第 36 話。 遂に決断した源三郎。
「源三郎様、お早う御座います。」
「もっとゆっくりとしてれば良かったのですよ。」
「オラは。」
「私も承知しておりますので朝餉が終われば野洲へ戻りましょう。」
「若様、オラの為に大勢の兵隊さんが。」
「元太さん、別に宜しいんですよ、其れよりも奥さんとお子さんに早く元気は姿を見せて上げて下さいね。」
「本当に有難う御座いました。」
「じゃ~皆さんで頂きましょうか。」
元太も直ぐ野洲に、やはり妻や子供に早く会いたいと、其れは誰もが同じで有り食事を済ませると馬車に乗り野洲へと向かった。
「やはりあの話は本当だろうか、中隊長や小隊長も上野参謀が深刻に考えて要ると、其れよりも外国が日本国を植民地にすると言った、だが植民地とは初めて聞き、どの様になるのかも全く理解出来ない。」
と、田中は独り言を言いながらも菊池を目指している。
「参謀長殿、あのお坊様ですが。」
「中隊長も何かを感じていたのか。」
「自分は何も疑って要るのでは有りませんが、普通のお坊様では無い事だけは確かだと思います。
其れにあの物腰は相当修行を重ねられていると思います。」
「そうか、やはりなぁ~確かに僧侶には間違いは無いと思う、だが僧侶にしては隙が無く相当な手練れと見た、だが其れよりも私は工藤の事を知って要ると思うんだ。」
上野は田中を見抜いて要るのか、其れとも確信が無いが工藤達の行方を知って要ると考えて要る。
「参謀長殿はあのお坊様を信用されておられるのですか。」
「私の判断に間違いが無ければ数日の内に国に戻れら、だが其れからが問題なんだ、私の話を信用し御坊が何とか言うお方に話され、其れでどの様に決断されるかだ。」
「参謀長殿、司令本部より書状が届きました。」
定期的に司令本部より書状が届く、その内容は何時も工事の進捗状況の問い合わせと最新の情報を知らせるもので有り、何時も同じ内容だと中味を見る事も無く中隊長に渡し、中隊長が見る事になって要る。
「参謀長殿、何時もと同じで工事は進んで要るのかと言う問い合わせです。」
「多分、そうだと思う、まぁ~司令本部にすれば一日でも早く完成させようと言う文言だと思うんだ。」
「確かに其のとおりですねぇ~。」
そして、中隊長が二枚目を読むと。
「参謀長殿、これは何時もとは内容が少し違いますよ。」
「何だと。」
中隊長が上野に書状を渡し、上野は真剣な眼差しで読んだ。
「中隊長、どうやらロシアが日本国を狙って要る様だぞ。」
「えっ、其れは誠ですか。」
「あ~本当だ、多分日本国がイギリスから購入した軍艦の費用が問題の様だなぁ~。」
「ですがあれは日本で同型の船を建造する為に必要なのでは。」
「まぁ~其の通りだが、問題はだ日本が出した金額もだが全て小判で支払った、欧州では日本を黄金の国だと、其の証拠に我が国では小判で支払ったが、欧州の国では今までその様な黄金で支払った事が無いと聞いて要る。
まぁ~ロシアとしては黄金は喉から手が出る程にも欲しいんだろう。」
「ではロシアは直ぐ日本を攻めに来るのですか。」
「いや、どうやらイギリスが間に入り話し合って要る様にも書いて有る。」
「ですが、イギリスも日本国を植民地にしたいと思って要るのでは有りませんか。」
「まぁ~其れは何とも言えんが、ロシアもイギリスが相手となればそう簡単に手が出せないんだろう、何しろイギリスは地球上で最強の軍事力を持って要るからなぁ~、まぁ~下手には動けないと言う事だ。」
ロシアは地球上で最大の国で、だが人々の住める土地は太平洋側の一部と欧州側だけで、幾ら最大の国家だと言っても殆どの土地には人は住んでおらず、欧州側の都市でも真冬になると氷点下二十度、三十度は当たり前で、その為、人々の生活は苦しく、ロシアは蝦夷地と言う不凍港を手に入れ、そして、黄金の国、日本を植民地にすれば金塊は欲しいだけ手に入れる、その金塊で他国より物資を買い付ける事ができ国は栄える。
だがロシアが極東の日本に向かうには、イギリスと言う軍事国家と排除しなければならず、ただイギリスとて黙って見て要る訳にも行かない。
イギリスも東南アジア地域を植民地にし、大量の物資を手に入れており、若しもロシアがその地域を支配する事にでもなれば、其れこそイギリスと言う軍事国家の存亡に関わり、その為イギリスはロシアの行く手を阻止して要る。
「まぁ~日本国はイギリスと仲良くしており、今はイギリスと言う軍事力でロシアを阻止しており、当分の間は大丈夫だと思うんだ。」
「其れでですか、イギリスで建造された軍艦をイギリスの言い値で購入したと言うのは。」
「まぁ~お互いの利権が合致したと言う事だなぁ~。」
「その為にも我々は軍港を早く完成させなければならないのですねぇ~。」
「其の通りなんだ、だが悲しい事に今は何も出来ないんだ、司令本部も軍港を建設する為の資材運搬に鉄道をこの地まで敷設しようと、今も長崎、いや八幡から大坂を経由し、此処までと更に東京まで通る工事を進めて要るがまだ数年は掛かりそうなんだ。」
「ですが、鉄道の敷設の遅れで資材の到着も遅れるのでは。」
「そうなんだ、だからこそ何とかして軍港の形だけでも完成させたいんだ。」
田中は欧州の列強諸国が日本に手を伸ばしているのは聞いた、だが何時大艦隊を引き連れ来襲するのかまでは知らず、其の中でも特にロシアの動きは全く知り得ていない。
「源三郎様、やっぱり与太郎の言った事に間違いは無かったです。」
「そうでしかたか、官軍の隊長はそれ程にも優しいのですか。」
「オラは源三郎様がお優しいのは知ってますが、正か官軍の隊長様があんなにもお優しいとは思って無かったんです。」
「元太さんは官軍の隊長から何も疑われて無かったのですか。」
「そう思ってますが、でもオラが毎日退屈にしてるって思ったんでしょうか、隊長様は浜に行ってはどうかって、其れで当番の兵隊さんと散歩に行ったんですよ。」
「えっ、散歩に行けと。」
やはり何か有る、普通ならば幾ら漁師だと言っても不審者に違い無く、不審者で有る漁師に散歩に行けと言うのだろうか。
「元太さんは兵隊さんと散歩に行かれ何か聞かれたのですか。」
「ええ、其れが。」
元太は何か言いずらそうにして要る。
「宜しいんですよ、私がご無理をお願いしたばかりに元太さんには大変辛い思いをさせましたのですから。」
「違うんです、そんな事は全然思って無いんですよ、只、オラが聞く前に兵隊さんが漁師の仕事は大変ですねぇ~って言ったんで、オラは何も考えず海には魔物が要るって言ったんです。」
「ほ~魔物がねぇ~、其れで。」
「兵隊さんの故郷にも近くに大きな沼が有るって、其の沼は底なし沼だって、昔からの言い伝えを他の兵隊さんに言ったら馬鹿にされたって、其れでもオラの話は信用するって言われたんです。」
「そうですか、其れで兵隊さんは何かを話されましたか。」
「オラは明日の事なんか全然思って無かったんですが、其の日、宿舎に帰ると隊長様がもう直ぐ帰れるかも知れないから明日は帰る道を教えて上げろって、兵隊さんに言われたんですよ。」
「隊長が帰り路を教えろと言われたんですか。」
「其れで明くる日は兵隊さんと一緒に駐屯地を出て、あっ、そうだ、オラは大変な事を忘れてました。」
「一体何を忘れたのですか。」
「駐屯地の兵隊さんが大勢で原木を切り出し、今は職人達の宿舎を建てるんだって言ってました。」
そうなのか、官軍の大部隊はこの地に宿舎を建てると言う事は長期間に渡り宿営する予定なのか。
「余り深刻に考え無いで下さいね、元太さんのお陰で今回の作戦は大成功でしたからね。」
「えっ、其れは本当なんですか、オラはもう。」
「ええ、本当ですよ、吉田さん達は元太さんには頭が上がらないって申されておられましたからね。」
「オラはそんな事なんか考えて無かったんですよ、でも本当に良かったですねぇ~、これでオラは母ちゃんや子供に、其れと浜のみんなにも会わす顔が出来ますんで。」
元太にそれ以上話しを聞く事はせず、吉田の報告のみで、次なる策を考えなくてはならないと考えた。
「オラは次もやりますんで、何時でも言って下さいね。」
「私もお気持ちは嬉しいのですがね、余り元太さんや浜の漁師さん達にご迷惑は掛けたくは無いのです。」
「オラもですが浜のみんなは迷惑なんて誰も思ってませんよ、其れよりも、源三郎様のお役に立つんだったらって言ってますんで。」
「そうですか、其れは大変有り難いお話しで、今回の任務は成功しましたが、ですが次も必ず成功するとは断言出来ないのです。」
「源三郎様は何時もオラ達の為だって言ってわれるんですよ、だったらオラも源三郎様の為に、其れにみんも思ってるんですよ、だから次の時にもオラ達に手伝わせて欲しいんですよ、源三郎様、お願いしますよ。」
元太も今回成功したから次も必ず成功するとは思っていない、だが日頃、源三郎は領民の為ならば命を捨てる覚悟は出来て要ると、其れならばと元太を始め浜の漁師達も源三郎の為に役立つので有れば何時でも手伝うと、それ程にも浜の人達は真剣に考えて要る。
そして、二時半程して松川へ近付いた。
「あれは若しや源三郎様では。」
「うん、間違いは無い、若殿にお知らせして来る。」
松川では家臣が大手門で源三郎の到着を待っていた。
「若殿様、源三郎様が。」
「えっ、義兄上が着かれましたか。」
と、言うよりも先に若殿は執務室を飛び出し大手門へと走った。
「吉田、総司令が到着されるぞ。」
「はい、自分は。」
と、工藤と吉田も飛び出した。
「義兄上、お待ち致しておりました、元太さんも大変ご苦労様でした。」
「若殿様、オラは何もして無いんで、オラよりも兵隊さん達は。」
「元太参謀、勿論、全員元気で御座います。」
「あ~本当に良かった、源三郎様、オラは其れを聴いてやっと安心しました。」
「義兄上、元太さん、さぁ~参りましょうか。」
松川の若殿に、斉藤、工藤と吉田を始め、松川の家臣達が源三郎と元太を出迎え、其れはまるで凱旋将軍を出迎える様で元太は目を白黒させて要る。
執務室に入ると何と大殿様までもがおられる。
「源三郎殿、元太殿大儀で有ったのぉ~、まぁ~其れにしても野洲には優秀な人材が揃っており、余は大変羨ましいのじゃ。」
「父上、私もこの度の元太さんの働きで目が覚めました。
私も城下、いやご家中を含め、領民の全てから人材を集めたく存じます。」
「其れは無理と申すものじゃ、源三郎殿は日頃より城内、城外を問わず、皆の話しを聞かれ、元太殿の様に例え漁師で有ったとしても活躍の場を与えておるのじゃ、その方が考えて要る様に簡単には参らぬ、だが今からでも遅くはない皆が一致団結する気持ちさえ有れば出来ると言う事なのじゃ。」
「大殿様、誠に有り難きお言葉、源三郎、身に沁みて嬉しゅう御座います。」
傍では、元太は余りにも大歓迎に驚き、いや其れよりも恐ろしさを感じて要る。
「余は戻る、後の事は頼んだぞ。」
と、大殿様は静かに部屋を出て行った。
「義兄上、父上も元太さんが無事戻られるのを待っておられました。」
「元太さん、本当に良かったですねぇ~。」
「源三郎様、オラは身体が震えて動け無いんです。」
「ほ~元太さんでも身体が震える時が有るのですか、では先日、官軍が居る浜に行く時はどうでしたか。」
「えっ、あの時ですか、オラはあの時は何も感じて無かったですよ。」
「元太さんには驚かされますねぇ~、普通ならば官軍の大部隊が集結して要る所へ行くとは誰も考えていないんですよ。」
「でもあの時は平気でしたよ。」
「元太参謀は官軍が平気なんですか。」
「はい、オラは何とも無いですよ、でも大殿様は。」
「へぇ~父上が恐ろしいんですか。」
「はい、オラは身体中がガタガタと震えてました。」
「では、私から父上に申して置きますよ、元太さんは父上が恐ろしってね。」
「若殿様、そんな事言ったらオラの首が。」
「父上が申されてましたよ、元太と言う漁師のやる事は正気の沙汰では無い、普通の人間が、ましてや漁師が考える事では無い、とね。」
「じゃ~オラは普通の人間じゃないんですか。」
「そうですよ、元太さんはねぇ~、野洲の、いや連合国一の恐れの知らない男だと言う事ですよ。」
「でもオラにも恐ろしいものが有りますよ。」
「ほ~元太さんにも恐ろしいものが有るとは知りませんでしたねぇ~。」
「そうなんですよ、オラは母ちゃんがこの世で一番恐ろしいんですよ。」
「元太さんがねぇ~、其れは驚きですよ。」
「だったらお聞きしますが、源三郎様には恐ろしいものは無いんですか。」
「私ですか、まぁ~一番恐ろしいのはねぇ~。」
「オラは雪乃様だと思ってるんですよ。」
「お願いですから、誰にも言わないで下さいね。」
「へぇ~やっぱりですか、だったらオラと同じですねぇ~。」
この様な話しだけだが元太は今まで緊張の連続で有ったが、少し心が解れたかの様に笑いが止まらない。
「ですが、私は元太参謀の度胸には参りましたよ。」
「吉田さんでも無理ですか。」
「何度と無く幕府軍と戦いましたが、今回の様に一人で官軍の大部隊が居る所には行く事は無理です。」
「私も同じで、駐屯地の兵達も申しておりましたが、漁師さんの度胸は歴戦の強者でも頭が下がると。」
「やはり、我々の様な武士では使い物にならないのでしょうかねぇ~。」
近くに居る松川の家臣達は源三郎達の会話に目を白黒させ、余りにも平然として要るのが恐ろしさを感じて要る。
「吉田さんは作戦は成功したって言われましたが、あの大きな入り江で何か見付かったんですか。」
「元太参謀、何かどころの騒ぎでは有りませんよ、軍艦が三隻もですよ、其れも鉄で造られた強力な軍艦ですから、潜水船の小隊長も正か三隻の軍艦が有るとは思っても見なかったと言っておりましたよ。」
「え~、鉄で造られた三隻の軍艦か、でも何で隠してたんですか。」
やはり元太も三隻の軍艦は隠して有ると思って要る。
「自分達にもその訳が分からないんですよ。」
「そうだ、源三郎様、あの時の兵隊さんが参謀長様が大変困ってるって言ってましたが、其れと何か関係でも有るんですか。」
「参謀長が困ってるって一体何が困ってるのか聞かれましたか。」
だが其の前に工藤の顔色が変わった。
「工藤さん、何か有るのですか。」
「元太参謀にお聞きしたいのですが、参謀長のお名前を聞かれましたか。」
「はい、オラは浜のみんなに自慢したいんでお名前を聞かせて下さいって言ったんですよ、そうしたら、参謀長様は確か上野弥三郎様って言われましたが。」
「えっ、上野弥三郎ですと。」
「大佐殿、正かあの上野参謀が来られたのでは御座いませんか。」
「工藤さんはその上野弥三郎と申される参謀長をご存知なのですか。」
「総司令、知るも何も、上野参謀長は私の官軍時代で最も信頼出来る上官で御座います。」
さぁ~大変な事になって来たぞ、工藤が官軍時代の上官が一番信頼の置ける人物が山賀の隣に有る大きな入り江の浜に、其れも軍港を建設する為にやって来たとは何と言う奇遇だ、工藤も正か元の上官が大軍を引き連れ大きな入り江に来て要るとは全く夢にも思わなかった。
「上野参謀長の部下だと、ですが何故参謀長とも有ろうお方が軍港の建設に参られたので御座いますか。」
「私も上野参謀は何れ海軍の最高司令官になられるお方だと考えておりましたが、正か軍港の建設に来られるとは思っても見なかったのです。」
「では、やはり何か特別の事情が有ると考えなければなりませんねぇ~。」
「大佐殿、上野参謀長が困っておられると言うには余程の事だと思うのです。
自分は上野参謀長殿にお会いし、お話しを伺うべきだと思うのです。」
「吉田の気持ちは分かる、だが少し待て。」
「何故ですか私ならば直ぐに行く事が出来ますが。」
吉田は一体何を焦って要る。
「待てと言うのが分からんのか、仮にも今は連合国軍に上級将校なんだ、其のお前が何を焦るんだ。」
「ですが。」
「良く聞けよ、確かに上野参謀は官軍時代には最も尊敬されるお方だ、だが我々は官軍を去って一体何年経って要ると思うんだ、仮に上野参謀が変わって無かったとしてもだ、あの駐屯地とは別の大部隊が周辺で監視て要るかも知れないんだぞ。」
「工藤さんの申される通りですよ、吉田さんも覚えておられると思いますが、工藤さんが信頼されていた小田切は官軍上層部の甘い言葉に乗せられ、工藤さんや吉田さん、そして、小川さんまでも暗殺しようと企んでたんですよ、確かに上野参謀と言うお方は官軍時代に最も信頼の置ける上官だったかも知れません。
ですがねぇ~世の中も、人間も何時どの様に変化するか分からないのです。
上野参謀を騙し軍港建設に向かわせ、其処で何れかの国に隠れていた工藤さんや吉田さんが向かわれた、其の時、別の大部隊が現れ、吉田さんは勿論殺されるでしょうが、其れよりも恐ろしいのは連合国が発見される言う事なんですよ、吉田さんも其れは分かって頂けると思いますがねぇ~。」
吉田もだが、工藤も若殿も何も言わず、源三郎の話しを聞いて要る。
「吉田さんは今まで一体何人が官軍の上層部の口車に乗せられたと思いますか、工藤さんや吉田さんの様に真っすぐな人間ばかりでは無いのですよ、多分、上野さんと申されるお方も同じだと思うのです。
官軍の上層部は工藤さんが一番目の上のたんこぶだったんで、其の上官が上野さんならば時を掛け、いや日本の国情を知っておられる上野さんのお気持ちを利用する事も考えられるのです。
私はねぇ~、私の命ならば何時でも差し上げますよ、ですが、領民の命だけはどんな方策を取ってでも守る、其れが私の責任だと考えて要るのです。」
吉田はそれ程まで上野と言う人物を信頼していたとは源三郎も知らなかった、だが今は源三郎の言う事が正しいとのだと工藤も思った。
「総司令、私は何と申して良いのか分かりません。」
「私はねぇ~、吉田さんのお気持ちは分かって要るつもりですよ、ですが何も今直ぐ行動に移す必要は有りませんよ、此処はじっくりと作戦を練り、これならば大丈夫だと確信したならば、其の時は私が直接上野様とお話しを致しますので、どうか其れまでは待って頂きたいのです。」
「吉田、総司令の申される通りだ、確かに上野参謀は信頼出来る、だが官軍の上層部だけは今だ信頼出来無いんだ、ましてや相手は五千人近くの兵だ、今の連合国軍では半時もせず全滅するぞ。」
「あの~今五千人近くのって言われましたが、オラは兵隊さんから本当は五百人だって聞きましたが。」
「えっ、元太さん、其れは本当ですか。」
「はい、オラは何でこんなに大勢の兵隊さんが居るんだって聞いたら、五百人以外全員が職人さん達で幕府軍を騙すつもりで参謀長様が全員に官軍の軍服を着せてるんだって。」
「其れは本当なんですか、ですが何の為にそんな大勢の職人さんが必要なのでしょうか。」
「兵隊さんの話ですが大きな軍港を造るんだって言ってましたが。」
「大きな軍港を造るとは、ですがこの地は長崎とは余りにも離れて要ると思いますが。」
「オラは其れ以上は聞けなかったんです。」
「何も元太さんの責任では有りませんよ、私ならば其処までは聞く事は出来なかったと思いますよ。」
何故に元太は責任を感じて要るのだろうか、だが其れは所詮無理と言うもので、元太は漁師で情報を集める様な訓練は受けておらず、素人の漁師が其処まで聞き出せる事事態が大したもので有ると、源三郎もだが工藤も思って要る。
「でもオラは情けないですよ、オラは源三郎様の為に何とかして色々な事を聞きたかったんですよ。」
「元太さんはねぇ~漁師さんですよ、魚を獲るのがお仕事ですよ、私はねぇ~元太さんの様に素人のお人に情報を集めるお仕事をお願いする事事態が間違って要ると思うんです。
ですから、元太さんはもうこれ以上自分を責めないで頂きたいのです。」
「源三郎様、オラのした事は何の役にも立たなかったんですか。」
「いいえ、正か其れは違いますよ、山賀の日光隊と月光隊は五千の官軍兵もですが、大工道具や左官道具が多いと言うだけで、元太さんの様に本物の官軍兵は五百だとは調べる事が出来なかったんですよ、私はねぇ~其れだけでも物凄いと情報だと思って要るんです。」
「元太参謀、其れは間違い御座いません。
今の今まで我々は官軍兵は五千人だと思っておりましたので、元太参謀の官軍兵は五百だと、これ程にも正確な情報は初めてでして、我々としては何よりも重要な情報で御座います。」
「だったらオラは源三郎様のお役に立ったんですね。」
「役に立つどころか、元太さんが聞かれた内容で我々は物凄く勇気付けられたのは間違いは有りません。」
「あ~良かった、何も出来なかったと思ったんですが、そうかオラは源三郎様のお役に立ったんだ。」
其れに間違いは無い、今の今まで源三郎を含め工藤達も官軍兵は五千人の大軍だと思っており対策の立てようも無かった。
だが元太は官軍兵は五百で残りの全員が職人だと聞き出した事で対策も全く別の方向へと向かう事だけは確かで有る。
「総司令、これは大変で御座いますよ、僅か五百の手勢で五千人近い職人さん達を守ると言うのは殆ど不可能に近いと思います。」
「何故で御座いますか、五百の官軍兵もですが、残りが全員官軍兵の軍服を着ており、誰が見ても全員が官軍兵だと思うのですが。」
「服装だけを見れば全員が官軍兵で、ですが丸一日職人さんの動きを見ておれば誰でも分かりますよ。」
「一体、何が分かるので御座いますか、私は仮に一千の幕府軍でも攻める事は無いと思いますが。」
「確かに表向きは五千の官軍兵ですが、兵士と言う者は休みは一斉には取りませんが、職人さん達は休みは一斉に取るので、其れさえ分かれば本物の官軍兵の数は直ぐに分かります。」
「ですが休みを取って要るのを見た、其れだけでは何も出来ないと思うのですが。」
「若殿、頭の切れる者ならば攻撃は可能だと言う事ですよ。」
やはり軍人だ、若殿、いや連合国の侍達は戦は知らないと。
「私が幕府の残党を指揮して要る者ならば連発銃を持つ兵士だけを確実に仕留める方法を考えます。」
「私は戦と言うものを知りませんので教えて頂きたいのです。」
「では簡単にお話しを致しますので。」
工藤はその後、若殿に説明すると。
「では若しもですが、野盗でも攻撃する事は可能なのですか。」
「勿論でして、問題は野盗では無く、兵士が持つ連発銃でして、若しも五百丁もの連発銃と大量の弾薬を奪われた後、野盗の事ですから相手構わず襲い次第に人数が増えて行く、其れが一番恐ろしいのです。」
「では野盗が群れを成し、我が連合国にも来ると考えねばならないのですか。」
「其の通りでして、以前ですが野盗の大軍が連合国を襲った事も有り、若しも其の時生き延びた者が一人でもおれば再び大軍となり襲って来る可能性も考えられます。」
「義兄上、何か策でも御座いませぬか。」
「策と申されましたが、一体何の為の策で御座いますか。」
「えっ、何の為と申されますと、私は官軍を。」
「官軍兵を助けたいと申されるのですか、其れとも職人さん達ですか。」
「私は職人さん達を助けたいのです。」
「ですが残りの全員が職人さん達だとは限りませんよ、確かに元太さんは五百人が本物の兵隊で残りが職人さん達だと聞かれましたが、本当に職人さん達だけだとは誰も確認していないのですよ。」
「では、義兄上は職人さん達を見殺しにされるので御座いますか。」
今日の若殿は何時もと違う、源三郎が何時も言って要る領民の為に其れは職人も同じだと、だが源三郎が言う様に五百人以外の全員が職人だと誰が確認したと言う。
若しも官軍の上層部の一握りでも疑問を、其れは工藤や吉田達が生存して要ると考えて要る人物が何れかの策を考え、五千人もの官軍兵、いや五百の官軍兵と残りは職人だと言う者達だと言うが何の確信も無い。
「私は職人さん達を見殺しにするとは申してはおりません。
ですが、五百以外全員が本当に職人さん達だと言う事が何も確認が取れていないのです。
其れにですよ、五百人が官軍兵だとすればですが、別の大部隊が他で待ち伏せし、幕府の残党か我々が現れるのを待っていないとも限らないのです。」
「オラは兵隊さんから聞いたんで間違いは無いと思うんです。」
「私は何も元太さんを疑って要るのでは有りません。
元太さんが聞かれたお話しが本当だとしても、元太さん以外は知らないのです。
私は兵士の言葉だけを鵜呑みにする訳には行かないと言う話しなのです。」
その後も源三郎と工藤が詳しく説明し、若殿も少しは理解出来たのだろうか、明くる日、源三郎と元太、そして、工藤と吉田は野洲へと向かった。
其の頃、田中は菊池の隧道へと急いでいた。
松川を発った源三郎達は一時半程で野洲へと戻って来た。
「お~い、源三郎様が戻って来られたぞ。」
野洲の門番は源三郎と元太が乗った馬車を見ると詰所の家臣に告げると。
「殿、源三郎様が戻って来られました。」
お殿様とご家老様が源三郎の帰りを待つ詰所へと飛んで行った。
「そうか、源三郎が戻って来たか、そうか良かったのぉ~。」
其の時、家臣が飛び出して行き、勿論、浜で元太の帰りを待って要る妻に無事を知らせる為で有る。
「源三郎様、お帰りなさいませ。」
門番が言う前に周りには大勢の家臣が集まって要る。
「元太さん、お帰りなさい。」
「元太さん、大変で御座いましたが、良くぞご無事で何よりでした。」
と、家臣達は次々と声を掛け、元太は何度も頭を下げた。
源三郎と元太が執務室に入ると。
「源三郎、いや元太、良くぞ無事で有った。」
お殿様は元太の手を握り、元太も握り返した。
「元太さん、丁度、お昼頃ですからお食事を取られてから浜へ。」
「源三郎様、有難う御座います。
でもオラは早く浜に帰って、母ちゃんと子供の顔を見たいんです。」
「分かりました、誰か元太さんを浜まで送って頂けますか。」
執務室の前には馬車を待機させて要る。
「源三郎様、本当に有難う御座いました。」
元太は馬車に乗り浜へ帰って行く。
「源三郎、元太が無事で何よりで有ったのぉ~。」
「私も其れが何よりも一番で御座います。」
「まぁ~暫くは元太をそっとして置かねばならぬぞ。」
「其れは勿論承知致しております。」
「では後の事は頼むぞ。」
と、殿様とご家老様は其れだけを言うと執務室を出て行った。
「総司令。」
と、中隊長達が飛び込んで来た。
「元太さんは無事に戻って来られ、先程浜の家に帰って行かれましたよ。」
「私もお聞きし、やっと安心致しました。」
「まぁ~今回の作戦は成功しましたが、私は二度と元太さんにはお願いする事は有りませんよ。」
「勿論、自分達も同じで御座います。」
「其れで官軍の動きですが何か分かりましたでしょうか。」
「はい、やはり全員が兵隊では無く、五百名以外は職人だと分かりましたよ。」
中隊長達は官軍兵が五百だと分かり、では残りの職人達は何の為に来たのだと、やはり何かの作戦の為かと考えて要る。
「では何かの作戦でも有るのでしょうか。」
「其れがねぇ~、元太さんの話しでは新しく軍港を建設するとか。」
「ではあの地に軍港を建設するのでしょうか、でも幕府は壊滅しておりまして、当分は大きな戦も無いと思うのですが。」
幕府は壊滅し、新たな軍勢はいないと思っており、だが田中が得た情報で状況が一変するとは、この時、誰もが考えておらず、明日か明後日には菊池に着く予定で有る。
「官軍が新たに軍港を建設すると言うので有れば、我々の存在は知られて要るので御座いますか。」
「今のところは大丈夫だと思いますが、其れよりも、何故、この地に軍港を建設するかと言う方が問題だと思うのです。」
「若しも、若しもですが官軍は我々の存在を知っており、ただ攻撃の時期を探って要るのでは御座いませんでしょうか。」
「其れに関しましては、私も断言は出来ませんが、私は我々よりも、何故漁師が来たかと言う事の方が問題だと考えて要るのです。」
「やはり総司令も鹿賀の国を疑って要ると考えておられるのですか。」
「其の通りですよ、確かに与太郎さんの時は偶然だと言う事で、官軍の隊長は直ぐに帰しました。
ですがその数日後、又も同じ能登から漁師が来たと言う事は、一人目の漁師の話しを聞いた鹿賀の国の上層部が二人目の漁師を送り官軍の様子を探る、これは私達が取った方法ですが、官軍の隊長は我々の連合国では無く、鹿賀の国から送られ官軍の動向を調べるて要ると、ですから元太さんは直ぐに戻ってこれなかったと言う事になるのでは有りませんか、隊長は元太さんは鹿賀の国から送られた考えて要ると思いますよ。」
「其れならば、元太参謀は山賀の北側から登られたのを官軍は知ったと考えねばなりませんねぇ~。」
「そうだと思いますよ、我々の存在は知らなくても、鹿賀の国は幕府も官軍も知っており、幕府は壊滅した、ですが鹿賀の国が壊滅したと言う情報は聞いておりませんのでね。」
「と、言う事は、官軍は鹿賀の国を攻める時期を探って要るのでしょうか。」
「私はねぇ~、何故官軍が直ぐ鹿賀の国を攻めないのか考えて要るのです。
工藤さんもですが、吉田さんも高い山の周辺で忽然と姿を消した、其れは我が国では無く鹿賀の国へ逃げ込んだと考えるのが妥当だと考えるのが普通でして、正か我々の連合国におられるとは官軍の上層部でさえも考えてもいないでしょうからねぇ~、少し待って下さいね、鈴木様書き物を。」
源三郎は突然書く物をと、一体何を書くのだと工藤は思うが、源三郎は数通の書状を書き終えると。
「吉田さん、これは山賀の若様に、そして、これは松川の斉藤様に、これは上田の阿波野様へ大至急です。」
吉田は書状を持ち執務室を飛び出した。
「総司令、今の書状ですが。」
「山賀の若様へは日光隊は官軍の動きを、特に職人達が本物の職人なのか話しの内容を、月光隊には周辺の特に一里以内に官軍の本隊が潜んでいないか、其れを調べて下さいと、そして、松川の斉藤様と上田の阿波野様には軍艦が出撃するかも知れませんので、その監視を発見したならば直ぐに報告をお願いしますと、まぁ~これだけですよ。」
やはり源三郎は官軍の駐屯して要る他に本隊が潜んで要ると考えたのだろう。
「私はねぇ~官軍の本隊が潜んでいない事を望んでおりますが、若しも本隊が潜んで要るならば我々も下手には動けないのです。」
「総司令は動くと申されましたが、やはり若殿が申されました職人達の事が気になるので御座いますか。」
「ええ、私も若殿が申される通りですが、やはり確認が出来なければ動く事も出来ませんのです。」
果たして源三郎は官軍の駐屯地に出向くのだろうか。
「其れで日光隊には職人達の会話を聞けと、本物の職人ならば仕事の話しをして要ると思いますねぇ~。」
「其の通りでしてねぇ~、職人ならば仕事に関する話しはしても戦の話しはしないだろうと考えたのです。」
其の頃、駐屯地では書状を受け取った伝令兵が馬に飛び乗り次々と出て行く。
其の二日後。
「あれは若しや野洲の田中様では。」
「間違いは無い、田中様だ、お~い、田中様が戻って来られたぞ。」
隧道の監視所から高野に伝令が飛んだ。
「田中様、ご苦労様で御座いました。」
「申し訳有りませんが、馬を。」
田中は馬に飛び乗り一気に隧道を駆け抜け野洲へと飛ばして行き、知らせを聴いた高野も野洲へと飛ばし、半時程経ち。
「源三郎様は。」
「はい、今は執務室だと思いますが。」
「有難う。」
と、言うと一気に執務室まで馬で行く。
「源三郎様、大変で御座います。」
と、田中が飛び込んで来た。
「田中様、一体どうされたのですか、帰国早々にその様に慌てられ。」
「源三郎様、其れが大変な事態になっております。」
何時も冷静な田中が慌てて要る、それ程にも重要な情報を得たのだろか。
「田中様、まぁ~まぁ~少し落ち着いてからお話し下さい。」
執務室に居る家臣がお茶を持って来たが、田中は一気に飲み干し少し落ち着いたのだろう。
「工藤さんと吉田さんも呼んで頂きたいのです。」
だが其の時、工藤と吉田も飛び込んで来た。
「総司令、田中様が早馬で。」
「ええ、其れで今お二人を呼んで下さいと、田中様が。」
「では重要な情報で御座いますか。」
「では田中様、お話し頂けますか。」
「では報告致しますが、総司令、山賀の北側に有る大きな入り江に官軍の大軍が集結しております。」
「田中様、其れは我々も知っておりますが。」
「えっ、ですが何故ご存知なので御座いますか。」
田中は正かと思ったのだろう、連合国の外側の事は今まで誰も知らないはずだ、だが何故自分より先に源三郎が知って要るんだ。
「実はですねぇ~、浜の与太郎さんと言う漁師さんが誤って、その大きな入り江に行ったんですよ。」
源三郎はその後、元太が先導し、潜水船が入り江内を調査し軍艦が三隻停泊して要る事も話すと。
「左様で御座ましたか、私は其の様な事になって要ると全く知りませんでしたので。」
「田中様が何時もなら先に調査して頂いて要るのですが、今回だけはまぁ~言葉は悪いですが瓢箪から駒が出た様な次第でして、私も官軍の動きを知りたいので、山賀の日光隊と月光隊に偵察をお願いしており、更に松川と上田には軍艦が出撃すれば報告して下さいと、お願いしております。」
「其れならば一安心で御座いますが、私も得た情報が有りますので。」
「ではお聞かせ頂きますか。」
「私が九州でお世話になった参謀のお話しをさせて頂いたと思いますが、其の時のお方がその駐屯地に隊長として参っておられまして、実は私はもう大変驚いて要るので御座います。」
「其れならば私も伺っておりましたが、正かと思われたのでは御座いませんか。」
「正かどころか、あの時の兵士もおりまして、実は私も一度野洲に戻る途中でして。」
「そうでしたねぇ~、今回は長期間でしたから私も田中様の帰りが遅く何時戻られるのか心配しておりましたが、その途中で正かと言う事になったのですねえ~。」
「其れで私は参謀のお話しを伺ったのですが、源三郎様、確かに幕府は壊滅したのですが、其れよりも遥かに恐ろしい事態が迫って要るので御座います。」
「遥かに恐ろしい事態が迫って申されますと、其れは新たな勢力と申されるのですか。」
「其れが外国で御座います。」
「えっ、外国と申されましても、私は全く分からないのですが。」
源三郎は突然外国と言われても全く理解出来ないのも当然で、ほんの数年前までは高い山の向こう側の事でさえ全く情報が入って来ず、其れが突然外国の勢力がと言われても理解する事は出来ない。
「参謀のお話しですと欧州の国々では地球上の小国を植民地にし物資を略奪同然にしているのです。」
「ですが其の国々にも政府や軍隊は有ると思いますが。」
「其れが全く機能していない状態でして、我々の国でも数百年間も鎖国状態でしたが外国から見れば幕府は其れだけの軍隊では有りませんが、軍勢を維持し外国の軍勢を退けておりまして、長崎に入って来る外国船からは日本と言う国は他国とは違い、簡単に植民地には出来ぬと報告されており、其れで今まで外国の軍隊が攻めて来なかったのです。」
「ですが、何故今になり欧州の国が我が国と申しましょうか、日本国に狙いを定めたのですか。」
「欧州の国々では日本国は黄金の国だと知って要るのです。」
「黄金の国ですか、ですが何故に黄金の国と言われるのでしょうか。」
源三郎は連合国が設立されるまでは幕府の時代より小判が通過をして通用して要るのは知って要る。
だが欧州の国々では小判よりも小さな金貨や銀貨で金貨の数倍も大きな小判が通貨として使用されて要る国など見た事も聞いた事も無い。
「新政府が欧州の有る国から軍艦を購入した話しはご存知では御座いませんか。」
「其れならば聞いた事は有りますが。」
「其の購入費が何と金百万両なのです。」
「えっ、百万両ですと、其れを官軍が、いや新政府が支払ったのですか。」
「其の通りでして、其れを聴いた国が日本の金塊を略奪する為に軍艦を出撃させようとして要るのです。」
「では其の軍艦を阻止する為の軍港をこの地に建設するですか。」
「正しく其の通りで御座いまして、その任務に就かれたお方が、私が九州でお世話になった参謀長でお名前を上野弥三郎様と申しますお方で御座います。」
「えっ、上野弥三郎様ですと。」
工藤は正かと思った、だが其の話しは元太からも聞いて要るはずだ。
「工藤さん、やはり元太さんのお話しは本当だったのですね。」
「総司令、私も正直もうしまして世の中には同じ名のお方が居るとは聞いておりましたが、正かと思っておりましたので。」
さぁ~大変な事になって来た、やはり元太の言った上野とは同一人物で有る。
だが正か上野は工藤が連合国に居るとは知らない。
「上野参謀長ならば官軍の中では一番信頼の置けるお方で、私が官軍で軍艦の設計に就かせて頂いたのも上野参謀長のお陰で御座います。」
「私も元太参謀が官軍の隊長が上野弥三郎だと聞かされ時には世の中には同姓のお方もおられると思っておりましたが、今田中様のお話しで私の上官で有った上野参謀長に間違いは無いと確信致しました。」
「そうですか、では上野さんは相当困っておられるのですか。」
「私の聞いたところでは確かに大工さん達は大勢おられる、ですが軍港の建設と言う専門の知識を持って要る人物がいないと申されておられました。」
「軍港の建設は急ぐのでしょうねぇ~。」
「上野様のお話しでは安藝の国と遠く離れた陸奥の国にも建設されると。」
「安藝の国と申されるのは。」
「長州の近くで御座いまして、瀬戸内海に面し海は穏やかで温暖な気候ですが、陸奥の国と申しますのは、冬になりますと海は大荒れで、其の向こう側は蝦夷地でして、蝦夷と言う地は冬になると我々の想像を越える寒さで御座います。」
「ですが、何故陸奥と言う遠く離れた土地に軍港を建設するのですか、其れにこの地も何故だと思うのですがねぇ~。」
「総司令、ではご説明致します。」
田中はその後、上野から聞かされた世界の情勢を話した。
「田中様のお話しですと、ロシアと言う国が日本に狙いを定めており、今はイギリスと言う国が抑えているのですね。」
「其の通りでして、ロシアの軍港から日本までは数万里も離れており途中で食料と飲料水、そして、一番大事な軍艦を動かす為の燃料の補給を何度も行わなければ日本に来る事も出来ないのですが、途中の国も殆どがロシア以外の国が植民地として支配しており簡単には出港出来ないのです。」
「では仮に補給したと考えてですが、何故陸奥の国に軍港を建設する必要が有るのですか。」
「先程も申しましたが、ロシアと言う国は地球上で最も大きく、蝦夷地の更に北側にも大きな軍港が有るのですが其処には軍艦も少なく、その為欧州から軍艦の大部隊が入りますと、全ての準備が整い、其れよりもロシアと言う国は一年の大半が雪と氷により一部の港以外は全く利用出来ず、その為、ロシアは何としても不凍港が必要なのですが、其の条件に当てはまるのが蝦夷地でして、若しも蝦夷地を支配されますと日本は永久にロシアの植民地となります。」
「う~ん、これは容易ならぬ事態ですねぇ~。」
「私は総司令のお怒りを覚悟で申し上げますが、我が連合国もですが、日本がロシアに支配されますと、我が連合国の領民もですが、日本国はロシア人の為に永久に支配され奴隷の様に扱われ、地獄の生活を送る事になるので御座います。
総司令は納得出来ないと思っておられる思いますが、何卒ご決断をお願い申し上げます。」
田中が初めて直訴した。
「総司令、上野参謀長は決して人を裏切る様な人物では御座いません。
私からもお願い申し上げます、何卒、総司令のご決断をお願い申し上げます。」
工藤は椅子を外し土下座し、傍に居る吉田も同じ様に土下座しており、執務室は初めてと言っても良い程異様な雰囲気に包まれ、鈴木も上田も、更に家臣達は何も出来ず、只呆然としている。
「源三郎様。」
と、其の時、高野が飛び込んで来たが、一体何が有ったのかも分からず、言葉さえ発する事も出来ない光景を見た。
「田中様、工藤さんも吉田さんもお座り下さい。」
田中と工藤、吉田が椅子に座り直した。
「源三郎様。」
と、同じ様な時に阿波野と斉藤も飛び込んで来たが、余りの異様さに言葉も出ない。
「高野様、阿波野様、そして、斉藤様、今田中様から我が国、いや日本が大変な事態に陥って要ると報告を受けたのです。」
「総司令は大変な事態だと申されましたが、やはり我が連合国が官軍に知られたので御座いますか。」
「連合国は今だ官軍には知られてはおりませんよ、ですが我々が住む日本国と言う国家が下手をすると植民地にされ永久に領民は悲惨な生活をさせられるかも知れないのです。」
「総司令、私から説明させて頂いても宜しいでしょうか。」
田中は何としても源三郎に決断して貰うには、高野、阿波野、斉藤の三名に説明し納得させなければならないと考えた。
「では田中様から皆さんに分かる様に説明をお願い致します。」
「はい、承知致しました。
では私が得ました情報をお話しさせて頂きます。」
田中はその後、一時以上も掛け、上野から聴いた世界の状況と日本の置かれている立場を説明した。
「皆様方、今田中様よりお聞きになられた様に、ですが私は今の今まで連合国の領民だけをと考えておりまして、其れが突然日本国が危機だと申され、正直今頭が混乱しているのです。」
源三郎さえも混乱する様な事態が日本に起こっており、早急に答えを出さなくてはならず、だが突然の話しに高野達は答えを出すどころの騒ぎでは無く、源三郎以上に混乱しており、その後、暫くの沈黙が続いた。
「私は今田中様の報告を聴き、今は混乱し、何も考えられ無いのですが、上野と申されますお方の話しを信じるとして如何で御座いましょうか、私は田中様と一緒に再度上野様にお伺いしてはと考えたのですが。」
「私も田中様に同行致したく考えております。」
「私もご一緒させて頂きます。」
斉藤も工藤も行くと言う、そして、又も沈黙が続き、源三郎は腕組みし必死に考えを巡らせており、半時以上が過ぎ。
「皆様方、私が参ります。」
「えっ、総司令がですか。」
「高野様、今回は今までとは全く違うと考え、私は田中様に工藤さん、其れと後藤さんと吉三組、更にげんたも、そして、吉田さんは一個中隊を同行させて下さい。」
源三郎は直接向かい、官軍の上野参謀長から日本の現状を聴きたいと、だが果たして上野が考える軍港を建設出来るのか、後藤と吉三組、そして、げんたには軍艦を見せる必要が有ると、工藤と吉田は安堵の表情を浮かべ、田中もほっとしたのか表情が変わった。
そして、出発する前に後藤や吉三組、げんたに説明し納得させなければならないと直ぐ伝令を出した。