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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 37 話。 正か官軍の駐屯地へ 

「源三郎様、えっ、あっ。」


 と、後藤が執務室に入ると、工藤に吉田、更に高野達が待っていた。


「源三郎様、一体何事で御座いましょうか、私は。」


「今から詳しくお話しさせて頂きますので、吉三組さん達も聴いて下さいね。」


 後藤と吉三達に一時半以上掛け説明したが、後藤よりも吉三達は驚きの連続で、一度は官軍を離れた連合国で今は狼除けの柵と大小の池、更に井戸掘りに従事し満喫した生活を送っており、其れが突然官軍の軍港を建設すると聞かされたのだから無理も無い。


「お話しは良く分かりましたが其れで私達は何時出立するので御座いますか。」


 さすがに後藤だ、源三郎は今誰よりも自分達を必要として要ると分かって要る。


「後藤さん、ちょっと待って下さいよ、オラ達は又官軍に戻るんですか。」


「吉三さんも皆さんも聴いて欲しいんですよ、先程のお話しは官軍の為にするんでは無いって言われたと思うんです。

 確かに今皆さんは仕事に満足して要るとは思います。

 ですがお話しの中でロシアと言う国が我らの連合国を含む日本と言う国を植民地に置くと一体どうなると思いますか、田中様も官軍の参謀長よりお話しを聞かれ、源三郎様に報告されその仕事が出来るのは私達吉三組だと考えられて先程お話しをされたんですよ。」


「そんな事はオラも分かってるんですよ、でも相手は官軍なんですよ、奴らは何をするのか分からないんですからねぇ~。」


「我々が必ず守りますので、どうかお願いしたいんです、この通りです。」


 と、吉田は土下座した。


「オラにそんな事したって駄目ですよ、オラは官軍の兵隊が目の前で母ちゃんと子供を殺したんです。

 なんでそんな奴らを信用出来るんですか。」


「吉三さんは何で官軍に入られたのですか。」


「オラは其の兵隊の顔はどんな事が有っても一生忘れないんですよ、オラは絶対に母ちゃんと子供の仇を討つって決めたんで、だから官軍の兵隊を見ると必ず探してるんです。」


「では今まで見付かって無いのですか。」


「はい、残念ですけど。」


「では若しもその兵士が駐屯地の官軍の中に居たら。」


「そんなの決まってますよ、オラは。」


「ですがねぇ~、直ぐ兵士を殺したので有れば吉三さんもですが、吉三組の皆さんもその場で殺される事になりますが、其れでもいいんですか。」


「え~そんなぁ~、源三郎様、オラは母ちゃんと子供の仇を討つだけでいいんで、でも其れでオラは殺されてもいいんです。」


「ですがねぇ~、相手にすれば吉三さんだけでなく、勿論後藤さんも殺すと思いますよ。」


「だったらオラは一体どうすればいいんですか。」


 妻と子供の仇を討つ事だけを考えており決意は固く、仲間達も工藤達も何も言えない。


「良い方法が有りますよ、吉三さんの仕事が終われば兵士を殺してもいいですよ。」


 源三郎は吉三に仇を討たせると約束した。


「えっ、そんな事源三郎様が言ってもいいんんですか。」


「勿論ですよ、ですがこの仕事は誰にでも出来る程簡単では無いのです。

 そんなも難しい仕事を吉三組にお願いするのですよ、吉三さん、今回の仕事は官軍の為では無いのです。

 吉三さん達は何が有っても我が連合国軍の兵士がお守りします。

 吉三さん、その様な訳ですからどうかお願いします、私の頼みを聴いて頂き何としても軍港を建設し日本国の民を助けて頂きたいのです。」


 源三郎は後藤と吉三組に頭を下げ、部屋はし~んと静まり其れでも吉三は暫く考え。


「オラは源三郎様の為にやりますんで、絶対にやって見せてやりますよからね、オラは絶対にです。」


「そうですか、ですが私の為では有りませんよ。」


「オラは連合国の人達もだけど、源三郎様にはその何とか言う国から日本国の人を守って欲しいです。」


 だが敵討ちを考えて要るのは吉三だけでは無く、直ぐに答えを出す事も出来ないと仲間は考えて要る。


「なぁ~みんな源三郎様の為にお願いします。」


 と、今度は吉三が仲間に頭を下げた、すると仲間は。


「吉三、分かったよ、オラもやるから。」


「よ~しオラもだ。」


 と、次々と仕事をすると賛成し、何時もの事ながら見事に吉三組の全員が納得した。


 其の時、少し遅れて天敵がやって来た。


 さぁ~果たして天敵は簡単にうんと言うのだろうか。


「あんちゃん、オレに、え~何でみんなが居るんだ。」


 やはりげんたも驚いて要る。


「げんたに話が、其れも大事な話しなんですよ。」


「まぁ~あんちゃんの頼みだから一応は聴くけどなぁ~。」


「げんたは軍艦を見たくは有りませんか。」


「今何て言ったんだ、オレに軍艦を見せるってか、正かオレ達の浜に来るのか。」


「今から話す事は連合国の人達もですが、日本と言う国の人達を救う事になるんですよ。」


「又か、あんちゃんは又も訳の分からない事を考えてるのか、なんだよ其の日本の国って、オレは一体何の事を言ってるのかもさっぱり分からないんだぜ、もっとオレにも分かる様に話してくれよ。」


「そうでしたねぇ~、では今から話しますのでよ~く聞いて下さいね。」


 源三郎は吉三達と同じ内容を話すが、げんたは驚きもせず時々頷いて要る様にも見え、一時半はあっと言う間に過ぎた。


「話しは分かったよ、だったらあんちゃんはオレに官軍の手伝いをさせるつもりなのか、オレなぁ~は絶対に嫌だ、オレはあんちゃんに殺されても手伝いはしないからなぁ~。」


 まぁ~見事に断られた、げんたは絶対に手伝わないと、だが源三郎の話しの意味は理解して要る。


「私はねぇ~、何もげんたに官軍の手伝いをして欲しいと申しておりませんよ。」


「だったら何でオレが行く必要が有るんだ、軍港を造る事とオレに何の関係が有るんだ。」


「まぁ~確かに直接は有りませんが、軍艦を見て欲しいと言うのは軍艦の造りを見て欲しいんですよ。」


 「あんちゃんって本当に分かってるのか、軍艦は海の上なんだぜ、オレの潜水船は海の中なんだぜ。」


「ええ、其れは勿論分かっておりますよ。」


 「だったら分かっててなんでオレに軍艦を見せる必要が有るんだ、其れよりも何で官軍の軍港を造りに行くんだ、あんちゃんは今までの事を全部忘れて水に流すつもりなのか。」


 げんたは簡単に納得しない事は源三郎は百も承知で、だが工藤や吉田は初めて源三郎とげんたの論争、いや言い争いを見て要る様で、其れよりも傍に居る後藤や吉三達は二人の話しに驚きを通り越し唖然として聴いて要る。


 何時しか執務室の入り口付近には野洲の家臣達の騒ぎを聞いたお殿様とご家老様も二人の論争に耳を傾けている。


 「あんちゃんは日本国の人達の為だって言うけど、官軍も鉄の軍艦を造ってるんだろう、其れだったら何を心配する必要が有るんだ、其れに長崎に軍港を造ったんだったら、何でその人達を連れて来ないんだ、あんちゃんは不思議だって思わないのか。」


 さぁ~こうなると、源三郎以外の者ではげんたに太刀打ち出来ない。


 げんたは並みの頭を持って要るのでは無く、日頃源三郎の話しを聞き、潜水船の事もだが、世の中の動きを考えており、源三郎の話しならば簡単に理解する。


 「なぁ~後藤さんは簡単に引き受けたのか。」


 「私は源三郎様のお話しを伺い、連合国の人達もですが、日本国の人達も守る為にと。」


 「じゃ~聴くけど、官軍って日本国中の人達を幕府から解放する為に立ち上がったのと違うのか。」


 「其れは間違いは有りません。」


 「だったら官軍の責任で軍港を造れるはずなんだ。」


 「ですが、官軍の参謀長が。」


 「じゃ~参謀長は困ってるから助けてくれって言ったのか。」


 「いいえ、其れは。」


 「いいえって、ねぇ~田中さんは参謀長が困ってるから助けてくれって言ったんですか。」


 「其れは聞いておりませんが。」


 「だったら何で行くんだ、若しも今の話が反対だったら、あんちゃんは頼むのか。」


 「私ならば頼みませんよ。」


 「だったら何で参謀長は裏が有る様な言い方をするんだ、あんちゃんだってそんな事は分かってると思うんだぜ。」


 「技師長、上野参謀長は其の様な人物では有りません。」


 「吉田さんは何でそんな簡単に言いきれるんですか。」


 「其れは自分も上野参謀長の部下だったからでして、参謀長殿は決して裏切るなお方では御座いません。」


 「じゃ~聴くけど、小田切って人だけど、工藤さんの部下で工藤さんは信頼してたって言ってたけど、何で簡単に信頼を裏切ったんですか、小田切って人は司令本部の甘い言葉に乗せられ工藤さんや吉田さんを殺しに来たと違うんですか、オレはそんな官軍の話しは絶対に信用しないからなぁ~。」


 げんたの話しは核心を突き、工藤や吉田は反論する事も出来ない。


 「なぁ~あんちゃん、官軍は敵軍と違うのか、昨日まで敵軍だからやっつけろって言って、其れが何でそんなにも簡単に変わる事が出来るんだ。

 幕府もだけど官軍と戦になるって、だから元太あんちゃんもあんな危険を犯して行ったんだぜ、あんちゃんは元太あんちゃんにどんな理由を付けて言い訳するつもりなんだ。」


 げんたの勢いは止まる事を知らない。


 「工藤さんや吉田さんが参謀長の為に行くんだったらオレも納得出来るよ、だけど何であんちゃんも行くんだ。」


 「げんた、私も直ぐに答えを出せなかったんですよ。」


 「まぁ~あんちゃんの事だから物凄く考えたと思ってるんだ、だけど工藤さんや吉田さんは別として何時かは城下の人達も知る事になるんだぜ、そんな事なったら今まであんちゃんの事を信用して来た人達はあんちゃんに裏切られたって思うんだ、そんな事になったらあんちゃんはこれから誰も話しは聞いて貰えないし、誰も助けてくれないんだぜ、其れでもあんちゃんはいいのか。」


 源三郎は黙って話しを聞き、執務室の外ではお殿様もご家老様もじ~っと聴いて要る。


 「オレはなぁ~、あんちゃんの言う事は全部分かってるんだ、だけど城下の人達もだけど、元太あんちゃんや銀次さん達にどんな説明するんだ、なぁ~あんちゃんはっきりと言ってくれよ。」


 確かにげんたの言う通りかも知れない、昨日まで官軍は敵だと言って置きながら、其れが一転して官軍の軍港を建設するとは、そんな話しを一体誰が聞くと言うのだ。


 源三郎の信頼は一気に無くなり、二度と話しは聞いて貰えず、其れの方が源三郎にとっては一番の痛手となる。


「工藤さんと吉田さんは行ってもいいよ、その代わり二度とオレの前に顔を出さないでくれよ、其れと官軍でも潜水船は作ってもいいけど、まぁ~一番大事なところだけはオレしか出来ないと思って欲しんだ、吉川さんと石川さんが書いてくれた物で潜水船は造れないと思ってよ、じゃ~オレは帰るからなぁ~、あんちゃん、オレはもう来ないからね、其れと今有る潜水船の一番大事なところだけどオレの頭の中に有るからね、畜生、オレはあんちゃんに騙されたんだ、畜生、あんちゃんの大馬鹿。」


 と、げんたは捨て台詞を残して執務室を出て行った。


「源三郎、一体何が有ったのじゃ、げんたの怒り方は尋常では無いぞ。」


 「殿、父上、実は田中様より大変な情報を聞かされまして。」


 「なんじゃ、其の大変な情報とは。」


 「殿、私よりも田中様から説明して頂きます。」


 「よし分かった、田中、余も話しは聴きたい、申して見よ。」


 「殿、先日山の向こう側で官軍の。」


 田中はお殿様とご家老様に詳しく説明すると。


 「左様か、だが源三郎にしては珍しいのぉ~、何時もならばもっとじっくりと考えるはずが、何故じゃその様に急いだのじゃ。」


 「殿、誠に申し訳御座いませぬ、私も今考えますと田中様の報告の中で外国の軍艦が、特にロシアの軍艦が大挙して日本を襲うと考えまして。」


 「成る程そうで有ったか、田中は上野と言う人物から聞かせられるまで外国の軍艦が来るとは知らなかったのか。」


 「私も翌々考えますと、技師長にもですが源三郎様に報告するのを忘れておりました。」


 「なんじゃと、お主が報告する事を忘れていたと、其れはどの様な事なのじゃ。」


 「私も江戸で御座いますが、越後、更に蝦夷地に参りましても外国の船が来ておりまして、東からはアメリカと言う国が、そして、先程も申し上げましたが、大陸の一番西側からはイギリス、オランダなど多数の国が我が日本国に来て要るのは私もこの眼でしかと見ておりました。」


「じゃが、一番大事な事を報告して無かったと言うのは一番の問題じゃのぉ~。」


「殿、先程も申しましたロシアと言う国で御座いますが、蝦夷地寄りも遥かに北に有り、一年の大半が雪と氷に閉ざされており、地球上で最も強大な国で有りながら人々は一部を除き殆ど住んではおりませぬ。」


「なんじゃと、蝦夷地よりもまだ北に有ると申すのか。」


「左様で御座いまして、雪と氷で大地の殆どが使い物にならず、その為、ロシアは何としても我が蝦夷地を手に入れたいので御座います。」


「何故じゃ、何故に蝦夷地が必要なのじゃ。」


「確かに蝦夷地も寒く、冬になりますと辺り一面が雪に閉ざされ人々は家から外に出ての仕事はなくなると、ですがロシアは蝦夷地の非では御座いません。」


「其れならば、何故に他の国を植民地に出来ないのじゃ。」


「其れはイギリスを始めとする欧州の強国がロシアよりも早く他国を植民地にしており、ロシアは下手に手出しが出来ない程になって要るので御座います。」


「じゃが何故今頃になって日本を狙うのじゃ。」


「其れが一番の問題で御座いまして、明示政府がイギリスより購入致しました軍艦の費用百万両を金塊で支払いまして、其れで欧州の強国では日本は黄金の国のだと、其の中でも特にロシアは日本の金塊を略奪し、其れを元に他国より物資を買い付ける、これがロシアの狙いで有るので御座います。」


 だが何故田中は一番の核心部分だと考えられる内容を源三郎に報告するのを忘れたのだろうか、源三郎にすれば田中の報告が無ければ世の中の動きは全く入って来ない、これが一番の問題だと言える。


「お主はロシアの動きも知っておるのか。」


「私が調べ長崎で聞いたのですが、ロシアは今軍艦を建造して要ると、ですが先程も申しました様に一年の大半は雪と氷に閉ざされ、軍艦の建造も我々が考える以上に手間取って要るのだと。」


「では今直ぐにロシアが攻めて来るとは限らないのか。」


「はい、更にイギリスと言う国はロシアの数倍は軍艦を保有しており、ロシアとしては下手な事は出来ないと言う状況で御座います。」


 これ程にも重要な情報を報告する事を忘れていたのだと、日頃の田中では考えられ無い。


「工藤はその様な情報は知っておったのか。」


「殿、私も官軍の時代にイギリスやオランダ、ポルトガルなどと言う国が大陸の国々を、其れも大半が東南アジアの国々を植民地にしており、植民地になった国は悲惨だと言う話しは聞いておりました。」


「其の話しは源三郎には聞かせたのか。」


「殿、総司令、誠に申し訳御座いません。

 私も今まで、いや言い訳は致しませぬ、私はお話しをするのを忘れておりました。」


 工藤も忘れていたと、だがよくよく考えて見ると、工藤は部下五百が源三郎に助けられ、それ以降は幕府軍の残党に野盗、そして、官軍と次々と攻撃を受けると言う事態、更にげんたの潜水船などの話しが有り、工藤も話す期会を忘れていたと、其れが本当なのかも知れない。


「そうなのか、では今回は何から何までもが悪い方向へと向かったと言う事じゃ、だが今更嘆いても仕方が無いのじゃ、して源三郎は何故げんたも一緒にと考えたのじゃ。」


「確かにげんたの頭脳は普通では御座いませぬ。

 ですが、鉄で軍艦を造る技術は今の連合国には御座いませぬ。」


「源三郎は軍艦を造ろと考えておるのか。」


「いいえ、其れは考えてはおりませぬ、ですがげんたに軍艦の実物を見せれば鉄の潜水船を造れるのでは無いかと其れだけの事で御座います。」


「じゃが軍艦の事は工藤が知っているのでは無いのか。」


「確かに工藤さんは軍艦の事は専門家だと思いますが、ですがその工藤さんでも潜水船だけは考えもしなかったと申されております。」


 工藤も其れは納得して要る。


「では工藤に教われば良いのでは有るまいか。」


「殿も知っての通り、げんたは其れで納得する様な男では御座いませぬ。

 げんたは自分の目で見て、自分が納得しなければ作らない、其れは城下の小間物屋を営んでおりました時と同じでして、客に注文を聴き、頭で考え作る、其れがげんたで御座います。」


「う~ん其れにしてもじゃ大変な事態になったのぉ~。」


「工藤さん、長崎の造船所ではどれ程の期間で軍艦は建造出来るのでしょうか。」


「船体を建造するだけなば一年半か二年も有れば可能ですが、軍艦と言うのは其れとは別に偽装と申しまして、其れが同じ程度の期間が必要でして、ですが大半は船体と同時に始めますので二年半もあれば十分かと思うので御座います。」


「其れは長崎の造船所では一隻づつ建造して行くのでしょうか。」


「いいえ、長崎では一度に二隻同時に建造出来ますので。」


「では安藝の国と陸奥の国、そして、この地では何隻なのですか。」


「其れがまだで御座いまして、江戸、いや東京でも建造を進めて要ると聞きておりました。」


「では全ての軍港と造船所が完成すれば同時に最低も五隻は建造出来るのですねぇ~。」


「まぁ~其の様にはなりますが、ですがその前に造船所を建造しなければなりませんので、其の方が年数が掛かると思うのです。」


「では軍港は何故必要になるんですか。」


 源三郎は素直に聞いており、やはりげんたに説明する為には必要なのだろう。


「総司令、先程も申しました様に軍艦には多くの偽装と言う大事な仕事が有りまして、偽装が完了しなければ何の役にも立たず、軍艦を偽装する為には専用の港が必要でして、その為の軍港なのです。

 更に最も重要なのが兵士を休ませるところと食料や弾薬の補充が一番で、兵士も陸に上がるだけで気分転換が出来、次の戦に備える事が出来るのです。」


「ではロシアですが、どの様に考えておられて要るのでしょうか。」


 源三郎と工藤の話しはまだまだ続き、後藤達も静かに聴いて要る。


 其の頃げんたは急ぐでも無く浜へと向かっており。


「何であんちゃんはあんなにも急ぐんだ、何時ものあんちゃんだったらもっと慎重に考えてから言うはずなのに、だけど何かが足らないなぁ~。」


 やはりげんたも感じて要るのだが、田中が報告するのを忘れていた内容を。


「あんちゃんでも聞く事を忘れたのかも知れないなぁ~。」


 と、独り言を言いながら歩いて要る。


「あの~源三郎様。」


 吉三も何かを言いたいのだろう。


「吉三さんも何か感じられたのですね。」


「オラは源三郎様に怒られるか分かりませんが。」


 何故か言いにくいのだろう、はっきりと言えないでいる。


「何でも宜しいですからね。」


「じゃ~言わせて貰いますけど、オラはげんたさんって知らないんですけど、あの人は本気で源三郎様の事を心配されてるって思ったんです。」


「げんたが本気でですか、何故其の様に感じられたんですか。」


「オラはあの時の事を思い出したんですけど、あの時、源三郎様はオラ達に真剣に言って下さったと、でもさっきは真剣じゃ無かったとは思ってません、でもオラは源三郎様に言われたから仕方無いって思ったんです。

 でもげんたさんは違うと思うんですよ、げんたさんは源三郎様がまだ本気じゃ無いって言ってるような気がするんです。」


「私が本気では無いと言われるんですか。」


 だが源三郎は痛いところを突かれたと、源三郎自身は其の時は本気だと思っており、だが吉三から見れば全ての面でまだ本気では無かったのだと見えたのだろう。


「さっきもお殿様が聞かれた時なんですけど、源三郎様に言うのを忘れてたってましたって、でもオラ達農民は忘れてたって言う言い訳は絶対に通らないんです。

 お天道様の事も、水の事も、病気になって無いかって、其れは毎日が必死で、どれ一つも忘れても駄目なんですよ、だからげんたさんが怒られたって、源三郎様、オラ偉そうな事を言って済みません。」


「いいえ、其の様な事が全然有りませんよ、私も反省しなければなりません。

 私は自分では本気だと思ってもげんたには本気で無いと思えたのかも知れません。」


「総司令、私も反省しなければなりません。

 確かに上野参謀長は私の元上官でした、ですが其れは全て過去の話しでして、官軍を離れ数年も経てば、参謀長も昔の参謀長だとは言えなくなってるやも知れません。」


「今更何を言ったところで遅いと思うです。

 ですが私はこの機会を逃せば官軍に近付く事は出来ないと考えております。

 私は何としてもげんたを納得させなければ向こう側に参る意味が無いと考えております。

 皆様、私は何としても軍港を建設しなければならないと、ですが先程も吉三さんが言われた様に私は本気では無かったのかもしれません。

 私はげんたにもう一度話さなくてはなりませんが、其れより今一度田中様から話しをして頂き、今の状況もですが、これから先の事もじっくりと時を掛け検討したいのですが、皆様方は如何でしょうか。」


「総司令、私も賛成で御座います。

 私も日頃より全てを総司令にお任せし、何も考える必要も無かった様にも思うのです。」


「阿波野様、私もで御座いまして、困難な問題の全てをお任せし、私は何処かで安していたのでは無いかと思うのです。」


「私も今考えますと、日頃は松川の事だけで連合国の将来を本当の意味で考えてはいなかったのでは無いかと考えるのです。」


「私も今は反省しております。

 げんたに本心を突かれたかも知れませんねぇ~、私よりも遥かに頭の切れる人物で一瞬で理解するのでは無いかと、今後はじっくりと考えなければならないと、私は軍港の建設に参加を決めるのはまだ先として、田中様、今一度ゆっくりとお話しをして頂きたいのです。」


「私も今までの事を思い出したく少しお時間を頂きたいのです。」


「そうでしたねぇ~、私は一体何を急いで要るのでしょうかねぇ~、先程もげんたに言われたばかりなのに皆様誠に申し訳御座いませんでした。」


「総司令、如何で御座いましょうか、今田中様が申されましたが、少し間を空けてはと思うのです。」


「工藤さんのご意見、私も大切だと思いますので、少し間を空け今一度集まっては如何でしょうか。」


「オラも其の方がいいと思うんです。

 オラも仲間と話し合いたいと思うんです。」


「源三郎様、私も吉三さんの意見に賛成させて頂きます。」


 後藤もじっくりと考えたいと。


「皆様、ではその方向で参りたいと思います。」


 執務室の全員が思い思いの場所で考える事になった。


「のぉ~権三、源三郎は相当苦しんでおるのぉ~。」


「今まで多くの困難が出る度全て源三郎に任せており、やはり其れがいけなかったのだと考えております。」


 お殿様もご家老様も今回の問題は簡単に終わるとは思えず、それ程にも複雑な問題で絡み合った糸を一本一本外さなければならず容易に問題は解決出来るものでは無い。


 源三郎は執務室で、高野達は庭の石に座り誰もが真剣に考えて要る。


 其の頃、雪乃はげんたの家に来た。


「ねぇ~、げんたさんは何を考えて要るの。」


「あ~ねぇ~ちゃんか、オレ今日あんちゃんから。」


 源三郎から聞いた話しの内容を言うと。


「う~ん其れは大問題ねぇ~、其れでげんたさんは何て言ったの。」


「オレはあんちゃんが本気で考えて無いって言ったんだ。」


「源三郎様が本気で考えて無いって、其れってどんな意味なの。」


「あんちゃんは昨日まで官軍は敵だって言ってたんだぜ、其れが今日になって急に官軍を助けるって、そんなのって有るのか。」


 雪乃はげんたがお城を出た後、お殿様が田中に問いただす時にも聴いており、田中と工藤が報告するのを忘れていたと聞いて要る。


「確かに源三郎様がその様に言われたの、でもねぇ~源三郎様は官軍は敵だとは考えておられないと思うのよ、源三郎様はね相手が幕府で有ろうと、官軍で有ろうと関係は無いって、其れはね連合国に攻撃する者で有れば相手は関係は無いって言う事なのよ。」


「其れはオレも知ってるよ、だけどオレは。」


「其れはね言葉の彩と言ってね、私達が使う言葉は大変難しいのよ、例えば出来ませんって言うのと、出来ませんがって言う言葉だけど、前の文言は出来ませんって完全に否定して要るけど、後の言葉で、が、って言う、この一文字が入るだけで全然違う意味になるのよ、げんたさんは私達の使ってる言葉ってそれ程にも難しいのよ、だってげんたさんはお姫様言葉やお殿様が使われる言葉を城下の人達が使ってると思う、私もねぇ~野洲に着た頃だけど言葉使いに其れはもう大変苦労させられたのよ。」


「えっ、ねぇ~ちゃんがか。」


「そうなのよ、げんたさんも知ってるでしょう、私が松川の。」


「其れは知ってるよ、だけどあの時もだけど、今と殆ど変わらないぜ。」


「其れはねぇ~加世様とすず様のお陰なの、私はねぇ~、あの二人には感謝しても、しきれない程感謝しているのよ、今の私が有るのは二人のお陰なのよ、源三郎様はねぇ~、げんたさんをご自分の弟だと思ってられるのよ、だから何時も言われて要るのよ、げんたに勝つ事、其れは単に勝つ事とは言ってられ無いのよ、源三郎様はげんたの頭の中は私以上だ、今げんたと議論すれば自分は確実に負ける、げんたは自分以上に考えて要ると、それ程までに思われておられるのよ、だからげんたさんと二人で話し合って要るのを見ると、私は全く入る隙が無いのよ。」


「オレはあんちゃんから聴いた事を何時でも考えてるんだ、あんちゃんがどれだけみんなの事を考えてるか、オレはちょっとでもあんちゃんが楽になる様に、其れだけを考えてるんだ、だけど今度の話しは簡単には納得出来ないんだ。」


「げんたさんが執務室を出た後にお殿様が入って来られてね、田中様に聞かれたのよ、すると田中様は一番大事な事をお話しするのを忘れておられたのよ。」


「えっ、なんでだよ、オレはどんな話か知らないけど、一番大事な話しをするのを忘れたって、そんな大事な事をなんで忘れてたんだ。」


「田中様はねぇ~、日本の隅々まで廻られ幕府や官軍の事を調べておられるのよ、源三郎様は田中様には文は出さない様にと、其れはねぇ~、若しもよ幕府か官軍の手に入ったら連合国の事を知られ、其れだけは何としても避けねばならない、だから田中様が野洲に戻って来られるまでは何も分からないのよ。」


 雪乃は源三郎から聞いたのでは無く、田中から一通の文も届かない、だが田中が野洲に戻ってくると数日を掛け報告を聞いており、其れで分かるので有る。


「じゃ~あんちゃんが今までオレ達に話してたのは田中さんが帰って話しを聞いてからなのか。」


「そうなのよ、げんたさんもでしょうけど、私も一年前の事全てを覚えて要るのは絶対に不可能だと思うの、私はねぇ~田中様が忘れたのでは無く、あの当時で一番の問題は幕府軍の残党と官軍の動向、其れが一番重要な問題で外国の船が来て要る事はさほど問題では無かった思うのよ。」


 げんたは雪乃の話をじ~っと聞いており、やはり雪乃の話しにはげんたは良く聞く。


「其れにね、今もだけど官軍の大軍が押し寄せて来る時によ、わざわざよ外国の船が来て要ると言う必要も無いと思うのよ。」


「まぁ~なぁ~、オレだって其れくらいの事は分かるよ。」


「源三郎様もだけど、お殿様や高野様、阿波野様に斉藤様も誰も田中様には何も言えないのよ、だってそうでしょう田中様のお役目は連合国では一番危険なお役目なのよ、源三郎様はねぇ~、田中様が戻られるまでは何時も心配されておられるのよ、田中様が何時何処に参られておられるのか源三郎様は全くご存知ないのよ、だって高い山を歩いて要る時に足を滑らせ谷底に落ちる事も考えられるし、野盗に襲われるかも知れないのよ、官軍や幕府の残党に捕らえられるかも、其れによご病気になられる事も考えられるのよ、田中様のお役目が一番危険だって言う事を知っておられるのは極一部の方々なの、だから誰も田中様を責める事は出来ないの、其れだけはげんたさんには分かって欲しいの。」


 げんたは雪乃の話を聴き、今どの様に感じ、いや其れよりも何を考えて要る。


 やはり源三郎が言う様に官軍が進める軍港の建設現場に行き、官軍の軍艦を見たいとでも考えて要るのだろうか。


「げんたさんは連合国にとっても大切な人だけど、源三郎様は連合国の事もだけど日本国を外国の植民地にさせない為にも軍港を建設しなければならないと考えておられると思うの、げんたさんも今直ぐ答えを出せないとは思うけど、源三郎様の為では無く、連合国の、いいえ日本国の為にゆっくりと考えて欲しいのよ、私はねぇ~源三郎様もげんたさんも信頼してるのよ、だからって無理はしなくてもいいのよ。」


「ねぇ~ちゃん有難う、オレもねぇ~ちゃんから聞いた話しをゆっくりと考えるよ。」


「げんたさん、じゃ~また来るからね。」


 と、雪乃はげんたの家を後にしお城へと戻って行く。


 一方野洲のお城では高野や阿波野達が執務室に入ると。


「あの~源三郎様。」


 と、吉三が最初に聞いた。


「何か良い考えが出たのですか。」


「オラが一番知りたいのは、さっきのお話しで軍港を造るのは分かったんですが、軍艦って何時頃出て行くんですか。」


 吉三にすれば素直な疑問だ、軍艦の建造は一年半か二年で完成する、だが何時出港出来るのか其れが知りたいのだろう。


「総司令、私がお答えさせても宜しいでしょうか。」


 此処はやはり専門の工藤がおり、工藤ならば軍艦の出撃出来るまでの日数も分かる。


「勿論ですよ、工藤さんは専門家ですので是非ともお願いします。」


「はい、では今の質問にお答えさせて頂きます。

 吉三さんのご質問は何時になれば出撃出来るのかと言う事だと思います。

 まず軍艦の兵士の訓練ですが、軍艦の規模にも寄りますが、兵士の人数、そして、指揮官達にも寄りますが、兵士が各種の武器の取り扱いを覚えなければなりません。

 其れが終われば外洋に出て実弾訓練に入りますが、実弾訓練は大変難しく敵艦の位置、方位、更に自国艦の位置など、其れこそ覚えるだけでもう大変で御座います。」


「吉三さんの質問と関連して要ると思うのですが、日本は十隻の軍艦が完成し、其れと同じ頃敵の軍艦も十隻で我が連合国の沖を通過すると言う情報が入り、日本の軍艦十隻と敵の軍艦の戦いが開始されと考え、日本海軍は勝利する事は出来るのでしょうか。」


「高野司令、日本の軍艦がどれ程の訓練を行なったかに寄りますが、実弾訓練が最初の頃で有れば日本海軍の軍艦は簡単に撃沈されます。」


「えっ、何故ですか、日本海軍も十隻有るのですよ。」


「阿波野司令も皆様も以前官軍五千が菊池の隧道に近付いて来た時の事をご存知だと思います。」


 あの時、一人の猟師が言った事を思い出した。


 狼でも半町以内ならば額に命中させる自信は有ると、更に山賀に行った選ばれし家臣達の射撃訓練で兵士は一町先の的でも命中させる事は出来る、だが動く的に命中させるのは更なる訓練が必要だと。


「阿波野司令、あの時、猟師さんは半町ならば官軍の指揮官の額に命中させられる、其れは猟師さんもですが、ご家中の方々が放たれた矢の全てが命中した、其れは日頃より血の滲む思いで鍛練された結果、全ての矢が命中したと同じで、軍艦でも有りとあらゆる場面を想定した訓練を行わなければならず、訓練の出来ていない軍艦ならば相手からすれば停まって要るも同然の的で数発で軍艦は沈没します。」


「其れは陸上での訓練よりも厳しいのでしょうか。」


「勿論でして、其れよりも海を言うのは年中風の影響を受け、軍艦は常に前後左右を揺られ、半里近く離れておれば簡単には命中する事は無く、其れに陸上ならば爆破されても木片だけが飛んで来ますが、軍艦と言う船は全てが鉄で造られており破片は鋭利な刃物と同じでして、兵士に突き刺されば即死で御座います。」


「では軍艦には逃げ場は無いと申されるのでしょうか。」


「全くその通りでして、ですから軍艦の訓練は厳しくされ敵軍を先に沈めなければ自艦が沈められる、其れでも各国が軍艦の建造を急ぐのは今の状況では軍艦と言うのは最強の武器だからです。」


 やはり工藤は長崎で軍艦に関する事を学んだだけの事は有る。


 だが源三郎や高野達にとっては軍艦とは未知の船で、其の軍艦が完成しても厳しい訓練が終わらなければ幾ら鉄で造られたと言っても敵の軍艦から見れば停まって要る的で簡単に撃沈されると言う。


「後藤さんは土木の専門家ですが、港は造られた事は有るのでしょうか。」


 後藤はず~っと考えていた、最初は簡単に考えた、だが考えれば考える程軍港を造ると言うのは考える以上に困難な仕事だと分かってきた。


「私も最初お話しを伺った時には余り難しく考えてはおりませんでしたが考えれば考える程軍港を造ると言うのは大変な困難が予想されて要るのです。」


「じゃ~後藤さんは出来ないって言われるんですか。」


 吉三は後藤が軍港は造れないと解釈した。


「其れは違うんですよ、実は私も軍艦の大きさを知らなかったんで、簡単に考え直ぐ出来るのだと思ったんですが、これは池や川の流れを変えるのとは全然訳が違うんですよ。」


「オラ達にも分かる様に言って欲しいんです。」


 吉三は軍港を造らなければならないと、だが専門家だと言う後藤も考えが纏まらないと。


「山で柵を作ったり池を造ると言うのは思った以上に簡単なんですよ、ですが港と言うのは海に作るんですよ、海と言うは川を堰き止める様に簡単には止めれないんです。

 其れと深さはどれ位要るのか其れが一番の問題なんで、私は今その方法を考えて要るんですが、其れが簡単に見付からないんです。」


 其れからも質問が出る度に源三郎も工藤も答えるが、其れでも結論が出る事も無く、夕食が終わってもまだ続いて要る。


 そして、明くる日の朝、お殿様とご家老様は何を考えたのか馬に乗り大手門を出て行く。


「権三、余はげんたに頼みに参るぞ。」


「私も昨日より考えておりましたが、やはりげんたの存在は大きいと思うです。」


「確かにじゃ、げんたの事を知らぬ者はおらぬ、じゃが吉三達もじゃが五千人の元官軍兵は何故に町民がと思うで有ろう、余はあの者達に全てを理解させるのは無理だと思っておる、だがげんただけは別格なのじゃ。


 源三郎の申す様にげんたには軍艦の実物を見せる事は大事じゃ、其れにげんたの申す通りで先日まで余も官軍は敵じゃと、だが田中の話しを聞くと官軍はもう敵では無い。


 余はのぉ~、昨日は眠る事が出来なかったのじゃ、其れと言うのも我が連合国が植民地になれば領民が、いや源三郎が今まで築いたものの全てが無くなり、領民は永久に生きる屍に、余は其れだけは断じて許す事は出来ぬのじゃ。」


 お殿様は恐ろしい程の決意を持って要る。


 源三郎が苦労して築き上げた連合国が、いや日本国が植民地にでもなれば全ては無くなり、其れは連合国が壊滅、いや日本と言う国が事実上無きにも等しいと、其れだけは絶対にさせてはならない。


「私もで御座います。」


「よし参るとするか。」


 お殿様とご家老様が浜に着くと。


「お~い、大変だお殿様とご家老様が来られたぞ。」


 其れを聞いた浜の漁師達は一斉に近寄って来た。


「お殿様、一体何が有ったので御座いますか。


「ちとげんたに用事が有って参ったのじゃ、其れでげんたはおるのか。」


「えっ、今の声はお殿様、大変だげんたお殿様が来られたよ。」


「えっ、なんでお殿様が。」


 と、げんたが家を飛び出すと、家の前でお殿様とご家老様が座り、だが何時ものお殿様では無い。


「お殿様、一体どうしたんですか。」


「げんた、ちと余の話しを聞いて欲しいのじゃ。」


 と、お殿様はその後昨日げんたが帰った後の事を話した。


 げんたの家の周りには漁民で皆が正座し聞いており、お殿様の話しは雪乃から聞いた内容と同じで有る。


「げんた、その様な話しで田中や工藤が悪いのでは無い、全て余の責任じゃ、全てを源三郎とげんたに任せその全てが悪い方へと向かったのじゃ、のぉ~げんた、源三郎の話しを今一度聞いて欲しいのじゃ。」


「お殿様、オレも馬鹿と違うんだ、オレだってあんちゃんの言う事は分かってるよ、だけど急にそんな事言われたら浜の人達はあんちゃんの話しは信用出来ないって言うんだ。

 オレはねぇ~、浜の人達もだけど城下の人達も大切なんだ。」


「げんた、余も分かっておるのじゃ、のぉ~今はその様な事を申しておる場合では無いのじゃ、若しもじゃ、日本国がその国の植民地になればじゃ全てが終わりと同じなのじゃ。」


「オレも、だけどなぁ~。」


「げんた、余が腹を切れば行ってくれると申すので有れば余は腹を切る、権三、介錯致せ、余はあの世で待っておるぞ。」


「拙者も直ぐ参りますので。」 


 と、言ってお殿様とご家老様が上に着て要る着物を脱ぐと、白い、其れは死に装束でお殿様とご家老様が座り直した。


「お殿様、待って下さい、なんでお殿様が切腹されるんですか。」


「元太か、余の為に皆が苦しい思いをしておる、余が腹を切る事で全てが纏まるので有れば、余は喜んで腹を切るぞ。」


「そんなぁ~、なんでこんな事になったんだ、げんた、早く止めるんだ。」


 其れでもげんたは動かずに、其の時、源三郎達が馬を飛ばして来た。


「殿、お待ち下さい。」


「源三郎、後の事は頼むぞ。」


「いいえ、其れはなりませぬ、げんた、朝、雪乃殿より話しは聞いた。

 先程、門番から聞き、急いで来たんだ、なぁ~げんた、確かに今度は私は何か焦っていた。

 だが問題はそれ程にも迫って要ると言う事なんだ、其れだけは分かって欲しんだ。」


「げんたさん、オラ達はあれからさっきまで話を続けてたんだ、だけど源三郎様もだけど、どんなに考えてもおんなじなんだ、オラは難しい事は分からないけど、みんなの話しを聞いてるとオラは何で源三郎様がげんたさんに行ってくれって言った事が少し分かってきたんだ。

 源三郎様はその何とか言う国の軍艦を沈める為にはげんたさんが一番頼りだって、オラは思ったんだ。」


 吉三は皆とは別の考え方をしており、其れは源三郎の考えていた事と同じで有る。


「お殿様、腹は切らないで欲しいだ、だってそんな事になったらオレは浜の雑炊が食べれないんだぜ。」


 よ~し、これで解決したとお殿様は思った。


「そうか分かってくれたのか、ではこれで余も又浜の雑炊を食する事も出来るのぉ~。」


「あ~良かった、オラは一体どうなるかって、もう本当に心配したんだから。」


「元太、済まぬのぉ~許せよ、じゃが先程話した事は本当なのじゃ。」


「だったら大変な事になるのか。」


「其れを考えるのが源三郎の役目なのじゃ、だが余は何としてもじゃ、ロシアの軍艦を行かせる訳には行かぬ、皆も其れだけは考えるのじゃぞ。」


「なぁ~あんちゃん、向こう側に行くのは少し待って欲しいんだ。」


「まだ何か有るのですか。」


「オレもまだ考える事が有るんだ。」


「分かりました、ではげんたの考えが纏まるまで待つ事にします。」


「技師長、誠に申し訳御座いませんでした。」


「工藤さん、もういいんだ、其れよりもオレに軍艦の仕組みを教えて欲しいんです。」


「今日からでも宜しいですが。」


「いや、明日、いや明後日からにして欲しいんです。」


「分かりました、では私が参りますので。」


「いやオレが行くから。」


「源三郎様。」


 と、銀次が駆け付けたと言うよりも小舟で来た。


「何が有ったんですか、漁師さんが大変な事になってるって言うんで来たんですよ。」


「いや別に大した事では無いのですが。」


「源三郎様。」


 と、親方達も浜に上がって来た、浜には殆ど全員が集まり。


「源三郎、丁度良い機会じゃ、今の内に浜の皆にも話すのじゃ。」


「はい、承知致しました。

 皆さん、今から大切なお話しが有りますのでその場に座って下さい。」


 銀次の仲間の大工達も、そして、漁師や妻達も集まり。


「では今からお話ししますが、分からない事は聞いて下さいね。」


 源三郎は何時の調子で今の連合国の状況から話し始め、そして、いよいよ核心部分へと入って行く、だが浜の人達は全く理解出来ないのか殆ど全員が首を傾げて要る。


「皆さんには外国と言っても分からないと思いますが、目の前に有る海の遥か向こう側に我が連合国の数百倍、いや千倍以上の大きさの有る国が有るのです。」


「源三郎様は其の外国って前から知ってたんですか。」


「其れがですねぇ~、私も昨日初めて知ったんですよ。」


「だったら誰が知ってたんですか、さっきもお殿様がげんたに話してられましたが。」


「実は殿様も同じでしてね、今、此処に居られる田中様が調べられたんですが、皆さんは田中様を全くご存知無いと思うのですが、田中様は九州の薩摩から遠くは蝦夷地まで行かれまして幕府と官軍の様子を調べておられまして昨日数年振りに戻って来られたのです。」


 野洲の漁師もだが連合国の中で田中の存在を知って要るのは極一部の者達だけで、源三郎は少々の作り話は通じると考えた。


「じゃ~其れまでは全然知らなかったんですか。」


「其の通りでして、皆さんもご存知の様に私も今だ連合国の外に出た事も無いのです。」


「まぁ~なぁ~、源三郎様もオラ達も高い山の向こう側を知らないんだから仕方が無いよ。」


「田中様も外国の事は知られても直ぐには戻って来られないんですよ、其れは分かって頂けると思います。」


 漁師達も銀次達も仕方が無いと頷いて要る。


「其れでね、これからが一番大事ですからね。」


 源三郎は欧州の強国が日本国周辺の国々を植民地にしその為住民は悲惨な生活を送って要ると、だが漁師達も銀次達も植民地と聞かされたも全く意味が判らない。


「源三郎様、今言われました植民地って一体なんですか、幕府とは違うんですか。」


「銀次さんも、そして、皆さんも植民地になると言う事はですねぇ~、今までの幕府とは違い外国人が来て作物もですが、彼らが必要だと思う物の全てを奪うんですよ。」


「でも幕府にもお役人がおりましたよ。」


「其れが植民地なんですよ、仮に役人がいても全く何も出来ないんですよ、外国人に反抗すればその場で鉄砲か刀で殺されるんですよ。」


「じゃ~お侍様は。」


「侍は何も出来ないと言うより侍は其の前に全員殺されると思いますよ。」


「だったら野盗と一緒なんですか。」


「いいえ、野盗以上だと思いますよ、其れでね先程の話しに戻りますが。」


 源三郎は話し続け、さぁ~いよいよ最後の一番重要な部分で有る。


「皆さんは小判をご存知でしょうか。」


「オラ達は小判なんか今まで見た事も無いですよ。」


「じゃ~此処にお城から持って来ましたので、皆さん順番に見て下さいね。」


 源三郎は懐から小判を出し、漁師達に渡し、漁師達は初めて見る小判を裏返したり何か不思議な物でも見る様に見て要る。


「ところで話しは変わりますが、皆さんは米俵を知っておられますか。」


「オラ達の村に中川屋さんが届けて下さるあれですか。」


「そうですよ、其れでね、外国、特に欧州の国では日本国の事を黄金の国と呼びましてね、この小判が一番高価な物なんですよ。」


「源三郎様、小判がなんで高価なんですか。」


 銀次も仲間も何故だか知らない。


「其れはね、先程も言いましたが外国では小判の半分、いやもっと小さな金貨と言う物が有るんですがね、例えば米俵を一俵を買えると考えて下さいね、日本ではこの小判が一枚で買えますが、先程も言いましたが外国では小判よりも小さな金貨で参俵も買う事が出来るんですよ。」


「源三郎様、その奴らが日本の小判を奪いに来るんですか。」


「ええ、その通りなんですよ、江戸の大きな商いをして要るお店では小判が一万枚と二万枚も有るのです。

 更に佐渡の金山では金塊が取れるんですよ、そうでしたねぇ~、銀次さん。」


「はい、その通りです。」


「皆さんは連合国では金子は要りませんが、山の向こう側では物を買う時には必ず金子が要るんです。」


「じゃ~外国の奴らは佐渡の金山を襲うんですか。」


「其れがねぇ~其れだけでは無いでんですよ、今外国と言いましたが、日本は欧州の国からは遠く離れておりますが、其れでも金塊が必要で金塊を奪う為には大きな軍艦が必要でしてね、田中様が調べれたところでは長さが一町以上で其れに大きな大砲を備えた軍艦を今造って要る最中なんですよ。」


「源三郎様は連合国でも軍艦を造るんですか。」


「其れがねぇ~、今の連合国では軍艦を造る事が出来ないんですよ。」


「だったらやっぱりげんたの潜水船なんですか。」


「う~ん、まぁ~其れも大事だとは思いますが、其れよりも軍艦を造る場所が要るんです。」


「じゃ~野洲に造るんですか。」


「今のところは考えておりませんが、其れでその場所なんですがね、山賀の国の向こう側なんですよ。」


「山賀の国ってお米が出来る国ですよねぇ~。」


「ええ、其の通りなんですがね、其れでね今その場所で官軍が造ろうとして要るんですがね。」


「源三郎様、官軍ってオラ達の敵じゃ無かったんですか。」


 やはり来たか、野洲の漁師も官軍と聞くだけで敵だと思って要る。


「皆さん、官軍の全部が敵では有りませんよ、其の証に工藤さんや吉田さん、其れに連合国軍の兵隊さんは全員が元官軍兵なんですよ。」


「そうだなぁ~、工藤さんもだけど兵隊さんの全部が悪いんじゃ無いんだ。」


「そうですよ、工藤さんや兵隊さんの様な人も大勢居られるんですよ、其れでね官軍の兵隊さん達が今山の向こう側で港を造ろとして要るんですがね、殆どの人が港の造り方を知らないんですよ。」


「じゃ~今柵や池を造ってる人が行くんですか。」「其の通りなんですよ、官軍の中でも皆さんを悪い外国から守ろうとしている人達も大勢おられましてね、其の中で工藤さんや吉田さんが知っておられるお方が田中様に何とかして港を造れる専門の人を探して下さいって頼まれたんです。」


「源三郎様、港を造ったり、軍艦を造るのはオラ達の為なんですか。」


「其の通りなんですよ、元太さんが行かれた官軍の隊長さんが田中様に言われたんです。」


「あの隊長様か、やっぱりあの兵隊さんが言ってたのは本当だったのか。」


「元太も外国人の話しは聞いたのか。」


「オラも聞いたけど、オラは外国人の事を言われても全然分からないんだ、だけどオラに親切にて下さった兵隊さんが言ってたんだ、我々は日本を植民地にさせない為に軍艦を建造し迎え撃って必ず勝って見せるって、だけど今は港を造らなければ軍艦を停める事も出来ないって。」


「なぁ~元太、オラ達を守るって本当に出来るのか。」


「そんなのオラに分かる訳が無いんだ、だけど隊長様は早く造らないと日本はロシアの植民地になって、オラ達は幕府時代の時よりも悲惨な生活になるって。」


「源三郎様、オレ達も行きますよ。」


 銀次は行くと、だがまだ話しの途中で漁師達も迷って要る。


「皆さん、私は皆さんを守る為に官軍と手を結ぶ事も必要だと思うんですがねぇ~。」


「源三郎様、オラも行きます。」


 与太郎だ、与太郎が大きな入り江へ最初に入り、そして、数日後、元太と一緒に行き、其れが与太郎の人生を変えたのかも知れない。


「与太郎が行くって、なんでお前が行くんだ。」


「オラはあの隊長様を信じる事が出来ると思うんだ、其れに隊長様はこれからは幕府が相手では無い外国だって言われたんだ。」


 其れは与太郎が聞いたのでは無く、元太が聞き、浜の漁師達に話し、与太郎は自分が聞いたと勘違いしたのかも知れない。


「源三郎様、オラも連れてって下さい。」


 やはり元太も行くと、だが元太は連れては行けない、其れは与太郎も同じで有る。


「元太さんも与太郎さんも本当に有り難いですが、今直ぐにお手伝いして頂く事は有りませんので。」


「やっぱり駄目ですか。」


 その後、暫くして。


「さぁ~お殿様とご家老様、お待ちどう様でした、浜特製の。」


「お~雑炊か、余はこれを待っておったのじゃ。」


 と、お殿様とご家老様が早くも食べ始めて要る。


 そして、半時程してお殿様とご家老様、源三郎達もお城へと戻って行く。


 だが簡単に終わったのでは無く、その後、数日掛け話し合われ、田中が戻ってから七日後に。


「工藤さん、明後日の朝向こう側に向かう事に致しましょうか。」


「はい、私は何時でも宜しいので。」


「田中様もご一緒にお願いします。」


「はい、承知致しました。」


「吉田さんは一個中隊と一緒にお願い申し上げます。


 其れと鈴木様は後藤さんと吉三組にも伝えて下さいね。」


「総司令、私と上田殿ですが。」


「勿論、行って頂きますので。」


 鈴木と上田はニッコリとした。


「上田様、浜のげんたにも其れと吉川さんと石川さんにもですよ。」


「では銀次さん達は。」


「銀次さん達いは又お願いするか分かりませんのでと伝えて下さい。

 吉田さんは山賀に伝令をお願いします。


 我々は明後日の朝出立しますが、到着の予定は二日後となると思いますので、大岩へ向かい周辺を偵察して下さいと。」


「はい、承知致しました。」


 その後、工藤と吉田は駐屯地へ戻り中隊の選定に入り、中隊の全員に詳しく説明した。


 さぁ~果たしてどの様な結果になるのか、源三郎は其の日も色々と考えを巡らせ夜が更けるのも忘れて要る。


 工藤と吉田ははやる気持ちを押さえ平静を保とうとして要るが、やはり何処かに一末の不安でも有るのだろうか、其れはやはり上野とは数年振りに会えるからなのかも知れず、どの様な話しを聞けるのかが問題だ。



         

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