第 39 話。 何故に直ぐ決断出来ない。
「総司令、私は驚きよりも参謀長の話しに衝撃を受けております。」
「私もで御座いまして、正かそれ程まで危険が迫って要るとは思っておりませんでしたよ。」
「工藤さん、田中様、上野さんは相当深刻になられておられますねぇ~。」
「あんちゃんは何で直ぐに図面を受け取らなかったんだ、オレは見たかったのになぁ~。」
げんたは相当不満だと言う表情で有る。
「其れはねぇ~、他の書面を見ると言う事は明日にでも結論を出す必要に迫られると思ったんですよ、私はねぇ~何も今夜急いで見る事よりも明日の朝からゆっくりと読む、この方がみんなの意見も聴けると考えたんですよ、げんたも其れは分かって頂けますね。」
「ではまだ二~三日は掛かると思われるのでしょうか。」
「吉田さん、今夜急いで見たところで何も変わりませんよ、其れに夜の暗い所で見るよりも明るい所でね、其れとげんたは軍艦も見たいでしょうからねぇ~。」
「そうだ、オレは早く軍艦を見たいんだ、なぁ~あんちゃん、明日は見れるのかなぁ~。」
「其れはねぇ~、話しの成り行き次第ですよ。」
「ねぇ~後藤さんはさっきから何を考えてるんですか。」
「吉三さんは浜を見られましたか。」
「見ましたけど其れが何か。」
「実はですねぇ~、此処の浜は想像したよりも物凄く大きいんですよ。」
「物凄く大きいって言われても、オラは全然分からないんですけどねぇ~。」
「吉三さんも皆さんも聞いて下さいね、此処の浜ですが幅が一町以上で長さが全く分からないんですよ。」
「でもオラの住んでた所の浜は。」
「明日の朝ですが早く起きて調べて見たい事が有るんですが、皆さんにも協力して欲しいんです。」
「何でもしますんで、で、一体何をするんですか。」
「明日使う物ですが、まず縄を、そうですねぇ~、頭くらいの大きさの岩を縄で結んで、五尺くらいの所で結び、後は一尺づつで結んで、二十尺くらいの長さを二本、いや三本と半町、一町半、二町、二町半の結び目を作った縄を三本くらい要りますので。」
「だったら今の内に作った方がいいんですか。」
後藤は一体何を始めるつもりなのだ、柵を作った時にも同じ様な縄を作ったが。
「其れと杭ですが何本くらい有りますか。」
「え~っと、確か五十本か六十本は有ると思いますけど。」
「じゃ~其れを全部と大きい方の木槌と其れだけを用意して欲しいんですが。」
「分かりましたよ、じゃ~縄は今から用意に掛かりますんで。」
吉三組は荷馬車から長い縄を数本と杭と木槌を降ろし、縄は目印となる結び目を作り始めた。
「後藤さん、何を作られるのですか。」
「海の深さを調べるのです。」
「深さを調べられると申されますと。」
「海の中、いや海底の深さが必要で御座いまして、若しもこの浜が遠浅で有れば海底の砂を大量に取り除く必要が有るです。」
「では遠浅で有れば工事は簡単では無いと考えられるのですか。」
「左様で御座いまして、先ずは初めに沖合の二町半程から調べなければなりません。」
「上野参謀長が申されました専門の人物がいないと言うのはこの事だと思います。」
「確かにその様ですが、調査に一体何日掛かるのかも分からないのですか。」
「まぁ~そうですねぇ~三日は掛かると思うのです。」
源三郎は正か調査に三日も掛かるとは思いもしなかった。
上野が連れて来た職人はこの様な調査が必要だとは思って無かったのだろうか、後藤は治水に関しての知識は有る。
だが軍港を建設すると成れば、其れこそ専門の知識が必要だが、後藤は以前廻船問屋の船を接岸させる為の工事を行なっており、其の時の知識が今回の軍港建設に役立つかも知れない。
「では結論を出すと言うのは三日以上先になるのですか。」
「其れと軍艦の大きさも知らなければなりませんので。」
「では明日此処に停泊して要る軍艦を見れば分かるのですか。」
「其れは少し無理が有りまして、実物を見るよりも軍艦の図面と専門の方が必要になります。」
「専門の知識ならば此処に工藤さんが居られますよ。」
「では明日軍艦の図面を見て頂いては如何でしょうか。」
「そうですねぇ~、まぁ~全ては明日からと考える事にして皆さんもお疲れだと思いますので、今夜は早く寝る事にしましょうか。」
「吉田、念の為だ各小隊は歩哨に。」
「承知しました。」
工藤は上野は信頼出来ると、だがまだ安心は出来ないと考え小隊を歩哨に就く様に指示を出し。
そして、夜が明けた。
「吉三さん、行きますよ。」
「では吉三組の出番ですよ、みんなで行きましょうか。」
後藤と吉三組の全員が宿舎を飛び出し浜へと向かった。
「参謀長殿、早くも動き始められました。」
「そうか、其れにしても源三郎殿と申されるお方は不思議なお方だ、君達も聞いていたと思うが小隊を狼の餌食にされると言われたが、其の前に木剣を持たれたが全く隙が無い、全てが自然体で何も分からぬ者ならば相手は木剣だと簡単に思うだろうが、源三郎殿の木剣は普通の作りでは無い。」
「参謀長殿、全く隙が無いと申されましたが、では達人なのでしょうか。」
「私はあの構えだが以前聞いた事が有るんだ、江戸の高橋道場には恐ろしい程の使い手が居られ、年は若いが総師範代だと、えっ、若しか源三郎殿が噂の総師範代では。」
上野は話しには聞いてはいただけで実際の人物を見た訳では無い。
だがあの構えは一刀流の構えで、ではやはり源三郎かと思うので有る。
「江戸の高橋道場とは私も以前話には聞いた事が有りますが、宜しければお聞かせいただきたいのです。」
「まぁ~私も実物を見た事が無いのでなぁ~、だが我が隊にも以前居た者が高橋道場で修練していたと言う、その者の話しに寄ればだ。」
この後、上野が聞いたと言う噂の総師範代の話しをした。
「では元服前に総師範代になられたのですか。」
「そうだ、私も少しは心得は有るが、源三郎殿の構えには全く隙が無く、だから簡単だと見えるんだ、君も源三郎殿の太刀筋を見たと思うがどの動きにも無駄と言うものが無い。
私は何も確かめた訳では無いが、あのお方が噂の総師範代だと思う。」
やはり上野は確信して要るようだ、源三郎が高橋道場の総師範代だと。
「では我ら全員が向かっても駄目でしょうか。」
「多分あっと言う間に全員が殺され、いや身体中の骨が砕け一生寝たままで終わるぞ。」
上野は何も大袈裟に言ったのでは無く、それ程にも源三郎の太刀筋は恐ろしいので有る。
「中隊長、我々もお手伝いするんだ。」
「はい、では全員を。」
「そうだ、そしてあの方々の指示で動けと。」
中隊長は宿舎に向かい職人達に話すと宿舎から殆どの職人達が出て来た。
「上野様、お早う御座います。」
「早速作業を開始して頂きまして、私は改めてお礼申し上げます。」
上野が源三郎に頭を下げると。
「私は何も知りませんが。」
「ですが、昨日の方々が。」
「あ~後藤さんと吉三組ですか、ですが私は何も申しておりませんよ、我々の連合国では誰もが指示されて動くのでは無く、皆さんの意思で動いておりますので、まぁ~何時もの事ですからねぇ~。」
「では源三郎殿が命令されたのでは御座いませんので。」
「私は命令は一切出しませんので、皆さんとはお話しをして納得して頂きますればお願いしますので。」
上野は田中からは平気で農民や町民達に頭を下げる事が出来るかと、ではやはり源三郎は命令では無くお願いするのだと。
「私は今までその様な経験が有りませんので。」
「まぁ~其れは仕方無いと思いますよ、私は何時もこの様な方法でしか出来ませんので。」
「左様で御座い御座いますか、私も見習無ければなりませんねぇ~。」
上野は見習うと言うが簡単では無く、源三郎はその全てを高橋道場で教わったので有る。
「あの~わしらも手伝わせて欲しいんですが。」
「其れは大変有り難い、では皆さんには浜に杭を打って頂きましょうか。」
「後藤さん、じゃ~杭は全部ですね。」
「其れで宜しいですよ、其れと皆さんの中に大工さんが居られましたら杭を百本程少し長く、そうですねぇ~二尺程でお願いしたいんですが宜しいでしょうか。」
「わしらは大工ですので、だったら今からでも作りますんで。」
この様になると作業は一気に進み、後藤は吉三に作業内容を話し、吉三は仲間に伝えると仲間は暗黙で受け持ち区域を決め大工達に指示を出して行く。
当初後藤は調査に三日間は必要だと言ったが、大工達の参加で全ての調査はその日の内に終わった。
「全ての調べが終わりました。」
「えっ、ですが三日間は掛かると申されましたが。」
「私も其のつもりでしたが、大工さん達の応援で一日で終わりました。」
「そうですか、では次ですが何を。」
「其れは上野様にお伺いせねばなりませんので。」
「そうですか、では参りましょうか、工藤さんも其れにげんたもですよ。」
「では、いよいよですか。」
「其れは私も分かりませんが後藤さんのお話しを伺ってからだと思いますので。」
源三郎達は上野が居る執務室へと向かった。
「参謀長殿、源三郎様がお見えになりました。」
「さぁ~どうぞ。」
源三郎達が座り、上野と中隊長も座り。
「早速ですが、昨日お見せ頂きました書面と地図を。」
「承知致しました、小隊長、全部出してくれ。」
小隊長は机の上に昨日出した書状に地図、そして、軍艦の図面を出した。
「後藤さんが必要な物はご自分で見て下さい。」
「では軍艦の図面を。」
と、後藤も工藤も軍艦の図面を見て要る。
「う~んそうか。」
と、後藤は調べた内容と軍艦の大きさを見、別の紙に何やらを書き始めた。
「軍艦ですが何隻此処に停泊させる予定なので御座いましょうか。」
「何隻と申されましても。」
「例えば十隻とか十五隻くらいか、ですが二十隻ともなれば突堤も其れなりの本数が必要になるのです。」
「私が聞かされて要るのは二十隻くらいだと。」
「二十隻ですか、其れで大きさと申しましょうか、一応の目安としてで長さもですが、例えば軍艦の全長が一町とすれば、突堤の長さは最低でも一町半が必要でして、しかも幅も相当な広さが必要なのです。」
「後藤様、何故広さが必要なのでしょうか。」
「私は余り詳しくは知りませんが軍艦ともなれば大量の物資が、即ち燃料に弾薬、更に兵隊さん達の食料、そして、一番大事な飲料水ですね、これだけの物を置く場所も必要になるのです。」
やはり後藤だ、軍艦と聞くだけで最低必要な物は知っており、だが上野達は其処までは考えていなかったのだろうか。
「確かに後藤さんの申されます様に大量の物資が置ける場所が必要になりますねぇ~。」
「其れとですが、此処の浜は二町半程沖に行きますと水深も深いのですが、この図面を拝見しますと、全長が一町から一町半近くも有りますので、突堤の長さは最低でも三町、そして、これが問題ですが、突堤は五本が必要かと、そして、最後の岸壁ですが、長さが五町が二カ所も有れば軍艦が二十隻でも補給は十分に可能だと思います。」
「では全ての軍艦は接岸出来ないので御座いませんか。」
「軍艦は補給さえ出来れば岸壁から離れる事が出来ますので大丈夫で御座います。」
傍ではげんたが真剣な目付きで軍艦の図面を見て要る。
「げんた、軍艦に興味が有るのですか。」
「あんちゃん、オレは軍艦って初めてなんだぜ、これは工藤さんが描いたんですか。」
「一応基本として描きましたが、この図面は私が描いたのでは有りませんが。」
「じゃ~誰が描いたんですか。」
「この図面は日本国で考えた軍艦では有りませんねぇ~、外国の軍艦を基本に描かれた思います。」
「上野様、工藤さんの申される通りで御座いますか。」
「正しく其の通りでして、イギリスの軍艦を基にし、我が国で使い勝手を考えこの様になったのです。」
「この図面で建造された軍艦が停泊して要るのですか。」
「二隻が同じでして、一隻は別の造りになっておりますが基本は同じです。」
「なぁ~あんちゃん、オレは早く見たいんだけどなぁ~。」
やはり現物を見たいと、其れは源三郎も同じだ。
「軍艦を見せて頂く訳には参りませんでしょうか。」
「勿論宜しいですよ、では今から参りましょうか。」
「誠に申し訳御座いません、ご無理を申し上げまして。」
「いいえ、私は何も隠す必要が御座いませんので、では皆様方で参りましょうか。」
「私達は浜での測量が有りますので、此処に残りたいのですが宜しいでしょうか。」
「後藤さんにお任せ致しますが、上野様、宜しいでしょうか。」
「勿論で、全てお任せ致します。」
「上野様の許可を得ましたので、吉三さん達もお願いしますね。」
「オラ達もお手伝いさせて貰いますんで。」
「では参りましょうか。」
「馬車を手配しますので少しお待ち頂きたいのです。」
「上野様にお任せ致します。」
だが、げんたはもう辛抱出来ないのか、先程から部屋の中を何か考えながらウロウロと歩き回って要る。
「総司令、技師長ですが何かを考え始めた様ですが。」
「何時もとは違いますが、図面を見て何か思い当たる事でも有るのでしょう。」
暫くして数台の馬車が用意され、源三郎達が乗り込み軍艦が係留されて要る所へと向かった。
「あんちゃん、オレは今物凄く興奮してるんだぜ、分かるか。」
「私もですよ、私は今まで軍艦と言う船を見た事が有りませんのでね。」
「工藤さんは長崎で学んだって言ってたけど外国の軍艦は全部鉄で造られてるんですか。」
「全てだとは思いませんが、今ならば殆どだと申しても間違いは有りません。
特にイギリスの軍艦と申しますと全て鉄で造られております。」
「ふ~ん、そうか、全部が鉄なのか。」
「げんたは何を考えて要るのですか。」
「オレか、いいや別に何も。」
源三郎はげんたの事だ何かを考えて要ると、軍艦が係留されて要る所は吉田達が向かった半島の付け根とでも言うのか、入り江に入ったくらいでは発見されない所に係留されており、やがて軍艦の姿が見え始めると。
「あんちゃん、軍艦って物凄くでっかいなぁ~。」
げんたの驚き様も分かる。
「私もこれ程にも大きいとは思っておりませんでしたよ、上野様、乗せて頂く訳には参りませんでしょうか。」
「勿論宜しいですよ、全てお見せ致しますので。」
馬車が浜に着き、数艘の小舟に乗り軍艦に乗り込んだ。
「こんなに大きいと沢山の物を乗せる事が出来るんですか。」
「軍艦には先ず大砲の弾と火薬、更に燃料が最も重要でして、乗組員と食料に飲料水も大量に積み込む事が出来ます。」
「だったら物凄く重くなるんだ、じゃ~何処まで沈むんですか。」
「其れは私も分からないのです。」
「軍艦は其れだけ大量に積み込む事が出来ると申されるのですか。」
「我々は軍人ですので、軍艦と言う特殊な艦は大量に積み込んだとしても沈む事は無いと考えておりまして、この軍艦ならば満載しますと十日間くらいは補給する必要も御座いませんが。」
「ふ~んそうか、其れが軍艦なのか。」
げんたは軍艦に対して新しい発見をしたと思って要る。
「内部も見せて頂けるでしょうか。」
「宜しいですよ、では今からご案内しますので。」
軍艦の乗組員は上野に対してもだが、源三郎達に対しても必ず敬礼し、源三郎も必ず答礼して要る。
そして、内部と言うのか下に降りて行くと。
「工藤さん、この部分だけど、なんでこんな作りになってるんですか。」
げんたは継ぎ目を見て要る。
「技師長が知りたいのは継ぎ目の部分だと思いますが、鉄で造られる船は木造船と違い一番重要な部分が継ぎ目でしてその部分を疎かにしますと海水が入って来るのです。」
「じゃ~この部分を手抜きするのは絶対に無いって事なんですか、でも物凄く厚みが有るけど一体どんな方法で造るんですか。」
「技師長、私から説明させて頂ます。」
上野はこの後、軍艦の造り方を説明すると。
「え~だったら山賀では造れ無いのか。」
げんたは山賀では造れないと、だが一体何を造ると言うのだろうか。
「げんたは何を作るのですか。」
「あんちゃん、こんなにも大きな鉄の板は。」
「えっ、鉄の板を山賀で作るつもりなのですか。」
「あ~そうだよ、でもなぁ~、やっぱり無理か、う~ん。」
「げんた、正か鉄の。」
「あ~そうだよ、オレは造れると思ってるんだ。」
「技師長、鉄の板ですが、小さな板もで畳一畳分は有るのですよ。」
「じゃ~工藤さんは出来ないって言うんですか。」
「う~ん何と答えれば良いのか分からないのですが。」
「技師長、九州の八幡と言う所に巨大な製鉄所が有りまして、イギリスの技術者の協力で造られたのですが、其処でこの鉄板が作られて要るのです。」
「じゃ~他で作るのは無理なんですか。」
「今は何とも申せませんが、播磨を東に行きますと兵庫と言う所でも製鉄所の建設を始めて要るのです。」
「兵庫って言われてもなぁ~、オレは何処か知らないんだ。」
げんたは連合国の外に出るのが初めてで、連合国と言う国が日本国の何処の位置に有るのかさえも知らない。
「今申されました兵庫ですが、我々の地からは遠いのでしょうか。」
「いいえ、別に遠くは有りませんが、簡単に申しますと大坂に近いと思って頂いても宜しいかと。」
「あんちゃん、大坂って確か信太朗さん達が。」
「そうでしたねぇ~、信太朗さん達は堺だと聞いておりましたよ。」
「兵庫の製鉄所が完成しますと兵庫にも造船所を建設し軍艦を建造する事になっております。」
「では兵庫でも軍港を建造されるので御座いますか。」
「私は分かりませんが、やはり主力と申しますのがこの地でして、ロシアの軍艦は日本海を北上すると考えております。」
「ではこの地で軍艦を建造する事は無いのですか。」
「此処は軍港として最も重要だと考えておりまして、安藝の国や長崎は別として兵庫で建造された軍艦はこの地に配属される予定になっておりまして、ですがこの地は他の地と違いまして外海から発見される事は無いと考えられ、軍港の完成を待たれて要るのです。」
「だったら此処に鉄の板は持って来れないのか、う~ん、何か無いかなぁ~。」
「技師長、軍艦は鉄の板だけでは造れないのですよ。」
工藤はげんたが連合国で鉄の潜水船を造るのでは無いかと考えて要る。
「まぁ~オレも少しは分かってるんだけど。」
「技師長、鉄の板で有ればこれ程の厚みは有りませんが、補修用として送られて来ると思います。」
「えっ、其れって若しかして。」
「ええ、此処でも補修する為の道具と機械が運ばれて来ます。
ですが、今直ぐにとは無理ですが軍港の完成する前には運び込まれる事になっておりますが。」
だが補修とはそんなにも簡単に出来るのか。
「今補修と申されましたが、鉄で造られた軍艦の補修とはそんなにも簡単に出来るのでしょうか。」
「確かに源三郎殿が申されます様に鉄の軍艦は簡単に補修出来るものでは有りません。
ですが鉄の板ですが何かの弾みで大きく凹む事も有りますので、簡単な補修だけでも出来なければ兵庫か長崎、安藝の造船所まで廻航しなければならず、その様な事にでもなれば時と場合によっては戦況が大きく変わり、我々としてはこの地でも補修可能な軍港としたいのです。」
「だけど鉄の板をどんな方法で補修するんですか。」
「技師長、鉄と鉄を合わせ鋲を打ち込むんですよ。」
「オレは鋲って言われてもなぁ~、どれが鋲かも分からないんですよ。」
「これが鋲でしてね、鋲を真っ赤に焼き穴に入れ片方から大きな鉄の金槌で打つんですが、後で実物を見て頂きますので。」
げんたは何を聴いても初めてで驚きの連続で有る。
その後も内部を隈なく見て回り、その度質問し、そして、軍艦の心臓部で有る動力室に入った。
「わぁ~なんだ、これは物凄く熱いなぁ~。」
「此処が軍艦の心臓部でして動力室ですよ。」
「心臓部って、其れになんだこの部屋って何で明るいんだ。」
げんたもだが源三郎も初めて見る動力室で巨大な窯が真っ赤に燃えて要る様にも見える。
「私達は初めて見るのですが、何故この様に燃やして要るのですか。」
「軍艦と言う巨大は艦は何時出撃命令が下るのかも分からないのです。
軍艦を動かせる為には大量の蒸気が必要でして、蒸気を作る為に窯の火を消す事が出来ないのです。」
「では一度窯に火を入れると消せないとなれば大量の薪木が必要だと思うのですが。」
源三郎は付近を見るが何処にも薪木は無い。
「軍艦には薪木では無く石炭を燃やしております。」
「石炭と申されますと。」
「あんちゃん、この黒い石だぜ。」
連合国では燃える石と呼んでいた。
「げんた、これは山賀で採掘されて要る燃える石では。」
「九州の筑豊で採掘されておりまして、外国の軍艦の全てが石炭を燃やしております。」
源三郎やげんたが無知では無く、やはり高い山が大きな壁となり、国内もだが外国の最新技術と言うものが全く入って来ず、其れが一番の原因なのかも知れない。
「先程申されましたが軍艦は何時出撃命令が下るか分からないと申されましたが、書状は毎日届くので御座いますか。」
「今は書状も必要ですが、新政府は今東京から全国に向け電信装置と電線の敷設を行なっております。」
「電信と申されましたがどの様な機械なので御座いますか。」
「では装置を置いております部屋に参りましょうか。」
源三郎もげんたも電信だと言われたが全く理解出来ず、いや其れよりも余りの激変に驚くと言うよりも何とかして連合国にも最新の技術を導入しなければ連合国は日本と言う国家もだが欧州の列強諸国に遅れを取り、其れが原因で領民達を助ける事が出来ないのだ。
そして、軍艦の上部に行くと、其処には電信室と書いて有る部屋に来た。
「この部屋が電信室と申しまして、この装置で暗号化された音と申しましょうか、う~ん何と申して良いのか、誰か源三郎殿に実演を見て頂くんだ。」
すると一人の兵士が椅子に座り右手で何かを打ち始めた。
「この音ですねぇ~、トンツ~、トンツ~、と全てが暗号化されておりまして何も知らなければ、何も送ったのかも全く分かりませんが、兵士は全てを暗記しておりますので別の紙に書き写す事が出来るのです。」
「なぁ~あんちゃん、オレ達の国でも入れたらどうだ。」
「装置だけでは使い物にはなりませんよ、電気が必要でして先程も見て頂きましたが動力室では電気も作って要るのです。」
「えっ、電気ってなんですか。」
「軍艦には全ての部屋に電灯有りましてね、動力室で作られた電気のお陰で何時でも明るいのです。」
「へ~これが電灯って言うんですか。」
「其の通りでして松明やかがり火ではこれだけの明るさは無理ですが、電灯の明るさで夜中でも仕事が出来るのです。」
「私達の連合国でも其の装置を作る事は可能で御座いますか。」
源三郎は発電装置が有れば連合国、特に採掘現場、そして、洞窟での採掘も楽になると考えた。
「ええ、其れは可能ですが、材料もですが基本と成る発電機が無ければ構造も分かりませんので。」
発電機は必要だ、だが果たして上野は発電機なる物を持って来て要るのか、いやまだ急ぐ必要は無い。
確かに今の話を聴くだけでも連合国には必要な物、いや装置や機械ばかりだ、源三郎は喉から手が出る程欲しい物ばかりで、いや其れよりもげんたの目付きが異様だ。
「なぁ~あんちゃん。」
と、げんたは何かを言いたいのだろうが何も言わない。
「私は何としても軍港を完成させたいと、今は其れだけを考えて要るのです。」
「昨日のお話しではロシアが日本国を植民地にすれば他の国にも大きな損害と申しましょうか、被害と申しましょうか、その様な事が発生するのでしょうか。」
「其れは間違いは御座いません。
この軍艦はイギリスと言う国がロシアの極東へ進出を防ぐ為に必要な最新式の設備と装置を搭載しており、日本政府はこの軍艦と同等の軍艦の建造を目指して要ると言うより建造の最中で御座います。」
一方で後藤達は浜の測量を始めたが。
「吉三さん、あの小舟を利用しましょうか。」
「じゃ~オラは浜に残り仲間が沖に行けばいいんですか。」
「ええ、其れと沖に行くんですが、まず半町から始めて、二町、いや三町程沖まで深さを測りましょう。」
「よ~し、一番長い縄で深さを測るから。」
小舟には後藤と数人が乗りゆっくりと沖へ向かい、後藤は深さを測って行く。
「後藤さん、今二町程来ましたが。」
「う~ん思ったよりも深いですねぇ~。」
「どれくらいの深さが有ればいいんですか。」
「其れは難しいですが、最低でも軍艦が満載しても二倍以上の深さが有ればいいんですが、私も実物の軍艦もですが図面も見ておりませんので何とも言えないのです。」
後藤達は早朝から浜から沖へ三町程進むと言う方法で浜の五町程測ったがどれも水深が十間以上も有り、其れならば問題は無い。
だが浜から一町程では一間と其れは全ての観測地点でも同じで遠浅だと分かり、浜から沖へ二町半程までは全面的に海底の土砂を取り除かなけれ軍艦を停泊させるのはとても無理だと結論を出し、後藤は測量した数値を上野と源三郎に報告しなければならないと考え。
「一度戻りましょうか、私は全てのものが初めてでして今は衝撃を受けております。」
「では戻りましょう。」
と、源三郎達は馬車に乗り駐屯地へと向かった。
「吉三さん、浜の状態も調べましょうか。」
「でも何を調べるんですか。」
「港を造ると言うのは大変でしてね、浜の砂が何処まで続いて要るのかも調べる必要が有るんですよ。」
「何処まで続いてるかって、浜はず~っと向こうまで続いてますよ。」
「吉三さん、私の説明が悪かったのです。
波打ち際から海とは反対方向で砂では無く土になって要る所まで調べるんですよ。」
「でも何でそんな面倒な事するんですか。」
「其れはねぇ~砂は固まりませんが、土は固まるんですよ。」
「其れは分かりますが、じゃ~砂はどうするんですか。」
「そうですねぇ~う~ん。」
と、後藤は何かを思い出した。
「私も分からないんですがね、ですが此処で港を造ると言うのは物凄く大変な仕事になる事だけは間違いは有りませんよ。」
吉三は後藤の言う意味が分からないが、後藤達が戻った時丁度源三郎達も戻って来た。
「源三郎様。」
「後藤さん、浜の調べは終わりましたか。」
「はい、其れで報告する事が有りますので。」
「上野様も後藤さんの報告を聞かれますか。」
「勿論でして、さぁ~部屋の中に。」
源三郎達が部屋に入り、中隊長達も同席し、後藤の報告を聞く事になった。
「後藤さん、調査は大変でしたでしょうか。」
「源三郎様、上野様、調べはそれ程難しくは有りませんでしたが報告させて頂きます。」
後藤は沖合の三町までの水深と浜から一町までの水深を、更に浜から陸地の砂浜までの部分を報告し、工事は相当難工事だと報告すると。
「う~ん。」
と、上野は何も言えず黙ってしまった。
「後藤さん、難工事だと申されましたが、どの部分と申しましょうか、何処が一番大変なのですか。」
「此処の浜ですが殆どが砂地で、この地に港を建設すると成れば大量の砂を除去しなければなりません。」
「海底の砂を除去すると言われますが、私が見ただけでも大変だと感じておりますが、上野様は如何お考えで御座いますか。」
源三郎は上野が何としても軍港を建設したいと聞いて要るが、後藤の報告では相当難工事だと、其れでも工事は行うのか、工事を行なうにしても大量の物資が必要だと言う。
「ロシアの大艦隊が日本国を攻撃すると言う情報が入っており、この地はロシアの攻撃から日本国を守る為には何としても、いや絶対に完成させなければなりません。
私は軍港を完成させる為に必要な物資は政府に強く要望しなければならないと、後藤様の報告を聞き今決断致しました。」
源三郎は上野の決意を確かめ。
「後藤さん、では報告に基づき必要な資材ですが。」
「今日の調査はまだ本格的な調査では御座いません。
基本的な図面でも有るのでしょうか。」
「其れは御座いますが、昨日お出ししたものの中に入っておりますので中隊長、全部出して下さい。」
中隊長は軍港建設に必要な建物、軍艦の図面から全てを出した。
「では拝見させて頂きます。」
後藤は軍港の図面をげんたは軍艦の図面を、そして、源三郎は日本国と外国の地図を見て要る。
「技師長、軍艦の図面を見せて頂けますか。」
げんたは軍艦の図面を後藤に渡すと。
「軍艦は何処まで沈むので御座いますか。」
「此処までですが、深さとしては。」
上野は後藤に空の状態と物資を満載した時の状態を説明すると。
「う~んこれは大変だなぁ~。」
「後藤さんは大変だと申されましたが。」
「此処の浜は遠浅でして半町程先までは海底が見える程でして、此処に軍艦を停泊させる為には最低でも十間以上の深さまで砂を除去しなければならないのです。」
「えっ、十間以上深く掘るのですか。」
「其の通りでして、更に浜の砂も除去しなければなりませんので簡単には参りません。」
後藤の説明では大量の砂を除去しなければ軍港の建設は出来ないと。
「源三郎様、人手も大勢が必要ですが、其れよりもこの砂の捨て場が必要ですが、更に道具に荷車も必要でして、此処に居られる全員で工事に入って頂く必要が有ります。」
「源三郎殿、誠に私の勝手な要望ですが後藤さんを此処に残って頂く事は出来ないでしょうか。」
そうかやはり後藤が必要だと言うが。
「後藤さんは如何でしょうか、私は連合国もですが、日本国の為、ロシアの侵略を許す訳には参りませんので、後藤さんに吉三組は上野様が申されます軍港の建設に参加して頂きたいと思います。」
「私は日本国の為是非とも参加させて頂きたく、例え源三郎様のお許しが無くともと考えておりましたが、お許し下さるので有れば喜んで参加させて頂きます。」
「後藤さん、オラもやりますよ。」
「後藤さん、オラ達もやりますよ、なぁ~みんな。」
「そうだよ、オラ達は源三郎様に怒られると思って言えなかったんですが、オラ達吉三組は全員でやろうって決めたんです。」
「上野様、後藤さん、これで決まりですねぇ~。」
「誠に有難う御座います。」
「源三郎殿には私は何とお礼を申してよいか分かりません。」
「私は何もしておりませんよ、全て後藤さんと吉三組の皆さんが決められたのですからね。」
「源三郎様、其れと柵と池作りですが。」
「まぁ~其れも仕方有りませんよ、我々の事は心配されず此処で軍港を完成させて下さい。」
後藤はまだ柵と池や井戸の掘削が終わっておらず心配だと、だが源三郎は何も心配せず軍港を完成させて欲しいと。
「失礼ですが、今申されました柵や池と言うのは何で御座いますか。」
「我々連合国では狼の大群が生息しておりまして、狼の侵入防止と平行しまして作物の増産の為に大小の池と井戸の掘削を行なって要るのです。」
「では工事の中心人物が後藤さんなのですか。」
「その通りですが、まぁ~我々でも何とか出来ると思いますよ、池や井戸は無理としても柵だけはどんな事が有っても完成させますのでね。」
「柵と池ですが、残りと申しましょうか、後、どれくらい有るのでしょうか。」
「後藤さんは如何でしょうかねぇ~。」
「上田までは柵は出来ておりますので柵だけならば残りは松川と山賀だけで御座います。」
「源三郎殿、後藤さん、柵だけを作るとなれば何日くらい掛かるので御座いますか。」
源三郎は後藤の顔を見るが、後藤は何かを考えて要る。
「後藤さん、オラの考えでいいですか。」
「吉三さんは何か思い付かれたのですか。」
「源三郎様、オラの思い付きなんですが、後藤さん、さっき調べた海なんですが、砂だけを先に取るのは駄目なんですか。」
後藤は暫く考え。
「あっ、そうか其の方法が有りましたねぇ~、上野様、この現場に鍛冶屋さんと、そうですねぇ~薄い鉄の板は有るでしょうか。」
「鍛冶屋ですか、中隊長、どうだ。」
「確か十名程ですが居られますが。」
「じゃ~薄い鉄の板は。」
「其れも軍艦に積み込まれておりますが。」
「源三郎様、上野様、少しですが目途が付きました。」
「えっ、其れは誠ですか。」
「源三郎様、吉三さんが解決策を見付けてくれました。」
後藤は吉三が解決策を言ったと、だが吉三は何の事かも分からず、仲間と顔を見合わせて要る。
「ねぇ~後藤さん、オラはまだ何も言って無いんですよ。」
「いいえ、吉三さんは砂だけを早く取れないかって、其れで思い付いたんですよ、吉三さん、有難う。」
「後藤さんも私にも分かる様にお話しして頂けますか。」
源三郎も全てが分からないのでは無く、だが官軍の中隊長と小隊長達は全く理解出来ず、中隊長達にも理解させる為には後藤の説明が必要だと、そして、後藤の説明が終わると。
「じゃ~海の底の砂だけを取るんですか。」
「軍艦と言うのはねぇ~物凄く大きいんですよ、ですが其れよりも物凄く重いんです。
上野様はロシアから日本国を守る為にはどんな事が有っても軍港は必要だと、ですがこの海は沖までが遠浅でして、そんな所に軍艦を持って来る事事態が無理で御座います。
でも今は無理を承知で造らなければロシアの植民地にされ、我々もですが同じ仲間が殺されるか、死ぬよりも辛く悲惨な目に遭わされるんですよ、ですから一番重要な工事が砂を取り除く事なんです。」
「後藤さん、砂を取り除くだけならば今の人員でも十分でしょうか。」
「勿論でして、そうだ明日の朝鍛冶屋さんと軍艦まで行きたいんですが宜しいでしょうか、私が考えた物を作りたいんですが。」
「中隊長、手配を頼む、其れと鍛冶屋を呼んでくれ。」
「源三郎様、明日で一応の目途が付きますので。」
「成る程ねぇ~、では目途が付けば一度戻しましょうか。」
「上野様、お願いが有るのですが、図面をお借りしたいのですが宜しいでしょうか。」
後藤は図面が必要だと、やはり連合国に戻ってから検討するのだろうか。
「後藤さん、図面ですが何故必要なのですか。」
「源三郎様、人間と言うのは直ぐ物事を忘れるのです。
私も図面が有れば、其れを基に道具もですが、その他に必要な物も書き出す事が出来るのです。」
「上野様、如何で御座いますか、後藤さんは図面を拝借したいと、私も軍港が必要ならば後藤さんに全てをお任せてしては如何と思うのですが。」
上野は何かを迷って要る様だ。
「我々は田中様の報告で意を決して来たのです。
上野様がまだ我々の事を信用出来ないと思われるので有れば、我々は何も聞かなかったとしてこのまま戻ります。
我々は独自の考え方でロシアの軍艦を撃沈させますが、其の時は日本国も敵軍と見なし、我が連合国に近付く事が有れば問答無用で攻撃を加えますので、其れと此処に停泊されて軍艦は何時でも沈める事が出来るので御座います。」
源三郎は脅迫して要る様にも取れる話しだ、だが其れは上野がはっきりとしないからで、さぁ~上野はどんな答えを出すのか、暫くの時が流れ。
「げんた、戻りますよ、今から官軍は我々の敵を見なす、工藤さん、中隊を。」
驚いたのは上野よりも工藤で、上野がこれ程にも答えを出せないとは以前を知る者ならば考えられない。
「参謀長殿は何を思案されておられるのですか、総司令は全て協力すると、ですが私は参謀長殿がそれ程のも決断されないので有れば、私も官軍と対決致しますが、其れでも宜しいのですか、後藤さんは軍港を建設する為の資料として図面をお借りしたいと其れだけの話しで御座いますよ。」
「げんた、今進めて要る新型の武器を大至急完成させて下さい。」
「あんちゃんは本気で官軍と戦を始めるのか。」
「ええ、勿論本気ですよ、あれくらいの軍艦ならば何時でも沈める事が出来ますから、工藤さんは戻り次第潜水船を出撃させて下さい。
どうやら我々は官軍に甘く見られていた様ですからねぇ~。」
源三郎は本気なのか、だが工藤は源三郎が官軍に対し宣戦布告したと思える発言に恐ろしさを感じた。
源三郎はげんたに新しい武器を完成させろと、だが新しい武器とは工藤も聞いた事が無く、このまま源三郎を帰す事にもでなれば、其れこそ一大事だ、工藤は何としても源三郎を帰す訳には行かない。
だがどんな方法が有るのか今は全く見当が付かない。