第 71 話。 本部の調べは有るのか。
「なぁ~あんちゃん、あの人達は何時頃帰って来るんだ。」
「そうですねぇ~、行きが二日として、事前準備に丸一日掛かり、積み込みにも一日は掛かります
から、帰りに二日として早くて五日、いや六日くらいは掛かると思いますがねぇ~。」
「だけど、其れは行きも帰りも途中で何も無かったらの話だと思うんだけどなぁ~。」
げんたは往復時に野盗や幕府の残党から襲撃が無ければと考えており、若しも途中で野盗や、い
や其れよりも途中に、其れも偶然に官軍に発見されるかも知れないと、若しも不幸にして官軍に発
見でもされる様な事態にでもなれば、飯田達は一体どの様な言い訳で切り抜けるのか、其れが一番
の心配だと。
「若しもだよ、野盗や幕府の残党の生き残りが襲って来たら大丈夫なのか。」
「其れならば大丈夫ですよ、小川さんの事ですから日光隊と月光隊の他に二個小隊を馬車部隊の掩護に向かわせて要ると思いますよ。」
「だけど本当にそんな人数で大丈夫なのか、若しもだよ、若しも官軍に見つかったらどんな理由を付けるんだ。」
「其れだけは私も分かりませんが、まぁ~飯田様達の事ですから大丈夫だと思います。」
源三郎は飯田の事だ、陸軍省と海軍省から受け取った約定書を見せるだろう、官軍の中隊長ならば陸軍省や海軍省の約定書を持って要る人物、即ち飯田ら三名は政府の役人だと言えば、幾ら官軍と言えども検問まではしないだろうと思って要る。
「あんちゃんは簡単に大丈夫だって言うけど、向こう側の事もわからないんだぜ、野盗が突然襲っ
て来たらどうするんだ。」
「私もげんたが心配するのも理解しておりますよ、ですが何事に置いても何も起こらずに行くとは
限らないのです。
世の中と言うのは我々が考えて要る以上に困難な事態が起き、其れを全て解決すると言うのは状況にもよりますが不可能に近い事も有るのです。
今回の件も同じでしてね、小川さんも最善の努力はされておられると思いますが、全てがげんた
や私が思う通りには行かないのですよ。」
げんたも源三郎の話は理解して要るが、若しも大部隊を出撃させる様な事態にでもなれば連合国
の存在が明らかになり、源三郎は何としても其れだけは避けたいので有る。
「オレもなぁ~、そんな事はあんちゃんに言われ無くてもわかってるんだ、だけどオレは全員が無事菊池の隧道に入って欲しいんだ。」
「私も同じですよ、げんたは心優しいですから皆さんにも理解して頂けると思っております。」
げんたは心優しい技師長だと連合国の誰でも知っており、だからと言って全てがげんたの思い通
りには行かない、其れが世の中で有る。
話は少し戻り、飯田達が官軍の駐屯地に到着した頃。
「中村さん、伊藤さん、馬車部隊ですが先程無事駐屯地に到着されました。」
「左様ですか、其れで今後はどの様に。」
「自分達は日光、月光隊とは別の所を偵察したいと考えて要るのですが。」
「其れならば、川の向こう側と申しましょうか、其れと林の中をお願いしたいのです。」
「では二個小隊で向かいますので後は宜しくお願い致します。」
「我々は馬車部隊が隧道に入られるまで護衛に入ります。」
この先、日光隊と月光隊と別れた二個小隊は川向うと林の中へと消えて行く。
「伊藤さんと我らで菊池まで護衛に入りますが、右側の土手で宜しいでしょうか。」
「左側は大変危険ですから、私は其れで良いと思います。」
「では明日、いや明後日にでも数名で様子を探りに向かわせましょう。」
「其れで良いと思いますよ、多分明後日には積み込みが完了すると思うのです。」
「ではその前に一応川沿いを五里程進み安全の確認だけはして置きたいと思いますので、日光隊が
参ります。」
「では月光隊は斥候を出し様子を調べます。」
日光隊と月光隊は二個小隊からの引継ぎを終え、日光隊が川沿いを月光隊から数名出し駐屯地の様
子も探りに行くと、その日の内に作戦は開始された。
一方で駐屯地では日の明けた早朝から吾助達が先頭になり資材の積み込み作業が開始された。
「あの~吾助さんは。」
と、大工数人が櫓の組み立てに必要な大木を運んで来た。
「どの辺りが宜しいでしょうか。」
吾助は大工達と櫓の組み立て場所へと向かった。
「後藤さん、資材ですけど全部持って帰るんですか。」
「吉三組で使用する物でも有るのですか。」
「いいえ、別に今のところは有りませんですけど。」
「多分ですが、後日必要な資材が届けられると思いますが、私が上野さんにお伺いしますので其れで宜しいんで有れば。」
吉三は届いた資材の全てを持って帰ると思って要る。
「吾助さんは全てを持って帰るつもりなんでしょうかねぇ~。」
「其れは多分無いと思いますよ、ですが鉄管だけは全部持って帰ると聞いておりますよ。」
倉庫付近には上野を始め、中隊長や兵士達、更に職人達も集まり積み込み作業を見て要る。
「参謀長殿、積み込み作業をされて人達ですが、昨日も準備されておられまして、やはり段取りと言うのは大変重要だと思いました。」
「確かになぁ~、まぁ~吉三組と言い、今の作業と言い、現場に来て最終の段取りを決めると言う
のは大事だと分かったよ、源三郎殿もだが作業現場では作業する人が指示を出し、今日も飯田殿は
何も申されてはいないが、それ程にも信用出来ると言う事だなぁ~。」
上野も中隊長も源三郎の言う現場に任せると言う意味が分かったのだろう、吉三達も暫く見てい
たが其れも四半時程で岸壁造りの現場へと向かった。
「まぁ~其れにしても見事なものですねぇ~。」
「吾助さんが全ての指示を出されてるんですねぇ~。」
上田も森田も感心するばかりで有る。
「中隊長、次回馬車部隊が来た時なんだが、鉄管と鉄板を多く積み込む事になるなぁ~。」
「ですが余り分厚い鉄板だと幾ら腕の良い鍛冶屋でも無理かも知れないですが。」
「そうだなぁ~、其れならば源三郎殿は何故に鉄板は大量に必要だと申されたんだろうか。」
「では最初から穴を開けて置くのですか。」
「其れなんだ、実はわしも詳しく聞いておらんのだ。」
上野は鉄管よりも鉄板には穴を開けて置いた方が良いのか、だが使い道がわからなければ依頼するにしても指示の出しようが無いと言う。
「其れならば私が飯田様にお聞きし、次に来られる時にでも宜しいですと。」
「まぁ~薄い鉄板ならば使い道は幾らでも有ると思うんだ、だがあれ程の厚みが有れば用途は限ら
れて来ると思うんだ、君も余計な事は聞かずにさり気なく聞いてくれるか。」
「まぁ~適当なところで聞いて見ますので。」
「あの~社長様、こちらの馬車は使えるんでしょうか。」
「私も分かりませんので聞いて参ります。」
巨釜を積んで有った馬車は使用出来るのか、吾助は予定外の荷物で大型の馬車に積み切れない鉄
管が残る事が発生した。
「中隊長、巨釜を積んで有りました馬車ですが鉄管を積みたいのですが宜しいでしょうか。」
「参謀長殿、如何でしょうか。」
「駐屯地では今のところは使わんからなぁ~、そうだ吉三さんに聞いてくれ、若しも使うとなれば
申し訳無いですが。」
「いいえ、その様な事は、私の勝手で申し訳御座いません。」
「飯田様、宜しければ今から吉三組さんの現場に参りましょうか。」
中隊長と飯田は吉三組の現場へと向かった。
「吾助さん、鉄管ですが相当残って要るのですか。」
「そうなんです、巨釜を大型の馬車に乗せ換えたんですが、其れと積み込めたのは鉄板だけでして、鉄管の半分以上が積めないんです。」
吾助は鉄管だけと思ってたのだろうが、思わぬ状況で鉄管よりも巨釜こそが予定外で、その為に
鉄管が積み込めないと言うので有る。
「吉三さん、お忙しいところ申し訳有りませんが宜しいでしょうか。」
「何でしょうか。」
「実は吉三さんにお聞きしたいのですが、倉庫前に停めて有りました馬車ですが使用される事は有
りませんか。」
「今は別に有りませんが、中隊長さん、何を積んでたんですか。」
「あれは陸蒸気の巨釜なんですよ。」
吉三は陸蒸気の巨釜だと聞いても全く理解出来ないのだろうか。
「何ですか、その陸蒸気って、オラも初めて聞きますんで。」
「陸蒸気と言うのはですねぇ~。」
中隊長は知って要るだけを説明した。
「へぇ~だったらオラ達の連合国でも陸蒸気が走るんですか。」
と、吉三は大変な驚き様で、だが陸蒸気だと言う乗り物は見た事も、聞いた事も無かった。
「実はですねぇ~、技師長さんは陸蒸気は造らないと言われておられるんですよ。」
「へぇ~陸蒸気ってそんなにも難しいんですか。」
「我々も詳しい事は聞いておりませんので、其れよりも別に大事な機械が有りましてね、その機械
を動かす為には鉄管が大量に要るんだって言われたんです。」
飯田も詳しく聞いておらず、げんたが依頼した資材だから必要だと思って要る。
「オラ達は今は使う事は有りませんので使ってもいいですよ。」
「有難う御座います、では我々で使わせて頂きますので。」
飯田もこれでやっと目途が付いたと一安心した。
「後藤さん、陸蒸気って何ですか、オラは初めて聞いたんで全然わからないんですよ。」
「私も同じですよ、私は吉三さん以上に驚いてるんですからねぇ~。」
「だったら源三郎様も知らないんでしょうか。」
「多分ご存知では無いと思うんですが。」
「じゃ~知られたら物凄く驚かれるんでしょうねぇ~。」
「其れは勿論でしょう、私も吉三さん達と一緒に過ごしておりましたから知らないのは当たり前で
すよ、でも源三郎様がご存知無かったとすれば、えっ、じゃ~連合国でも陸蒸気を、でもさっきの
話でしたら技師長さんは造らないって聞きましたよ、じゃ~一体何を造る為に陸蒸気の資材が要る
んですかねぇ~。」
と、後藤は独り言を言った様にも聞こえるが。
「そんな事、オラが知ってる訳なんか無いですよ、でも本当に何を造るんですかねぇ~、其れにしても上野さんも大変ですねぇ~。」
「えっ、今何と。」
と、後藤は吉三が言う、上野が大変だと言う意味が。
「吉三さんは何故その様に思われるんですか。」
「だってそうでしょう、此処で造るんだったら分かりますよ、でも連合国に持って行くって、官軍
の司令本部は知ってるんですかねぇ~。」
「そうか、確かに吉三さんの言われる通りですねぇ~、此処で造るにしても一体誰が造るんですか、軍港を建設する人も派遣しなかったんですからねぇ~。」
「オラも其れがわからないんですよ。」
後藤も吉三も含め、今連合国に居る官軍兵だった仲間の中で果たして一体何人が陸蒸気を知ってるのだろうか、いや本当は誰も知らないだろう。
「若しもですよ、若しも陸蒸気を造る資材をですよ、他の国が持って帰ったって司令本部にばれたら上野さんは一体どうなるんですかねぇ~。」
と、吉三は上野を心配している、確かに考え方を変えれば上野は陸蒸気と他の資材を横流し、蓄
財していると疑いを掛けられるかも知れない。
「オラは上野さんだけを心配してるんじゃ無いんですよ、若しもですよ司令本部から突然やって来
てですよ、オラ達の事を聞かれてですよ、此処の誰かが源三郎様の事を話したらもう大変な事になるって思ったんです。」
「吉三さんは何故源三郎様が危ないと思われるのですか。」
「そんなのって簡単ですよ、そんな事ぐらいはオラだって分かりますよ、オラ達は官軍のやり方を
知ってるんですよ。」
吉三は連合国に来るまでは官軍の一兵卒で官軍の無慈悲なところは嫌と言う程知って要る。
「オラは正直言って上野さんはどうなってもいいとは思いませんよ、でも源三郎様は特別なんです
よ、オラは源三郎様に命を助けて貰ったんですからね、オラもですが仲間も源三郎様は命の恩人な
んですよ、だから何ですよ。」
吉三は源三郎は命の恩人だと言う、だが上野に対しては何の恩義も無いのだと言う。
「其れは私も同じですよ、あの時、指揮官達は全員戦死しましたからねぇ~。」
源三郎も上野も職人達に話、職人達はその時は納得したが若しも司令本部の軍人が職人達に荷物の行き先を聞き、最初は誰も知らないと、だが其れで引き下がる様な官軍の司令本部では無く、職人達から数人を呼び出し正直に言わなければ拷問に懸けても自白を迫れば職人達は簡単に白状する、
だが問題はその後で上野を厳しく追求するだろう。
「オラもですが、仲間は絶対に話しませんよ、例え殺されてもですよ、でもねぇ~、此処に来た職
人達は別だと思うんですよ、誰だって命は取らないから全部話せって言われたら全部喋りますよ、其れが普通と思うんですよ。」
「吉三さんの言われる通りかも知れませんねぇ~、私も吉三組の全員が源三郎様は命の恩人ですか
らどんな事が有っても話しませんが、此処の職人達には全く関係の無い事ですからねぇ~。」
「後藤さんから聞いて貰ったらいいんですけど、勿論、オラも一緒に行きますんで。」
吉三も後藤に一人で行けとは言えない、やはり上野から直接聞きたいと思って要る。
「では今から行きましょう。」
と、二人は上野の執務室へ向かい、その途中で倉庫前で忙しく積み込み作業をする人達を見た。
「あれだけ大量に有ると積み込み作業も大変でしょうねぇ~。」
「あれを全部今日中に積むんですかねぇ~。」
「そうだと思いますよ。」
話の途中で上野の居る執務室の前に来ると、上野は外で積み込み作業を見守って要る。
「技師長さんに吉三さん、何か有ったのですか。」
「上野様にお伺いしたいのですが、今回大量の資材が送られて来ましたが、今積み込み作業をされ
ておられるのは。」
「勿論 全て承知しておりますよ。」
「ではお伺いしたいのですが、官軍の司令本部からはどなたも来られて無いのでしょうか。」
「技師長さんの心配は多分、司令本部からやって来た人物が職人達に資材の行き先を尋ねるかと言
う事だと思いますが。」
「ええ、その通りでして、我々は源三郎様は命の恩人ですので、どの様な厳しい問いにも答えませ
んが、あちらの職人さん達は別だと思いますが。」
「其れならば大丈夫でして、今回もですが、これから先物資の発送を行って要るのが、元は私の部
下でして中隊長とは幼馴染と言う事も有り、別の一件で調達部の部長、これが大変豪気な人物でし
て、勿論 司令本部から呼び出されたそうですが、反対に司令本部の連中をコテンパンにやっつけ
たと馬車部隊の中隊長が申したと聞いております。」
「左様でしたか、では司令本部から確認する様な事は無いのですね。」
「其れは間違い無いと思いますよ、司令本部もですが、政府としては一刻でも早く軍港を完成させ
なければならず、例え一部の資材が他の所に行ったとしても取り調べと申しましょうか、物資の行
き先を確認するよりも早く完成させる事の方が最も大事なのです。」
「左様でしたか、私も今お話しをお伺いしまして安心致しました。
私も吉三さんも参謀長殿を疑って要るのでは有りませんが、今までの官軍を知っておりますので、
若しもですが参謀長殿にも知らせず突然にやって来るとも考えられましたので、大変お忙しところ
誠に申し訳御座いません。」
「いいえ、私も次回来た時には一度聞いて見ますので。」
「申し訳有りませんが宜しくお願い致します。」
後藤と吉三は上野に礼を言って戻って行った。
だが其れでも二人は完全には信用していない、やはり官軍だけは信用出来ないと思って要る。
「良かったですねぇ~、でもオラはまだ官軍だけは絶対に信用していないんですよ。」
「勿論、私も同じですよ、上野さんは信用出来るとしてでもですよ、官軍の特に上層部の連中だけは絶対に信用しては駄目だと言う事ですよ。」
「じゃ~後藤さんは飯田さん達に話されるんですか。」
「いや多分中隊長が話されて要ると思いますので、私から別に話す必要も無いと思います。」
「でも中隊長さんだって忘れる事も有ると思うんですけどねぇ~。」
吉三は中隊長も忘れる事も有るだろうと、だが若しも忘れて要るならば大変だ、今までがそうな
のだから、だから今回は特に注意しなければならないと思って要る。
「まぁ~ねぇ~中隊長も人間ですので忘れる事も有り得るでしょう、ですが今回だけは忘れておりましたでは絶対に済まされる事では有りませんからねぇ~、では今から参りましょうか。」
と、後藤と吉三は飯田達が作業中の倉庫前へと向かった。
「やはり参謀長殿の申されました通りで参られましたねぇ~。」
「まぁ~其れは当然だと思うよ、私が反対の立場ならば迷う事無く話に行くよ、まぁ~それ程まで
源三郎殿は何事に置いても信頼されておられると言う事だ。」
上野は源三郎が羨ましく思え、それ程まで信頼されて要るのだと、だが上野も工藤や吉田に、他
にも大勢の仲間と言って良いのか、今の官軍の、いや新政府の中にも上野を尊敬して要る将校も多いのは間違いは無い。
「飯田さんに皆様方、大変お忙しいところ誠に申し訳有りませんが少しお伺いしたい事が有りまし
て寄せて頂きました。」
「何か我々が引き起こしたのでしょうか。」
「いいえ、左様では御座いませんが、上野さんにもお伺いしまして、官軍が突然やって来て皆様方
に資材の行き先を尋ねるのではないかと聞きましたところ、今のところは官軍からは何も言って来
ておりませんと、ですが私も吉三さんも官軍の上層部だけはどんな話をされても絶対に信用出来な
いと思っておりまして、中隊長さんからお話しされておられたのか其れを伺いしたいのです。」
「後藤さんに吉三さんも其れならば全く心配有りませんよ、実は工藤さんからもですが、吉田さんからも何度と無く聞かされているのです。
ですが我々三名と吾助さん達は連合国に入るまで幸いとでも申しましょうか、運が強いとでも申
しましょうか、官軍兵に出会ったのは橘さん達の居られた駐屯地が初めてでして、官軍よりも野盗
からは何度も襲われまして、まぁ~その様な訳ですから中隊長さんにお任せして要るんです。」
「左様でしたか、其れならば私も安心で御座います。」
飯田ら三名が菊池を出て最初に出会ったのは農村を襲って要る野盗で、その後、陽立の国に着く
まで一度も官軍兵に出会う事も無く無事江戸に到着したので有る。
更に言えば飯田達が江戸で、いや東京で大成功を収めたのも官軍様様で、野洲に帰るとなった時でも陸軍省を騙した、いや手玉に取ったので有る。
飯田達にすれば官軍の悪事を見た事も聞いた事も無く連合国に戻り、だが連合国では官軍の良い
事では無く、悪い事ばかりを聞かされ、其れこそ納得出来ないので有る。
「其れと積み込み作業ですが何日くらい掛かるのでしょうか。」
「私は吾助さん達に任せておりまして、正直申しましてわからないのです。」
「ですが私は今日中には終わらせたいのです。」
飯田は吾助達に任せ知らないと言うが、上田は今日中に終わらせたいと。
「やはり官軍だけは信用出来ないのですね。」
「私も正直申しまして信用したいのですが、工藤さんや吉田さん、更に中隊長さんも官軍の上層部
だけはどんな理由が有っても絶対に信用するなと、其れこそ命令されて要る様です。」
工藤や吉田、更に今の中隊長達も何度と無く司令本部の裏切りを見て来ており、其れならば命令
口調で官軍だけは絶対に信用するなと言われたので有る。
「よく分かりました、私達で何かお手伝い出来る事でも有れば申して頂きたいのです。」
「私達は後藤さんや吉三さんのお気持ちだけで十分で御座います。
我々も吾助さん達には何もさせて頂けませんので、其れで此処で見て要るのです。」
飯田達も積み込み作業には参加させて貰えないと、やはり同じ店の仲間同士の方が何かとやりや
すいのだろうが、後藤も吉三も笑うに笑えない話で有る。
「左様でしたか、其れでは何か有りましたならば何時でもお待ちしておりますので、皆様方には大
変お忙しいところ誠に申し訳御座いませんでした、では失礼します。」
と、後藤と吉三は戻って行った。
吾助達は実に手際よく荷物、いや資材を馬車に積み込んでおり、お昼の休みを取った以外は休む
事も無く予定通りとでも言うのか、夕刻前には作業は終わり、いよいよ明日は連合国へ戻る事に
なったが、果たして後藤や吉三が心配する様な官軍兵は待ち伏せして要るのだろうか、其れとも残党か野盗が襲って来るのか、其れだけは全くわからないが、全員が無事に連合国に戻る事が出来るのかが全くわかないので有る。