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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 43 話。軍港建設開始か。

 夜が明ける前から炊事班は大忙しで、やはり今日から本格的に始まると聞かされていたのだろうか、だが実際は大工、左官、鍛冶屋とそれぞれで代表となる者を決める為浜で話し合いが行われて要る。


「総司令、いよいよ始まりましたねぇ~。」


「昨日、後藤さんが詳しく説明されたのだと思いますよ。」


「司令長官殿、何が始まって要るのでしょうか。」


「浜でされて要る事ですか、多分代表を決める為の話し合いだと思いますよ。」


「代表と申されますと、何故其の様な者が必要になるのでしょうか。」


「軍隊と同じでしてね、後藤さんの説明を何時も全員集め説明するのでは無く、例えば大工さんの中から数人の代表を選び、後藤さんが代表に説明すると今度は班長、これも例えですが、其の班長に説明すれば班長が残りの仲間に説明すれば良いのです。」


「では後藤さんの指示が現場の大工まで伝わるのですか。」


「ええ、其の通りでしてね、吉三さんも元は農民さんですが、官軍の時代より小隊長や中隊長の指示を受け、其れを仲間に伝えておられましてね、其れが今では吉三組と言う組織となり、吉三さんが後藤さんの指示を仲間に伝える大事な役目となって要るのです。」


「では吉三さんは何時も後藤さんと話し合われて要るのですか。」


「其れは分かりませんが、後藤さんの指示も大事ですが仲間からの提案を後藤さんに説明する事も有りましてね、吉三さんは常に後藤さんの考えておられる事を聞き、仲間には何故其の工事が先になるのか、又、大事なのかを説明されておられますよ。」


「先程仲間の提案と申されましたが、工事の進め方を考えるのが後藤さんの役目だと思うのですが。


「確かに其れも大事だとは思いますが、現場に入れば色々と不都合な事も起きましてね、仲間同士で作業の進め方に付いてお互いが意見を出し、良い方法が有れば、代表、其れが吉三さんの仕事で後藤さんに説明し後藤さんは良い方法ならば直ぐ採用する、これが我々の方法でして全て現場主義と言う方式なのです。」


 上野は軍人だ、軍隊では上意下達、其れは何も軍隊に限った話では無く、幕府の時代でも同じで有った。

 だが源三郎が考えた現場第一主義と言うのは、人間が考えた通り全ての現場で行う事が出来れば何も問題は無い、だが実際は殆ど違い、その為に現場は悪戦苦闘し、その為に余計な日数が掛かり完成が遅れる、其れを現場第一主義に変える事で多くの作業が進んでおり吉三組も経験している。


「上野さん、彼らに任せる方が仕事が捗りますので、私は何も申し上げる必要も有りません。」


「其れならば、私もその現場第一主義と言う方式を採用させて頂きます。」


「其れが良いと思いますよ、後藤さんも時々ですが工事の進捗状況を報告されると思いますが、上野さんは何時までに完成させろとは申されぬ様にお願いしたいのです。

 後藤さんの中でも何時頃までには完成させたいと考えておられますが、実際、工事と言うものは時に何が起きるやも知れませんので、司令本部から工事の進み方が遅いと書状が届きましても、上野さんからは現場の大工さん達には何も言わないで頂たいのです。」


「全て私の胸の内に収めれば宜しいのですね。」


「正しく其の通りで御座います。」


「工藤さん、何でこんな物が有るんですか。」


 げんたが見た物とは。


「技師長、其れが鋲と申しまして真っ赤に焼き鉄の板を合わせる為に一番大事な物なんですよ。」


「へぇ~だけど物凄く有るんだなぁ~、吉川さん、鋲と鋲の間隔を書いて置いて下さいね、其れと、鉄の厚みだけど約一分ってところからなぁ~。」


「やはり技師長ですねぇ~、見ただけで分かるんですから。」


「でもこの軍艦で一体何本の鋲が使われてるんですか。」


「う~ん、其れは分かりませんが、数万本は使って要ると思いますよ。」


「其れと、鉄板と鉄板の間だけど何か黒い物が塗って有る様にも見えるんだけど。」


「其れが重要でしてね、熱を加えると柔らかくなり、冷えると固まりますので一度熱を加えドロドロにして両面に塗り、真っ赤に焼けた鋲を打ち込み冷えるとその部分の隙間は無くなり、其れで水が入らないのです。」


「其れと鉄板一枚の大きさだけど。」


「一応今は畳一畳分と決めておりますが。」


「そうか成る程なぁ~。」


 げんたは何を考えて要るのか、やはり鉄で潜水船を造るつもりなのだろうか、と、誰でも思うのは一緒だ、だが其れよりもげんたの質問が思った以上に少ないと工藤は思って要る。


「じゃ~次だけど一番後ろに有る推進軸を見たいんだ。」


「其れならば機関室に中に有りますので。」


「オレは別に機関室は関係無いんだけど。」


「分かっておりますが、推進軸と申しますのは機関室と繋がっておりますので。」


 工藤とげんた、吉川、石川は軍艦の底に有る機関室へと入った。


「わぁ~物凄く熱いなぁ~。」


「此処が機関室でして、燃料は石炭で御座います。」


「ふ~ん、だけど物凄い暑さだけど兵隊さんは大丈夫なのかなぁ~。」


「勿論大丈夫で、技師長、これが推進軸です。」


「やっぱりなぁ~、完全な真円だ、これは人間の手で造るのは絶対に無理だなぁ~。」


「其の通りでして、まず髪の毛一本の隙間も無いと思います。」


「う~ん、何か方法は無いかなぁ~。」


 と、げんたは早くも腕組みを始め何を考えて要るのか、其れでも四半時程経つと。


「よ~し、上に行こうか。」


 と、其れだけを言うと階段を登って行く。


「ねぇ~この扉だけど水は入らないんですか。」


「内側から閉めますとまず入る事は有りませんが。」


「ふ~ん、そうか、吉川さん扉の絵を描いて下さいね、内側の仕組みもね。」


 吉川と石川も必死で書いて要る。


「推進軸って全部同じ作りなんですか。」


「私は其処までは分かりませんが、これと同等の軍艦を造るので有れば推進軸は同じ作りになりますが。」


「ふ~ん、そうかやっぱりなぁ~同じ物を作るのか。」


「技師長は正か鉄で潜水船を造られるのでは。」


「鉄板って一体何処で加工してるんですか。」


「多分今は九州に巨大な製鉄所が造られて要ると思いますので、其処では軍艦用に加工され作って要るとは思いますよ。」


「オレだって其れは分かってけど、まぁ~聞いただけなんだ。」


 だが今まで聞いて要る内容からすれば、げんたは鉄の潜水船を建造しようと考えて要る様にもと思うが、今の連合国では誰が考えても鉄の潜水船を建造するだけの設備も無ければ専門知識を持った人材もいない。


「今軍艦に乗せて有る鉄板を見たいんだけど、其れと道具類も。」


「勿論宜しいですが、今の連合国には鉄で潜水船を建造する為の設備も有りませんが。」


「全部分かってるんだ、だけどどんな道具類が有るのかだけでも見て置きたいんだ。」


「其れならば上甲板に有ると思いますので参りましょうか。」


 げんたの考えて要る事が全く分からない、だがげんたの事だ鉄の潜水船を建造するするかも知れないと。


「技師長、これが鉄板ですが。」


「これか、ふ~ん、やっぱり畳一畳分の大きさか、でも何で曲げてるんだろうか。」


「其れは使う所によって最初に曲げて有るんですよ。」


「そうか最初からねぇ~、ふ~ん。」


「技師長、これも寸法を欠いて置きますので。」


 吉川と石川が鉄板の寸法を書いて要る。


「これが鋲の入る穴か、だとすると鋲の大きさを考えると成る程なぁ~、でもやっぱり工藤さんは物凄いよ、オレだったらこんな事は考えられないんだからなぁ~、で吉川さんと石川さん全部書いてくれましたか。」


「勿論で、全て書きました。」


「じゃ~引き上げようか。」


「技師長はもう宜しんですか。」


「あっ、そうだ、さっきの鋲とこれに使う道具類が欲しいんだけど無理かなぁ~。」


「まぁ~今は使う事も有りませんので。」


「じゃ~貸して貰えるんですね。」


「やっぱり技師長は鉄の潜水船を建造するつもりなんだろうかなぁ~。」


「いや、私も分からないから聴きたいと思ってるんだ。」


「だけどあの様な聞き方でしたら今にも造るっていいそうですよ。」


 吉川と石川はげんたが今にも鉄の潜水船を建造すると思って要る。


「あんちゃん。」


「もう終わったのですか。」


「ああもういいんだ、全部頭の中に入ったから。」


「其れにしても早かったですが、何が有ったんですか。」


「いや別に何も無いよ、主な事は工藤さんに聞いたから大丈夫だぜ。」


「ではやはり鉄の潜水船を建造するのですか。」


「あんちゃんは何時も簡単に言うけど、考えるのはオレなんだぜ。」


「そうでしたねぇ~。」


 と源三郎は含み笑いをし、だがげんたの表情を見て要るとやはり造ると分かったがげんたが言う様に簡単には行かないかも知れないはずだ。


「まぁ~オレも色々と考える事が有るからなぁ~、全部解決すればの話しだけど、まぁ~オレの考えてるのはあんちゃんでも理解出来ない物なんだ。」


「私にも理解不能な物ですか。」


「まぁ~ねぇ~、其れもこれからゆっくりと考える事にするよ。」


「そうですか、では楽しにして置きますのでね。」


 源三郎にも理解不能だと言うが、一体何を作るつもりなのだ。


「鍛冶屋さんにお願いが有るのですが。」


「えっ、オレにですか、でも土木技師様の頼みって難しい物なんですか。」


 後藤は鍛冶屋に所に突然現れ、一体何を頼むつもりなのだ。


「吉三さん、あれを持って来て下さい、其れで鍛冶屋さんにお願いと言うのは海の底の砂を取り除く為の道具でしてね。」


「後藤さん、持って来ました。」


「有難う、鍛冶屋さんこれなんですがね、出来れば多く必要になりますので。」


「でもこんなにも大きな物で海の砂が取れるんですか。」


「勿論ですよ、此処の海ですが半町程先までは浅く、其れではとてもでは有りませんが大きな軍艦を入れる事は出来ないのですよ。」


「でも鉄の板は有るんでしょうか。」


「其れならば大丈夫ですよ、軍艦には鉄板は多く積まれておりますので、其れを使って作って下さればいいんですよ。」


「其れで何時まで作ればいいんですか。」


「まぁ~早ければ良いのですが、其れよりも頑丈に作って頂きたいのです。」


「分かりました、其れだったらオレ達で作りますんで。」


「申し訳有りませんが宜しくお願いします。」


 後藤は鍛冶屋に海底の砂を取り除く為の道具を作って欲しいと頼み。


「吉三さん、明日ですが長い縄を数本と杭を十数本用意して下さい。」


「何を始めるんですか。」


「皆さんが工事に入る前にやりたい事が有りましてね、其れと後は海岸の土を掘り出しますのでその道具も用意して下さい。」


「だったら荷車に積んで行きましょうか。」


「いや其れよりも荷馬車に積んで下さい、私は部屋に戻り明日の準備に入りますので。」


 後藤は明日から工事を始めると言うが、吉三はどんな工事なのかも分からない。


 そして、陽が登り辺りが明るくなる頃、吉三組の全員が揃い海岸へと向かった。


「総司令、いよいよ後藤さん達が動き始めましたが。」


「まぁ~後藤さんも色々と考えられたのだと思いますよ。」


「其れと大工さん達もですが左官屋さんも皆が真剣に話し合われておられますよ。」


「今までとは全く違う方式を取り入れられる職人達さん達も驚かれたと思いますが結果的には作業効率が上がるのですから良いと思いますよ。」


「司令長官殿。」


「これは上野様お早いですねぇ~。」


「いいえその様な、其れよりも土木技師さんですが何を始められるのでしょうか。」


「私は何も伺ってはおりませんが、まぁ~あの人達に任せれば大丈夫ですよ。」


 源三郎も後藤と吉三組が何を始めるのか聞いていないと、だが源三郎は後藤が何を始めるのか大よその見当は付いて要る。


「吉三さん、此方の岩と向こう側の岩の近くに長い目の杭を打ち縄を結んで下さい。」


「分かりましたけどその後は何をするんですか。」


「縄を真っすぐにピ~ンと張って所々に杭を打ち込んで頂くだけで宜しいので。」


「じゃ~今からやりますんで。」


「親方、土木技師さんってお人が言ってましけど代表って誰にやって貰うんですか。」


「わしも全然分からないだ。」


 大工だけでも二千人近くおり、後藤が言う代表選びは難航しており、やはり余りにも人数が多い為なのか、だが後藤は直ぐ大工や左官屋達の所には行かず吉三組に指示を出し部屋に戻って来た。


「わしが土木技師さんに聴いて来るよ。」


 しびれを切らした大工の親方と呼ばれる人物が後藤の執務室に来た。


「技師長さんにお話しが有るんですがいいですか。」


「宜しいですよ。」


 後藤はニコニコとして、やはり後藤は待っていたのだろか。


「技師長さん、昨日言われました代表って、わしらはどうして選んでいいのか全然分からないんです。」


「そうですか、では簡単に説明しますからね。」


 と、後藤は親方と呼ばれる人物に優しく説明した。


「そうんなんですか、わしはまた親方が代表になるんだって思ってたんです。」


「親方、吉三組の話しをさせて貰いますとね。」


「私が申します代表と言うのは、私と親方達を中継ぎ役でしてねこれが代表と言う役目でしてね。」


 後藤は其れからも時を掛け説明して行くがその様な説明をして要ると他の親方達も入って来て話しを聞いており、後藤は親方達が来るのを待っていたかの様で有る。


「皆さんのお仕事は大変だとは思いますが、吉三さんは現場と私の中継ぎ役で一番大変な仕事をされておりましてね、これだけ大勢となりますと大変だと思いますが、親方さん達が全て同じ仕事をされて要るとは思わないのです。

 時には大木の切り出しに行って頂く時も有り、ですが私一人が全ての人達に伝えると言う事に成れば次の段取りを考える事も出来なくなり、其れが工事の遅れにもなると思うのです。

 親方さん達が代表とは難しく考えないで私との中継ぎ役を行なって頂けるお方を選んで頂ければ其れで大丈夫なんですよ。」


 大工の親方はやっと分かったのか現場へと戻って行った。


 そして、半時程して今度は左官屋の親方数人がやって来て、やはり大工の親方にしたと同じ話しを一時半以上も掛け優しく説明すると、左官屋の親方達もやっと理解したのか戻って行った。


「技師長さん、宜しいですか。」


 さぁ~今度は鍛冶屋が入って来た。


「宜しいですよ。」


「技師長さん、昨日言われました物ですが一個出来ましたんで見て欲しいと思って持って来ました。」


「そうですか、では拝見させて頂きます。」


 鍛冶屋が見本を基に作った物は如何にも頑丈そうに作られており。


「素晴らしい出来栄えで私は大満足ですよ、其れで後はこれと同じ物を五十個程作って頂きたいのですが。」


「えっ、でもわし一人ではとてもじゃないですけど無理ですよ。」


「勿論ですよ、其れでね鍛冶屋の皆さんにお願いして頂たいのです。」


「其れをわしがやるんですか。」


「親方さんから皆さんにお願いして頂たいのです。

 本当の事を申しますと五十個ではとても足りませんので百個をお願いしたいのです。」


「え~百個もですか、でも何で百個も要るんですか。」


「親方、浜の海底の砂を取り除きますので百個は要るんですよ。」


「だったら物凄い事になるんですねぇ~。」


「そうなんですよ、最初は砂浜に有る大きな岩と岩の間を十間近く取らなければならないんですよ。」


「え~そんなに深く掘るんですが。」


「そうなんですよ、半島の奥に有る軍艦をこの浜に留めると成れば最低でも八間は要るんですよ。」


「技師長さん、わしからみんなに頼んで見ますが、何時まで作ればいいんですか。」


「私は何時までと申しませんが、まぁ~そうですねぇ~、出来るだけ早くお願い出来ればと思っております。」


「じゃ~今度の大工事には一番大事な道具になるんですか。」


「勿論一番重要な工事でね、海底の砂を取り除く事が出来なければ港を造る事は出来ないのです。」


「出来なかったらどうなるんですか。」


「我が国が外国の軍艦から攻撃を受け全滅するんですよ。」


「えっ、外国の軍艦って、わしはそんな話は聞いてませんよ。」


 大変な事になった、一部か全部か分からないが、職人達は何の為に軍港が必要なのか知らされずに来て要る。


 後藤も正かとは思ったがどうやらこの地に来た職人達は本当に何も聞かされていないのか、其れとも話は有ったが話しの内容を理解せず来て要る可能性が有ると思い。


「親方は何も聞かれておられないのですか。」


「技師長さん、わしは全部は覚えてませんが外国の軍艦が攻めて来るなんて聞いた覚えが無いんです。」


「そうですか、ですが今の話は本当なんですよ。」


「何時来るんですか外国の軍艦って。」


「まだ直ぐにとは言えませんが、でも必ず来ると聞いております。

 親方、今の話は誰にも言わないで下さいね、私が有るお方に相談しますので。」


「分かりましたけど、でもこの道具は絶対に要るんですよね。」


 後藤はこの後、源三郎の所へと行き。


「源三郎様、大変な事が分かったのです。」


「一体どうされたんですか。」


「実は鍛冶屋さんに海底の砂を取り除く道具を作って貰い、後百個は作って欲しいとお願いしたのす。」


 後藤はこの後、鍛冶屋が何も聞かされていないと話すと。


「正か、では職人さん達は何故この地に軍港を造るのかも知らないのですか。」


「私は全員では無いとは思うのですが、ですが鍛冶屋さんは話しは聞いていないと申されております。」


「ですが何故其の様な事になったのでしょうかねぇ~、私から上野さんに聞いて見ます。」


 源三郎は上野の執務室へと向かった。


「何故だ、何故に説明も無しにこの地に連れて来たんだ、其れでは軍港を造るのはとても無理だ。」


 と、独り言を言いながら上野の執務室に入った。


「上野様、少しお聞きしたいのですが職人達に何故この地にやって来たのかをお話しされましたか。」


「私は何も聞いておりませんが、職人達には乗船前に政府から来た役人が説明したと聞いております。」


「左様ですか、先程後藤さんが鍛冶屋さんは何も聞かされず此処に来たと言われたそうですが。」


「私は此処に来るまで職人達とは話もせずにやって来まして、其れに職人達からも何も言われておりませんでしたので。」


「そうでしたか。」


 やはり官軍は、いや新政府は何も説明はせずに、上野はこの地に来るまでは職人達とも全く話はしていないと、官軍か政府の上層部にすれば職人達は左程重要では無く、単に将棋の駒と同じ様に見て要るのだろうか、源三郎がこの地に来ても上野は余り職人達の所へは行かず執務室に居る。


「上野様は職人達をどの様に見ておられるのですか。」


「と、申されますと。」


「この地に参りましたが、上野様は何故職人達と話しをされないのか、其れが全く理解出来ないのです。」


「別に話しをする事も有りませんでしたので。」


 やはりか、上野は兵士達には其れなりに話しはするが、職人達とは別に話しをする必要も無く作業を進めてくれれば良いと考えて要る。


「上野様、此処に軍港と造る必要性を職人さん達に話さなければ職人さん達は何時まで経っても本気で仕事はされませんよ。」


「えっ、ですが政府が話しをしたと思いますが。」


「ですがねぇ~、事実鍛冶屋さんは何も聞かれておられないのですよ。」


「では私が今から説明したいと思います。」

 

 と、上野と源三郎、更に後藤や工藤も部屋を出て職人達の所へと向かった。


「こんな事では何時まで経っても軍港は完成せず、其れが問題だと上野は知って要るのか。」


 と、源三郎は独り言を言い腹立たしく思うが、今更何を言っても仕方が無い。


「みんな集まってくれ、話しが有るんだ。」


 上野は一体何を考えて要るのか、この様な調子では職人達の反発を買うだけだと思うが、暫く待つ事にした。


「君達はこの地にやって来た理由を知って要るのか。」


 職人達は何も言わない。


「どうだ誰か聞いた者はいないのか。」


 全てが命令口調で有る。


「君達は返事も出来ないのか。」


「上野様、少し待って下さい。」


「何故ですか、私は職人達に聞いて要るんですが、彼らは何も言わないのですよ。」


「職人さん達は官軍の兵士では有りませんよ、ですがご貴殿は職人さん達をどの様に見ておられるのか分かりませんが、職人さん達にも職人としての誇りが有るのです。

 若しも反対の立場ならば同じ態度を取られると思いますが如何でしょうか。」


 上野は何も言わず、何かを考えて要る様だ。


「私が皆さんに説明しますので宜しいでしょうか。」


「分かりました、ではお願いします。」


 と、言って上野は下がった。


「皆さん、私は源三郎と申しまして、実は皆さんにお聞きしたい事が有りましてね、宜しいでしょうか。」


 だが職人達は上野が話した後では何も答えず、其れが当然で源三郎も同じ様な調子で話すものと思って要る。


「何故この地に軍港を造らなければならないのか、今からお話ししますのでよ~く聞いて頂きたいのです。」


 源三郎はこの後半時以上も掛け優しく説明した。


「皆さんの中で何かお聞きしたいので有れば、私の知る限りの事は説明させて頂きますので何でも宜しいのでお聞き下さい。」


「源三郎様のお話しだったらロシアの軍艦がオレ達の国を攻めて植民地にするって、だけど此処の海の沖を通るのは本当なんですか。」


「勿論ですよ、私がロシアの大将でしたら近い方を選びますからねぇ~。」


「じゃ~此処に軍艦を集めるんですか。」


「其れも有りますが、この付近で軍港を造れる適当な所は此処しかないんですよ、この入り江ならば軍艦を隠す事も出来ますからねぇ~。」


「だったらわしらの仕事は物凄く大事なんですか。」


「其れは勿論でしてね、此処に軍港を造り、多くの軍艦を集めロシアの軍艦を撃沈出来れば、ロシアは日本国を植民地にする事を諦めるのです。

 そして、他の欧州の強国もロシアの海軍が負けたと分かれば、日本国に戦争を仕掛ける事も無く、日本国民は安心した生活が送れるのです。

 この戦は皆さんと皆さんの家族の為でしてね、日本政府の為では無いのです。」


「そうか、だったらわしらは自分と家族の為に此処に軍港を造るのか、よ~し、わしは今からでもやるぞ。」


「そうだ、オレもやりますよ、ロシアとか言う国の植民地になってたまるもんか。」


「オレもやるぜ。」


 と、その後、職人達は軍港は絶対に完成させ、ロシアの軍艦を沈めるんだと気勢を上げた。


「皆さんは其の前に代表を選んで下さいね、其れと仕事に就いては後藤さんから聞いて頂きたいのです。」


「じゃ~源三郎様は何をするんですか。」


「私ですか、私は何も出来ませんのでね、其れに後藤さんからは口出しするなって怒られるんですよ。」


 源三郎の話しに職人達は大笑いし、これで工事は出来ると確信した。


「後藤さん、わしらは何をすればいいんですか、早く言って下さいよ。」


「皆さん、少し待って下さいね、私にも段取りと言うものが有りますので、そうだ、半島の中央部に宿舎を作りたいんですが。」


「技師長さん、でも何であんな所に宿舎を造るんですか。」


「其れはねぇ~、何れは半島に停泊中の軍艦もですが、同じ所にも軍艦を係留しますので近い所に兵隊さんの宿舎が必要になるんですがね、兵隊さんが来るのはまだ当分先の話しでしてね、其れよりも今は皆さんの宿舎にもなると思うんですよ。」


「だったら明日からでも始めますんで。」


「私はまだ図面も書いておりませんので、そうですねぇ~取り合えず適当に原木を切り倒して頂けますか。」


「だけど技師長さんも適当に切り倒しって言うんだからなぁ~オレも初めて聞きましたよ、簡単に適当にですよって。」


「そうですかねぇ~、私は何時もこんな調子なんですがねぇ~。」


「源三郎様、オレ達は吉三組さんのお手伝いをさせて貰ってもいいんですか。」


「其れは吉三さんに聞いて頂きたいのです。

 私は吉三組が何をされて要るのかも全然分かりませんので。」


「え~、じゃ~源三郎様は何もしらないですか。」


「全く其の通りでしてね、私が下手に口出ししますと怒られんですよ。」


「でも源三郎様は司令長官様だって聞きましたが。」


「まぁ~ねぇ~、確かに私は一応総司令官と呼ばれておりますが何もさせて頂けませんので、まぁ~今はあんまり追求されますと、私が怒られますのでね皆さん、申し訳有りませんが工事に関しては後藤さんの指示でお願いしたいのです。

 其れと今の話は誰にも言わないで下さいね。」


「源三郎様、そんなのって無理ですよ、今、みんなが聞いてましたから。」


「あっ、そうかやっぱり私は怒られますねぇ~余計な事は言うなって。」


 と、又も大笑いする職人達で有る。


「なぁ~みんな今からわしらも代表って言う人を決めるとしようか。」


「そうだなぁ~、オレも其の方がいいと思うんだ、其れと何時でも仕事に掛かれる様に道具の手入れをしようと思うんだ。」


「よ~し、話しは決まった、みんな分かれて話し合いに入ろうぜ。」


 職人達は別れ今度は真剣に話し合いが始まった。


「上野さん、もうこれで大丈夫ですよ。」


「司令長官殿は見事に話され、私は何も申し上げる事は有りません。」


「職人さん達の立場を尊重して頂ければ自ずと言葉使いも変わって来ると思います。

 仕事はさせるのでは無く、仕事をして頂くのだと言う気持ちでお話しして頂ければ大丈夫ですよ。」


「承知致しました。

 私も今後は気を付けますので、誠に申し訳御座いませんでした。」


 上野は源三郎に頭を下げるが。


「頭を下げるのは私では無く職人さん達にですよ、これだけは今後とも注意して頂たいのです。」


「はい、承知致しました。」


「後藤さん、これで第一の問題は解決しましたねぇ~、其れとお聞きしたいのですが、吉三組さん達は何をされておられるのですか。」


「あれは岸壁造りに入って要るのです。」


「もう岸壁造りですか。」


「はい、一応深さが八間くらいは必要となりますので。」


「技師長殿、何故八間の深さが必要なのでしょうか。」


「参謀長殿、この場所では軍艦は横づけになりますので、空の状態で、更に引き潮の時に接岸し全ての荷物を積み込みますと相当沈みますので、万が一の事を考え余裕を持って八間も有れば大丈夫だと考えたのです。」


「う~ん、これは大変な工事になりますねぇ~。」


「そうでした、参謀長殿、石灰ですが何処かで大量に獲れる所をご存知有りませんか。」


「後藤さんは石灰を何に使われるのですか。」


「源三郎様、石灰の粉と砂と小石を混ぜ練り、水分が無くなりますとこれが岩の様に固くなりますので、石灰の粉が有れば大変助かるので御座います。」


「う~ん、石灰ですか。」


「参謀長殿、確か長州の山で発見されたと聞いております。」


「中隊長、其れは本当なのか。」


「自分は長州の出なので確かな話だったと思います。」


「よ~し、大至急本部に問い合わせてくれ、其れで石灰の粉で有れば大量に必要だから送ってくれと、いや私が認めるから。」


「参謀長殿、其れが本当ならば大助かりで御座います。」


「いいえ、その様な私の方こそ大助かりで、今までは何をして良いのかも分からなかったのですから。」


「これが我が連合国のやり方で、総司令はどなたに対しても決して命令口調の様な言葉使いはされず、全てお願いされるのです。

 私も最初の頃は戸惑いましたが今ではこの方法が慣れて来ましたので命令するよりも早く理解して頂け任務にも仕事に就かれるにしても早く取り掛かれるのです。」


「では兵士に対しでもですか。」


「其の通りでして、今では吉田も小川でもですが、連合国におられる司令官も殿様方も決して命令される事は御座いません。」


「まぁ~まぁ~工藤さん、何事に置いても最初から出来る事は有りませんので、上野さんはこれからは大変ですが、慣れて来ますと皆さんは直ぐ協力して頂けますので大丈夫ですよ。」


「今後は私も十分に気を付けます。」


「源三郎様、工事が本格的に開始されるのはまだ数日は掛かると思われます。」


「そうですねぇ~、私も楽しみにしております。」


「後藤さん。」


「どうされましたか。」


「さっきから掘り出したんですが、土が崩れるかも分かりませんので崩れを防ぐ為の板が要るんですけど大工さんに頼んでも宜しいですか。」


「全て吉三さんにお任せしますので、そうですねぇ~厚みは一寸は要ると思いますよ。」


「だったら山で柵を作ったと同じ板でいいんですね。」


「其れで十分ですよ。」


「だったらオラが大工さんに頼んで来ますので。」


「吉三さん、無理だけは駄目ですよ。」


「源三郎様、オラは日本国の人達の為にやるんですからね、大丈夫ですよ。」


「そうですか、では皆さんにも宜しく伝えて下さいね。」


「はい、じゃ~オラは大工さんの所に行きますんで。」


 傍で聞いて要る上野は改めて源三郎の存在は重要だと思うが、かと言って何時まで源三郎が留まるかも分からず、今後は自分自身を改めなければならないと思うので有る。


「なぁ~親方、さっきの源三郎様ってお方だけど、オレ達の様な職人にも平気で頭を下げられるんでオレ達の方がびっくりしてるんですよ。」


「そうだなぁ~、前の幕府でも侍は偉そうな顔をしてたし、其れに今度は官軍の奴らも同じで自分達が一番だと思ってるんだ。」


「そうですよねぇ~、でも源三郎様って、私は何も分かりませんのでって、そんなの今までは考えられ無かったんだからなぁ~。」


「ロシアの軍艦がわしらの国を攻撃するって、でも其れはわしらとわしらの家族を守る為に軍港を造るんだ、だから皆さんに協力して頂きたいって、あの参謀長でもそんな言い方はしなかったんだからなぁ~。」


「親方、オレはロシアの奴らには絶対に植民地にさせませんからねぇ~。」


「わしもだ、だからみんなで協力して一日でも早く軍港を完成させるんだ。」


「そうですよねぇ~。」


 大工達もだが左官屋も鍛冶屋も同じ様な会話でやはり源三郎の説明が良かったのか、その数日後には数十人の代表と班長とでも言うのか百人以上が決まった。


 そして、その数日後には後藤が鍛冶屋に頼んでいた道具が十個程完成した。


「源三郎様、鍛冶屋さんが昨日までに十個程道具を作ってくれました。」


「そうですか、皆さんには大変なご無理をお願いしまして誠に申し訳御座いません。」


「其れで今は残りも作って頂いております。」


「そうですか、では皆さん少しお待ち下さいね、吉三さん、中隊長さんを呼んで頂けますか。」


 吉三は必ず後藤の傍におり、工事の変更が有れば直ぐ伝えられる様にしており、暫くして中隊長が来た。


「技師長さんがお呼びだとか。」


「中隊長さん、申し訳有りませんが太さが一寸くらいの縄と申しましょうか、軍艦で使って要る物で何んと呼ぶのか分かりませんが有りませんでしょうか。」


「有りますが、長いですが宜しいでしょうか。」


「勿論で、長い方が助かりますので。」


「其れで何本くらい必要でしょうか。」


「では最初ですので三本、いや五本も有れば十分だと思いますので宜しくお願い致します。」


「分かりました、では大至急お持ちしますので。」


 と、中隊長は執務室を出て行く。


「吉三さん、長さがそうですねぇ~一町程の縄は有りましたか。」


「まだ使って無かった縄が有りますんで取ってきます。」


 と、吉三も部屋を飛び出して行く。


「技師長さん、そんなに長い縄を何に使うんですか。」


「其れはねぇ~、鍛冶屋さんに作って頂きました道具を使って海底の砂を取り除くんですが、この間々では使えませんのでね、まぁ~見てて下さい直ぐに分かりますから。」


 暫くして執務室の前に荷車が止まり、数人の兵士が軍艦で使用する丈夫そうなロープを持って来た。


「技師長さん、これは軍艦で使う物で我々はロープと呼んでおります。」


「物凄い長さだと思いますが。」


「そうですねぇ~一本の長さが二町は有ると思いますが、まだ短いでしょうか。」


「いいえ、それだけの長さが有ればもう十分ですが、でもロープは軍艦で使われるのでは有りませんか。」


「其れは大丈夫です、艦には何が有るか分かりませんが、其れに今度の工事でも必要になるだろうと参謀長殿が大量に積み込めと申され、まだまだ有りますのでご心配は有りません。」


「其れをお聞きし私も安心しました、では今から少し加工しますので見てて下さいね。」


 後藤は脇差を抜きロープの端を解し何やら始めた。


「後藤さん、縄を持って来ました。」


 吉三は息を切らして長い縄を持って来た。


「一体何を作るんですか。」


「まぁ~見てて下さいね。」


 後藤は一体何を作るのだろうと中隊長も吉三も、そして、鍛冶屋達も必死で見て要る。


 そして、半時程して。


「これで完成ですよ。」


「何ですかこれは。」


「この道具で海底の砂を取り除くんですよ、そうだ大工さんにお願いして筏を作ってもらいましょう。」


「筏を作って何に使うんですか。」


「漁師さんの小舟では乗れる人数は決まってますので大きい筏が有れば乗れる人数も多くなりますから作業効率も上がるんですよ。」


 後藤は色々な物を思い付き、時には大工に、時は鍛冶屋に作って欲しい物を頼んで行く。


「これが町民さんの力なんですよ、以前の幕府でも侍が一番偉いと勝手に思い込み、其れが今の官軍でも同じなんですよ、上野さんが何故軍港が必要なのか町民さん達に理解して頂けれる様にお話しをすれば後は何もせずとも皆さんが知恵を出して行かれますから。」


「司令長官殿、私も今度ばかりは反省しております。」


「私も何時までもこの地に留まる訳にも参りませんので後は後藤さんと吉三組さん達が工事を進めて頂けると思います。」


「技師長は何を考えてられるんですか。」


「オレはねぇ~、今新しい潜水船を考えてるんだ。」


「ではやっぱり鉄の潜水船なんですか。」


「そうなんだ、だけどどうしても解決出来ない方法が有って其れさえ解決出来ればもう大丈夫なんだ。」


 やはりだ、げんたは鉄の潜水船を建造すると、だがまだ解決出来ない問題が有ると言う、其れは一体何だ、さすがの吉川と石川でも全く分からないが。


「其れって一体何ですか。」


「完全に密封する方法なんだ。」


「えっ、完全に密封するって、でも一体何を密封されるんですか。」


「新しい武器なんだ。」


「えっ、新しい武器って一体何ですか。」


「これはねぇ~多分だけど物凄い威力が有ると思うんだ、まぁ~簡単に言うと小型の潜水船なんだ。」


「小型の潜水船って、でも小型の潜水船が何で新しい武器になるんですか。」


「まぁ~ね、今は其れ以上言えないんだ。」


「技師長が完全に密封出来れば完成するって言われましたが、確か軍艦の継ぎ目の部分に黒いドロドロした物を塗るって工藤さんが言われましたが、そんな物は使えないんでしょうか。」


「あっ、そうかあの時工藤さんが言ってたなぁ~、其れを使えば海水も入らないって、よ~し、これで決まった、うん絶対に出来るぞ、絶対に作ってやるかなぁ~。」


 げんたは一体何を作ろうとして要る。


 そして、二日後、源三郎達は後藤と吉三組だけを残し帰って行く。








   

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