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闇の帝国    作者: 大和 武
126/288

 第 51 話。山賀へ向かう本当の目的とは。

 話しは少し戻り、菊池のお城の大広間には大江の元藩士五十人が座り話して要る。


「私は師団長の大嘘を信じた事が今更になって情けないと思った事は御座いません。

 師団長の話しでは我々が国を出た数日後に幕府の大軍が押し寄せお城は焼け落ち、城下の人達全員が殺され、火を放たれ城下は火の海になったと。」


「そうですよ、私は浅川から聞きましたのでよく覚えておりますが、城下の男達は直ぐ殺され、女達は殆どが犯され最後には家に閉じ込め火を点けられ全員が焼け死んだと。」


「拙者もで、城下の次は我々家臣の家に押し寄せ妻や娘達を犯し焼き殺した言うのです。

 拙者はあの時幕府の奴らだけは決して許さないと誓いまして、奴らを一体何人殺したのかも覚えて居ないので御座います。」


 大江の元家臣達は師団長と浅川の言う話しの全てを信じ、その後の幕府との戦では戦死覚悟で幕府軍の侍達を殺しまくったと言うので有る。


 だが話は全て師団長と浅川の作り話だと菊池に入り分かったので有る。


「では妻達も官軍の話しを全て信じたのでしょうか。」


「私は妻の事ですから多分信じたと思って要るのです。

 ですが良くも生き延びたと、いや其れにもましてこの地に来たものだと感心して要るので御座います。」


「確かにその通りだが、其れにしても綾乃様と言うご家老様のご息女は大したお方で御座いますなぁ~。」

「拙者も同じ事を考えて要るのです。

 武家の妻ならば死に際も心得て要ると思うのですが、其れにしても綾乃様がおられなければ大江のご家中の妻や娘達の全員が自害されて要ると思うのです。」


「拙者は綾乃様にはどれ程感謝しているのか言葉では言い表せないので御座います。」


「まぁ~其れも全て殿とご家老のお陰だとしか言えませぬなぁ~。」


 一方で城下に住んで要る家臣の妻達はと言えば若しもの時を考え別の着物だけは残しており、自分達の主人が今生きて城内に来て要ると聞き、髪の毛を整え、新しい下着と着物を出し着替えの最中で子供の居る妻達はやはり子供にも別の着物に着替えの最中で直ぐお城へは行けないが、やはり其れでも逸る心を抑えながらも必死で着替え、次々とお城へと向かって要る。


「私は。」


「存じておりますので家臣がご案内致しますので其のままでどうぞ。」


「はい、では失礼します。」


 と、妻や子供達は夫で有り父で有る大江の家臣の居る大広間へと行く。


「あなた。」


「幸恵か、大丈夫で有ったのか。」


「あなたこそ、私は官軍兵から戦死されたと聴きまして。」


「父上様。」


「作太郎か。」


「はい。」


 と、子供は父親に跳び付いて行き、大広間では十名の家臣の妻達が呼ばれ全員が主人と再会出来たので有る。


「高野、実に良かったのぉ~。」


「私は今の気持ちを何と表現して良いのかも分からないので御座います。」


「其れは余も同じじゃ、余はこれ程の事が世の中に有るのかと全く持って奇跡と申しても良いのぉ~。」


「勿論で御座います。

 以前ですが大江の農民や町民が夫婦の再会した時には奇跡だと思いましたが、これ程にも奇跡が起きるとは全く予想すら出来なかったので御座います。」


「だが良くもじゃ源三郎殿は知られたものじゃ。」


「私も其れが全く分からないのですが、何故に総司令は感じられたのか一度聞いて見たいと思うのです。」


「まぁ~其れよりも今宵は夫婦の再会もじゃ、大江の家臣達を労ってやるのじゃぞ。」


「勿論で御座います。

 其れと明日からは今日再会されました方々は残って頂き、残りの方々は私が野洲へお連れ致します」


「其れが何より一番じゃ、後の事は良しなに頼むぞ。」


 と、殿様は大江の家臣達に気付かれぬ様にそっと部屋を後にした。


 まだ夫婦の再会していない元家臣達は誰も羨ましく思うのでは無く、皆がまるで自分達の事の様に喜びを現しており、やはり大江のお殿様とご家老様が日頃から家臣と城下の領民達を大切にしていたと言う証なのかも知れない。


「お主達は今夜は積もる話しも有るだろうから我らの事は気にせずとも良いぞ。」


「な~に、何も気にせずにいいんだ、明日になれば野洲に行き其処で拙者の家内と再会するやも知れぬ、だからお主達は何も気にする事は無いんだ、子供の為にもだぞ。」


「誠に申し訳御座いませぬ、明日は拙者も一緒に参りますので。」


「いや其れは駄目だ、多分、高野様の事だお主達は残れと申されるに違いないから。」


 大江の家臣達はお互いがお互いの事を心配し合っており、その様子は高野も見ており、暫くして再会した夫婦が落ち着いた頃を見計らって高野が来た。


「皆様方、今宵はごゆるりとして頂きたいのです。

 お食事と申しましても我々連合国ではこの様な時には全員に雑炊を食して頂く事になっております。

 其れと今ご再会されましたお方は此処に残って頂きまして、残りの方々だけで野洲へ参りますので何卒宜しくお願い致します。」


「では我々は残るので御座いますか。」


「左様でして、皆様方の全員が再会された数日後には源三郎様よりお話しが有ると思いますので、其れまではご自宅では無く何れの国でもお城でお過ごして頂く様にと源三郎様が申されておられます。」


 やはりだ、源三郎の事だ城内で数日内でも過ごせば妻達の負担も少しは減るだろうと考えたので有る。


「高野様にお伺いしたいのですが、我ら大江の家中は五十名ですが。」


「其れならば知っておりまして、我々の連合国は五つの小国が合体し連合国となっておりまして、菊池から山賀のご城下に各十名の奥方様とご子息、ご息女が住まわれておられますが、我々も正か今回の様な奇跡が起きるとは全く考えておりませんでしたので、実を申しますと私も野洲や上田に松川、そして、山賀にどなた様のご家族がおられるのか知らないので御座います。」


 高野が言うのが本当かも知れない。


「高野様、拙者は家内や子供達が生き延び連合国に来られたと言うのが全く理解出来ないのです。」


「私も最初に総司令から伺った時には正かとは思いましたが、皆様方のお話しでは大江藩のご家老様のご息女で綾乃様と小百合様がご家中の奥方様に何としても生き延びる様にと説得されたとか。」


「私も先程妻から聴きまして、妻も本来ならば幕府軍に殺されるならばその前に自害すると申しておりまして、ですが今も申されました様に綾乃様と小百合様が説得され大江の国を夜出立し数日後に連合国に辿り着いたと聞きました。」


「高野様、其れでお伺いしたいのですが我々の処罰はどの様になるので御座いますか。」


「その様な事は考えられず、今は奥方や子供達と再会された事だけを考えて下さい。

 総司令の事ですから決して悪い様にはされませんからね。」


「ですが、我らも官軍兵として城下の人達を殺したかも知れないのです。」


「まぁ~まぁ~その様な事は考えられる必要は有りませんよ、まぁ~皆様方が驚かれる様な裁定を下されると思いますのでね、其れよりも今日からは何事も心配されずのんびりとお過ごし下さい。

 其れと明日ですがそうですねぇ~、朝は五つに出立しますと四つには着きますので、では皆様方明日の朝に参りますので其れまではゆるりとして頂きたいのです。」


 高野も其れだけを言うと部屋を出た。


 一方で。


「我々は一体どうなるんだ。」


「拙者は今でも師団長と大隊長の叫び声が耳から離れないんだ。」


「私は同じ処刑されるならば銃殺刑を選ぶ、狼に噛み殺されるのだけは絶対に拒否する。」


 彼らは浅川の部下で中隊長と小隊長の全員で二十人程で今は菊池の地下牢に入れられ源三郎からの処罰が出るのを待って要る身で有る。


 彼らが今まで一体何人の罪無き人達を殺して来たのか、其れは彼ら本人ですら分からず、源三郎がどの様な処分を下すのか、其れが何時になれば分かるのかも分からず、ただ今まで犯して来た罪の事だけを考えて要るのだろうか。


「皆様方、地下牢に入られた気分は如何ですかな。」


 と、高野が突然やって来た。


「我々は狼の餌食にするのか。」


「私も知りませんがね、貴方方の犯した罪を考えれば、そうですねぇ~、直ぐ狼の餌食にされる事は有りませんよ。」


「何故分かるんだ。」


「拙者は同じ殺されるならば銃殺刑にしてくれ。」


「まぁ~その様に簡単に死なれる事は無いと思いますよ。」


「何故分かるんだ、お主が決めるのでは無いのか。」


「私は決定しませんが、其れよりも一人づつ正直なお話しをして頂けますか、明日から皆様方の事情聴取を行ないますのでね。」


「何故今更聞く必要が有るんだ、殺すならばさっさと殺してくれ生殺しだけは許しでくれ。」


 浅川の元部下達は諦めて要るのか、其れとも居直って要るのか其れは分からないが早く殺せと言うが、源三郎がどの様な処分を下すのか高野も分からない。


「まぁ~間も無く裁定は下されると思いますが、其れまでは地下牢でのんびりとして今まで行って来たことを思い出す事ですなぁ~。」


 高野は其れだけを言って地下牢から出て行き、そして、明くる日の朝五つ、大江の元家臣達は官軍兵の軍服姿では無く、連合国の家臣達が着て要ると同じ仕事着姿で菊池を出立し野洲へと向かった。


「高野様にお伺いしたいのですが、菊池のご家中ですが。」


「あ~其の事ですか、我々の連合国ではご家中の全員がこの様な作業着姿でしてね、皆様方も同じ作業着姿になったと言う事は我々のお仲間になられたと言う事ですよ。」


「ですが我々は官軍の。」


「その様な過去の事は全て流され新しい仕事に就いて頂け無いかと総司令も申されておられますよ。」


「あの源三郎様と申されますお方ですが、一体どの様なお方なので御座いますか。」


 大江の元家臣達にすれば源三郎と言う人物を全く知らない。


「そうですねぇ~、では簡単にお話しをさせて頂きます。」


 高野はその後、野洲に着くまで源三郎と言う人物の事を話すが、全てを話す前に野洲に着いた。


「総司令は。」


「執務室でお待ちで御座います。」


「左様ですか、では皆様方参りましょうか。」


 高野は大江の元家臣達を執務室へと、其れと入れ違いに数人の家臣が城下へと飛び出して行く。


「総司令、大江の方々をお連れ致しました。」


「高野様が直々にですか其れは誠に有難う御座います。

 皆様方は其のまま大広間に鈴木様と上田様はご案内を宜しくお願いします。」


 大江の元家臣達は鈴木と上田に案内され大広間に入ると。


「あっ、えっ、正か。」


 大広間には百合姫が待っていた。


「皆様方は大江の百合姫だと思われましょうが、このお方は名を百合様と申されまして皆様方が大江の国を出立された同じ頃に百合様の御父上がご自宅でご自害されておられるのを発見されました。

 百合様、左様で御座いますね。」


「はい、相違御座いません。」


 と、百合姫は源三郎の問いには素直に答えるが、大江の元家臣達には全く理解出来ずに要る。


「御父上が認められました書状には自分は大江の武士だ、だから大江の武士としてどの様な理由が有ろうとも官軍に入る事は出来ぬ、皆様方には大変申し訳御座いませぬが、私の勝手をお許し願いたく存じますと、其れに相違有りませぬね。」


「はい、相違御座ませぬ。」


「皆様方、その様な訳で御座いますので百合姫では無く今後は百合様とお呼び下さい。

 では百合様は下がって下さい。」


 百合の隣には雪乃が控えており百合の教育係として、やはり雪乃だ見事に家臣の娘として誰が見ても分からない程に変身させた。


「皆様方、私が何故この場に百合様に待って頂いたのかと申しますと、皆様方もですが百合様は大江の姫君としてで無く、武家の娘として今後の人生を歩んで頂きたく、その訳と申しますのは。」


 源三郎はその後、大江の元家臣達に説明した。


「源三郎様に其処まで考えて頂きました事は百合姫、いや百合様も我々に取りましても連合国に残して頂けるならば最高の幸せだと確信致しました。」


「左様ですか、皆様方もその様な訳で私の身勝手をどうかお許し願います。」


 源三郎は大江の元家臣達に手を付き頭を下げた。


「源三郎様、どうか頭を上げて下さいませ、私達こそ源三郎様に今はどの様な感謝の言葉を申せば良いのか分かりませぬ、どうか今後とも宜しくお願い致します。」


 と大江の元家臣達全員が源三郎に頭を下げた、其の時。


「源三郎様、奥方様が来られました。」


 雪乃が家臣達の妻や子供達を案内して来た。


「さぁ~さぁ~皆様方、奥方様と子供さん達ですよ。」


「あなた。」


「佐紀。」


「父上。」


 と、大広間では十名の妻は夫の元へ子供達は父親の胸に飛び込んで行く、其れは菊池の時と同じ光景だ。


「宜しゅう御座いました、私は。」


「心配を掛けたなぁ~。」


 と、家臣達は妻を抱きしめ、妻は夫の胸で涙を流し、他の家臣達も同じ様に涙を流して要る。


「源三郎様、大江の方々には二度の奇跡が起きたので御座いますねぇ~。」


 雪乃も貰い泣きして要る様だ。


「私も正かこの様な奇跡が二度も起きるとは全く予想外でした。」


「源三郎、誠良かったのぉ~、余も正かとは思ったがやはり日頃の精進が良かったのじゃ。」


「私もその様に思います。」


「源三郎はこの者達を大切になっ、其れとじゃ、いや全て任せたぞ。」


 お殿様は其れだけを言って大広間を後にし、源三郎と雪乃も後にした。


「大佐殿、野洲のお城では町民が入って来れるのですか。」


「其れは野洲だけでは無いんだ、全てのお城へ領民達は何時でも良い事になって要るが、特に野洲のお城では領民さん達が必ず居るんだ。」


 橘達が初めて見る光景に驚いて要るが、今では当たり前で、だが彼らには何とも不思議な光景に映って要る。


「まぁ~連合国の中でも野洲は特別なんだ。」


「おせい、後一尾じゃ。」


「お殿様、これはもう駄目ですよ。」


「まぁ~その様に申すな、まだこれだけ有るではないか。」

 

 今日の賄い処では浜のお母さん達が来て浜特製の雑炊を作っており、お殿様は片口鰯を焼く臭いに誘われ賄い処で焼き上がるのを待って要る。


「お殿様は何時も豪勢な食べ物なんでしょう。」


「いや、今は違うのじゃ、今はのぉ~この様に片口鰯と雑炊が余には一番の食べ物なのじゃ。」


「でも何でこんな魚が大好物なんですか、こんな小魚は私達だけが食べてるって思ってたのに。」


「おせい、其れに皆も聞いて欲しいのじゃ、確かに以前は野洲でも何時でも豪勢な食べ物で有った、だがその食べ物は何時も冷えており、この雑炊の様に温かい物は決して口には入らなかったのじゃ。」


「でも何で温かい物が食べられ無かったんですか、まぁ~確かにご飯は美味しくは無いですけど。」


「其れが余の様な殿様には普通なのじゃ、では皆にも分かる様に簡単に話して見ようぞ。」


 殿様は賄い処に居る浜のお母さん達にゆっくりと優しく話すと。


「だったら私達の方がよっぽど豪勢な食べ方をしてるんですか。」


「其の通りなのじゃ、余も源三郎のお陰で今はこの様なところで好きな食べ方が出来る様になったのじゃ。」


「お殿様って本当は一番可哀想なんですねぇ~。」


「皆の分かってくれたと思う、余に取っては此処で食する片口鰯と浜で食する雑炊がこの世で一番幸せな時なのじゃ。」


「お殿様、これから片口鰯や他の小魚が取れたら私達が来て雑炊を作りましょうか。」


「いや、其れは良いのじゃ、余が浜に行った時に頼む。」


「お殿様、今日はこの一尾だけで辛抱して貰えますか。」


「そうか、皆も済まぬ、余の身勝手を許してくれるか。」


 と、言ってお殿様は浜のお母さんが焼いた片口鰯を美味しいそうに食べ、そして。


「雑炊が出来たわよ。」


「おせい、皆で持って行ってくれ。」


「でもいいんですか。」


「良いのじゃ、余が許す。」


「はい、じゃ~みんなで持って行きますからね。」


 浜のお母さん達が今出来上がった雑炊のお鍋を大広間へと運んで行く。


「雪乃殿、百合様も大広間で家臣達と一緒に食事をさせて上げて下さい。」


 源三郎は何故百合と元家臣達と食事を一緒にさせるのか。


「源三郎様は何かお考えでも有るので御座いますか。」


「別に有りませんが、これから先は家臣達とも会う事も出来ぬやも知れませんので。」


「はい、承知致しました。」


 雪乃は其れ以上何も聞かず百合の部屋へと向かった。


「皆さん、雑炊が出来ましたよ。」


「えっ、雑炊ってえ。」


「お侍様、野洲の雑炊は私達だけにしか作れない浜特製なんですよ、奥方様も一緒に全部食べて下さいね。」


 大広間には幾つもの大きなお鍋が運ばれて来る、其処へ百合も来た。


「あっ、百合姫様。」


「皆さん、私はもう大江の百合姫では御座いません。

 先程も源三郎様が申されました様に家臣の娘の百合で御座います。」


 浜のお母さん達はお椀に出来たての雑炊を入れ、家臣や妻、そして、子供達に配り。


「私達が心込めて作った雑炊だから本当に美味しいわよ、さぁ~お代わりもして全部食べて下さいね。」


「父上、私も一度食べましたが、此処の雑炊は今までで一番美味しい食べ物で御座います。」


「そうか、では父上も頂くか。」


 子供達は美味しいと言い、もうお代わりをして要る。


「皆様、私は今此処で雪乃様に色々と教えて頂いて要るのですが、私は雪乃様が誠に羨ましく思えるの御座います。」


「何故御座いますか、我々もですが、百合姫様は大江の者達に取りましては宝で御座います。」


「其れは違うと思うの、その訳はねぇ~。」


 と、百合はその後、家臣達に色々と話すが、家臣達には驚きの連絡で正か雪乃がお姫様だと思いもせず腰元だと思っていた。


「私は正か松川藩のお姫様だとは知りませんでした。」


「野洲の人達ならば誰でも知っておられるので御座いますか。」


「勿論で御座いまして、連合国の人達ならば誰でも知っておられ、特に野洲では雪乃様や源三郎様が困っておられると聞けば、何を差し置いてでも飛んで来られると伺いました。」


「雪乃様がお話しされたので御座いますか。」


「いいえ、雪乃様は其の様なお話しはされませんが、ご家中の方々や他の方々にお聞きしたのです。

 私は雪姫様の足元にはとてもでは御座いませんが及びません。

 ですが、私は少しでも雪乃様に近付ける様にこれからは精進して参ります。

 私は皆様方に今までどれ程のご迷惑をお掛けしたか分かりませんが、皆様方にはこの先も連合国に残られご城下の人達の為に、其れが大江の国で亡くなられた人達の弔いになると思っております。

 皆様方、今後、私は大江の百合姫では無く、家臣の娘百合として生きて参りますので何卒宜しくお願い申し上げます。」


 百合姫では無く家臣の娘百合だと自ら名乗り、そして、大江の百合姫は今後一人の女性として生きて行くと。


「源三郎様、百合様もこれで心から改められたのですね。」


「私は百合様がどの国参られましてももう大丈夫だと思いました。」


 そして、大江の元家臣達は十名と残し、明くる日の朝、上田へと向かい、其れから数日後。


「あのお方はもしや源三郎様では。」


「うん、間違い無い、私が若様にお知らせする。」


 山賀の門番は大急ぎで執務室へと向かった。


「源三郎様、若様は執務室におられます。」


「そうですか、其れと正太さんを呼んで頂きたいのです。」


「はい、直ぐに。」


 別の門番は北の洞窟へと走って行く。


「若様。」


「義兄上、何か急なご用事で御座いますか。」


「今、正太さんを呼んで頂いておりますので、正太さんが来られてからお話しをさせて頂きますが、その前に此方の方々は官軍の連隊長さんと中隊長と小隊長の全員で工藤さんの元部下なんですよ。」


「義兄上、何故官軍が来たのですか。」


「若、先日ですが向こう側の大岩に。」


「あっ、そうか、あの時、日光隊と月光隊に発見されました。」


「源三郎様。」


 と、正太が飛び込んで来た。


「えっ、何で官軍が、やっぱり官軍が来たんですか。」


「まぁ~まぁ~正太さんにも今から皆さんにもお話ししますからね。」


 その後、源三郎が詳しく話すと。


「では義兄上は官軍よりも外国の軍艦が攻めて来ると考えておられるのですか。」


「若もご存知の様に上野さんも同じ様に申されておられます。

 其れで先日技師長が山賀の断崖絶壁の内側に潜水船の基地を造らなければならないとも考えていたのですが、今の連合国で新たな基地を造れるのは山賀に有る断崖絶壁の内側しか無いと考えたのです。」


「源三郎様、でもあそこは前に大きな落盤事故が有ったんですよ。」


「私も勿論知っておりますよ。」


「あの時は大勢が死んで。」


「正太さんは人手の事を考えておられるのでしょうが、今回は別の人達を連れて来ましてね、今は駐屯地におられますよ。」


「源三郎様は官軍兵にさせるんですか。」


「ええ、その官軍兵は殆どが元侍でしてね、彼らは戦とは全く関係の無い人達を大勢殺しておりましてね、正直なところ私もどの様な処罰が良いのか迷っていたのですが技師長が潜水船の基地を山賀に造ると申され、其れで今日連れて来たんですよ。」


「じゃ~そちらの連隊長さんの部下なんですか。」


 正太は橘達を見て何か不満を抱いている様にも見える。


「直接では有りませんがね、まぁ~一応は部下ですが、連隊長さんの部下は殆どが農民さんを含めた町民さんばかりでしてね。」


「でもそんな大勢の兵隊さんをオレ達だけで見張るなんで出来ないですよ、オレ達にも大事な仕事が有るんですよ。」


「その役目も別の人達にお頼みする様に考えて、あっ、そうだ私は大変な事を忘れておりましたよ、若、綾乃様と小百合様は。」


「今は何かを考えておられる要ですが。」


「若、大江のご家中が無事でしたよ。」


「えっ、其れは誠なので御座いますか。」


「勿論で御座いますよ、高木さん、綾乃様と小百合様を呼んで下さい。」


 もう其の時には高木は部屋を飛び出している。


「其れで大江のご家中の奥方は。」


「今は城下で色々なお仕事をされておられます。」


「左様ですか、ではお呼びして頂きたいのです。」


「はい、直ぐに。」


 と、若様が言った時には家臣は既に飛び出して行った。


「失礼します、綾乃と小百合で御座いますが、若様がお呼びだとか、あっ、えっ、源三郎様が。」


「綾乃様と小百合様もお座り下さいませ、お二人の大切なお話しが有りまして、今寄せて頂いたのです。」


「私達に大切なお話しと申されますと。」


「綾乃様も小百合様も驚かないで頂きたいのですが、大江のご家中が生きておられまして、今、此方の方に向かわれておられます。」


「其れは誠で御座いますか。」


「勿論ですよ、其れで菊池から松川まで参られまして、そして、最後の方々が今山賀に向かわれておられるのです。」


「姉上様、誠に宜しゅう御座いました。」


 小百合もだが綾乃も溢れる涙を拭う事も出来ず、其れ程までに嬉し涙で有る。


「何故に無事だと分かったので御座いますか、其れが若しも事実ならば何故に官軍は私達に作り話をされたので御座いましょうか。」


「其れに付きましては、此方に官軍の連隊長からお話しをして頂きますので、橘さんからお話し下さい。」


「私は官軍の、いえ元官軍の橘幸太郎と申しまして、今から詳しくご説明させて頂きます。」


 橘はその後、綾乃と小百合にもだが若様に対し、今までの経緯を話した。


「連隊長様のお話しでは師団長と申されますお方は最初から騙すつもりだったので御座いますか。」


「誠に其の通りでして、師団長と言う人物ですが実に見事な程に悪巧みを考えさせれば右に出る者はいない程でして、本来軍も兵士を集めるのは苦労するのですが、師団長だけは何時も見事に集めて来るのです。」


「橘さんもその方法を知っておられたのですか。」


「私も遂先日まで知らなかったのです。」


 橘は師団長がどんな方法で兵士を集めて来るのか知らなかったと言うが


「ですが一応は師団長の部下では有りませんか、其れが何故知らなかったのですか。」


「師団長はまず幕府に対し憎しみを持って要る、其れも出来るだけ小藩を調べさせるのですが、その役目を浅川の部隊にさせていたのです。」


「ですが浅川の部隊の侍ばかりですよ。」


「浅川は浪人の姿に変えさせ城下の飲み屋に行かせるのですが、城下の飲み屋と言うのは町民達の集まりで、殿様や侍達の悪口を言うところでして、其処で町民達がどの様な会話をして要るのか、若しも幕府の悪口が聞ければ其れだけで十分でして、後日、藩主の元へ大量の食料を特にお米を持って行き官軍に入れば定期的にお米を届けるので家臣や農民、其れに町民達が官軍に参加して頂けるならば更に追加の食料を届けると申し出るのです。

 藩主は幕府に年貢として多額の上納金を治めなければならず、城下の人達は不作と相まって食べ物が不足しており、家臣や領民が官軍に参加する事で家族は食べて行けると判断し家臣や領民を官軍に入れるのです。」


「ですが食料も其の時だけで後は一切無いと言われるのですね。」


「其の通りでして、師団長と浅川は集めた食料を横流しし多額の金子を受け取っていたのです。」


 古今東西、昔も今も悪巧みを思い付く人間は必ずおり、幕府の時代でも多く、今の官軍でも同じで、特に上層部に行けばその様な人間は多い。


「連隊長様、私達の大江でも不作が続きまして、ですが幕府からは上納金を増やせと何度も通告されていたと父からも聞いておりまして、その様な時に官軍が大量のお米を持って来たのです。」


「橘さんのお話しですが、私は腑に落ちないのですが、浅川の部隊に何故大江の侍がおられたのですか。」


 綾乃が聴きたいと思って要るのを源三郎が聞いた。


「其れが実に不思議な事に我々師団が向かうところでは殆ど大きな戦が無かったのです。

 ですが一度だけ有りまして、其の時運悪く浅川の部隊の小隊が全滅したのですが、まぁ~師団長の事ですから何としてでも集めてくるだろうとは思っていたのですが、やはり其れも数日の内に五十名の侍が集まったのです。」


 やはり大江の侍達なのか、橘の話しは続き。


「では別の部隊ですが先日も申されましたが掛川さんと佐野さんの部隊、そして、橘さんの部隊ですが、浅川の部隊とは一体何が違うのですか。」


「私と掛川、佐野の部隊の殆どが農民や町民でして、ですが其れ以外の部隊では殆どが浪人者と渡世人と申しましょうか、やくざ者だけなのです。」


「其れでは大江の家臣は浅川の部隊の小隊が全滅したので、その補充にされたのですか。」


「先程も申されましたが師団があの地に来るまでは大きな戦は行なっていないと、では師団としては大きな犠牲は無かったのですか。」


「其れは殆ど無かったと申しても良いと思います。」


 そんな不思議な事が有るのだろうか、師団と言えば一万人以上の大部隊で、其れが大きな戦にも遭遇せず、果たして今の駐屯地に来る事が出来るのだろうか。


「源三郎様は大江の元のご家中が生きておられると申されましたが、其れでも何も無かったとは考えられ無いのですが、やはり処罰は考えておられるので御座いますか。」


 綾乃は大江の元家臣達には何の処罰も無いとは思っていないが、其れでもやはり気に成る。


「綾乃様も分かって頂けるかとは思うのですが、綾乃様も申されます通り連合国に来られるまで全く罪は犯されていないとは思えないのです。

 ですが、私も考えておりますのでね心配は無用ですよ。」


 源三郎も考えて要ると言う、だが連隊長の話しからすれば軽くはないだろうと、其れよりも今は元家臣達の顔を見たいと、やはり無事な姿を見なければ安心出来ない。


「源三郎様、十数人の侍と思われます人達がやって来ます。」


 山賀の門番は何も知らずに侍だろうと思って要る。


「綾乃様、どうやら着かれた様ですねぇ~。」


 綾乃と小百合は急いで大手門へと向かい、暫くして。


「綾乃様では御座いませぬか。」


「貴方様は。」


「私は松井で御座います。」


 と、其の時、大江藩士の妻達が城下より来た。


「あなた。」


「昌代か、良くぞ無事で有った。」


「あなたこそ、私は官軍から大江の侍は全員戦死したと聞いており、自害も考えたのですが綾乃様が子供達の為にも何としても生き残り立派な侍に育てて行く事が戦死された主人の弔いにもなると申されまして。」


「やはりか、では綾乃様がおられなければ昌代も今頃は。」


「ですが綾乃様のお陰で私は今あなたと再会出来たと思います。」


 松井と言う大江の家臣もだが他の家臣達も妻や子供達と再会した事の嬉しさを十分に味わっている。


「皆様方に少しお話しを聴きたいのです。」


 すると直ぐ静かになり。


「大江の元ご家中の皆様方は数日間はお城で過ごして頂きまして、数日後、私が改めてお話しをさせて頂きますので、其れまではご家族と一緒に過ごして頂きたいのです。」


 源三郎は一体何を話すと言う、橘の話しでは大江の元家臣達も浅川の部隊におり、戦とは関係の無い人達を殺したのかも知れず、綾乃は何故か嫌な予感をして要る。


 だが其れも運命なのかも知れず、今は全てを受け入れなければならないのか、大江の元家臣達の運命は源三郎の手の中に有るのだけは間違いは無い。





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