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闇の帝国    作者: 大和 武
151/288

 第 76 話。 上野の大芝居か、いや本気なのか。

げんたが必要な資材や道具類を書き出して要る頃、駐屯地で新たな動きが有った。


「参謀長殿は居られますか私は資材部の。」


「はい、向こう側の執務室に居られると思いますが自分が先に確かめて参ります。」


 突然駐屯地に資材部に者だと名乗る武官がやって来た。


「参謀長殿、大変です、たった今資材部のお方だと申されます武官が来られました。」


「何、資材部の武官だと。」


 上野は一瞬若しやと思ったが、今更慌てたところで何も変わる事は無いと開き直ったのか。


「分かりました、では通して下さい。」


 傍には中隊長が少し慌てた様子だが。


「中隊長、今更慌てたところで何も変わらないんだ、私に任せろ。」


 中隊長はただ頷くだけで有る。


「失礼します。」


 資材部の武官だと名乗る男で有る。


「私は資材部から派遣されました武藤勝五郎と申します。」


「武藤少佐ですか、其れで今回は何用で来られたのですか。」


 上野は武藤と言う資材部の武官が何用で来たのか大よその見当は付いているが、やはり其処は確かめる必要が有ると思って要る。


「実は先日この地に届いた資材の事でして。」


「資材と申されますと、ですが資材の殆どが海軍省のお方が持って行かれ此処には巨釜が二台分残って要るだけですが。」


「今海軍省と申されましたが、何か書状でも持っておられたのでしょうか。」


 武藤は上野を疑っており書状を確認したのかと聞き但して要る。


「ええ、勿論ですよ、そのお方は陸軍省と海軍省の書状を持っておられ、海軍大臣自筆の署名を押印がされておりましたが。」


 此処からが参謀長の大芝居が始まると中隊長は思って要る。


「では二通とも大臣の署名がされていたのですか。」


「私もはばかりながら一応参謀長と言う重責に就いており、陸軍大臣と海軍大臣の名は知っておりますよ。」


 其れは当然で有ろう、官軍の参謀長ともなれば陸軍、海軍の大臣を知らずでは世間では通らない。


「更にですがお二人の役人は自分達でもまだ見た事も無い洋服なる物を着ておられ、其れに同行しております中隊の兵士は陸軍の軍服ですよ、ではご貴殿にお伺いしますが、送られて来た資材を一般の人間が陸軍大臣と海軍大臣の署名を偽造し、態々危険を冒してこの地に届いて要るで有ろう資材を取りに来ると思われるのですか。」


「いや、其れは。」


「いや、其れはでは有りませんよ、ではお伺いしますが、何故この地に来る時ですが、土木や建築の専門家が一人も同行して頂けなかったのですか、この地に来たのは我々と全員が職人達ですよ、あの職人達の腕前は分かりますか、ご貴殿はこの地がどの様な状態なのか、其れをご存知なのですか、はっきりとお答え願いたいのです。」


 資材部の武官だと言う武藤は何も言えず、上野の苦言を聞くだけで有る。


「私も一応調べては要るのですが。」


「一応ですと、ではお伺いしますが、此処の浜がどの様になって要るのかご存知か。」


「其れは知りませんが。」


「浜の事も知らずして一体何を調べに来られたのです。」


 上野は次から次へと文句の言いたい放題の様だと中隊長は思って要るが、中隊長も内心では言いたい事が有る、だが全てを上野が代弁しており、今は黙って聞いて要る。


「この地が此処まで来れたのも有るお方の尽力によってでしてね、私が以前有る地で部下の捜索をしている時に偶然と言っても良いが有る僧侶が来られ、僧侶は戦で戦死された官軍兵や幕府軍の関係無く弔いをされておられまして、その僧侶が数年振りにこの地の差し掛かれ、当時の兵士が僧侶を覚えておりお話しをさせて頂いたのです。」


 当時の話は勿論中隊長も同席しており全て知って要る。


「武藤少佐殿、我々は恥を忍んで僧侶に話をせねばならなかったのですぞ、其れをご貴殿はご理解されておられるのですか。」


 武藤は下手な返事も出来ず、上野の話を聞いて要る。


「私は何もご貴殿を批判しているのは有りませんぞ、ですがこの地に来られるまでもっと詳しく調べるべきでは無かったのですか、勿論、私も武官の立場は理解して要るつもりで、私も立場が反対ならば調査に向かうとは思います。


 ですが何も調べずに突然やって来て資材の行方を言えと申されるのは余りにも我々を疑って要るとしか思えないのです。」


 上野は疑いを掛けられたのは勿論腹が立つ、だが其れよりも資材の全てが海軍で使用するのでは無く、連合国と言う上野も全く知らない国で使用される、だが使用目的は近い将来押し寄せて来るで有ろうロシアの大艦隊を撃破する為で有り、其れは何も連合国の為では無く、日本国の為で有り、ロシアの植民地には絶対にさせないと言う源三郎との意見が一致した他には何も無い。


 上野は武官は直ぐには帰る事は無いと考え、思い切り不満をぶちまけるつもりで有る。


「武官殿はご存知では無いかと思いますが、この地にやって来て頂いております技師長と中隊の兵士と思われるが、全員が一兵卒の襟章を付けておられますが、中には将校らしき人物もおられると思います。


 ですがその方々はその様な事は一切口には出さず、其れよりもその方々が今されて要る工事は有る地方の治水工事で、その地方を流れる大河が毎年大氾濫を起こし、作り直した半分が流され、残りの半分は軍部に徴収されるので、地元民もですが、農民達も満足に食べる事が出来ないのですぞ。」


 だがこの話は本当なのだろうか、若しかすれば上野が育った地方の話かも知れないと中隊長は思った。


「貴官もですが、本部が私、いや中隊長も含め兵士全員が司令本部に疑いを持たれた状態ではこのまま続行する事は出来ぬ、私は明日にでも海軍省に向かい全ての話をさせて頂きその場で辞任させて頂く。」


「参謀長殿、自分も同行させて頂きます。」


「いや君はこの地に残り軍港を完成させてくれ、其れで無ければあのお方や土木技師や吉三組に対し申し訳が立たないんだ。」


「参謀長殿は正か。」


 中隊長も上野の芝居なのか、いや本気なのかも知れないと思った。


「正かとは、えっ。」


「武官殿、参謀長殿は海軍省で辞任され、その場で腹を。」


「参謀長殿、其れだけは。」


「わしも元は武士だ、武士ならば腹を切らなければ我が身の潔白を明かす事は出来ないんだ。」


 中隊長は上野の表情を見て本気だと分かり。


「若しもですが、若しも海軍大臣が今の話を知られたならば武官殿もですが、本部の将校全員が、良くて地方への左遷、悪くすれば最前戦に向かわせるのでは有りませんか。」


 中隊長が言うのが本当だとすれば大変な事になると武官は思うが、二人は相当な決意なのか、いやもう覚悟を決めて要るのだと見えた。


「武官殿は何もご存知有りませんが、この地には最高司令長官殿が直々参られまして、参謀長殿に手を付き頭を下げられたのですよ、其れをご存知で御座いますか。」


「えっ、最高司令長官殿が直々来られたのですか。」


「私が作り話をして何の得になると思われますか、それ程までに疑いが解けないので有れば、武官殿が兵士にお聞きされては如何でしょうか、其れと職人達にも聞いて頂いても宜しいですよ。」


「いや其れは。」


 やはり中隊長の思った通りで中隊長が兵士に聞けと言えば、更に職人達にも同じ様な質問をせよと言えば、正か直接聞く様な真似はしないだろうと、いや別に聞かれても問題は無く、だが下手をすれば、武官は兵士達よりも職人達から集中砲火を浴びるのは間違いは無く、武官は其れまでするだけの度胸は無いと見たので有る。


「如何されましたか、今から兵士と職人達に聞かれては如何でしょうか、兵士達は武官殿が何用で来られたのかは知りませんよ。」


 武官は何も言わずに要る。


「中隊長、方々は何時戻られるか聞いて要るのか。」


「何も伺ってはおりませんが、巨釜も残っておりますので直ぐに戻って来られると思いますが。」


 その頃、飯田達が出発の準備を進めて要る事など上野も中隊長も知らない。


「では直ぐに戻って来られるのか。」


「勿論ですよ、あの時も政府のお方は直ぐに戻って参りますのでと、私が聞いております。」


 其れは上野も聞いて要る。


「だが何時こちらに来られるのか、其れは分かりませんよ。」


「ですがもう間も無く来られるのでは御座いませんか。」


「そうだなぁ~、あの時も資材を降ろし直ぐにと申されたと思うんだ。」


 もう上野も中隊長も武官には芝居では無く本気で話して要る。


「申し訳御座いませんが、何処で工事をされておられるのかご存知御座いませんか。」


「なんだと、貴官はそれ程までに信用出来ないので有れば、方々がこの地に参られた時に聞かれては如何ですか、あの時の状況でわしが聞けるとでも思っておられるか、中隊長、いや誰か兵士全員を呼んでくれ、但しだ何も言うな。」


 執務室の外に居た当番兵が大慌てで兵舎へ向かった。


「貴官はわしらの話を全く聞く耳は無かったと言う事だ。」


 もう上野は怒り心頭でこのままでは簡単に終わりそうには無いと中隊長も思い、勿論中隊長も同じで、暫くして小隊長と兵士達が続々と執務室に押し懸けて来た。


「後藤さん、兵隊さん達が上野さんの執務室へ飛んで行きますよ。」


「吉三さん、何か大変な事が起きたのかも知れませんよ。」


「じゃ~行きましょう、みんなも一緒に行こう。」


 と、吉三組の全員も飛んで行く、さぁ~大変な事態になった。


 司令本部が上野に対し疑いを持って要るとは思いもしなかった。


「参謀長殿が大至急との事ですが、一体何が有ったのでしょうか。」


 と、小隊長は一気に聞くと。


「小隊長、実はこちらは司令本部から来られた武官殿で、少し前に届いた資材の行き先を知りたいそうなんだ。」


「あれならば海軍省の、いや政府のお役人が来られ海軍省で必要だと全部頂きますと、巨釜を残し全部と言っても良い程持って行かれましたが、えっ若しや司令本部は参謀長殿を疑っておられるのでは御座いませんか。」


「実はそうなんだ、わしと中隊長の説明では不足だと申されておられるんだ。」


「参謀長さん、皆さん申し訳有りませんが少し開けて頂けますか。」


 と、後藤と吉三が入って来た。


「上野様、如何されたのですか、そのお方は。」


「技師長殿、誠に申し訳無い、技師長殿や吉三組さんには今までご無理ばかりを申し上げ此処まで工事を進めて頂きましたが、司令本部は私よりも技師長殿や吉三組さんに対し疑いを持たれて要るのです。」


 と、上野は思い切った作戦に出た、資材の行き先が不明なのは後藤と吉三組が来てから起きたと言うので有る。


「左様ですか、では我々は明日にでも出立し、総司令にお話し致しますので、ですが後の事はどの様なな結果になったとしても全ての責任はご貴殿と司令本部に有るのですからね、其れだけは覚悟して頂きますよ。」


 後藤の話し方は優しそうには聞こえるが、内容は恐ろしいと中隊長は思った。


「中隊長さん、何で技師長さんや吉三組さんが疑われるんですか、あの時、司令長官様が浜に土下座され手を付き言われましたよ、皆さんには大変なご無理を申し上げますが、我が日本国の為で、私の命は何時でも捧げますが、どの様な事態になっても民だけは守らなければなりませんって言われたんですよ。」


「そうですよ、オレは難しい事は分かりませんが、司令長官様がどんな事が有っても日本国の民を守るのが私達の使命だと思っておりますって、オレはその話を聞いてどんな苦労しても軍港を造ってロシアの植民地だけにはさせないって、あの時心に誓ったんですよ、其れが何でそんな話になるんですか、教えて下さいよ。」


 もう其れから兵士達が次々と言いたい放題の様相で有る。


「なぁ~後藤さん、明日帰りましょうよ、其れで全部話してオラ達はあっちの工事をやります。」


「其れが良いですねぇ~、皆さんには大変申し訳有りませんが、今日で軍港の建設が出来なくなり心よりお詫び申し上げます。」


 と、後藤は手を付き頭を下げた。


「技師長殿、お手を上げて下さい、私も部下もですが職人達は吉三組さん達にも大変なご無理を申し上げ、私の方こそ誠に申し訳御座いませんでした。」


 と、上野も頭を下げた。


「やっぱりなぁ~、総司令が言われた通りだ、上野さんや中隊長さんは信用出来ても官軍の上層部だけは信用出来ぬと、でも大変な事になったなぁ~、これで若しもだよ、若しもロシアと戦争になって負けたら一体誰が責任取るんだ、なぁ~武官さん。」


「閣下、参謀長殿は海軍省に辞任を申し出た後、腹を。」


 中隊長は上野が腹を切ると手で真似をした。


「えっ、上野さんが切腹されるんですか、でも何で上野さんが。」


「武官さん、もう数日もすれば引き取りに来ると思うんだ、その時直接聞いたらいいんだ、あの資材は何処に持って行ったんだってね。」


「そうだ、若しかすれば総司令が来られるかも知れないですよ、上野さん、今後もご無理をお願いしますって、あんたが総司令に直接聞けばいいんだ。」


 まぁ~吉三達も好き放題言っており、其れでも武官は何も言えない状態で、勿論、吉三達が言う総司令とは源三郎の事で有る。


「でもなぁ~、あの時司令長官様は私が此処に来た事だけは誰にも言わないで下さいねって、だけど司令本部が参謀長さんや中隊長さん、其れにわしら全員を信用出来ないんだから、此処で話された事を司令長官様に言わないと大変な事になると思うんだ。」


「まぁ~其れにしても情けない話だなぁ~、身内の其れも上層部に信用して貰えないって、でもそんな話を司令長官様にしたら大変な事になるよ、あのお方はオレ達見たいな一兵卒にも頭を下げられるんだからなぁ~。」


「そうなんだ、職人さん達も物凄く驚いてたからなぁ~。」


「オラ達は知ってるんだ、あのお方は誰に対しても同じなんだ、其れでオラ達も何処に行く時でも全員が一兵卒の軍服と襟章を付けてるんだ、さっきも言ったけど下手に少将や大将の襟章を付けてると仕事が出来ないって、でも官軍ってバカの集まりだって分かったんだ。」


「あの時か、でもなぁ~武官さんは一体どうするんだ、さっきも言ったけどあのお方は自分の命よりも民の命が大切だって何時も言ってられるんだよ、オレも今ではオラの事よりも女の人や子供達の為にも絶対にロシアの植民地だけは駄目だって、命を懸けても造るって、みんなで決めたんだ。」


 武官は一切反論せずただ只管聞いて要る。


「オラはロシアの植民地になって奴隷になるんだったら、その前に自分の命を絶つよ。」


「其れだったらオラも一緒だ、だけどその前に総司令と海軍大臣に全部話してからだ。」


「だけどなぁ~、あのお方はあんた達は知らないけど物凄く恐ろしいお方だよ、お方はオラ達の様な農民や町民には物凄くお優しいんだ、だけどあんた達の様な話の分からない人には其れはもう驚く程恐ろしいんだよ、まぁ~オラ達は知ってるけどなぁ~。」


 さぁ~今度は脅しに掛かった、だが武官は全く意味が分からない様だ。


「まぁ~ねぇ~、あんたには全然関係無いと思うんだ、じゃ~明日にでも帰って全部報告すればいいんだ、いややっぱりその前に海軍省に行って全部聞く方が先だ。」


「閣下、明日自分と参謀長殿が一緒に海軍省に向かいます。」


「いゃ~其れは少しお待ち下さい。」


 突然、武官が止めた。


「武官殿は一体何を待てと申されるのですか、武官殿もだが司令本部が海軍大臣の署名された書状じゃ本物では無いと疑っておられるのですから、我々としては何としても疑いを晴らさなければ腹の虫が収まらないのですぞ。」


 上野は疑惑を晴らさなければ腹の虫が収まらないと、いやそれ程までに怒り心頭なので有る。


「では一体どの様なお話しをされるおつもりなのかお伺いしたいのです。」


 武官は先程から何やらを考えて要る様だが、一体何を考えて要るのだと上野は思うが。


「先程から皆様方のお話しをお伺いし、私はどの様に説明しようかと考えて要るのです。」


「其れならば後数日も経てば参られると思うので、その時に海軍省から出された書状を見られては如何ですかと申し上げておりますが。」


「いや~其れは。」


「何故ですか、ご貴殿が申されないので有れば、私が説明しますよ、司令本部では海軍省の書状も疑っておられ、武官殿が直接調査に来られておりますと。」


「いや~私にも都合が有りまして。」


「なんの都合ですか、調査に来られたのですから数日間は滞在されるおつもりでは無かったのですか。」


「私も正直書状を拝見させて頂ければと思って要るのですが、私にも予定が御座いまして。」


 武官は段々と居心地が悪くなって来たのだろうか、一刻でも早く駐屯地を離れたいと、其れは表情にも表れており、上野は其れこそ簡単に済ませるつもりは無いと恐ろしい程の表情になって要る。


「予定と申されますが、次の予定地は何処ですか、この地は大変恐ろしい所ですよ、下手をすれば狼の大群に襲われやも知れませんからねぇ~。」


「えっ、今申されましたが狼の大群が住んでいるのは本当なのですか。」


「ああ、其れは本当だ、嘘だと思うんだったら付近の、いや此処の漁師さんに聞けばわかるよ。」


 武官は正か狼の大群が住んで要るとは思っておらず、突然の話に顔色が悪くなった。


「武官殿は数人と来られ何とも無かったのが不思議だ、ですが何処に向かわれるか分かりませんが、やはり来られる待たれ、その後はその方々と一緒に向かわれては如何ですか、まぁ~皆様方の安全の為にもですがねぇ~。」


 上野と中隊長は大声で笑いたいが、今はどんな方法を使っても追い返す方が先だ我慢するんだと思い唇を真一文字に耐えている様にも見える。


「参謀長殿、私は明日にでも出立したいと思っております。」


 遂にやったぜと中隊長は心の中で大喜びして要る。


「では武官殿にお伺いしたいのですが、本部にはどの様な報告をされるのでしょうか。」


「自分としましては資材を受け取りに来られました人物は海軍省より受け取られた書状を提示され、参謀長殿としては何も反論出来ず、全てを持って行かれましたとしか報告のしようが無いと考えております。」


「左様ですか、ですがねぇ~来られたお方は今後も寄せて頂くと申されましたが、その事も報告して頂きたいのです。」


「承知致しました。」


「武官殿、本部が其れでも納得出来ないと申されるの有れば、司令長官殿、更に海軍大臣へ直接お聞き下さいと、私も数日の内に海軍省へ参り、全てを報告させて頂きますが其れで宜しいですね。」


「自分は本部には今後は何も申されない様にと伝えますので、何卒。」


 武官は次第に声も小さくなり、顔色が悪い。


「では本部内で収められると言うのですね。」


「其れは勿論で、自分の責任に置きまして上官に伝えまして、何も無かったと言う事にして頂きたいと、其れで無ければ我々全員の首が危ないと伝えますので。」


「左様か、ですが次、いや別の時に資材を届けて頂いた時に話が違えば、その時は覚悟して頂きますよ。」


「承知致しました、自分も今回は来ていない事に上官には報告しますので、参謀長殿には大変申し訳御座いませんでした。」


 武官は改めて頭を下げるが、果たして後藤や吉三達が納得でもするとでも思って要るのだろうか。


「いや、わしよりもこちらの方々が納得して頂けるのか、その方が最も大事ですぞ、技師長殿は如何されましょうか。」


「上野さんには大変申し訳御座いませんが、私はとてもでは御座いませんが、納得出来ません。


 今のお話しは全て総司令にお伝えし、処分を検討して頂く様にお願いするつもりです。」


 さぁ~後藤が大芝居を打って出た、武官にすれば司令長官に話が行くと大変な事になり、下手をすればとでも考えて要るのだろう、顔は青ざめて要る。


「技師長殿、自分の責任に置いて、司令本部には今後この地に送られる資材を最優先にし、更に全てを参謀長殿にお任せ頂きますと、上官より確約を取ります。」


「左様ですか、では今申されました内容を書状に認めご署名と血判をして頂きたいのです。」


「えっ。」


「何故ですか、言葉と言うのは後々の時に言った、言わないと押し問答になりますが、書状で残すとなればどなた様が来られましても、書状をお見せすれば納得して頂けると思うのです。」


 後藤は書状に残す事で何れ司令本部から別の人物が調査に来ても納得させることが出来るのだと説明した。


「後藤さんは書状をあのお方に見せるのですか。」


「勿論ですよ、一応お話しはだけはしなければなりません。

 ですが総司令はお話しのわかるお方ですから、多分、其れで宜しいですよと申されますよ。」


 傍で聞いて要る吉三達も正か後藤が書状を認めさせるとは思いもしなかったが、後藤は上野の為に取ったので有る。


「武官殿は書状を二通認め、一通には上野さんが受け取りましたと署名して頂きます。」


 上野も二通認めると聞いた時、後藤の考えが分かった。


「技師長殿、私もその様にして頂ければ今後も安心出来ます。」


「武官殿も大変だと思いますが、上野さんや此処に居られる全員が司令本部から疑いを持たれたままでは軍港の建設を続けることは出来ませんので、まぁ~これは駐屯地全員の命を守る為の防衛手段だと理解して頂きたいのです。」


「承知致しました。」


「では吉三さん、戻って仕事を続けましょうかねぇ~。」


「じゃ~みんな始めるぞ。」


「お~。」


 と、吉三組もだが兵士達も戻って行く。


「武官殿も今わかって頂いたと思いますが、軍港建設にはあの方々が居らなければ前に進まず、五年、いや二十年経っても完成出来ずに、ですが此処に海軍省の方々が資材が有ると知っておられ、次も来られるのは間違い有りません。

  

 日本国がロシアの植民地にされずに済むので有れば、我々が目録を送るよりも前に送って頂きたいのですが如何ですか。」


「武官殿、中隊長もわかって要るんですよ、武官殿もこの地に数日、いや十日も居られたならば如何に工事が大変だかわかって頂けると思うんですがねぇ~。」


「参謀長殿、誠に申し訳御座いませんでした。

 自分は今から書状を認めたく思います。」


 と、武官はその後必死で二通の書状を認め、署名と血判し本通を上野に渡し、控えの書状には署名と、更に上野は血判し武官に渡し、明くる日の早朝、武官と同行した数名の兵士はまるで誰からか逃げる様に駐屯地を後にした。



     


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