彼は、4人掛かりで連れて行かれ、さっき、帰ったばかりの偵察隊は、司
令官とリッキー隊長に報告するので有る。
「ご苦労でした、で、彼は。」
「はい、大丈夫です、今、侍女の方が暫く看護すると言われて、馬車に運
んで行きました。」
「そうですか、其れで、一体、何が有ったのですか。」
「はい、この先の林を出たところで突然の攻撃に会い、彼が負傷したんで
す、それで。」
彼は、その後の経過を報告するので有る。
「では、大丈夫なのですか。」
「はい、私も、正か、死を覚悟した人間が嘘を付くとは思いませんが、其
れでも、明日からは、範囲を広げて偵察に入ります。」
「ですが、余り、無理をしないで下さいね、今回は、怪我で済みました
が、これから先はまだ長いですからね。」
「はい、十分に注意をしますので。」
彼は、仲間の元へと行ったが、大怪我をした隊員が、領民の間を通って行
くのを見た領民達には大きな動揺が広がって行く。
「見たか、あの人は、確か、狼犬部隊の人だよ、やはり、あの軍隊が近く
に来ていると言う事だろうか。」
「うん、オレも、今、同じ事を考えていたんだ、本当に大丈夫なんだろう
か。」
この様な会話が領民達の中でなされている、その時。
「みんな、聴いて下さいね、今、狼犬部隊の兵隊さんが、大怪我をされ運
ばれて来ましたが、私は、何も心配する必要は無いと思いますよ。」
「王様、なんで、分かるんですか。」
「之は、私の考えですが、狼犬部隊は精鋭の兵隊さんですから、敵は全滅
しています。
何故かと言いますと、怪我は一人ですよ、其れに、今は、どなたも行かれ
ないと言う事は、敵は全滅したと言う事です。」
「じゃ~、もう、心配は無いんですか。」
「はい、勿論ですよ、だって、兵隊さん達は、何時もと同じですから
ね。」
やはり、彼は、城主だけの事は有る、戻って来た狼犬部隊は食事をしてい
る。
其れに、他の兵隊達は、誰一人として動く気配も無い。
「お~い、近くに馬がいるんだが、一体、誰の馬なんだ、其れも、50頭
はいるぞ。」
「あっ、忘れてました、この馬は奴らの馬で、何故か分かりませんが、一
緒について来たんですよ。」
「なぁ~んだ、じゃ~、この馬は、狼犬部隊でいただくか。」
「ホーガン隊長、其れは駄目ですよ。」
「えっ、何故、駄目なんですか。」
「この馬は、農場に着くまでは貴重な馬ですからね。」
「はい、分かりました、誰か、50頭も一緒のところに。」
正か、50頭の馬が、一緒に来るとは思いもしなかったので有る。
「司令官、明日からなんですが。」
「ええ、私もね、今、其れを考えているのですが。」
「リッキー隊長、今、思い付いたんですが、50頭の馬ですが、小さな子
供ならば、二人は乗れると思いますが。」
「う~ん、私もね、今、其れを考えているのですが。」
「司令官、私も、ホーガン隊長の意見と同じなんです。
50頭もの馬に、子供を乗せれば移動も早くなると思いますが。」
「はい、分かりました、では、明日から、その様にしましょうか。」
実に、早い決定だ、50頭の馬に誰も乗せずに進む言うのは、考えられな
い。
其れにしても都合が良かった。
「司令官、話しは変わりますが、やはり、城主ですねぇ~、領民も納得し
ています。」
「ええ、私も、あの城主を上手に持って行けば、今回の脱出も成功出来る
と思っているのですが、之が、閣下で有れば、どの様に話しをされるか考え
ているのです。」
「でも、司令官、私は、司令官が出向く必要は無いと思います。
あの城主は、我々の考えた以上に、頭の良い人物だと思いますから。」
「そうですねぇ~、やはり、城主と、領民の間柄ですから、分かりました
よ、任せる事にしましょう。」
「司令官、明日になってからでも良いのでは。」
「分かりました、では、今の件は、明日以降に、では、そろそろ出発の準
備を御願いしますね、狼犬部隊の隊員が大怪我をしたので、時間が少し過ぎ
ましたが。」
「はい、了解しました。」
「皆さん、少し聴いて下さいね、先程、50頭の馬が、突然、我々の休憩
している所にやって着ました。
小さな、お子さんで有れば、二人は大丈夫だと思いますが、如何でしょう
か、其れと、小さな子供さんが馬に乗れるかと言う事なのですが。」
「司令官のおじさん、僕達は、大丈夫だよ、みんな乗れるんだから。」
その子供は、5才より少し上の子供だろうか。
「司令官、僕はね、小さくは無いんだよ、だから、僕は、昼からも歩く
よ、だって、男だからね、其れに何だって出来るんだから。」
「ふ~ん、其れは、本当に素晴らしいですねぇ~、では、この様にしまし
ょうか、馬に乗る、乗らないは、子供さんに任せますので。」
司令官は、思った、大人が考えている以上に、子供達は考えているのだ
と。
「では、皆さん、大丈夫ですか、よろしければ、今夜の野営地に向かって
出発します。」
狼犬部隊の隊員が大怪我をしたので、少し出発の時間が過ぎたが、50頭
の馬が確保出来、小さな子供達が乗り、歩く速度も速まり、今夜の野営地に
向け進んで行く。
「あの~、オレの怪我ですが。」
「もう、大丈夫ですよ、出血も有りませんので、でも、此の侭、暫く馬車
に乗っていて下さいね。」
「まぁ~、何と言う優しい女性だろう、其れにしても美人だ、だけど、こ
れも、怪我の功名なのかなぁ~。」
彼は、何だか、怪我をした事が良かったと思うので有る。
その後、10日間程は、何事も無く、全てが順調に進み、大怪我をした隊
員も順調に回復し、馬に乗れる様になった。
「司令官、あれからは、何事も無く順調に進んでおりますねぇ~。」
「その様ですねぇ~、私は、多分、一日か、二日分くらいは農場に近付い
ている様な気がするのですが。」
「あの50頭の馬のお陰と言いますか、大人も、子供も順番を決めて乗っ
て行きますので、疲れ方も違う様です。」
「確かに、助かりますよ、でも、私は、この状態で進んで欲しいと思って
いるのですが、まだまだ、先は長いのでね、何が起きるか分かりませんので
ねぇ~。」
「はい、我々も、気を引き締めて参ります。」
「はい、よろしく、御願いします。」
「司令官、リッキー隊長、間も無く昼の休憩地に着くと思いますので。」
「分かりました、隊長。」
「はい、第1中隊は先導を、第2中隊は、警戒に入って下さい。」
その後、暫くして休憩地に着くと、早くも食事に準備が終わっている。
此処までの10日間で、領民達は、当たり前の様に行動する様になり、司
令官は、何も言う事が無く、兵士達も、のんびりとして食事を配っている様
に見える。
其れでも、子供達だけは元気だ、食事が終わると、草地を走り回ってい
る。
兵士の食事も終り、片付けも終り。
「皆さん、少しゆっくりとしましょうか。」
司令官は、領民にもだが、兵士達を休ませる事を考えた。
城を出発して、早、十数日経っている、その間と言うもの兵士達も緊張の
連続で疲れ、兵士の中には、疲れから草の上で、馬車の傍でうとうとと始め
ている者さえいる。
司令官は、何も言わず考え事をしている。
その様な中、有る危険が、刻一刻と迫っている。
だが、休憩中の司令官は、全く気付いていない。
その様なのんびりといている時間も終りに近い頃、狼犬部隊が、馬を飛ば
してきた。
「司令官は。」
「う~ん、一体、何事ですか。」
「はい、あれは、百人か、百50人位だと思われますが、野盗の集団で
す。」
「えっ、野盗が、百か、百50人ですか、分かりましたが、発見されたの
ですか。」
「我々は、発見されてはおりませんが、食事を作る時の煙が発見されたの
では。」
「其れで、場所と距離は。」
「はい、場所は、前方の丘ですから。」
「後ろの狼犬部隊は。」
「はい、今、隊長と数人で正確な数字と武器を。」
「はい、分かりました、お~い、警備隊長、直ぐに来て下さい。
其れと、馬車だけを前面に。」
「はい、直ぐに、お~い、馬車を楯にするから、前面に引き出せ、馬は後
方だ。」
「司令官。」
「警備隊長は、領民を林の中に入れ、警戒を。」
「はい、直ぐに。」
兵士達は、馬車を並べ、早くも戦闘態勢に入っている。
「さぁ~、皆さんは、林の中に入って下さい。」
「警備隊長、一体、何事ですか。」
「はい、詳しい事は分かりませんが、司令官から、領民は、林の中に、
我々、警備隊は、警戒だけと言われました。」
城主は、兵隊達の動きを見て、大軍の攻撃が有ると思った。
「司令官、ホーガン隊長が戻ってきます。」
ホーガンと数人が、馬を飛ばして戻ってくる。
「司令官。」
「ホーガン隊長、どうですか。」
「はい、やはり、野盗ですねぇ~、人数は、百50人程度で、武装は弓が
30人で、後は、やりと、剣、その他です。」
「分かりました、大隊に告ぐ、まず、弓を引く野盗を討て、その他は自由
に、但し、一人も残すな、誰も、残しすでは無い、全員を殺せ、以上。
リッキー隊長、後は、任せますので。」
「はい、了解、第1、第2中隊は、弓を引く野盗を、他は、一斉攻撃す
る、よ~く、狙え、各自、1本で仕留めよ。」
丘の上から、横、一線に広がり、百50人もの野盗が、馬を飛ばして来
る。
「まだ、まだ、よ~し、一斉攻撃を開始。」
リッキー隊長の合図と同時に兵士達は、ホーガン矢を発射すると、ホーガ
ン矢は直線で飛び、野盗の引く弓矢の、その前に、発射されたので、野盗達
は、次々と落馬し。
第1波の攻撃は、野盗の半数近くが草原の上で死に、それでも、野盗は、
体制と建て直し、再び、突進して来る。
「よし、今だ。」
リッキー隊長の合図で、またも、ホーガン矢が一斉に、野盗に向け飛び、
またも、次々と落馬して行く。
「うっ。」
兵士達も、数人が、矢を受け倒れた。
「おい、しっかりするんだ、こんな怪我は、大丈夫だ、誰か、後ろに連れ
て行け。」
「はい。」
数人の兵士が、一人、また、一人と後方へ連れて行く。
「よ~し、第3波が来るぞ~、全員を殺せ、殺すんだ、一人も逃がす
な。」
ホーガンの威力は、物凄い、野盗が放つ弓よりも、早く、遠くまで飛び、
正確に命中して行く。
リッキー隊長は、部下が戦死した思い、怒りが頂点に達している。
「あれは、どうも、この野盗達の頭だなぁ~、奴は、其処まで届かないと
思ってるぞ、誰か、あの野郎を殺せ。」
「はい。」
その声は、中隊長だ。
「隊長、任せて下さい。」
中隊長は、狙いを定め、ホーガン矢を放った、ホーガン矢は、真っ直ぐに
飛び、頭目と思われる馬上の男に向かって飛んで行き、間も無くして、男
は、馬上から消え落ち、起き上がる様子も無い。
「隊長、オレが言って見てきます。」
狼犬部隊の隊員が、馬で近付くと、男の左胸に矢が命中し、夥しい血を流
し、口を開け、眼も開いた状態で死んでいる。
隊員は、合図を送り。
「中隊長の腕前は、素晴らしいなぁ~。」
「いや~、私の腕よりも、このホーガンですよ、正か、あの男も、此処ま
で飛んで来るとは思って無かったと思いますよ。」
「よ~し、奴らを全員殺したか。」
「隊長、我々で、確認しますので。」
狼犬部隊が確認に向かうと、まだ、数人が生きている。
「なぁ~、お前も、早く地獄に行ってこいよ。」
狼犬部隊は、数人の息の根を止め戻って来た。
「隊長、全員、死んでおります。」
「ありがとう、で、我々は。」
リッキー隊長は、自軍からも犠牲者が出た者と思ったのだが。
「はい、最初の数人が怪我で、後は、全員無事です。」
「あ~、そうか、良かった、で、怪我の様子は。」
「あんなの、別に大した傷じゃ無いですよ、だって、腕に1本刺さったの
と、太股にも1本ですからねぇ~。」
「では、今は。」
「はい、矢も抜き、でも、何か知りませんがね、嬉しそうな顔をしていま
すよ。」
「えっ、矢が刺さって、嬉しそうな顔だと。」
「はい、あの美しい女性達に看病していただいておりますので。」
「う~ん、だけど、なんて言って良いのか分からんよ、まぁ~、いい
か。」
「そうですよ、あれだけで済んだんですから、許してやって下さいよ。」
「よし、私は知らなかった、何も知りませんからね、其れよりも、領民
は。」
「はい、今、確認に、第1小隊が。」
「そうか。」
「皆さ~ん、大丈夫ですか。」
「はい、全員、怪我も無く無事です。」
警備隊長は、小隊長に報告するが、顔は、まだ、普段の表情には程遠く、
身体も固まった状態で、其れは、警備隊長が、見る初めて戦闘で有る。
「警備隊長、皆さんを。」
「はい、分かりました。」
「あの~、一体、なにが。」
「あ~、今のですか、あれはねぇ~、野盗がね、百人程が襲ってきました
ので、簡単に全員を殺しましたよ。」
「えっ、野盗が襲って来たって、本当に。」
「ええ、でも、もう終わりましたからね、少し休んでから出発しますの
で、皆さんは、準備をお願いしますね。」
小隊長が、余りにも簡単に言ったのが、余計な恐怖を招くので有る。
「野盗を全員、殺したんだって。」
「えっ、本当に、でも、何時の間に。」
彼ら、領民には、戦闘場面は見えなかった、一人、又、一人と、林の中か
ら出て来る。
「司令官、馬が残っていますよ。」
「其れは、本当ですか。」
「ええ、百頭以上はいますよ。」
「では、馬を収容して下さい。」
「はい、了解しました。」
手の空いた兵士が草を食べている馬を収容する。
「え~と、10、20と、司令官、百60頭です。」
「百60頭もですか、リッキー隊長、この馬で、領民全員が乗れるので
は。」
「はい、一度、確認をして見ます。」
「其れとですが、之だけの血が流れましたので、狼が集まる事も考え、準
備を早め、直ぐに出発しますので。」
「はい、了解しました。」
リッキー隊長は、各中隊長に伝え、一斉に出発準備に入り、終わると出発
し、暫く進むと。
「隊長、今夜の野営地ですが。」
「はい、私も、今、考えておりまして、今、日数的には半分ですが、これ
から先、何が起きるか分かりませんので、先に進んだ方が良いと。」
「ええ、私も、同じ事を考えておりました。
先程は、簡単に終わりましたが、今は、誰も歩いておりませんので、少し
だけですが、速度を速めては。」
「はい、私も同感です、では、先頭は、第1中隊ですので、直ぐに伝えま
す。」
リッキー隊長が、自ら馬を走らせて行く。
「司令官殿、今、よろしいでしょうか。」
やはり、城主が聞きに来た。
「はい、今は。」
「先程は、ご苦労様でした。
ですが、私も含めて、警備隊長も知らない内に終わったのですねぇ~。」
「そうですねぇ~、まぁ~、野盗と言っても元は兵士ですから、戦には慣
れていると思いますが。」
「それにしても、皆さんの持っておられる武器ですが。」
「あれですか、あれは、ホーガンと言いまして、狼犬部隊のホーガン隊長
の提案で、我が農場の鍛冶屋さんと、大工さん達の共同で作られた兵器です
が、其れが、何か。」
城主は、ホーガンと言う武器が珍しいのか。
「でも、恐ろしい武器ですが。」
「でも、其れは、使う人間の問題だと思いますよ、将軍は、武器の使用は
出来る限りしないと、申されておりますので、でも、先程の野盗や、我々の
農場に攻撃を行なう様な敵に対しては、何も申されませんよ。」
「でも、司令官殿、あのホーガンと言う武器を、私は、初めて見たのです
が、他の国でも作られているのでしょうか。」
「私は、他国は知りませんが、威力だけは確信を持っておりますので。」
「では、先程の野盗ですが、全員を殺したのですか。」
「ええ、勿論ですよ、若しも、何かの手違いで、あの敵軍に知られる事に
なれば、大変な事態になりますので。」
「司令官殿は、やはり、攻撃して来るだろうと思われておられるのです
か。」
「はい、勿論です、幾ら、ホーガンが有ると言っても、敵は、3万人の大
軍で、その大軍の攻撃をまともに受けると、今の兵力だけでは、防ぐ事は出
来ません。
そのためには、時として、手段を選ばないのです。」
「分かりました、大変、お忙しい時に、余計なお時間を取り、申し訳有り
ませんでした、では、私は、之で。」
「少し、お待ち下さい。」
「はい、何か。」
「私は、今回、陛下と、お城のお仲間、そして、領民をお助けする様に
と、閣下から、命を受けましたが、陛下は、農場に着かれた後ですが、何
か、お考えでも有るのでしょうか。」
「司令官殿、私は、先日も領民に伝えましたが、今後は、一般人として、
行動したいと考えております。
将軍殿が、どの様に、お考えをなされているのかは、存じませんが、私
も、今までの生活を改め、農作業をし、汗を流したいと考えておりますの
で。」
「確かに、お考えは良いと思いますが、陛下には、私がおりました、城で
生活をして頂たいと思いますが、如何ですか。」
「はい、大変な、ご好意には感謝致しますが、私が、そのお城にふさわし
い人間となった時には、お願いしたいと思いますので。」
「ですが、姫様や、お付の人達は、今までの生活から果たして抜け出す事
が出来るでしょうか、正直なところ、私は、疑問に思いますが。」
「はい、確かに、司令官殿の申されるとおりだと、私も、思っておりま
す。
ですが、私自身が、何時までも、以前の様な生活を望んでいたのでは、他
の者達にも言い訳が出来ませんので。」
「はい、よく、分かりました、今、私が、お聞きした事は無かった事にし
て下さい。」
「はい、承知、致しました。」
城主は拒否したが、閣下の事だ、どんな方法を取ってでも、この城主を城
に入らせるだろうと、司令官は思った。
その後、暫くは、何事も起こらず進み、城まで一日ほどとなった。
「司令官、もう直ぐ城に到着すると思いますが。」
「いや、隊長、もう夕刻ですよ、城に着く頃には夜になり、危険です。
最後の野営地に入り、明日早朝、出発すれば、程良い頃、城に到着します
ので、先に伝令を出して下さい。」
「はい、承知しました。」
リッキー隊長は、第1小隊を伝令に出し、明日早朝出発するので、昼食の
準備を頼む。
第1小隊は、喜びの声を上げ、城へと、飛ばして行く。
「第1中隊は、警戒に、第2中隊は、食事の準備に、第3中隊は、野営の
準備入れ。」
兵士達も、此処が、最後の野営地と知っているので、元気を取り戻し、各
中隊長も元気良く動いている。
領民達も、城主や城中の者達も、城を出発して、長い旅が終わりを向か
え、全員が笑顔で、兵士達を手伝っている。
「父ちゃん、明日、農場に着くって本当なの。」
「うん、そうだよ、さっき、兵隊さんから聞いたんだ。」
「本当に良かったねぇ~。」
「うん、そうだねぇ~。」
この様な会話が領民達の間でされている。
「二キータ、いよいよ、明日、着くのね。」
「はい、私も、之で一安心です。」
「でも、私は、何か不安なのよ。」
「姫様、何故ですか、私は、あの兵隊さん達の話を信じますよ、司令官
も、隊長さんも、兵隊さんに対しては命令も出されておりません。
其れは、まだ、見ぬ、将軍がなされているので、部下の人達も自然となさ
れているのですよ、それに、私は、農場に入って、何を作ろうかと考えてお
ります。」
「えっ、二キータは、農作業をするの、でも、私は、一体、何をすればい
いのか分からないのよ。」
「姫、余り、今から心配される必要は有りませんよ、司令官のお話では、
将軍は、物分りの良い人物だと思いますので。」
「でも、私は、何も出来ないのよ。」
「私は、出来ない方が良いと思いますよ、誰も、初めから出来る人はおり
ませんから。」
「そ~、でも、ニキータ、私を助けてね。」
「はい、勿論ですよ、姫様、其れよりも、楽しみの方が多いと思って下さ
い。
私も、今から、何が出来るのかを楽しみにしておりますので。」
「中隊長、少し分かりにくいのですが、あれは、確か、我が軍の小隊で
す、開門願いま~す。」
大きな城門が開くと、夕暮れまじかに第1小隊が飛び込んできた。
「一体、どうしたんだ、そんなに急いで。」
「はい、報告します、司令官と、第5番大隊、狼犬部隊、その他、城の者
達と領民が、明日の昼頃に到着しま~す。」
「えっ、其れは、本当なのか、だが、随分と早いのでは。」
「はい、道中、色々と有りまして、馬が調達出来、全員が、馬に乗ってき
ます。」
「分かった、ご苦労でした、今からでは遅いので、明日、早朝に農場の将
軍の所へ行く様に。」
「ですが、自分は、一刻も早く、皆さんに知らせたいのです。」
「君の気持ちは分かる、だけど、今からでは夜中になるぞ、そんな時刻に
農場に行けば、将軍や、他の人達が喜ぶ前に、何か起きたのかと、余計な心
配を掛ける事になるんだぞ。」
「はい、分かりました。」
「で、司令官も無事なのか。」
「はい、全員無事ですが、数人が怪我をしております。」
「何だと、一体、どう言う事なんだ。」
「中隊長、その前に、馬を。」
「お~、そうだった、済まないねぇ~、誰か、小隊全員の馬を休ませく
れ、まぁ~、此処では何だから、そうだ、食事はまだだろう。」
「はい、もう。」
「今日は、特別だ、君達は、本当に運がいいなぁ~。」
「何がですか。」
「うん、今日はなぁ~、大きな猪を、5頭も仕留めたんだ、あっ、そう
だ、明日の昼と言ったなぁ~。」
「はい、お昼頃だと、それで、お願いが有りまして、昼食を。」
「良かったよ、まだ、誰も食べてなかったからねぇ~、誰か、今夜の猪は
無しだと言ってくれよ、明日の昼頃に、司令官達全員が戻って来られると、
伝えてくれ。」
「は~い、全員に伝えます、みんな、喜びますよ。」
「うん、そうだなぁ~、頼むよ。」
「お~い、みんな。」
兵士は、大声を出して走って行く。
「済まんなぁ~、猪の肉は、明日の昼食に出すよ。」
第1小隊は、猪を食べられると思ったが、それも、明日の昼には食べる事
が出来ると、だが、其れよりも大事な報告をと思い。
「いいえ、自分は、其れよりも、やはり、敵軍が迫っています。」
「其れは、本当なのか。」
「はい、間違いは有りません。
狼犬部隊が確認したと聞いておりますので。」
「では、その事も、明日、将軍に報告するのか。」
「いいえ、自分は、司令官が到着されると言う事だけの報告で、将軍に
は、司令官が報告されると思います。」
「よし、分かったよ、だけど、よくもまぁ~、全員が無事で戻って来れた
なぁ~。」
「いや~、それでも、2回ほど野盗と。」
「2回も野盗って。」
「ええ、でも、簡単に終わりましたので。」
「では、怪我をしたと言うのは。」
「はい、1回目が一人と、2回目は二人が、まぁ~、軽~い、怪我です
よ、其れよりもですねぇ~、お姫様と、お付の女性が美人ですよ。」
「そんなに美人なのか。」
「はい、でも、イレノア様や、フランチェスカさんに比べたら。」
「おい、おい、余り喜ばせるなよ。」
「中隊長、でも、司令官は、段々と、将軍に似て来られましたよ。」
「そんなにか。」
「ええ、自分も、以前の司令官を知ってますが、将軍と同じで、まぁ~、
命令はされませんねぇ~。」
「当たり前だよ、毎日、将軍の傍におられるんだから、まぁ~、仕方が無
いよ、だけど、その国って、どうなんだ。」
「はい、本当に、小国ですよ、だって、警備隊は、一度も、戦を経験した
事が無いんですからねぇ~。」
「えっ、本当に、でも、1回くらいは有ると思うがなぁ~。」
「それが、その国ってのが、大きな森に囲まれて、まぁ~、自分がもう一
度行っても見つける事は出来ないと思いますよ。」
「だったら、何故、助けに行くんだろう、大きな森に囲まれ、外からも分
からないって事は、敵も入って来れないって事なんだから。」
「自分には分かりませんが、警備兵が5百人ですから。」
「じゃ~、野盗との戦は驚いただろうなぁ~。」
「其れは、も~、一体、何が起きたのかも分からない状態でしたから、ま
ぁ~、それに比べれば、狼犬部隊なんかは、戦には慣れたものですから。」
「其れは、当たり前だよ、だって、ホーガン隊長なんか、身体中傷だらけ
なんだよ。」
「そうですねぇ~、でも、ホーガンの威力、自分は改めて驚きました
よ。」
「其れは別として、野盗に命中したホーガン矢は全部回収したのか。」
「はい、勿論ですよ、正かとは思いますが、敵軍に知れると、大変な事に
なりますので、でも、敵軍が、死んだ野盗を見つけた時には、誰に殺された
のもわからないですよ。」
「うん、其れは、分かっているよ。」
「中隊長、さっき、城門に入る時に見えたんですが、城壁が完成したんで
すねぇ~。」
「うん、そうなんだ、司令官が出発されてから、農場の人達もだけど、1
番大隊から、4番大隊の全員で作り上げ、今は、1番農場から城壁に岩石を
積み上げる作業に入っているんだ。」
「じゃ~、農場の狼は。」
「全部、片付けたよ、今は、大鹿や猪だけかなぁ~。」
「じゃ~、農場の開墾も始まるんですねぇ~。」
「うん、だけど、その前に、敵が攻撃に来ると思うんだ、だから、今は、
内側の整備を行なっているんだ。」
「じゃ~、内側は。」
「勿論、通れるよ。」
司令官が、農場を出発してからは、城壁造りに入り、その工事が早く終わ
り、城から川までの柵も完成したので、全ての農場予定地には狼の大群はい
なくなった。
其れとは別に、今は、敵を迎え撃つ準備も進んでいる。
「じゃ~、明日の早朝に出発し、将軍にお知らせしますので、でも、自分
達は、何処で眠ればよいのでしょうか。」
「何処でもいいよ。」
「でも。」
「じゃ~、君達がいたところに行けばいいよ。」
「はい、ありがとう、御座います。」
小隊は、以前、使っていたところに行き、その夜は、久し振りに熟睡した
ので有る。
そして、明くる日の早朝に、小隊は、馬を換え、農場へと向かった。
「司令官、お早う、御座います。」
「もう、その様な時間ですか。」
「ええ、まだ、少し早いですが。」
「何か、あったのですか、騒がしいですが。」
「領民が起きて、今、片付けを始めているんです。」
「えっ、本当ですか。」
「はい、もう、みんな、待ち切れない様子ですよ。」
「分かりました、では、私も。」
やはり、少しでも早く着きたいのだろう、領民、特に子供達は、まだ、辺
りがまだ薄暗いと言うのに、早くも騒いでいる。
「リッキー隊長、まだ、薄暗いではないですか。」
「司令官、申し訳有りません。
我が大隊の兵達も、何か、そわそわとしていますので。」
「やはり、そうですか、実は、私もねぇ~、心は、既に農場に行っており
まして。」
司令官も、やはり、同じなんだと思う、リッキー隊長で有る。
「司令官、此処まで着ましたら、別に急ぐ事も無いと思いますが。」
「そうですねぇ~、まぁ~、それでも、警戒を緩める事無く進みましょう
か。」
「はい、承知しました。」
その頃。
「中隊長、あれは、5番大隊の、やはり、5番大隊の小隊ですよ。」
「えっ、本当なのか。」
「はい、城壁の外側を、手を振ってきま~す。」
「お~い、司令官が。」
「えっ、司令官がって。」
小隊長は、嬉しそうな顔で城門を潜ると。
「司令官達が、今日の昼頃、城の到着されます。」
「おい、こら、あんまり、脅かすなよ、早く、将軍にお知らせするん
だ。」
「はい。」
小隊は、喜びを身体全体に表し、ロシュエの宿舎に走って行く。
「将軍、将軍。」
「誰だ、騒がしいなぁ~。」
「はい、私は。」
「お~、5番大隊の。」
小隊は、ロシュエに敬礼し、ロシュエも答礼し。
「まぁ~、座ったらどうだ。」
「はい、失礼します。」
「で、司令官達に何か起きたのか。」
「はい、本日、昼頃に、司令官、第5番大隊、狼犬部隊、他、城主達と領
民達の全員が到着されます。」
「えっ、本当かよ~、だって、まで、着く様な。」
「実は、色々と有りまして、予定よりも早く到着します。」
「で、司令官達に、異常は無いのか。」
「はい、全員、無事です。」
「うん、そりゃ~、何よりだよ、じゃ~、オレも、今から城に向かう
ぞ。」
「えっ、ですが。」
「何だよ~、オレが行くと、誰かが困るのか。」
「いいえ、そんな事は有りませんが。」
「じゃ~、行くぞ。」
「はい、では、私も。」
「君達は、今、着いたんだ、まぁ~、司令官達が、此処に到着するまでの
んびりとする事だなぁ~。」
「でも。」
「おい、之は、命令だ、此処で休むんだ、分かったか。」
ロシュエは、笑い、執務室を出て行く。
「お~い、誰か、今から、城へ行くぞ、行きたい者は。」
「はい、私が、同行させていただきます。」
「よし、じゃ~、二個小隊を。」
「はい、準備を終わっております。」
ロレンツ隊長は、今は、司令官が不在のために、ロシュエの傍にいる。
「で、オレの馬は。」
「はい、何時でも。」
「なぁ~、ロレンツ、少しは間違ってくれよ、オレの先を読むなって。」
其れでも、ロシュエは、笑っている、
「じゃ~、行くか。」
「はい、小隊進め。」
ロシュエと、ロレンツ隊長、其れに、二個小隊が、城へと向かった。
「なぁ~、ロレンツ。」
「はい。」
「オレはよ~、城に入る人物は、ロレンツと決めてるんだが、どうだ。」
「私は、大反対ですよ、司令官と、3番、4番、5番大隊の何れかの大隊
が城に入るのが当然だと思います。」
ロシュエの考えたとおりだ。
「だがよ~、ホーガンの言ってた小国の城主なんだが。」
「はい、分かっております、其れで、私の考えですが。」
「いいよ。」
「司令官の事ですから、最終判断は、将軍にと言われると思いますが、司
令官は、城に来られるまで、何度も話をされていると思います。
私は、司令官の意見を尊重したいと思いますが。」
「いや、オレも、そのつもりなんだが、問題はだ、その城主が、何を、考
え、何を、希望するかと言う事だと思うんだ。」
「私も、同じです、それに、領民の事も有りますので。」
「そうなんだ、オレは、領民の意見を聞き、城主の待遇も考えなければな
らないんだ。」
ロシュエは、司令官や、城主、それに、領民の意見を尊重したいと思うの
で有る。
「将軍、ですが、城主に納まるのは。」
「いや、其れは、出来ないんだ、だってよ~、以前が城主だって言うだけ
では、城主にとは行かないよ、司令官の立場も有るからなぁ~。」
ロシュエは、相当悩んでいる様で、司令官の立場と、元城主の立場、この
問題は簡単には解決出来ないと考えている。
其れは、単に、城主だけの問題では無く、この農場全体の問題になって来
るのだ。
「将軍、私は、一層の事、将軍が、このロジェンタ城の国王となられた
ら、問題は簡単に解決すると思いますがねぇ~。」
「ロレンツ、えっ、今、何て言ったんだ、オレが、国王に、馬鹿な事を言
うなよ。」
「ですが。」
「ロレンツ、二度と言うなよ。」
「はい。」
だが、ロレンツは、もっと大きな事を考えている。
だが、ロシュエは、何も気付いていない、ロシュエ達は、馬を飛ばし、司
令官達が、城に、到着する前に城に着いた。
「お~い、将軍が、来られたぞ~。」
「えっ、将軍が。」
城門が開くと、ロシュエ、ロレンツ隊長と、二個小隊が城内に入って行
く。
「お~、中隊長、ご苦労だったなぁ~、で、隊長は。」
「はい、今、此方に向かわれています。」
「そうか、で、まだかよ~、司令官達は。」
「はい、まだのようです。」
「一体、何をやってるんだよ~、オレは、外で待つぞ~。」
ロシュエと、二個小隊は、城門の外に出て、司令官達を待つと、暫くする
と。
「中隊長、司令官の姿が見えました。」
「分かった。」
中隊長は、走り外に出ると。」
「将軍、今、司令官が。」
その時。
「司令官達が到着されま~す。」
「お~、司令官、本当に、ご苦労だったなぁ~、いや~、大変だったそう
で、でも、全員が、無事だと聞いて。オレも、飛んで来たんだよ~。」
「閣下、お出迎え、誠に、ありがとう、御座います。
ですが、予定よりも、早く、到着し、私自身が驚いております。」
「そうか、で、領民と言うのか、農民の人達は、何人くらいおられるん
だ、お~、済まんなぁ~、さぁ~、さぁ~、みんな、中に入ってくれ、オレ
は、何も出来ないんだがよ~、お~い、中隊長、隊長は。」
「は~い、もう、戻られますので。」
「じゃ~、準備は。」
「はい、既に、終わっておりますので、直ぐにでも。」
「そうか、ありがとうよ、司令官、全員を中に。」
「はい、承知しました、兵士は、下馬し、皆さんを案内する様に。」
「将軍、遅れて。」
「いいんだよ~、其れよりも、大隊と狼犬部隊と、他の馬も休ませて欲し
いんだ。」
「はい、4番大隊は、全員の馬を放牧場へ。」
4番大隊の兵士達は、早くも馬の鞍を外し、連れて行く、馬車からも外し
ている。
「隊長、2百頭近くですが、我々の馬とは別の。」
「いいですよ、其れも、一緒で。」
「は~い、了解しました。」
司令官も、リッキー隊長も、城の中に入ると、中庭には、全員が、食べて
も余る位の食事が、数百も有るテーブルの上に置かれている。
「さぁ~、皆さん、全部、食べて下さいよ。」
子供達は、パンを取り、スープと言うより、肉がいっぱい入った大鍋を見
て。
「ねぇ~、本当に食べていいの。」
兵士が近付き。
「本当だよ、何杯だって、お代わりしてもいいんだからね。」
子供達は、二コットして。
「いただき、ま~す。」
早くも食べ始め、大人達も食べ始めた。
「う~ん、お父さん、本当に美味しいよ、だって、お肉がこんなに沢山入
ってるんだもの。」
「本当にねぇ~、私も、初めてよ、こんなに沢山のお肉が入ったスープな
んて、見た事も無かったわ。」
領民達は、やっと安心したのか、必死と言う言葉の様に食べている。
「司令官、それにしても、本当に良かったよ、やはり、ホーガンの言った
とおりだったなぁ~。」
「はい、その様で、ですが、私は、その場所に参りましたが、次に行けと
申されましても、まず、行く事は出来ませんので。」
司令官が言う様に、ホーガンだけが知っている場所なのかも知れない。
「司令官殿。」
其れは、あの小国の元国王だ。
「閣下、申し遅れておりましたが、この方が、ホーガン隊長の言っており
ました国の国王で御座います。」
「そうですか、貴殿の事は、ホーガン隊長より伺っておりましたので。」
「将軍、私は、もう国王では在りませんので。」
「えっ、何故に。」
「はい、私は、司令官殿や、隊長殿に、将軍と申されるお方の、お話を伺
っており、それで、あの城を離れる時に、私は、もう、国王を名乗るのは辞
め様と思いました。」
「其れは、何ゆえにですか。」
「はい、最初、ホーガン隊長や、司令官殿の真剣なお話に対し、私は、真
剣に聞かずにおりましたが、其れよりも、領民達の事も考えておりませんで
した。」
其れが、普通なのだ、誰でも、我が身が可愛い、其れが本音と言うもので
有る。
「其れが、普通だと、私も、思っておりますが。」
「でも、将軍は、その様なお方では無いと、今、やっと分かりました。」
「えっ、なんで。」
「はい、将軍は、兵士達の事もですが、その前に、領民の人数を聞かれ、
其れは全員、無事だと聞かれ安心されました。
司令官殿も、隊長殿も、将軍と言われるお方は、農民が一番大事だと、其
れは、何時も言っておられると聞き、その意味が分かったので、御座いま
す。」
「国王、私はねぇ~、農民が、何時も苦労していると思ってるんですよ、
我々の農場では、農民が一番大切な人達なんです。
私なんか、何の役にも立ちませんからねぇ~。」
「いいえ、私は、このお城に着くまで、司令官殿のお話を聞きましたが、
将軍こそが、本当の意味で、国王にふさわしい人物だと、今、改めて確信致
しました。」
「いや~、オレは、国王なんて嫌だよ、だって、今の将軍だって、オレの
仕事じゃ無いんだ、オレは、兵士だ、農民にために、命を捧げる、之こそ
が、兵士の本望だと、今でも、本気で思ってるんだ。」
やっと、何時もの、ロシュエ将軍に戻ったと、司令官も、隊長達も安心し
た。
「将軍。」
「お~、ホーガン隊長、大変だったなぁ~、だがよ~、みんなが無事で、
オレも、今、やっと安心したよ、で、野盗にやられった聞いたが。」
「はい、でも、全員、殺しましたから、一応は、安心だと思うんです
が。」
「そうか、で、さっき言ってた、2百頭の馬か。」
「はい、やつらの馬ですよ、そのお陰で此処に到着するのが少し早くなっ
たんです。」
「うん、そりゃ~、本当に良かった、フォルト隊長、済まないが、この城
で数日間、のんびりと頼むよ。」
「はい、勿論で、承知致しました。」
「えっ、じゃ~、我々もでしょうか。」
「ホーガン隊長、そりゃ~、当たり前だって、今は、のんびりとしてよ、
敵が来た時には大いに働いて貰うからよ~。」
「はい、勿論です、では、狼犬部隊も休ませて頂きます。」
「お~、其れが、一番だ、フォルト隊長、悪いんだが、3番大隊と、2番
大隊の馬を急ぐ事も無いが。」
「はい、勿論です、では、今日の夕方には、5番通路に集結させますの
で。」
「其れと肉の補給なんだが。」
「将軍、手配は終わり、第2中隊が、今、森に。」
「おい、おい、オレの楽しみを取るなって。」
ロシュエは笑っている。
「司令官殿、将軍は、一体、何を言われよとされておられるのですか。」
「肉が、不足すると困りますので、森に入り、狼か、大鹿を獲りにと。」
「ですが、将軍は、補給だけと、言われた様に思いますが。」
「此処の兵士もですが、農場の人達は、将軍が、次に何を申されるのか知
っているのですよ、其れを、先に、隊長が手配したものですから、閣下が、
あの様に、オレの楽しみを取るなって、申されるのですよ、何時もの事です
から、閣下も、本気で、怒られる事は有りませんよ。」
元城主は、驚きの連続で、将軍の楽しみを取ると言う事だけでも、普通で
は大変な騒ぎになる。だが、此処では、日常的にあの様な会話が普通なのか
思うので有る。
「伝令だ、明日の夕刻には、全員が、農場に到着すると。」
「はい、承知しました。」
伝令は、ロシュエの言った意味を理解している、だが、この城主も、他の
者達に理解は出来ない。
「司令官、みんなの事は、農場に戻ってから考えるとするからよ~。」
「はい、私も、その様に考えておりましたので。」
「じゃ~、オレは、戻るからよ~、後の事は、よろしく、頼むぜ。」
ロシュエは、通路を通り、のんびりと戻るので有る。
「司令官殿、将軍は、何時も、あの様なお姿なのですか。」
「はい、何時もですよ、あの服は、農場の人達の、また。お古なのです
よ。」
「ねぇ~、兵隊さん、将軍様って、何時もあんな言葉で、お話をされるん
ですか。」
「いや~、今日は、何時もとは違いますねぇ~、何時もはもっと砕けてま
すよ。」
「えっ、でも、将軍様って、一番、偉い人だと聞いていますが。」
「でもねぇ~、そうだ、皆さん、将軍様って、呼ばないで下さいね。」
「えっ、なんでですか、だって、将軍様に、将軍様って言っては駄目なん
ですか。」
「まぁ~、将軍様って言ったらねぇ~、オレは、将軍様ってガラじゃない
んだよ、その将軍様ってのは辞めてくれよってね。」
其れを聞いた、兵士達は、大笑いの渦に。
「だけど、ねぇ~。」
「まぁ~、いいですよ、でも、将軍は、本当に怒りませんよ、だって、
我々にはと言うよりも、皆さんには、本当に優しい将軍ですが、悪い奴らに
は、之ほど恐ろしい将軍は、おりませんよ。」
「でも、将軍様の服って、何時も、あんなボロを着ているの。」
「うん、そうなんですよ、私達も、お願いはしているんですが、この服
が、オレの軍服だって言われますので。」
「でも、奥様が。」
「奥様ですか。」
「正か、奥様もなのですか、でも、農場の人達は、何も言わないの。」
「いや~、みんなは、お願いするんですが、其れが駄目なんですよ。」
「二キータ、私達が、城から持ってきた。」
「姫、私も、今、同じ事を考えておりました。
でも、果たして、将軍の奥様に着ていただけるのか、其れが。」
「二キータ、私はねぇ~、今までとは、考え方を変えたいのよ、何も、あ
のままで着ていただけるとは思ってないのよ、少し手を加えると、普通の服
に変わると思わない。」
ニキターも分かった。
「はい、姫様の申されます事、私も、分かりましたので。」
「二キータ、其れとですが、私を、これからは、姫と呼ぶのを辞めて欲し
いの。」
「えっ、でも、突然、その様な。」
「いいえ、いいのよ、だって、お父様も変わると、でね、私も考えたの
よ、司令官も、言われてたと思うのよ、将軍って人物は、大変、ラフな人だ
と、確かにね、私は、あの国では、姫でした。
でも、あのままで残れば、多分よ、多分、私もだけど、女性は犯され、そ
して、残酷な殺され方をされたと思うのよ、私も、この城に着くまで色々と
考えたのよ、其れでね、じゃ~、私が、先頭になって、変わって行こうと思
ったのよ。」
ニキータは、嬉しかった、あの国に残れば、今頃は、犯され、殺され、狼
の餌になっていただろう、其れが、今も、この様に生きている、それだけで
も有難い。
其れなのに、国王も、姫も、必死に変わろうとしている、それで、十分だ
と思った。
「姫、では、私は、これから、どの様に呼ばせていただけれよろしいので
しょうか。」
姫は、二コットして。
「私は、名前で呼ばれたいのよ、ハーナってね。」
それでも、ニキターは、戸惑いを見せ。
「でも、その様に突然に申されましても。」
二キターの表情は、固まっている様だ。
「いいのよ、これから、少しづつでも、慣れてくれればそれでいいの
よ。」
「はい。」
と、返事はしたものの。
「じゃ~、農場へ着いてから、将軍の奥様と相談しましょうね。」