第 34 話。 天元作戦の決行。
「お~いみんな、源三郎様が来られたぞ。」
源三郎の傍には元太が、そして、その後ろからは松川の若殿と斉藤を始め、工藤も、更に後方からは菊池から松川までの潜水船の乗組員全員が続いて要る。
「皆さんも驚いて要る様ですねぇ~。」
「オラでも驚きますよ。」
「まぁ~其れも仕方有りませんねぇ~。」
「一体何が有ったんだ、朝早く与太八とお城に行くって言ってたけど。」
「みんな集まって欲しいんだ、オラが今から説明するから。」
浜の漁師達は元太が話しが有るというので仕事の手を休め元太の元へと集まった。
「みんな聞いて欲しいんだ。」
元太は源三郎と話し合った内容を半時以上も掛けて説明した。
「なぁ~元太、昨日の話しだったらもっと簡単だったと思うんだけどなぁ~。」
「そうなんだ、オラも最初は簡単に考えてたんだ、だけど源三郎様は与太八が見た官軍の兵隊が集まってる所が山賀の隣なんで、そんな所に大勢の官軍兵が集まると言う事が大問題だって言われたんだ。」
源三郎は元太の負担が大きいと思った、それ程まで今の元太は緊張して要る。
「私が代わりに説明しましょうか。」
「はい、源三郎様にお任せしますので。」
少し安心したのか元太の表情が変わった。
「皆さん、私が説明しますからね。」
源三郎は元太の説明に付け加え説明した。
「じゃ~今から潜水船で訓練するんですか。」
「その通りでしてね、菊池から松川までの潜水船の乗組員全員が集まり、今から元太さんの考えられた方法で実戦訓練を行うのです。」
「でも潜水船は野洲の三隻だけなんですよ。」
「其れは勿論承知しておりますよ、ですが一時半程前に菊池と上田に伝令が向かい、もう間も無く此処に残りの七隻が集結する事になってるんですよ。」
「オラ達にお手伝い出来る事は無いんですか。」
「う~ん、ですが今は何も有りませんのでねぇ~。」
浜の漁師達は昨日、元太が山賀の向こう側に有る大きな入り江に行くと聞いており、其れが今は作戦のために潜水船十隻が集結し訓練に入ると聞き手伝うのだと。
「その訓練ですが、オラが今考えたんですけどいいですか。」
「ほ~どの様な事を考えられたのですか、宜しければお話し下さい。」
「オラ達が小舟から見て潜水船を見付けるんですよ。」
「ほ~潜水船を見付けるとは、何故ですか。」
「そうなんですよ、源三郎様のお話しだったら全部の潜水船が同じ所で見張るんじゃ無いと思うんですよ、潜水船が別々の所に行くんだったら、オラ達が小舟に乗って潜水船が官軍に見付からないかを見るんですよ。」
漁師はその後も色々と説明すると。
「私も漁師さんの協力が必要だと思います。
今のお話しで有れば、漁師さんの目から見て官軍からは見えないか分かればいいんです。
其れと先程技師長が持って来られました投光器の灯りが官軍では無く漁師さんから見えないが、潜水船から見えると確認出来れば尚良いと思うのです。」
浜の漁師達は与太郎の話しで山賀の向こう側に有る大きな入り江は野洲の入り江の数倍は有ると、そして、向こう側にも漁師が小舟で漁を行なっており、若しも大勢の漁師が漁を行なって要るとすれば潜水船が発見される可能性が有ると言う、勿論、潜水船を知らない漁師が見ても何も分からないだろうが、漁師達は常に海面を見ており、海上に突き出た筒が不思議な動きをすれば官軍に知らせる事も考えねばならず、今ならば漁師達と共同で訓練が出来ると言うもので有る。
「漁師さん有難う、では皆さんにもお手伝いして頂きまして訓練に入りますが、今回の訓練ですが夜も行ないますのでね、皆さん宜しくお願いします。」
「あんちゃん、投光器だけど。」
「残りですが何とかなりますかねぇ~。」
「銀次さんと信太朗さん達にも頼んだから、まぁ~何とか間に合わせられると思うんだけど。」
「そうですか、銀次さん達にも源三郎が宜しく頼みますと申しておりましたと伝えて下さい。」
「分かったよ、じゃ~オレは作業場に戻るからね。」
「では始めましょうか、今は三隻ですが、もう間も無く到着すると思いますので。」
「では吉田少佐、最初は。」
工藤は三隻の潜水船から訓練を開始し、浜からは漁師達が小舟を出して行く。
「今回の作戦ですが、困難が予想されますが。」
浜からは潜水船の潜水鏡は見えない、だが漁師達の操る小舟の動きだけが見え、その後、四半時程して潜水船と漁師達が戻って来た。
「私が考えておりました以上に困難で漁師さんに発見されず調べると言うのが大変難しいと思いました。」
吉田も最初簡単に考えており、其れは入り江の中に一隻の小舟も無いと言うのが大前提で考えていた、だが漁師の提案で小舟が漁に出て要る想定した訓練が行われたが潜水船は漁師に発見されない様に操船する為に調査も出来ないと言うので有る。
「オラ達は別に邪魔してるんじゃ無いんですよ、オラ達は何時もの様に漁に出たと考えてやってるんで、でも潜水鏡は見えて無かったですよ。」
其の時、菊池、上田、松川からの潜水船が浮上して来た。
「分隊長、自分達の船が到着しました。」
「各分隊から数名で行き、潮に流されない様にして下さい。」
浜から十数艘の小舟に兵士達が乗り込み浮上した潜水船へと向かった。
「私は甘く考えておりまして、漁師さんがおられる事を忘れておりました。」
「私も全く考えておりませんでしたよ、ですが何か方法が有ると思うのですがねぇ~。」
源三郎も正かと思ったが漁師の言う事は間違いでは無く、浜が有れば漁村は当然有ると考えなければならず、源三郎も工藤も漁村が有ると言う事を全く念頭に置いておらず、最初の訓練は失敗そのもので、だが今回の作戦を中止する事は出来ず、かと言って今は解決策が見つからない。
「オラが余計な事を言ったばかりに。」
「其れは違うと思いますよ、与太郎さんが官軍の大軍が集結して要る事を見付けただけでも大変な収穫でしてね、若しも与太郎さん、いや浜の漁師さん達が見付けてくれなかったら、其れこそ我々は何も知らずにおりましたので、其れよりも何か方法を考えなくてはなりませんねぇ~。」
今回の作戦を成功させる為には何としても漁師達に発見される事も無く進めなければ全て失敗する。
工藤も吉田も若殿もだが乗組員だけでなく、浜の漁師も必死で考えて要るが、誰もが考え付かず、浜はし~んと静まり返って要る。
其の時、数台の馬車と十数人の兵士がやって来た。
「大佐殿、駐屯地の炊事班より数名を呼んで来ました。」
「そうか、まぁ~これだけ大勢の食事を作るのだから有り難い話だ。」
吉田の判断で駐屯地から食材と食器類を持って来た。
「班長、申し訳無いが出来れば多く作って欲しいんだ。」
「少佐殿より伺っておりますので、まぁ~ついでと言っては怒られるかも知れませんが、浜の人達にも我々軍の食事を食べて頂ければと思っておりましたので。」
「其れは良い考えですねぇ~、洞窟にも大工さんや銀次さん達のお仲間もおられますのでね。」
「大丈夫です、皆さんの日頃の苦労を思えば何とも有りませんので。」
炊事班の班長は連合国軍の食事を提供すると、今までは浜の奥さん方にはお世話になっており、今回の訓練が幾ら短期間だと言っても数日間は漁師達も仕事に身が入らない、かと言って全て浜の女性達だけに世話になる事も出来ないと吉田が考え、軍隊方式の食器と食材を持ち込んだので有る。
「若殿、連合国軍の食事は美味しいですよ、私も何度か頂いた事が有りますので。」
「えっ、私はまだ食べた事が有りませんが城の賄いでは。」
「まぁ~其れは何とも言えないですが、兵隊さんは食べ物には大変うるさいと炊事班の方が言っておられましたからねぇ~。」
兵士達は何時戦に入るのかも分からない状態で食べる事だけで今自分は生きて要るのだと実感する、それ程までに軍隊の任務は厳しいので有る。
「まぁ~其れにしても豪快ですねぇ~。」
若殿は軍隊の食事を食べた事も無く、作って要る様子も見た事も無い。
「軍隊の食事は豪快に見えるのでしょうが、味付けは実に素晴らしいですよ。」
「斉藤様、私も楽しみしております。」
「わぁ~なんて美味しいそうな匂いだ事、一体誰が作って要るのかねぇ~。」
「母ちゃん、多分兵隊さんだと思うんだ。」
「えっ、兵隊さんって。」
「母ちゃん、浜にあんちゃんや工藤さんと大勢の兵隊さんが来てるんだ。」
「浜で何か有ったの。」
「オレが説明したって母ちゃんには分からないよ。」
「まぁ~何でもいいけど、げんたは何を作ってるのよ。」
「オレが考えた投光器で明後日の朝までに八個作らないと駄目なんだ。」
「ふ~ん、其れで全部作れるの。」
「今みんなで作ってるんだから、まぁ~何とか間に合わせるよ。」
「分かったけど、其れで晩御飯だけど。」
「母ちゃんに任せるよ。」
「じゃ~考えるからね。」
と、言ったが浜で作って要る匂いが気になるのか浜のお母さん達が家を出て来た。
「何で言ってくれないんですか。」
「お母さん、申し訳有りませんねぇ~、少し事情が有りましてね、私がお話しするのを忘れておりました。」
「源三郎様、凄く美味しいそうな匂いがするんですけど、何を作ってられるんですか。」
「そうでした、忘れておりましたよ、今晩の食事ですが浜の皆さんにも駐屯地で食べております軍隊の食事を食べて頂きたいと炊事班の班長が申しておりましてね。」
「わぁ~本当なんですか、私は直ぐにでも食べたいんですけど。」
「源三郎様、私も欲しいわ。」
浜のお母さん達は軍隊の食事を食べたいと。
「では今夜は皆さん、此処で一緒に食べましょうか。」
「じゃ~私達もお手伝いしますからね。」
「いいえ、これは軍隊の食事なので炊事班に任せて頂きたいので出来上がりましたら皆さんをお呼びしますので、其れまでは皆さんは楽しみにして下さいね。」
其れから一時半も過ぎたが、浜で行なう訓練が出来ずに要る。
「大佐殿、食事の準備が整いました。」
「今は何も浮かんで来ず、訓練も出来ないので有れば食事にしませんか。」
「私も同感です、まぁ~腹が減っては戦は出来ませんので食事に致しましょう、漁師さん、洞窟で作業中の大工さん達と銀次さんのお仲間を呼んで来て下さい。」
兵士達は漁師達に伝え、別の兵士は漁師達の家々に伝えに走った。
四半時もすると洞窟から大工さん達と銀次の仲間が浜に着いた。
「何か有ったんですか、兵隊さんが深刻な顔をされてますが。」
親方は源三郎達が浜に着た事は知っており、今は何の用事も無く洞窟で作業を続けて要る。
「ええ、実はですねぇ~少し込み入った事になりましてね、今も全員で考えて要るのですが其れが今になっても解決策が見つからないんですよ。」
親方は兵隊もだが工藤や吉田の顔は相当深刻な問題だと分かり何も知らないで余計な事を言えば余計問題がこじれると思い何も言わずに要るが、其の中でも一番深刻な顔付になって要るのが元太で今は何も考えが浮かばないと言う表情で頭は混乱して要る。
「さぁ~皆さんお腹いっぱいに食べて下さいね。」
炊事班が作った軍隊の食事に浜の子供達が飛びついた。
「わぁ~物凄いなぁ~。」
「そうだよ、お腹いっぱいに食べるんだよ。」
「母ちゃん、兵隊さんが作ったご飯って物凄く美味しいぜ。」
げんたも久し振りに食べた軍隊の食事で母親も一口食べると。
「あらまぁ~本当に美味しいわねぇ~。」
「総司令、お持ちしました。」
「私よりも皆さんは。」
「はい、もう全員が食べておられますので。」
「そうですか、では私も頂きます。」
源三郎は浜の人達全員が食べるのは確かめてから食べ始めた。
「私は元太参謀が気になるのですが、大変な落ち込み様で。」
「ええ、私も先程から気に成って要るのですが、元太さんは大変責任を感じて要ると思います。」
元太が大変な重圧に押しつぶされるのでは無いかと心配だが、今は何も思い付かず、其れが余計負担となって要ると。
「ねぇ~あんた一体どうしたのよ。」
「うん、オラは大変な思い違いをしてたんだ。」
「ねぇ~一体何を思い違いしたの。」
「オラは漁師が住んでいないと勝手に思ってたんだ。」
「漁師がいないって何処の話しなのよ。」
「オラが行くって決めた大きな入り江の浜の事だ。」
「だけど与太郎さんは浜が有るって、でも漁師の話しは無かったと思うんだけど。」
「だけど浜が有るって事は必ず漁村は有るんだ。」
「でもあんたが見た訳じゃないのよ。」
「そんな事は分かってるんだ、其れに与太八も覚えて無いんだ。」
「だけど覚えて無いって事は村が無いって事も有ると思うのよ。」
与太郎が入り江の中に漁村が有ったのか何も覚えていないと、其れを勝ってに思い込んだのかも知れない。
「与太郎さんだって浜の漁師なのよ、其れに浜に上がっても村が無いって事も有ると思うの、あんたは浜には必ず村が有るって思い込んでるんじゃ無いの。」
「そうかなぁ~、でもなぁ~与太八が。」
「与太郎さんだって漁師なのよ、官軍の兵隊は見たけど、漁師は一人もいなかったと思うの。」
「う~ん、でもなぁ~。」
「ねぇ~だったら何も出来ないって事なの。」
「そうなんだ、源三郎様も工藤さんや吉田さん達もみんながあれから必死で考えてるんだけど何も浮かんで来ないんだ。」
「其れで静かなのね。」
「オラも必死で何か方法が無いかって考えてるんだけど、何も出て来ないんだ。」
元太の妻も何か方法が有るはずだと思っており、暫くして。
「ねぇ~あんたはどんな方法で行くつもりだったの。」
「簡単に考えて官軍の兵隊に助けてくれって大きな声で叫んで、其れと大きく手を振って知らせて浜に上がろうと考えてるんだ。」
「ねぇ~其れって最初から官軍の兵隊に見付けてくれって事なの。」
「そうだよ、だって与太八の話しじゃ、官軍の兵隊が大勢居るからって言ってるんだ、其れでオラも官軍の兵隊に聞こえる様に大声と手を振って。」
「其れって官軍の兵隊に見付けて欲しいのね。」
「其れが目的なんだ。」
そして、又も妻は考え始めた、元太夫婦のやり取りが四半時程も続いた。
「ねぇ~話は別なんだけど、此処の浜もだけど、漁師って何か有るとみんなが行くと思うんだけど。」
「母ちゃん、そんな事は漁師の仲間だったら当たり前なんだ、オラ達は小舟で漁をするから何か有った時には全員で行くんだ。」
「入り江の漁師だけど、今まで見た事も無い漁師が入って来たらどうするのかなって思ったんだけど。」
「そんなの当たり前だみんなでその小舟の所に行くと思うよ。」
「ねぇ~だったら怒らないで聞いて欲しいんだけど、あんたは官軍の兵隊の居る所に行きたいんでしょ。」
「オラの目的は其れなんだ、其れで官軍の兵隊に見付けて欲しいんだ。」
「ねぇ~だったら別に兵隊で無くてもいいと思うんだけど。」
妻は官軍の兵隊に見付かる事も無いと言う。
「母ちゃん、オラもだけど、源三郎様も工藤さんも官軍が何で大勢集まってるのか知りたいんだ。」
「だからオラが言いたいのは最後には官軍の隊長さんの所に行けばいいと思うんだけど。」
「オラも其れでいいんだ。」
「だったら向こうの漁師さんに見付けて貰ってもいいと思うんだ、漁師に見付けさせて官軍の隊長さんの所に連れて行かせればいいと思うんだけど。」
元太は妻の言った事に暫く考え、そして。
「そうか、母ちゃん有難うよ、オラも分かったよ。」
元太は妻に抱き付き大喜びして要る。
「元太参謀が何かを考え付いた様ですが。」
「ええ、確かにその様ですねぇ~。」
「源三郎様。」
と、元太が飛び跳ねながら来た。
「解決したのですか。」
「オラの母ちゃんが考え付いたんですよ、オラを見付けるのは兵隊で無くってもいいんですよ、向こうの漁師でもいいんですよ、オラを官軍の隊長さんの所に連れて行ってくれるんだったら誰でもいいんですよ。」
「では官軍の兵隊でも漁師さんでも良いと言う事は、仮に漁師さんに見付けて貰えば。」
「漁師は海で何か有った時には全員で行くんですよ、オラは向こう側の漁師でも同じだと思うんです。」
「そうか分かりましたよ、見付けるのは官軍兵でも漁師さんでも良いと、後は元太さんが全員を引き連れて行ければ、潜水船は入り江の中に入れると言う事なのですね。」
「そうなんですよ、オラは向こう側の漁師は邪魔だと思ってたんですが、漁師に見付かる方がいいんですよ、兵隊だったら下手をすると殺されますが、相手が漁師だと一緒なんで助けてくれるって思うんです。」
あれから数時が過ぎ、浜も少し薄暗くなり、漁師達の家々からは灯りが漏れて要る。
「丁度良い時刻だと思うのですが、潜水鏡の灯りが見えるか確認出来ると思いますので。」
工藤もげんたの作った投光器を試す事が出来ると考え。
「では今から訓練を再開します。
全員潜水船に乗り込み投光器の灯りが潜水鏡から見えるか確認する。」
浜に集合した潜水船の乗組員が漁師の小舟に乗り潜水船へと向かった。
「元太参謀には大変申し訳有りませんが、最初に分かったと申しましょうか、最初で良かったと思うのです。
確かに考え方を変えれば、我々の考え方が甘かったと言われても仕方が有りませんが、私は其れが幸いしたと思っております。」
「義兄上、私も工藤さんと同じで、あれで全員が考える様になったのだと思います。」
「若殿、工藤さん、私も同じでしてね、本来ならば我々が考えなければならない事を元太さんが考えられ最初の失敗で元太さんにもですが、軍の全員が必死に考えた、其れが結果的に幸いしたと思うのです。」
暗い海上での訓練はその後も続き、二時も過ぎた頃、吉田だけが浜に戻って来た。
「総司令、大佐殿、最初の訓練は大成功で、今全員が洞窟に集まり合図の方法と他にも色々有ると言って全員で話し合うそうです。」
「其れは良かったですねぇ~、これで私も一安心ですよ。」
「オラもやっと安心出来ました、明日はオラもやりますんで。」
「余り無理をしないで下さいね。」
そして、その夜は全員がげんたの家で過ごし、やがて朝を迎え、源三郎達が起きる頃には浜は既に訓練が開始されていた。
「皆さんは朝早くから訓練に入られて要るのですか。」
「私も知りませんでしたが、吉田は夜の空ける前に起き、元太参謀の舟で洞窟に向かっておりました。」
何と言う事だ、潜水船の乗組員は夜明けと共に訓練を再開していた。
「全員が物凄く張り切りっております。」
高野も気に成り早く起きたのだろう。
「私は皆さんの気持ちは分かりますが、余り張り切り過ぎると。」
「ですが此処からでは何も聞こえませんよ。」
阿波野も沖を見ており、野洲の入り江は小さいが、其れでも潜水船の潜水鏡を浜から見付ける事は無理だ。
「班長さん、お昼はオラ達浜の雑炊を作りたいんですけどいいですか。」
「ほ~浜の雑炊ですか、私は話しには聞いておりますが、浜の雑炊は一度食べるともう虜になると伺っておりますよ。」
「へぇ~、そんな噂が飛んでるんですか。」
「其れで私も一度は食べたいとは思っておりましてね、ではお願い出来ますか。」
駐屯地の炊事班の班長も浜の雑炊は駐屯地では大変美味しいと噂で聞いて聞いており、早くから食べたいと思っており、其れが今回実現するので有る。
訓練は二時以上も続き、やがてお昼の鐘が鳴り、潜水船は洞窟に入って行く。
「少佐殿、訓練ですが。」
「みんな申し訳無いが聞いて欲しいんだ、お昼を頂き休みが終われば再開したいと思うんですが。」
「勿論ですよ、私達も今回の作戦は何としても成功させたいと思ってるんですよ。」
「少佐殿、私は一番船に乗りたいと考えて要るんですが、駄目でしょうか。」
「えっ、其れは自分ですよ。」
「分かってますよ、まぁ~一番船は一番重要だからなぁ~。」
「全員聞いて欲しいんだ、今回の作戦は元太参謀が考えられた、だからどの船がでは無く、全ての潜水船が重要なんだ、一隻でも欠けることは作戦の失敗を意味する、それ程にも重要だと言う事なんだ、昼からは元太参謀も参加し実戦訓練に入るから頼むぞ、では全員浜に向かう。」
吉田と乗組員全員が浜へと向かった。
「親方、オレ達も行きましょうか、今日は久し振りに浜の名物ですよ。」
「本当か、わしは雑炊を食べれる時が最高に嬉しいんだ。」
親方と大工さん達も浜へと向かった。
「さぁ~さぁ~源三郎様も浜特製の雑炊ですよ。」
「ほ~これは本当に有り難いですねぇ~、私も久し振りなので嬉しいですよ。」
「ほ~成る程これが噂の雑炊ですか、どれどれ。」
班長が一口入れると。
「う~ん、やはり噂は本当ですねぇ~、、いや噂以上の美味しさですよ、お母さん。」
「そんなの当たり前よ、私達の愛情がたっぷりと入ってるんですからね、でも班長さん、お殿様には内緒にして下さいね。」
駐屯地の炊事班の班長は知らないが、野洲の殿様は誰かが浜に行くと知れば必ず一緒に行くと言う。
浜に行くと大好物の片口鰯と雑炊を食べる事が出来ると、それ程までに片口鰯と雑炊が好きになった。
「大佐殿、私は何も申しませんので。」
「元太さんはお昼からの訓練に参加するのですか。」
「オラは納得できるまで何回でもやって絶対に成功させたいんです。」
元太は並大抵の気持ちで臨んで要るのではないと源三郎は感じ取った。
「ですが余り気負い過ぎますと。」
「オラは母ちゃんと子供の為に行くんですよ、だからどんな事が有っても絶対に成功させて浜に帰って来るんです、絶対にね。」
今となっては元太の気持ちを抑える事など到底無理だと工藤も分かった。
そして、お昼の休みが終わり、元太は小舟で入り江の先まで向かった。
「全員今から実戦訓練に入る、出撃せよ。」
と、吉田の号令が聞こえ、十隻の潜水船は潜水し予定の位置へと向かって行く。
「若殿、今から明日の本番に向けて最終訓練に入りますので。」
「私の方が緊張の連続で御座います。」
何も若殿だけで無く、源三郎を始め浜の全員が感じており、漁師達も小舟で漁をして要る様にも見えるが浜からは何も見えない。
そして、元太は入り江の中程付近で浜に向かって片手を振り、大声で叫んで要るが、何を叫んで要るのかも全く分からない。
「私も簡単に考えておりましたが、これ程にも大規模な作戦になるとは夢にも思っておりませんでした。」
「私もですよ、ですが一番悩まれたのは参謀長だ、私も元は侍だから戦と言うものは幼い頃より聞かされ少しは理解している、だが元太参謀は漁師さんで、侍の様に剣術の修業も受けておられない、だが今回の訓練は、いや戦は家族と仲間の為だと、其れは総司令が何時も申されておられる全ては領民の為、其れが今回の作戦なのだ、皆も初めてだと思うが今回の相手は幕府軍でも無い、だからと言って官軍でも無い、全ては領民の為、其れが最終的には我が身の為だと言う事だ。
私は連合軍兵士として誇りを持って作戦を成功させる、命を引き換えにしても成し遂げる覚悟だ。」
吉田が乗り組んだ一号船の隊員は改めて気を引き締め訓練に挑み、訓練は何度も繰り返され元太が納得するまで行われ、其れは陽が暮れても行われて要る。
「元太参謀は大丈夫でしょうか。」
「私も其れを危惧しておりまして、工藤さん、いや私が参り話しをして見ます。」
源三郎は小舟に乗り沖へ、だが浜の漁師全員が訓練に参加し誰も小舟を操る者が居ない。
「源三郎様、オレが行きますんで。」
銀次が洞窟から乗って来た小舟が有る。
「銀次さん、お願いします。」
源三郎は松明を持ち銀次と入り江の中程付近へと向かった。
「吉田さん、もう一回、もう一回だけお願いします。」
「元太参謀、ですが私は。」
「オラの事はいいんです、だからお願いします、もう一回だけお願いします。」
元太は一体何回繰り返すつもりなんだ。
「元太さん、大丈夫ですか。」
「オラの事はいいんですよ、オラは何とも無いですから。」
と、言った元太の手のひらからは血が滲んで要る。
「元太さん、手のひらから血が。」
「えっ、あっ、本当だ、オラは全然気付きませんでした。」
それ程まで元太は集中力は物凄いと源三郎は、いや話を聴いて要る吉田も驚いて要る。
「元太さんもお気持ちは分かりますが、ですが余り無理をされますと、折角元太さんが考えらえられた作戦が失敗するかも知れませんよ、訓練を続ける事も大事でしょうが身体を労わる事も大事ですよ、分かって頂けますね元太さんならば。」
さすがの元太も源三郎の優しい言葉に。
「はい、分かりました、じゃ~浜に戻りますんで。」
だが元太の手のひらは皮が剝け、浜まで小舟を操る事は出来ない。
「此方に乗り移って下さい。」
元太も仕方無く乗り込むと、源三郎は手拭を引き千切り元太の手に蒔いた。
「銀次さん、戻って下さい。」
其れを見ていた吉田は元太の執念だと感じ。
「全船洞窟に戻れ。」
暫くして元太を乗せた小舟が浜に戻って来た。
「あんた、大丈夫なの。」
「母ちゃん、オラは何ともないから。」
だが工藤は作戦の中止を考え。
「元太参謀のお気持ちは私も理解しておりますが、これではとても作戦を実行するのは無理だと思います。」
「いやオラは絶対にやりますよ、絶対にね、こんな事で止めたらオラは浜の笑い者になりますよ、元太は意気地無しって。」
「そんな事は誰も思っておりませんよ。」
「でもオラが嫌なんですよ、こんな傷くらいで漁に出なかったら浜の漁師じゃないんです。」
「ですがこれは戦なんですよ、参謀に若しもの事が有れば。」
「オラ達漁師は毎日が生きるか死ぬかの戦をやってるんです。
魚は海の中にどれだけ要るのかも分からないんですよ、でも何も知らない人は魚は何時も大量に獲れるって思ってるでしょうけど、だけど大量の魚が網に入ると一人で上げるのは無理なんですよ、でも漁師は何とかして網を引き上げようとして魚の重みで舟がひっくり返り、そんな時運悪く網が足に絡まると命を落とすんですよ、そんな事考えたらこんな傷なんか何とも無いですよ。」
源三郎も感じていた、此処まで来ると漁師の、いや元太の執念だ、だが傷の具合を考えれば明日の出撃時刻は変更しなければならない。
「元太さんのお気持ちはよく分かりました。
ですがねぇ~明日の出撃ですが少し遅らせましょう、これは私から元太参謀への命令です。」
源三郎が言ったのは元太の身体を心配して事で、出撃を少しでも遅らせる事で元太の身体が、いや傷が回復するだろうと。
「オラも分かりましたけど。」
やはり元太は少し気落ちした様子だ。
「あんた、源三郎様のおっしゃる通りだよ、オラもあんたの気持ちは浜の誰も分かってるんだからね。」
「オラは本当に悔しいんですよ、こんな傷くらいで。」
「今無理をしても結果は決して良い方向には行きませんよ、休む事も大事ですからね、奥さん、元太さんを宜しくお願いしますね。」
「あんた、帰ろ、私が居るんだからね。」
元太は妻を子供と戻って行く。
「若殿、工藤さん、今夜は野洲に泊まり、明日に備えましょう。」
源三郎達も野洲のお城へ戻って行く。
「全員集まって下さい。」
吉田は十隻もの潜水船の乗組員に何を話すつもりなのか。
「全員、話しを聞いて欲しいんだ、先程、元太参謀は浜に戻られたが元太参謀の手のひらの皮が剝け出血しておりだが其れでも訓練は続けると、私は其の時思ったんだ何と恐ろしい執念だ、参謀長は家族を守る為本当の意味で命を掛けて要るんだ、私も分隊長も元は侍だ、だが今までこれ程執念を燃やした事は有っただろうか、私は正直言って無かったと言える、其れに今までは漁師の分際で何が出来るんだと思っていたんだ、其れは私の中に何処かに侍の方が偉いんだと過信していたと思うんだ、其れが今日の訓練で私の気持ち見事なまでに潰された、いや粉々になった。
全員私に命を預けて欲しいんだ。」
「少佐殿、オレは嫌ですからね。」
「何だと、もう一回言って見ろ。」
突然、吉田の表情が変わった。
「オレ達は官軍に殺されたんですよ、だから此処に居るのは全員が幽霊なんですよ。」
「何だと、幽霊だと、其れは一体どう言う意味なんだ、話しの内容に寄っては容赦しない。」
「幽霊はねぇ~誰の命令も聞かないし、誰にも命令はしない、幽霊は自らの意思で行くんですよ。」
吉田は隊員の言う意味が分からない。
「では君は行けないと言うのか。」
「幽霊は怨念の塊でして、オレは幽霊となって今まで殺された仲間の仇を討つ事に決めたんです。」
「我が連合軍兵士の幽霊は恐ろしいですよ。」
吉田もやっと理解した。
「よ~し分かった、君達は幽霊だ、だが元太参謀だけは幽霊にはさせるなよ。」
「オレ達連合軍兵士の幽霊に任せて下さいよ、なぁ~みんなそうだろ~。」
「よ~し私も今から君達と同じ幽霊だ。」
「何ですか、少佐殿が幽霊にですか、まぁ~仕方無いか、少佐殿はどんな事しても絶対に奴らの目的を調べて下さいよ。」
「よし分かった、ではもう一度、いや今夜は静かにしてくれよ、浜の人達が驚くからな。」
吉田と十隻の潜水船隊員が大笑いしたが直ぐ静まった。
「なぁ~げんた、後何個作るんだ。」
「え~っと三個かな、元太あんちゃんの命を守る為に絶対に要るんだ。」
「まぁ~其れにしても何で元太さんが行くんだ、オレは吉田さん達だけでも十分だと思うんだけど。」
「オレも最初は同じ様に思ったんだ、だけど元太あんちゃんは与太郎さんの話しを聞いて行くと決めたんだ、オレは元太あんちゃんの方がいいと思うんだ、吉田さんは兵隊さんだし、お侍が行ったとしてもだよ、若しも官軍に捕まった、そして何の為に来たと白状させる為に拷問に掛けた、オレは吉田さんの事だから絶対に喋らないと思うんだ、だけどお侍が全部あんちゃん見たいな人じゃないと思うんだ。」
銀次は幕府時代の役人が自白させる為にはどんな方法を使ってでも自白させると、其れは想像絶する攻め方で並みの人間では直ぐ自白すると知って要る。
「確かになぁ~役人の拷問に我慢出来るのは並大抵の人間じゃ無理だって知ってるよ、だけど若しもだよ、元太さんが幕府の為に偵察に来たと疑われたら奴らの事だ徹底的に責めるのは間違いは無いと思うんだ。」
「だけど元太あんちゃんは誰が見ても本物の漁師なんだ、与太郎さんの話しでも官軍の隊長さんは優しかったって。」
「其れはオレも分かってるよ、だけど何でそんな急に漁師が続けて来るんだ。
そんな事誰が考えても変だと思うんだ、確かに与太郎さんも元太さんも漁師だ、だけど幕府は密偵を農民や浪人、其れに町民の姿に代えて諸国を調べてたんだ。
オレは与太郎さんの時だから何とも無かったんで、あの時は不幸中の幸いで、だけど元太さんは吉田さんが侵入しやすい様にする為に行くんだろう、オレはなぁ~元太さんの事が心配なんだ。」
銀次は元太達浜の漁師を今では身内の様に思っており、だから余計心配だと言う。
「オレだって一緒なんだ。」
げんたはまだ城下で小間物屋で色々な物を作って要る頃、源三郎から水の中でも息が出来る物を作って欲しいと、その後、潜水船を造ると言って浜にやって来た、そして、浜の人達の人情味に振れ、今ではすっかり浜の人間になり、其の中でも元太と言う漁師は特別だと思って要る。
「浜の人達は別なんだ、其れに元太あんちゃんはオレと母ちゃんを何時も守ってくれてるんだぜ、其れに今度はお殿様やあんちゃんの為にやるんじゃ無いって、母ちゃんや子供の為、其れと浜の人達にやるんだって、銀次さん、オレだって同じなんだ、母ちゃんの為だったら、あんちゃんが止めろって言ってもやるからな、絶対にだ。
元太あんちゃんは家族の為にやるんだ、だからオレは絶対に全部作って助けるんだ。」
銀次は今更げんたの気持ちを確かめる為に聞いたのでは無く、げんたの傍で投光器作りをして要る信太朗達に聞かせる為で有る。
「さぁ~後二個だから。」
げんたは夜なべ仕事になっても作り上げるのだと。
そして、夜が明けた。
「元太参謀は大丈夫でしょうか。」
「今日の出撃は中止にしましょう。」
源三郎も元太が今日行くのは無理だと判断した。
「ですが元太さんの事ですからどんな事が有っても行くと思いますが。」
「私も重々承知しておりますよ、ですが昨日の今日ですよ、手のひらの皮は剥がれて要るんですよ、あの状態で舟を操るのは無理ですからね。」
「其れは私も同じです。」
傍で聞いて要る斉藤も今日は中止だと思って要る。
「其れよりも参りましょうか。」
源三郎達は浜へと向かった。
「ねぇ~父ちゃん、今日は止めても。」
「オラも分かってるんだ、だけど今日の海は静かで。」
「オラも分かってるよ、だけど父ちゃんは痛くて寝て無いんだよ。」
元太は一晩中傷の痛みで眠る事も出来ず、其れでも行くと言う、浜の漁師達は何時もより早く集まっており、だが誰一人として漁に行く気配も無い。
「なぁ~本当に行くのかなぁ~、あの傷じゃ無理だと思うんだけど。」
「オラも同じだ、オラ達も気持ちは分かってるんだ、だけど元太の事だから無理を承知で行くと思うんだ。」
「でも、オラだったら絶対に行かないよ。」
「与太八、お前があんな事するからなんだぞ。」
「オラも分かってるんだ、だけどあの時は魚が何時もより多かったんで、オラは必死で網を上げようとして気付いたら沖に出てたんだ。」
与太郎は何時もより大量の魚が網に掛かり早く引き上げようと必死だった、其れが気付いた時には沖に流され、結果、官軍の大軍が集結して要る浜に漂着した。
「元太が来たぞ。」
元太の両手は布で巻かれ、顔付きは何時もと全く違い恐ろしい程にも見える、だが余りにも痛々しい。
「なぁ~元太、本当に行くのか。」
「あ~オラは行くよ、どんな事が有ってもだ、絶対に行くからな。」
「なぁ~今日は止めてくれよ、若しも元太に何か有ったら母ちゃんや子供が。」
「オラはみんなの気持ちは有り難いと思ってるんだ、だけど今日の海は静かで。」
「海は明日も静かになるんだ、だからなっ今日は止めて傷を治してくれよ。」
「ねぇ~父ちゃん、みんなも心配してるんだから今日は止めてよ、ねっお願いだから。」
元太と浜の漁師達がそんな話しをして要ると源三郎達が着た。
「皆さん、お早う御座います。
其れにしても皆さん、如何されたのですか。」
「元太は行くって聞かないんですよ、源三郎様、何とかして止めて欲しいんですよ。」
「その何とか言うところを調べるのは何も今日で無かってもいいんじゃ無いんですか。」
「そうですよ、明日でも、いや元太の手が治ってからでもいいとオラは思うんですけど。」
源三郎の思った通りだ、浜では朝早くから元太が行くと言うのを止めようとしており、浜には洞窟から潜水船の乗組員が次々と集まり、源三郎と漁師達の話しを聞いて要る。
「お~い源三郎。」
「えっ、何でお殿様が。」
源三郎達が振り返るとお殿様が馬を飛ばして来た。
「源三郎、話しは聞いた、元太、何も今日無理してでも行く事も無いのじゃ、其れよりも傷を治す方が先じゃ。
源三郎は何としても止めさせるのじゃ。」
「私も重々承知致しておりまして、今日は中止だと、其れを伝えに来たので御座います。」
「そうか、のぉ~元太、何も急ぐ事も無いと思うじゃ。」
元太は何も言わず何かを考えて要る。
「元太さん、浜の人達もですが殿様も心配されておられるのです。
殿様も浜の人達も気持ちは知っておられるのですよ、私は全てを辞めろとは申しておりません。
ですが、今日は止めて頂きたいのです。」
「源三郎様、父ちゃんは痛くて寝て無いんですよ、其れにこんな手で漕ぐ事なんか出来ないですよ。」
「私達は何時でも行く準備だけはしておりますので元太参謀は傷を治して頂きたいのです。」
其れからも仲間の漁師達も源三郎も元太に中止する様に言うのだが。
「其れにみんなオラの気持ちは変わらないんだ。」
「う~ん、其れにしても何と言う頑固者じゃ、源三郎も頑固じゃが、元太の頑固は源三郎以上かも知れぬ。」
「お殿様、源三郎様、オラは本当に頑固者ですよ、でも昨日から考えてたんですよ。」
「元太さんは一体何を考えてたのですか。」
「若しもですよ、若しも源三郎様が官軍の隊長さんだったとしたらですよ、漁師が手から血を流して来たらどうされますか。」
「勿論、私は傷の手当てを、えっ、正か元太さんは。」
「源三郎様もオラの考えは分かって貰えたと思うんですよ、オラはお殿様や源三郎様に怒られるかも知れませんが、お殿様や源三郎様の為に行くんじゃないんです。
オラは母ちゃんや子供の為に、其れと浜のみんなの為に行くんですよ、お殿様、許して下さい。」
「余は何も申す事は無い、じゃが今無理をして若しもじゃ元太に若しもの事が有ればじゃ、妻や子供達、其れに浜の仲間が悲しむのじゃぞ。」
「お殿様、オラも分かってるんです、でもオラは手の傷を利用したいんです。
与太八、いや与太郎の話しじゃ、官軍の隊長って言われるお人は優しいって、オラは隊長を騙すのは嫌ですけど、さっきも源三郎様が言われた様に優しい隊長だったらオラの傷を見て嘘は言って無いと信じてくれると思うんですよ。」
「元太はそれ程までに考えておったのか。」
「お殿様、オラも最初は無理だと思ったんです。
でも昨日与太郎の話し思い出したんです、官軍の隊長さんを騙していいんだ、官軍の隊長さんの事だから手の傷を見れば本当だと信じてくれると思うんですよ。」
「源三郎、余は何も言えぬぞ、元太の気持ち、いや源三郎、何とか策を考えるのじゃ、皆もじゃぞ、元太が申した様に皆は妻や子供達の事を考えて欲しいのじゃ。」
殿様も元太を止める事は出来ないと、それ程にも元太の意思は決まって要ると。
そして、半時が経ち、一時が過ぎても方法が浮かばず、浜には波の打ち寄せる音だけが聞こえて要る。
「お~い、あんちゃん、出来たよ。」
げんたと銀次と信太朗達が出来上がった投光器を持って来た。
「出来ましたか。」
「うん、銀次さん達が夜なべして作ってくれたんだぜ。」
げんたの事だ、必ず作り上げるだろうと源三郎も分かっていた。
「なぁ~あんちゃん、何か有ったのか。」
浜に集まった大勢が余りにも静かで、何かを考えて要ると分かったが。
「其れがですねぇ~。」
源三郎がげんたや銀次達に話すと。
「なぁ~んだそんな事でみんなが静かだったのか。」
「そうなんですかでは有りませんよ、ですが何も浮かばないのでね。」
「あんちゃん達は元太あんちゃんが此処から行くと勝手に決めてるから駄目なんだ、元太あんちゃんの舟を与太郎さんが漕いで、その何とか言う所の目の前まで行くんだ、そして、吉田さんか他の誰かが潜水船でその入り口付近の様子を見て、最後は元太あんちゃんが舟に乗って行けば簡単に行けると思うんだなぁ~。」
「そうでしたねぇ~、いゃ~さすがにげんたですねぇ~、私も元太さんが此処から舟を漕いで行くものだと、そればかりを考えておりましたので。」
「元太あんちゃんも其れだったら最後の少しだったら行けると思うんだけどどうだ。」
「オラも其れくらいだったら何とも無いですから、与太郎、頼めるか。」
「オラも其れだったら出来るよ。」
「よ~し話しを決まった、おせいは。」
「母ちゃんだったら、浜の母ちゃん達と。」
「さぁ~みんな出来たわよ、浜特製の雑炊が。」
「さすがじゃ、余はこれを食する為に来たのじゃ。」
殿様は浜の雑炊が目的だと言ったが、浜の人達も潜水船の乗組員もだが、お殿様は元太が心配で馬を飛ばして来たと思って要る。
「源三郎、余はこれを食して戻るぞ。」
「殿、誠に有難う御座いました。」
浜ではお殿様を交え、朝食は半時程で終わり、お殿様はお城へと戻って行った。
「オラはもう大丈夫で、何時でもいいんです。」
「元太さん、では与太郎さんも宜しいですか。」
「源三郎様、オラもいいです。」
「吉田さん、では出撃の用意をお願い致します。」
「了解です、潜水船の乗組員全員乗り込みの準備に掛かれ。」
「お~いみんな、兵隊さんを乗せて行くぞ。」
「お~。」
と、浜の漁師達は気勢を上げ、小舟には分隊事に乗組員全員が乗り、漁師達は洞窟へと向け漕いで行く。
「父ちゃんは本当に大丈夫なのか。」
「オラは本当に大丈夫だ、母ちゃんは晋呉の事。」
「任せてよ、父ちゃんとオラの子供だからね。」
元太も小舟に乗り。
「じゃ~源三郎様、行って来ますんで。」
「どうかご無事で、ですが絶対に無理は駄目ですからね、其れと私は作戦名を天元作戦とします。」
「源三郎様、何ですか其の天元作戦って。」
「元太さんの名を取り、私は天の神様にお願いしたんですよ、必ず元太さんが無事に元に戻って来られます様にと、其れで天元作戦としたんです。」
「源三郎様、オラの為に名前まで付けて下さって有難う御座います。
オラは其の名前に恥じない様にしますんで、じゃ~行って来ます。」
さぁ~天元作戦の開始となり、元太は源三郎達と浜の人達全員に手を振り入り江の出口へと、その後ろからは吉田の一号船が先頭になり十隻の潜水船も入り江の出口へと向かった。
「伝令をお願いします、潜水船は寅の刻、四つ半に野洲を出撃したと。」
「了解しました。」
工藤は菊池、上田、松川へと伝令を出した。
「私は今から山賀に向かいます。」
「総司令、私も同行させて頂きます。」
「私もです。」
「高野様、阿波野様、斉藤様は潜水船が無事戻られるのを確認して頂たいのです。」
源三郎は高野達に国へ戻れと。
「義兄上、私は松川に戻り、潜水船が無事通過するのを確認しますので。」
「若殿、何卒宜しくお願い致します。」
「源三郎様。」
「雪乃殿、申し訳御座いませぬが、宜しくお願いします。」
雪乃の事だ元太が無事な姿で戻るまで浜で待つと決めたのだと、源三郎も分かり何も言う事は無い。
「源三郎様、後の事は私にお任せ下さいませ。」
「私は山賀に向かいますので、どうか宜しくお願い致します。。」
源三郎は其れだけを言うと馬で山賀へ向かった。
果たして、天元作戦は成功するのだろうか、後は運を天に任せるだけで有る。