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闇の帝国    作者: 大和 武
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  第 53 話。地獄絵図の駐屯地。

「義兄上。」


「源三郎殿。」


「総司令。」


 と、若様も吉永も、そして、工藤も決断を迫り、そして、四半時程の沈黙の後。


「小川さんの作戦を決行します。」


「はい、承知致しました。」


 と、若様の表情が一変した。


「人質になられた方々には大変残念で御座いますが、私も城下の領民を守ると言う重大な責務が有り、全ては領民を守る為で人質になられた皆様方全員には非常に残念ですが戦死して頂きます。」


 源三郎も小川も官軍兵の姿が見えないと判断し、小川は身振り手振りで小隊長と作業員に何やらを伝えようと必死で有る。


「小隊長、隊長殿は何を言ってるんですか。」


「私も何を言われておられるのかもさっぱり分からないんですが。」


 と、言いながらも小隊長も身振り手振りで伝えるが。


「隊長さんは何を言いたいんだ。」


 作業員も小川の身振りを見ても理解出来ない。


「何か表が変だぞ、やけに静かだ、誰が見てるんだ、変な真似をしたら殺してしまえ。」


「お前は簡単に殺せって言うが、奴らの話しじゃ山には狼の大群が住んでるんだぞ、若しもだ狼の大群が襲って来たらどうするんだ。」


「何の為に連発銃を持ってるんだ、狼の大群がって言ってもたかが十や二十だ全部殺すんだ、其れから山の向こう側に行くんだ、分かったのか。」


 どうやら彼が官軍兵の親玉らしい、だが親玉も狼の大群が生息して要る事を信じておらずその結果がどの様になるのかも考えていない。


「誰か出て来ましたよ。」


 小川は直ぐに止め、官軍兵の動きを見て要る。


「おい、お前達は一体何をしてるんだ。」


「オレ達は何もしてないよ、其れよりも早く撃ち殺せよ、オレは狼に噛み殺されたくはないんだ。」


「そうだ、オレも早く撃ち殺して楽にしてくれよ。」


 と、作業員達は官軍兵がお城の方を見えない様に話し掛け、官軍兵は何も気付かずに部屋に入った。


「ねぇ~城下で一体何が有ったんですか、突然正太さんの仲間が来てお城に入れって、其れも東門から静かに入るんだって。」


「私もよ、何時もだったら物凄く賑やかなのによ、でも何で今日に限ってあんなに静かなんですか。」


 城下の領民の中には何も知らない人達も多く、城内では腰元達が説明を始めた。


「皆さん静かに聴いて頂きたいのです。

 実は今日源三郎様が官軍兵一千名を連れて来られたのですが。」


 と、腰元達が話しをすると。


「其れで作業員さんと兵隊さんは大丈夫なんですか。」


「ええ、今のところはどなた様にもお怪我も有りませんが、若しも誰かが怪我をされ血を流す事にでもなれば山に住む狼が嗅ぎ付け大群で城下に押し寄せて来る事も考えられると、其れで源三郎様が正太さん達に頼まれまして、皆さんをご城内に連れて来て頂いたのです。」


「そうだったんですか、私はね官軍が攻めて来たって聞いたんですよ。」


「私もよ、其れで官軍兵はまだ駐屯地の中に要るんですか。」


「そうなんですよ、其れで源三郎様と若様は何としても作業員さんと兵隊さんを無事に助け出す方法を考えておられるのですが、相手が官軍兵なので簡単では無いのです。

 皆さんのお食事ですが余りにも突然の騒ぎで何も準備出来ずおむすびとお吸い物だけですが辛抱して頂きたいのです。」


「私はねぇ~そんな事はどうでもいいんですよ、其れよりも人質になった人達の事を考えると、でも何とか出来ないんでしょうかねぇ~。」


「其れは私達も同じなんですが、でも今は何も出来ないのです。」


 腰元達も城下の領民達も食べる事よりも一刻でも早く人質を助けたいと思って要る。


「今何時だ。」


「確か七つ半の鐘が鳴ったからもうそろそろ暮れ六つかと。」


「其れにしても腹が減ったなぁ~、炊事班に飯はまだかって聞いてくれ。」


 官軍兵は腹が減ったと。


「源三郎様、おむすびを。」


「いいえ、私は宜しいですから皆さんに。」


 連発銃を構えている山賀の家臣も相当疲れており、源三郎は一向に進展しない状況をどの様な方法を持って解決させるのだろうか、人質になった人達はあれから立ち続けており身体も神経はもう既に限界を越えている。


「官軍兵に告ぐ、人質になって要る人達に食事と飲み物を与えるんだ、分かったのか。」


「何だと、一体何の為に与える必要が有るんだ。」


「お前達はそんな事も分からないのか、若しもだ一人でもその場で倒れ怪我でもすれば私の判断で人質になられた方々には大変申し訳有りませんが、全員に戦死して頂きます。

 その後は一斉射撃と火矢を放ちお前達全員を焼き殺す。」


 源三郎は何を考え人質全員を撃ち殺すし、更に火矢を放ち駐屯地を火の海にすると言うのだ。


「何だと人質全員を撃ち殺すと、何故だお前に取っては仲間のはずだ、お前は平気で仲間を殺すとでものか。」


「其の通りだ、お前達は誠の大馬鹿者だから何も分かっていないだろうが、若しも人質の一人でも怪我をすれば山に住む狼が血の匂いを嗅ぎ付けるんだ。」


「そんな作り話はさっきも聞いたが、我々は信用しない。」


「人質の方々に伝えます、私が手を挙げ下げたならば貴方方全員戦死して頂く事になりますが、どうか私だけを怨んで頂きたいのです。」


「源三郎様、オレは物凄く嬉しいんですよ、でもあの世に行っても決して怨みなんかしませんからね。」


「源三郎様はオレ達の為に今まで、いやいいんですよ、其れよりも早く撃って下さいよ。」


「皆さんには誠に申し訳有りませんが、もう間も無く陽も暮れますので、私は狼の遠吠えを聴いてから。」


 源三郎は何を考え人質に話し掛けたのだろう。


「誰か人質に食べさせるんだ、若しも倒れたら人質の意味が無い、其れと座らせるんだ。」


 官軍兵の中にも少しづつ考え方を変化させて要る。


「人質を兵舎の中に入れるんだ。」


「何の為に入れるんだ。」


「そんな事も分からないのか、陽が暮れたら人質が逃げ出す事も有るんだ、部屋に閉じ込めれば奴らも火矢は放てないし撃ち殺す事も出来ないんだ。」


「よし分かった、直ぐに入れよう。」


 官軍兵が突然人質を部屋に入れ始めた。


「総司令、官軍兵が突然人質を兵舎に入れ始めました。」


「小川さん、人質ですがどの兵舎か分かりますか。」


「今は何も分からないですが。」


「夜が更ければ駐屯地に近付けますか。」


「何とかして見ますが、何か策でも有るのでしょうか。」


「部屋が分かれば作戦を実行する事も出来ますので。」


「分かりました、もう少し待ってから誰かを向かわせます。」


「小隊長、隊長は我々に何を言いたいのか分かりましたか。」


「いや自分も考えてるんだが皆も考えて欲しいんだ。」


「総司令は本当に我々を撃ち殺すんでしょうか。」


「総司令は決して其の様なお方では無い、自分も知って要るが総司令はご自分の命を捨ててでも我々を助け出そうとされるお方だ、だから皆も決して諦めるな。」


「オレは源三郎様を信じてるんだ、今のオレが有るのは源三郎様のお陰なんだ。」


「そうだよ、確かにオレ達は島帰りだ、だけど源三郎様は昔の事は忘れ、これから先の事を考えて下さいって、だからオレは絶対に源三郎様が助けて下さると思ってるんだ。」


「そうだよ、オレ達の源三郎様は何時もオレ達の事を考えて下さってるんだ、だからオレは絶対に助けて下さるって信じてるんだ。」


 兵士達も作業員達も源三郎の事だ必ず助けてくれると信じて要る。


 そして、五つを過ぎると駐屯地の周りはすっかり暗くなり、更に城下は誰もいない為暗闇になって要る。


「よし今だ君には済まないが駐屯地の様子を見に行って欲しいんですが。」


「勿論で喜んで参ります。」


 若い家臣は城内を抜け隠し扉の有る地下へと入り西側から出た、草履を脱ぎ木立の陰に隠れ少しづつ駐屯地へと向かう、その頃、駐屯地でも。


「誰か城内を見張ってくれ、こんな暗闇だ何時撃って来るかも分からないから。」


 数人の官軍兵が駐屯地の出入り口から城内の動きを見張って要る。


「よし今の内に。」


 と、家臣は心の中で呟き兵舎の裏側に着いた。


 兵舎には灯りが灯っており官軍兵は話しの最中で、そんな中只一つ灯りの灯っていない兵舎を見付け傍に音も立てずに中の様子を伺うと、小さな話し声が聞こえ、やはり人質の話し声で窓の外側には跳ね上げ式の木製の窓隠しが有り、そっと上げると蝋燭の灯りが見え人質がひそひそと話しをしており、家臣は声も掛けずお城へと戻り、大急ぎで執務室へと。


「源三郎様、人質の人達は灯りの点いていない兵舎に閉じ込めておられました。」


「其れで貴方は声を掛けられたのですか。」


「いいえ、中の様子がはっきりと分かりませんので声は掛けずに戻って参りました。」


「分かりました、では少し待って下さいね、貴方に今一度行って頂きますので。」


 家臣は頷き、源三郎は何やら認め始め、暫くして。


「貴方には申し訳有りませんが、今一度駐屯地に入り人質になって要る人に書状を渡し、夜が明けてから読む様に伝え、今夜は静かに眠って下さいと。」


「承知致しました、其れでは今から行って参ります。」


 家臣は再び駐屯地に入る為城内を抜けて行った。


「義兄上は作戦を決行されるのですか。」


「人質となられた方々は私達の仲間ですよ、一人足りとも欠かせないのです。

 皆さんは明日の朝作戦を決行しますので今の内に眠って置いて下さい。」


 源三郎は作戦を決行すると、城内の外側で駐屯地を見張る者以外は城内で眠りに付いた。


 其の頃、家臣は再び駐屯地に忍び込み人質が閉じ込められて要る兵舎の裏側に回り灯りの点いていないのを確認し、窓をこんこんと軽く叩くと窓は少し開き。


「私は源三郎様の命で参りました、この書状は明日の朝に読まれる様にと、其れから今夜は静かに眠って下さいと申されておられます。」


 と、小声で言うと。


「全て承知致しました、総司令のご命令通り今夜は静かに眠ります。」


 と、その後、窓は閉まり家臣は官軍兵に気付かれない様に城内へと戻って行く。


「みんな聞いて下さい、今ご家中の一人が総司令の書状を届けて下さいましたが、この灯りで読むのでは無く、夜が明けてから読んで下さいと、其れと明日の為今夜は静かにして早く眠って下さいとの事です。

 皆さんは総司令を信じて静かに眠って下さい。」


 その後、人質となった作業員と兵士達は何も話さず静かに眠り朝を待つ事にした。


「あの源三郎って名だが何処かで聞いた様な気もするんだが思い出せないんだ。」


「私もだ、其れにあの自然体、私は相当な使い手と見たが。」


「お主もその様に思うのか、やはりあの人物に間違いは無い。」


「何だ、あの人物とは。」


「拙者は噂でしか聞いていないんだが、江戸の高橋道場に歳は若いが恐ろしい程腕の立つ総師範代と言われる人物が居るそうだ。」


「其れならば私も聞いた事が有るぞ、道場には師範代だけでも十人以上が要るそうで、全国から道場にやって来るそうなんだ。」


「では門下生って一体何人居るんだ。」


「拙者が聞いたところでは二百人以上だそうだ。」


「其れで先程の総師範代ってどんなに強いんだ。」


 官軍兵は源三郎と言う名を最初に聞いた時には余り気にも止めなかった、だが今になって要約分かり出した。


「だがそんなに恐ろしい使い手でも我らの持つ連発銃には勝つ事は無理だ。」


「其の通りだ、我々には連発銃が有るんだ、何も心配する事は無い。」


 官軍兵は連発銃を持ち完全武装しており、今の状況下では幾ら源三郎と言えども手出しも出来ず、又も時だけが過ぎて行く、だがそんな時、源三郎に良報が届くとは誰も予想外の話しで有る。


「今日は随分と遅くなったなぁ~。」


「まぁ~其れも仕方無いですよ。」


「其れよりも早く戻り若様に報告しゆっくりとしたいですよ。」


「では皆さん急ぎましょうか。」


 彼は一体何者なのか、北の草地からお城へと向かい、そして、半時程で東門から入ると。


「あれは。」


「どうしたんですか。」


「誰か木に縛られておりますよ。」


「あ~助かった、オレですよ、正太です。」


「正太さん、一体どうされたんですか。」


「其れよりも早く縄を解いて欲しいんで。」


「分かりました。」


 数人が正太をぐるぐる巻きにした縄を解いた。


「でも何故正太さんが。」


「そんな事よりも皆さん早く執務室に行って下さいよ、源三郎様がおられますんで話しは。」


 正太と一団は大急ぎで執務室へと走って行く。


「源三郎様。」


「正太さんは縄を解かれたのですか。」


「総司令。」


「これはまた物凄い援軍ですねぇ~、これで作戦は成功したも同然ですよ。」


「総司令、一体何が有ったのでしょうか。」


「では今から説明しますので皆さんもお座り下さい。」

  

 源三郎が詳しく説明すると。


「では我々が撃てば宜しいのですか。」


「ええ、其の通りですよ、貴方方ならば間違い無く命中させられ人質となられた方々も安全な所に逃げる事が出来ますので。」


 源三郎が話しをして要る相手は誰だ。


「皆さんは夜が明けるまで少しですが休んで下さい。」


「其の前に銃の点検と弾薬の補充をしますので、全員銃の点検と弾薬の補充を行なってから休んで下さい。」


「義兄上、部隊が戻って来られたのでもう大丈夫ですよ。」


「其れは未だ分かりませんよ、何しろ相手は官軍兵ですからどんな手段を使うのかも知れません。」


「其れは私も十分承知致しております、ですが今城に残って要る者は。」


「其れは違いますよ、彼らも同じ仲間ですから、其れよりも今は少しでも休んで置いて下さい。」


 一人でも多く連発銃を扱える者が必要だと、更にあれもこれもと色々考える内にやがて東の空が少しづつ明るくなり始め源三郎はひと時も休む事も出来ず夜が明けた。


「みんな静かにして聞いて下さいね、昨夜山賀のご家中が総司令の書状を届けて頂きましたので今から書状を読みますが、決して大声を出さぬ様にでは読みます。」


 小隊長は源三郎の書状を読み始めたが内容は実に簡単で有った。


「みんな分かって貰えましたか、前面には自分達が立ちますので後は総司令の合図と共に始めます。」


「小隊長さん、オレ達はどうすればいいんですか。」


「作業員の人達は左右に別れ建物の裏側まで走って下されば、我々も同じ様にしますのでね。」


 作業員と兵士達は源三郎の合図で逃げると言う。


「皆さん、今から作戦を決行します。」


 と、言った小隊長は兵舎の扉を叩き。


「官軍兵、来てくれ。」


 と、大声で呼ぶと。


「うるさいぞ、一体何用だ。」


「我々を出して盾にするんだったら其の前に朝ご飯を食べさせてくれ、我々も腹が減ってるんだ。」


「少し待て聞いて来るから。」


 官軍兵が隊長、いや頭目と思われる人物に聞くと言って、暫くして戻って来た。


「承知した、まぁ~お前達には最後の飯だ。」


 官軍兵が数人来て人質を部屋から出し駐屯地の食堂に連れて行き。


「こいつらは最後の飯が欲しいって何でもいいから食わすんだ。」


 食堂の炊事班は朝のおじやを出した。


「さぁ~さぁ~みんな座って我々最後のご飯ですからね。」


 人質全員が座り食べ始めた。


「なぁ~源三郎様は本当に撃って下さるのかなぁ~。」


「あ~勿論だ、あのお方はやると言ったらどんな事をしてでもやられるんだ、だからオレ達は源三郎様を信じるんだ。」


「そうか、だったらオレは一発で天国に行けるのか本当に嬉しいなぁ~。」


「何でお前が天国に行けるんだ、天国に行けるのはなぁ~オレ様の様な善人だけに決まってるんだ。」


「えっ、お前、今なんて言ったんだ、お前の様な奴が善人だったら世の中の人は全員が善人だぜ。」


「まぁ~なぁ~確かに其の通りかも知れないなぁ~。」


 と、人質の全員が大笑いしており、其れでは全く反対の立場の様で有る。


「あいつら何を大笑いしてるんだ、お主は分かるか。」


「そんな事が私に分かるはずが有りませんよ、其れにしても何であんなに楽しそうに出来るんだ。」


 官軍兵には全く理解出来はずも無い。


「なぁ~源三郎様ってオレ達には本当にお優しいお方なんだけど、悪人には鬼より怖いってお方なんだ。」


「なんでお前が知ってるんだ。」


「お前はあの鬼家老の話しは知らないのか。」


「あいつの事だったら忘れるもんか、だけどオレが聞いた話しじゃ大天狗様が成敗されたって。」


「あのなぁ~其の大天狗様ってのが源三郎様なんだぜ。」


「えっ、じゃ~鬼家老と馬鹿息子もか。」


「あ~そうだよ、馬鹿息子は親の鬼家老が死んだって聞いて太刀を抜いて大天狗様に切り掛かったんだ、だけど大天狗様の一撃で両足首が砕け動けなくなってだ、其れで大天狗様は馬鹿息子を大樽に入れ小舟に乗せ出来るだけ遠くの海に捨てろって。」


「えっ、じゃ~馬鹿息子は生きたまま海の藻屑になったのか。」


「そうだよ、で其れを見てた侍達は震え上がったそうだ。」


「だけど侍達は五十人以上は要るって聞いたんだぜ。」


「そんなの大天狗様には全然関係ないんだ。」


「何でだよ、侍が五十人なんだぜ、誰が考えたって源三郎様がお一人じゃ無理だろうよ。」


「よしだったら別の話しをしてやるよ。」


 人質達が何の為の話しをして要るのかも分からず、だが話は官軍兵が聞こえる様に、其れが作戦なのか。


「其れならば自分も知っておりますよ。」


「えっ、小隊長さんもですか。」


「実はね総司令と言うお方ですが、自分達を私の仲間だと言われましてね、有る時ですが官軍の二個中隊程が登って来ましてね、我々と交戦中だったんですが、で其の時総司令が登って来られましてね、官軍兵に向かって、私の仲間を一人でも怪我をさせると貴方方全員に地獄を見て頂く事になりますが、其れでも宜しいですかって、総司令と言うお方は我々を部下としてで無く、私の仲間だと申されたのです。」


「其れだったらオレも知ってるよ、源三郎様ってオレ達の様な人間にも平気で頭を下げられるんだ。」


「其れはオレも知ってるよ、源三郎様ってお人は仲間の為だと言えば自分の命を懸けてでも守るって。」


 この様な話しを聞いて要る官軍兵達も変化が起きて来た。


「なぁ~本当に我々は逃げる事が出来るのかなぁ~。」


「そうだなぁ~、だがあの暗い洞窟の中で一生働かせられるんだよ。」


「其れよりもだ、何故我々だけがこの様な扱いを受けるんだ、我々は幕府打倒の為に今まで幕府軍と戦を続けていたんだ。」


「其の通りだ、我々が幕府軍を倒し、そして、世の中が変わったんだ、其れが何故なのだ。」


 全ての官軍兵が世の中の為に幕府と戦ったのでは無く、幕府の時代もだが官軍の中にも甘い汁を吸った者がおり、其れが師団長で有り、大隊長で、だからと言って末端の兵までが同じ様に甘い汁を吸ったのではないと言うが、其れでも多少は有った。


 官軍兵は山賀の洞窟で一生掘削の仕事をさせられると勘違いをしたのかも知れず、其れが今回の反乱と言うのか、やはり彼らは心の中に自分達は元侍だと言う誇りを捨てる事が出来なかったのだろう。


「お前達は表に出て並べ。」


 官軍兵は人質を表に出し全員を横一列に並ばせた。


「総司令、人質が表に出され横一列に並ばされております。」


「小川さんは人数の確認を、特撰隊の方々も横一列に並んで下さい。」


 小川は人質の人数を数え。


「全員が並んでおります。」


「そうですか、では特撰隊は私が合図を出すまでは撃っては駄目ですよ。」


 特撰隊の兵士は頷き、何時でも撃てる様にと構えた。


「官軍兵に告ぐ、人質全員を解放するならば君達を無事山の向こう側に行ける事を約束する、だが一人でも怪我を、いや殺したならばこの私は貴方方全員に地獄を見て頂きますが其れでも宜しいですか。」


「何を言うか、我々は天下に鳴り響いた官軍だ、しかも我々は大隊だ少人数の侍で我々に勝てるとでも思って要るのか。」


「小隊長、あれは特撰隊ですよ。」


「間違い無い、特撰隊だ、特撰隊ならばこの距離で眉間を撃ち抜く事は朝飯前だ。」


 官軍兵は特撰隊だと聞いても全く知らず、だが小隊の兵士達は特撰隊の腕前は知って要る。


「総司令、自分の此処を撃ち抜いて下さい、お願いします。」


「源三郎様、オレもですよ、此処ですからね。」


 と、人質の作業員も眉間に指を当て。


「お前達は一体何を言ってるんだ、お前達は撃ち殺されるんだぞ。」


「そんなの分かってるんよ、だから此処を撃ってくれって言ってるんだ、この大馬鹿野郎が。」


「お前達は大馬鹿だよ、源三郎様の話しを嘘だと思ってるだろうが、オレ達は此処の山に住む狼の恐ろしさを知ってるから下手に大怪我すると狼に襲われ、身体中を噛まれ苦しんで、苦しんで死ぬんだ、其れだったら一層の事頭を撃ち抜いて貰った方が楽に死ねるんだよ~、オレ達はなぁ~天国に行けるが、お前達は地獄に行くんだぞ分かったのか。」


「人質になられた皆さんには大変申し訳有りませんが、貴方方は山賀の、いや連合国の英雄として戦死して頂きたいのです。」


「源三郎様、オレは天国でご先祖様に言いますんで、オレは連合国の英雄だってね。」


「総司令、私達も同じで、英雄として戦死させて頂けるならば未練は御座いません。」


「誠に申し訳御座いませんが、皆さんの事は末代まで語り継がせて頂きます。」


「中隊は人質を盾にするんだ。」


「あれは中隊と思われますが、人質を盾にするようです。」


「皆さん、まだですよ、まだ早いですからねもう少し待って下さいね。」


 源三郎は官軍兵が人質の後ろに立つのを待って要る様だ。


「小川さんは他の兵が何処に隠れて要るのかを確認して下さい。」


 そして、運命の時が刻一刻と近付いて来る。


「皆さん、あの世でお会いしお酒を飲みましょうか。」


「小隊長さん、天国でお酒を飲みましょうよ。」


「そうですねぇ~、ですが自分はお酒が強いですよ。」


「オレもですよ。」


「では皆さん天国でお酒を飲みながら語り明かしましょうか。」


 そして、源三郎の右てが上がり。


「皆さ~ん、宜しいですか、私の合図と同時ですよ。」


 と、言った瞬間源三郎の右手が下がった。


「よし今だ全員地面に。」


 と、小隊長が言った瞬間、「パン、パン、パン」と連続で特撰隊の連発銃から一斉に弾丸が飛び出し、人質の後ろの官軍兵の数人に命中し頭から鮮血が吹き出し倒れた。


「連続射撃の開始。」


 小川が言った時には特撰隊は連続射撃に入っており、其れはもう息も付かせない程で有る。


「よし今の内だ地面を這って建物の陰に隠れるんだ。」


 小隊長の命令が飛び、人質の全員が地面を這い建物の横へ、そして、後ろ側へと向かい、其の間も特撰隊の連続攻撃は続き。


「小隊長、全員隠れました。」


「では合図を送れ。」


 其の頃になると官軍兵は必死で応戦するが、官軍兵とは言うが殆どが元侍で連発銃の扱いは慣れておらず、一体何処を狙って要るのかも分からない。


 特撰隊は弾の補充は後ろの家臣に任せ確実に官軍兵を倒して要る。


「総司令、もう直ぐ狼の大群が来ると思われます、其れと人質の全員が隠れたと合図が有りました。」


「そうですか、では皆さんは城内に入って下さい。」


 特撰隊と家臣は次々と大手門から城内へ入って行き。


「総司令も早く入って下さい。」


 源三郎が最後に大手門から入って。


「皆さん、大丈夫ですか。」


「はい、自分達は全員無事です。」


 そして、暫くして。


「総司令。」


「源三郎様。」


 と、人質になっていた作業員と兵士達で有る。


「皆さん、全員無事ですか。」


「我々全員無事です。」


「誠に申し訳御座いません、私が間違っておりました。」


 源三郎は作業員と兵士達に頭を下げた。


「自分達は何とも思っておりませんので頭を上げて下さい。」


「そうですよ、何で源三郎様が謝るんですか。」


 と、其の時だ狼の大群が「ウォ~ウォ~。」と唸り声を上げ北の草地から東門を過ぎ大手門から駐屯地へと向かって行く。


「お~い狼が来たぞ、狼の大群だ。」


「早く撃て、早く撃つんだ。」


 だが連発銃の殆どは駐屯地の外の死体、いや怪我人の傍に有り取りに行く事も出来ない。


「わぁ~狼だ助けてくれ。」


「狼が来たぞ、わぁ~。」


「ぎゃ~。」


 表で倒れて要る官軍兵の殆どが撃ち殺されておらず、狼は大群をなって官軍兵を襲って行く。


「ぎゃ~。」


「助けてくれ、狼だ。」


 必死に叫ぶが官軍兵は次々と噛み殺されて行き、更に狼はガラス窓を突き破り兵舎の中に。


「助けてくれ、狼だ。」


「わぁ~。」


「ぎゃ~。」


 と、官軍兵は悲鳴を上げるが、誰も助ける事も無く、尚も狼は官軍兵を襲って行く。


 狼は次々と兵舎の中に飛び込み官軍兵を襲い、その数は数百、数千と増え、今や駐屯地は正に地獄と化し悲惨な状態となって要る。


「狼が来た。」


「何だと狼だと。」


 今や何処に隠れる所も無く官軍兵は何も出来ず狼に噛み殺されて行く。


「総司令、見事に作戦は成功しました。」


「やはり小川さんの作戦通りでしたねぇ~。」


「源三郎様、奴らは。」


「多分全滅するでしょうが、其れも今回の狼ですが今までで一番多いと思いますよ。」


「では当分の間は外には出れないんですか。」


「まぁ~其れは無理ですよ、三日、いや五日間はお城から出る事は無理だと思いますよ。」


「義兄上。」


「若、如何でしたか。」


「先程調べましたが、米俵が十俵と梅干しが五樽でした。」


「そうですか、では当分の間は雑炊にして町民さんと作業員の人達を優先して下さい。」


 若様も源三郎の事だ食べ物は領民を優先すると分かっており。


「先程手配して置きました。」


「左様ですか、小川さん、弾薬を点検、其れと特撰隊は銃の点検をお願いします。」


「承知致しました。」


 特撰隊も承知しており、官軍兵の全滅は未だ先だと、やがて半時程が経ち、駐屯地からは官軍兵の叫び声もせず昼を過ぎ静かになった。


「小門を開けて下さい。」


 源三郎は大手門の小門から外に出た。


「う~んこれは悲惨だ、だが其れも彼らが招いた結果だ仕方有るまい。」


 と、独り言を言って戻った。


 その後は何事も無く静かな夜を迎え、だが果たして官軍兵は全滅したのか、だが今は調べようが無く、其のまま五日、七日と過ぎて行く事になるが駐屯地の周辺は官軍兵の死体で血の海となり、其れはまるで地獄絵図を見て要る様で有る。




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