第 32 話。 遂に起きた大惨事。
「お~い、正太、正太は何処だ。」
正太の仲間が大声を張り上げ城内へ飛び込んで来た。
「正太、大変なんだ、大変だ落盤事故が起きたんだ。」
「えっ、落盤って、で何処なんだ。」
「其れが一番奥で、突然海の水が入って来たんだ。」
北の空掘りの洞窟では石炭と鉄になる土を採掘しており、最先端は何処まで進んで要るのかさえも分からず、洞窟は幅と高さが共に五間も有り、石炭と鉄の土が適当な間隔で続き、お堀から数町進んだところで左へとやがてゆっくりと下へと掘り進められた最先端で落盤事故が発生し先端が海水で埋没したと言う。
「正太さん、直ぐ参りましょう。」
若様と正太、更に執務室の家臣が大急ぎで城内を抜け、空堀から洞窟へと走って行く。
「お~い、誰か縄と、そうだ荷車を持って来てくれ。」
「かがり火と、松明も要るぞ。」
「お~い、誰か居るのか、返事してくれ。」
先端では仲間が必死に救助作業を行なっており、必死で呼び掛けるが一向に返事は無く、其の時、若様と正太が駆け付けた。
「正太さん、此処は。」
「此処は洞窟の一番奥で、あのお侍が採掘してるんです。」
正太が言うあの侍とは鬼家老から賄賂を受け取り、町民をいじめていた者達で、若様は役職を取り上げ採掘現場へと送り込んだ。
「其れで何か分かりましたか。」
「其れが、あっ、若様、あそこを見て下さいよ、青く少しですが明るくなって来ましたよ。」
其れは海面近くから入る陽の明るさで。
「えっ、正か、この場所は海の中では有りませんか。」
「お~い、もっと空気を送れ、他の現場に送ってる空気を止めてこっちに送ってくれ。」
洞窟内では十本近くの枝に分かれており、全ての洞窟内へは空気が送られ、その全てを止めてでも先端へと送れと言うので有る。
「どっぼん。」
と、突然若様が飛び込んだ。
「あっ、人が浮かび上がって来たぞ。」
「どっぼん。」
と、正太も飛び込み、その後、次々と仲間も飛び込み、海面に浮かんで来た仲間を抱き。
「誰か縄を。」
上からは次々と縄が掘り込まれ、若様と正太は縄を身体に結び付け。
「宜しいですよ引き上げて下さい。」
最初の一人が引き上げられ、その後、一人、又一人と引き上げられ、やがて十数人が海面から引き上げられ。
「おい、大丈夫か、返事するんだ。」
仲間は顔を叩くが全く返事が無い。
「荷車だ、荷車に乗せ洞窟の外へ運び出せ。」
一時的にも生き埋めの状態で今は生きて要るのかも分からず、次々と洞窟の外へ運び出されお城の中へと運ばれて行く。
「まだおられるのでしょうか。」
「オレも全然分からないんです。」
「ではもう少し待って見ましょうか。」
「若様、オレが。」
正太は大変な事になったと責任を感じて要る。
「正太さんの責任では有りませんからね。」
その後も若様と正太、そして仲間が大きく崩れ落ちた海面を見て要る。
「お~い、みんな開けてくれ、其れと水を持って来るんだ。」
お城には次々と運ばれ、山賀のお城は騒然とし、急を聴いた彼らの妻や子供達が城内に駆け付け、必死で声掛けをして要るが四半時以上も海中に、いや泥の中に生き埋め状態で果たして生き返るのかも分からない。
「おい、大丈夫か。」
と、仲間も必死だ、暫くして。
「う~ん。」
と、一人が息を吹き返した。
「おい、大丈夫か、水だ、早く。」
一人が息を吹き返し、そして、又一人が吹き返した。
「大丈夫か。」
「うん。」
と、返事は弱いが生きて要る。
そして。
「う~ん、げぼ。」
と海水を吹き出し。
「大丈夫か。」
「うん。」
「お~い、生きてるぞ。」
二人が生き返った。
「良かったなぁ~、あ~良かった。」
城内に運ばれた十数人の内、二人だけが生き返り、だが十人が死亡したとは若様も正太もまだ知らない。
「若様、もう誰もいないと思いますよ。」
「では一度出ましょうか。」
若様と正太は一時以上も海面を見つめたが、その後は誰も浮かんで来なかった。
そして、洞窟内の全員が外へと向かった。
「あの人達は大丈夫でしょうか。」
「私も分かりませんが、何卒、助かって欲しいのですが、其れよりも急ぎましょうか。」
採掘現場では今まで何度と無く落盤事故が発生した、だが今までは誰一人として死亡した事も無い。
其れが突然天井と前面が崩れ海水が雪崩れ込み十名が死亡した。
若様と正太と仲間がお城に入ると。
「若様、残念ですが十名が亡くなりました。」
「えっ、十名が亡くなれたのですか、う~ん、これは大変な事になりましたねぇ~。」
若様は其れ以上何も言わず呆然とし、正太はその場にへたり込み、誰もが口も聞けない状態で有る。
其れでも暫くして。
「其れで誰か分かったのか。」
正太は誰か分かって要るが、心の中でも正か、間違いで有って欲しいと願うが、やはり。
「正太、あのお侍達だよ。」
「お侍って、えっ正か本当なのか。」
「うん、間違い無い、オレは全員を知ってるんだ。」
「あ~なんてことだ、全部オレが悪いんだ、オレがお侍達には一番奥にって言ったんだ、其れでなんだ、畜生、オレはなんて事をしたんだ、オレが全部悪いんだ。」
正太は余りにも衝撃的な事故に自分を責め、泣き叫んだ。
「正太さんが悪いのでは有りませんよ、皆さんも分かって頂きたいのです、これがこの人達の運命なのかも知れないのですからね。」
「だけどオレが言ったんですよ、一番奥に行けって。」
「其れは違うんだ、お侍達はなぁ~、若様のお陰で本当だったら良くて切腹で、悪ければ打ち首を言い渡されても仕方が無かったんだ、其れに家族は露頭に迷い、下手をすれば飢え死にか狼の餌食になってたんだぜ、其れを現場で賄いのお役目をさせて頂き食べさせて頂き、自分の犯した罪を考えると不満どころか、若様には感謝しなければならないって言ってられたんだ。」
「ではあの方々はその様なお話しをされておられたのですか。」
「お侍達は若様や正太を怨んで無かったですよ、全部自分の責任だって、オレもあのお侍達は許す事は出来ませんよ、でもお侍達は怨んで無かったのは本当ですよ。」
「分かりました、誰か申し訳有りませんが、ご家族を呼んで下さい。」
数人が北の堀に作られた賄い処へと走って行き、暫くすると。
「貴方、貴方。」
「父上、父上。」
と、家族は必死で呼び掛けた、だが二人は二度と返事する事は無かった。
「皆様、大変申し訳御座いません、全て私の責任でどうか他の人達を許して頂きたいのです。」
若様は手を付き頭を下げた。
「若様、どうかお上げ下さいませ、私は何も若様の責任だとは考えておりませぬ、全ては主人が犯して罪で、本来ならば切腹を命ぜられても仕方の無い事で、其れに私達親子もこの様に賄い処のお役目をさせて頂き、食べさせて頂いており、若様には大変感謝致しております。」
「若様、私もで御座います。」
死亡した侍達の妻は若様を責めるのでは無く、むしろ感謝して要ると言う。
「奥方様、誠に有難う御座います。
私は今のお言葉を頂きまして少し安堵致しました。
其れで弔いで御座いますが、私は山賀のご家中として合同の弔いをさせて頂きたいのですが、奥方様は其れで宜しいでしょうか。」
若様は落盤事故で死亡した侍達を山賀の家臣として合同の弔いを行うと。
「私は何の異論も御座いませぬので何卒宜しくお願い申し上げます。」
「私もで御座いますので、宜しくお願い申し上げます。」
と、死亡した侍の妻達からは異論は無いと。
「左様で御座いますか、ではこれからご家族はお湯に入って頂き、お食事も亡きご主人様の傍で宜しければ召し上がって頂きたいと思います。
正太さん達はご家族を大広間にお連れして頂き、他のご家中は亡きご家中の身体を綺麗にして頂き、お着物は山賀のご家中らしく着替えをさせて頂きたいのです。」
「じゃ~今からお連れしますので。」
「正太さん、申し訳有りませんが大手門からお願いしますね。」
正太と十数人の仲間が荷車を山賀のお城の大手門へと引いて行く。
「若、大変な事態になりましたが、野洲の総司令にお知らせせねばなりませぬぞ。」
「吉永様、私も十分承知致しておりますが、今はどの様に認めれば良いのか浮かばないので御座います。」
突然襲った衝撃的な大事故に今は何も浮かんで来ないと、若様は相当深刻になって要ると吉永は思った。
「私で宜しければ認めまして早馬でお届けする様に致しますが、其れで宜しいでしょうか。」
「吉永様、大変申し訳御座いませぬが宜しくお願い致します。
私は暫く彼らの傍に居りたいと思いますので。」
若様はその後、遺体を安置する大広間へとお向かい、吉永は源三郎に知らせる為文を認め、数人の家臣が松川、上田、野洲、菊池へ第一報を知らせる為に早馬を飛ばした。
若様は大広間の隅に座り、何かを考えて要る。
そして、一時程して山賀の藩士としての装束に身を包まれた遺体が家臣の手で運ばれ、若様は手を付き頭を下げた。
その後、半時程して家族も家臣の妻として正装に身を包み遺体の傍に座り、子供達に話し始めた。
「正幸、父上はお役目を見事に果たされ壮絶なご最後を遂げられたのです。
ですがお役目と言うのは色々と有り、父上は若様に嘆願され誰もが最も嫌うお役目に就かれたのです。」
「母上様、父上様は私の誇りで御座います。」
「正幸、誠に良い考えです。
母も父上のお傍に居りたいと願い、若様に何卒宜しくとお願い申し上げ、今の賄い処のお仕事に就かせて頂いたのですよ、ですから正幸は何も卑下する事は有りませんからね。」
「母上、私も父上の様に皆様方のお役に立てるお役目に就きたいと思います。」
其れは何もこの家族だけで無く、皆が同じ様な話しをしており、確かに死亡した家臣は罪を犯した。
だが家臣は若様を怨むよりも自分の犯した罪に対し、世間から見れば余りにも軽い刑を受けたと。
そして、若様はひと時も離れる事も無く夜が明けた。
「若、夜が明けました。」
「吉永様、有難う御座います。
私は今から身を清めたいと思いますので。」
相当疲れて要ると吉永は思うが、これも若様にとっては大事な試練かも知れず、何れ起きるで有ろう戦で知り合いが戦死するからだ、だが現実は其れ以上に過酷で有る。
其の少し前。
「私は山賀の。」
「さぁ~どうぞ、其のままで宜しいので。」
松川の門番も今頃になれば他国から早馬を飛ばして来ると言うのは官軍が攻めて来たか、其れとも大事故が起きたのか何れかだと理解して要る。
「若君様、大変申し訳御座いませぬ。」
「一体何が有ったのですか、詳しくお話しを聞かせて下さい。」
「遂二時程前なのですが、若君様もご存知の北の堀の最先端で大きな落盤事故が発生したので御座います。」
「何ですと、洞窟で落盤事故ですと、で、洞窟内の様子は分かって要るのですか。」
「其れが大変な事に最先端の天井部分が大量に崩れ落ち、作業中の十数名が落下した土砂と共に海中に沈んだので御座います。」
「今、何と申されましたか、私は海中に沈んだと聞こえたのですが、誠なのですか。」
「若君様、間違いは御座いませぬ、私も若様のお傍に居りましたので。」
「其れで松之介は。」
やはり兄弟だ、竹之進は山賀に婿養子として行った松之介が無事で有る事を考えた。
「若君様、若様は皆が見て要る前で海中に飛び込まれ数人を助けられたので御座います。」
「左様でしたか。」
若殿は松之介が無事で有ると、だが其れよりも落盤事故で海中に沈んだ作業員を助ける為に自らの危険を顧みず先頭になり果敢に飛び込んだと聞き安堵した。
山賀の伝令はその後も知る得る限りの事を話すと。
「斉藤様、医者と薬を荷馬車に。」
「承知致しました、直ぐ手配致します。」
この頃になると連合国の医者は必ず一人か二人はお城で待機し、城下では数人の医者がおり、一人は城下の領民を診るが、他の医者は城中に入り日夜の関係無く領民の緊急用にと、休みの無い役目となっており、そして、半時程して医者と薬を積んだ荷馬車は山賀へと向かった。
松川で馬の交換した別の伝令は上田、野洲、菊池へと馬を飛ばして行く。
「斉藤様、私も参りますので。」
「若殿、私もご一緒させて頂きます。」
と、若殿と斉藤、数人の家臣はその四半時程して松川を出立し山賀へ馬車を飛ばした。
「伝令、伝令で~す。」
山賀の伝令は野洲の大手門を潜り抜け源三郎の要る執務室へと。
「総司令、伝令です。」
「ご貴殿は。」
「私は山賀の、其れよりも山賀の採掘現場の最先端で大きな落盤事故が発生し数名が亡くなられました。」
「何ですと、落盤事故で数名が亡くなられた、何と大変な事故が起きたんだ、それで亡くなられた人達は。」
源三郎も初めて聞く大事故で、山賀の北の空堀からは大昔落ち武者が掘ったと思われる大きな洞窟が有り、燃える石と鉄になる土が大量に採掘されており、洞窟の中でも最先端は山賀の断崖絶壁の真下を掘っていたとは若様さえも知らず、其処で今回大きな落盤事故が発生し数名の作業員が死亡したと言う。
「総司令、山賀に官軍が攻めて来たのでしょうか。」
工藤と吉田が飛び込んで来たと、工藤は源三郎と共に山賀の草地の官軍兵二百名を誘い込み全滅させた現場におり、別の部隊が山賀に攻め込んで来たと思ったので有る。
「官軍が攻めて来たのでは有りませんよ、採掘現場で大きな落盤事故が発生し、多くの作業員が亡くなられたのです。」
「えっ、大きな落盤事故が発生したので御座いますか。」
「吉田さん、軍医はおられると思うのですが。」
「了解しました、直ぐ手配致しますので私は戻ります。」
吉田は大急ぎで部隊に戻って行く。
「私は山賀に向かいますので。」
「総司令、私も同行させて頂きます。」
半時程して源三郎と工藤、其れと軍医を乗せた馬車は山賀へと向かい、その頃になると上田、菊池からも医者と薬を乗せた馬車が向かったのも当然で、山賀で落盤事故が発生し多くの怪我人が出て要る事も考えられた。
「若様、どうかお気になされぬ様に願いたいので御座います。」
落盤事故で犠牲になった家臣の妻で有ろう、若様には何の怨みも無く、主人の犯した罪に天罰が下りたと解釈して要る。
「いいえ、私が全ての責任を持つのは当たり前で、今回皆様のご主人が亡くなられたのも全て私の責任で御座います。」
「我が主人が犯した罪で本来ならば打ち首と言う、山賀の武士で有るならば最も屈辱的な死に方をせねばならぬのを、若様は採掘現場に入れと申されました。
私も最初は若様をお恨み申しました、ですが翌々考えて見ますと主人は我が身の事だけを考え、ですが若様は領民の為に今一度考え直し領民の為に命を捧げよと申されたと私は考えたので御座います。」
「若様、私もで御座います。
私も井川様と同様で御座いまして、主人は打ち首、そして、私達親子は山賀を追放、ですが山賀を追放されたとしましても、一体何処に行けばと、私達親子は飢え死にが待って要るのです。
若様から賄いのお役目に就けと、其れは私達親子に対し賄いのお仕事に就く事でお食事も頂け眠る所も有ると言う、私達親子には何の不満も御座いませぬ。
私は主人が犯した罪を私自身も償えと、其れが私自身よりも子供達の為だと理解しておりますので、どうか若様、私達よりも領民の事だけを考えて頂きたいので御座います。」
家臣の妻は若様に嘆願した。
「若様、どうかお願い申し上げます。
私達親子の事よりも領民の事を何卒宜しくお願い申し上げ。」
家臣の妻は若様は領民の事を考えて欲しいと頭を下げた。
「若様、私は母上から聴いております。
父上は領民の為に山賀の武士ばらば一番危険だと言われるところでお役目を果たされておられたと思います。
私も大人になれば父上同様領民の為に一番危険なお役目に就きとう御座います。」
何と彼はまだ幼いが、母親は父親が領民の為に一番危険なお役目に就きたいと申し出たと作り話をした。
「若様、私もで御座います。
母上からは父上が何時も領民の為だ、領民が幸せになる為に何が出来る、何を致せば領民の為のになるのだと自問自答され、父上は領民だけが一番危険な採掘現場で働くと言うのは山賀の家臣として恥じるべきことだ、山賀の武士ならば領民を外しても危険な採掘現場に入る、其れが山賀の武士だと申されておられたと伺っており、私も元服したならば父上同様誰もが最も危険な採掘現場だと申されるお役目に就きたいと、今は考えております。」
やはりだ、母親は作り話に父親は最も危険な役目に就き、今回は大きな落盤事故が発生し死亡した。
だが彼らは成人になれば父上同様領民の為には自らが一番危険なお役目に就くと言う、母親の作り話だが、幼き子供には父親は最も尊敬される人物だ有ると信じさせたので有る。
「皆様、私は皆様からお話しを伺い、少しですが安堵致しました。
本来ならばご主人を父上を殺したと責任を問われると覚悟を致しておりました。
ですが皆様方は私を責められず、私は何とお礼を申し上げて良いのか分かりませぬ。」
若様は全員に頭を下げた、すると。
「若様、私は今主人が亡くなり、子供達には何も教える事が出来ないので御座います。」
「少しお伺いしたいのですが、賄い処はそれ程までにも忙しいので御座いますか。」
「はいと申し上げれば良いのでしょうか、洞窟内で採掘をされて要る作業員の方々が次々と賄い処に来られ、私は子供達に学ばせる余裕も無く、仕方無く子供達は読み書きを一人で学んでおります。」
若様は正かと思う程で、一番過酷な現場は採掘現場だと、確かに現実は採掘現場が最も過酷だ、だが賄い処も想像以上に過酷な現場だと考えさせられ、賄い処には日夜の関係無く採掘現場から作業員が食事に来る。
作業員は交代がおり採掘には何の支障も無い、だが賄い処には交代するだけの人員が不足して要る。
特に家臣の妻達は今まで主人が犯した罪に他の女性からは休む事さえも与えられず、だが今までは誰にも話す事さえ出来ず、其れが今回の大事故で主人を失い初めて若様の知る事となった。
「若様、私は何もお役目に対し不満だとは考えておりませぬ、ですが主人を失い、子供達の将来を考えますと、何か良い方法は無いか其れを考えますと不安なので御座います。」
若様は何も言わずただ妻達の話を聴き、妻達は不満と言うよりも子供達の将来を考えて要る。
確かに今目の前に居る子供の殆どがまだ幼い、これが町民ならば一体どの様な育ち方をするのだろうか、だが目の前の子供達は幼いと言っても山賀の武士の子供達だ、今の内にしっかりと学ばせれば何れ連合国の役に立つと、若様はじ~っと考えるが、直ぐに名案は浮かばない、其れでも何とか考え付いたのか。
「皆様方、今私が考えた方法ですが、朝の食事が終わればお城に来て頂き、山賀の事、連合国の事など色々と学び、夕刻には皆様方の元に戻り食事をすると言うのは如何で御座いましょうか。」
「若様、では日中はお城で学ばせて頂けるので御座いますか。」
「ええ、私は山賀だけの事よりも連合国の将来を考えたのです。」
「私は若様のご配慮に有り難く感謝致します。
私は何事も辛抱しますので、どうか子供達の事を何卒宜しくお願い申し上げます。」
「私も同様で若様の申されます連合国の為に子供をお預け致したく考えております。」
その後、妻達全員が子供を預け教育する事に賛同した。
「若様、ですが、野洲の。」
「貴女の思われておられるのは義兄上の事だと思いますが、義兄上の事ですからきっと賛成して頂けると信じております。」
妻達の不安は理解出来る、この様に重要な問題を源三郎に相談せず決めて良いものかと。
「まぁ~其れよりも皆様方はご主人に傍に後の事は全て私に任せて下さい。
間も無く義兄上も到着されると思いますのですね。」
妻達は若様に礼を言って遺体の傍に向かい、妻達は遺体となった亡き主人に何かを報告して要る様子で、その数時後、松川の若殿が到着した。
「松之介、一体何が起きたんだ。」
「兄上、私の不注意で家臣十名が亡くなられました。」
若様はその後、兄で有る若殿に詳しく話した。
「そうか、良く分かったが、野洲の義兄上には。」
「まだお着きでは御座いませぬ。」
「お~い、みんな聞いて欲しいんだ。」
「正太、一体どうしたんだ。」
「みんなは今朝突然の落盤事故でお侍が十人死んだ。」
「其れだったらみんな知ってるぜ。」
「其れで何だけど、オレは若様の傍に居たんだ、十人のお侍の奥様方の話を聴いてたんだけ、確かにあのお侍達は鬼家老から賂と受け取り、城下では好き勝手にしてた、其れは誰でも知ってると思うんだ。」
「なぁ~正太、そんな事よりオレ達は何時から現場に入れるんだ。」
「オレは何も聞いて無いけど、若様の事だから今は安全が確認出来るまでは暫く採掘作業は中止して下さいって言われると思うんだ。」
「やっぱりなぁ~、まぁ~若様の事だから危険が去るまでは採掘は出来ませんよって言われると思ったんだ、正太の言う通りだなぁ~。」
「なっ、オレの言った通りだろ、若様の事だからお侍の弔いが終わるまでは採掘は出来ないんだ。」
「そんな事はとっくに分かってるんだ、だけどオレ達はなぁ~、オレ達が考えた事をやってもいいのかって話しをしたいんだ。」
「一体何をやるつもりなんだ、採掘は出来ないんだぜ。」
「オレ達はなぁ~、今まで掘ったところを絵図にしようと考えてるんだ。」
「絵図って、だけどなぁ~。」
「まぁ~オレ達に任せるんだ、若様の事だから絶対に反対されないと思うんだ。」
「まぁ~其れは間違いは無いと思うんだ。」
「今朝、落盤が起きたところは多分だけど断崖絶壁近くの海だと思うんだ、だけどその場所が一体何処なのかもオレ達は全然知らないんだぜ、若しかしたら山賀よりも松川の浜近くかも知れないんだ、オレ達は若様の事だからあの場所を調べるられと思うんだ、だからオレ達はその前に出来るだけでも調べようとみんなで決めたんだ。」
「まぁ~其れは分かったけど、だけどどんな方法で調べるんだ。」
「そんなの簡単な事だ、オレ達の仲間には大工の経験した者も居るんだ、だから今回はそいつが中心になってやる事にしたんだ。」
仲間には大工の経験者は勿論、木こりや鍛冶屋の経験者もおり、大工ならば家を建てる前に必ず図面を書く、其れには東西南北も記されており、大工の経験者ならば図面を書く作業と同じだと仲間は考えて要る
「だけど洞窟の中に入ると方角が全然分からないんだぜ。」
正太は一体何を心配して要る、仲間は今回大きな落盤事故が発生し、全くの予想外だと言うのか、大量の海水が流れ込み、若しかすれば他の採掘現場でも起きる可能性が有ると考え、採掘の再開まで少しでも今の洞窟内を調査し、将来も起きるで有ろう落盤事故で海水の流入を防ぎたいので有る。
「なぁ~正太、オレ達はあのお侍達の事は物凄く可哀想だと思ってるよ、確かに今度の事故でお侍が死んだ。
だけど次はオレ達かも知れないんだぜ、オレ達の仲間が死ぬのかも知れないんだ、オレ達は今度の事故は何も考えないで掘ってたんで起きたと思ってるんだ、その為にお侍が死んだんだ、オレもだけどオレは仲間が事故に巻き込まれて死ぬのだけは見たく無いんだ。」
「分かったよ、じゃ~お前に任せるから、だけど絶対に無理はするなよ、オレも仲間の死体は見たくは無いからなぁ~。」
「有難うよ、其れで正太は一体何の話しで来たんだ。」
正太も仲間の話ですっかり忘れていた。
「あ~そうだった、さっき若様と奥様達の話を聴いてたんだ、だけどお侍達は確かに鬼家老から賂を受け取り城下では好き勝手な事をして城下の人達には物凄く憎まれていたと思うんだ。」
「そんなの誰でも知ってるぜ、正太もだけどオレ達の仲間も相当やられたからなぁ~。」
十名の家臣達は鬼家老の配下を良い事に城下では何をしても許されると好き勝手にし、その被害者は城下の人達全員と言っても過言では無かった。
妻達も同じ家臣の妻で有りながら他の妻達を顎で使い、子供達も同様で、其れが鬼家老が腹を切ると事情が一変し、家臣達は切腹も出来ず、打ち首にもならず、北の空堀の最先端で石炭と鉄になる土の採掘現場へと妻と子供達は屋敷を追い出されお堀の中に建てられた作業員用の賄い処へと、だが現実は余りにも過酷で休む事も簡単では無かった。
妻達も主人が家臣の頃には栄華に暮らし、だが今はその主人も亡くなり子供達には何か恩赦が欲しと聞こえ、若様は子供の恩赦を考えるのでは無く、将来は連合国の為に役立てる方法を考えた。
「正太、正かお侍の。」
「そうじゃ無いんだ、オレの言いたいのはお侍は死んだ、其れに奥さん達は賄い処で働くって事なんだ、其れでこれからはあの人達の事はあんまり関わらないで欲しいだ、若様は何も許したとは言って無いんだ、だけど若様は山賀の家臣としてお弔いをするって言われてるんだ。」
「まぁ~其れが若様だと思うんだ、死んだ人の悪口は言われないと思うんだ。」
「だから、これからは余計な事は言うなって頼んでるんだ、みんなも分かってくれよ。」
「まぁ~其れも仕方無いか、正太は優しいからなぁ~、オレも死んだお侍の悪口は言いたくないしなぁ~。」
「分かってくれたか、みんなも頼むよ。」
「分かったよ、正太、じゃ~オレ達のやる事にも反対しないんだなぁ~。」
「えっ、何をだよ。」
「何をって、もう忘れたのか、洞窟の中を調べるって話しだよ。」
「あ~あの話か、オレは別に反対はしないけど、その前に若様に話は通さないとなぁ~。」
「分かったよ、じゃ~今から行くから正太も一緒にだぜ。」
一方で野洲を出発した源三郎達が乗る馬車は松川で馬を交換し、一路山賀へと飛ばしていた。
「軍医さん、誠に申し訳御座いませぬ。」
「私は宜しいので飛ばして下さい。」
「有難う、では工藤さん急ぎましょうか。」
工藤は山賀まで数里となった所で改めて馬に鞭を入れた。
「若様、あっ。」
正太と仲間数人が執務室に入ると其処には松川の若殿と斉藤、其れに医者が居た。
「正太さん、少し待って下さいね、誰かお医者さんを怪我された人達のところへ案内して下さい。」
松川の医者は若様に一礼し怪我人の元へと案内されて行く。
「正太さん、申し訳有りませんでした、其れでお話しが有るのでは。」
「若様は若殿様とお話しをされてたんじゃ無かったんですか。」
「私と松之介の話は別に大した内容では有りませんので、其れよりも正太さんのお話しを伺いたいのです。」
さすがに若殿も分かっており、正太と仲間の数人が松之介のところに来ると言う事は重要な話しで有ると。
「若殿様、申し訳有りませんです、じゃ~若様に少しお願いが有るんですがいいですか。」
「正太さんのお願いならば私は何も拒否する事は出来ませんのでお話しを伺いますよ。」
「ではお話ししますので。」
正太は仲間から聴いた話しをすると。
「松之介は洞窟内の事は全て正太さんに任せて要るのか。」
「兄上、誠に申し訳御座いませぬ。」
「其れでは何の役にも立たないでは無いか、正太さん達は今回の落盤事故は今後も予想されると考え採掘作業が開始される前に調査されるのですね。」
「若殿様、オレ達はお侍様は自業自得だとは思ってません。
あの現場にお侍様が行って無かったらオレ達の仲間が死んでたと思うんです。」
正太は今は仲間だと言っても十名の侍が死亡した落盤事故を単なる悲劇だと考えていない。
「オレは採掘作業は絵図が出来上がるまで止めたいと思ってるんですが駄目でしょうか。」
「今お話しを伺いましたが、私も大賛成です。
私は絵図が完成するには相当な期間が必要だと考えておりまして、其れとあの場所が一体何処の海岸なのかも調べる必要が有ると思うんです。」
若様は落盤事故が起きた場所を知りたいと考えており、だが其れは簡単では無い。
「松之介は場所を知りたいと言うが向こう側へ簡単に行けるとでも考えて要るのか。」
「兄上、私はまだ何も調べてはおりませので。」
「海に潜ると言うのは大変でしてね、例え漁師さんでも無理な場所も有りますので、明日にでも宜しいので私も一緒に先端部にお連れ願いたいのでが宜しいでしょうか。」
「えっ、若殿様が行かれるんですか、でも今は物凄く危険だと思うんですけど。」
「私は潜るとは申しておりませんよ、穴の大きさと海面から穴の上までと明るさを知りたいのです。」
其の時、山賀の大手門に源三郎が到着した。
「私は源三郎と申します。」
陽が西の山に入り辺りは薄暗くなり始めた。
「どうぞ、若様は執務室におられると思いますので。」
「では馬車をお願いしますね。」
源三郎と工藤、軍医が馬車を降り、執務室へと向かった。
「若、落盤事故で、やはり若殿も来ておられたのですか。」
「義兄上、誠に申し訳御座いませぬ。
私の不注意で十名の侍が亡くなられました。」
「お話しを伺いますが、その前に軍医さんを怪我された人達のところへ案内して下さい。」
家臣が軍医を怪我人の居る部屋へと案内して行く。
「では、お話しを伺いましょうか。」
「実は今朝突然採掘現場で落盤事故が起きたのです。」
その後、若様は源三郎に詳しく話した。
「そうでしたか、私にも責任の一端が有ると考えております。」
「源三郎様に何で責任が有るんですか。」
「責任と言うのはねぇ~、何も現場に居る者だけでは有りませんよ、私も責任が有ると言ったのは、最初の頃ですが正太さん達と洞窟に入ったのは私です。
その私が今回の様な落盤事故が起きると予想していなかったと言う事です。
全てを採掘するまで洞窟を何処まで掘るのか、其れも考え無ければならないのが責任者として私の義務でしてね、私は其の義務を怠ったのですから其の意味で本来ならば責任の全ては私に有るのですよ、正太さんも皆さんも分かって頂けますか。」
若様は何も言えず、本来ならば山賀の全てを任されて要るのは自分で有り、其れを今まで正太と言う町民に任せていた、だが源三郎は正太は善良な町民で正太や若様に対し全ての責任は最高司令長官としての自分で有ると。
「そんな無茶な話しって有るんですか、源三郎様は何時も領民の事だけを考え、オレ達の様な者にも大変お優しいんで、でもオレは採掘現場を任された以上はオレの責任なんです。
オレがもっとしっかりと考えてれば良かったんですから。」
源三郎は正太は正直者だ、やはりあの時、声を掛けたのは間違いは無いと。
「幕府の時代、其れは侍の時代ならば正太さん、いや私と若は今頃腹を切って責任を取っていると思います。
ですが私は切腹と言う責任の取り方は大嫌いでしてね、確かに十名の方が亡くなられたのは事実です。
私はねぇ~事実を認め、今後同じ様な落盤事故を招かない様に考え、そして実行する事の方が亡くなられた方々の供養にもなると考えて要るのです。」
「じゃ~何か方法でも有るんですか。」
「洞窟内の全てを調べるんですよ。」
「えっ、其れってさっき仲間が若様にお話しをした様にも思うんですけど。」
「さすがに正太さん達ですねぇ~、正か私の頭の中を見たのでは有りませんよね。」
と、源三郎は大笑いするが、正太は。
「そんなのって無茶ですよ、仲間もオレも源三郎様が考えてるとは全然考えて無かったんですから。」
正太も仲間も正か源三郎と同じ事を考えて要るとは思いもしなかった。
「その調べには相当な日数が掛かると思いますが。」
「さっきも若様にお願いしたんですが、全部調べて、其れで絵図が出来るまでは作業には入らないって。」
「其れでは宜しいのですか、私は落盤事故を二度と招かない様に日数を掛け洞窟内の隅々までを調査する事が大事だと考えておりますので正太さん達は準備を進めて下さい。
其れと、若、今回の現場は海水が流入しており、私は向こう側に行ければと考えて要るのですが。」
「先程も私から松之介から聴いたのですが、海中に潜り向こう側に行くと言うのは大変危険でして、並みの者ではまず無理だと思うのですが。」
「若殿程のお方でもでしょうか。」
「私が潜った時とは事情が違うと思うのです。
松川の浜に有る洞窟は頑丈な岩盤で出来ておりますが、此処の洞窟は多分ですが崩れると言うのは岩盤では無く粘土質の土と岩が集まり出来たと考えて要るのです。」
若殿は松川の洞窟に入り上田へと抜けた。
松川の浜に有る洞窟の入り口は岩が波に削られ出来た入り口で洞窟内は全て岩盤だ、だが山賀で掘り進めて要る洞窟は石炭と鉄になる土で出来ており非常に崩れやすいと言う。
「では下手に潜ると言うのは大変危険だと申されるのですか。」
「採掘現場の様子ですが、掘るのは難しいでしょうか。」
「オレも掘りましたが、思った以上に簡単だとは言えませんが、鍬やクワでも掘る事が出来るんですよ。」
「今お聞きの通りで余程慎重にやらなければ潜られるお方もですが、付近におられる人達にも犠牲者が出る事も考えられるのです。」
若殿は慎重に事を進める様にと源三郎に進言した。
「よ~く分かりました、正太さん、いや若、以前此処に来られた女性の中に海女さんはおられ無いか伺って頂きたいのです。」
源三郎は海女を探せと、海女ならば潜る事が仕事で、深く、いや長く潜って行けるだろうと考えた。
「海女さんですか、あっ、そうか誰か綾乃さんを呼んで下さい。」
暫くして綾乃が入って来た。
「若様、あっ。」
綾乃が驚くのも無理は無い、源三郎の傍には工藤がおり、綾乃は以前工藤に会って要る。
「綾乃様にお伺いしたいのですが、綾乃様が連れて来られた女性の中に海女さんはおられるのでしょうか。」
「海女でしたらおりますが、其れが何か。」
「もう大丈夫の様ですねぇ~。」
「私もこれで一安心で御座います。
綾乃様、明日にでも宜しいのですが、その海女さんを呼んで頂けましょうか。」
「承知致しましたが、私も少しお伺いしたいのですが、此方は官軍の。」
「私ですか、私は工藤と申しまして、今は総司令のお傍で任務に就かせて頂いております。」
「工藤様でしたか、工藤様、私を覚えておられますでしょうか。」
工藤は突然の話しで綾乃と言う女性が覚えて要るかと、だが工藤は全く記憶が無いと表情をして要る。
「誠に申し訳御座いませんが、私は記憶が御座いませんが、何故、私の事を覚えておられるのでしょうか。」
「やはりで御座いますか、私は有る小藩の家老の娘で、有る時、工藤様が大勢の兵隊さんを連れて来られ幕府軍か若しくは官軍の名を語る偽者の官軍兵が来るやも知れませんと、その者達は農村や漁村、更に小さな国を攻撃し、女性は犯し最後には全員を殺すので注意して下さいと申されたので御座います。」
「左様でしたか、ですが私は行く先々の農村や漁村、そして、宿場にも寄り同じ様な話しをしておりまして、若しも綾乃様のお国でも同じ内容の話をしていたとは思うのですが、余りにも多くのところで話をしておりましたので大変失礼かと存じますが。」
「いいえ、其れならば宜しいので御座います。
では明日にもで呼んで参りますので。」
綾乃は其れだけを言うと執務室を出た。
「工藤さんは誠覚えが無いと申されるのですか。」
「先程も申しました通り、余りにも多くのところで話しをしておりましたので、失礼かと思うのですが記憶が無いと言うのが正直なところで御座います。」
「まぁ~其れも仕方が有りませんねぇ~。」
源三郎は工藤を見てニヤリとした。
「義兄上は海女さんにお願いされるのでしょうか。」
「私は一度海女さんに見て頂き、海女さんの判断にお任せしょうと考えて要るのです。」
「オレ達は明日から準備に入りたいんですが宜しいんですか。」
「今度の調査は非常に大事だと考えておりますので、持参する物は出来るだけ多く揃えて下さいね。」
源三郎は今回の調査は相当な規模になると考えており、準備だけでも数日間は掛かると。
「正太さんはお仲間の皆さんには出来るだけ詳しく説明して下さいね。」
正太の仲間は正かこれ程にも大掛かりな話しになるとは思っても見なかった。
最初、正太は話しをした頃はのんびりと洞窟内を調べるつもりで余り深刻には考えておらず、其れが源三郎の到着で一気に変わったので有る。
そして、明くる日の朝綾乃は数人の海女を連れ執務室に入った。
「綾乃様、皆様にもこの様な朝早く大変申し訳御座いません。」
若様は綾乃と海女達に頭を下げた。
「この人達は私がおりました国の海女さんで御座います。」
綾乃と海女達も若様に頭を下げた。
「昨日のお話しですが、海女さん達には余り詳しくお話しが出来なかったので御座います。」
「私の責任ですねぇ~、私が何も申し上げなかったものですから、では今から皆様方に詳しくお話しをさせて頂きますので、ですが出来る、出来ないは皆さんの判断にお任せ致しますのでね、其れではお話しをさせて頂きます。」
若様はその後、海女達に詳しく説明した。
其の頃、源三郎と若殿、そして、工藤は落盤事故が起きた洞窟へと入って行った。
「其れにしても見事な造りで御座いますねぇ~、野洲や松川のお城とは全く別の意味で造りが違うと申しましょうか、隠し扉が北の空掘りに通じて要るとは正かとは思いましたが、このお城を造られた時代の敵方の軍勢も見付ける事が出来なかったのでは御座いませんでしょうか。」
工藤も驚きの表情で故郷の城は勿論、野洲は別として菊池や上田、松川のお城の造りが普通だと思っていたが、山賀のお城は其れよりも遥かに大きく、更に何故北に有る空掘りだけが巨大な造りなのか全く理解が出来ないと言う。
「私も最初に見た時には其れはもう驚きの連続でしたね、正か北の空掘りだけが何故この様な巨大な造りなのかも全く理解出来ず、其れに正かこの様は巨大な洞窟が掘られて要るとは考えてもおりませんでしたよ。」
源三郎達は松明を持ち洞窟内をゆっくりと進んで行く。
「総司令、これが洞窟の本道だと思っても間違いは無いのですか。」
「私もその様に思っておりますよ、本道内の高さも横幅も十尺以上は有りますが、全てが岩でしてね、この本道の他にも数本の脇道が有ると思うのですが。」
「源三郎様、これからは私がご案内させて頂きますので。」
「左様ですか、ではお願いしますね。」
高木は源三郎達の案内役を任された。
「もう直ぐ左に曲がる脇道が有り、その先が今回落盤事故の有った先端で御座います。」
高木の説明では直ぐ先端に着くと思われたが、其れが五町、いや半里以上進んでも先端部には着かず。
「うっ、これは潮の香だと思いますが、先端部では引き潮の時には外海から風が入って来るのですか。」
「私も今初めてなので知りませんでしたが確かに潮の香りで御座いますねぇ~。」
高木は勿論知る事も無く、落盤事故で外海に通じる天井部分が崩れ落ちたのだろうか、其れにしても長い脇道だと、源三郎達は思った。
「本道から丁度一里くらいのところに先端部が有るのです。」
「え~、一里以上も有るのですか。」
「其れに本道からは少しづつですが下りになっております。」
源三郎もだが工藤も全く気付いていない。
「所々ですが平坦なところが有るのですが、其処で荷車を一度止めるので御座います。」
「其れは良い考えですねぇ~、重い荷車を引くのですから、長く続く坂は非常に危険を伴いますから。」
「其れが少し違いまして、洞窟内の荷車を引くのは人間では無く馬が引いて要るのです。」
「成る程ねぇ~馬ですか、では重い荷車でも大丈夫だと言えますねぇ~。」
正太が事故が起きる可能性が有ると言って二頭の馬に引かせ、荷車には山盛りに積む事を禁じて要る。
「若様が正太さんの仲間の提案を聞かれ、其れで今まで一度も事故は起きていないのです。」
やはり洞窟の内部に幾らかがり火が点けられて要るとは言え、外に比べると遥かに暗く、何が原因で大きな事故を招くかも知れないと、正太の仲間が考え、若様に提案し快諾を得たので有る。
「成る程ねぇ~、やはり正太さんの仲間は大した人達の集まりですねぇ~。」
「まだ有るのですが、正太さん達は北の空掘り近くに茂って要る細く強い蔓を何本も束ね、
長い蔓の縄を作り、其れを荷車に繋いだのです。」
「其れで所々に滑車が地面近くに有った訳が分かりましたよ、まぁ~何とも素晴らしい提案でしょうかねぇ~、私は驚きましたよ。」
正太とその仲間は事故だけは起こさない様にと考えたのだと改めて感心するので有る。
話しの途中で今回の事故現場となった先端部へと着いた。
「お~これは何と言う事だ。」
源三郎は思わず声を上げた。
「これだけ大きな落盤事故が発生し、十名だけの犠牲で済んだとはとても思えませんが。」
「物凄く大きいですねぇ~、横幅が七から八間は有ると思いますが、其れに長さはう~ん、一町以上は有るのでは御座いませんか。」
若殿も正かこれ程にも大きな落盤が起きたとは考えもしなかった。
「義兄上、先程の潮風ですが、どうやらあの部分から入って来ると考えられますが。」
「確かにその様ですが、天井部分までが五尺くらいだとして幅が十尺は有る様にも見えるのですが、余りにも遠いので正確には分からないのですねぇ~。」
「若しかすればこの洞窟を利用出来るやも知れませんよ。」
工藤は早くも次の戦略を練り始めたのだろうか、だが其れは工藤だけでは無かった。
「工藤さんもですか、若しかすれば私と同じ事を考えておられるのでは御座いませんか。」
やはりだ、源三郎も考え付いたのだろうか 。
「ですが其の前にこの場所と外海を調査する必要が有りますねぇ~。」
「まぁ~余り急ぐ事は無いと思いますよ、急げば回れと申しますからねぇ~。」
「承知致しました。」
「では一度戻りましょうかかねぇ~、若と綾乃さんが待っておられると思いますので。」
源三郎達は大きな収穫を得たと言う思いで、若様の待つお城へと戻って行った。