第 45 話。げんたが又も作った。
「飯田様、上田様、そして森田様、長きに渡り大変ご苦労様でした。」
「いいえ、私達も早く戻りたかったのですが色々と諸般の事情が御座いまして、今やっと戻る事が出来たので御座います。」
「ですが其れよりも皆様方がご無事で何よりでした。」
「いいえ、私達は意外と思う程危険では無かったのです。」
上田は危険を感じていなかったと言う。
「上田様は危険では無かったと申されるのですか。」
「左様でして、私達が海沿いを北へ進んだのですが一体何処へ向かえば良いのか其れが全く分からなかったので御座います。」
飯田達はあの時菊池の海沿いから初めて連合国の外へ出たが江戸が何処に有るのかさえも分からず道を迷う事数度、だが何処にも江戸の方向を示す道標も無く、その為宛ても無く歩き続けるうちに最初の農民達を助ける事になった。
「其れで少しお伺いしたいのですが馬車には何が積み込まれて要るので御座いますか。」
「其れが私達にも全てが分からないのです。」
「何故で御座いますか、皆様方で積み込まれたのでは御座いませんか。」
「其れは勿論ですが、我々が積んだのは生糸だけで機織り機や他の物と言って良いのか機械などはお店の人達が積み込まれましたのでさっぱり分からないのです。」
「では積み荷の詳細も分からないのですか。」
「まぁ~その様な訳でして。」
飯田達は積み荷の詳細も知らないと言う、其れでは六十台もの馬車に積み込まれて要る物を調べる必要が有るのでは無いのか。
「飯田様は源三郎様にお見せなさるので御座いますか。」
「勿論でして、東京ではまぁ~驚く物ばかりでして。」
高野は呆れて要るが、飯田達はそれ程まで店の者達を信頼して要る証で有ると感じた。
「高野様にお伺いしたいのですが先程も申されましたが連合国とは、其れに何故に官軍兵が居るのですか、私は全く理解出来ないのです。」
「森田様、そのお話しを始めますと数日は掛かると思いますので、まぁ~今日は此処でお泊まりして頂き、明日にでも野洲に戻られ総司令から説明して頂ければ宜しいかと思うのですが、私は別に明日で無くても、二日、いや三日程はゆるりとされる方が、其れに他の方々も少しは疲れも取れるのでは御座ませんでしょうか。」
「飯田殿、高野様の申されます通りだと思いますよ、此処まで戻って来られたのですから一日や二日遅れたところで源三郎様は何も申されないと思いますよ。」
「そうでしたねぇ~、私達よりもお店の人達の身体が大事ですからねぇ~、高野様、ですがお世話になるにしても私達が勝手に決める事も出来ませんので後程店の人達とも相談し決めたいと思いますが其れで宜しいでしょうか。」
「勿論ですよ、私も其の方が良いかと思います。
其れで決まりますれば総司令にもお知らせせねばなりませんので。」
「承知致しました。」
暫くして店の人達が来た。
「社長様、お風呂を先に頂きました。」
「其れは良かったですねぇ~、では我々も湯に向かわせて頂きますかねぇ~。」
「ではご案内させますのでごゆるりとして下さい。」
店の人達が次々と上がり大広間へと向かい、入れ替わりに飯田達が湯殿に向かった。
「其れにしても大変な変わり様で御座いますねぇ~。」
「まぁ~其れは間違い有りませんが、それ程にも世の中が変わったと言う事でしょうかねぇ~、其れよりも馬車ですが一切誰にも触れるなとお伝え下さい。」
「勿論でして、立て札をし、城内に停め馬は小屋に入れて置きました。
其れにしても八頭立ての馬車とは私も初めて見ました。」
「まぁ~其れだけ重い物を積んで要ると言う事ですよ、飯田様達が湯殿よりも上がられましたら夕食としますので、其れとお酒も出して下さいね。」
「はい、承知致しました。」
「高野。」
「殿。」
「あの方々は相当苦労されたと思うのだが。」
「私も其の様に思って要るのですが、お話しを伺いますと左程危険では無かったと申されておられましたが、本当は私達には想像も出来ない程ご苦労されて要ると思うのです。」
菊池のお殿様はわざと遅れて来たようにも見え、やはり十年と言う歳月は飯田達を変えたのかも知れず、何も知らない者が余計な事を聞く事も無いと思ったので有る。
「だが彼らの着物には驚かされるのぉ~、余は初めて見たが何と言うのじゃ。」
「森田様は洋服だと申され江戸、いや東京の男達の中では少しずつですが以前の様な着物では無く洋服に切り替えて要ると。」
「では我が連合国でも洋服なる新しい着物になるやも知れぬのぉ~。」
「私は何とも申せませんが、何れ多くの人達が洋服なる新しい着物に変わるのではと考えます。」
「そうじゃ、高野、庭に有る馬車だが一体何を積んでおるのじゃ。」
「其れも聞いたのですが、飯田様達は生糸を積んだだけで店の人達が何を積んだのかも全く分からず、荷物の詳細も分からないと申されておられます。」
「其れにしても一体何台有るのじゃ。」
「先程も聞きましたが飯田様は全く分からないと、其れで先程馬車の台数と整理をご家中の方々にお願いして要るのですが、一台の馬車に馬が八頭立てで御座いますので相当な重さだと考えております。」
「何じゃと八頭立てじゃと、う~ん其れ程にも大変重要の品物ばかりだと言う事なのかも知れぬぞ。」
菊池のお殿様も呆れて要る。
「高野、後の事は頼むぞ、余は何も申さぬからのぉ~。」
「はい、全て承知致しておりますので。」
お殿様は其れだけを言うと執務室を出て行った。
飯田達も長旅の汚れを落として要るのか半時近くして湯殿から上がって来た。
「なぁ~我々は本当にお城に泊まるのかなぁ~。」
「私も同じ事を考えてたの、幾ら社長様がいいよと言われても、私達は別だと思うのよ。」
「そうだよなぁ~、でもお侍様は此処で待ってて下さいって言われたけど。」
「私も何か有る様な気がするんだけどなぁ~。」
店の者達はお城に入った事も無く、この先一体どの様になるのか不安だと言う顔をして要る。
其の頃、山賀へ向かった伝令兵は松川で馬を乗り換え必死に飛ばして行く。
「私は社長様達に命を助けられ其れに仕事まで下さって、其れこそ地獄から天国に行ったと思ってるのよ、でもそんな話は誰に言っても信じてくれないけど、私はこれからも社長様達を信じて行こうと思ってるの。」
「そうだよ、オレ達はあの時社長様達が来られ無かったら野盗に殺されてたんだ、其の時の事を思えばどんな事でも我慢出来るんだ、オレもおみつの言う様に社長様達を信じて行く様にするよ。」
やはり最初の農民達は飯田達は命の恩人だと言う、飯田達にしても農民達のお陰も手伝って無事江戸に着き大成功を収めたのも間違いないと思って要る。
飯田達は長い風呂から上がりさっぱりした顔で家臣の案内で大広間へと入った。
「皆さん、今日は此処で泊まり明日野洲へ向かいますのでね。」
「社長様、私達もお城に泊まるんですか。」
「勿論ですよ、誰かがお城から出て行けとでも言ったのですか。」
「いいえ、飛んでも有りませんよ、そんな事は言われて無いんですが、でも今までお城なんて泊まった事も無かったんで。」
「大丈夫ですよ、我々の国では誰でもお城に入る事が出来るんですから。」
「まぁ~ねぇ~普通では考えられませんが、でも其れが我々の国なんですよ、其れよりも野洲に入りますと、まぁ~其れこそもっと凄い事になりますよ。」
と、言って飯田達は笑うが、店の者達にすれば余りにも違う環境に戸惑いは隠せない。
「さぁ~さぁ~皆さんお食事ですよ、でも余り突然の事なので皆さんには大変失礼だとは思うのですが、長旅の疲れを取って頂くために、其れを連合国では何か有りますと雑炊を作る事になっておりまして、余りにも期待外れで申し訳御座いません。」
高野は頭を下げ、その姿にも驚きを隠せないが腰元達が運んで来たのは正しく雑炊で、だが彼ら彼女達にとっては何よりも嬉しい食事に間違いない。
「皆さんにはお酒も有りますのでゆっくりと食べて下さい。
其れと今寝床も用意しておりますよ。」
上田と森田が先に食べ始めると店の者達も食べ始め、飯田達は徳利を持ち皆に注いで行き。
「皆さん、本当に有難う御座いました。
私達三人は今まで皆さんにどれだけ助けて頂いたか分かりませんが、私達三人は皆さんに大変感謝致しております。」
飯田達は改めて店の者達に頭を下げた。
「社長様、頭を上げて下さいませ、私達こそあの時社長様が来られ無かったら殺されてたんで、 私達は社長様達こそ命の恩人だと思っております。」
と、最初の農民達が頭を下げた。
「さぁ~さぁ~皆さん食べましょうか、今日は何もかも忘れゆっくりと眠る事が出来ますよ。」
「そうですよ、今夜からは野盗に襲われる事も有りませんのでねゆっくりとしましょうよ。」
その後は食事にお酒も入ったのか飯田達も全員が早く寝床に入りぐっすり眠り付いた。
同じ日の夕刻近く。
「菊池より総司令に伝令です。」
と、菊池の伝令兵が山賀の執務室に飛び込んだ。
「総司令、本日の朝、飯田様、上田様、森田様の三名様と百人程の人達、更に六十台以上もの馬車と共に菊池に戻って来られました。」
「えっ、其れは誠ですか、あ~本当に良かった、三人が無事に戻って来られたのか、本当に良かったなぁ~。」
と、源三郎は三名の家臣が無事だと聞き安堵し胸を撫で下ろした
「其れで今夜は菊池に泊まって頂きますと高野司令からの伝言で御座います。」
「左様ですか、高野様にも大変なお世話を掛けますねぇ~、其れで六十台の馬車と申されましたが、一体何が積まれて要るのですか。」
「私は何も伺っておりませんが、其れよりも馬車一台に八頭もの馬で引かれておりました。」
「えっ、八頭立ての馬車ですか、私は今まで聞いた事が有りませんがねぇ~。」
「其れが馬車と申しましても普通の馬車では無く特別頑丈に作られた馬車だと思います。」
「特別製の馬車ですか、では積み込まれて要るのは相当重い物でしょうねぇ~、ご貴殿は今夜は泊まり、明日はゆっくりと戻って下さいね。」
「誠に有難う御座います。」
伝令兵は源三郎と若様に頭を下げると駐屯地へと向かった。
「私は明日発ちますので。」
「では私もご一緒させて頂きます。」
「えっ、若もですか。」
「勿論ですよ、私はお三人方は存じておりませんが、特別製の馬車に積み込まれて要る荷物が気に成るのです。」
やはりだ、若様は飯田達の事は知らないが特別製だと言う馬車に一体何が積み込まれて要るのか、何も若様で無かったとしても気に成るのが当然で有る。
げんたに吉川、石川は今湯殿におり菊池から伝令が来た事は知らず、だが執務室には工藤に鈴木、上田がおり話しを聞いて要る。
「では明日は馬で戻りましょうか。」
「飯田様や上田様、森田様とお聞きしましても私は全く知らないのですが。」
「其れは当然でしてね、若がまだ松川におられる頃のお話しでして。」
源三郎は飯田達が何故江戸に向かう事になったのかを詳しく話した。
「左様で御座いましたか、ですが其れにしても江戸では大変なご苦労をされたのでは御座いませぬでしょうか。」
「私も其の様に思っておりますが、あの当時、誰も江戸の事は全くしらず、更に江戸が何処に有るのかさえも知らなかったのですからねぇ~大変だったと思いますよ。」
「ですが百人程と申せば大変な人数ですが一体どの様な関係の人達なのでしょうか。」
「まぁ~其れもお会いしてお話しを伺わなければなりませんので、私はどの様なお話しをされるのか今から楽しみにして要るのです。」
「あんちゃん、何か有ったのか。」
やはりげんたは鋭い。
「げんた、東京から野洲の三名と百人もの人達、更に特別に作られた八頭立ての馬車六十台が今日菊池に戻って来られたんですよ。」
「東京って江戸の事か。」
「そうですよ、其れでね馬車に何か分かりませんが大量の荷物が、其れも相当貴重な荷物が積み込まれて要ると思うのです。」
「何だ大量の荷物って。」
「其れが分からないので明日にでも菊池へ向かう様に考えて要るのですが、げんたも一緒に参りますか。」
「そんなのって当たり前の話しだぜ、あんちゃんは荷物を見たく無いのか。」
源三郎もだがげんたも東京から戻って来た人達がどんな物を積んで来たのか其れが何よりも一番先に知りたいので有る。
「では明日の朝出立しましょうか。」
そして、朝、まだ陽の明けきらないと言うのにげんたは起き出し執務室で何やら考え事をして要る。
「げんた、早いですねぇ~、何か考え事でも有るのですか。」
「オレもなぁ~色々と考える事が有るんだぜ。」
「私が力になれるので有れば話して下さい。」
「今のオレはなぁ~兵隊さんを守りたいんだ。」
「兵隊さんを守るとは一体何が有ったのですか。」
「あんちゃんも覚えてると思うんだけど、オレとあんちゃんが江戸に行こうって菊池を出た所で。」
げんたはあの時の戦闘で熊源と言う兵士が我が身の命を捨て、げんたの命を守った事がまだ頭から離れ無いので有る。
「勿論ですよ私もよ~く覚えておりますからね、ですがあれが戦なのです。
戦と言うのは敵を殺さなければ、我が身の命が亡くなるのです。」
「オレもそんな事は分かってるんだ、だけどオレは何とかして兵隊さんも敵から守りたいんだ、其れで何が出来るかを考えてるんだ。」
「戦と言うのはですねぇ~、人間の本性を現して要るのです。
人間と言うのは欲望の塊でしてね、ですが全ての人間が欲望の為に動いているのでは有りません。
欲望に負ける人間も居れば、欲望に打ち勝つ人間も居るのです。」
「じゃ~あんちゃんにも欲望は有るのか。」
「勿論ですよ、私にも欲望は有りますよ、ですが同じ欲望でも其れが我が身の為なのか、其れとも他の人達の為なのか其れが人間の定めでは無いかと思うのです。」
「あんちゃんが何時も言ってる全ては領民の為って、其れがあんちゃんのか。」
「私にも幼い頃には高い望みが有りましたよ、ですが野洲に戻ってからは全く別の望みへと変わって行ってまったのです。
幕府からは上納金を増やせと、さもなければ野洲は取り壊すと、私は其の時高橋先生の教えを思い出したのです。
先生は自らの欲望だけを満たす事だけを考え行動を起こすならば、その望みは一時的には叶う、だが全ての望みを叶える前に滅びると、其れで私は考え方を変え、全ての望みは領民を助ける事だと其れが今に至って要るのです。」
「オレも同じなんだ、オレは熊源さんって言う兵隊さんが自分の命を捨て助けてくれたんだ、オレは其の時兵隊さんの命を守る事も大事だって思ったんだ。」
源三郎もげんたの気持ちは痛い程理解出来る、げんたは今何を考え何を作ろうとして要るのか、今分かって要るのは兵隊も同じ仲間だ、げんたは同じ仲間でも有る連合国軍兵士の命を守る為に何かを作ろうとして要る事だけは確かで有る。
そして、半時程経つ頃には全員が揃い菊池へと向かった。
「私達は今日一日はゆっくりとさせて頂き明日には野洲へと向かう様に考えて要るのですが。」
「今日のそうですねぇ~、ですが後一時、いや一時半もすれば源三郎様が来られると思いますよ。」
「えっ、ですが私達も何時までも高野様のお世話に。」
「飯田様も皆様方も以前は別として今では連合国となり、連合国では何も急ぐ必要は無いのです。
其れにお店の方々もまだまだ疲れは残って要ると思いますので、源三郎様が来られてからご相談されては如何でしょうか。」
高野は源三郎が一人で来るとは思っていない。
「其れよりも朝のお食事を先にされては如何でしょうか、皆様方も起きて来られる頃だと思いますが。」
「では私も食事を頂きに参ります。」
飯田も皆が待つ大広間へと向かった。
「社長様、私達はどうなるんですか。」
「どうなるって、皆さん方は何も心配される事は有りませんよ、其れよりも機械の組み立てですが。」
「其れだったらわしらがやりますんで任せて下さい。」
「森田殿、機械の組み立ても大事だと思いますが、機械を入れる建物が要ると思うのですが、何処に建てられるおつもりなのですか。」
「あっ、そうか私は建物が要るのを忘れておりましたよ。」
「建物を何処に建てるのかも考えなければなりませんので。」
「社長様、じゃ~この国で軍服を作るんですか。」
店員は連合国で日本軍の軍服を作るものだと思って要る。
「私は日本国軍隊の軍服を作るとは全く考えておりませんが、若しも作るとすれば連合国軍兵士の軍服を作る事は有り得ますよ。」
「社長様、連合国軍って何処の軍隊なんですか。」
「今皆さんがおられるこの国ですよ。」
「社長様は他の服も作るんですか。」
「勿論ですよ、でも私が一番作りたい服はね作業用の服なんですよ、私は男性用と女性用が必要だと考えて要るんですが。」
「其れだったら私達の作業服も作るんですか。」
「勿論ですよ、私は皆さん方の作業服を作りたいんですよ、其れも皆さん方が希望される服をです。」
「でも何でオレ達の作業服を最初に作るんですか。」
「其れはねぇ~、皆さんが作られた作業服を連合国の人達にも着て欲しいのです。」
「えっ、じゃ~下手な服は作れないですよねぇ~。」
と、言いながらも店で働く人達は誇らしげな顔をして要る。
「私は連合国の人達に皆さんが作られる服は最高に素晴らしいと認めて欲しいのです。
その為、最初は皆さんが着る服を作りたいんです。
「社長様、私達女物ですか。」
「勿論ですよ、私は女性にも着て頂ける服を作って頂たいのです。」
「わぁ~大変だ、そんな服を着たら大勢の男達が寄って来るわよ。」
「其れも宜しいですねぇ~、私も今から大変楽しみにしておりますからねぇ~。」
と、森田達も店員達も嬉しさが溢れ喜びの顔になっており、其の様な話しがされて要る最中に。
「源三郎様が来られました。」
大手門の門番も源三郎の到着を待っていたかの様で高野と執務室の家臣が大手門に。
「高野様、大変ご迷惑をお掛け致しました。」
「いいえ、其の様な事は御座いませぬ、さぁ~さぁ~どうぞ。」
と、高野は源三郎達を執務室に案内すると。
「源三郎様、飯田、上田、森田の三名は無事戻って参りました。」
「皆さん、大変長きに渡り大変ご苦労様でした。
私も皆さんの無事なお姿を拝見し、今やっと安堵致しました。」
「源三郎様、我ら三名は江戸に入る前から驚きの連続でして後程紹介させて頂きますが、この人達がおられなければ今の私達は無かったものと思います。」
飯田が言う人達とは東京から一緒に来た人達の事だ。
「其れにしましても大勢の人達ですが余程大切な人達なのですねぇ~。」
「左様でして、我ら三名は江戸が何処に有るのかさえも分からず、正直申しまして我らは一体何処に向かえば良いのかも分からなかったのです。」
「其れは私でも同じでしてねぇ~、ですが道標も無かったのですか。」
「左様でして、菊池を出て北へ向かったのですが、まぁ~其処で最初に出会ったのが四十数名の農民さん達でして、その人達を助けたと申しましょうか、運命の出会いとでも申しましょうか。」
「飯田様達が農民さんを助けられたのですか。」
「我々が通り掛かった時でして野盗が農村を襲い多くの村民を殺しておりまして、結果的には我々が野盗を退治したので御座います。」
「やはりでしたか、やはりあの当時は多くの野盗が農村を襲い食料を略奪していたのですねぇ~。」
「ですが不思議な事に我々がその村に行くまでは野盗の姿は見ておりませんでした。」
「まぁ~野盗も考えたのでしょうかねぇ~、浪人者では何も持っていないだろうと。」
「そうかも知れませぬ、其れで農民さんを助けたのですがこの人達は隠して置いた米俵と数百両もの大金を持って来られたのです。」
「では野盗には奪われなかったのですか。」
「左様でして、最初の村で二十数名と別の村で二十数名でその人達と一緒に江戸に向かったのです。」
この後も、飯田達は江戸へ向かうまでの事を説明した。
「左様でしたか、では江戸に入られるまでが大変だったのですねぇ~。」
「ですが陽立の国でも思い掛けない事が起きたのです。」
飯田達は陽立の国で起きた事を詳しく話した。
「では正かと言う事態になったと申されるのですか。」
「あの~社長様。」
彼は最初に助けた農民で今では仲間の中でも人望は厚い。
「吾助さん、何か。」
「社長様、此方のお方様ですか、何時も申されておられたお方を言うのでは。」
「吾助さんは皆さんの意見を私達に話して頂き、私達の考えを皆さんに話して頂きまして、私達には無くてはならないお人で御座います。」
上田の言葉に吾助はもう大変な驚き様で。
「社長様、私は何も。」
「吾助さんと申されましたね、ご貴殿は皆さんの人望も厚いと思いますよ、この先も飯田様達の、まぁ~言葉は悪いですがご意見番と申しましょうかねぇ~お願い致しますね。」
「そんな御無体な事を申されましても、私はとてもでは有りませんが無理で御座います。」
「いいえ、決して無理では有りませんよ、全て私が許しますからね。」
「社長様、申し訳御座いませんが此方のお方様は。」
「吾助さん、このお方が源三郎様ですよ。」
「えっ、では社長様方が何時もお話しされておられたお方で御座いましたか。」
吾助は改めて源三郎に頭を下げた。
「吾助さん、頭を上げて下さい。」
「ですが。」
「吾助さん、源三郎様と言うお方は私達よりも皆さん方を大切にされるお方ですから何も心配される事は有りませんよ。」
吾助は返事も出来ない程に緊張して要る。
「吾助さんも余り深刻に考える事は有りませんよ、まぁ~そうですねぇ~今まで通りで宜しいかと思いますのでね。」
吾助は千人の、いや其れ以上の力を得たので有る。
「其れではお伺いしたいのですが積み荷の目録でも有りますでしょうか。」
「源三郎様、誠に申し訳御座いません、私が書き留めるのを忘れておりまして、最初の数台だけは覚えて要るのですが。」
「まぁ~其れも仕方有りませんねぇ~、では数日を掛け調べる事にしましょうか。」
「あの~源三郎様。」
やはりだ、吾助が書き留めていたのか。
「吾助さんが書き留めておられたのですか。」
「私は元は農民ですが社長様から読み書きを教えて頂きまして、其れに、社長様方は何時も大変な忙しさで今度の事も陸軍省と海軍省との会合で其れは大変なお疲れ様で、私達は少しでも社長様方のお役に立てる様にと皆で話し合い一人が一台の馬車の積み荷を書き留めて置いたのです。」
日頃より飯田達は店の者達に読み書きを教え独り立ち出来る様にと考えた結果で有る。
「さすがに吾助さんですねぇ~、飯田様や上田様に森田様が日頃なされておられた結果だと思いますよ。」
「ですが私はその様な考えでは無かったのですが。」
「森田様のお気持ちが皆さん方に伝わったのでは御座いませんか、其れで吾助さん、目録ですが。」
「今直ぐに持って来ますので。」
と、其の時。
「高野司令、大変で御座います。」
「一体何が有ったのですか、今丁度総司令と工藤大佐も居られますのでお話し下さい。」
「先程ですが二又付近から隧道の方へ野盗が近付いておりますと伝令が有りました。」
「何人くらいでしょうか。」
「大よそ二百だと聞いております。」
「二百ですか野洲に伝令を、一個、いや二個中隊を大至急にと。」
執務室に居た家臣が飛び出した。
「高野様、二個小隊を出して下さい、私が参りますので。」
「了解です、私も参りますので、二個小隊は直ぐ向かう様に伝えて下さい。」
「小隊長、奴らは来るでしょうか。」
「其れは私も分かりませんが、何れにしても警戒は厳重にしなければなりません。」
と、其の時。
「パン、パン、パン。」
と、連発銃の連続した発射音が鳴り響いた
「正かとは思いますが近くに官軍が要るのか。」
「小隊長、二又付近に官軍がおり野盗に向け攻撃を開始しました。」
「パン、パン、パン。」
と、其れは数十丁もの連発銃の発射音だ。
「パン、パン。」
と、野盗も数丁の火縄銃で応戦して要る。
「小隊長、如何ですか、先程から連発銃の激しい音が鳴り響いておりますが。」
「大佐殿、今は静観しておりますが、若しもの時には我々も応戦します。」
「ですが此方からは攻撃しない様にして下さいね。」
「其れは心得ておりますので。」
「パン、パン、パン。」
尚も官軍兵は撃って要る。
「小隊長、官軍は大よそ二百くらいです。」
「そうだとすれば官軍は野盗を追って来たのでしょうか。」
「其れは分かりませんが。」
と、其の時、突然大木の上に有る監視所の兵士が倒れ側頭部から鮮血が吹き辺り一面が真っ赤に染まった。
「おい、大丈夫か。」
と、仲間の兵士が聞くが、兵士は頭を撃たれ即死で有る。
「一体何処から撃たれたんだ。」
小隊長は監視所から見ると。
「あっ、あそこからだ。」
と、言った瞬間。
「パン、パン。」
と、又も兵士が倒れ頭から鮮血が吹き出して要る。
「畜生め。」
と、小隊長は官軍兵に向け撃った。
「パン。」
と、一発で官軍兵は仰向けに倒れ、すると別の兵士が監視所に向かって撃って来た。
「大佐殿、官軍から攻撃です。」
「よし中隊は応戦せよ。」
と、言った時には隧道の中に居た兵士は木製の盾を持ち横一列に並び一斉射撃を開始して要る。
勿論、官軍からも攻撃が開始され、だが官軍は野盗と連合国軍の両方を相手にして要る。
「小隊長、今日ですが狼は。」
「其れが何時もならば今頃には野盗に襲い掛かって要るんだが、やはり風向きなのか分からないんだ。」
「監視所は大丈夫でしょうか。」
「監視所からも応戦するのですが、やはり兵士が負傷したと考えられます。」
小隊長も監視所の兵士二人が戦死した事は知らない。
野盗も既に数十人が倒れており、何時狼の大群が襲って来るのか、若しも狼が来るのが遅ければ連合国軍にも多くの犠牲者が出る事も覚悟しなければならず、だが其れは突然起きた。
「わぁ~狼だ、狼だ誰か助けてくれ、誰か。」
「ぎゃ~。」
と、野盗に狼の大群が襲い始めた。
「中隊は射撃を中止せよ、中止だ。」
官軍の中隊長は連合国軍との戦闘は知らないのか。
「中隊長殿、向こう側の大木から撃って来ます。」
「何だと、一体何者なんだ。」
「其れが分からないんで、我が方にも戦死者が出ております。」
「よ~し分かった、第一と第二小隊は大木に向け攻撃を開始。」
「大佐殿、官軍からの攻撃が。」
「分かっておりますが、もう間も無く野洲から応援が来ますので、其れまでは何としても持ち応えて欲しいのです。」
「わぁ~狼の大群がこっちに来るぞ。」
やっと来たか、狼の大群が官軍兵に向け突進して行く。
「狼を撃ち殺せ。」
と、官軍の中隊長も必死で狼を撃って要るが、狼の数が余りにも多く全ての狼を撃ち殺す事は不可能で官軍兵は次々と噛み殺されて行く。
「大佐殿、やっと応援が来たようですねぇ~。」
「その様ですねぇ~、今の内です小隊は早く中に入れ。」
小隊の兵士は必死で隧道の中へ入って行く。
「ぎゃ~。」
と、其れでも狼の攻撃は収まる事を知らない。
「全員退避完了です。」
「早く扉を閉めるんだ。」
隧道の中に入った兵士全員で太い縄をゆっくりと緩め、大木で作られた大きな扉は下りて行き、やがて隧道の入り口は閉鎖され、此処まで来れば狼が侵入する事は無い。
「全員無事です。」
だが官軍兵は次々と襲って来る狼に噛み殺されて行く。
そして、四半時が過ぎた頃から官軍兵からの叫び声は止まり。
「大佐殿、官軍は全滅したと思われます。」
「分かりました、では今の内に監視所の様子を見る事は出来ませんか。」
「大佐殿、我らに任せて下さい。」
数人の兵士が外に出て縄梯子で登って行く。
「お~い大丈夫か。」
「いや四名が戦死、二名が負傷して要る。」
「えっ、四名が戦死って。」
四名の戦死者は頭に弾が命中し即死で有る。
「傷はどうなんだ。」
「腕に命中して要るが、命には別状無し。」
「よ~し分かった、直ぐ下りて来るんだ。」
兵士は大急ぎで下りて行く。
「大佐殿、監視所ですが四名が戦死、二名が腕に弾が命中しておりますが命には別状有りません。」
「四名も戦死されたのですか、残念ですがこれも戦で仕方が有りません。」
「大佐殿、今の内ならば負傷者を降ろす事は出来ますので。」
「ですが狼の攻撃が。」
「では少しだけ待って見ますので今の内に馬車の用意だけはして置いては如何でしょうか。」
数人の兵士が菊池側へ向かった。
「其れにしましても官軍兵ですが一体何処から来たのでしょうか。」
「其れは私にも分かりませんが、一度北側を偵察する必要は有りませんか。」
「大佐殿、後日自分達が行っても宜しいですが。」
「ですが今は其れよりも負傷者を一刻も早く降ろさなければなりませんので。」
そして、一時程が過ぎた。
「大佐殿、今の内ならば大丈夫です。」
「では直ぐ負傷者を降ろしましょう。」
小隊長の合図で数人の兵士が登り、負傷者を降ろし馬車に乗せられ菊池側へと向かい、その後、戦死した四名も降ろされ別の小隊が監視任務に就いた。
「伝令、官軍と野盗は全滅したと思われ、我が方から戦死四名、負傷者二名は命に別状無し、と総司令に。」
伝令兵は馬を飛ばして行く。
「高野司令、菊池側に増員しますので。」
「私も増員をお願いしたいと思っておりましたので助かります。」
「野洲の二個小隊は菊池に配置変更します。」
「私は今から戻り総司令に報告します。」
「宜しくお願い致します。」
「高野司令、暫くは野洲の中隊を残して置きますので。」
「私も大助かりです。」
工藤は源三郎に報告する為菊池のお城へと戻って行く。
「伝令で~す、総司令に官軍と野盗は全滅、我が軍から戦死四名、負傷者二名ですが命には別状無しです。」
「う~ん、戦死四名ですか、で負傷者は。」
「先程助け出されお城に向かっております。」
「左様ですか、大変ご苦労様でした。
誰か負傷された兵士が馬車で戻って来ますので傷の手当てをお願いします。」
数人の家臣が飛び出して行く。
「源三郎殿、今四名の方が戦死されたと伺いましたが。」
「殿、これも戦で仕方が御座いませぬ。」
「私は負傷された兵士を見舞いに参りますので、後の事は宜しくお頼みします。」
「殿、何卒宜しくお願い申し上げます。」
菊池のお殿様は負傷した兵士を見舞いに行くと。
「源三郎様、北の方角に官軍の駐屯地でも有るのでしょうか。」
「森田様は見られておられませんでしたでしょうか。」
「私達が菊池を出た頃はまだ官軍兵の姿は殆ど見る事は御座いませんでした。」
飯田、上田、森田の三名は菊池を出た頃にはまだ大きな戦は開始されたおらず、北に向かった三名は官軍兵を見る事はかったと、だが今は中隊規模の兵が来ると言うのはやはり北側には大きな駐屯地が有ると見て間違いは無い。
「左様ですか、まぁ~一度偵察も考えねばなりませんねぇ~。」
「あの~。」
「吾助さんは何も心配される事は有りませんよ、幾ら官軍でも我が国に侵入する事は出来ませんのでね。」
吾助もだが店の者達にはやはり心配だったのか、殆どの者が震えて要る様にも見える。
そして、暫くして工藤が戻って来た。
「工藤さんも大変だったですねぇ~。」
「私も正か官軍兵が中隊規模で来るとは考えてもおりせんでした。」
「私もですよ、其れで如何でしょうか、数日後に北側を偵察しては。」
「私も同じ考えでして、其れよりも戦死された兵士ですが、全員が側頭部に弾丸が命中しおりまして即死で御座います。」
「頭に命中したのですか、う~ん何か対策を考えねばなりませんが。」
「私も監視所がどの様に作られて要るのか知りませんが、若しや監視所と申しておりますが小屋の様な作りでは無いと考えられます。」
「総司令、只今戻りました。」
高野も戻って来た。
「高野様、その後は如何でしょうか。」
「監視所には別の小隊が任務に就いており、ですが狼はまだに減ってはおりませんので向こう側の扉を降ろし、出入りは出来ません。」
「そうですか、では少しお伺いしたいのですが、監視所はどの様な作りになって要るのでしょうか。」
「作りならば一応小屋の作りになっておりますが、我々は二又方向を重要だと考え、北側と東側だけは大きな開口となっておりまして、その開口部からの銃弾が命中したと考えられます。」
「では今後は北側と、いや全てに小さな開口部に変える必要が有りますねぇ~。」
「私も同じでして、今直ぐには無理としましても数日後には補強する様に考えております。」
「では、出来るだけ早く取り掛かれる様に宜しくお願い致します。」
源三郎も対策を考えるが今は何も浮かばずに要る。
其の頃、げんたも兵士の頭に弾が命中し即死だと知り、何か必死で考えて要る。
「う~んやっぱり鉄の兜と胸からお腹まで守る様な物を作るとするか。」
げんたは紙に絵を描いて要る。
「よ~しこの方法で作って貰うか。」
げんたは数枚の紙に絵を描き大手門を出、菊池の鍛冶屋へと走って行く。
「高野様、私も大至急対策を考えますので。」
「私も兵士に聴きたいと思っております。」
「では宜しくお願い致します。
私は一度戻りますが、何か有れば何時でも連絡頂ければ宜しいので、其れと吾助さんからお預かりした目録ですが、これも持ち帰らせて頂きます。」
源三郎とげんたと鈴木に上田は野洲へと戻って行く。
そして、数日後、菊池の鍛冶屋がげんたを訪ね浜にやって来た。
「あの~げんたさんの家は。」
「あ~それだったらあの家だよ、多分今頃は家に要ると思いますよ。」
菊池の鍛冶屋は荷車を引いてげんたの家に来た。
「あの~げんたさんは、私は菊池の鍛冶屋でして。」
「はい、今は隣の作業場ですが其のままどうぞ。」
鍛冶屋が作業場に入り。
「げんたさん、やっと出来ましたよ。」
「本当ですか、よ~し後はオレが。」
と、げんたは急ぎ作業を始め、其れは兵士達の頭を胸を守る為の鉄兜と胸当てで有る。