第 48 話。奴だけは絶対に許さぬ。
「私は山賀の。」
「其のままお進みください、源三郎様はおられますので。」
「其れは有り難い、では失礼します。」
日光隊の小隊長、中村は野洲に着いた。
「総司令、大変で御座います。」
「えっ、正かとは思いますが小隊長が来られると言う事は山賀で大変な事件でも発生したのですか。」
日光隊の小隊長が飛び込んで来たので執務室の中に居た源三郎もだが、工藤を含め、家臣達にも一瞬の緊張感が走った。
「総司令、今朝早く官軍兵が大岩辺りに来たので御座います。」
「やはりでしたか、では大岩から我々連合国に通じる道が発見されたのですか。」
「その様な事は有りませんが、彼らはどうやら基地と申しましょうか、駐屯地と申しましょうか、其処の師団長に大変な嫌われ様でして、私達を師団長が差し向けた暗殺部隊だと思ったらしいのです。」
「まぁ~ねぇ~、彼らから見れば確かに日光隊や月光隊は普通の小隊の様には見えないのでしょう、日光隊も月光隊も山に入る時は偽装されておられますから間違うのも無理は有りませんよねぇ~。」
源三郎は日光隊や月光隊の偽装は知って要るが、彼らを初めて見た者ならば普通の兵隊だとまず思わない。
「総司令、自分達は何時もの偽装をしておりこれが普通だと思っておりますが。
「やはりねぇ~、小隊長が申されるのも当然だと思いますが、官軍兵から見れば自分達を暗殺に来た思うのも当然では無いでしょうからねぇ~、まぁ~其れは何れ彼らも納得する時が来ると思いますが、小隊長、私は今からでも出立し、今夜は松川に泊まり、明日の早朝松川を出立したいのですが如何でしょうか。」
「実は自分も総司令にお越し頂ければと考えておりまして、若様も安心されると思います。」
「左様ですか、では鈴木様と上田様、そして、今回は大変重要だと思いますので工藤さんにも同行をお願いしたいのですが、如何でしょうか。」
「私も是非ともお供させて頂きとう御座います。」
工藤が行くと、行かないとでは話も変わって来る。
源三郎も以前、工藤から聞いており師団ともなれば一万人近い兵士がおり、其の中には工藤を知って要る指揮官も要るだろうし、若しかすれば最新の情報を得る事も出来ると考えたので有る。
「若殿様にも同様の説明をさせて頂きましたところ、若殿様は直ぐ上田の阿波野様、菊池の高野様にも伝令を出されました。」
「では間も無く高野様も到着されると思いますねぇ~、高野様が来られましたら出立出来る様に。」
其の時。
「総司令。」
と、高野が飛び込んで来た。
「高野様にもお忙しいところ申し訳御座いませぬ。」
「その様な事は御座いませぬが、私もこれは一大事だと直ぐ馬を走らせて参りました。」
「高野様も少しお休み頂きまして、私とご一緒に山賀へ行って頂けますでしょうか。」
「勿論で御座います。
今回の一件は今までとは全く違い、若しや官軍が我々の存在を知ったのならば我々連合国には其れこそ大変な脅威となるのは間違い御座いませぬ。」
高野も伝令の話を聞いただけで判断したのだろう、やはり誰もが同じ様に考えて要る。
「源三郎様、馬の交換と準備も整いました。」
「左様ですか、では皆様方出立しましょうか。」
源三郎は高野に工藤、鈴木達と共に山賀へと出発した。
其の頃、菊池の隧道近くの草地でも新たな動きが有った。
「二個中隊は一体何処まで行ったんだ。」
「連隊長殿、私も詳しくは知らないのですが、師団長殿からは向こう側に見えます高い山の麓まで行くようにと指示を出されておられましたが。」
其の時斥候が戻って来た。
「連隊長殿に報告します、山の麓に中隊の死体と思われます骨だけが沢山散乱しております。」
「何だと骨だけが散乱して要るだと、直ぐに行く。」
連隊長と一個大隊の兵は草地を抜け山の麓に近付いて来た。
「あれは官軍の大隊だ、大至急中隊長に知らせるんだ、誰も撃つなよ静かにするんだ。」
兵士は馬に飛び乗り菊池側へと走らせた。
「これは間違い無く我が軍の兵達だが、其れにしても一体何が有ったんだ。」
「付近を探しましたが連発銃と弾倉帯だけが無くなっております。」
「少し向こうの方ですが、野盗と思われます者達の骨も散乱しております。」
と、次々と報告を受ける連隊長だが。
「う~んこれは、だが残党の仕業ではないなぁ~、もっと大きな、いや我々の知らない組織か、其れとも別の軍が存在するのかも知れないぞ。」
「連隊長殿、付近一帯には狼の死骸も多数発見しました。」
「えっ、狼だと、ではあの山には飛んでも無い数の狼が生息していると考えれば骨だけが散乱して要る理由は納得出来る、だが問題は連発銃と弾倉帯が消えた事だ、隊長、付近一帯を捜索させてくれ、但しだ、山には入るなよ狼の大群が生息して要ると思われるので付近の林を中心にだ。」
「承知致しました、直ぐに調べさせます。」
隊長は小隊を捜索に向かわせた。
「やはり骨だけが散乱して要るのを知ったか、入り口を閉鎖せよ。」
隧道の入り口扉がゆっくりと閉じられて行く。
「何が有ったんですか。」
「其れが草地の方から官軍の大隊が近付いて来たんです。」
「ではまだ此処までは来ていないのですね。」
「今は上で監視しておりまして、上からの指示で閉鎖しています。」
「そうか、では皆に知らせて下さい、音を立てず静かにと、其れと高野司令にも報告を。」
中隊長は高野が山賀に向かった事を知らない。
「連隊長殿、林の中にはたき火の跡が多く有ります。」
「よし、大隊は林の方に向け出発。」
官軍の大隊は林の方へと移動を始めた。
「小隊長、どうやら無事の様ですねぇ~。」
「いやまだ分かりませんよ、暫くは監視を続けますから。」
その後、半時以上経っても官軍は戻って来ず。
「よし大丈夫だ入り口を開けて下さい。」
「小隊長、官軍の大隊が来たと聞きましたが。」
「中隊長殿、官軍は山の麓を進み半時以上経ちますが戻って来る様子も有りません。」
「ですが当分の間は監視を続けて下さいね。」
「はい、了解しました。」
そして、二日後の昼前に。
「若。」
「義兄上、大変お忙しいところ誠に申し訳御座いません。」
若様は自分で解決出来ない問題だと分かっていても、やはり少し情けないと言う表情だ。
「まぁ~まぁ~、若、今回は今までとは違いますよ、其れよりも官軍兵を呼んで頂けますか。」
其の時、高木が官軍兵を連れ入って来た。
「貴方方ですか。」
官軍兵は何を考えて要るのか、其れとも既に覚悟して要るか。
「全員に座って頂きまして、其れからお話しを伺いますので。」
官軍兵が全員座ると。
「貴方方にお伺いしたいのですが、官軍は我々連合国の存在を知られておられるのですか。」
官軍兵は何も言わず、いや何も言えない程にも怯えて要る様にも見える。
「若はこの人達に打ち首だとでも申されたのですか。」
「飛んでも御座いませんよ、私は何も申しておりません。
皆さん、私の義兄上ですので何を話されても心配されることは有りませんよ。」
若様は両手を振り否定して要る。
「貴方方は打ち首にでもなると思われて要るのですか。」
「自分はその様な事は考えてはおりません。」
やっと官軍兵が口を開いた。
「左様ですか、ではお話しして頂きたいのですが、貴方方は何処から来られたのですか。」
「自分達は。」
と、一人の兵士が話し始めた。
「では日本の新政府が造った大きな工場近くに駐屯地が有るのですか。」
若しやその工場とは飯田達が行った工場ではと源三郎は思い。
「大きな工場と申されましたが何を作って要るのですか。」
「日本陸軍と海軍兵の為の軍服を作る為に必要な巻き糸と軍服の生地を作って要ると聞いておりますが、そうでした以前ですが、陸軍省と海軍省の書状を持って来られました新政府の役人と思われる人物と特別に作られたと思われます馬車が六十台程が来られ大量の巻き糸を積み帰られまた。」
やはりだ、飯田達が行った工場に間違いは無い。
「では貴方方がその工場を警備されておられるのですね。」
「私は其の様に聞いておりますが、其れよりも。」
「おい、其れは言うな。」
別の兵士が止めた、やはり何か有りそうだ。
「一体どうされたのですか、工場には別の目的でも有るのですか。」
工場では陸軍省と海軍省の兵士の軍服に必要な生地と巻き糸を作って要ると言うのは表向きで中では武器でも作って要るのではと源三郎は思い。
「工場では軍服の生地とは別に軍隊に必要な武器でも作って要るのですか。」
官軍兵は何も言わず下を向いたままで。
「何も申されないと言うので有れば仕方御座いませんねぇ~、工藤さん、二万の兵と新型の爆裂弾とそうですねぇ~、十万個程の一合弾で駐屯地を完全に破壊して頂けますか。」
「えっ、二万の兵力ですか。」
「その通りですよ、貴方方には分からないと思いますがね、我々の兵力は十万以上でして。」
「あの~今言われました新型の爆裂弾と一合弾とは。」
源三郎の大芝居に見事に官軍兵は騙された。
「我々には大砲は有りませんが爆裂弾と一合弾は官軍の大砲以上より強力でしてねぇ~、あっそうか二万の兵力は要りませんねぇ~、半分のいや五千でも十分ですから大至急手配し出立して下さい。」
「では私が参りまして完全に破壊して参ります。」
工藤も源三郎の芝居に乗った。
「大佐殿、特別仕立ての馬車は百台も有れば十分ですねぇ~。」
と、今度は日光隊の中村まで乗って来た。
「少しお待ち下さい。」
「何を待てと申されるのですか、貴方方が話されないので有れば我々は連合国の領民を守る為に脅威となる官軍は完全に破壊しなければなりません。
其れと話の内容によっては貴方方は狼の餌食になって頂かなければなりませんがねぇ~。」
源三郎の話に官軍兵は怯え、やはり山の向こう側で言われているのだろうか、高い山には狼の大群が生息して要ると、だが其れよりも官軍兵は今まで聞いた事の無い爆裂弾や一合弾と言う新しい武器に自分達の仲間全員が殺されるのだ。
「誠に申し訳御座いません。
自分は何も隠すつもりは有りません。」
と、官軍兵はその後駐屯地での内情を話した。
「ほぉ~成る程ねぇ~、では師団長と言われる人物は以前から其の様な事をされておられたのでしょうけど、ですが何故貴方は其れまで詳しく知っておられるのですか。」
「自分は以前連隊長殿付きの当番兵で連隊長殿は自分には色々なお話しをされ、其れで知って要るのです。」
「左様ですか、其れで其の師団長のお名前ですが。」
「川田尚介と申されます。」
「えっ、今何と言った。」
突然、工藤が叫んだ。
「工藤さんは川田尚介をご存知なのですか。」
「知って要るどころでは御座いません。
川田と言う奴は私の知る限り官軍の中では一番の悪人で御座います。」
工藤の顔は興奮の余り鬼の様な形相をし、官軍兵は更に怯えを増し、今にも殺されるのでは無いかと思って要る。
「まぁ~まぁ~工藤さん、少し落ち着いて下さいよ、御覧下さい、工藤さんの鬼の形相に彼らは殺されるのでは無いかと怯えておりますよ。」
「あっ。」
と、工藤も源三郎の言葉に目が覚めたのだろう。
「総司令、誠に申し訳御座いません。」
「工藤さんは川田と言う人物には相当な怨みを持っておられるようですが。」
「奴は人間の皮を被った狼で御座います。」
「其れでは余りにも狼に失礼ですよ、此処の狼は我ら連合国には大切な見方なのですからねぇ~。」
「えっ、狼が見方って、そんなぁ~。」
又も官軍兵は驚きの表情で、狼が見方だと言う様な話は聞いた事が無いと言う顔をして要る。
「川田と言う奴は歩兵を人間とは思っておらず、歩兵ならば何時でも集める事が出来ると申し、戦死した人数を何時、何処で集めるのか分かりませんが必ず数日の内には補充されて要るのです。」
「今のお話しは本当で、各地の農村や漁村に向かい官軍に入れば今後村には食料を届ける言いまして、農村や漁村から多くの人達を集め自分の大隊に補充しております。」
源三郎は何処かで聞いた様だと思った。
「其れだけでは御座ません。
幾ら幕府だと申しましても全ての藩主が幕府側に就くとは限っておらず、師団長は事前に調べておられ、幕府の政に反対している藩には官軍に入り幕府を倒せばその藩にも大量の食料を届けると言ったと聞いておりますが。」
「ですが、その話を断られる藩主もおられるのでは有りませんか。」
「その為に師団長は本部には内緒の部隊を作られました。」
源三郎は正かとは思ったが。
「正かとは思いますが、特攻隊と言うのでは有りませんか。」
「えっ。」
と、官軍兵は驚き何故知って要るんだと言う顔をして要る
「何故に特攻隊をご存知なので御座いますか。」
「其れはねぇ~、我々が特攻隊を全滅させたからですよ。」
「あ~其れでか、少し前から全然補充されて無かったからなぁ~。」
やはりだ、山賀の草地で全滅させた特攻隊は川田が作った部隊で有る。
「其れよりも貴方が当番兵をされておられた連隊長と言う人物ですが。」
「連隊長殿は師団長とは全然違い、師団の兵士、特に自分達の様な歩兵には大変お優しく、一部の大隊以外の兵士は連隊長殿の命令ならば若し戦死したとしても連隊長殿には怨みを持つ事は無いと言っております。」
「ほぉ~成る程ねぇ~、では連隊長は貴方方にとっては大切な人物の様にも聞こえるのですが、では連隊長のお名前は。」
「橘連隊長殿で有ります。」
「えっ、橘だと、其れは確かのなのか。」
又も工藤の表情が変わったが今度は前とは違い。
「工藤さんは橘と言う人物を知っておられるのですか。」
「其れはもう、橘か、若しかして橘幸太郎と言うのでは無いのか。」
「えっ。」
と、又も官軍兵は驚き。
「正しく其の通りですが、ですが何故連隊長殿の名を知っておられるのですか。」
「総司令、私の勘違いで無ければ、橘は私が以前おりました頃の部下で御座います。」
「えっ、では若しや貴方様は連隊長殿が何時もお話しをされておられたお方では御座いませんか。」
「そうか、橘も随分と出世したものだなぁ~。」
工藤は独り言を言い顔付きが変わり穏やかになって要る。
「貴方のお話しでは橘さんは随分と兵隊さん達には人気がありそうですが、橘さんが連隊長で其の上官が川田と言う師団長ならば、師団長の命令に逆らう事は出来ないので有りませんか。」
「其の通りでして、師団には師団長の腰巾着とでも申します大隊長と中隊長、小隊長がおりまして連隊長殿は何時も大変な苦労をされておられます。」
「ですが今の我々には何も出来ないのです、ですが。」
と、源三郎は言葉を止めた。
「総司令に何かお考えでも。」
「いいえ、今は何も考えておりませんよ。」
「あの~総司令官様、オラは何とかして連隊長様を。」
別の官軍兵は何かを訴えようとしていると源三郎は直ぐに分かったが。
「貴方のお気持ちは十分理解出来ますが、私は連合国の領民を守ると言う大事な責任が有るのです。」
「やっぱり無理か、でもオラ達だけでは絶対に出来ないしなぁ~。」
其れでも源三郎は動かない。
「総司令、私もですが、今まで何百、いや何千と言う農村や漁村の人達が川田の為に無駄死にをしております。
本来ならば私も其の中に入っておりましたが、私も吉田も総司令のお陰で今まで命を長らえております。
ですが私はこの者達もですが他の兵達の為に総司令には申し訳御座いませんが一人でも乗り込み川田の命を奪います。」
「自分達も一緒に行きます。」
「そうだよ、オラはこの戦で死んでも、いや戦死覚悟で行きますんで。」
「オラも一緒に連れってくれ、オラはあの野郎だけは絶対に許さねぇ~からなぁ~。」
彼ら官軍兵は工藤と一緒に戦死するつもりで有る。
「まぁ~まぁ~少し待って下さいね、何も貴方方が戦死される事は有りませんよ。」
その後、源三郎は官軍兵から内情の全てを聴き。
「では私の考えた方法をお話ししますので。」
源三郎も考えて要るが、其れは駐屯地が連合国から数日以内の所に有ると言う理由で若しも駐屯地の官軍兵に発見でもされる様な事態にでもなれば、其れこそ官軍の大部隊に菊池の隧道が攻撃される、勿論、隧道内には大量の火薬が設置さ隧道を破壊すれば官軍は入って来れない。
だが其れも一時だけで官軍の事だ総力を上げ隧道を復旧させ、其れからは大軍を投入する事に間違いは無く、其れだけは何としても阻止しなければならない。
「では明日の朝、高野様と馬車で向かって下さい。」
「義兄上、私は松川に戻ります。」
「若殿、何卒宜しくお願い致します。」
「義兄上、我々は大岩へ兵士を増員し送ります。」
そして、明くる日の朝、数台の馬車が山賀を出発し、源三郎も野洲へと戻って行く。
「当番兵、連隊長と大隊長を呼べ。」
一方、駐屯地でも動きが有った。
「師団長殿、お呼びでしょうか。」
連隊長と大隊長の浅川が入って来た。
「連隊長、その後も連絡は無いのか。」
「今まで何の連絡も有りません。」
「連隊長は大隊を連れ、二個中隊と二個小隊の捜索に向かえ。」
「ですが、まだ何も分からないのですが。」
「いいや、奴は我が師団を脱走したに違いない。」
「ですが脱走する理由が有りませんが。」
師団長は二個中隊と二個小隊が脱走したと思って要るが、二個中隊は菊池の隧道の手前で狼の大群に襲われた事も知らずに、二個小隊は山賀の北側に有る大岩付近で日光隊と月光隊に遭遇し、日光隊と月光隊を追撃隊だと勘違いしたが、其の後、兵士は源三郎に全てを話した。
だが小隊長には二度と連隊には戻るなと、其の意味とは。
「連隊長は奴らを信じて要るのか、其れとも奴らが逃げる為の画策でもしたのか。」
「師団長殿は私を疑っておられるのですか、二個中隊は私の部下で、師団長殿のご命令で野盗狩りをして要るのですよ。」
「そうだったなぁ~、では脱走する事は考えられ無いなぁ~、だがそれにしても連絡が無いと言うのは余りにも不思議だとは思わないのか。」
「確かにその様に申されますと。」
「お前は何を考えて要るんだ、若しもだ、若しも幕府の残党が襲い連発銃でも奪われる事にでもなって見ろ、何時我が駐屯地が襲われるかも知れないんだぞ、そんな事も分からないのか。」
「師団長殿、後四日、いや三日待って下さい、自分達にも出撃するだけの準備が必要ですので。」
「三日待つ其の間に準備を整え、更に連絡が無ければ出撃し発見次第脱走犯として銃殺刑にするんだ。」
師団長は何故其処まで拘る必要が有る、やはり裏に何かが有る其れで無ければ部下を全く信用していない、だが連隊長が言った様に三日待てと、これが師団長と連隊長の運命が変わるとはこの時、師団長も連隊長も考えもしなかった。
「高野司令、本当に大丈夫でしょうか。」
「私も自信は有りませんが総司令が考え出されたので何とか話をしなければなりませんので、中隊長お願いします。」
源三郎は何を考えて要るのか余りにも無謀では無いのかと思う中隊長だが。
「中隊長、オレに任せて欲しいんですよ、オレはこんなにも楽しい作戦今まで聞いた事が無いんです。」
「本当に大丈夫ですか。」
「オレも向こうに着くまでに考えますんで。」
「よし、だが決して無理は。」
「分かってますよ、オレもあいつだけは絶対に許せないんで。」
そして、明くる日の早朝。
「じゃ~行って来ますんで。」
と、言ったが、彼は連合国軍の兵士で一体何をしようと言うんだ。
そして、予定通り三日後の昼頃。
「あれは。」
「よし、自分が連隊長殿に知らせる。」
「では自分は師団長殿に報告する。」
もう駐屯地では大変な騒ぎで、やはり脱走したのでは無かった。
「連隊長殿、二個小隊が戻って来ました。」
「そうか、やはり脱走したのでは無かったのか、良かったなぁ~、ふ~っ。」
と、連隊長は安堵の息を吐いた。
「師団長殿、二個小隊が戻って来ました。」
「何、二個小隊が戻って来ただと、よし分かった直ぐに呼べ。」
二個小隊には小隊長はいない。
「連隊長殿に報告します。」
「あっ、師団長殿。」
「わしが聞く、報告せよ。」
「はい、では報告します。」
官軍兵は源三郎から言われた通りを報告すると。
「何だと、では山の麓の林の中に官軍兵が潜んで要るのか。」
「はい、其れで小隊長と分隊が様子を見に行かれ四半時程して戻られ、自分達に構わず逃げろって、小隊長殿は撃たれてました。」
「其れでお前達は逃げたと言うのか。」
「自分達も応戦すると言ったのですが、相手は大軍だ、一刻も早く師団長殿に報告するんだと言われましたが、でも直ぐには動けなかったんで。」
「よし分かった、連隊長、多分その官軍は奴らだ、直ぐ出撃せよ。」
「ですが、何処に潜んで要るのか分かりませんので、彼から詳しく聴きまして明日の朝出撃します。」
「連隊長殿、自分は覚えておりますので。」
「では部屋で作戦を練りますので部屋に。」
連隊長は話す兵の顔は見た事も無く、これには何か訳が有ると思ったのだろう。
「中隊長と小隊長も部屋に来て下さい。」
連隊長の指示で大隊の中隊長と小隊長の全員が連隊長の部屋へと向かった。
「浅川の大隊は橘が出撃した後から行くんだ、わしも行く。」
「えっ、師団長殿も行かれるのですか。」
「わしは別の用事も有る、浅川はわしと行動するんだ。」
「はい、全て承知致しました。」
師団長は何かを企てており、だが今は何も分からない。
「君は我が軍の兵士では無いと思いますが。」
やはり連隊長だけの事は有る、同じ軍服を着て要るが官軍兵では無いと。
「やはり見破られましたか、オレは連合国軍の兵士です。」
「えっ、何ですか、其の連合国軍と言うのは。」
橘もだが部屋に居る中隊長達は其れはもう大変な驚き様で有る。
「じゃ~今からお話ししますんで。」
連合国軍の兵士は全てを話すと。
「では工藤少佐殿、いや大佐殿は生きておられるのですか。」
「其れで。」
と、又も話を続け。
「総司令は何とかして師団長を連れ出して欲しいと考えられたんです。」
「そうか、やはり大佐殿は生きておられたのか。」
橘も中隊長達も何か安心した様子で有る。
「分かりました、私が直接師団長に話しますので、中隊長達も分かって頂けましたね、私は其の総司令と言われるお方の作戦を成功させたいと思いますが、皆は如何ですか。」
「連隊長殿、自分は大佐殿を知っておりますので早くお会いしたいのです。」
「連隊長殿、自分もです。」
と、中隊長と小隊長の全員が工藤に会いたいと言う。
「では明日の朝出発しますと全員に伝えて下さい。
私は今から師団長殿に話しますので、其れと小隊長ですが。」
「其れは自分がお話しします。」
と、官軍兵が話すと。
「では連合国軍の兵士に追撃されて要ると間違ったのですか。」
「はい、其れで連合国軍の小隊長殿が此処には狼の大群が生息して要るので生きたければ一刻も早くこの場から逃げるんだと言われまして自分達は必死で逃げて助かった、これが本当の話です。」
「分かりましたが今の話は誰にも話さない様にして、明日に備えて下さい。」
連隊長の橘は其れだけを言うと部屋を出て行き、師団長の部屋へと向かった。
「師団長殿。」
「橘か入れ。」
「師団長殿、お話しが御座いまして、今まで彼らの話しを聞いておりましたが、どうやら林の中に居るのは工藤少佐の部隊だと思われます。」
「やはり工藤か、だが何故工藤だと分かったんだ。」
「師団長殿、二個中隊の兵士は我が軍の中でも精鋭部隊ですよ、其の様な中隊を幕府の残党が襲うとは考えられ無いのです。
其れに二個中隊が持っております連発銃が無いと、更に付近には幕府の残党の死体が無いと聞きました。」
「では間違いは無い、連隊長は明日の朝出撃せよ、そして、工藤を生け捕りにするんだ、後はわしが。」
「師団長殿、ですが何も此処まで連れ戻す必要も無いと考えます。
私は師団長殿が直接向かわれその場でご決断して頂ければ良いのではと考えます。」
「師団長殿、自分も連隊長殿と同じ考えでその場で銃殺刑を下して頂ければ良いと思います。」
「浅川も同じか、ではわしも行く、橘は先行し、浅川は半時後に出撃せよ、わしは浅川の部隊と一緒に行く事にする。」
師団長は連隊長の話しに乗ったのか直接決断すると言う、そして、腰巾着の浅川も大隊を連れて行くと、源三郎の作戦は見事に的中し、明くる日の朝、橘は大隊を連れ駐屯地を出発し、その半時後師団長と共に浅川の大隊も駐屯地を出発し、一路工藤が潜んで要ると言う大きな林に、源三郎の作戦とは一体どの様方法なのだ、橘は菊池に着くまで兵士に聴きたいと、だが兵士は何も言わずニヤニヤとするだけ有る。