第 58 話。 駐屯地をぶっ壊せ。
「私は野洲の源三郎様より若様に。」
「左様ですか、では其のままお進み頂まして左に有ります建物に若様が居られますのでどうぞ。」
「はっ、はい、では失礼致します。」
浅川の部隊で生き残った中隊長と小隊長達を含めた元官軍兵は官軍にいた頃とは全く違う対応に驚いて要る。
「失礼致します。
私は野洲の源三郎様より命令を受けました官軍の。」
「皆さんでしたか、さぁ~さぁ~お座り下さい。
義兄上がご無理をお願いしたと思いますが、何卒宜しくお願い致します。」
「えっ、今義兄上様と申されましたが。」
「左様でして、野洲の源三郎様は私の義兄上でしてね、今回は皆様方には大変な仕事だとは思いますが、そうだ正太さんを呼んで下さい。」
高木は大急ぎで北の空堀へと向かった。
「失礼で御座いますが、若様は。」
「私ですが其れが何か、あっそうか、義兄上も門番さんも何も申されなかったのですねぇ~、其れは大変申し訳有りませんでした。」
元官軍の中隊長と小隊長達が驚くのも無理は無く、若様の着物は農民の作業着姿で彼らが想像した人物とは全く違っていた。
「若様。」
と、正太が飛び込んで来た。
「えっ。」
と、又も驚きで腕には島帰りの証で有る入れ墨が入って要る。
「正太さん、此方の方々は義兄上の命を受けられた元官軍の兵隊さん達ですよ。」
「やっぱりなぁ~、源三郎様は前に来た官軍兵には大変な目に遭ったからなぁ~。」
「申し訳御座いませんが大変な目に遭ったと申されますと。」
「え~では義兄上からは何も聞かせれておられないのですか、では簡単にお話ししますが数日前の事ですが、一個大隊の官軍兵が義兄上の頼みを断られ、大手門の前に有る駐屯地に作業員の人達と我が軍の兵士を人質に取ると言う反乱を起こしたのですが、連合国軍の隊長の作戦で全員が狼の餌食になったんですよ。」
やはり源三郎の話しは本当だったとこの時彼らは確信した。
「若様、私達はどの様な仕事に就きましても苦労は要問いませんので、何卒宜しくお願い致します。」
「まぁ~まぁ~最初からその様に気負いされますと、其れこそ気持ちが持ちませんので気軽に考えて下さい。
洞窟内の仕事は体力勝負ですから最初から必死にされる必要も有りませんよ。」
元官軍兵は源三郎からどの様な説明を受けて要るのか分からないが、彼らが考えて要る以上に厳しい仕事には違いは無い。
「若様、私達は今からでも宜しいので工事現場にお連れ頂きたいのです。」
「そうですか分かりました、其れでは正太さんは皆さん方を洞窟の現場に案内して下さい。」
「じゃ~行きましょうか。」
正太は元官軍兵を洞窟の現場へ一緒に向かうが、彼らは本当に続けられるのか正太は其れだけが心配だ。
城内を抜け地下の隠し扉へ抜け北の空掘りの現場へ着いた。
「お~。」
と、大きくは無いが官軍兵は驚きの声を上げた。
「此処が現場で皆さん方には目の前に有る岩盤を砕いて貰いますんで。」
「失礼ですが目の前と申されますと。」
「皆さんの足元に有る岩盤で、そうですねぇ~此処から見て貰っても分かる様に相当な高さが有りますんで最低でも六尺以上は深く掘り下げる必要が有るんです。」
「えっ、六尺以上もですか。」
彼らが見た岩盤とは先端部分の海面上二尺程の高さまで砕くと言うので有る。
「まぁ~あんまり最初から必死になると身体が持ちませんので、其れとこの仕事ですが日夜の関係無く続けますんで皆さん方を三つの班に分けて貰いますんで。」
正太は何時もと同じ様に三つの班に分けると言う、彼らは浅川の部隊では中隊長と小隊長達で班分けは簡単で有る。
「其れとですが、オレ達の現場では以前の関係は有りませんので身分は関係無く分けて下さい。
但しですが必ず班長は必要になりますんで。」
「班長と申されますと。」
「此処での仕事は個人でするんじゃ無いんですよ、例えば第一班は何処の部分を担当するとか、その内容を班長に伝え、班長は班の全員に伝える、其れが班長の仕事でして、オレ達の仲間一千人でもその方法でやってますんで。」
「承知致しました。」
「其れと今からもっと詳しい説明をしますんで。」
正太はその後詳しく説明を始めた。
「誰か掛川隊長と佐野隊長を呼んでくれないか。」
「軍医殿。」
「小隊長、私は医者だ何が有ったかは知らないが、鬼頭達は騙せても医者は騙せないぞ。」
「誠に申し訳御座いません。
両隊長と軍医殿には全てお話しを致しますので。」
「君達も全員会議室に来るんだ。」
小隊長と小隊の兵士全員が医務室の隣に有る会議室へと入り、二人の隊長が来るのを待った。
「軍医殿がお呼びとか。」
「お二人に大切な話しが有りますので中へ。」
軍医と掛川隊長と佐野隊長が会議室に入ると小隊長と小隊の全員が待っていた。
「まぁ~君達も座ってくれ。」
全員が座ると。
「両隊長、彼らの傷ですが。」
「軍医殿、私達も直ぐ分かりました。
ですがこれには何か訳が有ると思いましたので佐野さんとも話しをしまして鬼頭達が出発した半日後からでも聞くつもりでした。」
「さすがですなぁ~、やはり奴らとは違いますねぇ~。」
「いゃ~それ程でも有りませんが、小隊長、詳しく話してくれますか。」
「掛川隊長、佐野隊長、其れに軍医殿、誠に申し訳御座いませんでした、実は。」
と、その後、小隊長が詳しく話すと。
「やはりでしたか、で連隊長殿は此方に戻られるのですか。」
「其れは私にも分かりませんが、何でしたら自分達と一緒に両隊長が来られては如何でしょうか。」
「う~ん一緒にか。」
掛川は何かを考え少し経って。
「小隊長に聴きたい事が有るんだが、君達が来る数日前なんだが百台以上の馬車を連ねた大集団と言うのか、大部隊と言っても良いが数人は新政府の役人と思われ、三個中隊の護衛付きで近くに出来た官営工場に。」
「隊長殿、其の方々は連合国から向かわれたので間違いは御座いません。
連合国から巻き糸を購入に行かれたのです。」
「だったら若しかして。」
「隊長殿、其の方々はもう帰られたのでしょうか。」
「其れは分からないが。」
「では其の工場は何処に有るのでしょうか、自分が。」
「よし誰か一緒に行ってくれ。」
「隊長殿、自分達が一緒に行きますので。」
佐野の部隊から数人の兵士が行くと決まり。
「よし、誰か至急に馬を大至急にだ。」
そして、四半時程して小隊長と数人の兵士が馬に飛び乗り官営工場へと飛ばして行った。
「飯田殿、物凄い量を積んでおり予定よりも遅れるやも知れませんねぇ~。」
「まぁ~其れも仕方有りませんがとにかく急ぎましょうか。」
百台以上の馬車には大量の巻き糸が積み込まれやはり積み過ぎたのか馬車の動きは遅く、其れが不幸中の幸いなのか、工場を出発してもまだ二里程しか進めず、後一里程で本道と言うのか駐屯地へ向かう太い道へ出る所に来た。
「お~い。」
「えっ、正か官軍に発見されたのでは。」
飯田はしまったと思った。
「自分は野洲の源三郎様の命を受け駐屯地に来ました。」
「では官軍では無いのですか。」
「大丈夫です、駐屯地には連隊長殿の部下の部隊が残って居られますので。」
「あ~良かった、私は官軍に発見されたのかと勘違いしましたよ。」
「ですが荷物が相当重い様ですが。」
「左様でして、余りの重さに馬車の進みが悪く予定よりも遅れておりまして。」
「では駐屯地に参り少し休みを取られては如何で御座いましょうか。」
馬車の横には三個中隊の兵士が馬車を押しており、この間々では兵士達の方が早く疲れ何時戻れるのかも分からない。
「飯田殿、今の状態では馬よりも兵隊さん達の方が参ってしまいますよ。」
「分かりました、では少し休みを取りましょう、案内して頂けますか。」
「小隊長殿、此処で待ってて下さい、自分が応援を呼んで参りますので。」
兵士は馬に飛び乗り駐屯地へと飛ばして行った。
「皆さん、大変申し訳御座いませぬ、私の不注意で。」
「何も飯田さんの不注意では有りませんよ、自分達も巻き糸の重さを知らなかったですから。」
「中隊長さん、兵隊さん達には申し訳無く思っております、この通りです。」
と、飯田は中隊長に頭を下げ。
「頭を上げて下さい、其れよりもこの間々ですと予定の倍以上の日数が掛かると思うのですがねぇ~。」
中隊の兵士達は道端にへたり込み、もうこれ以上は駄目だと言う表情をして要る。
「飯田殿、もうこれ以上は無理ですよ。」
「私の勝手な。」
「いゃ~其れよりも対策を考えましょう。」
飯田、上田、森田の三名は何か対策を考えなければならないと深刻な表情で、だが余りにも大量の巻き糸の重さで馬車の車輪が地面に食い込み動かす事が出来ない。
その後半時程が過ぎた頃。
「お~い。」
「えっ、若しや官軍では。」
「心配は有りません、駐屯地の兵隊さんですよ。」
掛川と佐野の部隊が応援に駆け付けた。
「よ~し全員で馬車を駐屯地まで運ぶんだ。」
「隊長殿、誠に有難う御座ます。」
「いやいいんだ、さっきも佐野さんと軍医殿を交えて話したんだが駐屯地の全員で君の言う連合国に向かう事に決めたんだ。」
「えっ、其れは誠で御座ますか。」
「間違いは無い、だが一度駐屯地に入り馬を増やすがその為の作業も有るんだ、よ~し行くぞ。」
と、佐野の号令と共に二個大隊の兵士が馬車に結んだ縄を引き押し、その後一時程で駐屯地に着いた。
「馬を切り離せ、其れと鍛冶屋を呼んでくれ。」
「其れにしても物凄い馬車ですなぁ~。」
「軍医殿、私も驚いて要るんですよ。」
「小隊長の話ではその連合国と言うのは素晴らしいところだとか。」
「私も其の様に思いまして、この駐屯地を離れようと考えたのです。」
「だがなあ~あれだけの馬車を運ぶと成れば相当大変ですよ、わしも八頭立ての馬車も初めて見ましたが、何か策を考えなければなりませんねぇ~。」
「失礼します、隊長さん、私は飯田と申しまして、彼が上田、そして、森田の三名で御座います。」
飯田が今までの経緯を話すと。
「そうでしたか、ではそのお方が連合国と統治されておられるのですか。」
やはりだ、誰が考えても源三郎が連合国を統治して要る独裁国家だと思う。
「いいえ、そうでは御座いません。
源三郎様は権力とは全く無縁のお方で御座います。」
「ですが自分は其の様に感じたのですが。」
「隊長さん、源三郎様は命令は一切されません、全てお願いされるのです。
其れも相手が子供でも農民や町民達に対してでも誰に対してでも同じで御座います。」
「う~ん其れにしても全く不思議な国と申して良いのか、命令もされず全てお願いすると言うのが自分には全く理解出来ませんねぇ~。」
「わしも同じ様に思うんだが、お二人の部隊、其れとわしらも離れるんだったら此処は一体どうなるんだ。」
「軍医殿に何か策でも有るのですか。」
「まぁ~わしも今まで色々なところに行ったんだがなあ~、駐屯地と言うのは全て木材を使って要るんだが、我々が駐屯地を離れると言う事はだ此処には誰もいなくなると言う事だ。」
「其れは勿論ですが。」
「佐野さん、駐屯地に使ってる木材を厚さ一寸の板に切ってだ馬車の前に敷き詰めてはどうだろうか、そうすれば地面にめり込まずに行けると思うんだ。」
「そうか我々が駐屯地を離れれば必要も無いと言う事か。」
「其の通りなんだ、さっきも見たが八頭立ての馬車でも大変だと言う事だから馬も四頭増やし馬車の前に板を敷き詰めれば思った以上に楽に進めると考えたんだがなぁ~。」
「その手が有りましたか、では早速皆で取り掛かりましょう、当番、中隊長と小隊長を呼んでくれ。」
暫くして中隊長と小隊長が入って来た。
「まぁ~座ってくれ、実はなぁ~。」
と、掛川が話すと。
「では我々はその連合国に参るのですか。」
「そうなんだ、其れで先程百台以上の馬車を連合国まで護送と言うのか、我々が一緒に行くんだが問題はだ馬車の積み荷が重く、今まで地面に食い込み簡単には行けないんだ、其れで軍医殿の提案で駐屯地の建物を解体し厚さ一寸の板を道に敷き詰めてはと思うんだが。」
「建物を解体すると言う事はもうこの駐屯地には戻られないのですか。」
「自分も佐野隊長も、其れに軍医殿にも賛成して頂いたんだ。」
「一寸厚の板ですが一体どれだけ要るんですか。」
「其れが全く分からないんだ。」
「先程の馬車ですが八頭立てでしたが其れよりもまだ増やすのですか。」
「そうなんだ、軍医殿は八頭立てでも馬が悲鳴を上げて要ると、其れならば二頭、いや四頭増やさなければならないと申されて。」
「じゃ~物凄い長さになりますが大丈夫でしょうか。」
「其れとだが君達も知っての通り鬼頭、熊野に前川の三個大隊は佐渡に向け出発した。
師団長殿も此方には戻って来る事は無い。」
「師団長殿も戻られないのですか。」
中隊長と小隊長達は師団長達が戻って来ないと聞き、何やら嬉しそうな顔付きになった。
「なんだ、君達は師団長殿が戻って来ないと分かって何やら嬉しそうだなぁ~。」
「いいえ、飛んでも有りません。」
と、中隊長は手を振り否定するが顔は喜んで要る様にも見える。
「隊長達は知らんが兵士達の中には師団長を怨んで要るのも大勢いるんだ。」
軍医の医務室には日頃兵士達が負傷したり病気で来る事も多く、その様な時師団長や浅川に鬼頭達、其れは師団長の腰巾着の隊長達に対する不満をぶちまけており、だが連隊長に対しては誰も不満は言わない。
「じゃ~君達も兵士達から聞いていたのか。」
「そうでして、師団長の命令だと言って浅川さん達が我々の部下には特別の任務だと言って我々だけに駐屯地を造らせてたんです。」
「連隊長殿もご存知だったのか。」
軍医も知らなかったと言うより駐屯地では師団長の命令は絶対的で誰も反対は出来なかった。
「お二人も知っておられたのですか。」
「連隊長殿は何時も辛抱してくれと申されておられました。」
「そうだったのか、じゃ~一層の事だ師団長と浅川達の部屋からぶっ壊すかみんな大喜びするぞ。」
軍医は飛んでも無い事を平気で言う。
「ですが、其れでは突然戻って来られた時に。」
「佐野さん、だったら一日でも早く解体して連合国へ行けばいいんだ。」
「えっ、では本当に宜しいんですか。」
軍医はニヤニヤとし、軍医も今まで師団長や浅川ら腰巾着達の横暴を見ており、連合国と言う夢の様な国へ行けば二度と顔を合わす事も無いと考えたので有る。
だが現実は師団長も浅川も、更に浅川部隊の中で中隊長と小隊長達以外の全員は狼の餌食となっており、駐屯地に残った掛川と佐野の両部隊の全員、そして軍医は知らない。
「佐野隊長殿、掛川隊長殿、では師団長のお部屋からぶっ壊しても宜しいでしょうか。」
「まぁ~其れは君達に任せる。」
「はい、了解です。」
中隊長と小隊長達の後ろ姿を見ると大笑いして要る様にも見える。
「お~い全員集合だ。」
「みんな佐野部隊の中隊長殿が呼んでるぞ。」
「何が有ったのかなぁ~、いや其れにしても中隊長殿や小隊長殿達は何であんなに喜んで要るんだ。」
「若しかすれば戦が終わったのかなぁ~。」
「まぁ~取り合えず行って見ようか。」
何も知らない兵士達は話しをしながらも駐屯地の広場へ集まって来た。
「今からみんなに大事な話しが有るんだ。」
佐野部隊の中隊長が詳しく話すと。
「えっ、でも今の中隊長殿のお話しでしたらオレ達は佐渡に行ってロシアって言う外国の軍隊と戦をする事になってたんですか。」
「中隊長殿、さっき運んで来た大きな馬車を別の所に持って行ってですよ、若しもですよ師団長や浅川隊長が戻って来たらどうするんですか。」
「軍医殿が全ての責任を取ると申されて要る、いや其れよりも掛川隊長殿と佐野隊長殿が責任を取られると思うんだ。」
「そんな事になったら其れこそ師団長は隊長を銃殺刑にするぞ。」
「中隊長殿、さっきの話しですけど、一寸厚の板を作るって言われましたけど、あんなに重い馬車が一寸厚の板では直ぐに壊れますよ、自分は以前材木問屋で仕事をしておりまして、家の柱と申しましょうか、その様な物ですが五寸の柱が中心でして、張りの厚みと申しましょうか、基本と言うのが五寸で多分ですが師団長の部屋もですが駐屯地の建物も殆どが五寸で作られて要ると思うんです。」
「では三寸板に切り揃えるよりも五寸の角材のままで敷き詰めると言うんですか。」
「大工さんならば三寸板に切り揃えると言うのは出来ますが、素人の人達が三寸に揃えると言うのは余計な手間が掛かりますので下手をすれば師団長が戻られて来る最中に部屋を解体して要るかも知れないんです。」
「では五寸の角材を利用する方が早いと言うのか。」
「其れと多分ですが駐屯地の周りを囲って要る木材も五寸の角材で揃えて有ると思いますので、其れならば後は長さだけですので、あの巨大な馬車でも幅が二間も有れば十分だと思います。」
「よ~し今度は君が中心となり解体し一日でも早く馬車の移動を開始するんだ。」
「其れだったた今からでも始めましょう、自分は其の方がいいと思うんです。」
「よし、君に全てを任せるが決して怪我はするなよ。」
「は~い、じゃ~みんな始めるぞ。」
「お~。」
と、残った掛川と佐野の二個大隊の兵士が雄叫びを上げ道具を取りに戻り、材木問屋で仕事をしていたと言う兵士が中心となり駐屯地の解体作業が開始された。
「失礼します。」
と、飯田達が掛川達の居る部屋に来た。
「飯田様、如何されましたか。」
「隊長さん、我々は一刻でも早く戻りたいのですが。」
掛川も佐野も飯田達には事情を話しておらず、何故駐屯地に連れて来られたのか分からなかった。
「掛川さんも佐野さんも此方の方々に説明をされて無かったのですか。」
「私もすっかり忘れておりまして、今から詳しく説明させて頂きます。」
掛川がその後飯田達に何故馬車を駐屯地に入れたのかを詳しく説明すると。
「左様でしたか、私は師団長に知られたのかと思いどの様にすれば良いものかと、其れだけを考えておりまして、其れで先程から大きな物音がするのも納得出来ます。」
「其れで飯田様にお伺いしたいのですが、この地から連合国までは何日位掛かるのでしょうか。」
「普通ならば六日、いや七日は掛かると思うのですが、これだけの台数なので、その倍、いやもっと掛かるやも知れません。」
「う~んこれは大変だなぁ~、だが一刻でも早く運ばねばなりませんねぇ~。」
「ですが今解体された木材を敷き詰め其の上を馬車が行くと成ればどれくらいの日数が掛かるやも知れませんねぇ~。」
「まぁ~其れを今更言っても仕方有りませんので出来るだけ早く木道を完成させ移動を開始しましょう。」
其の二日後には師団長の部屋は完全に解体され駐屯地の門の前に五寸角の角材と板は数枚重ね釘で五寸の厚さ、其れと同時に駐屯地の門も解体され其のまま敷かれ、三日、四日と経つと浅川や鬼頭達の部屋も、更に五日が過ぎると熊野に前川の部屋も無くなり、駐屯地の周りを囲って要る木材も次々と解体されて行く。
「まぁ~見事に部屋が消えましたねぇ~、此処までやりますと気持ちがすっきりとしますよ。」
「軍医殿、兵士達は何故か楽しんで解体しておりまして。」
「だが実に爽快だなぁ~。」
軍医は何故に爽快だと言うのか、其れは誰もが思って要る事で、この駐屯地には大よそ一万人近い人達がおり、建物には大量の木材が使われて要る。
兵士達は早朝から陽が暮れるまで、其れは賑やかにと言うよりもお祭り気分の様で大騒ぎしながら解体し木道を造って行く
そして、七日を過ぎた夕刻に成ると。
「掛川隊長、大よそ二町か二町半近くの木道が出来ました。」
「そうか、では明日試して見るか。」
「では明日は大きい馬車で試して見ます。」
暫くして飯田、上田、森田の三名が掛川の部屋に来た。
「隊長さん、素晴らしい木道が完成したようですねぇ~。」
「其れで明日大きい馬車で試して見ようと思います。」
「其れは大いに楽しみで、私達は何としても成功して欲しいと願っております。」
そして、明くる日の朝、飯田が操る十二頭立ての馬車がゆっくりと木道の上に上がり、そして、馬車はゆっくりと、其れは人間の歩く早さと同じ程だ。
「隊長さん、物凄く楽ですよ、其れに馬も余り気にしていない様にも思います。」
「左様ですか、みんな大成功だぞ。」
と、掛川の声に兵士達は飛び上がり喜んだ。
「よ~しみんな一気に行くぞ。」
「お~。」
と、兵士達は疲れも見せずと言うのか、相当疲れて要るはずだが、やはり掛川の大成功だと言う声に疲れも吹っ飛んだようで有る。
其れからと言うものは囲いも次々と解体され十日、二十日と過ぎ三十日を過ぎた頃。
「隊長殿、多分一里以上は出来上がったと思います。」
「よ~し明日の朝、何処まで馬車を連ねて行けるのか試す、明日の朝は全ての馬を出すぞ。」
「は~い、承知しました。」
と、中隊長は大喜びで兵士達の元へ向かい、そして、まだ陽の上がる前から兵士達は行動を開始した。
飯田が先頭で次が上田、そして、森田が続き六十台以上の大型馬車の全てが木道を進み、次は普通の馬車と言っても八頭立てで続々と木道を進み、やがて巻き糸を積んだ馬車だけが乗った。
「中隊長、やはり後半里以上は必要だなぁ~。」
「自分も同じ様に考えております。」
「よ~し全ての馬だけを切り離し、再度木道の設置開始だ。」
其の日から木道設置の工事が開始され馬車は木道に置き、大きな布を被せ、連合軍兵士が監視任務に就き、そして、やがて二十日が過ぎた。
「隊長殿、半里以上は設置完了しました。」
「よ~しでは明日の朝から全ての馬車に馬を繋ぎ連合国に行くぞ。」
「はい、全員に知らせます。」
「軍医殿、其れで宜しいでしょうか。」
「勿論だ、わしも看護婦達に知らせるから。」
そして、明けた早朝、兵士達は馬を繋ぎ全ての準備が整った。
「よ~し、さぁ~行くぞしゅぱ~つ。」
予定よりも六十日近く遅くなったが馬車が百数十台と掛川と佐野の部隊は馬車が通り過ぎた後角材を馬車に乗せ先頭を越え先の道に次々と置いて行く。
だがこの調子だと十日以上は掛かるのは間違いは無く、其れでも飯田達もだが駐屯地に残っていた二個大隊の兵士には大きな希望が涌き誰の顔を見ても嬉しそうで有る。