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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 109 話。 良かったなぁ~、生きて帰って来れたんだから。

 「あれは若しや、いや間違いなく我が軍の兵士だ、大至急高野司令に。」


 と 言った時、下に居た兵士は馬に跨り隧道を駆け抜けて行く。


「お~い、みんなが、みんなが戻って来るぞ。」


 馬上の兵士は大声で叫ぶが大木の上に在る監視所の兵士には全く聞こえていない。


「みんなが元気で二日後のお昼頃に戻って来るぞ。」


「そうか、それは良かったなぁ~、直ぐ高野司令に伝えて下さい。」


 馬上の兵士はそのまま隧道を駆け抜けお城へ。


「高野司令、今伝令が戻って着ます。」


「そうですか、では直ぐ馬の交換が出来る様に伝えて下さい。」


 執務室の家臣は大急ぎで馬屋に向かった。


「高野司令に伝令で~す、輸送部隊は二日後のお昼頃到着の予定です。」


「左様ですか、貴方は大変では有りますが、少し休まれてから。」


「司令、自分は大丈夫ですから直ぐ馬を交換し直ぐ野洲へ向かいます。」


 兵士は其れだけを言うと、又も馬に跨り野洲へと飛ばし、四半時後。


「総司令。」


「やっと戻って来られるのですね。」


「はい、二日後のお昼前に菊池に到着の予定で御座います。」


「左様ですか、其れで全員で一体何人くらいでしょうか。」


「大よそですが、六千人近くかと。」


「はい、承知致しました、では貴方は少し休まれてから戻って下さいね、私からの伝言も有ります


ので。」


 だが今更どんな伝言が有るのだろうかと兵士は思うが、源三郎は兵士を休ませる為の口実で何も


伝える必要も無かった。


「鈴木様に上田様、そして皆様方今から今後に付いてのお話をしますので書き留めて下さいね、私


からの伝言も有りますので。」


 その後、源三郎は次々と指示を出し、鈴木達家臣は必死で書き留めて行くが、源三郎の指示事項


はその後半時程続いた。


「では私が申しました事柄は書き留めて頂いたと思いますので、皆様方はお願いしました通りに


入って下さい。」




 鈴木達は一斉に行動を開始し、そして、二日後の朝菊池から松川までの領民達と家臣達が動き始


め、源三郎は菊池へと向かった。


「佐野隊長、掛川隊長目の前に聳える高い山を抜けますと我々の連合国で御座います。」


「なぁ~吉田君、一体何処から入るんだ。」


「其れも直ぐにわかりますので大隊は入り口まで角材を敷き詰めて下さい。」


 吉田の号令か、いや指示なのか連合国の兵士達の動きに佐野達にはさっぱり理解出来ない。


「中隊は付近の警戒を。」


 吉田が言った時と同じ頃隧道から一斉に兵士が飛び出し山の動きを見ている。


「さぁ~みんなは最後の力を振り絞って下さい。」


「お~。」


 と、大隊の全兵士が雄叫びを上げ、馬に繋いだ縄を引き始めた。


「えっ、何だあれは。」


 と、掛川は、いや其れは掛川だけでは無く、何も知らない駐屯地の兵士達は驚いたが、飯田を先


頭に馬車は次々と隧道に吸い込まれて行き、そして、隧道を出ると其処には大勢の領民が待ち構え


ており。


「吉田さん、大変ご苦労様でした。」


「総司令、馬車の全てと二個大隊、更に軍医殿をお連れ致しました。」


「ご貴殿が軍医さんですか、私は源三郎と申します。」


「えっ、ご貴殿が源三郎殿で。」


 軍医もだが佐野とい掛川の両隊長とも大変な驚き様で、其れは源三郎とは年配者だと彼らが勝手


に思い違いとしたのだろう。


「私が源三郎に間違いは御座いませんよ。」


「左様ですか、お~、これは正しく工藤の幽霊だ、うん間違いは無いぞ、だが良くも無事だった


なぁ~。」


「軍医殿、お話は後程に。」


「では皆様方、我々の連合国にようこそお越し頂きまして、領民を代表し御礼を申し上げます。


 其れで馬車ですが一体何台有るのでしょうか。」


「総司令官殿、大変申し訳御座いませんが、余りにも急な事でして、今だ何台有るのかも判らない


のです。」


「左様ですか、其れも仕方が有りませんねぇ~、では皆様方予定通りに入って頂けますか。」


「では馬車を止めた順番に馬を離して下さい。」


 その後も馬車の列は続き先頭は既にお城を超えており、菊池と野洲の家臣は馬を止める位置まで


誘導し馬を離して行く。


「お~い、みんな皆さん方を案内してくれよ。」


 菊池と野洲の領民が駐屯地から着た兵士達を、そして看護婦が乗った馬車の御者を案内するが一


体何処に連れて行かれるのか分からずにいる。


「皆さん、では宜しくお願いしますね。」


「源三郎様、俺達に任せて下さいよ。」


 領民が案内して行く先には数百もの鍋が湯気を上げ待って要る。


「さぁ~みんな、今日は特別だからな。」


「じゃ~始めようぜ。」


 領民の女性達が一斉にお鍋からお椀に入れて行く物とは、やはりこんな時には雑炊が一番で有る。


「皆さん、今日はねぇ~特別に毒をたっぷりと入れて有るからねゆっくりと味わってね。」


「えっ、毒って、そんなぁ~。」


「済まんなぁ~、みんなは此処で食べて欲しいんだ、だけど此処の雑炊は最高に美味いぞ。」


「そんなの当たり前の事よ。」、私達が愛情を込めて作ったんだかね、さぁ~先の事は心配しない


で食べて下さいな。」


 領民達は誰もが嬉しそうな顔をし、兵士や看護婦が食べている様子を見ている。


「さぁ~皆様方もどうど我が連合国の雑炊は最高に美味しいですよ。」


「源三郎様も食べて下さいね。」


「私はまだ宜しいですから。」


「えっ、じゃ~オラが作った雑炊は食べれないって言うんですか。」


 さぁ~始まったぞ、本気なのか、其れとも冗談なのか漁師のお母さんが源三郎に絡み始めたぞ。


「大佐殿、あの女性ですが。」


「あの人達は漁師の奥さんですよ、まぁ~此処では何時もの事ですから、何も心配する事は有りま


せんよ。」


 工藤も吉田も大笑いしているが佐野達にはさっぱり意味がわからない。


「いいえ、その様な事は決して有りませんのでね、お母さん、私よりも皆様方に、ねっお願いしま


すよ、この通りですから。」


「いいや駄目だ、みんな聞いてよ源三郎様はオラ達が作った雑炊は食べないって言うんだよ。」


「えっ、本当なの、じゃ~いいですよ、誰か雪乃様の。」


 と、言いながら漁師の奥さん達は大笑いしている。


「お願いしますよ、其れだけは言わないで下さいよ、私は。」


「皆さん、何か有ったのですか。」


 やはりだ、雪乃も来ていた。



「雪乃様、源三郎様が。」


「お願いですから、ねっ、この通り。」


 と、源三郎は手を合わせた。


「大佐殿、あの美しいお方は。」


「あのお方が総司令の奥様で元松川藩の姫君なんだ。」


「えっ、其れは誠ですか、ですがあのお着物は。」


「その通りなんだ、何時も腰元とお着物を召されておられるんだ、だが連合国では誰でも知ってい


る事なんだ。」


「まぁ~何とお美しいお方です事、私はとても羨ましいですわ。」


「娘さん、あのお方が雪乃様って言ってオレ達の源三郎様の奥方様なんだ。」


「そうなんだ、オレ達には源三郎様と同じくらいに自慢出来るお姫様なんだよ。」


「えっ、何ですって、お姫様って、でもあのお着物は。」


「そうだよ、私達の雪乃様はねぇ~私達町民には一番の見方なんですよ。」


 看護婦と呼ばれる女性達も大変な驚き様で、正かお姫様が腰元の着物姿で来るとは思っておらず、


町民達と気軽に接している姿を何と解釈しているだろうか、そして、源三郎と町民のやり取りに佐


野や掛川達は驚いているが、佐野達が知っている城下では全く見た事も無い風景だが周りは笑いに


満ちている。


「両隊長も軍医殿にも後程にゆっくりとお話を聞かれますと全てを理解出来ると思います。」


 橘もこの数日で少しだがやっと理解出来る様になった。


「吉田さん、兵隊さんのお食事が終わりましたら。」


「総司令、昨日指示書を頂きましたので全てお任せ頂きたいのですが。」


 吉田は各隊の中隊長達と話しを始めた。


 そして、昼食も一時半程で終わり、連合国軍の兵士達が一斉に動き始め、馬車には次々と馬が繋


がれ菊池のお城へ予定された台数が入って行く。


「義兄上。」


 山賀の若様がやって着た。


「若、今回は大変ですよ。」


「遅れまして誠に申し訳御座いませぬ。」


「大佐殿、あのお方ですが。」


「若様と呼ばれましてね、雪乃様の弟君ですよ。」


 佐野達はまたも驚いた、


若様と呼ばれる人物も農民姿で有る。


「佐野隊長、連合国では殆どが農作業用の着物を着ておられますよ。」


「では連合国の侍もですか。」

 

「その通りですよ、まぁ~その内に慣れますから。」


 菊池にやって着た佐野達もだが兵士達も驚きの連続で眼を白黒させている。


「では皆さんそろそろ参りましょうか。」


 源三郎の言葉で領民達も動きだした。


「ねぇ~源三郎様、兵隊さんのお風呂ですが。」


「皆さんには大変なご迷惑をお掛けしますが何卒宜しくお願い致します。」


「源三郎様、オレ達に任せて下さいよ、よ~し、みんな兵隊さんはオレ達の仲間だからみんなで案


内するんだ。」


 菊池の城下に有る風呂屋にも数百人もの兵士が連れて行かれ、高野、阿波野、斉藤が大隊の兵士


を振り分けて行く。


「では我々も参りましょうか。」


 一斉に馬車も動き出し野洲へと向かい、其れとは別に菊池から続いている角材も次々と運ばれ、


その数は一体何本有るのかも解らない。


「吉田。」


「殿、我々も受け入れ準備に入っておりますので、今暫くのご辛抱をお願い致します。」


 野洲のお殿様もだが上田や松川でも同じでお殿様は邪魔で行く処も無く部屋に閉じ込められた状


態で有る。


「高野様、阿波野様、斉藤様も野洲に、其れと工藤さんは佐野さんと掛川さん、其れに軍医さんも


ご一緒にお願い致します。」


 工藤も源三郎の指示書を受け取っており、佐野、掛川、軍医、更に橘と共に野洲へ向かった。


「お~い、まだ見えないのか。」


「うん、其れがまだなんだ。」


 野洲に残った領民達も源三郎を待って要る。


「総司令、先程馬車の台数が判明致しました。


 大型が六十台と小型が四十台で残りの五十台は駐屯地と他の馬車で御座います。」


 何と百五十台もの荷馬車が連なり連合国を目指していたと言うので有る。


「成程ねぇ~百五十台ですか、まぁ~其れにしても物凄い台数ですが良くもまぁ~駐屯地から菊池


まで来る間にですよ官軍に発見され無かったですねぇ~。」


「確かに総司令官殿に申されますと、私は後方の事までは考えも付きませんでした。」


 橘も考え付かなかったと言うが。


「吉田さん、最後ですが。」


「菊池の中隊長にお願いしておきましたので大丈夫だと思います。」


「総司令官殿、今申されました後方の事ですが、百五十台もの荷馬車の、其れも特別に重いのです


から全ての痕跡を消す事は不可能だと思うのですが。」


「私はねぇ~何も全てを消すのでは無く所々に轍の跡を残し。」


「では別の方向に轍を付けて行くのですか。」


「そうですよ、其れもわざとらしくね、行く先には広大な林が有りましてね、その中に工藤さん達


が潜んで要ると思わせるのです。


 橘さんも元は工藤さんの部下だと司令部も知っておられるでしょうが、幾ら官軍だと言っても広


大な林の隅々まで捜索するのはとても無理が有り、何時何処から襲われるかも知れないのです。」


「そうか私も少しだけですが分かりました。


 大佐殿の部隊と連隊長殿の部隊を合わせれば一体どれ程の大部隊になって要るのか司令部も見当


が付かないと言う訳で、林の中を移動すれば全く見つける事は不可能に近いと言う訳になるのです


ねぇ~。」


「まぁ~その通りでしてね、吉田さんの部隊と、更に五千人の大部隊が工藤さん側だと知れば幾ら


重装備の官軍でも手出しは出来ない、ですが林の中には誰もおらず全員が我が連合国に入られて要


るのです。」


「佐野隊長、総司令のお考えを知るだけでも並みの司令官では無理だよ、我々が今この様に元気で


居られるのは全て総司令のお陰なんだ。」


「ですが大佐殿も相当な戦略家では御座いませんか。」


「其れはなぁ~官軍が考えて要るだけなんだ、連合国がこの数百年間と言う長き間世間に知られる


事も無く存在して来られたのは、其れまでに多くの人達が知恵を絞られたと思うんだ、私も官軍で


は其れなりに戦略を練ったが、総司令は多分だが吉田には細かい指示は出されず簡単に後の事は宜


しく頼みますと、ただ其れだけを言われた思うんだ、そして、我々は何時もこの様な時には何をす


れば良いのか、其れはなぁ~何も吉田や中隊長達だけで考えるのでは無く、兵士達も一緒になり真


剣に考えるんだ、私は吉田は何も言わず、全て中隊長に任せたと思うんだがどうだろうか。」


「正しくその通りでして、私は菊池には菊池の、そして、野洲には野洲のその時の状況に変化して


行くのを兵士の誰もが知っておりますので、中隊長には宜しくお願いしますと、ただ其れだけでで


した。」


 菊地の隧道を出るとその付近を知るのは菊池に駐屯する中隊で有り、彼らはその時の状況次第で


どの様にでも変化させなければならないと、其れは今まで何度と無く経験し、其れが今でも同じで


有り、源三郎は現場の状況変化に対応する事の方が大事だと言う、現場を知らず、ただ命令を出す


官軍の方式では無く、其れを知って要るのは全て現場の兵士達で有り、兵士達の意見を最大限に生


かす、其れこそが源三郎の言う現場第一主義で有る。


 一部の荷馬車を菊池に残したが、其れでも大多数の荷馬車はゆっくりと進み二時程して野洲の城


下へと差し掛かった。


「お~い、源三郎様が戻って来られたぞ。」


 と、数人の領民が大声を出しながら大手門の広場へと走って行く。


「よ~し、今だ火を付けてくれ。」


 一度炊き上がった雑炊の大鍋を置いた釜戸に火が入った。


「源三郎様、後は私達に任せて下さいね。」


「皆さん、本当に有難う、私は何とお礼を申して良いのかわかりませんよ。」


「そんな事はいいんですよ、その代わり今度又お願いしますよ。」


「はい、勿論ですよ、私も楽しみしておりますので。」


「ねぇ~源三郎様、あの人達は。」


 野洲の領民が見た人達とは。


「ああ、あの人達ならば看護婦さんと申しましてね、怪我や病気になられた兵隊さんを看病する専


門の女性達ですよ。」


「なぁ~んだ、だったら源三郎様の新しいお人じゃなかったんですか。」


「えっ、私にですか、飛んでも有りませんよ。」


「あ~あ、やっぱりねぇ~、源三郎様には雪乃様が居られるんだものねぇ~。」


「大佐殿、女性達は何を言われて要るのですか。」


「あれならば何時もの会話ですよ、特に野洲の女性達は総司令の奥方様には一番の見方で、だけど


総司令もあの会話を楽しみにされてるんだ。」


「では総司令官殿に対して野洲の人達は。」


「まぁ~簡単に話すとだが特別なお方だと言う事だけは間違いは無いよ。」


「うっ、何だ。」


 それは源三郎が何かを感じたのか。


「吉田さん、一番後ろに居る数人の兵士ですが。」


 吉田は何気なく振り返ると数人の兵士が誰にも気付かれないにと別の兵士の後ろを歩いて要るよ


うにも見える。


「総司令。」


「ではお願いしますね、私の合図で。」


 吉田は数人の兵士を連れ一番後ろへと向かった。


「皆さん、大変ご苦労様でした、看護婦さん達はお城へ、其れと兵隊さん達には少しですがお話が


有りますのでその場に腰を下ろして下さい。」


 二個大隊の兵士達は菊池では驚きの連続で、だが野洲に来る頃までにはこれで戦に行く事も無い


と思ったのか表情も和んで来ており、源三郎から話が有ると聞いても左程驚いた表情でも無い、だ


が源三郎は飛んでも無い話をするので有る。


「皆さんも大変お疲れだと思いますが私は非常に残念なお話しをしなければなりません。」


 源三郎が非常に残念なお話しだと言った瞬間兵士達がざわめき出し源三郎は暫く何も言わず自然


に収まるのを待った。


「皆さん、私が残念だと申しますのは、皆さんには大変申し訳有りませんがこの中に密偵が潜んで


要るのですが、其れも数人ですがね。」


 今度は大騒ぎになり兵士達はお互いの顔を見て何かを言っており、このままでは収まりが付かず


大変な事態に発展するかも知れない。


「総司令官殿、私の部下に密偵が要ると聞こえたのですが、私の部下に限ってその様な兵は一人も


いないと信じております。」


 橘は部下の中に密偵が潜んで要るとは思っておらず、其れは何も橘に限ってでは無く、佐野も掛


川の両隊長も同じ気持ちで有る。


「橘さん、其れに佐野さんに掛川さんのお気持ちは私も十分に理解出来ますよ、ではお伺いします


が、佐野さんは大隊全員の顔を覚えておられますか。」


「えっ、大隊全員の顔をですか。」


 佐野はそれ以上何も言わず考え込んだ。


 大隊規模ともなれば一千人以上の兵がおり、隊長が全員の顔を覚えるとは今までの官軍では考え


の付かない話で、だが連合国では違う。


「私は兵士の把握は中隊長達に任せておりました。」


「まぁ~其れが普通でしてね、ですが我が軍では違いましてね、此処では議論と申しましょうか、


話し合いとでも申しましょうか、それらが常に何処かで行われておりましてね、その時には上官も


兵士も関係無く行われるのです。」


「ですが、其れでは軍の規律と申しましょうか。」


「佐野さんの申されるのも最もだと思いますよ、ではお伺いしますが軍の規律とは一体どの様な事


なのですか、兵士は何事に置いても上官の命令通りに動く、其れが軍の規律なのですか。」


「私はその様に考えております。」


「ではお伺いしますが一兵卒は上官よりも質と申しましょうか、考える力が無いと考えておられる


のでしょうか。」


「ですが我々は。」


「其れでは教えて頂きたいのですがね、貴方方は今の空を見てこの先の状態までお分かりになりま


すか。」


「申し訳御座いませんが、私は農民では有りませんので其処まではわからないのです。」


「今貴方は農民では無いので分からないと申されましたが、農民さん達は官軍、いや、人間と言う


敵を相手にして要るのでは無いのですよ、この自然と言う我々の想像も付かない相手に年中戦を行


い、そして、農民さん達の苦労が実り作物が出来るのです。


 農民さんと言うのはねぇ~、私よりも遥かに先の事までも考えておられるのです。


 ご貴殿にこの意味がわかりますか。」


「う~ん。」


 と、佐野は何も言えない。


「我々の国では誰もが毎日真剣に生きておられるのですよ、其れはね、誰でも命令される事は有り


ませんが、自分には何が出来るのか、その為には何が必要なにか、ですから連合国軍では上官がお


願いする事も無く兵隊さん達が自らの判断で実行されるのです。


 吉田さんと一緒に行かれました兵隊さんは誰の命令でも無く自らの意志で決められ行かれた、で


すから吉田さんは何も詳しく説明される必要も無いと、其れが我々の連合国なのですよ、まぁ~今


の話に深刻になられる必要も有りませんよ、其れで先程のお話しに戻りますが、私は今名乗り上げ


るので有れば今までの事は全て水に流しますよ、そうだ私も忘れておりましたが川田と言われる師


団長と浅川と言われる隊長ですが,今はもう狼のお腹の中に入っておりますのでね。」


「あの~、今のお話ですが狼のお腹って、若しや狼に食われたんですか。」


「ええ、正しくその通りでしてね、其れと浅川さんの大隊の兵隊さんも全員もでして、其れと中隊


長と小隊長以外の全員ですが、私のお願いを聞かず人質を取られましてね、私は仲間を助ける為に


大変残念ですが全員が狼の餌食になられました。」


「連隊長殿、今のお話は本当なんですか。」


「本当の話だよ、総司令官殿は人質を解放するならば山の向こう側に無事行けるように約束する、


だが一人でも殺すか怪我をさせたならば貴方方はこの世で一番恐ろしい地獄に行く事になりますが


其れでも宜しいのかと申され、だが彼らは話を全く耳も課さずに人質を盾にしたんだ、其れで山賀


の小川隊長が考えられえた作戦が決行され全員が狼の餌食になった、だが総司令官殿はその前に山


賀の領民全員がお城に入られるまで時を稼がれた、これは私がこの目で見たのから本当の話だ。」

 

「お~い密偵さんよ、連隊長殿も言われたが総司令官殿は嘘は言われて無いと思うんだ、だから今


だったらまだ間に合うと思うんだ、だから早く名乗り出た方がいいと思うんだけどなぁ~。」


「そうだよ、オレ達が証人だぜ、オレは総司令官様を信用する、だから早く出て来るんだ。」


 だが兵士達の呼びかけにも密偵と思われる人物は名乗り上げないが源三郎はその後も兵士達に任


せ暫く待つが、其れも空しく終わった。


「皆さん、私も今までお待ちしましたが、やはり駄目だと言う事ですねぇ~、では仕方有りません


が私が指を差しますので吉田さんお願いします。」


 と、言った時源三郎の指差しが早いのか、其れとも兵士の動きが早いのか一瞬で数名の兵士が捕


らわれた。


「その兵隊さんをお連れ下さい。」


「えっ、奴らがか、だけど奴らはオレ達の部隊に居たのかなぁ~本当に。」


「いいや、わしは今まで見た事は無かったぞ、其れにしてもだぜ、総司令官様は何で分かったんだ


よ密偵だと言う事が。」


「そうだよ、俺も全然わからなかったんだからなぁ~。」


 同じ部隊の兵士達でさえ彼らの事は全く気付いていなかった数人の兵士が源三郎の前に連れて来


られた。


「貴方方でしたか、ですが貴方方は私が何も知らないとでも思ったのですか。」


 だが彼らは何も語らず下を向いたままだ。


「貴方方は川口さんからですか、密命を受けたのか。」


 其れでも何も言わない。


「そうですか、何も言う気は無いと、では仕方有りませんが山に行って頂きますが其れでも宜しい


ですかねぇ~。」


「えっ、山にですか。」


 若い兵士が口を開いた。


「そうですよ、貴方方は此処で有った事を師団長に知らせたいのでしょうがねぇ~、まぁ~其れは


不可能ですよ、先程も申しましたがね、師団長も浅川さんも狼に食べられましたからねぇ~。」


「私はこの人が恐ろしくて。」


「成程ねぇ~、やはり貴方がですか、ですが多分ですが貴方は何も考えず此処での情報を師団長に


報告すれば昇格出来ると、ですが其れは無理ですよ、まぁ~例え菊池の隧道を出たとしても一里も


行けず狼の餌食になりますよ。」


「総司令官様、私はこの男に。」


「まぁ~そのお話は後程にして、ご貴殿は如何されますか。」


「直ぐ殺せ、早く殺してくれ。」


 年配の兵士は直ぐに殺せと、だが。


「其れは出来ない話でしてね、ですが貴方のご希望通りにさせて頂きますね、吉田さん、ではお願


いします。」


 数人の兵士が年配の兵士を連れ出し馬車に乗せた。


「では貴方方のお話を伺いたいのですが、実は我々も今は大変忙しのでお話しは後程にします。」


「源三郎様、出来ましたよ。」


「そうですか、では皆さんに配って下さい。」


「よ~し、みんな始めてくれ。」


 野洲でも雑炊だ。


「総司令官殿、奴はやはり狼の。」


「私はあの方の望みを叶えたのですから何も申し上げる事は有りませんよ。」


 そし、遠くで狼に襲われて要る兵士の叫ぶ声はするが今の大手門前に居る兵士や領民達には全く


聞こえる事は無かった。











   

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