第 56 話。生き延びたいのか、いいや其れとも。
「あんちゃん。」
「げんたですか、久し振りですねぇ~。」
「あんちゃんは何処かに行ってたのか。」
「山賀に用事が有りましてね、まぁ~其れも全て片付きましたよ、で今日は何か考えて来たのですか。」
「あんちゃんは何言ってるんだ、そんなの決まってるよ山賀の洞窟の事だ、まぁ~オレが考えるんだから誰でも考えられると思うんだけどなぁ~。」
げんたはこの数日間山賀に有る洞窟に造る所を新たな潜水船の係留地にと考えていた。
「ほぉ~成る程ねぇ~、其れでどの様になったんですか。」
げんたは図面を書いたのだろうか。
「まぁ~ねぇ~、でこれを考えてたんだ。」
げんたは源三郎に絵図面を見せた。
「さすがでにげんたですねぇ~、これ程の絵図面を書き上げたのですか、ですがこれを造ると成れば大変な労力が必要ですが。」
「まぁ~ねぇ~、だけどあんちゃんの事だからもう人手の確保も出来てると思うんだ。」
傍で二人の話しを聞いて要る橘や中隊長達は衝撃を受けた。
源三郎はまだ具体的には考えていないはずだが、げんたと言う若い技師長は既に絵図面まで書き上げている。
「げんた、いや技師長、今度山賀の洞窟を掘削する人達の中心になって頂く橘さんですよ。」
「へぇ~、やっぱりなぁ~、あんちゃんは今度も官軍を取り込んだのか。」
「技師長、橘は私の官軍時代の部下でして。」
「やっぱりか、工藤さんの部下って事は他の人達もなんだね。」
「技師長殿、私は橘幸太郎と申しまして。」
「橘さんって言われましたけど、オレはあんまり堅苦しいのが好きじゃないんだ、オレの事はあんちゃんから聞いてくれよ、其れであんちゃんの計画だけど。」
「私もまだ全ては考えておりませんが、技師長の考え方で進めて貰っても宜しいですよ。」
「そうか、じゃ~簡単に説明するからね。」
げんたは簡単に説明すると言うが、橘達はどの様に理解して要るのだろうか。
「では今海水が有る所は何もしないのですね。」
「そうなんだ、其れよりもあの場所は断崖絶壁のどの付近に有るのか、其れを先に調べて欲しいんだ。」
「其れも大変ですねぇ~。」
「そんな事も分かってるんだ、だけどあの場所さえ分かれば後は簡単なんだ。」
「では早急に調べる事にしますが、他にも大切な事が有りましたか。」
「オレはねぇ~今の入り口から奥までをもっと深く掘り下げたいんだ。」
「ですが全てが岩盤ですよ。」
「だけど其れが一番大事なんだぜ、まぁ~何とかなると思うんだけどなぁ~。」
げんたは人手の確保も出来て要ると知って要る様だと橘は思うが、何故それ程にも知って要るのだろうかと考えるが、中隊長や小隊長達は全く理解出来ない。
「あんちゃんの事だからオレの考えは読めてると思うんだ。」
「分かりましたよ、では早速手配しましょう。」
「じゃ~頼むぜ、オレは他の事も有るんで帰るからな。」
と、げんたは其れだけを言うとさっさと浜へ帰って行った。
「司令長官殿、自分は技師長殿が申されました内容の全てを理解出来ないのですが。」
「其れは仕方有りませんよ、技師長はあの様に簡単に申しておりますが、実のところ大変な作業でしてねぇ~、其れに技師長の話しを最初から理解するのはまず無理ですよ。」
「総司令が申される通りだ、君達はまだいい方だぞ、私なんかは潜水船と言われた時には全く出来なかったんだからなぁ~。」
「ですが大佐殿は軍艦の図面を書かれたのですから。」
「まぁ~其の通りだが、技師長は若いが、我が連合国に取っては総司令に注ぐ大事な人物で、我々の想像を超えるものを考え、其の中の一つが潜水船で、其れを考え造ったのも技師長なんだ。」
「突然潜水船だと申されても理解されるのは無理ですよ。」
「確かに総司令の申される通りで御座いますが、橘が連合国に残るので有れば今の内に話す方が良いのでは有りませんでしょうか。」
「司令長官殿、大佐殿、私達では理解出来ない程難解な物なのでしょうか。」
「中隊長が無能だとは言って無いんだ、まぁ~簡単に言えば潜水船とは船が海中に潜る、その為海上から発見される事が無いと言う船なんだ。
私が思うには多分ですが技師長は鉄の潜水船を考えておられると思うのですが。」
「大佐殿は船が海中に潜るって申されましたが、大佐殿も外国の軍艦と同じ軍艦を考えておられたのでは有りませんか。」
「其の通りだよ、だが私も正か船が海中に潜るとは考えもしなかったんだ。」
「まぁ~まぁ~工藤さん、其のお話しは後程にされてですねぇ~。」
「司令長官殿、連隊長殿。」
と、師団に戻る小隊長が入って来た。
「小隊長、作戦は決まったのでしょうか。」
どうやら作戦は決まった様子で。
「先程全員で考えましたが、よくよく考えますと私と小隊程の人数だけが帰る理由が浮かばないのです。」
「理由ですか、理由をねぇ~。」
源三郎は其れまでは考えていなかったのだろうか。
「私も考えたのですが、一個大隊を全滅させるのは少なくとも三個大隊以上の兵力が必要で、例え奇襲攻撃されましても一度の攻撃で大隊が全滅する事は有りません。
更に後から師団長と浅川部隊の大隊が来られておりますので師団程の人数で無ければ無理だと思うのです。
確かに山賀では狼の大群に襲われ全滅しましたが、我々も今まで何度と無く戦闘しておりますが、例え幕府軍の残党だと考えても今の我々を全滅させるだけの人数と兵器は無いと思います。」
連合国となって今まで数百人、千人規模の幕府軍や野盗、更に官軍の大軍が押し寄せて来た、だがその度毎に狼の大群が襲い掛かり見事なまでに全滅させ、連合国の兵士や家臣、領民からは犠牲者は出ていない。
だが其れは正しく奇跡に近く、高い山の向こう側では兵士や侍、領民の関係無く多くの犠牲者を出しており、其れが戦なのだ。
「左様ですねぇ~、我々の連合国では今までどれ程の幕府軍や野盗、其れに官軍が押し寄せて来たか分かりませんが、高い山には狼の大群が生息しており、その度毎に狼の大群が敵方と申しましょうか、相手に襲い掛かり我々の仲間からは殆どと言っても良い程犠牲者が出ておりませんでしたからねぇ~、橘さんは師団長から何か別の話を聞かれておられませんでしたか、例えば橘さんと掛川さん、其れに佐野さんの部隊は残り防衛を固める様にとか。」
「其れならば御座います、 師団長は私と掛川、佐野の部隊は越後に残り敵軍の上陸を阻止せよと。」
「やはりでしたか。」
「やはりでしたかって、では司令長官殿はご存知だったので御座ますか。」
「いいえ、私は何も知りませんよ、ですがねぇ~師団長は知っておられたと思いますよ、ロシアの軍艦は佐渡には来ないと。」
「其れならば何故に師団長たちは佐渡に行くと申されたのでしょうか。」
「政府は佐渡に行かせない方法を考えておられると思いますよ。」
「ロシアの軍艦が佐渡に向かうのを阻止する、其れを知って師団長達はあえて佐渡に向かうと言う事は。」
「橘さんの考えておられる通りですよ。」
「やはりでしたか、実は私も以前から噂は聞いておりましたが、ですが何故あの時私の部隊の後方から行くと申されたのでしょうか其の意味が。」
「其れはねぇ~工藤さんを抹殺する為でして、師団長は工藤さんが生存して要ると都合が悪いのですよ。」
「総司令、私は何も知りませんが。」
師団長は工藤が戦死したと報告を受け佐渡行を決断したが有る日突然工藤は生きて要ると、だが何故工藤が生きて要ると都合が悪いのか、工藤は何も知らないと言う。
「工藤さんは何もご存知無いと申されますが、ですが師団長たちは工藤さんが何かを知っており、其れを軍令部に報告されると自分達の身が危ないと考え、橘さんの部隊を出撃させ、あわよくば工藤さんと橘さんの両方を抹殺出来ればと考え、浅川の部隊も出撃させたと思うのです。」
源三郎の想像だと言う話しは本当なのか、だが何故師団長は工藤を抹殺する必要が有る。
工藤は軍を脱走したと、軍隊を脱走すれば銃殺刑と決まっており反論は許されず、だが其れでも師団長は工藤が他の部隊と遭遇し話しをされると不味い事でも有るのだろうか。
「これは私の想像ですが、師団長と吉田さんと一緒だった隊長、其れと浅川の三名は悪巧みの相談をして要る部屋の前を、其れもまぁ~たまたまですが工藤さんが通られ、三人組は工藤さんに話しを聞かれた思い、工藤さんを幕府軍の残党狩りに向かわせ、後日工藤さんが武器と大量の弾薬、火薬を盗み出したと報告し、工藤さんを捕らえる為に五十嵐と言う司令官を派遣したと思うのです。」
「ですが、吉田は隊長と一緒に大砲、火薬に連発銃に弾薬を運んでおりましたが。」
「実は吉田さんも何も知らされていなかったんですよ。」
「ですが、武器や弾薬は。」
「これも私の想像ですがね、師団長は何かの縁で鹿賀と言う国の武人と知り合いになり、鹿賀の国に武器と弾薬を売る話しをされ、鹿賀の国でも当時の幕府との戦に備え大量の武器と弾薬が必要で師団長の話しに乗ったと思いますよ。」
源三郎は想像だと言うが。
「司令長官殿は想像だけと申されましたが、私も以前から師団長と有る連隊長、其れに浅川の悪い噂は聞いておりましたが、では何故、浅川の部隊を出撃させたのですか。」
「話しは実に簡単ですよ、橘さんの部隊は殆どが農民さんや町民さんで浅川の部隊の殆どが元侍なのですが、幾ら連発銃を持って要ると考えても白兵戦ともなれば侍は太刀で人を切るんですよ、農民さんや町民さん達は目の前で仲間が切り殺されて行くのを見れば連発銃を撃つ事など出来ないのです。
白兵戦ともなれば浅川の部隊からも多少の犠牲者は出ますが、後日駐屯地に帰っても橘さんの部隊は突然幕府軍の急襲に会い部隊は全滅し、勿論、浅川の部隊からも犠牲者はおりますから駐屯地に残って要る掛川さんや佐野さんは信用させられてしまうのです。
私は佐渡が何処に有るのかも知りませんが、多分簡単に行ける所では無いと思うのです。」
「司令長官殿は私や掛川や佐野が師団長達の悪巧みに乗せられたと、いや軍令部まで騙されたと考えておられるですか。」
「多分其の通りだと思いますよ、まぁ~世の中には悪い事を考える者達は何としても成功させようと、まぁ~ありとあらゆる方法を考えますからねぇ~、ですから山賀に行った浅川の部隊はどの様な方法を取ってでも佐渡へ行きたかったのだと思いますよ。」
「ですが実際は浅川の部隊は全滅したと。」
「小隊長、其れで駐屯地に残っておられる部隊長への報告ですが、駐屯地を出発した数日後に幕府軍の残党の奇襲攻撃に会い、橘さんの部隊は全滅し、師団長と浅川の部隊が残党を全滅させる為に追撃するので掛川さんと佐野さんの部隊を残し、他の部隊は予定通り佐渡へ向かえと申されましたと、其れならば掛川さんと佐野さんは本土防衛と言う当初の予定通り残られると思いますよ。」
「では真実を話のは佐渡に向かわれてからで宜しいでしょうか。」
「其の通りですよ、其れでね、小隊長と小隊の、まぁ~半分程の兵隊さんには怪我をして頂かなければなりませんがねぇ~。」
「えっ、怪我を申されますと。」
「小隊長もですが、小隊の兵隊さん達だけが無傷と言う訳には参りませんから、其れに軍服にも泥と血で汚れていなければ駐屯地の方々は疑いと持ちますよ。」
源三郎は小隊長と兵士には怪我と泥まみれになれと言う。
「小隊長も不本意だと思われますが、駐屯地に残っておられる全員を騙さなければこの作戦は成功しませんからねぇ~。」
「ですがどの様な方法で傷を付けられるのでしょうか。」
「まぁ~兵隊さん達には内緒にして頂きまして、其の前に軍服は汚さなければなりませんので全員に水でもかぶって貰ってよ地面にでも転がって頂きましょうかねぇ~。」
源三郎は小隊長の顔を見てニヤリとするが、小隊長は源三郎の考えは理解したのだろうか。
「其れで出発ですが。」
「そうですねぇ~、明日にでも馬車で参りましょうかねぇ~。」
「総司令が参られるのですか。」
「工藤さんも橘さんも私の考えを読んで頂きたいのです。
敵を騙すならば其の前に見方も騙さなけれな作戦は成功しませんのでねぇ~。」
そして、明くる日の朝、源三郎は小隊長と小隊の兵士、橘と馬車に乗り菊池へと向かい、半時程で着いた。
「さぁ~全員下りて下さい。」
「総司令、如何されたのでしょうか。」
「高野様、小隊を隧道から出て頂きますが山からの風は下がって来る頃は分かりますか。」
「今日は何故か分かりませんが、朝から吹いておりましてこの分ならば狼も臭いを嗅ぎ付ける事は有りませんが、其れが何か。」
「そうですか、では全員並んで頂けますか、出来るならば少し間を置いて下さいね。」
小隊長と兵士達は何をされるのか不安そうな顔をして要るが。
「高野様、太刀を拝借したいのです。」
高野は何も聞かず太刀を渡し、源三郎は太刀を抜くと、兵士達の傍で蝶が舞う様な動きで兵士達の腕や太ももと軽く風が吹く様に動き、兵士達の腕や太ももからは血が流れ出し、兵士達は一体何が起きたのかも分からない。
「あっ、痛い。」
と、直ぐには分からない程の切り傷が付けられ、小隊長には背中に太刀の風が吹き、やがて血が流れ出したが小隊長は痛みさえも感じていない様子で。
「どなたか連発銃を貸して下さい。」
連発銃を受け取ると、小隊長の腕に一発撃った。
「えっ。」
と、声を上げるが小隊長の腕からは血が流れ。
「さぁ~これで終わりましたよ、どなたか兵隊さん達の傷の手当てお願いします。」
数人の兵士が腕や太ももに布を巻いた。
「皆さんには大変申し訳御座いませんが、皆さんは名誉の負傷をされ今から駐屯地に戻って頂きますが馬車で途中まで行って頂き、その後は申し訳有りませんが歩いて頂きたいのです。」
「司令長官殿が申されました作戦が分かりました。
自分達も無傷では疑われる為なのですね。」
兵士達もやっと理解した様子で有る。
「皆さんは駐屯地に戻られましても突然襲われたと其れだけを言って頂き、全ての説明は小隊長に任せて、では出発して下さい。」
小隊を乗せた馬車は菊池の隧道を抜け一路駐屯地近くまで向かった。
「高野様、中隊長と小隊長達は静かにしておられますか。」
「其れはもう驚く程静かでして、彼らは何が起きたのかも理解出来ておりません。」
「では案内して頂けますか、橘さんも一緒に来て頂けますか。」
「勿論で御座います。」
源三郎と橘は高野と一緒に地下牢に向かい暫くすると浅川の部隊の中隊長と小隊長達が捕らわれて要る地下牢に来た。
「皆さんも大変お元気そうで私も安心しました。」
「我々を一体どうされるおつもりなのですか。」
「其れはねぇ~、皆さんの気持ち次第でしてね、先に参られました大隊の皆さんは私のやり方に不満を持たれましてね、反乱を起こし結果は全員が狼の大群に襲われ餌食になられましたよ。」
「えっ、大隊の全員が狼の餌食に、其れは誠なのか。」
「司令長官殿の申される通りで、その為に山賀の城下の領民の全員がお城に逃げ込まれ、数日間は出る事も出来なかったんだ。」
「そんな作り話を我々が信用するとでも思って要るのか。」
「総司令、では山賀の城下は血の海になったのですか。」
「其の通りでしてね、私もあの方々には工事に就いて頂けるので有れば食事も眠る所も有りますよと申したのですが、彼らは武士としてその様な仕事は出来ぬと申されましてね、作業員と兵隊さん達を人質に取り駐屯地に立てこもりましてね、私も何度も説得したのですが無理でして、其れで人質になった人達を助ける為に狼の大群を、まぁ~呼んだと申しましょうか、数十人程に怪我をさせましたところ、其れはまぁ~驚く程にも狼の大群が北側から襲ってきましてね、数日間は地獄と申しましょうか、もう修羅場でしたよ。」
源三郎と高野が話し合って要ると牢屋の中に居る中隊長と小隊長達も小声で話し合っている。
「まぁ~皆さんが信用する、しないは別としまして私は皆さんの協力をお願いしたいのですが如何でしょうかねぇ~。」
源三郎の問いに答える事が出来ないのか返答も無い。
「やはり無理ですか、高野様、この者達の食事ですが。」
「今は普通と申しましょうか、朝と夕食だけで御座いますが。」
「そうですか、では本日から朝だけと、其れも今までの半分で宜しいですよ、仕事にも就かないのですからねぇ~、いややはり今日からは食事は無しにして下さい。」
「我々を餓死させるのですか。」
「いいえそうでは有りませんよ、我が連合国では仕事に就けば食事も出来ますが、仕事に就かない人には食べる資格は有りませんのでね、まぁ~私の話が嘘だと思って頂いても宜しいですよ、其れと貴方方が武器を取り隧道を出たとしですよ、我が軍の兵隊さんが鉄砲で撃ち弾に当たれば、其れで貴方方の運命は決まりますので其れ以上の無駄撃ちはしませんよ。」
「では我々は。」
「其の通りでしてね、数町も行かずとも狼は血の臭いを嗅ぎ付けまして大群で襲って来ますので、まぁ~後は逃げる事は不可能だと思って下さいね。」
源三郎は脅しで言って要るのでは無いが、官軍兵はまだ信用出来ないのだろうか答えを出せない。
「では我々は外に出る事は不可能だと。」
「いいえ、不可能では有りませんよ、連合軍の兵隊さんは出口にはおられませんからね。」
「其れならば出る事は出来るのか。」
「連合国の兵隊さんは大木の上に有る監視所におられ、貴方方が怪我をしているならば撃ちませんよ、其れと言うのも我々の連合国の人達は狼の恐ろしさを知っておられますので誰も決して外には行かれないのです。」
「だがあの時は簡単に入る事が出来た、其れが何故出る事が出来ないのだ。」
「貴方方はまだ理解されておられない様ですが、我が連合国の存在は旧幕府も、そして、今の官軍でも知らないのですよ、私はねぇ~領民を守る為ならば命を捨てる覚悟は出来ておりまして、若し貴方方が私のお願いを聞いて頂けるので有れば、この先も食事と安心して眠る所も確保しますがねぇ~、如何でしょうかねぇ~。」
「其の話しはご貴殿一人が決めるのですか。」
官軍兵の中でも少し変化が現れ始めた。
「私が決めるのでは無く、貴方方が決める事なのです。
我々の国では誰もが自らの意思で決めるのですよ、先程も申しましたが、仕事でも同じでしてね。」
源三郎はこの後も詳しく話すと。
「ご貴殿のお話しで有れば、私がその仕事に就けば命は取らないと申されるのですか。」
「其の通りでしてね、先程も申しましたが貴方方の配下と申しますか、先に参られました兵隊さんは自分達は侍だ、侍の誇りを捨てる事は出来ないと人質を取られ、其れが結果的にはご自分の命を短くされる事になったのですよ。」
「ではご貴殿の話しを信用しても良いのですか。」
「我が連合国の人達は誰に対しても優しいですからね、私は嘘は申しませんよ、まぁ~まだ信用出来ないと思われるので有れば牢を出られ城下の人達に聞いて頂いても宜しいですからね、高野様、全員を解き放し城下に向かわせて下さい。」
高野は何も言わず、官軍兵を地下牢から出し城下に向かわせた。
「司令長官殿、誠に大丈夫で御座いますか、彼らも元々が侍で太刀を奪われる様な事にでもなれば。」
「橘さんもまだ理解されておられない様ですが、我が連合国ではどなたも太刀は持っておられませんよ。」
「えっ、ですがご家中の方々は。」
橘はまだ気付いていなかった、連合国の侍は全員が農民の姿で太刀は差していない。
「連合国では太刀は不要でしてね、兵隊さんも銃を持つ時は山に入る時と外部から敵が攻めて来た時だけでしてね。」
橘は菊池の城内でも太刀を付けた侍がいない事を初めて知った。
「まぁ~今太刀を持っておられるのは橘さん達だけですよ、ですから彼らが菊池のご家中を襲ったとしても太刀は持っておられませんので心配は無いのです。」
「私は誠に恥ずかしい限りで御座います。
今まで一体何を見て来たのか、ただ漠然と見ていたのですか。」
橘は菊池に入り山賀まで行きながら何も見ていなかったと、其れは官軍の連隊長と言う重責を担いながら、其れすらも見ていなかったのだ。
「まぁ~橘さんも突然の出来事で他の事まで見る余裕すら無かったと言う事ですよ。」
「其れにしましても私は余りにも情けないです。」
「まぁ~まぁ~余り自分を卑下される事は有りませんよ。」
一方で。
「少し聴きたいのだが。」
「あんた達は官軍の。」
「そうですが、其れよりも源三郎と申される人物の事で。」
「源三郎様の何を知りたいんだ、オレ達は源三郎様には大変お世話になってるんだ、源三郎様はなぁ~何時もオレ達の事を考えておられるんだ。」
「そうだよ、菊池でもだけど、他の国でも同じだと思うんだ、オレ達の誰でもだけど源三郎様の悪口を言う人なんかはいないよ。」
「そうだよ、だから源三郎様の為だったらオレ達は何時でも何処でも行くんだ、あんた達も源三郎様に助けて貰ってるんだろう。」
「ええまぁ~。」
と、官軍兵は返事に困っており、城下の領民達に源三郎に助けて貰ったのかと聞かれても何も言えず、誰からの口からも同じ様に聞かされ次第に心の変化を感じて要る。
「先程から領民達の話しを聞くと、我々も源三郎と言われる人物に助けて貰って要る様な気がするんだが、お主はどう思う。」
「そうか、やはりお主もその様に感じていたのか、其れにだ同じ兵士で有りながら我々の駐屯地に居る兵士達は何時もピリピリとして要るが、此処の兵士達は全く違い誰の顔を見ても笑って要る様に見え、皆がのびのびとして要る様にも見えるんだ。」
「確かにその様に見えるなぁ~、同じ兵士で有りながら何故其処まで違うんだ、やはり源三郎と言われる人物の話しは誠なのかも知れないなぁ~。」
「私も先程から考えていたんだが、この地に残り何とか言う工事の仕事を行えば食べる事も安心して眠る事も出来ると、だが若しも駐屯地に戻れば何時殺されるかも知れず、私はもう戦が嫌になりましたよ。」
「確かにそうだなぁ~、私は同じ死を迎えるならば納得した死に方にしたいんだ。」
官軍兵は城下で見る同じ姿の元官軍兵がのびのびとし笑顔で領民達と会話している姿に気持ちが変わったのか暫くしてお城の執務室に入った。
「源三郎様、私は戻らずにこの地に残り工事の仕事に就かせて頂きたいのです。」
「私もで御座います。
私は同じ姿の官軍兵で有りながら此処の兵士達は誰もがのんびりとして要るのを見まして、同じ死を迎えるならば自分の納得で死を迎えたいので御座います。」
「私も同じで、私は佐渡に向かわずにこの地に残りたいのです。」
官軍の中隊長と小隊長達は次々と連合国に残りたいと言う。
「左様ですか、では皆様方の全員が残って頂けるのですか、誠に有難う御座います。」
と、源三郎は官軍兵に頭を下げた。
「源三郎様、もったいのう御座います。
頭をお上げ下さいませ。」
「では工事の内容ですが、少しお話しをさせて頂きます。」
その後、源三郎は官軍の中隊長と小隊長達に説明し、その数日後若様と正太宛の書状を持たせ山賀へと向かわせた。
やはり彼らも人の子、戦の無い地で新たな人生を送れると分かり穏やかな表情になったのも間違いは無い。