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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 42 話。工事開始は決定か。

「お~い、みんな聞いて欲しいんだ。」


 正太は洞窟に入ると大声で叫んだ。


「何だ、何だ、正太、一体どうしたんだ、若様に何か有ったのか。」


「えっ、若様がどうしたんだ。」


 正太が大声で叫ぶので飛び込んで来た、若様に何か大変な事でも起きたのかと思った。


「違うんだ、若様じゃ無いんだ。」


「だったら源三郎様にか。」


「其れよりもみんな集まってくれよ、もう直ぐ源三郎様が来られ話しをして下さるから。」


 暫くして。


「皆さん、どうされたんですか、そんなに慌てて。」


「えっ、源三郎様、大丈夫なんですか、正太が。」


「私は何とも有りませんよ、ほらね、其れよりも今から大事なお話しをしますので皆さんよ~く聞いて欲しいのです。」


 その後、源三郎は半時以上も掛け正太と仲間に話した。


「源三郎様のお話しじゃ、オレ達の国にその何とか言う国が攻めて来るんですか。」


「ええ、多分私はまず間違いは無いと考えております。」


「だったらオレ達も奴らと戦いますよ。」


「其れがねぇ~、大きな軍艦で海の上から攻めて来るんですよ。」


「えっ、海の上からって、でもオレ達の国にも軍艦は有るんですか。」


「其れがねぇ~一隻も有りませんので、でも官軍でも知らない潜水船が有りましてね、我々は潜水船で迎え撃つ方法を考えましてしね、皆さんも知っておられると思いますが山賀の海岸には大きな洞窟が無いのです。」


「だったらオレ達もその何とか言う奴らに殺されるんですか。」


「私は其れを防ぐ為に皆さんにお願いしたいのです。」


「オレはやりますよ、そんな訳の分からない奴らに殺されてたまるもんですか。」


「オレもですよ、オレは絶対に奴らをやっつけますからね。」


「誠に有り難いのですが、今げんた、いや技師長と後藤さん達が洞窟に入って調べておりますので終わり次第皆さんにお願いすると思いますが、何卒宜しくお願い致します。」


 と、源三郎は正太と仲間達に頭を下げた。


「そんな水臭い事はやめて下さいよ、オレ達は源三郎様の為だったらなんでもしますんでね。」


「有難う御座います。

 其れともうひとつお願いが有るんですが、今北の草地付近で粘土の採掘を行なって要ると思うんですが、連岩を作られましたら其の現場とこの洞窟の一か所だけに集中して頂きたいのですが。」


「じゃ~他の現場はどうするんですか。」


「他の採掘現場よりも此方の現場を最優先でお願いしたいのです。」


「よ~し、オレ達で絶対に作ってだ、其の何とか言う奴らの軍艦を沈めてやろうぜ。」


「お~、オレ達に任せろって。」


「オレ達は源三郎様の為にやるぞ。」


 と、その後、正太の仲間達は雄叫びを上げ、何時からでも工事に入れる様に道具類を運び込んで行き、正太は粘土の採掘現場へ半数近くの仲間を振り分けるが、洞窟の工事が始まるまで仲間達は粘土の採掘に全力を注いで行く。

  

 一方で洞窟の最先端ではげんたが後藤に軍港建設に向け色々と注文を出し、後藤は全てを書いて要る。


「ですが技師長大変な工事になりますねぇ~。」


「オレも分かってるんだ、だけど本当はこの数倍の基地が要ると思うんだ。」


「では一層の事端から端まで全部にしましょうか。」


「だけどそんな工事になったら全部完成するのには物凄く遅くなると思うんだけどなぁ~。」


「其れは心配有りませんよ、最初にあそこから始めて、次はその左右に取り掛かるんですよ、其れならば随時完成して行きますので、絶対に大丈夫ですから。」


「其れだったら任せるよ、オレは次に掛かるから。」


 工事は後藤達に任せ、げんたは次に取り掛かると、だが一体何を始めるつもりなのだ。


「技師長は次に取り掛かるって一体何を始めるんですか。」


「まぁ~其れは後の楽しみにして、後藤さん、外海も少し掘りたいんだ。」


「勿論ですよ、私もその為に必要な道具を考えますので。」


「だけどなぁ~、こっちに掛かると向こう側はどうなるんだ、あんちゃんの事だから直ぐにでも始めると思うんだけど。」


「其れは多分大丈夫だと思いますよ、此方の目途が付くまでは私達も動く事が出来ませんので。」


 後藤にすれば向こう側の工事も急ぐ事は十分承知しており、だが向こう側よりも此方の側の工事の方が難航すると考えており、其れは落盤事故に注意しながらの工事になると、後藤はその後、四日、いや五日を掛け図面を書き上げ、六日目の朝。


「技師長、出来ましたよ図面が。」


「本当ですか。」


 げんたの傍には源三郎を始め、全員が図面を書き終わるのを待っていた。


「早速ですが図面を見せて下さい。」


 後藤は机の上に図面を置いた。


「わぁ~これってオレが思った通りの図面だ。」


「後藤さん、図面では絶壁の端から端までの様ですが。」


「其の通りでして、今から説明させて頂きますので。」


 後藤は全員に理解出来る様に説明する、だが全ての説明を聞いて理解出来るのはげんただけで有る。


「後藤さん、此処に書いて有る線の様にも見えるのですが一体何の線でしょうか。」


「源三郎様、此処が軍港の一番重要な所で潜水船の造船所です。」


「えっ、では洞窟の中で潜水船を建造するのですか。」


「私は大佐が申されました鉄板もですが、他の鉄材も入れるのでは有れば此処で鉄の潜水船を建造する事も可能だと考えたのです。」


「う~ん、ですがどの様にして此処まで運ぶのでしょうかねぇ~。」


 後藤が考えた鉄の潜水船を建造する所、だが何処で鉄の材料を調達するのか、其れ寄りも絵図面は後藤が勝手に描いたのだろうか。


「あんちゃん、まぁ~あんまり深刻に考える事でも無いと思うんだけど、なぁ~工藤さんそうでしょう


 げんたは工藤の顔を見てニヤリとした。


「ですが工事は大変では有りませんか。」


「そんなの当たり前だと思うんだ、だけど向こう側の工事もだけど、此処の工事はもっと重要なんだ、官軍も、いや多分ロシアでも潜水船は知らないと思うんだ、オレは官軍に知れれる事が無かったら絶対に大丈夫だと思うんだ。」


 げんたは何を考えて大丈夫だと言うのだ。


「私は同じ図面を数枚書き正太さんにも渡しますので。」


 と、言って後藤は又も部屋を出て行った。


「オレは次の事を考えるからなぁ~。」


 と、げんたも部屋の隅へと行く。


「技師長は何を考えられるのでしょうか。」


「私もこの頃は全く分からないのですよ、この調子ですと向こう側に参るのは少し遅れると思いますよ。」


「私は其れでもよいと考えて要るのです。」


「ですが、上野さんも急がれておられるので有りませんか。」


「ですが、私は技師長の方を優先して完成させる方が大事だと思います。


 其れに参謀長も直ぐには無理だと考えておられましたから。」


 上野も当然だと思っており、あの時、即答を避け、其れが原因で源三郎を怒らせて直ぐ来て欲しいとは言えない。


 だが其れがお互いの都合で結果的には良い方向へと行くのだ。


 上野は後藤と吉三組の為に宿舎造りに、源三郎はげんたの言う秘密の潜水船基地の工事に入る事が出来、誰よりも一番ほっとしたのが工藤で有ると思って要る。


 正太と仲間は数日後から洞窟内の採掘と粘土の搬出と形成、更に後藤は大工に荷車を大量に作って欲しいと、だが荷車を何に使うのか、山賀では北の空掘りと草地で後藤の陣頭指揮の下、朝は陽の出から陽の暮れるまで正太の仲間達が必死で工事に入って要る。


 後藤は正太と十数名の班長、いや監督者らに十数枚に分けた絵図面を基に一人一人に細かく説明し、彼らも必死で聞いて要る。


 だが内容説明は其の日から十日、十五日と続き、二十日を過ぎるまで行われた。


「正太さん達に色々と細かい事まで申しましたが、皆さんならば必ずやり遂げられると信じております。」


「そんなのって当たり前ですよ、オレ達が出来なかったら、其れこそ源三郎様にもですが、若様にも会わす顔が有りませんからねぇ~。」


 正太と仲間は源三郎と若様の為に、いや其れ以上にロシアの軍艦にだけは絶対に攻撃させないのだと言う強い決意を持って要る。


「正太さん、この絵図面で鍛冶屋さんに作って頂いた物でして。」


 後藤が描いた絵図面を基に鍛冶屋が作った物とは。


「何ですか、一体これは。」


「これはねぇ~海底の砂を取り除く為には是非とも必要でしてね、私は見本として一個を、後は此処で使いますので出来るだけ多い方がいいんで、鍛冶屋さんにお願いしなければならないんですよ。」


「でも一体何個作ればいいんですか。」


「そうですねぇ~、最低でも二十個は必要になりますので。」


「じゃ~思い切って五十個作って貰いますんで。」


「今作って貰いました道具で詳しく説明させて頂きますので。」


「じゃ~オレが行って直接話して来ますんで。」


「では私も他に色々と仕事が有りますので、皆さんにも宜しくと伝えて頂きたいのです。」


「オレがみんなに言って置きますんで。」


「ではお願いしますね。」


 と、後藤は二十数日振りに執務室へと戻って行く。


 一方で上野が大工達に造らせて要る宿舎と後藤専用の執務室兼会議室も作業開始から三十日程で完成する目途が付き、上野の表情にも少しの安堵感が現れ、後は後藤達が何時来てくれるのか其れだけが分からない。


「参謀長殿、あの方々は何時来られるのでしょうか。」


「う~ん、其れだけは私にも予想出来ないんだ、だが私は必ず来て頂けるものと確信、いや信じて要るんだ、工藤の事だ必ず説得してくれると、奴の事だ官軍の為にもで無く、連合国のと言う政府も知らない国の領民の為にもやり遂げてくれると信じてるんだ。」


 工藤は今や官軍に為で無く、連合国と言う明示新政府も知らない国の為に命を掛けて要ると感じて要る。


「中隊長は知らないだろうが、工藤が官軍に要る頃よりも今は最高の人生、いや軍隊生活を満喫して要るよ、だが今の話は誰にも言う事はならんぞ。」


「勿論で、全て承知致しております。」


「其れとだが、一分の半分程の鉄板は有るのか。」


「多分、艦に有ると思いますが。」


「よし全部だせ、そして、本部へは食料が不足して要ると、そうだ追加として漬け物も必要だなぁ~。」


 今や上野は後藤達は必ず来ると確信して要るのか、必要な物資の手配も行なって要る。

 だが本当のところはまだ不安なのかも知れず、自らに言い聞かせる事で中隊長もだが兵士達や職人達の動きが積極的になると考えての事で有る。


「源三郎様、全ての手配を終わりました。」


「素晴らしいですねぇ~、土木技師が全てを考えられたのですか。」


「今土木技師と申されましたが、新しい技師の誕生ですか。」


「若、後藤さんは有りとあらゆる事を想定され手配されたと思います。」


 源三郎は後藤を土木技師だとこれで連合国には二人の技師長が誕生し連合国の為、いや何れは日本国が存亡を掛けた戦に突入するのは間違いは無く、今後藤を土木技師に大抜擢した事も将来を考えてのなのだと、何れは若様にも分かる時が来ると思って要る。


「私を土木技師と申されますと、この先は連合国の為だけで無く、日本国の為にも全力を注げよと申されるので御座いますか。」


「其れも勿論有りますが、後藤さんは今回の一件で今までは全く気付いておられなかったと思いますが、其れが一気に開花したと思うのです。」


「ですが私自身は何時もと全く変わっておりませんが。」


 後藤は全く気付いていないが源三郎は何故かわかるのだろう、やはりげんたの時と同じで急に閃いたのだ。


「まぁ~其れが普通だと思いますが、これから先は吉三さんを中心とした吉三組と組まれ思い付いた事を書いて頂き、その都度吉三組に指示を出して頂ければ良いと思います。」


「ですが一応源三郎様の許可を得なければならないと考えております。」


「その様な無駄は省いて頂いても宜しいのですよ、そして、吉三組からも多くの意見を聞かれると尚一層よいものが出来るものと私は考えておりますのでね、但しですがどの様な事でも必ず出来るとは限りませんので其処は後藤さんが良く考えて決断して頂ければ宜しいのです。」


 後藤は藩に在籍していた頃何かの工事を始めたいと考えていても全て上司と藩の重役方、そして、最後に藩主の許可が無ければどんな簡単な工事だと考えても出来ず、其れと言うのも藩の財政は厳しく僅かな金子支出さえも困難で有った。


 源三郎に助けられた時には許可を得る必要も無いと、源三郎は何時も最初に、私は何も分かりませんので教えて頂きたいのですと、其れが菊池から山賀に至る狼除けの大工事に関わり、だが思わぬところから山賀に三百人近くもの女性と子供が来た、更に野盗との一大決戦が有り。


 そして、極めつけが野洲の漁師与太郎が官軍の大部隊が集結して要る大きな入り江に漂着し、其れを確認する為に天元作戦が行われ、官軍の参謀長から日本国が欧州の強大な国家の植民地にされるという次々に大問題が発生し、植民地には絶対させるなと言う源三郎やげんたに他にも多くの人達の思いが今回の一大工事に入る事となり、後藤の頭が一気に回転を速めたので有る。


 後藤が全ての手配を終え、正太に連合国に居る五千人近い元官軍兵に柵の工事を再開して欲しいと、これで全ての手配が終わったと言うので有る。


「小川さんは山賀の警備に集中して下さい。

 吉田さんは中隊と共に戻り、菊池から松川に至るまでの中隊にも厳重な警戒に入る様に伝えて下さい。」


 何故今更警戒を厳重にする必要が有る、連合国が官軍を助けると言う時に、だが源三郎の考え方は違う。


「確かに工藤さんの考えておられる通りだと思いますよ、ですがねぇ~官軍が今まで取って来た行動を考えますと、全てを許すと言うのはまだ早いと考えております。」


「ですが上野参謀長は。」


「吉田さんはもう忘れられたのですが、五十嵐と言う司令官は上野さんが別の用件で出掛けられたその隙を狙ったかの様に工藤さんを幕府軍の討伐と名目で出撃させ、上野さんは何も知らなかったと、確かに五十嵐の部隊の指揮官達は全滅させました。

 ですが五十嵐に同調した上級将校はまだ本部に在籍して要る可能性が有るのです。」


「ですが以前参りました時付近を偵察しても何も無かったと言う報告が有りましたが。」


「ええ、確かに其れは間違い無いと思います。

 ですがねぇ~監視するのですよ、何も一小隊で、いや分隊で無くても二人か三人でも良いのです。

 頭の切れる指揮官ならば我々が到着して要るのは知って要ると思いますよ、その様な事にでもなれば一体どうなると思いますか。」


「では次に来るのを待って要るのでしょうか。」


「工藤さん、吉田さん、私が感じて要るのが間違いで有って欲しいと、ですが間違いでは無く我々が上野さんの所に着いたと本部知らせれば本部は必ず動くと思います。」


 五十嵐が引き得る部隊の指揮官だけが狼の餌食に、そして、歩兵は連合国に入り、だが本部は五十嵐が戦死して要る事を知らなければ次の策を練り、工藤や吉田を暗殺するだろう、工藤や吉田が言う様に上野は信用出来るだろう、だが今までの官軍の上層部は農民や町民を鉄砲の弾と同じ様に考え、だが工藤は違い部下で有る農民達を大事にし、其れが上層部には反抗的で有ると、その為にも戦死させるのが目的で遠征させた。


 だが今だに工藤が戦死したと言う報告が無く、上層部は工藤をこの世から抹殺させる為にはどんな卑怯な手段を使うのかも分からない。


「ですが何故に其処までして大佐殿や自分を殺さなければならないのですか。」


「吉田さんもですが工藤さんも上野さんを尊敬しておられます。

 その様な時に運が良かったのか分かりませんが、ロシアと言う欧州の強国が日本国を植民地にすると言う飛んでも無い計画が日本政府に入り、上野さんは海軍の増強を新政府に直訴され、其れが今回この地に軍港を建設すると言う最高の条件で一致し、上野さんがこの地に政府命令で派遣されたを思います。」


「では参謀長殿の思いを上手に利用されたと申されるのですか。」


「私は其の様に考えて要るのです。」


「では別の所に大部隊を集結させている可能性も考えられるのですね。」


「そうですよ、ですから今回は日光隊と月光隊だけで参り、山賀から菊池までの防衛を吉田さんと小川さんにお願いしたいのです。」


 傍で聞いて要る若様も吉永も、更に小川も源三郎が正か其処まで考えて要るとは思いもしなかった。


「源三郎殿、拙者は其処までは考えもしておりませんでした。」


「若は正太さんの応援を、吉永様は小川さんの応援をお願いしたいのです。」


「義兄上、私は何も考えておらず、全く情けなく感じております。」


「若、何も其処までは、ですが私は最悪の事を考えただけでして、本当のところは何事も無く、向こう側でも早く軍港を完成して欲しいのです。


 吉田さんと小川さんの任務は大変重要で、他の部隊の中隊長、小隊長とは連携を取って頂きたいのです。」


「総司令は何時頃向こう側には参られるのでしょうか。」


「勿論ですよ、私と工藤さんと技師長に後藤さんと吉三組に日光隊と月光隊だけで参りますが、今回も馬の準備をお願いしたいのです。」


「私達にも荷物が有るのですが。」


「其れも承知しておりますよ、馬には全員の荷物を数頭に分け乗せて下さい。」


「ふ~ん、そうかあんちゃんもやっと決めたのか。」


「げんたの任務は大変困難ですよ。」


「何でだ、オレは軍艦の造り方を頭に入れるんだから大丈夫だぜ。」


「工藤さんは軍艦の造り方から、まぁ~色々と有るでしょうが、げんたに全てを教えて下さい。」


 げんたに全てを教えろと言う事は軍港の建設が目的なのか、其れとも軍艦の造り方を盗もうとでも言うのか、現物を見て工藤が詳しく説明すると、では一体どちらが本来の目的なのか、其れは源三郎だけが分かって要る。


「ところであんちゃんは何時行くつもりなんだ。」


「そうですねぇ~、明日の朝から準備に入り、明後日の早朝北側から登りたいと考えて要るのですが。」


「オレは何時でもいいんだぜ。」


 げんたは一日でも早く着き軍艦の隅々まで観察したいと思って要る。


「源三郎様、私は鍛冶屋さんにお願いして要る道具さえ出来れば宜しいのです。」


「じゃ~オレが行って聞いて来るよ。」


「では道具が出来上がった明くる日としましょうか。」


 源三郎は再び上野の所へ行くと決め、道具の出来上がり次第と決まった。


「そうでした、私も忘れるところでしたよ、日光隊と月光隊ですが官軍の軍服を着用して下さい。

 今回は偵察任務では有りませんが、両小隊は向こう側に着き夜になると。」


「総司令、お任せ下さい、我々もその様に考えておりますので。」


 日光隊と月光隊には官軍の軍服を着用せよと、だが夜になると一体何をする。


 そして、後藤が頼んだ道具が出来上がり、出発は次の早朝と決まり駐屯地では馬の準備と予備の弾薬が日光隊と月光隊に渡され全ての準備が完了し、そして、当日の朝と言っても未だ陽の上がらない七つ半にお城を出発し、正太達によって整備された北側の道は馬に乗り昼前には頂上に着き、陽の暮れる前大岩に着いた。


「日光隊は見張りに、月光隊は食事の準備に掛かって下さい。」


 先日米俵と漬け物、更に梅干し樽も持って来ており今のところは不足する事は無く、一時半程して。


「総司令、夕食の準備が整いました。」


「そうですか、では吉三組さん達を先にお願いします、其れとげんたにもお願いします。」


「あんちゃんは。」


「私は最後で宜しいので。」


 源三郎はその後の事も含め色々と考え事が有り、今は食事どころの騒ぎでは無い。


 其れでも最後には食べ、其の頃になるとげんたは早くも眠りについて要る。


 そして、翌朝も早く全員が食べ終わり、後片付けは吉三組も加わり早く終わり大岩を出発し、もう此処まで来れば二時半もすれば官軍の駐屯地で有る。


「あれは若しや、参謀長殿に報告、先日の方々が来られましたと。」


 別の兵士が大急ぎで戻って行く。


「参謀長殿、先日来られました方々が此方に向かって来られます。」


「そうか、中隊長、全員に告ぐ一切何もするなと。」


「はい了解致しました。」


 と、中隊長は大急ぎで駐屯地の小隊長に告げ、小隊長は宿舎に飛んで行く。


 上野は改めて源三郎達を出迎えに行った。


「総司令長官殿、先日は大変ご迷惑をお掛けし誠に申し訳御座いませんでした。」


「いいえ、私こそ何も分からずに失礼な言動を何卒お許しの程、宜しくお願い致します。」


「全員気を付け、総司令長官殿に対し敬礼。」


 駐屯地の兵士全員が源三郎に対し敬礼し、源三郎も改めて頭を下げ。


「中隊長、誠に申し訳御座いません、中隊の皆さんにもご迷惑をお掛けし、源三郎改めて申し訳御座いませんでした、この通りで御座います。」


 源三郎は何時もの様に土下座し頭を下げた。


「総司令長官殿、何卒頭を上げて下さい。」


 中隊長の驚きは普通では無く、官軍では考えられ無い、最高司令長官とも有ろう人物が中隊長に対し土下座し頭を下げるなどとは。


「中隊長、皆さんを解散させて頂いても宜しいですよ。」


「はい、承知致しました、部隊は解散せよ。」


 と、中隊長の命令で部隊の全員が戻って行く。


「総司令長官殿、さぁ~お部屋の方へ。」


 上野は完成したばかりの後藤専用と言っても良い部屋へと案内して行く。


「上野さん、大変失礼な事をお伺いしますが、この部屋は。」


「総司令長官殿の思われる通りでして、この部屋は後藤さん達の為に大工さんに無理をお願いしまして新しく建てて頂いたのです。」


「私の為を申されますと。」


「私はどの様な障害が有りましても軍港だけは完成させたいのです。

 その為に専門家の後藤さんには、いや技師長さん専用の執務室が必要だ、そして、この机には十人くらいが集まり打ち合わせが出来る様にと考えたのです。」


「後藤さん、これで仕事の効率も上がりますねぇ~。」


「其れは大変嬉しいのですが、何も私の様な者に此処までのご配慮を頂き、誠に申し訳御座いません。」


「其れと吉三組さん達にも専用の宿舎を建てましたので。」


「えっ、オラ達にですか。」


「そうです、先日も来られました時に早くも作業に掛かって頂いて要ると聞き、其れならば吉三組さん達にも専用の宿舎が必要だと判断し、二つの建物も総司令長官殿には相談せず私の判断で建てました。」


「上野様、大変なお気遣い誠に有り難く存じます。」


「いいえ、私に出来る限りの事はさせて頂きますので皆様方には何卒宜しくお願い申し上げます。」


 上野は源三郎達に頭を下げた。


「上野様、其れでお話しは変わりますが、部隊の中で何か有ったのでは御座いませんか。」


 上野は一瞬はっとした、源三郎が来てまだ四半時程も経っておらず、其れよりも何故知って要るのだと、だが今更何を考えても仕方が無い、とあっさりと上野は開き直り。


「総司令長官殿、実を申しますと。」


 上野は源三郎達が去った後の事を話すと。


「やはりでしたか、でその小隊長と小隊の兵士は。」


「はい、直ぐ呼びます、誰か鬼頭と小隊の全員を呼んでくれ。」


 暫くすると、鬼頭が飛び込んで来た。


「参謀長殿が大至急お呼びだと聞きましたので。」


「鬼頭、隊員は。」


「直ぐに参ります。」


 暫くすると小隊の全員が部屋に集合した。


「総司令長官殿、鬼頭と小隊の全員です。」


「承知致しました、ご貴殿が小隊長なのですね。」


「はい、其の通りで御座います。」


 鬼頭と小隊の全員は驚く程の緊張感で中には身体を震わせて要る隊員も。


「鬼頭さん、其れと小隊の皆さん私に嘘は通じませんからね、では最初から説明して頂けますか。」


「私が説明させて頂きます。」


 と、鬼頭は上野に話した内容と同じ説明すると。


「よく分かりました、其れで我々が来た事は報告されておられるのですか。」


「いいえ正か、其れは飛んでも御座いません。

 総司令長官殿が来られました数日後に本部より書状を持った者が到着しましたので。」


「上野さん、今まで届いた書状を拝見したいのですが宜しいでしょうか。」


「直ぐに持って参りますので、中隊長、全部持って来て下さい。」


 源三郎は何故に書状を見るのだろうか、と上野もだが工藤も分からない。


「総司令長官殿、これが今まで届いた書状の全てで御座います。」


「では拝見させて頂きます。」


 源三郎は書状をゆっくりと読み始め数通読んだところで。


「う、これが問題の部分なのか。」


 と言って次の書状を見て。


「鬼頭さん、此処に書かれて要る内容ですが貴方方の誰かが報告されたのですか。」


 鬼頭が書状を受け取り小隊の全員に読み聞かせると。


「総司令長官殿、この様な内容を書いた覚えは御座ません。」


「鬼頭、其れは誠なのか。」


「はい、私達が本部に送ったのは参謀長殿が執務室でお話しされた内容で、しかも日付はこれよりも数十日後で御座います。」


「総司令長官殿、では他にもまだ居ると言う事なのでしょうか。」


「ええ、其れも兵士では有りませんねぇ~。」


「えっ、何故に兵士では無いと分かるのですか。」


「鬼頭さんは主に執務室での会話を書いておられると思いますが、此方の文言の中には職人達の不満の様な文言が書かれて要る様にも見えますので、司令本部は職人達の中にも数人なのか数十人程なのか分かりませんが潜らせて要ると思いますがねぇ~。」


「では総司令長官殿が来られた事は報告されて要ると考えねばならないのですか。」


「まぁ~其れは分かりませんが、明日の朝全員に聞いて見ましょうかねぇ~。」


「では総司令長官殿が直接お話しをされるので御座いますか。」


「上野さんは私にお任せて頂きたいのです。

 其れには兵士の全員が協力しなければなりませんので、兵士の全員で職人達を取り囲んで頂たいのです。」


 源三郎は職人達の中に司令本部より密命を受けた者が居ると、明日の朝直接職人達に話しをすると言うが、さぁ~一体どの様になるのか。


 そして、明くる日の朝、上野は職人達全員に話しが有るので集まれと、暫くして職人達全員が集まり、職人達は浜に座り上野が話し始め、源三郎は職人達の動きを見て要る。


「えっ、何て言ったんだ、オレ達の中に密偵が居るってそんな馬鹿な話しが。」


 職人達は騒ぎ出し、正か自分達の中に密偵が、いや裏切り者が要るとは夢にも思っておらず職人達に衝撃が走った。


「参謀長殿、今の話は本当なんですか。」


「間違いは無い、その者に伝える、今名乗り出るならば穏便に済ます、だが後で分かれば重い刑を与える、さぁ~少しだけ待つから名乗り出るんだ。」


 職人達はお互いが疑心暗鬼に包まれ一体誰が本部に知らせて要るんだと騒いでいるが誰も名乗る者もおらず半時程経った。


「上野さん、私にお任せ下さい。」


「総司令長官殿がですか、承知致しました。」


「皆さん、私は源三郎と申します。

 皆さんはこの地で軍港を造る為に来られましたが、何故この地に軍港が必要なのか知っておられますか。」


 だが誰も知らないのか返答も無い。


「上野さんは職人さん達にお話しはされたのしょうか。」


「一応は話しましたが、余り詳しくは話してはおりません。」


「左様ですか、では私が詳しくお話しをしますのでね、分からない事が有ればその場で聞いて下さいね。」


 源三郎はその後半時以上掛け説明した。


「皆さん、分かって頂けましたか。」


 職人達は四半時程も騒いだが、今更何も変わらないと分かったのか次第に騒ぎも収まり。


「今の話は全て本当でしでしてね、まぁ~其れよりも問題なのがこの中に密偵が居るんですがねどなたも名乗りで無いので有れば、私がその者を指差しますが宜しいですね。」


「源三郎様、そんな裏切り者は早く始末して下さいよ。」


「そうですか、ではその貴男です。」


「えっ。」


 と、職人達が一斉に指差した方を見ると数人の職人が下を向いて要る。


「さぁ~さぁ~貴方方早く前に出ないさい。」


 日光隊の兵士が職人達の中に入り、彼らを引きずり出して行く。


「これで全員でしょうか。」


「多分でしょうねぇ~、では貴男に聴きますが、司令本部からどの様な命令を受けて来られたのですか。」


 だが彼は何も答えない。


「貴男は如何でしょうか、今更黙っていたところで何の意味も有りませんよ、皆さんが何も答えないので有れば、私の処罰を受けて貰いますが、私はねぇ~貴方方が考えておられる様な処罰を与えるつもりは有りませんよ、まぁ~心配しなくても銃殺刑は有りませんからね。」


 源三郎は何時もの様に平然とした表情で言うので前に出て要る密偵よりも職人達の方が恐ろしくなり顔が引き攣って要る。


「総司令長官殿、では狼の餌食にでしょうか。」


「まぁ~普通ならばでしょうが、其れは後の楽しみにと言う事で、其れよりも返事が有りませんねぇ~、では全員に猿轡と両手を後ろで縛って下さい。」


 今度は月光隊の兵士も入り彼らの前に行き、「手を後ろに。」と、言った時一人の密偵が隊員の脇差を奪い取り、源三郎に切り掛かった。


「あっ。」と、言う間に密偵は浜に倒れ呻き声を上げ、他の職人達は大変な驚き様だが、其れよりも上野は一瞬の出来事に唖然としている。


「小隊長、この者に。」


「はい、全て承知致しました。」


 と、月光隊の小隊長は猿轡と両手は後ろで縛り、男は諦めたのか下を向いており、源三郎の早業に他の密偵は驚きよりも恐怖を感じたのか顔は青ざめ身体は震えて要る様にも見える。


「さぁ~皆さんは何か申し述べる事は有りませんか、今ならば宜しいでしょうからね。」


 暫くして。


「源三郎様、私は有る藩の下級武士でこの者から脅迫されておりました。」


「やはりでしたか、多分言う事を聞かなければ家族は皆殺しにするとでも言ったのでしょうねぇ~。」


「はい、正しく其の通りで御座います。」


「では他の方々も同じなのですか。」


「私も同じ様に脅迫されこの地での内容を書き、本部から来る者に渡せと言われておりました。」


 やがて全員が脅迫されていたと分かり。


「では貴方方はこの先も今まで通りの内容を書き送って下さい。」


「えっ、では私は。」


「勿論、命だけは助けますのでね、その代わりに私達の事だけは内緒にして頂きたいのです。

 これは皆さん全員同じでしてね、我々の存在を知られますと我々としましては非常に困りますので、その代わり他の事ならば何を書いて頂いても宜しいですからね。」


「総司令長官殿、ですが後藤さん達の事を書かれますと不味いのでは御座いませんか。」


「いいえ、其れは心配要りませんよ、上野さんが田中様に土木の専門家を探して欲しいと、其れで田中様が十数日掛け探され要約この地に来て頂いたと言う事にすれば宜しいかと思います。」


 源三郎は脅迫されていたと言う密偵には今まで通りの報告を送る様にと、更に後藤と吉三組は田中が苦労し探し出した土木の専門家で有ると本部に知らせても良いと言うので有る。


「あ~そうでした、私もすっかり忘れておりました、小隊長、この者の足首に石を括り付け出来るだけ沖に行き後は海へ。」


 小隊長は何も言わず、月光隊の兵士数人を連れ男を小舟に乗せ沖へと向かった。


「後は後藤さんと吉三組にお任せしますので宜しくお願いしますね、私は戻りますので。」


 源三郎は其れだけを言うと執務室へと戻って行く。


「皆さん、私は後藤又四郎と申しまして、先程の源三郎様は私と吉三組さん全員の命の恩人でして、実は私も元官軍兵でした。」


「後藤さん、其の話しは本当なんですか。」


「私が作り話をして何の得になるのですか、其れよりも皆さん全員にお願いが有るんですが、皆さんも聞いて頂けますか。」


「私はどの様な事でもさせて頂きますので、どうかどの様な事でも命令下さい。」


 先程の密偵だ。


「ではその前に少しお話しを聞いて下さい。」


 後藤は何故源三郎が命の恩人なのか、そして、連合国で数日間議論の末、この地に軍港を建設する事になったのか一時以上も掛け話した。


「じゃ~あのお方は物凄い権力を持っておられるんですねぇ~。」


「えっ、今何と申されましたか、源三郎様が権力を持って要ると、其れは全然違いますよ、源三郎様には権力も権限も必要無いのです。

 源三郎様は何事に置いても全てお願いされるんです。」


「でもお侍様なんだから、命令すると思うんだけどなぁ~。」


「後藤さん、オラも宜しいですか。」


「そうですねぇ~、では吉三さんにお任せします。」


「オラは吉三って言って、元は農民なんですが、今まで幕府の奴らには思いっきり苦しめらたんです。

 幕府のお侍は何時も偉そうな顔して命令ばかりしてたんですよ、でも源三郎様は同じお侍様でもオラ達の様な農民には絶対に命令されないんです。


 源三郎様ってお侍様は、私は侍の前に一人の人間としてご無理をお願いするのですから頭を下げるのは当たり前ですよって、源三郎様は相手が例え農民でも町民でも子供でも平気で頭を下げられるんですよ。」


「なぁ~吉三、今そんな話しをこの人達にしても無理なんだ、オレ達だって初めに聞いた時は全然信用してなかったんだから。」


「そうだよ、でもなぁ~源三郎様ってオレ達には物凄く優しいんだ、だけど極悪人にはこの世のお方だとは思えない程にも恐ろしいんだ、其れに源三郎様には作り話は絶対に通じないからなぁ~。」


「まぁ~其の話しは後程にしましてね、私からお願いが有るんですが聴いて頂けますか。」


「後藤さんのお願いって難しい事なんですか。」


「いいえ、実に簡単な話しでしてね、皆さんの中から代表を選んで欲しいんです。」


「代表って、そんな難しい事なんか誰もしないですよ。」


 職人達が言うのも無理は無い、吉三達も最初は出来ないと思っていた、だが其れが今となっては無くてはならない存在になっている。


「では何故代表が必要なのか今から説明させて頂きますのでね。」


 後藤はその後半時以上も掛け説明し、後藤と職人達の話し合いはまだまだ続きそうで有る。


「上野さんにお願いが有るんですが、宜しいでしょうか。」


「私に出来る事ならばどの様な事でも。」


「申し訳御座いませんが、明日技師長に軍艦を見せて頂きたいのですが。」


「宜しいですが、では誰か説明役にお付けします。」


「大変助かります、工藤さんも一緒にお願いします。」


「全て心得ておりますので。」


「あんちゃん、直ぐ終わらなかったらどうするんだ。」


「私は何日でも宜しいですよ。」


「じゃ~吉川さんと石川さんも大変だけど頼んだぜ。」


「技師長、我々にお任せ下さい、まぁ~最初は戸惑うとは思いますが。」


「そうか、オレもだけど、吉川さんも石川さんも軍艦なんて知らなかったんだ。」


「ですが我々は潜水船で苦労しておりますので何も心配しておりません。」


 吉川と石川も最初げんたから潜水船の話しをされても全く理解出来ずに、其れでも毎日の積み重ねが今となっては大きな財産となりげんたの話しは理解出来る様になった。

 

 そして、今回の軍艦に関しても一体どの様な話しが聴けるのかが心配よりも楽しも方が多いと言う。


 さぁ~明日から本格的な話し合いを始める事になり、いよいよ工事に入る事が決定された。



        

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