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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 69 話。 参謀長の決断。

「社長様。」


「吾助さんも皆さんも何か有りましたか。」


 吾助達はまだ陽も高く何故に行けないのかがわからずに、其れで訳を聞きに来たのだ。


「社長様、何で行けないんでしょうか、お天道様もまだ高いですが。」


「私がもっと早く説明すれば良かったんですねぇ~、これは大変申し訳ないとしまして、実はです

ねぇ~、隧道を出て二里程の所で鹿が狼の追撃を受けており、今日は大変危険なので出発は中止し

て下さいと、先程、小隊長さんから申されたんですよ。」


「そうだったんですか、其れならば仕方有りませんねぇ~、では明日は出発する事は出来るんでしょうか。」


「私も分かりませんが、明日の早朝兵隊さんが今一度確認されに行くと聞いておりますので、私達

も安全でなければ出発する事は出来ないのです。」


 飯田も安全が確認出来なければ出発は出来ないと、其れは誰が考えても当然の話で有る。


「社長様、本当に申し訳有りませんでした、私も訳が分かりませんでしたので、余計な事を聞きま

してお許し願いたいのです。」


 吾助は申し訳ないと言うが。


「その様な事は有りませんよ、私達が先にお話しすれば良かったので、私達の不手際をお許し願いたいのです。」


 飯田は素直な気持ちで吾助に謝っているところに高野が来た。


「飯田様、馬を切り離し駐屯地に連れて行きましょう、皆様方はどうぞそのまままでお越し頂きた

いのです。」


 中隊の兵士が馬車から馬を切り離し、馬車は隧道の手前一町ほどの所に停車させた。


「高野様、誠に申し訳有りませんが、宜しくお願い致します。」


「では皆様方は一度執務室にお越し下さい。」


 高野は飯田達を執務室に案内した。


「さぁ~皆様方お座り下さい。」


 飯田達もだが吾助達も座り、高野は一体何を話すので有ろうか。


「飯田様や上田様に森田様はご存知だろとは思うのですが、吾助さん達も菊池に入られた時に聞かれたと思いますが、我々連合国が有ります山には狼の大群が生息し、今まで幕府軍や野盗に官軍からは大勢が狼の攻撃に会い、一体何人が犠牲になったのか我々さえもわからないのです。」


 高野は連合国に聳える高い山には狼の大群が生息して要ると言うのだが。


「ですがあの時は何ともなく来れたと思うんですけど。」


「其れは多分ですが物凄く運が良かったと私は思って要るんですよ、確かに東京を出発し菊池に着


くまでは一度も狼の襲撃に会う事も無かったのも事実です。

 私は他の地に住む狼あ知りませんが、我々の山に住む狼は特別だと思っております。」


 飯田達が東京を出発し、上州の官営工場に着き巻き糸を積み込み菊池に入るまで狼の襲撃も無

かったが、果たして狼は生息していなかったの、其れは誰にもわからない。


「何んで特別なのですか、私も村に住んでた頃は何度も狼の遠吠えを聞いておりますが、一度も人

間が襲われたとは聞いておりませんが、何故に此処だけは狼に襲われるのでしょうか。」


「実はですねぇ~、大昔有る宿場で二十数人の盗賊が有る大店に押込み強盗を働き、家人と店の全

員を殺し、そして、役人に追われ此処の山に逃げ込んだのですが、盗賊は必死だったのでしょう、

此処の山は麓から頂き付近まで身の丈よりも高い熊笹が茂り盗賊は手や足に顔に熊笹で切った傷の

為に血を流し、其れでも山を登って行ったのですが、その時、狼の大群に襲われ全員が餌食になっ

たんですよ、当然の事に役人も山に入りましたが、直ぐに引き返し為に難を逃れたんですが、その

話が宿場で広がり、その後、役人は絶対に山には入らなかったと、我々の国でも農民さんは絶対に

入らず、ですから農地も山の裾野よりも離れた所に田や畑を作り、農民さん達は誰も狼の犠牲のは

なっていないのです。」


「じゃ~連合国の人達は昔から狼の大群が。でも何で此処の狼は人間を襲うんですか。」


「多分ですが、その時、人間だったら簡単に襲えると思ったのでしょうねぇ~、ですから連合国の


兵隊さんも猟師さんと一緒でなければ絶対に山には入らないのです。


 今回の様に馬車部隊が向かわれる方角が山の麓を流れる川沿いに進むとなれば少なくとも三里以内に官軍の部隊や野盗に幕府の残党がいないか確認し、其れと風向きも調べ、これならば大丈夫だと確認出来無ければ、どの様な理由が有ろうとも隧道から出す事は出来ないんです。」

 

「吾助さん達も理解して欲しいのです。

 私達は吾助さん達が居られなくなる様な事態にでもなれば、其れこそ機織り機の補修もですが、

吾助さんは皆さんに取りましても大切なお方だと聞いております。」


 確かに吾助は農民で有った、だが店の人達には飯田達以上に安心出来る人物だと言うので有る。


「吾助さん、本当なんですよ、私達が此処まで来れたのは勿論、社長様は当然ですけど、私達全員

を此処まで引っ張ってくれたのは吾助さんだって、みんなが思ってるんですよ。」


 吾助を始め最初の農民達の命を助けたのは飯田、森田、上田の三名に違いは無く、だが飯田らは侍で有り、農民達が抱えて要る問題に対し納得出来る答えを出す事は無理が生ずる時が有る。

 その様な問題に対し、吾助は皆の相談相手だと言う、最初の頃には不平不満を聞き、吾助は自分なりに理解し相談した人達に不利益を被る事がない様に飯田達に相談と言うのか提起し、飯田達も真剣に受け、店の人達から不安を無くす様にしており、反対に吾助を通じて店の人達に提案する事も有り、吾助は飯田達と店の人達に取っては最も信頼出来る人物で有る。


「社長様、私は狼の恐ろしさを全然知らないんで、村に居た頃でも狼の話は無かったんです。」


「そうだったんですか、私はてっきり知っておられるとばかり思っておりまして、ですが先程も申

しましたが、此処に住む狼は恐ろしい程に賢いんですよ、此処では猟師さんが居られなければと

言ったのは狼の天敵は猟師さん達でしてね、狼は猟師さんが持つ火縄銃の音もですが、火縄銃の臭

いも知ってますから、遠くでも火縄の臭いがすればまず姿を見せる事は無いのです。」


「では猟師さんが姿を見せれば狼は逃げるんですか。」


「多分ですがその通りだとは思いますが、残念ながら我々には反対でして、例え兵隊さんが連発銃

を撃っても平気なんですよ。」


 兵隊の腕前が凄いと言っても猟師は先祖から伝えられ若い頃から師に教えを受け、更に長年の経験から学び、兵隊に説明したところで簡単に習得出来るものでは無い。


「社長様、此処に住む狼は特別で、猟師さん達も特別だと言われるんですね。」


「その通りでしてね、連合国では猟師さん達は特別でしてね、其れと同じ様に吾助さんはお店の人

達に取っては特別なんですよ、私達三名では解決出来ない問題でも吾助さんに相談すれば解決出来

ると考えておられるんですよ。」


「社長様、私は何も知らず勝手な事ばかり申しまして本当に申し訳有りません。」


 吾助もやっと納得した様で、やはり吾助が納得すると言う事は同行する店の人達にも良い影響を

与えるのは間違いは無い。


「吾助さんも皆さんもその様な訳ですから兵隊さんが安全ですよと申されるまでは此処で待つ事に

しますので、まぁ~暫くはのんびりとして下さい。」


 飯田達はその後、別の部屋で兵士からの吉報を待つ事にしたので有る。


「後藤さんはこんなにも大きな穴をどんな方法で岸壁にするんですか。」


「其れはねぇ~、実に簡単でしてね、吉三さんは班長さんを集めて執務室に来て頂けますか。」


 吉三は首を振りながらもみんなの所に行き、班長達と一緒に執務室に入った。


「皆さんも大変忙しいところ集まって頂きまして有難う御座います。


 これから本格的な岸壁造りに入りますが、今回の工事は今後とも続きますので詳しく説明しますので宜しくお願いします。」


 と、その時、上野を始め、中隊長や小隊長、更に左官屋からも代表と班長が、更に鍛冶屋からも数人が一緒に入って来た。


「参謀長殿、そして、今此処に集まって頂きました皆さんに報告させて頂きます。


 明日からとは申せませんが本格的に岸壁の工事に入る事が出来ますが、今から皆さんに説明させ

て頂きます。」


 後藤の執務室には三尺四方の大きな紙に岸壁の全体像から細部に渡る絵図が描かれており、更に

寸法も書かれて要る。


「皆様方も前後左右に岸壁の絵図を描いておりまして、寸法も書き込んでおりますが、皆さんには

これから準備して頂きます材料と寸法も書き込んで有りますので数日の内には準備が終わると思い

ますので宜しくお願いします。」


 その後、上野もだが代表や班長達は絵図の前に行き手持ちの紙に書き込んで行く。


「技師長さんにお伺いしたいんですが、この絵図では大きな箱の様にも見えるんですが、何でこん

な箱にするんですか。」


「そうですよ、オレ達は苦労して掘ったんですよ。」


 吉三組から不満の声が上がった。


「吉三組には大変なご無理をして頂きましたが、今から説明させて頂きますが、これは皆さん全員

にも知って頂きたいのです。」


 その後、後藤は半時以上も懸けて説明した。


「なぁ~んだそう言う事だったんですか、じゃ~これからもこの寸法の穴を掘るんですか。」


「ええ、その通りでしてね、全ての基本を此処の現場で行いますので今後の工事の基本だと思って

頂きたいのです。」


「技師長さんに聞きたいんですが、絵図の中に鉄の棒なんですが、何処に有るんですか、其れと細

い鉄の紐って言いますか、わしらは見た事が無いんですよ。」


 鍛冶屋は鉄棒も細い鉄棒、いや針金と言う物を見た事が無いと言う。


「土木技師長殿、私から説明させて頂いても宜しいでしょうか。」


「皆さん、中隊長さんが資材に関して報告して頂きますので、質問も有ると思いますが、中隊長さ

んの報告が終わってからして頂きたいので何卒宜しくお願い致します。


 では中隊長さん、宜しくお願い致します。」


「では早速報告させて頂きますが先日九州と長州から大量の物資が届けられまして、全てを整理出

来るまでまだ数日掛かりますが、先程鍛冶屋さんが申されました資材の全てが届いております。


 特に鉄板や鉄棒なのど金属物に付きましては多種類が揃っており、其れと道具類も多く届きまし

たので、皆さんのご心配は当面無いと思います。

 

 皆さんの中でこんな物やこんな道具が有れば助かるんだと言うので有れば後日でも宜しいので紙に書いて頂きたいのです。


 但しですが全ての道具や資材が望み通りに届けられるのか、其れだけは私でも分かりませんので

その事に関しましては何卒ご容赦願いたので。」


「中隊長さんにお聞きしたいんですが、品物が無くなったらどうするんですか。」


「実は其れに付きまして皆さんにご相談したいんですが、これらの資材に関しては皆さんで管理し

て頂きたいのですが、技師長殿はどの様に考えて頂けましょうか。」


 中隊長は以前、源三郎が上野に指摘していた事を覚えており、職人さん達には軍隊調の言葉使い

では協力するどころか、反対に反感を買うだけだと、やはり中隊長も相当言葉使いには苦労して要

る様子で有る。


「皆さん、只今、中隊長さんが申されました事は物凄く大事な事なんですよ、例えばですが。」


 後藤はその後、大工や左官屋に、そして、鍛冶屋にもだが、何も職人達だけでは無く、上野を含

めた中隊長や小隊長にも理解させる必要が有ると思い詳しく説明した。


「更に先程も私が申し上げましたが本格的な工事に入れるのは、皆さん方の話し合いが終わってか

らだと思っております。」


「技師長さんは以前ですが、吉三組さん達が筏で話し合いをされた様に、オレ達が現場に入ってからどんな方法で進めて行くのか話し合いをするんですか。」


「正しくその通りでしてね、皆さん方は今は絵図面を見られて大きさを考えておられて要るとは思

うんですよ、ですが絵図面と現場で見るのとは全く違いましてね、其れを実践されておられるのが

吉三組でしてね、確かに最初は面倒くさい事ばかりだと思いますよ、其れを乗り越えますと後々楽

だと思います。」


 後藤は吉三組が行って要る現場で最後の話し合いが最も大切だと話した。


「後藤さん、オラもいいですか。」


 やはり吉三が発言を求めた。


「吉三さんにお任せしますのでどうぞ。」


「皆さん、オラの話を聞いて欲しいんです。」


 やはりだ吉三の話には説得力が有るのか、誰もが真剣に聞いており、やはり吉三組は最初の頃に

大変な苦労し、其れが今の吉三組を作り上げたと後藤は思っており、職人達は納得して要る。


「吉三さんに聞きたいんですが、オレ達の話し合いに入って貰えるんですか。」


「オラ達で良かったら全員で入りますよ、其れに工事には何時でも入れますんで、さっきも言いま

したが、自分達だけの事ばっかり考えず、相手の立場も考えて欲しいんです。」


「みんなもどうだろうか、一度倉庫に行ってどんな物が有るのかだけでも見てから現場に行きたい

んだが。」


 やはり最初は大工の親方が発言した。


「わしも其れがいいと思うんだ、其れで現場に行って、みんなが前向きな考え方で考えてはどうだろうかなぁ~。」


 鍛冶屋も賛成だと続いた。


「オレも賛成だ、オレは吉三組さんの協力が大事だと思ってるんだ。」


 誰もが吉三組の協力を期待して要る。


「オラ達に出来る事だったら何でもやりますよ、まぁ~オラ達の経験した事が役立つんですから、

そうですよねぇ~後藤さん。」


「私も其れで良いと思いますよ、ただ皆さん方にお断りしたいのですが、我々もこの地に軍港が完

成するまで残らなければならないとは思うんですが、実は我々も国での仕事を途中で止めておりま

して、我々は有る程度目途が付けば一度国に戻りたいのです。


 と申しますのは、国での仕事も人命に関わる事でしてね、其れだけは皆さん方も理解して頂きた

いのです。」


 後藤は有る程度目途が付けば国に帰らせて欲しいと言うのだが。


「技師長殿が申されるのは私達も了解しなければならない思うのです。


 参謀長殿が以前に会われましたお坊様にご無理をお願いされたので、私達も何時までも技師長殿

や吉三組さんに頼ってばかりでは駄目だと思うのです。


 本当は私達が専門の技師長とこの地に来れば良かったのですが、私もこの地に来て初めて大変な

工事だと分かりましたが、今は何としても日本国の為に軍港を完成させて頂きたいのです。


 皆様方、何卒よろしくお願い申し上げます。

 この通りです。」


 と、上野が初めて手を付き頭を下げた。


 後藤も吉三もこれで軍港建設は成功すると確信した。


「参謀長殿、わしらもこれからは一生懸命にやりますんで、どうか頭を上げて下さい。」


「そうですよ、オレ達は吉三組さんから全部教えて貰って、いや必死で覚えてやりますんで、みんなもやってくれるか。」


「お~、勿論ですよ、吉三さんもお願いします。」


 と、大工に左官屋、其れに鍛冶屋が頭を下げた。


「じゃ~皆さん、今から行きましょうか。」


「よ~し、みんな行くぞ。」


 吉三を先頭に皆が資材や道具が搬入された倉庫へ向かった。


「上野様も良く決断して頂けました。


 私はこれで間違い無く軍港は完成出来ると思います。


 ただ、今までの日数を取り戻すことは出来ませんが、先程で上野様は職人さん達の信頼を得られ

たと思います。」


「私は何も考えず自然に出来たのです、やはり源三郎殿の申されました通りだと思います。」


「其れが一番大切だと思いますよ、これからは何も言わずとも宜しいかと思いますねぇ~、後は資

材を早く届けて頂く方法だけを考えて頂きたいのです。」


「参謀長殿、私がその任務、いや仕事に就かせて頂きたいのです。」


 上野も多分中隊長が志願するだろうと思っており、何も反対する必要も無いと思って要る。


「中隊長、私は嬉しいんだ、実は私からお願いしようと思ってたんだ、だが君一人ではとても無理

だよ、君から兵士に話して貰えるか。」


「勿論で御座います。


 私は皆に命令では無く志願で有ると説明しますので。」


「私は何も出来ないで、私が頭を下げ、皆が協力してくれるならば何度でも頭を下げる、土下座で

もするよ。」


 やっぱりだ参謀長、上野の決断で本格的な工事に入ると言う頃、菊池でも新たな動きが出た。



   

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