第 62 話。 連合国とは正しく理解に苦しむ国だ。
野洲に戻って着た源三郎と佐野、掛川の両隊長、更に軍医を含めた全員が執務室に揃った。
「皆様方と申しますより佐野さんに掛川さんと、更に軍医さんも我々の連合国にお越し頂きまして、
私は連合国を代表し御礼を申し上げます。
この度は誠に良き決断をして頂きまして大変感謝致しております。
さてお話しを申しますのは佐野さんと掛川さんは現在の日本国の状況をどの様に考えておられる
のか、其れをまずお伺いしたいのですが如何でしょうか。」
源三郎は佐野、掛川は現在の日本国の状況を知って要ると確信しており、最初から核心部分に
入って行く。
「勿論、自分達は全てを知って要るつもりで御座います。」
「左様ですか、では余計な説明は無しでお話をさせて頂きます。
我々の連合国で最も西の端に有ります山賀と申すします国ですが、今橘さんの部隊の兵隊さんに
秘密の基地建設の為に無理な、ですが我が連合国に取りましては最も重要な基地でして、其処では
連日過酷な作業に就いて頂いております。」
源三郎はその後も詳しく説明したが、佐野も掛川も現在の日本国が置かれて要る状況だけは理解
して要る。
だが初めて聞かされた潜水船、いや潜水艦とは一体どの様な軍艦なのか、其れが全く理解出来な
いので有る。
「私も官軍が建造しております軍艦に付きましては理解出来るのですが、今総司令長官殿がお話し
されました潜水艦とは今説明をお聞きしただけでは全く理解出来ないのですが。」
と、佐野が言うと。
「総司令長官殿、私もで御座います。
確かに理屈は理解出来るのですが、ですが一体どの様にして軍艦が海中に潜れるのかが理解も納
得も出来ないので御座います。」
「両隊長の申されます通りでしてね、実は私も最初に聞いた時には全く意味が分からずに、ですが
実際に潜水船が潜るのを見た時には理屈抜きで驚いたのです。
ではお伺いしたいのですが、お二方は官軍の軍艦が佐渡に向かったが五隻とも佐渡には到着して
いない事を。」
「其れならば私も聞いておりました、超強大な嵐に遭遇し五隻の軍艦全てが沈没したと。」
「ですがねぇ~、よ~く考えて下さいね、長崎の造船所で建造されたのは漁師さんが漁に出る為の
小舟では無いのですよ、更に軍艦だけが沈没する様な強大な嵐が発生すると思われますか。」
「自分も今だに信じる事が出来ないのですが。」
佐野も掛川も信じる事が出来ないのだと言う。
「両隊長、五隻の軍艦を海底に葬ったのは我が連合国軍の潜水船ですよ、そして、その時の指揮官
が吉田さんですよ。」
「えっ、其れは誠で御座いますか。」
「はい、全てが本当の話です。」
と、吉田の顔は自慢だと言って要る。
「そして、我が連合国軍には十数隻の潜水船が有りますが、其の何れもが木造でしてね、其れで今
回秘密基地で建造するのは鉄で建造する事になっております。」
源三郎は早くも鉄の潜水船を建造すると話すが、果たして、いや其れよりも鉄の潜水船を建造す
る為には鉄の板が必要なのだ、だが一体どの様な方法で調達するつもりなのだろうかと、工藤も考
えるが、其れは今だ解決されていない。
「今総司令長官殿は鉄の潜水艦を建造されると申されましたが連合国にも九州の八幡に有る様な巨
大な製鉄所が有るのでしょうか。」
「えっ、あっそうか、私は又飛んでも無い発言をして、これでは又技師長に怒られますねぇ~、私
は大変な失言をし皆様方には誠に申し訳御座いません。」
源三郎は何時もの様に手を付き頭を下げた。
だが源三郎は本当に失言したのだろうか、確かに今は鉄の軍艦を建造するしても一番必要な鉄の
板は一枚も作れないどころか、更に言えば連合国には鉄の板は一枚も存在しないので有る。
「今申されましたが技師長とはどの様なお方なので御座いますか。」
「あっ又ですか、これは大変ですよ、げんたに知られたら、又あんちゃんは余計な事を言ったと怒
られますねぇ~。」
だがそのげんたは城下の騒ぎを聞き付けお城へ向かって要る。
「技師長と申しますのは我が連合国では宝で、先程申しました潜水船を考え建造したのです。」
「左様で御座いますか。」
と返事はしたものの、佐野も掛川も技師長と呼ばれる人物は年配者だと思って要る。
「まぁ~そうですねぇ~、明日にでも浜に参りまして潜水船の実物を拝見して頂ければ信用して頂
けると思っておりますよ。」
その時。
「あんちゃん。」
と、げんたが執務室に入って来た。
「あっ、えっ、何で官軍が居るんだよ、やっぱりか。」
「げんた、いや技師長、此処に居られる方々は先程到着された新しい連合国の仲間ですよ。」
「まぁ~なぁ~、其れよりもあんちゃん、あの馬車だけど一体何を積んでるんだ。」
「あれはですねぇ~、全てが巻き糸でしてね、其れよりも今日は何か有ったのですか。」
「いいや何も無いけど城下で大騒ぎだって聞いたんで飛んで来たんだ。」
「総司令長官殿、先程申されました技師長とはこのお方なのですか。」
「あんちゃんは又余計な事を言ったのか。」
げんたは何時もの事だと思って要るが、佐野と掛川は源三郎が言った事を思い出して要る。
「いいえ、私は何も余計な話はしておりませんよ、ただ秘密の基地で潜水艦を建造すると、其れだ
けですからね。」
「其れが余計なんだよ、其れよりも洞窟の掘削は進んでるのか、オレは明日から山賀に行こうと、
あっそうだあんちゃんも一緒にどうだ。」
「そうですねぇ~、あの日から色々と有りましたので、貴方方もご一緒に如何でしょうか、私の説
明よりも現場の状況を見て頂けたら全て納得して頂けると思いますが。」
「自分は是非ともご一緒させて頂きます。」
「私も同じで御座います。」
佐野と掛川は行くと決めた。
「今回も色々と有りましたが、我々も長い間北の洞窟へは参っておりませんので皆様方もご同行願
いたいのです。」
げんたが来たお陰とでも言えば良いのか全員で山賀の洞窟へ行く事になった。
「げんたも明日は早く出立しますので、今日は。」
「いやオレは帰るよ、母ちゃんも心配するから。」
と、げんたはさっさと浜へと帰って行く。
「大佐殿は官軍の軍艦の基本を考えられたと伺いましたが、その時に潜水船は想像されたのでしょ
うか。」
「いいや、飛んでも無いよ、私も連合国に来て技師長が考えられた潜水船の説明を聞いた時には
さっぱり理解出来なかったんだ、だから君達が理解出来ないと言うよりも、潜水船とは其れほどに
も難解だと言うのが本当だと思うんだ。」
「佐野さん、掛川さん、技師長と言う人物ですが、何を考え作りだすのか、また最初に説明されて
も全く理解不可能なものを考え付くのですから、私は何時言われるのか、其れが一番の楽しみでし
てね、今も何かを考えて要るようですが、確かに今説明されても私は全く理解出来ない、まぁ~其
れが私の本音なのですよ。」
工藤が聞いても理解出来ないものを考え付くのだと、それ程にもげんたの想像力とは恐ろしいの
で有る。
「其れでは今も何かを考えておられるのですか。」
「まぁ~多分ですが間違いは有りませんが、例え、今説明されても理解するのは不可能だと言う事
ですよ。」
「佐野君に掛川君、連合国と言う国はだなぁ~、まぁ~言い方は悪いが変人の集まりかも知れない
ぞ、君達も官軍の中では相当な者だが、連合国の人達から見れば普通だと言う事だよ。」
と、軍医は大笑いした。
「では私も変人の一人でしょうか。」
「勿論だよ、工藤君ほどの変人はいないからなぁ~、だがその中でも最も一番の変人は源三郎殿と
申される総司令長官殿で有る事は間違いは無いと、わしは思ったよ。」
「今軍医さんは私が一番の変人だと申されましたが、私は大変自慢に思うのです。
ですが何故自慢だと聞かれましたならば、私は変人で無ければ考えの付かない事ばかりを考えま
したからと思いますからねぇ~。」
と、言う源三郎は笑うが、その後は余り深刻な話はする事も無く終わり、翌日の早朝。
「あんちゃん。」
と、やはりげんたが一番乗りで執務室に入って来た。
「げんた、随分と早いですねぇ~。」
「オレもなぁ~、この頃は物凄く忙しいんだぜ、なぁ~、そんな事より昨日の人達も山賀の洞窟で
働いて貰うのか。」
「私はその様に考えて要るのですがね、でも余り強制は出来ませんからねぇ~。」
「分かったよ、じゃ~頼んだよ。」
「お早う御座います。」
工藤達が来て、その後四半時程で全員が集まり、朝の食事を取ると数台の馬車に分乗し松川には
一時半程で着き、馬の交代を待つ少しの間休みを取り直ぐ山賀へ向かった。
「あんちゃんは鉄の板の事は考えてるのか。」
「そうですねぇ~、山賀では鉄の板は作れませんので何か策は無いかと考えて要るのですが、今の
ところは何も浮かんで来ないんですよ。」
「なぁ~、其れだったら山向こうの上野さんに頼んで見ればいいんだ。」
「ですがねぇ~其れは余りにも無謀と言うものですよ。」
「まぁ~オレだってそんな事はわかってるんだよ、だけどなぁ~、山賀で大きな鉄の板は作れない
んだぜ。」
源三郎もわかって要る、だが現状を考えれば果たして上野は、いやどんな方法で畳一畳の鉄の板
を、其れも一体何枚必要なのかもわからずに、更に鉄の板だけで潜水艦は建造出来ず、他にも骨組
みになる鉄の柱も必要で、上野の軍港で軍艦を建造するのか、其れによっては状況は大きく変化す
るのだと源三郎も考えており、其れよりも今は秘密の基地建設が優先される。
松川を発った源三郎達は二時半程で山賀に着いた。
「源三郎様が来られました、と若様にお伝え下さい。」
山賀の門番と数人の家臣は大慌てで若様の居る執務室へと走って行く。
「若様、源三郎様と技師長に、他にも大勢が来られました。」
「義兄上がですか。」
その時には源三郎達は執務室に来た。
「若、お久振りで、吉永様もお元気そうで何よりで御座います。」
「突然のご来訪ですが、何か有ったので御座いますか。」
「いいえ、私は別の有りませんが、若、其れよりもこちらの方々は工藤さんの元部下と申しまして
も、数日前に百五十台もの馬車と一緒に来られたのです。」
「左様ですか、詳しくは後程にしましてお食事は。」
「其れがまだでしてねぇ~、お願い出来ますか。」
「勿論ですよ。」
その前に高木と数人の家臣は執務室を飛び出し賄い処へと向かっていた。
「若、其れとですが、馬車に積んで有る巻き糸を預かって頂きたいのです。」
「巻き糸とはどの様な、いや其れよりも直ぐ空き部屋を。」
大手門からは特別に作られた十二頭立ての馬車と八頭立ての馬車が城内に入って行く。
「吾助さんは巻き糸の保管方法を。」
吾助と数名の店の者が家臣の案内で空き部屋へと向かい、同行した大隊の兵士が巻き糸を運んで
行く。
「若、正太さんと銀次さんに親方を呼んで頂きたいのです。」
だがその前に銀次と親方がやって着た。
「源三郎様が来られたと聞きましたんで。」
「銀次さんも親方もお元気そうで何よりです。」
「家の方ですが、その後は如何しょうか。」
「まぁ~一応は順調ですが。」
「銀次さんに親方、五寸の角材と板が大量に有るのですが、少しは楽になりますかねぇ~。」
「其れは勿論でして、でもそんな角材が一体何処に有るんですか。」
銀次や親方が知る訳も無く。
「銀次さんも親方も聞いて頂けますか。」
源三郎は聞けと言うが、銀次達話はあの日から原木の切り倒しと城下まで運ぶ、其れこそが銀次
達の戦いなのだ。
「実を申しますと。」
源三郎は重量超過で動けなくなった馬車を菊池まで運ぶ為に駐屯地の建物を解体し、その角材や
板が大量に有ると話した。
「其れだったらオレ達も大助かりですよ。」
「源三郎様、わしらもですよ、今までは銀次さん達に加工を手伝って貰ってたんですが、どれだけ
の角材や板が有るのか知りませんが、細かい加工だけで済むんだったら、もう大助かりですよ。」
「では銀次さんにお願い出来ますか。」
「そんなの勿論ですよ、今直ぐにでも行かせて貰いますんで。」
だが現実は馬車には超大量の巻き糸が積んで有り、全てをお城に運び込む、この作業が大変だ。
「親方も銀次さんも少し待って下さいね、馬車には一体どれだけの巻き糸が積んで有るのかもわか
りませんし、其れを全てお城に運び込む作業が有りますので、まぁ~四日か五日程は待って頂きた
いのです。」
全ての物資が運び終わると銀次達も少しは楽になるだろう。
「源三郎様。」
と、正太が飛び込んで来た。
「正太さんにお聞きしたいのですが、洞窟は今どの様になっておりますか。」
「其れがあの兵隊さん達ですが。」
「どの兵隊さん達かわかりますか。」
正太が言った兵隊とは浅川の部隊の生き残りなのか、其れとも。
「え~っと、確か二十五人程の兵隊さんだと思うんですが。」
「其れならばわかりましたよ、其れで。」
「其れが。」
正太はその後詳しく説明すると。
「そうでしたか、其れでは彼らもやっと必死で働く様になったのですか。」
「ええ、其れに大江のお侍が常に削った所を確認されてますんで。」
山賀の洞窟は北の空堀から入るが殆どが岩盤で鏨だけは大変だと、其処で源三郎が考え付いたの
が中心を木の棒を入れ左右に鏨を付けた、源三郎は鶴の嘴だと思い、この時名付けたのが「鶴嘴で
{⛏}で、其れを鍛冶屋には大量に必要だと、其れが数百本も有り、鶴嘴と言う道具が出来たお陰と
言うのか、今までの数倍の速さで岩を削って要る。
「源三郎様、あの人達は物凄いですよ、技師長さんと後藤さんが書かれた絵図面を元に数枚、いや
もっと多いと思いますが、絵図面を書かれ、其れをご自分達も数組に分かれ、いやオレの説明より
も洞窟に入れば、その凄さは直ぐにわかりますよ。」
「成程ねぇ~、では大江の方々が中心になられて居られるのですか。」
「そうなんですよ、あの人達はお侍と言うよりも技師長さんとは違う何か特別な考え方を持って要
るような気がするんですよ。」
正太も今では総監督の役目に就いており直接作業に入る事は無いが、正太達も驚いて要ると言う
大江の元家臣達は何故か特別の能力でも有るのだろうかと思われる。
「其れならば早速参りましょうか。」
正太は大江の元家臣達を誉めちぎり、源三郎も早く見たいと、北の洞窟へ向かうので有る。
佐野達は北の洞窟に向かうまでは驚きの連続で、更に地下から空堀に入ると。
「何と言う巨大な空堀だ、自分達はこの様に巨大な空堀を見るのは初めて御座います。」
「大手門からはわかりませんが、奥行きが物凄く大きいのですねぇ~。」
掛川も山賀のお城の秘密を知り何とも言えない表情をして要る。
「さぁ~此処から洞窟に入って行きますので。」
「この様な所に洞窟が有るとは到底思えないのですがねぇ~。」
「ええ、正しくその通りでしてね、私もこの様な所に巨大な洞窟が掘られて要るとは発見するまで
は信じる事が出来なかったのですよ。」
源三郎も正か空堀の上に有る祠の裏側に巨大な洞窟が掘られて要るとは今でも信じられないのだ
ろうか。
「わぁ~。」
「えっ。」
と、佐野と掛川、更に軍医が大変な驚き様で有る。
洞窟の中に入った所で軍港を建設するとは、それ程までに巨大な洞窟なのだろうか。
「いいえ、軍港を建設するのは此処では無く、山賀の北側に有る断崖絶壁の真下でして、此処から
はまだ先ですよ。」
「まだ先だと申されましたが、これ程にも巨大な洞窟ですが一体何処まで続いて要るのですか。」
「右側は確か数丁先までですが、左側に有るのは、そうですねぇ~一里以上は有ると思いますが、
正太さん、この岩盤ですが相当深く掘らなければならないと思うのですが。」
「其れなんですが。」
正太はげんたと後藤が描いた絵図面を元に大江の元家臣達が書いた書き物と絵図面を見せた。
「大江のお侍は落盤した現場を中心に、まぁ~その話をすると数日は掛かりますよ。」
「へぇ~そんなにも大変だったのですか。」
「そうなんですよ、其れよりも若様は大江のお侍には私に報告される必要は有りませんよって。」
「成程ねぇ~、洞窟の拡張と並行して色々な工事を考えられたのですか。」
「そうなんですよ、其れにまだ有りましてね、石炭と鉄になる土の見分け方もみんなに教え、其れ
にですよ不要になる土や岩石の捨て場なんですが一体何処だと思われるますか。」
正太も正かと思う様な奇抜な考え方で次々と方策を考えて行く大江の元家臣達で有る。
「不要になった土と岩石の捨て場ですか、う~ん一体何処なのですか、私は全くわからないのです
がねぇ~。」
「やっぱりねぇ~、源三郎様でもわからないんだ、其れが石垣なんですよ。」
「ですが、あの場所はには何もなかったですよ。」
源三郎も全く気付いていない。
「石垣の下から上まで続く坂道を作ってるんですよ。」
「ですが、此処の石垣は恐ろしい程にも高いですよ。」
「源三郎様も見られたら驚きますよ、だって此処から五町か、いやもっと有ると思うんですが、お
侍たちはこの坂道は何れの時が来れば必ず役に立つって言ってましたから。」
源三郎もだが正太や、まして大江の元家臣達は何れの時とは言ったが、その何れの時が有るとは
この時には誰も考える事は出来なかった。
「さぁ~皆さん洞窟の先端まで参りましょうか。」
源三郎達は落盤事故の有った先端へと向かったが先端までは半時以上も掛かるが、佐野と掛川は
巨大な洞窟の中をきょろきょろとしながら歩き、一時半程も掛かった。
「佐野さん、掛川さん、軍医さん、この直ぐ先が一番の先端で数十日も前に大きな落盤事故が有り
まして十数名が亡くなりまして、その場所だけは今でもその時のままだと思います。」
だが其処では橘の部下達が一生懸命作業を行って要る。
「皆さん、大変ご苦労様です、今日は連隊長と佐野、掛川の両隊長と軍医さんも一緒に来られまし
たよ。」
「えっ、本当ですか。」
と、数人の兵士が振り返ると。
「お~い、みんな連隊長殿と佐野隊長に掛川隊長だ、其れに軍医殿も一緒に来られたぞ。」
「みんなも元気そうだなぁ~。」
「軍医殿もお久し振りです。」
「其れにしてもみんなは大丈夫なのか。」
「そんなのって勿論ですよ、此処の人達は誰にでも優しくて本当に親切なんで、其れに此処じゃ~
戦も無いんですよ、其れにご飯も美味しいですよ。」
「そうですよ、オレ達は官軍の時よりも此処の方がず~っと楽しいですからねぇ~。」
「えっ、楽しいって、だけど一体何が楽しいんだ、此処は洞窟の中だぞ。」
「其れはわかってますよ、でも此処では誰も命令しないんですよ、オレ達は源三郎様が言われたの
が本当だってわかったんです。」
源三郎は命令は出さないと、佐野も掛川も聞いていたが、今彼らは命令では無く自分の意志で此
処の作業に就いているのだと言う。
「両隊長も私の言った事が本当だと分かったと思うんだ、此処の現場でもだが他の現場でも人手が
足りず、その為に一部の作業員が無理をしており、何時怪我や病気に掛かるのかも知れず、その為
総司令は何か良い方法が無いかと考えておられるんだ、君達にも少しは理解出来ると思う、其れが
今回何かの大間違いで君達の部隊が我々の連合国に仲間となった、総司令もだが私も無理にとは言
わないが、君達から大隊の兵士に話をして欲しいんだ、この通り頼む。」
と、工藤は手を付き頭を下げた。
「大佐殿、頭を上げて下さい。」
佐野と掛川は工藤を起こした。
「総司令長官殿、わしは此処で診療所を開設したいんですが宜しいでしょうか。」
「軍医さん、私は大助かりで皆さんも大変喜ばれると思いますよ。」
「自分は後日部下に話して見ます。」
「私もで、其れと私も作業に就きたいのですが。」
掛川は一人の作業員として参加させてくれと言うが。
「佐野さんと掛川さんは後日若と正太さんに相談して頂き、どの様な仕事が適任かを決めて下さい。
其れと橘さんは工藤さんと相談して下さい。
正太さんは山賀では総監督としての一番大事な仕事が有りますのでね。」
「何でオレんですか、若様が。」
「其れは違いますよ、若様はねぇ~世間知らずですから、其れに正太さんは城下の人達から一番信
頼されており、ですから山賀を任せられるのです。」
「そうですよ、若しもですよ、私が総監督になれば城下の人達から言われますよ、世間知らずに何
が出来るんだってね、私は其れが一番恐ろしいんで、ですからねっ、正太さんは義兄上の申される
通り山賀の総監督になり秘密の潜水艦基地を建造して頂きたいのです。」
と、若様は正太に頭を下げるのを見た佐野と掛川は口を開き唖然として要る。
佐野と掛川、更に軍医は源三郎が頭を下げるのは見た、だが一国の藩主が町民に、其れも島帰り
の者に頭を下げるとは現実に起こるとは思いもしなかった。
「若様、本当にオレでいいんですか。」
「勿論ですよ、正ですよ、正太さんは山賀の為では無く、連合国の、いや日本国の為に命を捧げて
頂きたいのです。」
源三郎の言う山賀や連合国の為では無く、日本国の為に命を捧げよとの言葉で決心が付いた。
「分かりましたよ、オレはこの先、日本国の為に命を懸けてやりますんで任せて下さい。」
この様にして正太の一件は片付いたが源三郎はげんたが考えて要る秘密の潜水艦基地が何時にな
れば完成するのか、更にげんたは山賀に入ってから何かを考えて要る様で、だが源三郎は全く気付
いていない。