第 31 話。 漁師は一体何を見たという。
「お~いみんな源三郎様が戻って来られたぞ。」
と、早くも野洲の城下では領民達の出迎えが始まり、その大騒ぎに信太朗達は物凄い驚き様で、源三郎が言った様に城下の領民達は源三郎と呼んで要る。
「なぁ~わいらは一体どうなるんや。」
「お前はあほか、そんな事オレが知るか、でも源三郎様って物凄い人気やなぁ~。」
「ほんまやなぁ~、わいもこんなに凄いって思って無かったんや。」
信太朗達は余りにも大騒ぎに唖然とし何も聞けない。
「ねぇ~源三郎様、今度は何処の女なんですか。」
「其れがねぇ~山賀で少しですがね揉め事が有りましてね、私が直接仲裁に入り終わらたのですがね、その相手と言うのが二百人程の官軍兵でしたよ。」
「なぁ~んだ、じゃ今度も女じゃ無かったんですか、面白い事もなんにもない~んだふ~んだ。」
と、城下の女は言うが、源三郎には何時もの事だからと気にもしていない。
「なぁ~伊助、源三郎様って簡単に二百人の官軍兵って言ってはるけど、此処の人達は何とも思えへんのかなぁ~、わしにはさっぱり分からんわ。」
「ほんまや、わいも全然わからんわ、あの人達は源三郎様を知ってるから平気な顔してるんかなぁ~。」
「まぁ~オレ達には全然わからん事ばっかりと言う事やなぁ~。」
信太朗達はどの様に解釈して良いのか其れすらも分からないので有る。
「私は今からお城に参りますのでね、皆さんも気を付けて下さいね。」
と、源三郎はお城へと向かった。
「あれは総司令ですよ、お殿様にお伝え下さい。」
もう其の時には家臣はお殿様がおられる執務室へ走って要る。
「源三郎様、ご無事で何よりで御座いました。」
大手門の門番は何時もの様に源三郎を迎え、源三郎も会釈し執務室へと向かった。
「お~源三郎、良くぞ無事で戻ったのぉ~。」
「殿、其れが実に簡単に終わりまして。」
「えっ、お殿様って。」
信太朗達は慌てて土下座すると。
「その様な事はするで無いぞ、してその方達は。」
「殿、実はこの人達で、そうですねぇ~、簡単に申しますと元やくざさんでして、その後官軍に入ったので御座います。」
「何と、その方達は元やくざなのか、だが一体何故官軍に入ったのでじゃ。」
「殿、其のお話しは後程致しますので。」
其の時、丁度、げんたと銀次が大手門にやって来た。
「お~げんたさん丁度良かったですよ、たった今源三郎様が戻って来られまして、今お殿様と執務室で。」
「有難う、じゃ~なっ。」
と、何時ものげんたが、其れは源三郎の言う天敵が執務室へと入った。
「あんちゃん。」
「げんた、久し振りですねぇ~。」
「なぁ~あんちゃん、この何日間何処に行ってたんだ。」
「山賀で少し揉め事が有りましてね、まぁ~何時もの様に簡単に終わりましてね、あっそうだ、銀次さんはこの三人を覚えておられますか。」
「え~三人をですか、オレは全然覚えて無いんですが、三人がどうかしたんですか。」
「信太朗さん、このお人が銀龍一家の大親分さんですよ。」
「え~じゃ~あの時金子を渡して下さったお方なんですか。」
「こいつらですが一体何者なんですか。」
「この人達は上方の人でしてね、江戸の銀龍一家に入りたいって参られたんですが、銀次さんは上方に戻れって金子を渡されたと言うのですがね。」
銀次は暫く考え、
「思い出しましたよ、あれは確か明日は役人が来るって前の日でして、上方から来たと言う若造の三人組が銀龍一家に入りたいと、ですがオレ達はもう島送りになるって分かってましたんで今更子分を獲る必要も無いって、其れで金子を渡し上方へ帰れって言った様にも思うんですが、でも何で源三郎様と一緒なんですか。」
「実はですねぇ~、山賀の北側の草地に官軍を誘い込みましてね、この三人と山賀に五人の侍だけを残し全員を狼の餌食にしたんですよ。」
「でも何でこの三人だけを助けたんですか、こいつらは官軍なんですから。」
「其れがねぇ~、私もですが工藤さんも今の官軍に様子を知りたくなりましてね、其れでやくざ者の中からと浪人達の中からの全部で八人を、まぁ~生け捕りと申しましょうか、捕らえたと申しましょうか、確保したと言うのが本当の話なのです。」
「源三郎、今申した官軍が何故山賀に入ったのじゃ。」
「殿、其の前にですが少し理由が有りまして。」
その後、源三郎はお殿様に詳しく話した。
「だが何故じゃ、何故に官軍の司令本部と言うのはその様な者達に極悪非道な犯行をさせてのじゃ、余には全く理解出来ぬぞ。」
「殿、ですが話は少し違いまして、奴らは司令本部の目が届かないのを利用し虐殺を繰り返していたので御座います。」
「では司令本部は何も知らぬと申すのか。」
「私はその様に思っております。」
「じゃが、誠人間のする様な事では無いわ、余も許す事などは出来ぬぞ、其れでこの者達じゃがこの先は何をさせるのじゃ。」
「この者達ですが、先祖より細工物の職人の家で生まれ育ち、更にお互いが縁続きで御座いまして。」
「何じゃと、ではお互いが遠縁に当たると申すのか。」
「はい、左様で、其れで私は技師長の下でならば少しは役に立つのでは無いかと思ったので御座います。」
「あんちゃんはこの人達にオレの手伝いをさせるつもりなのか。」
「私はねぇ~、技師長の身体が心配でしたね、若しもですが何かの理由で技師長が寝込む様な事にでもなれば、其れこ連合国にとっては一大事なんですよ、其れは技師長の為にですがね、連合国の為にもどの様な事が有っても技師長が寝込む事が有ってはならないのです。」
「ふ~んでもなぁ~。」
「いや技師長、余からも頼む、お主に今何か有れば余が腹を切っても許される問題では無いのじゃ、源三郎は連合国の総司令官じゃ、その総司令官が頼んでおるのじゃ、して余は野洲を代表した頼む、技師長、この通りじゃ引き受けてくれ。」
と、お殿様がげんたに頭を下げるのを見た信太朗達は声も出せず、ただ唖然として要る。
信太朗達から見れば、げんたはどの様に見ても町人だ、その町人に一国のお殿様が頭を下げるなどとは今の今まで見た事も聞いた事も無い。
「なぁ~あんちゃんはこのあんちゃん達にオレの仕事が何かって言ったのか。」
「其れがですねぇ~、まだ何も言って無いのですよ。」
「あ~ぁ、やっぱりだ、あんちゃんも知ってるはずだぜ、オレの仕事はなぁ~誰にでも出来る様な簡単じゃないんだぜ、あんちゃんはそんな事も分かって無いのか。」
「技師長、大変申し訳ない、この通りで許して欲しいのです。」
と、源三郎は又も頭を下げた。
「なぁ~あんちゃん、オレはどんな事が有っても絶対に造ると決めたんだぜ。」
「其れならば私も十分わかっておりますよ、ですからね技師長と連合国の為にねお願いしますよ。」
源三郎は手を合わせげんたに頼み込んで要る。
山賀ではあれ程にも恐ろしい光景を見た信太朗達には今の源三郎の姿を見てただ呆然としている。
「其れでオレ達は一体何をお手伝いするんですか。」
信太朗は恐る恐る源三郎の顔を見るが。
「実はですねぇ~、我々連合国では潜水船を造って要るのですがね。」
「は~何ですか、その潜水船って。」
「ほらなっ、やっぱりだぜ全部あんちゃんが悪いんだぜ、オレは知らないからなぁ~、全部あんちゃんが説明するんだぜ。」
げんたと言う町人が連合国の総司令官に対し喧嘩を売って要る様にも信太朗達には聞こえ、だが何時もの事で、お殿様も銀次も源三郎が困って要る顔を見て笑って要る。
「信太朗さん、五郎八さん、伊助さん、潜水船と言う船ですが海の中を潜るのですよ。」
「えっ、何ですって、オレは馬鹿ですがね、でも船は海の上を行くって、そんな事誰でも分かってますよ、そんな子供騙しの様な話をオレ達が信じると思ってられるんですか、確かにオレ達はやくざ者で世間の事は知りませんが、オレ達は大坂の港で海の上に浮かんでるのをこの目で何回も見てるんですよ。」
「なぁ~お前達、源三郎様ってお方はオレ達銀龍一家には命の大恩人なんだ、その大恩人が言ってられる話は本当で、今はオレ達も潜水船を造ってるんだ。」
「親分が潜水船を造ってられるんですか。」
「あ~本当だ、其れに源三郎様は絶対に嘘は言われないお方なんだ、そのお方がお前達に手伝ってくれってお頼みされてるんだぞ、お前達は分かってるのか、え~。」
「なぁ~信太朗、わいらも源三郎様に命の助けて貰ったんやで、わいはなぁ~、今上方の細工物の職人の腕前を見て貰って驚いて貰いたいんや、やっぱり上方の細工物の職人の腕前は物凄いって。」
「なぁ~信太朗、わしも同じやで、源三郎様の為にやって見たいんや。」
信太朗は少し考え。
「オレ達上方の細工物の職人の腕前を見て下さいますか。」
「よ~しこれで決まりましたねぇ~、技師長は如何ですかねぇ~。」
「やっぱりあんちゃんだなぁ~、あんちゃん達は上手に騙されたと思うぜ。」
「私は誰も騙してはおりませんよ、ただ話をするのが遅かったのですからね、其れだけの事ですよ。」
「源三郎様。」
雪乃が入って来た。
「わぁ~なんてべっぴんさんなんや、上方には絶対に居らへんで。」
「ほんまや、わしも初めて見たけど、ほんまにこの世のお人かと思ったわ。」
傍では雪乃は誰もが認める美人だと銀次は納得だと言う顔をして要る。
五郎八が大きな声で言う程で、彼らにすれば今まで見た事も無いと言う美人の雪乃だ。
「雪乃殿、暫くの間でしたが大変申し訳御座いませんでした。」
「いいえ、その様な、私は源三郎様をご信頼致しておりますので、其れとお食事で御座いますが。」
「其れは有りがたいです、此処に運んで頂きたいのですが宜しいでしょうか。」
「はい、承知致しました、では直ぐにお持ち致しますので。」
雪乃は一度部屋の外で待つ加世達に合図を送り、すると源三郎、げんたに銀次を含め信太朗達の食事も運ばれた来た。
「なぁ~信太朗、若しかしてやで、工藤様が言われてた奥方様と違うんか。」
「そうや、絶対に決まってるで。」
「そやけどほんまに綺麗な奥方様やなぁ~、わしもそんな娘さんを貰いたいなぁ~。」
「まぁ~其れだけは絶対に無理やで、わいらはやくざ者やさかいなぁ~。」
「お前達はそんな事は気にしなくてもいいんだ、このオレもやくざだったんだ、だけど源三郎様は昔の事は全て忘れ、これから先の事を考えるんだって、其れで今はオレ達は技師長が考えた潜水船を造ってるんだ、だから今からはやくざの時の事は忘れる事だ、分かったのか。」
「親分、オレも技師長様に細工物の職人の腕前を見て貰いますので、技師長様、宜しくお願いします。」
信太朗達は改めて、源三郎とげんたに頭を下げた。
「雪乃殿、後の事ですが。」
「はい、全て整っております。」
さすがに雪乃だ、信太朗達の過去がどうであれ、今は源三郎がげんたの手伝いにと連れ帰ったのだ。
「信太朗さん達は食事が終わればお湯に入って下さいね。」
「えっ、でもオレ達はこんなにも汚れてるんですよ。」
「ですからお湯に入るのですよ、そして、お湯で過去の事を全て洗い流し、新たな仕事に就くのです。」
「でもわしの身体には入れ墨が。」
「入れ墨が何ですか、野洲もですが連合国には銀次さん達を始め多くの人達に入れ墨が入っておりますよ、ですが今皆さんは入れ墨の事など気にせず一生懸命働いておられるのです。
ですからね、何も考えず昔の事を全て洗い流すのですよ、分かりましたね。」
「ほんまに有難う御座います。
こんなわしらですがこれからは一生懸命働きますのでお願いします。」
信太朗達は改めて源三郎に頭を下げた。
そして、信太朗達は久し振り布団の中で安らかな寝息を立てぐっすりと眠り、明くる日の朝、源三郎は信太朗達と共に浜へと向かった。
其の頃、浜では元太達漁師が浜に集まり沖を見つめて要る。
「なぁ~、正かとは思うんだけど神隠しに。」
「おい、何て事を言うんだ、間違ってもそんな事は言うなよ、ほら与太郎の母ちゃんが。」
「分かったよ、でもなぁ~何日間は海も荒れて無かったんだ、オラ達漁師は空を見れば分かるんだ。」
漁師の世界では荒れた海に出る事は即、死に繋がりそれ程にも荒れた海は恐ろしいと、何も野洲に限った話では無く、菊池でも上田、松川でも同じで、大昔ならば漁師は海に出て魚を獲らなければ食べる事さえも出来なかった。
だが今は違う、源三郎が進めた改革で命を掛けて漁をする事も無くなり食べて行けるのだ、だがその様な時、与太郎と言う漁師は無理をして入り江の外に出たのだろうか。
「誰か岬に行ってくれないか。」
元太は浜で待って要るよりも岬に行き、其処で見張る方が早く発見出来ると考えた。
「元太、オラが行って来るよ。」
数人の漁師が小舟に乗り入り江の先端の岬へと向かった。
源三郎達は浜の騒ぎを知ってか知らずかのんびりと浜に向かって要る。
「なぁ~あんちゃん達は官軍の軍艦は見た事は有るんですか。」
「其れが全然見た事も無いんですよ、でも官軍のお偉いさんが話してたんですが、軍艦ですけど物凄くでかいんで、此処で造るのはもっと大きくなるって。」
「物凄く大きいって、どんな大きさか分かるんですか。」
「技師長様、わしが別の兵隊さんが言ってたと思うんですけど、え~っと確か長さが一町って言ってた様にも思うんですけど。」
「えっ、長さが一町って其れって本当なんですか。」
「其れが兵隊さん同士の話しで別の兵隊さんは一町半って言ってた様な気もするんで。」
げんたは工藤の話しを思い出し、九州の長崎の造船所では巨大な軍艦を建造しており、その軍艦は幕府軍の様に木造船では無く、全てが鉄で造られており今までの様な木造艦では無く全てが頑丈で有ると。
「え~一町半も有るんですか、だけど全部を木で造るのかなぁ~。」
「其れが全然違いまんねん、全部鉄で造るんやって言ってましたけど。」
「鉄で軍艦を造るって、其れだったら爆裂弾じゃ無理だって事になるぜ。」
「確かにその様になりますねぇ~、ですが鉄で軍艦を造ると言う事はですよ相当な厚みを持って要るでしょうねぇ~。」
「なぁ~あんちゃん、そんな鉄で造った軍艦をだよどんな方法で動かせるんだ、オレの知ってる船は全部帆掛け船なんだぜ。」
「私も同じですよ、野洲の沖を通る廻船問屋の船も同じですからねぇ~。」
げんたは何も山賀に行かずとも野洲でも鉄で作る物は全てが重い物だと知って要る。
其れが一町半の長さも有る巨大な軍艦ともなれば一体何貫有るのだ、そんな重い軍艦を動かせる動力とはどの様な構造で作られた要るのか知りたいと思って要る。
「なぁ~あんちゃん、鉄で造った軍艦には別の何かを考え無いと駄目だなぁ~。」
げんたが考案した爆裂弾は木造船ならば十分過ぎる程有効で、だが鉄で作られた巨大な軍艦には殆ど効き目が無く、其れでは一体どの様な物ならば有効なのか、其れも潜水船に積み込める物で無くてはならない。
「何か思い付いたのですか。」
「あんちゃんって本当に馬鹿だなぁ~、そんなの今急に言われて思い付く事なんか無理だぜ、そんな事言ってるあんちゃんは考えれたのか。」
「爆裂弾でも壊す事は無理なんですか。」
銀次にすれば源三郎と一緒に爆裂弾の試しを行ない、命懸けの試しで爆裂弾でも官軍が造って要る最新の軍艦を壊す頃は出来ないと、改めて官軍と言う組織の恐ろしさを知った。
「我々は殆ど今の世の中を知らないのです。
官軍でも一部の指揮官が異国から軍艦を購入すると言う話しを思い出しましたが、世の中は我々が想像も出来ない程広いと言う事だと思いますよ、其れに連発銃も我々が全く想像出来なかったのですから。」
源三郎も改めて世の中は飛んでも無く広いと、だが現実は源三郎が考えて要る以上に進んでおり、連合国は高い山に囲まれ外部とは殆ど往来の無かった国が、ある日突然官軍と言う巨大な組織と今は最強だと言っても良い武器で数百年間も続いた幕府を倒し、其れが今連合国に押し寄せて来るかも知れないのだ。
「じゃ~オレ達は官軍に全滅させられるんですか。」
幕府がどれ程にも恐ろしいかを知っており、その強力な幕府を倒す官軍とはどんなにも恐ろしいのか分からず、其れは何も銀次だけでは無く、源三郎もげんたも同じ様に考えて要る。
「貴方方は官軍に付いて何か知っておられませんか。」
「でもオレはあの時、銀龍の親分さんに見放されたと思ったんです。
親分、すんまへん、オレ達はあの時は親分さんの気持ちが全然分からなかったんで、でも昨日お話しを聞きオレ達は銀龍一家を追い出されたんじゃ無かったと分かったんです。」
銀次は追い返したので無いと、今の信太朗達は理解した。
「其れでオレ達は江戸を離れて昨日もお話しをした様に官軍に入ったんです。」
その後、信太朗達は知る限りの官軍と言う軍隊の生活を含め多くを話し、工藤達が見て要るのと同じだと。
「そうですか、では官軍は今日本と言う国を掌握して要るのですか。」
「源三郎様、掌握ってなんですか。」
「申し訳有りませんねぇ~、簡単に申しますとね日本と言う国を殆ど握って要るのでしょうか。」
「わしらが聞いた話しでは一部を除き殆どが官軍が支配したって。」
余りにも世の中を知らなさ過ぎたと、だが何も源三郎の責任では無い。
「わいが聴いたところなんですが、この話しは大坂で聞いたんですけど大坂には外国の大きな船が来てるんですが、外国では軍艦も、大坂に来る大きな船が黒い煙を出しでるんで聴いたら蒸気で動かしてるって。」
「えっ、蒸気で船を動かせるって、そんな事オレは初めて聞いたよ。」
げんたは驚くが、源三郎や銀次は余りにも衝撃的な話しに唖然として要る。
「其の話しやったらわしも知ってますよ、堺の港には大きな外国の船が来るんですけど大きな船の全部が黒い煙を吐いてましたんで。」
「あんちゃん、黒い煙って山賀で採掘されてる燃える石も黒い煙を出すんだぜ。」
「技師長様、その石って黒く輝いてるんですか。」
「そうだけど、其れが。」
「其れやったらその石は石炭って言いまんねん。」
「えっ、石炭って。」
「はい、書いた文字が石の炭なんで堺では石炭って言ってますが。」
「石炭か、では山賀で採掘されて要る燃える石は石炭なのですね。」
「オレ達はそう聞いてますけど。」
「先程申されました蒸気で動くには石炭を燃やすと考えれば良いのですね。」
「わしらは詳しい事は知りまへんが、そんな事も言ってた様な気がしまんねん。」
げんたは蒸気船は見た事も無く、今の連合国で知って要るとすれば工藤達で、だが今の潜水船の中では火を使う事などは不可能、いや、絶対に無理で有る。
「正か潜水船を蒸気で動かせると思ってるんじゃ。」
「私もそれ程馬鹿では有りませんよ、其れよりも私は鉄で潜水船を造れないかと考えて要るんですが。」
「あんちゃんは本当に無茶な事を平気で言うんだからなぁ~まぁ~本当に呆れるよ。」
と、言うげんたも何故だか鉄で潜水船は造る事は出来ないかと考え始め、その様な会話の途中で浜に近付いて来た。
「あれ~あれは元太あんちゃんだけど、其れに他の漁師さん達もだ、浜で何か有ったのかなぁ~。」
げんたが走り出し、源三郎も急いで浜に下って行った。
「元太あんちゃん、何か有ったのか。」
「お~げんたか、其れが昨日から一人が戻って来ないんだ。」
「えっ、其れって、正か。」
げんたも一瞬だが神隠しに有ったのかと思った。
「元太さん、どうされたのです。」
「あ~源三郎様、実は昨日から漁師一人が帰って来ないんです。」
「では外海に出られたのですか。」
「其れがまだ何も分からないんですよ。」
浜の漁師は余程の事が無い限り外海で漁をする事は無い、だが現実漁師は外海に出たのは間違いは無いと、源三郎は思って要る。
「元太さん達は外海で漁をされる事は有るのですか。」
「オラ達は外海の恐ろしさは知ってますんで、まぁ~よっぽどの事が無い限り外海には出ないんですよ。」
「そうだ元太、オラもだいぶ前だけど間違って外海に出た事が有るんだけど、其の時、潮の流れで隣の、いや松川の浜まで流された事が有るんだ。」
「でもオラは今初めて聞いたけど、其れでどうなったんだ。」
「オラは潮に流されない様にってもう必死で漕いだんだ、だけど潮の流れに負けて松川の浜に着いたんだ。」
野洲の漁師の中にも外海に出て潮の流されたと言う。
「でも何で松川の浜に着いたんだ。」
「オラもこれ以上沖に流されると駄目だと思ってもう必死で岸を目指したんだ、まぁ~其のお陰で何とか松川の浜に着く事が出来たんだ。」
「浜では大昔から言い伝えが有るんですよ、オラも子供の頃なんですが爺様から聞かされたんですよ。」
元太も浜の言い伝えを聞かされたと言う。
「その言い伝えですがどの様なお話しなのですか。」
「その話なんですが、浜から外海に出て右の方に行くと、大きな半島が有って、その半島に時々なんですが流れの一部が半島にぶつかり、ぶつかった潮が本流と反対の方向に行くんです。」
「ではその流れが浜の沖を通過するのですか。」
「オラ達浜の漁師は其の通りだと思ってますけど。」
「ではその逆方向に行く潮の流れですが、一体何処まで続くのでしょうか。」
「其れが全然分からないんで、其れに何時潮の流れが変わるのも分からないんです。」
以前漁師の元太から聴いた様な気がした、普段の湾内は右から左へと流れて要るが時々左から右へと流れ変わると言う、実際潜水船の訓練中でも突然潮の流れで左から右に流されたと思うと、何の前触れも無しに方向が変わったと聞いて要る。
「では漁師さんが何処まで流されて要るのかも分からないのですか。」
「そうなんですよ、其れに飲み物が無くなると喉がカラカラになるんで物凄く苦しいんで、そんな時に海が荒れるともう漁師は諦めるしかないんですよ。」
元太も以前その恐怖に有って要ると、だから野洲の漁師は外海には出ないと言う。
「ですがどの様な事が有っても絶対に諦めては駄目ですよ、仲間の漁師さんは必ず無事に戻って来られますからね。」
源三郎は漁師達を励ますが、漁師の誰もが不安だと言う表情をしており、其れからは誰も話す事も無く、其れでも仲間は必ず無事に帰って来ると信じて待って要る。
「あ~夜が明けたなぁ~、あ~オラは生きてるんだ。」
野洲の漁師は一昼夜を流され、何処かの大きな入り江の中に辿り着いた。
「でも此処は何処なんだ。」
漁師は一体何処に流れ着いたのかも分からず、其れでも暫く流れに乗って入り江の奥深く行く。
「あ~やっと一番奥に着いたなぁ~、オラもこれでやっと助かったんだ、あ~良かったなぁ~。」
と、独り言を言うだけの元気は有った。
そして、安心したのか小舟で眠ってしまった。
「おい、起きるんだ、おい、お前は一体何処から来たんだ。」
「えっ、あっ。」
漁師は慌てて起きて見た者は官軍兵で。
「オラは漁師でして、でも何処から来たって言われても全然分からないんです。」
官軍兵の姿は野洲で何度も見ており、だが漁師は殺されると一瞬思い目を瞑った。
「何だと、何処から来たのかも分からないだと、う~ん何とふざけた漁師だ。」
「兵隊さん、本当なんですよ、オラは潮に流されやっとこの浜に辿り着いたんですから。」
「一体何事だ。」
小隊長だと言われる兵士が飛んで来た。
「あっ、小隊長殿、この漁師ですが何処から来たのか分からないって言うんですが。」
「小隊長様ですか、オラは潮に流され、其れで今急に起こされて本当なんです、オラも何処から来たのかも分からないんです。」
「漁師、其れは誠なのか、誠に何処から流された来たのかも分からないと言うのか。」
「本当なんですよ、オラは今まで眠ってましたんで。」
「う~んだが何れにしても怪しい漁師だ、誰か参謀長殿のところへ連れて行け。」
数人の兵士が漁師を小舟から引きずり出す様にされ、参謀長のところへと連れて行かれて、漁師はやっとの事で辿り着いたが兵士に両脇を抱えられもう生きた心地はしなかった。
「参謀長殿、怪しい漁師を連れて来ました。」
「何ですか、怪しい漁師ですか。」
「はい、漁師は潮に流され目が覚めた時、この浜に辿り着いたと申しております。」
漁師は参謀長殿と呼ばれる人物の前で膝付き恐怖の余り身体は震えて要る。
「漁師、今の話は本当なのか。」
「参謀長様で御座いますか、オラは本当に分からないんで、何日か前に漁に出たんですが、潮目に会い何処まで流されたのも分からないんです。」
「其れで疲れて眠ったと言うのですか。」
「はい、本当なんで、参謀長様、本当なんで信じて下さいませお願いします。」
漁師は参謀長に両手を合わせ拝み込んだ。
「う~ん、だがお前の言う事が本当だと言う証がなぁ~。」
と、参謀長も判断に困って要る。
「参謀長様、本当なんで、其れにこの浜が何処なのかも分からないんです。
本当なんで参謀長様信じて下さいませ、お願いします。」
漁師は疲労と腹が減って要るのか、「ぐ~っ。」と、腹の虫が鳴いた。
「お前は何も食べていないのですか。」
「はい。」
もうこうなっては漁師は何を言っても信じてくれないだろうと思った。
「誰か食べ物を。」
参謀長は何を思ったのか漁師に食べ物を与え、漁師は食べると言うよりも流し込むと言う食べ方だ。
「小隊長、漁師は本当の話をして要るぞ。」
「ですが幕府軍の生き残りが漁師に姿に身を隠して要るとも考えられますが。」
「誠幕府の残党の侍ならばこの様な食べ方はしない、武士ならば何処かで武士の動きが現れる、だがこの漁師の食べ方もだが手や体を見えれば幕府の武士では無い事は明らかだ、まぁ~何も心配する事も無い。
ところで漁師、お前の住んで要る所だが一体どの様なところなんだ。」
漁師は少し落ち着いたのか、だが其の時、一瞬源三郎が何時も話をしていた事を思い出したのか。
「参謀長様、オラの村は二十個の漁村でして直ぐ後ろは高い山が迫ってますので、オラ達漁師だけが住んでるんです。」
漁師は作り話をした。
「何だと、では前は海で直ぐ後ろは高い山が迫って要ると言うのか。」
「はい、二町も行けば山でして。」
「何時かの話であの高い山の向こう側には直ぐ海が迫り少数の漁民が住んで要ると。」
「その話しならば私も聞きましたが、山には狼の大群が住みついており地元の農民でも山には入らないと。」
「ならばあの中隊は今頃狼の餌食になったと考えねばならないなぁ~。」
「参謀長様、オラ達は夜になると狼の遠吠えが恐ろしいんです。」
「分かった、漁師の話を信じるが我々の事は誰にも話してはならぬ、分かったな。」
「はい、其れはもう誰にも言いませんのです、でもオラは。」
「漁師ならば陽を見れば自分が帰る事も出来るはずだ。」
「はい、其れはもう出来ますが、本当に帰ってもいいんですか。」
「私が嘘を言うとでも思って要るのか。」
「いいえ、飛んでも有りません、でもオラは参謀長様がどんなお方なのかも分からないんですが。」
「我々の事か、我々は官軍と言って。」
やはり官軍だと漁師は思い恍けて聴いた。
「でもオラは官軍って聞いても全然分からないんで、オラの村には誰も来ませんので。」
官軍の参謀長は漁師が何も知らないと思い。
「そうか、お前達は世の中を全く知らないと言うのか。」
「はい、オラ達の住んですところは冬になると其れはもう物凄い雪が降って来ますんで、其れに山には狼の大群が要るんです。
オラ達は家の周りで小さな畑を耕し海の魚だけが食べる物なんで、でも時々山から鉄砲の音が聞こえて来るんです。
オラが子供の頃に爺様からあの音は鉄砲の音で、他の村には鉄砲を使う人が住んでるって、でもオラは鉄砲ってどんな物かも知らないんです。」
官軍の参謀長は漁師の話しを信じたのか。
「よし分かった、誰か漁師におむすびと数本の水筒を渡してやれ、小隊長、漁師を解放するぞ。」
「参謀長様、オラは本当に帰れるんですか。」
「嘘は言わないから早く舟に乗って帰るんだ。」
「はい、参謀長様、本当に有難う御座います。」
兵士が数個のおむすびと水を入れた数本の水筒を漁師に渡し、何度も頭を下げ舟に乗り込み、其れでも何度も頭を下げ振り返っては手を振り四半時で湾の外に、そして、一路野洲の浜を目指し、沖に出ると丁度北向きの潮に乗り夕刻近く野洲の浜へと辿り着いた。
「お~い、与太郎が帰って来たぞ~。」
「わぁ~父ちゃんが帰って来たよ。」
と、子供は身体中で喜びを表して要る。
「与太郎、一体どうしてたんだ、浜のみんなが心配してたんだぞ。」
浜の全員が与太郎が無事に帰ったと大喜びで涌いて要る。
「みんな、話しは何時でも出来るんだ、其れよりも子供のところへ行ってやれよ。」
「うん、みんな心配掛けて済まなかった。」
と、与太郎は漁師仲間に頭を下げ家に入って行く。
「良かったですねえ~、私も一安心ですよ。」
「源三郎様にも大変ご迷惑をお掛けしました。」
「与太郎さんの事を宜しく頼みますよ、そうでした大切な事を忘れておりました。」
「何ですかその大切な事って。」
元太は源三郎の傍の三人の男が気に成っていた、だが与太郎の事が心配で聞く事も出来なかった。
「彼らですか先日まで官軍におりましてねぇ~、まぁ~其の話しは後にして、彼らをこの先げんたの下で働いて頂く事になりましたので宜しくお願いします。」
「分かりました、後の事はオラに任せて下さい。」
「其れで寝る所ですが。」
「オレ達のところで十分だと思いますが。」
「では銀次さんにお任せしますね、私は戻りますので後の事は宜しくお願いします。」
と、源三郎はお城へと戻って行く。
「父ちゃん、本当に大丈夫なのか。」
「オラは本当に大丈夫だよ、ほらこの通りだよ、母ちゃん、明日源三郎様にお話しする事が有るんだ。」
やはり浜の漁師だ、何か有った時には源三郎に全てを話しする事になって要る。
「母ちゃん、父ちゃんは大丈夫なんだね。」
「そうだよ、やっぱり母ちゃんが惚れた父ちゃんだからね、もう何も心配する事も無いから、あんたも今日は疲れてるんだから早く寝てよ。」
「そうだなぁ~、オラも今頃になって疲れが出て来たよ。」
その夜、与太郎達は川の字になりゆっくりと眠りに入った。
「源三郎様。」
「元太さん、其れに与太郎さんも、さぁ~どうぞお座り下さい。」
執務室には工藤と吉田も二人が来るのを待っていた。
「大変な思いをされましたねぇ~、お身体は何とも無かったのですか。」
「オラはもう大丈夫ですよ、其れよりも大変なんですよ。」
「何が大変なんですか、まぁ~ゆっくりとお話し下さいね。」
源三郎は昨日の今日で与太郎の身体を心配している。
「源三郎様、高い山の向こう側に大勢の官軍が要るんですよ。」
「与太郎さんは官軍の兵隊を見られたですか。」
「でも官軍の兵隊って言うのか、其れよりも他の人達は兵隊じゃないと思うんですよ。」
「ほ~兵隊では無いと、では町民さんですか。」
「オラも詳しい事は分からないんですが、其れに全部見た訳でもないんですけど、山からは大木を運んでいる人、其れに浜に家を建ててる人もいるんですよ。」
「ほ~家を建てて要るのですか、工藤さん、やはりでしたねぇ~。」
「官軍はその場所に新しい軍港を造ると思います。」
「確かにその様ですねぇ~、与太郎さんは私達の事は話されたのですか。」
「飛んでも無いですよ、源三郎様の事は何も言って無いですから。」
与太郎は両手を振り必死の形相で否定した。
「申して訳有りませんねぇ~、私は何も与太郎さんを疑ったのでは有りませんのでね、どうかお許し下さいね、この通りです。」
と、源三郎は与太郎に頭を下げた。
「よして下さいよ、オラは何も。」
「ですが浜の事は話されたのですか。」
「オラは漁師ですが、馬鹿じゃ無いですよ、オラは官軍の参謀長様って言うお人に聴かれたんですが、でも野洲とは言って無いんですよ。」
「ほ~なるほどねぇ~、其れでは何処の与太郎さんと言われたのですか。」
「オラは能登の与太郎って言ったんですけど。」
「ほ~能登の与太郎さんですか、ですが与太郎さんは能登を知っておられるのですか。」
「飛んでも有りませんよ、オラは野洲以外は全然知らないんですよ、其れに能登って本当に有るのかも知らないんですから、でもオラは一瞬ですけど野洲って言い掛けて、其れで慌てて何も考えずに能登って言ったんですけど悪かったんですか。」
「官軍は能登半島を知っております。」
「能登の地名は半島の事なのですか。」
「旧幕府の時代には幕府でも手の出せない程の強大な組織を持った国が有った事は確かでして、幕府の時代に江戸の学者が国中を測量されており、官軍の司令本部でも地図の写しを持っております。」
「では我が連合国もその地図に載って要るのですか。」
「其れが、その部分だけが何の理由が有るのか分かりませんが載っていないのです。」
江戸の学者が配下数人と日本国中を回り詳しい地図を作ったと、だが何故か分からないが連合国だけが記載されずにおり、学者は麓と農村で高い山には狼の大群が住んで要ると聞かされたのだろうか。
「江戸の学者でも連合国の存在は知っておられないと言えますが、やはり狼の大群が住んで要る事が我々の存在は知られずにいたのですかねぇ~。」
「私達はあの時農家で話を聞く余裕も無いと申しましょうか、何も考えず山に入りましたから。」
工藤もだが傍で話を聴いて要る吉田も同じ状況だった。
「やはり工藤さんも吉田さんも余程悪運が強いと申しましょうか、運が良かったとしか思えないのでしょうかねぇ~。」
「其れは自分も同じだと思います。」
吉田は苦笑いをして要る。
「だったらオラは嘘は言って無いんですね、あ~良かったよ。」
与太郎はほっとしたのか胸を撫で下ろした。
「与太郎さんも大変悪運の強いお人だと言う事ですかねぇ~。」
「何でオラは悪運が強いんですか。」
与太郎は源三郎に悪運が強いと言われ、何故に悪運が強いのか分からなかった。
「外海で運悪く潮の流れに乗り、運悪く官軍の軍港建設現場と言う大きな湾に入り込み、ですが此処で官軍の参謀長に能登の与太郎だと名乗られ、ですが此処で運良く参謀長は能登と言う地名を知っており、悪運が良い運へと変わり、そして、野洲の浜に戻って来られたのだと思いますよ。」
「そうか、オラは大昔からの言い伝えを守らずに沖に出たのが悪い運の方へと行ったんですねぇ~。」
与太郎は言い伝えを守る事を忘れ、其れが悪運の始まりで、だが辿り着いた浜には官軍の大軍が、だが与太郎の悪運も此処で終わりのはずが参謀長は能登と言う地名を知っており、無事釈放と言うのか解放され野洲に帰る事が出来たので有る。
「与太郎さんも大変な思いをされたのですから、これからは余り無理をされない事ですよ、分かって下さいね。」
「オラは二度と沖には出ませんよ。」
与太郎自身は運良く官軍が要る浜に着き、其れもまた運良く野洲の浜に戻り家族と再会し、浜の仲間との再会が余程嬉しかったのか二度と沖には出ないと。
「工藤さん、吉田さん、私のお願いなのですが。」
「私も大賛成で御座います。」
源三郎が何を言わんとしたのか、工藤にも直ぐ分かった。
「私はまだ何もお話しはしておりませんが。」
「私でも同じ命令を出しますよ。」
「余り私の頭の中を見ないで頂きたいのですよ、其れで無ければ私の存在する場所が無くなりますのでね。」
と、源三郎は笑って要る。
「私は何も総司令の頭の中を見たのでは御座いません。
私は軍人ですから先の先を考えなくてはなりませんので、ですが大変申し訳御座いません。」
と、工藤も吉田も笑って要るが。
「あの~源三郎様。」
元太も何か閃いたのか、先程から何かを考え込んでいた。
「元太参謀も私の頭の中を。」
「そんなぁ~、オラは源三郎様の考えてる事なんか分からないですよ。」
「そうですかねぇ~、では元太さんの考えておられる事をお聞きしましょうか。」
日頃は源三郎の考え方を聴いており、今では少しだが源三郎の考え方と言うものを知りつつ有る。
「オラは与太八の話を聴いて、オラだったら潜水船で工藤さんの言う軍港を見たいと思っただけなんです。」
「やはりでしたか、実はねぇ~私も元太参謀と同じ事を考えておりましてね、工藤さんも吉田さんも同じ事を考えていたと言う事なんですよ。」
「えっ、じゃ~オラが考えた事を源三郎様も考えてられたんですか、やっぱりなぁ~。」
「ええ、正しく其の通りでしてね、私は工藤さんにお願いするつもりだったんですよ、まぁ~元太参謀も私と同じ考えだと知り、一安心しましたよ。」
「その任務是非とも私にさせて頂きたいのです。」
吉田は立ち上がり、源三郎に嘆願した。
「え~吉田さんが参られるのですか。」
「私は第五小隊を任務に、其れと私も同行したいのです。」
吉田は合えて第五小隊を任務に就かせると言った。
「吉田、何故、第五小隊なんだ。」
「大佐殿、第五小隊は全員が同じ村の漁師達です。」
「えっ、ではあの時、幕府軍の攻撃で生き残った漁師達では無いのか。」
工藤が駆け付けた時には付近の農村も含め、彼ら漁師以外全員が殺された後で、工藤は彼らを自分の部隊入れたので有る。
「大佐殿が彼らを引き取られたのと同じでして、彼らは潜水船訓練の時に一番の名乗り上げたのです。」
「もう決まりました様ですねぇ~、では全て吉田さんにお任せしましょうか。」
「誠に有難う御座います。
私よりも第五小隊の全員が喜ぶと思います。
其れに自分が第五小隊を推薦するのは、彼らの操船技術は大変素晴らしく、野洲の船長さん達からも大変褒めて頂いております。」
野洲の船長達、其れは元太を含め全員が漁師でお互い漁師だと言う事が操船技術に何の問題も無かった。
「若しかしてオラがあの時一緒に乗った時の兵隊さんですか。」
「正しく其の通りでして、皆が元太船長から最高の腕前を持った人達だと言われたと、彼らは九州の玄海灘の漁師ですから、まぁ~何とも頼もしい兵士達でして、小隊長も一番信頼の置ける仲間だと申しております。」
と、吉田は第五小隊を褒めちぎった。
「分かった、分かった、では吉田、総司令の申される様に君と第五小隊に偵察任務を命ずる。」
「はい、有難う御座います。」
吉田は改めて起立し、源三郎と工藤に敬礼した。
「元太参謀、これで納得して頂きましたでしょうか。」
工藤は吉田に偵察任務を出した事で終わりだと思ったが、元太は別の事を考えていた。
「オラは吉田さんには何も不満は有りません。
でも第五小隊だけだったら一隻だけなんですよ、第五小隊の兵隊さん達だけで入り江の一番奥に行って調べるのは物凄く危険だと思うんですけど。」
「元太参謀の申される様に確かに入り江の一番奥に入り任務を遂行すると言うのは大変な危険を伴うのも確かです。
ですが今回の偵察任務は我が連合国に取りましても運命を決定するやも知れない考えております。」
「オラは吉田さんや小隊の兵隊さん達を信じて無いって言ってるんじゃ無いんですよ、ただオラが考えてるのは偵察任務を絶対に成功させる為にも後数隻の潜水船を一緒に行けたらって思っただけなんです。」
潜水船一隻だけの偵察任務は大変危険を伴うと言うが、工藤も吉田も偵察任務には出来る限り少人数で行うのが一番安全だと考えており、何も官軍だけでは無く、歴代の幕府もだが戦に入る前には必ず敵軍の位置、そして、武器の種類まで出来るだけ詳しく調べる、其れが偵察任務だと考えて要る。
「元太参謀のご心配は有り難く思っております。
ですが偵察任務と言うのは出来る限り最少人数で行うのが一番最適だと考えておりまして、自分も連合国の為には戦死は覚悟の上で有ります。」
吉田は戦死覚悟だと、其れが一番の問題だと元太は考えて要る。
源三郎は工藤も吉田も元は何れかの国で下級武士だと言っても侍には間違いは無く、元太はと言うと野洲の漁師で幕府の時代には最も苦しめられた人達で、若しかすると吉田の胸中では今でも漁師の分際でと言う気持ちが残っているのでは無いかと考えていた。
「オラは吉田さんの言ってる事は分かってるんです。
でもオラが本当の事を言いたいのは、若しも、若しもですよ、潜水船が見付かり大砲で沈められたらって考えたんですよ。」
「えっ、ですが月光隊と日光隊の報告では大砲は一門も無いと報告されておりますよ。」
「オラも聞きましたが、でも大砲は軍艦にも有るんですよ。」
「なぁ~元太、オラは軍艦は何処にも無いって言ったと思うんだ。」
「オラは何もお前を信用して無いって言って無いんだ、与太八の事だから全部見たと思うんだ、だけど帰る時に小さな入り江の中まで行ったのか。」
「いや、オラは真っすぐ出口へ向かったよ、あっそうか、オラが見たと言うのはオラが見えるところだけで、小さな入り江の奥まで行って無かったんだ、そうか。」
「其れが普通なんだ、オラだって官軍から逃げる為だったら他のところまで見る余裕なんか無いし必死で出て行くよ、源三郎様、若しもですよ、与太八が見て無い所に軍艦を隠す事も出来ると思うんです。
オラが言いたいのは若しも潜水船が沈められたら官軍は山賀から菊池までの入り江を徹底的に調べると思うんです。」
「う~ん、さすがに元太参謀の事だけは有りますねぇ~、私も其処までは考えておりませんでしたからねぇ~、確かに月光隊も日光隊も官軍に大砲は無いと、其れに与太郎さんも軍艦は見ていないと申されましたが、今元太参謀が言った様に入り江の奥に軍艦を隠す事は出来ますからねぇ~、吉田さんと小隊が乗った潜水船が発見され撃沈されたとすれば、我が連合国の入り江に入り徹底的に調べるのは間違いは有りませんからねぇ~、其の時、若しも誰かが連発銃でも撃てば軍艦の大砲で付近と奥の浜にも砲撃されるのは間違いは無いと、若しもその様な事態にでもなれば、其れこ連合国は徹底的に破壊されるでしょうからねぇ~。」
「う~ん。」
と、工藤は頭を抱え込む様に考え込み、暫くして。
「元太参謀、自分の考えが間違っておりました。」
と、吉田は考えが甘いと頭を下げたが。
「オラは何も吉田さんを責めてるんじゃないんですよ、前にも源三郎様が言ったと思うんですが、野洲の入り江に入った軍艦からは洞窟は見えるんですかって、だけどオラは入り口付近からは絶対に見えないって。」
「私も分かりましたよ、入り口付近からは浜も見えませんが中程まで来れば浜も見えますからねぇ~。」
「隊長は与太八には誰にも言うなって、だったら工藤さんの言う軍港が本当だったら誰にも秘密で作ってるんだと思います。
秘密の場所と言う所に官軍のお偉い人は誰にも分かる様なところに軍艦を泊めるとは思わないんです。」
今日の元太は物凄く冴えて要ると源三郎は思った。
「元太参謀、私の考えが甘かったと今は反省しております。
吉田、我々の認識は未だ浅いと思うんだ、総司令が以前にも申されたが、幕府軍や官軍が狼と言う難敵に対し大きな犠牲を払ってまで山を越えて来る事は無い、野洲もだが菊池から松川までの浜には何の防衛手段も取っていないと思っても過言では無いんだ。
確かに潜水船部隊は何時でも攻撃に入る事は出来る、だが今の潜水船の一番の問題は官軍の軍艦に気付かれず接近しなければならないんだ、若しもだ一隻の潜水船を発見したならば官軍は徹底的に捜索する事は間違いは無いんだ。」
「吉田さんは軍人だから戦死は覚悟してるって言われましたが、若しかしてそんな事になったら他の農村や漁村で、其れに城下で何も知らない人達が殺されるんで、オラは其れだけを考えてるんです。」
「オラも元太の言ってる事は分かるよ、だけど一体どうするんだ。」
「オラの考えてる方法なんですけど。」
「勿論ですよ、今の私は元太参謀の考え方が一番重要だと思っており、是非とも聞かせて頂きたいのです。」
工藤も吉田も早く聴きたいと思い頷いた。
「じゃ~オラの考えた方法ですが、吉田さんの潜水船に与太八も乗せて欲しいんです。」
「えっ、元太、何でオラなんだ、オラはもう二度と外海には行きたくは無いんだ、オラは命が欲しいんだ、なぁ~元太、其れだけは嫌だよ。」
「なぁ~与太八、オラもだけど、何で村でお前の事を与太八って呼んでるか知ってるのか。」
「そんな事だったらオラだって知ってるよ、何時も何をする時でもヨタヨタとしてるからだって。」
「そうなんだ、だから今度はお前の為にもだけど、母ちゃんや子供の為に与太郎はヨタヨタとして無いってところを見せるんだ、これが上手く行けば、もう誰も与太八って言わないと思うんだ、なぁ~与太八、オラも今度は死ぬかも知れないって思ってるんだ、だけどオラが死んでも母ちゃんの事だから子供を立派な漁師に育ててくれると思ってるんだ。
与太郎、お前は母ちゃんや子供の為に今度で男を上げるんだ、絶対に出来るから。」
与太郎は下を向き考え込み、暫くして。
「元太、分かったよ、オラは母ちゃんと子供の為と、其れと浜の仲間の為に命懸けでやるよ。」
執務室に居る家臣達は何も言えない、漁師の二人が命懸けで官軍の大軍が要る中心部に行くと言う、漁師の根性とでも言うのか、いやそうではない家族を守る為に命を掛けると言う。
今の連合国は以前では考えられ無い程領民が領民を守ると言う心意気が隅々まで浸透して要る。
「野洲の潜水船全部で行って、吉田さんは見れないところを調べるんです。」
「では官軍が作って要るところは第五小隊に任せ、元太参謀は他のところを調査するのですか。」
「はい、其れで与太八は吉田さんの潜水船で一番奥に行き、オラは小舟で行きます。」
「えっ、何ですと、参謀は小舟で参られると言うのですか、其れは余りにも危険では有りませんか。」
「吉田さん、オラは漁師ですから、其れに源三郎様の直属の部下だって言われたんですよ、今度はオラが与太郎の代わりに一番奥まで行くんです。」
「元太、そんなのって無茶苦茶だ、オラの時はたまたま運が良かっただけなんだ。」
「そんな事はオラも分かってるよ、だけど今其れを出来るのはオラだけなんだ。」
「だけどなぁ~若しもだよ。」
「そんな事は与太八が考える事じゃないんだ、源三郎様、若しもオラに何か有ったら。」
「う~んですがねぇ~。」
と、源三郎は腕組みし考え込んだ、今までの元太では考えも付かない程大胆な発想で、さすがの吉田も考え付なかったのだろう、与太郎の言う様に元太は無茶苦茶な事を言うと、だが今日の元太は今までとは違う。
「元太さんには絶対にその様な事はさせませんよ、其の様事にでもなれば、どの様な方法を取ってでも助け出しますからねぇ~。」
源三郎は何としても助けると言うが、だが果たして今の源三郎に何が出来ると言う。
「参謀、若しも無事解放されたとして又小舟で戻られるのですか。」
「其れなんですが、オラは山賀の北側に。」
「えっ、山賀の山を越えるのですか、でも山賀の山にも狼の大群が。」
「オラも聞いてますよ、でも山賀の兵隊さんが官軍兵を山賀の山に連れ込んだって。」
「正か向こう側の大岩まで行くのでは、ですがねぇ~。」
工藤も正かと思ったが。
「そうか日光隊か月光隊が大岩辺りでお待ちすれば山は越えられるのか。」
工藤は元太の発想に驚かされて要る。
「工藤さん、私は何を申し上げれば良いのか分かりません。
確かに何もご存知無い方々は元太さんの考え方は無謀だと思われるでしょうが、与太郎さんのお話しを伺えば元太さんの計画だけが成功する様にも思えるのですが。」
「総司令が元太船長を参謀と言う重責に大抜擢された理由が今要約理解出来た気持ちになりました。
私も吉田も元は侍で官軍では色々な事を学びましたが、元太参謀とは時には漁師で有りながら、総司令や技師長の様な大胆な考え方をされ、私もですが官軍の隊長は正か漁師さんが連合国軍の参謀長で、その参謀長が乗り込んで来るとは夢にも思っていないと思いますが、如何でしょうか。」
「オラは何もそんなに深くは考えてないんですよ、ただ与太八が間違って入った事でオラにも行けって言ってる様な気持ちにさせられたんです。」
「ですが与太郎さんの事を聴かれると思うのですが。」
「オラも分かってますよ、だからオラも能登の元太って言いますが、与太八は帰って来なかったって言いますよ、だから舟では帰らないって言うんです。」
だが果たして元太の思い通りに行くのか。
「では海からは帰れないと、官軍兵が途中まで送ると言った時にはどの様に考えておられるのですか。」
「正か漁師一人の為に隊長さんが兵隊さんを付けるとは思わないですよ、まぁ~でも其の時には下手な芝居でもして誤魔化しますよ。」
源三郎は元太の顔を見て要るが、今の元太は何時もの漁師の元太では無い、それ程にも恐ろしく鋭い目付きで工藤や吉田を圧倒して要る。
「其れでお願いが有るんですが、二~三日だけ待って欲しいんです。」
「元太さんの考えた方法で参りたいと思いますので、何時でも宜しいですよ。」
「オラが浜の仲間に話しますんで。」
その後も元太は源三郎と工藤、吉田に対し詳しく説明はお昼過ぎまで続き、そして、元太と与太郎は浜に戻って行った。
果たして元太の考えた作戦は思い通りに行くのだろうか、源三郎は工藤と吉田に対し、松川と山賀にも説明が必要だと、そして、工藤と吉田は明くる日早朝、松川へと向かった。