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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 55 話。偽者か其れとも本物か。

 話しは少し戻り、後藤と吉三組が残った浜で大工達が長さ幅とも十間以上も有る大きな筏作りが始まり、やがて五十艘が完成し、鍛冶屋が作っていた海底の砂を取り除く道具も百個完成し、さぁ~海底の砂を取り除く作業の開始だ。


「大工さん達の代表と左官屋さんの代表、そして、鍛冶屋さんの代表の方々は集まって下さ~い、少しお話しが有りますので。」


 吉三組の数人が代表の人達に話しが有ると言い、暫くして代表に選ばれた百人以上が後藤の前に集まった。


「皆さんお座り下さい、では代表の方々にお話しするのは海底の砂を取り除く作業に関するお話しです。」


 後藤が作業の手順を説明した。


「本日は吉三組さんが見本をお見せしますのでよ~く見て頂きたいのです。」


「えっ、オラ達がですか、でもオラ達もやった事が無いんですよ。」


「其れは私も知っております。

 私が申し上げたいのは、この作業もですがこれから先の作業は全員の呼吸が合わなければ出来ないと言う話しでしてね、其れをどの様に解決して行くのかを吉三組が実演するのを見て頂きたいのです。」


「だったら直ぐにでも始めますんで、まぁ~オラ達も初めてなんで最初から出来るとは思って無いですから、じゃ~みんな行きましょか。」


 吉三組の全員が浜に向かうと代表達もだが他の職人達も浜へと向かった。


「じゃ~今から始めるけど其の前にこの大きな筏を操れる人が居るんだけどなぁ~。」


「吉三、オレは漁師だから出来るよ、でも一人では無理だ、そうだなぁ~最低でも二人以上だ。」


「二人かじゃ~他に出来る人は。」


「オレは川舟だったから大丈夫だ。」


「よ~しこれで二人は決まった、で後は道具を海に沈めるのは一人でも出来ると思うんだ。」


「なぁ~オレは其の前にオレ達を半分に分けたらいいと思うんだけど。」


「半分って、何で半分にするんだ。」


「だったら聴くけど、筏を操る者も道具を沈める者もだけど同じ事を一日中は出来ないんだぜ。」


「そうだよ、オレ達は人間なんだ、其れに相手は海なんだ、陸だったら少々の事は我慢出来ると思うけど、海って何時荒れるかも分からないんだ、オレは別に嫌だって言って無いんだ、だけど一番大変なのが筏を操る事だと思うんだけどなぁ~。」


「そうだなぁ~、じゃ~先に筏を操れる者から決めて、其れから二つの組みに分けたらどうだ。」


「よ~しそうと決まったら、先に筏を操る者だけど何人くらいが要るんだろうか。」


「わしもさっきから考えてたんだけど、一番大変だから交代する者も要ると思うんだ。」


「そうか交代かぁ~。」


「吉三組さん達ですが何時になったら始めるんですか。」


「今はねぇ~、作業を始める前の段階でしてね、誰が何を受け持つか其れを考えて要るんですよ。」


「受け持つって、そんなの簡単に決まるんですか。」


 吉三組の全員が浜で話し合って要ると、だが何故今になって話し合う必要が有ると思っており、だが今は其れが何故必要だと後藤が説明するが。


「だったら何時になったら始まるんですか。」


「其れは私も分かりませんよ、ですが全てが決まれば今までの遅れが取り戻せるんですよ。」


「だったら何で今頃になって話し合うんですか、わしだったら先にやりますけど。」


「其れはねぇ~、吉三組もこれが初めてでしてね、誰でもですが最初は簡単に考えてるんです。 

 吉三組も今言われた様に最初に話し合えばもっと楽に出来るのは分かってるんですよ、ですが巨大な筏が目の前に有る、其れが問題でしてね、其れは今まで何度も突然行動を起こし全てが失敗に終わりましてね、其処で考えた方法ですが、現物を見てから受け持つ者達を皆で考えて決めて行く其れが今の方法なんです。」


 確かに知らない者から見れば、何故先に決めて置かないのかと思うだろう、だがこれが吉三組のやり方だ。


 後藤も今まで何度も作業に入る前に考える方が良いのではと提言したが、吉三達は頑固者の集まりなのか自分達のやり方で進めると言い張り、其れならばと以後は何も言わず、吉三達に任せて要る。


「なぁ~みんなちょっと見てくれよ。」


「どうしたんだ。」


「この縄って言うのか、兵隊さんは軍艦に使うロ―プって言ってたけど、オレはロープを筏に結んでる時は何とも思ってなかったんだ、だけどこのロープって物凄く太いと思わないか。」


「そう言われたら今までは何とも感じなかったけど太くて、其れにわしらが使ってる縄と大違いで物凄く重いんだ。」


 吉三組の数人がロープを引くが砂を取り除く道具は海底に有り陸で扱う様には行かず、ロープは海中に沈んだままで筏だけが動く。


「そうだなぁ~、こんなにも太くて重いロープで海底の砂を岸まで引っ張るのはもっと大変だぞ。」


「オレもなぁ~今思ったんだけど、こんなにも重い物を浜まで引くって大変だぞ。」


「其れは分かったけど、だったらどんな方法が有るんだろうか。」


「吉三、オレの考えた方法なんだけど、半町沖の海底から砂が入った道具なんだけど、半分くらいの所で一度砂を海底に置くって言うのか、捨てるって言うのか分からないけど。」


「えっ、海底に砂を置くってじゃ~残りの半分はどうやって持って行くんだ。」


「其れはなぁ~、もう一個の道具で浜まで引いて来るんだ。」


「えっ、其れって二回に分けるってのか。」


「そうなんだ、半分の所まで持って来てだ、別の道具で最後の浜まで引っ張って来るって方法だったら、一度に全部引っ張って来るよりも少しだけでも楽かなぁ~って思ったんだ。」


「そうか、このロープは太いし重いから一度に浜まで引くのは大変だ、だから二度に分けると、其れだけでも少しは楽が出来るって事か、よ~しオレが今から半分くらいの所に行くからな。」


 と、仲間が岸から沖へと歩いて行くと。


「よ~しこの辺りが半分くらいの所だ、お~い此処だったら足の膝までも無いから絶対に楽だぜ。」


「よ~し一回試して見るか。」


 吉三組は今まで何かを始める時は必ず現地で話し合い、一番度は試す、やはり経験から来たのだろう。


 大きな筏には漕ぎ手が二人と他に数人が乗り、後藤が決めた半町先まで行き砂を取り除く道具を海底に沈め、浜では合図と同時に引き、半分くらいの所で一度砂を海底に沈め、今度は別の道具を入れ再び岸へと引くが、引手は別の仲間が引き、やはり思った以上に楽して浜まで砂を引き上げる事が出来た。


「吉三、この方法だったら大丈夫だぞ、其れと道具を乗せる筏が要るなぁ~。」


「じゃ~大きさは。」


「そうだなぁ~、畳二畳分も有れば大助かりだよ、筏には此処で使う道具も乗せる事も出来るし。」


「じゃ~大工さんに小型の筏を同じ数だけ作って貰うか。」


「其れとロープも大量に要るぜ。」


 と、吉三組は必要な物を書き出し、吉三が大工や鍛冶屋の所へと行き頼み込んだ。


「よ~し筏や道具が出来上がったらオラ達でもう一度試して見ようか。」


 やっと工事に入れるものと思っていた大工や鍛冶屋は吉三組のやり方に驚きよりも感心して要る。


「参謀長殿、後藤さんもですが、吉三組の人達は素晴らしいですねぇ~。」


「まぁ~我々は必要な物資を送って貰う様に手配するだけにして余計な口出しはしない事だなぁ~。」


「自分も同じ様に思います。」


 其の頃、大隊規模の兵が軍港建設中の浜に近付いて要る。


「隊長、あれは一体何でしょうか。」


「何だと、えっ、何処だ。」


 日本軍の兵士か、いや其れは確かでは無いが、彼らが見たものとは軍服姿の兵士が浜で遊んで要る様にでも映ったのだろうか、何も知らない者から見れば筏に数人の兵士が乗り、正に海で遊んで要る様にも見える。


 部隊は浜に近付き。


「お前達は海で遊んで要るのか。」


「えっ、お~い何処かの部隊がやって来たぞ。」


「何処かの部隊って。」


「そんな事分かるか、まぁ~何でもいいから早く来いよ。」


「おい、此処の隊長は誰だ。」


 吉三達が駆け付けると隊長らしき人物が何やら怒鳴って要る。


「何ですか。」


「貴様がこの部隊の、何だお前は。」


「オラですか、オラは吉三って言いますが、一体何用ですか。」


「何だと、貴様、其れが上官に向かって言う言葉か。」


「上官にって、じゃ~あんたは何処の誰なんですか、突然やって来て。」


「何だと、貴様其れでも帝国軍人か。」


「えっ、帝国軍人って一体何を言ってるんですか、オラ達は。」


 後藤も上野は浜の騒ぎに駆け付け。


「君達は一体何だ。」


「あっ、参謀長殿、この者が浜で。」


「そうか隊長は何も知らないのか。」


「参謀長殿、其れよりもこの者達は上官に向かっての言葉使いも知りませんが。」


「なぁ~あんた、さっきから上官、上官って怒鳴ってるけど、オラ達の上官はあんたじゃ無いんだ。」


「何だともう一度言って見ろ。」


「隊長、やめるんだ。」


「参謀長殿、ですがこの部隊では上官に対する言葉使いもなっておりませんが。」


「じゃ~オラ達を殺すのか。」


「貴様。」


「止めろと言うのが分からんのか。」


 隊長と言われる人物だがどうやら吉三の言葉使いが気に要らない様だ。


「参謀長、オラに任せて下さい、なぁ~隊長さんは何を見て自分が上官って言うんですか、オラの着てる軍服ですか。」


「其の通りだ、貴様は一兵卒で有りながら上官に対し敬礼もせず、其れよりもその言葉使いだ。」


「じゃ~なんですか、オラの言葉使いが気に要らないからって殺すって言うんだったら殺しなさいよ、なぁ~みんな。」


「そうだよ、オレ達は今まで言葉使いで怒られた事が無いんだ、あのお方だったら絶対に怒らないぞ。」


「何だと、お前達はどんな教育を受けてたんだ。」


「なぁ~隊長さん、オラの着てる軍服の階級を見て言ったのか。」


「其の通りだ、お前は一兵卒で有りながら。」


「あんたは軍服の階級って言いますけどねぇ~、若しもこれが反対だったら一体どうするんですか。」


「何だと。」


「オラ達はなぁ~階級で仕事をやってるんじゃ無いんだ、オラ達はなぁ~日本の為に仕事をやってるんだ。」


「そうだよ、オレ達は日本の人達の為に仕事をやってるんだ。」


「お~い吉三、お前の軍服を持って来ようか、まぁ~其れを見たらあんた達は震え上がるぜ。」


 さぁ~吉三組の大芝居が始まった。


「いや別にいいよ、こんな物分かりの知らない人にオラ達の軍服を見せたら、其れこそ軍服が泣くよ。」


「だけど軍服の階級で人間を判断するって、あのお方なら絶対に考えられ無いなぁ~。」


 彼らはあえて源三郎と言う名を出さないには何か理由でも有るのか。


「あのお方って源三郎殿ですか。」


「上野様、吉三さん達は何か訳が有って出さないと思いますよ。」


「私も同じですが大丈夫でしょうか。」


「其れは心配無いと思いますよ、吉三さん達は源三郎様は命の恩人だと思って要るのです。」


「確かに源三郎殿は相手の着て要る着物で差別はされないですが、其れにしても困った奴ですなぁ~。」


 上野と後藤は苦笑いとして要る。


「隊長、自分も噂で聞いた話ですが、その人物は着て要る物で判断されないと。」


 彼は一体何処でそんな噂を聞いたのだろうか。


「では何かその人物が、えっ、正か。」


「吉三を殺したら隊長と中隊長と小隊長全員は間違い無く銃殺刑になるぞ、いや其れよりもっと恐ろしい処罰が待ってるぞ、これは大変だ。」


 吉三組の仲間は部隊の隊長達を脅し始めた。


「隊長さん、此処には五千人以上が居るんだぜ、全員を殺す事はまぁ~不可能だと思うんだがなぁ~、まぁ~其れでもやるって言うんだったら、あんた達も其れだけの覚悟はするんだなぁ~。」


「隊長、これ以上話しがこじれますと我々全員の命に係わりますが。」


 隊長と呼ばれる人物は何も言わず何かを考えて要る。


「此処の仕事はなぁ~、身分や階級なんて関係無いんだ、オラ達は日本の人達を命懸けで守るって約束したんだ、若しもオラが隊長さんよりも上の階級だったら一体どうするんだ。」


「えっ。」


 と、隊長は絶句し、この時別の兵士が。


「閣下、自分達に任せて頂きたいのです。

 我々は日本国の為に軍法会議も覚悟で。」


 と、言った時に数人の兵士が隊長を取り囲み銃口を顔に向け、兵士達も吉三組の大芝居に加わった。


「えっ、閣下って正か。」


「皆さん、オラの事はいいんですよ、でもオラ達は日本国の為にロシアの軍艦を沈めるんだ、其れだけは分かって欲しいんだ。」


「閣下、自分達も同じです。」


 と、言って次々と兵士が中隊長や小隊長達の顔に銃口を向けた。


「隊長さん、オラは軍。」


「えっ、軍令部のお方ですか。」


 吉三は軍とは言ったが、隊長が勝手に解釈したのか、其れとも聞き違えたのか吉三を軍令部の将軍だと思ったのだろう、其の時、後藤が来て。


「吉三さん、もう宜しいのでは。」


 後藤の軍服も一兵卒だ、吉三に気軽に話し掛け、又も驚きの表情で。


「ねぇ~隊長さん、貴方は今日本が置かれて要る現状を知っておられるのですか。」


「いいえ、自分は何も。」


「では貴方にもですが他の兵隊さん達にお話ししますのでしっかりと聞いて下さいよ。」


 と、後藤は日本がロシアの植民地になるかも知れず、今建設している軍港は日本を防衛する為の軍港で最前線に位置すると説明した。


「まぁ~其れでも私の説明が本当なのか、其れとも作り話なのか知りたければ軍令部に参られ直接聞かれる事ですよ、ですがその様な話しを聞かなければならないと言う事にでもなれば、貴方は隊長としての任を解かれ下手をすれば一兵卒まで降格されるやも知れませんよ。」


 もうその様な頃になると隊長の顔は青ざめ、何をどうする事も出来ず、其れよりも吉三組の仲間もだが、大工や鍛冶屋達も大笑いし、其の時、上野もやって来た。


「なぁ~隊長、此方の方々は有るお方にご無理をお願いして遠くから来て頂いただいたんだ、私は何も出来ないので表向きはこの地で司令官としての役だが、実際には此方の方々の指示で全員が仕事に就いて貰っている。

 まぁ~其れだけ言えば分かると思いますが如何ですかな。」


 上野は言葉で畳み掛けた。


「なぁ~隊長さん、此処で見た事も聞いた事も誰にも言わない方がいいと思うんだ、若しもあのお方の耳に入れば、其の時、う~んまぁ~其れよりも隊長さん、あのお方には後ろに数十万もの仲間が要るんだ。」


「吉三、正か山の主の。」


「オラはそんな事は思って無いですよ、ただこれ以上オラ達の仕事の邪魔するんだったらの話しで直ぐにでも呼べますから。」


「吉三、オラが聞いてこようか。」


 と、仲間は笑いが止まらないが隊長は身体が震えだし。


「閣下、誠に申し訳御座いません。」


 隊長は土下座した。


「隊長さん、分かって貰えればいいんで、中隊長さんも小隊長さん達もどうしますか、オラを殺しますか。」


「閣下、自分は此処には参っておりません。」


「閣下、自分もです。」


 と、中隊長や小隊長達の全員が軍港を建設中の地には来ていないと言う、其れよりも兵達は何が何だかさっぱり分からず、口を開け唖然としている。


「後藤さん、兵隊さん達ですがどうするんですか。」


「そうですねぇ~、吉三さんならばどの様にされますか。」


「オラだったら兵隊さん達には悪いけど島に行って貰ってロシアの兵隊を。」


「えっ、では全員を佐渡に送るんですか。」


「いや、オラは送るって言ってませんよ、全員が希望して佐渡に行くんですよ、其れだったら隊長さんや中隊長さん達の面目は崩れないと、其れに軍令部も大喜びすると思うんですよ。」


「吉三、其れよりも狼の餌食が一番だと思うんだが。」


「あの~今狼の餌食って言われましたが。」


 一人の兵士が青くなった顔で聞いた。


「あ~そうか、あんた達は本当に何も知らないんだなぁ~、向こう側に聳える高い山には十万以上の狼が要るんだ、其処の狼は今まで数千人もの幕府軍や野盗、そして、あんた達の様な官軍兵を噛み殺し餌食にしてるんだよ。」


「隊長、私は何も申しませんが、狼の大群が生息して要るのは事実です。

 佐渡に行く事に志願すれば誰かが生き延びる事は出来ますが、狼に襲われると全員が噛み殺され、最後には骨だけが残り誰の死体なのかも分からず、まぁ~どちらを選ぶか其れは隊長が決めるんですなぁ~。」


「隊長、自分は佐渡に参り、ロシアの軍隊を撃退したいです。」


「隊長、自分もで、戦で戦死すれば自分の家族も許してくれると思いますが、家族は自分が一体何処で死んだのかも知れないと成れば、家族よりも自分の名誉を守りたいのです。」


「隊長、閣下も自分達が志願して佐渡に行くならば許して下さると思います。」


「小隊長殿、自分も佐渡で戦死しますよ、だって天国に行ってご先祖様にもオレはロシア軍と戦って戦死したって言えますが、若しもですよ、若しも狼に噛み殺されたらご先祖様に何て言い訳するんですか。」


「小隊長、オレも佐渡に行きますよ、其処でロシア軍と戦って戦死してもオレもですが家族も少しは納得すると思うんですよ。」


「中隊長殿、皆が佐渡行を希望しております。」


 と、兵士の殆どがロシア軍と戦って戦死しても良いと。


「隊長、自分達は佐渡に参りロシア軍から佐渡を守ります。」


「閣下、私が間違っておりました、誠に申し訳御座いません。

 私と部下の全員が佐渡に参り、ロシア軍を止めて見せます。」


「まぁ~オラも其の方がいいと思うだ、じゃ~オラ達は何も知らなかった事にしますんで。」


「誠に有り難きお言葉、自分は何とお礼を。」


「もういいんですよ。」


「では早速ですが、部隊はこの間々佐渡に向かいます。」


 大隊はその後、佐渡へと向かった。


「私は吉三さんには負けましたよ。」


「オラはもう足が震えて。」


「だけど、吉三さんの度胸には参ったなぁ~。」


「そんな事言わないで下さいよ、オラはもう必死だったんですからねぇ~。」


「吉三さん、わしらもやりますから任せて下さいよ。」


 大工や鍛冶屋、更に左官屋達までもがやると、これで工事は進むと後藤は確信した。


「後藤さんはさっきの兵隊さん達ですけど本当に佐渡に行くと思いますか。」


 吉三がいや誰もが部隊が素直に佐渡に行くとは思っていない。


「上野様はどの様に考えておられるのですか。」


「私も皆さんと同じでしてね、奴らの事だ何処かで様子を見ると思うのです。」


 上野も隊長と言う人物は信用していない。


「後藤さん、吉三さん、小隊、いや我ら数人で奴らを尾行し行き先を確かめに行って来ますので。」


「何か方法でも有るんですか。」


「吉三さんが言われた狼ですよ。」


「でも高い山にいるんですよ。」


「其れは十分承知しておりますよ、私が作戦を考えますので、其れよりも少しお伺いしたのですが、狼は山を下りて来る事も有るのでしょうか。」


「まぁ~数人が怪我をして血を流し早ければ四半時も経てば其れは物凄い数の狼が山を下って来ますが。」


「そうですか、では私は作戦を練りますので。」


 上野は其れだけを言うと執務室へと向かい、そして、半時程して兵士が戻って来た。


「参謀長殿、奴らは正規軍では無かったですよ。」


「やはりか、正規軍の隊長ならばあの様な言い方はしないからなぁ~。」


「では奴らは一体何者でしょうか。」


「多分だが、殆どが幕府の残党で奴らは兵士の少ない宿場や城下を襲い、金子や食べ物を奪って要るものと考えてるんだ。」


「でも何故分かられたのですか、私は全く分かりませんでしたが。」


「私は隊長や中隊長達の動きよりも兵士達の動きを見てたんだ、日本軍ではあの様な動きは無いんだ。」


 上野が日本軍の動きとは。


「参謀長殿は日本軍の動きとは違うと申されましたが。」


「君も知って要ると思うが、私は中隊長や小隊長達とは見る所が違うんだ。」


「では奴らを葬るおつもりですか。」


「若しもだよ、奴らが本気で襲って来れば我々の人数では持ち応えられず簡単に全滅させられ、大工や鍛冶屋達も簡単に殺され、此処に有る食料もだが武器は全て奪われるんだ、そんな事にでもなれば其れこそ大変な事に成る、私は何としても奴らの息の根を止めたいんだ。」


「ではどの様な方法で。」


「まぁ~其れよりもだ奴らが今何処に居るのか分かったのか。」


「其れが戻り橋を渡り山の麓を進んでおり今頃は野営の準備に入って要ると思われます。」


「そうかでは二個小隊と全員に馬を。」


「はい、承知致しました。」


 兵士達は執務室を飛び出し中隊長達の兵舎へと、四半時後には二個小隊が馬に乗り出撃の準備は整った。


「私が行く、皆に告げる、先程来た部隊だが奴らは幕府の残党で何時この基地を襲うかも知れぬ、先程の情報で戻り橋を渡り今頃は野営の準備をして要ると思われる、其れで数人か十人程の血が流れれば我々は大急ぎで退却する。」


「参謀長殿、では自分達は逃げるんですか。」


「其の通りだ、だが今度は相手が違う、我々の相手は狼の大群だから逃げるんだ。」


「えっ、狼の大群って、私は聞いておりませんが。」


「君達に全てを話す事が出来なかったのは全て私の責任だ、だが奴らをこの間々生かして置くと数日の内に奴らはこの基地を襲い、我々もだが大工や鍛冶屋達までも殺され、食料は奪われ武器の全てを奪い次の目的地へと向かうんだ、そんな事にでも成れば奴らは何の関係も無い民間人を殺すんだ、私は二個小隊と共に奴らの征伐に向かう、若しも私が戻らなけば中隊長達が一致団結し何としても軍港は完成させるんだ、では出撃。」


 参謀長が直々指揮を執り幕府の残党を征伐に向かった。


「後藤さん、参謀長殿は若し自分が戻らなければ中隊長を中心に一致団結しどんな事が有っても軍港だけは完成させろと申されました。」


 そして、上野を先頭に二個小隊は馬を飛ばし幕府の残党と思われる部隊の野営地へ奇襲を掛けた。


「よし全員で一斉射撃せよ。」


 と、上野の号令の下二個小隊は横一線に並び一斉射撃を開始した。


「パン、パン、パン。」


 と、野営の準備中の部隊は上野達官軍の一斉攻撃を受け一度に百人以上がその場で倒れ、身体からは鮮血が吹き出し、一瞬にして辺りは血の海と化した。


「よし全員引き上げだ早く馬に乗れ。」


 上野の号令で二個小隊は一斉に馬に乗り戻り橋へと飛ばして行く。


「早くだ、早くだ、もう直ぐ狼の大群が襲って来るぞ。」


 上野も必死だが其れ以上に二個小隊の兵士達は馬を飛ばして行く。


「わぁ~狼だ、狼が来たぞ。」


「誰か助けてくれ、狼だ。」


「ぎゃ~。」


 と、其れは正に地獄絵の様そうで山から狼が次々と下り襲って行き、兵士達は逃げ場を失い噛み付かれ息絶える者、必死で逃げようとする者、だが相手は狼の大群で連発銃を撃つ事も忘れている様にも見える。


 上野達は一時程で駐屯地へ戻って来た。


「後藤さん、吉三さん、もう何も心配は有りませんよ。」


「やはり官軍では無かったんですか。」


「正しくその通りでして、奴らは官軍を襲い軍服と連発銃で武装した幕府軍でした。」


「ですが、何故分かったのでしょうか。」


 後藤は兵士の軍服を見ていなかった。


「後藤さん、奴らの軍服ですよ、殆どのいや全員の軍服には血の跡が残っていたんですよ。」


 やはり上野は軍人の、いや参謀長だけの事は有る。


 全員の軍服には血の跡が有るにも関わらず、誰一人として怪我をした様子も無い、其れが決定的だった。


 狼の大群の襲われた部隊の兵士達は、いや幕府軍の残党はその後一時程で全員が噛み殺され狼の大群のは兵士の身体をむさぼり食って要る。


 狼の大群もこれで少しは満足しただろう。

 

 これでまた明日からは軍港の建設に掛かれるので有る。



         

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