第 44 話。凱旋帰国。
話は少し戻り、源三郎達が野洲を出発し大きな入り江へ向かう頃、山賀では正太が中心となり新たな粘土を採掘出来る所を探して要る。
「なぁ~正太、粘土って言うがどれだけ要るんだ。」
「どれだけってそんなの物凄く沢山要るのは決まってるんだ、この下に有る洞窟にもどれだけの連岩が要るのかも分からないんだからなぁ~。」
「其れって落盤した所にも使うのか。」
「オレもあんまり詳しくは知らないんだ、だけど技師長が此処に何か大きな物を造るって、若様が言ってられるんだ。」
「大きな物って一体何を造るつもりなんだろう。」
「若様もまだ知らないって、だけど源三郎様と技師長の話しだけど何とかの基地だって、オレもそれ以上は知らないんだ、だけど連岩が大量に要る事だけは確かなんだ。」
と、話しながらも北の草地へやって来た。
「正太、あそこを見てみろよ。」
「えっ、どこだ。」
正太は仲間が指差す方を見ると、僅かに大木の成長が変わった場所が有る。
「窯元さんの話しで粘土の有る所は水捌けが悪いから木の成長も遅いって。」
「そうかだったらこの場所に粘土が有るかも知れないなぁ~。」
其れは長さにして一町以上も有り、幅にして五間から六間の大木が他の大木とは明らかに成長が遅い。
「じゃ~付近を掘って見ようぜ。」
正太達は熊笹を刈、表面の土を一尺程掘ると。
「やっぱりだ、やっぱり粘土だぜ。」
「よしじゃ~他の所も掘って見るか。」
正太達は五間程離れた所も掘ると。
「正太、間違いないよ、この付近は全部粘土だぜ。」
「よ~し一度戻って若様に言って見るよ。」
「そうだなぁ~、やっぱり若様の許しは要るからなぁ~。」
正太達はお城へと戻り。
「若様、相談が有るんですけどいいですか。」
「正太さんの相談って何か知りませんが恐ろしいですねぇ~。」
と、若様は笑うが。
「もう若様、オレは真剣なんですからね。」
「申し訳有りませんねぇ~、冗談ですから、其れで相談と言われるのは。」
「実はだいぶ前の話しで窯元さんから何処かに粘土の取れる所は無いですかって言われたんですよ。」
「では松川では粘土が取れないのですか。」
「其れが違うんですよ、窯元さんは今粘土の取れる所まで一里以上も有るんで往復すると半日以上は掛かるんで物凄くもったいないって言われてるんです。」
「ですが兄上は何も申されてはおりませんでしたよ。」
「多分、若殿様は若様に余計な心配を掛けるって思われたと思うんですよ、其れでオレ達はその頃から山賀でも粘土の取れる所は無いかって探してたんです。」
「ああ其れですか、時々正太さん達の行き先が分からなかったのは。」
「若様には悪かったと思ってますけど、其れがやっと見付かったんです。」
「やっと見付かったって、粘土の取れる所ですか。」
「其れが北の草地なんです。」
「其れは本当ですか、では今からでも行きましょうか。」
「いいんですけど、もう陽も暮れますよ。」
「じゃ~明日の朝にしましょう。」
と、若様の即決で正太と仲間は大喜びで採掘現場へと戻って行く。
そして、陽の明けた早朝、若様と正太、其れに仲間の数人が北の空掘りから草地へと向かい半時程で着いた。
「正太さんが見付けられた所ですがどの付近ですか。」
「若様、こっちの方です。」
と、仲間が先頭に粘土が有ると言う所に来た。
「此処なんですよ、ほら粘土に間違いは無いと思うんですけど。」
若様は昨日正太達が掘った土を手に取り。
「うん、これは間違い無く粘土ですよ、其れで何処まで有るのですか。」
「昨日、オレ達が調べたところではこの先一町程も有るんです。」
「えっ、一町もですか、ですが粘土が山に有るとは限らないですよ。」
「其れも分かってるんで、若様、上の方の大木ですけど少し離れた木と同じですが、向こう側の木とこの上に有る木ですが太さも長さも全然違うんで、これは直ぐ下は粘土って言う証拠って思うんですよ。」
「確かに両方の大木を見ると同じ大木ですが明らかに成長の違いが分かりますねぇ~、では一度窯元さんに来て頂き見て頂きましょう、結論は其れからでも良いと思いますので。」
「だったらオレが今から行きますんです。」
正太は若様の事だ必ず窯元に確認させるだろうと考え馬を用意して置いた。
「まぁ~其れにしても手回しの良い事ですねぇ~。」
「オレ達は若様の事だから絶対に松川の窯元さんに確認させると思ったんです。」
「正太さんは私の頭の中を覗いたのですか。」
「そんな事はしませんよ、だってオレが若様の立場だったら同じ事を考えますんで。」
「正太は若様になるのか。」
「例えばの話しなんだ、オレだって若様の気持ちも分かるんですよ、其れに若殿様の事も有りますから。」
「ではお願いしますね、兄上には私が後程書状を送りますと伝えて下さい。」
「はい、じゃ~行って来ますんで。」
正太の仲間数人が馬を飛ばし松川へと向かった。
「やっぱりなぁ~若様の決断は早いよ。」
「その様な事は有りませんよ、ですがこの問題は急ぎますからねぇ~。」
「若様に聴きたい事が有るんですが、落盤事故の有った所なんですけど技師長は何かを造るって聞いたんですけど、源三郎様は何か言われてるんですか。」
「実はですねぇ~、あそこに潜水船の建造と隠せる場所が作れるって技師長が言われたんですよ。」
「でもあそこは危険な場所なんですよ。」
「其れは私も分かっておりますが、義兄上も別の場所を探さなければならないって言われてたんです。」
「と、言う事はですよ、何処かと戦でも有るんですか。」
「其れは今は分からないんですがね、ですが官軍は必ず洞窟は見付けるだろうから発見されてからでは遅いと義兄上も考えておられ、其れで以前より探しておられましてね、今回落盤事故の有った所を見られ此処に新たな基地を造る段取りで進めておられるのです。」
「じゃ~落盤事故が有ったのが幸いしたんですか。」
「其れは何とも言えないですが、あそこならば官軍も調べる事は出来ないだろうと申されておられます。」
だがこの話しは源三郎が言ったのでは無く、全て若様の想像で、だがげんたは潜水船の基地には最高の条件だと考えており、数日後、源三郎が上野から驚愕の内容を聞かされるとは若様も全く考えていなかった。
「だったら粘土って物凄く沢山要るんですか。」
「私も全く予想は出来ませんが、今まで以上に要る事だけは確かだと思いますよ。」
「でも粘土って直ぐ崩れるって聞いたんですけど。」
「其れでは一度後藤さんにも話しを聞かなければなりませんねぇ~。」
「後藤さんって誰なんですか。」
「正太さんはまだ知らないと思うんですが、土木の専門家でしてね、今菊池から狼の侵入除けの柵と大小の池を造られてるんですよ。」
「じゃ~オレ達が聞いてもいいんですか。」
「勿論ですよ、現場で工事に入るのは正太さんと仲間ですからねぇ~。」
若様はこの時源三郎が大きな入り江の浜に集結して要る官軍の元に向かって要るとは知らずお城へ戻り話は大きく変わるので有る。
「若様、野洲より伝令で~す。」
と、伝令兵は源三郎達が向こう側に向かったので山賀では警戒を厳重にせよと伝えられ驚き、若様は小川と更に日光隊、月光隊の案内で向こう側に向かった。
その様な事態になれば正太達が進める工事は早くなるのか、其れとも暫くの間でも中止する事になるのか正太には全く理解出来ないが、思わぬ事が原因で数日後源三郎達が戻って来た。
源三郎の剣幕は凄まじく、若様も吉永も何も言えず一体何が有ったんだと正太は思うが、今の源三郎に聞く事はとてもでは無いが無理で、其れでも数日経つと源三郎も何時もの調子に戻り。
「オレ達は連岩作りに沢山の粘土が要るって、其れで山賀の山でも探してたんですけど北の草地で沢山有るのが分かったんです。」
「では正太さんは北の草地から大量の粘土を採掘されるのですか。」
「其れで若様が後藤さんに相談すればいいって言われたんです。」
「そうでしたか、後藤さんならば色々な事でもご存知ですから聞いて頂いても宜しいですよ。」
「じゃ~今からでも聞きに行って来ますので。」
正太と仲間数人が後藤の所へと向かった。
其の頃、後藤と吉三組は官軍の駐屯地へ再度向かう為の準備を進めていた。
「後藤さん、お忙しいところ申し訳有りませんが是非教えて欲しい事が有るんですがいいですか。」
「宜しいですが一体どうされたんですか、出来ればお話し下さい。」
「申し訳有りません、実は。」
と、正太は連岩を作る為の粘土が大量に必要で色々と探した結果北の草地で大量に有るとわかり、どんな方法で採掘すれば良いのか聴きに来たので有る。
「その様な訳だったんですか、よ~く分かりました、では私の知る限りお話しますので。」
後藤は正太達に詳しく説明し書き物として残す事にし、その後数日掛け書き出し正太に渡した。
「わぁ~これは物凄い量だ、でも後藤さん、本当に有難う御座います。」
「いいえ、ですがこれだけは申して置きますが、くれぐれも落盤事故だけは起こさないで下さいね、若しも落盤が起き粘土に埋まれば誰一人として助かる事は不可能ですから、私が書き出した内容はどんな事が有っても守って下さいね。」
「はい勿論で、オレ達は慎重にも慎重に工事をやりますんで絶対に無理はしませんから。」
「そうですか、では皆さんにもくれぐれも気を付けて下さいと伝えて下さい。」
「はい、本当に有難う御座いました。」
正太は後藤が書き出してくれた数十項目に及ぶ注意事項と工事の進め方に何度も目を通し仲間と数日間掛け話し合いを行ない再び北の草地へと向かった。
そして、其の数日前に。
「皆さん、間も無く私達の国に着きますからねもう大丈夫ですよ。」
飯田、森田、上田の三名は馬車数十台を連ね、野洲に、いや菊池の隧道へ残り数日となる所まで戻って来た。
三名は江戸で、いや東京で大成功し最初の農民達と陽立屋の数十人の使用人、更に敵対していたはずの相手方の使用人の百数十名で、彼らは東京での生活は苦しく、更に他の店からも命を狙われており、飯田達と同行する事になった。
馬車には機織り機が十台以上と巻き糸の全て、他にも色々な機械や模型を乗せて要る。
飯田達が何故東京を無事出る事が出来たのか、其れは官軍の上層部に故郷で官軍の軍服を作る為だ説得し、上層部からは検問所で見せる様にと特別の書状を受け取り何れの検問所でも疑われる事も無く此処まで来た。
飯田達が連合国に戻って来るのは数年、いや十年振りで服装も髪型も明示時代に即応しており、若しも菊池の兵士達が見ても全く理解出来ない姿になって要る。
其の頃、源三郎達は連合国へ向け出発した。
「なぁ~あんちゃん、又山を登るのか。」
「其れが一番早いですからねぇ~。」
日光隊の兵士数人が少し遅れる様に歩いており、源三郎は正かとは思うが日光隊に後方を監視する様に指示を出していた。
「総司令、今のところは大丈夫です。」
「分かりました、では大岩の方へ参りましょうか。」
源三郎達は夕刻近く大岩に着き、月光隊が歩哨に、日光隊は食事の準備を進めた。
「げんたは軍艦を見て何か得るものは有りましたか。」
「まぁ~ね、オレの頭の中では次の潜水船を書き始めてるんだ。」
「やはりでしたか、次の潜水船では何か大幅に変更するのですか。」
「そうだなぁ~、まぁ~大きな変更は鉄で造ろうと思ってるんだけどなぁ~。」
源三郎の思った通りだ、げんたの事だ軍艦は鉄で造られて要るが船底からは海水は入って来ない、ならば潜水船にも同じ方法で造れば海水は入って来る事は無いが問題は鉄の板をどの様な方法で造ると言う。
「ですが鉄の板ってどの様な方法で造るのですか、其れに山賀には其の様な機械は有りませんよ。」
「だからその方法を考えてるんだ、オレはねぇ~絶対に造ってロシアの軍艦を沈めてやるんだから。」
げんたもロシアの軍艦を迎え撃つのだと言う、だが何時出来るのかさえも分からない。
「飯田殿、我々は良くも此処まで来られましたねぇ~。」
「其れなんですが、私達は最初の農民さん達を助けた、これが一番大きな収穫だと思って要るのです。」
「確かに其の様ですねぇ~、我々は江戸が何処に有るのかさえも知らなかったのですから。」
飯田、上田、森田の三名は幕府の動きを探る為野洲を発ったが、彼らも連合国の外は全く知らず、だが有る村で村人四十数名の命を助け、これが運命の分かれ道になるとは、其の時には全く分からず途中で一夜を借りた寺の住職から直接江戸には入らず途中に陽立の国が有る、其処で江戸の情報を得てからでも遅くはないと、だが陽立の国に入り有る村の名主が江戸に有る陽立屋と言う取引先から長い間手紙が届いていないと其れを調べて欲しいと依頼された。
そして、江戸に入る為最後の関所に着いたが役人の姿も無く、目指す陽立屋に行くと江戸の町には幕府の役人では無く、官軍と言う明示新政府の役人らしき兵隊が江戸市中を完全に掌握しており、話には聞いていた江戸の町とは全く別の世界に入り込んだので有る。
そして、陽立屋を立て直すべく奮闘するが、飯田達は商いの事は全く素人で一体何から手を付けて良いのかも分からず、店の仲間が何気なく作った服が明示政府の陸軍の目に留まり、数万着もの軍服の注文を受け、その後は市中の男達が着れる服を考案し、その服も爆発的に売れ店は大繁盛した。
そして、数年後には海軍からも注文を受け、彼らはこれが潮時と考え、海軍の上層部には故郷でも作りたいと話しを持ち掛け、その後に話は通り今故郷で有る野洲へと戻る途中で有る。
「其れにしても良くもまぁ~我々の話しを信用したものですなぁ~。」
「そうですよ、私も飯田殿の見事な話術にはほとほと感心しておりますよ。」
「ですが私は余り深くは考えおりませんでしたよ。」
「ですが何故あの様な話しを思い付かれたのですか。」
「実はその数日前、私が海軍省に行った時の事で。」
「あ~あの時の話ですか、では其の時に海軍省の上層部から何か話しが有ったのですか。」
「私は其の時には余り関心が無く、ああそうですかと言うくらいで真剣には聞いて無かったのです。」
「私も良く覚えておりますよ、軍の上層部では今にも攻めて来る様な話しをされておられましたが。」
「ええ、其れが鹿賀の国近くで大きな軍港を建造するとか言う話しでして、ですが私は最初鹿賀の国がどの辺りに有るのかさえも知らなかったのですが地図を見せて頂いた時、地図には高い山が連なり山の直ぐ近くに漁村は有るだろうが人が住める様な所では無いと書かれて要るのですが、私は其の時、若しや我々の国ではないだろうかと思ったのです。」
「では我々の国は地図上でも記載されていないのですか。」
「正しく其の通りでしてね、陸軍の上層部からもこの山には狼の大群が生息しており猟師以外は誰も入った
事が無いと聞いたのです。」
「飯田殿の申される通りで、我々が住む地に有る高い山には狼の大群が生息し誰も近付かないと知っておりますが、其れと何か関係が有るのですか。」
「其れで、私はこの地の近くに我々の故郷が有るので故郷で軍服を大量に作り海軍に収め、他の部隊にも軍艦を使えば安全に届ける事が出来ると言ったんです。」
「ですが下手をすると我々の国の存在が知られるかも知れなかったのですよ。」
「森田殿の申される通りでして、私も其処で考えたんですよ、海軍省でも我々の存在を知らないので有ればこの機会を逃す事は無いと判断し一気に話しを進めたのです。」
明示新政府は富国強兵の為の殖産興業に乗り出し、其の中の生糸の生産も一貫で、飯田は其の時上州の地に製造工場を建てたと聞いたので有る。
「私は直ぐにでも野洲に戻りたいのですが、その前に上州に行き生糸を大量に仕入れ、その後野洲に戻っても良いと考えたのです。」
「其れで要約納得出来ましたよ。」
「相談もせず誠に申し訳無いと思ったのですが、あの時一度店に戻れば期会を逃すと考えたのです。」
「飯田殿、私も森田殿も別に何も思ってはおりませんので余り気になされなくとも宜しいですよ。」
上田も森田も飯田が海軍省に行ったのは知っていた、だがその様な話しになって要るとは思いもせず、それに飯田も話すのを忘れていた。
「ですが馬車十台とは正しく大量に仕入れたものですなぁ~。」
「私は後日、今の五倍、いや十倍は必要だと思いましてね上層部に直訴したのです。」
「ですが金子が足りなかったのでは御座いませんか。」
「其れですが、海軍省も我々の店に支払う金子ですが一部の支払いだけで後程全てを支払うと言うので、私はこれを逆手に取りまして生糸の支払いは海軍省が支払うので我々が必要な分量を渡して欲しいと一筆を書いて貰ったのです。」
「ではあれだけの分量の支払いはされておられないのですか。」
「まぁ~海軍省も弱目を見せたと言う事でしてね、其れで私は荷物を降ろしたら直ぐ戻り、其れこそ今の数倍の生糸を受け取るつもりなのです。」
まぁ~其れにしても上手く物事が進んで行くものだ、今の馬車にも数年分の生糸が積み込まれて要るが、飯田は野洲に荷物を降ろし直ぐ戻ると言うが一体何台の馬車を持って行くつもりだ。
「飯田殿は何台の馬車を持って行かれるおつもりなのですか。」
「出来るならば全ての馬車で行くつもりですが。」
と、飯田は言ったが何台の馬車が連ねて要るのかも知らない。
「飯田殿は何台の馬車が連ねて要るのかご存知でしょうか。」
「何台と申されましたが、まぁ~三十台くらいは有ると思って要るのです。」
「いいえ、それどころで有りませんよ五十台、いや六十台近くは有ると思いますよ。」
飯田は何時も先頭を進み、上州に行くまで何度と無く追加され、其れが今では六十台以上になって要る。
「え~正かその様な台数になって要るとは全く知りませんでした。」
「まぁ~其れも仕方御座いませぬ、今まで通った検問所で追加の食料と言う名目で二十台近くが追加されていたのですからねぇ~。」
「では官軍の検問所で追加されて行ったのですか。」
「其の通りでして、森田殿がこれだけの人数と馬車が連なれば宿場では泊まる事は出来ないと検問所の役人に申しましたところ、ではと言う事で米俵や野菜を積んだ馬車が数台づつ追加されて行ったのです。」
「森田殿、私は何も知らなかったとは申せ、森田殿にも上田殿にも何も相談せず勝手に物事を進め、誠に申し訳御座いませぬ。」
「いいえ、私達も飯田殿の苦労を思えば何の事も御座いませぬ、ですが一番の問題が有るのですが。」
「上田殿が一番の問題と申されますのはどの様な事で御座いますか。」
「其れがこれだけ大量の荷物を一体どの様な方法で山を越すかと言う問題でして、私も数日前から考えて要るのですが、後数日で着くと言うのに何も策が浮かんで来ないのですよ。」
「そうか、私は上田殿の申されるまで全く考えておりませんでしたが、其れは大問題で御座いますなぁ~。」
「我々は何も考えずに、特に機織り機などはあれ程にも重いのだとは考えておりませんでしたからねぇ~。」
「これは大問題だ、何か策を考えねば折角の苦労が全て水の泡となりますよ。」
三人は何も考えず重い機械を積み野洲に戻る事だけを考えていた。
三名が野洲を発ち、菊池の海岸沿いに出国した、だがその後菊池には隧道が完成して要る事は知らず、三名はどんな方法で山を越せば良いのか其れだけを考えるので有る。
「げんた、明日には山賀のお城に着けますよ。」
「そうか明日は山賀か、其れにしても今度は長かったなぁ~、あんちゃんは又行くのか。」
「今のところは考えておりませんよ、後藤さん達に任せておりますのでね。」
「そうだなぁ~、まぁ~オレも暫く家で考える様にするよ。」
「其れが良いと思いますよ。」
そして、まだ陽の昇らぬ寅の刻の四つ半に大岩を発ち昼前には早くも下りに入った。
「総司令、向こう側からは誰も来ておりません。」
「左様ですか、ではお昼に致しましょうか。」
源三郎達は下りに入り少し行った所でお昼の休みを取り、半時程で又下り始め、山賀の下りは正太達が造った道が有り予定よりも早く進んで要る。
「お~い正太、誰か分からないが山を下って来るぞ。」
「えっ、若しかすれば官軍の奴らかも知れないぞ、誰か小川さんに知らせてくれ、其れと若様にもだ。」
其の時にはもう数人が馬を飛ばしお城へと向かって要る。
「だけどあそこはオレ達だけが知ってる所なんだぜ、官軍の奴らには絶対にばれる様には造って無いんだけどなぁ~。」
正太達は源三郎達が向こう側に有る官軍の駐屯地へ行った事を忘れていた。
「だけど絶対に見付からないと思ってるのはオレ達だけで若しもって事も有るんだぜ。」
「確かにそう言う事も有り得るなぁ~、まぁ~奴らだって馬鹿じゃないんだから付近を調べてる時に何かの拍子で山に登れる道が見付かる事も有るんだぜ。」
「そうだなぁ~、じゃ~みんなに知らせて奴らは絶対に入れさせない様にするんだ。」
正太と仲間が手分けし山の上を見張り、暫くして小川と一個中隊、若様が飛んで来た。
「正太さん、官軍が山を下ってるって聞きましたが。」
「若様、まだ山の上なんですが時々熊笹が揺れるんですよ。」
正太達が指差す方向を見ると確かに熊笹が時々揺れるて要るのが大木の間から見え、その場所は正太達が造った道の付近でないのか。
「あの方向は正太さん達が道を造られたのでは有りませんか。」
「ええ、そうなんですけど、向こう側に居る官軍の奴らが見付けたと思うんですよ。」
「若様、若しかすれば総司令では御座いませぬか。」
「そうでしたねぇ~、義兄上が向こう側に参られておられるのでした。」
「えっ、義兄上様って、正か源三郎様が、あっオレは飛んでも無い事を。」
「正太さんを責める様な義兄上では有りませんよ。」
「だって、オレは官軍の奴らって。」
「まぁ~ねぇ~、それ程にも向こう側に長い間おられたと言う事ですよ。」
「若様、自分達がお待ちしておりますので。」
「では私は城に戻り湯殿と食事の用意をして置きますので。」
「じゃ~オレ達は。」
正太はてっきり源三郎に怒られると思い顔は青ざめて要る。
「正太さんも此処で義兄上を待って下さい。」
「え~そんなぁ~、オレはもう恐ろしいんですよ。」
「何が恐ろしいんですか、正太さんは何か悪い事でもされたんですか。」
「そんな事は有りませんが、でもオレが源三郎様と官軍と間違ったんですよ。」
「正太さんも皆さんも義兄上はその様な事で怒られる様なお方では有りませんよ、むしろ良く見ていたと申されると思いますよ。」
若様は源三郎がそんな簡単に怒る様な人物では無いと言うが、正太達にすれば普通の間違いでは無く、官軍と間違った、其の方が問題だと思って要る。
「まぁ~まぁ~余り心配せず義兄上を待ってて下さいね、小川さんも宜しくお願いします。」
と、若様は笑いながらお城へと戻って行く。
そして、一時半程が過ぎた。
「暫く振りですねぇ~。」
「あ~、オレもやっと戻って来たって感じだ、えっあれは。」
源三郎達の前に正太と小川が、更に一個中隊が戻って来るのを知ってたかの様に立って要る。
「一体どうされたんですか、正太さん達の顔が青白いですよ。」
「いいえ、何でも無いですよ。」
と、言うが、正太達は下を向いたままで有る。
「小川さん、一体何が有ったのですか。」
「実はですねぇ~。」
小川が今までの話しをすると。
「其れは本当なんですか、何と面白い話ですかねぇ~、私が官軍兵ですか、これは実に面白い笑い話になりますよねぇ~。」
と、源三郎達は大笑いするが正太達は笑い話どころの騒ぎでは無い。
「ですがさすがに正太さん達ですねぇ~、此処で大変な仕事をされ、更に山の上も監視されて要るとは私ではとてもでは有りませんが出来ませんよ。」
やはり若様の言った通りになった、と思う正太で有る。
「じゃ~源三郎様はオレ達を。」
「私が正太さん達を責めるのですか、そんな事すれば、其れこそ私は世間の笑い者になり、表を歩く事も出来なくなりますよ。」
「総司令、若様が湯殿と食事をと申されておられますのでお城の方へ。」
「そうでしたねぇ~、では正太さん達も一緒に参りましょうか。」
源三郎達はお城へと向かった。
「皆さん、明日はいよいよ我々の故郷に入れますよ、其処は幕府、いや明示政府も官軍も知らない所でしてね、皆さんはゆっくりとして頂けると思いますよ。」
「あの~社長様、私達も一緒に行けるんですか。」
「勿論ですよ、今の我々が有るのは皆さんがおられるお陰なんですからね。」
「そうですよ、我々三名は皆さんを誰よりも信頼出来る仲間だと思って要るのですからね、何も心配される事は有りませんよ。」
「そんなぁ~、私達が今生きてるのもあの時社長様に助けられたお陰で、其れにお仕事もさせて頂き、私達はもう何も望むものは無いんです。」
彼らは飯田達が最初に助けた村人で、だが今では飯田達には無くてはならない存在で有る。
「いいえ、其れは駄目ですよ、我ら三名は貴方方抜きにしては何も出来ないのですからね、これからも我らの故郷の人達と一緒に生きて頂たいのです。」
「その通りですよ、私達は貴方方と運命を共にする為にあの時出会ったのですからね。」
「何とお優しいんですか、オラ達の様な者を其処まで信用して下さって。」
「何を言われるのですか、私達は貴方方が頼りなんですよ、ですからこの先も私達を助けて頂たいのです。」
飯田も上田も森田もあの時出会ったのが運命だと思っており、其の証にその後の全てに置いて彼らなしには何事も始まらないので有る
「さぁ~今夜はゆっくりとしましょうか、明日は我々の国ですよ。」
そして、飯田達は明けの朝早く発ちお昼前に隧道近くの二又に来た。
「もう直ぐですからね皆さん頑丈ましょうか。」
「小隊長、二又付近から馬車を連ねた百人以上が近付いて来ます。」
「官軍か幕府軍の残党ですか。」
「其れが今まで見た事も無い着物を着ておりまして女性も大勢おり、野盗でも無いと思うのです。」
「分かった、もう暫く様子を見よう。」
だが飯田達は方向を変えるでも無く真っ直ぐ近付いて来る。
「上田殿は何か策でも浮かびましたか。」
「いや其れが何も浮かばないのです。」
飯田達は隧道の有る事も知らず、そして。
「貴方方は一体何処に向かわれるのですか。」
と、突然官軍兵が姿を現し、飯田達は驚くのも無理は無く、陸軍省も海軍省も自分達の国が有る事も知らないはずで、其れが何故突然官軍兵が現れたのだ。
「私達は決して怪しい者では御座いませぬ。」
「では何故この道を通られるのですか。」
「我々はこの先に有る海岸沿いの道を通りたいのです。」
「今はその様な道は有りませんが、一体どちらに行かれるのですか。」
「私は野洲の飯田作衛門と申しまして、源三郎様の命を受け幕府の情報を得る為に。」
「えっ、今源三郎様と申されましたが。」
「小隊長、総司令の事ですよ。」
「大変失礼致しました。
総司令の命を受けられたお方とは存ぜず誠に申し訳御座いません。
君は大至急高野司令に、そして、君は総司令に伝えて下さい。」
伝令兵は馬を飛ばし隧道へと消えて行く。
「貴方方は一体。」
「私達は連合国軍でして、幕府の残党や官軍が侵入するのを阻止する為の部隊でして、ですが今お話ししてもご理解は出来ないと思います。
其れよりも其のままお進み下さい、私の部下がご案内致しますので。」
飯田も上田も、其れに森田も狐に騙されて要るのでは無いかと思うが、今は兵士の案内で進むしかないと、隧道を暫く行くと突然開け、其処が菊池で有る。
「高野司令、大変です、野洲の飯田様と名乗られるお方が馬車数十台と百人程共に入って来られます。」
「えっ、野洲の飯田様ですと、これは大変ですよ、総司令にも。」
「先程、野洲にも伝来が向かいました。」
「そうですか、誰か湯殿と賄い処にも百人程が来られますと、其れと殿にも私は直ぐ参りますので。」
高野も大急ぎで出口へと向かった。
「私は正かこの様な隧道が出来て要るとは夢にも思いませんでしたねぇ~。」
「いゃ~其れは私も同じですよ、一時はどの様にして馬車と荷物を運べば良いのかと思いましたが、正かとしか言い様が有りませんねぇ~」
飯田達が驚くよりも一緒に来た者達はただ唖然とし馬車を進めて行く、其処へ高野が駆け付け。
「私は高野と申します、飯田様と上田様に森田様で御座いますか。」
「はい、私が飯田で御座いますが、先程の兵隊さんは官軍兵では御座いませぬか。」
「飯田殿、やはり我らの国も官軍に滅ぼされたので御座いますかねぇ~。」
「私も其の様に思います。」
「皆様方、左様では御座いませぬ、先程の兵士は全員が我が連合国軍の兵士でして、決して官軍兵では御座いませぬので、お話しは後程に皆様方もお疲れではと思い私の勝手では御座いますが、湯殿とお食事の用意を致しておりますので其のままお城へ来て頂たいのです。」
「分かりました、皆さんこの間々お城へ向かいますよ。」
高野が先頭になり飯田達百人以上と六十台近くの馬車はお城へと向かった。
お城へ向かう途中城下の人達は初めて見る洋服と言う名の着物に興味津々と言う顔をして要る。
「高野様、この人達は。」
「源三郎様のご配下で長い間幕府の動向を調べておられた方々ですよ。」
「なぁ~んだ、やっぱり源三郎様のお仕事をされてたのか、其れにしても何と言うんですか其の着物は。」
「これは洋服と言いましてね東京では誰でも着てるんですよ。」
「ねぇ~東京って何処なんですか。」
「そうでしたねぇ~、東京とは以前江戸と申しまして、今は幕府が崩壊し元号も明示と改められ日本国と言う新しい政府が出来て要るのです。」
「何ですか日本国とか明示とかオレは全然分からないんですがねえ~。」
「皆さんもお話しは後程にして頂きたいのです。
此方の方々は大変お疲れだと思いますのでお城で休んで頂く事にしておりますので。」
「まぁ~なぁ~仕方無いか。」
「そうだよ、この人達は江戸、いや東京から来られたんだから今は休んで貰う方がいいんだ。」
と、城下の人達と話して要る途中でお城に着いた。
「さぁ~さぁ~皆様方ごゆるりと、女性方には湯殿にお入り下さい。」
「社長様、本当に宜しいんですか。」
「勿論ですよ、女性方も男性型もお風呂に入り汚れと疲れを落として下さいね。」
「飯田殿達も湯殿へ。」
「私達は後程に先に貴方方が入って下さい。」
「でも私達は。」
「宜しいんですよ、私達はお話しを済ませてから入らせて頂きますのでね。」
「総司令に伝来です。」
「其のままで、あっそうだ、源三郎様は確か山賀に向かわれ、今だ戻ってはおられませんが。」
「では今から山賀に向かいますが、総司令の命を受けられました飯田様、上田様、森田様の三名様と馬車六十台以上と百人程をお連れし先程菊池に入られましたと皆様方にお伝え下さい。」
知らせを受けた家臣はお殿様とご家老様がおられる執務室へと、さぁ~大変な事になったぞ、三名の者達は元幕府の密偵だが、有る事が切っ掛けで農民達と知り合い、いや助けた農民達のお陰で江戸、いや東京で大成功を収め今十年振りにして要約故郷に戻って来たので有る。
だが源三郎は山賀に居ると知り、伝令兵はその足で山賀に向かった。
飯田達は凱旋帰国し、だが一体何を得たのだろうか、そして、馬車六十台には一体何を積んで要るのか、其れも全て源三郎が野洲に戻ってからの話しで有る。