第 59 話。 やはり総動員か。
大江の家臣が生き残り家族と再会を果たし、数日が過ぎた頃、源三郎は高野、阿波野、斉藤に書状を送り、三日後家臣を山賀に連れて来るように書いて有り、高野、阿波野も斉藤は馬車で山賀に向かった。
源三郎は大江の家臣とは別にげんたと銀次に親方と工藤と橘の中隊長と小隊長達の全員で山賀へ向かい、松川では阿波野と高野らが待っており、源三郎達と共に全員で昼食を取り、其の日の夕刻には山賀に到着した。
山賀では若様と吉永が、更に山賀で家族と最後に再会した大江の家臣達も揃い夕食を共にし、協議と言うのか説明は明日の朝から決まり早く眠りに着いた。
翌朝、源三郎は誰よりも早くと言うのか、何故だか昨夜は眠りに付けず朝を迎え、工藤と橘達も早々大広間に着き、その後には松川の若殿、山賀の若様、更に高野達が入るが、げんたと銀次に親方はまだ起きて来ない。
「皆様方、本日は大変お忙しい中お集り頂き誠に有り難く存じます。
では早速ですが本題に入らせて頂きます。」
其の時、大江の元家臣達に正太と仲間の数人、更にげんたと銀次に親方が入り全員が揃った。
「では早速ですが、大江の方々には正太さん達が今されております仕事の全てを引き継いで頂きます。
尚、仕事の中味に付きましては後程正太さんからお聞き下さい。」
「えっ、じゃ~オレ達の仕事は無くなるのか。」
「其れは有りませんよ、正太さん達は北で採掘しております粘土で連岩を大量に作って頂きたいのです。」
「えっ、連岩って、でも何でそんなに大量に要るんですか。」
「正太さん達にも皆様方にも今からそのお話しをしようと思い、今日集まって頂いたのです。」
源三郎は正太が言う様に何故それ程までに連岩が必要なのかを詳しく説明した。
「皆様方、今説明させて頂いた通り日本国は大変な危機状態に入りつつ有り、どの様な方法を用いましてもロシアの大艦隊を撃破しなければならないと、ですがこのお話しは日本国政府とは全く関係も無く、私はロシアの艦隊が食料や飲料水確保の為、我々の連合国の浜に上陸する様な事態にでもなれば連合国の領民達は皆殺しにされるのでは考えまして、山賀の断崖絶壁の内側に潜水艦の巨大な基地を造らなければと考えたのですが、私が素案を考える前に技師長が考えられ絵図面も完成し、私はこれで決心したのです。」
「司令長官殿、自分達はどの様な苦労も要問いませんので全面的に協力させて頂きたいのです。」
「橘さんのお気持ちは大変有り難いと思っております。
ですが今回の工事は日数との戦争で、ですがどんな事が有っても決して強制はしないで頂きたいのです。
兵隊さん達には全てを納得して頂かなければ事故が多発し、下手をすれば犠牲者が出る、若しもその様な事にでもなれば工事は途中で中止し、再開するまで多くの日数が掛かり結果的には完成が遅れ、その様な時にロシアの大艦隊が連合国の浜にでも上陸する様な事態になれば其れこそ我々の連合国は破滅させられると私は考えたのです。」
源三郎は橘には部下で有る大隊の兵士達には強制はするなと。
「総司令は何時頃ロシア艦隊が沖を通過するとお考えなのでしょうか。」
「其れよりも私が知りたいのは軍艦を建造するにはどれだけの日数が掛かるかと言う事でして、
其れも五隻や十隻では無く数十隻と言う大艦隊をです。」
「えっ、ですが、其れならば十年、いや二十年くらいは掛かると考えられます。」
「左様ですか、では我々は二十年以内に数十隻の潜水艦の建造を終わり訓練も終了しなければならないと考えます。」
「あんちゃんは全部出来ると思ってるのか。」
「技師長、出来るのかでは無く二十年以内に全てを終了しなければならないのです。」
「源三郎様は二十年以内にって言われましたけど、此処の洞窟を掘削するだけでも大変なんですよ。」
「銀次さんの申される通りでして、其れで銀次さんにお願いが有るのですがお仲間を全員山賀に集結させて頂き大隊の兵隊さん達に掘削の方法を教えて頂きたいのです。」
「其れは出来ますが、でも本当に出来るのか其れが心配なんです。」
「銀次さんも皆様方もよ~く聞いて下さいね、此処の軍港が完成しなければ我々の連合国は一体どうなると思われますか、私は秘密の軍港を完成させ、数十隻の潜水艦を完成させる為ならば我が連合国の領民のすべてを動員してもよいと、其れが今一番大事な問題でして、勿論、私も現場に入り皆さん方と一緒の工事に入る覚悟です。」
今日の源三郎は今までの様な口先だけでは無く自らも現場に入ると強い決意で有る。
「今あんちゃんは潜水艦って言ったけど、潜水船の間違いじゃ無いのか。」
「技師長は潜水船では無く潜水艦を考えて頂きたいのです。」
「だけどなぁ~、海の中じゃ~大砲は撃てないんだぜ。」
「其れは勿論承知しておりますよ、ですが技師長の頭の中には潜水艦で使用する為の武器は完成して要ると思うのですがねぇ~如何ですか。」
「でも幾ら技師長が大天才でもですよ、どうやって海の中で爆発させるんですか。」
銀次も大筏で一升徳利を爆発させた現場にいたが、あの時でも源三郎が導火線に火を点け爆発させた、だがあの時でも火薬を詰めた徳利は海上の筏の上に有り、海中では無いと知って要る。
「技師長は何としても新しい武器を完成させて欲しい、いや絶対完成させるんだ、これは私の命令です。」
源三郎は今まで全く命令と言う言葉を発した事は無く、大袈裟に言えば今回が初めてで技師長げんたに対し新式の武器を完成させよと命令を下し、げんたは源三郎の表情を見て何も言わず、其れよりも何かを考えて要る様にも見える。
「義兄上は連合国の領民に総動員令を考えておられるのですか。」
「勿論ですよ、領民と申しましても全てでは有りませんよ、農民さんと漁師さん達は残って頂きます。」
源三郎の考え方は実に簡単で生き物全てに食べ物は必要だ、総動員と言っても農民や漁師まで動員すれば一体誰が食料を調達すると言う、食料が無ければどの様に素晴らしい計画でも失敗するのだと。
「親方にお願いが有りまして、北の草地に二千人、いや三千から四千人が宿泊出来る長屋を建てて頂きたいのです。
其れと申しますのは洞窟を掘削する人達だけで無く賄いをされる女性達のお部屋も要りますので。」
「義兄上は女性も申されましたが、女性達の中には乳飲み子も居ると思うのですが其の女性達も対象なので御座いますか。」
「今若殿より大事なお話しをして頂きましたが、赤子の居られます女性はそうですねぇ~、三つ子の魂百までと申しますので、三つ、いや五つまでの幼い子供が居られますお母さんは残って頂きますが、残って頂くお母さんと子供さん達はお城で過ごして頂きたいのです。
お城には多くの腰元も居られお母さん達も少しは安心して頂けると思いますので。」
残る人達にはお城へ行けと。
「銀次さん達には山賀から菊池までの山から間伐材を草地に運んで頂きたいのです。
其れには木こりさん達の協力も必要で其の時には猟師さんと兵隊さん達にも同行して頂きたいのです。」
「源三郎様は間伐材を全部集めろって言われましたが荷車も要りますんで。」
「其れは城下に有る荷車を使用出来ると思います。」
今日の源三郎には反論も出来ないと銀次も分かっており、其れ以上は聞かなかった。
「斉藤様には松川の窯元さんの半分をお連れ願いたいのです。」
若殿も斉藤も頷くだけで有る。
「さっき言われました長屋なんですが、何処に建てれば宜しいんでしょうか。」
「其の事もですが何も今直ぐにとは言えないのです。
松川から窯元さん達が来られ、正太さん達を含め話し合って頂かなければなりませんので、当然宿舎と焼き物に使用する薪木の保管場所も必要ですから。」
源三郎も全ての考えが出来たのでは無く、質問に対し答えを出す事も出来ず、今は手探り状態で有る。
「ですが皆さん方にはこれだけはどんな事が有っても忘れないで頂きたいのです。
其れは今回の相手と申しますか敵と申しますか、其れは官軍では無いと言う事なのです。
官軍や幕府の敗残兵、其れと野盗ならば我々と同じ言葉で全く問題は無いとは申せませんが、ロシアと言う大国は大陸の国で我々の使う言葉もですが相手の言葉も全く理解出来ないのです。
その為何も通じない、これだけは頭の中から一時たりとも忘れる様な事は有ってはならないと、これだけは頭の中に叩き込んで頂きたいのです。」
連合国の中では言葉の障害は無い、だが相手が外国人ともなれば今の連合国に住む人達が理解すると言うのは不可能で有る。
「私は何も今日全ての答えを出せるとは考えておりません。
例えば最初に申し上げました大江の方々ですが貴方方も私が何を言いたのか理解して頂きたいのです。
正太さん達は今まで洞窟内の事もですが、其れ以外の事までも考えられ私は正太さんには今回の大工事に関しての総監督になって頂き大江の方々の相談にも乗って頂きたいのです。
だからと言って大江の方々では不安だとは思っておりませんよ、貴方方も急な展開に何から手を付けて良いのか分からないと言うのが本当だと思います。
大江の方々もですが皆様方には関係する人達とは別にお互いが連絡を取り一刻でも早く基地を完成させる、その為には何が必要だと言う事を考えて頂ければ全てお分かりになって頂けるものと信じておます。」
「お~いみんな大丈夫か。」
「お~まだまだ大丈夫だ、だけどこんなにも重い馬車は初めてだ、まぁ~木道が有るだけでも助かるけど。」
「隊長殿、お話しが有るのですが。」
「一体どうしたんだ。」
「其れが自分もですが、今まで兵士達は木道を造るまで皆が必死で作業を行なっており、やっと出発出来ましたが、兵士達もですが馬も相当疲れて要ると思うんです。」
「う~ん。」
と、佐野は何も言えなかった。
「其れでお願いなんですが、朝の出発が早いのでお昼までに一回か二回休みを取らせたいんです。」
中隊長は兵士達も馬も今までの疲れが今頃になり出て来て要ると思ったのだろう、休みを多く取りたいと。
「そうだなぁ~、今まで誰もが必死で其れこそ誰もが休める状況では無かったと言う事だなぁ~。」
「其れにこの先もこの間々進みますと誰かが大きな怪我をするか馬が倒れるやも知れないと思うんです。」
「では中隊長としては休みを多く取りたいと言うんだな。」
「其れにあの人達は何も不満は言われませんが、我々以上に物凄く辛いと思うんです。」
「確かに中隊長の言う通りかも知れないなぁ~、其れならば中隊長の言う通り休みを多く取る様にしてくれ、全ての責任は私と掛川隊長が取る。」
「第一小隊の第一分隊は菊池へ向かえ、第二、第三分隊は前方の偵察を残りは先導を、第二中隊は
後方へ、第三中隊は軍医殿と看護婦さんと食料馬車に炊事班、其れと後方の馬を。」
連合国軍の兵士達も動きは早く、百数十台の馬車もだが後方からは数百頭もの馬も連れており、先頭から最後尾まで一体どれだけの長さが有るのかも知れず、だが此処まで来ると今更戻る事も出来ない。
最初、飯田達は巻き糸だけを受け取れば直ぐ戻れるものと簡単に考えていた、だが現実は工場には巻き糸の在庫が少なく、これが幸いしたのか出発が遅れ、更に駐屯地に残った二個大隊と共に連合国へ向かう事に、だが何時になれば戻れるのか其れは飯田達にも全く分からない状態で有る。
山賀での協議は数日間も続き、だが最初に動き始めたのは銀次で野洲から仲間が着くと、銀次が説明し、其の日の内に山賀の木こりと細かな打ち合わせに入った。
「銀次さん達は山の間伐材を運ぶって言われましたが、実はわしらの仕事でも人手が不足してるんですよ。」
「えっ、じゃ~間伐材は少ないんですか。」
「其れは十分有るんですが、今のお話しだったらもっと人手有れば今の倍、其れよりも山に有る倒木も相当有るんで、間伐材と合わせると数百本と、でもやっぱり人手がねぇ~。」
木こり達も人手が不足して要ると言う。
「オレ達は今まで数千本もの間伐材を切り倒し運んで来ましたんで、まぁ~有る程度だったらオレ達も間伐出来ますんで、運ぶのは後後にして木こりさん達が間伐する木に印を付けて下されば、オレ達全員で切り倒して行きますが。」
「其れだったらわしらも少しは楽が出来ますよ、じゃ~明日からわしら木こりは間伐する木に鉈で印を入れて置きますんで、切り倒しをお願いします。」
「じゃ~オレ達も明日の朝から山に入りますが、其れと狼は。」
「其れなら大丈夫ですよ、猟師さん達の指示で動きますんで。」
銀次は狼の大群が何時襲って来るかも知れないと恐れて要るが、猟師が山に入れば安心出来る。
「源三郎様、さっき此処の木こりさん達と話してたんですが、木こりさん達も人手が少ないって、其れでオレ達も切り倒しに入りますんで間伐する木に印を入れてくれると。」
「では木こりさん達は山の木に印を入れ銀次さん達が切り倒しと運び出す事までされるのですか。」
「そうなんですよ、でオレが考えたんですが、山賀から菊池までの木こりさん達には切り倒す木に印を入れて下さればオレ達が切り倒して運び出しますんで。」
「分かりました、では私からお話しをして置きますので。」
「オレ達はその前に道具を取りに戻りに行きたいんです。」
「まぁ~銀次さんの事ですから後々の事まで考えておられると思いますのでお任せしますので、ですがくれぐれも狼だけには細心の注意を払って下さいね。」
銀次達は一度野洲に戻り道具を揃え数日後には山賀の山に入る事になった。
親方も正太と打ち合わせをするが、やはり窯元がいなければ話しは進まず、数日後、松川より数人の窯元が来て打ち合わせも終わり、山賀に来ていた主だった人達は数十項目にも及ぶ内容を書き各国へと戻って行く。
だがげんたはあの日から一体何を考えて要るのか一人で駐屯地に行き悩んで要る。
「技師長は何を考えておられるのでしょうか、あの日から駐屯地に入いられ連発銃と数個の弾と睨めっこされて要る様ですが。」
「まぁ~ねぇ~、ですが私も何を考え付くのか私も分かりませんが、今は其のままにして置いて下さい。」
若様はげんたが何を考えて要るのか知りたいのだろうが、源三郎はげんたの事だ何も心配する事は無いと。
そして、数日後、源三郎は一人野洲へと戻って来た。
源三郎も数日間は考える日が続き、その数日後。