第 49 話。 簡単に決まる。
駐屯地を出発した橘と一個大隊は数日後に最後の野営地となる地に着いた。
「連隊長さん、中隊長さん達と小隊長さん達の全員を集めて欲しいんです。
其れと、連隊長さんのテントの周りに二個小隊を配置し誰も近付けないで欲しいんで。」
「何故だ、何故に其の様な配置をする必要が有る、我が部隊の者が盗み聞きするとでも思うのですか。」
「連隊長さん、其れが違うんですよ、オレも部隊の兵隊さんは信じてますよ、でも師団長と浅川さんの部隊も半時後には出発してるんです。
オレは自分の命と連隊長さんと部下の人達全員の命を守る為に。」
「では其れもそのお方の命令なのか。」
「えっ、命令って、源三郎様ってお人は命令なんかされませんよ。」
「では何故其の様な配置をするのですか。」
「源三郎様は何時も言われるんですよ、自分の命は自分で守る、其れが仲間の命も守る事になるって、其れに源三郎様は何時も細かい事まで言われないんですよ、細かい事は自分で決めて下さいってね、今度も源三郎様は連隊長さんと仲間の為、其れが最後には自分達の為だって言われたんですよ。」
「君は命令を受けたのですか。」
「オレですか誰からも命令なんか受けてませんよ、中隊長が行くって言われたんで、仲間は中隊長は残って後の事を頼むって、それで仲間の全員が志願し最後はくじ引きで決めたんですよ。」
「えっ、志願ですって、ですがこれは大変危険な任務ですよ。」
「そんな事はオレ達の仲間は誰でも知ってますよ、だからみんなが志願するんですよ。」
橘は今までそんな話は聞いた事が無い。
総司令と呼ばれる源三郎は命令せず全てお願いすると、なのに兵士は誰もが志願すると、一体連合国軍とはどの様な軍隊だ。
そして、其の中に工藤が居るとは全く理解出来ない。
「では作戦の詳細は。」
「オレが考えたんですが其れでも最後の決断は連隊長さんにして欲しいんです。」
「分かりました、当番さん、今聞いての通りだ、中隊長と小隊長の全員を呼んで、其れと第一中隊の第一、第二小隊も呼んで下さい。」
当番兵は中隊長と小隊長の全員と、そして、第一中隊の二個小隊を呼びに行き、暫くして全員が集まり。
「小隊はテントの周りに誰も近付けない様に、中隊長と小隊長は中に入って下さい。
では今から最後の作戦会議をしますので。」
「浅川、偵察に行かせるんだ。」
「師団長殿、何処を偵察に行くのでしょうか、明日には。」
「浅川、お前は何も分からないのか橘の所へだ、分かったか。」
「はい、では直ぐに向かわせます。」
連合国軍の兵士が思った通りだ、師団長は連隊長達は最後の、其れも秘密の作戦会議をすると考えて要る。
「全員座って下さい、今から詳細をお聞きしますので。」
「連隊長さん、其れに中隊長さんに小隊長さん、オレ達の連合国じゃ~軍隊の兵士は領民の為に、領民はオレ達兵達の為にみんなが一生懸命に働いてるんです。
其れでは今から話しますけど、でも最後は皆さんで決めて欲しいんで、じゃ~お話しします。」
と、連合国軍の兵士が話し始めて半時程経った時。
「誰だ。」
「自分達は師団長殿の命令で来ました。」
「えっ、師団長殿の命令って、少し待って頂けますか、連隊長殿、師団長殿の命令で来たと小隊長殿が来られました。」
「ねぇ~言った通りでしょう、じゃ~今から芝居をしますんで、皆さんも合わせて欲しいんです。」
「分かりました、では小隊長を入れて下さい。」
「連隊長殿、誠に申し訳御座いません。
お話し中のところを、で一体何を話されておられたのでしょうか。」
「お話しって、まだ何も始めてませんが、小隊長も聞かれますか。」
「出来るならばお願いします。」
「では今から明日の作戦成功に向け会議を始めるが、其の前に君は何を見て来たのか詳しく話して下さい。」
「はい、では自分が見て来た事を説明させて頂きます。」
と、連合国軍の兵士はその後作り話を真剣に話すと。
「そうか、では私が先陣を切って行けばいいのか。」
「連隊長殿、向こうは一体何人居るのかも知れ無いんですよ。」
「何故だ、僅か五百だと聞いて要るぞ。」
「失礼ですが、師団長殿のお話しでは後から吉田が一千人を連れ合流して要ると申されましたが。」
「えっ、其れは本当なのか、私は聞いて無かったが。」
「師団長殿は多分其れだけでは無いと。」
「小隊長は何処まで聞いて要るんだ。」
「自分が聞いたところでは五十嵐司令官殿と全ての指揮官も殺され五千の兵が加わったと。」
「五千の兵だと、では余りにも我が軍の兵力が少ないでは無いか。」
橘と中隊長、小隊長達は芝居をして要るのか、其れとも本当に知らないのか、其れにしても余りにも見事だ。
「私は先陣で浅川大隊長には後方から事態を見計らって攻撃して下さいと伝えて欲しいんだ。」
「了解しました、では自分は戻ります。」
師団長の命令通り探りに入ったつもりだが見事に騙されたと言えば良いのか小隊長は戻って行く。
「連隊長さんは知らなかったんですか。」
「ああ、本当に知らなかったよ。」
「吉田大尉は今は少佐となられ源三郎様の居られるところに駐屯されておられますよ。」
「そうなのか、では一千の兵士は。」
「全員が無事でして、其れと先程の五十嵐司令官と指揮官の全員は総司令の作戦通りで全員が狼の餌食になりましたが、五千の兵士も全員が今は連合国で元気にして居られますよ。」
「では司令官と指揮官の全員は撃ち殺されたのですか。」
「いいえ、兵士は一発も撃ってませんよ、最初は猟師さんが先頭の指揮官を撃ち、其れが合図で連合国のお侍が矢を放ったんですよ。」
「えっ兵士は一発も撃たに侍が矢を放つ、ですが其れでは死ぬ事も無い指揮官も居ると思いますが。」
「源三郎様は其れで十分だと言われ、後は一刻も早く逃げろって言われるんですよ。」
「其れでは兵士が応戦すると思いますが。」
「其れがですねぇ~、こんな事言っても信じて貰えないと思いましが、源三郎様は兵士の前に出られ、後四半時もすれば狼の大群が来る、生き延びたいので有れば一刻でも早くこの場を離れ我々の所へ来て下さいって、其れで隧道に連れて行かれたんですよ。」
「狼の大群の来ると、其れは本当ですか。」
中隊長達も小隊長達も信じる事が出来ないと言う顔をして要る。
「本当なんですよ、でもあの時の兵士は誰も信じなかったんですが、源三郎様を始めお侍様もオレ達も全員が隧道に入って行くのを見て兵士も必死で逃げ込み、その後直ぐ狼の大群が指揮官達を襲ったんで兵士もやっと信じたんです。」
「其れならば私は君の話しを信用します、其れで君の作戦ですが。」
「オレが先に行って監視所の仲間に言いますんで、後はオレの後を来て欲しいんです。」
「えっ、其れが作戦ですか。」
連隊長は兵士の作戦だと言う話しに驚いて要る。
「連隊長さん、オレ達の仲間を信じて欲しいです。
其れよりも問題は師団長さんと浅川大隊の部隊ですが。」
「皆はどの様に思って要るのか分からないが、私は師団長も大隊長と兵士の全員を殺すのでは無く生け捕りにしたいのですが。」
源三郎も同じ様に考えていた。
確かにその場で全員を殺すのも簡単だ、だが其れでは工藤や吉田は納得しないだろう、其れならば生け捕りにし後程処罰を決めれば良い。
「連隊長さん、オレだったら三個中隊で十分だと思うんですよ。」
「何ですと、浅川は一個大隊ですよ、其れを僅か三個中隊で終わりにするのですか。」
「オレ達の連合国では領民も兵士も皆が考えるんですよ、自分が小隊長や中隊長だったらどんな方法で行くか、だからオレも菊池を出てからず~っと考えてたんです。
オレが中隊長だったらまず一個中隊で動きを止め、其れでも敵が聞かないと分かれば直ぐ別の中隊が姿を現し、最後には隧道から馬に乗った中隊を出す、これだったらさすがの師団長でも大隊の前進を止めると思うんです。」
「そんな無謀な作戦が成功するとでも思って要るのですか。」
「無謀な作戦って言われますがオレは何も無謀っては思って無いんですよ、オレ達の源三郎様も同じ様な作戦を考えられるんです。
連隊長さんは何も知られ無いですが、源三郎様ってお方は農民や漁師が連合国では一番大切だって言われるんですよ、其の意味なんですが、源三郎様はご自分は作物も育てられ無いし、魚も獲れないんで農民さんや漁師さんがいなければ自分は飢え死にしますからねぇ~って言われるんですよ、そんなお方なんで農民や漁師達が兵士の姿になってるって知っておられるんですよ。」
連隊長と中隊長、そして、小隊長達も源三郎と言う人物を知らなかったが今連合国軍の兵士の言葉に何も言えない。
「よ~く分かりました、では君の作戦通りに行きましょう、皆も分かったと思いますが、我が大隊も殆どが農民ですが、誰も銃は撃つなと伝えて下さい。」
連隊長は兵士に連発銃は撃つなと。
「其れで少しお聞きしたいんですが、浅川大隊長の兵隊さんですがやっぱり全員が農民なんですか。」
「いや、全員が元侍で勿論全員が連発銃を持っておりますよ。」
「お侍か、じゃ~もっと簡単ですよ、オレの中隊長に任せて欲しいんです。」
その後も兵士は色々と話して要るが、師団長の元へと帰った小隊長は。
「師団長殿、やはり作戦会議でしたが、連隊長殿から自分達は前面から行くので浅川大隊長には後方へ回って下さいと。」
「ほぉ~浅川には後方へ行けと、だが何故後方へ回るんだ。」
「小隊の兵士が林の付近を見たと言うのですが左側は大きな川で右側は山で前後を塞げば逃げ場は無いと申しておりました。」
「そうか、橘が前から攻めれば工藤は後方へと、だが後方には浅川の大隊が要ると成れば逃げる事は出来ないと言うのか。」
「自分も其れならば十分だと思います。」
「よし、わしが直接工藤に止めをくれてやるわ。」
と、師団長は早くも工藤に止めを刺すと決めている、だが林の中には誰もいないとはこの時は考えもせず、正か源三郎が考え付いた罠だと思いもしていない。
そして、夜が明け、橘の部隊は連合国軍の兵士の言葉を信用し菊池の隧道へと向かい、同じ頃、師団長と浅川の大部隊も出発したが、正か罠だとは思いもせずに要る
そして、一時、いや一時半程が過ぎた頃。
「中隊長へ伝えるんだ、官軍がやって来たぞ。」
兵士は隧道の中へ。
「お~い、オレだ。」
「なぁ~んだお前か。」
「そうだ、連隊長と大隊を連れて戻ったぞ。」
「よ~し其のまま進め。」
「連隊長さん、オレを信じて下さい。」
「分かりました、大隊は其のまま進め。」
連合国軍の兵士と橘が引き得る官軍の大隊は何事も無かったかの様に隧道へ入り、やがて菊池の出口に来た。
「あっ。」
と、橘も大隊の兵士達は大変な驚き様で有る。
「橘か無事で何よりだ。」
「少佐殿、お久し振りです。」
「橘、いや連隊長、此方が我が連合国の最高司令長官で。」
「工藤さん、私に。」
「はい。」
と、工藤は下がった。
「私は源三郎と申します、我が連合国にようこそ御出で下さいました。」
「えっ、貴方様が源三郎様で。」
橘が驚くのも無理は無く、兵士が源三郎と言ったが、正かこれ程に若いとは想像もしていなかった為で。
「皆さんが想像されて要る源三郎はもっと年配者でしょうが、でも私は間違い無く源三郎ですよ。」
「源三郎様、後半時もすれば師団長と一緒に別の大隊がやって来ます。」
「貴方でしたか、大変危険な任務でしたを良くぞご無事で戻られましたねぇ~、後は私に任せて下さい。
では吉田さんは予定通りでお願いします。」
吉田は頷き。
「中隊は全員馬に乗り向かいます。」
吉田と馬上の中隊は隧道へと入って行く。
「橘さんも如何ですか行かれますか。」
「はい、是非ともお願いします。」
「では工藤さんも一緒に参りましょうか。」
源三郎と工藤、そして、橘は馬に乗り隧道へ入って行く。
「よし今だ。」
兵士の言う通りだ。
「お前達は何者だ。」
「私は連合国軍の中隊長でして、皆さんはもう既に包囲されておりますよ。」
「何だと、何処にも。」
と、言った師団長は付近を見渡すが一人の兵士の姿が見えない。
「貴様は一体誰だ、其れに兵士の姿は見えないぞ。」
「そうですか、では今お見せしますので。」
中隊長が手を挙げると林の中から兵士が連発銃を構え出て来た。」
「何だ、たかが一個中隊では無いか、大隊長、命令するんだ。」
「貴方はまだ理解されておられない様ですねぇ~、では。」
と、又も手を挙げると、今度は反対側から連発銃を構えた兵士が現れ。
「えっ、何故だ、何故に官軍の兵士が居るんだ。」
其の時。
「中隊長、ご苦労様です。」
「総司令。」
「中隊長、後は私に任せて下さいね。」
と、源三郎は近付き。
「私は源三郎と申します。」
「何だと、えっ、橘、えっ、正か工藤では。」
「川田さん、お久し振りですねぇ~。」
「橘、何をして要るんだ、早く工藤を殺せ、殺すんだ、奴は脱走兵だぞ。」
「川田さん、私は脱走兵では有りませんよ。」
「師団長殿、どうやら少佐殿の報告に間違いは有りません。」
「何だと、貴様は上官の命令が聞けないと言うのか。」
「師団長殿、私の上官は工藤少佐殿です。」
「川田さん、今は貴方の話しを信用出来ませんので全員の武装解除を願います。」
「う~ん。」
「川田さんに選択出来る立場では有りませんよ、如何されますか、中隊長、十数えて武装解除しなければ川田さんだけをを撃ち直ぐ隧道に戻ります。」
「何だと、もう一度言って見ろ。」
「そうでしたねぇ~、この地には我々の見方が数万もおりましてね、ですが下手をすると我々も餌食になりますのでねぇ~。」
「総司令、宜しいでしょうか。」
「工藤さんに何か考えでも有るのですか。」
「はい、では大隊の兵士に告ぐ、後四半時もすれば狼の大群が襲って来るが、私の話が本当だが、若しも作り話だと思うならばその場に要ろ、だが本当だと思うならば今直ぐ私達と一緒に来るんだ、橘も直ぐに入れ、総司令、では参りましょうか、中隊の全員隧道に入れ。」
「中隊は直ぐに入れ。」
源三郎達も大急ぎで隧道へと入って行く。
「おい、私も行くぞ。」
と、その後、官軍の兵士達も隧道へ次々と入って行く。
「待て、一体何処に行くんだ。」
と、言いながらも師団長も大隊長も必死で入って行く。
「では皆さん武装解除して頂けますかねぇ~。」
師団長と大隊長、更に大隊の兵士の周りには連合国軍の兵士が銃で構え何時でも撃てると構えて要る。
そして、一人、又一人と兵士は連発銃を足元に置き、連合国軍の兵士が回収して行く。
「川田さんと申されましたね、ご貴殿は工藤さんが脱走したと申されましたが、私が聴いたところでは工藤さんは志願され幕府軍を追撃されておられ、まぁ~その話しは別として、川田さんは兵士をどの様に思っておおられるのですか。」
「何だと、兵士は兵士だ、戦死すれば直ぐ補充する、これが戦なんだ、お主はそんな事も分からんのか。」
「ほぉ~成る程ねぇ~、では兵士は鉄砲の弾と一緒だと申されるのですか。」
「其の通りで、其れが何故悪い。」
師団長は聞く耳を全く持たないと源三郎は思った。
「では話しを変えて、皆さんの中に別の所と申しましょうか、そうでした皆さんは元侍だと聞きましたが、私は他の藩から来たと申されるお方はおられませんか。」
だが誰も名乗る者などいない。
「では、皆さんは狼の餌食になって頂きますが、其れでも宜しいのですか。」
源三郎の話しに暫くすると。
「私はこの者達とは別の藩から連れて来られました。」
「左様ですか、其れでご貴殿は何れの藩から来られたのですか。」
「私は大江の国からで御座います。」
「えっ、大江の国ですか、では他に大江の国から来られたお方はおられませんか。」
すると、一人、又一人と五十人が大江の国から来たと言う。
「ではお伺いしますが、綾乃様と言う人物をご存知でしょうか。」
「綾乃様はご家老様のご息女で御座いますが、えっ、正か綾乃様が来ておられるので御座いますか。」
「やはりでしたか、でご貴殿の名は。」
「私は松井と。」
「松井様ですか、ご貴殿の奥方様も来ておられますよ。」
「えっ、何ですと、私の家内がで御座いますか。」
「誠ですよ、綾乃様と小百合様が命懸けで大勢の領民さんと奥方様を連れて来られましてね、まぁ~其れよりも大江の方々は離れて下さい。」
すると、元大江の家臣達は部隊を離れた。
「貴方方は何故官軍に入られたのですか。」
「私が説明させて頂きます。」
先程の松井と言う侍が詳しく説明した。
「やはり同じでしたか、ですが大江藩にはその後食料は届けられておりませんよ。」
「其れは誠で御座いますか、では師団長の話しは全て嘘だと申されるのですか。」
「川田さんは特攻隊をご存知でしょうか。」
「其れがどうしたと言うんだ。」
「橘さんは特攻隊をご存知でしょうか。」
「私が聴いたところでは師団長が各藩を回り説得すると。」
「確かにその様ですが、川田さんが設けられた特攻隊はですねぇ~、農村や漁村を襲い、男達は先に殺し、女は犯し最後には家に閉じ込め火を放ち全員を焼き殺すんですよ。」
「師団長殿、今の話は誠ですか、其れでその特攻隊は今何処に要るのですか。」
「特攻隊も我々が全員を処罰しましたよ。」
「左様で御座いますか、師団長、何か申し述べる事は無いのか、話しによっては私は絶対に許さないですよ。」
橘は言葉よりも今怒りに満ちている。
「まぁ~まぁ~橘さん、少し落ち着いて下さい。
私に全てお任せ下さいね、工藤さん、川田さんを。」
「はい、承知致しました、中隊長、頼みますよ。」
すると数人の兵士が師団長を後ろ手に縛り、猿轡をした。
「師団長、ご貴殿を私達の仲間にお渡ししますのでね、其れでお許し頂きたいのです。
では中隊長、宜しくお願いします。」
兵士は師団長を馬車に乗せ山に連れて行った。
「大隊長もご一緒に如何ですか。」
「えっ、何故自分が。」
「大隊長は師団長の腰巾着でしょう、だったら同じ様に行かれては如何でしょうかねぇ~、其れに師団長はお一人では寂しいのでは御座いませんか。」
源三郎は脅かして要るのか、其れとも本気なのか。
「自分は師団長の命令で。」
「では命令ならば何の罪も無い人達まで殺すのですか。」
「いや、其れが。」
「其れがなんですか、今更、何を釈明するのですか、ご貴殿は全て師団長の命令だと申されますが、工藤さんや吉田さんの話しでは師団長の命令される前に命令を出され多くの農村や漁村を焼き払ったと聞いておりますがねぇ~如何でしょうか。」
と、源三郎が言った時には兵士は猿轡と両手を後ろ手に縛っていた。
「ご貴殿は師団長の後に続いて下さいね。」
大隊長は必死にもがくが、其れも空しく終わり馬車に乗せられ山へと連れて行かれた。
「総司令、師団長の馬車から千両箱が五個も見付かりました。」
「やはりでしたか、師団長は工場に来られた業者から賄賂を取っておられたのはこれで間違いは有りませんねぇ~。」
「司令長官殿、ですが何故でしょうか、自分には全く理解出来ないのですが。」
「私はどの様な工場かは知りませんがね、業者にすれば師団長に賄賂を渡す事で優先的にしかも安く物が入り、加工すれば賄賂の数倍、いや数十倍の利益が得られたのでは御座いませんか。」
「其の様に申されますと、確かに業者が来た時には師団長と浅川だけが部屋におり、他の者は全て出されたと聞いております。」
「まぁ~ねぇ~、今更其の様な詮索をしても今はどの様にもなりませんが、浅川さんの大隊ですがどの様に考えておられるのでしょうか分かりませんが、私は我々連合国の存在を知られた限り全てを許し部隊に帰すことは出来ないのです。
其れは橘さんの部隊も同じなのですが、如何されましょうか、私は今直ぐ答えよとは申しませんが。」
源三郎は橘の部隊と浅川の部隊全員をどの様にするのか、工藤も全く予想不可能で有る。
「司令長官殿、提案が有るのですが聞いて頂けましょうか。」
「ほぉ~提案ですか、勿論宜しいですよ、でその提案とは。」
「自分の部隊は中隊長と小隊長を除きますと全員が農民で御座いますが、浅川の部隊は全員が元侍でして、其れで私の提案と申しますのは旧藩ごとに分けて頂き、各藩の者から話しを聞いて頂くと言うのは如何で御座いましょうか。」
「成る程ねぇ~、ですが中隊長や小隊長達は如何されるのですか。」
「中隊長や小隊長達も元侍ですから、中隊長達の話しと合っておれば処罰は後程にと申しましょうか、直ぐに処罰する必要も有りませんが、私の知る限りでは中隊長の全員が師団長の命令が下る前に浅川が命令を出し、その命令を遂行するのが中隊長達の役目だと聞いております。」
「左様ですか、工藤さん、中隊長と小隊長の全員を菊池の地下牢に入れて下さい。」
「承知致しました。
今聞いての通りで、中隊長、この者達を地下牢に入れて下さい。」
「大江藩の方々は、あっ、そうでした、私は大変な事を忘れておりましたので、高野様。」
「総司令、先程全てに伝令を出して起きましたので。」
「左様ですか、やはり私はまだまだ修行が足りませんですねぇ~。」
と、源三郎は一人大笑いするが
「総司令、其れも今は仕方御座いません。」
「いゃ~さすがに高野様ですねぇ~、私は大助かりで御座いますよ、では大江藩の方々は高野様にお願いしまして、今日は菊池でゆるりとされ明日から皆様方を各国へご案内致しますので。」
菊池の家臣が大江の元侍達を城内へと案内して行く。
「源三郎様。」
と、大勢の領民がやって来た。
「皆さん、一体どうされたのですか。」
「源三郎様が大勢の官軍兵と話してるって聞きましたんで。」
「そうでしたか、そうだ皆さんにお願いが有るんですが。」
「其れだったら、もう全部持って来ましたよ、お~い頼むぞ。」
城下の女性達がおむすびを作り運んで来た。
「橘さん、城下の人達が兵隊さんの為にっておむすびを作ってくれましたので、さぁ~皆さん何も心配せずにおむすびを食べて下さい。」
城下の人達は橘の部隊全員におむすびを配っている。
「少佐殿、自分は連合国軍の兵隊さんからお話しを聞きましたが、これが源三郎様なのですね。」
「まぁ~そうだなぁ~今後の事はどの様になるのかも分からないが、橘も総司令を信じて全てを話す事だ、実はなぁ~私は以前官軍に属していた頃よりも今の方が楽と言えば総司令に怒られるやも知れんが、連合国に要ると気持ちが楽になるんだ。」
「少佐殿、私も全てを知ったのでは有りませんが、あのお方の周りには何時もあの様な人だかりが出来るのでしょうか。」
「菊池はまだ静かな方だよ、これが野洲に入れば、其れはもう飛んでも無い騒ぎになるから、まぁ~其の内に貴様も驚かされるぞ。」
工藤も最初は驚いたが、今では其れが当たり前の様に感じて要る。
「失礼します、連隊長殿。」
一人の中隊長が何やら思案顔で来た。
「どうしたんだ。」
「実は連隊長殿と自分達はどの様な処罰を受けるのか知りたいのです。」
「そうだったなぁ~、私もすっかり忘れていたよ、少佐殿、私達はどの様な処罰を受けるのでしょうか。」
「そうか、まぁ~其れは自分で聞く事だなぁ~、総司令がどの様に判断されるのか全く知らないんだ。」
だが工藤は分かって要る、源三郎の事だ心配する事は無いと。
「えっ、自分で聞くのですか、そんなぁ~。」
「そうだよ、私からは何も言えないんだから。」
連合国では源三郎と呼ばれる総司令官が全ての実権を握って要ると橘は思った。
「まぁ~余り深刻に考えるなよ、何も心配する事も無いから。」
と、工藤は簡単に言うが。
「工藤さん、我々も野洲へ。」
「司令長官殿、自分達の処分ですが。」
「えっ、あっそうか、私は又も忘れておりましたよ、では橘さん達も我々の仲間に渡しましょうかねぇ~。」
「えっ、ではやはり。」
と、橘と数人の中隊長は肩をガクッと落としたが工藤は知って要る。
「橘さん、冗談、冗談ですよ、では今からお話ししますからね、橘さんの部隊は菊池の駐屯地に残って頂きまして、中隊長と小隊長の全員は私と一緒に野洲へ向かいます。」
「総司令、浅川の部隊ですが。」
「其れは吉田さんにお願いし、野洲まで一緒に来て頂きたいのです。
其れと言うのも今の菊池では余りにも人数が少ないので元侍を監視し外部も監視するのは到底無理でして、元侍は野洲でお話しを伺います。」
「では私達は浅川の部隊を。」
「送り届ける為に協力して頂きたいのです。」
源三郎の話しを聞き、橘も中隊長と小隊長の全員も安堵の表情を浮かべた。
「橘さん、兵隊さんは菊池で何を聴かれても宜しいですからね、其れを兵隊さんに伝えて下さい。」
「えっ、ですが其れでは余りにも軍の規律が。」
「橘さんも中隊長に小隊長さん、我々の連合国では隠す事など何も無いのです。
城下の人達もですが軍の兵隊さんも農民さんにも聞いて頂いても宜しいですよ。」
「橘、本当だ、中隊長と小隊長の全員にも言いますが、我が連合国には軍隊だ、侍だと言う垣根は無い。
全てを知って貰う為にも兵士には数日好きなだけ動く様にと其れで宜しいでしょうか。」
「ええ、勿論ですよ、全てを知って頂く事の方が大切だと思っておりますのでね。」
橘も中隊長達も今までとは余りにも落差が有り過ぎ困惑し直ぐには理解出来ないの有る。
「司令長官殿、承知致しました。
小隊長は兵士達に話す様に中隊長達は浅川の兵士を。」
中隊長達と小隊長達は一斉に動き出し。
「中隊長、大変な任務ですが、後、そうですねぇ~、五日、いや十日も経たぬうちに橘さんの連隊から中隊規模で偵察に来ると思いますが、全て見過ごして欲しいのです。」
「総司令、全て承知致しております。」
「中隊の皆さんも大変だと思いますが何卒宜しくお願い致します。」
と、源三郎は何時もの様に頭を下げ。
「総司令、我々にお任せ下さい。」
橘は唖然として要るが、連合国軍の兵士達には何時もの光景だ。
「其れと兵隊さん達の事も宜しくお願いしますね、では工藤さん、参りましょうか、高野様には大変申し訳御座いませんが何卒宜しくお願い致します。」
源三郎は高野にも頭を下げ、領民達に手を振り野洲へと戻って行く。
野洲へと向かう浅川の部隊の元侍達は一体何を考えて要るのか、其れは本人だけが知る、だが源三郎は一体どの様な処分を科すのか工藤も全く分からないが今となっては後戻りも出来ないので有る。