第 38 話。 源三郎の大芝居なのか、いや其れとも。
源三郎達が野洲を出発する昼前。
「私は野洲の。」
「どうぞ、若様は執務室におられますので。」
「左様ですか、では失礼します。」
と、伝令兵は馬に乗ったまま山賀の執務室前へ。
「若様、私は。」
「どうぞ、お話し下さい。」
「はい、では報告させて頂きます。」
源三郎達が山賀の北側に有る大きな入り江に向かって、今朝野洲を出発した後だと。
「ですが、私は何も聞いておりませんが、一体何が有ったのでしょうか。」
「私の知る限りご説明させて頂きます。」
伝令兵は数日前に田中が戻り、源三郎に報告した事から協議が難航した事まで話した。
「では義兄上は官軍の軍港を建設する事に同意されたのですか。」
源三郎は同意したと言うより取り合えず行かねば話しにもならないと。
「総司令もですが、大佐殿も少佐殿も同意されたのでは無く、特に総司令は官軍の上層部の考え方をお知りになりたいと伺っております。」
「若、其れにしましても正かと言う展開になりましたなぁ~。」
吉永は正かと言うが、若様は突然の出来事に驚きよりも衝撃を受けた様で、其れと言うのも先日までは官軍が何時山賀を攻撃するやもと思い連日自ら山に入り猿軍団からも話しを聞いており、幕府の残党、野盗、そして、官軍兵が登って来る気配はないかと、其れが突然、山賀の向こう側の大きな入り江で官軍が建設予定の軍港造りの現場に行くと言う。
「では義兄上は私を。」
「若、そうでは無いと思うのです。
総司令も簡単に答えは出るものと、ですが、やはり野洲には源三郎殿の天敵が居たと言う事ですよ。」
「えっ、では技師長で御座いますか。」
「多分、其の通りだと思いますよ、げんたと言う技師長は頭の回転が早く、連合国の並みの者では到底太刀打ち出来ない程で、源三郎殿も正かと思われたのでしょう。」
「其れでは技師長が反対されたと言う事なのですか。」
「確かに今までは何事に置いても源三郎殿の決断は早く、ですが其れまでは考えを巡らせ、有りとあらゆる場面を想定し、いざ問題が発生したとしても考える事も無く決断した様にも見えるだけでして、実際は常に考えておられるのです。」
「其れでは今回の問題は全くの想定外だと申されるのですか。」
「私も其の様に思いますよ、つい先日までは官軍の動きが最も重要だと、其れが田中様が戻られ総司令に官軍の情報を報告され、その内容が余りにも衝撃的な為に何時も冷静沈着な源三郎殿でさえ慌てられたと、私は其の様に思って要るのですが。」
「私も今お聞きしたのが誠だと思います。
義兄上は普段から少々の事では動揺される事は御座いませんが、義兄上がそれ程までに動揺されるとは、やはり義兄上でも想定外で少し焦られたのでしょうか。」
「まぁ~焦られたのか、其れは私にも分かりませぬが、若にも連絡が無かったと言う事からして全く予想しておられなかったのでは御座ませぬか。」
吉永は源三郎は常日頃から思慮深いと知っており、その源三郎を慌てさせる程の大問題が発生した、其れが今回山向こうの大きな入り江で行われて要る軍港造りで有る。
だが軍港造りがそれ程にも困難な工事なのか、吉永は源三郎の事だ他に何かの目的が有るのでは無いかと考えて要る。
「ですが義兄上は官軍の軍港造りを承諾されたのでしょうか、私は何か他に目的でも有るのでは無いかと考えて要るのですが。」
「私も同じ様に考えて要るのです。
源三郎殿が港を造るだけの目的で危険を犯されるとは到底考えられ無いのです。」
「では一体何が目的なのでしょうか。」
「ご貴殿に伺いますが、工藤さんや吉田さんは何か申されておられましたか。」
「私も総司令のお話しを直接伺ってはおりませんが、大佐殿のお話しでは外国の軍艦が我が連合国を攻撃するやも知れぬと、其の様に聞こえたので御座います。」
「何ですと、外国の軍艦が我が連合国を攻撃すると、其れは誠なのですか。」
「私も詳しくは存じませんが、我が連合国だけでは無く、新政府が日本国だと、其の日本国を攻撃する可能性が有ると申されておられました。」
「其れならば一大事ですよ、では義兄上は外国からの攻撃が有ると考えられ、官軍の上層部のお話を聞かれに参られた、其れが本当の目的だと言う事ですねぇ~。」
「正しく其の通りだとすれば、若も。」
「吉永様、私も向こう側に参り、直接義兄上からお聞きしたいと考えますが、今一度聞かせて頂たいのですが、義兄上は馬で参られたのでしょうか。」
「いいえ、総司令は技師長や他の方々と馬車で、大佐殿と少佐殿と中隊の全員も馬で向かわれました。」
「では二日後には向こう側に来られると考えねばなりませんねぇ~。」
「では、其れよりも誰か日光隊と月光隊の小隊長と小川さんをお呼びして下さい。」
数人の家臣が飛び出し駐屯地へと向かった。
「大変ご苦労様でした、ご貴殿は少し休まれては如何でしょうか。」
「申し訳御座いません、自分も忘れておりましたが、後藤さんと申されお方と吉三組と申されます測量部隊もご一緒で御座います。」
「後藤さん達も一緒だと言う事は軍港の建造に入られると見て間違いは御座いませんよ。」
「其れと色々な道具も積み込まれております。」
「もう決定ですぞ、馬車で出立されたと言う事は他のものも、う~ん其れにしても今までは考えもしなかったが事が現実に起きたと言う事ですなぁ~。」
「若様、では私は失礼致します。」
「ご苦労様でした。」
伝令兵が執務室を出ると、入れ替わりに日光隊と月光隊の、そして、小川が来た。
「若様、野洲で何か異変が起きたので御座いますか。」
「小川さん、其れが大変な事が発生したのです。」
若様は小川と日光隊と月光隊の小隊長に詳しく話すと。
「では総司令もご一緒に向かわれたと申されるのですか。」
「義兄上が直接向かわれると言うのは余程の事だと思います。」
「私も同様でして、では若様も向かわれるので御座いますか。」
小川は若様の事だ源三郎が向かうと聞き、これは必ず行くと。
「私は軍港の建設より官軍の、いやそのお方の考え方を知りたいと思って要るのです。」
「では私もご一緒させて頂きます。」
「えっ、小川さんも参られるのですか、ですが。」
「山賀には猿軍団が常に見張っており、更に特撰隊も控えており山賀は最強で御座いますので何も心配は御座いませぬ。
特撰隊は自分達で考えられた方法で見張られ、更に特別訓練を行われておられます。」
「今特別訓練と申されましたが。」
「特撰隊は休みを利用し北の断崖へ行きお互いが拳大の石を海側に投げその石を撃つと言う訓練で今では百発百中だと聞いております。」
若様は其の様な訓練を特撰隊が行なって要るとは全く知らなかった。
「その訓練ですが簡単なのですか。」
「ご家老様、飛んでも御座いませぬ。
拳大の石を、其れも半町先から撃つので中隊長も大変驚いておりまして、特撰隊の腕前ならば一町先を行く敵ならば眉間に命中させる事も可能だと、私も今の特撰隊ならば我が連合国軍では最強の部隊だと確信しております。」
「そうですか、私は何も知りませんでしたので、ではご一緒に参りましょうか。」
「出立されるのであれば、今からお食事をされては如何で御座いましょうか。」
「そうですねぇ~、では全員で食事を頂まして終わり次第出立しましょう。」
家臣数人が賄い処へと走り、そして、半時程で食事も終わり、若様と小川、日光隊と月光隊は山賀の北側から山向こう側に有る大岩を目指し出発した。
「後藤さん、港を造るって難しいんですか。」
「港と申しましても色々と有りましてね、ですが田中様のお話しでは軍艦を係留出来る事、停泊中の軍艦に乗り入れも簡単に出来なければならないんですよ。」
「係留するって、じゃ~ただ泊めるだけじゃ駄目なんですか。」
「私も詳しい事は分かりませんが、軍艦と言うのは出撃する為大量の物資を積み込みますので、乗り込みが難しいとなれば物資の積み込みにしても大変な苦労をし、其れが若しも半日でも送れる様な事にでもなれば戦に負けるのです。」
「だったら簡単に考えて造れるものじゃ無いんですね。」
「私は治水が専門ですが、吉三組の皆さんも池を造る時、最初は大変苦労されたと思いますよ。」
「オラも最初は池って簡単に考えてたんですが、掘る場所も色々と考え無いと駄目だって分かりました。」
「其れと同じでしてね、浜の状態も見なければなりませんし、潮の満ち引き関係してくるんですよ。」
「え~何で潮の満ち引きが関係するんですか。」
「実に簡単な事でしてね、船と言うのは物を積み込んで要る時には沈み、空の時には荷物の重さの分だけ浮くんですが、軍艦の大きさにも寄りますが、荷物と人が乗っていない時より荷物を満載し、人も全員が乗った状態を考えなければならないんですよ。」
「じゃ~引き潮の時に軍艦を入れたいんですか。」
「其れは私にも分かりませんよ、ですが軍艦が出撃する時は荷物も兵士も全員が乗り込み出撃すると考えると引き潮の時に船の底が海の底に着いて要れば船は動かないんで、その為には引き潮の時でも出撃出来る様に造るんですよ。」
「そうか、だったらオラ達の仕事は簡単に出来るもんじゃ無いんですね。」
「ですが吉三さん達ならば大丈夫ですよ。」
後藤は以前国で廻船問屋の船を着ける為の工事をしており、其の時の経験が今回生かされる事に成った。
だが吉三達は治水もだが港を造ると言うのは初めてで、しかも其れが官軍の軍艦を停泊させる為の軍港造りとは正かとは思ったが、其れでも後藤と言う専門家が同じ中隊におり、今では吉三組は土木専門の部隊、いや最初の組みとなった。
「工藤さんは上野さんとはどの様な関係だったのですか。」
「私は幼い頃より船と言う乗り物に興味が有りまして、近所の船大工の親方の作業場で一日の大半を過ごしており、父からもそんなに船が好きならば長崎に参り船の事を学べと言われまして、其の話しを親方に申しましたところ、親方が長崎の知り合いの船大工の親方の所に行く様にと紹介状を書いて頂き、其れで長崎に行ったのです。」
工藤はその後、長崎で上野と出会うまでの事、そして、官軍に入り上野が居る海軍に配属され軍艦の専門的な事を学び、だが工藤は官軍の上層部と折り合いが悪く、工藤の言動を良く思わなかった司令官の逆鱗に触れ幕府の残党の討伐と言う理由を付け、最後には工藤は官軍を脱走したとまでなったと話した。
「では上野さんは何もされなかったのですか。」
「其の時はまだ参謀でして司令官に逆らう事も出来ず、参謀が司令本部に向かわれて要る最中に私は司令官から幕府の残党の討伐に行けと命令を出されたのです。」
だが司令官とは一体誰なのか。
「上野参謀は工藤さんを軍艦建造専門に就かせようと考えておられたのですか。」
「上野参謀はこれからは海の事は海軍、陸上は陸軍で、ですが主力は海軍だと申されておられました。」
「では軍艦を多数建造しなければならないと考えておられたのですか。」
「何れ幕府は崩壊する、だが何時までも幕府や国内の事ばかり考えていては日本国は世界から取り残されると、外国の事情も知る必要が有ると申されておられましたが、私も正かその様な事が実際に起こるとは、其の時には全く考えておりませんでした。」
工藤でさえ外国の其れも日本国を植民地にしようと要るとは官軍に入った頃には全く考えていなかった。
「其れでは上野さんも大変な驚きだったのでしょうねぇ~。」
「私も田中様から伺い、余りにも大きな出来事に衝撃を受けて要るのです。」
工藤が衝撃を受けたと言うのだから、源三郎はもう衝撃を受けたどころの騒ぎでは無かった。
だが実際上野に会い、上野がどの様な話しをするのか、其れを聴くまでは何も進まないのだと。
「小隊長、この登坂と申しましょうか、階段状と申しましょうか歩くのは楽ですねぇ~。」
「自分達も今はそれ程苦労せずおりまして、この道は頂上まで続いておりますが左右は熊笹が茂り、他からは全く見えないのです。」
「ですが、あの時の官軍兵ですが何処から登って来れなかったのですか。」
「一応人が通れるだけの熊笹は倒しておりまして、頂上から下る時にはこの道しか無いと思える様にしておりました。」
「ですが今の道ですが誰かに発見されると言う事は無いのですか。」
「この道ですが頂上より少し離れており、其れも大木が有りますのでまず見付かる事は無いと思います。」
何も知らない者ならば大木の中に道が作られて要るとは考えず、其れよりも熊笹を選り分け進む、其れは大木が茂っており昼間でも暗く、誰でも熊笹が茂っていても明るい所を行くと人間の心理を考え正太達が作ったので有る。
「もう間も無く休める所に着きますので、其処で少し休みを取り頂上を目指します。」
「全てお任せ致しますので。」
「全員に告ぐ、後少しで休む所に着く、其処でお昼にする。」
日光隊は前方を月光隊は後方を、そして、若様と小川が間に入り間も無く昼休みの出来る所に着き、其処で昼の休みを取り今日は頂上で夜を過ごす事になった。
「吉田さん、一里程行きますと林の中で野営出来る所が有りまして、川も浅く野営するには都合が良いと思います。」
「田中様、有難う御座います。
第一、第二小隊は前後を、残りは野営の準備に掛かれ。」
吉田は野営地に向かった。
「なぁ~あんちゃん、狼は出ないのかなぁ~。」
「技師長、其処ならば大丈夫ですよ、私も何度か野営しておりますので。」
田中は何度も野営して要ると、だがげんたは狼が来ないかと心配だと。
「げんた、何も心配する事は有りませんよ、田中様が何度も来られておりますからね。」
「後藤さん、オラ達も同じ所で野営した様に思うんだけど。」
「そうでしたかねぇ~、私はもう忘れましたよ。」
やはり吉三は覚えて要るのだろうか、源三郎達が着くと川原では馬が身体を洗って貰い、水を飲み表情は分からないが嬉しいそうで有る。
「総司令、我が軍の夕食です。」
「有難う、これは美味しいそうですねぇ~。」
「あんちゃん、オレ軍隊のご飯って知らないんだ。」
「技師長、軍隊の食事も美味しいですよ。」
「工藤さん、兵隊さんだけど何で全員で食べないんですか、こんなに美味しいのに。」
「技師長、軍隊では必ず歩哨と言う任務が有りましてね、これはどんな事が有りましても必要なんですよ。」
「じゃ~あの兵隊さんは朝まで同じ所に立ってるんですか。」
「いいえ、必ず交代の兵士がおりますから食事も交代で取るんですよ。」
「だったら野洲でも同じ様にやってるんですか。」
「勿論でしてね、今は駐屯地もですが、城下と農村や漁村と全てを見回りを駐屯地の兵士が行なって要るんですよ。」
「へ~オレ全然知らなかったよ。」
「其れが任務でしてね、ですが城下の見回りの方がまだ楽なんですよ。」
「何ですか、兵隊さんを見て要ると全然動かない様に見えるんだけど、オレは動かない方が楽に見えるんだけどなぁ~。」
「其れがもう大変で、あの状態で一時も立って要るともう動いて要る方が余程楽か分かりますからねぇ~。」
「なぁ~あんちゃん、兵隊さんって大変だなぁ~。」
「そうですねぇ~、まぁ~城内でも同じような事をされておられますが、本当にご苦労様ですねぇ~。」
「まぁ~其れも慣れると宜しいんですがね、ですが慣れても大変な任務ですよ。」
「じゃ~工藤さんもやったんですか。」
「勿論ですよ、私も新兵の頃は大変苦労しましたからねぇ~。」
「工藤さん、明日の出立ですが四つ半にしたいと思うのですが、如何でしょうか。」
「私も其の方が良いと思います。
朝の四つ半ならばお昼を少しだけにすれば夕刻頃には着くと思いますので。」
工藤は一刻でも早く着きたいと、だが源三郎の指示が無ければ決める事は出来ない。
「其れで朝食ですが。」
「朝食は必要で御座います、其の方が兵士も動きやすいと思いますので。」
「分かりました、工藤さんにお任せしますので、げんた、朝は早いですからね。」
「総司令と技師長は馬車でお休み下さい。」
「ですが。」
「其の方が我々も楽ですので。」
源三郎とげんたは馬車で、そして、明くる日の早朝まだ夜の明ける前の四つ半に源三郎達は出発した。
「小隊長、義兄上達は何時頃来られるでしょうか。」
「多分ですが、夕刻前には来られると思いますので。」
「ではまだ暫くは大丈夫ですねぇ~、其れにしても大岩と聞かされましたが、正しく大岩ですねぇ~。」
「この大岩のお陰で我々もですが、向こう側の官軍からも発見される事は御座いません。
更に、向こう側には一町先まで林が続いており、海岸はまだその先ですので余程の事が無い限り官軍兵が知る事は御座いません。」
「第一小隊は偵察に、第二小隊は前方へ。」
野営地を出発し暫くして 吉田は偵察に向かわせたが、その後は何事も無く順調に進み。
「総司令、偵察隊の報告では戻り橋付近までは異常無しとの事です。」
「そうですか、では適当なところでお昼にしましょうか。」
「この先一里程のところで適当な場所が見付かりましたので其処でお昼を取る様にします。
第二、第三小隊と炊事班はお昼の用意を残りは馬の休める所を探す様に。」
「あんちゃん、もう直ぐ着くのか。」
「其の様ですよ、戻り橋を過ぎますと暫く行けば右側に大きな入り江が見えるそうです。」
「オレは軍艦を早く見たいんだ。」
「私もですよ、私も今まで軍艦と言うのを全く知りませんのでねぇ~。」
「そうか、あんちゃんも知らないのか、じゃ~工藤さんと吉田さん、其れに田中さんだけが知ってるのか。」
「げんた、軍艦は鉄で出来て要るそうなので何処を注意して見るのですか。」
「う~ん、そんな事急に言われても分かる訳が無いよ、オレは全然分からないんだぜ。」
「技師長、継ぎ目の部分が一番大事だと思いますよ、鉄の板で造られた軍艦は木造船と違い、継ぎ目の部分一番重要なんですよ。」
やはり工藤は軍艦の専門家で何が重要かを知って要る。
「工藤さん、継ぎ目ってそんなに大事なんですか。」
「軍艦の鉄板は厚みが一分も有りますので、隙間を無くすことが大事でしてね、潜水船と同じ様に隙間が有るとその部分から海水が入って来るのです。」
「そうか、だけど潜水船は木造だから海水で木が膨れるからなぁ~まぁ~多少は大丈夫だけど、鉄は水を吸わないから隙間が有ると大変な事になるのか、う~ん其れにしても大変だなぁ~。」
さぁ~げんたが腕組みを始め何やら考え始めた。
げんたは工藤から色々と聞くが全てが初めてで有り、これから先も試行錯誤の連続かも知れない。
その後は何事も無く戻り橋に掛かると言う付近まで来た。
「若様、総司令の一行だと思います。」
「やはり小隊長の申された通りでしたねぇ~。」
「まぁ~私の予想がたまたまでしたので。」
「お~い。」
「えっ、あれは正か。」
「一体何事だ。」
と、吉田が馬を飛ばした。
「あっ、若様では。」
「吉田さん、お久し振りですねぇ~。」
「総司令にお知らせだ、若様が来られましたと。」
兵士は馬を飛ばし源三郎の元へ。
「総司令、若様が来られました。」
「やはりですか、若も相当怒られて要ると思いますねぇ~。」
「義兄上、酷いですよ、私は何も知らされずに。」
「若、大変申し訳御座いません。」
「若様、オレが悪いんだ。」
「やはり技師長も一緒でしたか。」
「私の説明不足でね、其れでげんたを怒らせたんですがね、ですが結果的には其の方が良かったのです。」
「えっ、義兄上の説明不足って。」
「まぁ~其の話しは後程にしまして、小隊長、お米は足りて要るのですか。」
「義兄上、其れが足りないので。」
「やはりですか、小隊長、大岩まで馬車で行く事は可能でしょうか。」
「其れは無理だと思います、身の丈異常も有る熊笹が茂っておりますので。」
「では吉田さん、大岩まで米俵と漬け物樽、其れと梅干し樽を運んで欲しいんですが。」
「総司令、有難う御座います。
ですが我々が運びますので。」
「あんちゃんはその為に米俵を多く持って来たのか、いゃ~さずがにあんちゃんだ。」
源三郎は日光隊と月光隊の為に米俵と漬け物樽、更に梅干し樽まで馬車に積み込んでおり、其れが源三郎の心遣いで有る。
「若も参られるのですか。」
「勿論ですよ。」
「では日光隊と月光隊の皆さんには申し訳有りませんが、我々が戻って来るまで監視をお願いします。」
「若、乗って下さい、では出発しましょうか。」
源三郎達は日光隊と月光隊に別れを告げいよいよ官軍の駐屯地へと入って行く。
「あれは一体何処の部隊だ、参謀長殿にお知らせするんだ。」
官軍の兵士が見た部隊は源三郎達で前を第一、第二小隊が源三郎の乗る馬車に周りは第三小隊が、そして、第四、第五小隊が後部を守る様に進んで行く。
「参謀長殿、別の部隊がやって来ます。」
「それで何人くらいだ。」
「前が二個小隊で馬車が数台と最後にはやはり二個小隊です。」
「そうか中隊規模だと、若しや私も直ぐに行くが兵士には何もするなと伝えて下さい。」
上野は田中が連れて来たと直感した。
「全体止まれ、下馬せよ。」
吉田の号令で中隊の兵士は下馬し、馬車からは源三郎と田中が降りて来た。
「総司令、上野参謀長で御座います。
上野参謀長、此方が最高司令長官の源三郎様で御座います。」
「田中様から伺っております、ご貴殿が上野様で御座いますか、私は源三郎と申します。」
「やはり田中様の申されました通りで、源三郎様は権力をかざすお方では無いと。」
「えっ、私が権力をですか、上野様、私には権力も権限も御座いません、全てお願いするだけでして、其れよりも工藤さんと吉田さん、そして、小川さんもお連れ致しましたので。」
「左様で御座いますか、やはり工藤達は生きていたのですか。」
「参謀長殿、お久し振りで御座います。」
「お~吉田か、小川も一緒とは私は千人力を得ましたよ、さぁ~皆様此方へ。」
上野は源三郎達を執務室へと案内して行く。
「中隊は馬を休ませて下さい。」
小川の指示で中隊の兵士は馬を別の所へと連れて行く。
「あっ、あの兵隊は。」
と、吉三は大きな声で言うと。
「吉三さん、何か有りましたか。」
「源三郎様、あの兵隊がオラ達の村を襲って母ちゃんや子供達を殺したんです。」
「そうですか、吉三さん、私に任せて下さいね。」
「上野様、あの後方の兵隊ですが、上野様の部下なので御座いますか。」
「確かに今は私の部下ですが、何か有ったので御座いましょうか。」
「では以前からでは無いのですね。」
「私がこの地に来る途中で別の部隊から配属されたのですが、ですが彼らは何かを探して要るのか何時も周りをきょろきょろと見ておりまして。」
「左様でしたか、あの者達は極悪非道な者達でして、戦とは全く関係の無い村々を襲い女子供を殺し、食べ物を略奪したのです。」
「源三郎殿、其れは誠で御座いますか。」
「ええ、此方の吉三さんが生き証人でして、吉三さんの奥さんと子供まで殺したのです。」
「お前達、今の話は本当なのか。」
「参謀長殿、其れはですが戦でして。」
「では戦ならば何をしても良いと言うのか。」
兵士達は何も言わず下を向いたままで。
「上野様、出来ますれば私が処罰したいのですが宜しいでしょうか。」
「源三郎殿は銃殺刑で。」
「いいえ、私は血を見る、いや人を殺すのが出来ませんので。」
「ではどの様な裁きをされるおつもりなのですか。」
「まぁ~私の流儀とでも申しましょうか、では宜しいので御座いますね。」
「其れも仕方が無いと思いますので、お前達も覚悟するんだ。」
「参謀長殿、其れでは余りにも。」
「君達は何を言ってるんだ、奴らは戦とは全く関係に無い村々を襲い、食料を奪い、其れよりも何の罪も無い女子供をまで殺すとは、私でも許す事は出来ない。」
「小川さん。」
「はい。」
と、小川は木剣を渡した。
「工藤、一体なにをしようと言うんだ。」
「参謀長殿、総司令は恐ろしいお方でして、農民さんや町民達には大変お優しいですが、極悪非道な者達にとりましてはこの世の鬼とも思える程でして、まぁ~見て頂ければ分かりますので。」
「何だと我らに木刀で挑むとは、よ~し返り討ちにしてやる。」
と、言った兵士達が脇差を抜き源三郎に向かった瞬間木剣が風を切った。
「あっ、えっ。」
「う。」
「何だ今のは何が起きたんだ。」
兵士達は浜の上に倒れ、呻き声を上げて要る。
「これで終わりましたが、小川さん、後片付けをお願いします。」
「源三郎様、奴らは死んで無いですよ。」
「吉三さん、これからが本当の地獄の始まりですからね心配する事は有りませんよ、上野様、荷馬車を二台お借りしたいのですが。」
「えっ、荷馬車をですか、ですが何の為に使われるのですか。」
「彼らに本当の地獄を見せて上げるのです。」
「分かりました、誰か荷馬車を。」
「小川さん、猿轡を。」
「全て承知致しております。」
小川は小隊の兵士に彼らを後ろ手に縛り上げ、猿轡をし荷馬車に乗せ。
「総司令、戻り橋付近で宜しいでしょうか。」
「其れで十分だと思います。」
「源三郎様、オラも一緒に行きたいんですが。」
「吉三さんは小川さんの指示に従って下さいね。」
「はい、勿論で。」
「では小川さん宜しくお願い致します。」
足を砕かれた兵士を乗せた荷馬車は戻り橋へと向かった。
「源三郎殿は戻り橋付近と申されましたが、何をされるのでしょうか。」
「この浜を汚れた血で汚す事は出来ませんので戻り橋付近で彼らを放置するのです。」
「では彼らは何処にでも行けと。」
「まぁ~其れは無理だと思いますよ、戻り橋付近には狼の大群が待ち受けておりますのでねぇ~。」
「では彼らは狼の餌食にされるおつもりなのですか。」
「えっ、何と惨い事を。」
「今何と申されましたか、どなたでしょうか、では皆さんにお聞きしますが、例え戦だと申しても幕府軍の侍がいない村々を襲い戦とは全く関係の無い女子供を殺すのは許されるのですか、私は戦は好きでは有りません。
ですが時と場合によっては戦も仕方無いと思っておりますよ、戦とは侍と侍、幕府軍と官軍の兵士ならば理解もします。
ですが農村や漁村の女性や子供が果たして戦と関係が有るのでしょうか、私は戦とは全く関係の無い女性や子供を殺した事が許せないのです。」
「皆に告げる、奴らは人間では無い、其れだけは言える、皆の中に反論したい者は今直ぐ申し出る事だ、後程私の耳に入ったならば私も許す事はしないから覚悟して置く事だ。」
「上野様、誠に申し訳御座いません、私のしたことは越権行為だと非難されても私は何も申し上げません。
ですが、武士にも敵討ちは許されて要るので有れば、例え農民さんで有ったとしても敵討ちは認めるべきだと考えております。
どうか吉三さんでは無く私を処罰して頂いても宜しいので、吉三さんは許して上げて頂きたいのです。」
と、源三郎は浜に土下座し上野と兵士達の頭を下げた。
「源三郎殿、どうか頭を上げて下さい。
私は源三郎殿も吉三さんと言われるお方に対しては何も申し上げる事は御座いません。」
「上野様、誠に有り難きお言葉、源三郎は嬉しく思います。」
「小川さん、何で源三郎様は殺さなかったんですか、オラは。」
「総司令は吉三さん達には誠にお優しいお方ですが、この様な極悪非道な者達には世にも恐ろしいお方でしてね、吉三さんも覚えておられると思いますが、総司令が早く逃げろと申されたと思いますが。」
「ええ、確かにそう言われたと思いますよ、オラ達に命が欲しければ一刻でも早く逃げ隧道に入れって。」
「其の通りですよ、総司令は官軍の指揮官達だけを狙い撃ちされた、其れはねぇ~吉三さんを含め兵士の殆どが農民や町民だと知られ、其れならばと指揮官達だけに狙いを定めたんですよ。」
「じゃ~オラ達が侍だったどうなってたんですか。」
「其れならば簡単でしてね全員を狼に襲わせていたと思いますよ、総司令はねぇ~何時も申されておられるのは全ては領民の為にと、其の意味は侍は領民を守るのがお役目で自分達が食べて行けるのは農民さんや漁師さんがおられるお陰だと。」
吉三達も源三郎から話は聞いており、其れが源三郎なのだと分かって要る。
「じゃ~奴らも狼の。」
「そうですよ、戻り橋を渡りましたら吉三さんは頭ほどの大きさの岩を探して下さい。」
「何でそんな岩が要るんですか。」
「まぁ~其の時に教えますからね。」
小川と吉三が乗った荷馬車はその後暫くして戻り橋を渡り、官軍兵を降ろし。
「吉三さん、その辺りで頭くらいの大きさの石を探して下さい。」
「でもなんのために岩が要るんですか。」
「其れはねぇ~吉三さんに奥さんと子供さんの敵討ちをして貰いますので。」
吉三は意味が分からないが、其れでも辺りを見回し丁度の大きさの石と言う岩を見付け。
「小川さん、これくらいでいいですか。」
「其れでいいと思いますよ、其れでね岩をどの兵士でも宜しいので、そうですねぇ~、足首辺りに思い切り投げ付けて、そして直ぐ馬車に乗って下さい。」
「でもなんで岩を投げ付けるんですか。」
「この付近には狼の大群が住んでおりましてね狼は血の臭いを嗅ぎ付けてましてね遅くとも四半時も経てば狼の群れで奴らは狼の大群に襲われ腕や足を食いちぎられ、この世の地獄を味わせるんですよ。」
「じゃ~オラ達も狼に襲われるんですか。」
「だから早く逃げるんですよ、まぁ~其の前に奴らの猿轡を取りましょうか。」
小川達が猿轡を取ると。
「頼む命だけは。」
「オレは何もしてないんだ、全部小隊長の命令なんだ。」
「お前達の言い訳は聞かぬ、お前達は何の罪も無い人達を簡単に殺した。
まぁ~この世の地獄を味わうんだなぁ~、吉三さん、私達は何時でも宜しいですよ。」
「はい、オラの母ちゃんや子供を、其れと村の人達を殺したお前達は絶対に許さねぇ~、天国の母ちゃん、オラは母ちゃんや子供の仇を討ってやるからな見ててくれよ。」
吉三は顔に傷の有る兵士、いや男に。
「お前は地獄に行け。」
と、思いっ切り岩を足首に投げつけた。
「ぎゃ~。」
と、兵士の断末魔に近い声だ。
「吉三さん、早く乗って下さい。」
吉三は必死で馬車に飛び乗った。
「よ~し行け。」
と、ばかりに小川は馬に鞭を入れた。
「早く、早く、早く走ってくれ、頼むよ。」
吉三も馬に言って要る、そして、二台の馬車が一町程行くと。
「ぎゃ~、狼だ、誰か助けてくれ~。」
「狼がわぁ~。」
と、男達は次々と狼に襲われて行く。
「吉三さん、これが総司令のお裁きですよ。」
「なんて恐ろしいお人なんだ、オラはもう恐ろしくて。」
吉三は身体を震わせている。
「総司令と言うお方はねぇ~極悪人にはこの世で一番恐ろしいですよ、ですが吉三さん達の様な人には一番優しいお方ですよ、じゃ~行きましょうか。」
吉三は身体の震えが収まらない、暫くして駐屯地へ戻って来た。
「総司令、全て終わりました。」
「そうですか、其れで吉三さんは。」
吉三は小川の後ろでまだ身体の震えが収まらない。
「吉三さん、奥さんと子供さんの敵討ちは終わりましたね。」
「源三郎様、オラはもう恐ろしくて、今でも声が聞こえて来まんです。」
「上野様、誠に申し訳御座いませんでした。」
「源三郎殿、私は何も申し上げる事は御座いません。
其れよりも皆様方もお昼の食事を。」
「工藤さん、上野様のお言葉に甘えましょうか。」
「はい、では中隊は。」
「工藤少佐、此処で全員の。」
「参謀長殿、宜しいでしょうか。」
「いいんだ、其の方が私も気が楽だから、当番兵、炊事班に伝えて下さい。」
其れはあの当番兵だ。
「あんちゃん、軍隊のご飯って。」
「技師長、我々が作った物とは多分違うと思いますが、軍隊と言う所は食事だけは美味しいと思いますよ。」
「だったら楽しみだ。」
と、言った時には早くも口に入れた。
「うん、本当だ、だけどオレは母ちゃんが作った雑炊が一番だなぁ~。」
「其れは言えますねぇ~。」
昼食は半時程で終わり。
「では本題に入らせて頂きますが、其の前に目の前に有る大きな入り江に有る半島に三隻の軍艦を係留されておられますが、軍艦はまだ増えるのですか。」
「えっ、今何と申されましたか、源三郎殿は三隻の軍艦が係留されて要る事をご存知なのですか。」
「はい、全て知っておりますよ。」
源三郎が何故三隻の軍艦が係留されて要るのを知って要るんだ、と、上野は驚きを隠せずに要る。
「我々には秘密の特殊船が有りましてね、この浜の近くまで来ておりましてね、今何をされて要るのかも全て知って要るのです。」
上野もだが同席して要る中隊長や小隊長達は余りにも衝撃的な話しに唖然として要る。
「今申されました秘密の特殊船とは一体どの様な船なのでしょうか。」
傍ではげんたがニヤニヤとして要る。
「その船と言うのは潜水船と申しまして、此処に居ります技師長が考案した特殊船です。」
「何ですが、その潜水船とは、私も初めてお聞きしましたので全く分からないのですが。」
上野が驚くのも無理は無い、上野達が考える船とは海を上を行く船で、船が海を潜ると言う発想は無い。
「上野様、船が海に潜るから潜水船ですよ。」
「私は一体何を申されておられるのかも全く理解出来ないのですが、船が海に潜ると申されましたが、其の様な事が可能なので御座いますか。」
「総司令、宜しいでしょうか。」
「勿論宜しいですよ、では工藤さんにお任せします。」
「参謀長殿、私も初めて聞かされた時のは全く理解不能で御座いますした。
ですが此処に居られます技師長が考案され、私も実際潜水船に乗りましたが確かに海に潜りました。
参謀長殿はご存知かと思いますが佐渡へ向かった五隻の軍艦を撃沈したのも潜水船が有っての成功で御座います。」
「う~ん其れにしても全く理解出来ぬ、船が海に潜るとは。」
「総司令、私も宜しいでしょうか。」
「勿論ですよ、吉田さんにお任せしますよ。」
源三郎もげんたもニヤニヤと、其れが余計に上野達には理解するのを困難にさせて要る。
「参謀長殿、自分が潜水船に乗り、五隻の軍艦を撃沈したのです。」
上野は腕組みし必死で想像して要るのだろうか、中隊長や小隊長の中には天井を見つめ必死で考えて要るが、今の彼らに理解するのは不可能で有る。
「なぁ~あんちゃん、工藤さんも吉田さんも今は絶対に無理だと思うんだ、あんちゃんもだけど工藤さんや吉田さんもオレの話しを聞いても全然分からなかったんだぜ、確かに工藤さんは軍艦の事は知ってても正か船が海に潜るって思って無かったんだからなぁ~。」
「其れは言えますよ、私も最初、げんたから聞かされた時には全く理解出来ずにおりましたからねぇ~。」
「ではあの五隻は佐渡には行って無いのですか。」
「はい、全て潜水船に撃沈されましたよ、上野様、我々連合国には多数の潜水船を保有しており、今回のお話しの内容次第では三隻の軍艦を撃沈せよとお願い致しております。」
「何故ですか、我が海軍の軍艦を沈めると申されるので御座いますか。」
「私は何も沈める事が目的では御座いません。
私は田中様から上野様のお話しを伺いまして、では直接おはなしをお伺いし、誠其の話しが日本国の為ならば何も致しませんが、若しも、若しもですよ我が連合国を壊滅させる為の策ならばと申し上げて要るので御座います。」
源三郎の大芝居なのか、工藤も吉田も唖然として開いた口が塞がらない。
其れと言うのも官軍の参謀長を脅迫して要るとでも思われる発言で有るからだ。
「では今も三隻の軍艦に近くに潜水船が潜んで要るのでしょうか。」
「誠で我が連合国の潜水船を発見する事はまず不可能で御座います。」
上野もだが中隊長や小隊長達はそんな話しは嘘だと思って要るのだろうか、いや三隻の軍艦が停泊して要るのを知って要るのは駐屯地以外の誰も知らないはずだ、やはり田中が知らせたのだろうか、其れが分からない。
「田中様が知らせたのだと思われておられるでしょうが、田中様は私達の作戦決行も知らないのです。」
「上野参謀長、私は源三郎様が申されました様に、其の様な作戦が行われた事も全く知らないのです。」
「今の連合国には多くの農民さんを含め町民さん達からお話しを聞きました。
確かに幕府軍は多くの村々を襲い焼き払われたと、ですが官軍兵にも略奪され女子供を殺されたと言う多くの人達がおられるのです。
事実十数日前まで領民達は官軍も幕府軍と同じだ、だから官軍も許す事は出ないと多くの話しを聞いております。」
「其れは誠なので御座いますか。」
「私が作り話をして何の得になるのでしょうか、官軍は我々連合国の存在を知らないので有れば、わざわざ官軍に連合国の存在を知らせに行く必要が何処に有るのかと私は問い詰められましたが、私は田中様の情報が事実なのか、其れともやはり官軍の作り話なのか、若しも作り話ならば、私は命に代えましても軍艦を沈め、この駐屯地を火の海にすると申しまして、皆が其れならばと許してくれたのです。」
まぁ~其れにしても源三郎の作り話は真実味を帯びており、上野達は深刻に考えて要る。
「言葉はどの様にも作れますが、私は上野様のお話しが真実だと言う証が欲しいのです。」
正か此処まで言われるとは思って見なかったのだろう、上野は暫く考え。
「お話しは良く分かりました、では先日我が司令本部より届きました書状をお見せいたしますので、その内容をご覧頂きましてご判断して頂きたく思います。」
上野は立ち上がり、一通の書状を渡し、源三郎は文言を確かめながら読んだ。
「私の無礼をお許し願います。」
と、源三郎は頭を下げた。
「私も立場が変われば同じ様にしたと思います。
では私の話を信じて頂けましたでしょうか。」
「勿論で、では詳しくお話しを伺いたく思うのですが、ロシアは、いいえ欧州の国々は日本国に攻めて来るのでしょうか。」
「今のところは無いと考えております。
と申しますのはイギリスは欧州では最も軍事力が充実しておりまして、其れは他国を圧倒して要ると情報が入っております。
確かにロシアは地球上で最大の国家ですが、その大半が雪と氷に閉ざされており、欧州の一部と太平洋側にだけでして、私に入って要る情報ではロシアは何としても不凍港を手に入れたいのです。」
「では其れが蝦夷地なのですか。」
「勿論でして、ロシアが蝦夷地を手に入れますと、我が日本国もですが、今欧州の国々が植民地にしております国へも直ぐに行け、欧州の国々が植民地に到着する前にロシアの手に落ちる事に成るのです。」
若しも日本国がロシアの植民地にでもなれば今欧州の国々が支配して要る植民地の全てが奪い取られる事にでもなれば、欧州の国々は存在に関わる大問題で有る。
「では何としてもロシアの軍艦を日本国に出撃させない為にイギリスは日本国に軍艦を売ったのですか。」
「私は政府の上層部より其の様に伺っております。
中隊長、私の書籍箱から今までの書状と日本国の地図、其れとだ世界地図、え~っと、軍艦の図面を出してお渡しするんだ。」
此処まで来ると上野も作り話をする必要も無いと思ったのか中隊長と小隊長が書籍箱に有る全ての書き物を出した。
「誠に有り難きご配慮、私は嬉しく思います。
ですが今日のところは一度終わり、明日今一度お話しをさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」
「私は一向に構いませんので、では皆様方の寝所に案内させますので。」
「左様で御座いますか、ではお言葉に甘えさせて頂きます。
書状と他の地図などは明日拝見させて頂きますので。」
「では中隊長、ご案内してくれ。」
源三郎達は建てられて間もない宿舎へと向かった。
上野が出した地図、書状、そして、軍艦の図面は明日見ると言ったが、源三郎は他に何かを考えて要るのだろうか、其れにしても田中が報告した内容よりも、上野から直接聞かされた内容は余りにも衝撃的で直ぐに答えを出せるものでは無い。
だが欧州のロシアは何時に成れば日本国の近海に来るのだろうか、今は其れを一番知りたいのも事実で有る。
果たして、源三郎はどの様な決断をするのだ。