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闇の帝国    作者: 大和 武
135/288

 第 60 話。夢の国へ一歩、また一歩…。

「小隊長、あれは若しや。」


「えっ、あれは我が軍の。」


 数人の連合国軍兵士が馬を飛ばして来る。


「誰か高野司令に我が軍の兵士が馬を飛ばして戻って来ましたと。」


 もう其の時には兵士は馬に跨り高野の居るお城へと飛ばして行き、執務室に飛び込んだ。


 その直ぐ後から馬上の兵士も隧道を一気に駆け抜けお城へ、そして、執務室に飛び込んだ。



「高野司令、大変で御座います。」


 兵士は息をするのも絶え絶えでその場にへたり込んだ。


「一体何が有ったのですか、ゆっくりで宜しいですからお話し下さい。」


 兵士は差し出された水を一気に飲み。


「高野司令、官軍の、いや多分元官軍と申しても良いかと思いますが飯田様達の馬車を護衛され我が連合国へ向かっておられます。」


「今何と申されましたか、元官軍が飯田様達を護衛され我々の連合国に向かって要ると、ですが元官軍とは何人、いや何十人なのですか。」


 高野は何処かの小隊が何かの理由で飯田達の馬車部隊に合流した思った。


「いいえ飛んでも御座いません。

 二個大隊と更に軍医殿と十数名の看護婦だと申されます女性達も居られます。」


「なんですと、二個大隊ですか、ですが何故その様な大部隊が合流したのですか。」


「では詳しく説明させて頂きます。」


 兵士は飯田達が官営工場に着いたが工場では巻き糸の生産が遅れ、その為に出発が遅れ、そして、師団長が居た駐屯地に橘の部隊の小隊が着き連合国で起きた事件を話し、残った二個大隊が馬車部隊を駐屯地に招き、そして、軍医の決断とでも言うのか突飛な発言で駐屯地の建物を解体し木道を設置しながら菊池の隧道を目指して要ると。


「其れは大変だ、貴方方にはご無理をお願いしたいのですが、少し休まれてから野洲に参られ総司令にお話しして下さい。」


「其れ勿ならば勿論でして、我々は直ぐ出発致します。」


 分隊の兵士は少しの休みを取り馬に乗り野洲へと向かい、四半時程して野洲の執務室へと飛び込み源三郎に詳しく説明した。


「左様ですかやっと戻って来られるのですね。」


「後二日もすれば菊池に到着の予定で御座います。」


「左様ですか、其れで全員で一体何人くらいでしょうか。」


「大よそで六千人近くかと。」


「分かりました、貴方は少し休まれてから戻って下さいね、私からの伝言も有りますので。」


 だが今更何を伝言が有ると兵士は思うが、源三郎は兵士を休ませる為の口実で何も伝える必要も無かった。


「直ぐ吉田さんを呼んで下さい。」


 暫くして工藤と吉田が飛び込んで来た。


「総司令、大変な事態だと伺いましたが。」


「工藤さん、吉田さん、やはりでしたよ。」


「では師団長は三個大隊を佐渡に向かえと指示を出していたのですか。」


「吉田さんには大変申し訳御座いませんが大隊と一緒に駐屯地へ向かって頂き馬車部隊の移送をお手伝いして頂きたいのです。」


「勿論で御座います。

 では二個大隊で出発致しますので。」


「後程、食料とその他に必要な物も有るでしょうから少し遅れますが向かって頂きますので。」


「では私も参らせて頂きます。」


「工藤さんは二個大隊と軍医さん達の受け入れ準備をお願いしたいのです。」


 やはり工藤は行かせて貰えないと、其れは工藤自身も分かっていた。


「其れと橘さんと中隊長達も一緒に向かって頂ければ考えて要るのですが、如何でしょうか。」


 其の時、知らせを聴いた橘も飛び込んで来た。


「司令長官殿。」


「橘さんと中隊長さん達にも一緒に向かって頂きますが宜しいでしょうか。」


「勿論で御座いますが、私は詳しい状況が分からないのですが。」


「左様でしたねぇ~、では兵隊さんから詳しく説明して頂けますか。」


 その後、兵士が詳しく話すと。


「やっぱり師団長は先に話しておられたのですね。」


「私も正かと思いましたが、師団長は全て我が身の為の策を講じていたと思います。

 では今から簡単にお話ししますので。」


 源三郎は吉田には菊池の高野に伝える内容を話して要る最中に。


「源三郎様。」


 と、中川屋と伊勢屋に、そして大川屋の番頭も飛び込んで来た。


「一体如何されたのですか、其の様に慌てて。」


「先程、お侍様が来られまして大至急来て下さいと申されまして、私達は寄せて頂きました。」


 執務室の家臣が源三郎の指示が出る前に中川屋と伊勢屋、大川屋に向かっていた。


「左様でしたか、では皆様方にも大変ご無理をお願いしたいのですが。」


 源三郎は番頭達にも詳しく話し、何が必要かを伝えると。


「源三郎様、全て承知致しましたので私達にお任せ下さいませ。」


 と、番頭達は其れだけを言うと執務室を飛び出して行った。


「では先程のお話しに戻ります。」


 その後は次々と指示を出し、鈴木と上田が必死で書き留めて行く。


「今お願い申しました事柄は書き留めて頂けましたか。」


 鈴木と上田は全て書いたと頷き。


「では上田と松川に書状を届けて下さい。」


 書状を受け取り家臣が執務室を飛び出して行く。


「兵隊さんにお聞きしたいのですが、馬車には一体何巻と申しましょうか、どれ程の巻き糸が積まれて要るのでしょうか。」


「何巻と申されましても自分達も分からないのですが、荷台の倍は有ると思います。

 工場で積み込んで要る時には全く分からなかったのですが工場を出発し一里も行かない所で馬車の車輪が地面に食い込み、その為全く前に進めなかったのです。」


「では其の時、駐屯地から応援の部隊が駆け付けられたのですか。」


「でもあの時一瞬ですが、飯田様や上田様もですが、我々も官軍にばれたと思いまして。」


 連合国軍からは三個中隊が飯田達の護衛として同行していたが官軍は二個大隊で誰が考えても全員が撃ち殺されると、だが話は全く違った方へと向かい。


「ですが話しは全く違いまして、橘さんと申されるます連隊長の部下が戻って来られ、今までの経緯を話されたそうでして、其れで我々の所へ駆け付けられたのです。」


「では作戦は見事に成功したのですね。」


「自分はどの様な作戦なのか知りませんが、二個大隊の兵士が押して、引き駐屯地へ向かったのです。」


「八頭立ての馬車の車輪が地面に食い込むとは一体どれ程の巻き糸を受け取られたのでしょうかねぇ~。」


 巻き糸を受け取りに向かった飯田達もだが、其れよりも官営工場では在庫が無く機械と人間を総動員し数千巻を生産し全てを飯田達に渡し、其の結果馬車が重みに耐えられず止まり、其処へ佐野と掛川の二個大隊が応援に駆け付けたので有る。


「先程の軍医殿が駐屯地の建物を解体せよと申されたのですか。」


「自分達もどの様になったのか詳しくは知りませんが大隊の兵士が建物を解体し連合国まで五寸の角材を敷き詰めて行かれ、其の上を馬車を進めて行くと。」


「では菊池に着かれるのは倍近くの日数が掛かると見て間違いは有りませんねぇ~。」


「司令長官殿、軍医殿ならばその様な事を申されても何の不思議でも御座いません。」


「其れは何故ですか、若しも師団長達が戻って来られるとは考えられ無かったのでしょうか。」


「其れは全く無いと思います。

 師団長と言う人物は我が身の保身だけを考え、部下、特に私と佐野、掛川の部隊がどの様になろうとも全く気にされませんので。」


「成程ねぇ~、其れで駐屯地の建物を解体し木道を造れと、ですが別の部隊が来るとは考えなかったのでしょうか。」


「その件に付きましては中隊長も気にされておられまして、佐野隊長に聞かれ、佐野隊長も掛川隊長も十分に承知しておられ、軍令部の事だから師団長と一緒に向かわれた部隊だけでは心許無いと何時応援の部隊を送り込んで来るやも知れず一日でも、一刻でも早く木道を完成させ出発すると申されました。」


「ですが、駐屯地から我が連合国までどれ程の距離が有るやも知れないのですよ。」


 源三郎は駐屯地から菊池まで木道を敷き詰めるものだと思ったのだろう。


「其れは佐野隊長も掛川隊長もご存知で木道は馬車部隊の一倍半まで作り、後は通り過ぎたところから先頭に角材を送り、そして、又敷き詰めて行くと。」


「えっ、其れでは部隊の兵士が担ぎ又敷き詰めて行くのですか、其れでは兵士の身体が持ちませんよ。」


 工藤も橘も同じ様に思っていた。


「私の説明不足で角材は馬車に積み込みまして前方で待ち構えております兵士が敷き詰めて行くのです。」


「あ~良かったですねぇ~私の勘違いで、ですが其れでも兵士の負担は大きいですねぇ~。」


「左様でして、その為に進み方も遅く、其れでも車輪が食い込む事を考えますと確実に進んでおります。

 でもやはり兵隊さんは大変でして、特に身体の小さい兵隊さんは物凄く辛そうです。」


「総司令、同じ行くならば身体の丈夫な兵士を選んでも宜しいのでは御座いませんでしょうか、其れならば全ての兵士の中から選べますので、上手く行けば二個大隊よりも人数的に多くなるやも知れませんし、部隊もまだ出発しておりませんので私が直接兵士に話して見ます。」


「左様ですねぇ~、其れならば兵隊さんの負担も少しは減るでしょうから、では工藤さんにお願いします。」


 工藤は直ぐ駐屯地へと向かい、同じ頃城下からも十数台の荷馬車が駐屯地へと向かって要る。

 荷馬車には米俵や漬け物樽など食事に必要な物資が積み込まれて要る。


「中佐、何時の出発になるのですか。」


「一応明日の早朝にと考えて居りますが。」


「其れならば相談なんだが先程話しが変わり部隊の中から身体の丈夫な兵士を選んで欲しいんだ。」


「了解です、直ぐに話しをします。」


 吉田も理由など聞く必要も無く全員に説明し部隊の中から身体の丈夫な志願者が集まり、明日の朝出発する事を伝えた。


「私は中川屋で御座います。」


「其れは大変ご苦労様です。

 今大佐殿も居られますので其のままで宜しいですから中に入って下さい。」


 中川屋と伊勢屋に大川屋の番頭達は工藤に余計な話しもせず直ぐに戻って行った。


「司令長官殿、自分達も一緒させて頂きたいのです。

 今は階級も関係無く少しでも人数が多ければ良いと考えます。」


「大変有り難いです、其れならば佐野さんと掛川さんの部隊の兵隊さんも少しは楽になると思います。」


 橘の残って要る中隊長と小隊長達も同じ任務に、いや同じ輸送部隊の手助けに向かうと言う。


 そして、夜の明ける前に吉田は二個大隊以上の兵士と橘達と共に野洲を出発し、其れから四日が経ち五日のお昼の少し前。


「中隊長、連合国軍の援軍で大隊以上の規模です。」


「そうかやっとか助かったなぁ~、私が行くので君達は部隊へ案内して下さい。」


 中隊長は後方の輸送部隊へと急いだ。


「中佐殿、お待ちしておりました。

 自分がご案内しますので。」


「そうですか、では皆さんは先に話した通りに行って下さいね、では急ぎましょうか。」


 吉田の大隊は全員が馬で、其れは交代用にと考えたのだ。


「佐野隊長、応援部隊の到着です。」


「えっ、ですが私は何も。」


「隊長、申し訳御座いません。

 自分の勝手な判断で分隊を向かわせまして応援をお願いを致しました。」


「そうですか、では今からお昼の休みに入りますので、全体止まれ。」


 佐野の号令で馬車は次々と止まって行く。


「よ~し全員打ち合わせ通りにお願いします。」


 吉田が連れて来た大隊の兵士達は馬から下りると馬車から馬を切り離して行くが、駐屯地から来た兵士達は大変な疲れ様で皆がその場に倒れる様に座り込み、中には仰向けになる兵士もおり、やはり源三郎が思った通りで兵士はこの先何日身体が持つのかも分からない状態で有る。


「佐野隊長も掛川隊長も大変ご苦労様です。」


「やはり連隊長殿はご無事でしたか良かったです。」


「君達には大変申し訳有りませんでした。

 工藤大佐殿は連合国軍の大佐となられ連合国最高司令長官殿の下で実に楽しく其れに元気でおられます。」


「よ~し手の空いて要る者はお昼の準備に入って下さい。」


 もう其の時には連合国軍の兵士達は馬車から数百個もの連岩を降ろし積み上げ釜戸を作り出し昼食の準備に入って要る。


「大尉殿、お久し振りで御座います。」


「君達も元気そうで何よりです。

 先日連合軍の兵士数名が馬で戻って来ましてね、総司令が話しを聞かれ直ぐ手配し、私が二個大隊以上の兵士と共に応援に来たのですよ。」


「自分達も数十日前に連隊長殿の部下が帰って来まして事情を聴き、其れで自分達も工藤大佐殿の下に行けたらと考えたのです。」


「佐野さんに掛川さん、我々の連合国は大変素晴らしいですよ。」


「お~い吉田君、久し振りだなぁ~。」


「軍医殿もお変わり無く元気そうで何よりで御座ます。」


「いゃ~其れにしても先日から君達の住む連合国の話しを聞いてるんだが、何故そんなに素晴らしいんだ。」


 軍医はまだ全てを信用して要る訳でも無いが、連合国から来た兵士達の話しを聞くと誰もが大変素晴らしいところだと言うが、其れは余りにも話しが出来過ぎだと考えて要る。


「其れは誠でして、特に軍は官軍とは全く違いまして、総司令は私の知る限り今まで一度も命令された事は有りません。」


「わしも官軍を知って要るが軍隊では命令を出すのが普通だと考えて要るんだがなぁ~。」


「其れはあくまでも官軍の話しでして、今回も総司令は二個大隊で輸送部隊のお手伝いに向かって頂きたいと其の様に申され命令では有りません。


 其れに身体の丈夫な兵士をと申されまして兵士は志願して来たのです。

 私の話が信用出来ないと思われるので有れば直接兵士に聴いて頂いても宜しいです。」


「いや、わしは何も信用出来ないと言うのでは無いんだ、わしは其れよりも余りにも不思議でならないんだ、最高司令官ともなればどの様な命令でも出せば全て終わるんだ。」


「其れは官軍の方法でして、連合軍もですが、我々の連合国では総司令は命令では無く、全てお願いされるので御座います。

 ですが今その様なお話しを皆様方にしても信用されるとは思っておりませんので、我が連合国にお越し頂き、総司令では無く領民から聞いて頂ければ納得して頂けると思います。」


 その後暫くして昼食も出来上がり連合軍の兵士達は駐屯地からやって来た兵士に看護婦に、そして、飯田達にも食事を配り、一時程で食事と後片付けも終わり。


「さぁ~行きましょうか、第一、第二中隊は途中で見つけた所に野営の準備に向かって下さい。

 では皆さん出発しますよ。」


 今度は吉田が先頭になり大隊の兵士達は馬車が通過すると素早く角材を積み込み馬車部隊の先頭、いやまだその先まで行き角材を敷き詰め兵士達は順次並んで行く。


そして、二日後には菊池の隧道近くまで来た。


「佐野隊長、掛川隊長、目の前に聳えます山を抜けますと我々の連合国で御座います。」


「吉田君、一体何処から入るんだ。」


「其れも直ぐに分かりますので大隊は入り口まで角材を敷き詰めて下さい。」


 吉田の号令か、其れとも指示なのか連合国軍の兵士達の動きに佐野達にはさっぱり理解出来ない。


「中隊は付近の見張りを。」


 と、吉田が言った時と同じ頃、隧道からも一斉に兵士達が飛び出し山の動きを見て要る。


「さぁ~みんな最後の力を振り絞って下さいね。」


「お~。」


 と、大隊の兵士達は雄叫びを上げ、馬車に繋いだ数十本もの縄を引き始めた。


「えっ、何だ。」


 と、掛川は、いや掛川だけで無く、何も知らない駐屯地から来た兵士達は驚き、飯田を先頭に馬車は次々と隧道に吸い込まれて行く、そして、隧道を出ると大勢の領民が待ち受けていた。


「吉田さん、大変ご苦労様でした。」


「総司令、馬車の全てと二個大隊、更に軍医殿をお連れ致しました。」


「ご貴殿が軍医さんですか、私は源三郎と申します。」


「えっ、貴殿が源三郎殿で。」


 軍医もだが佐野と掛川の両隊長も大変な驚き様で、其れは源三郎とは年配者だと彼らが勝手に思い違いとしていたのだろう。


「私に間違いは御座いませんよ、多分ですが皆様方は源三郎と言う人物はもっと年配者だと思われたのでしょうかねぇ~。」


「橘、無事で何よりだ、軍医殿もお久し振りで御座います。」


「お~これは正しく工藤の幽霊に間違いない、だが良くも無事だったなぁ~。」


「軍医殿、お話しは後程に、では皆様方、我々の連合国にようこそお越し頂きまして、領民を代表し御礼を申し上げます。

 其れで馬車ですが一体何台有るのでしょうか。」


「司令長官殿、其れが余りにも急な事で今だ何台有るのかも分からないのです。」


「そうですか、まぁ~其れも仕方有りませんねぇ~、では予定通りに入って頂けますか。」


「馬車を止めた順に馬を切り離して下さい。」


 其れからでも馬車列は続き先頭はお城を越えており、菊池と野洲の家臣は馬車を止める位置まで誘導し馬を切り離して行く。


「お~いみんなはみなさんを案内してくれ。」


 菊池と野洲の領民が駐屯地から来た兵士達を、そして、看護婦を案内すると言うが一体何処に連れて行かれるのかも分からずに要る。


「皆さん、宜しくお願いしますね。」


「源三郎様、まぁ~後の事はオレ達に任せて下さいよ。」


 領民が案内して行く先には数百もの鍋が湯気を上げ待って要る。


「さぁ~みんな今日は特別で毒入りだから安心して全部食べて下さいよ。」


「えっ、毒入りって。」


「すまんなぁ~、みんなは此処で食べて欲しいんだ、此処の雑炊は最高に旨いんだから。」


 領民の女性達が一斉に鍋からお椀に入れて行く者、やっぱりこんな時には雑炊が一番だ。


「そんなの当たり前でしょう、私達の愛情と猛毒がいっぱい入ってるのよ、まぁ~先の事は心配しないでね全部食べて下さいよ。」


 領民達は誰もが嬉しそうな顔をし、兵士達や看護婦が食べて要る様子を見て要る。


「さぁ~皆様方も我が連合国の雑炊は最高に美味しいですよ。」


「源三郎様も食べて下さいね。」


「私は後で宜しいですから。」


「えっ、何で、じゃ~オラが作った雑炊は食べれ無いって言うんですか。」


 さぁ~本気なのか、其れとも冗談なのか漁師のお母さんが源三郎に絡んできた。


「大佐殿、あの女性は。」


「あの人達は漁師の奥さんですよ、まぁ~此処では何時もの事ですから。」


 工藤も吉田も笑って要るが、佐野達にはさっぱり分からない。」


「いいえ、決してその様な事は有りませんので、お母さん、私よりも皆様方もにねっお願いします。」


「いいや駄目だ、みんな聞いてよ、源三郎様はオラ達の作った雑炊は食べれないって。」


「えっ、其れって本当なの、じゃ~いいですよ、誰か雪乃様に。」


 と、言いながら漁師の奥さん達は大笑いして要る。


「其れだけは絶対に言わないで下さいね、私は。」


「皆様、何が有ったのですか。」


 やっぱり雪乃も来ていた。


「雪乃様、源三郎様はねぇ~。」


「お願いですからね、この通り。」


 と、源三郎は手を合わせ。


「大佐殿、今のお美しいお方は。」


「あのお方が総司令の奥方様で元松川藩の姫君なんだ。」


「えっ、其れは誠ですか、ですがあのお着物は。」


「其の通り腰元と同様のお着物を召されておられるんだ、だが連合国では誰でも知って要るんだ。」


「まぁ~何とお美しいお方でしょうか、私はとても羨ましいですわ。」


「娘さん、あのお方が雪乃様って言って、オレ達の源三郎様の奥方様なんだ。」


「そうだよ、オレ達には源三郎様と同じくらいに自慢できるお姫様なんだ。」


「えっ、何ですってお姫様って、でもあのお着物は。」


「そうだよ、私達の雪乃様はねぇ~私達町民には一番の見方なんですよ。」


 看護婦と呼ばれる女性達も大変な驚き様で、正かお姫様が腰元の着物姿で来るとは思っておらず、其れよりも町民達と気軽に接して要る姿に何と解釈して要るのだろうか。


 源三郎と町民達のやり取りに佐野や掛川は驚いて要るが周りは笑いに満ちて要る。


「両隊長と軍医殿にも後程ゆっくりとお話しを聞かれますと理解出来ると思います。」


 橘もこの数日で少しだがやっと理解出来る様になった。


「吉田さん、兵隊さんのお食事が終わりましたら。」


「昨日指示書を頂きましたので全てお任せ下さい。」


 吉田は各隊の中隊長達と話しを始め、昼食も一時半程で終わり、連合国軍の兵士達が一斉に動き始め、馬車には次々と馬が繋がれ菊池のお城へ予定された台数が入って行く。


「義兄上。」


 山賀の若様だ。


「若、今回は大変ですよ。」


「大変申し訳御座いません。」


「大佐殿、あのお方は。」


「若様と呼ばれておられ雪乃様の弟君ですよ。」


 佐野達はまたも驚いた、若様と呼ばれる人物も農民姿で有る。


「佐野隊長、連合国では殆どが農作業用の着物を着て居られますよ。」


「では連合国の侍もですか。」


「其の通りですよ、まぁ~其の内に慣れますよ。」


 駐屯地からやって来た佐野達もだが兵士達も驚きの連続で目を白黒させて要る。


「では皆さん、そろそろ参りましょうかねぇ~。」


 源三郎の言葉で領民達も動き出し。


「では我々も参りましょうか。」


 一斉に馬車が動き出し野洲へと向かった。


 其れとは別に菊池まで続いて要る角材も次々と運び込まれその数は一体何本有るのかも分からない。


「吉田。」


「我々も受け入れ準備に入っておりますので、今暫くのご辛抱をお願い致します。」


 野洲のお殿様もだが、上田や松川でも同じでお殿様は邪魔で行くところも無く部屋に閉じ込められた様な状態で有る。


「高野様、阿波野様、斉藤様も野洲に、其れと工藤さんは佐野さんと掛川さん、其れと軍医さんもご一緒にお願いします。」


 工藤も全て源三郎の指示書を受け取っており、佐野、掛川に軍医、更に橘と共に野洲へ向かった。


「お~いまだ見えないのか。」


「其れがまだなんだ。」


 野洲に残った領民達も源三郎達を待って要る。


「総司令、先程馬車の台数が判明しました。

 大型が六十台に小型が四十台で残りの五十台は駐屯地と他の馬車で御座います。」


 何と百五十台もの馬車が連なり連合国を目指していたと言う。


「成程ねぇ~、百五十台ですか、まぁ~其れにしても物凄い台数の馬車ですが良くもまぁ~駐屯地から菊池まで来る間に官軍に発見されませんでしたねぇ~。」


「確かに其の様に言われますと、私は後方の事までは考え付きませんでした。」


 橘も見ていなかったと言う。


「吉田さん、最後ですが。」


「菊池の中隊長にお願いして置きました。」


「ですが百五十台もの馬車、其れも特別重いのですから全ての痕跡を消す事は不可能だと思いますが。」


「私は何も全てを消すのでは無く所々に轍の跡を残し。」


「では別の方に轍を点けて行くのですか。」


「そうですよ、其れもわざとね、行く先は広大な林が有りましてね、其の中に工藤さん達が潜んで要ると思わせるのです。

 橘さんも元は工藤さんの部下だと司令本部も知っておられるでしょうが、幾ら官軍と言っても広大な林の隅々まで捜索するのはとても無理があり、何時何処から襲われるやも知れないのです。」


「そうか、私も分かりましたよ、大佐殿の部隊と連隊長殿の部隊を合わせれば一体どれだけの大部隊になって要るのか司令本部も見当が付かないと言う訳で林の中を移動すれば全く見付ける事は不可能に近いと言う訳なのですね。」


「全くその通りでしてね、吉田さんの部隊と更に五千人の大部隊全てが工藤さんの側だと知れば幾ら重装備の官軍でも簡単に手出しは出来ない。

 ですが林の中には誰もおらず全員が我が連合国に入られて要るのです。」


「佐野、総司令のお考えを知るだけでも並みの司令官では無理だ。

 我々が今この様に元気でおられるのも全て総司令のお陰なんだ。」


「大佐殿も相当な戦略家では御座いませんか。」


「其れは官軍が考えて要るだけなんだ、連合国がこの数百年間と言う長きに渡り世間に知られる事も無く存在したのは其れまで多くの人達が知恵を絞られたと思うんだ、私も官軍では其れなりに戦略は練ったが、総司令は多分だが吉田には細かい指示は出されず簡単に後の事は頼みますと、其れだけを言われたと思うんだ、だが我々は何時もこんな時には何をすれば良いのか、誰もが其れは何も吉田や中隊長達だけが考えるのでは無く、兵士達も一緒になり真剣に考えるんだ。


 私は吉田は全て中隊長に任せたと思うが、どうだろうか。」


「正しくその通りでして、私は菊池には菊池の、そして、野洲には野洲の其の時の状況に変化すると兵士の誰もが知っておりますので中隊長には宜しくお願い致しますと、ただ其れだけでした。」


 菊池の隧道を出ると其の付近一帯を知るのは菊池に駐屯する中隊で有り、彼らは其の時の状況変化に連応する事の方が大事だと、現場を知らず只命令を出す官軍の方式では無い。

 其れを知って要るのは全て現場の兵士で有り、兵士達の意見を最大限に生かす、其れこそが源三郎の言う現場第一主義で有る。


 一部の馬車は菊池に残し、其れでも大多数の馬車はゆっくりと進み二時程して野洲の城下へと差し掛かった。


「お~い源三郎様が戻って来られたぞ~。」


 数人の領民は大声を出しながら大手門前の広場へと走って行く。


「よ~し火を点けてくれ。」


 一度炊き上がった雑炊のお鍋を置いた釜戸に火が入った。


「源三郎様、後はオレ達に任せて下さいよ。」


「皆さん本当に有難う、私は何とお礼を申して良いか分かりません。」


「そんな事はいいんですよ、その変わり今度ねっ、又お願いしますよね。」


「は~い、勿論ですよ、私も楽しみにして置きますのでね。」


「ねぇ~源三郎様、あの人達は。」


 野洲の領民達が見た人達とは。


「あの人達はねぇ~看護婦さんと申しまして怪我や病気になられた兵隊さん達を看護する専門の女性達なんですよ。」


「なぁ~んだ、それじゃ~源三郎様の新しいお人じゃ無かったんですか。」


「えっ、私にですか、飛んでも有りませんよ。」


「あ~やっぱりねぇ~源三郎様には雪乃様が居られるんだものねぇ~、そんなの当たり前の話しよねぇ~。」


「大佐殿、女性達は何を言われて要るのですか。」


「あれならば何時もの会話ですよ、特に野洲の女性達は総司令の奥方様には一番の見方でしてね、ですが総司令もあの会話を楽しみにされておられるんだ。」


「では野洲の人達は司令長官殿に対しては。」


「まぁ~なんだか知りませんが、特別なお方だと言う事だけは間違いは無いよ。」


「う、何だ。」


 其れは源三郎が何かを感じたのか。


「吉田さん、一番最後の方に居る数人の兵士ですが。」


 吉田は何気なく振り返ると数人の兵士は誰にも見付からない様にと別の兵士の後ろを歩いて要る様に見える。


「ではお願いしますね、私の合図で。」


 吉田は数人の兵士を連れ一番後ろへと。


「皆さん、大変ご苦労様でした。

 看護婦さん達はお城に、其れと兵隊さん達には少しお話しが有りますのでその場に腰を下ろして下さい。」


 二個大隊の兵士達は菊池では驚きの連続で、だが野洲に来る頃までにはこれで戦に行く事も無くなったと思ったのか表情も和んで来たのか、源三郎が話しが有ると言っても左程驚いた表情では無いが話しの内容は飛んでも無い方向へと向かうので有る。


「皆さんは大変お疲れだとは思いますが、私は非常に残念なお話しをしなければなりません。」


 源三郎が非常に残念な話しだと言った瞬間兵士達はざわめき出し暫くは収まらずに。


「私が非常に残念だと申しますのは皆さんには大変申し訳有りませんが、この中に密偵が潜んで要るのです、其れも数人ですがね。」


 今度は蜂の巣を突いた様な大騒ぎで兵士達はお互いの顔を見て何かを言っており、この間々では収まりが付かないが。


「司令長官殿、私の部下に密偵が居ると聞こえたのですが、私の部下に限ってその様な兵は一人もいないと信じております。」


 橘は部下の中に密偵が居るとは思っておらず、其れは何も橘だけでは無く、佐野も掛川の両隊長も同じ気持ちで有る。


「橘さん、其れに佐野さんに掛川さんのお気持ちは私も十分に理解出来ますよ、ではお伺いしますが佐野さんは大隊の兵士達全員の顔を覚えておられますか。」


「えっ、大隊全員の顔ですか。」


 佐野は其れ以上何も言わず考え込んだ。


 大隊ともなれば一千人以上の兵がおり、隊長が全員の顔を覚えて要るとは今までの官軍では考え付かない話しで、だが連合国では違う。


「私は兵士の把握は中隊長達に任せておりまして。」「まぁ~其れが普通でしてね、ですが我が軍では違いましてね、此処では議論と申しましょうか、話し合いとでも申しましょうか、其れが常に何処かで行われておりましてね、其の時には上官も兵卒も関係無く行われて要るのです。」


「ですが、其れでは軍の規律と申しましょうか。」


「ではお伺いしますが軍の規律とは一体どの様な事なのですか、兵士は何事に置いても上官の命令通りに動く、其れが軍隊の規律なのですか。」


「私は其の様に考えておりますが。」


「ではお伺いしますが一兵卒は上官よりも質と申しましょうか、考える力が及ばないと考えておられるのでしょうか。」


「ですが、我々は。」


「では教えて頂きたいのですが、貴方方は今の空を見てこの先の状態までお分かりになりますか。」


「申し訳御座いませんが、我々は農民では有りませんので其処までは分からないのです。」


「今、貴方は農民では無いので分からないと申されましたが、農民さん達は官軍、いや人間と言う敵を相手にして要るのではないのです。


 この自然と言う我々の想像も付かない相手に年中戦を行ない、農民さん達の苦労が実り作物が出来るのです。


 農民さん達と言うのはねぇ~、私よりも遥かに先の事までも考えておられるのですよ、ご貴殿にこの意味は分かりますか。」


「う~ん。」


 と、佐野は何も言えない。


「我々の連合国では誰もが毎日真剣に生きて居られるのです。

 其れはねぇ~、誰にも命令される事は有りませんが、自分には何が出来るのか、その為には何が必要なのか、ですから連合国軍では上官からお願いする事も無く、兵隊さん達が自らの判断で実行されるのです。


 吉田さんと一緒に行かれました兵隊さん達は誰の命令でも無く自らの意思で決め行かれたのですから吉田さんは何も詳しく説明される必要も無いと、其れが我々の連合国なのです。


 まぁ~今の話には余り深刻になられる必要も有りませんよ、其れで先程のお話しに戻りますが、私は今名乗り上げるので有れば今までの事は全て水に流しますよ、そうだ、私も忘れておりましたが川田と言われる師団長と浅川と言われる隊長ですが、残念な事に今は既に狼のお腹の中に入っておりますのでね。」


「あの~今のお話しですが、狼のお腹って事は狼に食われたんですか。」


「ええ、正しくその通りでしてね、其れと浅川さんの大隊の兵も、中隊長と小隊長以外の全員が私のお願いを聞かれずに人質を取られましてね、私は仲間を助ける為に大変残念なのですが、其れも仕方ありませんが全員が狼の餌食になって頂きましたよ。」


「連隊長殿、今のお話しは本当なんですか。」


「本当の話しだ、司令長官殿は人質を無事解放するならば山の向こう側に無事行けると約束すると、だが一人でも殺すか怪我をさせたならば貴方方はこの世の中で一番恐ろしい地獄に行く事になりますが其れでも宜しいのかと申され、だが彼らは話しには全く耳も貸さずに人質を人間の盾にしたんだ、其れで山賀の小川隊長が考えられた作戦が決行され全員が狼の餌食になった、だが其の前に司令長官殿は山賀の領民全員がお城へ入られるまで時を稼がれた、これは私がこの眼で見たから間違いは無い本当の話だ。」


「お~い密偵さんよ、連隊長殿も言われたが司令長官殿は嘘を言われて無いと思うんだ、今だったらまだ間に合うと思うんだ、早く名乗り出た方がいいと思うんだがなぁ~。」


「そうだよ、オレ達が証人だ、オレは司令長官殿を信用する、だから早く出て来るんだ。」


 だが兵士達の呼び掛けにも密偵と言われる人物は名乗り上げないが、源三郎はその後も兵士達に任せ暫く待つが、其れもむなしく終わった。


「私も今までお待ちしましたが、やはり駄目だと言う事ですねぇ~、では仕方有りませんが私が指を差しますので吉田さんお願いします。」


 と、言った時、源三郎の指差しが早いか、兵士が早いのか一瞬で数名の兵士は捕らわれ。


「その兵隊さんをお連れ下さい。」


「えっ、奴らか、でも奴らはオレ達の部隊に居たのか。」


「いや、わしは今まで見た事も無かったぞ、其れにしても司令長官殿は何で分かったんだ密偵って。」


「そうだよなぁ~、オレも全然分からなかったよ。」


 同じ部隊の兵士でさえ彼らの事は全く気付いていなかったが、数人の兵士は源三郎の前に連れて来られ。


「貴方方でしたか、ですが貴方方は私が何も知らないとでも思ったのですか。」


 彼らは何も語らず、ただ下を向いたままで。


「貴方方は川田さんから命令を受けたのですか。」


 其れでも兵士は何も言わない。


「何も言う気は無いと、では仕方有りませんねぇ~、山に行って頂きますが其れでも宜しいですか。」


「えっ、山にですか。」


 若い兵士が口を開いた。


「そうですよ、貴方方は此処で有った事を師団長に知らせたいのでしょうが、其れはもう不可能ですよ、先程も申しましたが師団長と浅川さんも狼に食べられましたからねぇ~。」


「私はこの人が恐ろしくて。」


「ほ~成る程ねぇ~、やはり貴方がですか、多分貴方は何も考えず此処での情報を師団長に報告すれば昇格出来ると、ですが其れはとても無理な話しですよ、例え菊池の隧道を出たとしても一里も行けず狼の餌食になりますよ。」


「司令長官様、私はこの男に。」


「まぁ~其の話しは後程にして、ご貴殿は如何されますか。」


「直ぐ殺せ、早く殺してくれ。」


 年配の兵士は直ぐ殺せと。


「ですが其れは出来ない話しでしてねぇ~、う~んそうですかでは仕方有りませんが貴男のご希望通りにさせて頂きますのでね、吉田さんお願いしますね。」


 数人の兵士が連れ出し馬車に乗せ。


「では貴方方のお話しを伺いたいのですが、我々も今は大変忙しくお話しは後程にします。」


「源三郎様、出来ましたよ。」


「そうですか、では皆さんに配って下さいね。」


「よ~しみんな始めてくれ。」


 野洲でも雑炊だ。


「司令長官殿、奴はやはり狼の。」


「私は希望を叶えただけですから、何も申し上げる事は有りませんよ。」


 そして、遠くで兵士の叫ぶ声はするが、今の大手門前に居る兵士や領民達には全く聞こえない。


 一方で後藤達はと言うと吉三は海岸から少し離れた所を掘り岸壁造りに入って要る。


 上野と一緒に来た大工達職人は連日海底の砂を取り除く作業に就いており、上野と中隊長、小隊長以外の兵士達も作業に参加し、歩哨は中隊長と小隊長の全員で務めて要る。


 軍港建設に向け数十台の馬車が中隊規模の兵士に護衛され近付いて来る。


「参謀長殿、山の麓から数十台もの馬車と護衛する中隊が近付いて来ます。」


「そうかやっと来たか、誰か後藤さんを呼んでくれ。」


 今は執務室の前には当番兵はいない、だが今までの習慣とは恐ろしいもので上野は癖を言うのか遂当番兵を呼んだ。


「あっ、そうか今は誰もいないんだ。」


 と、独り言を言って後藤の執務室へと向かい、後藤は会議用の大きな机の上に図面を置き何かを考えて要る。


「技師長さん、頼んで置いた石灰と他の道具が届きますよ。」


「左様で、では次の作業に入りますので、吉三さんは左官屋さんに荷物が届きますのでと伝えて下さい。」


 吉三は何も聞かず浜に向かった。


「いよいよ本格的に始まるのですか。」


「いいえ、まだ本格的とは申せませんが、第一工区の出来上がり次第でして。」


「私は源三郎殿には感謝しております。」


「源三郎様は大変な危機感を持っておられまして、連合国でも別の工事に着手しております。」


「何か大工事でも始まるのですか。」


「今は内容も分かりませんが連合国でもロシアの大艦隊を撃破するのだと考えておられます。」


 後藤は工事の内容は言わずに、やはり源三郎が直々説明する事になるだろうと思って要る。


「後藤さん、左官屋さんの代表が来られました。」


「そうですか、皆さん方もお座り下さい。

 皆さん方も大変お忙しいとは思いますが、もう間も無くすれば資材が届きます。」


「そうですか、じゃ~我々の仕事も始められるんですね。」


「ええ、其れは間違い有りませんが、竹籠は何個くらい有るのでしょうか。」


「其れだったら、まだ三十個は有りますんで。」


「では其れを持って来て頂きまして、明日からでも作業を始めますんで。」


「じゃ~オラが行きますんで。」

 

 吉三と左官屋は竹籠の置いて有る所に向かった。


「技師長さん、ですがまだ浜では砂を取り除く作業が続いておりますが。」


 上野は吉三組が掘って要る所に岸壁造りに入るとは思っていない。


「左官屋さんが始める作業には大量の砂が必要で、其れで先に海底の砂を取り除いて要るのです。

 まぁ~明日からは左官屋さん達の腕の見せ所でしてね、其れと吉三組も同じ様な大きな穴を掘って行くんですよ。」


「では吉三組は岸壁となる穴を掘ってたのですか。」


 その後、半時程して。


「参謀長殿、大変遅くなり誠に申し訳御座いません。」


「中隊長も大変だったと思いますが、其れにしても一体何台の馬車なんだ。」


「一応今回は五十台でして、其の内の半分は別の道具や米俵をお届けに来ました。」


「其れは大いに助かるよ、私もこの地に来て初めて知った事も多く、だが全てとは行かないが少しづつ問題も解決出来、数十日前から工事に入る事が出来たんだ。」


「司令本部でも参謀長殿が大変ご苦労されておられると心配されておられます。」


 やはりか、鬼頭はその後も上野が軍港の建設に苦労して要ると報告して要る。


「ですが、先程司令本部で人事異動が有り、本藤参謀長殿が物資の手配と輸送を任されておられます。」


「えっ、本藤って。」


「上野参謀長殿とは幼馴染だとか申されておられ、上野が必要だと言う物資の全てを送れと申されました。」


「何だと、奴が物資の手配をするのか、う~んこれ程強い見方はいないぞ、そうか、で。」


「其れで私が今回の輸送に関しまして志願致しました。」


「では君は本藤の部下なのか。」


「勿論でして、参謀長の事は何度も聞かされておりまして、実は今回寄せて頂きましたのは他の用件も有りましたので。」


「何だ、他の要件とは。」


 上野が正かと思う話しに。


「実はロシア艦隊との一戦には上野参謀長殿のご子息が大変重要だと申されておられます。」


「何故だ、何故わしの息子が重要なんだ。」


「私も以前から聞いておりましたがご子息は工藤少佐が書かれました海上決戦に勝利する為に、と言う書き物を何度も読んでおられると。」


「其れは今でも同じだ、わしは此処の軍港が完成すれば軍を離れ後は息子に任せるつもりだったんだ。」


 上野は軍港が完成すれば引退すると。


「本藤参謀長殿も同じ様なお話しをされておられました。」


 中隊長はその後本藤から聞かされた内容を話した。


「だがなあ~息子の件は直ぐには答えは出せないんだ。」


「其れも全て承知しておりまして、其れで先程も申しましたが、本藤参謀長殿は上野参謀長殿が必要とされる物資は全て送れと申され、今日お届けした物とは別に数日後にも今回と同じ台数の馬車が到着する予定になっておりまして、其れとこれは私が一番に嬉しいお話しだと思うのですが製鉄所とこの地まで陸蒸気で結ぶ計画でして先日は備前の国まで来ております。」


「何だとでは安藝の国でも軍艦の建造が出来るのか。」


「左様でして、司令本部としては何としてもこの地まで線路を敷設すると、其れが完成しましたならば大量の物資をお届け出来ると思います。」


 上野も鉄道は重要だと考えていたが、正か軍港建設中のこの地まで鉄道が来るとは考えておらず、物資は全て馬車で来るものと考えていた。


「後数年も経てばこの地まで陸蒸気が来ると思います。」


 明示新政府はそれ程までこの地を重要視して要るのかと上野は思った。


「それ程までに新政府はこの地を重要だと考えて要るのか。」


「左様でして、本藤参謀長殿は何としてもロシアに勝利しなければ日本国は永久にロシアの植民地となり、庶民の未来は、いや我が日本国は暗黒の世界に入り、国民の全てが希望も無く一体何を目標に掲げて生きて行けば良いのかも分からず、と、其れ以上は何も申されませんでした。」


 当時の明示政府と言うのは数百年間も続いた鎖国政策で世界の、特に欧州諸国との産業格差には大変な驚き程で、その為、新政府は欧州諸国に追い付き追い越せと言う錦の御旗を掲げがむしゃらに産業を育成した。


 だが政府が思う程産業は育たず何時まで経っても庶民の生活は改善されず、其処に目を付けたロシアが日本国を植民地にすると言う計画で、その計画をいち早く知った政府は欧州諸国から最新の武器、其れが鉄で造られた軍艦で有る。


 支払いは全てが金で其れがロシアの目には日本国には大量の金塊が、いや無尽蔵に有ると間違った解釈でもしたので有ろう、其れが今回ロシアとの一戦に入る原因だと。


「そうか、やはり本藤もロシアは必ず日本国を攻撃すると考えたのか。」


「其れは私も同じだと考えております。」


「よし分かった、其れで君は直ぐに戻るのか。」


「いいえ、私には此処の状況を見て来いと命令が下っておりまして。」


「そうか、では数日間は要るので有ればわしは今後此処で必要だと思う品を書き出す、其れとこれは内緒だが鉄板は手に入るのか。」


「全て何でもご用意致しますので、ですが何故に鉄板が必要なのでしょうか。」


「わしはなぁ~、此処でも修理が出来る様にと考えて要るんだ。」


「其れならば、私が参謀長殿に説明しまして各種の道具も揃えます。」


 上野は軍艦の修理も行うと言うが、海上での戦ならば軍艦は海底に沈み、修理出来る様な状態ならばその場に留まり敵の軍艦と交戦を続けるのが普通だ。

 そして、数日後、中隊と数十台の馬車は全ての荷物を降ろし、物資名と数量を書いた書状を持ち帰った。


        


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