第 40 話、やはり通じていたのか。
「総司令、少しお待ち下さい。」
「工藤さんは一体何を待てと申されるのですか、私はねぇ~田中様の報告を聞き、これは我が連合国だけの問題では無く、日本国の一大事だと判断し、後藤さんや吉三組にご無理をお願いしロシアの軍艦の攻撃を阻止するんだと強い決意で参ったのです。
其れよりも我が連合国は官軍にも知られ何時攻撃されるやも知れないのです。」
「私はこれには何か訳が有ると思うのですが。」
「一体何の訳が有る、工藤さんは官軍では脱走兵、そして、後藤さん達は官軍の敗残兵だと見られて要るのですよ、普通ならば工藤さんと、今此処に居る中隊の兵士は脱走兵として銃殺刑で、後藤さん達も下手すると同じ刑に処せられるのですよ、皆は其れを覚悟の上で駆け付けた、その意味が上野と言われる参謀長は全く理解していないのです。」
源三郎は本心を言って要るのか、若しも本心ならば連合国と官軍は戦に突入し、官軍もだが連合国からも多くの死者が出る、更に下手をすれば連合国の浜に官軍の軍艦が突入し艦砲射撃を受け漁村は壊滅、官軍兵が上陸すれば菊池から松川までは半日で陥落し領民達は殺される、其れでも源三郎は官軍との戦を始めるとでも言うのか、だが上野は何も言わず目を閉じ何かを考えて要る。
「源三郎様、オラ達はどうすればいいですか。」
吉三はもう二度と戦には行きたくないと思って要る。
「其れは吉三さんにお任せしますよ、この間々官軍兵に戻りたければ、私は何も申しませんのでね、ですが今度会えば私は容赦せず殺しますからね覚悟して下さい。」
吉三は源三郎の顔を見ると恐ろしく、まるで鬼の様だと。
そして、半時程が経ち。
「げんた、戻りますよ。」
げんたは何時もならば何かを聴く、だが今の源三郎は反論さえも受け付けないと言う表情で、源三郎とげんたが表に出ると。
「中隊長、我が連合国は官軍と戦に突入するやも知れません。」
「総司令、我々は。」
「私は戻りますが、貴方方が官軍に戻りたければ私は何も申しませんよ、ですが其の時には我々は全力で官軍と戦いますので今度は今までの様に生半可では有りません。
全員を殺しますからね其れだけは覚悟して下さい。」
「中隊長、オラはもう官軍には戻りたくないんです。
同じ死ぬんだったら連合軍兵士と死ぬ方がいいんです。」
「オラは源三郎様のお陰であの時狼の餌食にならなかったんです。」
「オレは源三郎様に助けられたんですよ、だからオレは源三郎様を裏切る事なんか絶対に出来ないんです。」
「そうですよ、オレ達は源三郎様が命の恩人なんですよ、そんな源三郎様を裏切ったらオレは地獄に落ちますよ、同じ死ぬんだったら連合軍の兵士として死にたいんです。」
「源三郎様、オラは一緒に帰りますんで。」
「オラもです、同じ戦死するんだったら官軍よりも連合軍兵士として戦死したいんです。」
「おい、奴らを。」
「よしオレも行くぜ。」
と、数人の連合軍兵士が官軍兵の前に行き。
「おい、お前ら手を挙げ銃を下に置くんだ。」
源三郎さえも予期しない出来事で、その後、次々と連合軍兵士が官軍兵の前に行き、連発銃を構え、圧倒されたのか上野が連れて来た官軍兵は五百、一方連合軍兵士は一個中隊で官軍兵の半分も無く、其れでも連合軍兵士の迫力に圧倒されたのか官軍兵は手を挙げ連発銃を足元に置き少しづつ下がって行く。
「中隊長は敵となりたいんですか。」
「そうですよ、中隊長も言ってたでしょう、総司令は命の恩人だ、自分は命の恩人を裏切る事は絶対に出来ないって。」
中隊長もやはり何かを考えていたのだろうか、いや決断が出来なかったのかも知れない。
「中隊は官軍兵が銃を取る様な動きをすれば射殺してもよい。
総司令、自分と中隊の全員は連合軍兵士として戦死させて下さい。」
「皆さんも宜しいのですか。」
「源三郎様、オレは官軍兵として戦死するのは絶対に嫌です。」
「そうですよ、オレ達は源三郎様に命を預けますんで。」
「オラもですよ、オラが死んでも官軍兵じゃないんですからね。」
中隊の兵士達は官軍兵では無く、連合軍兵士として戦死させてくれと言う。
「工藤さんも後藤さんも皆さんも自分で決めて下さいね、さぁ~野洲に戻りましょうか。」
「中隊は官軍兵から目を離さないで総司令と技師長を守って、さぁ~行くぞ。」
「お~。」
と、中隊の兵士が雄叫びを上げ、其れでも兵士達は官軍兵に銃を構え、源三郎とげんたが乗った馬車を護衛し戻って行く。
だが上野は一体何を考えて要る、あれ程まで源三郎を怒らせ、其れでも動こうとはせず、後藤と吉三組も戻って行く。
工藤と吉田、小川は残り上野を説得させる為なのか。
「参謀長殿、何故ですか、何故何も申されないのです。
総司令があれ程本気で怒りを出されたのを私は初めて見ました。」
「工藤、許してくれ。」
「参謀長殿は一体何を許すんですか、昔の参謀長は一体何処に行ったんですか。」
「工藤、其れに皆を部屋を出てくれ。」
上野はやはり何かを考えて要ると工藤は思ったが、吉田、小川に中隊長達も部屋を出た。
「中隊長、参謀長に何が有ったんだ。」
「自分も分からないんです、昨日まではあれ程出来ないと思ってました軍港の建設に一応の目途も経ち、参謀長殿もほっとされたはずなんですが。」
「だったら何を考える必要が有ると言うんだ。」
其の時、上野は窓の端から何かを見て要る。
「私も同じですよ、其れ以上に大佐殿がご無事だと分かり、参謀長殿も大変喜んでおられたんですよ。」
「う~ん其れにしてもさっぱりわからん、参謀長に一体何が有ったと言うんだ、私も全く理解出来ない。」
工藤も中隊長達も全く理解出来ないと。
「う、奴らはやはり本当だったのか。」
と、上野は何かを呟いて要る。
「中隊長殿、一体何が有ったんですか、さっきは突然奴らが銃を突き付け手を挙げろって。」
「そうですよ、さっきまでみんなはあんなに喜んでたんですよ、其れが急に。」
「ねぇ~中隊長、何とか言って下さいよ、オレ達も心配なんですから。」
官軍の中隊長は直ぐに話す事が出来ず、其れでも暫くして。
「実はなぁ~。」
と、中隊長は上野と源三郎の会話内容を話した。
「でも何でですか、参謀長殿に何か有ったんですか。」
「実は私も全く分からないんだ。」
と、言うが。
「なぁ~あんちゃん、官軍と本当に戦を始めるのか。」
「私も戦は好きでは有りませんよ、ですが上野と言う人物は結論も出せず、いや何も語らずに、其れはねぇ~何か分かりませんが、私の判断では我々連合国の存在を知る為にロシアと言う国が攻めて来ると言う情報を田中様に聞かせ、田中様もですが、私も話しを信じて来た、ですがあの話しは作り話だと思ったんですよ。」
明示新政府は欧州に派遣した武官から欧州の国々では日本を植民地にすると、其の中でもロシアは大艦隊を編成する為軍艦の建造を急いでいるとの情報を得、明示政府はロシアとの一戦は来ると、その為にも新しい軍港を建設し数十隻とされる日本海軍の軍艦を隠す場所、その最重要地としてこの地を選んだ。
「義兄上は作り話だと申されますが、何故に分かるので御座いますか。」
「若も新政府が本気ならば軍港を建設する専門家がいないと、そんな事が考えられますか、今菊池から山賀まで柵と大小の池を作っておりますが、後藤さんから言われるまでは何も知らなかったんです。
私は簡単に考えておりましたが後藤さんは経験は無いですが今までの経験を活かし、其れと吉三さん達も全員が何も分からずとも必死に作業されて要るんです。
私はその作業を中断しても良いと思い来たのですが全てが作り話で、我々連合国の存在を官軍に知られこの先何時官軍の軍艦が攻撃して来るやも分からないのです。」
上野の話しは作り話だと言うが、上野は作り話をしたのでは無く、全てが本当だ、だが一体何処で話しがこじれたのかと源三郎は考える、だが連合国の田中もだが誰も外国の、いや欧州の情報を得ておらず、実際の動向を知る者はいない。
源三郎は駐屯地を過ぎ、数里も進んだろうか。
「あれは総司令では。」
「うん、間違いは無い。」
日光隊の兵士が中隊の前に現れ。
「総司令。」
「やぁ~日光隊の皆さんですか、ご苦労様ですねぇ~、官軍が迫って来るやも知れませんので見張りをお願いします。」
「では自分ともう一人で監視に入ります。」
「総司令、あれ~大佐殿は。」
日光隊の兵士も工藤や吉田が一緒にいないと気付いた。
「そのお話しをしますので。」
「総司令、では我々の隠れ場所へご案内します。」
「中隊長、全員馬から降ろして下さい。」
日光隊が前を行き、源三郎達が続き大岩まで数里有るが誰も話さず静かに歩き、一時程で大岩に着いた。
「総司令、大変ご苦労様です。」
「小隊長、申し訳有りませんねぇ~。」
「総司令、もう間も無く陽も暮れますので、今夜は此処でお過ごし下さい、残った者は。」
と言った時には残った日光隊の兵士は大きな鍋にお米を入れ何処かに消えた。
「今からお米を炊きますので、少しお待ち下さい。」
「申し訳有りませんねぇ~、突然に。」
「いいえ、我々は何も気にしておりませんので。」
「小隊長にお聞きしたいのですが、この山を馬が登ると言うのは出来るでしょうか。」
「えっ、馬で登られるのですか、今まで私も考えた事が有りませんが。」
「ではやはり無理ですかねぇ~、まぁ~其れならば仕方有りませんねぇ~、う~ん。」
源三郎は急いで連合国に入らなければならないと考えて要る。
「何か訳でも有るのでしょうか。」
「私は一刻でも早く戻らなければなりませんので。」
「宜しければ我々は試して見たいのですが。」
日光隊の小隊長が試すと言う。
「申し訳有りません、どうか私の無理を聞いて頂きたいのです。」
「では馬をお借り出来るでしょうか。」
「中隊長、馬を。」
中隊長が数頭の馬を用意すると。
「私ともう一人で馬に乗り登れるか試す。」
「じゃ~オレが一緒に行きますんで。」
と、小隊長と兵士一人が馬に乗り山を登って行く。
「あんちゃん、こんなにも急な山なんだぜ、無理だよ。」
「私も分かっておりますが、今は余計な事を考える暇はないんですよ。」
四半時程過ぎた頃、小隊長と兵士が戻って来た。
「小隊長、如何でしたか。」
源三郎は多分無理だと思っていたが。
「何とか行けそうです。」
「其れは良かった、あ~良かった。」
と、源三郎は胸を撫で下ろした。
「我々が作った道が有りまして、最初だけ苦しいですが、半里も行きますと楽になりますので、ただ馬に乗っておりますと熊笹よりも身体半分が出ますので官軍に発見される可能性も有るやも知れませんが。」
「其の時は躊躇せず撃って下さい。」
「其れは大変危険で、幾ら此処に狼が少ないと言っても全く来ないとは限りません。
若しもそんな事になれば狼の大群が襲って来ます。」
源三郎は狼の大群が来ないと思って要るが、其れは誤った判断で有ると日光隊の小隊長に言われ。
「あんちゃんは何時も言ってるんだぜ、絶対に無理は駄目ですよって、だけど今のあんちゃんは無理ばっかりしてるんだ、何時ものあんちゃんと違うぜ。」
源三郎はげんたに言われ「はっと。」とし、我に帰った。
何時もの源三郎ならば沈着冷静で其れが一体何が源三郎を変えたのだ。
「げんた、有難う。」
「参謀長殿。」
と、工藤が入って来たのは陽が落ち辺りが薄暗くなり始めた頃で。
「工藤か。」
「参謀長殿は一体どうされたのですか、私が知る以前の参謀長では無い様に思えるのですが。」
「工藤、ちょっと。」
と、上野は工藤を窓際に来る様手招きした。
「どうされたんですか、外に何か有るのですか。」
「何も聞かずあれを見るんだ。」
工藤が外を見ると数人の兵士が何やら話し合いをして要る。
「兵士が話し合いをして要る様ですが、其れが何か。」
「工藤、あの兵士達は何を話して要ると思う。」
「此処からでは何も分かりませんが。」
「そうかやっぱり工藤でもわからんのか。」
工藤は上野が何を言いたいのか分からない。
「参謀長殿は何を申されたいのか分からないのですが。」
「君は数年前に軍を脱走し、其の時、吉田と小川も考えてらしい、だが上層部は二人を利用し君を抹殺しようと考えたんだ。」
「ですが何故私を抹殺するのですか。」
「君は官軍の中でも軍艦に関し外国で学んだ、其れが一番の問題なんだ。」
「其れは分かりますが。」
「私は上層部に言ったよ、工藤は脱走する様な奴では無いと、だが上層部は聞く耳は持たないと言う、君が若しもだ幕府側に寝返りすれば其れこそ官軍にとっては大変な痛手となり、君の頭脳を利用され軍艦でも建造される事に成れば形成は一気に逆転する事になると考えたんだ。」
当時の官軍の上層部は工藤が幕府に寝返りすると考えたのだろうか。
「ですが私も馬鹿では有りませんよ、何の為に幕府に寝返りする必要が有るのですか。」
「其れはなぁ~、君が思うだけで上層部の奴らに其処まで考えられる者はいなかったんだ、上層部は何人もの暗殺、いや刺客を送ったと思うんだ、私の知る限り今まで誰も帰って来て無いんだ。」
「では小田切も其の中の一人だったんですか。」
「勿論その通りだ、奴はなぁ~上層部から成功すれば二階級特進と前戦から司令本部へ戻すと言う約束を取ったんだ。」
「ですが、何故参謀長殿が知っておられるのですか。」
参謀長ともなれば軍に関する多くの協議に出席出来る、だが当時の軍部は上野の意見を聞くどころか途中から上野を外し、上野以外の幹部だけの協議で全てが決定された。
「何時の時代でも秘密の話しだと思って要るのは当人達で直ぐ知られる事になるんだ。」
「では噂を聞かれたんですか。」
「いゃ~其れがなぁ~、幹部は必ず部下に話す、だが部下の中には他の、例えば私の部下と友人だとすれば、友人ならば話すんだ。」
「其れでですか、参謀長殿の耳に入ったのですね。」
「そうなんだ、だが私の耳に入った時には部隊は出発した後なんだ。」
「ですが、小田切の計画は失敗し、総司令は奴らを狼の餌食にされたのです。」
「では聴きたいんだが五十嵐は。」
「五十嵐と申されますとあの司令官ですか。」
「そうだ、五十嵐が全ての幹部に手を回していたと後から聞いたんだが、其の時には五十嵐は大部隊を編成し出撃した後だったんだ。」
「確か五千人の大部隊が連合国に近付いて要ると情報が田中様より報告を聞かれた総司令は歩兵の全員が農民や町民達だと知られ、指揮官だけを狙い撃ちし全員が狼の餌食になりましたが。」
「やはりか、君の時もだが吉田や小川達も君の言う高い山の周辺で忽然と消えて要るんだ。」
「ですが、官軍の上層部は連合国の存在は知っておられないと。」
「ああ、その通りだ、だが私の考えは違ったんだ、後程別の中隊が山の麓を行くと、最初に一人の白骨死体と、其れから数日後には数百人もの白骨体が発見された、だが其れ以外に歩兵の死体が見つからないと上層部に報告が入ったんだ。」
やはり上層部は暗殺部隊を送ったが、その部隊の誰もが帰らず全てが失敗に終わった。
「だが私は余りにも不可解だと思ったんだ、工藤や吉田、其れに小川らしき人物と兵士達の死体が発見されておらず、其の時、やはり工藤は生きて要ると確信したんだ。」
「ですが、其れと今回の軍港建設と何が関係有るのでしょうか。」
「其れはなぁ~、君と大いに関係が有るんだ、私は若しかすれば高い山の向こう側か、其れとも鹿賀の国に要ると考えたんだ。」
上野は鹿賀の国か高い山の向こう側に、其れは官軍も知らない連合国で、だがその他にも訳が有るのか。
「私が鹿賀の国にですか。」
「そうなんだ、まぁ~その後も色々と有ったんだが、新政府には外国の特に欧州の情報が入り、政府は軍艦の建造と軍港の建設が決定され、其の時、この地が最初に選ばれたんだ。」
「ですが、この地から鹿賀の国も遠くは無いと考えなかったのですか。」
「其れは有った、だが其れよりも君が若しもだ鹿賀の国に居るので有れば必ず来るだろうと、其れと言うのも田中と言うお方のお陰でなぁ~。」
「参謀長殿は田中様が情報収集して要ると思われたのですか。」
「其れは直ぐに分かったが、私も確信が無かったんだ。」
上野は田中が官軍の情報収集して要ると、だが確信が無い。
「だがなぁ~、有る時一人の漁師が流され浜に着いたんだ。」
「えっ、漁師がですか。」
浜の漁師は与太郎の事だと直ぐ分かった。
「そうなんだ、漁師に何処から来たかと尋ねると、漁師は能登だと言う、我々の情報では能登には鹿賀と言う国が有り、時の幕府でも手が出せなかったと聞き直ぐに帰したんだ。」
確かに与太郎は沖に流され辿り着いた所がこの浜で、其処には上野が連れて来た五千人の官軍兵が居ると。
「だがなぁ~数日後に同じ能登から流されたと言う漁師が流れ着いた、いや来たんだ。」
上野は与太郎も元太も鹿賀の国の漁師だと思っていたのだろうか。
「参謀長殿は二人目の漁師は流れ着いたのでは無く、この地にやって来たと思われたのですか。」
「そんな事が分からずして参謀長が務まるととでも思って要るのか、確かに一人目の漁師の話しは信用で出来る、だが二人目の漁師は鹿賀の国が送って来たと思ったんだ。」
さすがに官軍の参謀長だけの事は有る、元太は本物の漁師だ、だが誰が考えても数日後に同じ能登から漁師が流れ着くとは余りにも話しが出来過ぎで有ると。
「私はなぁ~、田中と言う僧侶もだが、二人の漁師も鹿賀の住人だと思い、其れにだ漁師が名を聴きたいと言うので名乗ったんだ、私の名が伝われば工藤は必ず来ると考え其れだけの事で後は工藤が来てから考えても良いと思ったんだ。」
「ですが私は鹿賀の国から来たのでは無いと分かられた時にですが。」
「まぁ~私も正かと思ったよ、あの山の向こう側にそんな国が有るとは全く情報が無かったので驚いたのは間違いない。」
話しの最中でも上野は窓の外を見ており、目の先には数人の兵士が話しに夢中の様で、上野が見て要るとは気付いていない様にも見える。
だが其の時、一人の兵士が、いや小隊長が兵士達の傍に行き何やら話し、すると一人の兵士がさりげなく此方を見て何かを言うと兵士達は散らばった。
「う、あれは。」
「何が有ったんですか。」
「其れがなぁ~、今回もだが五千人近い大工や左官、其れに鍛冶屋など大勢の職人が故郷の家族に便りを出したいと言うので丁度司令本部から書状が届けられるので其の時に出せば良いと許可したんだ。」
「参謀長殿も職人達には気遣いされたのですね。」
「私は其処までは考えて無かったんだ、だが問題はだ此処で話した内容が本部にも伝わって要る事なんだ。」
「えっ、では職人達の中に本部へ知らせる者が居るのですか。」
「私も最初職人達の中に上層部と通じて要る者が居るのではと考えた、だがこの部屋での話しは職人達は知らないはずだと。」
「ですが参謀長殿のお話しが司令本部に知られると困られるのですか。」
「其れは一切無い、だが其れは源三郎殿が来られるまでの話しなんだ。」
工藤は何故だか分からない、若しも自分達の事が知られると本部は暗殺部隊を送るだろう、だが話は違った。
「私もですが、吉田や小川、其れと大勢の兵士が生き残っており全員が戦死したと残った家族に知らせております。」
「其れは私も知って要る、だが私は別の事を考えてるんだ、源三郎殿は私を信じられ五隻の軍艦を沈めたと、其れが若しも司令本部に知られると一体どうなると思うんだ。」
「えっ、正か。」
「そうなんだ、だから私は源三郎殿から何と言われ様と返事が出来なかったんだ。」
其れが事実なのか、上野は下手をすると源三郎が設立した連合国の沖合から軍艦の一斉砲撃を受け連合国は壊滅する。
「私も源三郎殿の立場になれば同じ、いや其れ以上に腹が立つ。」
「私も初めてですよあれ程にも怒りを顔に出されたのは。」
「だがどんな方法を取っても軍港は完成させなければならないんだ。」
「ですが今の状況ではとてもでは有りませんがお願いするどころか、私は戻る事も出来ないのです。」
工藤は今連合国に帰る事も出来ず、かと言ってこの地に残る事も出来ない。
「多分だが今日か、明日には司令本部から書状が届けられる頃なんだ、其れで考えたんだが君にも手伝って欲しいんだ。」
「私に手伝えと、ですが何を手伝うのですか。」
上野は何を考え手伝えと言う。
「お~い当番兵、中隊長を呼んでくれ。」
暫くして中隊長が入って来た。
「参謀長殿、やはりでしたか。」
「あ~多分な、中隊長は何時もと同じ様に。」
「承知致しました。
参謀長殿、私の提案を聞いて頂きたいのです。」
中隊長は工藤をも知っており、だが何の話しだ何を提案すると言う。
「参謀長殿、少佐殿。」
「今は少佐では無い、連合国軍の大佐だ。」
「大佐殿、大変申し訳御座いません。」
中隊長は工藤に頭を下げ。
「いやいいんだ、其れよりも提案とは何の話ですか。」
「参謀長殿が大変な窮地に追い込まれておられまして、ですが私は何も考える余裕が無かったのですが先程思い付いたんです。」
「何を思い付いたんですか。」
「参謀長殿、書状を届けた兵士は直ぐに帰らないのです。」
「まぁ~其れは当然だ、私も今まで直ぐ帰れとは言えなかったからなぁ~。」
「其れなんですよ、私は職人達が家族に出すのは当然だと思うのです。
兵士達も同じですが若しも司令本部に通じる者が居るならば差出人の名は書かずとも本部は誰が書いたのか分かると思うんです。」
「では書状の中味を見ろと言うのか。」
「別に中味を見る必要も有りませんが、兵士は司令本部に帰れば参謀長殿の書状以外職人達の家族に届けさせると思います。」
「まぁ~其れが普通だが、其れで。」
「私は一日も有れば差出人の無い書状を探し出す事は出来ると考えたのですが。」
差出人不明の書状を探し出せばと、だが其れだけで何が分かるんだと工藤は思い。
「中隊長に聴きますが、差出人が分からなければ誰が出したのかも分からないですよ。」
「私も含め全員に名でも良いので書かせるんです。」
「全員に名を書かせ、其れで何が分かるのですか。」
「参謀長殿も大佐殿も私も誰でも書体には独特の癖が有ると思うのです。」
「そうか、では同じ癖字を書いた者が本部に出していたと言うのか。」
「本部に帰る兵士も本部からは何かを聴いて要ると思うんです。
例えば差出人不明とか、其れとも他の何かを知って要ると思うんです。」
「よし分かった、工藤も分かってくれたか。」
「私は是非とも協力させて頂きます。」
一体誰が書いたのか、その訳を突き止めなければ源三郎に報告すら出来ない。
「源三郎様、本当に登るんですか。」
「勿論ですよ、官軍は連合国の存在を知ったのですよ、若しもですよ官軍が我々を尾行したならばどの様なるかわかるでしょう。」
「でも官軍は来て無いですよ。」
「官軍も馬鹿では有りませんからねぇ~、我々に見付かる様な方法は使いませんよ、小隊長、馬に乗らずに行ける方法は有りませんか。」
「馬に乗らずにですか、う~ん、ですが。」
「オレが前に聞いた事が有るんですけど。」
日光隊の兵士は馬で来たのでは無く、だが彼は以前何を聴いたのだろうか。
「貴男は何を聴かれたのですか。」
「馬に乗ってこんなにも急な山を登るって物凄く怖いと思うんです、でオレが聞いた話しですが馬に引いて貰うんです。」
「馬に引いて貰うんですか。」
「其れだったら馬も楽だって。」
「そうかその手が有ったのか、総司令、其れならば人間も楽だと思います。
馬の背に連発銃と弾倉帯を乗せれば兵士も重い物も無く比較的登りやすくなると思うのです。」
「分かりました、では今の内に準備だけはして置きましょう。」
「馬車は如何されますか。」
「馬車は無理ですから何処かに隠して置きます、後藤さん、縄ですが。」
「今考えておりますので少しお待ち願いたいのです。」
源三郎は官軍の兵士が尾行して要るだろうと思って要るが、駐屯地を離れた時数人の兵士が見ていただけで誰も尾行はしていない。
そして、夜が明け。
「今日の風ですが海側へ吹いておりますので、狼が馬の臭いを嗅ぎ付ける事は有りません。」
「では早々に出立しましょうか。」
「見張りの人員だけは残して置きます。」
日光隊の小隊長は数人だけ残し、日光隊が先頭に源三郎もげんたも馬に引かれて山を登って行く。
「やはり楽ですねぇ~。」
日光隊の兵士は歩きなれた山道で馬が歩くと同じ速さで登って行く、何時もならば途中で休みに入るが、今はそんな余裕は無く、本来ならば夕刻にはまだ頂上では無いが今日は頂上を過ぎ下りに入った。
「君は先にお城へ。」
兵士は山賀のお城へと走って行く。
「総司令、吉三組さん達の馬は我々が乗りますので。」
中隊の兵士達が馬車を引いていた馬の背に、後藤と吉三組は中隊の馬に乗り下って行く。
「ご家老様、大変で御座います。」
と、兵士が飛び込んで来た。
「一体どうしたんですか、正か官軍が。」
「いいえ、総司令が。」
「源三郎殿が、正か。」
「源三郎様が山を下って来られます。」
吉永も日光隊の兵士だと分かっており、だが正か大岩から登って来るとは思っても見なかった。
其の時、高木と数人が執務室を飛び出した。
「ですが何故向こう側からなんだ、誰でもよい直ぐ開門とかがり火だ。」
吉永が言った時には大手門が開門されかがり火が点けられ辺りは明るくなっている。
陽も落ち辺りは薄暗い、だが今日は何故か明るく感じた。
「あんちゃん、お月様だぜ。」
「其れで明るいのですか。」
「もう草地で松明を用意致します。」
「小隊長、申し訳有りませんねぇ~。」
「自分達はゆっくりと参りますので。」
日光隊と分かれ源三郎達はお城へと急ぎ、四半時程でお城に着いた。
「全員下馬、馬を休ませて下さい。」
「源三郎殿、いや総司令、一体どうなされたのですか、兵士が向こう側から来られたって。」
「ではお話ししましょう。」
「なぁ~あんちゃん、何か変だと思わないか。」
「何が変ですか、私は上野に騙されたのですよ。」
「オレもあの時は騙されたって思ったんだ、だけど前の日には地図や軍艦の図面も全部見せてくれたんだぜ、あんちゃんは書き物を見てたと思うんだ。」
「その通りですよ。」
「其れが何で急に変わるって、何か変だと思わないか。」
「確かにその様に言われると。」
「あんちゃんは書き物を読んで、何も分からなかったのか。」
「う~ん。」
と、源三郎は腕組みし考え始めた。
「う~ん、何が有るのか。」
源三郎は必死に思い出そうとしており、傍の後藤達も何か考え沈黙は半時以上も続いた。
「いや待てよ、時々だが司令本部が知らないはずの内容の文言が。」
あの時、上野宛てに届いた書状の全てを読んだ。
「今思い出して見ると確かに最初の頃の文言と最近届いた書状の文言では少しずつ変化が有りましたよ。」
「何か思い出したのか。」
「私もあの時は別に変だとは思って無かったですが、今考えて見るとですよ、司令本部が何故知らないはずの事まで知り得たのかですねぇ~。」
「だったら誰かが知らせてるのか、若しかしてオレ達の事を探る為に。」
げんたは司令本部が連合国の存在を知る為、上野の部隊に密偵を潜り込ませたのかも知れないと。
「げんたは密偵が潜んで要ると思って要るのですか。」
「オレでも考えてるんだぜ、あんちゃんは書き物を、オレは工藤さんに軍艦の説明を聞いてるんだ、上野って言う人が本当にオレ達を騙すつもりだったのかオレは分からないけど、でもなぁ~あんなに大勢職人さん達全員がだ何でだ、オレだったら早く工事を終わって家に帰りたいんだ。」
げんたの言う様に職人ならば仕事を早く終わらせ早く家族の居る家に帰りたいと、其れならばわかる。
「では兵士の中に司令本部と繋がって要る者が居るのか。」
「確かにあの時官軍にも知られて無いと言われましたからねぇ~。」
「オラ達が海の深さを調べるって言ったら職人さん達も、其れに兵隊さん達も手伝うって言ってましたよ。」
「私も何時もの義兄上では無かった様に思います。
何時もならば沈着冷静で、いや恐ろしい程にも考えておられますが、あの時は一体どうされたのか不思議でならかったのです。」
若様も何時のも源三郎では無かったと言う、やはりそれ程にも源三郎は混乱したとでも言うのか。
「吉永様、皆様方のお食事ですが。」
「若、準備は整っておりますので。」
「義兄上、皆様方にお食事を。」
「そうでしたねぇ~、私も混乱しておりまして申し訳御座いません。」
日頃の源三郎では考えられ無いと若様も吉永も思って要るが、中隊の兵士と吉三組も含め皆が大変な緊張だったと見え食事を取るどころでは無かった。
「さぁ~皆さん、食事を頂いて下さいね。」
やっと何時もの源三郎に戻ったのか。
「若様、あんちゃんでもあんなことが有るんですか。」
「いいえ、私も初めて見ましたよ。」
「若、一体何が有ったのですか。」
「そうだ、工藤さんや吉田さんに小川さんですがあのまま官軍に残られるのですか。」
「其れは多分無いと思いますが、今頃は内情を聞かれて要ると思いますよ。」
「そうですよ、工藤さん達は司令本部から見れば脱走兵ですから、其れならば戻られる事は無いですよ。」
「吉永様、私の思い違いで有れば宜しいのですが。」
源三郎は吉永にも詳しく話すと。
「やはり何か有りそうでねぇ~、ですが源三郎殿にしては大変珍しいですねぇ~。」
「私もげんたに言われやっと少し冷静になれたのです。」
「まぁ~其れは仕方の無い事だと思いますよ、其れよりも今後の事ですねぇ~。」
「私も今一度思い出し考え直して見ます。」
「参謀長殿、司令本部から書状が届きました。」
「そうか、で兵士は何時帰ると言ったんだ。」
「一応、明日は休みを取り、明後日には帰る予定だと申しておりました。」
「そうか、では君に頼みが有るんだが。」
上野は当番兵に何やら頼むと。
「承知致しました、自分が何とか聴き出して見ます。」
「そうか、では頼むぞ。」
「参謀長殿、職人達の書状ですが。」
「其れよりもだ兵達に名を書かせてくれないか、まぁ~適当な理由を付けてだが。」
「理由ですか、う~ん何と言えば。」
中隊長は腕組みし考えるが、上野が言う適当な理由を付けろと、だがどんな理由を付ければ良いのだ。
「君達も考えて欲しいんだ。」
上野は工藤や吉田、小川にも考えて欲しいと言うが、上野の執務室には重い空気が漂って要る様で、その後、半時以上も沈黙が続いた。
「参謀長殿、良い方法が有ります。」
「何か思い付いたのか。」
小川が思い付いた方法とは。
「参謀長殿、嘆願書ですよ、兵士全員に嘆願書を書いて欲しいと、総司令に出すと言う名目が有れば誰も疑う事はしないと思うんです。」
「そうか其の方法が有ったのか、ならば我々も名を連ねる理由が出来る、参謀長殿、これならば大丈夫だと思います。」
小川は源三郎に嘆願書を出すと言う理由ならば兵士全員疑う事は無いと。
「よし、其の方法で行くか、小隊長達も同席していたからなぁ~。」
「よ~し、早速開始するか。」
果たして小川の考えた通り兵士全員が署名するのだろうか。
「私が兵士全員に話しをしますので。」
「よし、其の間に嘆願書を書いて置く。」
中隊長は兵舎に向かった。
「小隊長、大丈夫でしょうか。」
「まぁ~心配するな何も証拠はないんだから。」
「そうですよねぇ~。」
やはり、上野の思った通りなのか、だが兵士は何故か不安そうな顔付きをして要る。
「全員集まってくれ、大事な話しが有るんだ。」
「えっ、一体何が有ったんだ。」
「中隊長殿、大事な話しって参謀長殿に何か有ったんでしょうか。」
「まぁ~其れを今から全員に話すから。」
暫くして小隊長達と兵士全員が集合した。
「みんなよ~く聞いて欲しいんだ、小隊長達は知って要ると思うが、今日。」
その後、中隊長は上野と源三郎が話した内容を説明すると。
「中隊長殿、ではその何とか言う国と戦を始めるんですか。」
「参謀長殿もだが今残っておられる工藤大佐、吉田中佐、そして、小川大尉殿も殆どが何とか戦は回避したいと願っておられる、其れで先程参謀長殿が総司令長官殿に対し嘆願書を書くので君達にも署名して欲しいんだがいいだろうか。」
「中隊長殿、署名は我々なのでしょうか、職人達にも署名させても良いのでは。」
「う~ん其れも大事だなぁ~。」
「皆さん、少しお話しを聞いて頂きたいのですが宜しいでしょうか。」
「えっ、正か工藤少佐では。」
「その通りで私は工藤ですよ、皆さん私は幽霊では有りませんよ其の証拠にほら手も足も有りますから。」
「少佐殿は脱走されたって聞いてるんですが。」
「まぁ~その話は後程にしますのでね、其れよりも今中隊長から聞かれたと思いますが、参謀長殿は新政府いや其れよりも欧州から大艦隊が我が日本国を植民地にする為に押し寄せて来るんですよ、若しも大艦隊が、いや欧州の国の植民地になれば我が日本国は一体どうなるか皆さんは分かりますか、多分皆さんが想像されて要る事とは全く違います。
私の聞いたところでは植民地になれば幕府の時代よりももっと悲惨な状況になりますが、皆さんは其れでも宜しいのですか。」
「少佐殿、今の話は本当なんですか。」
駐屯地の兵士は殆ど何も聞かされていない。
「私が作り話をして要ると思われるでしょうが、私が何の為に作り話をする必要が有ると思いますか、私は皆さんも聞かされて要ると思いますが、司令本部は私を脱走兵だと、若しも其の話しが本当ならば私が皆さんの前に姿を見せる事などはしませんよ。」
「中隊長殿は少佐殿が脱走したと思ってるんですか。」
「いいえ、私も少佐殿、いや今は大佐殿になられておられますのでね、其れで今の話しですが皆は大佐殿が何故脱走されたと思って要るのですか、大佐殿の他に五百名の兵士が一緒なんですよ。」
「じゃ~昨日来てたあの兵士もですか。」
「皆さん、私は今連合国と言う国におらせて頂いておりますが、連合国と言う国では何事に置いても自分で決める事が出来るのです。
農民さんも漁師さんも城下の人達は昨日来られておられました源三郎様と言うお方の元で、其れは毎日が楽しく過ごされておられますよ。」
「そんな馬鹿な話しを誰が信じれるんですか、オレ達は今まで散々侍にいじめられて来たんですよ。」
「確かに幕府の時代は侍が一番偉そうな顔で皆さんをいじめていたと思います。
ですが皆さんも侍の言葉は分かると思いますよ、ですが今度の相手は外国人なんですよ、皆さんは外国の言葉は分かりますか。」
「そんなのって絶対に無理ですよ。」
「そうだと思いますよ、私も全く理解出来ませんので、そんな外国の兵隊が日本国を植民地にすればですよ、皆さんが生きて要る時よりも、皆さんの子供さん、其れにお孫さんの時代になれば一体どうなると思いますか、奴らはねぇ~幕府の侍よりはもっともっと恐ろしいですよ。」
工藤は必死に官軍兵に訴えて要る、だが兵士達の反応はまだまだで信用していない。
「我が連合国の総司令長官殿は命懸けでこの地に来られたんです。
勿論、私も吉田も小川もですが、其れでも分かって頂け無いので有れば仕方有りませんねぇ~。」
「全員に聴く、この地に軍港を建設する事は皆家族の為なんだ、今大佐殿が申された事は全て事実で、だが今の我々に軍港を建設するだけの知識が無い。
参謀長殿は自決覚悟で軍港を完成させなければならないと考えておられるんだ、その為には源三郎様と申される連合国最高司令長官殿の協力が無ければ軍港を建設する事も出来ず、其れがどんな事態になるのか小隊長達は想像出来るはずだ、皆が大佐殿の話しは信用出来ないと思うならば、参謀長殿の執務室に世界地図と司令本部から届いた書状が有る、其れを読めば全てが分かる、其れでも信用出来ないと言うならば私を殺せ。」
中隊長の迫力に負けたのか兵士達の顔付きが変わって来た。
「中隊長殿、自分が一番に署名血判します。」
と、一人の小隊長が名乗り上げると、其れからは次々と名乗り、やがて四半時程もせず全員が署名すると。
「大佐殿、誠に申し訳御座いません。
自分が至らないばかりにこの様な事になりまして。」
「いやいいんですよ、では今度は私の番ですねぇ~、皆さんが署名された一番最後に署名させて頂きます。」
この時、工藤は本気で嘆願書を源三郎に見せるつもりだった。
そして、上野が嘆願書を書き上げ上野が最初に署名血判した。
「参謀長殿、全員が署名すると承諾しました。」
「そうか、では私が最初に署名血判する。」
「では、私も。」
と、中隊長が署名血判すると、小隊長達と兵士が次々と執務室の前に集まり待って要る。
兵士達は次々と署名しており、小隊長達だけが血判して行き、最後に工藤、吉田、小川達が署名血判した。
「参謀長殿、嘆願書ですが私が総司令に届けます。」
「工藤は本当に渡すのか。」
「勿論で、其れで無ければ総司令も信用されないと思います。」
「よし分かった、だが其の前に調べる方が先だ。」
「参謀長殿、兵士達の書状を持って来ました。」
当番兵が兵士達が家族宛てに書いた書状で、更に五百名の兵士が名を連ねており、同じ様な書体が有り、其れでも探し出すにはそれ程の時は掛からなかった。
「う、これは。」
やはり、一通だけが裏に差出人の名が無いが表を見ると司令本部に居る数名の名を使いまるで暗号の様だ。
「参謀長殿、この書状ですが似たような文字は司令本部のお二人の名字を使った様にも思いますが。」
「確かに名も同じだなぁ~。」
「ですが書体は独特ですよ。」
上野と工藤は何度も見直した。
「参謀長殿、この者が書いた宛名ですが本人の家族宛の名が有りませんが、他の者達は全員が家族宛てとなっております。」
「よし、ではこの者を呼び出し正して見るか。」
「参謀長殿、私にお任せ願いますか。」
工藤は何を思ったのか兵士に問いただすと言う。
「工藤は何か策でも有るのか。」
「いいえ、今は其の前にこの兵士と同じ小隊の兵士の書状を出して頂けますか。」
「はい、承知致しました。」
中隊長は四半時程で小隊全員の書状を探し出し。
「大佐殿、これで全員です。」
工藤は全員の書状を机の上に並べ、じ~っと見て要る。
「参謀長殿、この兵士全員が元侍です。」
「何故、この者達が我が隊に来たのですか。」
「確かあの時。」
上野は暫く考え。
「そうかわかったぞ、あの当時、我が隊は人員不足で、私が司令本部に人員増を願い出たんだ。」
「何故、人員不足になったんですか。」
「少し前だが幕府軍との戦闘で二個小隊の全員が戦死したんだ、その後、司令本部より今回の任務の命令が有り、其の時、二個小隊が配属されたんだ、えっ、では源三郎殿が処罰した小隊もか。」
「参謀長殿、あの小隊も全員が元侍でした。
ですが我々の部隊でも小隊長達以外は全員が町民や農民ですよ。」
やはり、司令本部は工藤が生きて要ると考えたのだろうか。
「司令本部は今でも工藤が生き残って要ると考えて要るのか、其れで私を今回の任務に命令したのか」
「ですが、何故私が問題になるのでしょうか。」
「よ~し、文の中味を見るか。」
上野は一通の文を空け中味を読んだ、すると。
「やはりだ、工藤が来たとはっきり書いて有るぞ。」
「参謀長殿、やはりこの者が司令本部と通じていたと考えられます。」
「よ~し、小隊の全員を。」
「参謀長殿、少しお待ち下さい、私に任せて頂たいのです。」
「何だと、君に任せろと言うのか、だがこの書状には君の名が書いて有るんだぞ。」
工藤は何を考え任せろと言う。
「中隊長、安心出来る小隊長を呼んで頂きたいのです。」
「小隊長全員でしょうか。」
「いや、一人だけで宜しいので。」
中隊長は執務室を出、当番兵に告げた。
「君は一体何を考えて要るんだ。」
「まぁ~お任せ下さい。」
工藤はニヤリとした。
「大佐殿、正か。」
吉田は分かった様だ。
「失礼します。」
と、小隊長が入って来た。
「ご苦労、えっ、正か。」
工藤が驚くのも無理も無い。
「参謀長殿のご子息では。」
「そうだ、息子だ。」
「少佐殿、お久し振りで御座います。」
小隊長は工藤が今まで考え付いて来た戦略を学んでいる。
「小隊長の部下全員に銃を持たせて下さい。」
「承知致しました、其れで後は。」
「私の指示で銃を構えて欲しいのです。」
小隊長も薄々気付いて要るのか、其れ以上聞く事も無く部隊へ戻って行く。
「工藤、犯人が分かって要るんだから今更何をするんだ。」
「中隊長、部隊の全員を集合させて下さい。」
中隊長も意味が理解出来ないのか首を傾げながらも部屋を出、部隊の全員集合を伝えに向かった。
工藤は一体何を始めるつもりなのか、上野は犯人は特定されており今更部隊の全員を集合させる必要も無いと思って要る。
だが工藤は別の目的が有り、単なる犯人探しが目的では無い。