第 52 話。人質事件の勃発。
「小川さん、兵達を整列させて下さい。」
官軍兵達は山賀に来て一体何をされるのかも分からず不安の一夜を過ごし、今又整列させられて要る。
「皆さんに今から見て頂くところが有りまして、其処で今日から掘削工事に入って頂きます
では私の後ろから付いて来て下さい。」
「総司令、護衛ですが。」
「其れは必ので要有りませんよ、我々の連合国に入れば逃げ道は有りませんのでね、例え私を人質に取っても無駄ですからね。」
源三郎は護衛の必要は無いと、確かに連合国の内情を知らない官軍兵は二度と連合国から出る事は出来ないが、其れでも数人、いや数十人は山に入り逃げようとするだろう。
「私が先日も申しましたが、我々の連合国の山には数万頭もの狼の大群が生息しておりましてね、此処の狼は特に賢いので気を付けた方が宜しいですよ、では参りましょうか。」
源三郎は其れだけを言って馬に乗り北側の空掘りへ向かった。
「大佐殿、司令長官殿は誠に恐ろしいお方ですねぇ~、あの様な話しを平然とされるのですから。」
「橘、其れと中隊長と小隊長達も総司令と言うお方だけは絶対に敵に回す事だけは止めた方がいいですよ、その理由ですが狼の大群は全て総司令の。」
と、工藤は其れ以上話さず、其れが余計中隊長と小隊長達は恐怖を感じて要る。
駐屯地を発って半時程で北の空掘りに着いた。
「皆さんにこれから我々の連合国の秘密を見て頂きますが、其処は大変なところでしてね、実は先日も大きな落盤事故で十数名の方々が亡くなられましてね、今は何もしておりませんがこれからは皆さんの仕事場になりますので、勿論ですが食べ物も有りますので、ですが大変申し訳有りませんが今は皆さんの寝る所が有りませんので家が出来るまで其処で休んで頂きたいのです。
では正太さん松明を渡して下さい。」
正太の仲間が官軍兵に松明を渡して行く。
「司令長官殿、物凄い洞窟ですが中は大きいのでしょうか。」
「其れは勿論ですよ、この中では一千人もの人達が昼夜の関係無く石炭と鉄になる土を採掘し搬出され、土は直ぐ西側に有る溶解炉と申しましょうか、其処で大きな鉄の塊を作り出して要るのです。」
源三郎は洞窟の中をどんどん進み、やがて落盤事故が起きた先端部分に着いた。
「何と此処が先端なのか、其れにしても実に明るいですが、やはり海の陽が差し込んで要るからですか。」
事故が起きた先端部分は引き潮なのか一尺程の隙間が有り、其処へ波が押し寄せて来る。
「正太さん、この場所ですが断崖絶壁のどの辺りか分かりますか。」
「一応調べてまして絶壁の中央に近いと分かりました。」
「では絶壁の長さと申しますか、其れも調べて頂いたのですか。」
「やはり一里以上は有りまして、其れと丁度波が押し寄せるところなんですが、まぁ~其れが大きな岩が端から端まで続いてますよ。」
「そうですか、其れならば尚更都合が宜しいですねぇ~、其れとですが今海水が入っております部分ですが、大よそ半町くらいですから此処は暫く置いて、この長さを一町としましょうか、高木さんは私が今から申しますので全て書き留めて下さい。」
其れから源三郎は洞窟を拡張する為次々と数字を言い、高木は必死で書き留めて行くが、傍で聞いて要る工藤達は余りの凄さに驚きの表情で有る。
源三郎は半時以上を掛け拡張する為の内容を言った。
「正太さん、今鏨は何本くらい有りますか。」
「今は百本有りますが、其れと大きな金槌も沢山有りますので。」
「其れと此処の部分ですが空掘りまで平坦にしなければなりませんのでねぇ~。」
源三郎は又も指示を出し。
「では今申した様に皆さんを班分けして作業に掛かって下さい。
正太さんとお仲間は私が申しました様にさせて下さいね。」
「じゃ~百人程で教えて行きますんで。」
正太も仲間を集め半時後には作業が開始された。
「司令長官殿、浅川の部隊に採掘させるのは分かりますが、部隊を監視する人達も必要では御座いませんか。」
「さすがに橘さんですねぇ~、彼らも人間ですから誰からも監視されなけば仕事は疎かに行う者もおりその為に完成も遅れる事になります。
ですが何も心配される事は有りませんよ、彼らを監視する人達ですが大江の元家臣達にお願いするつもりでして、ですが今はご家族と再会され直ぐこの仕事に就いて下さいとは私も申せませんので、ですが数日の内にお話しさせて頂く所存でございます。」
源三郎はげんたの発言で元の官軍兵一個大隊を潜水船基地の建設に就かせ、その監視役には大江の元家臣達に任せる言う、だが源三郎の狙いは別のところに有るのでは無いのか。
「正太さん、鍛冶屋さんは此方の方におられるのですか。」
「今は鍛冶屋さんと松川からは焼き物の職人さん達も来ておられますが。」
「では窯元さんにお願いして頂きたいのですが、高木さん、紙と筆をお借りします。」
源三郎は紙に何やら描き、正太に渡した。
「これは一体何ですか。」
「これはねぇ~、大きな鏨の中心に樫の木を差し込んだ物でしてね、これならば大きな金槌も必要なく、一人で大きな岩も砕く事が出来るのです。
この部分を窯元さんに型枠を作って頂き溶けた鉄を流し作るのです。」
「だったら大急ぎで行って来ます。」
正太は絵を描いた紙を持ち窯元の所へと向かった。
「橘さん、大江の方々には監視の仕事よりも洞窟内を平坦にさせる仕事を記録する仕事も有りまして、其の全てをお願いするつもりなのです。
其れにより正太さんのお仲間には粘土の掘削と連岩作りに専念して頂けるのです。」
「では司令長官殿は以前から考えておられたので御座いますか。」
「いいえ、今考え付いたのですが、其れが何か。」
「えっ、今思い付いかれたと申されましたが、私は以前から考えておられたものだと思っておりましたが
「其れはねぇ~げんたのお陰でしてね、げんたが山賀の断崖絶壁の内側に潜水船基地を造ると、其れで閃いたのですよ。」
「橘、総司令の閃きには誰でも驚かされるだが其れの上手を行くのが技師長でね、私も正かこの地に潜水船基地を造るとは考えもしなかったんだ。」
「其れにしても恐ろしいお方の集まりですねぇ~、連合国と言うお国は。」
「橘も驚いて要るが総司令も私も技師長が次に何を考えて作られるのかも想像も出来ないんだ。」
「では官軍の総力を挙げても無理でしょうか。」
「私は多分無理だと思いますよ、其れに突然言われても全く理解出来ないんだ。」
橘もだが中隊長や小隊長達も余りの凄さに驚きを通り越し唖然として要る。
「此方の方に大江の方々の家とあちら側には官軍兵の長屋を建てて頂きたいのです。」
「承知致しました、直ぐ手配します。」
その後も源三郎は次々と指示を出し、高木が書き留め明日以降にも官軍兵に伝えて欲しいと言い。
「橘さん、何か御座いませんか。」
「今、司令長官殿に何か有るかとお訪ねされましても、私は余りもの物凄さに驚きを通り越しまして只唖然とするばかりで、今は何も浮かないので御座います。
ですがお伺いしたいのですが、此処に潜水船基地を造ると申されましたが、潜水船は何隻建造される予定で御座いますか。」
「そうですねぇ~、此処の場所で有れば六十隻は係留出来ますので、其れと二隻同時に建造出来る様にと考えております。」
「其処まで考えておられるのですか。」
「我々の連合国では誰もが先の事まで考えなければ生き残れ無いのです。」
「鉄の潜水船を建造されるとお伺いしましたが、問題はどの様にして鉄の板を調達するので御座いますか。」
「今は其れが一番の問題でしてねぇ~、私も其れだけは思い付かいのですが、橘さんに何か策でも御座いませんでしょうか、有れば教えて頂きたいのです。」
「司令長官殿、誠に申し訳御座いませぬ、今の私は何も思い付かいないのです。」
「まぁ~其れも仕方有りませんねぇ~、では一度城に戻りましょうかねぇ~。」
と、源三郎達がお城へと戻って行く。
「おい、此処では誰もが連発銃を持っていないぞ。」
「殆どが脇差だけだ。」
「拙者は武士だ、武士がこの様な暗い洞窟内に入れられ穴掘りとは承諾出来ない。」
源三郎達がお城に戻る頃、浅川大隊の兵士はやはり逃亡を企てて要るのか、誰の監視も受けない洞窟の中で掘削作業に入って要る。
「昨日、此処の兵達から聞いたんだが北側の草地から登る事が出来るそうだ。」
「其れは誠なのか。」
「間違いは無い、拙者も数人の兵に聞いたが、其処には狼は出ないそうだ。」
「よし機を見て奴らの脇差を奪うんだ。」
「だけど、他にも武器は要るぞ。」
「そうだ忘れてたが駐屯地には連発銃と弾薬、其れに刀が有るそうだ。」
「だが駐屯地には兵隊が。」
「其れは心配無い日中は山の警戒に出ており、残るは一個小隊のみだ。」
「よし、だが小隊には連発銃が。」
「我々の方が人数的に考えてもだ多く、小隊が我々の奇襲受け、我ら全員を殺すのはとても無理だ。」
「よし皆に知らせるんだ、人質を取って逃げるぞ。」
数人の官軍兵が知らせに行くが果たして山賀から脱出する事は出来るのだろうか、其れでも官軍兵は一斉に行動を開始した。
「おい、手を挙げるんだ。」
次々と洞窟内の作業員を襲い、手には斧や鎌を持って要る。
「おい、刀や連発銃は何処に有るんだ。」
「其れだったら駐屯地に有りますよ。」
「分かった、お前達は人質だ、其のままで駐屯地まで行け。」
と、一個大隊の官軍兵は作業員を人質にし洞窟を出て駐屯地へ向かい、四半時程して。
「あれは、えっ、奴らは官軍兵だ、若様にお知らせするんだ。」
大手門の門番は執務室へと飛んで行く。
「若様、大変で御座います、官軍兵が。」
「えっ、官軍兵がどうしたんですか。」
「其れが大勢で駐屯地に向かっております。」
「小川さん、駐屯地に兵隊さんは。」
「先程交代し、今は一個小隊が食事中かと。」
「大変だ、官軍兵がオレ達の仲間を人質にして駐屯地に向かってます。」
別の作業員が飛び込んで来た。
「なんですと、私の失敗だ、若、連発銃を。」
其の時には家臣が奥の倉庫から連発銃を取り出して要る。「若、何人おられますか。」
「私も分かりませんが、五十名程かと。」
「全員に持たせて大手門に、ですが撃ってなりませんよ、奴らは作業員を人質に取っており人質の命が危ないですからね。」
若様も連発銃を持ち大手門へと急いだ。
「おい、全員手を挙げるんだ。」
駐屯地では任務を交代した一個小隊の兵士が昼食の最中に襲われ誰もが手出しする事が出来ない。
「お前達は逃げる事は出来ないぞ、今ならば許す全員降伏するんだ。」
「何を言いやがるんだ、我々も逃げ道は知ってるんだ、人質を死なせたく無ければ我々を逃すんだ。」
「小川さん、駐屯地に武器は。」
「連発銃は予備を含め五百丁程と弾薬は大量に、其れと今まで回収した刀が五百、いやもっと有るやも知れません。」
「駐屯地は完全武装された砦なのか。」
「駐屯地には何処からでも入る事が出来ますので、上手く行けば人質全員が助かるかも知れません。」
山賀の駐屯地も他の駐屯地も周りを囲む柵も無く出入りは自由に出来る。
「お~いみんな今の内に食事を交代して取るんだ。」
駐屯地では丁度交代し戻って来た小隊の食事で官軍兵は交代しながら食事に入った。
「お前達は師団長と大隊長が狼の餌食になったのを知って要るはずだ、少しでも血を流せばお前達全員が狼の大群に襲われ噛み殺されるんだぞ、其れを分かって要るのか。」
「あれは菊池での話だ、幾ら狼でも此処にはいないはずでお前の作り話だ。」
「義兄上、奴らは全く信じてませんねぇ~。」
「私は何も作り話をして要るのでは無い。」
「そんな事を信用するとでも思ってるのか、其れよりも早く我々を逃がすんだ、出来ないと言うので有れば人質を殺すぞ。」
「其れは絶対に駄目だ。」
源三郎は狼の大群が今城下を襲えば大変な事になると。
「正太さん、仲間を連れ城下の人達を一刻でも早く城に連れて来て下さい。」
「はい、分かりました。」
と、正太は仲間の所へと走った。
官軍兵は人質を殺すと、若しも一人でも傷付けられるか殺される様な事にでもなれば四半時、いや半時もすれば狼の大群が城下に雪崩れ込み領民が襲われ、山賀の城下は修羅場となり、何人の領民が犠牲になるのかも分からず、其れだけは何としても防がなければならず、官軍兵が人質を殺す前に領民を城に連れて来なければならない。
「おい、これだけの駐屯地だ他にも武器が有るはずだ。」
「お~い連発銃と刀を見付けたぞ。」
「よ~し全員に配ってくれ。」
駐屯地を襲った官軍兵は連発銃と刀で武装した。
「お~いみんな大変だ、駐屯地が官軍兵に襲われたんだ、みんなは早くお城の東門から入ってくれ。」
正太の仲間は城下の領民を連れ出し官軍兵に見付からない様に林を抜け東門からお城へ入って行く。
「お~い正太一体何が有ったんだ。」
「其れが大変なんだ、官軍の奴らが人質を取って駐屯地に逃げ込んだんだ、其れで源三郎様が城下の人達をお城に連れて来いって、其れでオレ達が手分けしてみんなをお城に行って貰ってるんだ。」
「そうか、分かったよ、オレ達も手伝うからな。」
と、城下の人達も領民に理由を話し、領民は次々と城下の外に有る林を抜けお城の東門から入って行く。
「城下の人達がお城に逃げて来られますのでおむすびを作って頂きたいのです。」
賄い処ではおむすび作りの戦争に突入し、半時が経ち。
「お~いどうだ全員お城に入ったのか。」
「いや其れがまだはっきりと分からないんだ。」
「じゃ~もう一度家々を回って確認するんだ。」
「お~。」
と、正太の仲間が雄叫びを上げ再び城下に向かい家々を回り確認し始めた。
「若様、領民さんが東門から次々と入って来られます。」
「そうですか、では貴方方は皆さんが無事入って来られるのを確認してください。」
家臣が東門で待機し全ての領民が入るのを確認する為に張り付き、正太と仲間が一軒一軒確認に入るとやはり何も知らずに、いや余りにも突然の出来事で全ての家を回り切れ無かったのか十数軒の家から領民が飛び出しお城へと向かった。
「みんな静かにな官軍の奴らに気付かれない様にだよ。」
領民は大きな声も出さず林へと向かい東門へと入って行く。
「お~い、まだか、我々はもう我慢出来ない、今から兵士と作業員を殺す。」
一人の兵士と作業員一人が官軍兵の前に出された。
「分かったがお前達の要求を飲む為の安全を確認中だ、後半時待ってくれ。」
「後半時だな、分かったがもう其れ以上は駄目だ、分かったのか。」
官軍兵の前に連れ出された作業員は身体を震わせ、兵士は目を瞑って要る。
そして、約束の半時が経つ少し前。
「お侍様、城下の全員がお城に入りました。」
「では残るは正太さん達だけですか。」
「其の通りで、じゃ~オレは。」
「正太さん、駄目ですよ。」
正太の事だ東門から入らず其のまま大手門に行くだろう、だが絶対に行かせるなと源三郎に言われてる。
「だって。」
「源三郎様は正太さんの事だから城下の人達全員がお城に入れ終わると自分は奴らの前に行く、だからどんな事が有っても止めるんだと申されておられ、私も同じ考えで絶対に行かせませんから。」
「ですが、奴らはオレ達の仲間を人質に取ってるんですよ。」
「私も同じ立場なら行きたい、ですが相手は官軍兵なんですよ、何をするか分かりませんからこの場は源三郎様に全てを任せる方が得策だと思うのです。」
「なぁ~正太、源三郎様の言われる通りだ、オレ達もお前の気持ちと同じなんだ、だけど今オレ達が飛び出してだよ、奴らの撃った弾に当たれば死ぬか大怪我するんだぞ。」
「だけどオレ達の仲間なんだぜ。」
「そんな事は誰でも知ってるんだ、仲間もだけど兵隊さんの顔だってみんな知ってるんだ、そんな事は兵隊さんも分かってるんだ、其れにだよ今のオレ達に何が出来るんだ、だから全部源三郎様に任せるんだ、其れにだ今一番苦しいのは人質になった仲間と兵隊さん、其れに源三郎様なんだ、そんな事も分からないお前じゃ無いと思うんだ。」
「全部分かってるんだ、だけど何も出来ないのが悔しいんだ。」
「みんな正太を押さえろ。」
「何でだ、放せよ。」
「縄で木に縛り付けるんだ。」
「其れが一番手っ取り早いぞ、縄を持って来てくれ。」
正太は東門に入った所で地面に押さえ付けられ縄で縛られ。
「この木に縛るんだ、ぐるぐる巻きにして絶対に解けない様にするんだ。」
正太の身体は縄で幾重にも巻かれ傍の木に押し付けられ縄がぐるぐるに一体何重に巻くんだと思う程だ。
「よ~しこれで大丈夫だ。」
「畜生、覚えてろよ。」
「まぁ~まぁ~暫くの辛抱だ、全部終わったら解いてやるから心配するなって。」
仲間は正太一人を残し東門を閉め城内を通り。
「源三郎様。」
「やはりでしたか。」
「其の通りなんで、まぁ~仕方無いですが、オレ達も正太と同じ気持ちなんで、でもあいつは自分の命を捨てるつもりなんですよ。」
「私も分かりますよ、ですが今此処で正太さん一人だけが死ぬ事は有りませんよ、若しもその様な事にでもなれば血の匂いを嗅ぎ付けた狼の大群が城下に入り、正太さんもですが下手をすればお仲間と兵隊さん達も犠牲になりますからねぇ~。」
「あいつも全部分かってるんですよ。」
「其れで正太さんは。」
「東門に入った所の木に縄でぐるぐる巻きにしてます。」
「正太さんも相当悔しいと思いますが、私に任せて下さいね、其れで城下の人達ですが。」
「全員お城に入って貰いましたんで。」
「確認して頂きましたか。」
「其れはもう何回も、其れでオレ達が最後に入ったんです。」
「源三郎様、何か手伝う事が。」
「今は何も有りませんから、其れよりも領民さん達に何も心配しない様にと伝えて下さい。
大手門前には連発銃を構えた家臣が何時でも撃てる様にと狙いを定めて要る。
「みんな官軍兵の隙を見て逃げるんだぞ。」
人質になって要る兵士達は官軍兵の動きを見て要る、だが今は何も出来ない。
やがて一時半が過ぎ。
「お~い、何時まで待たすんだ、早くするんだ。」
「もう間も無く応援部隊が着きお前達の逃げ場は無い、今ならまだ許すが一人でも殺せば我々は一斉攻撃に入る、其の時には覚悟するんだ。」
今は運の良い事に人質から一人も怪我や殺されたと言う話しは無く、其れでも作業員の神経は果たして何時まで持つのか、源三郎も分からずに要る。
「我々の要求が聞けないというならば今から一人殺す。
と、其の時。
「パン。」
と、一発の銃声が聞こえた。
「何と卑怯な。」
「お~い、一人作業員を殺したぞ。」
だが殺された作業員の姿は見えない。
「源三郎様。」
と、大きな声が聞こえ、人質になった作業員だ。
「どうされましたか、今少しの辛抱ですよ、もう直ぐ全員を助けますので。」
「源三郎様、オレ達を殺して、其れでこいつら全員を狼の。」
「其れは駄目ですよ、私は必ず皆さんを助けますのでね。」
「総司令、自分の頭を撃って下さい、そうすれば狼に噛み殺される事も有りませんので。」
やはり小隊長だけの事は有る、頭を撃ち抜かれると即死で狼に噛み殺される心配も無い。
「お前ら静かにするんだ。」
と、官軍兵は言うが、この様な時に開き直った者程強い者はいない。
「なぁ~んだ、お前達でも恐ろしいのか、そりゃ~そうだろうよ、此処の狼は本当に恐ろしいぞ、オレ達はなぁ~全員が島帰りで今更死ぬ事なんか恐ろしくも何とも無いんだ。」
「源三郎様、オレの頭を撃って下さいよ、其れだったら狼に噛まれても死んでるんですから痛い事も無いですから。」
「そうですよ、源三郎様、オレ達は天国で待ってますんで。」
「そうですよ、源三郎様、今の内に早くやって下さいよ、お願いしますから。」
人質の作業員が次々と早く殺せと騒ぎ出した。
「お前達喋るな。」
「なぁ~んだ、お前らは世にも恐ろしい官軍じゃ無かったのか。」
と、反対の立場になり始めた。
「総司令、私も頭をお願いします。
私は何時でも宜しいので、ですが出来るだけ早く撃って頂きたいのです。」
「何だ、こいつら早く殺せって、其れも頭を撃ち抜けと言ってるぞ。」
「お前らも聞いてるんだろうよ、オレ達の連合国に有るあの高い山には数千、いや数万頭もの狼が要るんだ、オレ達は狼の恐ろしさを知ってるから大怪我よりも殺される方がいいんだ、さぁ~さぁ~さっさとオレ達を殺せよ、早く殺すんだ。」
「そうだ、そうだ早く殺してくれよ、オレの頭を撃つんだぞ。」
一人の兵士が官軍兵の持つ連発銃の銃口を自分の眉間に当て、早く撃ち殺せと催促して要る。
「源三郎様、城下の人達は全部逃げたんですか。」
「全員がお城に入られましたよ。」
「だったら早く撃って下さいよ、お願いします。」
何と言う事になった、人質になって要る作業員と兵士全員が早く撃ち殺せと言い出し。
「ではさっきの話しは本当なのか。」
「お前達は本当に大馬鹿だぜ、オレ達の源三郎様はなぁ~作り話なんかされないんだ。」
「本当だよ、オレは天国に行ってご先祖様にお話しするんだ、官軍兵は大馬鹿の集まりだってな。」
「ねぇ~源三郎様、早く殺して下さいよ、お願いしますから。」
「そうだよ、だって源三郎様は城下の人達を全員助ける為に時を稼がれたんだぜ、まぁ~源三郎様の事だから最初はオレ達を助けたいって、だけど官軍の大馬鹿がオレ達を殺すって言った時にだオレ達の血の匂いで狼の大群が襲って来ると城下の人達が犠牲になるって考えられた思うんだ、そうですよねぇ~源三郎様。」
「まぁ~なぁ~そんな事はオレ達の連合国じゃ~常識なんだよ、オレ達の国ではなぁ~他の人の為に成る様な仕事を自分で決めるんだ、まぁ~そんな事はどうでもいいから早く殺してお前達は狼に噛まれて苦しんで苦しんで死ぬんだ、どうだ今頃恐ろしくなって来たのか。」
「何だと、では命を捨てる事もか。」
「そうだよ、まぁ~オレ達を人質にする事は大馬鹿のやる事だって言う話しだ、この大馬鹿野郎が。」
「まぁ~そんな話はどうでもいいから早く殺しな、だけどその後はお前達が一番悲惨な目に会うんだ、まぁ~今更元に戻す事出来ないがなぁ~、オレ達を敵に回すのは自分達は全滅するって話しだよ。」
そして、約束の半時が過ぎた、だが官軍兵は何も言わず膠着状態に入った様で。
「奴らからは何も言って来ませんが何か有ったのでしょうか。」
「私も詳しくは分かりませんがね、先程作業員さんと兵隊さん達が早く撃ち殺して欲しいと眉間に指を差しておられましたからねぇ~。」
「そう言えば数人の兵隊さんが官軍兵の持つ銃の銃口を眉間に当ててましたが。」
「と、言う事はですよ、若しかすれば人質になられた人達が官軍兵相手に開き直った為では有りませんか。」
源三郎もだが若様達も正か人質にされた作業員と兵士が開き直ったのが原因だと思っておらず。
「ですが官軍兵は人質を殺すと言っておりましたが。」
「多分ですが、官軍兵は人質を取れば簡単に脱出出来ると考えたのでしょう、ですが若や私の話しを正太さんの仲間は聞いておられ、今回の様な時には私ならば城下の人達を安全なところへ行かせる為の時を稼ぐと考えられたのでしょう、其れで皆さんが大芝居をされたと思うのですがねぇ~。」
「では義兄上も大芝居されるのですか。」
「私は作業員さんも兵隊さんも助けたいのです。」
やはりだ、源三郎は何が有ったとしても人質全員を助けたいので有る。
「ですが下手をすると人質の全員を殺す事にもなりますので。」
源三郎は下手な芝居は打つ事は出来ないと、だがどんな方法で人質に知らせるんだ、源三郎達と人質の間は半町程しか離れておらず、かと言って今から芝居をしますとも言えない。
「小川さん、山賀の駐屯地でも手の動きで伝える方法を取られて要るのでしょうか。」
「勿論ですが、でも今回の様な人質事件は全くの想定外ですので。」
小川は何か有るはずだと頻りに考えて要る。
「お~い人質を助ける気持ちになったのか、其れとも殺すのかどちらなんだ。」
だが官軍兵からは返事が無い。
「う~ん何も返答が無いと言うのは困りましたねぇ~。」
又も膠着状態に、やがて駐屯地を占拠されてから二時以上が経つが以前として前には進まず、官軍兵の姿も全く見えず、人質だけが外に立った状態で、そして、又も四半時が経ち人質の精神状態を考えるとこれ以上伸ばすのは危険で有る。
「総司令、先程から考えていたのですが。」
小川の表情も苦悩に満ち相当疲れて要る。
「お話し下さい。」
「総司令、私の考えた方法ですが。」
小川は作戦を伝えると。
「やはりその方法が今考える中で最もな方法でしょうねぇ~。」
「ですが、果たして小隊長に伝わるでしょうか。」
「若、人質もですが官軍兵も相当疲れておりこれ以上伸ばすのと言うのは大変危険を伴い突然人質を撃ち殺すかも分かりません。」
問題は小川の身振り手振りを小隊長が理解するかだ。
「若様、自分も自信は有りません、ですが人質の安全を考えるならば何としても伝わって欲しいと其れだけを考えて要るのです。
源三郎も人質の安全を考えるともうこれ以上伸ばすのは人質の身の安全を考えると危険で一刻も早く決断しなければならない考えて要る。
「大佐殿、奴らは本気では無いと思うのですが。」
「だが人質を盾に駐屯地に立てこもり人質を殺すと言っており、下手をすると本当に撃つと思うんだ、全員殺される事は無いが問題は死んだのでは無く大怪我をして要る、其れを狼が嗅ぎ付け大群でやってくると城下は狼の大群で大怪我をした者と他の人達も襲われるんだ、その様な事にでもなれば其れこそ城下は修羅場となり辺り一面が血の海と化すんだ。」
橘は今だ狼の大群を見た事も無く、師団長と浅川を襲ったのは十数頭だと思って要る。
小川の作戦が成功しなければ、山賀の城下は修羅場と化すのは間違いは無く、果たして作戦は成功するのか、源三郎は一刻も早くと決断を迫られる。