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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 33 話。 元太の考えた作戦とは。

「ねぇ~あんた、本当に行くの。」


「あ~本当だ、オラは何も源三郎様の為に行くんじゃないんだ、オラはお前やこの子の為に行くんだ。」


「だけどねぇ~、やっぱりねぇ~。」


 元太の妻は官軍の兵隊が居るところへ行くと聴き、何時もの元気な女性では無く、主人の身を案じる一人の女性で有る。


「なぁ~、母ちゃん、父ちゃんは何処かに行くのか。」


「そうだよ、父ちゃんはねぇ~源三郎様の、いや母ちゃんとお前の為に大事なお仕事で行くんだよ。」


「なぁ~んだ、やっぱり源三郎様のお仕事なのか。」


 元太の息子はまだ幼い、だが幼い子供までが元太の行くところを聴くが、正か官軍兵が大軍が居るところへ行くとは言えない。


「其れで直ぐ行く事になったの。」


「いいや、其れはまだ決めて無いんだ、明日、浜のみんなに話してから決めようと思ってるんだ。」


「だったらまだ何日かは浜に居るんだね。」


 妻は少し安心した様子で、元太も正か明日行くとは言えない。


「じゃ~今夜は久し振りに母ちゃん特製の雑炊でも作ろうかね。」


「わぁ~本当か、オラは母ちゃんの雑炊が一番好きなんだ。」


 子供は何も知らず大好物の雑炊だと聴き大喜びして要る。


「父ちゃん、オラ明日みんなにオラの父ちゃんは源三郎様のお仕事で出掛けるんだ物凄いだろって自慢するんだ、だからオラはもう寝るよ。」


 幼い子供は早くも深い眠りに付き、元太は今夜が今生の別れになるかも知れないと妻を求め、妻は元太の求めに何度も答え、その夜、二人は激しく燃えた。


 そして、明くる日の朝早く起きると子供は既に家を飛び出し浜に向かって要る。


「母ちゃん、本当に済まん、オラは何も相談しないで勝手に決めて。」


「何を今更、オラの事なら大丈夫だからね、何も心配する事も無いからね。」


 元太は最後とばかり妻を引き寄せ。


「父ちゃん。」


 と、何度も小さな声で叫び、一時程して。


「オラ行って来るよ。」


「オラも一緒に。」


 元太と妻は浜に向かった。


「えっ、本当か。」


「うん、本当だよ、だって昨日父ちゃんが母ちゃんに話してたんだから。」


 元太の息子が浜の漁師達に自慢だと話して要る。


「お~い元太、官軍の兵隊が要る所へ行くって本当なのか。」


 漁師達は近付いて来る元太に話し掛けた。


「あ~本当だ、其れで今からみんなに相談しようと思って。」


「だけどなぁ~与太八の時は運が良かっただけなんだぜ。」


「オラもそんな事は分かってるんだ、だけどオラはお殿様や源三郎様の為に行くんじゃ無いんだ、オラは母ちゃんや子供の為に行くって決めたんだ。」


「なぁ~元太、其の話しって源三郎様が言われたのか、元太に行けって。」


「そんな事は源三郎様からは言われないよ。」


「だったら何で元太が行くって言ったんだ。」


「なぁ~みんな、源三郎様は何時もオラ達の為にって幕府の奴らや官軍と戦うって言われて、お侍様や兵隊さんが戦死を覚悟で行かれてるんだ、だけど今度ばかりはオラが行こうって決めたのは与太八が間違って入った所が問題なんだ。」


 何も与太郎と言う漁師が間違って入ったのではない、与太郎は潮に流され辿り着いた、其処が運悪く官軍の大軍が駐屯して要ると言う大きな湾の奥だった。


「与太八が先祖からの言い伝えを守らず入り江の外に出た、そして、運悪く潮に流され辿り着いた、問題はその場所なんだ。」


「なぁ~元太、その場所ってあの断崖絶壁の有るまだ向こう側なんだぜ。」


「其れが大問題なんだ、断崖絶壁の有る所はなぁ~山賀って言う国なんだ。」


「山賀って国はオラ達の連合国でも一番端の国じゃ無かったのか。」


「そうなんだ、オラ達は野洲の国で、直ぐ隣が上田で、その隣が松川で、其れで一番向こう側に有るのが山賀って言う連合国の中でも一番大きい国なんだ。」


 日頃から源三郎から連合国となった五つの小国の話しを聞いており、野洲もだが、山賀の国が何処に有るのかも知っており、先日、与太郎と言う漁師が辿り着いた大きな湾、其れが山賀の国に隣接すると知った。


 若しも何かの弾みで山賀の国を知られ、更に松川も知られる事にでもなれば連合国の全てを知られ、そして、潜水船の存在を知れば官軍は軍艦で潜水船を隠して要ると思われる海岸の岩場に攻撃するだろう、その様な事態にでもなれば浜に大軍が上陸し官軍の兵士達は無差別に攻撃を始め、更に内陸部へと進み、やがて城下へ入り、其処でも無差別攻撃で城下の領民は殆ど殺されるかも知れないのだと。


「何でそんな近くの入り江に官軍の大軍が要るんだ、正かオラ達の連合国に攻撃して来るんじゃないだろうなぁ~。」


「なぁ~元太、その官軍ってオラ達の連合国が有るって知ってるのか。」


「オラは其れを知りたいから行くって決めたんだ。」


「だけど何で元太は知りたいんだ、官軍はオラ達の事は知らないんだったら元太が行ってだよ、若しも連合国の事を知られたらその方が問題にならないのか。」


「与太八は官軍の隊長と言われる人から村は何処かって聞かれて咄嗟に能登って言ったんだ、オラ達は野洲だけど、オラは能登って本当に有るのかも知らないんだ、だけど隊長は能登を知ってると思うんだ。」


「だったら元太も能登の漁師だって言うのか。」


「うん、その通りだ、与太八とは同じ村だって言うつもりなんだ。」


「え~そんな事言ったら与太八の事聞かれるぞ。」


「オラも分かってるんだ、其れでオラは与太八は村に帰って無いって言う事にするつもりなんだ。」


「えっ、そんな事言ったら、でも与太八は浜に帰ってるんだぞ。」


「なぁ~元太、何でそんな嘘を言うんだ、オラは浜に。」


「与太八、じゃ~何で能登って言ったんだ。」


「え~そんな事今更言われても、オラは母ちゃんや子供、其れに若しも浜の事が官軍にばれたら大変な事になると思って咄嗟に能登って言っただけなんだ。」


「オラは与太八を責めるつもりはないんだ、みんな今与太八が咄嗟にって言った、オラもだけどみんなも母ちゃんや子供の事を考えてると思うんだ、オラは官軍がオラ達の浜もだけど、オラ達の連合国を知られて無いのか、其れを確かめる為に行くんだ。」


 その後、元太は源三郎と最初に出会った頃の話から、幕府と官軍の戦など源三郎から教えられたことを浜の全員に話した。


 元太はどんな事が有ったとしても官軍の様子を調べに行くと話して要ると、浜が大騒ぎになって要ると聞き付けた銀次達が駆け付けた。


「元太さん、何でこんな大騒ぎになってるんですか。」


「オラ達は何も大騒ぎなんかしてませんよ、オラが官軍の兵隊が大勢集まって所に行くって言ったらみんなが止めるんですよ。」


「えっ、今何て言ったんですか、オレは官軍の兵隊が大勢集まってる所へ行くって聞こえたですが本当なんですか。」


「ええ、本当ですよ、オラは。」


 銀次達に何の為に官軍のところへ行くのか説明した。


「其の話しは源三郎様も知ってられるんですか。」


「勿論、源三郎様も知ってられますよ、だってオラが話したんですから。」


「だけど、そんなのってあんまりにも無茶だよ、オレだって源三郎様から行けって言われても、はい、分かりましたって簡単には言えないですよ。」


「そうだよ、そんな無茶な事は。」


「だったら銀次さんにお聞きしますが、だいぶ前ですけど源三郎様と二人で爆裂弾の試しをしたと思うんですが、あれは無茶じゃ無かったんですか、オラはあんな無茶な事をするなんて、源三郎様もだけど銀次さんって本当に無茶をするお人だと思ったんですよ。」


 源三郎と銀次が爆裂弾の試しを浜の海で行なった事は今まで一番無茶な事だと言った。


「元太さん、でもあれはねぇ~。」


 あの時の試しを思い出したのか、元太が言う様に銀次の中では今まで一番無茶な事をしたと思って要る。

 だがあの時は源三郎に命を預けたと今でもその様思っており、其れは仕方の無い事だと分かって要る。


「オラは今度の事は何も無茶な事だと思って無いんですよ、吉田さんが入り江の一番奥を調べるって言われ、だったらオラは潜水船が見付からない様に下手なお芝居をするだけなんですよ。」


 下手な芝居をすると言うが、芝居が官軍の兵士に、いや隊長に見破られる事も十分考えられ、元太の芝居が見破られた時には其れこそ命は無い。


「元太さんは下手な芝居って言いますがね、若しも、若しもですよ芝居が見破られたら命は。」


「オラもそんな事は分かってるんですよ、でも命が危ないのはオラだけじゃないんですよ、潜水船が見付かると、若しもそんな時軍艦でも有ったら其れこそ潜水船は跡形も無く潰され、中の兵隊さんも全員がバラバラになるんですよ。」


 軍艦の大砲の威力がどれ程凄いのかは全く知らない、だが浜で行なわれた爆裂弾の威力は見ており、軍艦の大砲ならば爆裂弾の数倍の威力は有るだろうと、そんな威力の有る軍艦の大砲に攻撃されれば潜水船は木っ端微塵となり、中の兵士全員も同じ様になる事は想像出来る。


「ねぇ~みんな聞いて欲しいんだ。」


 元太の妻だ、昨日話し聴いた時も最初は驚き止めようとした、だが妻と子供の命を守る為に行くと説得され決意は固いと。


「うちの父ちゃんはオラと子供の命を守る為にって言ったんだ、浜の漁師は何時も命懸けで漁の出てるのよ、だけど今度は本当に命懸けだって言うの、オラや浜の大人は工藤さんや吉田さん達は知ってるわよ、其れは子供達も同じなんだ、オラ達は連合軍の兵隊さんは知ってるから浜に上陸した兵隊は官軍の人だと思うの、だけど幼い子供に連合軍の兵隊さんと官軍の兵隊の見分けは付かないと思うんだ。

 オラ達大人は官軍の兵隊には何も言わないけど、オラの息子は同じ兵隊に見え、官軍の兵隊に何か知ってる事は無いかって聞かれたら、子供は何の疑いもせず洞窟の事を話すと思うんだ。」


「そうか、そんな事になったら其れこそ大変な事になるんだなぁ~。」


 元太の妻が言う様に、幼い子供達は同じ連合軍の兵隊だと思い洞窟の事を話す事は間違いは無い。


 その様な事態にでもなれば、洞窟内で仕事をして要る銀次達や親方大工達は突然襲って来る官軍兵に撃ち殺され、更に浜の大人達も撃ち殺され、更に悲劇は農村や城下まで及び、下手をすれば城下の領民と城内の全員が撃ち殺され、お城は火だるまとなり焼け落ち、勿論、お殿様も源三郎も雪乃達も殺される。


「オラは父ちゃんの事だ絶対にやり遂げるって思ってるんだ、父ちゃんは必ずオラと子供の所に戻って来るって、オラを信用するんだって、オラは父ちゃんの事だ絶対にオラのところに戻って来るって信じてるんだ。

 オラは父ちゃんを一番の男だって、男の中の男だって思ったんだ、だからオラはみんなの気持ちは嬉しいけど父ちゃんに行かせて欲しいんだ、この通りオラからも頼むよ。」

 

 と、元太の妻は浜に土下座し浜の全員に頭を下げた。


「母ちゃん、オラも嬉しいよ、オラは絶対に帰って来るからね、約束するよ。」


 元太は妻を抱き寄せた。


 同じ頃。


「元太参謀ですが、浜の皆さんにお話しをされて要ると思うのですが。」


「私も同じ事を考えておりましてね、ですが浜の人達は全員で元太さんが行くのを阻止すると思うのです。」


 源三郎の思って要るのも当然で、何も元太が命を掛けて行く事では無いと浜の全員が止めて要ると。


「私は今から浜に参りますので。」


「総司令、私も同行させて頂きます。」


「では吉田さんもお呼びしましょうか、今回は吉田さんと浜の人達全員の呼吸が合わなければ失敗すると思いますので、誰か吉田さんを呼びに行って下さい。」


 だが其の時には家臣が執務室を飛び出し駐屯地へと向かっており、暫くして吉田が飛び込んで来た。


「総司令が大至急にと聴きましたが。」


「吉田さんも浜へ参りましょう、多分ですが、今頃は元太さんのお話しがもつれて要ると思われるのです。」


「私も同じ様に考えておりまして、浜の漁師さん達の事ですから、元太参謀の無謀と思える作戦を阻止されて要るのではないかと思っております。」


「やはり吉田さんも同じですか、確かに今回の作戦は余りにも無謀だと誰でも思うでしょうが、私はねぇ~元太さんで無ければこの作戦は失敗すると思うのです。」


 源三郎は元太で無ければ作戦は失敗に終わると。


「私はねぇ~、何も他の漁師さんでは失敗するとは考えていないのです。

 ですが元太さんは日頃より私の考え方を聞かれており、家族の為、其れと浜の全員の為、そして、城下の領民の為、其れを考えられるのは今は元太さんしかおられないと思うのです。」


 元太ならば時と場合により色々な出来事を考え、其れにも対応出来ると考えて要る。


「元太参謀ならば日頃より総司令と色々な事までお話しをされ、何れの場合でも対応されると思います。」


「元太さんとは浜で最初に洞窟に関するお話しを聴きましてね、それ以来元太さんとは幕府の事、今は官軍の事など、其れは工藤さん達以上に話をした様にも思えるのです。」


「確かに元太参謀のお話しの中では総司令とお話しをされたと思われる部分が多く有り、私も感心するほどで御座います。」


 吉田は元太は漁師で有りながら、幕府や官軍の事、其れは漁師の姿をした軍隊の中でも上級将校の考え方で有ると、それ程まで元太と言う漁師は並外れた考え方を持って要る人物だと思って要る。


「元太さんは漁師の姿をしておりますが、私は並みの軍将校よりも考え方は遥か先を見て要ると思うのです。

 確かに元太さんは家族の為、浜の人達の為だと言っておられますが、元太さん自身、其れが野洲の、いや連合国領民の為だと分かっておられますが、ただ言葉として言われないだけだと思いますよ。」


「確かに総司令の申される通りで、時々私もはっとさせられます。

 今回の作戦も吉田が総司令に直訴し、ですが作戦の殆どは参謀が考えられたのですから、参謀の作戦には脱帽します。」


 工藤が脱帽するという作戦、吉田は一隻だけの偵察を考えていた、だが元太は一隻の潜水船では大きな湾の全てを偵察する事は無理だ、野洲に有る三隻の潜水船を出撃させなければならないと、偵察する所を手分けして調べると言うので有る。


 元太は更に、菊池、上田、松川からも潜水船を出撃させ湾の入り口付近から湾内を監視する潜水船、湾の外側を監視する潜水船も必要だと、だが吉田は其処まで考えていなかった。


「元太参謀の作戦を伺いましたと時には正かとは思いましたが、元太参謀は今回の作戦は何が何でも成功させなければならないと強い決意をされたと思います。」


「吉田の言う通りかも知れないです。

 私も一隻ならば官軍に発見される可能性も低いと、ですが参謀はあえて我々軍人の考えでは想像も出来ない作戦を考えられた、それ程までに今回の官軍が建設するで有ろう巨大な軍港を詳細に調べる必要が有ると言う事だと思います。」


 本当に其処まで深く考えたのだろうか、幾ら源三郎でも漁師が其処まで細かく考えないで有ろうと、確かに工藤や吉田が言う事が本当ならば、元太はこの先も恐ろしい程に考え、工藤や吉田の考え付かない作戦を練り出す事は間違いは無いが、今は今回の作戦を成功させる事の方が最も大事で有る。


「では今から浜に参りましょうか、鈴木様と上田様は筆記用具を持参して下さい。」


 源三郎は元太達の議論の最中で有る浜へと向かった。


「元太さん、オレも一緒に。」


 やはり銀次だ、元太の気持ちを考えた銀次は一緒に官軍の所へ行くと言う。


「銀次さんのお気持ちはオラは物凄く嬉しいんですよ、でもこれは漁師でなくては失敗すると思うんです。」


「何故ですか、オレでは駄目だって言うんですか。」


「オラは何も銀次さんじゃ出来ないって思って無いんですよ、でも本物の漁師で無かったら官軍の隊長は騙せないと思うんです。」


「そうか、まぁ~確かにオレは元太さんの言う通り本物の漁師では無いですが。」


「オラは官軍の隊長を騙せないと成功出来ないと思ってるんですよ、与太八も咄嗟に能登の与太郎って言って騙せたと思うんです。

 でも与太八は騙せたと思って無いんですよ、与太八もオラも漁師ですから小舟の操り方も漁師には漁師のやり方が有るんです。

 オラは銀次さんだったら多少は騙せる思うんですが、若しも、若しもですよ、官軍の中に本物の漁師が居れば銀次さんは本物の漁師では無いって直ぐばれると思うんですよ、そんな事になったら一体どうなると思いますか。」


「う~ん、だけどなぁ~。」


 銀次は何も言えずに、やはり銀次も簡単に考えていたのだろうか、それ程簡単には考えておらず、元太の考え方に賛成し自らが先頭になる事で元太を助けられると思ったのだろう。


「浜で何か有ったのでしょうか、漁師さん達とあれは銀次さん達もおられる様ですが。」


「やはりでしたか、元太さんも相当苦労されておられますねぇ~。」

 

 源三郎達が見たものは元太が浜の漁師達に吊るし上げられたかの様に責められている。


「其れに漁師さん達も一体何が有ったんですか。」


「あっ、源三郎様だ、元太が官軍の兵隊が大勢集まって居る所に行くって、もう言う事を聞かないんで、源三郎様からも何とか言って下さいよ。」


「やはりでしたか、実はねぇ~私も昨日元太さんから聞かされましてねぇ~、私も駄目だって止めたんですがね、殿や私の為では無いって、奥さんや子供の為に、そして、浜の皆さんの為に行くんだと其れはもうどの様に私が言っても聴いて頂け無いんですよ。」


「えっ、じゃ~源三郎様でも止められ無かったんですか。」


 其処はやはり源三郎だ、少し芝居を打った。


「其れでね、私は工藤さんと吉田さんにお願いしましてね野洲の潜水船の全てと菊池、上田、松川からも全ての潜水船を出撃させて下さいとお願いしたんですよ。」


「えっ、じゃ~潜水船を全部出すんですか。」


「ええ、その通りでしてね、私は明日、菊池、上田、松川の潜水船乗組員全員に来て頂きましてね、元太さんの作戦を何としても成功させる為の作戦会議を行ないますと、その報告に来たのです。」


 源三郎はまだ菊池や上田には何も伝えておらず、だが今回の状況を考えると全ての乗組員を集め作戦会議を開かなければ元太の作戦が失敗する可能性が有ると判断した。


 傍で源三郎の話しを聞いて要る与太郎や元太はそんな話はしていないと分かったが、今下手な事を言えば自分が全員から吊し上げられると分かったのだろう、与太郎は下を向いたまま何も言わない。


「皆さん、今回の作戦ですが元太さんが全てを考えられましてね、私は何も反論出来ないのです。

 元太さんの作戦は奥さんや子供の為と浜の人達全員の為でしてね、殿様や私の為でも無いのです。

 皆さん、この通り何卒宜しくお願い致します。」


 と、源三郎は土下座し頭を下げた。


「皆さんには大変申し訳御座いませんが今回は何もお頼みする事が無いんです。」


「え~じゃ~元太だけが行くんですか。」


「そんなの無茶苦茶ですよ、外海は物凄く恐ろしいんですよ。」


「確かに皆さんの言われる通りですが、かと言って皆さん全員が行かれますと、其れこそ何か有った時には大変な事になりますので、どうか元太さんを信頼して頂きたいのです。」


 浜の漁師達も外海は物凄く恐ろしいと知っており、だからと言って今回の作戦を成功させる為に元太が考えた方法が最適だと。


「元太さんには申し訳有りませんが、明日の朝、与太郎さんと一緒に執務室に私が待っております。

 銀次さんは洞窟の三個分隊の全員にも伝えて下さい。」


「だったらオレ達も何も出来ないんですか。」


「今回の作戦だけは銀次さん達にお願いする事は有りませんのでね、許して下さい。」


 銀次も浜の漁師達も元太の作戦に参加する事は出来ないと。

 そして、源三郎達は城へと戻って行った。


 其の少し前、源三郎に同行した兵士が菊池や上田、松川へと馬を飛ばして行った。


 そして、明くる日の早朝、浜には数台の馬車が着き、元太と与太郎、そして、三個分隊の兵士も待って要る。


 菊池からは高野と二個分隊が、上田からは阿波野と二個分隊が、松川からは若殿と斉藤と三個分隊が野洲の執務室に集まり、元太の到着を待って要る。


「あれは元太さん達だ。」


 元太と与太郎、そして、三個分隊を乗せた馬車が大手門を潜り執務室の前に停まった。


「源三郎様、遅くなりました。」


「いいえ、皆さんも先程到着されたばかりですからね。」


 元太と与太郎が源三郎の傍に座り、さぁ~いよいよ元太の考えた作戦を全員に確認する為の話し合いと言うのか打ち合わせが始まった。


「皆様、本日は早朝からお集り頂き誠に有難う御座います。

 今回集まって頂いたのは、先日、此処に居られる浜の漁師さんで与太郎さんと申されますが、与太郎さんは何故だか分かりませんが誤って外海に出られ苦難の末有る大きな入り江と申しましょうか、大きな湾に入り、其処が何と山賀の直ぐ隣に有る大きな湾でして、しかもその湾には官軍の兵隊が大勢集まっており、何かを作って要ると思われるのです。」


「今のお話しは誠で御座いますか、誠だとすれば我々の連合国には大変な脅威で御座います。」


「私も与太郎さんから伺い物凄く驚いて要るのです。

 先日、元太参謀と与太郎さんが来られまして、今のお話しを伺い何としても官軍の目的を、其れと我が連合国が知られて要るのかを調査したいと思い、軍からは吉田少佐が、そして、一番の大役を元太参謀自らが行かれる事になったのですが、今回集まって頂いたのは、吉田少佐もですが一番危険な任務に就かれる元太参謀が考えられた作戦を成功させる為に全ての潜水船を出撃させ応援したいのです。」


「与太郎さんのお話しを伺いたいのですが。」


「勿論ですよ、では与太郎さん、申し訳有りませんが皆さんにお話しをして下さい。」


「はい、オラは野洲の与太郎と言いまして、元太さんと同じ村の漁師で、今からあの時の事を全部お話ししますんで。」


 与太郎は大きな湾に着き、官軍の兵隊に起こされた時の事から話し始め、話しは一時以上も掛かったが、菊池から松川までの潜水船の乗組員全員と、高野や阿波野達も与太郎の話しを真剣に聴き、あっと言う間に話は終わったと言う気がした。


「正か山賀の隣にそれ程大きな入り江が有るとは私も知らなかったです。」


「まぁ~今までは誰も知らなかったと言うのが現実でして、ですが我々は官軍が正かとは思いますが攻撃して来ないと考えられ無いのです。

 其処で元太参謀が考えられました作戦を今から全員に聴いて頂きますが、元太参謀は日頃は漁師さんとしてお仕事をされておられますが、今回の作戦は漁師さんで無ければ成功出来ないと思います。

 では元太参謀、全員に説明して下さい。」


「はい、じゃ~今からお話ししますが、オラは漁師なんで軍隊の事は分かりませんので何か聴きたいと事が有れば其の時に聴いて欲しいんで、ではお話しします。」


 その後、半時、いや一時も掛け細部に渡るまで説明したが、源三郎もだが工藤を始め吉田を含めた潜水船の乗組員全員の誰もが質問する事も忘れ、元太の作戦を聴いていた。


「オラが考えた方法は全部お話ししました。」


「いゃ~其れにしても参りましたよ、私も今まで多くの作戦を練りましたが、元太参謀の考えられた作戦は我々軍人でも思い付かない方法で余りにも素晴らしいと言うのか、官軍も正かと思う様な作戦ですねぇ~。」


 工藤は元太の考えた作戦に呆れ返って要る。


「お聞きしたいのですが、若しも、若しもですが、隊長では無く別の中隊長か小隊長が疑い、参謀を捕らえ自白を迫った時にですが。」


「分隊長さん、オラは漁師で、でも昨日本気で考えたんです。

 オラが若しも隊長だったら漁師の話は絶対に信用しませんよ。」


「何故ですか、参謀は何処から見ても漁師さんですよ、自分ならば漁師さんの話しは信用しますが。」


「分隊長さんの考えが普通だと思うんですよ、でも不思議だと思いませんか、あの官軍が何時頃からあの場にいたのかは知りませんんが、仮にですよ、十日、いや二十日間もあの場所にいたとしてですよ、今まで一度も来て無かった漁師がこんなにも短い日数の間に二度も、其れも同じ所から、いや別の所からでもいいんですが来たと言うのは何処かに幕府の残党が潜んでて、其れに残党よりも前からお侍様には良くして貰って要る村が有るとすれば、村の漁師は残党の見方になるんですよ。」


「そうか、幕府の時代でも全ての領主が悪いとは限らないと言う話しか。」


「分隊長さん、其れなんですよ、オラもですが浜のみんなは源三郎様の様なお侍様がおられ、オラ達は野洲のお侍様には何の憎しみを無いってみんなが言ってるんですよ、オラもですが浜のみんなは源三郎様の為だったらって何時も言ってるんですよ、オラは幾ら官軍と言っても全部の事を知ってるとは思って無いんです。」


「参謀長、ですが若しも捕らえられ自白を迫られた時にですが。」


「オラは何も言いませんよ、だって何も知らないんですからね、其れと与太八の話では官軍の隊長さんはオラ達の様な漁師や農民の味方だと聞こえるんですよ、オラは与太八の話を信じる事にしたんです。

 皆さんは何故だって思うでしょうけど、与太八を含め、浜の漁師は魚を見る目は確かなんで、同じ様に人を見る目は間違って無いと思うんで、其れでオラは与太八が隊長さんは賢いお人だと言ったんで信じる事にしたんです。

 其れで若しもオラが捕まったと思ったら皆さんは直ぐ逃げて知らせて欲しいんです。」


 元太は直ぐ逃げろと、そして、浜に戻り直ぐ知らせろと言うが。


「ですが自分は軍人で仲間を見捨てる訳には行かないのです。」


「分隊長さん、オラは見捨てろって言って無いんですよ、若しも誰かが連発銃を撃ってオラを助け様としたら、其れこそオラ達の住んでる浜もですけど連合国は軍艦の攻撃を受けて全滅するんですよ、オラは母ちゃんと約束したんですよ絶対に帰って来るって、其れを一発で全部殺される事になるんです。

 オラは絶対に何も言いませんよ、だって母ちゃんと子供の為なんですから。」


 元太の決意がこれ程にも強いとは源三郎も始めて知った。


「全員聴いて欲しい、官軍の隊長が本当に賢い軍人ならは能登には幕府の時代でも恐れられる程強大な力を持った国が有り、与太郎さんが咄嗟に能登の漁師だと言った、隊長は能登と聴き余計な事は聞かず、その代わりにこの場で行なって要る事は誰にも話すなと、私でも余計な事は聞かず、其れよりも早く帰す方が得策だと考えるが。」


「工藤さんもその強大な国をご存知なのですか。」


「多分ですが鹿賀と言う国だと思います。」


「ほ~鹿賀ですか、鹿賀と言う国はそれ程にも強大な国ならば武器も大量に有るのでしょうねぇ~。」


「私もすっかり忘れておりまして、その国に行くには、我が連合国に有る高い山よりも遥かに高い山が連なり、秋にでもなれば山には早くも真っ白な雪が積もり、真冬になれば何人も寄せ付けない程の大雪で、その様な国ですので当時の幕府も近付く事さえも出来なかったと聞いております。」


「では官軍の隊長は能登と聴き与太郎さんを直ぐ帰したのですね。」


「私もその様に思いますが、隊長が長州で学んでいたので有れば鹿賀と言う強大な国を知っておられると思います。」


 工藤が長崎で学んでいた頃でも全国の事は耳に入っており、其の時は正か今の連合国が有るとは知らなかったが、能登には鹿賀と言う幕府でも簡単に介入出来ない程の国が有る事は知っていた、其れが正か今回の作戦に影響を及ぼすとは源三郎でも考えはしなかった。


「元太さんは能登は知っておられるのですか。」


「正かオラがそんな大きな国が有る事は全然知らないですよ、えっ、正か源三郎様はその鹿賀と言う国の名を出せって言うんじゃないでしょうねぇ~。」


 其れは元太の早とちりで、源三郎は何も其処までは考えていない。


「下手に鹿賀と言う国の名を出せば、元太さんは其れこそ拷問に掛けられ全てを白状させられまからね。」


「えっ、何でオラが拷問に掛けられるんですか、オラは何も知らないんですよ。」


「元太さんが幾ら漁師だと言っても鹿賀と言う国が差し向けた密偵だと疑わられるからですよ。」


「オラは絶対に鹿賀なんて言いませんからね、絶対言いませんよ。」


 元太は以前、源三郎から密偵だと分かれば役人はこの世の地獄だと思う様な拷問に掛け、幾ら強靭な密偵でも自白させれると聴いており、其れが恐ろしいので有る。


「元太参謀にお聞きしたいのですが、先程も申されました大岩ですが若しも官軍兵が戻り橋まで一緒に行くとなった時ですが。」


「オラは勿論一緒に行きますが、官軍の兵隊さんも夜になると狼の遠吠えは聞いて要ると思いますので兵隊さんも明るい内に帰りたいと思うでしょうから、オラは兵隊さんの姿が見えなくなったら大岩の方に行きます。

 そうだ、工藤さん、済みませんが、山賀の猟師さんでも宜しいんで山越え出来る様にして欲しいんです。」


「参謀、分かりました、伝令、山賀の日光隊、若しくは月光隊でも良い、明日の日暮れまでには大岩に着き日が暮れれば火を起こし参謀の到着を待てと、早馬で行け。」


 執務室に待機中の家臣が飛び出した、事は一刻を争う、若しも大岩に到着が遅れる様な事が有れば元太は官軍に捕らえられ、其れこそ拷問に掛けられる。


「ですが火を起こし官軍に発見されますと大変な事になりますが。」


「其れは心配無い、大岩の大きさだが二十尺以上も有り、幅も三十尺以上も有ると聞いており、其れに官軍が要る所からは五里以上も離れて要ると聞いて要るんだ。」


「何故五里以上も離れて要ると分かるのですか。」


「与太郎さんのお話しですと、官軍が居る所からは我が連合国の高い山は見えなかったと、其れで大丈夫だと判断したのです、そうですよねぇ~与太郎さん。」


「はい、その通りでして、オラも少しですが付近を見ても高い山は見えなかったです。

 官軍の要る近くには少しですが半島の様な山が見えるだけでして、その山の向こう側は全然見えなかったんです。」


 与太郎は何も分からないと言っても普段から源三郎の話しを聞いており、何気なく付近を見渡していたのだろう、やはり与太八では無かった。


「其れに、明後日の夜は満月でお月様の灯りは物凄いんで、真っ暗にはなりませんので大丈夫ですから。」


 浜でも満月になると海面はキラキラと輝き、浜の奥まで見渡せ、其れは元太だけでなく誰でも知って要る。


「あんちゃん、わぁ~何でこんなに大勢が。」


 げんたが久し振りにやって来た。


「久し振りですねぇ~、ところで一体何を作ったんですか。」


「これか、これはなぁ~投光器って言うんだぜ。」


「何ですか、投光器って。」


「山賀の洞窟は物凄く長くて大きいんだ、オレは松明よりも遠くまで灯りが届く物が有れば洞窟の中を照らす事に役立つと考えてたんだ。」


「さすがに技師長ですねぇ~、ですがどんな方法で遠くまで照らすのですか。」


「簡単なんだ、其処に硝子を板に付けてるんで、硝子が灯りを反射すると遠くまで灯りが届くんだ。」


「ほ~成る程ねぇ~、これが投光器ですか。」


「其れとまだ使い道が有るんだぜ、潜水船にも使えるんだ。」


「えっ、潜水船にも使えるって、ですが潜水船の中は蝋燭の灯りだけだと思いますが。」


「あんちゃんって本当に何も分かってないんだなぁ~、潜水鏡に使うんだよ。」


 だが、源三郎もだが工藤達も全く分からないと言う表情をしており、又もげんたは理解不能な物を作りだしたのか。


「なぁ~あんちゃん、潜水鏡には鏡を使ってるんだぜ、オレはねぇ~、若しも夜になればこの潜水鏡に投光器の灯りを付ければ、反対に向こう側から潜水鏡の灯りが見えると思ったんだ、其れはねぇ~、若しも何かの理由でお日様が落ちて陽が暮れた時の為に、まぁ~用心として使えばいいと思ったんだ、遠くから灯りが見えると言う事は浜で大きな火を起こしても潜水船が何処に要るのか分からないだろう、そんな時、潜水船の中で投光器の灯りを潜水鏡に近付ければ浜から遠くても潜水船の位置が分かると思ったんだ。」


「其れにしてもげんたは物凄い物を作りましたねぇ~、其れで今何個有るのですか。」


「えっ、あんちゃんは何でそんな事聞くんだよ、今やっと三個出来たところなんだぜ。」


「だけどこの投光器は昼の間は使う事は出来ないですねぇ~。」


「そんな事は無いと思うんだ、向こう側の潜水船が見てれば海に出て要る所には灯りが見えると思うんだ。」


「工藤さん、やっぱり技師長ですねぇ~、この投光器ですが今度の作戦に使えれば作戦はもっと楽になると思うのですがねぇ~。」


 源三郎の考えて要る事に工藤を含め誰も分からないと。


「総司令の申されておられる事が分からないのですが、総司令は一体何に使わるおつもりなのですか。」


「合図にですよ、合図に使うんですよ、其れも潜水船同士にですよ。」


 源三郎はげんたが作った投光器を持ち、灯りが見える所を手で塞いだり、開けたりした。


「そうか成る程ねぇ~、私も分かりましたよ、実は私も先程から考えておりまして十隻も出撃する潜水船の連絡方法でして、これならば意外と簡単な様に思いますねぇ~。」


 それは工藤だけでは無く、今までならば事前の打ち合わせが可能だった、だが今回の作戦は今までとは全く違い、山賀の直ぐ隣りに大きな入り江の一番奥の数千人規模の官軍兵が集結しており、今の連合国にとっては最大の脅威で有り、連合国軍は全ての潜水船を出撃させ官軍の目的を探ろうと言うので有る。


 今回の偵察任務には元太の考えた作戦が採用され、潜水船の乗組員全員が集まり野洲の執務室で協議されていた、だが潜水船の全て同じ行動に入るのでは無く、その為、何か合図が必要だと工藤は考えたが、潜水船は海中に有り合図の方法が見付からず、そんな時にげんたが持ち込んだ投光器が一筋の光を点した。


「これからは工藤さんが中心となり、作戦成功のために練り直して頂けますか。」


「私がですか。」


 工藤も内心源三郎の言葉を待っていた。


「其れが当然だと思いますよ、確かに元太さんも素晴らしい作戦を考えられたと思いますよ、私はねぇ~、その道の専門家では有りませんし、其れに元太さんにこれ以上の負担を掛けるのも無理ですよ、でも工藤さんも吉田さんも、そして、分隊長は専門家で基本的な考えは元太さんですが、詳細に付いては皆さんにお願いしたいのです。」


「私も元太参謀の作戦を基にし、何としても官軍の目的を探る為の作戦計画を、そうだ、今回は特別では無い、全員で知恵を絞って欲しいんだ。」


 工藤は久し振りに大きな作戦だと、だが今回の作戦は何としても成功させなければならず、出撃する乗組員にも知恵を出せと。


「では皆さん、何卒宜しくお願い申し上げます。」


 源三郎は乗組員全員に頭を下げた。


「今からは私の考えですが基本は全て参謀のお考えでただ私は少し加えただけですので。」


 工藤はその後、作戦計画を一時以上の掛け詳しく説明した。


「工藤さんの、いや元太さんの作戦を成功させる為には今からでも浜に参りまして、全員で練習されては如何でしょうか。」


「ですが今浜には三隻だけですので、練習と申されましても。」


「松川の三隻は上田との共同で使用しております洞窟に停泊しております。」 


 上田と菊池は丁度野洲を挟んだ状態で、その上田の洞窟は松川と繋がって要る。

「では上田と菊池に伝令を出しましょうか。」


「私が直接参りまして、浜の船長さんにお願いしますが。」


 高野は伝令よりも自らが戻り、浜の漁師に話すと。


「私も高野様と同様で今から早馬で戻り漁師さん達にお願いする方が早いと思います。」


「ではお二人にお任せ致しますので、宜しくお願い申し上げます。」


 と、源三郎が言った時には高野と阿波野は部屋を飛び出して行った。


「なぁ~あんちゃん、一体何が有ったんだ、松川の若殿も其れに全部の潜水船って。」


 源三郎達の話しで野洲、いや連合国に危機が迫って要る理解するが詳細が知りたいのだ。


「実はですねぇ~、浜の与太郎さんが。」


 と、源三郎はげんたに今までの事を話すと。


「あんちゃんは何で其れを先に言ってくれないだ、元太あんちゃんは何時その官軍の居る所に行くんだ。」


「其れがなぁ~、オラは何時でもいいんだけど。」


「だったら、今日、いや明日、う~ん、明後日まで待ってくれないか、オレが残りの投光器を作り上げるまでなんだけど。」


「だけど、今何個有るんだ。」


「今は三個だから残りが七個だよ、其れに鍛冶のあんちゃんにも頼んで見るよ。」


「参謀長、技師長も少し待って下さい、大佐殿、先程山賀に伝令を出しておりますが。」


「あっ、そうか、私は其れを忘れてたなぁ~。」


「ねぇ~吉田さん、山賀に伝令って、何で山賀に関係が有るんですか。」


「技師長、元太参謀は舟では戻らず、山越えをされるんですよ。」


「えっ、元太あんちゃんは気は確かなのか、高い山には狼の大群が要るんだぜ。」


「技師長、実はですねぇ~、高い山でも山賀の山はお城近くから北側は狼でも恐れる気の荒い大熊が住んで要るんですよ。」


「えっ、大熊って狼よりも恐ろしいんですか。」


「げんたの所に信太朗と。」


「あの三人組の事か。」


「そうですよ、信太朗さん達と一緒に来た官軍の特攻隊ですがね、あの時、山賀の猟師さんの話しで山賀のお城より北側には大熊が住んでおり、狼は滅多な事では北側の山には入らないと聞いておりましてね、其れが丁度向こう側に有るのが官軍の大部隊が集結して要ると思われる所でしてね、向こう側には大岩が有りますので其処で元太さんを待つと決めたんですよ。」


「なぁ~んだ、あんまり脅かすなよ、オレはてっきり狼の大群が要る山を越すと思ったんだからなぁ~。」


「申し訳無い、まぁ~そんな訳でげんたは何としても十一個の投光器が要るんですよ。」


「オレは何とかして残りの八個を明後日の朝まで作るから、行くのは全部揃ってからにして欲しいんだ。」


「今回の作戦は何が有ったとしても成功させなければなりません。

 その為には十一個の投光器と潜水船の乗組員には特別な訓練が必要で出立は早くても明後日の朝と言う事にしたいのです。」


「オラは何も言えないですよ、もっと簡単に考えてたんで、でも工藤さんや吉田さん、其れに全部の潜水船を出すなんて考えても無かったんです。」


「いいえ、本来ならば我々が考えなければならない作戦を元太さんが基本を考えられて、私は元太さんに対し大変申し訳無く思っております。」


「元太参謀、私は何とお礼を申して良いのか分からないのです。」


 吉田は元太に頭を下げた。


「オラは昨日も言いましたが、オラの母ちゃんや子供を守りたいんです。

 母ちゃんや子供の為だったら何でもやりますから。」


「オレは信太朗さん達と銀次さん達にも手伝って貰うから、絶対に大丈夫だよ、オレに任せろって。」


「よし、げんたに任せた、源三郎様、オラは全部任せますんで。」


「この投光器を山賀に送ってくれよ、残りはオレが何とかするから。」


「誰か馬車で山賀に行き、若様と小川大尉に今までの話しをして下さい。」


「では私ともう一人で参ります。」


 執務室の家臣二人はげんたから投光器を受け取り馬車で山賀へと向かった。


「オレは今から浜に戻って銀次さん達と信太朗さん達に話すからね。」


「馬で行って下さいね、其れと皆さんには宜しく伝えて下さいね、私も後から参りますので。」


「じゃ~オレは待ってるぜ。」


 げんたも大急ぎで浜へと帰った。


「潜水船の乗員に告げる、今回、漁師の与太郎さんのお陰で山賀の向こう側に官軍の大部隊が集結しており、我々連合国軍は官軍の目的を探る為、全員出撃するが、各分隊は浜に着く前までに各人の役割を決めて下さい。

 今回の作戦は長き間海中に潜った状態で進める為、隊員は相当苦しいと思う、だが何としても作戦は成功させ無ければならない、分隊長は吉田少佐を交え、分からない事が有れば今の内に解決する様に願いたい。

 我々連合国に取っては最大の危機だが皆が結集すれば解決も可能だ、総司令のお言葉で全ては領民の為だと改めて認識して欲しい。」


 工藤は久し振りに命令に近い言葉で言ったが、何も命令では無かった。


「皆さん、今回は大変重要な任務だと私は考えております。

 工藤さんも申されましたが、官軍が何故大軍を引き連れ山賀の直ぐ隣だと思われる大きな入り江に集結し、一体何を作り、何の為か直ぐには答えは出ないとは思いますが、皆さんも元は官軍の方々で、ですが今は我が連合国の一員だと言う事を忘れないで頂きたいのです。

 皆さん自身の為だと思える調査をお願いします。

 では工藤さん浜へ向かいましょうか。」


「承知しました、では今から浜に向かいますので分隊長は隊員の意見を尊重し役割を決めて下さい。」


 源三郎達が執務室を出て大手門に向かうが潜水船の乗組員には重々しい雰囲気が漂って要る。


 吉田は執務室を出ると大急ぎで駐屯地へと向かった。


「其れにしても大変な事になりましたが、元太さんは今までとはまるで別人の様なお顔をされておられますが、本当に大丈夫でしょうか。」


 若殿も執務室に入った時から元太の表情を見ており、元太は今までの様な温和な漁師では無く、悲壮感が現れて要ると感じたので有ろう。


「私も最初元太さんから話しを聞いた時には正かとは思いましたよ、何時もならば漁師の元太さんは温和な表情で話されるのですが、与太郎さんの話しを聞いてから相当深刻になられたと思います。」


「何としても官軍の目的を知りたいと思いますが、私は元太さんが無理をされない様にと思って要るのですが、義兄上は今回の作戦に付いて元太さんは必要だと考えておられるのでしょうか。」


 確かに若殿の言わんとする事は理解出来る、だからと言って連合国の侍が下手な芝居を打ち、全てが知られる事にでもなれば、其れこそ連合国は官軍に知られ軍艦の一斉攻撃でも受ければ今の連合国に反撃するだけの武力も無く、数日も経てば連合国は全滅する、漁師の元太が行く事で官軍の警戒を緩める事も可能だ、其れよりも元太が緊張の余り芝居を見破られる事だけが今の源三郎は心配で有る。


「今の元太さんは我々が思う以上に緊張の連続で、私が下手な話をするよりも、今は元太さんの思われる通りにさせたいと、其れが今私の出来る事だと考えております。」


「承知致しました、私からは何も聞かず静かに見守りさせて頂きます。」


「総司令、私は何も出来ないのが悔しいのです。」


「斉藤様、私も同じですよ、ですが今はその方法しか有りませんので、何か有れば申して頂きたいのです。」


「私は何も思い浮かばないので御座います。」


「げんた、一体どうしたんだ。」


 浜の漁師が驚くのも無理は無い、さっき出掛けたと思ったげんたが馬車を飛ばして浜に戻って来たからだ。


「誰か銀次さんを呼んで来て欲しいんだ。」


「げんた、急ぐのか。」


「あ~もう大変なんだから、オレは作業場に要るからね。」


「よし分かったよ、オラが行ってくるよ。」


 浜の漁師が洞窟の現場で作業中の銀次を呼びに向かった。


「鍛冶のあんちゃん達に相談が有るんだ。」


「一体何が有ったか知らないが直ぐに行くから。」


「うん、其れと信太朗さん達にもお手伝いをして欲しいんだ。」


「技師長様、オレ達にも出来る事やったら何でもやりまっせ。」


「じゃ~こっちに来て欲しいんだ。」


 鍛冶屋と信太朗達がげんたの作業場に入った。


「さっきあんちゃんの所に行ったんだけど、その部屋には菊池から松川までの潜水船の乗組員全員が集まり、其れに松川の若殿様も斉藤さんでしょう、上田の阿波野さんに菊池の高野さんまでが居たんだ、其れでオレは話しを聞いたら、与太郎さんが着いた所に官軍の大軍が集まってるって、あんちゃんと工藤さんは官軍が何の為に大軍が集まったのかを調べるんだって、其れで元太あんちゃんが行く事になったんだけど、オレが作った投光器が要るんだ、其れで残りの八個を明後日の朝まで作る事になったんだ。」


「げんた、分かった、鉄を薄く延ばす作業が有るんだ。」


「其れは銀次さん達に頼もうと思うんだけど。」


「銀次さん達だったら出来ると思うんだ、だけど鉄を薄く平らに打つって大変なんだぜ。」


「オレも分かってるけど、鍛冶のあんちゃん達には鉄を切り揃えて欲しいんだけど。」


「よし分かった、今から、じゃ~少し掛かるけど銀次さん達にはわしらが説明するから。」


「うん、で、信太朗さん達には最後の仕上げをやって欲しいんだ。」


「技師長様、オレ達も必死にやりますんで。」


「オレは元太あんちゃんは絶対に浜に戻って来て欲しいんだ。」


「其れはわしらも一緒だ、げんたは最後の出来栄えを見てくれ、後はわしらに任せてな。」


「あんちゃん、有難う、じゃ~オレも一緒に始めるよ。」


「お~い、げんた、何が有ったんだ。」


 銀次と仲間の数人が作業場に飛び込んで来た。


「銀次さん、大変な事になってるんだ。」


 げんたは銀次と仲間に執務室での話しをすると。


「げんた、いや技師長、オレ達にもやらせてくれ、元太さんは絶対に戻らせるんだから、じゃ~オレ達は鍛冶屋さんやり方を教えて貰えばいいんだな。」


「銀次さん、有難う、其れともう直ぐあんちゃん達が浜に来ると思うんだ、だけどみんなは何も言う必要も無いからね、多分あんちゃんの事だから余計な事は聞かないと思うんだ。」


 漁師の元太が考えた作戦の決行日は明後日と決まり、源三郎達は菊池から松川までの潜水船の乗組員と若殿も含め、浜へと、浜では一体どの様な訓練をするのか決行日だけが決まり、げんたの考案した投光器造りも急がねばならず、各分隊長は役割分担と何やら隊員と話し合いしながらも浜へと急ぐ、そんな中で元太は何を考えて要るのだろうか、時々手を振り、何かを呟いており、源三郎も工藤も、更に若殿も元太には一切話し掛けず間も無く浜へと着く。



         


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