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闇の帝国    作者: 大和 武
122/288

 第 47 話。 遂に発見されたか。

「飯田様にお伺いしたいのですが、前に行かれた時ですが官軍の野営地は有ったのでしょうか。」


「私は見ておりませんが、上田殿、森田殿は見られましたでしょうか。」


「いいえ、私も見ておりませぬが。」


「私達は幕府軍に発見されるのを恐れ、山の中を進みましたので麓がどの様になって要るのかも知りませんでしたが。」


「左様でしたか、其れならば仕方有りませんねぇ~、工藤さん、二個中隊を準備に入らせて頂けますか。」


「承知致しました、其れで馬車の御者ですが中隊の兵士ならば務まりますが。」


「其れならば尚更大助かりであの方々は残って頂けるのは良い事だと思います。」


「源三郎様、馬車ですが五十台以上は持って行ける事が出来ますが。」


「上田様、其れだけでは足りませんので連合国に有る馬車の全てを出す事にしましょう。」


「では一体何台くらいになるのでしょうか。」


「私は全く想像出来ませんが全てを合わせれば百台以上になると思うのです。」


 源三郎は連合国に有る馬車を全て出すと言うが。


「総司令、其れでは兵士の数が足りませんが。」


「勿論承知しておりますので後一個中隊を護衛として付けては如何でしょうか。」


「ですが若しも官軍に気付かれた時にですが。」


「其れならば心配はご無用かと。」


「上田様は何か策でも有るのですか。」


「源三郎様、飯田殿は陸軍省と海軍省の上層部を見事な話術で騙されたのです。」


「上田殿の言い方は聞き捨てなりませぬぞ、私の話に向こうが騙されたのですから。」


「其れでは同じでは御座いませぬか。」


 飯田、上田、森田は大笑いし。


「では又飯田殿の話術にはめられるのですか。」


「源三郎様が申されるならば、私は詐欺師の様に聞こえますが。」


「いいえ、正か、ですが飯田殿は其の上前を行かれますよ。」


「う~ん、これは参りましたなぁ~。」


 又も大笑いに。


「ですが今回は以前とは比べものにはならない程危険だと言う事だけは忘れないで頂たいのです。」


 源三郎の言葉に一瞬で空気が引き締まった。


「では二日後に出立致しますので。」


 飯田達も今度の旅と言うかの任務は今まで以上に危険だと言う事を承知の上で行く事を決めた。


「う~んだけどあの部分だけが分からないなぁ~。」


 げんたは一人呟いて要る。


「技師長さん、鉄兜と胴巻きですがこれからオレ達だけで作るんですか。」


「そんな事は無いよ、だって信太朗さん達だけだったら、其れこそ何時になったら全部出来るかも分からないんだぜ。」


 げんたは信太朗達に見本だけを作って貰うつもりだ。


「だったら後何個作ればいいんですか。」


「え~っと、そうだなぁ~最低でも四つかなぁ~、まぁ~オレも手伝うからなっ、そんな先の事まで考えないでいいよ。」


「分かりました、じゃ~オレ達は作れるだけ作って見ますんで。」


「其れでいいんだ。」


「でも技師長さんは何を考えてられるんですか。」


「オレは今陸蒸気の事を考えてるんだ。」


「陸蒸気って蒸気で走る鉄の車の事ですか。」


「そうなんだ、オレも色々と考えてるんだけど、でも蒸気を作って溜める方法が見付からないんだ。」


「確かあれは大坂の港に泊まってた外国の蒸気船と思うんですがね煙突から何でと思うくらいに一日中真っ黒な煙を吐いてるんですよ。」


「泊まってるのに何で黒い煙を吐くんだ。」


「そんな事は知らないですよ、でも夜でも外国の蒸気船は灯りが点いて明るいんですよ。」


 夜でも灯りが点いて要るとは、げんたは考えもしなかった、やはり何か別の方法でも有るのだろと考えるが、今のげんたには何も分からないが、信太朗の言う夜でも灯りが点いて要ると、其れが大きな手掛かりになるとは今はまだ分かっていない。


 其の頃、正太達は北側の草地で粘土の搬出を行なって要る。


「お~い、上は掘るなよ、下だ地面を掘るんだからな。」


「其れは分かってるが一体どれだけ掘るんだ。」


「まぁ~三間で止めるんだ、で後は砂利と土を入れて固めるんだ。」


「だけど砂利が少ないんだぜ。」


「だから付近一帯に有る石を割って要れるんだ、其れ以上は深く掘るなよ。」


「よ~し分かった。」


 正太と仲間は半町掘り進むと天井から地面まで型枠を入れ連岩を並べていくが、其の連岩も少しづつ形を変え、上部に最後の連岩を入れると連岩の重みで型枠を外しても問題は無かった。


「正太、連岩の型枠が少ないんだ、もっと多く作ってくれって言って欲しいんだ。」


「分かったよ、オレが大工さんに頼んで来るよ。」


 正太と仲間は粘土が大量に要ると知り、今粘土の搬出を行ない一部は今の現場で使用して要る。


「吉永様は飯田様達をご存知なのですか。」


「勿論知っておりますよ、飯田、上田、森田の三名は先祖から幕府の密偵でして、ですが父親の代からと申しましょうか、彼らは全く調べる事も無く何時も同じ様な内容の報告を送っていたのです。」


「では密偵とは名ばかりで実際は何もされて無かったのですか。」


「正しく其の通りでして、本来ならば三名は打ち首なのですが、源三郎殿は髷を切り落としこれで処罰は終わったと申されたのです。」


「では何故他国に、其れも江戸の場所も知らないで向かわれたのですか。」


「飯田達は一度死んだのだから、今後は野洲の為に一生を捧げると申され、ではと言う事で幕府の動向を調べる為に出立されたのです。」


「では今の連合国の実情はご存知無かったのですか。」


「勿論ですよ、私もですが、源三郎殿もこれ程にも長く江戸に、いや東京におられたとは今でも信じる事が出来ないのです。」


「ですが良くもまぁ~あれだけの物を官軍の検問を受ける事も無く全員が無事で戻って来られた、私は其れの方が不思議でならないのです。」


「若、若しや飯田達を疑っておられるのでは御座いませぬか。」


「いいえ正か其の様な事は全く考えておりません。

 ですが方々のお話しを伺っておりますと言葉は悪いですか物凄く悪運が強いと感じたのです。」


「まぁ~確かに悪運が強いと申せますが、拙者は店の人達の全員が農民と町民で農民達は飯田達を命の恩人だと、更に陽立屋の店の人達は飯田達のお陰で誰も死なずに済んだと申されて要るのです。

 飯田達も店の事に関してはあの人達に任せていたと、私はそれ程までにお互いが大変な信頼関係を作り上げたのだと思って要るのです。」


 吉永は飯田、上田、森田がどれ程に苦労し東京で商いをしていたのか店の人達の話しを聞くだけで十分だと思って要る。


「あの~親方さんはどちらにおられますか。」


「あんたは誰なんですか。」


 吾助は突然浜にやって来た。


「私は吾助と申しまして、源三郎様から親方さんに相談する様にって言われたんですが。」


「じゃ~直ぐ親方を呼んで来ますから、此処で少し待っててね下さいね。」


 浜の漁師は洞窟に向かうが、初めて浜に来た吾助達には何の為に小舟を出すのかも全く分からず、其れでも浜で待って要ると親方と銀次を乗せた小舟が浜に戻って来た。


「吾助さん、どうしたんですか。」


「親方さんにお願いが有りまして其れで寄せて貰ったんです。」


「わしに頼み事って一体何をすればいいんですか。」


「親方さん、私達は東京で働いていた様な建物がいいってみんなが言うんで、其れで親方さんに相談しようって其れで寄せて貰ったんです。」


「そうでしたか、じゃ~東京の建物の絵は描けますか。」


「でも私は絵が下手なんですけど。」


「下手でも何でもいいんですよ、其れだったら皆さんでどんな建物がいいのかを言って貰えればわしが描きますが其れでも宜しいですか。」


「其れは勿論で、じゃ~私から話しをさせて頂きます。」


 と、吾助が建物の概要を説明し、其れからは店の人達が細部の話しをして行き、親方は店員の言う事を書き込んで行くが、其れが一時以上も掛かるが其れでも全てでは無かった。


「これで全部でしょうか。」


「親方さんに私達もお願いが有るんですが。」


「おまきさん、何か残ってたんですか。」


「大事な事を忘れてますよ、私達全員が食べる処と寝る所、そして、お風呂が。」


「あっ、そうか私は一番大事な所を忘れてましたよ、皆さん許して下さいね、私は仕事場の事ばかり考えてましたんで。」



「吾助さんが悪いんじゃ無いんですよ、私達みんなが必死だったんだから、親方さん、申し訳有りませんが宜しいでしょうか。」


「勿論ですよ、わしも何か忘れて無いかって考えてたんですが、じゃ~女の人のお話しを聴きますからお話しして下さい。」


 その後、おまきと言う女性が中心になり食事処、寝る場所、そして、お風呂場の話しを聞き、親方は図面に書き込んで行く。


 そして、次の朝、飯田、上田、森田の三名と三個中隊は百台近くの馬車に乗り巻き糸を受け取りに菊池の隧道を出て行く。


「工藤さんはおられますか。」


 突然、げんたが駐屯地にやって来た。


「おられますので、其のままどうぞ。」


「工藤さん。」


「どうされたんですか。」


「工藤さんに少し聴きたい事があって来たんです。」


「まぁ~お座り下さい、其れで私に何を聴きたいのでしょうか。」


「工藤さんは軍艦の専門家なんで聴きたいんですが、軍艦は一日中灯りを点けてるんですか。」


「ええ、勿論ですよ、その為に年中石炭を燃やしておりますよ。」


「じゃ~夜も灯りを点けてるんですか。」


「蒸気で発電機を回し電気を作り灯りを点けておりますが。」


 げんたは電気と言う言葉を初めて聞いた。


「その電気ってなんですか、オレ初めて聞いたんで全然分からないんだ。」


「では軍艦の仕組みの中でもこれは非常に大事なので簡単に説明させて頂きます。」


 工藤はその後軍艦に電気が何故必要なのかを詳しく説明した。


「じゃ~発電機が有れば電気を起こして電灯が点くんですか。」


「そうですよ、電灯の灯りは松明や蝋燭では到底及びませんよ。」


「そんなにも明るいんですか。」


「軍艦の中では何時でも電灯を点けており兵士は安全に軍艦の中を移動出来るのです。」


「じゃ~水車じゃ無理なんですか。」


「発電機を回すには水車の力では余りにも弱過ぎるんですよ、その為に蒸気の力を利用し発電機を回して要るんですよ。」


「あの時にも発電機は有ったと思うんだけど。」


「ええ、勿論数台は有りましたよ、ですが蒸気で動く陸蒸気の様な力の強い機械が必要なんです。」


「そうかやっぱり陸蒸気か、う~んこれは大変だなぁ~。」


 げんたは又も腕組みし考え始め一体どの様な陸蒸気を考えて要るのか工藤も知りたいが。


「有難う、じゃ~なっ。」


 と、げんたは其れだけを言うと駐屯地を出て行き、その足で執務室へと入り。


「あんちゃん。」


「一体どうしたんですか、そんなにも深刻な顔をして。」


「あんちゃんに相談が有るんだけど。」


「えっ、げんたの相談とは又恐ろしい事を考えて要るのでは無いでしょうねぇ~、正かとは思いますが別の方法で陸蒸気を作るとかは有りませんよねぇ~。」


 と言いながらげんたの顔を見るが全く反応が無い。


「其れが全然違うんだ、オレの考えてるのは信太朗さん達の事なんだ。」


「正かとは思いますが信太朗さん達が何かをやらかしたのですか。」


 源三郎も正かとは思って要るがどうやら違うようだ。


「其れも違うんだ、オレが作ったと言う寄りも信太朗さん達に作って貰ったと言う方が本当なんだ。」


「えっ、では鉄兜と胴巻きを信太朗さん達が作られたと、では相談と言うのは。」


「なぁ~あんちゃん、連合国の兵隊さんって一体何人くらい居るんだ。」


「そうですねぇ~、五千人、いや全部合わせますと約八千人以上はおられると思うんですが、其れがどうしたんですか。」


「あんちゃんは八千人分の鉄兜と胴巻きを作ろうとしたら一体何日、いや何年掛かると思うんだ。」


「私は全く考えておりませんが、げんたは八千人全員の鉄兜と胴巻きを作るつもりなのですか。」


「そんなの当たり前の話しだよ、オレが言いたいのは八千人分の鉄兜と胴巻きを今居る鍛冶屋さん達と信太朗さん達だけ作って貰うのは無理だって言いたいんだ。」


「其れは当たり前だと思いますよ、ですが鍛冶屋さん達も手が足りないのですよ。」


「なぁ~あんちゃん、オレが言いたいのは鍛冶屋さんの仕事も信太朗さん達の仕事も城下の人達にも手伝って貰え無いかって話しなんだ。」


「鍛冶屋と信太朗さん達の仕事を城下の人達にもお願いするのですか。」


「そうなんだ、兵隊さんは城下の人達の為に命懸けの任務に就いてるんだ、だって先日だって菊池の外で四人の兵隊さんが戦死したんだぜ、兵隊さんが命を懸けてるんだったら城下の人達にも兵隊さんの命を守る為の鉄兜と胴巻きを作りをお願いしても罰は当たらないと思うんだけどなぁ~。」


「げんたの言う事は良く分かりましたよ、私から城下の人達に話して見ましょう。」


「でも今の話は野洲だけじゃないんだ、菊池から山賀まで全部の人達になんだ。」


 げんたは鉄兜と胴巻きを作るのは菊池から山賀に住む全員が対象だと言うが、果たしてどれだけの人達が話しを聞いてくれるのかも分からず、だが源三郎が直接話すと成れば大勢の人達が集まるだろうとげんたは思って要る。


「そうでしたねぇ~、そろそろ山賀で鍛冶屋さん達の家も出来上がる頃でしてねぇ~。」


「そうなんだ、だからその人達の為にも追加の家を建てて欲しいんだ。」


「分かりましたよ、私から若様に書状を送って置きます、其れと今の話ですが明日からでもして見ますので、私に任せて下さい。」


「じゃ~頼んだぜ、オレは信太朗さん達に話して来るから。」


 げんたの表情が変わり浜へと戻って行く。


 そして、数日後から源三郎は野洲の人達に、次は菊池へ、上田へと松川の城下でも話しが終わる頃、親方と銀次達が松川で機械と店員達の宿舎を建てる為に来て要るのを知った。


「親方、始まり出したんですね。」


「源三郎様、先日吾助さん達が来られまして工場の概要を聴きまして、其れと店員さん達の家も要ると分かりまして、みんなの話し合いで決まり図面を書き上げ、今日銀次さん達と来たんです。」


「そうでしたか、実は私もげんたから話しが有りましてね、げんたの考案した鉄兜と胴巻きを作る作業場を山賀に建てて頂く様に若様にお願いする為に明日にでも山賀に行くつもりなのですが。」


「じゃ~鍛冶屋さん達の家が完成したんですか。」


「多分今頃は完成して要ると思うんですが、その他にもは作業場と家が必要になりましてね、ついでにその話もしなければなりませんのでねぇ~。」


「だったら半分の大工を山賀に向けましょうか。」


「その様にして頂ければ大助かりです。」


「源三郎様、オレ達も半数行ってもいいですよ。」


「其れならば助かりますよ、正直申しましてどちらも急ぐ事には間違い有りませんが、お二人が来て頂ければ大助かりです。」


  源三郎と親方と半数の大工、更に銀次達も半数が山賀へと向かった。


「信太朗さんに話しが有るんだけど。」


「技師長さんの話しってなんでしょうか。」


「今作って貰ってる鉄兜と胴巻きなんだけど、あんちゃんに話して菊池から山賀の城下の人達にも手伝ってくれるように頼んだんだ、であんちゃんは直ぐに話をしてくれて、多分今頃は山賀に向かってると思うんだ、其れで信太朗さん達にも山賀行って欲しいんだ。」


「オレ達は技師長さんの言われる通りにしますんで、何時でもいいですよ。」


 信太朗達への話は簡単に終わり、数日後信太朗達は山賀へ向かった。


 飯田達が菊池を出て数日後目的地に着くと。


「今から駐屯地の上官へ話しに行って来ますので。」


 飯田、上田、森田の三名は工場近くに有る官軍の、いや日本陸軍部隊長に話しをする為に向かい、一時半程して戻って来た。


「皆さん、官軍は承諾しましたので小隊長さんは私が話しました様に話しを合わせて頂きたいのですが宜しいでしょうか。」


「全て承知致しました。

 皆も承知しており大丈夫です。」


 飯田達がどの様な話しをしたのか大よその見当は付く。

 そして、飯田達と百台近くの馬車と三個中隊は駐屯地に泊まり、明くる日の早朝工場に入り昼頃には全ての馬車に積み込みが終わり、飯田はついでに交換用の部品も受け取り、昼食後に連合国へ向け出発した。


 やはり余り長居は無用だと思うのが当然のことで有る。


「其れにしましても見事に成功しましたねぇ~。」


「実は私は冷や汗で積み込みが終われば一刻でも早く出発しようと考えておりまして。」


「実は私も同じでしてねぇ~、先日来た時は何も考えなかったのですが、やはり連合国の存在を知られますと大変だと思っており、一刻でも早く逃げ出したい気持ちでしたよ。」


 全ての交渉は飯田が行なっており、上田と森田の二人は打ち合わせ通り相槌をするだけだが其れでも相当な疲労感を覚えており、其れよりも工場で待機中の三個中隊の兵士達の方が遥かに疲れて要る。


「小隊長、本当に大丈夫でしょうか。」


「皆に伝えて下さい、交渉は三人がされてますので我々は打ち合わせ通りにやって下さいと。」


 中隊の兵士達は一刻でも早く積み込みが終わって欲しいと、其れ程にも冷や汗の連続で、其れでも小隊長達は駐屯地の兵力を数え、武器の種類も見て要る。


「大佐殿の言われる通りでしたねぇ~。」


「此処は中隊規模では無く、ざっと見ても五千人以上の大部隊ですねぇ~。」


 やはり工藤が思った通りの大部隊が工場近くには大きな砦を構え大砲も数十問と有り、若しも飯田達が偽物の日本陸軍だと知られると全員が銃殺され、飯田達は拷問を受けるのは間違い無く、だが飯田の見事な話術と陸軍省と海軍省から受け取ったお墨付きが何よりも役立ったのも間違いは無い。


 一方で上野が居る駐屯地に残った後藤と吉三組は鍛冶屋に見本となる道具を見せ鍛冶屋は数日に十個の速さで作り、大工達は沖合半町の所から海底の砂を砂浜に集め、又別の所へと積み上げており、吉三組は砂浜から土の部分になる所を幅が五間以上で深さが三間も有る穴と言うのか分からないが掘り始めたがその場所が岸壁になるのを知る者は少ない。


「参謀長殿、太さ一部の鉄の棒と石灰は有りますでしょうか。」


「其れならば軍艦に積んでおりますが。」


「では鉄棒の全部をこの付近に降ろして頂たいのです、其れと石灰ですが。」


「技師長殿、石灰は数日の内に百樽が届く様になっております。」


 やはり、向こうを出る時土木の専門家が鉄棒は大量に必要だと分かっており軍艦には大量の鉄棒が積み込まれ、其の日から軍艦から数百本にもなる鉄棒が降ろされて行き、数日後には数十台の馬車が到着し大きな樽が百樽も積んで有り、その数日後には百樽が運ばれ岸壁工事はいよいよ本格的に開始された。


 そして、数十日後には松川に大きな建物が其れと併設された宿舎や食堂と二つのお風呂が完成し、中川屋と伊勢屋の倉庫から機織り機と大量の巻き糸が運び込まれ、職人達が組み立て作業に入り、同じ様な頃、山賀にも数十にもなる家が建てられ鍛冶屋と信太朗達と、更に菊池と山賀までの城下の人達が両方に別れ鉄兜と胴巻きを作りに入った。


 そして、げんたは毎日黙々と何かを作って要るのか鉄の板を叩いている。


「源三郎様、げんたさんですが近頃全くお城には来られませんが何か有ったので御座いましょうか。」


「そう言えばこの数十日間は全く音沙汰が有りませんねぇ~。」


 雪乃はこの頃さっぱり姿を見せないのが心配なのだろう、だが源三郎は分かっていた、げんたは新しい武器を作って要る事を。


「まぁ~げんたの事ですから何か新しい物でも考え付き作って要るのだと思いますよ。」


「其れにしても余りにも長くは御座いませぬか。」


「そうですねぇ~、明日にでも一度浜に行って見ますかねぇ~。」


 本当のところ源三郎は余り浜に行く気にはなれない、其れは何時ロシアと言う大国が日本国を攻撃するやも知れず、更に後藤達は大きな入り江で軍港の建設中でげんたの考案した鉄兜と胴巻きも今だ数十個が出来たばかりで、そんな中で源三郎は対策を考えなければならず、今は浜に行く余裕すら無い。


 雪乃も源三郎が深刻に考えて要るのは分かっており気分転換が必要だと浜に行くように進めた。


 そして、源三郎が浜に行く朝。


「小隊長、大岩辺りに官軍の兵士がおります。」


「そうか、では隠して有る食料も見付かったのかも知れないなぁ~。」


「でもまだはっきりと分からないんですが奴らはこっちに登って来る様子でしたよ。」


「よし、では我々がお迎えするとしましょうか。」


 日光隊は側面を移動し官軍兵の所へと向かい、同じ頃、月光隊は上から向かった。


「小隊長、此処にたき火を消した跡が有りますが。」


「そうか、では誰かがこの場所で夜を明かし山を登ったのかも知れないぞ、若しかすれば我々を追撃して要るのかも知れない、全員に伝えるんだ追撃されて要るかも分からないから気を付けて登るんだ。」


 小隊長は追撃されて要ると思って要るが、果たして一体誰に追撃されて要るんだ。


「君達は何処に行くんだ。」


「えっ、一体誰だ姿を見せろ。」


 日光隊は熊笹に身を潜めており何処に居るのかも分からない。


「我々は連合国軍だ、君達は。」


「何、連合国軍だとそんな軍隊は聞いた事も無い、其れよりも姿を見せるんだ。」


 官軍の小隊長も日光隊の姿が見えず、其れよりも連合国軍だと今まで聞いた事も無い軍隊に少し驚いて要る。


「分かった、では姿を見せるが君達は既に包囲されて要るので無駄な発砲はするな。」


「よし分かった、全員、私の命令が有るまで決して撃つな。」


「では日光隊は姿を見せて下さい。」


 日光隊の全員が熊笹の茂みから一斉に立ち上がり連発銃は狙いを定めて要る。


「君達は一体何処に行くつもりなんだ。」


「えっ、では我々を追撃して要るのではないのか。」


「貴方方は追撃されて要るのですか、ですが一体誰にですか。」


「う~ん。」


 官軍の小隊長は答える事が出来ない。


「中村さん、官軍でしたか。」


「ええ、ですが誰かに追撃されて要るそうなのですが。」


 丁度其の時月光隊も着いた。


「君達は一体誰に追撃されて要るのですかお話しを聞かせて頂けませんか。」


「小隊長、此処では危険ですよ、今日の風は何時もと違いますので。」


「そうか分かった、伊藤さん急いで登りましょう。」


「分かりました、全員大急ぎで登るんだ、君達も命が欲しかったら早くこの場から逃げるんだ。」


「逃げるって一体何処に逃げるんですか。」


「そんな話をして要る暇は無いんだ、そんな事よりも早く走れ。」


 日光隊と月光隊は山を駆け上って行き、その後ろを官軍兵も必死で走る様に山を登って行く。


 日光隊と月光隊、そして、官軍兵は半時以上も駆け上ったのだろうか要約頂上近くの避難小屋に着いた。


「此処まで来ればもう大丈夫だ、全員その場で休んで下さい。」


 日光隊と月光隊が警戒に入り官軍兵はその場にへたり込んで要る。


「貴殿が官軍の小隊長ですか。」


「私と酒田が小隊長を務めておりますが、貴方方は。」


「我々は先程も申しました様に連合国軍で私は中村と申しまして、彼が伊藤と申します。

 先程も申されておられましたが一体誰に追撃されて要るのですか、お話しの内容によっては我々がお助けしますが如何でしょうか。」


 だが官軍の小隊長は中村と伊藤の姿を見てやはり官軍の追撃隊と思い直ぐには話しも出来ない。


「そうか、君達は我々の姿を見て官軍の追撃隊だと思っておられるのですね、ですが我々は先程も申しました様に官軍では無く連合国軍の兵士ですから何も心配される事は有りませんよ。」


「左様ですか、ではお話しします。」


 官軍の小隊長が話し始めた。


 彼らは飯田達が巻き糸を受け取りに向かった先に有る師団の連隊長の指揮下の兵士で有る。


「そうでしたか、では貴方方の消息を探しておられるのですか、ですが我々は何も知りませんよ。」


 日光隊と月光隊の中村や伊藤が知らないのも当然で官軍の二個中隊は野盗を追撃し、菊池の隧道近くで狼の大群に襲われ全滅して要る。


「ですが何故貴方方を追撃する必要が有るのですか。」


「実を申しますと。」


 彼の上官で連隊長は師団長の悪巧みを知っており、師団長は連隊長とその部下には適当な理由を付け全員を抹殺したいので有る。


「では師団長は連隊長も貴方方も口実を作り何としても抹殺したいのですか。」


「連隊長殿は師団長が何としても自分達を抹殺する理由を作ると知っておられ、今度は偵察と言う名の脱走兵だと口実を作ったのです。」


「そうでしたか、中村さん、この問題は自分達だけで解決するのは無理だと思うんです。」


「そうですねぇ~、彼らが大岩辺りに来ると言う事は下手をすればもう師団長と言う人物に報告されているやも知れませんねぇ~。」


「私も同じでして、では早急に総司令に報告しなければなりませんねぇ~。」


「如何でしょうか、私がこの間々野洲に参り総司令に報告すると言うのは。」


「中村さん、私も同じ事を考えておりまして、ではお願い出来ますか、私は官軍兵を山賀に連れて参りますので、出来るならば総司令をお連れ願いたいのです。」


「私もその様の考えておりますので、では今から直ぐ下山し野洲に参りますので、後の事はお任せします。」


「分かりました、私も若様に報告して置きます。」


 日光隊の中村は其れだけを言うと足早に下山し野洲へと向かった。


「全員に告ぐ、中村小隊長は総司令に報告する為野洲に向かわれた、我々は今から下山する。」


 日光隊が先導し、官軍兵が続き、月光隊は最後尾を行き二時程して山賀のお城に着いた。


「若様。」


「伊藤さん、どうされたのですか、其れに官軍兵が一緒だと言う事はやはり知られたのですか。」


「私達も最初其の様に思ったのですが話を聴きますとどうやら違うのです。」


 その後、官軍の小隊長が詳しく説明すると。


「えっ、ではその部隊と言うのか師団と言うのか分かりませんが、師団長と呼ばれる人物は連隊長とその部下を葬る方法を考えて要るのですか。」


「自分達よりも連隊長殿の命が危ないのです。」


「連隊長が危ないと申されますが連隊長には大勢の部下がおられるので御座いませんか。」


「確かに連隊長殿には大勢の部下がおられます。

 ですが二個大隊だけでして後の隊長達は師団長の腰巾着で御座います。」


「では隊長の部隊も同じなのですか。」


「其れは無いとは思いますが、軍隊と言うのは上官の命令は絶対でして、どんな無理を言われても従わなければならないのです。」


「我々の連合国では考えられ無い話ですねぇ~。」


「官軍では其れが当たり前でして、私も以前連合国に入れて頂きました頃は驚きました。」


 月光隊の小隊長も元は官軍に在籍しており、官軍の小隊長が言う話しが普通だと言う。


「では貴方方は脱走兵として扱われているのですか。」


「多分其れに間違いは無いと考えております。

 でも連隊長殿は何時もあのお方が居られたら今の様な事態にはなっていないと申されておられます。。」


「今申されましたあのお方とは。」


「私も詳しくは知らないのですが、何でも上層部に睨まれた少佐殿だとお聞きしておりますが、其れ以上の事は何も。」


「若、若しや工藤さんでは御座いませぬか。」


「吉永様もその様に思われましたか、私も同じでして多分間違いは無いと思いますねぇ~、小隊長、義兄上に知らせなければ。」


「若様、大丈夫で御座いまして、中村小隊長が野洲に向かわれております。」


「左様でしたか、やはりお二方も同じでしたか。」


「私達もこれは総司令に一刻でも早く報告しなければならないと考え、中村さんにお願いしたのです。」


「では皆さん方を。」


「私が責任を持って総司令が来られますまでお預かり致します。」


「誠に失礼だと存じますが、今総司令と申されましたが。」


「そうでしたねぇ~、まぁ~何も心配される事は有りませんよ、私の義兄上ですので全てをお話しされても宜しいかと思いますよ。」


「では自分は銃殺刑になるのでしょうか。」


「えっ、銃殺刑って、小隊長はその様なお話しをされたのですか。」


「いいえ、飛んでも御座いません。」


 と、小隊長は両手を振りそんな話はしていないと言う。


「ご貴殿は銃殺刑になると思っておられるのですか。」


「自分は。」


「義兄上はその様なお方では有りませんよ、全てを話されても、ですがこれだけは言って置きますが義兄上には作り話は通用しませんのでね。」


「自分は何も作り話などする必要も有りませんので。」


 官軍の小隊長は嘘は言わないと言う、其の少し前、松川の大手門に月光隊の中村が着いた。


「私は月光隊の中村。」


「其のままお進みください、若殿様がおられますので。」


 小隊長は松川の執務室に飛び込み。


「若殿、大変で御座います。」


「小隊長、如何されたのですか、そんなに慌てて。」


「実は今日の早朝に。」


 小隊長は若殿と斉藤に今日の早朝に官軍兵が大岩辺りに現れ、事情を聴きお城に向かわせたと説明した。


「そうでしたか、では馬を用意しますので少しお待ち下さい。」


 と、若殿が言った時には家臣は執務室を飛び出し馬小屋へと向かっていた。


「斉藤様、私達も山賀へ参りましょう、其れと上田の阿波野様と菊池の高野様にも伝令を出しましょう。」


 松川でも家臣の動きは早く、数人が馬小屋へと走って行く。


 そして、四半時後には上田と菊池へ伝令が向かい、同じ頃、小隊長も馬に乗り野洲へと向かった。


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